ピアノ・トリオ

2020年6月19日 (金)

大石 学 OHISHI MANABU TRIO 「飛翔」 

Dsc08024tr2w

(今日の一枚)   「初夏の高原にて」
             Sony α7RⅣ, FE4/24-105 G OSS, PL
                                  - - - - - - - - - - - - - - - -

貫禄の美旋律・叙情派を軸にトリオ・アンサンプルの妙も展開

<Jazz>

OHISHI MANABU TRIO 「飛翔」
月下草舎 / JPN / GEKKA 0006 / 2019

1w_20200619203301

大石 学(p)
米木康志(b)
則武 諒(ds)
Recorded September 29/2018
Live at GEKKASOSHA
All Manabu Ohishi Composition

  先日、今年リリースされた大石学ピアノ・トリオのニュー・アルバム『ONE NIGHT AT GEKKA』(GEKKA0007)をここで取上げたので、それに至る昨年リリースし好評であった同メンバーによるこのアルバム『飛翔 Hisyou』を、前後するがここに検証し記録しておく。
 こちらは2015年に久々にトリオでリリースしたアルバム『JUST TRIO』(GEKKA0004)に続いて、4年の間をおいて当時からのメンバーによるトリオものである。このところの大石学のCD盤リリースに熱心な月下草舎よりお目見えし、非常に評価高く売れ行きも好調で、一般に手に入れがたい時もあったほどのもの。この月下草舎は山梨県小淵沢町にあるペンションだが、そこでのライブ録音盤である。

Trio3w

(Tracklist)

1.CRESCENT(大阪北新地)
2.Gemini
3.0607
4.CONTINUOUS RAIN 
5.雨音
6.飛翔
7.Vanguard(気仙沼)

Mo3w  大石学の持ち味である詩情と優しさとが溢るる美旋律がやはり十二分に堪能出来るアルバムに仕上がっている。そんな叙情性がいっぱいであるが、それに止まらずジャズの歴史的に流れてきた醍醐味としてのトリオのアンサンブルの妙と躍動感という意味での曲は、このアルバム・タイトルにもなっているM6."飛翔"にて、ハイレベル技巧を駆使してジャズの楽しさも味合わせてくれる。
 スタートのM1."CRESCENT(大阪北新地)"は、 静かなピアノとべースの音にブラシの音が流れ、優しさの大石トリオがまずお目見え。
 M2."Gemini "  物思いにふける夜に・・・といった落ち着いたピアノ・ムードでスタート。バックは優しいシンバルとベース音。そして次第にピアノの流れは密度のある流れるような旋律を演じテンポを上げて盛り上がり、そして再び静かな世界に、最後は消えるように終わるところが洒落ている。
 M3."0607" やや異色で、強打のドラムス・ソロからスタートし、変調してピアノがおもむろに登場し旋律を流し、ベースの水を得たような展開と相まって、ジャズをトリオで楽しむスタイル。
 M4."CONTINUOUS RAIN "中盤の注目曲。しっとりの世界の最高峰だ。9分以上に演ずる世界はピアノとベースとの協調が聴きどころ。私の好きな世界。そして更に雨をテーマにM5."雨音"が続くが、こちらはリズムカルに流れるようなピアノで美意識を構築。
 最後にM7."Vanguard(気仙沼)"が日本的なメロディーでしっとりと終わる。

 トリオ・メンバーが固定して、おそらく三者による実質中身の充実も図られ、満を持しての2枚目のアルバムのリリースだ。登場する7曲中3曲は10分前後の長曲となり、アルバムを通して、大石の描く世界が十分堪能出来る素晴らしいアルバムとして聴いた。

(評価)
□  曲・演奏  85/100
□ 録音    85/100

(参考視聴)  "Continuous Rain" 別バージョン


 

(参考) 大石学のピアノ・ソロ・アルバムがリリース

24p1 Ohisi Manabu 「FAZIOLI F278 AGAIN」
北千住プロジェクト 

(Tracklist)
1. Les Jardins 
2. HANAUTA
3. Pleasure
4. Change
5. 令和の詩
6. ひまわり
7. 雨音
8. Peace
9. TOSCA
 
大石 学(p)
2020年1月12日 豊洲シビックセンターホール収録

  かって澤野工房の録音で、イタリアのピアノ Fazioli(ファッチオリ)F278を弾いた大石学。そしてそのアンコール企画を「北千住プロジェクト」が企画し、10年後となる今年2020年1月12日に同じピアノがある豊洲シビックセンターホールで、ソロコンサートを開催した。演奏は、新曲2曲と" 雨音", " Peace",  "TOSCA" などの代表曲と"ひまわり"など。その模様を収録したアルバムである。

 

| | コメント (2)

2020年6月 9日 (火)

大石学 manabu ohishiトリオ 「ONE NIGHT AT GEKKA」

Dsc03006trw_20200612201001                            

                                                                                      (クリック拡大)

(今日の一枚)  「初夏の高原」- 赤外線撮影 -
 Sony α6000(full specrrum), Zeiss Vario-Tessar FE 4/16-35,  IR760

                                  - - - - - - - - - - - - - - - - - - -         

詩情と優しさ溢るる美旋律が・・・・

<Jazz>

Manabu Ohishi Trio 「ONE NIGHT AT GEKKA 月下の一夜」
月下草舎 / JPN / GEKKA0007 / 2020

Onenight

Manabu Ohishi(piano)
Yasushi Yoneki (bass)
Ryo Noritake (drums)

September28 2019
Recorded at pension GEKKASOSHA

  このところ月下草舎からリリースが続くピアニスト大石学のトリオによる最新アルバム。これも取り上げようと思っている昨年リリースされたアルバム『飛翔』(GEKKA0006 / 2019)と同一の米木康志(bass)と則武諒(Drums)との月光草舎にてのライブ・トリオ演奏だ。
 大石学は私としてはAtelier Sawanoからのトリオ・アルバム『Gift』(AS-122, 2012)や『WATER MIRROR』(AS-108, 2011)が過去に素晴らしかったモノとしてあるのだが、『WATER MIRROR』では名器FAZIOLIを演ずるところが印象深いのだ。そんなところから最近リリースされた『FAZIOLI F278 AGAIN』(北千住プロジェクト/2020 ↓)というソロ・アルバムも貴重。

93860132_2906671436067916_4

Profiletrw  さてこのアルバムは大石学にとって1stアルバムから25年経過してのアルバムとなるようだ。この間確かに彼に関してはソロ・アルバムも我々には印象深い。まあどちらかというと、そのソロは近年のヨーロッパ・ジャズ系に近い印象で私には好評なのだが、彼にはジャズのよってきたるところのビ・バップ系も得意と言うこともあって、やはりベース、ドラムスといったオーソドックスなトリオとして演ずることは極めて妥当なところであると思われる。

 このGEKKAレーベルではこのアルバムで6枚目と言うことになる。2018年録音の昨年リリースしたトリオ・アルバム『飛翔』が好評で、ここにこの『月下の一夜』を見ることになった。そしてこのアルバムは彼とこのレーベル立ち上げのきっかけとなったという曲"Peace"が納められている。これは過去にソロとデュオ版があって、ここではトリオ版として新しいイメージを造ってくれている。

(Tracklist)
1.Lonesome
2.GEZELLIG
3.うたたね
4.FORELSKET
5.I've Never Been in Love Before
6.Change
7.Peace

Triow_20200609211201

 5曲目以外は大石学のオリジナル曲で構成されているが、そこには詩情と優しさとが溢るる美旋律が惜しげも無く出てきて、月下の一夜に身を寄せる聴くモノを幸せにしてゆく叙情性がいっぱいだ。ベースの米木、ドラムスの則武はそのあたりは既にこのトリオとしての実績も多く、演ずる世界は見事に一致している。

   F1."Lonesome" から透明感のあるピアノの音に詩情豊かな旋律が流れ、そして曲の後半はトリオのジャズ・スピリットがあふれた演奏が楽しめる。
 F4."FORELSKET" の聴きやすく詩情溢れた曲もいいですね。
 これらの曲の中では若干異色なのがF6."Change "だ。ここでは意外に楽天的にして明快な展開の楽しさが演じられている。
 このアルバムでは、重要な変化のあるところとしては、唯一カヴァー曲のF5."I've Never Been in Love Before "だ。これこそ大石が単なる叙情派だけでなく、スウィング・ジャズの発展系としてのホットであるアドリブの楽しさを加味してのビ・パップの流れを聴かせてくれる。スピード感も抜群で、ここでのベース・ソロそしてドラムス・ソロも聴きどころ。
 最後は恐らくこの夜のアンコール曲だろうと思われる彼の代名詞的曲M7."Peace"が登場する。このアルバムではソロでなくトリオ版だ。これだけしんみりとした曲だけに、シンバルの弱音、ベースは合わせての語り調によってサポート。後半はいつも通りの盛り上がりも美しく説得力ある。トリオもやはり良いですね。

 このところ、月下草舎から立て続けにリリースされている大石学のトリオ・ライブ版の最新盤を取上げた。いずれ昨年の『飛翔』や北千住プロジェクトからのソロ版も取上げたいと思っている。

(評価)
□ 曲・演奏   85/100
□ 録音     80/100

(視聴)

 

| | コメント (2)

2020年6月 5日 (金)

マルチン・ヴォシレフスキ Marcin Wasilewski Trio 「ARCTIC RIFF」

Dsc07703trw

(今日の一枚) 「春から初夏へ (高原の湖面)」
       Sony α7RⅣ, FE4/24-105 G OSS,  PL

                                    - - - - - - - - - - - - - - - - -

ピアノ・トリオにテナー・サックスをフューチャーしてのカルテット作品
ヴォシレフスキの挑戦は続く・・・

<Jazz>

Marcin Wasilewski Trio, Lovano 「ARCTIC RIFF」
ECM / GERM / ECM 2678 / 2020

Arfw

Marcin Wasilewski (p)
Slawomir Kurkiewicz (double-b)
Michal Miskiewicz(ds)

Joe Lovano (ts)

Recorded Aug.2019 Studio La Buissonne,Pernes-les Fontaines, France
Produced by Manfred Eicher

 

Wasilewski_triow  もう20年以上前になるんですね、あの1995年のコメダの名曲の演奏アルバム『Komeda』が気に入ってから(Simple Acoustic Trio)マークしているポーランドの人気ピアニスト:マルチン・ヴォシレフスキ(1975年生まれ→)の、今回は当時の学生時代からのレギュラー・トリオに当然初顔合わせとなるアメリカのテナーサックスの大御所たるジョー・ロヴァーノ(1952年オハイオ州クリーヴランド生)をフューチャーしての更なる挑戦の作品。
 このトリオは近年は一貫してアイヒヤー率いるECMからのリリースとなって、その質もトリオとしての美意識の世界が基本ではあるが、このような実験的世界も決しておろそかにしていない。まだまだ前進、開拓のトリオで一枚一枚楽しみでもある。

_dsc0693w

 今回、ヴォシレフスキ自身のオリジナル4曲、ジョー・ロヴァーノ(右下)のオリジナル1曲、さらにカーラ・ブレイの “Vashkar” , そして4人によるインプロヴィゼーションと、多彩にして実験色の強い曲とヴォシレフスキ独特の情感あるリリスズムの世界がミックスしたこれまた興味深いアルバムとなった。

Joelovano_byjimmykatz (Tracklist)

01. Glimmer Of Hope
02. Vashkar
03. Cadenza
04. Fading Sorrow
05. Arco
06. Stray Cat Walk (ts-b-ds trio)
07. L'Amour Fou
08. A Glimpse
09. Vashkar (var.)
10
. On The Other Side
11. Old Hat

 M1."Glimmer Of Hope " ヴォシレフスキ独特の美的センスのトリオ演奏が始まり、そこにロヴァーノのサックスが優しく添えるように入り、次第に柔らかく旋律を歌い上げる。そしてカルテットの形で曲を完成させる。ここにはトリオの本来の詩情がたっぷり盛り込まれていて、冒頭から私の心に響いてきた。これは私の期待した姿そのものであり、このアルバムはその流れで展開してゆくのかと思いきや・・・・。
 M3." Cadenza ", M5."Arco ",  M6."Stray Cat Walk (ts-b-ds trio) " ,M8."A Glimpse" は、カルテットによるインプロヴィゼーションの世界が展開する。それは実は驚きでもあったのは、ヴォシレフスキの優しさ、哀愁、甘さのリリシズムの芸風を超越したクールな抽象性に徹したフリー・インプロヴィセイションを果敢に発揮してのプレイがみれたところだ。更に注目は、ベースのクルキーヴィツ(下左)、ドラムスのミスキーヴィツ(下右)が水を得たように活躍していることである。それは特にM5."Arco", M6."Stay Cat Walk"にみるように、異空間をさまようがごとくのトリオ・メンバーのそれぞれの空間を築きつつ交錯し形作るところに、ロヴァーノのアグレッシブな面を誘導するも、そこには独特の深遠さがあってフリーな型破りな吹奏を展開する。究極のところカルテットとしての協調性が長年培ってきたかの如くの緻密に展開してゆくこととなり、そしてシャープにしてリアルな音による異次元の出現に圧倒されるのである。

Mwt_kurkiewiczwMwt_miskiewiczw

 ロヴァーノ自身、ヴォシレフスキ独特のリリスズムを受け入れつつ、彼のメロウな演奏も披露するのだが、それに止まらずインプロヴィゼーション世界に引き込んだところは見事な老獪ぶりである。しかもこうしたカルテットでは、管演奏が主体で演奏して終わってしまう事になりがちだが、ちゃんとピアノ・トリオの場を生かしている間の取り方も熟練の技とみる。そしてそれを十二分に昇華できるマルチン・ヴォシレフスキ・トリオもここまで成長した姿に偉大なりと喝采するのだ。

(参考)
 [マルチン・ヴォシレフスキMarcin Wasilewski]
ピアニスト、作曲家。1975年ポーランド・スワヴノ生まれ。コシャリン音楽ハイスクール卒。同校在学中に結成したピアノトリオSimple Acoustic Trioで、今日まですでに20数年のキャリアを持ち、それが現在のマルチン・ヴォシレフスキ・トリオである。
 いまや彼はポーランドを代表するジャズ・ピアニスト。我々が知るようになるのは、1995年にGowi RecordsよりSimple Acoustic Trioのデビュー作『Komeda』であった。これは2001年に『Lullaby for Rosemary』と改題して日本でも広く行き渡った。
 その後、ポーランドの名トランペッターTomasz Stańkoとのカルテット結成にともないドイツのECMと契約する。ECM移籍後はWasilewski,Kurkiewicz,Miśkiewicz名義で『Trio』、Marcin Wasilewski Trioと再改名後に『January』『Faithful』『Spark of Life』をリリースしている。Stańkoのカルテットとしてのアルバムは2002年の『Soul of the Things』、続いて『Suspended Night』『Lontano』の3作がリリースされている。更にピアニストとしては、トランペット奏者Jerzy Małekの『Air』があり、女性ヴォーカリストDorota Miśkiewiczの『Piano.pl』等。

(評価)
□ 曲・演奏 :  95/100
□   録音    :   85/100

(視聴)

 

| | コメント (6)

2020年5月19日 (火)

リン・エリエイル Lynne Arriale Trio 「CHIMES OF FREEDOM」

Dsc07138trw

(今日の一枚) 薔薇の開花 (我が家の庭から)
       Sony α7RⅣ,  FE4/24-105 G OSS , PL
 
       
           --------------------------------

リン・エリエイルの強い意志の情熱的芸術的表明
・・・深刻さのあるコンセプト・アルバム

<Jazz>

Lynne Arriale Trio 「CHIMES OF FREEDOM」
Challenge Records / AUSTRIA / CR73494 / 2020

Chimesoffreedomw

Pianist : Lynne Arriale (USA)
bassist/co-producer : Jasper Somsen (NL)
drummer : E.J. Strickland (USA) 
guest vocalist : K.J. Denhert (USA)

  所謂「コンテンポラリー・ジャズ」の注目女流ピアニストのリン・エリエイルのニュー・アルバム。前作『GIVE US THESE DAYS』に続いて、オランダのChallenge Recordsから(2作目)、自身のリーダー作全体としてはもう15枚目となるベテランの作品。
 しかし今作は彼女の作品群からみても異色である。ボブ・ディランの初期の名曲「自由の鐘(Chimes of Freedom)」を中心に、自身のオリジナル7曲とポール・サイモンを取り上げ、その精神を通して、現在の社会現象に自由と高邁な思想の文化を取り上げて訴えるアルバムとして作り上げている。そこには所謂メロディーの美しさといったところから一歩厳しさに打って出ていて、彼女の一つの世界を思い知らされる。

Lynnearrialetriofeatjaspersomsenejstrick

 メンバーは、オランダの名ベーシストであり副プロデューサーのイェスパー・サムセンとニューヨーク・ジャズ・シーンで活躍するE.J.ストリックランドとの強力トリオで、ややアグレッシブなテクニックを展開している。
 なんと、ボブ・ディランの「自由の鐘」、ポール・サイモンの「アメリカン・チューン」では、アーバン・フォーク&ジャズ・シンガーのK.J.デンハートがゲスト参加でのヴォーカルが入ってくる。 

 

Imageasset (Tracklist)

1.Sometimes I Feel Like A Motherless Child (Harry Burleigh)
2.Journey *
3.The Dreamers *
4.3 Million Steps *
5.Hope *
6.The Whole Truth* 
7.Lady Liberty *
8.Reunion *
9.Chimes Of Freedom (Bob Dylan)
10.American Tune (Paul Simon)

*印 compositions by Lynne Arriale

 アルバム・タイトルからしてボブ・ディランの「自由の鐘」が中心であることが解る。そこには自由という基本的な流れが見て取れるが、このアルバムでの彼女のオリジナル曲のM2-M8までの7曲が、如何にも今までのアルバムと変わって意志の強さが聴き取れるし、彼女の個人的な人生からの感覚的でありながら、社会にも向いている姿が現れている。それはM1."Sometimes I Feel Like A Motherless Child"を取り上げ、彼女自身の感覚「ときどき母のいない子供のように感じる」というところからの人生の過去も振り返りつつ、この曲を重低音で始めて、このアルバムで語る物語の重要性を意識させ、ピアノで語る哀しい旋律にはどこか人間性を語っているように聴ける。
 M2."Journey"から始まるリンの刺激的な人生の旅の物語からの7曲によって、自由と文化、そして世界に見る難民への心、それは彼らが民主的な国家によって安全に迎えられることを祈ると言うことに通じてゆく彼女の世界を演じているようだ。従って甘い演奏はこのアルバムでは見られない。強いて言えばM7."Lady Liberty"に、どこか広く包容力のある愛情の感じられる曲が救いでもあった。
Safe_image_20200518201501  最後のM9"Chimes Of Freedom",M10"American Tune "は、デンハート(→)のヴォーカルが入る。彼女はジャズ、フォーク、レゲエなどを身につけている。そしてそのスピリチュアルな歌唱力によって、ボブ・ディランとポール・サイモンのアメリカンチューンを歌い上げ、そこにかってのアメリカに見た精神を訴えているのかも知れない。

 前作もそうだったが、ベーシストのイェスパー・サムセンの力は、あまり目立たないがトリオとしての土台の役割を果たしつつ、曲仕上げにも大きく貢献している。又ストリックランドのドラムスもアグレッシブなところがテーマの意志と決意を表すに十分だ。
 
 このアルバムはリン・エリエイルとしては異色の範疇に入る。ここに来て世界的にも戦後の真摯な姿勢からやや異常な世界に変動しているところに、自己の歴史と重ね合わせ、このような深刻なコンセプト・アルバムを作り上げ、一つのけじめを付けようと試みているように感じた。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    85/100
 
(視聴)

| | コメント (2)

2020年5月10日 (日)

[記録に残したいアルバム]ジュリアン・オリヴァー・マッツァリエーロJulian Oliver Mazzariello 「DEBUT」

Dsc06834tr2w

(今日の一枚)  我が家に咲く花 ハナミヅキ
      (Sony α7RⅣ, FE4/24-105 G OSS, PL)

なかなか味なグルーヴィー感たっぷりのムードとリズム感の両翼をこなす演奏

<Jazz>

Julian Oliver Mazzariello , André Ceccarelli, Rémi Vignolo「DEBUT」
Via Veneto Jazz / ITA / VVJ125 / 2018

61suxqpex7l_acw

Julian Oliver Mazzariello (P)
André Ceccarelli (Ds)
Rémi Vignolo (Ac-B)

Recorded at the Recording Studio of Joel Fajerman
Sound Engineer: Manu Guiot
Mastered by Eugenio Vatta

 昨年の寺島靖国「Jazz Bar 2019」(2019年12月リリース)に取り上げられたこのピアニスト=ジュリアン・オリヴァー・マッツァリエーロのピアノ・トリオ・アルバムである。実はそれまで知らなかったトリオで、そのムードの良さにアルバムを購入してみたもの。
 このアルバムの曲は、下のリストにみるように、殆どこのピアニストのオリジナル曲で占められている。従って彼の意志によるところのアルバムであろうが、ドラムスには重鎮アンドレ・チェカレリがいてこのあたりも聴きどころでもある。
 このピアニストのマッツァリエーロはイタリアの俊英といわれる存在であるが、1978年ロンドン生まれであり、その後1996年1月にイタリアに移り、現在Cava de 'Tirreniに在住。多くのミュージシャンとの共演を経て現地では広く知られている存在と。彼の流麗でグルーヴィーなそして一方躍動感に富んだピアノプレイが魅力。

2322b99147b04ew

(Tracklist)

1. Accarezzame (Calvi - Nisa) 4:27
2. Funky Chunks (Mazzariello) 4:02
3. Dream Cycling (Mazzariello) 6:18
4. Battement Fondu (Mazzariello) 2:55
5. Monk in Paris (Mazzariello) 6:12
6. Modal Blues (Mazzariello) 4:05
7. Que Reste-t-il de nos Amours (Trenet - Chauliac) 4:32
8. Five for Troc (Mazzariello) 4:33
9. J's Ballad (Mazzariello) 6:37

 イタリアのトランペッターFabrizio Bossoとのデュオで何となく名前が出てきたピアニスト・マッツァリエーロの初のリーダー・アルバムとのことで、タイトルも「DEBUT」であるのだが、冒頭のM1." Accarezzame"がなかなかグルーヴィーでいいのですね。これを聴くとジャズ・ピアニストのセンスの良さが滲み出ていてジャズ・ムードの良さを知らしめられる。確か寺島靖国もこの曲を取り上げていたはずである。

Andrececcarellipaiste1_20200510174501  そしておもむろに、自己のオリジナル曲が5曲連続して出てくるのだが、まずM2." Funky Chunks "はちょっとムードが変わってなかなか軽快なジャズを展開し、M3."Dream Cycling"になると、なるほどユーロ・ジャズの匂いがしてくる。そしてバックのアンドレ・チェカレリ(右)のベテランの味のあるシンバルやブラッシ、そしてビグノーロ(右下)のベースが適度に響いて、リズムを大事にしたトリオの楽しさが伝わってくる。
 M4."Battement Fondu "などは、イタリアの伊達男の洒落たセンスというルンバ調のムードが出てきて、こうして聴いているとマッツァリエーロの流れは、M1のようなバラード調でなく、むしろ近代的流れに味付けされたリズムカルな世界なのだと知らしめられる。

Dsc_0312  更にM6."Modal Blues"の早弾きと展開するリズムなどは、アメリカ・ジャズの面白さをちゃんと身につけている。
 ただ、私好みからすると、バラード調のM1や、M7."Que Reste-t-il de nos Amours"のソロで演ずるようなこの2曲のムードたっぷりに演ずるカヴァー曲が良いのですね。こんなジャズの魅力の両者をなんとなく軽く演じてみせるというところが、ニクイニクイ魅力ですね。

 さてこれから如何様にも発展する要素をしっかり持っているマッツァリエーロは、このアルバムをベースに今後楽しみなのである。

(評価)
◇ 曲・演奏 :  ★★★★☆  85/100
◇   録音   :  ★★★★☆  85/100

(視聴)
 " Accarezzame"

*
  参考 :  Bossoとのデュオ

 

| | コメント (3)

2020年5月 6日 (水)

[記録に残したいアルバム] ジョルジュ・パッチンスキーGeorges Paczynski Trio 「LES VOIX DU SILENCE 静寂の声」

Dsc06085trw

(今日の一枚)  我が家に咲く花 三つ葉ツツジ
        Sony α7RⅣ, FE4/24-105 G OSS

 

品格すら感じさせる静寂の奥深さの世界
オーディオ・ファンも注目の音質と音場

<Jazz>

Georges Paczynski Trio 「LES VOIX DU SILENCE 静寂の声」
Art & Spectals / Import / ASCD 191101 / 2019

61l4r4phsjl_acw

Georges Paczynski (drums,piano #13)
Ètienne Guéreau(piano)
Marc Buronfosse (bass)

Recorded on June 7th, 2019
All compositions by Georges Paczynski

Georgesphoto  昨年末リリースのジョルジュ・パッチンスキー・トリオ、2 年半ぶりの新作。過去5作は私にとっては貴重なアルバムとして存在している。そして既にここで何度か取り上げてきている(カテゴリー: ジョルジュ・パッチンスキー)。

『8 years old』(ATEIER SAWANO 005/2000)
『GENERATIONS』 (ASCD060401/2006)
『LE CARNET INACHEVE』 (ASCD130701/2013)
『LE BUT, C'EST LE CHEMIN』(ASCD140901/2015)
『LE VOYAGEUR BANS BAGEGE』 (ASCD161101/2017)

 そして、リーダーのパッチンスキーは、“この作品でラスト”と語る注目アルバム。アルバム・ジャケも上のように、なんと日本語の「静寂の声」という文字がアートとなっているところも注目したい。
 既に「ジャズ批評」誌による"2019年ジャズ・オーディオ・ディスク大賞"を獲得している。この大賞はかなり音質、つまり録音技術にもウェイトが高いので、と言うことは、以前からのヴァンサン・ブルレVincent Bruleyの相変わらずの録音、ミックスの技術も評価の対象だ。

 このドラマーであるジョルジュ・パッチンスー率いるトリオだが、ちょっと気になるのは、今回はベースは変わらずのMarc Buronfosseだが、ピアノがStephane TsapisからÈtienne Guéreau(下右)に変わっている。

(Tracklist)

1. Le Chemin (6:07)
2. L'ombre (5:14)
3. L'attente (5:24)
4. L'inquietude (1:34)
5. L'apaisement (1:49)
6. Le Regard (4:25)
7. Le Sourire (2:41)
8. Le Geste (5:09)
9. Le Toucher (3:46)
10. L'eclair (6:07)
11. L'ineffable (2:04)
12. Le Silence (5:42)
13. Madame d… (4:00)
14. L'eternite (3:07)

2m_buronfosseg_paczynskitr72065072_2536

 今回も前作同様、長曲は無く比較的短曲がパッチンスキーのオリジナル曲14曲で埋め尽くされている。ピアニストの変更は大きな印象に無く、むしろそのピアノの美しさは粒立ちの良い音と繊細さに流れやや陰影すら感ずるところにあって素晴らしい。
 冒頭M1." Le Chemin"M2."L'ombre" から、品格のあるそして美しさのピアノの音、繊細にしてスティックによって演じられるシンバルが適度の音量で響き非常に気持ちが良い空間の世界を展開する。
 Paczynski3tyrw_20200504134801 フランス人の洒落た世界が感じられる独特なセンスある思索的演奏が続くが、M8."Le Geste"では見事なスウィンギーに展開し、M9." Le Toucher "になると静かに落ち着いた中にピアノの調べが訴えてくる。
 M10."L'eclair "では、終盤にドラムスによる盛り上がりが見事である。
 M12."Le Silence"の静の世界ではパッチンスキーのブラッシ奏法、繊細なスネアの響きと聴くに事欠かない。

  ユーロ・ジャズの陰影と哲学的センスにビル・エヴァンスの美しさとテンション感の高さが融合した感のあるパッチンスキーがリーダーとなるピアノ・トリオの一連の世界観はなかなか味な世界である。
 そしてそこにヴァンサン・ブルレの録音・ミックス技術が奏功して名盤を作り上げた。これが最後の作品とパッチンスキーは表明しているが、本当とすると寂しい事だ。

(評価)
◇ 曲・演奏 ★★★★★☆   90/100
◇ 録音   ★★★★★☆       95/100

(視聴)

 

| | コメント (2)

2020年3月 5日 (木)

寺村容子YOKO TERAMURA & 山中千尋 CHIHIRO YAMANAKAのピアノ・トリオ対決

日本女性ピアニスト・ジャズにちょっと耳を
まさに対照的なジャズ・ピアノ・トリオ世界

 

 日本女性ジャズ・ピアニストの寺村容子と山中千尋を取り上げる。たまたま昨年ニュー・アルバムを両者リリースしていて、ただし私はここで取り上げてこなかったのだが、なんと今年の「ジャズ批評」214号のジャズ・オーディオ・ディスク大賞に銀賞と7位に入っていたので、ちょっと感想を書いておきたくなった。

 

<Jazz>
YOKO TERAMURA TRIO 「GRACEFUL TOUCH」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1084 / 2019

71499wd8oxlw

寺村容子(ピアノ)
新岡 誠(ベース)
鳥山 悠(ドラムス)

Yokot (Tracklist)

1.No Problem 危険な関係のブルース (Duke Jordan)
2.Last Tango In Paris ラスト・タンゴ・イン・パリ (Gato Barbieri)
3.These Foolish Things ジーズ・フーリッシュ・シングス (Jack Strachey)
4.Who Wants To Live Forever リヴ・フォーエヴァー (Brian Harold May)
5.Graceful Touch グレイスフル・タッチ (Tord Gustavsen)
6.Children's Crusade チルドレンズ・クルセイド (Sting)
7.You Must Believe In Spring ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング (Michel Legrand)
8.Bay Walk ベイ・ウォーク (Yoko Teramura)
9.Left Alone レフト・アローン (Mal Waldron)
10.Wish Of The Ancients いにしえの願い (Yoko Teramura)

 寺島レコードが気合いを入れているどちらかというと美旋律ピアノを演ずる寺島容子の2019年リリース新作だ。私の場合どちらかというと録音が話題になったアルバム『TERAMURA YOKO MOODS』(TYR-1026)以来である。
  アルバム・タイトルが、あのトルド・グスタフセンの名曲"Graceful Touch"で、彼女はここでその曲のカヴァーを披露している。こんなところからも目指している方向が解ると言うところだが、なにせトルド・グスタフセンは哲学的深遠な世界に踏み込むという強者、これを描くにはまだ荷が重いと言わざるを得ない。このアルバムでは一番の聴きどころであり、しかし今後に期待で目指すことは悪くない。

 おそらくプロデューサー寺島靖国の方向性を描こうとしたところは、その録音からも解るところだ。なんと同一音源に二種類のマスタリングを行って、二枚組にしている。一枚は通常と思われるトリオのエネルギー・バランスで、もう一枚はピアノをやや引っ込めてドラムス、とベースが少し表に出てくる。私は後の方のタイプが良かったのですが、演奏よりもこんなオーディオ的遊びが出来る楽しいアルバムである。
 いずれにしてもバラード系演奏を聴かせてくれて私好みであるのだが、ならばもう少し情感のあるピアノタッチの強弱による描く世界が欲しいと思うところであった。まあ彼女もこれからなんでしょうね。録音にもよるのかも知れないが、音ばかりが表に訴えてくるアルバム。

                  - - - - - - - - -

<Jazz>
Chiro Yamanaka 「Del Tramonto」
UNIVERSAL MUSIC / JPN / UCCJ-2167 / 2019

Xat1245711087

Chihiro Yamanaka : Piano, FenderRhodes, Hammond B-3 Organ

Yoshi Waki: Bass
John Davis: Drums
Vincente Archer: Bass
Damion Reid:Drums

録音年 2019年5月
録音場所 Boomtown Studio Brooklyn

Profile_3w (Tracklist)
1 ジェンナリーノ Gennarino (Chihiro Yamanaka)
2 パソリーニ Pasolini (Aldo Romano)
3 シンキング・オブ・ユー Thinking Of You (Chihiro Yamanaka)
4 ネヴァー Never (Chihiro Yamanaka)
5 チェロキー Cherokee (Ray Noble)
6 スイート・ラヴ・オブ・マイン Sweet Love Of Mine (Woody Shaw)
7 ルッキング・アップ Looking up (Micheal Petrucciani)
8 ブルー・マイナー Blue Minor (Sonny Clark)
9 ソリチュード〜C・ジャム・ブルーズ Solitude〜C jam blues (Chihiro Yamanaka / Duke Ellington)
10 プリマ・デル・トラモント Prima Del Tramonto (Chihiro Yamanaka)

 このアルバムは数多い山中千尋ピアノ・ジャズの最新作である。ブルーノート80周年記念作としての位置にもある。そして中身はソニー・クラークなどブルーノートの名曲をカバーし、フランスの障害を克服した最高のジャズ・ピアニストと評されていたミシェル・ペトルチアーニの没後20年にも焦点を合わせた作品を収録している。しかしそれでも主たるは彼女自身のオリジナル5曲が占めている。 リズムセクションは、ニューヨーク・トリオのレギュラーであるヨシ・ワキとジョン・デイビス。そして、ロバート・グラスパー・トリオのリズムセクションであるヴィセンテ・アーチャーとダミオン・リードという2組のリズムセクションとの共演もの。

 M1." Gennarino "は軽快なタッチでスタートし、M3."Thinking Of You"彼女の特技である転がるような打鍵さばきが惚れ惚れするほど見事である。
 M5."Cherokee"は、ドラムソロから始まり、疾走するベース、そして続くピアノの早引き、この流れはピアノ・トリオの醍醐味を地でゆき圧巻。確かに彼女の技量はハイレベル。
 M10."Prima Del Tramonto"はバラード調で聴きやすい流れ、しかしドラムスは疾走しており、後半は変調するという一筋縄ではゆかない。

 これは彼女の技量の高さをいやでも迫ってくるアルバムでジャズ古典的スタイルでの超絶技巧はナンバー1だ。しかし面白みという点ではやや欠けている。ニューヨークを拠点に活躍し、ボストンのバークリー大学の助教授という実力者だからこそ、彼女はもう一歩力まず余裕を持って新しい現代ジャズ手法に迫ってくれると面白いのだがと思う。又録音も一世代前の標準型で面白くない、寺島レコードのようなサウンドに挑戦があればアルバムの価値も上がろうとゆうところ。

(評価)

         (寺村容子)         (山中千尋)

□ 曲・演奏    75/100                    90/100
□ 録音      90/100              75/100

 

█ 日本女性ピアニストの二人のアルバムを並べてみたが、とにかく対照的。技量は圧倒的に山中千尋、アルバム作りは寺村容子というか寺島レコードに、というところで面白い対決となった。「ジャズ批評」の"ジャズオーディオ・ディスク大賞2019"の「インストゥルメンタル部門」では、寺村容子が銀賞、山中千尋が7位というところであった。やっぱりこの賞は演奏より録音にウェイトがあるのかなと、又は演奏の技量と深さより聴きやすさを選んだのかと思わせる、そんな結果であったが、これからも両者の奮闘に期待したい。

(試聴)

寺村容子

 

*

山中千尋

 

| | コメント (2)

2020年3月 1日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi 「COMMON VIEW」

オリジナル曲による創意の結晶といった流れ

<Jazz>

Enrico Pieranunzi  Jesper Somsen  Jorge Rossy
「COMMON VIEW」
CHALLENGE RECORDS / AUSTRIA / CR73459 / 2020

81dyj7p8ralw

Enrico Pieranunzi エンリコ・ピエラヌンツィ (piano)
Jasper Somsen イェスパー・サムセン (double bass)
Jorge Rossy ホルヘ・ロッシー (drums)
Recorded at MotorMusic, Mechelen(Belgium)
Recording dates : September 10 & 11,2018

 はっきり言ってこのアルバムも難物です。これは2018年の録音モノだが、エンリコ・ピェラヌンツィは近年この傾向にあることは解っての上でのアプローチであった。とにかくヨーロッパ叙情派ピアノの代名詞的彼であるが(1949年、ローマ生まれ)、このアルバムは極めて端麗なピアノ・タッチが聴かれるもハードにして軽快な転回をみせたり、美旋律を奏でるので無くトリオのそれぞれのアクセントを許容し協調してゆく妙を描く世界に専念していての曲作り。安易な叙情的美を求めるとしっぺ返しが来る。

 

Enricopieranunzi2w (Tracklist)

01. Falling From The Sky (JS)
02. Silk Threads  (JS)
03. Sofa  (JR)
04. Turn In The Path  (EP)
05. Love Waiting Endlessly (JS) 
06. Perspectives  (EP)
07. Instant Reveal I *
08. Who Knows About Tomorrow  (JR)
09. Instant Reveal II * 
10. Recuerdo  (JR)
11. Song For An August Evening (EP)

(JS):Jasper Somsen、(JR):Jorge Rossy 、(EP):Enrico Pieranunzi 、*印:三者

 それにしてもこのトリオのそれぞれの演奏の切れ味は見事と言いたい。けっしてピアノを前面に出してのベース、ドラムスが単なるリズム隊としてのサポートという単純なトリオ演奏では無い。収録曲は彼らがそれぞれ3曲づつ提供し、そして三者による2曲のオリジナル計11曲である。単なるカヴァーという世界で無いので、それは彼らの意志の見せ処としての曲構成展開が演じられているところにある。

 とにかく私にとってようやくゆったり許容できたのは、M2."Silk Threads "、M11."Song For An August Evening "の2曲くらいであった。多分こうゆうアルバムは聴いたことのある旋律が顔を出してホッとさせてくれるというものでないので、恐らく何回と聴いていく内に何かが見えてくるのであろうという世界なのだ。
 冒頭のM1." Falling From The Sky "は三者のお披露目、コラボレーションの妙。M2."Silk Threads "はがらっと変わってゆったりした世界。M3.Sofa""、M4."Turn In The Path"はコンテンポラリーにして実験音楽的ニュアンス。
 M7."Instant Reveal I"はピアノの音の美しさが演じられるも、曲の展開が異様で緊張感を誘う。そしてM9."Instant Reveal II"に繋かがり、三者の交錯が興味をひく。

Trio1

 近年のエンリコ・ピエラヌンツィの単なる耽美性から一歩も二歩も歩んだ彼の創意の意欲から生まれる世界だ。それはトリオのコラボレーションを楽しむ瞑想感覚のあるミステリアスにしてスリリングな一つの世界なのである。
 私からすると、とくにM11."Song For An August Evening "が往年のエンリコ・ピエラヌンティの演奏を思い起こさせて、救われた感じを持ったエンリコ・ワールドであった。

(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★☆  80/100
□ 録音   ★★★★☆  80/100

(試聴) 

 

| | コメント (4)

2020年2月21日 (金)

須川崇志Banksia Trio 「Time Remembered」

スリリングにしてミステリアスな世界の構築

<Jazz>

Takashi Sugawa Banksia Trio 「Remembered」
DAYS OF DELIGHT / JPN / DOD005 / 2020

81hspvot09lw
林 正樹 (piano)
須川 崇志 (bass)
石若 駿 (drums except 6)

Recorded at Sound City Setagaya Studio on 31 July 2019

 Marc Copland話から発展して、ozaさんからご示唆頂いたアルバム。日本のピアノ・ジャズ・トリオものとしてはどうしても小曽根真となりがちな私だが、どうもその他は意外に多いのが一世代前のアメリカン・ジャズ世界、それがなんとも私には馴染めないで来ているのだ。しかしこのアルバム、こんな現代的センスのあるピアノ・トリオであることには驚いているのだ。リーダーはベーシストの須川 崇志だが、完全なピアノ・トリオのスタイルを守りながらの即興がらみのトリオ演奏は新鮮だ。そして重要なのは知的で美しい林正樹のピアノ、又石若駿の演ずるは繊細にしてダイナミックなドラミングの世界である。

Ts1 (Tracklist)

1. Time Remembered
2. Yoko no Waltz
3. Nigella
4. Banksia
5. Under The Spell
6. Lamento (p & b duo)
7. Largo Luciano
8. Yoshi
( S.Ishikawa : 2, 7, 8 /  M.Hayashi : 3 / T.Sugawa : 4, 5, 6)

 収録曲は上のような8曲、M1."Time Remembered"はビル・エヴァンスの曲で、それ以外は全て彼らのオリジナル曲。それはライナーによると、録音前日や当日の朝に書かれた曲をはじめ収録曲の半分はほぼお互いの初提出で演奏されたというのだから驚きである。この収録内容は、3人のこれまでに築き上げられた演奏技術によって、ここに集約されて作り上げられた曲であるというところのようだ。

 しかし、このオープン曲のアルバム・タイトル曲でもある"Time Remembered"は、繊細なシンバルの音から入って・・・・所謂エヴァンス美学とはまた一歩異なった世界観を構築していて見事である。私はこれを聴いて是非アルバムを聴き通したくなったのであった。アルバムの帯に平野暁臣のライナーからの言葉"須川崇志と石若駿が紡ぎ出すうねりのなかを林正樹がリリカルに駆け抜ける"まさにこのタイプなのだ。私が聴くエヴァンスのこの曲はカヴァーでありながら彼らの作り出すものは、今演じている彼らそれぞれのセンスから生まれるインプロヴィゼーションが加味され、それが有機的に結合してゆく流れが手に取るように聴けて、そこに現代的な新鮮さが加味されていて好感度が高まるのだ。
  私の聴くエヴァンス自身のこの曲演奏は、72年のパリ・ライブものだが、それは彼のピアノの美しさとその世界に並ぶベースの世界など協調の美が満ち満ちているが、このBanksia Trioは、ベース、ドラムスの疾走感が加わってトリオのバトル感覚のスリリングさが生まれていることだ。エヴァンスものの取り扱いは難しいと思うが、彼らの意志が感じられて頼もしい。

Triow

 冒頭で彼らの意志を示され、残る彼ら自身のオリジナル曲に入るのだが、M3."Nigella"は録音前日に出来たという林正樹の曲だが、これはむしろスリリングな展開の後の心のゆとりを謳歌するが如きの展開で三者のつながりが見事。
 M4."Banksia "は静かなピアノに始まり、次第にベースの主導に入り、次第にスリリングなドラムが絡んでインタープレイの妙を描く異世界に突入。
 M5." Under The Spell " ドラムス主導で流れる神秘世界。
 M6."Lamento (p & b duo)" 須川のアルコ奏法を中心にピアノがサポートして描くちょっと哲学的深い世界。
 M7."Largo Luciano" ドラムスのブラシ奏法の流れの中で、ゆったりと余韻の音を残したピアノ、それにベースの和音で綴る静かな神秘性ある沈んだ世界。

 とにかく、三者のバトルによるスリリングな味に美しさを乗せた緊張感ある硬質な世界と静かな奥深い心象風景にも迫るという演奏が聴かれ、ジャズ・トリオの醍醐味の感じられる久々に聴き込んでしまうアルバムであった。

 

( ネット上に見られた三者の紹介を載せておく )

T02200220_0320032013480396589 ■須川崇志
 1982年生まれで11歳の頃にチェロを弾き始め、18歳でジャズベースを始める。2006年、ボストンのバークリー音楽大学を卒業。その直後に移住したニューヨークでピアニスト菊地雅章氏に出会い、氏のアートフォームや音楽観から多大な影響を受ける。2009年に帰国後、辛島文雄トリオを経て日野皓正バンドのベーシストを6年間務める。現在は峰厚介カルテット、本田珠也トリオ、八木美知依トリオ、石若駿トリオほか多くのグループに参加。現在までに東京ジャズ、デトロイト(米)、モントルー(スイス)、ブリスベン(豪)、メールス(独)などの数多くの国際ジャズフェスティバルに出演。2018年11月にデビューアルバム『Outgrowing』を発表。

Hayashiw ■林正樹
 独学で音楽理論を学び、佐藤允彦らに師事してジャズピアノと作編曲を習得。渡辺貞夫バンドのレギュラーを務める傍らで、椎名林檎、長谷川きよし、小野リサら他ジャンルのアーティストとも幅広く共演。自身のリーダーアルバムにおいても、ジャズと他領域を行き来するチャレンジングな試みを続けている。

 

Ishiwakashunw_20200221094801 ■石若駿
 14歳で日野皓正クインテットの一員としてライブに出演し、高校時代には奨学生として米・バークリー音大に留学。東京藝大打楽器科在学中からジャズシーンのド真ん中で活躍を続ける万人が認める日本のトップドラマー。さらに活動範囲はストレートジャズにとどまらず多彩な領域におよび、参加アルバムは100枚を超える。

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★★☆  95/100
□ 録音    ★★★★☆  85/100

(視聴)

| | コメント (4)

2020年2月17日 (月)

パトリシア・バーバーPatricia Barber 「HIGHER」

ベテランの醸し出す世界は展望に満ちていた

<Jazz>

Patricia Barber 「HIGHER」
ArtistShare / U.S.A / AS0171 / 2019

714ba0afdl_acw

Patricia Barber, piano, voice
Patrick Mulcahy, bass
Jon Deitemyer, drums
Neal Alger, acoustic guitar
Jim Gailloreto, tenor saxophone
Katherine Werbiansky, lyric soprano

 ヴォーカリスト、ピアニストにして作曲家でもあるパトリシア・バーバーの久々の新作(レーベルはArtistShare、彼女のDiscographyは末尾参照)。私の米国では最もと言ってよい関心の高い女流ミュージシャンだ。なんと1955年生まれであるから、歳はおして知るべしというところ。
 過去にここで何回か取り上げてきたように、様々な作品に取り組んできたヴェテランである。そして今回は8曲の自作曲でジャズの枠組みの中での組曲的手法によって聴かせるところに、まだまだチャレンジ精神はみなぎっている。そんな意欲作であるが、極めてヴォーカルは聴きやすく優しく説得力あるところにある。いずれにしてもヴェテランならではの味わいが溢れている。

70463pb4w (Tracklist)
Angels, Birds, and I ...

1. Muse (Patricia Barber)
2. Surrender (Patricia Barber)
3. Pallid Angel (Patricia Barber)
4. The Opera Song (Patricia Barber)
5. High Summer Season (Patricia Barber)
6. The Albatross Song (Patricia Barber)
7. Voyager (Patricia Barber)
8. Higher (Patricia Barber)
- - - - - - - - -

9. Early Autumn (words: Johnny Mercer, Ralph Burns, Music: Woody Herman)
10. In Your Own Sweet Way (Music: Dave Brubeck)
11. Secret Love (Words: Paul Francis Webster, Music: Sammy Fain
12. The Opera Song with Katherine Werblansky (Patricia Barber)

 スタートのM1."Muse "がいいですね、語り調で優しいヴォーカル、そしてそれにも増して優しさ溢れるピアノの美旋律。
   このM1.からM8.まで彼女のオリジナル曲が連なり、" Angels, Birds, and I "命名されたこの8曲の組曲に仕上げているようだ。
 M2."Surrender "はアコースティック・ギターを中心にバックを支える。ここにも後半のピアノの美しさの流れは圧巻。
 M3."Pallid Angel"にはサックスの登場と多彩。M4."The Opera Song "はこの流れの中で、特異な展開に驚く。
 流れは比較的ゆったりとしていて、一つ一つかみしめての味わいを示すが、曲は多彩な展開をしている。
 M6."The Albatross Song "の描くところは解らないにしても、何か抵抗との対抗的な雰囲気あり。
 それに続くM7."Voyager"では、新しき迫る世界に向かってのやや複雑な試みと展開がなされる。そしてアルバム・タイトルのM.8""Higher は、ゆったりとしたピアノ・ソロのバックで、ここに来る展開を経ての身に感じての射してくる光明を感じさせ、展望の中に終わる。

83907088_2756633324396462_25769523572333

 続いて組曲によるコンセプトは一締めとなって・・・カヴァー曲となる。
 M9."Early Autumn "の優しいヴォーカル、そして後半のピアノの流れは美しいの一言。
 M10."In Your Own Sweet Way "では、彼女のジャズ・ピアノのテクニカルな聴かせどころ。ここに来てベース、ドラムスとのジャズ展開が堪能出来る。
 M11."Secret Love"は、聴き慣れた曲をハイテンポで演奏してみせ、彼女の一筋ならないところを垣間見せる。
 M12."The Opera Song with Katherine Werblansky " ここで締めとして彼女の曲となり、高音のオペラティックなヴォーカルには驚かされる。いっやー、ただでは終わらないのが彼女だ。

 パトシア・バーバーは、音楽一家で育った米シカゴ州出身のジャズ・ピアニスト・作曲家でありヴォーカリスト。アイオワ大学では当初クラシック・ピアノを専攻、しかし次第にジャズへの要素が濃くなる。89年に1stアルバム『Split』で30歳代半ばでCDデビューを果たすと、94年の3rdアルバム『Cafe Blue』(BN 90760)で一気に日本でも知られるところとなる。注目点は20世紀時代の米国音楽芸術に対して、なんと私も注目のロックの要素も大胆に取り入れた。それらは彼女独自のむしろクールと言われる感覚の一つの姿であり、そんなジャズを超えた作品を多く発表している。2002年に通算7枚目となるスタジオ・アルバム『VERSE』(KOC-CD-5736)やその後『Smash』(Concord Music/2013)などをリリース。又2017年に『Modern cool』(Blu-ray Audio/2013)をサラウンド・サウンドで再発している。
 いずれにしても、米国ジャズ界での一つの世界を築いてきており、私にとっても貴重なミュージシャンだ。

83775193pb2bw (参考) <Patricia Barber  : Discography>
1. Split : Premonition Records (1989)
2. Distortion of Love : Antilles (1992)
3. Cafe Blue (Two versions) : Blue Note Premo. Records (1994)
4. Modern Cool (Three versions) : Blue Note, Premo. Records (1998)
5. Companion : Blue Note, Premonition Records (1999)
6. Nightclub : Blue Note, Premonition Records (2000)
7. Verse : Blue Note, Premonition Records (2002)
8. Live: A Fortnight In France : Blue Note (2004)
9. Live: France 2004 :DVD Blue Note (2005)
10. Mythologies (Two versions) : Blue Note (2006)
11. The Premonition Years : 1994-2002 Blue Note (2007)
12. The Cole Porter Mix : Blue Note (2008)
13. Smash : Concord Records (2013)
14. MONDAY NUGHT (Live at the Green Mill) : not an Label (2016)
15. Higher : ArtistShare  (2019)

(評価)
□ 曲・演奏・歌  ★★★★★☆    90/100
□ 録音      ★★★★☆    80/100  

(試聴)

 

 

| | コメント (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

Audio CLASSIC Progressive ROCK アイオナ アガ・ザリヤン アデル アヤ アレクシス・コール アレッサンドロ・ガラティ アンジェイ・ワイダ アンナ・マリア・ヨペク アンヌ・デュクロ アヴィシャイ・コーエン アーロン・パークス イエス イタリアン・プログレッシブ・ロック イメルダ・メイ イモージェン・ヒープ イリアーヌ・イリアス イーデン・アトウッド ウィズイン・テンプテーション ウォルター・ラング エスビョルン・スヴェンソン エスペン・バルグ エミリー・クレア・バーロウ エミール・ブランドックヴィスト エンリコ・ピエラヌンツィ エヴァ・キャシディ カレン・ソウサ ガブレリア・アンダース キアラ・パンカルディ キャメル キャロル・ウェルスマン キング・クリムゾン キース・ジャレット クィダム クレア・マーティン ケイテイ・メルア ケイト・リード ケティル・ビヨルンスタ コニー・フランシス コリン・バロン ゴンザロ・ルバルカバ サスキア・ブルーイン サラ・ブライトマン サラ・マクラクラン サラ・マッケンジー サンタナ サン・ビービー・トリオ ザーズ シェリル・ベンティーン シゼル・ストーム シネイド・オコナー ショスタコーヴィチ シーネ・エイ ジェフ・ベック ジャック・ルーシェ ジョバンニ・グイディ ジョバンニ・ミラバッシ ジョルジュ・パッチンスキー スザンヌ・アビュール スティーヴン・ウィルソン スティーヴ・ドブロゴス ステイシー・ケント ステファン・オリヴァ スノーウィ・ホワイト スーザン・トボックマン セリア セルジオ・メンデス ターヤ・トゥルネン ダイアナ・クラール ダイアナ・パントン ダイアン・ハブカ チャーリー・ヘイデン ティエリー・ラング ティングヴァル・トリオ ディナ・ディローズ デニース・ドナテッリ デヴィット・ギルモア デヴィル・ドール トルド・グスタフセン ドリーム・シアター ナイトウィッシュ ニコレッタ・セーケ ニッキ・パロット ノーサウンド ハービー・ハンコック パスカル・ラボーレ パトリシア・バーバー ヒラリー・コール ビル・ギャロザース ピアノ・トリオ ピンク・フロイド フェイツ・ウォーニング フランチェスカ・タンドイ フレッド・ハーシュ ブッゲ・ヴェッセルトフト ブラッド・メルドー ヘイリー・ロレン ヘルゲ・リエン ペレス・プラード ホリー・コール ボボ・ステンソン ポーキュパイン・ツリー ポーランド・プログレッシブ・ロック ポール・コゾフ マティアス・アルゴットソン・トリオ マデリン・ペルー マリリオン マルチン・ボシレフスキ マーラー ミケーレ・ディ・トロ ミシェル・ビスチェリア メコン・デルタ メッテ・ジュール メラニー・デ・ビアシオ メロディ・ガルドー モニカ・ボーフォース ユーロピアン・ジャズ ヨアヒム・キューン ヨーナス・ハーヴィスト・トリオ ヨーナ・トイヴァネン ラドカ・トネフ ラーシュ・ダニエルソン ラーシュ・ヤンソン リサ・ヒルトン リッチー・バイラーク リリ・ヘイデン リン・エリエイル リン・スタンリー リヴァーサイド リーヴズ・アイズ ルーマー レシェック・モジュジェル ロジャー・ウォーターズ ロバート・ラカトシュ ロベルト・オルサー ローズマリー・クルーニー ヴォルファート・ブレーデローデ 中西 繁 写真・カメラ 北欧ジャズ 問題書 回顧シリーズ(音楽編) 女性ヴォーカル 女性ヴォーカル(Senior) 女性ヴォーカル(ジャズ2) 女性ヴォーカル(ジャズ3) 寺島靖国 戦争映画の裏側の世界 手塚治虫 文化・芸術 映画・テレビ 時事問題 時代劇映画 波蘭(ポーランド)ジャズ 相原求一朗 私の愛する画家 私の映画史 索引(女性ジャズヴォーカル) 絵画 趣味 雑談 音楽 JAZZ POPULAR ROCK SONYα7