映画・テレビ

2016年10月15日 (土)

アンジェイ・ワイダAndrzej Wajda監督 波乱の人生に幕

多くの教訓を残して90歳で死去

640  悲しい訃報ですが、'50年代後半からポーランド映画界での活躍によって、映画史に残る映画監督・巨匠アンジェイ・ワイダ Andrzej Wajdaが10月9日に亡くなった。90歳でした。

 初期の代表作「抵抗三部作」と言われる(「世代」、「地下水道」、 灰とダイヤモンド」)でも日本でも広く知られて来た訳だが、ポーランド社会の宿命的苛酷な運命を描き、それは国際的評価を得た。ポーランドの激動の時代に波瀾万丈の人生を生き抜いて来たワイダは、映画を通じて我々に多くの教訓を残してきた。

58_ その多くの作品の中でも、まず「灰とダイヤモンド」(1958)は、私の映画史に於いても重要な位置にある。ドイツ・ナチス占領下からドイツ降服に至った直後の1945年のポーランドを背景に、そこにみたソ連共産主義統治下の圧政に対しての抵抗組織に属した青年を描いたもの。その彼が労働党書記を暗殺しようとすることで起こる暗い悲劇の物語だ。ゴミ捨て場で人間の価値観も感じられない虫けらのように息絶える主人公のラストの姿の虚しさを見るにつけ、歴史に翻弄されるポーランドの悲劇そのものを描いて衝撃的でした。

   アンジェイ・ワイダは、1926年、ポーランド北東部スヴァウキ生まれ。第二次世界大戦中は反ナチスのレジスタンス活動に参加した。ウッチ映画大学を卒業後、1954年に「世代」で監督デビュー。常にポーランドを愛し、この国の苛酷な運命を描いた。
   81年には、ポーランド民主化を率いた自主管理労組「連帯」を題材にした「鉄の男」を発表し、カンヌ映画祭のパルムドール(最高賞)を獲得した。だが同年の戒厳令で映画は公開禁止となり、映画人協会長の職を追われた。その後一時消息不明となる。
 しかし民主化激動の89~91年には上院議員を務め、連帯議長から大統領に就任したワレサ氏の諮問機関「文化評議会」の議長に就いた。

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 2000年以降も80歳という高齢でありながら、創作意欲はすざまじく、ソ連によるポーランド軍人らの2万人以上と言われる大量虐殺事件が題材の「カティンの森」(07年)を製作した。この映画の描く虐殺された軍人の一人は彼の父親でもあったことから、ワイダにとってはようやく自由を勝ち取ったポーランドで描かざるを得なかった宿命の映画であっとも言える。この映画が日本に紹介されるまでは、彼の存在すら明らかで無く、投獄されていたという話もあった時期があった。その為この映画の出現は、映画以上に私にとっては驚きを持って歓迎したのであった。

 更にポーランド民主化への労働者に生まれた運動を描いた「ワレサ 連帯の男」(13年)などを発表した。もうここまで来ると映画の出来ということより彼の生きてきた執念の総決算という感じだった。
 そして今年、90歳になっても、共産主義時代を生きた前衛芸術家を描く新作を完成させたばかりだった。

 一方、ポーランドと言う国は歴史的にも日本との関係は良好で、今でも語られる杉浦千畝のユダヤ人救出、シベリアにおけるポーランド孤児救出、モンテ・カシーノの激戦にてポーランド部隊と日系人部隊の共闘などから親日家が多い。
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 芸術を愛するワイダも若き日に浮世絵などの日本美術に感銘を受け、そんなところからも親日家だった。87年に受賞した京都賞の賞金を基金に母国の古都クラクフに日本美術技術センター「マンガ」(→)を設立した。このセンターは日本の伝統工芸品や美術作品で中・東欧随一のコレクションを持っている。

 アンジェイ・ワイダの死は、世の定めとは言え日本にとっても悲しい出来事である。しかし彼もようやく安らかな時を迎えたのかも知れない。いずれにしてもご冥福を祈りたい。

(参考)<アンジェイ・ワイダ監督作品>

 世代 Pokolenie (1955年)
地下水道 Kanał (1957年)
灰とダイヤモンド Popioł i diament (1958年)
ロトナ Lotna (1959年)
夜の終りに Niewinni czarodzieje (1960年)
サムソン Samson (1961年
シベリアのマクベス夫人 Powiatowa lady Makbet (1962年)
Popioły (1965年)
Gate to Paradise (1968年)
すべて売り物 Wszystko na sprzedaż (1969年)
蝿取り紙 Polowanie na muchy (1969年)
戦いのあとの風景 Krajobraz po bitwie (1970年)
白樺の林 Brzezina (1970年)
婚礼 Wesele (1973年)
約束の土地 Ziemia obiecana (1975年)
大理石の男 Człowiek z marmuru (1977年)
麻酔なし Bez znieczulenia (1978年)
ヴィルコの娘たち Panny z Wilka (1979年)
ザ・コンダクター Dyrygent (1980年)
鉄の男 Człowiek z żelaza (1981年)
ダントン Danton (1983年)
ドイツの恋 Un amour en allemagne (1983年)
愛の記録 Kronika wypadków miłosnych (1986年)
悪霊 Les possédes (1988年)
コルチャック先生 Korczak (1990年)
鷲の指輪 Pierścionek z orłem w koronie (1992年)
ナスターシャ Nastasja (1994年)
聖週間 Wielki Tydzien (1995年)
Panna Nikt (1996年)
パン・タデウシュ物語 Pan Tadeusz (1999年)
Zemsta (2002年)
カティンの森 Katyń (2007年)
菖蒲 Tatarak (2009年)
ワレサ 連帯の男 Walesa. Czlowiek z Nadziei (2013年)

(アンジェイ・ワイダの人生)

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2016年8月 9日 (火)

ピンク・フロイドPink floyd 前代未聞のスケールで=ボックス・セット「The Early Years 1965-1972」

驚異の超レア音源・映像全7巻27枚組ボックス・セットの登場
  (CDx10 + DVDx9 + Blu-rayx8 + 7インチシングルx5)

  ~(価格)さあ、どうする・・・・→ 8万円(実売 \62,000か?)~

<Progessive Rock>
PINK FLOYD 「EARLY YEARS 1965-1972」

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 しかし、途轍もない企画物がリリースされますね。まだまだピンク・フロイドは売り物になるんですね。なんとCD、DVD、Blu-rayなど27枚組セット。
 「Columbia/legacy」レーベルのオフィシャル盤。今年11月の発売だが、既に話題が騒然としている。
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 これは1965年から1972年までのピンク・フロイドの膨大な保存記録の未発表音源・映像など詰め込んだ。なんと12時間33分の音源、15時間の映像物なのだ。しかも長編映画は「ザ・コミッティー」「モア」「ラ・ヴァレ」の3本収録と。
 過去にいろいろと集めた私にとっても、おそらく初物が納められている可能性も高く、これは無視できないと・・・・言うことになってしまうのだが。

 なんと言ってもこの60年代から70年始めは面白いですからね・・・。ネタは山ほどある。

Pf1■「シド・バレットの狂気」
■そしてシドが抹殺されて・・・・立て直しに「ロジャー・ウォーターズの奮戦記」ギターにギルモアを正式メンバーに登用したが、バレットとの反動が大きく反発もあって、ウォーターズは一生懸命作曲してギルモアに唄わせて(”Green Is The Colour”、”Cymbaline”など)、次第に彼ら4人のパターンを構築して行く。
■実はアルバム「モア」、「ウマグマ」、「原子心母」の頃が最も面白い時期なので、その当時の資料満載。→これからほぼ完成形の「おせっかい」に向かう。
■オフィシャルの「箱根アフロディーテ」の映像は如何(まあ、そう凄い物は出ないでしょうが)

・・・・・・と、言うところで11月までに貯金ですね(笑)。

(参考)[主たる収録内容]

■ 第一巻:1965-1967 CAMBRIDGE ST/ATION (ケンブリッジ駅)
EMI契約前のデモからアルバム未収録ヒット・シングル、関連トラックまで、シド・バレット在籍時代をカバーする第1巻。ピンク・フロイドの私蔵映像も収録される。

■ 第二巻:1968 GERMIN/ATION (germination=発芽)
シド・バレット脱退直後、ピンク・フロイドが引き続きシングルの曲作りをしながら、同時によりイ ンストゥルメンタルを重視した独自のスタイルを発展させていった時期を探求している。未収録シングル、キャピトル・レコード・スタジオ・セッション、BBCセッショカなど。

■ 第三巻:1969  DRAMATIS/ATION (dramatization=戯曲化、脚色)
1969年、ピンク・フロイドは夢想、覚醒、その他の活動からなる24時間をテーマとした「The Man」と「The Journey」の2部からなるコンセプト・ライヴ・プロダクションを発表した。本巻は「The Man」と「The Journey」のツアーに遡り、アムステルダムでのライヴ 音源やロンドンのBBCで行なわれた演奏を取り上げている。
 映像マテリアルにはアンソニー・スターン監督による、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールで行わ れた「The Man」「The Journey」の20分に及ぶリハーサル映像。ベルギーで行われたピンク・フ ロイドのライヴ・ステージにフランク・ザッパが飛び入りで共演した「星空のドライヴ」を収録して いる。

■ 第四巻:1970  DEVI/ATION (deviation=逸脱、偏向)
1969年暮れと1970年初期、ピンク・フロイドはミケランジェロ・アントニオーニの米国社会に対す る新たな見解を描いた映画『砂丘』への提供曲の録音とミックスを行った。3曲がサウンドトラッ ク・アルバムに収録され、さらに4曲が1997年に発売された同作のエクスパンデッド・エディショ ンに収録されている。
 本作に はオーケストラや合唱団との共演によるBBCでの初演時の音源が収録されるほか、『原子心 母』の4人のメンバーだけの初期スタジオ・ヴァージョンも収録されている。更にDVDにはオリジ ナルの4チャンネル・ステレオ・ミックスが収録される。
 映像マテリアルにはサンフランシスコのケーブル・テレビ局KQEDで行われた、まる1時間に及ぶピンク・フロイドのライヴ映像、『原子心母』の歴史的パフォーマンスの抜粋、フランス南部で行われたサン・トロペ・フェスティヴァルをフランスのテレビ局が取材した際の映像などが含まれる。

■ 第五巻:1971 REVERBER/ATION (reverberation=残響)
アルバム『おせっかい』のアルバム片面を占める「エコー ズ」を中心に。「Nothing」から「Return Of The Son Of Nothing」まで 展開していく「エコーズ」プロジェクトの制作過程でのオリジナル・デモ音源の一部や、同時期の BBCセッション音源が収録される。
 「エコーズ」の4チャンネルによる未発表オリジナル音源の他、ピンク・フロイドの初来日公演である1971年8月に箱根の芦ノ湖畔 でおこなわれたフェス“箱根アフロディーテ”出演時のライヴ映像「原子心母」も収録されてい る。

■ 第六巻:1972  OBFUSC/ATION  (obfuscation=曖昧化)
アルパム『雲の影』を録音した。バーベット・シュ ローダー監督の映画『ラ・ヴァレ(La Vallée)』のサウンドトラックである。本巻のCDに収録されて いる『雲の影』は新たに2016年にREMIXされたもの。
 本巻の映像マテリアルには映画『ライヴ・アット・ポンペイ』の演奏を新たに5.1オーディオ・ミックスに編集したものや、同時代にフランスのテレビ局で収録された映像、1972年6月にブライトン・ドームで行われた演奏、ローラン・プティのバレエ団との共演映像などが含まれる。

■ 第七巻:BONUS CONTINU/ATION (Exclusive to 'The Early Years 1965-1972' box set) (continuation=継続)
初期のBBCラジオ出演時セッション、映画『ザ・コミッティー』のオーディオ・トラック、1969年のNASAによる月面着陸生中継時のサウンドトラックとしてピンク・フロイドが提供した音源などが収録される。
 長編映画『ザ・コミッティー』、『モア』、『ラ・ヴァレ』の3本収録される他、ライヴ映像やフェスティヴァルでの演奏も収録される。

■ 7インチ・シングル×5(オリジナル復刻スリーヴに収納)
・Arnold Layne C/W Candy And A Currant Bun
・See Emily Play C/W The Scarecrow
・Apples And Oranges C/W Paintbox
・It Would Be So Nice C/W Julia Dream
・Point Me At The Sky C/W Careful With That Axe, Eugene


視聴)「The Early Years 1965-1972」

"Careful With That Axe, Eugene "

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2016年6月15日 (水)

私の映画史(25) 感動作ジョン・フォード作品「捜索者」

 映画が社会文化であった時代の感動作

 このところ、西部劇映画ファンであった私の昔話のなかで、なんとなく西部劇というモノが下降線を辿(たど)るようになった時代に、あっと驚きの作品群が1960年代の「マカロニ・ウエスタン」であって、その為印象が強かったものを懐かしく回顧してきたわけだが(「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続夕陽のガンマン」 「怒りの荒野」など)。
 ・・・・ここまで西部劇映画に焦点を当てるとなると、やっぱり取りあげなければならない映画があって、ここに登場させるのだ。

ジョン・フォード監督・ジョン・ウェイン主演
「THE SEARCHERS 捜索者」 (1956年米)

61vudua5r6l__sl1087_監督:ジョン・フォード 
製作:C・V・ホイットニー 
製作総指揮:メリアン・C・クーパー 
原作:アラン・ルメイ 
脚本:フランク・S・ニュージェント 
撮影:ウィントン・C・ホック 
音楽:マックス・スタイナー

出演:ジョン・ウェイン、ジェフリー・ハンター、ナタリー・ウッド、ヴェラ・マイルズ、ウォード・ボンド


 ジョン・フォード監督とジョン・ウェインのコンビの西部劇映画となれば、やっぱり名作は「駅馬車 STAGECOACH」(1939年米)と言うことになるのだが、その後の1940年代の「アパッチ砦」(1948)、「黄色いリボン」(1949)、 「リオ・グランデの砦」(1950)の騎兵隊3部作と言われる名作もある、これらは、私は日本公開時に観たものでなく、後から評判の映画として観たものだ。しかしこの「捜索者」は、自分で映画を観ようと思って見た日本公開リアルタイム観賞映画の感動作なんですね。そんなことで印象も深いわけである。

原作はアラン・ルメイの小説だが、1960年に実際に起きた事件をヒントにしたもの。
(物語)
 アメリカ南北戦争の南部連合に従軍し敗戦後、帰ってきた西部にて、コマンチ族に弟一家を殺され、二人の姪(ルーシー、デビー)をさらわれた男イーサン。もともと時代の変化に取り残された西部開拓の中で活きてきた彼は、ネィティヴ・アメリカンを異様なまでに憎悪する男であり、さらわれた直後には殺された姪ルーシーを発見したが、幼い妹のほうのデビーは連れ去られた事を知り、彼はコマンチ族に対して一層増した憎悪を燃やす復讐鬼となった。そして、彼は何年も捜索を続けていたのだったが、年月が経過する中で、連れ去られインディアンに育てられた姪デビーは既に白人ではないと考え、たとえ見つけても殺さざるを得ないという気持ちになってくる。案の定やっと探し当てた姪のデビーは、インディアンの言葉を操り、イーサンから逃れようとする。完全なコマンチ族となってしまった(?)デビーに、イーサンは銃を向けるが……。

Img_1_m ジョン・フォードの描くこの男の執念の旅の叙情詩は、期待と空しさを交錯させる闘いの時代を生きてきた鬼気迫る男の姿を広大な西部をバックにして観る者に訴えてくる。
 西部開拓、南北戦争と生き抜いてきた男が、新しい時代にどう活きるのか?・・・・、そんな時に起きた事件で、彼の人生の全てを賭けての復讐劇が始まるのだ。そして彼が目的を果たしたときに空虚な気持ちと孤独感に襲われながら、自分の時代は終わったと、映画ではその彼の後ろ姿をシルエットとして描き終わるのである。

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 西部劇の名監督とされるジョン・フォードであるが、彼の描くところはやはり人間劇である。この映画は究めて残酷で暗いテーマであるが、その残酷シーンは、想像させるだけで映像としては描かない。又暗い物語であるが、人間の人間らしいユーモラスな姿を必ず挿入して単なる暗さに終わらせない。
 更に最後には主人公のイーサンが幾多の闘いの歴史から形成されてきた自己の人格による孤独の中に、新しい時代に向かおうとする未来志向の印象も少しは残しているところがジョン・フォードの見事な手法なのである。
 派手な活劇のオンパレードを期待した当時の西部劇ファンは若干がっかりしたようだが、その後時代とともにこの映画の評価は上がってきたと言う代物。近年の西部劇ベスト・テンではトップに躍り出ることが多い。又主演のジョン・ウェインは微妙な心理の変化を十分演技しているところにその評価もある。
 やはり西部劇映画の名作である。

(参考映像 1)

(参考映像 2)

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2016年6月 5日 (日)

私の映画史(24)  マカロニ・ウエスタンの懐かしの傑作「怒りの荒野 I GIORNI DELL'IRA」

マカロニ・ウエスタンのマカロニ・ウエスタンらしからぬ味
     ~「ガンマン十戒」と人間の生きる道~

<マカロニ・ウエスタン1967年作品>
   
伊/独 映画

「怒りの荒野 I GIORNI DELL'IRA(Days of Anger)」

138583_01監督:トニーノ・ヴァレリィ
脚本:エルネスト・ガスタルディ、トニーノ・ヴァレリィ 
撮影:エンツォ・セラフィン 
音楽:リズ・オルトラーニ
出演:ジュリアーノ・ジェンマ、リー・ヴァン・クリーフ、アンドレア・ボシック、ワルター・リラ、イヴォンヌ・サンソン

 ロン・バーカーの小説から生まれたイタリア西部劇。
 あの1964年のマカロニ・ウエスタン「荒野の用心棒」(セルジオ・レオーネ監督)の大成功から数年後(1967年)に生まれた作品。セルジオ・レオーネの助監督を務めたトニーノ・ヴァレリィの監督で、”マカロニ・ウエスタンらしからぬ残虐性を押え、人間性に迫った傑作”と私は思っている。
 これまでにこのマカロニ・ウエスタンで重要俳優となったリー・ヴァン・クリーフLee Van Cleefと人気のジュリアーノ・ジェンマGiuliano Gemmaの共演がみものであった。

  (物語)
E88d92e9878e09 スコット(ジュリアーノ・ジェンマ)は、売春婦の児。町の住人は彼を人間扱いしない。汚物回収をしながら暮らすスコットは、金を貯めていつか拳銃を手に入れ、ガンマンとして成り上がり皆を見返すときを夢見ていた。ある日、町にタルビー(リー・ヴァン・クリーフ)という凄腕のガンマンが現れた。スコットを認めてくれた彼にすっかり心酔し弟子入りする。そして銃の手ほどきを受けながら「ガンマン十戒」をたたき込まれ、片腕として活躍する。しかし、師のタルビーの非情さに疑問を持ち不信感を抱くようになる。そこに恩人であるマーフをタルビーが射殺した時、スコットの怒りはついに爆発。タルビーとの対決の時を迎える。

Ikari3_2 とにかくこの映画を一流にしたのは、リー・ヴァン・クリーフの演ずるニヒルなガンマンの魅力によって支えられたところと、ジュリアーノ・ジェンマの演ずる人間としての姿の交錯がみごとであったところによる。
 娯楽作であるからこそ、銃撃戦や決闘シーンなどの見せ所は十分に盛り込んでいるし、一方単なる殺しの映像で無く、珍しく残虐性は控えている。そして「ガンマン十戒」(下記参照)や「早撃ちの為の拳銃」という西部劇の面白みの本質にも迫っている。そして重要なことは、”人間としての大切さの部分”も忘れていないことだ。
 更に映画としての展開も見事で、クライマックスへの運びも上手いし、又リズ・オルトラーニによる音楽が素晴らしい。躍動と哀愁とそして映像の盛り上がりを聴かせるのだ。

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 映画文芸作品と言われるモノとは相対するマカロニ・ウエスタンであったが、観る者は人間であるから、これはそこに差し込んでくる魅力があった傑作と言いたい。映画は所詮娯楽もの、仰々しく「文芸大作」なんて銘打たなくても、この映画のように娯楽に徹しながらも、キラっと光るモノがあると言うのが最も傑作・名作と私は思うのである。

最後に、ここに登場する如何にも西部劇と言う「ガンマン十戒」をここに記す。
(教訓の一) 決して他人にものを頼むな( Never beg another man.)
(教訓の二) 決して他人を信用するな( Never trust anyone.)
(教訓の三) 決して銃と標的の間に立つな( Never get between a gun and its target.)
(教訓の四) パンチは弾と同じだ、最初の一発で勝負が決まる( A punch is like a bullet. If You don't make the first one count good.)
(教訓の五) 傷を負わせたら殺せ!見逃せば自分が殺される(You wound a man, You'd better kill him. Because sooner or later, he's gonna kill You.)
(教訓の六) 危険な時ほどよく狙え( Right put it, right time, well aimed.)
(教訓の七) 縄を解く前には武器を取り上げろ( Gonna untie a man, take his gun before then.)
(教訓の八) 相手には必要な弾しか渡すな(Don't give a man any more bullet, You know he's gun use for.)
(教訓の九) 挑戦されたら逃げるな、全てを失う事になる( Every time You have exact challenge, You lose everything in life, anyway.)
(教訓の十) 殺しは覚えたらやめられない(When You start killing, You can't stop it.)

(視聴1)

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2016年3月25日 (金)

懐かしの西部劇と音楽=モリコーネEnnio Morriconeとマカロニ・ウェスタン -私の映画史(23)-

映画音楽が盛り上げたと言えば「マカロニ・ウェスタン」

 もともと私は映画音楽から音楽に興味を持った人間と言ってもよいくらいに、感受性豊かな年頃の時は映画音楽が花盛り。ヒット・チャートでも殆どが映画音楽が上位を占めていた。
 最近、ふと昔の映画が懐かしくなって観ることがあるのだが、懐かしの西部劇となればやはり日本の時代劇と同じに、アメリカ本場の西部劇も1939年の『駅馬車』がスタートで、ジョンフォード監督、ジョン・ウェイン主演のパターンの歴史みたいなものだったとも言えるが、とにかく1950年代が花。この辺りの映画については今までもすこしづつ触れてきたのでいずれ又もう少し掘り下げたいが・・・、1960年代にはもはや西部劇も斜陽映画となってしまった。

 ところが、なんとイタリアが自国での映画の不振に陥り、その一つの突破口として、日本の黒澤明監督・三船敏郎主演の『用心棒』(1961年)からヒントを得て、所謂「マカロニ・ウェスタン」作成に入ったら大当たり。これから一時代を築くことになった。
(参照)http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-6db1.html

Em1_2 そこで「マカロニ・ウェスタン」で、ふと思い出すのは、所謂『ドル箱三部作』(Dollars Trilogy)、または『名無し三部作』(Man with No Name Trilogy)と言われたクリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督作品のマカロニ・ウェスタン3作品だ。
 そして音楽はこの三作ともエンニオ・モリコーネEnnio Morricone(1928~)だ。これによって彼も映画音楽作曲家として世界的になった。そしてその後の映画界に残した音楽としての功績は大きく、現在も80歳後半に入って健在。そうそう思い起こせば『ミッション』、『アンタッチャブル』、『海の上のピアニスト』も良かったですね。

Photo
■ 『荒野の用心棒』 ( A Fistful of Dollars、1964年(日本公開1965年))
  監督 セルジオ・レオーネ
  主演 クリント・イーストウッド
  音楽 エンニオ・モリコーネ

  とにかくこの映画、若きまだ無名のセオジオ・レオーネ監督が、日本の『用心棒』をそっくり拝借して西部劇版として作成したんですね。それが断りなしに作ったものだから、日本東宝から訴えられてしまった。それが又”不幸中の幸い”と言ってよいのか、世界でそのことが話題になって興味を呼んで大ヒットした。なんと言っても話の筋はもともと面白く出来ているので、それはそれで観た者には喝采を浴びたのだのだが・・・、バックに流れる音楽が又最高でした。そこはやっぱりイタリアですね、あのエンニオ・モリコーネが作った「さすらいの口笛」、これは孤高のガンマンのムードたっぷりで、この映画を大いに盛り上げたのだった。

511rrwztrpl■ 『夕陽のガンマン』 (For a Few Dollars More、1965年)
  監督 セルジオ・レオーネ
  主演 クリント・イーストウッド
      リー・ヴァン・クリーフ
  音楽 エンニオ・モリコーネ

 しかしマカロニ・ウェスタンと言っても、監督と音楽はイタリアであるが、主演はアメリカからのクリント・イーストウッドであり、又 リー・ヴァン・クリーフであってアメリカとは別物というわけでもない。撮影はスペインで行われたという代物。
 ここでもイーストウッドの特に名前のない賞金稼ぎのニヒルにして格好良さも売り物の話だが、もう一人のモーティマー大佐役のクリーフの役柄の味付けも良く、話は面白くなっている。彼の映画俳優としても、その存在が国際的になった映画でもあった。
 やはりここでもエンリオ・モリコーネの音楽が盛り上げるんですね。

817ilctx8l__sl1500_2 『続・夕陽のガンマン~地獄の決斗』 ( The Good, The Bad and the Ugly、1967年)
  監督 セルジオ・レオーネ
  主演 クリント・イーストウッド
      リー・ヴァン・クリーフ
      イーライ・ウォラック
  音楽 エンニオ・モリコーネ


 南北戦争の時代背景での善玉、悪玉、卑劣漢の三人のガンマンの隠された金貨を巡ってのあれやこれやの奪い合い。これもイーストウッドとクリーフの味付けが映画を面白くしていた。
 そしてモリコーネの音楽がバックで盛り上げるんですね。「黄金のエクスタシー」(原題:L'Estasi Dell'Oro)が流れ、三人による対決には「トリオ」(原題:Il Triello)が流れる。映画史の中でも必ず取りあげられるほどの三つどもえの決斗シーンは有名だが、これも音楽があっての緊迫感であった。

 エンニオ・モリコーネのマカロニ・ウェスタンの音楽は絶賛を浴びたのだが、これも彼に言わせるとベースは、あの映画『リオ・ブラボー』、『アラモ』に流れる”皆殺しの歌”(ディミトリ・ティオムキン作~彼はやっぱり凄いです)の線を頭に入れて作ったとか、なるほどと思わせるところである。

(試聴1)「荒野の用心棒」

          *          *          *         *

(試聴2)「夕陽のガンマン」

          *         *         *         *

(試聴3)「続・夕陽のガンマン」

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2015年12月29日 (火)

懐かしの西部劇=「リオ・ブラボーRIO BRAVO」VS.「真昼の決闘HIGH NOON」   -私の映画史(22)-

「真昼の決闘 High Noon」(1952年)のアンチテーゼ作品として作られた
         「リオ・ブラボーRIO BRAVO」(1959年)
     
      ~相対する西部の町の保安官ものの二作品~

Riow「リオ・ブラボー」 (RIO BRAVO)1959
U.S.A.   ワーナー・ブラザーズ
監督 Howard Hawks
脚本 Jules Furthman, Leigh Brackett
原作 B.H.McCampbell
音楽 Dimitri Tiomkin
出演 John Wayne
      Dean Martin
     Ricky Nelson
     Walter Brennan
     Ward Bond

 名匠ハワード・ホークスと偉大なるスター・ジョン・ウェインが、あの名作と言われる「真昼の決闘」のゲイリー・クーパー演ずる保安官に不満を抱き、7年後に作成した西部劇「リオ・ブラボー」、これには本物の保安官の姿と本物の娯楽西部劇を描ききった。

 そもそも、歴史的に西部の町においての保安官というのは、無法者に相対する事が多い為に、拳銃使いがその任に選ばれた。つまり拳銃使いというのは、所謂無宿者に近い、まあヤクザといっていいものに近いタイプで一般町民とは異なる。それが治安を維持するために銃を使って統治する役を町の人達から任命され雇われたのだ。

Highnoon「真昼の決闘」 (HIGH NOON)1952U.S.A. ユナイテッド・アーティスツ 監督 Fred Zinnemann、出演 Gary Cooper, Grace Kelly
 人気のゲイリー・クーパー主演で、緊迫感があって評判の映画だったが・・・・。(主題歌”ハイヌーン”もヒット)

 ところが、この映画のクーパー扮する保安官は、出獄して来たならず者と相対するに当たって、かたぎの町民に助っ人を頼むことから始まる。しかし銃による闘いが起きる可能性がある場合は、常識的には保安官というのは、一般のかたぎの町人に助けを求めると言うことはしない。つまりかたぎの者を巻き添えにすることは論外あるのだ。にも関わらずこの映画では、町民全てに断られ孤立する保安官を描くのだが、実はそれは当然のことであるのだ。そして助っ人役を断った町民の姿をネガティブな人間の姿として描くこの映画は、とにかく非常に暗く人間不信を植え付ける。決闘後、町を去る保安官は、厳しく不信の目を町民に向ける。
 こんな姿には、特にハワード・ホークスは全く納得出来ないものであったのだ。
 つまりそれは映画を観る者が主人公の保安官に同情させる為の手法であったのかも知れないが、西部の純朴な開拓民を知るものにとっては、更にそれを描く西部劇を愛する人達とっては、とても容認出来るものでなかっのだった。又この映画は人間のネガティブな姿を描くことに終始している。これも又西部劇を描いてきたハワード・ホークスとジョン・ウェインから言わせると否定的なのである (映画「赤い河」参照http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/red-river-2c35.html )。

Riobravo7_2 さてここで「リオ・ブラボー」の話に戻るが・・・・・・・
 ウェイン扮する保安官は、 ならず者と相対する時に、助けが一人でも欲しいのだが、助っ人を申し出た町民やかたぎの者にはそれを断り、事件に関係を持たないように指導する。一方、こうした拳銃による闘いが行われようとしている時には、拳銃使いの無宿者やヤクザ者ならば助っ人として採用する。そこに両映画に描かれる保安官の姿は、基本的に全く姿勢が違うのである。
 つまりかたぎの町民は関係させない。拳銃による闘いというのはそうしたヤクザ者の世界であるのだ。そしてその闘いが多勢に無勢で不利そのものであって、その任務には恐れや不安があるのだが、そのそ振りを見せないように努める。そして実際には町民は無知ではなく、そのような保安官の姿を見た人達が自然に助ける方向に向いてくる。ハワード・ホークスはそんな人間を信じてのつまり”ポジティブの姿”を重要視しているのだ(映画「赤い河」も同じ)。

Johnwaynedeanmartin それから「真昼の決闘」では究極は”男女の関係”のみが頼みとして描かれ、男同士の人間関係に実るものが描かれていない。それに対する「リオ・ブラボー」は、男女の関係以上に難しい”男と男がどのようにして結びついて行くか”を描くところにその価値観を持つのである。

 ジョン・ウェインの演ずる保安官と片足不自由な老兵スタンピー(ウォルター・ブレナン)、アル中の保安官助手デュード(ディーン・マーチン)、早撃ちの若者コロラド(リッキー・ネルソン)のこの4人の男の次第に強まる結びつきが、実に人間的なのである。西部劇であるから当然”銃による闘いの見せ場”はちゃんと盛り込んではいるが、実はこの映画はそこにみる男同士の繋がりの美しさに感動が生まれるところが傑作と言われるところなのだ。

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 3人のならず者に銃を向けられ、銃を持っていないジョン・ウェインにリッキー・ネルソンは左手でライフルを投げ渡し右手で発砲、両者で3人に撃ち勝つこのシーンは、西部劇の醍醐味だった(このシーンはスローで見ても、ライフルを受け取ったと同時に発砲しているジョン・ウェインはお見事)

Pc221764w 又ウォルター・ブレナン演ずるじいさん(これが良い味を出している)が、ジョン・ウェインの尻を箒で打つシーンは、過去に無かった男同士の心の繋がりが見事に描かれている。

 この映画に盛り込まれた「男の関係」は、ユーモアを交えながら人間味の豊かさを描ききって見事と言わざるを得ない。又西部劇というものの娯楽性にも十分配慮され、男女の話も交えて、その楽しさもしっかりと描く。
  Dimitri Tiomkinの音楽が又素晴らしい。”ライフルと愛馬”、”皆殺しの歌”、”リオ・ブラボー”と当時ヒットを飛ばした(「真昼の決闘」の主題曲”ハイヌーン”もDimitri Tiomkin)。
 究極は”人間とは信じられるもの”として描き、それを尊重した西部劇に十分なる娯楽性を盛り込んで、見せ場も豊富に描き込んでの映画として、傑作西部劇として今も愛されている(参考:ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の「駅馬車」も、西部の純朴な人間像を描いている)。

<ハワード・ホークスHoward Hawks (1896-1977)>
 アメリカ・インディアナ州生まれ、生家はセレブ。大学は機械工学を学ぶ。夏休みのバイトで映画会社に関係、舞台装置や助監督、美術部門に。第一次世界大戦・空軍入隊。22年映画の脚本家契約。26年フォックス社で「栄光の道」で監督デビュー。男の友情や闘いのテーマの作品が多い。34年初の西部劇「奇傑パンチョ」。戦後の「赤い河」(48)がヒット。その後ジョン・ウェインとのコンビで「リオ・ブラボー」など。

 

(映画「リオ・ブラボー」)

                            *                            *

(映画「真昼の決闘」)

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2015年12月 5日 (土)

ロジャー・ウォーターズRoger Waters 映像盤 : 「ROGER WATERS THE WALL」

映画として仕上げたロック・ライブ・ショー「THE WALL」
   ~やはりここにも反戦の姿が~

<Progressive Rock>
 Roger Waters 「ROGER WATERS THE WALL」
        UNIVERSAL / 61174998 / 2015

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製作 Roger Waters
監督 Roger Waters  & Sesan Evans
脚本 Roger Waters  & Sesan Evans
Director of photography  Brett Turbull
United Kungdom  /  133 minutes

 いよいよ出ましたね、先般世界規模で一斉公開した映画版”ロジャー・ウォーターズの「THE WALL-LIVE」”ここにきてBlu-Ray盤での登場。「THE WALL」の映画としては1982年アラン・パーカー監督ものが懐かしいところ。(参照:「Pin Floyd THE WALL」 http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/pink-floyd-the-.html

Rw10b2 とにかく舞台装置が大きすぎてのライブであったため、なんと1年間かけてじっくり世界のポイントを回る予定のツアーが、その成功が思った以上で、2010-2013年の足かけ4年間に渡る過去に例のない大ツアーとなってしまったもの。その結果、4大陸にわたって3年間で219公演450万人以上のファンを動員し、ソロ・アーティストとしては歴代最高の興行収益を記録した。しかしとにかくステージ作りの資材・機器と、その運搬費用、更に技術スタッフの費用が莫大で、収益という点ではウォーターズは大きくは期待していなかったようだ。
 音楽史上最も成功したツアーのひとつでもあると言われているが、これはむしろウォーターズが資材を投げ打って世界に彼の存在をアッピールした生涯をここに賭けての彼自身の最大の行事であった(残念ながら日本公演なし)。

(メンバー)
ボーカル・ギター・ベース: ロジャー・ウォーターズ
ギター: デイブ・キルミンスター
ギター: スノーウィ・ホワイト
ギター: G.E.スミス
キーボード: ジョン・カーリン
ハモンドオルガン・ピアノ: ハリー・ウォーターズ
ドラム: グラハム・ブロード
ボーカル: ロビー・ワイコフ
バックボーカル: ジョン・ジョイス、パット・レノン、マーク・レノン、キップ・レノン

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 これは映画版の『ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール』であって、史上最大のスケールの「The Wall Live ツアー」の様子を収録しての制作ではあるが、ウォーターズの父親が1944年にイタリアで戦死して眠る墓地の場所へ、さらにはなんと祖父もその父親が2歳の時にやはり戦死していることが明かされ、その為その埋葬地をも訪れ、そこにウォーターズは息子Harry Watersと娘India Waters等と訪れるシーンも描かれる。そんなロードムービー的な映像を盛り込んでいる。
 それは彼の人生の中でも最もネガティブな因子、それは戦争というモノによって及ぼされた父親の存在を失った事。そして幼少期から若きロッカーとしての活動期の精神的負担をによっての不安定な人間の側面を吐露し、それを歌い上げたピンク・フロイド時代のアルバム『THE WALL』(1979年リリース)を全曲演じて、これを通じて自己の人生の負の根幹に一つのけじめを付ける旅を描いているのだ。
 特に父Eric Flecher Watersと母に抱かれている赤子のロジャーの一緒に撮られた写真は印象深く、その直後に父は出征し第二次世界大戦の激戦地イタリアのアンツィオで戦死し、激戦地で有名なMonteCassinoにある墓地に埋葬されている。
 この作品のコンセプトとして、”戦争や紛争というものによる多くの犠牲を被る人間の悲惨さ”を描いた反戦の要素を描こうと試みているところが重要だ。

 さてこの映画は、2014年トロント映画祭でプレミア公開され話題を呼んだものであり、それに加え今年2015年9月に一夜限りの企画として全世界中の映画館で統一してプレミア上映され、結果的に何十万人ものファンを動員することとなったものである。
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 そもそもこのアルバム『THE WALL』の占める位置は・・・・・・・・、
 1977年、ロックというミュージックの転換期に、ピンク・フロイド時代のロジャー・ウォーターズは、社会批判とミュージック・パターンのよりアグレッシブな方向への転換を試みたアルバム『アニマルズANIMALS』を作成した。しかしそのツアーでは圧倒的な支持を得ながらも、そこに集まった観衆の騒ぎとも言える状況を見るに付け、自己の精神性との隔たりに嫌気がさし、次回はステージに”壁”を築き上げ観衆と隔離した状況で演奏しようというなんとも前代未聞の大胆な発想を持って、それから生まれたアルバムであり、そこに彼は自己の人生の父親不在の悲惨な部分、幼少期の社会からの逃避、疎外感、教育のマイナス部分、そして成人した後の負の部分を背負った自己の生活の破綻を暴露し歌い上げ、社会に訴えたものである。

(参照)「アニマルズ」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/pink-floyd-1729.html
 
 アルバム『THE WALL』リリース後、1980年から1981年に行われたツアーは、圧倒的支持を得ながらも壮大な仕掛けを用いた過去に無い大がかりのツアーであったことと、スケールが大きすぎたため、その費用が莫大となり収支マイナス、多大な借金を背負うことになり4都市31公演にとどまった。
 しかしロジャー・ウォーターズの『ザ・ウォール』の再演は常に秘めたる”志”であって、2回目は、1990年7月21日、有名ミュージシャン達が集結し、西ドイツと東ドイツを隔てていたベルリンの壁の崩壊直後の跡地ポツダム広場で、災害救済記念基金チャリティー・コンサートとして開催。20万人を集めて世界的話題になった(Roger Waters 「THE WALL-Live in Berlin」)。
 そして最初のツアーから30年後(2010年~2013年)に、3回目としてウォーターズにより企画されたのが今回の世界ツアーだ。

(参照)第一回「ウォール・ツアー」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/the-wall-359e.html
     「ベルリン・ウォール・ライブ」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/the-wall-12cc.html

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 さて、この映画『ROGER WATERS THE WALL』のBlu-ray発売で、かってのピンク・フロイドやロジャー・ウォーターズのファン以外の世界中の者にも、この「THE WALL」というものの凄さを見せることが可能になったのではないか?。一方、評論家たちが「目を見張るばかり」「素晴らしい映像」と形容したと言っているが、この映画は、やはり4K技術での撮影という最新技術を投入していて確かに美しく圧巻。更にロード・ムービーに描かれる自然の風景もその詩情性に惹かれるところであった。

Tumblr_nvgs7e3r2 又ライブ会場のスケールの大きさと、舞台の構成、投影される映像とサウンドの高技術と精度の高さ、見事な総合芸術であった。私から見るとロック・ライブと言うよりは、ジャンルを超えたミュージック・ショーと行った方が良いと思う。
 そしてそこにあるウォーターズ独特の圧倒的ロック・サウンド、人間性に迫る内容と反戦的物語が観る者をして圧倒する(左の”A THEFT”が印象的)。特にウォーターズ自身の内面的に傷ついている人間像を露呈しているところに更に感動を呼ぶ因子を抱えているのである。

 残るはやや残念なところは、ミュージシャンの演奏姿に十分な時間が割かれていないところだ。つまりステージ・ロック・ライブ映像を目的にしていないところのマイナス部分である。まあそこまで要求も酷かも知れないが、私的には三人のギター演奏、ジョン・カーリン、ハリー・ウォーターズの演奏姿など、もう少しじっくり観たいという欲求もあるのだが・・・・、しかしそれは過去の多くのブートで観てきたところで、今回のこれにはあまり要求しないことにする。

(視聴)

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2015年11月22日 (日)

映画 時代劇回顧シリーズ (7) 勝新太郎「座頭市物語」  -私の映画史(21)-

一世を風靡した勝新太郎の”座頭市シリーズ”

 1960年代前半に東映は既に時代劇に精細を欠き”任侠路線”に主なるところは切り替え、そこに来て1966年中村錦之助退社で時代劇は打ち切られた。一方大映は市川雷蔵の1963年”眠狂四郎シリーズ”と1962年「座頭市物語」をヒットさせ、その後1973年「新座頭市 笠間の血祭り」まで勝新太郎の”座頭市シリーズ”は25作と連続ヒットさせた。しかしその大映も1969年に市川雷蔵の死去などにより一次の華々しさは消え、なんと1971年は倒産している。
 しかしその座頭市は、勝プロによって1989年には勝新太郎が自らのメガフォンをとって「座頭市」26作目を制作した。

大映映画 勝新太郎「座頭市物語」
                         (1962年公開)

  • B
    企画:久保寺生郎
    原作:子母沢寛
    脚本:犬塚稔
    監督:三隅研次
    撮影:牧浦地志
    録音:大谷巌
    美術:内藤昭
    照明:加藤博也
    音楽:伊福部昭
  •  (キャスト)
    座頭市:勝新太郎
    平手造酒:天知茂
    おたね:万里昌代
    飯岡助五郎:柳永二郎
    笹川繁造:島田竜三
    松岸の半次:三田村元
    飯岡の乾分・猪助:中村豊
    飯岡の乾分・蓼吉:南道郎
    飯岡の乾分・政吉:千葉敏郎

     あの時代劇映画に新風を吹き込んだ勝新太郎の「不知火検校」から発展したという座頭市シリーズ。その第一作が1962年に公開されたのがこの「座頭市物語」であった。これもシリーズとして作られたのではなく、大ヒットでこの後次々と制作されるに至ったもの。

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     もともとこの座頭の市というのは、子母澤寛が雑誌「小説と読物」へ1948年に連載した「ふところ手帖」の一編「座頭市物語」が原作だという。しかしこの原作の座頭市像と映画ではかなり違いがあって、この映画にみる座頭市像は、脚本の犬塚稔や監督の三隅研次、そして勝新太郎によって作られたモノと言ってよいようだ。
     同じめくらと言っても、不知火検校のような悪人像で無く、世間からはまともに相手にされない者の生き様を描いたのであり、そんな中でのしぶとさとしたたかさ、そしてその強さには感服する。
     しかし、これはハンディを背負った人間の哀歌でもある。万里昌代演ずるおたねとの関係も決して対等に相対すことの出来ない市の一歩退いた哀しさを描いているのである。
     そして天知茂の平手造酒と勝新の座頭市との全く異なったタイプの対比とその運命の流れがこの映画では良いですね。いずれにしても人間ドラマなんですね。
     やっぱりヒットの要因は、盲目の市の瞬速の居合い斬りの迫力、そして仕込み杖・逆手刀殺法がお見事だったことでしょうね。それに人情味溢れた物語には、やっぱり痺れたんです。

    Photo_4
     この後、このシリーズは、次第に市の不気味さとスーパー・マン的強さを見世物に観衆を沸かせるシリーズとなって行くのであるが・・・・。
     最大のヒットは1970年の第20作「座頭市と用心棒」でした。人気の三船敏郎=用心棒を登場させたのには、ファンも驚きだった。しかも嵐寛寿郎までも登場して脇を固めた。これがこのシリーズの絶頂期と言って良いのであろう。

     勝新太郎は当時別に映画「悪名」「兵隊やくざ」などもヒットさせていたが、やっぱりこの座頭市は群を抜いて人気があり、彼の俳優生活の看板にもなったのであった。

     そして時代は劇場公開映画から茶の間のテレビ時代と変化する時でもあって、後にテレビでも「座頭市」をシリーズ化して、茶の間を湧かしたのである。

    <映画 座頭市シリーズ>

    ①座頭市物語(1962年)
    ②続・座頭市物語(1962年)   
    新・座頭市物語(1963年)
    ④座頭市兇状旅(1963年)
    ⑤座頭市喧嘩旅(1963年)
    ⑥座頭市千両首(1964年)
    ⑦座頭市あばれ凧(1964
    ⑧座頭市血笑旅(1964 
    ⑨座頭市関所破り(19641230日)
    ⑩座頭市二段斬り(196543日)
    ⑪座頭市逆手斬り(1965918日)
    ⑫座頭市地獄旅(19651224日)
    ⑬座頭市の歌が聞える(196653日)
    ⑭座頭市海を渡る(1966813日)
    ⑮座頭市鉄火旅(196713日)
    ⑯座頭市牢破り(1967812日)
    ⑰座頭市血煙り街道(19671230日)
    ⑱座頭市果し状(1968年810日)
    ⑲座頭市喧嘩太鼓(19681228日)
    ⑳座頭市と用心棒(1970年115日)
    ㉑座頭市あばれ火祭り(1970812日)
    ㉒新座頭市・破れ!唐人剣(1971113日)
    座頭市御用旅(1972115日)
    ㉔新座頭市物語・折れた杖(197292日)
    ㉕新座頭市物語・笠間の血祭り(1973421日)
    座頭市(198924日)

    (参考)

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    2015年11月 7日 (土)

    映画 時代劇回顧シリーズ(6) 市川雷蔵「眠狂四郎 女妖剣」   -私の映画史(20)-

    1960年代の多様な映像時代、遂にエロティシズムeroticismの登場

     映画の下降線、そして更に時代劇の下降線に入った60年代。又社会も多様化して、映画に求めるモノも多様化した。
     時代劇の東映は、その線を繋ぎながらも人気の出てきた”任侠路線”に次第にシフトしてゆく。

     そんな中で華の50年代のスター中村錦之助は「関の彌太っぺ」「沓掛時次郎 遊侠一匹」と時代劇任侠路線と「反逆児」のような戦国武将ものを、三船敏郎は「椿三十郎」、「侍」など浪人モノなどで、まだまだそれなりの興行成績を上げていた。しかしここに剣術とエロティシズムとの新路線として市川雷蔵の「眠狂四郎シリーズ」、又勝新太郎のかっては考えられなかった兇状持ちで盲目の侠客という「座頭市シリーズ」が成功する。


    大映映画 市川雷蔵「眠狂四郎 女妖剣」 (1964年公開)
           監督:池広一夫、脚本:星川清司、音楽:斎藤一郎
            出演:市川雷蔵、藤村志保、久保菜穂子、城健三朗、春川ますみ、根岸明美

    Photo  「眠狂四郎」というのは、虚無主義なる浪人モノの世界を描くを得意とした柴田錬三郎の昭和31年5月から「週刊新潮」に連載された「眠狂四郎無頼控」(読切連作の形で書きつがれた狂四郎シリーズは、以後約二十年にわたって続いたから人気の度合いも解るところ)からのもの。

     映画化された中でも人気は1963年から1969年までの市川雷蔵で描いた大映映画12作。市川雷蔵の当たり役となった。
     実は1950年代にも東宝であの鶴田浩二で3作の「眠狂四郎」(1956-1958年)があるがあまり話題にならなかったモノ。
     又市川雷蔵の後に松方弘樹で続けたが当たらず(1969年2作)というところだった。雷蔵と松方ではちょっとイメージが違いすぎたのだろう。

    Photo_2 この市川雷蔵の眠狂四郎シリーズと言えども、第一作(1963年)は興行成績は不振。二作目は良く出来ていた割には、やはり売れず。三作目はボチボチであったが、しかしこの四作目からのエロティシズムの濃厚登場で人気沸騰。
     この4作目「眠狂四郎 女妖剣」では、久保菜穂子、春川ますみ、根岸明美ほか、藤村志保までもエロティシズムの役柄を披露しているし、物語としては、眠狂四郎の生まれの秘密に迫り、転びバテレンと武士の娘との間に生まれた宿命を教える。

     虚無の剣士の生き様を通して、暦年の時代劇の正義の剣の姿ではなく、武士の魂をも描くのでは無い。眠狂四郎は女性に対しては犯すこともあれば、凶器としての剣によって斬ることも容赦しない。そして虚無の意識と孤独感を更に深めて行く。こんな姿は60年代の日本の裏も表もある高度成長社会には見事に受け入れられたのだった。
     凶器の剣の円月殺法は相手を惑わす剣法で、その姿は見るものにとっては美しい。この4作目から狂四郎の円月殺法のシーンで初めてストロボ撮影が用いられ、剣の流れを見事に描写した。この手法はこれ以降の作品で使われるようになった。

    Photo_3  狂四郎の素性の説明があったこと、この後続くエロティシズムのスタートであったこと、そして円月殺法の描写が確立したこと、そして何よりもヒットしたことなどから、この作品が市川雷蔵の眠狂四郎のスタートとも言える作品であった。
     柴田錬三郎に言わせると”剣豪としての姿で無く、現代にある罪悪を背負った狂四郎という主人公が、ある意味では人としての感覚を抑えざるを得ない状況の中で、内面的には苦しみながらニヒルに生きていく姿を描いた”と言うことであったのだろう。
     
     つまり時代劇というものを背景にしてはいるが、最も社会の歪みが顕著になりつつある当時の60年安保闘争以降の日本社会の中で、現実的にはあり得ない人間像に思いを馳せた。こんな近代的な感覚を盛り込んだところに多くの関心と支持を得た作品になった。

    (市川雷蔵の「眠狂四郎」全作品)

    1. 眠狂四郎殺法帖(1963年11月2日公開)  
          監督:田中徳三、脚本:星川清司、音楽:小杉太一郎
          共演:中村玉緒、城健三朗、小林勝彦、真城千都世
    2. 眠狂四郎勝負(1964年1月9日公開)
          監督:三隅研次、脚本:星川清司、音楽:斎藤一郎
          共演:藤村志保、高田美和、久保菜穂子、加藤嘉、須賀不二男
    3. 眠狂四郎円月斬り(1964年5月23日公開)
          監督:安田公義、脚本:星川清司、音楽:斎藤一郎
          共演:浜田ゆう子、丸井太郎、成田純一郎、毛利郁子
    4. 眠狂四郎女妖剣(1964年10月17日公開) 
          監督:池広一夫、脚本:星川清司、音楽:斎藤一郎
          共演:藤村志保、久保菜穂子、城健三朗、春川ますみ、根岸明美
    5. 眠狂四郎炎情剣(1965年1月13日公開)
          監督:三隅研次、脚本:星川清司、音楽:斎藤一郎
          出演:中村玉緒、姿美千子、島田竜三、西村晃、中原早苗
    6. 眠狂四郎魔性剣(1965年5月1日公開)
          監督:安田公義、脚本:星川清司、音楽:斎藤一郎
          出演:嵯峨三智子、長谷川待子、須賀不二男、明星雅子、稲葉義男
    7. 眠狂四郎多情剣(1966年3月12日公開)
          監督:井上昭、脚本:星川清司、音楽:伊福部昭
          出演:水谷良重、中谷一郎、五味龍太郎、毛利郁子
    8. 眠狂四郎無頼剣(1966年11月9日公開)
          監督:三隅研次、脚本:伊藤大輔、音楽:伊福部昭   
          出演:天知茂、藤村志保、工藤堅太郎、島田竜三、遠藤辰雄
    9. 眠狂四郎無頼控 魔性の肌(1967年7月15日公開)
          監督:池広一夫、脚本:高岩肇、音楽:渡辺岳夫
          出演:鰐淵晴子、成田三樹夫、久保菜穂子、金子信雄、遠藤辰雄
    10. 眠狂四郎女地獄(1968年1月13日公開)
          監督:田中徳三、脚本:高岩肇、音楽:渡辺岳夫
          出演:高田美和、田村高廣、水谷良重、小沢栄太郎、伊藤雄之助
    11. 眠狂四郎人肌蜘蛛(1968年5月1日公開)
          監督:安田公義、脚本:星川清司、音楽:渡辺宙明
          出演:緑魔子、三条魔子、川津祐介、渡辺文雄、寺田農
    12. 眠狂四郎悪女狩り(1969年1月11日公開)
          監督:池広一夫、脚本:高岩肇、宮川一郎、音楽:渡辺岳夫
          出演:藤村志保、江原真二郎、久保菜穂子、松尾嘉代、小池朝雄

    (参考映像) 「眠狂四郎」

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    2015年10月31日 (土)

    映画 時代劇回顧シリーズ(5) 中村錦之助「宮本武蔵」5作品   -私の映画史(19)-

    時代劇映画の更なる新しい道・・・・・・文芸路線へ

     とにかく映画の全盛時代の1950年代を経て、1960年代となると映画そのものが次第に下降路線となりつつある時、その時代を反映しつつそこには新路線が登場したわけだが、その一つがリアリズム映像であり、更にもう一つの方向として単なる痛快娯楽路線から一歩進んで、文芸的な世界を模索する路線も誕生してきた。

    東映映画 内田吐夢   監督
           中村錦之助 主演

              「宮本武蔵」            (1961年公開)
              「宮本武蔵 般若坂の決斗」 (1962年公開)
              「宮本武蔵 二刀流開眼」   (1963年公開)
              「宮本武蔵 一乗寺の決斗」 (1964年公開)
              「宮本武蔵 巌流島の決斗」 (1965年公開)

    B
     吉川英治原作の「宮本武蔵」の映画化である。なんと5年かけての製作、当時とすればこの5年間は非常に長く感じられたものだった。そしてこの映画は、監督内田吐夢の一つのロマンの作品と言われている。過去の時代劇と違って、人間の姿・心を描こうとするところに文芸作品と言われる所以である。
     又、武蔵を演ずる中村錦之助の代表作とも言われるところは、彼のこの5年間の役者としての進歩の姿がこの一連の作品に見えてくるところだ。特に第一作での気合いの入れ方は当時驚かされたものだ。

    Photo_3製作:大川博 
    企画:辻野公晴、小川貴也、翁長孝雄 
    原作:吉川英治 
    脚本・監督:内田吐夢 
    脚本:鈴木尚之、成沢昌成
    撮影:坪井誠、吉田貞次 
    照明:和多田弘、中山治雄
    録音:野津裕男、渡部芳丈 
    美術:鈴木孝俊 
    音楽:伊福部昭、小杉太一郎 
    編集:宮本信太郎 
    助監督:山下耕作、富田義治、杉野清史、鳥居元宏、加藤晃、篠塚正秀、野波静雄、鎌田房夫、菅孝之、大串敬介 
    記録:梅津泰子 
    装置:上羽峯男、館清士、木津博 
    装飾:宮川俊夫、佐藤彰 
    美粧:林政信 
    結髪:桜井文子 
    衣裳:三上剛 
    擬斗:足立伶二郎 
    進行主任:植木良作、神先頌尚、片岡照七、福井良春
    邦楽:中本敏生

     出演:
    中村錦之助(宮本武蔵)
    高倉健(佐々木小次郎)
    片岡千恵蔵(長岡佐渡)
    三国連太郎(宗彰沢庵)
    月形龍之介(日観)
    田村高広(柳生但馬守)
    里見浩太郎(細川忠利)
    木村功(本位田又八)
    丘さとみ(朱実)
    入江若葉(お通)
    平幹二朗(吉岡伝七郎)
    江原真二郎(吉岡清十郎)
    岩崎加根子(吉野太夫)
    薄田研二(柳生石舟斉)
    浪花千栄子(お杉)
    木暮実千代(お甲)
    河原崎長一郎(林吉次郎)

     この作品は、内田吐夢監督の拘りが見事に描かれた。勿論吉川英治原作の意志は尊重されているが、内田吐夢自身の人間像に迫るところに魅力がある。 又キャストを見ても当時の東映の総力を挙げている。

     第一作「宮本武蔵」 (1961年公開)
     関ヶ原の戦いに敗れ、敗軍の兵として追われる錦之助の過去の美剣士錦之助像を殴り捨てた武蔵(たけぞう)の演技。それをみる三國連太郎の沢庵坊主の若き者への人間像への導きにポイントがあって、内田吐夢のこの映画への目的が明確に出る。

     第二作「宮本武蔵 般若坂の決斗」 (1962年公開)
     名門吉岡道場にて門弟を打ちのめして遺恨を残す。奈良の宝蔵院にての僧兵を一撃で即死させる。前半を静かに描いて、クライマックスの般若坂の決斗で爆発的にリアリスティックに闘いを描く。浪人の首が飛ぶところは、話題になった映画「用心棒」の壮絶さの上を行く。このあたりが内田吐夢の手法が見事に観客を虜にする。しかしこの二部でも”闘いの結果の殺人”と”僧の世界の真髄”に疑問を持つ武蔵。
    B
     
     第三作「宮本武蔵 二刀流開眼」
    (1963年公開)
     柳生石舟斉へと向かうも高弟との闘いとなり、二刀流が自然に生まれる。吉岡清十郎との洛北蓮台寺野に於ける決闘に勝利。名門の当主のプライドを守り通そうとする清十郎の悲壮感は壮絶に描かれる。勝利無くして武士の姿なしと剣の道に疑問を持ちながらも進む武蔵。

    Photo_7 第四作「宮本武蔵 一乗寺の決斗」 (1964年公開)
     吉岡一門の怨念は深く、平幹二朗演ずる吉岡伝七郎との三十三間堂の対決、そして73対1の一乗寺下り松の決死の闘いを描く。主題の一乗寺下り松の闘いでは、敵の総大将には子供が立てられ、武蔵はそれを殺す。その罪を武蔵は背負って生きる事になる苦痛を描く。又闘いのシーンは内田吐夢のリアリズムが展開する。とにかく武蔵は一本の田圃のあぜ道を走って走って走りまくり、追っ手と一対一の状態をつくり戦う。昔からの東映の踊りに近い大勢に囲まれてのチャンバラとは違う。勝負は一対一でないと勝てない姿が真実感を増す。しかもこのシーンだけがモノクロとなるとこに拘りが見えた。

     第五作「宮本武蔵 巌流島の決斗」 (1965年公開)
     佐々木小次郎との巌流島における宿命の決闘。常に勝利の為の方策、そしてその後の追っ手から逃走の道まで考えて闘いに望む武蔵の計算高いところを描きつつも、相手を殺したことへの勝者としての喜びは無い。ここでは武蔵の殺人への罪を実は内田吐夢は強調する。「戦う」ことから生まれる悲劇、剣の道から人間に迫ろうとした武蔵には・・・・残るは「空虚」のみ。

          ”この空虚・・・・所詮、剣は武器・・・・・・”

     この映画の制作中の5年間には又映画界には変化が起きていた。「時代劇の衰退」と「任侠映画の劉生」である。そんな時の時代劇の生き方への一つの回答であった作品でもあった。

    (視聴)

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