アヴィシャイ・コーエン Avishai Cohen 「Brightlight」
若き才能を取り入れての独自のジャズをスリリングに演ずる
<Jazz>
Avishai Cohen 「Brightlight」
NAIVE / Import / BLV8583 / 2024
Avishai Cohen (bass & vocals)
Guy Moskovich (piano on 01, 02, 04, 05, 07, 09, 10, 11)
Eden Giat (piano on 03, 06, 08)
Roni Kaspi (drums)
Noam David (drums on 03)
Yuval Drabkin (tenor saxophone on 06, 08, 11)
Yosi Ben Tovim (guitar on 03)
Lars Nilsson (trumpet on 08, 10)
Hilel Salem (flugelhorn on 03)
Jakob Sollerman (trombone on 10)
Ilan Salem (flute on 03)
Jenny Nilsson (vocal on 10)
Recording at Nilento Studio, Goteborg, Sweden (1, 2, 4, 5, 7, 9, 10), Kicha Studios, Tel-Aviv, Israel (3, 6, 8, 11)
イスラエルを代表する既にお馴染みのベーシストのほうのアヴィシャイ・コーエンのニューアルバムの登場。過去のアルバムにては、独特なメロディーに引き付けられ、不思議な世界でのジャズに魅せられてきた。その不思議さは、ユダヤの民俗音楽、ジャズ、ワールドミュージック、クラシックの影響をミックスしたドラマチックなアコースティックベースサウンドを、独特で親しみやすいスタイルに織り込んだものと言われている。しかしこの2023・2024 年ツアーでは、更に世界中で熱狂の渦に巻き込んでいると言われる(日本でもブル-ノ-ト東京公演で2年連続登場)驚異の若き才能が注目で、イスラエル出身のロニ・カスピ(drums、2000年生まれ、下左) とガイ・モスコビッチ (piano、1996年生まれ、下右)とのトリオ+αの待望の録音アルバムということである。
この二人、女流ドラマーのロニ・カスピはダイナミックなリズムでエネルギッシュにして、ライヴで迫力のソロを展開し、時折交える変拍子もセンス抜群と言われている。ピアニストのガイ・モスコビッチも、繊細なタッチで描くハーモニーの魅力と、技術力の高さで注目。
そしてこのアルバムの収録曲は、11曲で8曲がアヴィシャイのオリジナル曲だ。
アヴィシャイ・コーエンは、1970年4月20日にイスラエルのKibbutz Kabriで生まれ、スペイン、ギリシャ、ポーランドにルーツを持つ多文化家族で育った。家の環境は常に音楽があり、母親の芸術的センスからクラシック音楽と伝統音楽の両方を聴いていたという。彼のの音楽人生は9歳のときのピアノを弾く事に始まり、14歳のときに家族と一緒にミズーリ州セントルイスに引っ越した後、ピアノの勉強を続け、一方ベースギターを弾き始めました。その後イスラエルに戻ってから、エルサレムのミュージック&アーツアカデミーに参加し、ベースの世界をさらに探求。22歳のとき、軍楽隊で2年間勤務した後、コーエンは大きな一歩を踏み出すことを決意し、ニューヨーク市に引っ越した。1990年代後半にチック・コリアのトリオで注目を集めた後、彼はユダヤ民俗音楽からジャズ、クラシックの特徴を、独特で親しみやすいスタイルに構築。それにより世界的な認知度と幅広い影響力を獲得、今やジャズ界のトップベーシストの一人としての地位を固めている。
(Tracklist)
1.Courage
2.Brightlight
3.Hope
4.The Ever And Ever Evolving Etude
5.Humility
6.Drabkin
7.Roni’s Swing
8.Hitragut
9.Liebestraum Nr 3
10.Summertime
11.Polka Dots And Moonbeams
収録11曲のうち、ガイ・モスコビッチがアレンジしたリストのM9."Liebestraum Nr 3"、ジャズ・スタンダードM10."Summertime"、M11."Polka Dots And Moonbeams"以外はアヴィシャイ・コーエンのオリジナルである。
全体の印象として、過去のアルバム(『From Darkness』(2015)、『Gentry Disturbed』(2008)など)と少々ニュアンスが異なっている印象だ。このアルバムでは、過去のオリジナル曲におけるピアノ・トリオのピアノやベースによる美旋律の情緒ある演奏が後退している。それはいつも少々見え隠れはしていたのだか、挑戦的ジャズ因子への試みがここでは主体的に増大しているのだ。それは前作『Shifting Sands』(Naïve Records、2022年)においてもみられたところであるが、その評価はこのところむしろ高まっているところにある。しかし一方私自身の好みとなると、Shai Maestro(ピアノ)がトリオにいたころの曲の描く世界の方が親しみやすかった。
このアルバムは、いわゆる躍動的ピアノ・トリオを基軸に、テナーサックスやトランペット、フリューゲル、トロンボーン、フルート、ギター、ヴォーカルらも加わって、曲による変動した体制で迫ってくる。このあたりは私の個人的好みとは別だが、むしろジャズのグルーブ感としては面白いと思うところにある。彼が結成している現在のこの基本にあるトリオ自身がその方向に向かってエネルギー感たっぷりの充実感を追求しているのかもしれない。
そんな中で、いつものようにコーエンの肉太ベースのうねるような躍動もリズミカルにぐっと迫ってきて、なかなかパッションあるエネルギッシュなピアノ、そしてドラムはたたみ掛けるスリル感満点を演ずる。又テナーサックスは3曲に登場し、思いの他M11."Polka Dots And Moonbeams"のように、ソフトで中々味わい深さを感じさせてくれた。
オープニング曲M1."Courage"は、ドライブ感のあるベースサウンドで始まり、軽快なモスコヴィッチのメロディーに乗せて、常に活気に満ちたカスピのドラムが展開。このトリオの役割紹介のような演奏。
M2."Brightlight"タイトル曲で、トリオ三者が技術力で楽しんでいるようなコンテンポラリー作品。
M3."Hope"は、ちょっと今までにない世界だ。ゲストミュージシャンのギタリスト、ヨシ・ベン・トヴィムとフルート奏者のイラン・セーラムが描くところが魅力的。
M7."Roni's Swing"は、カスピに捧げられているようで、ピアノがリズミカルなスウィングにて流れるようなソロをみせ、中盤のコーエンのベースソロに繋がる。それがカスピの鋭さを引き出している。M6."Drabkin"では、ドラブキン(イスラエル)の豊かなサックスのメロディにトリオが伴奏する形。『Shifting Sands』から取られたM8."Hitragut"は、サックスのパートに対応する編曲版。M4."The Ever and Ever Evolving Etude"は、『Gently Disturbed』(2018年)に収録されている曲の再演。
最後に3曲のカバーがアルバムを締めくくる。ちょっと驚きは、M9."Liebestraum Nr 3"で、アルバムの頂点が過ぎたところで登場し、なんとフランツ・リストの夜想曲「愛の夢」で、モスコヴィッチの流れるような上質演奏作品で納得。ジョージ・ガーシュウィンのM10."Summertime"は、コーエンのヴォーカルが登場し、跳躍するリズムを奏でアルバムを高揚感で盛り上げようとしている。しかしあまり新鮮味無く、アルバム前半のイメージからは異質で意味が感じられなかった。その代わり、最後のM11."Polka Dots and Moonbeams"は、スロー・ベースとサックスの響きが心地よく、よりメロウな音色でアルバムをうまく締めくくっている。
作曲と演奏スタイルは、コーエンの多方面の幅広い音楽世界を反映して、快調にこ展開する。カスピは全体を通して独自路線を崩さず攻撃的でパワフルなところが目立った。モスコヴィッチはシャイ・マエストロとは異なるが、Cohenの低音ドライブに適応してそれなりに素晴らしい。このアルバムは、コーエンの創造性は相変わらず進行形で、彼の描くトリオの多才さとダイナミズムは、やはり一流と言えるだろう。
(過去のアヴィシャイ・コーエンの記事) →http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/cat57629737/index.html
(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 録音 : 88/100
(試聴)
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