ピアノ・トリオ

2024年4月 1日 (月)

ブランドン・ゴールドバーク Brandon Goldberg Trio 「 Live At Dizzy's」

10代の神童の技=よき時代のジャズを受け継いで現代風に展開

<Jazz>

Brandon Goldberg Trio 「Live At Dizzy's」
Cellar Live Records / Import / CMR050123 / 2024

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Brandon Goldberg (piano)
Ben Wolfe (bass)
Aaron Kimmel (drums)
Recorded at Dizzy's Club at Jazz t Lincoln Center,January 17 & 18 2023

Bgoldbergphototrw  まさに神童ピアニストとして話題の、フロリダ州マイアミ出身のブランドン・ゴールドバーグBrandon Goldberg(18歳)のサード・アルバムが登場した。2023年1月NYのディジーズ・クラブでライブ録音されたものというので、従って録音当時は17歳?)。
 彼は、3歳の頃からピアノを弾き、音楽に親しんできたと。批評家たちは彼の「揺るぎないテクニック、高度な和声理解、深いスイング感覚、そして最も印象的なのは、ほぼ完璧なまでに実行される明晰さとアイデアの多さ」と高く評価しているようだ。
 とにかく、デビュー作『Let's Play!』(2019 下左)とセカンドアルバム『In Good Time』(2021 下右)はともに、ダウンビート誌で 4つ星を獲得し、その年のトップアルバムに選出されている。2024年度ヤングアーツ優秀賞受賞、2023年度ハービー・ハンコック・インスティチュート・オブ・ジャズ国際ピアノ・コンクールのセミファイナリスト、2022年度ASCAPハーブ・アルパート・ヤング・ジャズ・コンポーザー賞を最年少で受賞という経歴も凄い。
 そして彼は今や10代でなんと、ニューポート・ジャズ・フェスティバル、サンフランシスコ(SFJazz)、PDXジャズ、リッチフィールド、ツインシティーズ、カラムーアなど、全米の主要なジャズフェスティバルで演奏し、又ディジーズ・クラブ、メズロウ、バードランド・シアター、オールド・ライムのザ・サイド・ドア、ボルチモアのキーストーン・コーナーなど、ニューヨークで指折りの有名なジャズ・クラブで演奏している。

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 ゴールドバーグ(下左)の3rdアルバムとなる本作は、彼のピアノにリズム隊はベテランのベン・ウルフ(下中央) のベース、アーロン・キンメル(下右)のドラムスという確かなメンバーによるピアノトリオ作品である。収録はスタンダードナンバーと2曲のオリジナル曲のプレイされたものだが、特に1950年代と1960年代の偉大なピアノ・トリオの音楽を彼なりきに現代風にアレンジをほどこしての新鮮な感覚でのプレイに注目、アフマド・ジャマール、レッド・ガーランド、オスカー・ピーターソン、ソニー・クラークなど、彼自身が影響を受けたピアニストや伝統に敬意を表しているというところだ。

(Tracklist)

1. Unholy Water
2. Wives and Lovers
3. It Ain't Necessarily So
4. An Affair to Remember
5. Let's Fall in Love
6. I Concentrate on You
7. Circles
8. Lujon (Slow Hot Wind)
9. Compulsion

 この若きピアニストが、古いニューヨークが舞台でのヒットを演じている。まあ昔のジャズ・ピアニストを聴き込むとこんなスタンダードが出てくるんでしょう。そしてそれにゴールトバーグが惹かれ技量発揮し、ウルフが旨くリードしキンメルの協力の結果であろう。なかなか良いトリオだ。

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M1. "Unholy Water" ピアノの快調な展開、中盤の活気あるドラムス・ソロ、トリオ・ジャズの楽しさの序奏。これが最後のM9.に繋がる。
M2. "Wives and Lovers"  軽妙なタッチのピアノの流れが聴きどころ。
M3. "It Ain't Necessarily So"   古くはLouis ArmStrongでElla Fitzgeraldが歌ったGeorge Gershwinの曲ですかね、ゴールドバーグのひいおじいさんの喜んだ曲でしょう。ここで演ずる結構軽さと展開の妙と速攻とパンチ力とが見事。
M4. "An Affair to Remember"  映画「めぐり逢い」の"過ぎし日の恋"ですね、これも古いなぁ・・・でもあの良き時代のほのぼの感としっとり感を出してますね。彼が演ずると聴く方もビックリですね、変なアドリブで攻めなくてむしろ良い感じだ。
M5. "Let's Fall in Love" 映画「恋をしてしまう」から、最近はDiana Krallが歌うので良く聴きますね。ここでは軽快な演奏。
M6. "I Concentrate on You" 映画「踊るニュウ・ヨーク」、コール・ポーターの曲ですね。やさしく演じ切るところがにくいところ。
M7. "Circles" ジュージ・ハリスンの曲なんだろうか、彼のオリジナルか良く解らないが、素晴らしい演奏。彼の新世代を演ずるスウィングへの変調の妙とインプロの技とが感じますね。
M8. "Lujon (Slow Hot Wind)" ヘンリー・マンシーニのムードを化けさせるベースとドラムス、そしてピアノの的を得たインプロに脱帽。
M9. "Compulsion" 三者の掛け合いの楽しさが満ちている。

 若い人のジャズというよりは、私の印象としては一世代前のジャズを現代風に味付けして蘇らせてくれている感がある。これが十代の演ずる世界かと、いやはや脱帽の世界。とにかくこの軽妙さぱ確かにアフマド・ジャマールの私の好きな部分を継いでくれている。なかなか味がある。

(評価)
□ 編曲・演奏  88/100
□ 録音     87/100

(試聴)

"Circles"

*
"An Affair to Remember"

 

 

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2024年3月28日 (木)

ペッテル・ベリアンデル Petter Bergander Trio 「Watershed」

葛藤・分裂とに想いを馳せ、音楽による喜びを描く

<Jazz>

Petter Bergander Trio 「 Watershed」
(CD)Prophone Records / Import / PCD324 2024

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Petter Bergander ペッテル・ベリアンデル (piano)
Eva Kruse エーファ・クルーゼ (double bass)
Robert Mehmet Sinan Ikiz ロベルト・メフメット・シナン・イキズ (drums)

 スウェーデンのキャリアある中堅ピアニストのペッテル・ベリアンデル(1973年生まれ、王立ストックホルム音楽大学で学ぶ 下中央)の、2014年結成の自己のトリオによる第3作アルバムの登場だ。前作と同じ鉄壁レギュラー・トリオであるハンブルク生まれのエーファ・クルーゼ Eva Kruse(1978‒ 下左)の女流ベース、イスタンブール生まれのロベルト・メフメット・シナン・イキズ Robert Mehmet Sina Ikiz(1979‒ 下右)のドラムだ。彼らはスウェーデンはじめヨーロッパにてのツアーを行ってきている。

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 ペッテル・ベリアンデルは音楽について次のように語っている。「私たちは人々にクレイジーでエキサイティングな体験と熱意を伝えたいと思っています。本作 『ウォーターシェッド』 は混乱した世界と時代から生まれたアルバムです。曲を書いたとき、人生における分裂の種を蒔きかねないような出来事について考えました。友人間、家族間、あるいは自分自身の中での葛藤。音楽は喜びと芸術を取り戻す手段のようになりました。」と。
 テーマは「分岐・分裂」というところか、しかしなかなか三者の連携プレイがみごとであって、その点は注目はされてきたトリオだが、この新作では、これまでよりインタープレイは更に洗練されてきて、モダンなビートと、そして即興が描くところ、葛藤を乗り越えた姿にこれまた磨きがかかってきた点が注目されるアルバムである。全曲ベリアンデルのオリジナル。

(Tracklist)

1. On The Train To Lviv
2. Watershed
3. Day Eleven
4. Get Out Of Here
5. Lilla Blåvinge
6. If I Would Have Known
7. Lucky
8. Days To Come

 「葛藤」、「分裂」などテーマは暗さをイメージさせるが、トータルに暗いアルバムではなく、極めて安定感の中にむしろ展望がイメージされる世界に聴きとれた。

 M1. "On The Train To Lviv"  ウクライナの戦争下, 列車が向かうはウクライナ小さな美しい都市Lviv、列車の進行する様と戦い中にある都市への思いが複雑に交錯して描かれる。
 M2. "Watershed" "あらゆる人間関係の対立によぎる分裂の不安とは"と問いかける。ネガティブな印象はない、真摯な気持ちの印象。
 M3. "Day Eleven"  "厳しい現実を知る事による暗い不安"が滲むピアノの低音の響きで始まる曲。中盤からのピアノ美しい音、ベースのソロに近い演奏部分に描いている世界が微妙に不安が襲う。ドラムスのブラッシ音もどこか不安な世界に導く。私の注目曲。
 M4. "Get Out Of Here" ベースの響きとクラシックを思わせるピアノ流れ(これはバツハだ)とに、ドラムスの軽快なブラッシ。最後の三者のユニゾンの響きが印象的。
 M5. "Lilla Blåvinge" 絶滅した蝶の名前のようだが、地球に対する人間の行いに問題意識を訴えているのか、繰り返すピアノの旋律が不安げ。
 M6. "If I Would Have Known" 来し方の状況分析にも光明がある姿を描いたか、どこか展望を感ずる。
 M7. "Lucky" いかにも三者対等な音楽は気持ちの浮き上がりの感ずる演奏。
 M8. "Days To Come" 冷静な心と期待感も含めての展望も感じられる曲。

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 私の印象深い曲はM3."Day Eleven"だ。人間の醜い分裂の姿を見てしまった自分に今できることは今何が求められているのだろうかと、懐疑的にしかし何かに向かおうする意志が感じられる曲として評価したい。
 このトリオは、あくまでも詩的情緒とノリの快感を重要視する今時風の抒情派の味を持ったコンテンポラリーな快演だ。従ってテーマの割には暗部にのめり込まないところが救いである。そして美しいメロディーも顔を出すが、あくまでも耽美的に溺れないところがテーマを生かす特徴なのかもしれない。クルーゼ(b)やイキズ(ds)の芸の細かい技によるバックアップも大いに印象を深めるが、しかしやはりそれより遥かに増してベリアンデル(p)のごく自然体の力みのない独創性満点のアドリブ演奏が、やや難題の曲想であるが手慣れた展開で演じ切る。なかなか卓越した技量のピアニストだ。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     87/100
(試聴)
"Day Eleven"

 

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2024年3月22日 (金)

イエス!トリオ YES! TRIO (Aaron Goldberg & Omer Avital & Ali Jackson) 「 Spring Sings」

三者のインタープレイで築くグルーブ感、これぞジャズ・トリオだ

<Jazz>

YES! TRIO ( Aaron Goldberg & Omer Avital & Ali Jackson ) 「 Spring Sings」
(CD) Jazz & People / Import / JPCD824001/ 2024

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Aaron Goldberg (piano except 03)
Omer Avital (bass)
Ali Jackson (drums except 03)

  ドラムスのアリ・ジャクソン(1976年米ミシガン州デトロイト生まれ)をリーダー格とする、ピアノのアーロン・ゴールドバーグ(1974年米マサチューセッツ州ボストン生まれ)とベースのオメル・アヴィタル(1971年イスラエルのギヴァタイム生まれ)のピアノ・トリオである。
  このYes! Trioの好評前作『Groove Du Jour』(2019)に続いての最新アルバム(第3作)が5年ぶりに登場である。
  彼ら3人は1990年代にニューヨークで出会い、それぞれが独自のジャズを極めつつ異なった経験から積み上げた違いを尊重しつつ、ここに三者で彼らならではのジャズを作り上げているところに妙味がある。

 このトリオの特徴を見る意味で、三者の略歴を下に紹介。

6303856118_dbdew  アリ・ジャクソンは、デトロイト出身のアフリカ系アメリカ人ジャズプレイヤーの家族に生まれたドラマー、10代の頃にウィントン・マルサリスに見出された。ニューヨーク市のニュースクール現代音楽大学の学生として、マックス・ローチとエルヴィン・ジョーンズに師事する機会に恵まれ、彼は全額奨学金で大学に通い、作曲の学士号を取得。1994年、伝説のジャズ・ドラマー、マックス・ローチを称えるビーコンズ・オブ・ジャズ・プログラムのゲスト・ソリストに選ばれた。セロニアス・モンク・インスティテュートとジャズ・アスペンは、才能のあるミュージシャンのための第1回ジャズ・アスペンに参加するために彼を選抜した。また、1998年にミシガン州の権威あるArtserv Emerging Artist Awardの最初の受賞者である。又トランペッターのウィントン・マルサリスのジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラで10年以上もドラマーを務める。

Omeravitalalw   オメル・アヴィダルは、イスラエルに生まれ、独自の旋律とグルーヴを生み出して彼ならではのスタイルを切り拓いたベーシスト。幼い頃からクラシック・ギターを学び、イエメン系ユダヤ人独特の聖歌を耳にして育ったという。テルマ・イエリン芸術学校に入学するとジャズにも開眼。92年、アヴィシャイ・コーエンらとともに米・ニューヨークへ移住、ニュースクール大学に在籍しながら本場ジャズ・ムーヴメントの中でキャリアを積む。2001年に初のリーダー作『Think With Your Heart』を発表。NYジャズ・シーンで頭角を表わしつつある中で、一時イスラエルへ帰国するが、再びNYへ戻り、自身のスタイルを確立。2014年2月、スタジオ・アルバム『New Song』をリリース。

Aarongoldbergw   アーロン・ゴールドバークは、ボストン生まれの秀才、両親は著名な科学者。7歳からピアノ、14歳でジャズを始める。ハーバード大学で歴史と科学の学位を取得し、意識の科学的理論に関する論文にて新プログラムの学位を取得し優等で卒業。しかし音楽にも集中し続け、国際ジャズ教育者協会のクリフォード・ブラウン/スタン・ゲッツ・フェローシップを授与された。バークリー音楽大学でもジャズ・ピアノでの演奏を習得、ボストンそしてニューヨークのジャズシーンで演奏。ブラッド・メルドーなどのバンドで頭角を現して以来、多忙を極めるピアニスト。卒業後の1996年、ニューヨークに戻り、再び音楽活動に専念。1998年、アーロン・ゴールドバーグ・トリオを結成し、1999年にデビュー・アルバム『Turning Point』をリリース。そんな多彩な音楽活動を続ける中でもタフツ大学の修士課程にて2010年に分析哲学の修士号を取得。2010年にはアルバム『Home』、ブラジル音楽も研究し2012年にギジェルモ・クライン(アルゼンチン作曲家)とのコラボによる『Bienestan』をリリース。2012年にはアルバム『Yes!』、2014年11月、自身の曲、スタンダード、ブラジルの曲のアルバム『The Now』をリリースし高評価。多くのジャズ・ミュージシャンと共演している。

(Tracklist)
01. Spring Sings
02. 2K Blues
03. Bass Intro To Sheikh Ali (solo bass)
04. Sheikh Ali
05. The Best Is Yet To Come
06. Sancion
07. Omeration
08. How Deep Is The Ocean
09. Shufflonzo
10. Fivin'

 まさに現代ピアノ・トリオと言わしめるところの三者の役割が見事に結集している。それは上の三者の紹介に見るようにそれぞれの経歴が非常に異なっている中での実力者で、その為の効果が著しく味を高めている。


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 スタートのM01."Spring Sings"からアルバム・タイトル曲が登場し、スウィングを愛しながらもジャズを探求している試みの集合がコンテンポラリーに展開。ベースは弾きに独特なうねり感があり時にアルコも響かせる、軽やかに繰り出してくるが意外なところでパンチを効かせるドラム、歯切れのよさや透明感たっぷりのクリアー・タッチのピアノが心地よい。三者の乱れぬ交錯が対等に進行してまさにトリオ演奏。     
 M02."2K Blues"は、ベースの速攻とピアノの旋律、ドラムスのブラッシ音の躍動的攻め合いはものの見事に展開される。中盤のベース、それに続くドラムスの響きが曲のメリハリに貢献、最後は早弾きピアノが印象的。
 M03."Bass Intro To Sheikh Ali "は、ベースソロ。充実した低音が心に響く。そして M04."Sheikh Ali"のピアノ・トリオ演奏に繋がって、ピアノの役割を盛り上げ最後は硬質な繊細なピアノでまとめる。
 M05."The Best Is Yet To Come" ジャズの溌溂とした流れが生きている。トリオの流れが楽しい。
 M06."Sancion" 珍しいゆったりとしたピアノ旋律主導の曲。リズム隊のドラムスとベースの協調が品格ある。
 M07. "Omeration"息の合ったトリオの繰り返すハーモニーとユニゾンが見事、それを誘導するドラムスが頼もしい。
 M09. "Shufflonzo" スウィングしてのピアノに、ベース、ドラムスが快調に展開する。軽やかなベース・ソロ、続くドラムス・ソロのパンチ力も聴きどころ。演者の楽しさが伝わってくる。
 M10 "Fivin'" ドラムスのリズムに乗ってのベースとピアノとの掛け合いがこれまた楽しさ十分。

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 ピアノ・トリオであるので、自ずから旋律がピアノによる曲の運びは当然みられるが、ベースの多彩な音、ドラムスの展開を誘うダイナミズムが、これぞトリオ演奏と色付けされ聴き応え十分。とにかく剛柔バランスが絶妙にとれていて、今日感覚溢れるコンテンポラリーな展開が続く。トリオとしての主役であるゴールドバーグ(p)の自然体な正攻法に展開する流れに、アヴィタル(b)のそれに難題を振り向けるような熱い演奏が色付けにいい役割をしている。このトリオのリーダーのジャクソン(ds)は、やはり一歩引いているが、インタープレイの誘導がなかなか旨く、三者三様の立ち振る舞いが、それぞれの個性を発揮していてグルーヴ感を築く楽しい演奏だ。これぞ現代ジャズの一つの重要な流れであろう。ユーロ・ジャズのクラシックからの発展形としての流れなどに私などは満足している今日ではあるが、ジャズの王道をしっかり築いている風格すら感ずるこのタイプは当然歓迎だ。

(評価)
□ 演奏  90/100
□ 録音  88/100

(試聴)

 

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2024年3月17日 (日)

リン・アリエル Lynne Arriale 「BEING HUMAN」

社会や文化の二極化の悪影響に反応して、愛、希望、団結をテーマに展望を描く

<Jazz>

Lynne Arriale 「BEING HUMAN」
challenge Records / Import / CR73272 / 2024

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Lynne Arriale - Piano & YAMAHA Clavinova
Alon Near - Double bass
Łukasz Żyta - Drums

Recorded dates : july 27-28, 2023

  リン・アリエル(エリエイル)(1957年生まれ ↓左)の新メンバーによるピアノ・トリオ新作アルバム。 ビルボードやThe New Yorker、United Press Internationalなどのチャートにランクインしてきたアメリカの女流ピアニスト・作曲家で、リーダーとしての17枚目である。 
 この『Being Human』は、最近のオランダのChallenge Records Internationalからの4枚目のアルバムだ。ベーシストはイスラエルのアロン・ニア(↓中央)、ドラマーはポーランドのルカシュ・ザイタ(↓右)というNYCで活躍するメンバーによるトリオにて、人生を肯定する人間の側面を探求するオリジナル曲を演じている。

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 近年、リン・アリエルの作曲やアルバムは、ライナーにも書いているが、現在の社会問題をテーマに熱く反応している。『Chimes of Freedom』(2020年)は、世界的な移民危機と、自分自身と家族のためにより良い生活を見つけるべく危険にさらす難民の経験に焦点を当て『The Lights Are Always On』(2022年)は、COVID-19がもたらした人生を変える出来事を検証し、パンデミックの最前線で介護者として活躍した人や、民主主義を擁護した人など、英雄に敬意を表した作品であった。

  今回の『Being Human』では、アリエルのオリジナル曲で主題が曲のタイトルそのものになっており、情熱、勇気、愛、信念、好奇心、魂、忍耐、心、感謝、喜びによって私たちの人生が豊かになる様を希望的に称えている。社会や文化における二極化の悪影響に反応して、愛、希望、団結を肯定するためにこのアルバムを制作したというのだ。そして曲はそれぞれ対象者に献呈している。

 実際アリエルは次のように語っている・・・「この組曲は、この世界の分裂と混乱に応えて書きました。この音楽は、私たち全員が共有する資質に焦点を当てています。それは私たちの人間性を定義します。このアルバムが高揚感と一体感と楽観主義を伝えるものになることを願っています。献呈は、音楽にインスピレーションを与えた特徴を体現していると感じる人々への私の賞賛を反映しています」

(tracklist)
02. Courage (3:35)
03. Love (3:16)
04. Faith (3:34)
05. Curiosity (2:43)
06. Soul (3:44)
07. Persistence (4:14)
08. Heart (4:29)
09. Gratitude (3:29)
10. Joy (4:13)
11. Love (Reprise) (2:42) (chorus + keyboard?)
*all compositions by Lynne Arriale

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 コンテンポラリー・ジャズの世界感で全曲アリエルの作曲だ。曲のタイトルが彼女の主張する人間のテーマであり、どちらかというとポジティヴな攻めのリズムとむしろ明るさの目立つメロディーで愉しめるピアノ・トリオ作品。印象として人間賛歌の主張といったほうが良い響きで迫ってくる。それは締めのM11."Love"が、YAMAHAのコーラスで演じられているところに全てを物語っている。
 まあ、このアルバムのテーマというかコンセプトからいっても、私の好むところの哀愁あるメロディーによるピアノの響きというピアノ・トリオ作品とは一線を画している。
 M1."Passion" 、M2."Courage"と、情熱と勇気を力強さを感ずる演奏で冒頭から攻めて来る。M1.はスウェーデンの若き女性環境活動家Greta Thunbergに捧げ、M2.は、ウクライナ国民への讃えだ。
 M3."Love" 愛情あふれるピアノが丁寧に演奏される。人類に捧げるのだ
 M4."Faith"  フォーク調の明朗(という表現が当たるだろうか)な曲、科学を超えた信仰の意思を。信仰を持つ人々へ
 M5."Curiosity" 好奇心を称え、いよいよ彼女らしいコンテンポラリーな展開。ベース、ドラムスの展開が激しい中にきらりと光るピアノの美しい音。インプロの醍醐味に迫る私の注目曲。
 M6."Soul" 魂、ブルージーで意外に落ち着いた世界。自由と民主主義を擁護活動家Amanda Gormanに捧ぐ
 M7." Persistence" 根強さ、強い不屈の精神の発展的讃歌、女性の平等と機会を求める力となったMalala Yousafzaiに捧げている
 M8."Heart" アロンのベースが語りにちかい即興メロディーで心を休める
 M9."Gratitude" 感謝、ぐっと落ち着いた迫り、難病で死に至ったMottie Stepanekに捧げている 
 M10."Joy" 明るさの展開、溌溂と。
 M11."Love (Reprise)" 混声合唱が描く人類讃歌。

 彼女が描く社会派コンセプト・アルバムとして作り上げているが、あまり難しく考えないで聴く方が、全体の意欲的な溌溂感と演奏の楽しさを味わえるかもしれないが、そこに描くところの人間という存在のプラス思考を描いている姿は感じて聴く必要があろう。
 スイング感をベースしていて、ジャズの伝統的流れを尊重しつつ、難しくしないでごく親しみやすい明快な演奏が活発に展開。フォーク調が入るのは意外だったが、哀愁感のバラードも聴かせ、得意のコンテンポラリーな即興も織り込んで、結構多彩な変化を聴かせメリハリある攻めの演奏が主体で楽しる。なかなか意欲作である。

(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 録音   : 88/100
(試聴)

 

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2024年3月12日 (火)

山本剛 Tsuyoshi Yamamoto Trio 「SWEET FOR K」

山本剛トリオと神成芳彦 伝説のTBMタッグが再びしっとりと美しくエロール・ガーナーを

<Jazz>
Tsuyoshi Yamamoto Trio 「SWEET FOR K」
SOMETHIN'COOL / JPN / CD / SCOL1071 /  2024

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山本 剛(piano)
香川 裕史(bass)
大隅 寿男(drums)

レコーディング、ミックス:神成芳彦  2023年11月20日音響ハウス(Tokyo)にて

 ここで、一昨年取り上げた前作『Blues for K』(SCOL-1062)で再会したピアニスト・山本剛(↓左)と、TBMレーベルの元録音エンジニア・神成芳彦の新作アルバムの登場。 『ミッドナイト・シュガー』『ミスティ』など画期的な高音質録音と名演奏で数々の日本発・世界的名盤を生み出して、我々の若き頃を楽しませてくれたこのコンビが、栃木県那須高原にある神成のプライベートスタジオで吹き込んだ前作品は、「ジャズオーディオディスク大賞2022 銅賞」も受賞するなど、話題と高い評価を得た。そして2023年には、「ぜひプロスタジオでの録音でも聴いてみたい!」という声も上がったとかで、神成芳彦が「東京・音響ハウス」に登場して、昔のTBMレーベルもレコーディングを行ったこのスタジオで老骨に鞭打って再び腕をふるう事となったもの。 選曲は山本剛が敬愛してやまないエロール・ガーナーを中心としたバラッド集。まあ二人にとってみればお互い歳を取って、ここにその昔の再現を試みたというのは、これまた注目していいものである。メンバーは、香川 裕史(bass↓中央)、大隅 寿男(drums↓右)と不変のトリオ。

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(Tracklist)

1. Night Wind (ErrollGarner)
2. Paris Bounce (ErrollGarner)
3. When Paris Cries (ErrollGarner)
4. Dreamy (ErrollGarner)
5. Mood Island (ErrollGarner)
6. Solitaire (ErrollGarner)
7. Daahoud (Clifford Brown)
8. Polka Dots and Moonbeams(Jimmy Van Heusen)
9. Sweet for K
10. Laura (David Raksin)
11. Garner Talk

46347   エロール・ガーナーErroll Louis Garner (1921,6,15 - 1977,1,2 右)と言えば、意外に皆が言わないのだが、現代ピアノ・トリオの元祖と言ってもいい人だ。それは1944年でありモダン・ジャズ時代のピアノ・トリオの先駆者である。つまり、ピアノ・トリオの元祖はナット・キング・コールであるが、実は、その最初のスタイルは、ピアノ、ベース、ギター編成だったんですね。それをピアノ、ベース、ドラムスの形に仕上げたのがエロル・ガーナーなのだ。我々はエロル・ガーナーといえば"Misty"ということになって、曲が最初に出てくるが、現代ピアノ・トリオの先駆者としてのピアニストの貢献が大きかった人である。

 山本剛は、若い時にこのガーナーの"Misty"を演じてスター・ダムに乗ることとなったので、エロル・ガーナーには相当の思い入れがあると思う。そんなわけで意外に知らないガーナーの曲をここで聴くことになったのだ。リストを見ると6曲ここに収録されている。

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 エロル・ガーナーの曲は、M1.からM6.まで6曲続く、まずM1."Night Wind" は、今回の録音の最初の演奏は気合付でM2."Paris Bounce"であったようだが、このアルバムではバラード演奏で聴かせるトップ曲に出てきた。
 そして、M2. "Paris Bounce" は軽快に
   M3. "When Paris Cries" ぐっとピアノがしっとりと演じられる。香川の旋律のアルコ奏法がさらにムードを盛り上げる。とにかくうっとりだ。
 M4. "Dreamy" 一時代前の夜のアメリカンな甘さが響いてくる。
 M5. "Mood Island" 気分を変えてちょっと軽く軽快に 
   M6. "Solitaire" ガーナーの最後は、ピアノ・ソロで美しくそして軽い中にちょっと切なく
 M7. "Daahoud" Clifford Brownの曲をバラード調で
 M8. "Polka Dots and Moonbeams" ライブではおなじみのようだが、時代的な古い感じはあるがバラードでの演奏に聴き入ってしまう
   M9. "Sweet for K" 山本の回顧的感謝の美しさの曲
   M10. "Laura" David Raksinの曲だか、ガーナーの持ち曲でもあったようだ。うっとりと聴ける
   M11. "Garner Talk" ガーナーへの想いを美しく

  とにかくうっとりとして聴いていればそれでOKというアルバム。演奏は日本のピアノ・トリオの一面として貴重な世界。
 問題の神成芳彦(上写真前)の録音だが、ここでも復活の気合が入ったことは十分に窺い聴くことができた。特に山本のピアノはパーフェクトに近い録音だと思う。ただちょっと残念なのはドラムスの響きとブラシの音やシンバル音の硬質な繊細な美しさがアメリオ録音の音には負けていた。ベースももうちょっとソリッドな音でリアルに前に出ても良かったのでは(好みもあると思いますが)とも思う、そこは私としては若干残念に思ったというところ。
 そうは言っても、これだけ音質にも迫って良質なアルバムを求めるのは嬉しいことである。評価はしたがって良いところに落ち着いた。

(評価)
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

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2024年3月 2日 (土)

ロブ・ヴァン・バヴェル Rob Van Bavel 「Time for Ballards - The Solo Sessions」

バラードを演じたピアノ・トリオ2作品から最後に登場のピアノ・ソロ作品

<Jazz>

Rob Van Bavel 「 Time for Ballards - The Solo Sessions」

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Rob Van Bavel : Piano

19088518880_ee84w   オランダを代表するピアノの詩人と言われるロブ・ヴァン・バヴェル(→)による人気のピアノ・トリオ作品『Time for Ballads バラードの時間』2作品に続いて、3部作の最後のソロ・ピアノ・アルバムである。
 彼は、1987年にロッテルダム音楽院を最高点で卒業した後、セロニアス・モンク・ジャズピアノ・コンペティションやオランダのグラミー賞Edisonなど数々の賞を受賞する実力派。アムステルダム音楽院(CvA)および王立音楽院(デン・ハーグ)で教師として勤務。 これは2022年から発表してきたバラード集

 ピアノは話題のベルギーのChris Maene Straight Strung Concert Piano(下) により最高峰の音を聴かせる。このピアノは、300年以上にわたるピアノ製作の深い知識と最新の技術を組み合わせたクリス・メーンのストレートストリンググランドピアノで、徹底的な研究と、現代のグランドピアノに代わる革新的で芸術的な代替品を構築したいという究極の願望からの大胆な新世代の楽器として制作されたもの。

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 ロブ・ヴァン・バヴェルについては、過去に日本では2000年に澤野工房がピアノ・トリオ・アルバム『JUST FOR YOU』(Rob van Bavel : piano, Marc van Rooij : bass, Hans van Oosterhout : drums / AS007/ 2000)をリリースしてくれて知れたところであるが、躍動感あるリズムにのりつつ、リリカルで爽快な一枚として受け入れられた。
 そしてこの2022年にリリースされた『Time for Ballads』は、彼のピアノと別メンバーのベース、ドラムスのトリオで「The The Maene Sessions」と「The Studio Sessions」の2アルバムが、リリカルにして優雅、優しさとリズムが快感で好評であった。そして2023年になってストリ-ミング及びダウンロードという方法で、このピアノ・ソロ版がお目見えしたという経過だ。

(Tracklist)

1.Everything Happens to Me 05:07
2.Love Dance 03:47
3.Ballad of the Sad Young Men 05:23
4.Two for the Road 03:26
5.Always and Forever 04:08
6.Bob's Piano Bar 04:18
7.Cinema Paradiso 02:45
8.Guess I'll hang my Tears out to Dry 03:19
9.For Lieke 02:54
10.Ballad for René 03:19
11.Ballad for Danny 02:52
12.Your Nocturne 01:24

 もともと私はジャズに於いてのピアノものは何よりも好むのだが、それはソロよりはベース、ドラムスとのトリオ好きである。しかしこのアルバムはピアノ・ソロである。しかし、実は前作の『Time for Ballads』の2つのアルバムは、トリオものであったが、実はその内容は、バヴェルのピアノ主導型のアルバムで、それぞれ3者のインタープレイも楽しめるが、インプロヴィゼーションもピアノ主体であってトリオとしての面白みは若干少なかった。ただ比較的優しい演奏であったため、今回はソロということだが、それほど大きな違和感はなく続編的な受け入れが出来た。

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 M1."Everything Happens to Me"スタートから情緒たっぷりのバヴェルの流麗なピアノが聴ける。フランク・シナトラ、チェット・ベイカーなどの歌が有名だが、しっとり感も十分。
 こんな流れで全編スタンダードなど美しい詩的なメロディで綴ってくれる。M11"Ballad for Danny",M12"Your Nocturne"の締めくくりも刺激の少ない万人向けのピアノトリオ・ファンの心を掴むであろう演奏である。夜に、部屋にそう大きな音でなく適音量で流していると快感の作品。ときにこうしたアルバムも精神衛生上良いのではとお勧めである。

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『Time for Ballards 』の前作2アルバムは以下のようなものである

🔳Rob Van Bavell『Time for Ballards - The Maene Sessions』
    Dox Records / Import / Dox5881 / 2022

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Rob van Bavel - grand piano
Frans van Geest - bass
Marcel Serierse - drums

(Tracklist)

1.Ballad for Rene 03:44
2.In A Sentimental Mood 05:15
3.Your Nocturne 03:42
4.Search for Peace/Peace 05:53
5.Bob's Piano Bar 04:57
6.Elegie 05:08
7.I Guess I'll Hang My Tears Out To Dry 03:24
8.Ballad For Danny 04:26
9.De Tor Ahead 04:50
10.For Lieke 02:40
11.Roaring Heights 04:18
12.The Shadow Of Your Smile 06:31
13.Body And Soul 04:46

 とにかくピアノ・トリオ・ファンから圧倒的支持があった人気アルバム。何んといっても難しい演奏でないところが万人受けしたと言って良い。若干トリオとしての三者のインタープレイのスリリングな味が少し薄いところが残念なところか。

 

🔳Rob Van Bavell『Time for Ballards - The Studio Sessions』
    Dox Records / Import / DU8192R001CD / 2022

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Rob van Bavel (piano)
Marcel Serierse (drums)
Frans van Geest (bass)

(Tracklist)

1.A NIGHTINGALE SANG IN BERKELEY SQUARE 4:15
2.MANHATTAN 4:23
3.TWO FOR THE ROAD 3:25
4.ALWAYS AND FOREVER 4:33
5.MISTY 4:52
6.BALLAD OF THE SAD YOUNG MEN / LARGO 5:24
7.SLOW BOAT TO CHINA 4:09
8.HARD TO SAY GOODBYE / THREE VIEWS OF A SECRET 4:58
9.EVERYTHING HAPPENS TO ME 5:07
10.THE PEACOCKS 4:49
11.DAYDREAM 4:49
12.LOVE DANCE 3:45
13.CINEMA PARADISO / I'VE NEVER BEEN IN LOVE BEFORE 5:38

 『Time for Ballads』プロジェクトの第2弾、チック・コリアの影響を受けているといわれるバヴェルのピアノが、相変わらず心地よいメロディーを展開。期待のM5."MISTY"は、意外に軽妙なアップテンポでちょっと驚いた。

<当シリーズ3作の総合評価>

(評価)
□ 編曲・演奏  :  88/100
□ 録音     :  88/100

(試聴) 

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2024年2月11日 (日)

セバスチャン・ザワツキ Sebastian Zawadzki trio 「Vibrations」

クラシックから発展させた北欧ジャズのポーランド俊英のピアノ・トリオ

<Jazz>

Sebastian Zawadzki 「Vibrations」
Self Produced / Import / ZAWA2023 / 2023

Vibrations

Sebastian Zawadzki - piano
Maciej Kitajewski - doublebass
Kacper Skolik - drums

 ポーランド出身で現在はコペンハーゲン(デンマーク)に拠点を置くセバスチャン・ザワツキ(1991-)のピアノトリオ新作。彼は19歳でオーデンセ(デンマーク第3の都市)のシダンスク音楽院に入学し、ピアノを学ぶ。また、クラクフ音楽院(ポーランド)やコペンハーゲンのリトミスク音楽院でも学ぶ。また、ロサンゼルスで行われたリチャード・ベリスとのASCAPフィルム・スコアリング・ワークショップに参加した後、オーデンセのシダンスク音楽院にソリストとして戻ったという経歴。

Avatarsiap9xe2e3s8fl0ysw  彼は、活気あるコペンハーゲンのジャズシーンで現在引っ張りだこのサイドマンで、多くの国でツアーやレコーディングを行って来ている。ピアノ・トリオ作品は2014年以来という。とにかく20歳代前半からのジャズピアニストとして音楽のキャリアをスタートさせていて、彼のファースト・アルバムは『Luminescence』(2014)では、ミニマルな即興曲が収録されているという。セカンドアルバム(2015年)は弦楽四重奏とピアノのために書かれてたもの。幼い頃から即興音楽やクラシック音楽に強く影響を受けていて音楽を学んだ結果、クラシック作品を作曲し、そのうちの1つである「ファゴットと室内管弦楽のための協奏曲」(2016年)は、第9回ワルシャワ新市街音楽祭で初演されたという話だ。

  とにかく彼に関しては話題に尽きないので、少々ここで紹介しておくが、新しい演奏の模索にも力を注いでいて、2017年にはクラシックの楽器奏者と電子楽器(主にモジュラーシンセサイザー)を組み合わせたプロジェクトに取り組み、その実験的なスタイルの1stアルバムは、新古典主義の作品『Between the Dusk of a Summer Night』(2017年)で、ブダペスト交響楽団、ソリスト、アンビエント・エレクトロニクスとのコラボレーションでブダペストとコペンハーゲンで録音されたようだ。

 その後も彼の実験的試みは多岐にわたり、2018年には「ピアノ作品集」と呼ばれる一連のアルバムを制作し、第一弾「Piano Works vol.1」を、続いて、弦楽四重奏、シンセサイザー、ピアノのためのサウンドスケープ『Norn』(2018年)を発表した。第2弾「Piano Works vol.2」は2019年発表し彼の代表作となる。更に声、ピアノ、弦楽四重奏を美しく盛り込んだ次のアルバム『Songs about Time』で、新しい音楽の道を模索し続けました。2021年には、ジャズトリオのために制作されたシングル「Far Away」をリリースし、ストリーミングサービスで約300万回のストリーミングを獲得。最新作『Viridian』(2022年)と『Altair』(2022年)は、更なる新たな出発で、『Viridian』は、メロディックな即興ソロ・ピアノ曲のシリーズで、『Altair』は交響楽団、マレット、ピアノのためのロング・プレイ・アルバムである。

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 さてそんな話題の尽きないザワツキの経歴を知りつつ今アルバムを聴くと、いろいろと納得出来てくる。全曲彼のオリジナル曲が収録されているピアノ・トリオ作品だ。

 (Tracklist)

1. Two (5:06)
2. Underestimated (7:48)
3. Coquelicot (5:37)
4. Vibrations (6:49)
5. November (7:24)
6. Painite (7:13)
7. Melancholia (5:36)
8. Zdrowie (6:37)
9. Purple (5:49)

  いわゆるクラシック音楽の要素と北欧ジャズを実験的に組み合わせて、アンビエント、ミニマリズムなど様々な要素を取り込んだサウンドで、真摯な気持ちで聴き入ることが出来る。作曲されたパートと即興演奏の組み合わせがオリジナルだあるだけ全く不自然さが無く、メロディーは美しく、そしてふと自分だけの時間に物思いにふけったり見知らぬ北欧の自然世界を頭に描いて静かに過ごすにはまことに見事なサウンドが響いてくる。
 ザワツキのピアノのメロディックで美しく繊細なタッチ、マチェイ・キタジェフスキのベースラインとカチペル・スコリクの繊細なドラミングが交錯し、主体はピアノが優位な位置でのトリオ演奏が展開されるが、これぞユーロ・ピアノトリオの一つの逸品と言っていいだろう。

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 オープニング曲M1." Two "から、 静かな北欧の自然豊かな世界を連想するピアノの響きと支えるベースが美しい。
 M2."Underestimated" 及びM8."Zdrowie" は、ピアノのクラシックを思わせる音楽展開が支配するも、後半に顔をだす即興部が面白しい
 タイトル曲M4."Vibrations"は、ミニマリズム手法が演じられ、静とダイナミズムが描くところ単なる美というのでなく躍動感が支配している。
 M5." November"は、まさにクラシック・ピアノの美しさに支配されている。
 M7."Melancholia" このようなメランコリックな世界はお手の物といった演奏。ピアノの打鍵音も美しい。
 M9." Purple" ピアノのベースとのユニゾンが生きた曲

 このトリオの美的インスピレーションの支配する演奏と音楽的感性は優れていて、オリジナリティー溢れた独特のサウンドで生み出される曲群は聴く者を支配する。
 何年ぶりのオーソドックスな作曲家およびリーダーとしてのセバスチャン・ザワツキのピアノ・トリオ作品であり、クラシック音楽の要素と北欧ジャズの世界を見事に組み合わせた作品だ。久々のトリオもので、彼のこれからのジャズ経歴で重要な一つの作品になると思われ、今後への期待は大きい。

(評価)
□ 曲・演奏  92/100
□ 録音    90/100
(試聴) "Underestimated"

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2024年2月 6日 (火)

ヴィジェイ・アイヤー Vijay Iyer, Linda May Han Oh, Tyshawn Sorey 「Compassion」

アメリカ社会の暗部を背景に人間的に迫ろうとする意欲作

<Contemporary Jazz>

Vijay Iyer, Linda May Han Oh, Tyshawn Sorey 「 Compassion」
ECM Records / JPN /  UCCE-1204 / 2024

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Vijay Iyer(p)
Linda My Han Oh(double-b)
Tyshawn Sorey(ds)

Recorded May 2022, Oktaven Audio, Mount Vernon, NY

399423767_18403083w 「21世紀のECM」を代表するピアニストといわれるヴィジェイ・アイヤー(米、右、紹介は末尾に)の3年ぶりのECM通算8作目となるピアノ・トリオ・アルバムの登場。   前作『Uneasy』(ECM352696)に続いての彼は多くのインスピレーションを二人から受けているというベーシストのリンダ・メイ・ハン・オー(1884年マレーシア生まれ、中国系移民、オーストラリア育ち、下左)とドラマーのタイショーン・ソーリー(1980年米国生まれ、クラシック・ジャズ両面で評価を受けている、下右)をフィーチャーしたトリオの2作目。 "独特な創造性のある作品"と前評判のコンテンポラリー・ジャズ・アルバム『Compassion』だ。

 ニューヨークタイムズ紙は、「新たな領域を探求する意欲を持ち続けると同時に、レーベルに長く関わってきた先人たちにも言及している。このアルバムには、スティーヴィー・ワンダーの「Overjoyed」の力強い解釈が収録されており、故チック・コリアへの間接的なオマージュ。もうひとつの「Nonaah」は、ピアニストにとって重要なメンターである前衛の賢人ロスコー・ミッチェルの作品。オリジナル曲群は、メロディアスに魅惑的でリズミカルな爽快な曲、物思いにふけるようなタイトル曲、フックが絡み合ったハイライト曲「Tempest」や「Ghostrumental」まで、多岐にわたる」と評価し説明している。

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  収録曲は13曲で、新たな世界の展開を試みるヴィジェイ・アイヤーのオリジナル曲は9曲、それは社会に存在するレイシズム(人種主義)そしてアパルトヘイトなどの不安、一方コロナ禍のような社会不安などがテーマで、ここ数年で作られてきたものだ。そしてその上に、彼の尊敬する人たちの曲やそれにまつわるもの等の4曲である。

(Tracklist)

1. コンパッション Compassion (Vijay Iyer)
2. アーチ Arch (Vijay Iyer)
3. オーヴァージョイド Overjoyed (Stevie Wonder)
4. マエルストロム Maelstrom (Vijay Iyer)
5. プレリュード:オリソン Prelude: Orison (Vijay Iyer)
6. テンペスト Tempest (Vijay Iyer)
7. パネジリック Panegyric (Vijay Iyer)
8. ノナー Nonaah (Roscoe Mitchell)
9. ホエア・アイ・アム Where I Am (Vijay Iyer)
10. ゴーストゥルメンタル Ghostrumental (Vijay Iyer)
11. イット・ゴーズ It Goes (Vijay Iyer)
12. フリー・スピリッツ / ドラマーズ・ソング Free Spirits / Drummer’s Song (John Stubblefield / Geri Allen)

 アイヤーのECMからのデビューは、2007年のロスコー・ミッチェルのメンバーとして参加したアルバム『ファー・サイド』で、マンフレート・アイヒャーの支持を受けECMと契約し、2014年に室内楽との共演作品『ミューテイションズ』をリリース。その後、その都度異なるミュージシャンとの共演が展開され、2021年には新トリオ作品『Uneasy』をリリースし、絶賛を受け評価を勝ち取った。その為か今作はその同トリオによる待望の2ndとなる新作である。

 何といっても、その心結ばれるメンバー同士において、センスと技量においての認め合う関係があり、その上での自由な空間でのインタープレイがインパクトのある音世界を演じ見事である。 アメリカン・ジャズのエッセンスはしっかり持って、その上に築かれる創造性はこのアルバムで一層充実した。しかも、その根底にあるところの"アメリカ社会の暗部"に対しての訴えがにじみ出ているところにも注目すべきである。

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 スタートのM1."Compassion"から、アルバム・タイトル曲の登場。「思いやり」ということか、彼の話からもインストゥルメンタル曲に深い意味を持たせるがための試みである今作のスタートである。 静というか深層心理に迫りそうな静かなピアノの演奏から終盤への盛り上がりが素晴らしいのだが、ピアノとベースの絡み合いも聴きどころ。アメリカ社会におけるそれは苦しみや不安の表現から、襲ってくる得体のしれない波を表現しつつ、思いやりの心を描きたっかったのだろうか。このトリオは「有色人種の3人組」というところにも意味が見えてくる。
 M2." Arch" アパルトヘイト廃止へ尽力したDesmond Turu大主教に心を寄せた曲。
 M3." Overjoyed"は、ピアノ・ジャズの世界そのものの演奏。アメリカン・ジャズの匂いがプンプンとしている。亡きチック・コリアを脳裏に描きつつ彼の感謝・祝福の言葉なのだろうか。
 M5."Prelude: Orison" 静かな世界に響く祈りの心。哀感と美しさのピアノの世界にベースの響きも美しく。これは彼が尊敬し愛した南インド出身の薬学博士で平等主義者のY.Raghunathanに捧げた曲だ。
 M6." Tempest " 激動と動揺の社会現象を荒々しく表現し、M7."Panegyric"では、努力と尽力の礼賛の心の表現か、メイ・ハン・オーの低音ベースが光る。。
 M8."Nonaah" アイヤーの拠り所であるRoscoe Mitchellの曲で、前衛的攻めのトリオのインタープレイは圧巻。 ソーリーの巧みなアタックが印象的。
 M11." It Goes" 失った人(人種問題研究者でもあった作家・詩人Eve L. Ewing)への思慕と感謝、そして寂しさの複雑な世界を描く。優しさ溢れる曲。
 M12." Free Spirits / Drummer’s Song " 喜びの表現が感じられ、前途への意欲を感ずるところが救いか。

 この究極のアイヤー音楽は、人種問題を背景にした葛藤と不安とある意味での戦いが描かれている。そして一方歩んできた人生の経験の中で得られた感謝の心の世界の表現の曲も含めている。それは社会的に政治的に共感的な立場を取れる重要人物を賞賛する。又痛ましい出来事に対しては追悼の心を表すことを忘れていない。

 インストゥメンタル・ミュージックでの表現において、創造的な試みが彼の一つのテーマでもあったようで、このアルバムは、曲単位というよりはトータルに聴いて理解すべきものと思った。全体的に派手な華々しさの明るさはない、テーマからしてもちょっと重く暗い世界だ。しかし音楽的展開においては多彩で聴き応え十分。単なる暗さというのでなく、感謝の世界や、人間の生き様への敬愛の心の美しさのある音楽も演じてくれ心休まるところもある。これには特に息の合った三者のインタープレイが見事で、描くところ現代アメリカン・ジャズではやはり異色の世界を構築している。
 アイヤーの音楽スタイルは、アメリカの歴史的な偉大な作曲家・ピアニストの世界が基礎にあるのは間違いないが、60年代から70年代のアフリカ系アメリカ人の創造してきたジャス音楽の影響を受けての彼自身の独創的な世界を構築するに至ったものだろう。そしてそこには「社会的問題意識を表現してゆく作品としての意義」を、このようなコンテンポラリーなジャズ世界に求めているのかもしれない。

(参考)
<ヴィジェイ・アイヤー VIJAY IYER>  (SNSより引用)
 ニューヨーク、オルバニーで生まれた(1971年)。アメリカ合衆国へのインド系タミル人移民の息子である。3歳から15年間、西洋クラシックのヴァイオリンを習う。更にほとんど独学でピアノを習得。イェール大学で数学と物理学を学び、カリフォルニア大学バークレー校で音楽認知科学を学びながらジャズ・クラブに出演し音楽の道へと進んだという異才。
 マンハッタン音楽学校、ニューヨーク大学、ニュー・スクールで教鞭をとり、カナダ、アルバータ、バンフ・センターのジャズ・クリエイティブ・ミュージック国際ワークショップのディレクターをつとめている。2014年1月には、ハーバード大学の芸術科学学部初のフランクリン・D、フローレンス・ローゼンブラット教授に就任した。
 多くのレーベルで作品をリリース。2009年のACTデビュー作「Historicity」がグラミー賞にノミネートされ、一躍ニューヨーク・ジャズ・シーンをリードするピアニストとして注目を集めた。 又、イラク・アフガニスタン戦争に行った兵士たちの詩がフィーチャーされた『ホールディング・イット・ダウン』は注目された。
 ECMにおける初リリースは、2007年のノート・ファクトリーのメンバーとして参加したライヴ・アルバム『ファー・サイド』。そして2014年に室内楽との共演作品『ミューテイションズ』でECMリーダー・デビューを果たす。続く『Radhe radhe:ライツ・オブ・ホーリー』、そして2015年トリオ作品『ブレイク・スタッフ』など次々と異なるプロジェクトで活動し精力的に作品を発表。2021年リリースの新トリオ(今アルバム・メンバー)作品『Uneasy』は、各メディアで絶賛された。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    87/100

(視聴)

 

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2024年1月27日 (土)

マルチン・サッセ Schoenecker / Sasse / Schieferdecker 「Trio Tales」

ベテランのギター・ピアノ・ベースによるドラムレス・トリオで描く物語・・・

<Jazz>

Schoenecker / Sasse / Schieferdecker 「 Trio Tales」
JazzJazz / Import / JJ1037  / 2024

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Joachim Schoenecker (guitar)
Martin Sasse (piano except 7)
Markus Schieferdecker (bass except 7)

Recorded and mixed by Klaus Genuit at Hansahaus Studios Bonn on October 8th & 9th, 2021

  ドイツが誇る3アーティストが集結した。それはギターのヨアヒム・シェーネッカー(1966年旧西ドイツのザールブリュッケン生まれ 下左)を中心に、人気ピアノのマルチン・サッセ(1968年旧西ドイツのハム/ヴェストファーレン生まれ 下中央)、ベースのマルクス・シーファーデッカー(1972年旧西ドイツのニュルンベルク生まれ 下右)であり、いずれもキャリア豊富なドイツの精鋭陣が顔を揃えた連名ドラムレス・トリオのアルバムだ。

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 この作品はタイトルにもある通り"Tales 物語"をテーマにしており、敢えてリーダーを決めず、 メンバー3人による音楽的な会話を交わす、つまりインタープレイの楽しさを目指して作成されたようだ。この"Tale"には"むだ話"のような意味もあるので、とにかく3人がリラックスして楽しんでいるとみていいだろう。

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1.Blues For PB
2.Body & Soul
3.Groovy Waltz
4.Longing
5.Green And Blue
6.One For Jeanni-e
7.Autumn In NY
8.Pannonica
9.Song 42

 オープニングのM1."Blues For PB"のブルースから、なんとなく仲間意識で盛り上がって、一緒に演奏する純粋な喜びが感じられるようなゆとりのある演奏に聴こえる。それはメロディックでリズミカルでもあり快感。
 また意外な繊細さが彼らのオリジナル曲M4からM6には感じられ、自然にメロディー演奏が3者に転換されて行って対等感がにじみ出ている。お互いに敬意を払ってクールに流すところもみられ、それはまさにベテランの味である。

 近作マルチン・サッセのピアノトリオ新作アルバム『Longing』(JJ51035/2024 紹介下記)にも収録されているM4とM5が出色の出来を感ずる。特にM5."Green And Blue"では、ギターの味がピアノの音に先行して美しい旋律を流し、それを作曲者のサッセがほほ笑むようにピアノでホローする形で美しい音を聴かせ、その流れの微妙な繋がりが素晴らしい。それに更にベース・ソロに近い流れが加わって、この色付けが静かにしてちょっと物憂いところがジャズのムードを盛り上げていて楽しい。マイルス・ディヴィスの"Blue in Green"を大いに意識してのものであろうことは想像に難くないが、私はこのアルバムでは一押しだ。

 M7."Autumn In NY"はギター・ソロで、2分20秒と短いが、なかなか編曲とアドリブとインプロが生きて変化していて、ジャジーな充実感の中にちょっと寂しい秋が実感できる。そしてM8."pannonica"へ流れ3者の間を巡る演奏によってインプロによる静かな花が咲く。

 究極、彼らの演ずるストーリーは、メロディックでリズミカルな繊細さに満ちており、一方クールさでも自信の結果で安定感ばっちり。彼らの描くところ、エレガントに仕上げる年期の味が満ちていてこれも好感である。テーマやスタイル、和音やリズムを変化させる技術は経験の深さであろうと聴いた。なかなか味のあるアルバムであった。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏  90/100
□ 録音       88/100
(試聴)  "Green And Blue"

            - - - - - - - - - - - - - - - 

 

(参照)  マルチン・サッセのピアノ・トリオ・アルバム

  エレガントで軽快にメロディックなピアノ・トリオ作品

<Jazz>
MARTIN SASSE TRIO 「LONGING」
JazzJazz / Import / JJ51035 / 2024

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Martin Sasse (piano)
Martin Gjakonovski (bass)
Joost van Schaik (drums)

Recorded and mixed by Reinhard Kobialka at Topaz Studio Köln.

 上記アルバムのピアニストのマルチン・サッセの、これはついこの間リリースされた自己名義トリオによるアルバムである。彼のオリジナル曲のM03."Longing"とM06."Green And Blue"が、こちらのアルバムにも登場する。同じトリオ・スタイルでも楽器編成が異なるので、その違いが楽しいところだ。

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01. How Little We Know
02. Groovy Waltz
03. Longing
04. Never To Return
05. The Soul Of Jazz
06. Green And Blue
07. Swing, Swing, Swing
08. Bennetts Blues
09. Lover Man
10. With You

 サッセのピアノはエレガントであり聴くに気持ちが良い。サウンドはメロディーに乗っての軽妙さが印象的だ。収録は8曲の彼のオリジナルに、スタンダード曲M01."How Little We Know"M09." Lover Man"が収録されているが、M03."Longing"、M06."Green And Blue"が、上記アルバム『Trio Tales』と共通であるところから聴き比べが注目点。こちらでは曲の展開はほゞ同じスタイルでありベースの演ずる役割も似ているが、純粋なアコースティック・ピアノ・トリオの良さとしてのメロディーの美しさがピアノによって描かれている為、上記のギター・ジャズ・ムードが加味されての世界とは印象が結構大きく異なる。どちらが良いかは好みというところ。
 なかなか情景豊かな演奏で、ピアノ派にとっては好まれる因子のあるアルバムである。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    87/100
(試聴)     "Breen And Blue"

 

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2024年1月22日 (月)

アンニ・キヴィニエミ Anni Kiviniemi Trio 「Eir」

リアルなサウンドで独創的な世界を描くフリー・ジャズ

<Jazz>

Anni Kiviniemi Trio 「 Eir」
WeJazz/ Import / WJCD58 / 2024

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Anni Kiviniemi, piano
Eero Tikkanen, double bass
Hans Hulbaekmo, drums

Composed by Anni Kiviniemi
Recorded & mixed by Aksel Jensen at Newtone AS, Oslo
Mastered by Juho Luukkainen
Executive producer & design by Matti Nives

  米国ロサンジェルスを拠点とするフィンランド人女流ピアニスト、アンニ・キヴィニエミAnni Kiviniemi(下左)は、ベーシストのイーロ・ティカネンEero Tikkanen(1987-下中央)とドラマーのハンス・フルベクモHans Hulbaekmo(1989-下右)をフィーチャーしてのトリオ・デビュー作品。彼女は米国へ移住する前はノルウェーに住んで学んでいたようだ。
  このニュー アルバム「Eir」は、キヴィニエミのオリジナル8曲で構成され、このタイトルは、リリース前に生まれたキヴィニエミの娘にちなんで名付けられたということだ。

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 そしてこのトリオの演ずるところ、"現代クラシック音楽、ノルウェーの民俗音楽、北アフリカと中東の音楽の伝統、フリージャズに関するキヴィニエミの研究の影響を受けています"と表現されていて、"内省的でムーディーでありながらスウィングするピアノ・トリオ"と紹介されている。

 キヴィニエミの言葉(作曲プロセスについて次のように語ってる)
「音楽においても、おそらく人生においても、私は常に未知のものに引き寄せられます。すぐには認識できない珍しいメロディーや奇妙なコードを聴いたら、ピアノに飛び乗って、それが何であるかを理解する姿勢で来た。・・・・私は作曲家として常に自分自身に厳しい制限を設けていますが、仲間のミュージシャンには完全な自由を与えています。 私の音楽を自分なりの方法で解釈してください。彼らが何かを変えたいなら、自由に変えてください。私はバンドリーダーとして驚くのが大好きです。それは私に多くのことを教えてくれて、いつも楽しいです。アルバムは95%は即興ですが、ライブでプレイすると99%に近づいていきます。」

(Tracklist)

1.Tiu Dropar
2.Gwendolyn
3.Judy
4.Arguably
5.Atoms
6.Mére
7.Mengi
8.Choral
   
  スタートのM1."Tiu Dropar"を聴いた瞬間、曲よりもまずトリオのドラムスとベースの音がリアルで驚く。ステック音、シンバル音が響き、ピアノとシンクロするベースの低音も曲を見事に支える。まさに現代的録音だ。そしてそれに引けをとらずのピアノが美旋律という世界でなく即興の為か不思議な展開のメロディーがクリアな音でリアルに迫ってくる。これぞ、寺島靖国の「For Jazz Audio Fans Only」に取り上げられそうな世界である。

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 そして、私は何といっても注目したのはM4."Arguably"だ。このアルバムでは最も長く7分を超えた演奏だが、かなり即興の因子が強い。ぐっと静粛性の中に響くピアノの響き。なんとなく内省的な世界に導かれる。余韻が妙に印象的でドラマーの演ずる太鼓と金属音が深遠だ。ベースもアルコで異様な世界を演ずる。
 そして一転してM.5"Atoms"は、驚きの攻撃的演奏。ドラムス、ベースの演ずるところにピアノも同調。
 続くM6."Mére"はぐっと落ち着いて再び内省的である。
 M7."Mengi"ベースが訴えてくるリズムカルな面白い曲。
   最後M8."Choral"は、ソロに近いピアノ演奏で結論的なまとめを聴かせる。

 女流ピアニスト・コンポーザーと言うことで、ムーディーなのかとちょっと気楽に接したら、なかなかスリリングな演奏が中盤に現れて驚いた。フリー・ジャズを研究しているというだけのものがある。そして一方現代クラシックの世界が響いてきてなかなか聴き応えある。一曲づつというのでなく、アルバムを一つとして聴くと楽しい。
  トリオのコンサート・パフォーマンスは、「叙情的で爆発的」であると同時に、「堂々と独創的で、美しく時代を超越している」、そして「現代のピアノ・トリオ・ジャズの表面的な決まり文句に完全にさらされている」と評されているらしい。確かに美しさと驚きの瞬間が混在していてリアルな音を響かせるところは現代的。

(評価)

□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    90/100

(試聴)

 

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