エル ELLE 「ESTATE」
ガラーティ・トリオと女性ヴォーカル(エル)の第3弾
<Jazz>
ELLE 「ESTATE」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1131 / 2025
Elle (vocal)
Alessandro Galati (piano)
Ares Tavolazzi (bass)
Bernardo Guerra (drums)
Recorded at Larione 10 studio, Florence, on March,2024
寺島靖国氏のお勧めイタリアの女性ヴォーカリストのELLE(→)のアルバム日本第3弾。私としてはバックがAlessandro Galati Trioで、タイトル曲が"Estate"とくれば買わざるを得なかったアルバム。そしてしばらく別のアルバムに現を抜かしていたので、ちょっと遅れて取り上げた。
何故か、イタリアの夏の恨み節であるBruno Martinoの"Estate"は、私がジャズ・ヴォーカルものとしては片手の指に入る好きな曲で、既に女性ヴォーカルものとしては20曲ぐらいは押さえているものだ。最近はヴァレリー・グラシェールの歌に圧倒されたが、このアルバムの歌うはエルはイタリアではキャリアはそれなりにあるのだが、どうなんだろうか、そんなに日本では話に登らない歌手だが、Galatiが目を付けたというのでそれなりにと思って聴いている歌手である。既に3作目なので感じは解っているが、まあそれなりにと思いつつ、ちょっと興味を持って聴いたという処だ。
エルElleは(本名ルクレツィア・フォン・ベルガーLucrezia von Berger)は、1997年からローマでマエストロ・イザベラ・ブロジーニ(合唱指揮者)にオペラ歌唱を学び、その後ローマのポリフォニック合唱団「カントーレス」でリード・シンガー(ソプラノ)として活動。 その後ジャズへの転機は2000年からで、フィレンツェのジャズ・トリオ「レディ・シングス・ザ・ブルース」のリード・シンガーとして約15年間。 他のジャズ・ミュージシャンとの共演も多い。 歌手のほかギターの演奏にも力を注いで、2003年にはボサノヴァの歌と歌詞を作曲。2003年、フィレンツェのプロデューサー、マルコ・ラミオーニと出会い、ラウンジ・ミュージックやボサノヴァのプロジェクトに参加。 その後ヘクトール・ザズーに出会い、2004年に彼のCD『L'absence』に収録された「Eye Spy」に起用された。 2005年には、ラミオーニとのラウンジ・トリオ「アクアラマ」プロジェクトでコラボレートし、様々なコンピレーションから楽曲をリリースしている。既にジャズ経歴も二十数年のキャリア。
(Tracklist)
1. Estate
2. Misty
3. The Moon Was Yellow
4. I'm Through with Love
5. My One and Only Love
6. Fly Me to the Moon
7. Round Midnight
8. Stars Fell on Alabama
9. The Thrill Is Gone
10. We Will Meet Again
私の注目のアレッサンドロ・ガラーティに見出されて日本レコーディング・デビューを果たしてからもう5年余り経ち、イタリアの実力派歌姫のエルの、A・ガラーティ・トリオの全面バックアップを得ての三作目。録音関係ではミックス、マスターもガラーティの手によるものでなかなか音質も良好。寺島靖国の世界に属するアルバムでオーディオ的にも良い線を行っている。
さて、女性ヴォーカルものなので、気になるのは彼女の声と歌い方だが、ダイアナ・クラール、メロディ・ガルドー、クレア・マーチンなどがOKの私にとって、なんかちょっともろ手を挙げて大歓迎という処には行かないところがある。「低音の落ち着いた安定感と高音のしなやかな張りや爽涼さの兼ね合いも絶妙のクリーン・ヴォイス」とか、「リキみの抜けた自然体調子を保ちつつ誠心こめて丁寧に情感を活写する柔和でムーディーな歌い回しが、堂々たる練達を感じさせる冴えを、キレを見せて爽快だ」更に「絹が触れ合うような繊細かつ豊かな歌声で人々を魅了する」などなど・・・好評なのだが、なにか私的にジャズ・ヴォーカルとしてどっぷりつかるには抵抗があるのだが、どう表現してよいか難しくそんな表現にしておくが、そんなところを参考にしてほしい。
注目のM1." Estate"だが、これぞジャズ・ヴォーカル曲といってもイタリア産であるので、彼女も過去に歌い込んできているのではと思うところで、バックと言うか導入は優しいピアノの響きにベースが乗り、ステックの音がクリアに聴きとれ、次第にガラーティの繊細なピアノが見事なアドリブの世界で支え、おもむろに彼女の美声の世界が始まる。なんとなくねちこいイタリア語の歌はこの曲の本質なのかもしれないが、中低音が響きのいい声だ。若干高音部の質がジャズとしての味がちょっと抵抗がある。
まあしかし無難に歌い上げているのは事実で、経験豊かな世界を感ずる。M4."Misty"も注目したが編曲はなかなかガラーティらしいスロー・ペ-スの中に微妙な味付けがされたもので、静かなピアノとベースの即興的なアドリブの世界がいいが、どうも彼女の高音歌唱が異質に聴こえてくる。この辺りはいい悪いでなく、やはり好みであろうと思う処。
M9."The Thrill Is Gone"あたりが良かったような気がする。
しかし全体には良く出来たアルバムと評価したい。バックのピアノ・トリオもアメリカン・リリカル路線のニュアンスも忘れずにしっかり描いていて洒落ている。そんなところで聴き応えある。
(評価)
□ 歌・演奏 87/100 (演奏88, 歌86)
□ 録音・音質 88/100
(試聴)
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