「ジャズ批評」誌=ジャズオーディオ・ディスク大賞2021 (追加考察) セルジュ・ディラート Serge Delaite Trio 「A PAZ」
人気企画だが、選考基準が相変わらず不明瞭
今年も、「ジャズ批評」誌 No.226(2022年3月)は結構楽しませて頂いたが、この恒例の「ジャズオーディオ・ディスク大賞2021」が面白いですね。特に近年音楽を聴く環境の変化は著しく、なかでも音源の入手法が、ネット環境の発展とともに大きく変わってきた。CD、LPなどから配信によるところにウェイトがある状況が顕著となって、ちょっとその世界も今後変わってゆくのかとも思いつつも、私的には、相変わらずCD派で経過しており、こんな企画が今後どんなものに変わってゆくのかともふと思いながらも、今年も昨年を顧みつつ愛読した次第。
特に私は「インストゥルメンタル部門」に注目度が高いのだが・・
① 金賞 : Alessandro Galati Oslo Trio 「Skyness」
② 銀賞 : Yuko Ohashi Trio 「Kiss From A Rose」
③ 銅賞 : Serge Delaite Trio 「A PAZ」
と、いう結果であった。
まあ、こうした音楽評価は好みがあるので、それなりに偏ってくるだろうことは解るし、又それぞれの特徴を持って評価しても誰もが賛同することは難しいだろうし、そうは言ってもなんとなく客観的にも、それが順当なところだろうと落ち着くのも必要だろうと・・・複雑なのである。
たまたま、この①と②のアルバムは私はここで昨年取り上げて感想を書いているので参考にしてみてください。(下記にリンク先)
私の評価としては、演奏よし、録音よしの① 金賞 : Alessandro Galati Oslo Trio 「Skyness」は順当なところでしょうね。そして② 銀賞 : Yuko Ohashi Trio 「Kiss From A Rose」がちょっと疑問。③ 銅賞 : Serge Delaite Trio 「A PAZ」は、好みによってジャズ演奏の世界に評価が分かれるところと思われ、しかし結果はそんなところに落ち着いたのかと見たところだ。
実は、これらに疑問が私は何年も前から持っている。それは選考基準が不明瞭だからだ。そもそも「ジャズオーディオ・デイスク大賞」とは何なのかということだ。どうも単に「ジャズ・ディスク大賞」ということでなく、「オーディオ」という言葉が入っていることは、ジャズ・ミュージックとしての曲や演奏のみでなく、オーディオ的感覚を加味しての評価とみれるが、おそらくそうだろう。
選考委員の総評を見ると、私が疑問に思う「②」に関して、選考委員長後藤誠一氏(→)は "ジャズは‥‥演奏もさることながら音へのこだわりも重要である。その両者が絶妙なハーモニーとニュアンスを奏でる、それこそがジャズオーディオであると思う"と述べて、高評価の理由は "ラフミックスと最終マスタリングを並べて2枚組で提供するという斬新な聴き比べアルバム構成が、ジャズオーディオにふさわしいと思い、最終選考でも1位に推挙した"と。おっしゃることの意味はよく解るが、1位とした"演奏もさることながら"の演奏の質が果たして多くのアルバムの中でトップなのだろうか。私から見るとこの「大賞」は、音へのこだわりが評価においてかなりのウェイトで重要なようである。ちなみになんと選考委員10名中で、このリリース・レ-ベルの寺島氏の0点はしょうがないにしても4名が全く評価しないという0点なんですね。このように評価は演奏か音かのどちらかにウェイトを置くかによって全く変わってしまうのである。こんなあいまいな評価基準で選考した結果はかなり不思議なものになってしまっている。
(追記: 同誌の「マイ・ベスト・ジャズ・アルバム2021」にて、なんとライター46名の多きの中で、ベスト5枚の中に②および③のアルバムを挙げた人は皆無でした)
私が思うには、選考要素をあげ、そのウェイトを定め評価することぐらいはしないとまずいのではないだろうか(後藤氏は少なくとも医学という科学者ですから)。例えば最低で大まかなところとしても、演奏10点満点、録音・音質10点満点として合わせて20点満点での評価とするとか、いろいろのやり方があろうかと思うのである。
せっかくジャズミュージックを愛し、造詣の深い選考委員の意思が正確に伝わらないのでは残念である。我々が聴くほうとして参考になるのはこのような企画も大いに良いと思うのであり、そのためのその充実を願っているのである。
追加だが、後藤誠一氏は、音楽の現在のストリーミングを代表的とする配信社会から、CDなどが売れなくなってきたことを憂いつつ、「配信で聴く音楽は保存しない限り、通り過ぎる音楽である。心に留めることは所有する喜びにも通ずる。そしてこの喜びはジャケットを見て、ライナーノーツを読み、倍加される。一枚一枚のCDやLPはミュージシャンの心や魂がこもったギフトである。・・・・そして、自分のオーディオで聴くことが大事である。」と、書いているが、CDやLPから脱皮できない私は、まさに賛成である。
* * * * * *
さてここで、銅賞の③ 銅賞 : Serge Delaite Trio 「A PAZ」がここでは取り上げてなかったので以下に少々感想だ。
■ <Jazz>
Serge Delaite Trio 「A PAZ」
ATELIER SAWANO / JPN / AS169 / 2021
Serge Delaite (piano)
Daniel Mayerau (bass except 14)
Denis Maisonneuve (drums)
Herve Faure (tenor saxophone on 14)
Michel Gasperin (bass on 14)
澤野工房が1年7ヶ月ぶりとしての久々の新譜だったこのアルバム。
かって、私に好評だった『Sweet And Bitter』(AS162/2018)を思い出すが、彼のフランス的な洒落た明るさのあるアルバムだった。今回はメンバーは変わっているが、基本的にはピアノ・トリオで聴かせてくれる。
(Tracklist)
01. A Paz
02. Nostalgia In Times Square
03. When Sunny Gets Blue
04. La Valse Des Lilas
05. That's Pad
06. Chez Laurette
07. Bloomdido
08. Our Love Is Here To Stay
09. Line For Lyons
10. Never Let Me Go
11. A Nice Guy
12. Tricotism
13. Joy Spring
14. Fotografia
そういえば、彼には『Comme Bach』(AS080/2008)のようなアルバムもあった。変わってないのはフランス流の洒落た世界だろう。
さて、このアルバム、やはり深淵とか暗さとか哲学的とか言う世界とは全く違った明快な優美な世界だ。ちょっと今風のユーロ・ジャズというより、フランス特有の詩的なロマンティシズムといった方がいいのかもしれない。ディラート自身の曲は1曲のみであった。
M3."When Sunny Gets Blue"、M10."Never Let Me Go"などに詩情性がしっかり描かれているし、M4."La Valse Des Lilas"はフランス的な軽さ、M6."Chez Laurette"はなかなかピアノの描くメロディーが美しい。
又、M8."Our Love Is Here To Stay"のようなポピュラー・ミュージック・スタイルの軽さなどが印象的。
究極、フランス独特の洒落た味付きの優雅にして明快といった演奏、私好みとは若干ズレがあったがこれはこれでいい線をいっている。又現代ユーロ・ジャズの流れからはやや古めかしさも感ずるところもあるが、そこは好みであって、録音も良好であり、今回のジャズ・オーディオ・ディスク大賞の銅賞は結果良しの方の順当なところだった。
(評価)
□ 演奏 : 85/100
□ 録音 : 88/100
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