トーマス・スタンコ・カルテット TOMASZ STANKO QUARTET 「 SEPTEMBER NIGHT」
スタンコの荒々しさとダーティーな哀感の世界をマルチン・ボシレフスキ・トリオが支える
<Jazz>
TOMASZ STANKO QUARTET 「 SEPTEMBER NIGHT」
Universal Music / Jpn / UCCE-1207 / 2024
トーマス・スタンコ TOMASZ STANKO (trumpet)
マルチン・ボシレフスキ MARCIN WASILEWSKI (piano)
スワヴォミル・クルキエヴィッツ SLAWOMIR KURKIEWICZ (bass)
ミハウ・ミスキエヴィッツ MICHAL MISKIEWICZ (drums)
録音年 2004年9月9日
録音場所 ミュンヘン、ムファットホール
2018年に享年76歳で他界したポーランドを代表するトランペッターのトーマス・スタンコ(1942-2018 下左)が、“21世紀のECM”を代表する同じポーランドのピアノ・トリオと繰り広げた今から20年前の2004年のライヴ音源が登場した。つまりECMデビュー前夜のマルチン・ボシレフスキ・トリオ(下右、まだ“シンプル・アコースティック・トリオ”として活動していた頃)をフィーチャーしたカルテットで繰り広げた2004年のミュンヘンでのライヴ音源。
この年には、このカルテットでのアルバム『Suspended Night』がリリースされて、彼としても更なる発展段階にあった時で魅力的なドキュメントであり、又我が愛するマルチン・ボシレフスキにおいても、若手としての技能の高さで注目度の高まった時期の状況を知れるものとしても魅力たっぷりのアルバム。
この組み合わせは、2年前の2002年にこのポーランドのカルテットとしての共演作がお目見えし、トーマス・スタンコを新たな評価へと押し上げた。 それがボシレフスキ、クルキエヴィッツ、ミスキエヴィツとのECM第1弾『Soul of Things』(2002)であり、 ヨーロッパ・ジャズ賞を受賞することになる。
そして今回のこのライブ音源は、その2004年このカルテットでの第2作アルバム『Suspended Night』のレパートリーである歌曲の形式と、翌2005年に録音された第3作アルバム『Lontano』で探求された即興的な分野の間を巡り巡っているところが、グループの音楽の発展段階を捉えた魅力的なドキュメントとなっていて貴重であるのだ。
この2004年には、ボシレフスキ、クルキエヴィッツ、ミスキエヴィッツは、彼ら自身も確固たる国際的評価を確立していた。10代に結成した「シンプル・アコースティック・トリオ」として10年間を経て、彼らは「マルチン・ボシレフスキ・トリオ」として新たなアイデンティティを確立し、アーティストとしてますます力をつけている。これにはトーマス・スタンコは当時、彼らを評価し語っている「ポーランドのジャズ史上、このようなバンドは存在しなかった」「私は毎日、このミュージシャンたちに驚いている。 そして、彼らはますます良くなっている」と。
(Tracklist)
1. Hermento’s Mood ヘルメントズ・ムード 5:28
2. Song For Sarah ソング・フォー・サラ 6:20
3. Euforia ユーフォリラ 9:44
4. Elegant Piece エレガント・プレイス 10:22
5. Kaetano カエターノ 8:48
6. Celina セリーナ 10:44
7. Theatrical シアトリカル 6:34
このこのミュンヘン公演は、スタンコ・カルテットがアメリカとヨーロッパで大規模なツアーを行った年の最高潮の演技と言えるものであると言われている。当時、過去にポーランド・ジャズの大御所クリシュトフ・コメダとの共演などの多くの実績のある偉大なトランペッターとしての評価のあるスタンコは、ここでリーダーシップと最高の魅力を十二分に発揮し、スラブの伝統に根ざしクラシック音楽からの発展形をベースに新しいジャズを演じてきていた若きボシレフスキ、クルキエヴィッツ、ミスキエヴィッツのピアノトリオのエネルギッシュなサポートと見事なカルテットとしての演奏力に力を得て、彼らしい素晴らしい演奏を披露している。
M2."Song For Sarah "あたりから、マルチン・ボシレフスキ・トリオの本質がちゃんと見えてきて、彼らがピアノによる深遠な世界を構築し、スタンコがダーティーに乗って行くかのスタイルが見える。
M3."Euforia"は、ベースのリードからスタートして、それにスタンコがエネルギッシュに盛り上がると、反応するがごとくピアノ・トリオが動を即興で演じ更にエモーショナルな展開をみせ、中盤は今度はピアノが語り始め、ドラムスが展開を形作る。まさにピアノ・トリオの主導のバトルに再び終盤にはトランペットが逆に収める役を果たし、ドラムスが答えて最後はトリオとスタンコでまとめあげる。
そしてM4."Elegant Piece "は再び静の世界に、10分を超える曲で中盤からトランペットの訴えが始まり、つづいてピアノが延々と語り始める。最後は両者の響きでハーモニックなところを見せながら納める。
このような、四人の対等なカルテットの演奏が流れ、やはりスタンコのトランペットは彼独特の荒々しい音色は響かせるのだが、ドラマチックな展開の中に憂鬱感の暗さがあったり、哀愁感に満ちたりと人間的な世界を描くところは抜きんでている。そこに又ジャズの激しさをちらっと見せグルーヴ感をちゃんと聴かせながらも、どこか深淵にして人の心を哀感を持って描いてくれるポーランド風ボシレフスキ・ピアノ・トリオの世界が顔を出し、いつの間にか引き付けられてしまう。これがライブ録音かと思うぐらいカルテットとして充実していて、曲の配列も見事でアルバムとしても完成している。
ここに来て、スタンコの名盤に入るアルバムが登場した感がある。
(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音 87/100
(試聴)
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