ピアノ・トリオ

2025年5月12日 (月)

ビル・エヴァンス BILL EVANS 「FURTHER AHEAD - Live in Fland 1964-1969」

またしてもゼヴ・フェルドマンの発掘モノの公式リリース

<Jazz>

BILL EVANS 「FURTHER AHEAD - Live in Fland 1964-1969」
Universal Music /JPN / UCCJ-3054/5 / 2025

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◇Bill Evans(p), Chuck Israels(b), Larry Bunker (ds) 1964
◇Bill Evans(p), Niels-Henning Ørsted Pedersen(b), Alan Dawson(ds)
 Lee Konitz(as on B3) 1965
◇Bill Evans(p), Eddie Gomez(b), Marty Morell (ds) 1969

1200x680_nsbill_evansw  ジャズピアニストの巨匠ビル・エヴァンス(William John Evans、1929年8月16日 - 1980年9月15日 →)による未発表の演奏を集めた新作『Live in Finland (1964-1969)』が、2021年にResonanceから発掘事業が引き継がれたElemental Musicから180gの限定2枚組LP、そして2CD(直輸入盤仕様)として発売された。このところ毎年の行事のように未発表音源の公式リリースでファンを喜ばせているわけだが、歴史的な貴重なレコーディングを集めたりしてCDとして発売するレーベル Resonance のプロデューサー のゼヴ・フェルドマンがビル・エヴァンス・エステートの協力を得てプロデュースしたものである。

 この『Further Ahead』は、60年代のエバンスの"スカンジナビア・ツアー"中に録音された曲群だ。「1964年のヘルシンキ公演」(ベーシストのチャック・イスラエルスとドラマーのラリー・バンカーを含むトリオと共演)、「1965年のヘルシンキ公演」(ベーシストのニールス・ヘニング・オーステッド・ペダーセンとドラマーのアラン・ドーソンがサポート、スペシャル・ゲストのリー・コニッツ(as)をゲストに迎えた)、そして「1969年のタンペレ公演」(ベーシストのエディ・ゴメスとドラマーのマーティ・モレルとの最も長く活動しているトリオ)で、フィンランドで行われた3種のライヴ音源をコンパイルされていて彼の力の絶頂期を聴くことがことができる。
 そしてアルバム・ブックレットには、エヴァンス研究家として評価の高いマーク・マイヤーズによるライナーノーツと、長年のトリオ・メイトであったベーシストのエディ・ゴメス(下左)、ドラマーのマーティ・モレル(下右)らによるインタビューやコメントをも収録して充実。

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(Track List)

Track List
Disc 1
01. HOW MY HEART SINGS   04:29
02. COME RAIN OR COME SHINE  04:55
03. NARDIS     05:31
04. AUTUMN LEAVES    05:13    
05. FIVE                      02:43
06. DE TOUR AHEAD     05:53
07. COME RAIN OR COME SHINE 05:32
08. MY MELANCHOLY BABY          08:20

Disc 2
01. VERY EARLY                 05:26
02. WHO CAN I TURN TO?  05:52
03. 'ROUND MIDNIGHT       07:08
04. GLORIA'S STEP             05:20
05. TURN OUT THE STARS   05:09
06. AUTUMN LEAVES           05:40
07. QUIET NOW                  05:56
08. EMILY                           05:54
09. NARDIS                       10:34

(CD1:1-5)
BILL EVANS piano, CHUCK ISRAELS bass, LARRY BUNKER drums.
Recorded live in Helsinki, Finland, August 13, 1964.
(CD1: 6-8)
BILL EVANS piano, NIELS-HENNING ØRSTED PEDERSEN bass, ALAN DAWSON drums, LEE KONITZ alto sax (on B3 only).
Helsinki Jazz Festival, Helsinki, Finland, November 1, 1965.
(CD2)
BILL EVANS piano, EDDIE GOMEZ bass, MARTY MORELL drums.
University of Tampere, Tampere, Finland, October 28, 1969.

Produced for Release by ZEV FELDMAN.
Executive Producers: JORDI SOLEY and CARLOS AGUSTIN CALEMBERT.
Associate Producers: MARTIN ARIAS GOLDESTEIN and ZAK SHELBY-SZYSZKO.
Originally produced and recorded by the Finnish Broadcasting Company YLE.

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 上のリストにあるように、なかなか演じている曲は魅力的で、良き掘り出し物感がある。
 ライブ記録ものであり、まず「1964年ヘルシンキ」は、スタートと同時に拍手音を聞くが、それが雑音ぽい響きで、いやはやこの音だと今回のアルバムはサウンド的にはかなり難があろうことを予測させる。案の定1964年のM01"HOW MY HEART SINGS"  如何にもダイナミック・レンジの狭い音でちょっとがっかり、今までにリリースされてきた発掘シリーズの中では音は貧弱な方だ。まあこの曲3者の音の分離は良くて歴史的音源を知るという意味での価値は十分、ただ愛聴盤という音でない。高音を伸ばし音質改善にはそれなりに苦労があったのだろうと推測はするがあくまでもその程度だ。
 私的にはM04."AUTUMN LEAVES "M05."FIVE "は、かなりの速攻型であるが、バンカーの手さばきの良さと共に、エヴァンスのピアノは意外に叙情型でうなずきながら聴いた次第である。続いて「1965年もの」に入るが、M06." DE TOUR AHEAD"の若きペデルセンの意外にぐっと落ち着いたベース音に、ピアノの流れもバラード調になっての演奏がお気に入りだが、 M08."MY MELANCHOLY BABY "のサックス音、ドラムス・ソロを聴いてみても、やや録音の質は、音にこちらの1965年の方が幅が出ている
 又" AUTUMN LEAVES "も2つ聴けるが、1964年より1969年の方は、トリオ結成1年経過があってのもの、どこか更に手慣れた演奏を感ずる。
 いずれにしても3つのコンサート、3つのトリオが聴けて、この5年間の進化がエヴァンス流のトリオの考え方にそってにじみ出て聴けるところが意味あるところだ。
 「1969年のタンペレでのコンサート」は、エディ・ゴメスとマーティ・モレルの最も長く続いたエヴァンスのトリオらしく、エヴァンスの創造性が生きている。ゴメスは、直感的にエヴァンスの鼓動に共鳴する様は手慣れているし、M02."WHO CAN I TURN TO?"のように、本人の演奏の楽しみが伝わってくるのが良い。モレルのドラミングは歯切れがよくスリリングで、特にアップテンポの推進力は見事。ここでは聴き応えのあるのはM09."Nardis"で、エヴァンスの叙情的なイントロから始まり、それを引き継いでのゴメスの流れも実に呼応していて本来のメロディーに入っていくところが感動だ。モレルのドラミングはダイレクトにアクティブなソロで迫りながら、エヴァンスが演じやすい世界に橋渡しを提供している感があってそんな良好な繋がりが聴き取れる。とにかく落ち着いた安定感の中の秘めた創造的な意欲性が良いですね、さすがです。

 60年代のエヴァンスものは、公式リリースでないブートでもいろいろと過去に沢山出てくるのだが、録音などいまいちであって、いろいろと難があるのが残念である。そうした中でもフェルドマンの発掘努力と音質などの改善努力をしてのこうしたリリースは過去においても評価のあるところだが、今回も音質にはいまいちの処もあるものの当時のものとしてはやむを得ないところとして、楽しませてもらった意味で歓迎すべき代物であった。

(評価)
□ 演奏   88/100
□ 録音   75/100

(試聴)

"Nardis" 1969

 

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2025年4月22日 (火)

マテウス・パウカ MATEUSZ PALKA TRIO 「MELODIES.THE MAGIC MOUNTAIN」

クラシック的世界が築く美的抒情性の世界

<Jazz>

MATEUSZ PALKA TRIO 「 MELODIES.THE MAGIC MOUNTAIN」
Polskie Radio / Import / PRCD2431 / 2024.4

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MATEUSZ PALKA (piano)
PIOTR POLUDNIAK (bass)
PATRYK DOBOSZ (drums)

Recording, Mixing and Mastering Engineer : Leszek Kaminski
Recorded at Polish Radio's S-3/S4-6 Studio, Warsaw, 2022.11.28,29

447961014_78195621547744w  ちょっと場つなぎになるが、昨年のアルバムを取り上げる。ポーランドのピアノ・トリオのジャス・アルバムだが、現地では一昨年登場しているようだ。このアルバムは雑誌「ジャズ批評」の"ジャズ・オーディオ・ディスク大賞2024"に銅賞に輝いている。昨年春にタイミングを逸して購入できなかった代物だったが、私が今回聴いているのは今流行のストリーミング「Qobuz」によってである。おそらくCDは又輸入品があるかどうかと言うところだと思う。最近はそんな傾向の続く状況が多い。まあストリーミングもそれなりの音質で聴けるので悪くはないのだが、なんとなくLPやCDを手にとって聴く習慣は未だに抜けない私でちょっと空しいのである。

 さて、このアルバムは1993年ポーランドのクラクフ出身の若きピアニスト、即興演奏家、作曲家、マテウシュ・パウカMATEUSZ PALKA(右上)が率いるピアノ・トリオ(ピョートル・ポウドニェク (bass,↓左)、パトリック・ドボシュ (drums,↓右))。パウカの音楽には印象派、後期ロマン派の精神が息づいていると言われており、ポーランド・ジャズのもっとも才能豊かなミュージシャンの一人として注目を集めているようだ。そしてポーランドの公共放送局『ポーランド放送(Polskie Radio/Polish Radio)』から音質にこだわったピアノトリオ作品として登場したもの。

 そしてこれはこのトリオのセカンド・アルバムとなる。注目点は、トリオ・メンバーが、詩、小説、絵画、自然、クラシック音楽、ジャズ音楽など、あらゆるものからインスピレーションを得ていることと、又音質的には最高を追求し、ポーランドの名手 Leszek Kaminskiが担当しているという点にもある。

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(Tracklist)

1.Czarodziejska Góra 3:39
2.Kora 4:46
3.a Paris 4:52
4.Introitus 4:24
5.Letter to Norah 3:33
6.Aria 3:52
7.Chiaroscuro 4:14
8.Solo 1:35
9.She Doesn’t Like Doing Homework 7:10
10.Leaving 5:44

 一口に言うと、如何にも音楽の国ポーランドというところで、非常にクラシックからの流れを感ずる演奏である

481230827_131263361647350tw  オープニングのM1."Czarodziejska Góra"の冒頭から、ピアノのみの演奏で硬質のクリーンなピアノの高音が響き、録音の良さを訴えてくる。そしておもむろにベース、ドラムスのサポートでメロディーが流れ、非常に美的で詩的な世界に導かれる。
 M2."Kora" 刺激のない語りにも近いピアノ、後半次第に盛り上がるも暴れることは無く非常に常識的範囲で流れる。
 M3."A Paris" ゆったりとしたピアノの美しいメロディー、ベース、ドラムスも刺激は示さずそのサポートに納まる。
 M4."Introitus" ちょっと異質な展開を見せる。初めてベースが主張しドラムスが助長しピアノが更に展開を高める。ちょっとコンテンポラリーさが出てきた。
 M5."Letter to Norah" 再び静かに状況を語り、続く M6."Aria" 初めてベース・ソロでスタート、これも静であり、ピアノに誘導して一層静かな心の安定を響かせる
 M7."Chiaroscuro" ここでもピアノが主体に絵画的美の世界が描かれる 。
 M8."Solo" 再びベースのソロで深い語り、M9."She Doesn’t Like Doing Homework" は、最も長い7分をを超える曲。ここも日常の情景の描きで流れる印象。後半に入ってドラムスの展開が初めて意味深く訴えてくる。
 M10."Leaving " ゆったりとそこに残ったものの美しさをピアノが訴えてくる。何かクラシックを聴き終わった気分にもなる。

 しかし聴いてみて大きな感動したと言う世界ではない。日常の美しい流れが描かれているのか、聴くに全く抵抗なく美しさと抒情性も溢れていて快感ではある。こうした世界は刺激がなくむしろ寂しいとも思われるが、聴いていてこれはこれで納得させられるところにある。深遠な苦しさの世界でもなく、哲学的に瞑想に入る訳でもなく、どこか詩的な世界と言っても美しさに誘導されているところが、若きミュージシャンとしては意外な感じもするが、今後の展開に期待は十分持てるメロディーの美しさの世界の好盤だと思う、推奨盤だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   90/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

 

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2025年4月17日 (木)

ヤニエル・マトス Mani Padme Trio 「The Flight-Voo」

創造的リズムで描く精神的な要素を表現して・・・・

<Jazz>

Mani Padme Trio 「The Flight-Voo」
(CD) Red Records / Import / RR1233492A / 2025

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Yaniel Matos (piano)
Sidiel Vieira (acoustic bass)
Ricardo Mosca (drums)

Recorded In THe Parede-Meia Studio In Sao Paulo, Brazil on 2 & 3 August 2015

 南米のバンドの「マニ・パドメ・トリオ」の作品。これはブラジルのドラマー、リカルド・モスカ(↓右)とキューバのピアニスト、ヤニエル・マトス(↓左)のラインナップに加え、今回はコントラバスのシディエル・ヴィエイラ(↓中央)が加わった。このトリオの音楽がこれまでの作品で追い求めてきたグルーヴをしっかりと保ちながら、さらに進化し、内容が豊かになったことを強調する3作目の作品である。私は初聴きのピアノ・トリオ。

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 録音は、2015年と10年前であるが、今回イタリアからのリリースで日本でも聴くことになったもの。
 ピアニストのヤニエル・マトスはブラジル人とキューバ人のハーフで、N.Y./サンパウロで活躍。モダン・キューバン・ジャズの表現力、奔放センス、 Herbie Hancock, Keith Jarretの洗練さ・・・これらを呑み込んだセンシティヴ・ラテン・ジャズを演ずると。ラテン・ピアニストならでは滑らかな指運びにトリッキーでいてロマンティックなコード・ワーク、そしてコンテンポラリーかつアーティスティックなアレンジで奏でられるCUBA & BRAZILIAN JAZZ コンテンポラリーの進化系の評価がある。彼のアルバムは過去に日本でもリリースされている。

 この南米のバンドは、12年間でわずか3枚のアルバムしか制作しておらず、それぞれの作品はリスナーに好評で批評家の評価も得ていると。2003年のデビュー作『Um DiaDe Chuva』は、創造的インスピレーションで溢れ固定観念を超越した音楽を生み出し、ジャズシーンの歓迎すべき変化として受け入れられ、その3年後、『Depois』は、ジャズへの独自のアプローチにおけるトリオのバイタリティを証明したと。今作はシディエル・ヴィエイラの加入で一段と安定感のある演奏になったと言われている。

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(Tracklist)

1. Partida (R. Mosca, S. Vieira, Y. Matos) 1:50
2. Gotas De Rocio (Y. Matos) 5:18
3. Cais (M. Nascimento, R. Bastos) 7:04
4. Compreensiva (S. Vieira) 8:41
5. Cimarron (Y. Matos) 4:54
6. Estrada Rural (S. Vieira) 5:54
7. El Vuelo (Y. Matos) 5:22
8. Farofa (Y. Matos) 5:00
9. Rosa Morena (D. Caymimi) 5:14

 ブラジルのみで発売されていたこのアルバムが、今回ヨーロッパで初めて発売され日本に入ってきた経過だが、なるほど印象として意外にもヨーロッパ的なコンテンポラリーの世界が感じられる。
 そしてこのトリオの名前も重要で「Om Mani Padme Hum、「宝石と蓮を身に着ける人」は、慈悲深い仏陀(Chenresig)の世界です。Omは身体の浄化を、Maは言語を、Niは心を、Padは感情を、Meは潜在意識を、Humは知恵を」を表しているということだ。この特定のマントラ(Mantraとは、サンスクリット語で「言葉」「音」「詠唱」を意味する言葉で、心を整える働きがある。宗教的には讃歌や祈りを象徴的に表現した短い言葉)に関連して名前を選択することは、精神的な要素にあることを示している。そんな世界から彼らの作り上げるアルバムに心を馳せなければいけないし、それに足る十分な響きを聴かせている。

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 M1."Partida "はオープニング宣言のようなもので、新加入のコントラバスを効かしたトリオメンバーの即興曲
 マトスの曲M2." Gotas De Rocio"(露のしずく)は、美しい繊細なピアノのメロディーが流れ心を奪われる
 M3."Cais " ピアノが神聖な世界を描き、中盤からクラシックの世界、後半はドラムスが響きジャズがが襲ってくる
 M4."Compreensiva "ピアノの流れと、ベースの響き、そしてドラムスとピアノの共鳴で広い世界への旅立ちの様だ
 M5." Cimarron "は荒々しいスタートであるが、一転して美しいリズムカルな流れに
 M8."Farofa"で初めてキューバ色が描かれて郷愁が支配、トリオは開放的な世界を描く。最後のM9." Rosa Morena"は、オリジナルではないが、ゆったりと重いベース、静かに心を一つにまとめる。

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 ブラジル、キューバなど我々が持つ華やかで開放的でリズムが展開するイメージとは全く異なった世界で、究極ヨーロッパ的な精神的な世界を求める美旋律の流れとともに、クラシック的な面を持ちながら創造的リズムでコンテンポラリーな面をしっかり描くところの近未来的ジャズ・アルバムに仕上がっている。マトスのピアノは繊細で美しい音色で自由にメロディーを作り出している。ヴィエラのベースはオーソドックスな響きで効果的なメロディーとリズムのサポートとともに曲のリードにも対応する。モスカは洗練されたダイナミックなリズミカルな推進力を位置付けている。
成程、10年前のものを敢えてヨーロッパから再リリースした意義が十分理解できたところであった。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 

 

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2025年4月12日 (土)

レシェック・モジュジェル leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」

冷徹ともいえるソリッドで透明のピアノ革新音が、神秘的な新音楽空間を造る
(歴史的新音楽)

<Contemporary Jazz>

leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」
ACT / Import / ACT90652 / 2025

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Leszek Możdżer – piano
Lars Danielsson – double bass, cello, viola da gamba
Zohar Fresco – drums, percussion

Img_7694w  ジャズ界において、その芸術性を語るのは私のような単なる音楽リスナーにとってはなかなか難しいことだ。長くクラシック、ポピュラー、ロック、ジャズなどなど多くを聴いてきての愛好者ということであって、その芸術性なり音楽学問的な世界にはいないということだ。ただ従来の世界から一歩コンテンポラリーな世界に足を踏み込んでいるという感覚で聴けるミュージックもある。そんな感覚で捉えられるのがこのポーランドの私の注目のピアニストのレシエック・モジュジェルLeszek Możdżer(⇢)である。そして又してもここにダニエルソンLars Danielsson(スウェーデン ↓左)のコントラバスとヴィオラ・ダ・ガンバの共鳴と、フレスコZohar Fresco (イスラエル ↓右)の複雑なリズムのドラムスとパーカッションの深みとのトリオ作品が登場した。

 このアルバム『Beamo』は、このトリオでの前作『Passacaglia』(2024年)に続いての発展させたもののようだが、もう十数年前に感動してここで取り上げた作品『THE TIME』(2004)以来20年の経過での記念的作品で、私にとってはそれ以来離れられないトリオであり感動的であるのだ。又モジュジェルの挑戦はこのトリオばかりでなくAdam Baldychとの『Passacaglia』(ACT9057,2024)などの芸術性の評価が高いモノが多い。

 そして今回の注目点は私にはその挑戦が音楽的に評価ができないのだが、モジュジェルが3つの異なる調律のピアノ(A = 440 Hz、A = 432 Hz、デカフォニックスケール)を同時に使用したことで、「伝統的な調性を興味深く不安定でありながらも深く美しいものへと作り変えている」との専門的評価を得ている事である。

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(Tracklist)

1.AMBIO BLUETTE – LESZEK MOŻDŻER
2.CATTUSELLA – LARS DANIELSSON
3.BEAMO – LESZEK MOŻDŻER
4.KURTU – LESZEK MOŻDŻER
5.LINKABILITY – LESZEK MOŻDŻER & LARS DANIELSSON
6.BRIM ON – LESZEK MOŻDŻER
7.GILADO – LESZEK MOŻDŻER
8.APPROPINQUATE – LESZEK MOŻDŻER
9.DECAPHONESCA – LARS DANIELSSON & LESZEK MOŻDŻER
10.FURD’OR – LESZEK MOŻDŻER
11.JACOB’S LADDER – ZOHAR FRESCO
12.ELIAT – LARS DANIELSSON
13.ENJOY THE SILENCE – MARTIN GORE

 むしろ冷徹なソリッドと言える上に透明で素晴らしいピアノの音を響かせるモジュジェルのピアノ・ジャズ世界が挑戦した「彼らの特徴的なヨーロッパ的なリリシズムに根ざした『Beamo』」は、"クラシカルなエレガンスと実験的な革新を融合させ、ミステリアスでありながら親しみやすいサウンドスケープを作り出している。これぞ、コンテンポラリージャズの変革的な旅だ"と表現しているのを見るが、まさにそんなアルバムで、コンテンポラリーな世界でありながら不思議に聴きやすいところが特徴だ。
 ある説明では、「ピアニストを囲むように配置された3台のグランドピアノはそれぞれA=440Hz、A=432Hz、そしてもう一つはオクターヴを10の等間隔に分割する特殊な調律(デカフォニック)のもの、自在にそれらの鍵盤を行き来することで驚くほど色彩豊かな音の世界を表現している。調律(基準周波数)の微妙に異なるピアノでユニゾンすることで意図的にデチューンの効果を得たり、1音を異なるピアノで交互に弾くことでその周波数の微妙な差異によって不思議な浮遊感を生み出したりと、ひとつの曲の中でいくつもの調性が同時並行で共存しているような、これまでに聴いたこともない音で聴覚を大いに刺激される。ということなのである。そのあたりの音楽的なポイント(平均律の音楽性の特徴など)や芸術的な複雑性は解らずに、私には単に音楽としての音とその兼ね合いとメロディーを聴くだけでの世界だが、相変わらず彼のピアノの調べには引き付けられてしまうのである。

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 M1."AMBIO BLUETTE" まさに深淵なリズム、夢想的で実験的世界がベースの柔らかさとピアノのソリッドの副雑音の調整が聴きどろ 。
 M2. "CATTUSELLA"ダニエルソンの美しい曲を二重の調律の異なるピアノでむしろ爽快に。
 M3."BEAMO" アルバム・タイトル曲でどこかミステリアス。M4."KURTU"はドラムが流れをつくり、透明感と複数のピアノのユニゾンによる浮遊感。中盤のピアノのインプロビゼーションの緊張感。M9."DECAPHONESCA"では、ダニエルソンはヴィオラ・ダ・ガンバ1を弾いていて、モジュジェルの世界的話題のデカフォニック・ピアノ(彼の開発した10音音階のもの)と同様に十平均律にチューニング、奇妙に響く奏法(アルペジオ)でピアノと競演するという芸を披露。
 こんな調子で、異空間のミステリアスな響きでクラシカルな世界と未知の近未来的世界が融合した感覚になるところも面白く、驚きの世界に没入してしまう。
 ラストはM13."ENJOY THE SILENCE"は英国ロックバンドの曲を取り上げて、むしろぐっと落ち着いた世界に導き、未知なるスリリングな挑戦から静かな展望への美しいピアノの音で締めくくり納めるという憎いアルバム構成。

 いまやジャズ世界も複雑な世界に広がっているが、欧州系で発展しつつあるコンテンポラリーな世界も、基本的にはクラシックの世界から発展している基礎の上で造られていて、音楽的な評価が高まっているのも聴きどころであり、古来のアメリカン・ジャズとは全く異なった様相になりつつあるところも見逃せないところだ。
 又このアルバムの従来の音楽に対しての革命性も今後話題として語りつかれるところは必至であろう、貴重である。

 

(評価)
□ 曲・演奏 : 95/ 100
□ 録音   : 90/ 100

(試聴)

 

(参考)Leszek Możdżer 略歴 (ネットより)
 ピアニストのレシェック・モジジェルは1971年ポーランドのグダニスク生まれ。幼少期から音楽に親しみ、5歳でピアノを始め、クラシック音楽の基礎を築いた。グダニスク音楽アカデミーでクラシックピアノを専攻し、1996年に卒業するが、在学中からジャズに強い関心を抱き、独自のスタイルを模索し始める。  1991年にポーランドを代表するサックス奏者ズビグニエフ・ナミスオフスキ(Zbigniew Namysłowski)のバンドに参加し、プロのジャズピアニストとしてのキャリアをスタートさせる。この時期に彼は伝統的なジャズとポーランドの民族音楽、クラシックの要素を融合させた独自の音楽性を確立し、1994年には初のソロアルバム『Impressions On Chopin』をリリース。ショパンの作品をジャズ風に解釈したこの作品は、彼の革新的なアプローチを示すものであり、批評家から高く評価された。
 2004年からラーシュ・ダニエルソンとゾハール・フレスコとのトリオ活動を開始し、『The Time』(2005年)や『Pasodoble』(2007年)、『Polska』(2013年)といった名盤をリリース。このトリオは20年以上にわたり彼の主要な表現の場となり、2025年の『Beamo』でさらなる進化を見せた。
 映画音楽の作曲などの巨匠クシシュトフ・コメダ賞(1992年)やポーランド外務大臣賞(2007年)などを多数受賞。名実ともにポーランドを代表するジャズ・ピアニストとなっている。

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2025年4月 7日 (月)

カーステン・ダール Carsten Dahl Golden Ratio Trio 「Interpretations The Norway Sessions」

音楽の深さへの誘いといえる世界を描く

<Jazz>

Carsten Dahl Golden Ratio Trio 「 Interpretations The Norway Sessions」
(CD) Storyville Records / Import / 1014363 / 2024

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Carsten Dahl (piano)
Daniel Franck (bass)
Jakob Høyer (drums)

[1-6]: Musikloftet AS, Oslo, Norway, Vidar Lunden, January 7, 2023
[7-12]: Thor Neby Studio, Oslo, Norway, Thor Bjørn Neby, March 12, 2024

Imagesw1  デンマークのピアニスト、カーステン・ダール(1967 -)(→)率いるピアノ・トリオの新作アルバム。彼についてはここで数年前に取り上げたが、その演ずるところのクラシック音楽から受けたであろうところ(バッハからラフマニノフと言う名が出てくる)とアグレッシブなジャズへの挑戦的なアプローチの両面の緻密にして美しさのある演奏には驚きを隠せない。つまり叙情的な処と、攻めの因子の調和が凄い。今回もそれを十分に堪能できるものとして受け入れた。

 彼のその特徴は、ドラムスとピアノの両方を幼少期から演奏し、そして学んできたという経過が生んだモノかも。そして2015年までデンマークの新文化院でピアノを教えていたが、「芸術が本当に何であるかを理解するための精神的で高度に宗教的なアプローチが、学校のプログラムの一般的な考え方と一定の対立を引き起こした」そのため、辞任したと述べているようだ。1982年にジャズ・ミュージックのプロになつてから現在まで多くのアルバムに演奏の姿を残しているが、一方なんと画家としての活動もあるようだ。
 その為か、彼の音楽に述べるところは「絵が解釈を指示し、ミュージシャンが単に絵の具と絵筆の役割を果たす小さな絵画」に例えていて、そして「この『Interpretations』は、リスナーが新しく深い方法で音楽と関わるように促します。行動と一時停止、期待と驚きの微妙なバランスこそが、この音楽を真に繁栄させるのです」と、なかなか難しい話をしている。

 なおトリオはスウェーデンのベーシスト、ダニエル・フランク(↓左)とデンマークのドラマー、ヤコブ・ホイヤー(↓右)と組んでいる。

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(Tracklist)

1. Interpretations
2. Morgonsang
3. Kristallkorall
4. The Golden Ratio
5. Vacker
6. Open Window
7. Wind
8. Sound of the Waves
9. Birds
10. The Art of Thinking
11. All Will Be Fine, Mother
12. Monk'ish Dancesteps
13. Breathing

[1-6]: Musikloftet AS, Oslo, Norway, Vidar Lunden, January 7, 2023
[7-12]: Thor Neby Studio, Oslo, Norway, Thor Bjørn Neby, March 12, 2024

  さて、こうして聴いてみると、このアルバムは2つの異なるレコーディング・セッションによって構成されていて、M1.からM6.の最初のセッションは美しく深淵な世界から真摯にして美的世界が描かれるが、M7.からM12.の2番目のセッションは、より生々しく、よりアグレッシブにして動と静が入り乱れ二面性によって音楽が築かれる。この様には説得力があり、描くところ繊細にしてスリリングな曲展開に圧倒される。

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   M1. "Interpretations" ダールの言う"解釈"と言う意味だろうか、三者によるアルバム・タイトル曲で、それぞれが如何に進もうとするかと言う主張とガイドが示されているのか、メロディーよりそれぞれの響きと音が絡み合う。
 M2. "Morgonsang" 優しさの溢れる示唆に満ちたピアノの響き、M3. "Kristallkorall" さらに深遠な世界に真摯に流れ、M4. "The Golden Ratio"でべースが深く沈むが、ピアノは決して暗くならずに静かに語る
 そしてM5. "Vacker" どこか心にゆとりを持って明るく新鮮な世界広がる。そしてM6. "Open Window"にて、希望に満ちた豊かさを描かれ、ここまでで最初のセッションは締めくられる。

 続く後半次のセッションにM7. "Wind"が展開する。ここからはガラッと変わってアグレッシブな攻めの前衛的響きが展開。そしてM8. "Sound of the Waves"ここでは異様なほどの静粛空間が襲う。ベースが刻むところからピアノが呼応し、ドラムスのブラッシングの音が、更に不安に導く。
 M9. "Birds"で再び前衛的響きが不安に進行展開し、三者のアグレッシブなインプロの交錯が見事。
 M10. "The Art of Thinking" 描くところ美旋律は無く、響きによる一つのアートに描き上げる、M11. "All Will Be Fine, Mother"テンポはゆったりとなって疑問から一つの光明に歩み始める。
 M12. "Monk'ish Dancesteps"再び荒々しさが・・・そしてM13. "Breathing"の落ち着いた世界が築かれる。

 いずれにしても、この一枚のアルバムの中で作り上げる"動と静"と"美とスリリングな不安"の対比が、クラシック音楽の世界からアヴァンギャルドな因子の感じられるジャズの攻めとの展開に圧倒されて、あっという間に終わってしまう感覚になる。ホイヤーのドラミングは繊細にして刺激的、フランクのベースは深く心に響く、ダールの叙情的美とスリリングな前衛性の二面のピアノとのトリプル作用が、描くところ新鮮だ。相変わらずカーステン・ダールの音楽的芸術性の奥深さに堪能するアルバムであり、音楽の深さへの誘いでもある。

(評価)
□ 曲・演奏  :    90/100
□   録音    :    88/100

(試聴)

 *

 

 

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2025年3月18日 (火)

アドニス・ローズ、ガブリエル・カヴァッサ  Adonis Rose Trio「FOR ALL WE KNOW」

本格的ジャズ・ピアノ・トリオの演奏と、どこか迫力を感ずるヴォーカルに惹かれる

<Jazz>

Adonis Rose Trio & Gabrielle Cavassa「FOR ALL WE KNOW」
STORYVILLE RECORDS/ Import /EAN 0717101853526/1018535/2024

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Adonis Rose (drums)
Ryan Hanseler (piano)
Lex Warshawsky (bass)
Gabrielle Cavassa (vocal on 1~6)
Recording: Word of Mouth Studios, New Orleans, April 2022

Imagesw_20250318191501  ニューオリンズ・ジャズ・オーケストラの芸術監督であり、ドラマーとしても有名なアドニス・ローズ(⇢)の最新ピアノ・トリオ・アルバムだ。このアルバムは昨年あまり注目しなかったものだが、ヴォーカル・アルバムとして先日発売の雑誌「ジャズ批評」(244号)で評価が高かった(銅賞)ものであって、敢えてここに聴いてみた次第である。

 このアルバムでは、9曲中6曲にガブリエル・カヴァッサのヴォーカルが入る。ピアノ・トリオはローズが期待しての2人の若きミュージシャンを呼んでいる。それは今最も注目株の新人ベーシストの一人、レックス・ウォーショウスキー(↓中央)と、ピアニストのライアン・ハンセラー(↓左)が参加。ハンセラーは 2 曲のオリジナル曲を提供している(下記TracklistのM7,M9)。

 女性ヴォーカリストのカヴァッサGabrielle Cavassa(↓右)は、米国カルフォルニア州出身で、2021年のサラ・ヴォーン国際ジャズ・ヴォーカル・コンペティションの優勝者で、伝統を知る素晴らしく才能のある新世代のボーカリストとして評価が高い。

 さて当アルバムのテーマは” スタンダード曲" にあるようであり、又ジャズの歴史を形作ってきた不朽の名曲への魂のこもったオマージュであるようだ。自身のキャリアの中で、トリビュート・アルバムやスタンダードをメインにしたレコーディングをしたことが無かったローズは、このアルバムを通してミュージシャンとして、アーティストとしての自分の仕事について考えるようになり、この気持ちをアルバムに凝縮して見たようだ。 そして、もともと今作に参加予定で あったという2020 年にパンデミックによりこの世を去った伝説的なジャズ・ピアニストのエリス・マルサリス(1934年11月14日生まれ、米・ルイジアナ州ニューオーリンズ出身)へ捧げている。

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(Tracklist)
1.I’ve Grown Accustomed to His Face *
2.So Many Stars *
3.You Taught My Heart to Sing *
4.You Go to My Head *
5.For All We Know *
6.What Are You Doing the Rest of Your Life *
7.I Still Think She’s Pretty
8.Second Thoughts
9.Blues for Lex

(*印 Gabrielle Cavassaのヴォーカル入り)

   ドラマーとしてのアドニス・ローズに関しては、過去に意識して聴いてこなかったので、ここではちょっと興味津々に聴いたところである。このトリオの演奏は、ここではスタンダード・ナンバーをジャズ心を大切にしたちょっと新鮮なアレンジでスタンダード曲の心を裏切らないように敬意を表しつつ演じた世界のようである。彼のミュージシャンとしての経過で、"スタンダードレコードを作りたい"という憧れという満たされない欲望が残っていたのだと言う。彼は自分の音楽的遺産について考えていることに気づき、不朽の名曲に捧げられたレコードを仕上げてみたいという処で出来たアルバムということだ。

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 オープニングのM1."I’ve Grown Accustomed to His Face "は、これは戦後の有名なミュージカル「マイ・フェア・レディ」の曲で、米国に関係あるヴォーカリストは殆どが歌っているというスタンダード曲。私が印象深いのはダイアナ・クラールがアルバム「QUIET NIGHTS」の中にしっとりと歌っているのだが、ここではカヴァッサの心情豊かにややハスキーが入った可憐と言うのでなくむしろ迫力が感ぜられ訴える感じの歌が印象深い。トリオもピアノがバツクにメロディーを静かに流し、ベースがそれを受け継ぐパターンでしっとりしているバラード。
 M2."So Many Stars "は、意外にもセルジオ・メンデスの曲を取り上げています。ここではブラジル風でなく、しっとりとジャズ曲として歌い上げている。
  又M5."For All We Know"はカーペンターズで有名になった曲。こんな調子に幅広い選曲。しかし、カヴァッサ節というか、一貫して丁寧なゆったりとした中で感情たっぷりの歌だ。
  こんな感じで、トリオもM1.-M6.の6曲はカヴァッサ の歌をフューチャーしていて、主としてどちらかと言うとしっとり系のバラード演奏である。しかし、M7.-M9.の3曲はウォーカル抜きのトリオでの仕上げでは、ちょっと印象が変わってM7."I Still Think She’s Pretty"は、トリオのエネルギーが伝わってくる演奏。特にピアノのメロディー主導の中でドラムスはステック音とシンバル音が印象的でサポート、ベースもアンサンブルにエネルギーを注ぐ。
 M9."Blues for Lex"のトリオ演奏ではかなりアグレッシブな演奏でヴォーカルものの演奏と異なった面を見せている。このあたりがもしかしたらトリオの彼らの最もメインな流れなのかもしれない。

 「ハンセラーのピアノの芸術性、ウォーショウスキーのダイナミックなベースライン、カヴァッサの感情的なボーカルそしてリーダーのローズの味わい深いドラミング」と評価されているアルバムとして聴いてみた次第である。これはなかなかのもので、「ジャズ批評」のヴォーカル部門では録音の質も良くトップより上に持って行ってもよさそうなアルバムだった。

(評価)
□ 演奏・歌 :   90/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

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2025年3月13日 (木)

山本剛 TSUYOSHI YAMAMOTO TRIO 「 REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE」

リスナーのリクエスト選曲と往年のタッグでのスタジオライブ録音で

<Jazz>

TSUYOSHI YAMAMOTO 「REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE」
Meet Yoshihiko Kannari
SOMETHIN'COOL / JPN / SCOL-1076

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21081508w Tsuyosi Yamamoto山本 剛 (Piano)
Hiroshi Kagawa香川 裕史 (Bass)
Toshio Osumi大隅 寿男 (Drums)

Recording Studio : ONKIO HAUS 1st
Recording & Mixing Engineer : Yoshihiko Kannari 神成芳彦

 


 ピアニスト山本剛(右上)に関して、ある意味での復帰と言っていい2021年のアルバムMisty For Direct Cutting』(SCOL1056)以来、ピアノ・トリオの演奏だけでなく、CDやLPの音質とにもオーディオ的に注目度が再燃している。最近のハイレゾ・ブームや、現在暗礁に乗り上げた形になってしまっているCDにおけるMQA方式の出現などの刺激によって、良い音で音楽を楽しもうという一つのブームでもある。

 そんな中で、想い起すと1970代のあの強烈なジャズ界の刺激でもあったTBM(スリー・ブラインド・マイス)レーベルを、誰もが思い出すことになった。特に山本剛トリオのアルバム『Midnight Sugar』、『Misty』にはジャズ・ファンの誰もが自己のオーディオ装置やオーディオ喫茶で、鮮烈な演奏とリアルな音に虜になったのであった。それが50年近くが経過して、曲"Misty"の作曲者のエロール・ガーナー生誕100周年を記念して山本剛トリオによる音質を追求した『Misty for Direct Cuttimg』がリリースされ、日本のジャズ・ファンも大いに刺激を受け、好評であったのであった。

 そしてなんと、話はエスカレートして当時のTBMレーベルの名レコーディング・エンジニアの神成芳彦(↓上左)の登場の話が進み、ここに2022年ピアニスト山本剛(↓上右)とエンジニア神成芳彦の再会が実現したのであった。それが『BLUES FOR K』(SCOL1052)であり、ベース香川裕史(↓下右)、ドラム大隅寿男(↓下左)とのトリオでの録音が実現した。昔を知るファンにとっては何につけてもジャズとオーディオの感動の再現ということで大いに注目し、セールスと評価は好調で、続いて『SWEET FOR K』(SCOL1071, 2024)を発表し海外でも快調な展開があった。
 そんな経過の中で、この企画は更に進行して今年2025年には、「伝説のTBMタッグ企画 第3弾」としてこの 山本剛トリオによる『 TSUYOSHI YAMAMOTO / REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE 』の登場となったのである。これはリスナーのリクエストによる選曲 と スタジオライブ録音という企画が実現して"ベスト・オブ・ベストアルバム"が完成したわけだ。
  なお参考までに、このトリオは、2023年にevosoundからホールの臨場感を狙っての高音質録音による充実演奏盤として"Misty","Speak Low", "Midnight Suger"等の他、人気スタンダードを演奏したアルバム『A SHADE OF BLUE』(EVSA2536M)をリリースしている。

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 これはかつてTBMレーベル作品や前作『SWEET FOR K』もレコーディングされた東京・音響ハウスにて、なんと観客を入れてのスタジオライブレコーディングを行ったもの。神成マジックと言われるスタジオ録音を企画して、山本剛の得意とするライブ演奏を実現させた。曲は事前に公募されたリクエスト曲から選曲されるという音楽ファンの夢を実現しようと試みられた作品だ。

(Tracklist)

1 Alice in Wonderland
2 Fools Rush In
3 Milestones
4 Charade
5 Doxy
6 The Way We Were 追憶
7 For Once in My Life
8 Gentle Blues
9 Jealous Guy
10 Misty
11 The Third Man Theme 第三の男
12 All the Things You Are
13 MC 〜 Blues
14 Danny Boy

 このところ、新録音で3枚のアルバムが登場しているので、このアルバムは演奏は目新しいという処は無いが、Marvin HamlishのM6."The Way We Were 追憶"の美しさを感ずる再演が聴かれたり、人気レパートリーのErroll GarnerのM10"Misty"等はもちろん、M1."Alice in Wonderland" , M3."Milestones", M4."Charade", M11."The Third Man Theme 第三の男", M12."All the Things You Are"、等、やはりリクエストならではの選曲で我々の聴きなれた曲の登場で究極のベスト盤となっている。最後がM14."Danny Boy"で締めているが、それらしいこの会のお別れムードを盛り上げている。

   この録音はスタジオにオーディエンス(約20名)も入れてのライブのスタイルをとったのであるが、曲間に拍手が録音されている。如何にもライブですよと言っているようで、これがちょっととって付けたような拍手で、むしろ気分を害す。それがいやにクリアに拍手が録音されていて、ちょっと作為的な感じもしないではない。これは敢えて入れなかった方が良かったのではないかと思う。
 又このCDはSACD盤である。高音質をうたったCD-MQA盤が座礁している為、このところSACDによるハイレゾ盤が主力になっている。ちょっと価格が上がっているのが難点。カナダのLenbrook Media GroupでMQA方式がグレード・アップさせようとしているようでどうなるだろうか。ここで取り上げたアルバム『Misty For Direct Cutting』は、MQA盤で私はかって購入したがSACDよりは安価であったのが良いところ。

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 神成芳彦の作品としての特徴のピアノの輪郭のスッキリとしたやや硬めの音は、ちょっとあの昔の名録音盤を思い出させるところがある。ドラムスはシンバルやハイハットからの音はクリアに響き、ベースもしっかり聴けて心地よい。録音にはピアノは単一志向性の4011を含む3本のマイクを使っていて、又ベースはピアノの鍵盤へのタッチの見える位置で見ながら演奏するということでピアノの後ろに位置して2本のマイク、そしてドラムスはなんと9本のマイクを使い、全体像も捉えるのか合計16本使っていたという(↓右の図)。こうして高音質を目指してゆく事も私にとっては快感である。
 今回のこのようなアルバムのリリースは、私のように70年代を懐かしむ人間にとっては嬉しい企画であったと言っておく。

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(参考) <TSUYOSHI YAMAMOTO / 山本剛> (ネットより)
 1948年3月23日、新潟県佐渡郡相川町に生まれる(今年77歳喜寿だ)。すぐに佐渡島より新潟に移り、小学生の頃からピアノを弾き始める。高校生時代、アート・ブレーキーとジャズ・メッセンジャーズの生演奏の虜となりジャズ・ピアノを独学で習得する。1967年、日本大学在学中、19才でプロ入り。ミッキー・カーティスのグループを振り出しに英国~欧州各国を楽遊。1974年、レコード・デビュー(「ミッドナイト・シュガー」TBM)。スケールの大きなブルース・フィーリングとスイングするピアノがファンの注目を集め、続く「ミスティ」(TBM)が大ヒット、以後レコード各社より数多くのリーダー・アルバム、共演アルバムを発表、人気ピアニストの地位を確立する。1977年、アメリカ、サンフランシスコ、モンテレー・ジャズ・フェスティヴァル出演。1979年、スイス、モントルー・ジャズ・フェスティヴァル出演。大好評を得、その後渡米、1年間ニューヨークで音楽活動を行う。帰国後は、六本木のライヴ・ハウス"ミスティー"でハウス・ピアニストとして活動を再開。 笠井紀美子、安田南等ヴォーカリスト達と共演する一方、ディジー・ガレスピー、カーメン・マックレイ、サム・ジョーンズ、ビリー・ヒギンズ、エルビン・ジョーンズ、ソニー・スティット、スティーヴ・ガッド、エディー・ゴメスetc. 多数の本場ミュージシャンと共演。その間、英国のバタシー・パーク・ジャズ・フェスティヴァル、ニューヨーク独立記念日ジャズ・フェスティヴァル、コンコード・ジャズ・フェスティヴァル等に出演。TV番組「リュウズ・バー(村上龍構成、出演)」の音楽を担当するなど各方面で活躍。

(評価)
□ 演奏  88/100
□ 録音  88/100
(試聴)

 

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2025年3月 3日 (月)

ルドヴィコ・フルチ Ludovico Fulci 「TI RACCONTO DI ME」

繊細で端正、折り目正しくスマートな清潔感がたっぷの叙情性

<Jazz>

Ludovico Fulci 「TI RACCONTO DI ME」
ALFA MUSIC / IMPORT / AFMCD315 / 2025

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Ludovico Fulci (piano)
Dario Rosciglione (bass except 12, 14)
Amedeo Ariano (drums except 12, 14)

 イタリアのペテラン・ピアニストのルドヴィコ・フルチ(下左)、今回はやはりイタリア仲間のダリオ・ロシリオーネ(Bass、下中央)、アメデーオ・アリアーノ(Drums、下右)をフィーチャーしたピアノ・トリオ作品である。
 フルチLudovico Fulciは、1959年イタリアのメッシーナMessina生まれで、ローマを拠点としてジャズ・ピアノと作曲の修練を積み、1980年代頃から映画やTV番組の音楽の作曲を数多く手がけるようになって、巨匠エンニオ・モリコーネとのコラボレーションでも幾多の映画製作に携わってきた、主にサントラ音楽の分野で国際的に名を馳せるイタリアのヴェテラン作曲家兼ピアニスト。しかし、私の記憶では過去のアルバムは思いつかないのだが、本盤はピアノ・トリオによる純ジャズ・アルバムということで聴くことになった。全曲彼よるところの作・編曲である。

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(Tracklist)

01. Der Erste Tag Des Jahres
02. Un Amore Nascosto
03. One For Tobias
04. I Baci Sulla Pelle
05. Ti Racconto Di Me
06. Una Giornata Particolare
07. Il Pensiero Di Te
08. Deep Into Your Soul
09. Einfach So
10. Grit
11. Le Nostre Parole
12. Un'altra Possibilità (solo piano)
13. Il Terzo Incomodo
14. Die Hoffnung (solo piano)

 長年映画音楽の分野で働いてきたフルチならではの聴きやすく美しいメロディーが溢れてくる抒情的な作品集だ。ベテランらしく、若者の挑戦的なアプローチでなく、繊細で端正、クール・スウィートで折り目正しくき清潔感がたっぷのでスマートさが感じられる。一音一音が鮮明な輪郭でクリアーに浮かび上がってくる歯切れのいいクリスタル風タッチのピアノ、アメリカ・ジャズとは全く異なったヨーロピアンならではのエレガンス溢れる抒情派プレイ。まさに耽美指向の演奏で満ちている。 

M1. "Der Erste Tag Des Jahres" 端正な音が響いて襟を正して聴く
M2. "Un Amore Nascosto" 優しさと美しさのピアノのメロディー、まさに秘められた愛の姿。
M4. "I Baci Sulla Pelle" (肌にキス) ピアノが語る静かな物語
M5. "Ti Racconto Di Me" (私のこと教えてあげる)明活な展開、イキイキ溌溂
M6. "Una Giornata Particolare"(特別な日)真摯な気持ちで
M7. "Il Pensiero Di Te"(あなたへの想い)、M8. "Deep Into Your Soul"(魂の奥深くまで)ピアノの語りとベースの響き、そしてピアノとベースのハーモニーががいかにも深い心を表して・・・
M10. "Grit"ピアノが美しく描き、ベースが力づける勇気
M12. "Un'altra Possibilità"M14."Die Hoffnung"は、クラック調のピアノソロ演奏でぐっと真摯に纏める

 久しく聴かなかった端正にしてロマンティックでしかも詩的な世界である。この世界に時に浸るのは良いことだ。そして一方ちゃんとスウィングして見せるし、ベースやドラムスがジャズへのグルーヴ感を盛り上げてくれる。オリジナル曲でここまで爽やかで優しさ溢れた曲調は、さすが年季が入っての至る世界かとやたら感動していますのである。
 こんな美しい世界に一時でも浸って、日常を過ごすことも大切なのかもしれない。なかなか爽快感につつまれる優良作品だ。いやはやイタリアのもつ音楽の幅の広さは恐ろしい。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 

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2025年2月25日 (火)

恒例の「ジャズ批評」2024 ベスト・アルバム

51ltrpljbul 「2024 ジャズ・オーディオ・ディスク大賞」= 雑誌「ジャズ批評」244号 

 今年も楽しませてもらっている「年間ベスト・アルバム」の番付表である。そもそも音楽と言うのは好みが分かれる世界であるので、こうした番付をするのはそれなりに意味があるのかないのか、それでも順位の上のもので仮に聴いてなかったものがあれば、聴いてみたくなるのが人間の哀しき性(さが)で、そんなことで毎年面白く見ているのである。

 

「インストゥメンタル部門」 ・・・ 相変わらずの茶番が露呈

518sqnppkl_ac__20250225181501  今年も上位は1、2、3位を金、銀、銅賞と言う判定で、以下39位まで並んでいる。
 後藤啓太氏によって、「オーディオディスク大賞」の意味を説明していてこれは結構。いろいろな見方はあると思うが、何か決めないとおさまらない。音質重視で音質とは「生々しさ」「音の明瞭さ」「楽器同士の音の分離」と言ってますね。

 金賞はAlessandro Galati「Plays Standards」(⇢) 
                  (まあ私も納得)
 銀賞 Roberto Olzer 「Aurora」
 銅賞 Mateusz Palka Trio 「Melodie. The Magic Mountain」

(問題点)
 10人の選考委員投票集計で、選考委員長の後藤誠一氏は金銀銅賞に満足のご様子。おやおやあなたはこの選考投票方法の異常が相変わらず解ってないようで、これでは茶番と言われてしまう。つまり投票集計母数が、ものにより10人と9人と違うじゃないですか、寺島氏はアルバム関係者と言う事で、自分のレーベルものは0点(正しく言えば空欄にすべき)。それを投票10人に入れて比較して順位を付けているのが非科学的と言っているのです。以前も指摘しているのですが、よわった事です(笑)。
 つまり4位の寺島レコード盤は9人の集計、その上の3位(銅賞)は10人の集計です。4位は9人、3位は10人と多いのですよ。寺島氏はこの自己の4位盤に評価点を入れられないとして0点。仮に入れるとしたら最高点は10点なので、少なくとも自分で評価している盤だから5点は入れるでしょう、そうしたら上の3位になってしまうのですよ。オリンピックもそうですが金銀銅は注目されますが、残念ながら4位は忘れ去られることもあります。そんなに3位と4位は違うのです。それをこんなズサンな集計で行っているところが茶番なんです(小学生でも解ります)。

 実際、この寺島氏個人は納得しても、順位を決めるとなると集計に科学性が必要です。この寺島氏をどう扱うかは統計科学的でなければなりません。このように0点なら、その評価と意味を明記しなければなりませんね。又更に基本的に10人という少人数では、選考委員の一人一人の選定の影響も重大になりすぎますね。

 

「ヴォーカル部門」 ・・・ 評価の違いに驚きつつも

  しかし、ジャズ・ヴォーカルは、なんで女性ばっかりなんでしょうかね。アルバムのリリースも圧倒的に女性ものばかりですね。昔はシナトラなど人気でしたがね。
20240307_a1w_20250225171801  さてそれはさておき、今回の選考結果は全く私とは別物でした。それだけヴォーカルものはその声・質・歌の表現・ムードなどに大きく影響され、好みが分かれることも大きな原因かと思いますね。

 金賞 : 「Midnight Sun」Moon with T.Yamamoto 
                      (⇢)
 銀賞 : 「Dreams Lost and Found」Halie Loren
 銅賞 : 「For All We Know」Adonis Rose Trio & Gabrielle Cavassa



  まあ、結果はそれなりに良いのかとも思いますが、私とは大分異なるので、参考までに私の2024年ベストものを挙げることにします。(評価は聴いた時のものです、後からは若干変わりましたが、それを言うとキリが無いので)

  [私のベスト7]
🔳「Five Minutes」Inger Marie 178点(↓上段左)1008806237_20250225173301 
🔳「Shadow」Lizz Wright 180点(右⇢) = (最高点)
🔳「Sombras」Lauren Henderson  178点(↓上段中央)
🔳「Let'sWalk」Madeleine Peyroux 177点(↓上段右)
🔳「Round Midbight」Sandy Patton 178点(↓下段左)
🔳「Almost in Your Arms」Claire Martin 178点(↓下段中央)
🔳「Impressions of Evans」Ellen Andersson 177点(↓下段右)

 (このように上位は混戦、実は「THE ESSENTIAL」Melody Gardot も良かったが、アルバムとしてはベスト盤に入るのでここに挙げませんでした)

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 「Five Minutes」           「Sombras」              「Let's Walk」

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「Round Midnight」     「Almost Your Arms」   「Impressions of E.」

 私の評価盤が「ジャズ批評」の金銀銅賞が一つも絡んでいないのが寂しいが、私の好みも入った評価ですからこんなところでした。最高点はLizz Wright「Shadow」(私の金賞)でした。Madeleine Peyroux、Claire Martinも良かったんですがね(もう少し良い点をあげとけば良かったと反省)。 

 まあ、アルバムの評価は聴き手の好みが大きいので、そんな意味を理解して楽しんで見たいものです。

(試聴)
Alessandro Galati

*
MOON with Tsuyoshi Yamamoto

*
Lizz Wright

 

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2025年1月18日 (土)

アリ・ホーニグ Ari Hoenig Trio 「 Tea For Three」

異色の革新的メロディック・ドラマーのリーダー・ピアノ・トリオ作品

<Contemporary Jazz>

Ari Hoenig Trio 「 Tea For Three」
Fresh Sound New Talent / Import / FSNT691 / 2024

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Ari Hoenig (drums,vocals only on #11)
Gadi Lehavi (piano)
Ben Tiberio (bass)

Recorded at Big Orange Sheep Studios, Brooklyn, New York, on July 28, 2023

1900x1900000000w_20250113191201   まさに現代ジャズの最前線で活躍を続けるNYの人気ドラマー、アリ・ホーニグ(→)のリダー・アルバム。2021年録音『Golden Treasures』(FSNT 637)に引き続きイスラエルの新鋭ピアニストGadi Lehavi(P.  下左)とBen Tiberio(B.下右)と組んだトリオによる2023年録音作品だ。
 アリ・ホーニグによるコメントでは、「同じメンバーで2枚続けて録音するのは初めてだ。 その理由は聴いていただければわかると思う。 このグループは成長し続け、一緒に演奏するたびに新しい音楽の道を提供してくれる。 ガディ・レハヴィとベン・ティベリオの創造性、音楽性、友情に感謝したい」と、彼の現代的なコンテンポラリー世界の心をくすぐるのだろう。

 アリ・ホーニグは、1973年生まれのアメリカ・フィラデルフィア出身のジャズドラマー。音楽一家に育ち、父親は指揮者でクラシック歌手、母親はバイオリニスト兼ピアニストという環境で、幼少期から音楽に親しんできたた。6歳でバイオリンとピアノを始め、12歳でドラムに転向し、14歳の頃には地元のクラブで演奏経験を積む。大学では音楽を専攻し、ノース・テキサス大学やウィリアム・パターソン大学で学ぶ。その後、ニューヨークに拠点を移し、マイク・スターン、リチャード・ボナ、パット・マルティーノなどの著名なミュージシャンと共演を重ね、ニューヨークのジャズシーンで頭角を現した。初リ-ダ-作は、1999年の『Time Travels』で14枚のCDを録音、作曲、制作。
  彼のドラムスの演奏スタイルは、異色の革新的メロディックな表現が特徴的で、ドラムスティック、マレット、さらには手や肘などを使用してドラムのピッチを変更するユニークな能力での独自の技術が魅力的て、メロディーまでも演じてしまう。また、複雑なリズムで、高度なコンビネーションを展開して、なんと言っても感情を描くプレイで聴衆を魅了する。ニューヨーク大学とニューヨークのニュースクールで現在も教鞭をもとっている。

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(Tracklist)

1. Condemnation (Hoenig-Schwartz-Bart) 6:28
2. Hold Up A Minute (Ari Hoenig) 6:56
3. Nominor (Ari Hoenig) 6:17
4. Alone (Ari Hoenig) 4:26
5. You Stepped Out of A Dream (Brown-Kahn) 5:45
6. Theo’s Groove (Ari Hoenig) 7:08
7. Irish Golem (Ari Hoenig) 6:09
8. Tea for Two (Youmans-Caesar) 5:56
9. Fatti Mi Me (Ari Hoenig) 4:13
10. Work Song (Adderley-Brown) 4:32
11. For Tracy (Ari Hoenig) 2:58

 M1."Condemnation " ベースとドラムスで重厚にスタートして、前半から速攻でスピーディなピアノと三者がスリリングなバトルを演じて興味を誘導。
 M2."Hold Up A Minute "リズムカルなドラムスから展開のコンテンポラリーな世界。
 M3."Nominor "ぐっと落ち着いたベースが印象的にスータートし、次第にドラムスが曲を弾ませ、ピアノは美しく流れる。そしてM4."Alone "に至って、ゆったりと深く落ち着いた物思いの世界が印象的。
 M5."You Stepped Out of A Dream"M6."Theo’s Groove" は、彼らの超越したセンスと技能力の凝集した曲
 M7." Irish Golem " 美しくしっとり聴かせる。ピアノの美しい旋律と繊細なシンバルやブラシングの音、支えるベースが心に響く。
 M8."Tea for Two" アルバム・タイトルへ結びつく曲の登場、ここまでドラムスが激しくリズム変化すると彼らのオリジナル曲に聴こえるが、しっかりメロディは織り込んでいる。
 M10."Work Song " ドラムスのリズム取りが自在に変化し訴えてくる。
 M11."For Tracy " 驚きのホーニグのヴォーカルで、むしろ感謝を表したような曲。

 中身は、ホーニグのオジナル曲中心だが、スタンダードのM5."You Stepped Out of A Dream"、M8."Tea for Two"、M10."Work Song"などをカバーする。しかしこのカバーは、原曲の世界をはるかに超えてドラムスが躍動的な世界や情景をも描き、ピアノ、ベースと共に独特な世界に導いている。
 とにかくトリオ3人が互いに感ずる中に刺激し合いながらの強靭なリズム、スピード感溢れたスリリングな展開、緩急自在の流れの中で、自然発生型のインプロヴィゼイションが入り乱れるNY流コンテンポラリー・ピアノ・トリオ作品、まさに次世代を感じさせるところがお見事。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏  90/100
□ 録音       87/100
(試聴) "condemnation"

 

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