音楽

2020年4月 6日 (月)

キアラ・パンカルディChiara Pancaldi & Alessandro Galati 「The Cole Porter Songbook」

やはりパンカルディのヴォーカルはハイレベルであるが異色
~~注目のアレッサンドロ・ガラティとのデュオ

<Jazz>

Chiara Pancaldi & Alessandro Galati 「The Cole Porter Songbook」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1086 / 2020

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Chiara Pancaldi キアラ・パンカルディ (vocalヴォーカル)
Alessandro Galati アレッサンドロ・ガラティ(piano ピアノ)

 このところジャズ・シンガーとしての話題の豊富な個性派キアラ・パンカルディ(1982年イタリアのボローニャ生まれ。つい先日アルバム『PRECIOUS』(CR73497/2020)のリリースがあった)と、最近、寺島レコードからリリースが多い私の注目の叙情派でありながらアヴァンギャルドな面も見せるキャリア十分のピアニスト:アレッサンドロ・ガラティ(1966年イタリアのフィレンツェ生まれ)のデュオ作品。両個性派同士で実は注目していたアルバム。
  主題はアルバム・タイトルどおりのコール・ポーターの作品に迫ろうとしたもの。もともとキアラ・パンカルディの唄は独特の世界があって、どうも100%万歳して受け入れている訳ではないため、このアレッサンドロ・ガラティのセンスで如何に変貌して迫ってくれるかが楽しみのポイントでもあった。

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(Tracklist)

1. Easy To Love
2. Just One Of Those Things
3. Night And Day
4. So In Love
5. All Of You
6. My Heart Belongs To Daddy
7. It's Delovely
8. Let's Do It
9. Dream Dancing

Ag5x  デュオとは言っても、やはりヴォーカルの占める位置は大きいですね。私にしてはガラティのピアノにそって優しく歌ってくれる方が期待していたんですが、なになにパンカルディの独特の節回しによっての彼女のヴォーカルの独壇場にも近い世界が造られている。パンカルディの声の質は中高音のつややかさはなかなかのものと言えるものでこれには全く不満は無いが、なんといってもハートフルでありテンダリーでありながらその節回しと音程は変化した異質であってその歌は独特ですね。先のアルバムとその点は全く変わっていない。この世界にぞっこん惚れ込むという人が居るとは思うが、どうも素人向けとは言えず、万人に受けるという点ではちょっと疑問にも思っている。
 イタリアのミュージシャンはあらゆる分野に多く活躍しているが、この世界においてはパンカルディは独特である。まさか私自身のみがそう感ずるのだろうか、ラテナーノーツを担当している寺島靖国も声の質の良さを認めては居るが、あまり異質性には語っていない。いずれにしても彼女の唄はやっぱり上手いというのは当たっているのだろうと思う。とにかく上手い・・・しかし私は魅力については、もう少し馴染みやすい世界であってほしいと思うのである。いずれにせよ残念ながら万人向きではない。しかしそれでも丁寧にじっくりと語りかけてくる様は出色であり魅力も大いにある。更にリズムの展開にも彼女の魅力的なパンチ力のセンスが生きているという処も事実なのだ。

 そして今回のように、コール・ポーターの曲を何故選んだのかと言うことでは、ガティもパンカルディも曲の良さと言うことに一致していた。そしてM4."So in Love"は彼女の歌がいいですね、ムードが最高。続くM5."My Heart Belongs to Daddy"のガラティのピアノは美しい。
 このアルバムでは、私の期待に反してガラティは「伴奏者」に徹していた。彼の味のあるメロディーの表現は、ヴォーカルを生かす為に仕組まれたピアノの味をしっかり作り上げているのだ。

 私の個人的評価はまあ質の高さは認めるが、受け入れやすさや聴きやすさと言う点ではちょっと低くなった。こうゆうのはイタリア本国ではどんな評価か知りたいところだ。

(評価)

□   編曲・歌・演奏  ★★★★☆ 85/100
□ 録音       ★★★★☆ 85/100

(視聴)

このアルバム関係はまだ見当たらないので・・・過去のモノを
Cole Porter "So in Love" (これは惚れ惚れしますね)

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2020年4月 1日 (水)

浅川太平Taihei Asakawaピアノ・ソロ・アルバム 「Waltz for Debby」

空間を描く静寂にして深遠な世界
~ビル・エバンスの世界に独自の美意識を

<Jazz>

Taihei Asakawa 「Waltz for Debby」
Cortez Sound / JPN / CSJ0008 / 2019

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Piano : Taihei Asakawa

Executive Producer: Teruhiko Ito / Recorded & Mixed & Mastered by Ken Tadokoro / Recorded on May 19 2018 at Jazz Room Cortez / Photo by Tatsuo Minami Mikio Tashiro

 最近知ることとなったジャズ・ピアニストの浅川太平のソロピアノのアルバム。2枚組で、誰もが愛するビル・エバンスの名盤『Waltz for Debby』と、同日録音された『Sunday at the Village Vanguard』の2枚からの選曲により構成されている形をとっている。
81wyqczaaiw  彼は1977年生まれということで、40歳代になっての目下脂がのってきたと言える歳で期待度は高い。私にとっては過去の彼のアルバムには接してこなかったのだが、このアルバムのビル・エバンスの変化に驚きを隠せず、さっそくこのソロ・スタイルを演ずるところは何処に ? と、参考までに彼のピアノ・トリオ盤の『Touch of Winter』(DMCD26)(→)を取り寄せてみたという経過であるが、それはそれとしてこの『Waltz for Debby』を検証してみよう。
 
(Tracklist) 

DISC1
01.My Foolish Heart〔13:34〕
02.Waltz for Debby〔10:02〕
03.Detour Ahead〔7:06〕
04.My Romance〔11:12〕
05.Some Other Time〔11:51〕

DISC2
01.Milestones〔7:15〕
02.Porgy〔9:40〕
03.Gloria's Step〔4:18〕
04.My Man's Gone Now〔7:03〕
05.Solar〔3:42〕
06.Alice in Wonderland〔5:09〕
07.All of You〔8:06〕
08.Jade Visions〔4:29〕

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  さて、ビル・エバンスに迫ると言うことで、それだけでもそんな世界を目指しているのか想像が付くところだが、どんなアレンジの世界かと興味津々。しかし結果は想い以上に、簡潔に言うと緊張感と静寂の世界にピアノによる描かれる空間に響く繊細な音に驚きを隠せなかった。
 まず、DISC1"My Foolish Heart", "Waltz for Debby"の冴えたる代表曲、ビル・エバンスの世界を日本的(?)にリラックスして聴きやすく再現してくれるのかと思いきや、はっきり言うとそんな生やさしい世界では無い。気楽に聴こうと居直ってみたが、そこに描かれる情景は、双方10分を超える演奏で、静寂にして一音一音意味の込めた音には美しさという処をある意味で超えたむしろ厳しさも感ずるところであり、しかしそう言っても優しさの美しさはちゃんと散りばめらていて、その世界はエバンスと違った浅川自身の個性ある変化に圧倒されるのである。
  そして"My Romance"も、ここまで深淵の美といったところに演じられるのも聴きどころ。

 DISC2になって、ややリラックスを誘導してくれるところを演じてくれている。そんな意味では、特に"Porgy""Alice in Wonderland"では、ゆったりした気持ちで美しく優雅に聴けるところである。

 ちょっと日本版エバンスものの演奏というところで安易に構えていたのだが、最初から彼の個性をしっかり提示しての哲学的な、思想的なところを感じさせる演奏でビックリしたわけだ。しかし何回と繰り返し聴くに付け、三度目ぐらいからかなりその世界にある美しさが見えてきてぐっと親しみがわいてくると言うアルバムであった。

Asakawa20191 浅川 太平 (あさかわ たいへい)略歴 (ネット記事から)

1977年札幌出身。
父が札幌のライブハウス「銀巴里」(~2012)を経営し、母が歌手であったため、幼いころはシャンソンをよく聴く。3才よりクラシックピアノを始める。 1996年、洗足学園短期大学でジャズを専攻し、卒業後バークリー音楽大学より奨学金つきの編入資格を得るも独学の道を選ぶ。 2004年、横浜JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション、ベストプレイヤー賞受賞。
2007年に1stアルバム『Taihei Asakawa』(Roving Spirits)、2011年に2ndアルバム『Catastrophe in Jazz』(Roving Spirits)、2013年に3rdアルバム『Touch of Winter』(D-musica)、2018年に初のスタンダードでのライブ録音となる4thアルバム『Waltz for Debby』(Cortez Sound)をそれぞれリリース。
2019年、日本とヨーロッパを中心に国際的な活動を続けているドラマー池長一美とデュオユニットNordNoteを結成し、2020年デュオアルバム『NordNote』(Time Machine Records TMCD-1020)をリリース。


(評価)
□ 編曲・演奏   ★★★★★☆   90/100
□ 録音      ★★★★☆   80/100

 

(視聴)               "My Foolish Heart"

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2020年3月27日 (金)

ドイツのメランコリック・ゴシックロック MONO INC.「THE BOOK OF FIRE」

メロディーに美しさのあるポシティブパンクのゴシックロックを展開

<Gothic Rock>
MONO INC. 「THE BOOK OF FIRE」
NOCUT / EU / SPV263342 / 2020

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Vocals – Martin Engler
Bass, Vocals – Manuel Antoni
Drums, Vocals – Katha Mia
Guitar, Vocals - Carl Fornia
 
Producer [Produced By] – Martin Engler

  もう三十数年前に今のインターネット社会は存在しない頃、パソコンがある層では個人的にも使われ始め、そしてネット通信としてパソコン通信(NECとNIFTY)という時代があった。そんな時代に音楽でも私が興味があって関係したロック(主としてプログレ=NEC・PC-VAN(PROGRESSIG)分野では、仲間が全国規模で出来て、それが今やおじさんから老人という事になるのだが、未だにそれなりにロックを愛しているのである。実はつい先日その仲間から私に刺激を与えてくれたのが、日本ではあまり知られずのドイツのエレクトロ・ゴシック・ユニットの「MONO INC.」だ。

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 その「MONO INC.」は、2000年から活動開始し、スタジオ・アルバムは2003年から11枚リリースしていて、ドイツでは絶大な人気バンドであるらしい。このアルバムはそのユニットの最新アルバムである。ここで取り上げたと言うことは、それなりに私にとっても十分興味の持てる演奏を展開していると言うことに他ならない。
 それはゴシック系の暗さのなかただ埋没しているのでは全くなく、メタル系の疾走感もあり、特にメロディーの美しさを重視した音楽性の高いゴシックプロジェクトである。所謂パンクのネガティブさを変えたポジティブパンクの部類にも入るようだ。哲学的、神学的ニュアンスのある耽美性、芸術性をなんとなく持ったまあクサメタルといっても言いところも感じられ、私のようなクサメタラーにも受け入れられるところがあるのだ。

(Tracklist)

1 The Book Of Fire 7:21
2 Louder Than Hell 4:26
3 Warriors 4:16
4 Shining Light Featuring – Tilo Wolff 5:22
5 Where The Raven Flies 7:38
6 The Last Crusade 5:01
7 Death Or Life 5:07
8 Nemesis 4:34
9 Right For The Devil Featuring – Tanzwut 5:18
10 Run For Your Life 5:58
11 The Gods Of Love 3:39
12 What Have We Done 3:00

  このアルバムは従来作よりは若干暗めが感じられるところだが(もっとも以前のモノは総集編的スタジオ盤とライブ盤しか私は持っていないのだが)、そのテーマ自身がこれまた暗く重苦しい難解のもの。
 過去のアルバムの中ではダントツの人気が"Children of The Dark"という曲で、これがなかなかメロディアスである上に疾走感もある。その味に迫れるかどうかというところだ。

 とにかくリーダーの Martin Englerは 独特な中低音を主体としたヴォーカルを展開しているのがまずの特徴で(このバンドのスタート時はドラムス担当)、そしてドラマーはKatha Miaで女性というのが又異色(2007年、2ndアルバムから)、彼女は主としてバッキング・ヴォーカルを務めるが、時にツイン・ヴォーカルとしても演じてソプラノ系の高音も聴かせる。この対比が魅力と言えば魅力でこれで曲のカラーを作り上げているわけだ。

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 冒頭のM1." The Book Of Fire"がこのアルバムの主題の曲と言うことになろうと思うが、オフィシャルに公開している映像からも、何世紀にも及ぶ秘密の知識を含む神秘的な文化書の「火の本(Book of Fire)」の物語に焦点を当て、暗黒時代、血に飢えた異端審問と自由のための戦いを描いていると言うのだ。
  これは物語を構築してのアルバムであり、彼らの民族的歴史文化に入らないと理解は実際の処難しいところである。まあ東洋日本人の我々はそれはあくまでも曲展開のネタとして曲自身が面白く聴けるかどうかと言うところでしょうね。
 この Martin Englerのヴォーカルがこれまでのアルバムからも、北欧民謡トラッド的世界を独特の癖のある声で演じ、それが女性ヴォーカルの美しさによって清涼なる世界も覗かせるところが聴きどころで、結構病みつきになる。演奏も時にはHM/HR的なギターの味も加わって、しかも意外に乗りの良いところもあるので結構面白く聴けるのである。
 ドイツの音楽畑をある意味では代表しているような雰囲気を持ったメランコリックな結構クオリティーの高いバンドであり、過去のアルバムも少々聴いてしまったという不思議な魅力を持っている。もっと日本でも聴いて欲しいと思うところだ。

(参考)
<MONO INC.の Studio albums>
2003 Head Under Water
2007 Temple of the Torn
2008 Pain, Love & Poetry
2009 Voices of Doom
2011 Viva Hades
2012 After the War
2013 Nimmermehr
2015 Terlingua
2017 Together Till the End
2018 Welcome to Hell
2020 The Book of Fire

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★☆   85/100
□ 録音    ★★★★☆   80/100

(視聴)

 
*

  もはや名曲"Children of The Dark"ですね ↓ (Shymphonic Live)

 

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2020年3月23日 (月)

ペトラ・リネッカーpetra linecker 「Warm Embrace」

温かみの世界を狙った・・女性ヴォーカルとピアノとのデュオによる秀悦作品

<Jazz>

Petra Linecker & Martin Gasselsberger 「Warm Embrace」
ATS Records / Eu / / 2019

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Petra Linecker (vo)
Martin Gasselsberger (p)

 世界の美女狩りを得意とする我が友人から紹介のあったアルバムである。 
 オーストリアの女性ヴォーカリスト、ペトラ・リネッカーとピアニスト、マーティン・ガッセルスベルガーのデュオ作品。私にとっては全くの初物であるが、彼女は既にオーストリアではベテランであるようだ。
 とにかく"リネッカーの美しく透明感に富みながら深みと情感あふれたヴォーカル"がどうも売り物のようで、ピアノとのデュオでたっぷり聴くことが出来る。アルバム・ジャケのデザインからして並の世界でなさそうな雰囲気が伝わってくる。

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(Tracklist)
Image2_20200322094201 1. Warm Embrace *
2. Over the Rainbow
3. Lullaby of Birdland
4. The Nearness of you
5. I can't stand the Rain
6. Imagine
7. Georgia on my Mind
8. Honeysuckle Rose
9. In Heaven's Spaces *
10. On a clear Day *
11. Everything must change
12. Wrong way round *
13. Anxious Moments *

 収録曲は上のようで、*印がオリジナル。M1."Warm Embrace "は彼女自身の曲で、残るはこの二人による共作となっている。そしてその他はかなり広いジャンルからの選曲だ。
 インティメイトと表現される世界で、冒頭M1.から静かなピアノをバックに、優しい彼女のヴォーカルが響く。どうも歌詞をしっかり理解しないといけなそうな世界だ。
 M4."The Nearness of you"を聴いても解るのだが、このマーチン・ガッセルスベルガーのピアノが又クラシックに裏打ちされたと思われる知的でクラシカルな響きが秀悦である。
2176454_xxlw_20200323204101  一方M5."I can't stand the Rain "となると一変してブルージーなジャズをしっかり演じているところもあってなかなかキャリアーのあるシンガーであることがわかり、そしておなじみのM6. "Imagine "、M7."Georgia on my Mind"は、ぐっとしっとりムードで歌い上げ、心に響いてくるところは芸達者。
 リズムカルなM8."Honeysuckle Rose "に続いて、二人の共作M9."In Heaven's Spaces "は一変してフォーキーにしてトラディショナルなムードの曲で、ヴォーカルやソロピアノも美しく、この世界に安らぎを求めたような普遍性の世界。
 更にM11."Everything must change "はこのデュオの世界観を凝縮したような尊大なる思想が感じられる素晴らしい演奏。そして二人共作のM13."Anxious Moments"の二人のヴォーカル・デュオも入ったトラディッショナルな世界で幕を閉じる。

 なかなかジャズ世界としては珍しいインティメイトな心洗われる世界を構築していて好感の持てるアルバムとして、お勧めである。

(評価)
□ 曲・歌・演奏  ★★★★★☆  90/100
□ 録音      ★★★★☆   80/100

(視聴)

 
 

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2020年3月18日 (水)

ピンク・フロイドPink Floyd 絶頂の75年ライブ 「LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」

警察による逮捕者続出のライブの記録
マイク・ミラードによる好録音の出現

 

<Progressive Rock>

Pink Floyd 「PINK FLOYS LOS ANGELSE 1975 4TH NIGHT」
~ MIKE MILLARD ORIGINAL MASTER TAPES
Bootleg / Sigma 242 / 2020

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Live at Los Angeles Memorial Sports Arena, Los Angeles, CA, USA 26th April 1975

Pink Floyd
Venetta Fields : Backing vocals
Dick Parry : Saxophone
Cariena Williams : Backing vocals

  とにかくこの何十年の間にもピンク・フロイドのブートは何百枚と出現している。あのボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」のオフィシャル・リリースによって下火になるのかというと全くそうでは無い。むしろ火を付けているのかと思うほどである。それもピンク・フロイドそのものはディブ・ギルモアの手中に握られたまま、全くと言って活動無くむしろ潰されている存在だ。これが本来のロジャー・ウォーターズにまかせれば、今頃米国トランプや英国の低次元の騒ぎなど彼の手によって一蹴されているだろうと思うほどである。相変わらずのファンはこのバンドの世界に夢を託しているのである。

 そんな時になんとあの彼らの絶頂期であった1975年の「FIRST NORTH AMERICAN TOUR」のライブものが、オフィシャルに使われるほどの名録音で知られるマイク・ミラードの手による良好録音ものの完全版が出現をみるに至ったのである。

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  とにかく世界的ベストセラーになったアルバム『狂気』(1973)以来、彼らにとっては全く別の世界の到来となる。金銭的には驚くほどの成果を上げ、それと同時に重圧ものしかかる。又スポンサーとのトラブル、四人の社会に於ける存在の意義にも変化が出る。

810cgm6w   そして1975年1月ようやく次のアルバム『炎』(1975 →)の作業に入る。しかしそこには『狂気』当時の彼らのクリエイティブなエネルギーのグループの姿はなかった。メイスンは個人的な問題から意欲は喪失していた("Shine on you Crazy Diamond","Wish You Were Here "の2曲はロジャー、デイブ、リックの三人、""Welcome to The Machine,"Have a Ciigar"の2曲はロジャーの作品である)。又ロジャー・ウォーターズの葛藤がそのままライブ(この「NORTH AMERICAN TOUR」)にも反映されていた。まさにライブとスタジオ録音が平行して行われメンバーも疲弊していた。更に慣れない4チャンネル録音で、技術陣も失敗の繰り返し。とにかくつまづきの連続で困難を極めたが、そこでロジャーは一つの開き直りで"その時の姿をそのままアルバムに"と言うことで自己納得し、ライブで二十数分の長い"Shine On"(後に"Shine On You Crazy Diamond")を2分割し、間にロジャーが以前から持っていた曲"Have a Cigar"を入れ、当時の音楽産業を批判したロジャー思想の"Welcome to the Machine"を入れ、更にロジャーのシドへの想いと当時の世情の暗雲の環境に対しての"詩"だけは出来ていたその"Wish you were here"は、ロジャーとギルモアが主として曲を付け仕上げた。しかしこの75年がバンド・メンバーの乖離の始まりであり、そんな中でのアルバム作りとなったのであるが・・・。
 そして予定より半年も遅れて9月にこの『炎』のリリースにこぎ着けたのだが、今想うに『狂気』に勝るとも劣らない名作だ。

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 しかしこのような状況であったこも関わらず、当時のピンク・フロイドの人気は圧倒的で、このロスのライブの4夜の4月22,23,24,26日の6万7千枚のチケットは一日で完売、追加の27日公演は数時間で売り切れというすざまじい売り上げであったのだ。
 そしてここに納められているのは26日(土)のライブの姿である。

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Disc 1 (63:33)
1. Mike Test
2. Intro.
3. Raving And Drooling
4. You Gotta Be Crazy
5. Shine On You Crazy Diamond Part 1-5
6. Have A Cigar
7. Shine On You Crazy Diamond Part 6-9 

Disc 2 (56:54)
The Dark Side Of The Moon
1. Speak To Me
7_20200316200101 2. Breathe
3. On The Run
4. Time
5. Breathe(Reprise)
6. The Great Gig In The Sky
7. Money
8. Us And Them
9. Any Colour You Like
10. Brain Damage
11. Eclipse

Disc 3
1. Audience 
2. Echoes

 このはライブは、絶頂期アルバム『狂気』、『炎』、『アニマルズ』の三枚に関係するセットリストの内容であり、又彼ら人気の最高に至る経過を盛り込んでおり、ブート界でもこの録音モノは引っ張りだこなのだ。しかもアンコールでは"ECHOES"も登場するのである。

Hogsinsmog  私がかってから持っていて出来の良いブート・アルバムは『Hog's in Smog '75』(STTP108/109=1975年4月27日追加公演モノ)で、セットリストは同一である。これもかなりの好録音であった(→)。
  
 しかしここに登場したマイク・ミラード録音モノは、更にその上を行く。Audienceとの分離はしっかりとしており、特に音質は高音部の伸びが素晴らしい。そして全体の音に迫力がある。
 当時のピンク・フロイドのライブは、スタジオ・アルバム版との演奏の違いは各所にあって、ギルモアのギターのアドリブも多く、マニアにはたまらない。ヴォーカルはロジャーの詩に込める意識は強くその歌声にも意欲が乗っていて聴きどころがある。そして至る所にやや危なっかしいところがあって、そこがリアルでライブものの楽しみが滲み出てくる。今回のものは既に出まわっていたモノの改良版で、内容が更に充実している。
 とにかく集まった聴衆の行為にも異常があり、爆竹の音もある。とにかく警察による逮捕者の多さでも話題になったライブでもある。

 "Raving And Drooling "は、『アニマルズ』の"sheep"の原曲だが、スタートのベースのごり押しが凄いしギターのメタリックの演奏も特徴的だ。"You Gotta Be Crazy"は"dogs"の原曲でツインギターが響き渡る。 この難物の2曲もかなり完成に至っている。『狂気』全曲も特に"On the run"のアヴァンギャルドな攻めがアルバムを超えている。そして一方この後リリーされたアルバム『炎』の名曲"Shine on you Crazy Diamond"の完成に近づいた姿を聴き取れることが嬉しい。
 又アンコールの"Echoes"にDick Parryのサックスが入っていて面白い。

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 いずれにしても、今にしてこの時代の良好禄音盤が完璧な姿で出現してくるというのは、実はギルモアというかポリー・サムソン支配下の現ピンク・フロイド・プロジェクトが、このロジャー・ウォーターズの葛藤の中からの重要な歴史的作品を産み、そして時代の変化の中でロックの占める位置を進化していった時期を無視している事に対して、大いに意義があると思うのである。そのことはピンク・フロイドの最も重要な『狂気』から『ザ・ウォール』までの四枚のアルバムに触れずに、ここを飛ばしてピンク・フロイド回顧と実績評価のボックス・セット「Early Years 1965-1972」「The Later Years (1987-2019)」を完成させたというナンセンスな実業家サムソンの作為が哀しいのである。

 当時のライブものとしては、この後5月はスタジオ録音に没頭、そして再び6月から「NORTH AMERICAN TOUR」に入って、『HOLES IN THE SKY』(Hamilton,Canada 6/28/75=HIGHLAND HL097/098#PF3 下左 )、『CRAZY DIAMONDS』(7/18,75=TRIANGLE PYCD 059-2  下右)等のブートを聴いたのを懐かしく思う。

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(評価)

□ 演奏・価値 ★★★★★☆   95/100 
□ 録音    ★★★★☆   80/100

(視聴)

 

 

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2020年3月14日 (土)

シーネ・エイ Sinne Eeg 「WE'VE JUST BEGUN」

ビックバンドをバックに歌い上げる一世代前のジャズ

<Jazz>

SINNE EEG & THE DANISH RADIO BIG BAND 「WE'VE JUST BEGUN」
BFM jazz / Denmark / BFM JAZZ 7621834675 2 / 2020 

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Sinne Eeg (vocal)

The Danish Radio Big Band
Nikolai Bogelund (conductor)
Jesper Riis (arrangement on 02, 03, 06, 07, 10)
Peter Jensen (arrangement on 01, 04, 05)
Roger Neumann (arrangement on 08, 09)

録音 : 2019年1月28-31日、於:デンマーク-コペンハーゲンのDR Koncerthuset Studio 3

  ここでも何回か取り上げて来たシーネ・エイSinne Eeg(1977年デンマークのレムヴィーLemvig生まれ)のニューアルバム。北欧ジャズ・シンガーとしては日本でも来日したりの人気の彼女だ。
A93785413985582682810jpeg  今回は1964年結成の50年の歴史あるデンマークの名門楽団The Danish Radio Big Band(このバンドは何枚かのアルバムをリリースしている)と組んでのアルバム。昔ながらのジャズの一形態のビック・バンドをバックにしてのもので、私には若干の抵抗があるだが、それでも手に入れてみたもの。
  そしてこのアルバムはどのような関係があったか不明だが、彼女が"My dear friend"と表している一昨年亡くなったアメリカのサックス奏者のロジャー・ニューマンRoger Neumann(1941-2018 →)に捧げている。

(Tracklist)

01. We've Just Begun
02. Like A Song
03. Those Ordinary Things
04. Talking To Myself
05. Hvorfor Er Lykken Sa Lunefuld
06. My Favorite Things
07. Samba Em Comum
08. Detour Ahead
09. Comes Love
10. To A New Day

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 冒頭からビック・バンドが派手に演じて、ちょっと尻込み。
   M2."Like A Song "、M3."Those Ordinary Things"になって彼女のヴォーカルを中心にバックはパーカッションの音もきこえる小コンポ風の演奏になってほっとして聴くのである。相変わらず歌詞をしっかり歌い込んでいてその点は好感が持てる。
 M4." Talking To Myself "は軽快だが、やはりバックは押さえられた演奏でソロに近いギターも入り、彼女のヴォーカル・アルバムとしての形を十分意識しての曲仕上げ。
 M5."Hvorfor Er Lykken Sa Lunefuld "は朗々と歌い上げたり、リズムカルな流れもあったり、彼女の中域の味のある歌声が優しく聴け、更にスキャット風のところもあり味が濃い。
 M6."My Favorite Things " 聴き慣れた曲をシーネ節で。
   M7."Samba Em Comum" このアルバムでは珍しいサンバ曲。まあ何でも歌いますと言ったスタイル。
   M8." Detour Ahead" バラード調でしっとり。
 M9."Comes Love " 彼女らしい歌い込んでの聴かせるタイプ。こうゆうのが彼女の特徴で悪くないです。
  全体の印象は、ロジャー・ニューマンに捧げたということなのか、やはり一時代前のアメリカン・ジャズの世界、それはM10."To A New Day"に特徴的だが、大きめのキャバレー(昔懐かし)での豪勢にジャズを味わいたいという人にはそれなりに良いのでしょう。私にとってはどうでもいいですが。

 彼女のヴォーカルも低音を生かしたり、パンチを効かしたり、結構ブルージーなところもあったりと芸達者である。しかしジャズって考えてみれは幅広いですね、未だにこの昔懐かし世界も健在なんだと、ふと思うのである。そしてまあ聴いてみるのも悪くないでしょう。

(評価)
□ 演奏・歌  ★★★★☆  80/100
□ 録音    ★★★★☆  80/100

(試聴)

 

* *

(参考) 全くこのアルバムとは別のピアノ・トリオとのライブ映像、実はこのタイプの方が彼女は良いのですが・・・↓

 

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2020年3月10日 (火)

カレン・ソウザ Karen Souza 「LANGUAGE OF LOVE 愛の囁き」

オリジナル曲を中心に・・相変わらずのセクシー・ヴォイス

<Jazz>
KAREN SOUZA 「LANGUAGE OF LOVE」
JVCCKENWOOD / JPN / VICJ-61784 / 2020

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KAREN SOUZA カレン・ソウサ (VOCAL)

  アルゼンチン ブエノスアイレス出身、ジャズをベースととして、セクシー度満点で歌い上げることで話題になってはや9年、ジャズ・シンガー=カレン・ソウサの約2年ぶりとなる通算でもう5作目となる新作アルバムの登場。こうしたアルバムはなんだかんだと言っても買ってしまうところが哀しい性(さが)といったところ。
 今アルバムは、オリジナル曲10曲を中心していて意気込みのわかるところと、レオン・ラッセルの「マスカレード」、レナルド・コーエン「哀しみのダンス」や、「枯葉」などのスタンダード・ナンバーも編曲をこらして収録している。

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(Tracklist)

1 マスカレード THIS MASQUERADE
2 エヴリバディ・ノウズ EVERYBODY KNOWS
3 ラヴズ・ノット・フェア LOVE'S NOT FAIR
4 愛の囁き LANGUAGE OF LOVE
5 レス・イズ・モア LESS IS MORE
6 サムワン・ブロート・ミー・ワイン SOMEONE BROUGHT ME WINE
7 ゼア・ユー・アー(セカンド・チャンス)THERE YOU ARE (SECOND CHANCE)
8 リズム・アンド・ブルース RHYTHM AND BLUES
9 イッツ・ゴナ・ハプン・トゥナイト IT'S GONNA HAPPEN TONIGHT
10 イット・ウィル・オール・ワーク・アウト IT WILL ALL WORK OUT
11 枯葉/哀しみのダンス1AUTUMN LEAVES / DANCE ME TILL THE END OF LOVE
(日本盤ボーナス・トラック)
12 ウェイティング・フォー・ア・トレイン WAITING FOR A TRAIN

Press_conference_of_karenw   ジャズ、女性ヴォーカルとなると、やっぱりこのセクシー・ムードのパターンは無くなりませんね。近年では最もその最右翼の彼女のアルバムだけあって、スリーブ・デザインもその世界だ。
 そしてその中身、スタートのレオン・ラッセルのM1."THIS MASQUERADE"からストリングスの入った豪勢なバック演奏だ。そしてあの物憂いいつもの低音を生かした彼女の歌声が響く。そんな意味ではM9." IT'S GONNA HAPPEN TONIGHT"も同様だ。
 二曲目からはずーとオリジナル曲が続くが、やや軽快なM2."EVERYBODY KNOWS"でもセクシーな歌い方はお見事と言いたいところだ。
  M4." 愛の囁き LANGUAGE OF LOVE"は何となくどこかで聴いたことがあるメロディーでなかなかいいです、途中ちょっと変調するところがニクイ。
 しかし曲は多彩です、M5." LESS IS MORE"はピアノをバックにバラード調で少々暗いが、M6."SOMEONE BROUGHT ME WINE"は、一変してサンバ風となるといった具合。
 M11."AUTUMN LEAVES / DANCE ME TILL THE END OF LOVE "はピアノだけをバックに彼女のしっとり歌い上げるところが聴け、この2曲を組み合わせたのもにくいところ。これがアルバムの締めくくりになっている。まあファンにしてはたまらないところだろう。

 こうして聴いてみると、今やジャズ・ヴォーカル界のベテランの雰囲気すら感ずる世界を構築している。ニューヨークが主たる活躍の場としている彼女も、ジャズ・ヴォーカル世界をリードした存在になっていることは事実であり益々の健闘を期待したいところだ。

(評価)
▢ 曲・歌・演奏 :    ★★★★★☆ 90/100
▢ 録音              :  ★★★★★☆ 90/100

(試聴)

 

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2020年3月 5日 (木)

寺村容子YOKO TERAMURA & 山中千尋 CHIHIRO YAMANAKAのピアノ・トリオ対決

日本女性ピアニスト・ジャズにちょっと耳を
まさに対照的なジャズ・ピアノ・トリオ世界

 

 日本女性ジャズ・ピアニストの寺村容子と山中千尋を取り上げる。たまたま昨年ニュー・アルバムを両者リリースしていて、ただし私はここで取り上げてこなかったのだが、なんと今年の「ジャズ批評」214号のジャズ・オーディオ・ディスク大賞に銀賞と7位に入っていたので、ちょっと感想を書いておきたくなった。

 

<Jazz>
YOKO TERAMURA TRIO 「GRACEFUL TOUCH」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1084 / 2019

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寺村容子(ピアノ)
新岡 誠(ベース)
鳥山 悠(ドラムス)

Yokot (Tracklist)

1.No Problem 危険な関係のブルース (Duke Jordan)
2.Last Tango In Paris ラスト・タンゴ・イン・パリ (Gato Barbieri)
3.These Foolish Things ジーズ・フーリッシュ・シングス (Jack Strachey)
4.Who Wants To Live Forever リヴ・フォーエヴァー (Brian Harold May)
5.Graceful Touch グレイスフル・タッチ (Tord Gustavsen)
6.Children's Crusade チルドレンズ・クルセイド (Sting)
7.You Must Believe In Spring ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング (Michel Legrand)
8.Bay Walk ベイ・ウォーク (Yoko Teramura)
9.Left Alone レフト・アローン (Mal Waldron)
10.Wish Of The Ancients いにしえの願い (Yoko Teramura)

 寺島レコードが気合いを入れているどちらかというと美旋律ピアノを演ずる寺島容子の2019年リリース新作だ。私の場合どちらかというと録音が話題になったアルバム『TERAMURA YOKO MOODS』(TYR-1026)以来である。
  アルバム・タイトルが、あのトルド・グスタフセンの名曲"Graceful Touch"で、彼女はここでその曲のカヴァーを披露している。こんなところからも目指している方向が解ると言うところだが、なにせトルド・グスタフセンは哲学的深遠な世界に踏み込むという強者、これを描くにはまだ荷が重いと言わざるを得ない。このアルバムでは一番の聴きどころであり、しかし今後に期待で目指すことは悪くない。

 おそらくプロデューサー寺島靖国の方向性を描こうとしたところは、その録音からも解るところだ。なんと同一音源に二種類のマスタリングを行って、二枚組にしている。一枚は通常と思われるトリオのエネルギー・バランスで、もう一枚はピアノをやや引っ込めてドラムス、とベースが少し表に出てくる。私は後の方のタイプが良かったのですが、演奏よりもこんなオーディオ的遊びが出来る楽しいアルバムである。
 いずれにしてもバラード系演奏を聴かせてくれて私好みであるのだが、ならばもう少し情感のあるピアノタッチの強弱による描く世界が欲しいと思うところであった。まあ彼女もこれからなんでしょうね。録音にもよるのかも知れないが、音ばかりが表に訴えてくるアルバム。

                  - - - - - - - - -

<Jazz>
Chiro Yamanaka 「Del Tramonto」
UNIVERSAL MUSIC / JPN / UCCJ-2167 / 2019

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Chihiro Yamanaka : Piano, FenderRhodes, Hammond B-3 Organ

Yoshi Waki: Bass
John Davis: Drums
Vincente Archer: Bass
Damion Reid:Drums

録音年 2019年5月
録音場所 Boomtown Studio Brooklyn

Profile_3w (Tracklist)
1 ジェンナリーノ Gennarino (Chihiro Yamanaka)
2 パソリーニ Pasolini (Aldo Romano)
3 シンキング・オブ・ユー Thinking Of You (Chihiro Yamanaka)
4 ネヴァー Never (Chihiro Yamanaka)
5 チェロキー Cherokee (Ray Noble)
6 スイート・ラヴ・オブ・マイン Sweet Love Of Mine (Woody Shaw)
7 ルッキング・アップ Looking up (Micheal Petrucciani)
8 ブルー・マイナー Blue Minor (Sonny Clark)
9 ソリチュード〜C・ジャム・ブルーズ Solitude〜C jam blues (Chihiro Yamanaka / Duke Ellington)
10 プリマ・デル・トラモント Prima Del Tramonto (Chihiro Yamanaka)

 このアルバムは数多い山中千尋ピアノ・ジャズの最新作である。ブルーノート80周年記念作としての位置にもある。そして中身はソニー・クラークなどブルーノートの名曲をカバーし、フランスの障害を克服した最高のジャズ・ピアニストと評されていたミシェル・ペトルチアーニの没後20年にも焦点を合わせた作品を収録している。しかしそれでも主たるは彼女自身のオリジナル5曲が占めている。 リズムセクションは、ニューヨーク・トリオのレギュラーであるヨシ・ワキとジョン・デイビス。そして、ロバート・グラスパー・トリオのリズムセクションであるヴィセンテ・アーチャーとダミオン・リードという2組のリズムセクションとの共演もの。

 M1." Gennarino "は軽快なタッチでスタートし、M3."Thinking Of You"彼女の特技である転がるような打鍵さばきが惚れ惚れするほど見事である。
 M5."Cherokee"は、ドラムソロから始まり、疾走するベース、そして続くピアノの早引き、この流れはピアノ・トリオの醍醐味を地でゆき圧巻。確かに彼女の技量はハイレベル。
 M10."Prima Del Tramonto"はバラード調で聴きやすい流れ、しかしドラムスは疾走しており、後半は変調するという一筋縄ではゆかない。

 これは彼女の技量の高さをいやでも迫ってくるアルバムでジャズ古典的スタイルでの超絶技巧はナンバー1だ。しかし面白みという点ではやや欠けている。ニューヨークを拠点に活躍し、ボストンのバークリー大学の助教授という実力者だからこそ、彼女はもう一歩力まず余裕を持って新しい現代ジャズ手法に迫ってくれると面白いのだがと思う。又録音も一世代前の標準型で面白くない、寺島レコードのようなサウンドに挑戦があればアルバムの価値も上がろうとゆうところ。

(評価)

         (寺村容子)         (山中千尋)

□ 曲・演奏    75/100                    90/100
□ 録音      90/100              75/100

 

█ 日本女性ピアニストの二人のアルバムを並べてみたが、とにかく対照的。技量は圧倒的に山中千尋、アルバム作りは寺村容子というか寺島レコードに、というところで面白い対決となった。「ジャズ批評」の"ジャズオーディオ・ディスク大賞2019"の「インストゥルメンタル部門」では、寺村容子が銀賞、山中千尋が7位というところであった。やっぱりこの賞は演奏より録音にウェイトがあるのかなと、又は演奏の技量と深さより聴きやすさを選んだのかと思わせる、そんな結果であったが、これからも両者の奮闘に期待したい。

(試聴)

寺村容子

 

*

山中千尋

 

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2020年3月 1日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi 「COMMON VIEW」

オリジナル曲による創意の結晶といった流れ

<Jazz>

Enrico Pieranunzi  Jesper Somsen  Jorge Rossy
「COMMON VIEW」
CHALLENGE RECORDS / AUSTRIA / CR73459 / 2020

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Enrico Pieranunzi エンリコ・ピエラヌンツィ (piano)
Jasper Somsen イェスパー・サムセン (double bass)
Jorge Rossy ホルヘ・ロッシー (drums)
Recorded at MotorMusic, Mechelen(Belgium)
Recording dates : September 10 & 11,2018

 はっきり言ってこのアルバムも難物です。これは2018年の録音モノだが、エンリコ・ピェラヌンツィは近年この傾向にあることは解っての上でのアプローチであった。とにかくヨーロッパ叙情派ピアノの代名詞的彼であるが(1949年、ローマ生まれ)、このアルバムは極めて端麗なピアノ・タッチが聴かれるもハードにして軽快な転回をみせたり、美旋律を奏でるので無くトリオのそれぞれのアクセントを許容し協調してゆく妙を描く世界に専念していての曲作り。安易な叙情的美を求めるとしっぺ返しが来る。

 

Enricopieranunzi2w (Tracklist)

01. Falling From The Sky (JS)
02. Silk Threads  (JS)
03. Sofa  (JR)
04. Turn In The Path  (EP)
05. Love Waiting Endlessly (JS) 
06. Perspectives  (EP)
07. Instant Reveal I *
08. Who Knows About Tomorrow  (JR)
09. Instant Reveal II * 
10. Recuerdo  (JR)
11. Song For An August Evening (EP)

(JS):Jasper Somsen、(JR):Jorge Rossy 、(EP):Enrico Pieranunzi 、*印:三者

 それにしてもこのトリオのそれぞれの演奏の切れ味は見事と言いたい。けっしてピアノを前面に出してのベース、ドラムスが単なるリズム隊としてのサポートという単純なトリオ演奏では無い。収録曲は彼らがそれぞれ3曲づつ提供し、そして三者による2曲のオリジナル計11曲である。単なるカヴァーという世界で無いので、それは彼らの意志の見せ処としての曲構成展開が演じられているところにある。

 とにかく私にとってようやくゆったり許容できたのは、M2."Silk Threads "、M11."Song For An August Evening "の2曲くらいであった。多分こうゆうアルバムは聴いたことのある旋律が顔を出してホッとさせてくれるというものでないので、恐らく何回と聴いていく内に何かが見えてくるのであろうという世界なのだ。
 冒頭のM1." Falling From The Sky "は三者のお披露目、コラボレーションの妙。M2."Silk Threads "はがらっと変わってゆったりした世界。M3.Sofa""、M4."Turn In The Path"はコンテンポラリーにして実験音楽的ニュアンス。
 M7."Instant Reveal I"はピアノの音の美しさが演じられるも、曲の展開が異様で緊張感を誘う。そしてM9."Instant Reveal II"に繋かがり、三者の交錯が興味をひく。

Trio1

 近年のエンリコ・ピエラヌンツィの単なる耽美性から一歩も二歩も歩んだ彼の創意の意欲から生まれる世界だ。それはトリオのコラボレーションを楽しむ瞑想感覚のあるミステリアスにしてスリリングな一つの世界なのである。
 私からすると、とくにM11."Song For An August Evening "が往年のエンリコ・ピエラヌンティの演奏を思い起こさせて、救われた感じを持ったエンリコ・ワールドであった。

(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★☆  80/100
□ 録音   ★★★★☆  80/100

(試聴) 

 

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2020年2月25日 (火)

キアラ・パンカルディChiara Pancaldi 「PRECIOUS」

歌唱能力は高いが、全体に馴染めないコンテンポラリー・ジャズの極み

<Jazz>

Chiara Pancaldi 「PRECIOUS」
CHALLENGE Records / AUSTRIA / CR73497 / 2020

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Chiara Pancaldi キアラ・パンカルディ (vocal)
Roberto Tarenzi ロベルト・タレンツィ (piano except 3, 7, 8) (electric piano on 3, 8)
Darryl Hall ダリル・ホール (bass except 5)
Roberto Pistolesi ロベルト・ピストレージ (drums except 5)
Diego Frabetti ディエゴ・フラベッティ (trumpet on 2, 9)
Giancarlo Bianchetti ジャンカルロ・ビアンケッティ (guitar on 4, 7)

  キアラ・パンカルディ(1982年イタリアのボローニャ生まれ)のヴォーカル・アルバム3作目。過去の2作はここでも既に取り上げてきた1st『I WALK A LITTLE FASTER』(CR73409/2015)2nd『WHAT IS THERE TO SAY』(CR73435/2017)で、スタンダード・カヴァー集という形あったが、今作はなんと自己のオリジナル曲で埋め尽くされている(9曲中7曲)。そんなところは、イタリア・シーンで活躍中の彼女の意欲作と言ってよいものだ。そしてロベルト・タレンツィ(p)以下のピアノ・トリオ(+ゲスト入りも4曲)をバックにしたもの。
 1stアルバムは、なんと突然のデビューで「ジャズ批評」企画の年間ジャズオーディオ・ディスク大賞2015ヴォーカル部門を取ってしまったものだった。あれは私自身は若干疑問に思っていたのであったが、新たらしモノに弱い大賞という感じでもあった。しかしこの3作目となると新人のインパクトでなく、実力がかなり評されるところである。

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1. Better To Grow *
2. Nothing But Smiles* 
3. Urban Folk Song
4. Adeus *
5. Precious (vo & p duo) *
6. The Distance Between Us* 
7. Songs Don't Grow Old Alone (omit piano)*
8. You And I (We Can Conquer The World)
9. Our Time*

( *印:キアラのオリジナル曲 )

 まずは印象は、ジャズ・ヴォーカルの線はしっかりしている。しかしどちらかというと躍動感ある現代風の流れが感じられるが少々難物。
 オープニングのM1." Better To Grow "では、やはりとマイナスの予想が当たってしまった。この曲は彼女のクリーン・ヴォイスは解るが、曲自身が魅力が感じられない。なにせブラジル音楽からの影響を受けていると言うとおりのテンポが快調なコンテンポラリーものであるが、私にとってはよりどころのない曲。
 そのイメージが続いて、彼女のかなり歌い上げる力量は理解しつつ、どうも旋律自身心に響いてこない。演奏の美旋律という処ではなく、フリー・ジャズっぽいところにむしろ興味は行ってしまった。
 アルバム・タイトル曲M5."Precious "は、初めてゆったりした物語調の曲となる。このあたりになってようやくピアノの美しさをバックに彼女のヴォーカルが私にとって美を感じられる世界となった。
 いずれにしても残すところM7.,M9.の2曲ぐらいが、馴染めると言えば馴染めた曲だ。
   M7."Songs Don't Grow Old Alone"はギターの美しい音と旋律を主としたバックに彼女の深みのある美しさのある歌声が展開して、スキャット系のヴォーカルも色づけしてなかなか技量の深さも感じ、これはなかなか良い。M8."You And I"はS.Wonderの曲というが、それも彼女のジャズ世界に変容していて見事言えば見事。
  そして最後のM9."Our Time" この曲はピアノの美しさに誘われての彼女の深い歌い込みが聴かれ好きなタイプ、そこには美しさと哀感も感じられてトランペットの響きもナイス、これはいい。変にブラジルっぽくなくこうした曲なら私は大歓迎だ。

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61kw1h2xjglw  アルバムを通して、彼女の美声と歌う技量の高さは実感できる。ただこれは好みの問題だが、私にとっては受け入れられる曲がなんと3-4曲のみと言うところで、少々残念であった。やはり何曲かはスタンダードをじっくり歌って欲しいと思うのであるが如何なものだろうか。
 彼女は私の好きなピアニストのアレッサンドロ・ガラティとの共演ものが次に控えているようで(「The Cole PorterSongbook」→)、そちらはピアニストのパターンからして期待に添ってくれるかもしれないと思うところである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  ★★★★☆  曲より技量をかって 80/100
□ 録音      ★★★★☆            80/100

 

(試聴)

 

 

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