1. The Beginning And The End 2. Soon 3. Little Brother 4. Meditation in F mi 5. Snow Castle 6. Branduardi 7. Misty Mountains 8. No Moon Night 9. Kansas Skies 10. I Wonder Prelude 11. I Wonder 12. When the day is done
M1."The Beginning And The End"はアルバム『The Sound of a Rainbow』からだが、タイトルからして何やらこの現状の彼らを物語っている雰囲気ですね。そしてこのアルバムを聴いてみて、アレっこんな曲があったのかと思うのは、彼のトリオ・アルバムというのは刺激の無い優美にして安心感の強い曲だけあって、意外に覚えていないことに気がついた。
01. Night Waltz / Enrico Pieranunzi Trio 02. Elizete / The Chad Lawson Trio 03. Morgenstemning / Dag Arnesen 04. C'est Clair / Yes Trio 05. Tangorrus Field / Jan Harbeck Quartet 06. Danzon del Invierno / Nicki Denner 07. Bossa Nova Do Marilla / Larry Fuller 08. Contigo en la distancia / Harold Lopez-Nussa 09. La explicacion / Trio Oriental 10. Soft as Silk / David Friesen Circle 3 Trio 11. Vertigo / Opus 3 Jazz Trio 12. The Miracle of You / Niels Lan Doky 13. New York State of Mind / Harry Allen
冒頭のM1."Night Waltz"は、昨年ここでレビューしたエンリコ・ピエラヌンツィのアルバム『NEW VOSION』(2019)(下左)からの曲。そしてM3."Morgenstemning "が北欧ノルウェーのダグ・アネルセンのかなり前の三部作のアルバム『NORWEGIAN SONG 2』(LOS 108-2/2011)(下中央)からであり、この2枚のアルバムが私の所持しているものであった。その他11曲は、幸運にも私にとっては未聴のアルバムからの選曲であり、初聴きで期待度が高い。 そもそもこのアルバムを愛してきたのは、結構日本にいる者にとって一般的に知られていないモノを紹介してくれていること、又私のジャズ界では最も愛するピアノ・トリオものが圧倒的に多い、更にどことなく哀愁のある美メロディーを取上げてくれていることなどによる。そして初めて知ったものを私なりに深入りしてみようという気持ちになるモノが結構あることだ。更になんとなく欧州系のアルバムも多いと言うことが私の好みに一致しているのである。
M1."Night Waltz"と続くM2." Elizete "は、哀愁というよりはどちらかというと優美という世界。 M3."Morgenstemning" 聴きなれたグリークのクラシックからの曲。ノルウェーのミュージクですね。美しい朝の光を浴びて・・・と言う世界。とにかく嫌みの全くないダグ・アネルセンの細工無しの美。 M5."Tangorrus Field" (上右) 寺島にしては珍しくテナー・サックスの登場。デンマーク出身のヤン・ハルベック。私はうるさいサックスはちょっと苦手だが、彼の演ずるは豪放と言うが、この曲では何故か包容感のある優しさと幅の広さが感じられ、ピアノとの演じ合いに美しさすらある。今回のアルバムには、最後のM13."New York State og Mind"にはHarry Allenのサックスがやはり登場する。 M7."Bossa Nova Do Marilla" は、ボサノバと言いながらも、驚きのLarry Fullerのピアノの旋律を演ずる流れはクラシックを思わせる。 M8." Contigo en la distancia"(下左)、キューバのHarold Lopez-Nussaにしては、信じれないほど哀愁の演奏。いっやーー驚きました。 M10."Soft as Silk" (下中央)、ベーシストのDavid Friesenの曲。どこか共演のGreg Goebelのピアノの調べが心の奧に響くところがあって、この人の造る曲にちょっと興味を持ちました。ベーシストって意外に美旋律の曲を書く人が多い気がしますが・・。 M12."The Miracle og You" (下右)、このピアニストの Niels Lan Dokyって、実は過去に聴いて来なかった一人で、今回ちょっと興味をそそる技巧派ピアノに聴き惚れて、興味を持たせて頂きました。
オーディオ・マニアが結構気に入っているアルバムに PREMIUM RECORDS の『BEST AUDIOPILE VOICES』というコンピレーション・アルバムがあるが、これは主としてJazzy not Jazz パターンから、Jazzにいたる女性ヴォーカルが主体である。目下7巻目の「Ⅶ」がお目見えしている。実はその記念すべき2003年の第1巻(→)においては、ここで何度も取上げているEva Cassidyが2曲収録されて主役の役を果たしているが、この米国女性ジャズ・ピアニストにしてヴォーカリストのカーリン・アリソンKarryn Allysonmも登場。そこで実は気にはしていたが、私は欧州系に寄ってしまうために、これまでアルバムをしっかり聴くということなしで来てしまった。しかしなんとなく気になっていて、この秋にアプローチしてみようと思ったのである。
█ <Jazz> KARRIN ALLYSON 「BALLADS-Remembering John Coltrane」 Concord Jazz / USA / CCD-4950-2 / 2003
Karrin Allyson : Vocals, Piano James Williams : Piano John Patitucci : Bass Lewis Nash : Drums Bob Berg : Tenor Sax Lames Carter : Tenor Sax Steve Wilson Soprano Sax
1. Say It (over And Over Again) 2. You Don't Know What Love Is 3. Too Young To Go Steady 4. All Or Nothing At All 5. I wish I Knew 6. What's New 7. It's Easy To Remember 8. Nancy (With The Laughing Face) 9. Naima 10. Why was I Born ? 11. Everytime We Say Goodbye
このように、M1-M8 までコルトレーンのアルバムと完全に曲順も同じに演じきった。ピアノ演奏はここでは彼女はM5.の一曲のみで、他はJames Williamsがピアノ・トリオのパターンで演じ、それにSaxが加わる。 とにかく彼女はヴォーカルに専念し、力んで気負っていることも無く例のハスキーがかった声で、当時のまだ若き年齢を考えると深みのある心を寄り添っての歌に驚きだ。全体に明るいジャズでなくバラードでやや暗めの線を行くも、なかなかの表現力があって聴き応えは十分。なにせコルトレーンですからサックスのウェイトが気になるが、彼女のヴォーカル以上の位置には出ずに、本来のコルトレーン・パターンとは異なった世界を築いていることは、むしろ好感が持てる。 冒頭のM1."Say It"から、サックスとデュオのパターンで進行して、この女性ヴォーカルを生かしたパターンはそれなりに花があり、こうしたこのアルバム造りはスタートから面白いと感ずる。ジャズ・アルバムはスタンダードが人気があるのは、曲だけを聴くのでなく、その演奏者の解釈と演者自身の魅力を味わうところにあるのであって、ここまで徹底して自己のジャズ世界で、トリビュート・アルバムを作り上げた意欲に脱帽する。M5."I wish I Knew"はサックス抜きの彼女のピアノ・トリオで演じたことにその意欲が表れているところだ。又M7."It's Easy to Remember"のようにピアノ主体のバックで、アカペラに近いところも聴き応えあり。 全体に決して軽さの無い深みのある女性ヴォーカル・アルバムに仕上げてくれたことに私は寧ろ大きく評価したい。
1. Turn Out the Stars (Bill Evans-Gene Less) 2. April Come She Will (Paul Simon) 3. Goodbye (Gordon Jenkins) 4. I'm Always Chasing Rainbows (Harry Carroll-Joseph McCarthy) 5. Spring Can Really Hang You Up the Most (Fran Landesman-Tommy Wolf) 6. Smile (Charlie Chaplin) 7. Sophisticated Lady (Duke Ellington-Irving Mills-Mitchell Parish) 8. There's No Such Thing As Love (Ian Fraser-Anthony Newley) 9. The Shadow of Your Smile (Johnny Mandel-Paul Francis Webster) 10. Send In the Clowns (Stephen Sondheim) 11. 'Round Midnight (Thelonious Monk-Cootie Williams-Bernard Hanighen)
やはり持ち前の米国には珍しいやや陰影のある中に、情感豊かにして曲の描く世界を十分に歌い込んでいる。 驚きはM1."Turn Out the Stars"はジャズで、M2."April Come She Will "はフォーク調と、その変化も自在である。 M3."Goodbye "のポピュラー・ナンバーが良いですね、低音の深く厚い歌声の魅力を発揮。 M5."Spring Can Really Hang You Up the Most"の語りかけるように歌い上げ、ジャズとしては美しさを強調して聴かせる。 M6."Smile" 彼女の得意のレパートリーの一つ、ピアノが美しく、編曲をこらしてゆっくりじっくり歌い込む。途中のハーモニカは不要か。 M7."Sophisticated Lady"は彼女の思い入れが感ずるし、M9."The Shadow of Your Smile "これは私の好きな"いそしぎ"ですね、alto FluteとAcoustic Guitarの演奏の中で、ゆったりとしっとりと歌い込んでナイスです。 M.10."Send In the Clowns"ギターとともに静かさが描かれていいですね。M11." 'Round Midnight"はアルバム・タイトル曲で、夜の静かさと寂しさをベースとの語るようにしっとり歌うところも魅力的。
I Didn't Know About You (Concord Jazz, 1993) Sweet Home Cookin' (Concord Jazz, 1994) Azure-Té (Concord Jazz, 1995) Collage (Concord Jazz, 1996) Daydream (Concord Jazz, 1997) From Paris to Rio (Concord, 1999) Ballads: Remembering John Coltrane (Concord Jazz, 2001) Yuletide Hideaway (Kas, 2001) In Blue (Concord Jazz, 2002) Wild for You (Concord, 2004) Footprints (Concord Jazz, 2006) Imagina: Songs of Brasil (Concord Jazz, 2008) 'Round Midnight (Concord Jazz, 2011) Many a New Day: Karrin Allyson Sings Rodgers & Hammerstein (Motema, 2015) Some of That Sunshine (Kas, 2018) Shoulder to Shoulder: A Centennial Tribute to Women's Suffrage, as The Karrin Allyson Sextet (eOne Music, 2019)
今年リリースされた寺島靖国の「Jazz for Audio Fans Only Vol.13」に収められた中で、少々気になったトリオがあったので、アルバムを探して取り寄せてみた。それがこのスイスのマイケル・ベック・トリオ Michael Beck Trioである。それが目下2枚のアルバムのみに行き着いたのだが、両者2003、2005年リリースもので15年以上前のものであった。 そもそもは寺島靖国には、おそらくベースとドラムスのリアルな音からスタートしてピアノの淡々とした演奏が気に入られたのであろうと推測するが、特に選ばれた曲"928"は、スタートから澄んだ繊細なシンバル音が響いてくることが重要であったと思われる。私もドラムス、ベースの協演は好きで、寺島靖国の言うところのトランペット、サックスが共に鳴り響くものはちょっとゴメンというところにあり、そこも納得してこのアルバムを手にすることにした。
michael beck (p) bänz oester (b) samuel roher (ds)
Recorded at Radio DRS Zurich, Switzerland, February12-13, 2000
(Trackjlist) 01. Loose Ends * 02. 928 * 03. Poin Turnagain * 04. Farewell 05. The Theme Of The Defeat 06. Open Doors 07. Three Men In A Boat * 08. Everything I Love 09. Detour Ahead 10. Loose Ends (alt. take) *
Carsten Dahl (p) Nils Bo Davidsen (b) Stefan Pasborg (ds)
Recorded in 2019 at Rainbow Studio, Oslo
デンマークを代表するピアニストのカーステン・ダール(→)は、所謂ジャズの本道をゆくスウィンギーな演奏で結構人気があったのだが、私自身はユーロ系ジャズには、特にピアノトリオとなれば叙情性を描くところを求める事が多く、これまでのめり込むことが無かった。しかし先日紹介の寺島靖国のアルバム『For Jazz Audio Fans Only Vol.13』に取上げられた曲"Sailing With No Wind"が魅力的で、昨年リリースされたこのアルバムを聴くことになったという経過。 彼は1967年生れだから55歳ぐらいというところだろうか、もうミュージシャンとしてのキャリアも25年以上もあって丁度円熟したよい年齢だ。しかしその人生の過程において幼少期からメンタルな問題の多難な状況があったようで、次第に変化し現在は内面的な世界も描くようになってきているようである。そのあたりが私が注目することになった点であろう。 又、絵画的才能も素晴らしく、このアルバムでもカバー・アート、そして作品を登場させている。
(Tracklist)
1.Sailing With No Wind (Dahl, Davidsen & Pasborg) (5:33) 2.All The Things You Are (Jerome Kern) (6:07) 3.Somewhere Over The Rainbow (Harold Arlen) (6:43) 4.Jeg gik mig ud en sommerdag (Danish folk song) (4:18) 5.Bluesy In Different Ways (Dahl, Davidsen & Pasborg) (4:11) 6.Solar (Miles Davis) (2:43) 7.Be My Love (Nicholas Brodszky) (8:22) 8.You And The Night And The Music (Arthur Schwartz) (5:08) 9.Blue In Green (Miles Davis) (4:48) 10.Autumn Leaves (Joseph Kosma) (6:30)
冒頭のM1."Sailing With No Wind"が私が興味を持った曲だが、彼のピアノの響きに叙情性ある哀愁感も感じられる演奏が魅力がある。とにかく優しさの溢ふるる美旋律が留めなく流れる。どこかキース・ジャレットを思い起こすような展開をみせて、なんと彼のうなりというよりはむしろ歌に近い声も入ってくる。 M2."All The Things You Are "は本領発揮のピアノの先鋭的なタッチにベース、ドラムスも踊る。 なんと聴き慣れたM3."Somewhere Over The Rainbow "も登場、どこかしっとりとしかも思索的に流れるのにビックリ。 M4."Jeg gik mig ud en sommerdag "はデンマークのフォークソング、これが又美しい。 この他の曲はスタンダードのオンパレードで楽しませる。 M6."Solar"のようにアップテンポで演じきるところもある。 M7."Be My Love"も、美しさと優しさとがピアノからベースにとやりとりし行くところが感動的。 M8."You And The Night And The Music "がここまで超高速プレイで演じられるのも聴きどころ。 M9."Blue In Green"これも良いのだが、ダールの歌は要らない。 M10."Autumn Leaves"これが"枯葉"かと・・・思うところが凄い。ここまで攻撃とも言える編曲とインプロヴィゼーション演ずるのも珍しいが、それが又様になっていて、彼らの本質がここにありと言わんばかりである。シンバルが刺激的に響き速攻演奏でバトルを演ずるピアノとベース。まさに驚きの一曲。
1. The Song Is You 〔Christoph Spendel Trio〕 2. I Love You So Much It Hurts 〔Han Bennink / Michiel Borstlap / Ernst Glerum〕 3. Cancer 〔Allan Browne Trio〕 4. New Life And Other Beginnings 〔Aki Rissanen〕 5. Sailing With No Wind 〔Carsten Dahl Trinity〕 6. Counter 〔Floris Kappeyne Trio〕 7. Ammedea 〔Pablo Held Trio〕 8. Flight of the Humble 3 〔Robert Rook Trio〕 9. 928 〔Michael Beck Trio〕 10.Mistral 〔Peter James Trio〕 11.Get Out Of Town 〔Stevens, Siegel And Ferguson Trio〕 12.The Day You Said Goodbye 〔Larry Willis Trio〕 13.Don't Let The Sun Catch You Crying 〔Lafayette Harris Jr.〕 ()内は演奏者
中でもやっぱり曲の良さからは、M1."The Song Is You "、M5."Sailing With No Wind "は興味ありますね。M1は、ポーランド生れのピアニストで、この曲を聴く限りでは、ジャズの中では刺激の無いむしろメロディー重視にも聴こえるが、エレクトロベースが面白い味付けで是非この曲を収録したアルバム『Harlem Nocturne』(BLUE FLAME)(上左)を聴きたいと思った。又M5.はジャズ名演といったタイプで、なかなか叙情もあって素晴らしい。このピアニストのカーステン・ダールはデンマーク生れのベテランで、私は唯一このピアニストは知ってはいるが、未熟にも彼のこのアルバムにはアプローチしてなかったので、美しいピアノの調べのこの曲を収録しているアルバム『Painting Music』(ACT Music)(上中央)は早速聴くことにする。 そしてM9."928"(Michael Beck Trio)のベースとドラムスの迫力録音が聴きどころ。このマイケル・ベックも名前は聞いたことがある程度で今まで白紙状態であったため興味がある。更にM12."The Day You said Goodbye"がジャズの真髄を演ずるが如きのベースとブラッシが前面に出てきて、そこにピアノを中心とした流れがゆったりとしていて素晴らしい。このアルバム『The Big Push』(HighNote Records)(上右)を是非入手したいと思ったところだ。
1. Snowdrop # 2. No Storm Lasts Forever * 3. If You Remember Me * 4. Fantastic Mr. Fox # 5. Silhouettes On The Kuranda * 6. Viral # 7. Diary Of An Unfettered Mind * 8. Let Me Sing For You * 9. Venerdì Al Bacio * 10. Nanaimo * 11. The Last We Spoke # 12. The Rebellion 13. Home Is Nearby #
いっやーしかし、この若きトリオの演ずるところはリアル・ジャズとヨーロッパ美学の結合なんですね。 私は前半6曲は取り付くところが無いくらい異様なアヴァンギャルドな世界だ。印象はドラムスのパンチ力で録音も前面に出てきてバンバンアタックしてくるリアル・ジャズの印象。これらの曲はルクセンブルグの世界観とフリー・ジャズでの叙情詩と行ったところか、私がついて行くには少々厳しい。 ようやく、心を引かれてのめり込めるのは、主としてミシェル・レイスの曲M7."Diary Of An Unfettered Mind"からで、M.11"The Last We Spoke"までの4曲で、あくまでも私の感覚としての素晴らしさだ。近代感覚あふるる中に美旋律そして叙情を漂よらせて非常に魅力的。 このアルバムケの前半に評価を持って行く人もいるのではと思うが、私の場合はついて行くのが難儀だった。 彼らは、彼ら自身のオリジナル曲に固執しているようで、その作曲演奏に自己の世界観を描こうとしている。 若きトリオが、ヨーロッパの叙情を加味しつつ、リアル・ジャズ、フリー・ジャズ、そしてアヴァンギャルドな世界への挑戦として演ずるところは、注目すべき作品だ。
Elchin Shirinov (piano) Andrea Di Biase (double bass) Dave Hamblett (drums)
ベースのリーダであるアヴィシャイ・コーエン・トリオの近作アルバム『Arvoles』(RAZDAZ Records / RD4619/2019)のピアニストとして注目さたアゼルバイジャン出身のピアニスト:エルチン・シリノフ(1982年生れ)の彼名義のトリオ作品の日本盤の登場。 アヴィシャイ・コーエンはイスラエルのミュージシャンで私はどちらかというとファンである。それはイスラエル由来の哀愁漂う美旋律が魅力。そのムードに惹かれてトリオ演奏が好きなのだが、実は彼のこの近作『Arvoles』は、ちょっと民族色が強くなって、それ以前の作品と少々異質になったもので、あまり諸手を挙げて歓迎出来なかったアルバムだった。それでもこのアルバムのピアニストが、自己名義ではどのような世界を構築していたのかというところは興味津々であった。
with Accademia Arrigoni's Strings Orchestra Conducted by Bill Cunliffe
2020年2月15日,16日 Magister Recording Area Studios,Preganziol,Italy 録音 Sound Engineers Andrea Valfre’ and Alessandro Taricco Mixed and Mastered by Tetsuo Hara Produced by Tetsuo Hara
このところ Venus Records の看板になりつつあるあのイタリアのピアニスト・マッシモ・ファラオ( 1965- )が、とにかく美しく優美にと、繊細にしてメロデックな演奏を、ストリングス・オーケストラをバックに優しく演ずるアルバムの登場。
(Tracklist)
1.ラブ・ケイム・オン・スティールシー・フィンガース 2.Io Che Amo Solo Te 君だけを愛して 3.オールダー・マン・イズ・ライク・アン・エレガント・ワイン 4.Days Of Wine And Roses 酒とバラの日々 5.ホエン・サマー・カムズ 6.ニアネス・オブ・ユー 7.ティズ・オータム 8.イージー・リビング 9.スプリング・ウィル・ビー・ア・リトル・レイト・ディス・イヤー
1. I Remember You (Victor Schertzinger) 5:41 2. Madrigale (Carnovale) 4:00 3. I'll Close My Eyes (Reid - Kaie) 7:38 4. Alone (Carnovale) 2:25 (solo piano) 5. What Is This Thing Called Love (Cole Porter) 5:55 6. Emersion (Carnovale) 8:19 7. Ckc (Carnovale - Conte - Kramer) 6:27
しかし、メロディアスにしてスインギーな展開にアドリブの効いた流れ、そして時々適度にイタリア独特の美旋律が流れ、しかし時にハードなダイナミックな展開と多彩多芸。特にM4."Alone"のカルノヴァーレのピアノ・ソロでは、やや前衛がかったオルタナティブな世界も見せる。 私にとっては、なんと言ってもM3."I'll Close My Eyes" いわゆる美旋律のピアノを中心に描くピアノトリオの世界が、何と言えない心地よさだ。ベースそしてシンバルも手頃の余韻を持って響きそれは快適。落ち着いた夜にぴったり。 しかし、その他の曲で、特にスタートのアルバム・タイトル曲M1."I Remember You"での、ここまで小気味のいい軽やかなスイング感を大切にしたリリカルなプレイを展開してみせるトリオも珍しい。これも彼らのキャリアの蓄積がそうさせるのであろうと思うが、力みの無い洗練された技巧派ジャズなのである。この軽妙さはジャズ心の極致である。 M5."What Is This Thing Called Love"、これはドラムスの疾走から始まって迫真のインタープレイの展開、とにかく息詰まるスリル感たっぷりの生々しい演奏は凄絶で圧巻。この三人はこれをやらずには納まらないと言ったところか。 M6."Emersion"のそれぞれの世界をそれぞれがアクロバティックに流れてゆき、そして演じてゆくうちにトリオとしての交錯そして統一感への世界は面白い。美的という処からは別物だが、これが又このトリオの味なのかも知れない。 そして続く終曲 M7."CKC"は三者による作品。この"CKC"とは何かと思ったら、どうやら三人の頭文字だ。この曲には三者がクレジットされている。それは緻密に静とその世界の神秘性にも迫る情景に納得。そして次第に現実の世界に目覚めさせる。
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