ブラッド・メルドー

2023年6月 7日 (水)

ブラッド・メルドー Brad Mehldau Trio 「STOCKHOLM 2023」

この5月の久々の往年のトリオ演奏 ほっとして聴ける

<Jazz>

Brad Mehldau Trio 「STOCKHOLM 2023」
MEGADISC / 2023

51d620bd3a05200a374fcde0af461d84

Brad Mehldau (p)
Larry Grenadier (b)
Jeff Ballard (dr)

Live at Konserthus, Stockholm, Sweden May 12th, 2023

   ついこの間の2023年のヨーロッパ・ツアーから、スウェーデンはストックホルムでの久しぶりにトリオで観客を熱狂させたというブラッド・メルドーのこの5月の最新ライブ盤。

 このところソロによるライブが続いた中、最近どうなったのだろうかと心配したが、メルドーと気心知れた15年以上の歴史があるラリー・グレナディア(b)とジェフ・バラード(dr)が加わったトリオ・ライブで実はほっとした。やっぱり彼のピアノにゆとりと安心してのアドリブの華が入って、そしてベース、ドラムスの響きで音像に厚みが出て久々にゆったりとして安心して聴けた。
  とにかく才能溢るるジャズ・ピアニスト兼作曲家のメルドーは、近年はジャンルの境界を越えての、ジャズ、ロック、クラシック、ポップを探求してユニークで印象的なフュージョンを生み出しそこに予想外の世界を構築してきた。
 しかし、私にとっては、それが進めば進む程、かってのピアノ・トリオが懐かしくもなり、そのパターンに戻ってほししいとていう感覚になっていたところである。

Bradmehldautriospotlight2

(Tracklist)

1.Gentle John
2.Spiral
3.Seymour Reads The Constitution
4.Ode
5.All The Things You Are
6.The Nearness Of You
7.Green M&Ms

   しかし、これは取り敢えずはブートですから音質はどうかと心配したが、なんとオフィシャル盤以上と言ってもよい好録音。ライブだと緻密なテクニックに加えて感情が一層豊かになった演奏が手に取るように聴けて痺れますね。
 特に私はM6."The Nearness Of You" のしっとりとした演奏にうっとりして、そろそろオフィシャル・リリース盤にもこのトリオに帰ってほしいと思うのである。
 又M2."Spiral"、M3."Seymour Reads The Constitution"、M4."Ode"のように、もう懐かしささえ感ずるところも再現してくれている。
 そして古きミュージカルからのエラ・フィッツジェラルドで有名なスタンダード曲M5."All The Things You Are"は、12分を超えてのじっくり演奏、やっぱりライブの良さですね。
 このところのメルドーの活動から、旧来のトリオによる演奏が聴けてほっとしているところである。

(評価)
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(試聴)  この5月のものはまだ視聴出来ませんので・・・参考までに

*

 

| | コメント (0)

2023年4月27日 (木)

フラッド・メルドー Brad Mehldau 「SOLO CONCERT AT BOZAR BRUSSELS 2023」

つい先月のブリュッセル(ヘルギー)でのソロ・ライブの様子が

<Jazz>

① Brad Mehldau 「SOLO CONCERT AT BOZAR BRUSSELS 2023」
STARGAZER'S FILE / SGF-00238 / 2023

Imgw

Recorded at Salle Henry Le Boeuf, Bozar, Brussels, Belgium, March 25th 2023 : Soundboard Recording

(参考) 
BRAD MEHLDAU  「BRUSSELES 2023」

D1126b544c5ce5bdbcb3377dbd3c1838
(こちらは2曲少ない)

  このところ2022年から継続的に各地で行われているブラッド・メルドーのソロ・コンサート盤。まだ1ケ月もたたないのにこうして2023年3月25日ベルギー、ブリュッセルにおけるソロ・ライブ録音盤が手に入った(上のように2枚のCDあり)。現地ラジオ・オンエアー・マスターのサウンドボード音源に、最新リマスタリングも施し1時間34分にわたりほぼフル収録したもの。

Writingw  このところもソロ・ライブ盤『Your Mother Should Know』がオフィシャルにリリースされたが、ビートルス・カバーを売り物にしてのもの。しかし実際のライブではラディオヘッド、デヴィット・ボウイなどの曲とうまくミックスされて演じられることが多く、そんな意味でも曲と曲のつなぎは大事で、近年のライブ録音のブートものは、その点パーフェクトでオフィシャル盤に劣らずの好録音盤として手に入り(『PLAY THE BEATLES MORE』(SGF-00127)など)納得。私としてはラディオヘッドの曲などの方が味わい深く好きで、それによりビートルズの曲を生かして聴かせている。その一環として現在もソロ・コンサートを続けているメルドーのプレイを、ここに楽しめるのだからうれしい。

 彼もある意味では従来のピアノ・トリオでは壁に当たっているのか、はたまた新展開に意欲的なのか・・その点は詳しくないが、どうもスタジオ・オフィシャル盤は凝りすぎの感があってあまり納得して聴いていない。むしろ私的にはこうしたライブでオーディエンスとのなんとなく繋がりをもって演じてくれるメルドーに親近感を持てるのである。

① Brad Mehldau 「SOLO CONCERT AT BOZAR BRUSSELS 2023」 
DISC 1 :-main set-
1. JOHN BOY
2. THE FALCON WILL FLY AGAIN
3. KARMA POLICE
4. Untitled
5. WALZ FOR J.B.
6. LA MEMOIRE ET LA MER
7. SHE SAID SHE SAID
8. HERE, THERE AND EVERYWHERE
9. IF I NEEDED SOMEONE
10. REMEMBERING BEFORE ALL THIS
11. UNCERTAINTY - SAINT ANNES REEL
12. HEY JOE

DISC 2 : -encore-
1. LIFE ON MARS
2. HERE'S THAT RAINY DAY
3. DON'T THINK TWICE, IT'S ALLRIGHT
4. HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON

 相変わらず、近年おなじみのロック・ナンバーをモチーフとしている。今回も中盤のビートルズのカバーを含め、レディオヘッドにボウイ、そしてジミヘンにもちろん自己オリジナルまで多様な楽曲を選んで楽しませてくれる。

Mehldausolobeatlesw

 Disc 1

 M1." JOHN BOY " やさしく、そしてM2."THE FALCON WILL FLY AGAIN " は彼自身のアルバム「High way rider」からのスタート、そしていつも通りM3." KARMA POLICE"ラディオヘッドの曲がメロデテアスに登場。
 M5."WALZ FOR J.B." 昔の彼のソロ、そしてM6."LA MEMOIRE ET LA MER"シャンソンまでも登場。 
 M7."SHE SAID SHE SAID"とビートルズの登場へと、M8."HERE, THERE AND EVERYWHERE "はラブソング、 M9."IF I NEEDED SOMEONE 恋をするなら"など続く。
 最後はジミ・ヘンの演奏で有名なM12." HEY JOE"十数分にわたるかなりの熱演だ。

  Disc 2  
 M1."LIFE ON MARS"しっとりとデヴッドホゥイの曲、 M2."HERE'S THAT RAINY DAY" 昔のミュージカルの曲が登場。 
   M3."DON'T THINK TWICE, IT'S ALLRIGHT "  ボブ・ディランの曲"くよくよするな"ですね。
 M4."HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON" 定番がつづきますね ガーシュインの曲、懐かしのオードリー・ヘップバーンを思い出させ締める。

 このところのメルドーの活動を見ていると、ロックをベースとしたこうしたソロ演奏活動に彼の歴史を描きながら、更にロックよりのジャズ・スタンダードを演じている。彼にとってはちょっと古すぎると思う曲もあるが、それでもそんなところにかなり充実感を感じているのではと推測するのだ。こうゆう時期を超えて、まあ又ジャズ・ピアノ・トリオに新展開してくれるだろうと待ちながら、こうしたオフィシャルではなかなか聴けないソロ演奏を楽しんでいる。

(評価)
□ 編曲・演奏  88/100
□ 録音     87/100

(参考試聴) この日のライブもののは見当たらないので参考までに ↓

 

| | コメント (2)

2022年10月 6日 (木)

ブラッド・メルドー Brad Mehldau 「PLAY THE BEATLES AND MORE」

ビートルズ、レディオヘッドなどの曲を好録音で聴ける

<Jazz>

Brad Mehldau 「PLAY THE BEATLES AND MORE」
LIVE at FESTIVAL DA JAZZ ST.MORITZ.2021
STARGAZER'S FILE / SFF-00127 / 2022

Bradmehldaulive

Recorded Live at Hotel Reine Victoria, Festival Da Jazz, St. Moritz, Switzerland, July 08, 2021 EXCELLENT Soundboard Recording // 75 min

BRAD MEHLDAU : Piano

   昨年(2021年)7月8日のスイスでのブラッド・メルドーのピアノ・ソロ・ライブ収録盤である。とにかく最高音質というところが聴きどころの重要な一つのポイントのアルバム。曲間はカット編集し75分1枚になんとか収めたもの。従って会場の音が無いのでライヴ感が無いが、良く言えば「オフィシャルのスタジオ録音」かと間違うほどのものである。この日のセットリストはビートルズはじめレディオヘッドやデヴィッド・ボウイなどロック・ポップスからの選曲が多く、特にビートルズは全体の三分の一を占める5曲が演奏されている。
 2021年のソロ・ライブものは、以前にドイツにおけるものを(「MOERS2021」)を紹介したが、ここでは数曲はダブっているが、又別物として楽しめる。

 実は最近のブラッド・メルドーはマンネリの回避か、実験色の強いアルバムがオフィシャルにはリリースされていて、ちょっと私には敷居が高いアルバムが続いているのだ。そんな時には、彼のライブが実に楽しめる。今年の夏の来日公演は中止になってしまったが、彼の世界各地でのソロ・ライブものは、親近感の強い演奏が多く、従ってそんなところを狙ってのライブ盤を探し求めてのそんな一枚なのである。

Bradmehldauw_20221002232801

(Tracklist)
01. KARMA POLICE (Radiohead)
02. I AM THE WALRUS (The Beatles)*
03. YOUR MOTHER SHOULD KNOW (The Beatles)*
04. IN THE KITCHEN (Brad Mehldau)
05. BABY'S IN BLACK (The Beatles)*
06. COME RAIN OR COME SHINE (Harold Arlen)
07. VALSA BRASILEIRA (Chico Buarque)
08. SOMETIMES REAL (traditional)
09. SKIPPY (Thelonious Monk)
10. LIFE ON MARS (David Bowie)*
11. DEAR PRUDENCE (The Beatles)
12. SHE SAID SHE SAID (The Beatles)*
13. LITTLE BY LITTLE (Radiohead)
14. HERE'S THAT RAINY DAY (Jimmy Van Heusen)
15. IN THE STILL OF THE NIGHT (Cole Porter)

(追記 Feb.2023) *印 : 公式アルバム「Your Mother Should Know : Brad Mehldau plays The Beatles」に登場した曲。

  いっやー、とにかくオーディエンス録音ものでなく、サウンド・ボード録音で好音質ですねぇ。ここまで仕上げが良いと、オフィシャルは真っ青ですね。なにせブートですからその宣伝も面白い・・それはなんと「ピアノに首を突っ込んだような音」と表現されている。いっやー-初めて聞いた言葉(表現)だ(笑)。
 たっぷり15曲、ビートルズ(下左)ものが5曲、レディオヘッド(下右)が2曲、デヴッド・ボウイ1曲、セロニヤス・モンクやコール・ポーターも登場。メルドー自身のオリジナル曲は1曲のみだ。

A8273013193739135526

 ビートルズものは選ばれるのも解るが、レディオヘッドがお気に入りなのだろうか、ロックといっても音楽性が高いという事か、オルタナティヴ・ロックの大枠にジャズ、クラシック、現代音楽などを混交した多彩な実験性のある音楽性にメルドーもどこか気に入っているのかもしれない。
 私にとってはM01,M3.,M10, M14, M15 あたりが聴きやすかった。しかし相変わらず左手の演奏が別格に充実していて、M8."SOMETIMES REAL"はトラディツショナルという事だが、おそらく彼の即興が加味されての曲の深みが凄い。

 しかし、あまりないことだが、オフィシャル盤をパスしてブートをあさって楽しんでいるブラッド・メルドーというのは私にとっては異端児ですねぇーー。皆さんはどうなんだろうか。

(評価)
□ 曲・演奏 88/100
□   録音   88/100

(参考試聴)
Mehldauのソロ演奏 "YOUR MOTHER SHOULD KNOW"(The Beatles)

| | コメント (0)

2022年4月 3日 (日)

ブラッド・メルドー Brad Mehldau 「JACOB'S LADDER」

これはメルドーの自己の音楽世界の総決算か、
はたまた新たなスタートなのか

<Jazz, Rock, Fusion>

Brad Mehldau 「JACOB'S LADDER」
NONE SUCH / IMPORT / WPCR-18499 /  2022

91ti77ca9kl1000w

Brad Mehldau : piano,  synthesizer, organ, drums,  tambourine, voice
etc.

  いっやーー、ブラッド・メルドーのなかなか大変なアルバムのリリースですね。待望の新作とは言っても果たしてこれを聴いたジャズ愛好家の反応はどうだったろうか。このところの彼の世界は私にはなかなかついて行けないところにあり、むしろライブでの彼の演奏は、オーディエンスのことを十分に理解してのことで、過去のヒットものを演じてくれたり、ビートルズやバッハを聴かしたりと、ライブもののブート・レグの方が親しかったりしているところにあった。

 そこで、そろそろ彼のピアノ・トリオものを期待していたのだが、なんと更に彼の世界はエスカレートして、昔のプログレッシブ・ロックの世界へもアプローチするという離れ技を演じたのである。そもそも彼はもともとプログレへの流れを持っていて、過去にピンク・フロイドのRoger Watersの曲"Hey You"などソロで演じたりと私自身は楽しんだのであるが、今回のアルバムはプログレシブ・ロックの持っていた複雑なリズムにアプローチしているのである。ロックの一つの重要な本質であった彼らの主張したコンセプト性や、音楽の自由な展開、マイルス・デイヴィスやウェザー・リポートなどのフュージョンへの展開の元となったロックの世界の多様性など、メルドー自身の基礎にも決して消えないプログレが存在していた事がここに表現されたのである。それはこのアルバム・タイトルは、私にとっても懐かしい知る人ぞ知るカナダのロック・バンドRUSHの演じた曲名から来ているからだ。

Bm1_20220403113701 (Tracklist)

1.maybe as his skies are wide
2.Herr und Knecht
3.(Entr'acte) Glam Perfume
4.Cogs in Cogs, Pt. I: Dance
5.Cogs in Cogs, Pt. II: Song
6.Cogs in Cogs, Pt. III: Double Fugue
7.Tom Sawyer
8.Vou correndo te encontrar / Racecar
9.Jacob's Ladder, Pt. I: Liturgy
10.Jacob's Ladder, Pt. II: Song
11.Jacob's Ladder, Pt. III: Ladder
12.Heaven: I. All Once - II. Life Seeker - III. Wurm - IV. Epilogue: It Was a Dream but I Carry It Still

 しかしM1."maybe as his skies are wide"の突然現れる美しい女性ヴォーカル、これは下手な技巧のない素人の女性の歌のようだが、こんな味はよくかってロックでもプログレの世界に登場したのを思い出す。アニー・ハスラムだって多くが惚れ込んだが、技巧と言うよりは素直な美しさだった。
 M2."Herr und Knecht"を聴いてやっぱりロックなんだ。難しい変拍子のフュージョンぽい展開とシンセサイザーの技巧。
 そして一転してクラシック調の登場のM3."(Entr'acte) Glam Perfume"、美しいピアノの調べだ。昔はこんな展開のプログレの曲の変化に痺れてしまったものだ。女性ヴォーカル、ハープの響き、ピンク・フロイドを想わせる笑い声のSE、メルドーのやりたかった一つの世界なんだろうなぁーーと。

 メルドーが今回のアルバムで明瞭になったことの一つは、今でも忘れられないプログレの世界において、最も重要視しているのは演奏技術をベースに複雑かつ洗練された音楽性、変拍子やポリリズム、多彩なジャンルの入り乱れる複雑な楽曲といったところのようだ。そんなところからM4.,M5.,M6."Cogs in Cogs Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ"に出てきたGentle Giant(アルバム「The Power And The Glory」(下左))だ。ここに見えてきたものこそ彼の音楽性に大きな影響を与えているようだ。なんとこれはプログレの多様性の中でも、若干私が苦手としてきた世界だ。しかし音楽を極めているものとしては、どうしても通らなければならないと同時に魅力的なんだろう。なにせGentle Giantの世界には、民俗音楽、ジャズ、ソウル、クラシック音楽といった多種多彩な音楽的アプローチをしていて、むしろ後になって日本ではプログレ・ファンの間で話題だった。中世西洋音楽、バロック音楽、20世紀のクラシック音楽、室内楽といった数多くの音楽からの影響も指摘されているだけのものを演じていたわけだから。変拍子やポリリズム、多岐にわたるジャンルの入り乱れる複雑な楽曲を、アンサンブルの妙と、コーラスワークでのめくりめくる世界は好みと言うより奇々怪々であった。そのため、その音楽性は、ピンク・フロイドのような幻想的な音空間といった俗に言う「プログレっぽさ」とは別物であった。

81pkn69ua2lw51cksoan1bl_ac_719ebgs4ml_acw

 そして更にコンセプト重視、これはM7."Tom Sawyer、M10."Jacob's Ladder, Pt. II: Song"のRUSH(アルバム「Moving Picture」「Permanent Waves」(上中央))の登場、懐かしいですねぇーー、彼らには私は少々入れ込んだこともあって(79年の「Permanent Waves」は、ジャケ・アートも忘れられない)、特に哲学的と言って良い歌詞には悩みつつも忘れられないところにあった。音楽性というところでは、私がプログレ一押しのKing Crimson, Pink Floydらとは別世界だが、なんとなくとっつきやすいポップ性と、技巧性の高い演奏・複雑なリズムアレンジの混在がたまらないところだと言える。
  とにかくメルドーのこのアルバム・タイトルはRUSHの曲"Jacob's Ladder(ヤコブの梯子)"をそのまま持ってきたところにも入れ込みようが解る。私はこの曲よりはこのアルバムでは、"Different Strings(異なる糸)"が好きでしたが。 
 M9."Jacob's Ladder, Pt. I: Liturgy"は、なんと旧約聖書の朗読から始まり、敬虔な世界の展開。美しい女性ヴォーカル、今回のプログレとの関係をどう結びつけるのか・・これは単純には収まりそうもない。ただのロック回顧でない彼のアルバム作りを知らなければならないだろう。

 さらにそれならと思った通りであったのが、M12."Heaven: I. All Once - II. Life Seeker - III. Wurm - IV. Epilogue: It Was a Dream but I Carry It Still" のYESの登場だ。ここに取り上げられた3rdアルバム「The Yes Album」(上右)からは、スティーブ・ハウが加入したわけだが、曲自体は意外に単純なんだがアレンジに重きを持って、その曲の中心のフレーズを変奏してゆく過程で、次第に全員が原曲から遊離して、奇妙な複雑性のアンサンブルが現れるという変と言えば変なバンド集団、そこにブラッフォードの変拍子ドラムスが叩かれて圧巻となる。こんなところがメルドーに大きなインパクトがあったのかもしれない。

Artistimgformat_bradmehldau_2020

 今回のアルバムは、おそらくジャズ・ファンには苦々しいものであったろうと私は推測する。しかし私のように60年代からプログレッシブ・ロックの世界にどっぷり浸かっていて、細々とジャズ世界を繋いでいたと言う人間にとっては、実に興味深いというかむしろ懐かしさに感動してしまった。私自身の最も痺れたプログレの分野とは若干異なっていたとはいえ、しかしこうして聴いてみると、その分野も捨てたものではなかったことがむしろ教えられた感がある。

 ただ、私が若干不満であったのは、プログレの大御所であるKing Crimsonのロックの激しさとメロトロンを駆使したクラシック的美世界、Pink Floydの追求したコンセプトのあるドラマチックな展開と音の創造の世界など、さらにはイタリアン・プログレッシブ・ロックの美旋律と物語性の世界などに触れていないところがプログレを演ずるには少々手落ちであったのかとも・・・、しかし、メルドーにとっては時代的にはそれより後での接触であろうし、興味は音楽技巧性から複雑なるリズム・アレンジなどにあったことに的をしぼったということであれば、これもありかと納得するところだ。いずれにせよ、これから彼を聴いてゆく中で一つのポイントを知ることができたと喜んでいるのである。

 結論的に、このアルバムでは、メルドーの曲の展開のドラマテイックなところと、美意識も十分表現されていて、彼の世界はそんなところは過去に築いてきたところの一つの表現として、プログレッシブ・ロックがあったことを語ってくれ、一つの総決算をしたともみえたことをむしろ評価したい。
 更に、ここで取り上げられている旧約聖書に関するテーマは、私には語れる術もなく、その世界は今後の展開でむしろ知りたいと思うところにありここでは言及を避ける。

 いずれにしても、今回の彼のこのアルバムは、彼のファンと称するジャズ一辺倒のファンがどこまで理解できるかは、私は期待していない。それはプログレッシブ・ロックの価値が評価できなければその価値が理解できないだろうと思うからだ(私自身も出来るとは言わない)。そんなところからか、現実にこのアルバムの感想や評価に未だあまり接しないのである。 しかし、ジャズ・ファンがこれが面白いと感ずれば、それは一歩プログレに浸かれる道でもあって、私としては期待してしまう。音楽的、哲学的、宗教的のあらゆるところにおいても、メルドーの次への発展が見物である。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□   録音    88/100

(視聴)

*

*

 

 

| | コメント (4)

2021年8月 8日 (日)

ブラッド・メルドー Brad Mehldau Trio 「SWEET AND LOVELY」

これぞジャズ、華々しいスタンダード・ジャズのマルシアックでの快演

<Jazz>

Brad Mehldau Trio 「SWEET AND LOVELY」
Live at Jazz In Marciac Festival , Marciac, France July 27, 2021
MEGADISC

Marciacfrance

Brad Mehldau : piano
Larry Grenadier : bass
Jeff Ballad : drums

 ブラッド・メルドー・トリオのつい先日7月27日のフランス・ライブ「ジャズ・イン・マルシアック」に出演した模様である。
 いっやーー、こうして即座に好録音CD(フランス公共ラジオ局「France Musique」の放送音源)で聴けるっていい時代になりました、ほんとに。そしてこの日の内容が又楽しいですね、スタンダードの名曲が多彩にそろって、大きな話題になったライブであったことがよく解ります。音質も悪くないので、私はオフィシャルものを決して否定するのでないが、最近の実験的要素の強いオフィシャルものよりは、実にこれぞジャズというところで、魅力に満ち満ちた演奏、しかも楽しくていいですね。これがブラッド・メルドーだと聴き逃せないアルバムだ。

Bradmehldautriolive

(Tracklist)

Diac-1
1.Great Day (P.Mccartney)
2.Moe Nonk (B.Mehldau)
3.Sweet And Lovely (T.Monk)
4.(B.Mehldau Announcement)
5.Valsa Brasileira (C.Buarque)
6.And I Love Her (Lennon/Mccartney)
7.Skippy(t.Monk)

Disc-2
1.The Nearness Of You (H.carmichael/N.Washington)
2.In The Still Of The Night(C.Porter)
3.Here's That Rainy Day (J.v. Heusen)
4.Aquelas Coisas Todas (T.Horta)

 Disc-1、オープニングのM1.M2.は、ポール・マッカートニーとメルドー自身の曲で、さあ今日は楽しくトリオで・・・と、言う雰囲気だ。
 そしてアルバム・タイトル曲となったセロニアス・モンクのM3."Sweet And Lovely"の登場。これがゆったりとしたブルージーな展開、聴きやすくそしてベースのピツチカートが響き、ドラムスのブラッシと息が合ったリズムに、ピアノの美旋律が乗ってくる。トリオ・ジャズそのものが楽しめる11分10秒。
 M5."Valsa Brasileira"は、いかにもブラジル・ムードを一層快適にリズム陣が乗り、メルドーのピアノがうねる波のようで快演。
   ビートルズのM6."And I Love Her"はメルドーは得意ですね。出だしは重いかと思いきやパーカッション的ドラムス奏法のラテンタッチのリズムに乗っての快演奏。いくつかのバージョンを持っていて、時により変化は自由自在なんですね。
 M7."Skippy"これぞ前半の締めに適したトリオによるスウィング・ジャズの極み。

Bradmehldautrio2016cmichaelwilsonw

  Disc-2が又良いです。スタートはM1."The Nearness Of You(あなたのそばに)"、しっとりバラード調で後半には変調してスウィングして楽しく、そして又しっとりと、そして美しいメルドーのピアノはなんとなく哀感も満ちていていいですね。最近ノラ・ジョーンズも歌っているとか、曲の最期はほぼソロ・ピアノで心に響く美旋律にうっとり。こうゆうのに私は弱いんです、13分40秒の演奏。
 続くM2."In The Still Of The Night"は一転して快調にとばして、バラードのシンバル音の速攻をバックに、メルドーの早弾きピアノ、グレナディアの早引きベースと、このコール・ポーターの名曲までサービス演奏。後半のドラムス・ソロもスリリングにしてダイナミックな高回転そしてピアノの登場の流れは快感で、いっやー、ジャズの楽しさ満開ですね(11分50秒)。
 なんと最期はM4."Aquelas"、サンバ調(?)の快速リズムが登場し、そこに誰もが解るメルドー流ピアノの流れが襲ってきて、気分が更に高揚して収める。

 いっやーー、やっぱりメルドーはトリオがいいですね。そしてこのトリオのこの日の流れがいいですね。これは絶対お勧めの快感盤。愛蔵盤が又増えた。

(評価)
□ 選曲・演奏 :   90/100
□   録音    :   82/100

| | コメント (4)

2021年6月18日 (金)

Brad Mehldau の試み == 「Suite: Aprill 2020」 「 VARIATIONS ON MERLANCHOLY THEME」

コロナ禍での世界観を描くソロとオーケストラとの競演と
対照的な二枚のアルバム

<Jazz>

Brad Mehldau 「Suite : April 2020」
Nonesuch / / Nonesuch 075597919288 / 2020

71jqyxczjxl_ac_slw

Brad Mehldau : piano

  前作『ファインディング・ガブリエル』(2019)がグラミーを受賞し、現代のジャズ界においては、最先端を行く人気ピアニストであるブラッド・メルドーの新型コロナウィルスのパンデミック下の2020年にリリースされたアルバム。これはオランダで家族とともに自粛生活を送っていた彼は、ロック・ダウン中、自分が今体験していることをもとにコロナ禍の世界を捉えた12の楽曲を作りあげ、更にそれらに加え彼個人にとって思い入れのある3曲を、アムステルダムのスタジオでレコーディングしたもの。

 現在のジャズ・シーンでのNO.1ピアニストのオリジナル曲ソロ演奏ということで、否が応でも当然注目された。当初配信リリースと限定アナログ盤リリースであり、その後9月にCDと通常盤アナログは世界同時で発売という形をとったが、これら売り上げの一部がJazz Foundation of America’s COVID-19 Musician’s Emergency Fund基金へと寄付されている。

(Tracklist)
Abradmehlw3_20210618144001 1.I. waking up / I.
2.II. stepping outside / II.
3.III. keeping distance / III.
4.IV. stopping, listening: hearing / IV.
5.V. remembering before all this / V.
6.VI. uncertainty / VI.
7.VII. - the day moves by - / VII.
8.VIII. yearning / VIII.
9.IX. waiting / IX.
10.X. in the kitchen / X.
11.XI. family harmony / XI.
12.XII. lullaby / XII.
13.Don't Let It Bring You Down
14.New York State of Mind
15.Look for the Silver Lining

 メルドーは、「世界中の誰もが経験したであろうことを捉えた音楽的スナップショットで、多くの人々が共通して、また新たに体験し、感じたことをピアノで描こうとした」と言っている。家族とともにNYから離れた地オランダで自粛生活を送っていた中での作品。このコロナウイルス禍に加え、2020年5月のジョージ・フロイドさんの白人警察官による殺害事件からの Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)運動で揺れる米国社会を見つめつつの彼の心が描かれていた作品。聴いてみて、しかしここまで彼の真摯な心の作品に浸れるとは思わなかったもの。
 M1."waking up"どこか優しい雰囲気でスタート。
 M3."keeping distance"は、不自然な形での離れた二人の理不尽な経験とか、M4." stopping, listening: hearing"は、コロナウイルス禍に加え新しい困難が発見された状況など描いたものとして評価された曲。
 M5."remembering before all this"は、今は数ヶ月前は遠い昔に思える困難に向かわざるを得ない状況と、M6."uncertainty"はそんな中での不安を表現。
 などなど・・・メルドーの心の表現なのであろう。実はやや内向的な世界ではあるが、全編に漂う人間としての誠実にして真摯な心での人間愛をここに聴けるとは思わなかった。それだけ驚きのアルバムだ。
 M13.、M14.、M15.の三曲は彼の人生を回顧するに、心に与えてくれた感謝の曲として演じられている。
 彼は、こんな不自然な世界であるが、一方家族に囲まれての時間が多く取れたこの時を大切にといった感謝も忘れては居ない。
 いずれにせよ、実際にこのコロナ禍での彼のフランスやドイツでのソロ・ライブも非常に優しいライブとなっている(参考:ドイツ・ライブ「MOERS 2021」)

(評価)
□ 曲・演奏 88/100
□ 録音   78/100

           *      *      *      *

<Jazz, Classic>

Brad Mehldau, Orpheus Chamber Orchestra
「VARIATIONS ON MERLANCHOLY THEME」
Nonesuch Records / / Nonesuch 075597916508 / 2021

Wnr075597916492

Brad Mehldau : piano
Orpheus Chamber Orchestra

Produced by Adam Abeshouse
Recorded,mixed,and mastered by Adam Abeshouse
Music composed by Brad Mehldau,published by Werther Musi (BMI)
Design and Illustration by Lawrence Azerrad

  ブラッド・メルドーのコロナ禍において上の『SUITE: APRIL2020』を昨年リリースした彼だが、それに続いての今年意欲作の登場だ。それもなんとジャズとクラシックの新たな融合を試みる。オルフェウス室内管弦楽団とのコラボレーション作品となるもので、”メランコリー”を主題として、クラシックの構成にジャズのハーモニーを導入したという代物。これもメルドーの探求心の一つとして知るべきものとして位置づけた。
 この曲は、ブラッド・メルドーがロシア出身のピアニスト、キリル・ゲルシュタインのために作曲したものと紹介されていて、本作ではオルフェウス室内管弦楽団とともに、オーケストラ・ヴァージョンを新たにレコーディングしたもの。アルバムには、主題(テーマ/Theme)と11の変奏曲(ヴァリエーション/variation)、カデンツァと後奏曲(ポストリュード/postlude)が収録されている他、”アンコール“として、「Variations X」と「Variation Y」の2曲も追加されている。

(Tracklist)
2058w 1.Theme
2.Variation 1
3.Variation 2
4.Variation 3
5.Variation 4
6.Variation 5
7.Variation 6
8.Variation 7
9.Variation 8
10.Variation 9
11.Variation 10
12.Variation 11
13.Cadenza
14.Postlude
15.Encore: Variations ""X"" & ""Y""

  メルドーとオルフェウス室内管弦楽団は、この作品でアメリカ、ヨーロッパ、そしてロシアをツアーし、2013年にはカーネギー・ホールでも演奏してきたんですね、そのあたり詳細は知らなかったが、この作品について彼は「もしブラームスが憂鬱な気分で目が覚めたらと考えてみたんだ」と語っているようだ。所謂このブラームスとメランコリーな世界というものが、どこから来たモノか解らないが、究極は単にそれに終わらない激しさも終末部では演じていて、そのあたりにももっと理解度を高めないと評価に難しい。
 どちらかというとクラシックものに聴けるし、ジャズとしてはちょっと私の感覚にはないものだ。序盤からのメランコリーというところだが、後半にはかなり高揚感もあってそれなりの仕上がりではあると思うが、クラシックとしてもちょっと中途半端な感覚になって、どうも私自身には大きなインパクトは無かった。メルドー・ファンがどのように理解しているか、むしろ知りたいところだ。

(評価)
□ 曲・演奏  80/100
□ 録音    80/100

(視聴)

*

| | コメント (6)

2021年6月 4日 (金)

ブラッド・メルドー Brad Mehldau 「MOERS 2021」

優しさ溢るるピアノ・ソロ・ライブ~~~これは愛聴盤だ

<Jazz>

(CD, DVD)
Brad Mehldau 「MOERS 2021」
Live at Festivalhalle, Moers,Germany / 2021

Moers20211

Brad Mehldau : piano

  今年つい先日の5月21日から5月24日まで、ドイツ、メールスで開催されたメールス・ジャズフェスティバルに出演したライブの模様を放送音源で収録した最新ライブが一週間という恐ろしいスピードでCD+DVDにて登場。
 最近の彼のアルバムはかなり前進的とみていいが、実験的要素があって若干私には馴染めないというか、聴き惚れる理解が難しいか、と言うところにあったが、昨年9月、パリにてビートルズ等のカバー曲を取上げたライブを行って、ジャズ界でも少々話題になったのであるが、今回はドイツで開催されたジャズ・フェスティバルにおけるライブで、パリ公演のようにカバー曲が中心だったと言うことで、我々にも馴染める演奏と期待していたところである。

Abradmehlw3 (Tracklist)

1.Karama Police(rediohead)
2.I Am The Walrus(lennon&mccartney)
3.Your Mother Shold Know(lennon&mccartney)
4.Don't Let It Bring You Down(neil young)
(5.Announcement)
6.Stellite(john coltrame)
7.Smoke Gets In Your Eyes(jerome kern)
(8.Announcement)
9.Remembering Before All This(brad mehldau)
10.Inchworm(frank loesser)
11.Go To Sleep (radiohead)
12.Golden Slumbers(inc, lennon/mccartney)

 セット・リストは上のように、レノン&マッカートニーをはじめ、レディオヘッドやジョン・コルトレーン、ニール・ヤングなどの曲をメルドー流の素晴らしい世界で奏でられている。又CDに収録されている音質に関しては聴いてみての驚きであるが、クオリティーはかなり高い(ただし残念なのは、M1とM2にはノイズが入っている)。これはDVD映像付きでの出で立ちで、こちらもマルチ・カメラによるプロショットで文句なしの安定した素晴らしい映像で、例の彼の左右の手の動きが克明に録画されていて納得。

Bradmehldauw

 冒頭のredioheadのM1."Karama Police"が、易しく美しいメロディーを流してくれて、久々のメルドーの演奏を安堵感で聴ける。
   続いてlennon&mccartneyの曲2曲と、Neil Youngの曲が続くも、メルドーのこと、彼の左右の手の演奏での二重奏様な単純な演奏ではないが、こちらも旋律が優しく響いてきて、私には格好の曲仕上げ。
 M6."Stellite"は、Coltraineとなると、いやが上にもその演奏の内容の複雑性が増してくる。この辺りは彼の腕のみせどころ。
 そしてM7."Smoke Gets In Your Eyes"へと、ぐっとムードは変わる。期待以上の情感の込められた演奏を聴かせてくれた。これも旋律を奏でる手が、左手→右手→左手→右手と変わっていくところが聴きどころでメルドー節が聴かれて嬉しい。
 そしてその哀感は彼自身の曲M9."Remembering Before All This"へとつながる。
 M10."Inchworm"は、久々に活発な演奏が展開し、M11."go to sleep"にて夢の世界に。
 最期のM12."Gorden Slumbers"は、心配事も忘れさせてくれる眠りの世界が展開して終わる。

 さすが、ライブであり、その時の描いた世界が一つの流れとして演じているところが素晴らしい。私にとっては、久々に非常に聴きやすく演奏してくれ、のめり込めたアルバムであつた。オフィシャルではないが私の愛聴盤となるのは必須。

(評価)
□ 選曲・演奏  90/100
□ 録音     85/100
□ 映像     85/100

(視聴)
まだ演奏会直後のアルバムで、映像がアップされていないため、これで・・・
(まもなく、映像が見られると思いますのでそれまでは)

*


 

| | コメント (2)

2020年7月 6日 (月)

ブラッド・メルドー Brad Mehldau 「Concert in Hannover 2020」

オーケストラとの圧巻の協演による・・・
メルドーの欧州伝統クラシックへの挑戦 (歴史的貴重盤登場)

<Classic>

Brad Mehldau,piano
Clark Rundell, conductor NDR Radiophilharmonie
「Concert in Hannover 2020」
HEADLESS HAWK / HHCD-20703 / 2020

Hannover2020

Bm1  ここに来て、コロナ渦への心象のアルバム『Suite:April2020』、そして先般の聴く方はあまり気合いが入らなかったアルバム『Finding Gabriel』と違って、本格的ジャズ・アルバム『Round Again』と発売が続くフラッド・メルドー(→)だが、今年2020年の一月に、ドイツにてのメルドーの古典派からロマン派音楽のクラーク・ランデル指揮によるNDRラジオフィルハーモニーとの共演ライブの模様を収録した最新ライブ盤がコレクター相手にリリースされている。
 つまり今やジャズ・ピアニスト世界ナンバー1とまで言われるブラッド・メルドーの驚きのヨーロッパ伝統クラシック音楽への挑戦だ。考えてみれば、2年前にはアルバム『アフターバッハ』では、バッハ曲のクラシック演奏に加えて、それをイメージしての彼自身のオリジナル曲を展開したわけで、クラシック・ファンにも驚きを持って歓迎されたわけで、そんなことから、今回のドイツでのこんな企画もさもありなんと思うのである。
 このコレクター・アルバムは、音質も期待以上に良好で、メルドー・ファンにとっては彼を語るには是非必要で内緒に持っていたい貴重盤になりそうだ。

 

(Tracklist)

1.Prelude No.10 In E Minor(The Well-Tempered Clavier, Book I), BWV 855 7:50
     「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 前奏曲とフーガ 第10番 ホ短調」   BWV 855
2.Concerto For Piano And Orchestra 1st Movement      14:17
3.Concerto For Piano And Orchestra 2nd Movement     12:12
4.Concerto For Piano And Orchestra 3rd Movement      12:30
        プレリュードBの後のプレリュード 10の短調
       「フーガの技法」BWV 1080から:コントラプンクトゥスXIX
        ヨハンセバスチャンバッハ/アントンヴェーベルン
       「音楽の捧げもの」BWV 1079/5から:フーガ(2nd Ricercata)

(Bonus Track) ライブ・アット・コンサートホール、ハノーファー、ドイツ 01/31/2020

5.West Coast Blues  /  Brad Mehldau Trio

Mehldau102_vvierspaltig_20200705162301

Rundell100w_20200705162301   やっぱりスタートは、バッハの楽曲「「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 前奏曲とフーガ 第10番 ホ短調」」からで、クラークランデル(→)の指揮によるこのオーケストラ(NDR-Radiophilharmonie 右下)にメルドーのピアノが融合というか協演というか素晴らしい刺激的演奏が展開する。しかもこのアルバムはコレクターものではあるが、放送音源を収録しているもので、所謂オーディエンス録音モノとは異なり、プロ収録でクリアな迫力のある音が聴ける。
 パターンはピアノ協奏曲スタイルであって、この録音はオーケストラ自身のそれぞれの音の分離もよく、更にメルドーのピアノは中央にはっきりクリアーに聴ける録音となっていてファンにはたまらない。

Radiophilharmonie206w_20200706171201

 M3."Concerto For Piano And Orchestra 2nd Movement"は、素晴らしい勢いを描いて演奏され展開するが、管楽器群の高揚をメルドーのピアノがそれをきちっとまとめ上げるが如く響き渡り、それを受け手のストリングスの流れが美しい。普段のジャズの響きとは全く異なったメルドーのピアノ迫力の音に圧倒される。一部現代音楽的展開もみせるところが、なんとメルドーのピアノによってリードしてゆくところが快感。ちょっとショスタコーヴィッチを連想する演奏にびっくり。
   M4."Concerto For Piano And Orchestra 3rd Movement"は、ストリングスのうねりが納まると、ほぼソロのパターンでピアノがやや強めの打鍵音でゆったりしたテンポで響き次第に落ち着く中にホルンが新しい展開を、そして再びストリングスの美しい合奏とコントラバスのひびき、ハープの美音、それを受けてのメルドーの転がるようなピアノの響きを示しつつも次第に落ち着いたメロディーに繋がってゆく。
 こうゆうクラシック・スタイルの評価には何の術もない私であって、感想も至らないのだが、そこにみるメルドーのジャズにおける音との違いがくっきりとしてこれを一度はファンは聴いておくべき処だろう。
 
 なお、このアルバムには、ブラッド・メルドー・トリオが最近よく演奏する曲"West Coast Blues"がボーナス収録されている。こちらは録音はそう期待できないが、演奏の内容はそれなりに楽しい。

 2年前にリリースされた名作『アフター・バッハ』の成功により、クラシック畑からも絶賛を浴びたことで彼の多様なピアノ・スタイルは絶好調だ。今回、ドイツで行われたクラシック・ライブも彼にとっては更なる充実の一歩になることは間違いないところだ。

(評価)
□ 演奏 90/100 
□ 録音 85/100

(視聴)

 現在、このHannoverのライブ映像は、見当たらないので「アフターバッハ」を載せます

 

| | コメント (6)

2019年8月22日 (木)

ブラッド・メルドー2019年ライブ Brad Mehldau Trio 「HYOGO 2019」「LIVE IN UTRECHT 190510」

[2アルバム鑑賞] 
相変わらずのハイテクニック・プレイに満ち満ちて

<Jazz>

(日本ライブ) 
BRAD MEHLDAU TRIO  「HYOGO 2019」

MBFADISC / 2019
 
1_20190814163801

Brad Mehldau (p)
Latty Grenadier (b)
Jeff Ballard (d)
Live at Kobelco Grand Hall, Nishinimiya, Hyogo, Japan May30,2019

(Tracklist)
(Disc-1)
1.For David Crosby
2.Spiral
3.De-Dah
4.Backyard
5.From This Moment On 

(Disc-2)
1.Where Do You Start
2.Tenderly
3.Count Down
4.Cry Me A River
5.Monk's Dream

220234_10151138634512311w

 7年ぶりにトリオで来日したブラッド・メルドーのライブより、その初日となった5月30日の兵庫県立芸術文化センターでのライブをアンコールの3曲をも含んだ全曲収録盤。オーディエンス録音と思われるが三者の音はややホール感が大きいとはいえ、それなりにクリアに収録されている。スティックやシンバル音もきちんと入っていて聴き応えは悪くない。

 東京国際フォーラム公演とは演じた曲は異なっている。エルモ・ホープのM1-3."De-Dah"やコール・ポーターのM1-5"From This Moment On"、コルトレーンのM2-3"Count Down"などスタンダード名曲がメルドー流の解釈でトリオ演奏。なお若干難解だった近作アルバム「Seymour Reads The Constitution!」(2018)からは"Spiral", "De-Dah"の2曲と言うことになる。
 収録は当日の全曲。私にとってはむしろDisc-2が大歓迎。なじみ深いM2-1"Where Do You Start"が素晴らしいバラードにて迫ってくる(11:45)。
 M2-2"Tenderly"は、やはりメルドーの手にかかると一味も二味も違う、思いのほかハイテンポで中盤から後半は"Tendery"のメロディのニュアンスは残しつつも、アドリブをたっぷり楽しませてくれて、ム-ドをしっかり味合わせてくれる(9:25)。
 M2-4"Cry Me A River"がいいですね。この曲は好きで多くのミュージシャンの演奏を聴いているが、やっぱりメルドーは凄いですね。彼の手にかかると、今まで聴いてきた曲から彼独特のジャズに大変身(4:40)。
 この日のラスト・ナンバーはセロニアス・モンクの代表作であるM2-5."Monk's Dream"が披露され幕を閉めている。

(評価)

□   曲・演奏 ★★★★★☆ 
□ 録音        ★★★★☆☆  

                               - - - - - - - - - - - - - -

<Jazz>

BRAD MEHLDAU TRIO 「LIVE IN UTRECHT 190510」
HEADLESS HAWK / HHCD-19589 / 2019

2_20190814163901

Brad Mehldau (p)
Latty Grenadier (b)
Jeff Ballard (d)
Live at Hertz Zaal,Tivoli,Utrecht,Netherlands May.10.2019 EX-AUD 2019 Original Remaster 90 min

(Tracklist)
(Disc-1) 
1. Twiggy
2. Hormer Hope
3. Ode
4. Unknown
5. Countdown

(Disc-2) 
1. When I Fall in Love
2. Unknown / encore
3. Unknown
4. Cry Me A River

Bradmehldautrio702x336

 ニュー・アルバムを発表した直後ののブラッド・メルドー、待望のトリオでの来日直前であったオランダ・ユトレヒト・チボリ・ハーツ・サドルに於ける2019年5月10日のライヴ盤
 このレーベル独自のマスタリングを施したものと言うことだが、まあこのタイプとしては高音質といえるステレオ・サウンド(上の日本ライブものと音質は似ているがやや劣るか)にて、アンコール2曲まで1時間半に渡り完全収録した2枚組である。同じ5月であるが演奏曲目はかなり違いがある。

 昨年リリースしたニュー・アルバムからのメルドーのオリジナル作品を演じ、カヴァーなど多数の楽曲を演奏している。メルドーの自他共に許す卓越したテクニックで、長年に渡り活動を共にしてきたグレナディアとバラードとのトリオで呼吸はピタリと合っている。とにかく繊細な流れるようなピアノの音から、三者のアンサンブルも見事である。こうしたハイレベル・トリオを堪能するにはDisc-1全曲が聴きどころ。
  しかし、こちらのライブ盤も私的にはDisc-2の方が好みなんですが・・・とにかくM2-1."When I Fall In Love"は、しっとり演奏の極みですね。M2-2.は曲名不明なるも攻撃的なバラードのドラムスが聴きどころで、スリリングな展開。そしてやはりメルドー世界化したM2-4."Cry me River"は感服の世界。

 ブラット・メルドーの今年の2ライブ・アルバムを聴いてみた。やはりライブのトリオは、それなりに演ずるところ気合いが入っていて頼もしい。こうした盤もライブ参加できなかった私にとっては貴重である。

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★★☆
□ 録音    ★★★☆☆

(試聴)

 

| | コメント (4)

2018年11月15日 (木)

チャリー・ヘイデンとブラッド・メルドーのデュオ作品登場 Charlie Haden & Brad Mehldau 「LONG AGO and FAR AWAY」

まさに優しさあふるる最高アルバムだ

<Jazz>
Charlie Haden & Brad Mehldau 「LONG AGO and FAR AWAY」
Impulse! / International / 678 950 0 / 2018
61jql983hw
Charlie Haden : Bass
Brad Mehldau : Piano

Recorded at The Christuskirche in Mannheim, Germany on Nov. 5. 2007
 
    2014年に逝去した多くに愛されたベーシスト、チャーリー・ヘイデンCharlie Haden(1937.8.6-2014.7.11)と、今や現代ジャズ・ピアノの最高峰であるといわれるブラッド・メルドーBrad Mehldauとの2007年の初デュオ・ライヴのアルバムが登場した。プロデュースを見ると案の定ヘイデンの妻のRuth CameronとBrad Mehldauの名が連なっていて、そこにはこのアルバムをリリースする良好な関係が窺い知れるのである。

 これは2007年のドイツ・フェスティバルの一環として行われたライブ。それは教会でのステージを収録されたものらしい。そのためか全曲、とにかく優しさ溢るる演奏だ。もともとヘイデンの流れは何時も優しさに溢れているのだが、メルドーとここまで優しいアルバムを作ってくれて喜んでいるのである。

Gettyimages169795131w(Tracklist)
1.Au Privave
2.My Old Flame
3.What'll I Do
4.Long Ago And Far Away
5.My Love And I
6.Everythings Happens To Me






 1993年ヘイデンがメルドーの演奏を観て気に入ったことから話は始まったようで、二人は1996年にリー・コニッツとのトリオ『Alone Together』(BlueNote)、2011年にはポール・モチアンが入ったトリオで『Live At Berland』(ECM)の二枚のライブ版を録音している。
 そしてメルドーとの初のデュオ演奏が2007年に実現し、それがこのライブ盤だ。
 とにかく聴くが一番という素晴らしいアルバム。教会といってもそう大きなところではなさそうで、非常に親密なるムードでの二人の対演を納得の世界で堪能できる。
                                                                                       *
Zblqyk6d_400x400_2 近年のメルドーの作品は、名手であるだけに若干難解になりつつ在るのだが、このアルバムはヘイデンに敬意を表しつつのヘイデンの地に着いた優しさと人間愛をサポートしてのメルドーの美しいピアノの音を優しく散りばめている。
 M1."Au Privave"と、アルバム・タイトル曲M4."Long Ago And Far Away"は、やはり彼らのフリー・ジャズのニュアンスを演じてはいるが、しかしけっして乱れること無く、説得力のあるピアノとベースのデュオ作品となっている。
 一方M2."My Old Flame"M3."What'll I Do"では、優しくメロディアスで美しい両者の演奏には心も洗われる。
 そしてM5."My Love And I"となると、メルドーの優しく美しいメロディーが流れ、中盤からはこれまた心が安まるヘイデンのベースが響き、それを弱音で澄んだ音での美しいピアノがサポートとしてゆく。この流れはもう何も語る必要の無い安堵の世界。そして最後はベースの最弱音で終わる。
 M6."Everythings Happens To Me"も、教会とは言えこの安らぎ感は最高峰。

 晩秋に素晴らしいアルバムが届いた。

(評価)
□演奏 : ★★★★★
□録音 : ★★★★★☆

(My Image Photo)
Img_1313w
at IIZUNA-KOGEN on Nov.2018

(試聴)

| | コメント (8) | トラックバック (3)

その他のカテゴリー

Audio CLASSIC Progressive ROCK アイオナ アガ・ザリヤン アダム・バルディヒ アデル アメリカン・ジャズ アヤ アレクシス・コール アレッサンドロ・ガラティ アンジェイ・ワイダ アンナ・グレタ アンナ・マリア・ヨペク アンヌ・デュクロ アヴィシャイ・コーエン アーロン・パークス イエス イタリアン・プログレッシブ・ロック イメルダ・メイ イモージェン・ヒープ イリアーヌ・イリアス イーデン・アトウッド ウィズイン・テンプテーション ウォルター・ラング エスビョルン・スヴェンソン エスペン・バルグ エミリー・クレア・バーロウ エミール・ブランドックヴィスト エレン・アンデション エンリコ・ピエラヌンツィ エヴァ・キャシディ オルガ・コンコヴァ カティア・ブニアティシヴィリ カレン・ソウサ ガブレリア・アンダース キアラ・パンカルディ キャメル キャロル・ウェルスマン キング・クリムゾン キース・ジャレット クィダム クレア・マーティン グレッチェン・パーラト ケイテイ・メルア ケイト・リード ケティル・ビヨルンスタ コニー・フランシス コリン・バロン ゴンザロ・ルバルカバ サスキア・ブルーイン サラ・ブライトマン サラ・マクラクラン サラ・マッケンジー サンタナ サン・ビービー・トリオ ザーズ シェリル・ベンティーン シゼル・ストーム シネイド・オコナー シモーネ・コップマイヤー シャイ・マエストロ ショスタコーヴィチ シーネ・エイ ジェフ・ベック ジャック・ルーシェ ジョバンニ・グイディ ジョバンニ・ミラバッシ ジョルジュ・パッチンスキー スザンヌ・アビュール スティーヴン・ウィルソン スティーヴ・ドブロゴス ステイシー・ケント ステファン・オリヴァ スノーウィ・ホワイト スーザン・トボックマン セバスチャン・ザワツキ セリア セルジオ・メンデス ターヤ・トゥルネン ダイアナ・クラール ダイアナ・パントン ダイアン・ハブカ チャンピアン・フルトン チャーリー・ヘイデン ティエリー・ラング ティングヴァル・トリオ ディナ・ディローズ デニース・ドナテッリ デヴィット・ギルモア デヴィル・ドール トルド・グスタフセン ドリーム・シアター ナイトウィッシュ ニコレッタ・セーケ ニッキ・パロット ノーサウンド ハービー・ハンコック バンクシア・トリオ パスカル・ラボーレ パトリシア・バーバー ヒラリー・コール ビル・エヴァンス ビル・ギャロザース ピアノ・トリオ ピンク・フロイド フェイツ・ウォーニング フランチェスカ・タンドイ フレッド・ハーシュ ブッゲ・ヴェッセルトフト ブラッド・メルドー ヘイリー・ロレン ヘルゲ・リエン ペレス・プラード ホリー・コール ボボ・ステンソン ポーキュパイン・ツリー ポーランド・プログレッシブ・ロック ポール・コゾフ マッツ・アイレットセン マツシモ・ファラオ マティアス・アルゴットソン・トリオ マデリン・ペルー マリリオン マルチン・ボシレフスキ マーラー ミケーレ・ディ・トロ ミシェル・ビスチェリア メコン・デルタ メッテ・ジュール メラニー・デ・ビアシオ メロディ・ガルドー モニカ・ボーフォース ユーロピアン・ジャズ ヨアヒム・キューン ヨーナス・ハーヴィスト・トリオ ヨーナ・トイヴァネン ラドカ・トネフ ラーシュ・ダニエルソン ラーシュ・ヤンソン リサ・ヒルトン リズ・ライト リッチー・バイラーク リリ・ヘイデン リン・エリエイル リン・スタンリー リヴァーサイド リーヴズ・アイズ ルーマー レシェック・モジュジェル ロジャー・ウォーターズ ロバート・ラカトシュ ロベルト・オルサー ローズマリー・クルーニー ローレン・ヘンダーソン ヴォルファート・ブレーデローデ 中西 繁 写真・カメラ 北欧ジャズ 問題書 回顧シリーズ(音楽編) 女性ヴォーカル 女性ヴォーカル(Senior) 女性ヴォーカル(ジャズ2) 女性ヴォーカル(ジャズ3) 寺島靖国 戦争映画の裏側の世界 手塚治虫 文化・芸術 映画・テレビ 時事問題 時代劇映画 波蘭(ポーランド)ジャズ 相原求一朗 私の愛する画家 私の映画史 索引(女性ジャズヴォーカル) 絵画 趣味 雑談 音楽 JAZZ POPULAR ROCK SONYα7