音楽

2023年9月28日 (木)

レイヴェイ Laufey 「Bewitched」

ファンタジー・ポップで、・・ジャズ色を期待して聴かない方がいい

<pop, Jazz>

Laufey 「Bewitched」
Laufey-AWAL / Import / LAULP003CD / 2023

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Laufey : Vocals, Viola, Phonographic
Ted Case : piano

Thorleifur Gaukur Davidsson : Slide Guitar
Simon Moullier : Vibraphone
Junia Lin : Violin
Carson Grant : Drums
Jordan Rose : Drums

Philharmonia Orchestra (Orchestration : HalRosenfeld)

 ここでも既に取上げたレイヴェイ(本名Laufey Lin Jōnsdēttir, 1999年生まれ、アイスランド出身)の早々の第2弾だ。彼女は2022年に発表した1stフルアルバム『Everything I Know About Love』は、ポップな中にジェントリーでクラシカルなジャズっぽさが見え隠れしての独自のサウンドが、彼女の魅力ある声と共に各方面から高い評価を受けた。今作2ndアルバムは、宣伝では、ジャズ色が更に増したとも言っており、取り敢えず孫の音楽を聴くような感覚で聴いてみた次第である。

Laufeypressphotosalbumreleasew  曲は一曲"Misty"以外全て彼女の手によるもので、SSWとしての技量も発揮している。
 タイトル「Bewitched」 とは"魅せられた"、"魔法をかけられた"の意味だが、1960代後期から1970年初めにテレビ・ドラマで人気を博した「奥様は魔女」とのタイトルにならっての意味で使われているようなフシもあり・・・、果たしてこのアルバムの目指すところは?と、ちょっと気になるところである。
 又、彼女は「アルバムタイトル曲"Bewitched"では、『ファンタジア』や『シンデレラ』などの古いディズニー映画からインスピレーションを得たんです。そのジャンルの映画のスコアは本当に私に刺激を与えました。彼らは音楽や楽器で魔法を見せてくれたんです。その映画の曲の多くは、今日の偉大なジャズミュージシャンたちが演奏するジャズスタンダードになりました。」と言っている。果たしてこの感覚がジャズというところに結び付く何かが有るのだろうか、それがいかなる形で表れてくるかという事もポイントとして聴いてみたいのである。さらにテーマとして引き続き”愛”に焦点を当てているとのこと、どんな進歩が今作であるのか、これも一つの注目点であろう。

(Tracklist)
1.Dreamer
2.Second Best
3.Haunted
4.Must Be Love
5.While You Were Sleeping
6.Lovesick
7.California and Me
8.Nocturne (Interlude) 
9.Promise
10.From the Start
11.Misty
12.Serendipity
13.Letter to My 13 Year Old Self
14.Bewitched

 まず、スタートのM1."Dreamer"からソフトな混成合唱と共にスタート、きつさのない比較的ソフトな声は人気の一つだろう。ただムードは若き女性の夢を描く古きデズニー映画のムード。 
 M2."Second Best"ギターのバックにしての彼女の低音のしっとりヴォーカルは聴き応えある。
 曲の流れで、ストリングスオーケストラがバツクに顔だすがちょっと古臭く、ジャズ・ムードではない。
 M4."Must Be Love"出だしから少しギターとの彼女の歌のデュオ・スタイル、この流れはなかなかいいのだが、そのうち合唱がバックに入ってきて美しく仕上げようとするところがダサい。
 M6."Lovesick" やはり合唱とオーケストラ・サウンドでの盛り上がりを図る手法は同じ。ジャズとしては聴かない方がいい。
 M8."Nocturne" 何故かここに突然間奏ということでピアノソロが入る。アルバム構成の手法としては面白い。
 M9."Promise" スロー・バラード調の感情輸入の歌いこみはそれなりに旨く、聴き応えあり。
 M10."From the Start" 突如、ガラッとムード変わり彼女が愛するというボサ・ノバの登場。ボサ・ノバの描く世界に応える出来として感じなかった。
 M.11"Misty" どうしてか解らないが、この曲のみジャズ・スタンダードが登場する。しかしなかなか出来は面白い。彼女のこの曲だけ別に聴いたことあり、それなりのジャズとしての新感覚の世界として興味を持って、聴いてみたいと思ったが、このアルバムの他の曲にその期待は応えていないので注意。

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 アルバム・タイトル曲M14."奥様は魔女"に期待してみたが、彼女が言う「私のファンは実際にはクラシックやジャズの方が好きだということがわかったので、今回はそれに全力で寄り添って、私が好きな音楽を作ることができました。」と言っているには、ちょっと期待を裏切って、やはりデスニー・ファンタジー世界で終わってしまう。

 このアルバムは、全体に彼女自身が言っていたように、デズニーのファンタージー世界の因子の方を圧倒的に感じて、所謂ジャズ世界ではない。ジャズというのは形だけでなく歴史がある世界だ。デズニーの曲がジャズ・スタンダート化したのは、その演奏によってジャズに昇華したところにあり、そのものがジャズとして捕らえられたわけではない。ちょっとそんなところが勘違いしているような出来であった。ジャズと言われても、まだまだジャズ・ファンは納得しないと思う。
 しかし、彼女の演ずるところがこのスタイルだというのであれば、それはそれそれなりにファンは納得してゆくと思うので、あまりジャズ・ジャズと言わない方が良いのではとも思った次第。

 究極、悪いアルバムではないので、是非とも更なる発展を期待するのである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 87/100 
□ 録音     87/100

(試聴)

 

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2023年9月23日 (土)

ミシェル・ンデゲオチエロ Meshell Ndegeocelle「The Omnichord Real Book」

孤高の世界からの一大絵巻を展開する

<Funk, Soul, Reggae, R&B, Jazz>

Meshell Ndegeocelle「The Omnichord Real Book」
Blue Note / Import / 4896894 / 2023
Digital File 88.2kHz/24bit Flac

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Meshell Ndegeocelle (Voc, Key, Bass, e-harp)

Jason Moran
Ambrose Akinmusire
Joel Ross
Jeff Parker
Brandee Younger
Julius Rodriguez
Mark Guiliana
Cory Henry
Joan As Police Woman
Thandiswa  (and others)

Gmn1w_20230920124801   ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello、本名: ミシェル・リン・ジョンソンMichelle Lynn Johnson、1968年8月29日 - )は、アメリカ合衆国の女性シンガーソングライター、ベーシスト、ボーカリストである。ベースのみならず、ギター・ドラム・キーボードといった楽器をこなすマルチ・ミュージシャンで、グラミー賞10度ノミネートの実績を誇る。今作は2018年以来となる待望のニュー・アルバムである。もともとネオ・ソウルのさきがけとして知られており、音楽的にはファンク、ソウル、ヒップホップ、レゲエ、ダブ、R&B、ロック、ジャズの要素を含むという彼女自身のオリジナルの世界であった。今回は名門ブルーノートへ移籍してのリリースで、いよいよジャズとしての本格的スタートとして期待されるところだ。
 今作は全曲ミシェル本人のもので、マルチ奏者/作曲家のジョシュ・ジョンソンがプロデュースを担当。さらに上記のようにジェフ・パーカー、マーク・ジュリアナなどジャズ界を中心に多くがゲストとして参加している。ジャズの因子は濃くなりつつも、彼女のルーツであるソウル、R&Bなど演じそれらを独自のサウンドへと構築しているところが聴きどころ。

  ミシェルは旧西独・ベルリン出身。米・ヴァージニア州へ移った後、ワシントンD.C.で育つ。ゴーゴー・ミュージック・シーンに加わってベースの腕を磨きながら、ハワード大学で音楽を学ぶ。その後、ニューヨークへ進出し、93年に『Plantation Lullabies』でアルバム・デビュー、既に30年のキャリアだ。翌年にジョン・メレンキャンプとのデュエット「ワイルド・ナイト」が全米トップ10のヒット。その後、多くの作品を発表し、グラミー賞ノミネートの常連にと評価は高い。スタジオ作品の前作は2018年の『Ventriloquism』。
  彼女の曲・歌詞にはアフロセントリズム(アフリカ系アメリカ人が,自らの起源をアフリカにもとめる思想。アフリカ中心主義)の世界観から、セクシュアリティ、ジェンダー、黒人のプライド、白人の人種差別のテーマが聴き取れる。

(Tracklist)

1.Georgia Ave (feat. Josh Johnson(sax,vo)) 2:40
2.An Invitation  2:21
3.Call The Tune (feat.Hanna Benn(vo))1:54
4.Good Good (feat. Jade Hicks(vo), Josh Johnson(sax, vo)) 3:28
5.Omnipuss 2:51
6.Clear Water (feat. Deantoni Parks(ds), Jeff Parker(eg), Sanford Biggers(vo))4:35
7.ASR (feat. Jeff Parker(eg)) 7:38
8.Gatsby (feat. Cory Henry(p), Joan As Police Woman(vo))  4:21
9.Towers (feat. Joel Ross(vib)) 3:35
10.Perceptions (feat. Jason Moran(p)) 2:14
11.THA KING (feat. Thandiswa(spoken words)) 0:27
12.Virgo (feat. Brandee Younger(harp), Julius Rodriguez(clavichord, organ)) 8:38
13.Burn Progression (feat. Hanna Benn(vo), Ambrose Akinmusire(tp)) 4:01
14.onelevensixteen 2:49
15.Vuma (feat. Thandiswa(spoken words), Joel Ross(vib)) 3:00
16.The 5th Dimension (feat. The Hawtplates(vo)) 5:24
17.Hole In The Bucket (feat. The Hawtplates(vo)) 5:30
18.Virgo 3 (feat. Oliver Lake (Arr.), Mark Guiliana(ds), Brandee Younger(harp), Josh Johnson(sax)) 6:53

 パンデミック期間中に音楽とじっくり向き合う時間を取ることが出来たというミシェルは、ブルーノート・デビューとなる本作について「昔からレコードのブルーノート・ロゴを見るのが好きだったわ。ジャズという言葉は私にはとても重いけど、自己表現を追い求めているこのレーベルに参加出来てとても感動している。このアルバムは、古いものを新しい方法で見るやり方について表現した作品で、両親が亡くなった時に全てが動き出したの。両親の死後、すべてが急速に変化し、私自身のものの見方も瞬く間に変わった」と語っている。そして「この作品は私の全てであり、私の旅、そして人生の一部よ」と言う。そんな気合いが入っているだけ一つの絵巻と言える充実感がある。
 タイトルは、Omnichordを使ってコロナ禍で自宅で今までの総決算を考えながら音楽製作をしていたことの表現らしい。

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 このように18曲73分という重量級で、曲はそのタイプも多彩である。リリース前に公開されM12.”Virgo”は近未来感覚というか宇宙感覚というか、なかなか味のある洒落たヴォーカルのアフロビートのジャズ、8分強の曲だがなかなか洗練されている。一方M15."Vuma"はヴォーカル・ムードは古典的アフリカンのイメージだ。
 M16."The 5th Dimension"はギターの響きが印象的でなかなか凝った曲で面白い。アルバムは、オープニングのM1."Georgia Ave"から多彩な楽器がバックで使われ、リズム感が快適である。このように全体にみてもしっとり感というものではない。
 ヴォーカルも多彩でバックはコーラスが効果を上げている。M2."An Invitation"はソフトでいいし、M8."Gatsby"のスロー・バラード調も良い。
 とにかく多彩で、M9"Towers "は他の曲とイメージが異なり、明るいポップの雰囲気であったり、M12."Virgo"はファンキーでかっこいい曲だ。

 私は、この世界は殆ど聴かないし、彼女の過去のアルバムも知らない方が多いので、曲の評価や味付けの内容の分析は全く出来ないのだが、過去の流れからみてちょっと違う世界なのかもしれないが、ハウス・ミュージックぽい曲の展開もあり、ディープ・ハウスを思わせるところもあった。
 しかし、まあフォークソウルの流れを重視したファンク、アフロビートの世界として聴きたいところだ。

 いずれにしても音楽技術の曲作りや演奏、歌にかなりの高度なところを感ずるし、なかなか味わい深い。ただ所謂ジャズ色はそう濃くなくて、このジャンルは簡単には語れない。今後がどんな方向に行くのかと注目したいところだ。

(評価)
□ 曲・演奏・歌   88/100
□ 録音       87/100

(試聴)
 

*

 

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2023年9月17日 (日)

アロン・タラス Aron Talas Trio 「New Questions, Old Answers」

なかなか親近感あるメロディアスな世界でなく抵抗があり難解

Aron Talas Trio 「New Questions, Old Answers」
Bmc Records / IMPORT / BMCCD334 / 2023

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Áron Tálas - piano
István Tóth - double bass
László Csízi - drums

All compositions by Áron Tálas
Recorded by Viktor Szabó at BMC Studio, Budapest on 1-2 November, 2022
Mixed and mastered by Viktor Szabó

Produced by László Gőz

Ab6761610000e5eb37a8d6beffdb68d959a485f1   ハンガリーのジャズシーンで評価の高い俊英ピアニストのアロン・タラスÁron Tálas(1990年ブタペスト生まれ33歳 右中央)のトリオでの2ndアルバム。前作『リトル・ベガー』は2017年にリリースされ、デビュー・アルバムでありながら国際的に高い認知を得た。
 彼はピアニスト、ドラマー、そして必要に応じて歌手兼ベースギタリストだ。フランツ・リスト音楽アカデミーでジャズ・ピアノとジャズ・ドラムを学ぶ。2013年、ハンガリーの国内コンペでトリオで「最優秀ジャズ・コンボ賞」、同年、「ジュニア・プリマ」受賞。2015年、モントルー・ジャズ・ピアノ・コンペのファイナリストの一人。現在、フランツ・リスト音楽アカデミーの伴奏ピアニスト。コダーイ・ヤーノシュ大学ジャズ・ドラム科講師で、マルチプレイヤー的才能の持ち主だ。

 今回のアルバムは彼自身の曲によるもので、「ヨーロッパならではのクラシカルな土壌の上に透明感溢れる抒情性があって、フォーク要素やロックの要素、クラシック音楽までに広く及び、フレージングは比較的軽やかで、伝統的なスイング感がうまく織り合わされ演奏を展開する」との解説があるが、果たしてそう感ずる世界かどうか。

 

(Tracklist)

1 New Questions, Old Answers
2 Hargrove
3 Old Soul
4 The Choice You Never Had
5 Elastico
6 Tevemenet
7 Rain
8 Cnile Kinlu
9 Afrosatie
10 The Visitor
11 To Be Continued

  叙情性の因子があるも、曲展開は意外にダンサブルなところがある。メロディー展開も明るいというのではないが、そう深刻に哲学的な世界に入ってゆくというスタイルではなく、スウィンギーなところもあってやっぱりジャズの世界に自己の独創性を生かしてゆきたいという方向性が聴きとれる。

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  M1." New Questions, Old Answers"このアルバムのタイトル曲だ。"新しい質問、古い答え"このタイトルが振るっている。主張したい問題意識が感じられる。いわゆるスウィングして流れてゆくアメリカン・ジャズとは異なり、しかもユーロ系のイタリア、又一味違った北欧系の流れとも異なった世界だ。決して陽気な明るさはない。抒情性と言っても日本的な味わいとは全く別物でちょっと取り付くには難しい印象。
 M3."Old Soul"決まったテーマが流れるが、次第に留まるところを知らずにピアノの流れが展開。ベース、ドラムスもそれぞそれが統一感ないように流れるも押さえるところはピシッと締まる。見事な技量を感ずるも私の好きな哀愁感は感じられない。
 M4."The Choice You Never Had" ゆったりと抒情的に流れるも、所謂イタリア的美旋律の世界ではない。回顧的で未来の展望感は感ぜず。
 M7."Rain" のピアノの響きは極めて美しいが・・・
 M9."Afrosatie"  このタイトル自身、なかなか理解が難しい。曲はそう難解ではないが、しっとり心を奪われるという世界ではない。私が期待している世界ではなさそうだ。

 はっきり言って全体的に難解で、寄り付くところが微妙に抵抗的で親密感のレベルが低い。クラシック的因子が結構強く、又それぞれの曲が難解でこのアルバムは大衆的でない。評価は1.ジャズ理論か、2.音楽理論か、3.人の心を捉えるメロディーかと考えてしまうが、少なくとも3.ではない。私としては難物としての評価に至った代物。じっくり聴いていると味が出そうな感じではあるが。

(評価)
□ 曲・演奏 :   85/100
□   録音   :   87/100

(試聴) 

 

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2023年9月12日 (火)

カレン・ソウサ Karen Souza 「Suddenly Lovers」

相変わらずで、ソウサ節は健在だ !

<Jazz>

Karen Souza 「Suddenly Lovers」
VICTOR ENTERTMENT / JPN / VICJ-61792 / 2023

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Karen Souza : Vocals

  その妖艶なヴォーカルで、熱心なファンというわけではないが、新作となるとなんとなく聴きたくなるのが、どちらかというとオールド・ファッションなスタイルのアルゼンチンのカレン・ソウサ。ここに3年ぶりのニューアルバムの登場である。彼女は1980年代生まれという事なので40歳代そこそこ、なんとなくもう少し歳はとっているのかと思いきや意外に若い。
 過去に2009年に自身のカルテットでブラジル・ツアーを行い大成功する。これを契機にアーティストとして 活動をすべくロサンゼルスに渡りホイットニー・ヒューストン、アレサ・フランクリンらのソングライターであるパム・オーランドに師事し作曲、作詞についても学ぶ。

 今回は、自己のオリジナル曲を中心に(7曲)、ジャズ、ボサノヴァからボレロ、ワルツまで、多様なスタイルで例の低音・ハスキーボイスで迫ってくる。これは自身の完全プロデュース作だ。
 特徴は、アメリカ、メキシコ、エストニア、そして母国アルゼンチンでレコーディングされた本作。Uenso Symphonic Orchestraほか30名以上のアーティストが参加し制作されたとか、ストリングス・オーケストラのバック演奏が目立つ。カレンの良き理解者であるソングライターPamela Phillips OlandやDany Tomasその他の名前が共作者として見られる。

 日本盤のみボーナス・トラックが加わる。セルジュ・ゲンズブール作曲、フランス・ギャルが歌った名曲「娘たちにかまわないで (原題:Laisse tomber les filles)」と、映画の主題歌で、多くに歌われてきたスタンダードナンバー「今宵の君は (原題:The Way You Look Tonight)」の2曲が収録されている。

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01. Love is Never Too Late
02. One""Night In New York
03. My Amor
04. I Am Naked
05. Morning Coffee
06. On A Clear Day
07. Embrujo
08. How Did You Get In My Dreams
09. Suddenly Lovers
10. Show Me The Way To Go Home
11. The Way You Look Tonight ※
12. Laisse tomber ※
 (※=国内盤CDボーナストラック)

  オープニングから、さっそく久しぶりの彼女のややハスキーな低音とそれが鼻にかかった特徴ある歌声が前面に出てのセクシー度もたっぷりでの曲が始まる。
 M01."Love is Never Too Late" は、バックにストリングス・オーケストラの演奏が、ギターやピアノのカルテットの演奏と共に流れ、なんとなく優美にはじまるが、彼女の妖艶と評される歌声は失われていない。究極のスタイルは今までと同じである。
 しかし、M03." My Amor", M05."Morning Coffee"はストリングスなしで演じられる。私的にはこのスタイルの方が好きだが、まあそれはそれ難しいことなしで聴いた方がいいだろう。
 又 M04., M08., M09.などは、サックスやトランペット、クラリネット、トロンボーンなども加わってのバックは豪勢だ。
 特にM09."Suddenly Lovers"はアルバム・タイトル曲でどんな世界を狙ったか興味があったが、意外に素直なところで歌い上げている。
 M10."Show Me The Way To Go Home"はギターが生きての小編成トリオ・バツクでなかなか味わい深い。やはりこのパターンが良いですね。

 いずれにしても、今作も相変わらずの彼女の世界が聴くことが出来る。こんなスタイルのジャズ・ヴォーカルものも時には良いもので、いろいろ言うことなしに聴くのが一番いいと思う次第だ(笑)。

(評価)
□ 曲・歌  87/100
□ 録音   87/100
(試聴)

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2023年9月 7日 (木)

ニッキ・ヤノフスキー Nikki Yanofsky 「Nikki By Starlight」

懐かしのアメリカン・ソングを若き力で歌い上げる

<Jazz>

Nikki Yanofsky 「Nikki By Starlight」
MNRK Music Group / Import / MMUC286912 / 2023

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Nikki Yanofsky : Vocals 
Produce : Nikki Yanofsky、Paul Shrofel

 いままでその気で聴いたことのなかったカナダ・モントリオール出身のニッキ・ヤノフスキー。今回のニュー・アルバムはグレイト・アメリカン・ソングを取り上げたジャズ・ヴォーカルものということで考察を兼ねて聴いてみた。

Iha024382nikkiyanofsky400x600  彼女は、2006年、当時12歳でモントリオール・ジャズ・フェスティバルで最年少のアーティストとして単独公演、その後ジャズなど音楽界で活躍を続けるヴォーカリスト。子供の頃からエラ・フィッツジェラルドを敬愛し、2007年にはトリビュートアルバム『We All Love Ella』にNatalie Cole、Chaka Khan、Dianne Reevesなどの中に弱冠13歳で参加し世界中のジャズファンに知られることになった。2008年アルバム『Ella…Of Thee I Swing』でデビューした。又、2010年にはバンクーバー冬季五輪の開会式で、カナダ国歌を歌唱し世界中の注目を集めたまさに経過は驚きのヴォーカリストだ。

 2010年2ndアルバム『Nikki~for Another Day』では”A列車で行こう”などのジャズスタンダードも歌うが、若さのポップ路線を披露し、2014年『Little Secret』、2020年『Turn Down The Sound』とR&Bからポップ系でのアルバムを多くリリースしている。
 今回は全編ジャズ・スタンダードとちょっと大人の味に傾いてきたというところが聴きどころのようだ。

(Tracklist)

1.Hoagy Carmichael: I Get Along Without You Very Well (Except Sometimes)
2.Lew Brown, Sam H. Stept, Charlie Tobias: Comes Love
3.Carl Sigman, Sidney Keith Russell: Crazy He Calls Me featuring Greg Phillinganes(p)
4.Cole Porter: I Get A Kick Out Of You
5.Murray Grand: Comment Allez Vous
6.Victor Young, Ned Washington: Stella By Starlight
7.Bob Haymes, Marty Clarke:They Say It's Spring
8.Lorenz Hart, Richard Rodgers: It Never Entered My Mind featuring Greg Phillinganes(p)
9.Andre Hornez, Henri Betti: C'est Si Bon
10.John Wes Montgomary: West Coast Blues
11.Bart Howard: Let Me Love You
12.Antonio Carlos Jobim, EUGENE LEES: Quiet Nights Of Quiet Stars (Corcovado) featuring Nathan East(eb)
13.Bruno Brighetti, Bruno Martino: Estate featuring Arturo Sandoval(flh)
14.Gus Kahn, Nacio Herb Brown: You Stepped Out Of A Dream
15.Lennard Bernstein,Beetty Comden,Adolph Green: Some Other Time


  確かに選曲はアメリカン・ジャズの多岐にわたっているのに気が付く。彼女は、このアルバムのレコーディングを、「自分の最も純粋な部分を再び引き出すことができた楽しい時間だった」と回想しているようで、もともと入り口がエラ・フィッツジェラルドであってやはりアメリカン・ジャズが好みだという事が解る。まあ30歳前後であってここらあたりから、ポップは卒業してもいいのかもしれない。

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 M1." I Get Along Without You Very Well " ストリングス入りのバックでスタートするもあいさつ程度で、メインはギター、ピアノ、ベース、ドラムスのカルテットでオープンニングにふさわしくリズムカルに比較的オーソドックスな歌。
 M2."Comes Love"になってニッキ節が始まる。バックはビック・バンド・スタイルで意外に古臭い印象。ヴォーカルは中高音にウェイトがある。
 M3."Crazy He Calls Me" ピアノとのデュオ・スタイル、ちょっと節回しに彼女らしさが。
 M4."I Get A Kick Out Of You"ベース誘導型で疾走してジャズっぽさがある。ここでもバックは管楽器が入って古臭い。
 M5."Comment Allez Vous" バックの女性コーラスのハモリで聴かせる。
M6."Stella By Starlight", M8."It Never Entered My Mind" のスロー曲は、意外に女性っぽい味を出していて味がある。しかしM6は、相変わらずバックの複数の管楽器がうるさい。M8.はピアノとストリングスでいい味だ。
 M7."They Say It's Spring"は意外にオーソドックス。M9."C'est Si Bon"は軽快でいい。
 M10." West Coast Blues"ハモンド・オルガンのバックで楽しい。
 M12." Quiet Nights Of Quiet Stars" バックのギターが生きていてムード良好。歌はやっぱりうまいし、発声も余裕たっぷり。
 M13."Estate " 待ってましたの登場、Arturo Sandovalのflhのサポートも気が利いていて旨く仕上げている。
 M14."You Stepped Out Of A Dream" ごくオーソドックスに。最後のM15."Some Other Time" アルバムの締めをゆったりと語り聴かせてくれる好感。

 なんと想いの外、極めてオーソドックスなスタイルのヴォーカルで逆に驚いた。優しさの編曲でジャズ入門型のアルバムで角もなく聴き応えは気持ちいい。女性ヴォーカリスト王国のカナダで彼女は成長していることが解る。更に旨く育ってジャズを楽しませてほしいものだ。

(評価)
□ 編曲・歌   87/100
□ 録音     87/100
(試聴)

 

 

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2023年9月 2日 (土)

ビル・エヴァンス・リマスター・シリーズ Bill Evans 「Waltz for Debby」etc

2023年リマスタリングにて、ハイレゾにてSACD盤、MQA-CD盤にて登場

ビル・エヴァンス・リマスター・シリーズ Bill Evans Trio 
3アルバム 「Waltz for Debby」 「Sunday at the Village Vanguard」「You Must Believe In Spring」

 50年以上の経過の中で、LP、CD にて何回かリマスタリングされリリースされてきた名作中の名作が、ここに来て10年ぶりの2023年リマスターを施し、Hi-Res盤として、SACDとMQA-CD(UHQ-CD)の二本立てでリリースされた。

■ Bill Evans Trio 「Waltz for Debby」
  MQACD(UHQCD) 176KHz/24bit
  CRAFT REcordings / JPN / UCCO-46012 / 2023

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ビル・エヴァンス(piano)
スコット・ラファロ(bass)
ポール・モチアン(drums)

1961年6月25日 ニューヨーク、ヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴ録音

 2016年にRIAJゴールド・ディスクにも認定され、日本で最も売れているジャズの名盤『ワルツ・フォー・デビイ』が、10年ぶりにオリジナル・テープからオール・アナログ・マスタリングが施されたことを受け、同日録音された下のアルバム『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』と共に最新リマスターリング音源でHi-Res高音質盤でリリースされた。そして後期の高品質録音での名盤である『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』も同時に同様にHi-Res盤でリリースされた。

Bill_evans1w  今や、Hi-Res時代迎え、CD盤よりビニール盤(LP)の方が売れる時代となり、音楽産業も大変革を迎えている。もともとネットによるストリーミングという便利で高音質の世界が構築され、それが当たり前となってきた今、一般CDの意味が無くなってきてしまった、そこで高音質盤ということでHi-Res盤として"SACD"、"MQA-CD"という世界なのである。
 そこで、私としては廉価で高音質ということで、現在いろいろと話題の絶えないMQA盤を取り敢えず購入してみたと言うことである。まあ手元には過去のアルバムが存在しているのであるが、果たして音質でも何処まで改良されたかと言うことが聴く目的になってしまったが、この「Waltz for Debby」「Sunday at the Village Vanguard」の2枚を仕入れた。「You Must Believe In Spring」の方は既にHi-Res-MQA版192kHz/24bitのMQA-FLACで手に入れて聴いているため、今回は購入してない。

 なお、このCD、ビル・エヴァンスが兄の愛娘デビイに捧げた可憐なタイトル曲や、何処か優美な知的あふれる永遠のピアノ・トリオ名盤である。そしてこれは本ライヴの11日後に突如亡くなってしまった天才ベーシスト、スコット・ラファロとの最後の共演版で、ポール・モチアンとの至高のトリオの4枚目作品で、ニューヨークのクラブでの録音モノである。

(Tracklist)

01.マイ・フーリッシュ・ハート My Foolish Heart
02.ワルツ・フォー・デビイ Waltz For Debby
03.デトゥアー・アヘッド Detour Ahead
04.マイ・ロマンス My Romance
05.サム・アザー・タイム Some Other Time
06.マイルストーンズ Milestones

  - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

■ Bill Evans 「Sunday at the Village Vanguard」
    MQACD(UHQCD) 176KHz/24bit
  CRAFT REcordings / JPN / UCCO-46013 / 2023

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ビル・エヴァンス(piano)
スコット・ラファロ(bass)
ポール・モチアン(drums)

 上の超人気アルバム『Waltz for Debby』と対をなす同日同場所録音のライヴ盤である。

(Tracklist)

1 グロリアズ・ステップ Gloria's Step  6:11
2 マイ・マンズ・ゴーン・ナウ My Man's Gone Now 6:27
3 ソーラー Solar 8:59
4 不思議な国のアリス Alice in Wonderland 8:37
5 オール・オブ・ユー All of You  8:19
6 ジェイド・ヴィジョンズ Jade Visions  3:45

 今回は、米国オリジナル・アナログ・マスターを基にした2023年リマスタリング音源192khz24bitを採用。ジャズ愛好家ならもう既に手を変え品を変えしてリリースしてきたアルバムなので聴き飽きているといっても過言でないだろうが、ビル・エヴァンスものは素晴らしい録音物って殆どと言っていいくらい無いので、どのくらい良くなったというところが今回の興味であって、その為なんとSACDとMQAの二種のHi-Res盤のリリースなんですね。MQAに関しては英国MQA社の経営破綻という事で今後にいろいろと噂されているわけであるが、私の場合はオーディオ装置はMQA対応している為、SACDよりは廉価であるMQA盤でHi-Res音源として聴いている。
 なお今回のリリースでも、オリジナルLPのライナーノーツの日本語訳を収載している。

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 結論的に、そんなに目の覚めるような画期的高音質を実現したという事はない。しかし右から聴こえてくるピアノの音は確かに透明感をました感がある。それよりも私は今回は、アルバム『Sunday at the Village Vanguard』の方に興味を持った。それはもともとビル・エヴァンスはピアノ・トリオものといっても、ピアノ・ワンマンというのでなく、トリオそれぞれ3者の味を大切にする演奏スタイルであり、このアルバムでは、特に演奏時間が8分を超える曲が3曲あって、それらではスコット・ラファロのベースがより温かみを持って前面に配置されしっかり聴きとれるようになった事だ。更にポール・モチアンのドラムスでもブラッシによるスネアやシンバルなどの音がより繊細に明瞭となっているように感じ、この点でも実に楽しい演奏となっている。そんなことからトリオ演奏の楽しみが増したアルバムとして評価したくなったのである。
 とにかく、いくら技術的に音質改良が進歩したと言っても、元の録音がどうであったかが命であって、その上での改良だという事は知っているべきところである。今回も取り敢えず記念的に購入してみたが、それでも効果があってよかったと思っているのだ。

(評価)
リマスター・Hi-Res盤としての効果  80/100

(参考試聴)

 

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2023年8月28日 (月)

バンクシア・トリオ Banksia trio「MASKS」

ピアノ・トリオの多彩な表現を聴かせる

<Jazz>

Banksia trio「MASKS」
TSGWRecords / JPN / TSGW001 / 2023

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林 正樹 Masaki Hayashi (piano)
須川 崇志 Takashi Sugawa (bass) (cello on 05, 10)
石若 駿 Shun Ishiwaka (drums)

   Banksia Trioは、2017年に須川崇志(b)が林正樹(p)、石若駿(d)に声をかけて結成された日本ジャズ・トリオ。2020年1月には、日本ジャズレーベルのDays of Delightより1stアルバム『Time Remembered』を発表。美しさと共にジャズ・トリオのスリル感たっぷりの演奏で高評価。翌年2月18日に、同レーベルより2ndアルバム『Ancient Blue』を発表。 同様にトリオの三者の個性がみなぎりつつも、その共存の美の追求で絶賛を受けた。この辺りの経過は、過去にここに取り上げてきたので詳細は省略するが、この数年間のパンデミックの中でなんとか行われたライブツアーの集大成をスタジオにて収録。メンバーのオリジナル楽曲5曲に加えて菊地雅章、ニック・ドレイク、ポール・モチアンなどの楽曲5曲を取り上げている。そして注目は、アナログマスターテープに収録し、アナログ録音の豊かさに加えて、高解像のデジタル録音技術も用いての現実的な自然な音に仕上げての好録音もうたっていて、須川の自主レーベルTSGW Recordsからの興味深いアルバムのリリースとなった。

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 参考までに須川崇志の語るところをここに記す・・・“ピアノ、ベース、ドラム。どの楽器も1音1音が立ち上がった瞬間から、静寂の中へゆるやかに減衰してゆきます。このたった1音が持つ音響現象そのものにフォーカスして、音が消えてゆくまでのディケイの海にダイブするんです。没頭するように聴いて次の音を紡いでゆくことは、とても内省的な、祈るような作業でもあります。須川崇志、林正樹、石若駿それぞれが持つスピリチュアルで個人的な音世界を、絶妙に共存させながらも音楽そのものは確実に前進してゆく、そんなバンドアンサンブルを楽しんでもらえたら嬉しいです (須川)"

(Tracklist)

01. Drizzling Rain (Masabumi Kikuchi)
02. MASKS (Takashi Sugawa)
03. Abacus (Paul Motian)
04. Bird Flew By (Nick Drake)
05. Doppio Movimento (Masaki Hayashi)
06. Stefano (Takashi Sugawa)
07. Siciliano (Shun Ishiwaka)
08. Messe 1 (Shun Ishiwaka)
09. I Should Care (Axel Stordahl and Paul Weston)
10. Wonderful One (Paul Motian)

 スタート曲は、菊地 雅章の曲M1."Drizzling Rain"で、シンバル、ベース、ピアノの順に響き、一音一音を互いにその余韻まで感じ合いつつの繊細にして印象深く迫る展開がお見事な演奏。ここに霧雨の深遠さの共振がこのトリオのトリオたるところをお披露目している。
 そして須川によるタイトル曲のM2."MASKS"にして、ムードは一転、予期せずの展開を荒々しさとスリル感たっぷりの演奏で迫ってくる。ドラムスのアタックとベースのヘヴィーにうねるところにピアノの強力なタッチ、そしてインプロヴィゼーションの交錯と聴きごたえ十分。
 M3." Abacus "の跳ねるような展開がややトリッキーで面白い。

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 M4."Bird Flew By" ニック・ドレイクの曲。自然界の優しさに浸れるも、途中で転調しているところが聴きどころか。
 M5." Doppio Movimento"林正樹の曲、フリー・ジャズっぽいところにチェロが襲いピアノが高揚する新鮮。
   M6."Stefano"どちらかというと、冷徹な世界。ピアノの硬さが印象的。
   M7."Siciliano"リズムカルなステイック・ワークにピアノとベースが跳ねる。
   M8."Messe 1"多彩なメロディー展開。しかしちょっと深まりがないか。
   M9."I Should Care"3者がぐっと落ち着いて、こんな優美の世界に浸ってよいのかと、先を心配して聴く世界。
   M10."Wonderful One"美しいピアノとチェロの響きで、繊細なブラシ音が加わって万々歳だ。

 このトリオが描くところは、ピアノ・トリオの優美さと、一方冷徹な深遠さと、更に暴力的インプロの叩きつけ合いと、それぞれに卓越した技量とセンスで迫る多彩な世界で飽きさせない。今作も全くその線は変わっておらず、しかもそのスリリングさと演奏のキレは見事で、今作も楽しませていただいた。大推薦である。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    90/100

(試聴)


*

 

 

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2023年8月23日 (水)

 ティングヴァル・トリオ Tingvall Trio 「BIRDS」

「鳥」のテーマの目的コンセプトがあまり伝わってこない

<Jazz>

 Tingvall Trio 「BIRDS」
Skip / Import / SKP91972 / 2023

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Martin Tingvall (p)
Omar Rodriguez Calvo (b)
Jurgen Spiegel (dr)

 ドイツ・ハンブルグを拠点に活動するヨーロッパを代表する美メロ・ピアノトリオ「ティングヴァル・トリオ」の9thアルバム。トリオ・リーダーのスウェーデンのピアニスト、マーティン・ティングヴァルが自然界をテーマとしての作品の一環として「鳥」にインスピレーションを得た作品だ。

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 彼の言葉は「彼らは自然の音楽家です。彼らは毎日素晴らしい音楽と信じられないほどインスピレーションを与えてくれます。ただ注意深く耳を傾けなければなりません。残念ながら、私たちはもうそれをやっていないようです、雑音が多すぎるのです。他の騒音が私たちを取り囲んで、気が散ってしまいます。このアルバムが人々に、私たちの周囲の環境を違った見方で認識するきっかけになれば幸いです。私自身、地球温暖化によって引き起こされる鳥の行動の変化をすでに観察しています。S.O.S、もうやめるべき時です。 自然に耳を傾けて行動してください。」 と・・・地球上の自然破壊につながる問題点に言及している。

 Tingvall Trioはもう結成して15年以上となる。リーダーのピアノのMartin Tingvallはスウェーデンで、ベースのOmar Rodriguez Calvoはキューバ、ドラムスのJürgen Spiegelはドイツ生まれという国際トリオだ。。
 過去のTingvallのソロも含めてアルバムは全て聴いてきて、ここでも何度か彼らを取り上げたが、全てオリジナル曲を中心にどちらかというと美旋律の自然を対象とした曲に魅力がある。今回も期待度は高かった。

(tracklist)

1 Woodpecker
2 Africa
3 SOS
4 The Day After
5 Air Guitar
6 Birds
7 Birds of Paradise
8 The Return
9 Nuthatch
10 Humming Bird
11 Nighttime
12 A Call for Peace

 鳥の状況を描いているのかM1." Woodpecker(キツツキ)"M2."Africa"は軽快な曲。 M3."SOS"は、いかにも問題に直面しての姿か、不安が感じられる。ティングヴァルの声が入るが・・・これは好感度は無し。
 M4."The Day After"になって、ようやく私の期待する美しく優しいピアノの旋律の聴ける曲が登場。後半にアルコ奏法のベースが不安感を感じさせて気になる曲だ。

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 M5."Air Guitar"は演奏技法が多彩で面白い。ピアノはミュート奏法のようだが。
 M6."Birds" タイトル曲、スタートからやや暗めのベースのアルコの音で始まる、ピアノが入って小躍りする印象。次第にトリオで盛り上がるも意味不明、M7."Birds of Paradise"も軽妙な世界だが、印象にあまり残らない。
 M8."The Return"優しく美しくのピアノのメロディーが登場し再びベースのアルコ。夏に戻ってくる鳥の姿か?、物語を感ずる世界は見事。
 M9." Nuthatch" ゴジュウガラか、良く解らない曲。
 M10."Humming Bird" ハチ鳥の姿(?)、何を描いているか不明だが、メロディーは優美で軽快。M11." Nighttime" ピアノの透明感ある美しい音を聴かせる。これら2曲はM4.M12.の2曲に続いて納得曲。
 M12."A Call for Peace"彼の鳥に思いを馳せての究極の曲として聴いている。ピアノ・ソロで美しい。

 どうも私自身が「鳥」の世界に興味がないせいか、全体にあまり目的が良く解らない曲群でこの「鳥」にまつわるコンセプトも理解が難しい。又このアルバムは、時に聴ける演者の声がどうも私には気分良くなかった(キースのようなうなり声ではないけれど)。そして私のお気に入りのアルバム『Dance』(2020)の"In Memory"のような曲を期待してはいけないのかもしれないが、過去のアルバム『CIRKLAR』(2017)の"Bland Molnen"、"Cirklar"とか、やはりいろいろと期待度が高いので、評価は決して低いアルバムではないのだが、今回は若干空しかったような感覚であった。

(評価)
□ 曲・演奏  87/100
□   録音    87/100

(試聴)

 

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2023年8月17日 (木)

ニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Doky 「Yesterday's Future」

デンマークの騎士のピアノ・ジャズ・プレイ

<Jazz>

Niels Lan Doky 「Yesterday's Future」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1114 / 2023

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Niels Lan Doky (piano)
Tobias Dall (bass except 04,10,12)
Nikolaj Dall (drums except 04,10,12)

Live at the Louisiana Museum of Modern Art

  寺島レコードから寺島靖国氏の推薦と言っていいのだろうデンマークの人気ピアニストのニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Dokyのアルバムがリリースされた。(本国ではLPのみで、日本でCDリリース)

 実はちょっと意外でもあったのは、彼の演ずるところ寺島氏は果たして好みなのだろうかと言うところであった。私も実は彼のアルバムは以前にも聴いているがあまり気合が入らない。2021年にここでアルバム『Improvisation On Life』(2017)を取り上げたが、彼のデンマーク生まれの体質を感ずる美メロディーが生きていたのを評価したが、私の好みとしては今一歩、ジャズの味に満足感が得られず、評価としては良好標準80点として一段上げて85点としたのだった。

202109080900w  今回、取り敢えず寺島氏のライナー・ノーツでどんなことを書くのか、それも興味で取り敢えず手に入れて聴いてみたというところである。
 ニルス・ラン・ドーキー(→)は1963年デンマークのコペンハーゲン生まれで、ニューヨークからパリでの活動を経て母国デンマークへ戻り(2010年)、地道に更なる研鑽を重ねてきた国際派の人気ヴェテラン・ピアニストである。今回はトリオ編成によるデンマークのルイジアナ近代美術館でのコロナ明け2022年の公演の模様を捉えたライヴ・アルバム。寺島氏によるとこのアルバム作成は彼の方から申し入れてきたという事のようだ。ちょっとこんなところからも内容は若干懐疑的な気持ちで聴いたところであった。

(Tracklist)

01. Children's Song
02. Farewell Song
03. Forever Frank
04. Where The Ocean Meets The Shore (solo piano)
05. Sent From Heaven
06. Just Do It
07. Yesterday's Future
08. Free At Last
09. Rough Edges
10. December (solo piano)
11. High Up North
12. Afterthought (solo piano)
13. Are You Coming With Me?
14. Misty Dawn
15. Yesterday's Future - studio version - (*bonus track)

  やはり相変わらず端正なピアノの響きである。評価は"落ち着きや安定性を感じさせると同時に鋭いキレのよさや適度な尖り感をも湛えた、澄みきったクリスタルの如き潤いある鮮明タッチのピアノが響く"と表現されている通りだが、曲展開はアクティヴィティ溢れるメロディック・プレイと叙情性あるメロディーある曲の取り交ぜたアルバム構成で変化に富んでいる。
 しかし、自然の情緒ある世界や心情の表現の哀愁ある世界の表現である曲が私にとっては納得の世界であって、ダイナミック・スウィギング・アクションを求めた曲では、トリオとしての何かジャズの不思議な味わいにもう一歩満足感が無かった。例えば、M8."Free At Last"などでも、あらゆる種類の解放感を祝う曲と言うのだが、トリオならでの楽しさがあまり感じられないのだ。


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 そんなことから、私的に於ける推薦曲はM1." Children's Song"のどこか子供たちに愛着あるメロディーの快感、M4."Where The Ocean Meets The Shore"のソロ・ピアノで描く自然への心情などが・・
 又タイトル曲のM7."Yesterday's Future"が、やはり聴きどころで、人の心情の陰影が感じられて納得。しかしベース、ドラムスは単なる添え物で味気ない。
 その他は、M14."Misty Dawn"の神秘的な美しさに迫ろうとした印象は悪くはなかった。

 全体的な印象は端麗さとクラシック的真面目さがとこかに目立って、泥臭い人間性と言う世界には迫り切れていないし、又一方哲学的深淵さも至っていない。そんな点が究極中途半端的で、はっきり言って寺島靖国氏のお気に入りのジャズの楽しさも、スタンダードの世界が無いだけに、薄いのではないかと思ったところだ。更にトリオといってもピアノのためのトリオであって、3者で築くトリオというニュアンスが少ないところが空しいのかもしれない。
 寺島氏にとってもこのニルスのアルバムは一つのテスト的アプローチであったと思う。この後にアレサンドロ・ガラティのように何枚かのアルバムに繋がってゆくという事はないだろうと思った次第。

(評価)
□ 曲・演奏 87/100
□ 録音   87/100

(試聴)

 

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2023年8月12日 (土)

ウィズイン・テンプテーション Within Temptation 「Wireless」

"戦争に目覚めろ"がテーマか

<alternative Metal Rock>

Within Temptation 「Wireless」
(Single CD)Music On Vinyl / Europe / MOV7068 / 2023

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シャロン・デン・アデル (Sharon den Adel) - ボーカル (1996年- ) 
ルード・ヨリー (Ruud Jolie) - ギター (2001年- )
ステファン・ヘレブラット (Stefan Helleblad) - リズムギター (2011年- )
イェローン・ファン・フェーン (Jeroen van Veen) - ベース (1996年- )
マルテン・スピーレンブルフ (Martijn Spierenburg) - キーボード (2001年- )
マイク・コーレン (Mike Coolen) - ドラムス (2011年- )

ローベルト・ヴェスターホルト (Robert Westerholt) - ギター(1996年- ※2011年以降は製作とスタジオ録音に専念) 

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   久々にシンフォニック・メタルの話題です。CDリリースがこのところ低迷しているロック界、この1997年オランダで誕生したWithin Temptationも、スタジオ・アルバム『RESIST』(VICP-65510 / 2019)が5年ぶりにリリースされて以来は、その前からの沈黙を破って活動が再開され歓迎されたが、あれからもう既に4年経過。
 アルバム『Hydra』(2014)の大成功後は、噂では"燃え尽き症候群"のような状態に陥り、シャロン嬢(今は既に母親としての貫禄もついて)はソロ・プロジェクトを始動させたりで、このバンドの行く末に不安がよぎったが、しかしアルバム『RESIST』が登場し、取り敢えずファンをホッとさせたのだった。
 そして2020年に「メタル・フェスティバル」(ドイツの「WAKEN OPEN AIR 2019」)の話題にてここに取り上げて以来あっという間に3年経過、その後のWithin Tについては、丁度このタイミングでシングル・アルバム『WIRELESS』のお目見えがあったので、ちょっと見てみたい。

 この間、昨年2022年に4曲入りEP『AFTERMATH』(MOV12071)が、なんとLP(CLEA VINYL 3000枚限定)でリリースされている。そしてまたここに今年新曲シングル『WIRELESS』(MOV7068)がリリースされたのだ。しかし時代の影響かフルCDアルバムの登場はなく、サブスク・ストリーミング時代の中であって、この両者の5曲とそのインスト版5曲の計10曲のアルバムとしてストリーミングで聴くことが出来るのであり、それを取り上げてみた。

(Tracklist)

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A: Wireless
b: Wireless (Instrumental)

<Streaming>
1.Wireless
2.Don't Pray For Me
3.Shed My Skin
4.The Purge
5.Entertain You
6.Wireless (Instrumental)
7.Don't Pray For Me (Instrumental)
8.Shed My Skin (Instrumental)
9.The Purge (Instrumental)
10.Entertain You (Instrumental)

  とにかく目玉曲はM1."WireLess"だ。このところ無事母となったシャロン・デ・アレンが夫のローベルトの協力によってライブ活動も充実して、新曲を登場させた。なにせシャロンは一時のソロ・プロジェクトの「マイ・インディゴ」にてこのバンドとは異なるエレポップにアンビエント系をまじえながらどちらかというとオーソドックスな音に乗せての清々しく美しい歌唱を頑張ってみた経験などから、やはりWithin Tの世界は身についた充実感があるのだろう、ここに世界に訴えるところに到達している。まあそれこそロックの原点であろうから、そんな衝動にかられたということ事態、再びロック世界の開始という事にも通ずるのかもしれない。

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 なかなかパワフルですね、何年か前の彼らを思い出しながらヘビーなリフを楽しめるし、さらに壮大なコーラスをブレンドしたサウンドを堪能できる。シャロンも歳を超えて声も出ているし奮闘。彼らの問題意識が刺激したんでしょうね。ようやくロジャー・ウォーターズが叫んでいる社会や政治的問題、特に戦争と言うものの非人間性に彼らも目が覚めて、戦争を目の前にしての若者と政治問題に目が向いた。活動の目標も見えてきたというところでしょう。ロックの存在感が実感できたというパワーが感じられる。

 彼らの言葉は「このシングルは、戦争や混乱に飢えている人々、そしてメディアを操作し支配しようとする人々に対して書かれた曲です。この曲は、正当な理由があって戦地に行くのだと信じている兵士のことを歌っています。彼は政府に支配されたメディアによって洗脳され、自分が救世主として歓迎されると思っていましたが、結局自分は利用されたのだと悟ります。人々は彼を残虐な支配者として見るようになり、彼は自分が間違った側にいることに気づくのです。彼の人生は、そして他の多くの人々の人生も、欺かれ、破滅させられるのです」

 ロックの存在感と問題意識に一つの世界が確認できたというところで、エネルギーの蓄積発散に光がさしたというところだろうか、いずれにしても今後の健闘に期待したいところだ。

(評価)
□ 曲・演奏・コンセプト  87/100
□ 録音          87/100

(視聴)

 *

      (30:00から・・・"Wireless")

 

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