エンリコ・ピエラヌンツィ

2024年6月23日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi 「HINDSIGHT - Live At La Seine Musicale」

ピエラヌンツィ流メランコリックとグルーヴ感溢るる即興と・・・

<Jazz>

Enrico Pieranunzi 「HINDSIGHT - Live At La Seine Musicale」
Free Flying / Japan / FFPC004 / 2024

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Enrico Pieranunzi (piano)
Marc Johnson (bass)
Joey Baron (drums)

Concertienricopieranunzi1w  私が愛するヨーロッパ・ジャズのパイオニア的な存在であり、イタリアが世界に誇る抒情派ピアノの大御所と言われるエンリコ・ピエラヌンツィ(1949年ローマ生まれ →)のここでは1年半ぶりの登場だ。今回のアルバムは彼のキャリアの中でも重要なトリオ・メンバーのマーク・ジョンソン(b, 1953年米国ネブラスカ州生まれ、下左 )とジョーイ・バロン(d, 1955年米国バージニア州生まれ, 下右)との初録音作品から35年を記念して再集結し、パリの芸術拠点ラ・セーヌ・ミュジカルLa Seine Musicaleに興奮を巻き起こしたといわれる2019年12月のライブの模様を収めたアルバムである。

 コンサートの提案もピエラヌンツィ自身から始まったとのことで、演奏には、この3人で音楽を奏でる喜びの伝わってくるような演奏で、楽曲は1曲をのぞき、全てピエラヌンツィのオリジナル曲だ。そし録音・ミックスはStefano Amerioで好音質で聴くことが出来る。

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(Tracklist)

1. Je Ne Sais Quoi 6:54
2. Everything I Love 5:28
3. B.Y.O.H. (Bring Your Own Heart) 7:23
4. Don't Forget The Poet 9:16
5. Hindsight 7:27
6. Molto Ancora (Per Luca Flores) 5:54
7. Castle Of Solitude 5:21
8. The Surprise Answer 6:00

 メロディーやハーモニーの美は勿論、近年ダイナミックなスイング感をも重んじてのピエラヌンツィ独自の世界が見事に展開する。ヨーロピアン独特のアートな色合いもみせてのインタープレイも尊重されたリリカル・アクション演奏もやっぱり持ち味として迫ってくる。それはもともと結構訴えてくるウォームなジョンソンのベース、バロンのアクティブなドラムスが、ちゃんと見せ場を築いてピアノに迫るところが頼もしい。従ってトライアングルな相互触発によってピエラヌンツィピアノも一層アドリブ奮戦がもともと彼の持っているエレガントでいて精悍な冴えを聴かせながら爽快な演奏へと導かれる。従って究極抒情性には決して溺れないところが彼の味として近年は展開している姿がここにも表れている。

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 M2."Everything I Love"のみ、ピエラヌンツィの曲でなく、コール・ポーターのものだが、ここではジョンソンのベースが旋律を流しそれを追ってピアノ、ドラムスの展開が主役に変わって、トリオの楽しさを聴かせている。ヨーロッパ的世界でなくアメリカン・ジャズの色合いをトリオで楽しんだ姿をこのライブに色付けしている。
 私自身はM3."B.Y.O.H. (Bring Your Own Heart)"のヨーロッパ的世界の方に好みは寄ってゆくのだが、そのM2.との対比によって一層それが強調されて、なかなか組み合わせの妙も感ずるところである。
   M5."Hindsight"のアルバム・タイトル曲は、それぞれのダイナミックな演奏を交えてのての展開に再会トリオの楽しさとグルーヴ感を伝えてくれる。
 M6."Molto Ancora (Per Luca Flores)"では、ぐっと落ち着いた世界に。
 M8."The Surprise Answer "パワフルなドラム・ソロからスタート、そしてピアノ、ベースのユニゾン展開も激しく、トリオのインタープレイにも花が咲き聴衆と一体感の世界に突入。お見事。

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 もともとピエラヌンツィの端正でキレと滑らかさのクリアー・タッチのピアノが十二分に堪能できる。そして哀感の世界とバップ的グルーヴ感を曲により見事に演じ切って飽きさせない。かっての抒情性の世界にクラシック的メロディーで哀愁にどっぷり浸かる様は見られないため、その点は少々寂しいが、むしろ近年の躍動型のスリリングすら感ずる中にリリカルな世界を描くという点に注目して聴いた次第。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

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2022年12月23日 (金)

寺島レコード:コンピレーション・アルバム「Jazz Bar 2022」

今年の最後を飾るは、なんと22年続いてのアルバムだ

<Jazz>

  Yasukuni Terashima presents 「Jazz Bar 2022」
 TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1108   / 2022

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2138c60anzl_ac_    寺島靖国プレゼンツとしてのオムニバス(コンピレーション)・アルバム・シリーズは、目下5種が継続中だ。その最も長く根源的なアルバムが「Jazz Bar」シリーズだが、2001年にスタートして(→)、この12月に22年目を迎え第22巻がリリースされた。
 こうした彼の名を冠してのシリーズは、1巻を1年以上空けてのリリース・スタイルで、今年は私の好きな「For Jazz Audio Fans Only」(Vol.15)、そして「For Jazz Vocal Fans Only」(Vol.5)、「For Jazz Ballad Fans Only」(Vol.3)が既にリリースされていて4巻が登場したわけだ。(今年リリースしなかったのが、「For Jazz Drums Fans Only」)
Yt-1w_20221223164801   いずれにしても、既に47巻がリリースされていて、考えてみるとほぼ600曲は紹介してきていることになる。これもかなりの偉業ですね。もともとオーディオ的興味とジャズ分野ではピアノ・トリオもの、女性ヴォーカルものなどが好む私は、丁度お手頃の世界であって、特に寺島氏の好みともやや似通ったところがあって、私的には満足してきた。又彼の選曲は、その年のヒット曲ということでなく、彼自身が出会って評価に値するとしたものを選んでいるので、マイナーなものあり、更に彼のあまり形にこだわらないライナー・ノーツも楽しく、その点も私にとっては興味深いところがある。

 この最も基本的な「Jazz Bar」シリーズは、ジャズのジャンルを問わず、彼自身がその年何らかの意味で評価したものを集めている。従って意外に古いものを敢えて取り上げることもあるが、基本的には近年のリリースもので、注目点は何びとにもという普遍的なところを狙うのでなく、彼自身の世界からの選定で、しかもリリース・レーベル・会社などが許可してくれるものに限られている。この彼の意志というのが面白いところでもある。

 さて今年の最後のこの「Jazz Bar 2022」は、以下の内容であった。

(Tracklist)

01. In Memory / Tingvall Trio
02. Rendezvous / Roy Powell
03. Ojos Carinosos / Joe Farnsworth
04. O Que Sera / The Hans Ulrik, Steve Swallow, Jonas Johansen Trio
05. Aniram / Andrea Beneventano Trio
06. Arrolo de Toques / Nani Garcia Trio
07. Anastasia / Al Foster
08. Returning / Jeff Johnston Trio
09. Don't Give Up / Philippe Lemm Trio
10. Brother Can You Spare a Dime / Dylan Cramer
11. Ballada na Wschod / Jana Bezek Trio
12. My Old Flame / Domenic Landolf
13. Mi Sono Innamorato Di Te / Enrico Pieranunzi, Marc Johnson, Joey Baron

 今年の22巻は、私から見ての特徴は、既に聴いているものが少なかったところで、これも私としては嬉しいところ。初めてのものが多いほど私には収穫があるという事でして・・・。
Tingvall_trio_dance  冒頭のTingvall Trio の名を見て・・やや、これは私の結構好みのドイツのトリオ(ピアニストはスウェーデン出身)であるが、このアルバムは知らなかった。・・と、言うより彼らの事を忘れていて、このところマークしてなかった。この曲M1."In Memory"が収められているアルバムは『Dance』(Skip Records / SKP9177/2020 →)は聴いてなかったのだ。2年前のアルバムだったが、その13曲(スタート曲は"Tokyo Dance")の最後を飾る曲である。さっそくそのアルバムを聴いてみることとなったのだが、ほゞ全体的にはこの曲とはイメージが違う世界である。リズムカルな曲集だ。そしてこの曲のみ悲しみを描きアルバムを纏め上げるという不思議なアルバム。とにかくこの曲がいいですね。この悲しいメロデイーとシンバルの音の響きがピッタリ、ベースのアルコも有効、ユーロ・ジャズの極み。これだけで聴く価値あり。

 M3." Ojos Carinosos"は、持ってましたね、ドラマーのピアノ・トリオ。ピアノはケニー・バロン。ここでも紹介しました。私も評価は良かった。
 M4." O Que Sera" ちょつと面白いギターとサックスの取り合わせ。
 M8."Returning" ジャズ世界には珍しい色気のない淡々とした静かな世界を描くピアノ。
 M10."Brother Can You Spare a Dime"は、アルト・サックスの魅力と、M.12" My Old Flame "ちょっと変わったサックスで、好きな人向き。
 M11." Ballada na Wschod"は、正座して聴いた方がいいようなピアノ・トリオ。   
 M13." Mi Sono Innamorato Di Te"は、これは又古いものをここに持ってきましたね、10年前のピエラヌンツィのアルバム『Ballads』(CAM77852/2012)。再聴の為、私は手持ちのアルバムを引っ張り出すに苦労しました。これが締めくくりに来た意味はちょっと解らないが、まあ良いでしょう、お手本を示したかったのか。

 今年のこのシリーズは、知らなかったものが多く興味深かった。そんな意味で購入して良かったと思うのでお勧め盤としよう、なんと言ってもM1.が最高でしたね。

 (評価)
□ 選曲    88/100
□ 録音    88/100

       ---------------------------

参考までに、今年2022年にリリースしたその他の「Yasukuni Terashima presents シリーズ」は以下のようだった。

■ 4月『For Jazz Vocal Fans Only Vol.5』(TYR-1103)

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 女性ヴォーカルが中心のアルバム。美女狩りの範囲が広がります。しかし、今作は知っているものが多すぎて残念でした。

■ 8月『For Jazz Ballad Fans Only Vol.3』(TYR-1106)

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 今回は、寺島氏も反省したのか管ものが多くなって、私にとってはイマイチでした。
   参照: http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2022/08/post-a75acb.html

■ 10月『For Jazz Audio Fans Only Vol.15』(TYR-1107)

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 これはかなり私の期待度の高いシリーズ、もう15年経過。前作のVol.14が良かったので、今年は若干空しいところもあったが、75点としておこう。

(参考試聴)
"In Memory"

 

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2022年12月 3日 (土)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi & Jasper Somsen 「Voyage in Time」


クラシックをイメージした如何にもヨーロピアン・ジャズ世界

<Jazz>

Enrico Pieranunzi& Jasper Somsen 「Voyage in Time」
Challenge Records / IMPORT / CR73533 / 2022

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Enrico Pieranunzi - Piano
Jasper Somsen - Double bass

  近年のエンリコ・ピエラヌンツィ(1949年イタリアのローマ生まれ(下左))は、かってのピアノ・トリオやソロによる美旋律で私を喜ばせてくれた世界とちょっと異なったアプローチの為、私は若干敬遠気味であった。そしてこのアルバムもすぐに跳び付くこともなく経過していたが、最近CD以上の高音質のサブスク・ストリーミング・サービスが身近になり、私のオーディオ装置のネット環境も構築できたので、ほとんどの音源が聴ける環境も整ったため、このアルバムもしっかり聴くこととなった。

 70歳を超えても、むしろ精力的に挑戦的演奏アルバムをリリースを続けるピエラヌンツィだが、今回はオランダの「Challenge Records」から新たにリリースされたのは、2020年にリリースされここでも取り上げた『Commin View』(OCR73459)他、過去にも多数の共演を果たしてきたオランダのベーシスト、イェスパー・サムセン(1973年オランダのBennekom生まれ(下右))とのピアノ&ダブルベースだけのデュオ・アルバムで、なんとバロック音楽にインスパイアされた組曲というスタイルだ。

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(Tracklist)

1. Pavane (03:51)
2. Menuet (04:31)
3. Ballade (04:47)
4. Sicilienne (03:53)
5. Sarabande (04:50) 
6. Valse (03:51)
7. Air (04:48)     
8. Courante (03:38)
9. Finale (05:06)

  具体的には、このアルバムは、イェスパー・サムセン主導とみてよいものだ。彼が9曲作曲し、レコーディングの際にピエラヌンツィと共に一緒にアレンジした9つの楽章からなる組曲で、いやはや上のリストのようにパヴァーヌ、メヌエット、クーラント、サラバンド、シシリエンヌなど、クラシックのバロック音楽の舞曲がそれぞれのタイトルに付けられており、二人に共通するクラシック音楽への敬意と尊重が反映された美しい曲が展開する。クラシックの形式をみせても即興的アプローチが組み合わされ、どうも学問的音楽理論的においては私は弱いところだが、リズムやハーモニーの構成、アドリブ主体の演奏はジャズ世界に則ったスタイルで、現在の“ヨーロピアン・ジャズ”的な音楽となっていると評されてる。

 ドラム・レスの二人のデュオ・スタイルは、いかにもピアノの旋律と濃密なベースが全面的にフィーチャーされており、そこが二人のクラシックをイメージした目的であったようだ。確かにこの気品を感じさせる響きは、詩情性と共に懐かしさのある世界でヨーロッパの歴史をベースに典雅であって泥臭さがない。ジャズでの活躍は既に築かれているピエラヌンティであるが、クラシック音楽への深い敬愛を忘れない気品ある作品だ。これもクラシックをベースにしているサムセンとの対話によって築き上げられたのであろう。

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 M1."Pavane"は、両者のゆったりとした気品あるユニゾンでスタート。パヴァーヌは、16世紀のヨーロッパに普及した行列舞踏とか。 宮廷作法に息のあった品のある2人の競演。
 M2."Menuet"は、フランス発祥の宮廷舞曲で躍動感ある。
 M3."Ballade"はロマンティック。M4."Sicilienne"はちょっと私は消化不良 。
 M5."Sarabande"は三拍子の舞曲、ここではなかなか説得力のある心に訴える曲。ベースの響きも素晴らしい。私好み。
 M6."Valse"ワルツですね、美しく軽快。
 M7."Air"、アリア、その通りの叙情性。
 M8."Courante"クーラント、華麗な品格。
 M9."Finale" サムセンが本領発揮のアルコ奏法をも取り入れてのベース音が魅力的。ピアノもしっとりと纏める。
 
 ピエラヌンツィが曲の変化に対して百戦錬磨の技を流麗タッチな色合いで披露、そしてサムセンのクラシック色が生き生きとして本領発揮、そのパターンはピアノを盛り上げると同時に自己の世界もしっかり描く。聴いていてぐっとのめり込むというよりは、落ち着いた世界に据えてくれる。録音・ミックスも両者のバランスがとれていて良好。私にとっては最良のバック・グラウンド・ミュージックだ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   88/100
□ 録音   :   88/100

(試聴)

 

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2022年5月29日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi 「SOMETHING TOMORROW」

朗々とした優雅な世界とトリオの楽しさのアルバム

<Jazz>

Enrico Pieranunzi EUROSTARS TRIO 「SOMETHING TOMORROW」
Storyille Records / e-onkyo Flac 96kHz/24bit(Hi-Res) / 2022

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Enrico Pieranunzi (piano)
Thomas Fonnesbæk (bass)
André Ceccarelli (drums)

Recorded on September 5 & 6 by Thomas Vang at Village Recording, Copenhagen 2021

  いまやベテランそのもののイタリア・ピアニストのエンリコ・ピエラヌンッィのニュー・ピアノ・トリオ作品。今回はEUROSTARS TRIOと名付けて巨匠アンドレ・チェッカレリ(drums  フランス 下左)、気鋭トマス・フォネスベック(bass デンマーク 下右)とヨーロッパのジャス界では評価の高いミュージシャンと組んだところが注目される。

Epcasadeljazz2016w   私にとっては、かってのピエラヌンツィのアルバムには、素晴らしい魅力があって・・・彼の1970年ごろからの100を超えるアルバムの中でも、丁度約20年前の2000年前後が最も感動のアルバムに恵まれたときでもあったように思われる(ここでも何度も取り上げたが)。もう昔話になってしまうが、夜になってはそのアルバムを聴くことによって哀愁抒情性の美学により癒しの世界に導かれ、一日の疲労が休まるといった生活をしてきたことが懐かしい。

 しかし、近年は多作で、各種レーベルから毎年いろいろな企画でアルバム・リリースが続いていており(ビル・エヴァンスのトリビュートとか、トランペットとのデュオ、ヴォーカル入りのクインテットなど)、それはサポート役のアルバムであたり、一方バッハ、ヘンデル、スカルラッティとかドビュッシー、ガーシュウィンの曲にも挑戦していたりで、私の彼に期待するものとは少々違ってきていた。演奏の姿も抒情性あるピアノの美旋律の世界から、メンバーとのインタープレイ、インプロヴィゼーションの交錯などのジャズとしての面白みとその成すテクニックの美学などに重きが移り、ミュージシャンの目指すところの姿にも変化を感ずるところもあったように思う。その結果、意外にもかっては考えられない私にとってはとっつきにくいというか、評価は高いが、難解であったり、感動の少ないアルバムもちらほら出現したりと、いろいろと無条件に大歓迎とゆかないところが続いていたのであるだが・・・、今回2019年の『NEW VISIONS』以来だろうか、純粋なるピアノ・トリオとしてアルバムのリリースで、さてどんなところにあるのかと、むしろそんなことに興味を持ちながら聴いているのである。今回も出来るだけピアノの澄んだ音に期待して、E-Onkyoからのハイレゾ音源(Flac 96KHz/24bit)としてダウンロードして手に入れている。

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(Tracklist)

1.Those Days 04:52
2.Perspectives 04:27
3.Wave Of Interest 03:44
4.The Heart Of A Child 04:58
5.Something Tomorrow 03:17
6.What Once Was 04:49
7.Three Notes 03:59
8.Suspension Points 04:20
9.Je Ne Sais Quoi 05:33
10.This Is New 04:50

 さて、結論的なところを先に書こう、「ヨーロッパのロマンが溢れる耽美なピアノトリオ作品」「ヨーロッパのジャズ界で絶頂期にある3人のスターを組み合わせたトリオで、類まれなる個性が出会うことで滅多に見られないドラマチックなアルバム」という紹介文をみるのだが、そうかなぁー-?と思いつつ、まあこんなところに落ち着いたのかと言うところにある。つまりかってのエンリコ・ピエラヌンツィの哀愁感ある抒情性の世界とはやっぱり別物であって、そんなところを求めてはいけないのかもしれない。

 冒頭のM1."Those Days"を聴いて、おおこのアルバムは手に入れた価値はあるぞと感じたのは、そこにはゆったりとした静かなピアノのスタートでちょっと哀愁感が伝わってくるのだが、ベース、ドラムスのリズム隊が加わると一転してムードは朗らかに優雅な世界となる。つまりどこか過去の郷愁を感じつつの美しい人間愛に満ちた世界なのである。
 M2."Perspectives"となると、リズム・アップして私は"眺望"と訳したい世界に。3者の競合が聴きどころ。
 M3."Wave Of Interest "も同様にハイテンポで同様だ。結構ベースの展開が前に出てくる。
 M4."The Heart Of A Child"再びスローに・・ピアノの旋律が優美な世界に誘導。やはり続けて奏でるベースの旋律演奏とともに郷愁感に浸る。
 タイトル曲のM5."Something Tomorrow "、そしてM7."Three Notes "は、トリオのハイテンポ演奏で、演奏技術を聴けばよいのか、それほどスリリングでも無く私的ににはあまり意味を持たなかった。
 M6."What Once Was"これもスローな曲で、ベースのソロに近い演奏とそれを受けて盛り上がるピアノの旋律との流れが美しく優美。
 M8."Suspension Points" 浮遊感を描いているのか、どうも感動というところの曲ではない。
 M9."Je Ne Sais Quoi" よりどころが掴めず難解。
 M10."This Is New " 流麗なピアノとトリオの軽快な演奏で幕。

 私にとっては、トリオの思惑や、ピエラヌンツィを愛する人達とはずれているかもしれないが、注目点は4曲のスロー曲にあった。それは深刻さとか、哀愁とか、哲学的といったやや暗部の匂いのするものでなく、極めて朗々として優雅なのである。
 一方評価するものが言うところの「ベーシストのトーマス・フォンネスベックのテクニック(巧妙さと調和)との対応と、ドラマーのアンドレ・チェッカレッリの繊細なタッチのよく協和する音に対しての"演奏を楽しんだエンリコ・ピエラヌンツィの姿"のアルバム」であったのかもしれない。やっぱり20年前の哀愁のある抒情性の世界とは別物ですね。

(評価)
曲・演奏   85/100
録音     85/100

(試聴)

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2021年3月21日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi 「THE REAL YOU」

ピアノとベースのデュオでエヴァンス・トリビュート・アルバム

<Jazz>

Pieranunzi , Fonnesbaek 「THE REAL YOU」
Stunt Records / Denmark / STUCD 20132 / 2021

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Enrico Pieranunzi (piano)
Thomas Fonnesbæk (bass)

  イタリアのベテラン・ピアニストのエンリコ・ピエラヌンツィが三年前にベースのトーマス・フォネスベック(1977デンマーク生まれ)とのデュオ『Blue Waltz』作品を発表したが、それ以来のこのコンビでの二作目の登場。それもなんと今や伝説のビル・エヴァンス(1929-1980)のトリビュート・アルバムとして気合いが入っている。
 このところエンリコも多作で又々の登場となるが、意外に脇役的アルバムも多かったところに、おそらくこの企画は彼自身の意欲から産まれたものであろうと期待していたものである。
 まあエンリコと言えば、私としてはソロやトリオものにおいても、美旋律叙情派演奏が期待面の大きいところだが、近年は若干その様相を変えインタープレイの妙に傾いているのかと思わせるところがある。そんな点がどうかと興味を持って手にしたアルバム。

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01. Hindsight *
02. Only Child (B.Evans)
03. The Real You *
04. Passing Shadows *
05. Our Foolish Hearts %
06. Sno' Peas 
07. Il Giardino Di Anne *
08. I Will Look After You # 
09. Dreams And The Morning *
10. Interplay (B.Evans)
11. More Stars %
12. People Change #
13. Bill And Bach %

 *印 Enrio Pieranunzi  ,  #印 Tomas Fonnesbæk ,  %印 Enrico & Thomas

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  M01."Hindsight" 案の定、美旋律というよりはインタープレイ美学。
  M02."Only child" で、ビル・エヴァンスとの対峙を演ずる。テンポ・アップで演奏しており、エヴァンスの演奏にみるところの何となく物思いの回顧に誘導される世界は、残念ながら感じない。
 M03 "The Real You"は、エンリコのオリジナル曲で、アルバム・タイトル曲、聴きやすいメロディーが流れるが感動はない。
 M04 "Passing Shadows "は、やや哀愁のあるピアノ旋律から入って、中盤のベース演奏も印象深い。次第にアクティブな演奏に転じて、ここでは"ビル・エヴァンス奏法"の雰囲気は、それなりにイメージさせられる。M03、M04の二曲はクラシック寄りの美的演奏。
 M05."Our Foolish Hearts "ピアノが流すオリジナル旋律に、ベースが流す"My foolish heart"曲で作り上げる技に驚かされる。奇抜な手法での美しさに脱帽。見事な老獪な技の世界。
 M07."Il Giardino Di Anne"は、M3に似た技法だが刺激は少ない。
 M08."I Will Look After You"はフォネスベックの曲となっているが、エンリコの世界そのもの。
 M10." Interplay" 再びエヴァンス曲の登場、新しさは感じなかったが、M11." More Stars "の歯切れの良い高速インタープレイが圧巻。
 M12."People Change" ラスマエのゆったり美学。
 M13." Bill And Bach"のエヴァンスとバッハのテクニックを凝らしての対比が面白い発想。中盤のバッハに痺れる。

 エンリコのピアノは、相変わらず端正にして歯切れの良いピアノ・プレイだ。ドラムス・レスでベースとのデュオとしたところにインタープレイを描くにはとりやすかった手法か。所謂、"哀愁抒情性の美学"のアルバムではなく、"インタープレイ美学"であったと結論づける。まあ、彼らの満足度が大きいかも知れない。それがビル・エヴァンス世界のトリビュートとすればうなずけないことも無い。

(評価)
□ 曲・演奏 : 85/100
□   録音   : 88/100

(試聴)   "Our Foolish Hearts"

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2021年3月13日 (土)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi & Bert Joris 「AFTERGLOW」

なかなかトランペットものは、私的には敷居が高い

<Jazz>
Enrico Pieranunzi & Bert Joris 「AFTERGLOW」
CHALLENGE Records / Austria / CR73460 / 2020

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Enrico Pieranunzi エンリコ・ピエラヌンツィ (piano)
Bert Joris バート・ヨリス (trumpet, flugelhorn)

Recording Studio : MotorMusic, Mechelen(Belgium)
Recording dates : September 7&8, 2018

  このところ矢継ぎ早にお目見えするエンリコ・ピエラヌンツィ(1949-)のアルバム。殆ど企画ものが多いのだが、このアルバムも2018年録音モノでベルギーの名トランぺッター、バート・ヨリス(1957-)とのデュオ。もともと私はトランペッターものは、ほんの限られた演奏者のものしか聴かないのだが、取り得合えず叙情派といってよいエンリコとのデュオものであるというところと、オリジナル曲によるものであることから、アプローチしてみた。

(Tracklist)

01. Siren's Lounge (4:24) *
02. Afterglow (3:31) *
03. Millie (3:18)  #
04. Cradle Song For Mattia (2:51) *
05. Five Plus Five (5:10) *
06. Anne April Sang (5:20) *
07. Freelude (2:24) %
08. What's What (2:38) *
09. How Could We Forget (5:22) #
10. Not Found (3:33) %
11. The Real You (3:03) *

*印 composed by E.Pieranunzi
#     composed by B.Joris
%    composed by E.Pieranunzi & B.Joris

Eb

 案の定、予想通りのエンリコのむしろ黒子役のデュオだ。ヨリスは心得たりと演じているが、これもファンにとってはたまらないと言えるのか、私にとってはどうもイマイチというよりは、心に迫る良い音として聴けないところは、自分自身でもナサケナイ。

 アルバム・タイトルの「Afterglow」は、エンリコのオリジナル曲M2."Afterglow"からきていると思うが、一日でも美しい夕映えや残光を意味する言葉で、"こまでも美しく、きらめくピアノと柔らかいラッパの音色"と言うことのようだが、どうもその世界はこの曲とその他の2-3の曲で聴ける以外では、理解できなかった。
   敢えて言うならば、収録の11曲の中では、それなりの美的世界は感じられたというのが、M2.以外では、M4."Cradle Song For Mattia ", M6."Anne April Sang", M7."Freelude "位で、M4.はメロディーが親しみやすく、M6.は静かな中に味わい深いトランペットの響きが美しい。M7.はスローな展開で、ちょっとした異世界に誘われる。
 M8."What's what"は、ハイレベルな演奏での掛け合いのインタープレイが面白いが、M10."Not found"と共に、アクロバティックで演ずる二人の楽しみのようで、殆ど聴く方としての私個人の興味は湧かなかった。

71wdfxpss3l_ac850  実はこのところリリースされたエンリコ・ピエラヌンツィのアルバムに、もう一枚『THE REAL YOU』(STUCD 20132/2021)(→)というのがあって、こちらはピアノ+ベースのデュオで、実はそれに期待していました(紹介はいずれ)。従ってこちらのこのアルバムに関してはこんな紹介程度にして納めておく。トランペットものの愛好者には是非聴いていただいて評価を聞いてみたいと思うのである。

(評価)
□ 曲・演奏  75/100
□ 録音    80/100

(試聴)

 

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2021年1月15日 (金)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi JAZZ ENSEMBLE 「TIME'S PASSAGE 」

欲張りのヴォーカル入りのクインテット・ジヤズ

<Jazz>

Enrico Pieranunzi JAZZ ENSEMBLE 「TIME'S PASSAGE 」
Abeat For Jazz / IMPORT / ABJZ 219 / 2020

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Enrico Pieranunzi (piano, arrangement) (electric piano on 1, 9)
Luca Bulgarelli (bass except 7)
Dede Ceccarelli (drums except 7)

*special guests:
Simona Severini (vocal except 3, 5)
Andrea Dulbecco (vibraphone except 7)

  日本で圧倒的人気の エンリコ ・ピエラヌンツィ(1949年ローマ生まれ)のピアノトリオを基軸とし、しかも彼のオリジナル曲を中心としたアルバムだが、ヴィブラフォン&女性ヴォーカルのゲスト二人を迎えてのやや異色のアンサンブル編。
 実はエンリコと言うとあのクラシック・ムードのある情緒あるメロディーのピアノの美旋律トリオを私はどうしても期待してしまうので、その世界とは明らかに異なる彼の近年のアグレッシブな姿勢がやはり前面に出てのアルバム。その為少々評価が難しい為に年を越してここに取上げたという次第。

Vvj106_hqf_extralarge  9曲中7曲に登場する女性ヴォーカルのシモーナ・セヴェリーニの歌声が、先ずは重要な役割を果たしている上に、近年ややジヤズ界から後退気味のヴィブラフォンが登場してのピアノの取り合わせが又微妙で、ちょっと意外な世界に流れていくのである。
  そしてもう一つピエラヌンツィとこの女性セヴェリーニのコンビというと、2012年からの関係で、2016年にはアルバム『My Songbook』(VVJ106/2016)(→)だ。これはピエラヌンツィが彼女を全面的にフューチャーしアレンジ、プロデュースを担当した本格ヴォーカル・アルバムだった。その後あのドビュッシーへの想いというちょっと中途半端だったアルバム『Moisieur Claude』(BON180301/2018)にも登場している。そんな流れの中での今回のアルバムなのである。

(Tracklist)
1. Time's passage (Enrico Pieranunzi) 5,40
2. Valse pour Apollinaire (Enrico Pieranunzi) 4,13
3. Biff (Enrico Pieranunzi) 4,33
4. In the wee small hours of the morning (David Mann & Bob Hilliard)*Quartet version 4,58
5. Perspectives (Enrico Pieranunzi) 5,15
6. A nameless gate (Enrico Pieranunzi) 5,04
7. In the wee small hours of the morning (David Mann & Bob Hilliard) **Voice&piano version 3,56
8. The flower (Enrico Pieranunzi) 7,10
9. Vacation from the blues (Arthur Hamilton/Johnny Mandel) 5,53

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 上のように、8曲中6曲はピエラヌンツィのオリジナルと言うことで、さてさてどんな美旋律ピアノの世界かと興味津々といったところ。しかし驚くなかれ、ここは期待に反してと言ったところでもあるが、今回のピエラヌンツィ(p)は、主役の座をヴォーカルのセヴェリーニやパーカッシブにメロディーを演ずるデュルベッコのヴィブラフォンに多くは譲っていて、むしろ引き立て役やリード役に徹した感がある。従って控えめに節度を保ちつつ、ゲスト陣の演ずるところに、端麗な味わい深いピアノを添えて演ずる。ただし時にアクセント聴かせてのリズムカルなプレイも披露もしている。そんなところで所謂ピアノ・トリオものとは全く別のアンサンブルな音作りのアルバムになっているところが特徴だ。

Simonaseverinijbw_20210114205401  そして重要なシモーナ・セヴェリーニのヴォーカルは、なかなかテクニックのある上クラスではあるが、中・低音に質量があるハスキー・ヴォイスでのその発声と声の質にはおそらく好みが分かれそう。

 M1."Time's passage "は、アルバム・タイトル曲で、ピアノ・トリオとゲストのヴォーカルとヴィブラフォンの演奏だが、美しさという世界でも無く、ヴォーカル曲というのでも無く、アンサンブル尊重なのか、意味のあまり理解できない曲。
 まあ、彼女のヴォーカルを主体に聴くならM2., M4.といったところか。M2."Valse pour Apollinaire"は、リズムカルにして、メロディーがよく、彼女は生き生きとしていてパリ・ムード、演奏も躍動感あって良い曲に仕上がっている。一方M4., M7. " In the wee small hours of the morning"はフランク・シナトラが歌った名曲で、しっとり歌い上げて聴き応えあるし、ヴィブラフォンとピアノとの相性が良い美しいヴォーカル曲として上出来。
 ところがM6."A nameless gate"あたりは、ヴォーカルと演奏におけるピアノの美しさが中途半端。何に感動して良いのか考えてしまうという状態。
 とにかく聴くにポイントはそれぞれ多々あるのだが、例えばM7.のヴォーカルと続くM8." The flower"で盛り上げた何か訴えてくるムードはかなり良い線をいっているにもかかわらず、M9."Vacation from the blues "のアンサンブルで全く別世界に連れてゆかれ、描いた世界が台無しになってしまう。描く世界の主体がハッキリしない変わったアルバムであった。

 結論的には、それぞれの曲には聴き所があるにもかかわらず、ヴォーカル・アルバムか演奏のアルバムなのかの聴いた後の感想がまとまらない作品だ。まあヴォーカル込みのクインテット・アルバムとしておこう。


(評価)

□ 曲・演奏・ヴォーカル    80/100
□ 録音            85/100

(視聴)

 

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2020年12月21日 (月)

年末恒例の寺島靖国プレゼンツ「Jazz Bar 2020」

ピアノ・トリオ一点張りから、今年はサックスものも登場

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2020」
Terashima Records / JPN / TYR-1094 / 2020

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 しかし驚きですね、なんとこのコンピレーション・アルバムは20年の経過で20巻目のリリースとなったことだ。今こうしてみると過去のアルバム全てが棚に並んでいて、私にとっては好きなシリーズであったことを物語っている。

 プロデューサー寺島靖国(右下)は常々「歳と共に変化を楽しみ、常に新鮮な気持ちと興味を維持すべし」と口にしているとか。ピアノトリオへのこだわりは相変わらずだが、オーディオ的好みはその録音やミキシングのタイプにも確かに変化は出てきている彼だ。近年は前へ前へと出てくるリアル・サウンドから、音楽としての臨場感、奥行きの感覚に磨きがかかってきた感がある。
 そして「哀愁の名曲」探しは相変わらずで、我々日本人の心に沁みるメロディーを追求くれている。その為私も好きな欧州系をかなり探ってくれたという印象がある。新世代のミュージシャンの発見にも寄与してきてくれているし、私にも大いに影響を与えてくれたこのコンピレーション・アルバム・シリーズはやはり楽しみなのである。

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01. Night Waltz / Enrico Pieranunzi Trio
02. Elizete / The Chad Lawson Trio
03. Morgenstemning / Dag Arnesen
04. C'est Clair / Yes Trio
05. Tangorrus Field / Jan Harbeck Quartet
06. Danzon del Invierno / Nicki Denner
07. Bossa Nova Do Marilla / Larry Fuller
08. Contigo en la distancia / Harold Lopez-Nussa
09. La explicacion / Trio Oriental
10. Soft as Silk / David Friesen Circle 3 Trio
11. Vertigo / Opus 3 Jazz Trio
12. The Miracle of You / Niels Lan Doky
13. New York State of Mind / Harry Allen

 冒頭のM1."Night Waltz"は、昨年ここでレビューしたエンリコ・ピエラヌンツィのアルバム『NEW VOSION』(2019)(下左)からの曲。そしてM3."Morgenstemning "が北欧ノルウェーのダグ・アネルセンのかなり前の三部作のアルバム『NORWEGIAN SONG 2』(LOS 108-2/2011)(下中央)からであり、この2枚のアルバムが私の所持しているものであった。その他11曲は、幸運にも私にとっては未聴のアルバムからの選曲であり、初聴きで期待度が高い。
 そもそもこのアルバムを愛してきたのは、結構日本にいる者にとって一般的に知られていないモノを紹介してくれていること、又私のジャズ界では最も愛するピアノ・トリオものが圧倒的に多い、更にどことなく哀愁のある美メロディーを取上げてくれていることなどによる。そして初めて知ったものを私なりに深入りしてみようという気持ちになるモノが結構あることだ。更になんとなく欧州系のアルバムも多いと言うことが私の好みに一致しているのである。

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   M1."Night Waltz"と続くM2." Elizete "は、哀愁というよりはどちらかというと優美という世界。
 M3."Morgenstemning" 聴きなれたグリークのクラシックからの曲。ノルウェーのミュージクですね。美しい朝の光を浴びて・・・と言う世界。とにかく嫌みの全くないダグ・アネルセンの細工無しの美。
 M5."Tangorrus Field" (上右) 寺島にしては珍しくテナー・サックスの登場。デンマーク出身のヤン・ハルベック。私はうるさいサックスはちょっと苦手だが、彼の演ずるは豪放と言うが、この曲では何故か包容感のある優しさと幅の広さが感じられ、ピアノとの演じ合いに美しさすらある。今回のアルバムには、最後のM13."New York State og Mind"にはHarry Allenのサックスがやはり登場する。
 M7."Bossa Nova Do Marilla" は、ボサノバと言いながらも、驚きのLarry Fullerのピアノの旋律を演ずる流れはクラシックを思わせる。
 M8." Contigo en la distancia"(下左)、キューバのHarold Lopez-Nussaにしては、信じれないほど哀愁の演奏。いっやーー驚きました。
 M10."Soft as Silk" (下中央)、ベーシストのDavid Friesenの曲。どこか共演のGreg Goebelのピアノの調べが心の奧に響くところがあって、この人の造る曲にちょっと興味を持ちました。ベーシストって意外に美旋律の曲を書く人が多い気がしますが・・。
 M12."The Miracle og You" (下右)、このピアニストの Niels Lan Dokyって、実は名は知れているにもかかわらず過去に聴いて来なかった一人で、今回ちょっと興味をそそる技巧派ピアノに聴き惚れて、興味を持たせて頂きました。

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 今回は大きな獲物に飛びつけたという衝撃は無かったが、やはり寺島靖国の選曲にはやはり優美さ、美しさ、哀愁などはそれぞれにどこかに感ずる処があって、やはり年末恒例でこうして聴くことはベターなコンピレーション・アルバムと言うことことが出来る。
 とにかく20周年の成人となったこのシリーズにお祝いしたいところであった。

(評価)
□ 選曲、演奏           88/100
□ 録音(全体的に)      85/100

(参考試聴)

jan Harbeck Quartet "TANGORRUS FIELD"

*
Dag Amesen  " MORGENSTEMNING"

 

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2020年3月 1日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi 「COMMON VIEW」

オリジナル曲による創意の結晶といった流れ

<Jazz>

Enrico Pieranunzi  Jesper Somsen  Jorge Rossy
「COMMON VIEW」
CHALLENGE RECORDS / AUSTRIA / CR73459 / 2020

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Enrico Pieranunzi エンリコ・ピエラヌンツィ (piano)
Jasper Somsen イェスパー・サムセン (double bass)
Jorge Rossy ホルヘ・ロッシー (drums)
Recorded at MotorMusic, Mechelen(Belgium)
Recording dates : September 10 & 11,2018

 はっきり言ってこのアルバムも難物です。これは2018年の録音モノだが、エンリコ・ピェラヌンツィは近年この傾向にあることは解っての上でのアプローチであった。とにかくヨーロッパ叙情派ピアノの代名詞的彼であるが(1949年、ローマ生まれ)、このアルバムは極めて端麗なピアノ・タッチが聴かれるもハードにして軽快な転回をみせたり、美旋律を奏でるので無くトリオのそれぞれのアクセントを許容し協調してゆく妙を描く世界に専念していての曲作り。安易な叙情的美を求めるとしっぺ返しが来る。

 

Enricopieranunzi2w (Tracklist)

01. Falling From The Sky (JS)
02. Silk Threads  (JS)
03. Sofa  (JR)
04. Turn In The Path  (EP)
05. Love Waiting Endlessly (JS) 
06. Perspectives  (EP)
07. Instant Reveal I *
08. Who Knows About Tomorrow  (JR)
09. Instant Reveal II * 
10. Recuerdo  (JR)
11. Song For An August Evening (EP)

(JS):Jasper Somsen、(JR):Jorge Rossy 、(EP):Enrico Pieranunzi 、*印:三者

 それにしてもこのトリオのそれぞれの演奏の切れ味は見事と言いたい。けっしてピアノを前面に出してのベース、ドラムスが単なるリズム隊としてのサポートという単純なトリオ演奏では無い。収録曲は彼らがそれぞれ3曲づつ提供し、そして三者による2曲のオリジナル計11曲である。単なるカヴァーという世界で無いので、それは彼らの意志の見せ処としての曲構成展開が演じられているところにある。

 とにかく私にとってようやくゆったり許容できたのは、M2."Silk Threads "、M11."Song For An August Evening "の2曲くらいであった。多分こうゆうアルバムは聴いたことのある旋律が顔を出してホッとさせてくれるというものでないので、恐らく何回と聴いていく内に何かが見えてくるのであろうという世界なのだ。
 冒頭のM1." Falling From The Sky "は三者のお披露目、コラボレーションの妙。M2."Silk Threads "はがらっと変わってゆったりした世界。M3.Sofa""、M4."Turn In The Path"はコンテンポラリーにして実験音楽的ニュアンス。
 M7."Instant Reveal I"はピアノの音の美しさが演じられるも、曲の展開が異様で緊張感を誘う。そしてM9."Instant Reveal II"に繋かがり、三者の交錯が興味をひく。

Trio1

 近年のエンリコ・ピエラヌンツィの単なる耽美性から一歩も二歩も歩んだ彼の創意の意欲から生まれる世界だ。それはトリオのコラボレーションを楽しむ瞑想感覚のあるミステリアスにしてスリリングな一つの世界なのである。
 私からすると、とくにM11."Song For An August Evening "が往年のエンリコ・ピエラヌンティの演奏を思い起こさせて、救われた感じを持ったエンリコ・ワールドであった。

(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★☆  80/100
□ 録音   ★★★★☆  80/100

(試聴) 

 

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2019年12月25日 (水)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi Trio 「NEW VISIONS」

ロマンティックな哀愁とスリリングなダイナミックな演奏と
・・・・トータル・アルバムとして聴くに意味がある

<Jazz>

Enrico Pieranunzi Trio 「NEW VISIONS」
Storyville / IMPORT / 1018483 / 2019

Newvisionsw

Recorded March 10,2019 at The Village Recording,  Copenhagen

Enrico Pieranunzi(p)
Thomas Fonnesbaek(b)
Ulysses Owens Jr.(ds)

Recorded March 10, 2019 at The Village Recording, Copenhagen
Produced by Enrico Pieranunzi and Thomas Fonnesbæk
Executive producer: Christian Brorsen
Mastering: David Elberling
Recorded and Mixed by Thomas Vang
Design: FinnNygaard.com
Photos: Gorm Valentin
Liner notes: Christian Brorsen
Thanslation: Steve Schein
Financial support: MPO & Kjeld Büllow
(Storyville 1018483)

  イタリアのもうピアノの巨匠とも言えるエンリコ・ピエラヌンツイ(1949年ローマ生まれ)のメンバーを一新してのピアノ・トリオ作品。本作はデンマークのStoryvilleレーベルからのリリースだ。今年の録音である。場所はコペンハーゲン、そんなことから実質的なリーダーはベースのトーマス・フォネスベックだったのかもしれないという説もあるが、いずれにしてもピエラヌンツィのピアノとの相性も良いようで、このアルバムは両者がそれぞれの曲を提供しつつ、又トリオとしての3人によるオリジナル曲がアルバムの骨格を造っている。

 とにかくピエラヌンティのややおとなしめの曲と対比的にフォネスベックの曲がダイナミックなところもあって、なかなか飽きさせないアルバムとして仕上がっている。

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(Tracklist)

1. Free Visions 1 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 3:25
2. Night Waltz (Enrico Pieranunzi) 3:20
3. Anne Blomster Sang (Enrico Pieranunzi) 6:47
4. You Know (Enrico Pieranunzi) 6:35
5. Free Visions 2 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 2:03
6. Free Visions 3 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 4:06
7. Alt Kan ske (more Valentines) (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 6:46
8. Free Visions 4 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 4:08
9. Brown Fields (Thomas Fonnesbæk) 5:07
10. Dreams and the morning (Enrico Pieranunzi) 4:13
11. One for Ulysses (Enrico Pieranunzi) 4:40
12. Orphanes (Thomas Fonnesbæk) 5:10

  上のように、収録12曲の内、ピエラヌンティの曲が5曲。フォネスベックの曲が2曲。3人による曲が5曲という構成だ。やはりピアニストとしてのピエラヌンティの曲は多くなるのは解るが、特徴はトリオ三者による"Free Vision"(自由構想 ?)と銘打った曲が4曲と多いと言うことだろう。
 アルバム・タイトルの「NEW VISIONS」と言うのが意味深で、"新しい構想"、"新しい展望"、"新しい幻影・光景"と言ったところなのだろうか。
 ドラマーのオウエンスJrも、ピエラヌンティの静かな曲では繊細に、三者の共作曲に於いては即興入りの結構ダイナミックに演ずるところがありなかなか聴くに飽きない。又フェネスベックのベース・ソロもそれなりに取り入れられていて聴かせどころが盛り込まれ、ピエラヌンティ・ワンマン・トリオというところにはなく、三者バランスのとれた意欲的なトリオ演奏である。

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 M1."Free Visions 1" は、リズム隊が活発でテンションの高い演奏からスタートしてピアノが同調してゆく形をとっている。これは所謂ピエラヌンティの叙情的世界とは違って新鮮なところを狙っているところが見える。まさに"新しい幻影"といったところか。
 そしてそれに続いてM2."Night Waltz"一転してのピエラヌンティの夜の華やかさを描くワルツ、そして彼の曲らしいM3." Anne Blomster Sang"に流れ、M4."You Know"で、静かに説得力のあるやや暗めの沈静的な世界をピアノの美で描く。
 そうかとしていると再びM5."Free Visions 2"M6."Free Visions 3"はこのアルバムの大切な骨格の三者の前衛的なメロディ・レスの硬質アクションが展開。 
 このように美メロディーのロマンティックな哀愁感をしっとり聴かせ、今回のテーマである4曲の"Free Visions"では、圧倒的ダイナミズムとスリリングな即興を交えた硬質アクションを展開して、とにかく緩急メリハリの効かせた躍動的世界を形作っている。ドラムス一つとっても繊細なタッチと迫力ある重量級の音が、時に現れ時に変化して面白い。
 ここまで来ると、このトリオがアルバム・タイトルを「NEW VISIONS」とした意味が十分理解できるアルバムとなっているのだ。従ってピアノの主役性は失ってはいないが、ベース、ドラムスがかなりその持ち味を心置きなく発揮している様が、曲の重きに貢献している。
 さらにサービス精神も旺盛で、M11."One for Ulysses"では所謂近年のヨーロッパ的でないスウィンギーな展開まで見せてくれている。このあたりは芸達者というところか。

 「静」「動」、「暗」「明」、「沈着」「躍動」、「軽」「重」が交錯するなかなかレベルの高いところでのトリオ演奏を目指していて見事と言いたい。
 音質も録音法によるものか、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれくっきり見えていてこの点も評価に値する。ちょっと前進のあるアルバム作りで、トータル・アルバムとして聴くところに意味がある。90点の高評価としたい。

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★★☆
□ 録音    ★★★★★☆

 

(試聴)

*

 

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