ピアノ・トリオ

2020年3月 5日 (木)

寺村容子YOKO TERAMURA & 山中千尋 CHIHIRO YAMANAKAのピアノ・トリオ対決

日本女性ピアニスト・ジャズにちょっと耳を
まさに対照的なジャズ・ピアノ・トリオ世界

 

 日本女性ジャズ・ピアニストの寺村容子と山中千尋を取り上げる。たまたま昨年ニュー・アルバムを両者リリースしていて、ただし私はここで取り上げてこなかったのだが、なんと今年の「ジャズ批評」214号のジャズ・オーディオ・ディスク大賞に銀賞と7位に入っていたので、ちょっと感想を書いておきたくなった。

 

<Jazz>
YOKO TERAMURA TRIO 「GRACEFUL TOUCH」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1084 / 2019

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寺村容子(ピアノ)
新岡 誠(ベース)
鳥山 悠(ドラムス)

Yokot (Tracklist)

1.No Problem 危険な関係のブルース (Duke Jordan)
2.Last Tango In Paris ラスト・タンゴ・イン・パリ (Gato Barbieri)
3.These Foolish Things ジーズ・フーリッシュ・シングス (Jack Strachey)
4.Who Wants To Live Forever リヴ・フォーエヴァー (Brian Harold May)
5.Graceful Touch グレイスフル・タッチ (Tord Gustavsen)
6.Children's Crusade チルドレンズ・クルセイド (Sting)
7.You Must Believe In Spring ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング (Michel Legrand)
8.Bay Walk ベイ・ウォーク (Yoko Teramura)
9.Left Alone レフト・アローン (Mal Waldron)
10.Wish Of The Ancients いにしえの願い (Yoko Teramura)

 寺島レコードが気合いを入れているどちらかというと美旋律ピアノを演ずる寺島容子の2019年リリース新作だ。私の場合どちらかというと録音が話題になったアルバム『TERAMURA YOKO MOODS』(TYR-1026)以来である。
  アルバム・タイトルが、あのトルド・グスタフセンの名曲"Graceful Touch"で、彼女はここでその曲のカヴァーを披露している。こんなところからも目指している方向が解ると言うところだが、なにせトルド・グスタフセンは哲学的深遠な世界に踏み込むという強者、これを描くにはまだ荷が重いと言わざるを得ない。このアルバムでは一番の聴きどころであり、しかし今後に期待で目指すことは悪くない。

 おそらくプロデューサー寺島靖国の方向性を描こうとしたところは、その録音からも解るところだ。なんと同一音源に二種類のマスタリングを行って、二枚組にしている。一枚は通常と思われるトリオのエネルギー・バランスで、もう一枚はピアノをやや引っ込めてドラムス、とベースが少し表に出てくる。私は後の方のタイプが良かったのですが、演奏よりもこんなオーディオ的遊びが出来る楽しいアルバムである。
 いずれにしてもバラード系演奏を聴かせてくれて私好みであるのだが、ならばもう少し情感のあるピアノタッチの強弱による描く世界が欲しいと思うところであった。まあ彼女もこれからなんでしょうね。録音にもよるのかも知れないが、音ばかりが表に訴えてくるアルバム。

                  - - - - - - - - -

<Jazz>
Chiro Yamanaka 「Del Tramonto」
UNIVERSAL MUSIC / JPN / UCCJ-2167 / 2019

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Chihiro Yamanaka : Piano, FenderRhodes, Hammond B-3 Organ

Yoshi Waki: Bass
John Davis: Drums
Vincente Archer: Bass
Damion Reid:Drums

録音年 2019年5月
録音場所 Boomtown Studio Brooklyn

Profile_3w (Tracklist)
1 ジェンナリーノ Gennarino (Chihiro Yamanaka)
2 パソリーニ Pasolini (Aldo Romano)
3 シンキング・オブ・ユー Thinking Of You (Chihiro Yamanaka)
4 ネヴァー Never (Chihiro Yamanaka)
5 チェロキー Cherokee (Ray Noble)
6 スイート・ラヴ・オブ・マイン Sweet Love Of Mine (Woody Shaw)
7 ルッキング・アップ Looking up (Micheal Petrucciani)
8 ブルー・マイナー Blue Minor (Sonny Clark)
9 ソリチュード〜C・ジャム・ブルーズ Solitude〜C jam blues (Chihiro Yamanaka / Duke Ellington)
10 プリマ・デル・トラモント Prima Del Tramonto (Chihiro Yamanaka)

 このアルバムは数多い山中千尋ピアノ・ジャズの最新作である。ブルーノート80周年記念作としての位置にもある。そして中身はソニー・クラークなどブルーノートの名曲をカバーし、フランスの障害を克服した最高のジャズ・ピアニストと評されていたミシェル・ペトルチアーニの没後20年にも焦点を合わせた作品を収録している。しかしそれでも主たるは彼女自身のオリジナル5曲が占めている。 リズムセクションは、ニューヨーク・トリオのレギュラーであるヨシ・ワキとジョン・デイビス。そして、ロバート・グラスパー・トリオのリズムセクションであるヴィセンテ・アーチャーとダミオン・リードという2組のリズムセクションとの共演もの。

 M1." Gennarino "は軽快なタッチでスタートし、M3."Thinking Of You"彼女の特技である転がるような打鍵さばきが惚れ惚れするほど見事である。
 M5."Cherokee"は、ドラムソロから始まり、疾走するベース、そして続くピアノの早引き、この流れはピアノ・トリオの醍醐味を地でゆき圧巻。確かに彼女の技量はハイレベル。
 M10."Prima Del Tramonto"はバラード調で聴きやすい流れ、しかしドラムスは疾走しており、後半は変調するという一筋縄ではゆかない。

 これは彼女の技量の高さをいやでも迫ってくるアルバムでジャズ古典的スタイルでの超絶技巧はナンバー1だ。しかし面白みという点ではやや欠けている。ニューヨークを拠点に活躍し、ボストンのバークリー大学の助教授という実力者だからこそ、彼女はもう一歩力まず余裕を持って新しい現代ジャズ手法に迫ってくれると面白いのだがと思う。又録音も一世代前の標準型で面白くない、寺島レコードのようなサウンドに挑戦があればアルバムの価値も上がろうとゆうところ。

(評価)

         (寺村容子)         (山中千尋)

□ 曲・演奏    75/100                    90/100
□ 録音      90/100              75/100

 

█ 日本女性ピアニストの二人のアルバムを並べてみたが、とにかく対照的。技量は圧倒的に山中千尋、アルバム作りは寺村容子というか寺島レコードに、というところで面白い対決となった。「ジャズ批評」の"ジャズオーディオ・ディスク大賞2019"の「インストゥルメンタル部門」では、寺村容子が銀賞、山中千尋が7位というところであった。やっぱりこの賞は演奏より録音にウェイトがあるのかなと、又は演奏の技量と深さより聴きやすさを選んだのかと思わせる、そんな結果であったが、これからも両者の奮闘に期待したい。

(試聴)

寺村容子

 

*

山中千尋

 

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2020年3月 1日 (日)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi 「COMMON VIEW」

オリジナル曲による創意の結晶といった流れ

<Jazz>

Enrico Pieranunzi  Jesper Somsen  Jorge Rossy
「COMMON VIEW」
CHALLENGE RECORDS / AUSTRIA / CR73459 / 2020

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Enrico Pieranunzi エンリコ・ピエラヌンツィ (piano)
Jasper Somsen イェスパー・サムセン (double bass)
Jorge Rossy ホルヘ・ロッシー (drums)
Recorded at MotorMusic, Mechelen(Belgium)
Recording dates : September 10 & 11,2018

 はっきり言ってこのアルバムも難物です。これは2018年の録音モノだが、エンリコ・ピェラヌンツィは近年この傾向にあることは解っての上でのアプローチであった。とにかくヨーロッパ叙情派ピアノの代名詞的彼であるが(1949年、ローマ生まれ)、このアルバムは極めて端麗なピアノ・タッチが聴かれるもハードにして軽快な転回をみせたり、美旋律を奏でるので無くトリオのそれぞれのアクセントを許容し協調してゆく妙を描く世界に専念していての曲作り。安易な叙情的美を求めるとしっぺ返しが来る。

 

Enricopieranunzi2w (Tracklist)

01. Falling From The Sky (JS)
02. Silk Threads  (JS)
03. Sofa  (JR)
04. Turn In The Path  (EP)
05. Love Waiting Endlessly (JS) 
06. Perspectives  (EP)
07. Instant Reveal I *
08. Who Knows About Tomorrow  (JR)
09. Instant Reveal II * 
10. Recuerdo  (JR)
11. Song For An August Evening (EP)

(JS):Jasper Somsen、(JR):Jorge Rossy 、(EP):Enrico Pieranunzi 、*印:三者

 それにしてもこのトリオのそれぞれの演奏の切れ味は見事と言いたい。けっしてピアノを前面に出してのベース、ドラムスが単なるリズム隊としてのサポートという単純なトリオ演奏では無い。収録曲は彼らがそれぞれ3曲づつ提供し、そして三者による2曲のオリジナル計11曲である。単なるカヴァーという世界で無いので、それは彼らの意志の見せ処としての曲構成展開が演じられているところにある。

 とにかく私にとってようやくゆったり許容できたのは、M2."Silk Threads "、M11."Song For An August Evening "の2曲くらいであった。多分こうゆうアルバムは聴いたことのある旋律が顔を出してホッとさせてくれるというものでないので、恐らく何回と聴いていく内に何かが見えてくるのであろうという世界なのだ。
 冒頭のM1." Falling From The Sky "は三者のお披露目、コラボレーションの妙。M2."Silk Threads "はがらっと変わってゆったりした世界。M3.Sofa""、M4."Turn In The Path"はコンテンポラリーにして実験音楽的ニュアンス。
 M7."Instant Reveal I"はピアノの音の美しさが演じられるも、曲の展開が異様で緊張感を誘う。そしてM9."Instant Reveal II"に繋かがり、三者の交錯が興味をひく。

Trio1

 近年のエンリコ・ピエラヌンツィの単なる耽美性から一歩も二歩も歩んだ彼の創意の意欲から生まれる世界だ。それはトリオのコラボレーションを楽しむ瞑想感覚のあるミステリアスにしてスリリングな一つの世界なのである。
 私からすると、とくにM11."Song For An August Evening "が往年のエンリコ・ピエラヌンティの演奏を思い起こさせて、救われた感じを持ったエンリコ・ワールドであった。

(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★☆  80/100
□ 録音   ★★★★☆  80/100

(試聴) 

 

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2020年2月21日 (金)

須川崇志Banksia Trio 「Time Remembered」

スリリングにしてミステリアスな世界の構築

<Jazz>

Takashi Sugawa Banksia Trio 「Remembered」
DAYS OF DELIGHT / JPN / DOD005 / 2020

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林 正樹 (piano)
須川 崇志 (bass)
石若 駿 (drums except 6)

Recorded at Sound City Setagaya Studio on 31 July 2019

 Marc Copland話から発展して、ozaさんからご示唆頂いたアルバム。日本のピアノ・ジャズ・トリオものとしてはどうしても小曽根真となりがちな私だが、どうもその他は意外に多いのが一世代前のアメリカン・ジャズ世界、それがなんとも私には馴染めないで来ているのだ。しかしこのアルバム、こんな現代的センスのあるピアノ・トリオであることには驚いているのだ。リーダーはベーシストの須川 崇志だが、完全なピアノ・トリオのスタイルを守りながらの即興がらみのトリオ演奏は新鮮だ。そして重要なのは知的で美しい林正樹のピアノ、又石若駿の演ずるは繊細にしてダイナミックなドラミングの世界である。

Ts1 (Tracklist)

1. Time Remembered
2. Yoko no Waltz
3. Nigella
4. Banksia
5. Under The Spell
6. Lamento (p & b duo)
7. Largo Luciano
8. Yoshi
( S.Ishikawa : 2, 7, 8 /  M.Hayashi : 3 / T.Sugawa : 4, 5, 6)

 収録曲は上のような8曲、M1."Time Remembered"はビル・エヴァンスの曲で、それ以外は全て彼らのオリジナル曲。それはライナーによると、録音前日や当日の朝に書かれた曲をはじめ収録曲の半分はほぼお互いの初提出で演奏されたというのだから驚きである。この収録内容は、3人のこれまでに築き上げられた演奏技術によって、ここに集約されて作り上げられた曲であるというところのようだ。

 しかし、このオープン曲のアルバム・タイトル曲でもある"Time Remembered"は、繊細なシンバルの音から入って・・・・所謂エヴァンス美学とはまた一歩異なった世界観を構築していて見事である。私はこれを聴いて是非アルバムを聴き通したくなったのであった。アルバムの帯に平野暁臣のライナーからの言葉"須川崇志と石若駿が紡ぎ出すうねりのなかを林正樹がリリカルに駆け抜ける"まさにこのタイプなのだ。私が聴くエヴァンスのこの曲はカヴァーでありながら彼らの作り出すものは、今演じている彼らそれぞれのセンスから生まれるインプロヴィゼーションが加味され、それが有機的に結合してゆく流れが手に取るように聴けて、そこに現代的な新鮮さが加味されていて好感度が高まるのだ。
  私の聴くエヴァンス自身のこの曲演奏は、72年のパリ・ライブものだが、それは彼のピアノの美しさとその世界に並ぶベースの世界など協調の美が満ち満ちているが、このBanksia Trioは、ベース、ドラムスの疾走感が加わってトリオのバトル感覚のスリリングさが生まれていることだ。エヴァンスものの取り扱いは難しいと思うが、彼らの意志が感じられて頼もしい。

Triow

 冒頭で彼らの意志を示され、残る彼ら自身のオリジナル曲に入るのだが、M3."Nigella"は録音前日に出来たという林正樹の曲だが、これはむしろスリリングな展開の後の心のゆとりを謳歌するが如きの展開で三者のつながりが見事。
 M4."Banksia "は静かなピアノに始まり、次第にベースの主導に入り、次第にスリリングなドラムが絡んでインタープレイの妙を描く異世界に突入。
 M5." Under The Spell " ドラムス主導で流れる神秘世界。
 M6."Lamento (p & b duo)" 須川のアルコ奏法を中心にピアノがサポートして描くちょっと哲学的深い世界。
 M7."Largo Luciano" ドラムスのブラシ奏法の流れの中で、ゆったりと余韻の音を残したピアノ、それにベースの和音で綴る静かな神秘性ある沈んだ世界。

 とにかく、三者のバトルによるスリリングな味に美しさを乗せた緊張感ある硬質な世界と静かな奥深い心象風景にも迫るという演奏が聴かれ、ジャズ・トリオの醍醐味の感じられる久々に聴き込んでしまうアルバムであった。

 

( ネット上に見られた三者の紹介を載せておく )

T02200220_0320032013480396589 ■須川崇志
 1982年生まれで11歳の頃にチェロを弾き始め、18歳でジャズベースを始める。2006年、ボストンのバークリー音楽大学を卒業。その直後に移住したニューヨークでピアニスト菊地雅章氏に出会い、氏のアートフォームや音楽観から多大な影響を受ける。2009年に帰国後、辛島文雄トリオを経て日野皓正バンドのベーシストを6年間務める。現在は峰厚介カルテット、本田珠也トリオ、八木美知依トリオ、石若駿トリオほか多くのグループに参加。現在までに東京ジャズ、デトロイト(米)、モントルー(スイス)、ブリスベン(豪)、メールス(独)などの数多くの国際ジャズフェスティバルに出演。2018年11月にデビューアルバム『Outgrowing』を発表。

Hayashiw ■林正樹
 独学で音楽理論を学び、佐藤允彦らに師事してジャズピアノと作編曲を習得。渡辺貞夫バンドのレギュラーを務める傍らで、椎名林檎、長谷川きよし、小野リサら他ジャンルのアーティストとも幅広く共演。自身のリーダーアルバムにおいても、ジャズと他領域を行き来するチャレンジングな試みを続けている。

 

Ishiwakashunw_20200221094801 ■石若駿
 14歳で日野皓正クインテットの一員としてライブに出演し、高校時代には奨学生として米・バークリー音大に留学。東京藝大打楽器科在学中からジャズシーンのド真ん中で活躍を続ける万人が認める日本のトップドラマー。さらに活動範囲はストレートジャズにとどまらず多彩な領域におよび、参加アルバムは100枚を超える。

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★★☆  95/100
□ 録音    ★★★★☆  85/100

(視聴)

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2020年2月17日 (月)

パトリシア・バーバーPatricia Barber 「HIGHER」

ベテランの醸し出す世界は展望に満ちていた

<Jazz>

Patricia Barber 「HIGHER」
ArtistShare / U.S.A / AS0171 / 2019

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Patricia Barber, piano, voice
Patrick Mulcahy, bass
Jon Deitemyer, drums
Neal Alger, acoustic guitar
Jim Gailloreto, tenor saxophone
Katherine Werbiansky, lyric soprano

 ヴォーカリスト、ピアニストにして作曲家でもあるパトリシア・バーバーの久々の新作(レーベルはArtistShare、彼女のDiscographyは末尾参照)。私の米国では最もと言ってよい関心の高い女流ミュージシャンだ。なんと1955年生まれであるから、歳はおして知るべしというところ。
 過去にここで何回か取り上げてきたように、様々な作品に取り組んできたヴェテランである。そして今回は8曲の自作曲でジャズの枠組みの中での組曲的手法によって聴かせるところに、まだまだチャレンジ精神はみなぎっている。そんな意欲作であるが、極めてヴォーカルは聴きやすく優しく説得力あるところにある。いずれにしてもヴェテランならではの味わいが溢れている。

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1. Muse (Patricia Barber)
2. Surrender (Patricia Barber)
3. Pallid Angel (Patricia Barber)
4. The Opera Song (Patricia Barber)
5. High Summer Season (Patricia Barber)
6. The Albatross Song (Patricia Barber)
7. Voyager (Patricia Barber)
8. Higher (Patricia Barber)
9. Early Autumn (words: Johnny Mercer, Ralph Burns, Music: Woody Herman)
10. In Your Own Sweet Way (Music: Dave Brubeck)
11. Secret Love (Words: Paul Francis Webster, Music: Sammy Fain
12. The Opera Song with Katherine Werblansky (Patricia Barber)

 スタートのM1."Muse "がいいですね、語り調で優しいヴォーカル、そしてそれにも増して優しさ溢れるピアノの美旋律。
   このM1.からM8.まで彼女のオリジナル曲が連なり、" Angels, Birds, and I "命名されたこの8曲の組曲に仕上げているようだ。
 M2."Surrender "はアコースティック・ギターを中心にバックを支える。ここにも後半のピアノの美しさの流れは圧巻。
 M3."Pallid Angel"にはサックスの登場と多彩。M4."The Opera Song "はこの流れの中で、特異な展開に驚く。
 流れは比較的ゆったりとしていて、一つ一つかみしめての味わいを示すが、曲は多彩な展開をしている。
 M6."The Albatross Song "の描くところは解らないにしても、何か抵抗との対抗的な雰囲気あり。
 それに続くM7."Voyager"では、新しき迫る世界に向かってのやや複雑な試みと展開がなされる。そしてアルバム・タイトルのM.8""Higher は、ゆったりとしたピアノ・ソロのバックで、ここに来る展開を経ての身に感じての射してくる光明を感じさせ、展望の中に終わる。

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 続いて組曲によるコンセプトは一締めとなって・・・カヴァー曲となる。
 M9."Early Autumn "の優しいヴォーカル、そして後半のピアノの流れは美しいの一言。
 M10."In Your Own Sweet Way "では、彼女のジャズ・ピアノのテクニカルな聴かせどころ。ここに来てベース、ドラムスとのジャズ展開が堪能出来る。
 M11."Secret Love"は、聴き慣れた曲をハイテンポで演奏してみせ、彼女の一筋ならないところを垣間見せる。
 M12."The Opera Song with Katherine Werblansky " ここで締めとして彼女の曲となり、高音のオペラティックなヴォーカルには驚かされる。いっやー、ただでは終わらないのが彼女だ。

 パトシア・バーバーは、音楽一家で育った米シカゴ州出身のジャズ・ピアニスト・作曲家でありヴォーカリスト。アイオワ大学では当初クラシック・ピアノを専攻、しかし次第にジャズへの要素が濃くなる。89年に1stアルバム『Split』で30歳代半ばでCDデビューを果たすと、94年の3rdアルバム『Cafe Blue』(BN 90760)で一気に日本でも知られるところとなる。注目点は20世紀時代の米国音楽芸術に対して、なんと私も注目のロックの要素も大胆に取り入れた。それらは彼女独自のむしろクールと言われる感覚の一つの姿であり、そんなジャズを超えた作品を多く発表している。2002年に通算7枚目となるスタジオ・アルバム『VERSE』(KOC-CD-5736)やその後『Smash』(Concord Music/2013)などをリリース。又2017年に『Modern cool』(Blu-ray Audio/2013)をサラウンド・サウンドで再発している。
 いずれにしても、米国ジャズ界での一つの世界を築いてきており、私にとっても貴重なミュージシャンだ。

83775193pb2bw (参考) <Patricia Barber  : Discography>
1. Split : Premonition Records (1989)
2. Distortion of Love : Antilles (1992)
3. Cafe Blue (Two versions) : Blue Note Premo. Records (1994)
4. Modern Cool (Three versions) : Blue Note, Premo. Records (1998)
5. Companion : Blue Note, Premonition Records (1999)
6. Nightclub : Blue Note, Premonition Records (2000)
7. Verse : Blue Note, Premonition Records (2002)
8. Live: A Fortnight In France : Blue Note (2004)
9. Live: France 2004 :DVD Blue Note (2005)
10. Mythologies (Two versions) : Blue Note (2006)
11. The Premonition Years : 1994-2002 Blue Note (2007)
12. The Cole Porter Mix : Blue Note (2008)
13. Smash : Concord Records (2013)
14. MONDAY NUGHT (Live at the Green Mill) : not an Label (2016)
15. Higher : ArtistShare  (2019)

(評価)
□ 曲・演奏・歌  ★★★★★☆    90/100
□ 録音      ★★★★☆    80/100  

(試聴)

 

 

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2020年2月13日 (木)

ウォルター・ラング Walter Lang Trio 「PURE」

ラング渾身のピアノ演奏で真摯な美世界を構築

<Jazz>

Walter Lang Trio 「PURE」
Atelier Sawabo / JPN / AS167 / 2019

Coverpurewlte1575787369594

Walter Lang (piano)
Thomas Markusson (bass)
Magnus Öström (drums)

  ウォルター・ラング・トリオのニュー・アルバムが澤野工房よりリリースされた(前作『Translucent Red』(AS164/2018)に続いて)。彼は1961年生れのドイツのピアニストだ。これまでにも何枚かのアルバムに聴き寄せられてきたのだが、このアルバムはその魅力の姿をたっぷりと擁して登場した。
  トリオ・メンバーを見ると、Magnus Öströmの名前が見られる。彼はあのE.S.Tでのドラマーとして知ったのだが、最近はBugge Wesseltoftのトリオでも活躍中で、ここではWalter Langと共演していて今や人気者のようだ。
 このアルバム・タイトルの「PURE」は音楽的には"Pure Tone"のことか、はたまた描く世界が"高潔"、"純粋"という意味に使っているのかと思いを馳せるのだが、このアルバムの内容がそんなところに焦点をおいているのかと、収録11曲中8曲が彼のオリジナルとくるからちょっと震えますね。彼には美旋律派とアヴァンギャルド派の二面があって、このアルバムは日本人好みの美旋律派に属するタイプ。

1200pxwalter_lang_pianist_20200215213401 (Tracklist)

01. Branduardi *
02. Always and Forever
03. Little Brother *
04. Meditation in F min *
05. 2 You *
06. Sad Song *
07. You Must Believe in Spring
08. Half Moon Bay *
09. Phases *
10. Who Can I Turn To
11. Meditation in Bb min *

*印 music by Walter Lang jun

  オープニングM1."Branduardi " を聴いて、ええ、これが"PURE"と若干疑いを持つが、Pat Methenyの曲M2." Always and Forever"に入ると、ベースがもの哀しく旋律を演じ、それに続いて美しくも哀しいピアノのメロディーが流れ、ドムスはブラシングで静かにサポート、ウーンこれぞウォルター・ラングと納得し、このアルバムへの期待がぐっと高まる。
 そして彼の曲M3."Little Brother"も、その流れの中で低音のピアノ、高音のベースと繋いで物思いの世界に導き、後半は今度はベースが低音、ピアノが美しい高音の響きで、なんとなく"PURE"な世界に。
 更にM4."Meditation in F min"も、真摯な感情でやや暗めに沈んだ思索的世界に導きながら、落ち着いた美しいピアノの旋律が優しく心を洗う。
 M5."2 You "はM2.3.4.と打って変わって弾む心が演じられる。この軽さは最近彼のアルバムによく顔を出すパターン。
 続くM6."Sad Song"は、一転して美しいピアノの調べにどこか物寂しさが襲ってくる曲。
   そしてM7.M8.は、やはりスローな展開の曲だが、これといった特徴はない。
 M9."Phases"は、なんか不思議な世界に誘われる。ここでもベースが旋律を奏で良い役割を果たしている。
 最後のM11."Meditation in Bb min"は、静かに流れる中に安堵と展望のあるピアノの美しさで包み静かに終わる。

Maxresdefault

 これは久々にウォルター・ラングの「心」の曲を聴いた思いである。8曲に及ぶオリジナル曲を駆使して、人間の深層の美しさを信じての世界に相違ない。まさに清水が流れるが如くの美しさである。テクニカルに凄いという世界では無いのだが、"Meditation 瞑想"の付けられた2曲が私にとっては特に印象に残る曲であり、万人に心を打つとして受け入れられるアルバム作りも、それはそれ評価に値すると思うところである。

(評価)
□ 曲・演奏      ★★★★★☆  90/100
□ 録音    ★★★★☆  85/100

(視聴)

 

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2020年1月19日 (日)

ミクロス・ガニ・トリオ Miklós Gányi Trio 「Retrospective Future」

新感覚のピアノ・トリオを目指して・・「回顧的未来」の意味は ?

<Jazz>

Miklós Gányi Trio「 Retrospective Future」
Atelier Sawano / JPN / AS168 / 2020

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Miklós Gányi  (piano)
Péter Oláh (bass)
Attila Gyárfás (drums)

 私にとっては初めて知るピアノ・トリオだ。澤野工房がヨーロッパのピアノ・トリオを中心にアルバムのリリースを展開しているが、今や音楽業界とくにヨーロッパではCDリリースは下火の状況であり、そんな中で、ハンガリーのピアニストのこのミクロス・ガニは自ら澤野に売り込んできたという。
1007927958  しかしその評価は良好で、2017年にスタンダード曲限定という制約の中で『Beyond the Moment』(AS157)がリリースされ、そして晴れて2019年になってオリジナル曲を加味してのアルバム『The Angle of Reflection 』(AS166)(→)がリリースされることになった。更にそれがそれなりの評価があったと言うことだろう、日本でのライブが行われ、更にこの第三作目のアルバム『Retrospective Future』がリリースされたという経過である。

(Tracklist)

1. Majority
2. Get Lucky
3. Estate*
4. Continuum
5. Fragile
6. 'Round Midnight*
7. One For P.B.
8. Wicked Game
9. Overjoyed*
10. Body and Soul
(*Piano Solo #3,6,9)

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 このアルバムにはトリオ演奏7曲、ガニのピアノ・ソロ3曲という構成で、又オリジナル曲は2曲に止まっていてその他はカバー曲である。

 冒頭M1に"Majority"というオリジナル曲を配して、彼ら自身のピアノ・トリオというものの解釈をもって我々に迫ってくる。これはユーロ独特の美旋律による哀愁の曲というのとは全く異なっていて、むしろトリオのアンサンブルを全面に出しながらも快適なテンポで、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれソロ展開を取り入れつつ主張する演奏パターンをみせ、これはちょっと一筋縄では行かないぞと思わせるのである。
 大体アルバム・タイトルが「回顧的未来」というところが意味深で、スタンタード曲とオリジナル曲のギャップをどうこなすかというピアノ・トリオとしての意気込みが感ずるところだ。
 しかしM3." Estate"をガニがソロ演奏するというところに、なるほど一つの旋律の美学をはらんでいることが見える。しかし決して単純なカヴァーでなく、その編曲は今まであまり聴かない面白いパターンで聴かせてくれる。この曲は私の好きな曲(参照 http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2019/09/post-668808.html)であるので多くの演奏を聴いてきたので比較できるのだが、いかにも新感覚ジャズを求めていると言う世界だ。
 M4. Continuum", M5"Fragile" は、やはりそこにはピアノの美旋律によるピアノ・トリオとしての形はしっかり築いている。
 M6."'Round Midnight" はモンクの曲だが、ピアノ・ソロでゆったりと演じて心地よい。
 M7."One For P.B." はオリジナル曲で再び新感覚ジャズに迫ろうとする。M8."Wicked Game"は美しく優しい展開を見せ、このような曲の配置はメリハリがあって上手い。
 M9."Overjoyed" のピアノ・ソロ演奏も単純な音に流さない技法を聴かせて自己主張するところが聴きどころ。

 こんな流れのアルバムであって、すぐ飛びつく名盤というのでなく、何度も聴くに従って味が出てくるという不思議なアルバムでもある。

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 ピアニスト・ミクロス・ガニは、1989年プダペスト生まれというから、なんとまだ若き30歳。5歳よりバイオリンを習い、その後ピアノに転向、わずか12歳で権威あるコンクールで優勝したという。クラシックを学んだが、高校時代からジャズに傾倒していったという経過。近年、澤野に売り込みそれなりの評価を受けたというところ。彼らの写真をみると特にガニは30歳とはおもえない貫禄があって、むしろそのあたりと感覚の新鮮さのギャップが面白い。彼のピアノは意外に単純にゆかない早引きと余韻の残し方の世界が印象に残る。

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★☆  85/100
□ 録音    ★★★★☆  80/100

(視聴)

 

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2020年1月 6日 (月)

キース・ジャレットの挑戦 Keith Jarrett Trio 「DIFINITIVE HAMBURG 1989」

キースのスタンダーズ・トリオによるジャズへの挑戦
ベストパフォーマンス
"ムジークハレ(1989)"の完全盤登場

<Jazz>

Keith Jarrett Trio 「DIFINITIVE HAMBURG 1989」
Live At Musikhalle, Hamburg, Germany October 1989
K-PROJECT (Non-Official)

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キース・ジャレット(p)
ゲイリー・ピーコック(b)
ジャック・デジョネット(dr)

 1977年のゲイリー・ピーコックのアルバム『テイルズ・オブ・アナザー』(ECM)が初めての顔合わせとなったキース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットのトリオは、1983年になって再びECMのマンフレート・アイヒャーによって集められ、『スタンダーズVol.1』『スタンダーズVol.2』『チェンジス』の3つのアルバムを発表した。このトリオはスタンダーズと名付けられているが、実はスタンタード・ナンバーを演ずる目的よりは、アルバム『チェンジレス』(ECM1987)にみるように、それを契機に彼らの世界を広めたのであったと言ってもいい。つまり自作の発表の舞台としての役割だったと思うのがスタンダードの演奏であり、しかもそのものの曲自身もスタンダード演奏として誰も聴いていないところがミソなんだろう。

█ ジャズへの挑戦であったこのスタンダーズ・トリオ

  キースがスタンダードを演奏すると言うことは、実はジャズそのものへの挑戦であったというのは間違いないと思う。古くはジャズと言えばデキシー・ランド・ジャズだというアメリカ人の感覚は、キースから見れば、それに対する抵抗であったも言えるのだ。スタンダードをピーコックとディジョネットとのトリオで演ずること事態、実はその影にトリオによるフリー・ジャズの発展を企てたと言って良いのだろう。
 そこが当時のスタンダーズ・トリオの興味が引かれる重要ポイントだ !! 。スタンダーズ・トリオは実はライブで初めて彼らの姿を知ることが出来るのである。

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 そんな流れが確立した時に行われた1986年のドイツはハンブルグでのライブ、これがオフィシャル・リリースがないだけに、"ムジークハレ"と呼ばれ世間の注目度も高く、従来はエア・チェックされたものを音源として、マニアには宝物として扱われたきた。ところがここに来てデジタル音源の登場で、まさにものによってはオフィシャル盤を超えたCD盤の登場を見たモノだ。しかも二枚組でライブ・フル録音盤でありそこに意味があり、取り敢えず私の愛聴盤と化しているのである。

22043000354 (Tracklist)

Disc 1
1.My Funny Valentine
2.Never Let Me Go
3.All Of You
4.The Cure
Disc 2
1.Summer Night
2.Everything Happens To Me
3.I'm A Fool To Want You
4.I Remember Cliford
5.U Dance


 以上全9曲、一曲20分を超える熱演もある。
 実はこの当時の80年代後半から90年代にかけては、キースは本格的なクラシック音楽のレコーディング活動を行っている。ECMのクラシック部門であるECM New Seriesが創設され、しかもその第一弾であるアルヴォ・ペルトの『タブラ・ラサ』のレコーディングへの参加が、最初の本格的なクラシック・現代音楽作品の録音だ。このアルバム収録の「フラトレス」でジャレットはギドン・クレーメルと共演しているのだ。その後キースは1987年のJ.S.バッハの『平均律クラヴィーア曲集第1巻』を、更にJ.S.バッハとショスタコーヴィチ、他にはヘンデル、モーツァルトなどの作品を取り上げている。もともとマルチ・プレイヤーでピアノだけでなく、ハープシコード、クラヴィコードも演奏した。これはこんな時のスタンダーズ・ライブである。

 オープニングM1-1."My Funny Valentine"から、キースが奏でる音の美しさに痺れてしまう。そしてM1-2."Never Let Me Go"では完全に美しく心の奥底に響くのである。ゲイリー・ピーコックの当時のベースの音も包容力がありますね。。ピアノの音にデジョネットのシンバル、スネアが生み出す音が、これまた不思議に重なり合って美しく化して素晴らしい。
 Disc2においてもM2-2"Everything Happens To Me"の中盤からのベース、ドラムスの展開はこれぞジャズと訴えるが、後半キースのピアノががらっと変わって物思いにふけってゆく。
 M2-3."I'm A Fool To Want You"  はベースそしてドラムス・ソロを絡めてピアノの美しさを聴かしいゆく憎い展開。それはなんと20分を超えてのスタンダース越えの曲となる。
 M2-4."I Remember Cliford " も、静かに聴かせるピアノ・ソロに近いパートがしっかりとられ、静かに心の奥に沈むことが出来る。

 これぞ、私にとっては当時のアメリカン・ジャズへの挑戦の姿として捉えるキース・ライブであり、従って当時のオフィシャル盤(『チェンジレス』を除いて)では知り得ないアルバムとして存在する。

(評価)
□ 曲・演奏 :   ★★★★★ 100/100
□  録音   : ★★★★☆    80/100

 

(参考試聴)

 

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2019年12月29日 (日)

マーク・コープランドMarc Copland 「AND I LOVE HER」

今年一年お世話になりました。
来たる2020年もよろしくお願いします。

(今年の最後は、ジャズらしいベテランもので締めくくります ↓)

完璧に描ききる深遠にして繊細な世界観のピアノ・トリオ・アルバム

<Jazz>

Marc Copland   Drew Gress   Joery Baron「AND I LOVE HER」
Illusions / USA / IM4004 / 2019

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Marc Copland(p)
Drew Gress(b)
Joey Baron(ds)

 今年の締めはやっぱりベテランものと言うことになった。
 マーク・コープランドはフィラデルフィアで1948年生れだから、もう70回以上年を越し新年を迎えている訳だ。その彼の最新アルバムと言えばこのドリュー・グレス(b)、ジョーイ・バロン(ds)という文句なしのリズムセクションを迎えて臨んだピアノ・トリオ作品。このメンバーは2017年から共演している。久々に完璧なピアノ・トリオのサウンドを頭に響かせ年越しとなる。
  演ずるは、自己の曲やグレスの曲の他、Mongo Santamaria, Herbie Hancock, Lennon-Mccartney, Cole Porter 等の曲である。 

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(Tracklist)

1.Afro Blue 6:22
2.Cantaloupe Island 8:20
3.Figment 7:21
4.Might Have Been 5:46
5.Love Letter 8:11
6.Day And Night 10:41
7.And I Love Her 6:44
8.Mitzy & Johnny 4:29
9.You Do Something To Me 9:16

1200pxdrew_gressw  post bop jazz pianist と言われるコープランドだが、昔はサックス奏者だったと思えない完璧なベテラン・ピアニストの世界を演ずる。
   オープニングのMongo Santamariaの曲M1."Afro Blue " 、印象的なグレス(→)のベースとバロンのドラムスから始まって、ピアノの深遠さと美しさが襲ってくる。
   更にM2."Cantaloupe Island" は、Harbbie Hancockの曲だが、同じピアニストの曲かと不思議に思わせるほど、別物の世界に導かれる。これがコープランドなんですね。
 そしていつも思うのだが、ビートルズの曲というのは別人が演じてみるとなかなか良い曲だと言うことに気がつくことがある。このアルバム・タイトルとなっている曲M7."And I Love Her"はまさにそのパターン。しかしそれにつけてもこれだけ深遠な緊張感ある物思いに導く曲とは驚きだ。これぞコープランド世界であって Lennonには是非聴かせたいと思う程である。

1280pxjoey_baronw_20191229194201  そしてこのアルバム全曲、全くその流れは曲のテンポの変化やリズムセクションのリードがあっても、自然にコープランドのピアノが入ると不思議にその深淵にして緊張感ある世界に突入するのだ。
 それはM2,M3で明瞭になるが、前衛性のニュアンスの強いバロン(→)のドラムスも大いに貢献しているのだろう。トリオ・アルバムとしての録音も少々変わっていて、ベースの中央配置は標準的だが、ドラムスが全面に出ていてかなりリアルであり、ピアノが広く広がりをもってサポートするが如く配置されている。これも曲の雰囲気作りに貢献していると思う。
 そしてその曲のイメージは、繊細な中にクールにも一見感ずるところにあるも、どこか人間の世界観の多様性にアプローチしている姿が迫ってくる思いである。

 この年の最後にこの一年を締めくくり、今年の一年の経過を総括し来たる年に向かって発展的に思いを馳せるにはおあつらえ向きのトリオ演奏アルバムであると評価した。

(評価)
□ 編曲・演奏  ★★★★★☆
□ 録音     ★★★★☆

(参考視聴)

 Marc Copland Trio

 

*

 

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2019年12月25日 (水)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi Trio 「NEW VISIONS」

ロマンティックな哀愁とスリリングなダイナミックな演奏と
・・・・トータル・アルバムとして聴くに意味がある

<Jazz>

Enrico Pieranunzi Trio 「NEW VISIONS」
Storyville / IMPORT / 1018483 / 2019

Newvisionsw

Recorded March 10,2019 at The Village Recording,  Copenhagen

Enrico Pieranunzi(p)
Thomas Fonnesbaek(b)
Ulysses Owens Jr.(ds)

Recorded March 10, 2019 at The Village Recording, Copenhagen
Produced by Enrico Pieranunzi and Thomas Fonnesbæk
Executive producer: Christian Brorsen
Mastering: David Elberling
Recorded and Mixed by Thomas Vang
Design: FinnNygaard.com
Photos: Gorm Valentin
Liner notes: Christian Brorsen
Thanslation: Steve Schein
Financial support: MPO & Kjeld Büllow
(Storyville 1018483)

  イタリアのもうピアノの巨匠とも言えるエンリコ・ピエラヌンツイ(1949年ローマ生まれ)のメンバーを一新してのピアノ・トリオ作品。本作はデンマークのStoryvilleレーベルからのリリースだ。今年の録音である。場所はコペンハーゲン、そんなことから実質的なリーダーはベースのトーマス・フォネスベックだったのかもしれないという説もあるが、いずれにしてもピエラヌンツィのピアノとの相性も良いようで、このアルバムは両者がそれぞれの曲を提供しつつ、又トリオとしての3人によるオリジナル曲がアルバムの骨格を造っている。

 とにかくピエラヌンティのややおとなしめの曲と対比的にフォネスベックの曲がダイナミックなところもあって、なかなか飽きさせないアルバムとして仕上がっている。

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(Tracklist)

1. Free Visions 1 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 3:25
2. Night Waltz (Enrico Pieranunzi) 3:20
3. Anne Blomster Sang (Enrico Pieranunzi) 6:47
4. You Know (Enrico Pieranunzi) 6:35
5. Free Visions 2 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 2:03
6. Free Visions 3 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 4:06
7. Alt Kan ske (more Valentines) (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 6:46
8. Free Visions 4 (Pieranunzi-Fonnesbæk-Owens Jr.) 4:08
9. Brown Fields (Thomas Fonnesbæk) 5:07
10. Dreams and the morning (Enrico Pieranunzi) 4:13
11. One for Ulysses (Enrico Pieranunzi) 4:40
12. Orphanes (Thomas Fonnesbæk) 5:10

  上のように、収録12曲の内、ピエラヌンティの曲が5曲。フォネスベックの曲が2曲。3人による曲が5曲という構成だ。やはりピアニストとしてのピエラヌンティの曲は多くなるのは解るが、特徴はトリオ三者による"Free Vision"(自由構想 ?)と銘打った曲が4曲と多いと言うことだろう。
 アルバム・タイトルの「NEW VISIONS」と言うのが意味深で、"新しい構想"、"新しい展望"、"新しい幻影・光景"と言ったところなのだろうか。
 ドラマーのオウエンスJrも、ピエラヌンティの静かな曲では繊細に、三者の共作曲に於いては即興入りの結構ダイナミックに演ずるところがありなかなか聴くに飽きない。又フェネスベックのベース・ソロもそれなりに取り入れられていて聴かせどころが盛り込まれ、ピエラヌンティ・ワンマン・トリオというところにはなく、三者バランスのとれた意欲的なトリオ演奏である。

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 M1."Free Visions 1" は、リズム隊が活発でテンションの高い演奏からスタートしてピアノが同調してゆく形をとっている。これは所謂ピエラヌンティの叙情的世界とは違って新鮮なところを狙っているところが見える。まさに"新しい幻影"といったところか。
 そしてそれに続いてM2."Night Waltz"一転してのピエラヌンティの夜の華やかさを描くワルツ、そして彼の曲らしいM3." Anne Blomster Sang"に流れ、M4."You Know"で、静かに説得力のあるやや暗めの沈静的な世界をピアノの美で描く。
 そうかとしていると再びM5."Free Visions 2"M6."Free Visions 3"はこのアルバムの大切な骨格の三者の前衛的なメロディ・レスの硬質アクションが展開。 
 このように美メロディーのロマンティックな哀愁感をしっとり聴かせ、今回のテーマである4曲の"Free Visions"では、圧倒的ダイナミズムとスリリングな即興を交えた硬質アクションを展開して、とにかく緩急メリハリの効かせた躍動的世界を形作っている。ドラムス一つとっても繊細なタッチと迫力ある重量級の音が、時に現れ時に変化して面白い。
 ここまで来ると、このトリオがアルバム・タイトルを「NEW VISIONS」とした意味が十分理解できるアルバムとなっているのだ。従ってピアノの主役性は失ってはいないが、ベース、ドラムスがかなりその持ち味を心置きなく発揮している様が、曲の重きに貢献している。
 さらにサービス精神も旺盛で、M11."One for Ulysses"では所謂近年のヨーロッパ的でないスウィンギーな展開まで見せてくれている。このあたりは芸達者というところか。

 「静」「動」、「暗」「明」、「沈着」「躍動」、「軽」「重」が交錯するなかなかレベルの高いところでのトリオ演奏を目指していて見事と言いたい。
 音質も録音法によるものか、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれくっきり見えていてこの点も評価に値する。ちょっと前進のあるアルバム作りで、トータル・アルバムとして聴くところに意味がある。90点の高評価としたい。

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★★☆
□ 録音    ★★★★★☆

 

(試聴)

*

 

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2019年12月20日 (金)

寺島靖国 Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2019」

年末恒例の好評・人気コンピレーション・アルバム
今年は全曲ピアノ・トリオ曲

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2019」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1085 / 2019

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 今年も順調にリリースされましたね、もう19巻目になる。立派なシリーズものと言うことですね。
 このシリーズ、もともとピアノ・トリオが中心であること、欧州系が多くを占めていること、そして意外にポピュラーでないところも開拓してくれるということなど、私にとってはおあつらえ向きと言うことになる。
   とにかく寺島靖国独特の「 哀愁」の「美しいメロディー」をもつ世界を選び抜いて、今回も世界各国の美旋律ジャズを紹介してくれている。従ってそんなことから私の棚には19巻しっかり並んでいるんですね。

 今回実は意外だったのは、今年は13のアルバムからの曲が選ばれての収録だが、今までと違ったのは私が所持しているアルバムが実は一枚も無かったと言うことなんですね。いっやーーこれは意外でした。しかしそれは実は私にとっては嬉しいことで、収録13曲全てが初物なのかも知れないと喜んだのです。そして私好みの世界の新しい発見があるかも知れないと嬉しくなったのですね。
 更に今年はジャケのイメージが少し変わりました (↑)。これは過去のモノの中でも好きな部類に入る。もともと女性を取り上げて美的な感覚を狙ったジャケなんですが、これも寺島レコードの特徴とも言える。

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(収録曲)

01.To Michel (Daniele Sala Trio)
02.Accarezzame (Julian Oliver Mazzariello Trio)
03.Farewell To Winter (Craig Schneider)
04.Chez Mini (Andrea Garibaldi Trio)
05.Graceful Touch (Yoko Teramura Trio)
06.Espana (Jessica Williams Trio)
07.And You Are (Noam Lemish)
08.Kathy's Waltz (Geoff Lapp Trio)
09.Maria durch den Dornwald Ging (Oli Poppe Trio)
10.Luigi's Muse (Ari Erev)
11.Maria Gennem Torne Gar (Carsten Dahl)
12.El Bailador (Peter Sarik Trio)
13.La Valse D'oscar (Francois Ingold Trio)

 以上のような13曲が並ぶが、これも今年の特徴で嬉しいことに全13曲全てがピアノ・トリオの演奏ものとなった。
 冒頭のM1."To Michel"は、明るくいやに調子が良い曲でスタート。
 M2."Accarezzame"イタリア・ジャズ界からのデビュー盤「DEBUT」(上左)というアルバムからの知らなかったピアニストのトリオ作品。ムードたっぷりの心に響く曲。
 M3."Farewell To Winter "、なんと10年前にこの「Jazz Bar」に登場したアルバム(上中央)からの別の曲。ロマンを感ずる曲展開。
 M4."Chez Mini" イタリアもの。トリオ作品(上右)だが初のリーダー作だという。メロディが豊かでセンスを感ずる。
 M5."Graceful Touch " 寺村容子のリアル録音盤から。トルド・グスタセンの曲(2003年「Changing Places」から)。演奏はまだまだ及んでいません。
 M8."Kathy's Waltz " も澄んだピアノ、繊細に響くシンバルとかなりリアルな音の録音盤。
 M9."Maria druch ein Dornwald Ging" これは堅物の真面目演奏(下左)。
   M10."Luigi's Muse" イスラエルのピアニスト(下中央)、美しさは持っているがムーディーさにおいてはちょっと中途半端。
 M11."Maria Gennem Torne Gar "  Tradというが、哀愁感たっぷりで聴き入ってしまう。
 M13."La Valse D'oscar" (下右)このアルバムを納めるには標準的美しさでをお役を果たしている。

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 今年のこの内容は、どちらかというとマイナーな演奏者に焦点を当てている感はあるが、全体に決し悪い出来でなかった。それも私にとっては初物が多かったことが嬉しい限りである。しばらくは何度と聴いて行きたいアルバムであった。

(評価)
□ 選曲・演奏  ★★★★★☆
□ 録音     ★★★★★☆

(参考試聴)

*

 

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