アレッサンドロ・ガラティ

2025年3月 8日 (土)

エル ELLE 「ESTATE」

ガラーティ・トリオと女性ヴォーカル(エル)の第3弾

<Jazz>

ELLE 「ESTATE」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1131 / 2025

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Elle (vocal)
Alessandro Galati (piano)
Ares Tavolazzi (bass)
Bernardo Guerra (drums)

Recorded at Larione 10 studio, Florence, on March,2024

 

Eytoggwoaiaszw   寺島靖国氏のお勧めイタリアの女性ヴォーカリストのELLE(→)のアルバム日本第3弾。私としてはバックがAlessandro Galati Trioで、タイトル曲が"Estate"とくれば買わざるを得なかったアルバム。そしてしばらく別のアルバムに現を抜かしていたので、ちょっと遅れて取り上げた。
 何故か、イタリアの夏の恨み節であるBruno Martinoの"Estate"は、私がジャズ・ヴォーカルものとしては片手の指に入る好きな曲で、既に女性ヴォーカルものとしては20曲ぐらいは押さえているものだ。最近はヴァレリー・グラシェールの歌に圧倒されたが、このアルバムの歌うはエルはイタリアではキャリアはそれなりにあるのだが、どうなんだろうか、そんなに日本では話に登らない歌手だが、Galatiが目を付けたというのでそれなりにと思って聴いている歌手である。既に3作目なので感じは解っているが、まあそれなりにと思いつつ、ちょっと興味を持って聴いたという処だ。

 エルElleは(本名ルクレツィア・フォン・ベルガーLucrezia von Berger)は、1997年からローマでマエストロ・イザベラ・ブロジーニ(合唱指揮者)にオペラ歌唱を学び、その後ローマのポリフォニック合唱団「カントーレス」でリード・シンガー(ソプラノ)として活動。 その後ジャズへの転機は2000年からで、フィレンツェのジャズ・トリオ「レディ・シングス・ザ・ブルース」のリード・シンガーとして約15年間。 他のジャズ・ミュージシャンとの共演も多い。 歌手のほかギターの演奏にも力を注いで、2003年にはボサノヴァの歌と歌詞を作曲。2003年、フィレンツェのプロデューサー、マルコ・ラミオーニと出会い、ラウンジ・ミュージックやボサノヴァのプロジェクトに参加。 その後ヘクトール・ザズーに出会い、2004年に彼のCD『L'absence』に収録された「Eye Spy」に起用された。 2005年には、ラミオーニとのラウンジ・トリオ「アクアラマ」プロジェクトでコラボレートし、様々なコンピレーションから楽曲をリリースしている。既にジャズ経歴も二十数年のキャリア。

(Tracklist)
1. Estate
2. Misty
3. The Moon Was Yellow
4. I'm Through with Love
5. My One and Only Love
6. Fly Me to the Moon
7. Round Midnight
8. Stars Fell on Alabama
9. The Thrill Is Gone
10. We Will Meet Again

 私の注目のアレッサンドロ・ガラーティに見出されて日本レコーディング・デビューを果たしてからもう5年余り経ち、イタリアの実力派歌姫のエルの、A・ガラーティ・トリオの全面バックアップを得ての三作目。録音関係ではミックス、マスターもガラーティの手によるものでなかなか音質も良好。寺島靖国の世界に属するアルバムでオーディオ的にも良い線を行っている。
 さて、女性ヴォーカルものなので、気になるのは彼女の声と歌い方だが、ダイアナ・クラール、メロディ・ガルドー、クレア・マーチンなどがOKの私にとって、なんかちょっともろ手を挙げて大歓迎という処には行かないところがある。「低音の落ち着いた安定感と高音のしなやかな張りや爽涼さの兼ね合いも絶妙のクリーン・ヴォイス」とか、「リキみの抜けた自然体調子を保ちつつ誠心こめて丁寧に情感を活写する柔和でムーディーな歌い回しが、堂々たる練達を感じさせる冴えを、キレを見せて爽快だ」更に「絹が触れ合うような繊細かつ豊かな歌声で人々を魅了する」などなど・・・好評なのだが、なにか私的にジャズ・ヴォーカルとしてどっぷりつかるには抵抗があるのだが、どう表現してよいか難しくそんな表現にしておくが、そんなところを参考にしてほしい。

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 注目のM1." Estate"だが、これぞジャズ・ヴォーカル曲といってもイタリア産であるので、彼女も過去に歌い込んできているのではと思うところで、バックと言うか導入は優しいピアノの響きにベースが乗り、ステックの音がクリアに聴きとれ、次第にガラーティの繊細なピアノが見事なアドリブの世界で支え、おもむろに彼女の美声の世界が始まる。なんとなくねちこいイタリア語の歌はこの曲の本質なのかもしれないが、中低音が響きのいい声だ。若干高音部の質がジャズとしての味がちょっと抵抗がある。
 まあしかし無難に歌い上げているのは事実で、経験豊かな世界を感ずる。M4."Misty"も注目したが編曲はなかなかガラーティらしいスロー・ペ-スの中に微妙な味付けがされたもので、静かなピアノとベースの即興的なアドリブの世界がいいが、どうも彼女の高音歌唱が異質に聴こえてくる。この辺りはいい悪いでなく、やはり好みであろうと思う処。
  M9."The Thrill Is Gone"あたりが良かったような気がする。

 しかし全体には良く出来たアルバムと評価したい。バックのピアノ・トリオもアメリカン・リリカル路線のニュアンスも忘れずにしっかり描いていて洒落ている。そんなところで聴き応えある。

(評価)
□ 歌・演奏   87/100  (演奏88, 歌86)
□ 録音・音質  88/100

(試聴)

 

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2024年12月29日 (日)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.2 & vol.3」

展望感ある美の展開(Vol.2)と、哀愁の美旋律世界(Vol.3)

<Jazz>

Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.2」
(SACD) Terashima Records / JPN / TYR-1122 / 2024

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Alessandro Galati (piano)
Ares Tavolazzi (bass)
Bernardo Guerra (drums)

Recording at Larione 10 studio, Florence
Mix & Mastering :Stefano Amerio (Artesuono Recording Studios)

357719389_739887534809624_30966376199430   前回紹介の寺島レコードからの抒情性豊かなアレッサンドロ・ガラティ・トリオのスタンダード演奏集3作の第2巻である。

(Tracklist)

1 Stella by Starlight
2 All the Things You Are
3 I Remember Clifford
4 My Romance
5 Someone to Watch Over Me
6 Lament
7 Old Folks
8 Body and Soul

  こちらも、アレッサンドロ・ガラティが「相互作用とプロフェッショナリズムの面で最高の結果を出すために最高のミュージシャンを選びました」と語る同一メンバーにての8曲。やっぱりCD盤としては収録曲が少々少ない。寺島氏に言わせると、曲数を多く収録すると一曲一曲の聴く方の集中力が落ちて、その良さが少し落ちてしまうので、2枚のアルバムで良かったものを3枚にしたと言うが、どうもそのあたりは「?」で、おそらく当初は2枚組のアルバム一つと考えていたのではと、疑ってしまう。いよいよここに来て商業主義もちらっと頭を上げたのか(笑)、はたまたLPリリースの為か、なんと3枚盤で計23曲とした感じだ。おそらく2枚組としたら購入する方はもう少し安上がりだったのではと、ちょっと苦言を呈したい。

  アレッサンドロ・ガラティについては(過去の作品等)、こちらへ→http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/cat54938545/index.html

 まあ、それはさておき、この2巻目は、日没後の夜になんとなく哀愁を湛えながらも、夜の帳を下ろした後の期待感を感じさせるM1."Stella by Starlight"から始まり、M2."All the Things You Are"、M4."My Romance"などは、人生の楽しさすら感じさせるガラティがちょっと弾んだ世界だ。なるほど、2巻目はそんな意味付けを大切にしている。そしてガーシュウィンのM5."Someone to Watch Over Me"になって、ぐっと真摯な誠実な世界の美を感ずる。    
  M6."Lament"でも、ピアノ奏でる流れはインプロの自由が主体で、そしてベース・ソロが続き、高揚感の演奏が演じられる。

  この3作でも、この2巻目は、かなりプラス思考の展開の美が演じられている。

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<Jazz>

Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.3」
(SACD) Terashima Records / JPN / TYR-1123 / 2024

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Alessandro Galati (piano), Ares Tavolazzi (bass), Bernardo Guerra (drums)

(Tracklist)

1 The Old Country
2 Last Tango in Paris
3 I'll Be Seeing You
4 My Old Flame
5 I'm Glad There Is You
6 Never Let me Go
7 Russian Lullaby

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  最後の第3巻は、寺島靖国がライナーノーツを書いているが、このところ彼の力でガラティに、ヨーロピアン・トラッドを集めた『European Walkabout』(TYR-1100,2022)、ジョビンの名曲を集めたボサノヴァ作品『Portrait in Black and White』(TYR-1109,2022)などのアルバム作成をさせてきたというのは、私にとっては嬉しいことで、ここにスタンダード集をピアノ・トリオでのバラッド中心演奏として聴かせてくれて、これも大きな功績だと評価する。近年、コロナ禍によってミュージシャンの活動低下は顕著で、アルバム・リリースも減少していた中での快挙である。

 さてこの最後の第3巻は寺島靖国節を高揚させたM1."The Old Country"だが、確かに出来がいいですね、やや暗めのイントロによる入りが文句なく私はこの世界に導かれ、微妙な主旋律を聴いて暗さでない美を感じさせるところが憎い。ベースの語りを織り込む流れもうまい。
 M3."I'll Be Seeing You"においてもベースの聴かせどころをちゃんとおいて、美旋律へ繋げるところの哀感への誘いが心憎い。
 M4."My Old Flame"のピアノのゆったりとした旋律の間と、ドラムスのブラッシングとシンバルの音の入りの微妙な関係が、これぞトリオ・バラードと言えるものだ。そしてM5."I'm Glad There Is You"の聴きなれたメロディーで、ほっとさせるのである。

 この最後の第3巻は確かに寺島世界を知らしめられた感じで、それはガラティがその急所をとらえるセンスの素晴らしさの結晶でもある。いずれにしても今年最後の長い夜のこの時に、これを提供してくれたことをこのうえ無く喜んでいるのである。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    92/100
□   録音       :    90/100

(試聴)

(今年最後のご挨拶)
 今日は今年最後の日曜日ですね、例年になく冬型の天気が続き、我が信州は毎日のように雪が舞い落ちてきます。今年は皆さまは如何な年であったでしょうか?。何かと実りの多かった方々は良かったですね、私自身は何とか無難に過ごせたことで喜んでおります。災害の多い年でしたので、それに遭遇された方々は、是非無事に立ち上がって、来る令和7年は佳い年でありますよう祈念いたします。

 当ブログは、今年は今日が最後となります、いろいろと有難うございました。2006年から私自身の備忘録としてスタートして20年続いてきました。取り上げた音楽アルバムも膨大になってしまってます。更に音楽を愛してゆきたいと思いますが、その他にもまだまだアプローチしたいと思ってますので、来る年も頑張りの年として迎えたいと思って居るところです。ご指導ください。皆様には佳い新年をお迎えになられますように。

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2024年12月25日 (水)

アレッサンドロ・ガラティAlessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.1」

イタリアン・リリシズムの叙情感溢るる演奏でのスタンダード集3巻の第1巻

<Jazz>

Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.1」
SACD / Terashima Records / JPN / TYR-1121 / 2024

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Alessandro Galati アレッサンドロ・ガラティ (piano)
Ares Tavolazzi アレス・タヴォラッツィ (bass)
Bernardo Guerra ベルナルド・グエッラ (drums)

Mixed, Mastered by Stefano Amerio (Artesuono Recording Studios - Cavalicco(Udine), Italy)

Imagesw_20241224220201   我が愛するイタリアの個性派ピアニスト:アレッサンドロ・ガラーティ(1966年イタリアのフィレンツェ生まれ、→)のトリオ編成によるスタンダード曲の演奏集、3部作シリーズの第1弾。これは近年ガラティの演奏に熱心にアプローチしている寺島靖国氏の自己のレーベルTERASHIMA RECORDSからの「Plays Standards」シリーズでここに来て一気にVol.1,2,3と3作がリリースされたのだ。とにかく私のユーロでも注目の長く愛聴してきたアレッサンドロ・ガラティのピアノ演奏であり、これは見過ごせないと一気に3作購入した。

  私がこのアレッサンドロ・ガラティに注目したのは、ここでは何時も話に出てくるアルバム『TRACTION AVANT』(VVJ007, 1994)以来である。イタリア独特の歌心があり、ジャズの基本的スイング感をしっかり基礎に演じ、しかも米国の伝統的なブルース感覚やバップ・スピリットもしっかりと持っている。更にどことなく人情的な哀感のメロディーを重んじて、ヨーロピアンらしい詩的な世界をエレガンスな味わいもある上に、エヴァンス世界に通ずるところも彷彿とさせるところがあって、とにかくイタリアらしい粋なところが更にあって気に入ってしまうのだ。かっては澤野工房がアルバムのリリースに熱心であったが、近年は寺島靖国氏の手に移って、このTerashima Recordsから、各種リリースさて来ている。(詳細はこちら→http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/cat54938545/index.html)
  そしてトリオ・メンバーとして気心の知れたアレス・タヴォラッツィ (bass 下左)、 ベルナルド・グエッラ (drums 下右)が起用されている。

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 なお、このアルバムは、寺島靖国らしく、サウンドにも気を使い録音ミックス・マスターに名手ステファノ・アメリオが起用されており、SACDの高音質盤としてリリースされているところも、私が飛びつく一つの因子である。

(Tracklist)

1. I'll Close My Eyes
2. Blue Bossa
3. I Fall In Love Too Easily
4. You And The Night And The Music
5. In Love In Vain
6. But Not For Me
7. You Don't Know What Love Is
8. How Deep Is The Ocean

 このように収録は若干CDとしては少ない8曲、そしてスタンダードと言えども、意外に私の知らない曲もあるのだが、基本的には有名曲でこのアルバムは構成されていた。そして寺島氏からの要求があったのか、ガラティには好きに演らせると、意外にアヴァンギャルドというか現代的な演奏の流れも登場させるのだが、そんな面は抑えられていて、どっちかと言うと日本人のリリカル好きに向きながら、優しさと優美さと親近感ある展開に納めている。

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 いずれにしても3部作となると、冒頭の曲がかなり注目するが、ここでは知れたるBilly ReidのM1." I'll Close My Eyes"からスタート。美しいピアノの響きとアメリオの録音らしくドラムス、ベースがしっかりと聴きとれるトリオ演奏が堪能できる。バラード調でイントロの美から始まる流れはガラティ世界が来たなと言う印象。
 M3." I Fall In Love Too Easily"も期待した曲だ。かなりのスロー・バラードでピアノの旋律を重んじた演奏で、彼のピアノを堪能できる。それにベースのサポートも美しい。しかしM4."You And The Night And The Music"、M6."But Not For Me"では、彼の編曲によって展開がやや攻略的なところも見せる。

 しかし究極このアルバムは、ぐっと美しさの流れの尊重で、しかも端正できめ繊細な構築がアドリブ技にもみえて、技術力の高さが聴きとれる。そして透明感と深い陰影が交差してリリカルな世界を構築するのでたまらない。
 いずれにしても日本を意識したガラティの美しい世界であった。

 

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 : 90/100
□ 録音       : 90/100
(試聴)

 

 

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2023年1月 7日 (土)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati 「TRACTION AVANT vol.2」

あの名作の続編の登場だ !!

<Jazz>

Alessandro Galati   Palle Danielsson   Peter Erskine
「TRACTION AVANT vol.2」
JAZZMUD / Euro / AWD 544260 / Released: 18 February, 2022
(320kb/s MP3)

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Alessandro Galati (p)
Palle Danielsson (b)
Peter Erskine (ds)

Maxresdefaultw2_20230105120301   またしても、アレッサンドロ・ガラティ話である。いっやー-知らなかったですね、私がガラティにぞっこんになったのは、アルバム『TRACTION AVANT』(Via Vento Jazz / Euro / W5820007 / 1994 録音はECMの名エンジニアJan Eric Kongshaug (下左))だったんですが、なんと昨年に・・その続編という事だろうか、この『TRACTION AVANT  Vol.2』がリリース(2022年2月18日)されていたんですね。もともとガラティが先輩二人のキース・ジャレットのヨーロピアン・カルテットのメンバーであったヨーロッパのトップ・ベーシストPalle Danielssonと、ウェザー・リポートなどのジャズ・シーンをリードしつつけるスーパー・ドラマーPeter Erskineと初トリオを組んでのオリジナル曲やスタンダードの演奏を披露し高評価を得た。そしてここに再びトリオを組んでの(録音日不明)ニュー・アルバムである。
 更に、なんと『TRACTION AVANT deluxe』(下右)もリリースされていて、こちらは両アルバムの合体ものなんですね。

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 そしてリリース・レーベルはイタリアのJAzZMUDで、どうも私の思うにはストリーミング・サービスによるリリースのようだ。(Before the creation of LPs, CDs or the like, music resided in the air. With the advent of digital downloads, music simply returns home, again it is more magical and pure.)

(Tracklist)

1 - Red Milk (with Palle Danielsson & Peter Erskine) 07:42
2 - Someday My Prince Will Come (with Palle Danielsson & Peter Erskine) 06:09
3 - Ripple (with Palle Danielsson & Peter Erskine) 07:07
4 - Blues If and As You Please(with Palle Danielsson & Peter Erskine) 06:51
5 - Palle's Solo (Palle Danielsson ) 01:38
6 - You Don't Know What Love Is (with Palle Danielsson) 07:06
7 - Crinkle (with Palle Danielsson) 04:52
8 - Solar (with Palle Danielsson & Peter Erskine) 07:59

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  1994年の『TRACTION AVANT』(VVJ007)は、当時このバック・メンバーの二人のほうが当然知れていて、ピアニストのガラティはむしろ新人といったところのトリオであったにもかかわらず、素晴らしいピアノ・タッチとメロディ、そしてその叙情性は見事で聴くものを驚かした。そしてガラティの名が知れ渡ることとなるのだが、現在までの多くの名盤がリリースされているにもかかわらず、ここに『Vol.2』のリリースを見たのである。
 このアルバムもまさに美学そのものである。リリカルなプレイで注目を集めている彼だが、透明感溢れるサウンドとその描く世界は、ユーロ・ジャズ・ファン必聴ものである。最後の曲は再演"Solar"であった。

 冒頭のM1."Red Milk"から、優しいガラティのピアノ・タッチの美旋律が流れ即彼らの世界に引っ張り込まれる。
 M2." Someday My Prince Will Come"は、意外に軽快な展開とインプロヴィゼーションが冴えわたり見事と言いたい。
 M3."Ripple "旋律よりは、やや前衛的な音の3者の応酬が聴きどころ。
 M4." Blues If and As You Please"ドラムス・ソロに誘導されてのピアノ、ベースの速攻が描くところにこの3者の相性の良さが聴け、最後は静かに一段落。
 M5."Palle's Solo"ベースの語るような短いソロ演奏。
 M6."You Don't Know What Love Is"ぐっと落ち着いたピアノとベースのデュオ。透明感のあるピアノの響き、相づちをうつようなベース、描く世界はぐっと優しく思索的。
 M7." Crinkle "深いベース音、それに乗ってピアノも静かな美旋律の世界に・・・、そして次第にピアノのペースが上がって即興性が加わって展開。
 M8."Solar "ピアノのゆったりした序奏から、見事なトリオのそれぞれの持ち味を生かしスウィングする展開に織り成すジャズの醍醐味を見せて幕を閉じる。彼らの懐かしがつての演奏のようにも聴こえるが。

 どんなきっかけからこの『Vol.2』の企画がなされたか不明だが、ピアノ・トリオとしてのガラティのクリアな音でのリリカルな演奏は相変わらず見事であるが、この3者のスキのない織り成す演奏が、繊細さばかりでなくダイナミックな展開をも見せ、いかにもトリオとしての相性の良さが聴けて楽しいアルバムであった。

(追記)

 未発表トラックを追加しての「Vol.2」盤であり「Deluxe」盤であることが判明しました。ただし、「Vol.2」の最後の曲"Solar"は、間違えて"alt.version"を加えるべきところ元のものを入れてあるようです。以下がガラティの言葉です。
 「スタジオセッションのオリジナルテープを聴きながら見つけたいくつかの新曲を挿入したアルバムのリリースで新年を迎え、私のキャリアに多くの幸運をもたらし、私の音楽を世界中に知らしめました。
 数日間注意深く聴いた後、私は8つの未発表トラックを選び、元々トラクションアバントCDに収録されていたトラックに追加しました。
その結果、雰囲気が信じられないほど魔法のようなダブルアルバムになりました:私の作曲、標準、自由な即興演奏が新しいバランスで交互になり、多くの新旧のファンの好みに合うことを願っています。」     ( A. Galati. )
(2022年1月6日リリース)Recorded by Jan Erik Kongshaug at Larione 10 (FI).

 

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    87/100

(試聴)

*

 

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2023年1月 2日 (月)

アレッサンドロ・ガラティ alessandro galati 「The Freeway」

            謹賀新年  2023年 

 

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  今年もよろしく御願いします

 昨年は、押し迫ってAlessandro Galati の強力盤TERASHIMA RECORDの『Portrait in Black and White』(TYR-1109)が登場してこちらでも取り上げたのだが、ふと昨年冒頭のCDの入手が困難であったガラティのJAzZMUDのピアノ・トリオ盤を思い出したので、多分多くが聴き逃していたアルバムではないかと、ここに今年の冒頭に登場させます。

 

<Jazz>

Alessandro Galati, John Patitucci, Peter Erskine
「The Freeway」

JAZZMUD / AWD543031 / 2022

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Alessandro Galati(piano)
John Patitucci (bass)
Peter Erskine(drum)

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1. Sea Shore  06:08
2. Woody's Grouse  03:00
3. You Don't Know What Love Is  07:38
4. Ascending  04:46
5. Bye Bye Blackbird  08:00
6. Hi Dance With You  07:42
7. Tobaccoless  04:52

 相変わらず、ガラティの力みがなく繊細にして流れるようなピアノの美学が満ち満ちているM1."Sea Shore "
 M2."Woody's Grouse "は、一転して畳みかけるアグレッシブな演奏。
 M3." You Don't Know What Love Is"のスウィング・ジャズから静への美学に。
 M4."Ascending " 静かに想いを深く染み通るベ-スのアルコ奏法に、しっとりと聴かせるピアノが、次第に美しさを増して語り聴かせるように響き渡る曲。
 軽快に流れる中にトリオのパワーが満ちていて、三者のバランスが絶妙なM5."Bye Bye Blackbird"に続いて、M6." Hi Dance With You"のベースとピアノの低音の深い沈み込んだ所から、次第にリズミカルに流れる軽いタッチの音世界の描くところはなかなか味な世界。
 最後のM7."Tobaccoless"のベースと共に軽妙に展開するピアノ、リズムにしっかりと乗せるスティック音、次第に盛り上げてゆくところはジャズの醍醐味。

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 このアルバムは米国の二人のミュージシャン(John Patitucci (bass 上左)、Peter Erskine(drum 上右))とのトリオだが、ガラティがリーダーであるピアノ・トリオは、一味も二味も繊細であったり、奥深かったり、美しかったりと欧州ぽい。更にそれに加え、時にはアグレッシブにと、聴くものを飽きさせない。又今年の活動に大いに期待である。

(試聴)

 

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2022年12月27日 (火)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio「Portrait in Black and White」

カルロス・ジョビンをガラティ世界にて蘇えらせる

<Jazz>

Alessandro Galati Trio「Portrait in Black and White」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1109 / 2022

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Alessandro Galati (piano)
Guido Zorn (bass)
Andrea Beninati (drums)

Artesuono Recording Studios (Italy)
Recorded by Stefano Amerio

Ag5xw  アレッサンドロ・ガラティの新作は、なんとボサノヴァのアントニオ・カルロス・ジョビン集。ちょっとピンとこないのだが、果たしてガラティの手によるとどうなるのか、まさに興味津々のアルバムの登場。
 ガラティは、私の最も愛するイタリアのジャズ・ピアニスト、彼に関してはここで何回と取り上げているが、それはアルバム『TRACTION AVANT』(Via Veneto Jazz/1994)から始まっての歴史ではあるが、近年寺島レコードとの契約によって矢継ぎ早にアルバム・リリースがある。

 当初、寺島靖国はこの作品をリリースすることに前向きではなく、寺島レコードとしてジャズ作品のリリースを望んでいた。しかし、送られてきた音源を聴いてその思いは一転し、"アントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲が、ジャズ・ピアノ・トリオ作品として成立していることに驚き、その出来栄えに感嘆したのだ"・・・と言うのがこのアルバムのリリースまでの経過らしい。
 確かに、イタリアのピアノ・ジャズ名手といえども、ユーロ・ジャズのまさに中軸にあって、ジャズとも言えないボサノヴァとは聴き手を裏切ってしまうだろうと心配するのは当然である。
 しかし、冒頭の曲から驚きはスタートするのだ。

(Tracklist)

1. O Que Tinha de Ser
2. Modinha
3. Samba de Uma Nota S
4. Inūtil Paisagem
5. STinha de Ser Com Voc
6. Fotografia
7. Dindi
8. Vivo Sonhando
9. Eu Sei Que Vou Te Amar
10. Retrato Em Branco e Preto
11. Por Toda a Minha Vida
12. Luiza

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   M1."O Que Tinha de Ser"から、完全に裏切りというか大歓迎というか・・優しくリリカルな奥ゆかしく繊細ながらしっかり描くピアノのガラティ・ムード満開で、どこにボサノヴァがあるのやら、メロディも初物感覚でジョビンもおどろきの世界ではないでしょうか。いっやーーいいムードだ。
 そして次に聴いていっても、ボサノヴァ感覚のラテン・ムードは完全に消え去られ、そこにあるのはガラティの優しく軽やかさから一方耽美なやや陰影のあるピアノの調べに、ベースがしっかり支え、ドラムスのシンバル音が響く。ああ見事なユーロ・ピアノ・トリオ作品だ。
   M4."Inutil Paisagem"ではガラティの前衛性もチラッとみせ、M9."Eu Sei Que Vou Te Amar"は、低音のベースの語りがピアノの軽さと対照的で面白い。
 M10." Retrato Em Branco e Preto"は、ドラムスのスティック・ワークが繊細の美、ベースの低音の響き、ピアノの流れる演奏が盛り上がる。
 M12."Luiza"は、ピアノの静かな旋律美で幕を閉じる。

 今回のトリオはベースはグイド・ツォルン(上左)でしっかりと低音でリズム、時にメロディーとガラティの世界を支えているし、ドラムスはアンドレア・ベニナティ(上右)が、これも私の好きなシンバル音の多様で堂々と渡り合って演じている。トリオ作品としての価値も高めている。
 とにかく、私がジョビンとして聴いたことがあるなと解ったのは、M3."Samba de Uma Nota S"だけだが、かってのセルジオ・メンディスにたたき込まれたメロディーが頭に浮かんだだけで、他は完全にガラティ・メロディとして聴き入ったことになった。

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 録音に関しては、やはり名手ステファノ・アメリオが担当し、なんとミックス、マスターはガラティというのには驚いた。とにかくベースがしっかり中央に陣取って、やはりピアノも中央だがやや左右に広がり、そしてドラムスは更に広く左右にシンバル音を響きかせ、トリオ・メンバーの音がしっかりと聴き取れる。彼の技はここまで広がっているようだ。見事な粒立ちの良さと繊細な美しさを描く好禄音盤。この年末に来て今年のベスト盤最有力候補の強力なアルバムの登場だ。

 

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  95/100
□ 録音        95/100

(試聴)

"O Que Tinha de Ser"

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2022年3月24日 (木)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio 「EUROPEAN WALKABOUT」

トラッドをピアノ・トリオで・・・そこには美旋律世界

<Jazz>
Alessandro Galati Trio 「EUROPEAN WALKABOUT」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1100 / 2022

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Alessandro Galati (p)
Guido Zorn (b)
Andrea Beninati (ds)
Recorded on Jan.18, 2022 at Artesuono Recording Studio
Recorded,mixed & mastered by Stefano Amerio

 驚きましたねぇーー、昨年から出る出るといっていて延期になって待たしていたアルバム、ようやく発売されたアレッサンドロ・ガラティの新作。見てみると録音がミックス・マスターリングは期待のStefano Amerioはそのまま期待通りで良いのですが、なんと録音日が今年2022年の1月18日となっていて、これなら去年の年末12月や今年1月に出るわけないですね。これでも早いくらいです。

 それはそれとして、ガラティは私の期待のミュージシャンですが、寺島レコードとの関係が出来てから、新作のリリースが早いですね。前作は昨年の『SKYNESS』(TYR-1098)ですからほぼ半年です(録音は2017年で、4年前ですが)。そしてトラッドのピアノ・トリオによる演奏集だ。このリリース目的が、おそらく彼がアルバム作りをしたいとミュージシャンとしての情熱と目さすところの集積というのでなく、希望に答えての演奏集といったところでしょう。その為、今回のアルバムで彼のこんな意思が見えてきた・・というのでなく、我々に楽しませてくれるという範疇のものなんでしょう。そんなところで実は彼の『Traction Avant』(vvj-007/1995)以来惚れ込んで新作に期待してきた私は、若干期待度というのがちょっと違った姿勢でこのアルバムに接しているのである。

 さて、このアルバム、やっぱり寺島氏からの要求に答えたものだろうとのことは、彼のライナー・ノーツを見ても想像できる。勿論、ガラティも決して今回のトラッド集は否定するものでなかったと思うが、果たして彼が今ミュージシャンとして、そしてアルバム造りとしての意思であったかどうかは疑問のところだ。そんなことも想像しながらこのアルバムを聴くのである。
 そして"際立つ美しいメロディ、細部まで行き届く繊細な表現力。哀愁の美旋律は歌心溢れる音楽世界へと誘ってくれる"という宣伝文句そのもものの美しいピアノ・トリオ作品である。

Ag1w (Tracklist)

01. Love in Portofino
02. Verde Luna
03. Dear Old Stockholm
04. Almeno tu nell'universo
05. Last Night a Braw Wooer
06. Cancao do Mar
07. Danny Boy
08. The Water is Wide
09. Liten Visa Till Karin
10. Parlami d'amore Mariu

 「トラッドは外れナシの美曲」と寺島氏は語るように、このアルバムは文句なしの哀愁の美旋律を十分堪能できるトラッド集に仕上がってますね。冒頭のM1." Love in Portofino"から聴き惚れますね。
  しかしガラティ・ファンの私にとっては期待が大きいだけ・・・・ピアニストとして旋律を愛し奏でる"メロディ至上主義"と言われてはいるガラティですが、過去の作品を聴くと必ずしもそれだけではない。彼の目指すところ、いわゆる美しい旋律の重要性と同時にミュージシャンとしての演奏をどこまで極められるかという実験的な世界も作ってきた。そんな意味からは若干虚しさも感ずるのである。

 例えば、彼の作品群の中でもどちらかというと異色に入る『JASON SALAD!』(VVJ-014/2010)の単なる美旋律というよりジャズの奥深さを探る世界とか、又『UNSTANDARD』(VVJ-068/2010)のあの美しい"CUBIQ"のオーボエ、ギターはじめメンバーとのそれぞれの描くところを一つの曲の中でまとめ上げてゆくピアノプレイ。更に『WHEELER VARIATIONS』(SCOL-4024/2017)のインタープレイの真迫のスリルなど、いわゆるジャズ・ピアニストとしての描く世界の極みが尽きない。そんな意味では、今回のアルバムは、美しく演奏するところを聴かせると決まっての曲作り、それぞれの美は素晴らしくても、どこか彼の挑戦的演奏が見えないところがちょっと寂しい。

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   しいて言えばM6."Cancao do Mar"は、ファドで有名なポルトガルの伝統的な歌謡曲のようだが、私にとってはようやくこの曲でトリオとしてそれなりに作り上げたという感じがするのだ。つまり、アルバム全体的に、ちょっと感じられる"ガラティの美旋律演奏にベース、ドラムスが合わせている"というような曲作りでは若干むなしい。私的希望として、もっとトリオとなると、三者それぞれの解釈による演奏と協調が魅力的なのであり、ある意味ではバトル的な感覚での演奏から協調へと向かい曲仕上げを高めてゆくところが聴きたいのであり、そのような流れの中でふと現れる美旋律の美学がガラティの得意とするところであり、聴く者にとっても感動が大きい。ミュージシャンというものは、期待されることは当然嬉しいが、作品に一つの枠が決められてのアルバム造りは、実はそんなに納得しているものでもないのだ。

 トリオ三者にてのスリリングなインタープレイのジャズ美学は、ガラティにもともとある一つの世界であって、その特徴への私の期待があるのである。今回、前作と異なるメンバーのグイド・ツォルン(Bass 上左)とアンドレア・ベニナチ(drums 上右)との演奏準備は十分あったのかどうか、もっと二人は我を出して頑張ってもよかったのではないかと、特にツォルンは遠慮っぽかったように感じた次第。
 しかし、そんなことより"郷愁が感じられ美しい情緒あるピアノがとにかく聴ければよい"ということであれば、やっぱりこれは素晴らしいアルバムである。まあ、テーマがそうゆうことであるので、ガラティ自身も職人ですから難しいことなしで演じたのであろう。したがってこれで実際のところ正解なのかもしれない。

 今回も、録音そしてミックス、マスターリングとStefano Amerioが担当していて、素晴らしいリアルにして繊細で美しくミュージシャンの演ずるところをしっかり描き聴かせてくれるところは見事であった。

(評価)
□ 曲、演奏 :  88/100
□   録音   :  90/100

(視聴)

私のこのアルバムでは一押しの" Cancao do Mar"

 

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2021年9月27日 (月)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Oslo Trio 「SKYNESS」

素晴らしい演奏は、こうした好録音で聴くべしと言うお手本

<Jazz>

Alessandro Galati Oslo Trio 「SKYNESS」
Terashima Records / JPN / TYR1098 / 2021

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Alessandro Galati アレッサンドロ・ガラティ (piano)
Mats Eilertsen マッツ・アイラーツェン (bass)
Paolo Vinaccia パオロ・ヴィナッチャ (drums)

Recorded in Jan.2017, Rainbow Studio, Oslo, Norway
Recording Engineer : Jan Erik Konghaug
Recording & Mastering Engineer : Stefano Amerio
Producer : Yasukuni Terashima

   このニュー・アルバムは、実は2017年に、レインボー・スタジオで実力派ヤン・エリック・コングスハウグをエンジニアに迎えて録音されたもので、もう四年前のものだが、マスタリングは、これまた人気者のステファノ・アメリオである。しかし、これが直ちにリリースされなかったのは、ライセンスを持っている澤野工房の澤野由明(↓右)の意志であったようだ。しかし、澤野由明と寺島靖国(↓左)の絆が実現させたアルバムとしてここにリリースされたわけで、それには惚れ込んだ寺島の熱意であろう。
 寺島は歴史に名を刻む最高音質として評価し実現に向かったのだが、このアルバムはもともと澤野のジャズ心とはうまくリンク出来ずにリリースに至らなかったいたものらしい。しかし「幻の作品」と言うには、大げさだが、ここに寺島レコードとして日の目を見ることになったのである。

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 アレッサンドロ・ガラティは「Keeping the Faith on Melody」(メロディー信仰)、メロディー至上主義を信条としていて、過去に素晴らしいアルバムを残してきた。しかし一方ピアノ・トリオとしても前衛的な世界もしっかり持っていて、その面を強調した世界も持っている。つまり二面をもっているのだ。勿論私は彼のイタリア独特の美旋律のピアノ世界にあるアルバム『TRACTION AVANT』(Via Vent Jazz /VVj007 / 1994)以来惚れ込んでしまって、その後日本では澤野工房が彼のアルバムのリリースに貢献してきた。そして現在に至って寺島靖国がアプローチして近年は寺島レコードと関係が密である。

 とにかく、私の好きな澤野工房のアルバム『Cold Sand』(ATELIER SAWANO / AS155 / 2017=インジニアはStefano Amerio)をリリースする直前の2017年1月に別メンバーで録音し、そのクオリティーの高さに澤野工房がリリースを躊躇してしまった作品であったらしい。しかしこれを知った寺島が澤野との関係の中で、これは最高傑作と信じて発表に至ったもののようだ。

Agw (Tracklist)

01 Rob as Pier
02 Silky Sin
03 In My Boots
04 Balle Molle
05 Flight Scene #1
06 Raw Food
07 Flight scene #2
08 Entropy
09 Jealous Guy
10 Skyness

 寺島はとにかく惚れ込んでしまったその音とメロディでの「このアルバムは世に出すには早すぎる最高傑作かもしれない」と豪語するだけあって、成る程このヤン・エリック・コングスハウグとステファノ・アメリオの両エンジニアが関係した音には圧倒される。
 とにかくトリオがそれぞれの位置をしっかり確保しており、冒頭のM1."Rob as Pier"のスタートから、シンバルの清んだ音が響き、ピアノと同列に響き渡るところは、これはまさに寺島の好きな世界であることが解る。又、ベースがその世界を支えているが如く響き渡り、ピチカット奏法にスラッピングした音もリアルに聴くことが出来る。それはこのアルバムの描く一つの重要な世界である曲M5,M7."Flight Seene #1,#2"に特に特徴的だ。
 究極はピアノの響きが余韻までしっかり聴き取れて、その美しさと描く深さに感動である。これはまさに録音・ミックスの芸術品でもある。

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  そして曲の印象は同時期の『Cold Sand』のアルバムにかなり近い。このアルバムの曲群は、ガラティのオリジナルで、一曲のみがジョン・レノンのものだ。つまりスタンダード集というものとは全くの別物で、ガラティが当時想う世界をオリジナルで自己の目指すところに演じていると思う。
 アルバム・タイトル曲M10."Skyness"は、最後に出てくるが、このタイトル名はガラティによる新造語ということらしく、それはオスロに向かう飛行機での「北に向かう空と北欧の氷の大地にみる独特の虚無感」と言うことらしい。このトリオ名には、Osloという名が付けられていることからも、そのガラティの描く世界に繋がっているようだ。聴いてみれば解るが、そんな世界をベースにしたガラティの世界が演じられているのだ。

 ガラティの描く演奏の世界とエンジニアの目指すオーディオ的世界の音の両面からの傑作と位置づけたい。
 こうして、少しでも良い音で聴くことが重要であることを示したアルバムとして、高評価したいところである。

(評価)
□ 曲・演奏 :     95/100
□   録音   :     95/100

(参考試聴)
目下、このアルバムの音源はアップされていない為、同時期のものを・・(いずれ追加予定)

 

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2021年3月 8日 (月)

エル Elle 「Close Your Eyes」 

演奏展開がジャズらしさを増して

<Jazz>

Elle 「Close Your Eyes」 
TERASHIMA Records / JPN / TYR-1095 / 2021

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Elle  : Vocal
Alessandro Galati : piano
Guido Zorn : bass
Lucrezio Seta : drums

 我が愛するアレッサンドロ・ガラティに見出されてレコーディング・デビューに至ったというイタリアの若手歌姫:Elle=エルの新作。前第1作『So Tenderly』(TYR-1081)は、「ジャズ批評」誌で2019年ジャズ・オーディオ・ディスク大賞のヴォーカル部門でトップ(金賞)に輝いた注目株。実はあのトップに関しては私はちょっと納得しなかったんですが、まあアレサンドロ・ガラティの曲作りと演奏に魅力があるところで納めていた。
 寺島靖国に言わせると、女性ヴォーカルは巧さより声の質に魅力が無ければ・・・と、成る程その意味においては私も取り敢えず納得しておく。
 今回も前作と同じくガラティ率いるトリオをバックにしたニュー・アルバムだが、全曲ガラティが編曲したという構成であるが、ただ同じモノは造らないと言うことか、オープニングの曲から若干イメージは変わって来ている。

 

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01. Comes Love
02. If I Should Lose You
03. Autumn In New York
04. Close Your Eyes
05. My Old Flame
06. I Concentrate On You
07. Once In A While
08. I Fall In Love Too Easily
09. Besame Mucho
10. I'll Be Seeing You

 エルのヴォーカルは、あるところで「"大人の夜の小唄セッション"ぽい」と表現されていたが、確かにそうかなと言うところか。とにかく力を抜いたテンダーにしてアンニュイ、そしてセクシー度も適当というところが魅力か。歌の巧みさというところでは、クラシック歌手を経てきていると言うのだが高度というところにはイマイチだ。ただ声の質が女性としての魅力があるところが支持されるポイントであろう、ウィスパー・スタイルが売り処。

 今回もガラティの編曲演奏がやはり注目するところだ。ロマンティックな耽美性は相変わらずだが、彼の持ち味の嫌みの無い展開が時にスウィングし、時に刺激的なところを織り交ぜての過去の曲の演奏スタイルにとらわれない独自の世界がいい。選曲そのものは寺島靖国が行なったようだが、編曲にはガラティの独自的解釈が強化されて、バラードっぽくを期待した面を特にM1."Comes Love"のようにスウィングした軽快な出だしで、期待とは別展開させているところが面白い。アルバム・タイトル曲M4."Close Your Eyes"も同様でありピアノ、ベースの演奏も楽しめる。しかしどんな場面でも決して力んだ展開はみせず、あくまでもソフト・テンダリーに押さえている。曲の中で、ガラティのピアノ演奏の占めるところも多く、そんな意味では今回の方が、ある意味では変化が多くジャズっぽい。

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  いずれにしても、このエルのヴォーカル・スタイルは、やっぱりウィスパー系がぴったりで、M5."My Old Flame"の流れはいいし、中盤のガラティのピアノも美しい。そしてそのパターンは、M8."I Fall In Love Too Easily"の世界で頂点を迎える。ここではヴォーカルのイメージを大事に間をとりながらのピアノ演奏の世界が美しく、しかも進行して行くうちにスウィングしてみせたり、その流れは如何にもガラティの世界。

 このタイプの女性ジャズ・ヴォーカル世界は、"特にジャズならでは"というムードであって、それを寺島靖国は求めて企画した事がひしひしと伝わってくる。そんなアルバムとして評価したい。

(評価)
□ 編曲・演奏・歌  85/100
□ 録音       85/100

(試聴) ""My Old Flame

 

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2020年4月 6日 (月)

キアラ・パンカルディChiara Pancaldi & Alessandro Galati 「The Cole Porter Songbook」

やはりパンカルディのヴォーカルはハイレベルであるが異色
~~注目のアレッサンドロ・ガラティとのデュオ

<Jazz>

Chiara Pancaldi & Alessandro Galati 「The Cole Porter Songbook」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1086 / 2020

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Chiara Pancaldi キアラ・パンカルディ (vocalヴォーカル)
Alessandro Galati アレッサンドロ・ガラティ(piano ピアノ)

 このところジャズ・シンガーとしての話題の豊富な個性派キアラ・パンカルディ(1982年イタリアのボローニャ生まれ。つい先日アルバム『PRECIOUS』(CR73497/2020)のリリースがあった)と、最近、寺島レコードからリリースが多い私の注目の叙情派でありながらアヴァンギャルドな面も見せるキャリア十分のピアニスト:アレッサンドロ・ガラティ(1966年イタリアのフィレンツェ生まれ)のデュオ作品。両個性派同士で実は注目していたアルバム。
  主題はアルバム・タイトルどおりのコール・ポーターの作品に迫ろうとしたもの。もともとキアラ・パンカルディの唄は独特の世界があって、どうも100%万歳して受け入れている訳ではないため、このアレッサンドロ・ガラティのセンスで如何に変貌して迫ってくれるかが楽しみのポイントでもあった。

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(Tracklist)

1. Easy To Love
2. Just One Of Those Things
3. Night And Day
4. So In Love
5. All Of You
6. My Heart Belongs To Daddy
7. It's Delovely
8. Let's Do It
9. Dream Dancing

Ag5x  デュオとは言っても、やはりヴォーカルの占める位置は大きいですね。私にしてはガラティのピアノにそって優しく歌ってくれる方が期待していたんですが、なになにパンカルディの独特の節回しによっての彼女のヴォーカルの独壇場にも近い世界が造られている。パンカルディの声の質は中高音のつややかさはなかなかのものと言えるものでこれには全く不満はなく、更になんといってもハートフルでありテンダリーである点は素晴らしい。しかしその節回しと音程の変化はどこか異質であって、その歌は一種独特な世界ですね。先のアルバムとその点は全く変わっていない。この世界にぞっこん惚れ込むという人が居るとは思うが、どうも素人向けとは言えず、万人に受けるという点ではちょっと疑問にも思っている。

 イタリアのミュージシャンはあらゆる分野に多く活躍していて人気も高いが、この世界においてはパンカルディはやはり独特である。まさか私自身のみがそう感ずるのだろうか ?、ライナーノーツを担当している寺島靖国も声の質の良さを認めては居るが、あまり異質性については語っていない。
 いずれにしても彼女の唄はやっぱり上手いというのは当たっているのだろうと思う。とにかく上手い・・・しかし私は魅力については、もう少し馴染みやすい世界であってほしいと思うのである、残念ながらそんなことで万人向きではない。そうは言っても、丁寧にじっくりと語りかけてくる様は出色であり魅力も大いにあるところが聴く方は複雑ですね。一方リズムの展開においては、意外に彼女の魅力的なパンチ力のセンスもみられて、多芸な能力の持ち主と言って良いのだろう。

 そして今回のように、コール・ポーターの曲を何故選んだのかと言うことでは、ガティもパンカルディも曲の良さと言うことに一致していた。そしてこのアルバムで私が好きなのは、M4."So in Love"で、彼女の歌が情感豊かでいいですね、ムードが最高。続くM5."My Heart Belongs to Daddy"のガラティのピアノは美しい。
 しかしちょっと期待に反して、ガラティは対等なデュオというのでなく「伴奏者」に徹していて、彼の味のあるメロディーの表現は、ヴォーカルを生かす為に仕組まれたピアノの味をしっかり作り上げているのだ。

 私の個人的評価はまあ質の高さは認めるが、受け入れやすさや聴きやすさと言う点ではちょっと低くなった。こうゆうのはイタリア本国ではどんな評価か知りたいところだ。

(評価)

□   編曲・歌・演奏  ★★★★☆ 85/100
□ 録音       ★★★★☆ 85/100

(視聴)

このアルバム関係はまだ見当たらないので・・・過去のモノを
Cole Porter "So in Love" (これは惚れ惚れしますね)

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