レシェック・モジュジェル leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」
冷徹ともいえるソリッドで透明のピアノ革新音が、神秘的な新音楽空間を造る
(歴史的新音楽)
<Contemporary Jazz>
leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」
ACT / Import / ACT90652 / 2025
Leszek Możdżer – piano
Lars Danielsson – double bass, cello, viola da gamba
Zohar Fresco – drums, percussion
ジャズ界において、その芸術性を語るのは私のような単なる音楽リスナーにとってはなかなか難しいことだ。長くクラシック、ポピュラー、ロック、ジャズなどなど多くを聴いてきての愛好者ということであって、その芸術性なり音楽学問的な世界にはいないということだ。ただ従来の世界から一歩コンテンポラリーな世界に足を踏み込んでいるという感覚で聴けるミュージックもある。そんな感覚で捉えられるのがこのポーランドの私の注目のピアニストのレシエック・モジュジェルLeszek Możdżer(⇢)である。そして又してもここにダニエルソンLars Danielsson(スウェーデン ↓左)のコントラバスとヴィオラ・ダ・ガンバの共鳴と、フレスコZohar Fresco (イスラエル ↓右)の複雑なリズムのドラムスとパーカッションの深みとのトリオ作品が登場した。
このアルバム『Beamo』は、このトリオでの前作『Passacaglia』(2024年)に続いての発展させたもののようだが、もう十数年前に感動してここで取り上げた作品『THE TIME』(2004)以来20年の経過での記念的作品で、私にとってはそれ以来離れられないトリオであり感動的であるのだ。又モジュジェルの挑戦はこのトリオばかりでなくAdam Baldychとの『Passacaglia』(ACT9057,2024)などの芸術性の評価が高いモノが多い。
そして今回の注目点は私にはその挑戦が音楽的に評価ができないのだが、モジュジェルが3つの異なる調律のピアノ(A = 440 Hz、A = 432 Hz、デカフォニックスケール)を同時に使用したことで、「伝統的な調性を興味深く不安定でありながらも深く美しいものへと作り変えている」との専門的評価を得ている事である。
(Tracklist)
1.AMBIO BLUETTE – LESZEK MOŻDŻER
2.CATTUSELLA – LARS DANIELSSON
3.BEAMO – LESZEK MOŻDŻER
4.KURTU – LESZEK MOŻDŻER
5.LINKABILITY – LESZEK MOŻDŻER & LARS DANIELSSON
6.BRIM ON – LESZEK MOŻDŻER
7.GILADO – LESZEK MOŻDŻER
8.APPROPINQUATE – LESZEK MOŻDŻER
9.DECAPHONESCA – LARS DANIELSSON & LESZEK MOŻDŻER
10.FURD’OR – LESZEK MOŻDŻER
11.JACOB’S LADDER – ZOHAR FRESCO
12.ELIAT – LARS DANIELSSON
13.ENJOY THE SILENCE – MARTIN GORE
むしろ冷徹なソリッドと言える上に透明で素晴らしいピアノの音を響かせるモジュジェルのピアノ・ジャズ世界が挑戦した「彼らの特徴的なヨーロッパ的なリリシズムに根ざした『Beamo』」は、"クラシカルなエレガンスと実験的な革新を融合させ、ミステリアスでありながら親しみやすいサウンドスケープを作り出している。これぞ、コンテンポラリージャズの変革的な旅だ"と表現しているのを見るが、まさにそんなアルバムで、コンテンポラリーな世界でありながら不思議に聴きやすいところが特徴だ。
ある説明では、「ピアニストを囲むように配置された3台のグランドピアノはそれぞれA=440Hz、A=432Hz、そしてもう一つはオクターヴを10の等間隔に分割する特殊な調律(デカフォニック)のもの、自在にそれらの鍵盤を行き来することで驚くほど色彩豊かな音の世界を表現している。調律(基準周波数)の微妙に異なるピアノでユニゾンすることで意図的にデチューンの効果を得たり、1音を異なるピアノで交互に弾くことでその周波数の微妙な差異によって不思議な浮遊感を生み出したりと、ひとつの曲の中でいくつもの調性が同時並行で共存しているような、これまでに聴いたこともない音で聴覚を大いに刺激される。」ということなのである。そのあたりの音楽的なポイント(平均律の音楽性の特徴など)や芸術的な複雑性は解らずに、私には単に音楽としての音とその兼ね合いとメロディーを聴くだけでの世界だが、相変わらず彼のピアノの調べには引き付けられてしまうのである。
M1."AMBIO BLUETTE" まさに深淵なリズム、夢想的で実験的世界がベースの柔らかさとピアノのソリッドの副雑音の調整が聴きどろ 。
M2. "CATTUSELLA"ダニエルソンの美しい曲を二重の調律の異なるピアノでむしろ爽快に。
M3."BEAMO" アルバム・タイトル曲でどこかミステリアス。M4."KURTU"はドラムが流れをつくり、透明感と複数のピアノのユニゾンによる浮遊感。中盤のピアノのインプロビゼーションの緊張感。M9."DECAPHONESCA"では、ダニエルソンはヴィオラ・ダ・ガンバ1を弾いていて、モジュジェルの世界的話題のデカフォニック・ピアノ(彼の開発した10音音階のもの)と同様に十平均律にチューニング、奇妙に響く奏法(アルペジオ)でピアノと競演するという芸を披露。
こんな調子で、異空間のミステリアスな響きでクラシカルな世界と未知の近未来的世界が融合した感覚になるところも面白く、驚きの世界に没入してしまう。
ラストはM13."ENJOY THE SILENCE"は英国ロックバンドの曲を取り上げて、むしろぐっと落ち着いた世界に導き、未知なるスリリングな挑戦から静かな展望への美しいピアノの音で締めくくり納めるという憎いアルバム構成。
いまやジャズ世界も複雑な世界に広がっているが、欧州系で発展しつつあるコンテンポラリーな世界も、基本的にはクラシックの世界から発展している基礎の上で造られていて、音楽的な評価が高まっているのも聴きどころであり、古来のアメリカン・ジャズとは全く異なった様相になりつつあるところも見逃せないところだ。
又このアルバムの従来の音楽に対しての革命性も今後話題として語りつかれるところは必至であろう、貴重である。
(評価)
□ 曲・演奏 : 95/ 100
□ 録音 : 90/ 100
(試聴)
(参考)Leszek Możdżer 略歴 (ネットより)
ピアニストのレシェック・モジジェルは1971年ポーランドのグダニスク生まれ。幼少期から音楽に親しみ、5歳でピアノを始め、クラシック音楽の基礎を築いた。グダニスク音楽アカデミーでクラシックピアノを専攻し、1996年に卒業するが、在学中からジャズに強い関心を抱き、独自のスタイルを模索し始める。 1991年にポーランドを代表するサックス奏者ズビグニエフ・ナミスオフスキ(Zbigniew Namysłowski)のバンドに参加し、プロのジャズピアニストとしてのキャリアをスタートさせる。この時期に彼は伝統的なジャズとポーランドの民族音楽、クラシックの要素を融合させた独自の音楽性を確立し、1994年には初のソロアルバム『Impressions On Chopin』をリリース。ショパンの作品をジャズ風に解釈したこの作品は、彼の革新的なアプローチを示すものであり、批評家から高く評価された。
2004年からラーシュ・ダニエルソンとゾハール・フレスコとのトリオ活動を開始し、『The Time』(2005年)や『Pasodoble』(2007年)、『Polska』(2013年)といった名盤をリリース。このトリオは20年以上にわたり彼の主要な表現の場となり、2025年の『Beamo』でさらなる進化を見せた。
映画音楽の作曲などの巨匠クシシュトフ・コメダ賞(1992年)やポーランド外務大臣賞(2007年)などを多数受賞。名実ともにポーランドを代表するジャズ・ピアニストとなっている。
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