ラーシュ・ダニエルソンの異色作 Lars Danielsson 「Symphonized」
ジャズ・カルテットのクラシック・オーケストラとの競演
<Alternative Jazz, Classic>
Lars Danielsson Liberetto「Symphonized」
ACT MUSIC / Import / ACT6023 / 2023
Lars Danielsson(contrabass & cello)
Grégory Privat(piano)
Magnus Öström(drums & percussion)
John Parricelli(guitar)
Gothenburg Symphony Orchestra conducted by Peter Nordahl
Carolina Grinne(english horn / oboe d´amore)
Guests:
Arve Henriksen(trumpet on "Nikita‘s Dream" and "Yes to You")
Paolo Fresu(trumpet on "Africa" and "Scherzo")
Recorded by Nilento Studio at Gothenburg Concert Hall
Additional Recording by Bo Savik at Tia Dia Music Studios,Sweden
スウェーデンが誇るベーシストのラーシュ・ダニエルソン(Lars Danielsson)率いるスーパーグループ「Liberettoリベレット」、前作アルバム『cloudland』(2021)はここでも取り上げたが、熟成されたカルテットのアンサンブルと北欧ジャズの新たな可能性が見事な融合を魅せるエレガンスとリリシズム溢れる4作目であったが、一年半ぶりの5作目の登場だ。今作は、ダニエルソン が、グレゴリー・プリヴァ(GregoryPrivat)(p)、マグヌス・オストロム(Magnus Ostrom)(ds,ex.E.S.T.)、ジョン・パリチェッリ(John Parricelli) (g)といった、現在のジャズシーンで最右翼の名手たちを揃えて10年以上となってのここに、なんとクラシックの伝統とジャズを融合させた新しいジャンルを創り出した。
もともとこの2012からのカルテットのグループ名「Liberotto」 とは、作曲の構成法・クラシック的性質・オペラに於ける叙情主義を示す「リブレットLibrretto」と、ジャズの基本原則でもある即興の"自由"を表すラテン語「リベLiber」を合わせた造語ということだが、めざすところクラシック音楽とジャズとが、ダニエルソンの音楽キャリアで決定付ける2 つの重要なポイントであることを如実に示していた。初代のピアニストとしてアルメニア生まれの天才ティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)を、ドラムスにはe.s.t.のマグヌス・オストロムを迎えるなど、国や地域性を超えクラシック音楽とジャズを融合させた作品は高く評価された。そしてついになんとオーケストラとの競演のかたちでここに新たな局面を実現したという事になる。
(Tracklist)
Disc 1
1.Liberetto 5:03
2.Passacaglia 5:39
3.Africa 6:59
4.Sacred Mind 5:19
5.Lviv 4:47
6.Nikita‘s Dream 5:41
7.The Fifth Grade 8:20
8.Yes To You 4:04
Disc 2
1.I Affettuos 7:26
2.II.Elegi 7:50
3.Intermedium 2:08
4.III. Le Bagatelle 13:37
5.IV. Scherzo 7:55
[Disc 1]は、もともとが究極的に美しいところを演ずるLiberettoだが、今回のオーケストラ・アレンジでそのサウンドはより深みを増した姿を披露し、選曲はダニエルソン自身の曲を彼自身により編曲したもので、『Liberetto』(2012年)からM1."Liberetto"、『Liberetto II』(2014年)からM2."Passacaglia"やM3."Africa"、『Liberetto III』(2017年)からM5."Lviv"、『Cloudland』(2021年)からM6."Nikita’s Dream"など人気曲が並んでいる。
[Disc 2]は今作のための書き下ろしの組曲が収録されており、ソリストとしてイングリッシュ・ホルン/オーボエ・ダモーレ奏者のカロリーナ・グリンネ(Carolina Grinne)をフィーチュアしている。
いずれにしてもミュージシャンは常に何かを求めているというパターンが多いが、ダニエルソンもおそらくその一人という事であろう、この従来からのカルテットの演奏に飽き足らず、一歩又新しい試みを企てたという事になろう。彼の目指しているところの一つには、もともとのクラシックの世界があったというか、今もあるということだと思う。今回の競演オーケストラはスウェーデンの国立エーテボリ交響楽団Gothenburg Symphony Orchestra(↓) で Peter Nordahl (→)の指揮によるもの。
しかしここまで本格的クラシック世界を描くとは思っていなかったのだが、M4."Sacred Mind"は完全にオーケストラ演奏である。
全体に彼らのカルテット"リベレット"の演奏とオーケストラとの関係もいろいろな取り合わせがあるように思うが、M6."Nikita's Dream"ではピアノと管楽器、ベースとストリングスのユニゾンが不思議な美を描いて、成程と狙いがみえてくる。又協奏曲的手法による彼らのカルテットのオーケストラとの交わりもなかなか斬新でのめり込める。
又、Disc.2に聴けるようにホルンやオーボエの美しさとストリングスの魅力に、彼のジャズ・ベースの響きが極めて新鮮にも聴こえて、又ドラムスが介入する姿なども、いかにも一つのジャンルを築いていることは称賛に値する。更に、オーケストラの描く荘厳な世界のジャズとの関わり合いを追求する姿なども垣間見え、二重協奏曲のスタイルを極めたことは興味深い試みであった。
しかしジャズの世界において、ジャズ愛好家というものの求めるところ、メンバーそれぞれの演奏者の即興感覚とアドリブの楽しさとトリオやカルテットという小人数の描くところに独特な味わいを求めるとすると、大編成となるオーケストラとの競演では、ある意味では魅力が薄れてしまう事にもなりかねない。従って時にこのような異色の世界との交わりも良いが、もし仮にこのスタイルで進んでゆくと、果たして今までのファンがそのまま継続して支えてくれるかどうか・・・ふと、そんなことを考えながら鑑賞した次第だ。
今は、どの音楽分野でもある過去に築かれた世界からの脱皮を試みて、"ポストクラシック"とか"オルタナティブ・ジャズ"とか試行錯誤があろうが、それぞれのミュージックの本質的な部分はやはり失わないことがある意味では大切なような気もする。
いずれにしても、やはりダニエルソンの世界は、クラシックに留まらず各種ミュージックの感動的な世界を描こうとしているところがよく理解できたアルバムであった。
(評価)
□ 曲・編曲・演奏 88/100
□ 録音 88/100
(試聴)
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