ケティル・ビヨルンスタ

2013年9月 9日 (月)

ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstad の傑作(回顧2):「The Sea」

「静」にしてスリリングな危機意識と美

<Contemporary music, Jazz>
Ketil Bjrnstad  David Darling  Terje Rypdal  John Christensen

   「The Sea」
    ECM Records  ECM 1545  521718-2 ,  1995

Thesea2 さてさて、ノルウェーの作家で有り、作曲者であり、そしてジャズ系ピアニストのケティル・ビヨルンスタの話が続いているのだが、彼の傑作と言われるアルバム「The Sea」だ。先日ここで取り上げた「the River」(1997)の2年前の1995年作品であるが、私自身は先に「The River」を聴いて驚いて、その為に彼の傑作としてさかのぼってこれを聴いたという経過であって、その為「The River」を知ったほどは驚かなかったのだが・・・・・・。
 ここに取り上げた順番はそんな訳で、リリース順でなく私の聴いた順に従ったモノ。それでもこちらは彼のピアノに加え、Cello の他にGuitar と Drums とのカルテット作品と言うだけあって、「静」の中にも結構イメージが違うのである。

Theseamembers Ketil Bjørnstad : piano
  David Darling : cello
  Terje Rypdal : guitars
  John Christensen : drums

 (tracklist)
     Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅵ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸ,Ⅹ,ⅩⅠ,ⅩⅡ

 このアルバムも12曲より構成されているが、上のように数字のみ。
 この作品は、私の聴いた限りに於いては、冒頭はビヨルンスタの得意とする思索的なメロディーを流してくれるが、次第に静の中に結構スリリングな演奏による音の展開がチェロにしろギターにしろ聴かせてくれるので(”Ⅱ”の後半などから)、こちらは私の愛するミュージックの歴史でもあるかってのプログレッシブ・ロックの世界と同じ気分にもなれたものだ。特に”Ⅳ”にその色合いが濃い。このアルバムのイメージは哀愁、抒情、美しさという後期ビヨルンスタの得意分野だけに収まる世界ではなく、そこには何か不安のある緊張感を持たせてくれる。そのあたりが傑作と言われる一つの世界なのであろう。
 しかし”Ⅴ”にはビヨルンスタの美しく抒情性のあるピアノの流れがあるし、それに次いでのギターの泣きは、若き頃のロックで歩んできた私にとってはお気に入りの展開なのであった。
 ”Ⅹ”、”ⅩⅠ”に於けるそれぞれの楽器が異様に盛り上がるところはまさにContemporary Music と言っても良いのだろう。ギターの異音とピアノの大きな波のうねりを連想させる演奏には圧倒される。
 最後の”ⅩⅡ”は静かなピアノが再び静かさを取り戻した海の如く響くのである。
 まあ、このアルバムは全曲ビヨルンスタの作曲だが、あくまでもカルテットとしての色彩が濃い。従って彼の美しいピアノを主体に期待するわけにはゆかないというところ。

Kb3 このようなビヨルンスタの構築するContemporaryな世界に一度は足を踏み込んで、そうしたミュージックの流れを体感するのは悪くないと思う。そんなことで私のビヨルンスタの多くの作品の中のわずかな経験したアルバムを取り上げているわけだが、ロック派からの流れはこの「The Sea」(1995)、そしてクラシック系からは「Preludes」(1984)、「The River」(1997)、映画音楽系からは「La notte」(2013)と入って行くと面白いのでは?、なんてふと思ったりしているのです。

(試聴) http://www.youtube.com/watch?v=D627sFeuBh0

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2013年9月 7日 (土)

ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstadの美学(回顧) : 「The River」

深淵で、そして美しく、物語が展開する

<Jazz, Classic> Ketil Bjørnstad David Darling 
                
「The River」
                      ECM Records  ECM1593 ,  1997

Theriver

 もう本格的な秋の夜なんですね、私の居住地では虫の音の大合唱である。窓を開けてその合唱を聴きながら、私の拙いオーディオ装置からそれに似合った音をとなると、ついに至る所に至ってしまった・・・・と、言うところで私の数少ないケティル・ビヨルンスタの体験の中から過去の一枚を取り上げる。

 とにかくピアノの調べばかりでなくクラシック全体に酔った時期もあった私の若き時代には、一方プログレッシブ・ロックの流れはしっかりと押さえていたが、実はジャズは殆ど聴いていなかった。ベートーベンのヴァイオリン・ソナタなどヴァイオリンとピアノの美しさに酔ったときなどもジャズは全く私の場合は蚊帳の外、それでもただジャック・ルーシェのブレイ・バッハなどは彼の日本デビューからリアル・タイムに聴いてきたのであったが、ビル・エヴァンスとかはアルバムを買っても何故かご執心になることはなかったのだ。しかしおかしな事にハービー・ハンコック、キース・ジャレットはそれなりに聴いていたから不思議である。まあハービー・ハンコックはクロス・オーバーのタイプで襲ってきたのも事実だが。そうそうハービー・マンとかバーデン・パウエルなども聴いてきた。
 そんなことでありながら、しかし自然にジャズの魅力は歳をとるに従って濃厚に感ずるようになって、いろいろ聴くようになった。そして何年か前に突然知ったこのビヨルンスタは驚異であった。ジャズとは?クラシックとは?何ぞや・・・・と、問う代表格の彼の作品に感動を知ったのである。そんなことが、前回紹介の「La notte」の登場で思い起こされたというところである。

Ketildavid  Ketil Bjørnstad : piano
  David Darling : cello


 さて、このアルバム「The River」は、ビヨルンスタのピアノとチェロとのデュオ作品として私の大切な1997年の作品。
  ビヨルンスタは1952年、ノルウェー・オスロ出身でクラシック・ピアノからジャズ畑に進出して、Chamber Jazz, Folk Jazz, New age という分野に色分けされているようだが、このアルバムのチェロリストのデヴィッド・ダーリングDavid Darlingは1941年生まれのアメリカ出身で、やはり同様な分野に作曲者、演奏者として活動してきた(彼のアルバムはECMから「Cello」(1992年)、その他「Cello Blue」(2001年)というのが良かった)。私の知るところでは、ビヨルンスタの代表的アルバムの1995年の「The Sea」でも(これはカルテット・アルバムだが)共演している。

Theriverlist2_2

 ”Ⅰ”、”Ⅲ”はクラシック調の優しい曲。そして”Ⅱ”、”Ⅳ”のピアノはややジャズ的で美しさは圧巻。”Ⅴ”は、チェロとピアノの絶妙なバランスで深淵な世界に。
 ”Ⅵ”のピアノが主体のクラシカルな繊細さのある曲で優しさ美しさも一級品。
 ”Ⅶ”は、このアルバムで最も長い曲であるが、静かにゆったりとそして哀愁のある世界をピアノ、チェロの響きで堪能できる。
 続く”Ⅷ”では彼等のテクニックが交錯してスリリングな面を示す現代音楽調の曲。こうした曲を取り入れてのアルバムをトータルに構築していくところが聴く者にとっても感動の流れを呼ぶのだ。
 そして”ⅩⅠ”で深淵な世界にもどり、”ⅩⅡ”の優しい曲で幕を閉じる。

Ketil1 
 

 とにかくジャズ・ピアノの世界も広しといえどもここまでクラシカルなサウンドを主体に聴かせてくれるのはこのケティル・ビヨルンスタが最右翼であろう。そしてソロ、デュオ、トリオ、カルテット、女性ヴォーカルを取り入れるなどなど、1970年代からの長い歴史の中で、彼は彼の道を崩さず歩んできている。
 しかし今年の「La notte」を聴いても、決してマンネリ化はしていない。北欧から更にこれからもプレゼントを頂きたいものと期待しているである。

(試聴)http://www.youtube.com/watch?v=LeAAUPPkZI0

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2013年9月 5日 (木)

ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstad~初秋の夜はこれ! : 「La notte」

「寂しい人生の夜」が描かれる

<Jazz> Ketil Bjørnstad 「La notte」
             ECM Records    ECM 2300  3724553 ,  2013

Lanotte_2
 ノルウェーのベテラン・ピアニストであるケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstadの演奏する世界は、果たしてジャンルはジャズと言ってよいものか?、クラシックでもあり現代音楽でもありポピュラーでもありながら、ECMからしっかりリリースしているところからもやっぱりジャズなんでしょうね。
 と言うところで、今年のアルバムはこの「La notte」。今回はいつもと言っては語弊があろうが、やっぱりチェロを擁しての下のようなメンバー。しかしサックス、ギター、ドラムスとくるからこれはかなりジャズよりのアルバムだろうと期待してよいところ。しかし単純にジャズと言い切れない世界を知ることになる。

LanottemembAndy Sheppard (tenor & soprano sax)
Anja Lechner (cello)
Eivind Aarset (guitars, electronics)
Arild Andersen (double bass)
Marilyn Mazur (per, drums)
Ketil Bjornstad (piano)

 まあしかし先頃(2008年のアルバム「The Light」)は、ビオラとの共演とクラシックの本格的女性ヴォーカルが登場したりして、決して悪くないのだがジャズ・ファンとしては、なかなか対応が難しいピアニストのアルバム。
 もともとクラシックから出発してジャズの世界に入り、ピアニスト、コンポーザーとしての活動に加え、一方小説家としての業績も多いビヨルンスタのこと、アルバムにもそれぞれ一つの世界が登場する。そんなところで私は彼の音楽に対しては素人そのもの、やたら多いアルバムも殆どきちんと聴いていない。かってのアルバム「The River」(1996年)のように、チェロとのデュオが印象深いと言ったところは十分納得しているのだが。

Kbjo さて今回のこのアルバムも、8曲と言っても下のように、ⅠからⅧまでと曲名も単純。全てで一曲と言っても良いのかも知れない。そして全体の印象を一言で言えば”夏の去った寂しさの秋に聴く調べ”ってところだろう。
 そもそもこのアルバム・タイトル”La notte”は、昔のイタリア映画のタイトルである。訳せば「夜」、ミケランジェロ・アントニオーニの監督作品で、ジャンヌ・モローとマルチェロ・マストロヤンニの主演する空虚な男女の関係を描いたもの。上のアルバム・ジャケはその一シーンであったのであろうか?。多分その世界を意識して聴かねばならないビヨルンスタの作品だ。

(Tracklist)
1.I
2.II
3.III
4.IV
5.V
6.VI
7.VII
8.VIII

 とにかく”Ⅰ”のスタートから”静”そのもので”暗い”というか”深淵”というか・・・・、次第に聴こえてくるドラムスの弱い暗い響き、ピアノの音、そしてチェロが美しく重く響き渡る。”ああ、ここに人生があるのだ”という世界を印象づける。もうここで美しさ故に聴き込まざる世界に没入、逃れられない。”Ⅱ”になると、今度はチェロに変わりサックスが泣く。とにかくビヨルンスタのピアノはメロディーを奏でるのでなく、チェロ、サックスにそれをまかせ、バックに複雑にして聴き安い不思議な流れを作り、ベースも厚みを増すが如く響くのである。
 しかし、すくなくとも私がかじった彼のアルバムでは、最も魅力的といえる曲の流れである。そこにパーカッションまで、ドラムスまで素晴らしい。”Ⅳ”になって初めてピアノが抒情的な物語りを展開する。

 初秋の夜に聴くせいかこのアルバムの素晴らしさに虜になってしまうのである。スローに始まりそのまま行くのかと思いきや早いリズムも現れるが、なんとしてもサウンドは深淵である。”Ⅶ”のスリリング、エキサイティングな展開は予想をひっくり返すが、ここに来てジャズの美学がしっかり流れていることを知るのである。”Ⅷ”は再び暗い寂しい夜の世界に、チェロとピアノの音(ね)と共に沈んでゆく。

 しかし驚きは、このアルバムはジャズ・フェスティバルのライブ録音ということだ。これを会場でどんな雰囲気で聴いたのであろうか、まさに想像は不可能に近い(会場の聴衆の雑音は一切無い)。それは美の思索のアルバムであるからだ。

(参考試聴)"Prelude 13" http://www.youtube.com/watch?v=9prfTfSkOjU

 
 
 

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