ピアノ・トリオ

2020年12月29日 (火)

ウォルター・ラング Walter Lang Trio「TENS」

コロナ渦における欧州活動のみの制限から生まれた名曲再演盤

<Jazz>

Walter Lang Trio「TENS」
ENJA Yellowbird / Germ / ENJA9785 / 2020

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Walter Lang : piano
Thomas Markusson : bass
Magnus Öström : drums]

   今年もあとわずかになりました。とにかく今年はCovid-19の世界的流行の年、全てが人類原点に戻っての対応が強いられたような年でした。今だに第三派の波が襲ってきて、本来の活動が取り戻せない環境に甘んじなければならない状態である。これが今年の締めくくりとは情けない現実だ。

 さてそこで今年最後は、そんな事情であるからこそは出来たアルバムを取上げる。それはあの過去の名曲が新しいアレンジで収録で登場した一枚。Covid-19の流行の中、ミュージシャンは活動をいやが上でも制限された。日本でのライブもキャンセル。そこで新生ウォルター・ラング・トリオのセカンド・アルバムとも言えるものの登場なのだ。実はこのウォルター・ラングはなんとドイツ人でありながら、欧州より日本の方に圧倒的に知名度が高い。従って、現在彼は欧州圏内にての活動に制限されたため、まずは今となってドイツにてのプロモーション活動を行わざるを得なかった。そんな事情から、過去の名曲に目を付けここに再出発のような展開をしたわけだ。

 そしてこの2月にドイツにての録音となり、ドイツのジャズ・レーベル enja / Yellowbird Recordsと澤野工房のコラボレーションによるものという結果になったのである。
 又、これもいろいろと私の場合不手際があって、このアルバムの到着が遅れた。従って今になってレビューということになった。
 このメンバーでの前作『PURE』(2019)が良かったため、前作からのドラムスの元E.S.T.のMagnus Ostom もこの刺激の少ない美旋律にどう対応するかも聴きどころだ。

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1. The Beginning And The End
2. Soon
3. Little Brother
4. Meditation in F mi
5. Snow Castle
6. Branduardi
7. Misty Mountains
8. No Moon Night
9. Kansas Skies
10. I Wonder Prelude
11. I Wonder
12. When the day is done

 M1."The Beginning And The End"はアルバム『The Sound of a Rainbow』からだが、タイトルからして何やらこの現状の彼らを物語っている雰囲気ですね。そしてこのアルバムを聴いてみて、アレっこんな曲があったのかと思うのは、彼のトリオ・アルバムというのは刺激の無い優美にして安心感の強い曲だけあって、意外に覚えていないことに気がついた。

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 M2."Soon "のバラッド曲は、アルバム『Translucent Red』からで、私の好きな曲。落ち着いた心の流れを感じ取れる。
 アルバム『PURE』からの2曲、M3."Little Brother "は、7分以上の長曲で、愛情の感じられる曲であり、終盤に高揚してゆくところが聴きどころ。さらにM4."Meditation in F mi"も良いですね。スローな流れの中に、やや不安げな心の描写。
 M5、M6は、いつものラング流の軽い展開。
 アルバム『Starlight Reflections』からは、M7."Misty Mountains "M8."No Moon Night"で、M7.は広大な山岳風景をイメージさせる。M8.は、ちょっと現実離れの不思議な世界に、そして深遠な美しいメロディー。
 M9."Kansas Skies" カントリー・ロックの登場、『FULL CIRCLE』から。
   M10."I Wonder Prelude" ベースの物語からら始まる。なんと不思議な世界へ導かれることか。アルバム『Moonlight Echoes』の締めの曲。

 相変わらず、メロディーとピアノの音からウォルター・ラングと解る優しく何か整った安心感のある世界が展開している。トーマス・マークソンのベースも歌心を展開しているし、マグナス・オストロムもラングの世界にブラシ、スティックなど多彩な音で盛り上げている。特にオストロムはBugge Wesseltoft Trioとの関係もあるので、何かいろいろと微妙なところがありそうだ。かえってラングのもう一つの顔であるTRIO ELFの世界に意外にマッチングが良さそうにも思える、これからラングのトリオもいろいろと変化があるかも知れない。 

 みなさん、良いお年をお迎えください。

(評価)
□ 曲・演奏     85/100
□ 録音       85/100

(視聴)  "Meditation in F MI"

 

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2020年12月21日 (月)

年末恒例の寺島靖国プレゼンツ「Jazz Bar 2020」

ピアノ・トリオ一点張りから、今年はサックスものも登場

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2020」
Terashima Records / JPN / TYR-1094 / 2020

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 しかし驚きですね、なんとこのコンピレーション・アルバムは20年の経過で20巻目のリリースとなったことだ。今こうしてみると過去のアルバム全てが棚に並んでいて、私にとっては好きなシリーズであったことを物語っている。

 プロデューサー寺島靖国(右下)は常々「歳と共に変化を楽しみ、常に新鮮な気持ちと興味を維持すべし」と口にしているとか。ピアノトリオへのこだわりは相変わらずだが、オーディオ的好みはその録音やミキシングのタイプにも確かに変化は出てきている彼だ。近年は前へ前へと出てくるリアル・サウンドから、音楽としての臨場感、奥行きの感覚に磨きがかかってきた感がある。
 そして「哀愁の名曲」探しは相変わらずで、我々日本人の心に沁みるメロディーを追求くれている。その為私も好きな欧州系をかなり探ってくれたという印象がある。新世代のミュージシャンの発見にも寄与してきてくれているし、私にも大いに影響を与えてくれたこのコンピレーション・アルバム・シリーズはやはり楽しみなのである。

Photo_20201221153801 (Tracklist)

01. Night Waltz / Enrico Pieranunzi Trio
02. Elizete / The Chad Lawson Trio
03. Morgenstemning / Dag Arnesen
04. C'est Clair / Yes Trio
05. Tangorrus Field / Jan Harbeck Quartet
06. Danzon del Invierno / Nicki Denner
07. Bossa Nova Do Marilla / Larry Fuller
08. Contigo en la distancia / Harold Lopez-Nussa
09. La explicacion / Trio Oriental
10. Soft as Silk / David Friesen Circle 3 Trio
11. Vertigo / Opus 3 Jazz Trio
12. The Miracle of You / Niels Lan Doky
13. New York State of Mind / Harry Allen

 冒頭のM1."Night Waltz"は、昨年ここでレビューしたエンリコ・ピエラヌンツィのアルバム『NEW VOSION』(2019)(下左)からの曲。そしてM3."Morgenstemning "が北欧ノルウェーのダグ・アネルセンのかなり前の三部作のアルバム『NORWEGIAN SONG 2』(LOS 108-2/2011)(下中央)からであり、この2枚のアルバムが私の所持しているものであった。その他11曲は、幸運にも私にとっては未聴のアルバムからの選曲であり、初聴きで期待度が高い。
 そもそもこのアルバムを愛してきたのは、結構日本にいる者にとって一般的に知られていないモノを紹介してくれていること、又私のジャズ界では最も愛するピアノ・トリオものが圧倒的に多い、更にどことなく哀愁のある美メロディーを取上げてくれていることなどによる。そして初めて知ったものを私なりに深入りしてみようという気持ちになるモノが結構あることだ。更になんとなく欧州系のアルバムも多いと言うことが私の好みに一致しているのである。

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   M1."Night Waltz"と続くM2." Elizete "は、哀愁というよりはどちらかというと優美という世界。
 M3."Morgenstemning" 聴きなれたグリークのクラシックからの曲。ノルウェーのミュージクですね。美しい朝の光を浴びて・・・と言う世界。とにかく嫌みの全くないダグ・アネルセンの細工無しの美。
 M5."Tangorrus Field" (上右) 寺島にしては珍しくテナー・サックスの登場。デンマーク出身のヤン・ハルベック。私はうるさいサックスはちょっと苦手だが、彼の演ずるは豪放と言うが、この曲では何故か包容感のある優しさと幅の広さが感じられ、ピアノとの演じ合いに美しさすらある。今回のアルバムには、最後のM13."New York State og Mind"にはHarry Allenのサックスがやはり登場する。
 M7."Bossa Nova Do Marilla" は、ボサノバと言いながらも、驚きのLarry Fullerのピアノの旋律を演ずる流れはクラシックを思わせる。
 M8." Contigo en la distancia"(下左)、キューバのHarold Lopez-Nussaにしては、信じれないほど哀愁の演奏。いっやーー驚きました。
 M10."Soft as Silk" (下中央)、ベーシストのDavid Friesenの曲。どこか共演のGreg Goebelのピアノの調べが心の奧に響くところがあって、この人の造る曲にちょっと興味を持ちました。ベーシストって意外に美旋律の曲を書く人が多い気がしますが・・。
 M12."The Miracle og You" (下右)、このピアニストの Niels Lan Dokyって、実は過去に聴いて来なかった一人で、今回ちょっと興味をそそる技巧派ピアノに聴き惚れて、興味を持たせて頂きました。

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 今回は大きな獲物に飛びつけたという衝撃は無かったが、やはり寺島靖国の選曲にはやはり優美さ、美しさ、哀愁などはそれぞれにどこかに感ずる処があって、やはり年末恒例でこうして聴くことはベターなコンピレーション・アルバムと言うことことが出来る。
 とにかく20周年の成人となったこのシリーズにお祝いしたいところであった。

(評価)
□ 選曲、演奏           88/100
□ 録音(全体的に)      85/100

(参考試聴)

jan Harbeck Quartet "TANGORRUS FIELD"

*
Dag Amesen  " MORGENSTEMNING"

 

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2020年11月30日 (月)

カーリン・アリソン Karrin Allyson 「'ROUND MIDNIGHT」,「BLLADS」

本格的ジャズを歌い上げる ~ ~ ~

カーリン・アリソンKARRYN ALLYSON  

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1w_20201130172101  オーディオ・マニアが結構気に入っているアルバムに PREMIUM RECORDS の『BEST AUDIOPILE VOICES』というコンピレーション・アルバムがあるが、これは主としてJazzy not Jazz パターンから、Jazzにいたる女性ヴォーカルが主体である。目下7巻目の「Ⅶ」がお目見えしている。実はその記念すべき2003年の第1巻(→)においては、ここで何度も取上げているEva Cassidyが2曲収録されて主役の役を果たしているが、この米国女性ジャズ・ピアニストにしてヴォーカリストのカーリン・アリソンKarryn Allysonmも登場。そこで実は気にはしていたが、私は欧州系に寄ってしまうために、これまでアルバムをしっかり聴くということなしで来てしまった。しかしなんとなく気になっていて、この秋にアプローチしてみようと思ったのである。

  そこで、あらためて1963年生れのカ-リンの私の好きなバラード調のアルバムに焦点を当てて、この秋向きに2枚のアルバムを仕入れた次第。それは、2001年の『BALLADS』と、2011年の『Round Midnight』である。

 <Jazz>
KARRIN ALLYSON  「BALLADS-Remembering John Coltrane」
Concord Jazz / USA /  CCD-4950-2 / 2003

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Karrin Allyson : Vocals, Piano
James Williams : Piano
John Patitucci : Bass
Lewis Nash : Drums
Bob Berg : Tenor Sax
Lames Carter : Tenor Sax
Steve Wilson Soprano Sax

71tsoackrml_ac_sl850  彼女は1963年生れであるが、丁度30歳の1993年から何枚かジャズ・ヴォーカル・アルバムをリリースしていて、なんと30歳後半に恐れ多くも7枚目のアルバムにおいて、ジョン・コルトレーンに挑戦しているのだ。
  彼女はピアニストであるからして、そのあたりの流れは知るよしも無いが、ライナーに"何年も愛してきたジョン・コルトレーン"と記していることより、彼の演ずるジャズに惚れ込んでいたんでしょうね。とにかくJohn Coltrane の代表作『Ballads』( 1963 →)を、このアルバムでそっくり彼女のヴォーカルで演じきっているのである。

(Tracklist)

1. Say It (over And Over Again)
2. You Don't Know What Love Is
3. Too Young To Go Steady
4. All Or Nothing At All
5. I wish I Knew
6. What's New
7. It's Easy To Remember
8. Nancy (With The Laughing Face)
9. Naima
10. Why was I Born ?
11. Everytime We Say Goodbye

 このように、M1-M8 までコルトレーンのアルバムと完全に曲順も同じに演じきった。ピアノ演奏はここでは彼女はM5.の一曲のみで、他はJames Williamsがピアノ・トリオのパターンで演じ、それにSaxが加わる。
 とにかく彼女はヴォーカルに専念し、力んで気負っていることも無く例のハスキーがかった声で、当時のまだ若き年齢を考えると深みのある心を寄り添っての歌に驚きだ。全体に明るいジャズでなくバラードでやや暗めの線を行くも、なかなかの表現力があって聴き応えは十分。なにせコルトレーンですからサックスのウェイトが気になるが、彼女のヴォーカル以上の位置には出ずに、本来のコルトレーン・パターンとは異なった世界を築いていることは、むしろ好感が持てる。
   冒頭のM1."Say It"から、サックスとデュオのパターンで進行して、この女性ヴォーカルを生かしたパターンはそれなりに花があり、こうしたこのアルバム造りはスタートから面白いと感ずる。ジャズ・アルバムはスタンダードが人気があるのは、曲だけを聴くのでなく、その演奏者の解釈と演者自身の魅力を味わうところにあるのであって、ここまで徹底して自己のジャズ世界で、トリビュート・アルバムを作り上げた意欲に脱帽する。M5."I wish I Knew"はサックス抜きの彼女のピアノ・トリオで演じたことにその意欲が表れているところだ。又M7."It's Easy to Remember"のようにピアノ主体のバックで、アカペラに近いところも聴き応えあり。
 全体に決して軽さの無い深みのある女性ヴォーカル・アルバムに仕上げてくれたことに私は寧ろ大きく評価したい。

        - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

 <Jazz>
KARRIN ALLYSON 「'ROUND MIDNIGHT」
Concord / US / CJA-32662-02 / 2011

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Karrin Allyson: vocals, Piano, Fender Rhodes
Rod Fleeman: guitar
Bob Sheppard: woodwinds
Randy Weinstein: harmonica
Ed Howard: bass
Matt Wilson: drums

  カーリン・アリソンのアルバムとして、実は今回はこっちが本命でした。彼女のバラード調のヴォーカルがこうしてスタンダードを如何に個性を発揮しつつも聴かせてくれるかというところに評価のポイントをおいていたんです。このアルバムは上の『BALLADS』から約10年後の50歳直前の円熟期ですから、もう頂点に近い状況でジャズを如何に歌い込んでいるか興味津々であった。

Allysonkarrinbb (Tracklist)

1. Turn Out the Stars (Bill Evans-Gene Less)
2. April Come She Will (Paul Simon)
3. Goodbye (Gordon Jenkins)
4. I'm Always Chasing Rainbows (Harry Carroll-Joseph McCarthy)
5. Spring Can Really Hang You Up the Most (Fran Landesman-Tommy Wolf)
6. Smile (Charlie Chaplin)
7. Sophisticated Lady (Duke Ellington-Irving Mills-Mitchell Parish)
8. There's No Such Thing As Love (Ian Fraser-Anthony Newley)
9. The Shadow of Your Smile (Johnny Mandel-Paul Francis Webster)
10. Send In the Clowns (Stephen Sondheim)
11. 'Round Midnight (Thelonious Monk-Cootie Williams-Bernard Hanighen)

  このアルバムでは、彼女のピアノを中心としたベース、ドラムスのトリオがバック演奏だ。そして曲によりギター、サックス、ハーモニカが加わるパターン。
 曲は聴き慣れたスタンダードが中心で、彼女のジャズ・ミュージシャン活動の真髄を集めたようなプロのアルバムであり、彼女の評価には十分な代物だ。
 
 やはり持ち前の米国には珍しいやや陰影のある中に、情感豊かにして曲の描く世界を十分に歌い込んでいる。
 驚きはM1."Turn Out the Stars"はジャズで、M2."April Come She Will "はフォーク調と、その変化も自在である。
 M3."Goodbye "のポピュラー・ナンバーが良いですね、低音の深く厚い歌声の魅力を発揮。
 M5."Spring Can Really Hang You Up the Most"の語りかけるように歌い上げ、ジャズとしては美しさを強調して聴かせる。
 M6."Smile" 彼女の得意のレパートリーの一つ、ピアノが美しく、編曲をこらしてゆっくりじっくり歌い込む。途中のハーモニカは不要か。
 M7."Sophisticated Lady"は彼女の思い入れが感ずるし、M9."The Shadow of Your Smile "これは私の好きな"いそしぎ"ですね、alto FluteとAcoustic Guitarの演奏の中で、ゆったりとしっとりと歌い込んでナイスです。
   M.10."Send In the Clowns"ギターとともに静かさが描かれていいですね。M11." 'Round Midnight"はアルバム・タイトル曲で、夜の静かさと寂しさをベースとの語るようにしっとり歌うところも魅力的。

 哀愁を帯びたハスキー・ヴォイスと曲の内容によって変幻自在の歌声が彼女の魅力でしょうね。つまり上手いのである。私自身の女性ヴォーカルに求める声質とは残念ながら若干異なってはいるが、ジャズ心の質によってそれは十分カヴァーしている。スローなバラード調は彼女の得意の世界でしょうね、従って、私にとっては、ちょっと何時も流しておきたいアルバムとなっている。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌  88/100
□ 録音       85/100

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(参考)

<Karrin Allyson Discography>

I Didn't Know About You (Concord Jazz, 1993)
Sweet Home Cookin' (Concord Jazz, 1994)
Azure-Té (Concord Jazz, 1995)
Collage (Concord Jazz, 1996)
Daydream (Concord Jazz, 1997)
From Paris to Rio (Concord, 1999)
Ballads: Remembering John Coltrane (Concord Jazz, 2001)
Yuletide Hideaway (Kas, 2001)
In Blue (Concord Jazz, 2002)
Wild for You (Concord, 2004)
Footprints (Concord Jazz, 2006)
Imagina: Songs of Brasil (Concord Jazz, 2008)
'Round Midnight (Concord Jazz, 2011)
Many a New Day: Karrin Allyson Sings Rodgers & Hammerstein (Motema, 2015)
Some of That Sunshine (Kas, 2018)
Shoulder to Shoulder: A Centennial Tribute to Women's Suffrage, as The Karrin Allyson Sextet (eOne Music, 2019)

(参考試聴)

 

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2020年11月 2日 (月)

マイケル・ベック・トリオ michael beck trio 「michael beck trio」

淡々としていてスリリングな新世界を探求する若き叙情派トリオ

マイケル・ベック・トリオ MICHAEL BECK TRIO

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  今年リリースされた寺島靖国の「Jazz for Audio Fans Only Vol.13」に収められた中で、少々気になったトリオがあったので、アルバムを探して取り寄せてみた。それがこのスイスのマイケル・ベック・トリオ Michael Beck Trioである。それが目下2枚のアルバムのみに行き着いたのだが、両者2003、2005年リリースもので15年以上前のものであった。
  そもそもは寺島靖国には、おそらくベースとドラムスのリアルな音からスタートしてピアノの淡々とした演奏が気に入られたのであろうと推測するが、特に選ばれた曲"928"は、スタートから澄んだ繊細なシンバル音が響いてくることが重要であったと思われる。私もドラムス、ベースの協演は好きで、寺島靖国の言うところのトランペット、サックスが共に鳴り響くものはちょっとゴメンというところにあり、そこも納得してこのアルバムを手にすることにした。

 しかし、若きこれほどのトリオが何故、その後15年間もアルバムが見当たらないのも不思議である(探せばあるのだろうか)。そんな事を考えながら聴いた2枚のアルバムを紹介する。

 

<Jazz>

█ michael beck trio 「michael beck trio」
  SOUNDHILLS / IMPORT / FSCD2025 / 2003

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michael beck (p)
bänz oester (b)
samuel roher (ds)

Recorded at Radio DRS Zurich, Switzerland, February12-13, 2000

(Trackjlist)
01. Loose Ends *
02. 928 *
03. Poin Turnagain * 
04. Farewell
05. The Theme Of The Defeat
06. Open Doors
07. Three Men In A Boat * 
08. Everything I Love
09. Detour Ahead
10. Loose Ends (alt. take) *

 10曲のうち(*印)5曲はピアニストのマイケル・ベックの曲で、彼がリーダーと思われるが、スイス・ベルンに1968年に生まれていて、もともとはベルン大学で物理学と数学を専攻していたのだが、幼少期からクラシックのピアノを学んでいたこともあって、その後スイス・ジャズ・スクールに転学したという。ここでジョー・ハイダーの弟子となった。1992年にはウンブリア・ジャズ祭で入賞。奨学金を得て1994年から1997年までバークリー音楽院へ留学している。このアルバムは2000年の録音で、彼の32歳の作品である。
 淡々としたタッチで演じられるピアノ、そしてベース、ドラムとの三位一体となってのインプロヴィゼーション。この流れがなんとしても新時代タッチで、私が重要視するテンポ・ルバート奏法が洗練されていて、そのタイム感にどこか美しさがかんじられるところが味噌のように感じられる。
 そして時には、アヴァンギャルドな展開も加味して、究極は叙情派の流れを展開するところがいいですね。このアルバム、全編を通じて美事である。
 渡米中に映画音楽の作編曲を学んでいたこともあったようで、メロディアスで甘美さが見えるところも私好み。

       ~~~~~~~~~~~

█ michael beck trio 「ANOTHER DAY」
  Mons Records / IMPORT / MR874411 / 2005

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Michael Beck(p)
Thomas Dürst(b)
Samuel Rohrer(ds)

Prodused for DRS2 by Peter Burli
Recorded Martin Pearson

(Tracklist)
1.Another Day
2.Rubato
3.Subsistence
4.Wind Dreams
5.Topic
6.Tune 101
7.Incubo
8.Otherwise
9.Dove
10.Rubato 2
11.Swing Sketch

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  数年後のこちらのアルバムは、ベースが変わってのトリオですね。今作は全曲ピアニスト・マイケル・ベックのオリジナルだ。
 冒頭から美しいピアノの調べ、そして繊細にして響くスティック、ドラムスの音、確かに録音も優れている。やっぱり、旋律はヨーロッパ的で、リリカルでいて、しかもしつこさが無く淡々と進行し、ベースとドラムスとの交錯インプロヴィゼーションが、なかなか近代的である。テンポは主体はミディアムで聴きやすい。なかなか例のルバードが有効に迫ってくる。そこにはかなり計算ずくの世界であろうと思うが、洗練された世界を印象づける。
  M2."Rubato"では、ベースのアルコ奏法をバックに、ピアノとスティック、シンバルを主体としたドラムスとの交錯には、近代性とクラシック奏法の美をも感ずる。
   M7."INCUBO"は、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれ分離良く繊細に美しく録音されていてオーディオ・ファンにはたまらない曲。「ジャズは音で聴け」という寺島靖国の言葉が頭に浮かんでしまった。    
 とにかく全編に漲る淡々としたピアノの物語にふけってしまう世界である。
   
 このトリオの近況が解らないが、是非ともニュー・アルバムにたどり着きたいところである。寺島靖国の努力に期待するところだ。
   

(評価)
□ 曲・演奏   90/100
□ 録音     90/100

(参考視聴)

 

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2020年10月 1日 (木)

カーステン・ダール Carsten Dahl Trinity 「painting music」

哀愁と美と・・・そして先鋭的な世界と

<Jazz>

Carsten Dahl Trinity 「painting music」
ACT Music / 9891-2 / 2019

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Carsten Dahl (p)
Nils Bo Davidsen (b)
Stefan Pasborg (ds)

Recorded in 2019 at Rainbow Studio, Oslo

Carstendahl900  デンマークを代表するピアニストのカーステン・ダール(→)は、所謂ジャズの本道をゆくスウィンギーな演奏で結構人気があったのだが、私自身はユーロ系ジャズには、特にピアノトリオとなれば叙情性を描くところを求める事が多く、これまでのめり込むことが無かった。しかし先日紹介の寺島靖国のアルバム『For Jazz Audio Fans Only  Vol.13』に取上げられた曲"Sailing With No Wind"が魅力的で、昨年リリースされたこのアルバムを聴くことになったという経過。
  彼は1967年生れだから55歳ぐらいというところだろうか、もうミュージシャンとしてのキャリアも25年以上もあって丁度円熟したよい年齢だ。しかしその人生の過程において幼少期からメンタルな問題の多難な状況があったようで、次第に変化し現在は内面的な世界も描くようになってきているようである。そのあたりが私が注目することになった点であろう。
 又、絵画的才能も素晴らしく、このアルバムでもカバー・アート、そして作品を登場させている。

 

(Tracklist)

1.Sailing With No Wind (Dahl, Davidsen & Pasborg) (5:33)
2.All The Things You Are (Jerome Kern) (6:07)
3.Somewhere Over The Rainbow (Harold Arlen) (6:43)
4.Jeg gik mig ud en sommerdag (Danish folk song) (4:18)
5.Bluesy In Different Ways (Dahl, Davidsen & Pasborg) (4:11)
6.Solar (Miles Davis) (2:43)
7.Be My Love (Nicholas Brodszky) (8:22)
8.You And The Night And The Music (Arthur Schwartz) (5:08)
9.Blue In Green (Miles Davis) (4:48)
10.Autumn Leaves (Joseph Kosma) (6:30)

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 冒頭のM1."Sailing With No Wind"が私が興味を持った曲だが、彼のピアノの響きに叙情性ある哀愁感も感じられる演奏が魅力がある。とにかく優しさの溢ふるる美旋律が留めなく流れる。どこかキース・ジャレットを思い起こすような展開をみせて、なんと彼のうなりというよりはむしろ歌に近い声も入ってくる。
 M2."All The Things You Are "は本領発揮のピアノの先鋭的なタッチにベース、ドラムスも踊る。
 なんと聴き慣れたM3."Somewhere Over The Rainbow "も登場、どこかしっとりとしかも思索的に流れるのにビックリ。
 M4."Jeg gik mig ud en sommerdag "はデンマークのフォークソング、これが又美しい。
   この他の曲はスタンダードのオンパレードで楽しませる。
 M6."Solar"のようにアップテンポで演じきるところもある。 
 M7."Be My Love"も、美しさと優しさとがピアノからベースにとやりとりし行くところが感動的。
 M8."You And The Night And The Music "がここまで超高速プレイで演じられるのも聴きどころ。
 M9."Blue In Green"これも良いのだが、ダールの歌は要らない。
 M10."Autumn Leaves"これが"枯葉"かと・・・思うところが凄い。ここまで攻撃とも言える編曲とインプロヴィゼーション演ずるのも珍しいが、それが又様になっていて、彼らの本質がここにありと言わんばかりである。シンバルが刺激的に響き速攻演奏でバトルを演ずるピアノとベース。まさに驚きの一曲。

 とにかくここに聴くカーステン・ダールのプレイは、これぞプロという世界。キース・ジャレットの世界にも一脈通ずるところがあると感ずるが、ヨーロッパ的叙情性と思索世界も見せながらの攻撃的な速攻演奏との微妙なバランスの素晴らしいアルバムだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏   95/100
□ 録音         90/100

(視聴)

 

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2020年9月26日 (土)

寺島靖国プレゼント「For Jazz Audio Fans Only Vol.13」

「ジャズは音で聴け」の世界は今年はどう変わってきたか・・・・

<Jazz>

 Yasukuni Terashima Presents
「For Jazz Audio Fans Only Vol.13」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1092 / 2020

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  今年も、無事寺島靖国氏の企画によるこのアルバムがリリースされた、13卷目だ。注目される好演奏、好録音盤を取上げ年に一回のリリースであるので、なんと今年でもう13年と言うことですね。オーディオ・ファンでもある私は、おかげで過去の全アルバムを聴いて楽しんでいる。
 恐らく今年のこのアルバムには、私の聴いているのは何か必ず取上げられるだろうと高を踏んでいましたが、なんと全13曲今年までに聴いてきたアルバムが無く完全に肩すかしでした。このあたりが、一般的な世界で無く、オーソドックスでない、にもかかわらず納得の好演奏を紹介してくれるのでありがたいと言う処なんです。

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 「ジャズは音で聴け」と豪語している彼の世界、中心は私の好きなピアノ・トリオだ。ところがこのところステファノ・アメリオの影響もあってか、低音とシンバルの強力エネルギー溢れるサウンドから、曲の質とその描く内容によっての音場型サウンドへと好みがシフトしつつあることを訴えている寺島靖国。 どんな選曲をしてくるか、ちょっと楽しみというか、期待というか、そんなところでこのアルバムを聴くのである。

(Tracklist)

1. The Song Is You 〔Christoph Spendel Trio〕
2. I Love You So Much It Hurts 〔Han Bennink / Michiel Borstlap / Ernst Glerum〕
3. Cancer 〔Allan Browne Trio〕
4. New Life And Other Beginnings 〔Aki Rissanen〕
5. Sailing With No Wind 〔Carsten Dahl Trinity〕
6. Counter 〔Floris Kappeyne Trio〕
7. Ammedea 〔Pablo Held Trio〕
8. Flight of the Humble 3 〔Robert Rook Trio〕
9. 928 〔Michael Beck Trio〕
10.Mistral 〔Peter James Trio〕
11.Get Out Of Town 〔Stevens, Siegel And Ferguson Trio〕
12.The Day You Said Goodbye 〔Larry Willis Trio〕
13.Don't Let The Sun Catch You Crying 〔Lafayette Harris Jr.〕
()内は演奏者

 こうしてみると、いやはやここに登場するは日本におけるポピュラーな演奏者は少ないというか、私はあまり知らないのであって、探求心、研究心のなさを思い知らされた。
 従って今回のアルバムは私にとっては非常に貴重だ。取上げた曲の全てのアルバムを聴きたい衝動に駆られる。

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 中でもやっぱり曲の良さからは、M1."The Song Is You "、M5."Sailing With No Wind "は興味ありますね。M1は、ポーランド生れのピアニストで、この曲を聴く限りでは、ジャズの中では刺激の無いむしろメロディー重視にも聴こえるが、エレクトロベースが面白い味付けで是非この曲を収録したアルバム『Harlem Nocturne』(BLUE FLAME)(上左)を聴きたいと思った。又M5.はジャズ名演といったタイプで、なかなか叙情もあって素晴らしい。このピアニストのカーステン・ダールはデンマーク生れのベテランで、私は唯一このピアニストは知ってはいるが、未熟にも彼のこのアルバムにはアプローチしてなかったので、美しいピアノの調べのこの曲を収録しているアルバム『Painting Music』(ACT Music)(上中央)は早速聴くことにする。
   そしてM9."928"(Michael Beck Trio)のベースとドラムスの迫力録音が聴きどころ。このマイケル・ベックも名前は聞いたことがある程度で今まで白紙状態であったため興味がある。更にM12."The Day You said Goodbye"がジャズの真髄を演ずるが如きのベースとブラッシが前面に出てきて、そこにピアノを中心とした流れがゆったりとしていて素晴らしい。このアルバム『The Big Push』(HighNote Records)(上右)を是非入手したいと思ったところだ。

 この寺島靖国のシリーズは、演奏は勿論無視しているわけでは無いが、所謂オーディオ・サウンドを重視し、その録音スタイルに深くアプローチしていてライナー・ノーツもその点の話が主体だ。それを見ても如何にサウンド重視がこのアルバムの目的であることが解るが、昔からシンバルの音の重要性の語りが彼の独壇場だ。そしてベース、ピアノの音質と配置などに、かなり興味と重要性を主張している。そんな点も私もこのアルバムに関しては、やはり興味深く聴いたのだった。

  今回は、先ずこのリリースされたアルバムの紹介程度にしておいて、ここに登場したアルバムを入手し聴いて、次回からそのアルバムの感想をここに紹介したいと思っている。

(評価)
選曲  90/100
録音  90/100

(参考視聴)  Carsten Dahl Trinityの演奏

 

 

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2020年9月18日 (金)

レイス・デムス・ウィルトゲン REIS DEMUTH WILTGEN  「sly」

若きトリオが、ヨーロッパ・ジャズの一つの最新形を目指して・・・
ステファノ・アメリオの録音とミキシングも聴きどころ


<Jazz>

REIS DEMUTH WILTGEN  「sly」
CamJazz /  /  MOCLD-1037 /  2020

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Michel Reis (p)
Marc Demuth (b)
Paul Wiltgen (ds)

Recording and Mixing engineer Stefano Amerio 

  ルクセンブルグの若きピアニストのミシェル・レイスは日本での活動は活発で、石若駿をレギュラーメンバーにした彼の他は日本人ミュージシャンのみからなる「ミシェル・レイス・ジャパン・カルテット」で知られる。  この5月に彼のソロ・アルバム『SHORT STORIES』をここで取上げたのだが、あのリリカルな世界が印象的である。
 さて、そのレイスは自国においては、高校時代の同窓のメンバーとトリオ「レイス・デムス・ウィルトゲン」を組んで、既に2013年にデビュー作品をリリースしているのだが、そのトリオが現在までがっちり続いていて、今年第4作を発表したのである。それがこの『sly』である。
 このアルバムはかなり彼らのレクセンブルグを意識したもので、ルクセンブルグの詩人の風物詩「ルナール」というものをテーマにしていて、その「ルナール」というのは狐を指すらしい。それがこのアルバム・タイトル「スライsly」ということになり、その意味は"ずる賢い"と言うことのようだ。
 とにかく、この若きトリオが描く新世代ジャズにアプローチしてみたのであるが、こうしたものがヨーロッパ・ジャズの一つの最新形なのかと聴いた次第だ。

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1. Snowdrop #
2. No Storm Lasts Forever *
3. If You Remember Me *
4. Fantastic Mr. Fox #
5. Silhouettes On The Kuranda *
6. Viral #
7. Diary Of An Unfettered Mind *
8. Let Me Sing For You *
9. Venerdì Al Bacio *
10. Nanaimo *
11. The Last We Spoke #
12. The Rebellion 
13. Home Is Nearby #

(*印:Michel Reis 、#印:Paul Wiltgen)

 どちらかというと、そう長くない、短い曲も含めて上のように13曲。レイスReisの曲が7曲、ドラマーのWiltgenの曲が5曲、ベーシストのDemuthの曲が1曲という彼らのオリジナル曲だ。

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 いっやーしかし、この若きトリオの演ずるところはリアル・ジャズとヨーロッパ美学の結合なんですね。
 私は前半6曲は取り付くところが無いくらい異様なアヴァンギャルドな世界だ。印象はドラムスのパンチ力で録音も前面に出てきてバンバンアタックしてくるリアル・ジャズの印象。これらの曲はルクセンブルグの世界観とフリー・ジャズでの叙情詩と行ったところか、私がついて行くには少々厳しい。
 ようやく、心を引かれてのめり込めるのは、主としてミシェル・レイスの曲M7."Diary Of An Unfettered Mind"からで、M.11"The Last We Spoke"までの4曲で、あくまでも私の感覚としての素晴らしさだ。近代感覚あふるる中に美旋律そして叙情を漂よらせて非常に魅力的。
 このアルバムケの前半に評価を持って行く人もいるのではと思うが、私の場合はついて行くのが難儀だった。
 彼らは、彼ら自身のオリジナル曲に固執しているようで、その作曲演奏に自己の世界観を描こうとしている。
 若きトリオが、ヨーロッパの叙情を加味しつつ、リアル・ジャズ、フリー・ジャズ、そしてアヴァンギャルドな世界への挑戦として演ずるところは、注目すべき作品だ。

 そして録音がイタリアの名手ステファノ・アメリオということで注目してみたが、彼は曲を十分意識しての世界観のある音と音場を作り上げるのだが、このアルバムは過去のよく聴いた叙情的美しさを描き挙げるものと異なって、ちょっと驚きのリアル・サウンドを追求している。彼のこのような仕上げは珍しく貴重。そんなところからも、このトリオの演ずるところが窺えるところだ。

(評価)
□ 曲・演奏   85/100
□ 録音     90/100

(参考視聴)  このトリオのライブ模様

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2020年8月29日 (土)

エリチン・シリノフ Elchin Shirinov Trio 「Waiting」

民族性の高いエキゾチックな中のスピリチャルなプレイ

<Jazz>

Elchin Shirinov Trio 「Waiting」
SOMETHIN'COOL / JPN /  SCOL-1040 / 2020

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Elchin Shirinov (piano)
Andrea Di Biase (double bass)
Dave Hamblett (drums)

 

  ベースのリーダであるアヴィシャイ・コーエン・トリオの近作アルバム『Arvoles』(RAZDAZ Records / RD4619/2019)のピアニストとして注目さたアゼルバイジャン出身のピアニスト:エルチン・シリノフ(1982年生れ)の彼名義のトリオ作品の日本盤の登場。
 アヴィシャイ・コーエンはイスラエルのミュージシャンで私はどちらかというとファンである。それはイスラエル由来の哀愁漂う美旋律が魅力。そのムードに惹かれてトリオ演奏が好きなのだが、実は彼のこの近作『Arvoles』は、ちょっと民族色が強くなって、それ以前の作品と少々異質になったもので、あまり諸手を挙げて歓迎出来なかったアルバムだった。それでもこのアルバムのピアニストが、自己名義ではどのような世界を構築していたのかというところは興味津々であった。

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 本盤は、トリオによる配信オンリーだった2018年作品で、CD版はエルチン・シリノフ本人の自主製作によるライヴ会場での手売りのみであったという。そんな一般流通はしていなかったものの日本国内盤CD化したもの。アゼルバイシャンというのは、旧ソ連に属していた国であるが、ソ連解体後アルメニアとの民族紛争を経て現在共和国として独立していて、カスピ海に接して居入るが、東ヨーッパとしても存在している。天然資源の油田が産業の核で、日本も経済協力をしており親日国。

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(Tracklist)

1. Sara Gellin
2. Waiting*
3. Durna
4. Missing*
5. Waltz From Seven Beauties Ballet
6. Muse*
7. O Olmasin Bu Olsun

(*印: シリノフのオリジナル曲)

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 トリオのベース、ドラムスはロンドンからの迎えてのメンバー。彼は英国との関係が深く、おそらく現在もロンドン在住と思われる。このアルバムはシリノフの過去の活動からの集大成として作られたモノとみてよい。そんなところからも彼を知るにはよいアルバムだ。

 先ずの特色は、M1."Sara Gellin" 、M3."Durna"のように、アゼルヴァイジャンの民謡を取上げていて、民族音楽の性質が濃い。この点はアヴィシャイ・コーエンの『Alvores』と似ている。なかなかそこにはエキゾティックなトラディッショナルのフォーキーな民族舞踏と云うべき趣を醸し出す。そしてリズムは非常にバライティーに富んでの複雑な面を持っている。そのあたりは聴いていてちょっと目(耳)を離せない。
 しかしこのアルバムでは彼のオリジナルが三曲あるが、M4."Missing"が最も民族的世界から離れての、美旋律が顔が出すしっとりムードの曲で、私にとっては一番聴くに気持ちの良い曲であった。

 Elchinhometrw 彼のこのようなアゼルヴァイジャンのジャズをムガームジャズと言うらしいが、このエキゾチックさが新鮮で、しかもそこに聴き慣れないテクニックが異国情緒たっぷりの中のアドリブとして攻めてくるところがスリリングであり、それと同時に民族的哀感が同席していて、如何にも聴く方にとっては新鮮なんですね。

 しかし私個人的には、ちょっとこの方向には馴染めないところがあって、若干複雑な気持ちである。あまり無理して聴くこともないので、M4あたりで納得しておこうと思うのである。

(参考) ムガームジャズ(Mugham Jazz, Azerbaijani Jazz)とは、ペルシャの古典音楽をルーツとする独特の旋法が特徴的なアゼルバイジャンの民俗音楽であるムガームと、アメリカ生まれの即興音楽ジャズが、1960年代頃より東欧一のジャズの都として栄えたバクーにて融合し生まれた音楽のジャンル。

 

(評価)
□ 曲・演奏   80/100
□ 録音     75/100

(視聴)

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2020年8月24日 (月)

マッシモ・ファラオ・トリオ Massimo Faraò Trio 「Like An Elegant Wine」

ストリングス・オーケストラをバックに、あくまでも優雅に美しく


<Jazz>

Massimo Faraò Trio, Accademia Arrigoni's Strings Orchestra
「Like An Elegant Wine エレガントなワインのように」
VENUS RECORDS / JPN / VHCD-1278 / 2020

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マッシモ・ファラオ MASSIMO FARAO (piano)
ニコラ・バルボン NICOLA BARBON (bass)
ボボ・ファッキネネィック BOBO FACCHINETTI (drums)

with Accademia Arrigoni's Strings Orchestra
Conducted by Bill Cunliffe

2020年2月15日,16日 Magister Recording Area Studios,Preganziol,Italy 録音
Sound Engineers Andrea Valfre’ and Alessandro Taricco
Mixed and Mastered by Tetsuo Hara
Produced by Tetsuo Hara

  このところ Venus Records の看板になりつつあるあのイタリアのピアニスト・マッシモ・ファラオ( 1965- )が、とにかく美しく優美にと、繊細にしてメロデックな演奏を、ストリングス・オーケストラをバックに優しく演ずるアルバムの登場。

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(Tracklist)

1.ラブ・ケイム・オン・スティールシー・フィンガース
2.Io Che Amo Solo Te 君だけを愛して
3.オールダー・マン・イズ・ライク・アン・エレガント・ワイン
4.Days Of Wine And Roses 酒とバラの日々
5.ホエン・サマー・カムズ
6.ニアネス・オブ・ユー
7.ティズ・オータム
8.イージー・リビング
9.スプリング・ウィル・ビー・ア・リトル・レイト・ディス・イヤー

 とにかく全編優美なストリングス・オーケストラとマッシモ・ファラオ・トリオが輪をかけて優美に演奏するアルバム。そんな訳でジャズ感覚は少なく、ポピュラー・ミュージック感覚で聴いてゆくアルバムだ。
 とにかく、あのジャズの'50-'60年代の典型的なハード・バッブ・スタイルを継承するがごとくのマッシモ・ファラオのピアノ演奏も、ここではただただメロディーの美しさに絞っての演奏である。そんなために曲M1、M2、M3と、私には殆ど同じ曲の流れかと思うぐらいに変化は無くただただ美しいのである。
 M4."酒とバラの日々" になってヘンリー・マンシーニーの耳慣れた曲が現れて、成る程こんな具合に仕上げるのかと、その優美さの引き出しに納得してしまうのだ。続くM5."When Summer Comes" なんかは、オスカー・ピータンソンの美的ピアノを更に美しくといった世界に溺れてしまう。
 その後も、全く変化無しに映画音楽などを取上げて、全編ピアノの音も美しく、ベース、ドラムス陣もこれといっての特徴も出すところもなくストリナグスに押されて流れて言ってしまう。
 時には、こうした疲れないバックグラウンド・ミュージック的な世界も良いのかなぁーと思いながら聴いてしまったアルバムだった。それにしても途中で一つぐらいは暴れて欲しかったが、いやいやそれをしないで通したマッシモに取り敢えず敬意を表しておく。

(評価)
□ 演奏 :    85/100
□   録音 :    85/100

(視聴)    関連映像がないので・・・参考までにトリオ演奏を

 

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2020年8月15日 (土)

ダーリオ・カルノヴァーレDario Carnovale 「I Remember You」

絶妙のスウィング感でバランスのとれた緩急メリハリある抒情派作品

<Jazz>

Dario Carnovale / Alfred Kramer / Lorenzo Conte 
「I Remember You」
FONE / EU / SACD173 / 2019

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Dario Carnovale ダーリオ・カルノヴァーレ (piano)
Lorenzo Conte ロレンツォ・コンテ (bass except 4)
Alfred Kramer アルフレッド・クラーマー (drums except 4)

2016年10月イタリア-イル・カステッロ、セミフォンテ・スコト宮殿(の地下)録音

  イタリアはシチリアの州都パレルモは数年前に訪れたことのある懐かしい美しい街だが、ここはシチリア島の玄関口と交通の要所ということで、なかなかの大都市。しかも教会や宮殿が立派で、ギリシャ、アラブ、フランス、スペインなどが混じりあっての独特の文化が生まれている。更に余談だが、ここのマッシモ劇場は、映画「ゴッド・ファーザー」で有名になったところ。
Dc3    このパレルモ出身の俊英ピアニストに、ダーリオ・カルノヴァーレ (→) がいて、彼のピアノ・トリオ作品を一度しっかり聴きたいと思っていた時に、このSACD盤が目に留まり早速聴いてみたというところだ。高音質に定評のあるイタリア「foneレーベル」のセミフォンテ・スコト宮殿地下録音プロジェクトの一つとして2016年10月に吹き込まれ、2019年にリリースされたアルバムである。
 このカルノヴァーレは、2年ほど前にイタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州に活動の拠点を移しているそうだが、そんな彼が、高音質レーベルで知られるFone Jazzに、アルフレッド・クラマー(ds)、ロレンツォ・コンテ(b)というトリオでスタンダード中心に録音したスペシャル・セッション版である。

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(Tracklist)

1. I Remember You (Victor Schertzinger) 5:41
2. Madrigale (Carnovale) 4:00
3. I'll Close My Eyes (Reid - Kaie) 7:38
4. Alone (Carnovale) 2:25 (solo piano)
5. What Is This Thing Called Love (Cole Porter) 5:55
6. Emersion (Carnovale) 8:19
7. Ckc (Carnovale - Conte - Kramer) 6:27

Lc1_20200814212401  しかし、メロディアスにしてスインギーな展開にアドリブの効いた流れ、そして時々適度にイタリア独特の美旋律が流れ、しかし時にハードなダイナミックな展開と多彩多芸。特にM4."Alone"のカルノヴァーレのピアノ・ソロでは、やや前衛がかったオルタナティブな世界も見せる。
 私にとっては、なんと言ってもM3."I'll Close My Eyes" いわゆる美旋律のピアノを中心に描くピアノトリオの世界が、何と言えない心地よさだ。ベースそしてシンバルも手頃の余韻を持って響きそれは快適。落ち着いた夜にぴったり。
 しかし、その他の曲で、特にスタートのアルバム・タイトル曲M1."I Remember You"での、ここまで小気味のいい軽やかなスイング感を大切にしたリリカルなプレイを展開してみせるトリオも珍しい。これも彼らのキャリアの蓄積がそうさせるのであろうと思うが、力みの無い洗練された技巧派ジャズなのである。この軽妙さはジャズ心の極致である。
Ak2  M5."What Is This Thing Called Love"、これはドラムスの疾走から始まって迫真のインタープレイの展開、とにかく息詰まるスリル感たっぷりの生々しい演奏は凄絶で圧巻。この三人はこれをやらずには納まらないと言ったところか。
 M6."Emersion"のそれぞれの世界をそれぞれがアクロバティックに流れてゆき、そして演じてゆくうちにトリオとしての交錯そして統一感への世界は面白い。美的という処からは別物だが、これが又このトリオの味なのかも知れない。
 そして続く終曲 M7."CKC"は三者による作品。この"CKC"とは何かと思ったら、どうやら三人の頭文字だ。この曲には三者がクレジットされている。それは緻密に静とその世界の神秘性にも迫る情景に納得。そして次第に現実の世界に目覚めさせる。

 又、音質も極めて自然な録音で、さすがはFONE JAZZだけあってその心意気はSACD盤としてリリースされている。これは派手さで無く自然体を追った録音と行って良い。むしろかってのアナログのLP時代を思い起こさせる。
 とにかくトリオ・ジャズの楽しさ満載のアルバムであった。

(評価)
□ 曲・演奏   90/100
□ 録音     90/100

(参考視聴)

 

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