ピアノ・トリオ

2023年9月17日 (日)

アロン・タラス Aron Talas Trio 「New Questions, Old Answers」

なかなか親近感あるメロディアスな世界でなく抵抗があり難解

Aron Talas Trio 「New Questions, Old Answers」
Bmc Records / IMPORT / BMCCD334 / 2023

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Áron Tálas - piano
István Tóth - double bass
László Csízi - drums

All compositions by Áron Tálas
Recorded by Viktor Szabó at BMC Studio, Budapest on 1-2 November, 2022
Mixed and mastered by Viktor Szabó

Produced by László Gőz

Ab6761610000e5eb37a8d6beffdb68d959a485f1   ハンガリーのジャズシーンで評価の高い俊英ピアニストのアロン・タラスÁron Tálas(1990年ブタペスト生まれ33歳 右中央)のトリオでの2ndアルバム。前作『リトル・ベガー』は2017年にリリースされ、デビュー・アルバムでありながら国際的に高い認知を得た。
 彼はピアニスト、ドラマー、そして必要に応じて歌手兼ベースギタリストだ。フランツ・リスト音楽アカデミーでジャズ・ピアノとジャズ・ドラムを学ぶ。2013年、ハンガリーの国内コンペでトリオで「最優秀ジャズ・コンボ賞」、同年、「ジュニア・プリマ」受賞。2015年、モントルー・ジャズ・ピアノ・コンペのファイナリストの一人。現在、フランツ・リスト音楽アカデミーの伴奏ピアニスト。コダーイ・ヤーノシュ大学ジャズ・ドラム科講師で、マルチプレイヤー的才能の持ち主だ。

 今回のアルバムは彼自身の曲によるもので、「ヨーロッパならではのクラシカルな土壌の上に透明感溢れる抒情性があって、フォーク要素やロックの要素、クラシック音楽までに広く及び、フレージングは比較的軽やかで、伝統的なスイング感がうまく織り合わされ演奏を展開する」との解説があるが、果たしてそう感ずる世界かどうか。

 

(Tracklist)

1 New Questions, Old Answers
2 Hargrove
3 Old Soul
4 The Choice You Never Had
5 Elastico
6 Tevemenet
7 Rain
8 Cnile Kinlu
9 Afrosatie
10 The Visitor
11 To Be Continued

  叙情性の因子があるも、曲展開は意外にダンサブルなところがある。メロディー展開も明るいというのではないが、そう深刻に哲学的な世界に入ってゆくというスタイルではなく、スウィンギーなところもあってやっぱりジャズの世界に自己の独創性を生かしてゆきたいという方向性が聴きとれる。

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  M1." New Questions, Old Answers"このアルバムのタイトル曲だ。"新しい質問、古い答え"このタイトルが振るっている。主張したい問題意識が感じられる。いわゆるスウィングして流れてゆくアメリカン・ジャズとは異なり、しかもユーロ系のイタリア、又一味違った北欧系の流れとも異なった世界だ。決して陽気な明るさはない。抒情性と言っても日本的な味わいとは全く別物でちょっと取り付くには難しい印象。
 M3."Old Soul"決まったテーマが流れるが、次第に留まるところを知らずにピアノの流れが展開。ベース、ドラムスもそれぞそれが統一感ないように流れるも押さえるところはピシッと締まる。見事な技量を感ずるも私の好きな哀愁感は感じられない。
 M4."The Choice You Never Had" ゆったりと抒情的に流れるも、所謂イタリア的美旋律の世界ではない。回顧的で未来の展望感は感ぜず。
 M7."Rain" のピアノの響きは極めて美しいが・・・
 M9."Afrosatie"  このタイトル自身、なかなか理解が難しい。曲はそう難解ではないが、しっとり心を奪われるという世界ではない。私が期待している世界ではなさそうだ。

 はっきり言って全体的に難解で、寄り付くところが微妙に抵抗的で親密感のレベルが低い。クラシック的因子が結構強く、又それぞれの曲が難解でこのアルバムは大衆的でない。評価は1.ジャズ理論か、2.音楽理論か、3.人の心を捉えるメロディーかと考えてしまうが、少なくとも3.ではない。私としては難物としての評価に至った代物。じっくり聴いていると味が出そうな感じではあるが。

(評価)
□ 曲・演奏 :   85/100
□   録音   :   87/100

(試聴) 

 

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2023年9月 2日 (土)

ビル・エヴァンス・リマスター・シリーズ Bill Evans 「Waltz for Debby」etc

2023年リマスタリングにて、ハイレゾにてSACD盤、MQA-CD盤にて登場

ビル・エヴァンス・リマスター・シリーズ Bill Evans Trio 
3アルバム 「Waltz for Debby」 「Sunday at the Village Vanguard」「You Must Believe In Spring」

 50年以上の経過の中で、LP、CD にて何回かリマスタリングされリリースされてきた名作中の名作が、ここに来て10年ぶりの2023年リマスターを施し、Hi-Res盤として、SACDとMQA-CD(UHQ-CD)の二本立てでリリースされた。

■ Bill Evans Trio 「Waltz for Debby」
  MQACD(UHQCD) 176KHz/24bit
  CRAFT REcordings / JPN / UCCO-46012 / 2023

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ビル・エヴァンス(piano)
スコット・ラファロ(bass)
ポール・モチアン(drums)

1961年6月25日 ニューヨーク、ヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴ録音

 2016年にRIAJゴールド・ディスクにも認定され、日本で最も売れているジャズの名盤『ワルツ・フォー・デビイ』が、10年ぶりにオリジナル・テープからオール・アナログ・マスタリングが施されたことを受け、同日録音された下のアルバム『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』と共に最新リマスターリング音源でHi-Res高音質盤でリリースされた。そして後期の高品質録音での名盤である『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』も同時に同様にHi-Res盤でリリースされた。

Bill_evans1w  今や、Hi-Res時代迎え、CD盤よりビニール盤(LP)の方が売れる時代となり、音楽産業も大変革を迎えている。もともとネットによるストリーミングという便利で高音質の世界が構築され、それが当たり前となってきた今、一般CDの意味が無くなってきてしまった、そこで高音質盤ということでHi-Res盤として"SACD"、"MQA-CD"という世界なのである。
 そこで、私としては廉価で高音質ということで、現在いろいろと話題の絶えないMQA盤を取り敢えず購入してみたと言うことである。まあ手元には過去のアルバムが存在しているのであるが、果たして音質でも何処まで改良されたかと言うことが聴く目的になってしまったが、この「Waltz for Debby」「Sunday at the Village Vanguard」の2枚を仕入れた。「You Must Believe In Spring」の方は既にHi-Res-MQA版192kHz/24bitのMQA-FLACで手に入れて聴いているため、今回は購入してない。

 なお、このCD、ビル・エヴァンスが兄の愛娘デビイに捧げた可憐なタイトル曲や、何処か優美な知的あふれる永遠のピアノ・トリオ名盤である。そしてこれは本ライヴの11日後に突如亡くなってしまった天才ベーシスト、スコット・ラファロとの最後の共演版で、ポール・モチアンとの至高のトリオの4枚目作品で、ニューヨークのクラブでの録音モノである。

(Tracklist)

01.マイ・フーリッシュ・ハート My Foolish Heart
02.ワルツ・フォー・デビイ Waltz For Debby
03.デトゥアー・アヘッド Detour Ahead
04.マイ・ロマンス My Romance
05.サム・アザー・タイム Some Other Time
06.マイルストーンズ Milestones

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■ Bill Evans 「Sunday at the Village Vanguard」
    MQACD(UHQCD) 176KHz/24bit
  CRAFT REcordings / JPN / UCCO-46013 / 2023

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ビル・エヴァンス(piano)
スコット・ラファロ(bass)
ポール・モチアン(drums)

 上の超人気アルバム『Waltz for Debby』と対をなす同日同場所録音のライヴ盤である。

(Tracklist)

1 グロリアズ・ステップ Gloria's Step  6:11
2 マイ・マンズ・ゴーン・ナウ My Man's Gone Now 6:27
3 ソーラー Solar 8:59
4 不思議な国のアリス Alice in Wonderland 8:37
5 オール・オブ・ユー All of You  8:19
6 ジェイド・ヴィジョンズ Jade Visions  3:45

 今回は、米国オリジナル・アナログ・マスターを基にした2023年リマスタリング音源192khz24bitを採用。ジャズ愛好家ならもう既に手を変え品を変えしてリリースしてきたアルバムなので聴き飽きているといっても過言でないだろうが、ビル・エヴァンスものは素晴らしい録音物って殆どと言っていいくらい無いので、どのくらい良くなったというところが今回の興味であって、その為なんとSACDとMQAの二種のHi-Res盤のリリースなんですね。MQAに関しては英国MQA社の経営破綻という事で今後にいろいろと噂されているわけであるが、私の場合はオーディオ装置はMQA対応している為、SACDよりは廉価であるMQA盤でHi-Res音源として聴いている。
 なお今回のリリースでも、オリジナルLPのライナーノーツの日本語訳を収載している。

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 結論的に、そんなに目の覚めるような画期的高音質を実現したという事はない。しかし右から聴こえてくるピアノの音は確かに透明感をました感がある。それよりも私は今回は、アルバム『Sunday at the Village Vanguard』の方に興味を持った。それはもともとビル・エヴァンスはピアノ・トリオものといっても、ピアノ・ワンマンというのでなく、トリオそれぞれ3者の味を大切にする演奏スタイルであり、このアルバムでは、特に演奏時間が8分を超える曲が3曲あって、それらではスコット・ラファロのベースがより温かみを持って前面に配置されしっかり聴きとれるようになった事だ。更にポール・モチアンのドラムスでもブラッシによるスネアやシンバルなどの音がより繊細に明瞭となっているように感じ、この点でも実に楽しい演奏となっている。そんなことからトリオ演奏の楽しみが増したアルバムとして評価したくなったのである。
 とにかく、いくら技術的に音質改良が進歩したと言っても、元の録音がどうであったかが命であって、その上での改良だという事は知っているべきところである。今回も取り敢えず記念的に購入してみたが、それでも効果があってよかったと思っているのだ。

(評価)
リマスター・Hi-Res盤としての効果  80/100

(参考試聴)

 

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2023年8月28日 (月)

バンクシア・トリオ Banksia trio「MASKS」

ピアノ・トリオの多彩な表現を聴かせる

<Jazz>

Banksia trio「MASKS」
TSGWRecords / JPN / TSGW001 / 2023

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林 正樹 Masaki Hayashi (piano)
須川 崇志 Takashi Sugawa (bass) (cello on 05, 10)
石若 駿 Shun Ishiwaka (drums)

   Banksia Trioは、2017年に須川崇志(b)が林正樹(p)、石若駿(d)に声をかけて結成された日本ジャズ・トリオ。2020年1月には、日本ジャズレーベルのDays of Delightより1stアルバム『Time Remembered』を発表。美しさと共にジャズ・トリオのスリル感たっぷりの演奏で高評価。翌年2月18日に、同レーベルより2ndアルバム『Ancient Blue』を発表。 同様にトリオの三者の個性がみなぎりつつも、その共存の美の追求で絶賛を受けた。この辺りの経過は、過去にここに取り上げてきたので詳細は省略するが、この数年間のパンデミックの中でなんとか行われたライブツアーの集大成をスタジオにて収録。メンバーのオリジナル楽曲5曲に加えて菊地雅章、ニック・ドレイク、ポール・モチアンなどの楽曲5曲を取り上げている。そして注目は、アナログマスターテープに収録し、アナログ録音の豊かさに加えて、高解像のデジタル録音技術も用いての現実的な自然な音に仕上げての好録音もうたっていて、須川の自主レーベルTSGW Recordsからの興味深いアルバムのリリースとなった。

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 参考までに須川崇志の語るところをここに記す・・・“ピアノ、ベース、ドラム。どの楽器も1音1音が立ち上がった瞬間から、静寂の中へゆるやかに減衰してゆきます。このたった1音が持つ音響現象そのものにフォーカスして、音が消えてゆくまでのディケイの海にダイブするんです。没頭するように聴いて次の音を紡いでゆくことは、とても内省的な、祈るような作業でもあります。須川崇志、林正樹、石若駿それぞれが持つスピリチュアルで個人的な音世界を、絶妙に共存させながらも音楽そのものは確実に前進してゆく、そんなバンドアンサンブルを楽しんでもらえたら嬉しいです (須川)"

(Tracklist)

01. Drizzling Rain (Masabumi Kikuchi)
02. MASKS (Takashi Sugawa)
03. Abacus (Paul Motian)
04. Bird Flew By (Nick Drake)
05. Doppio Movimento (Masaki Hayashi)
06. Stefano (Takashi Sugawa)
07. Siciliano (Shun Ishiwaka)
08. Messe 1 (Shun Ishiwaka)
09. I Should Care (Axel Stordahl and Paul Weston)
10. Wonderful One (Paul Motian)

 スタート曲は、菊地 雅章の曲M1."Drizzling Rain"で、シンバル、ベース、ピアノの順に響き、一音一音を互いにその余韻まで感じ合いつつの繊細にして印象深く迫る展開がお見事な演奏。ここに霧雨の深遠さの共振がこのトリオのトリオたるところをお披露目している。
 そして須川によるタイトル曲のM2."MASKS"にして、ムードは一転、予期せずの展開を荒々しさとスリル感たっぷりの演奏で迫ってくる。ドラムスのアタックとベースのヘヴィーにうねるところにピアノの強力なタッチ、そしてインプロヴィゼーションの交錯と聴きごたえ十分。
 M3." Abacus "の跳ねるような展開がややトリッキーで面白い。

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 M4."Bird Flew By" ニック・ドレイクの曲。自然界の優しさに浸れるも、途中で転調しているところが聴きどころか。
 M5." Doppio Movimento"林正樹の曲、フリー・ジャズっぽいところにチェロが襲いピアノが高揚する新鮮。
   M6."Stefano"どちらかというと、冷徹な世界。ピアノの硬さが印象的。
   M7."Siciliano"リズムカルなステイック・ワークにピアノとベースが跳ねる。
   M8."Messe 1"多彩なメロディー展開。しかしちょっと深まりがないか。
   M9."I Should Care"3者がぐっと落ち着いて、こんな優美の世界に浸ってよいのかと、先を心配して聴く世界。
   M10."Wonderful One"美しいピアノとチェロの響きで、繊細なブラシ音が加わって万々歳だ。

 このトリオが描くところは、ピアノ・トリオの優美さと、一方冷徹な深遠さと、更に暴力的インプロの叩きつけ合いと、それぞれに卓越した技量とセンスで迫る多彩な世界で飽きさせない。今作も全くその線は変わっておらず、しかもそのスリリングさと演奏のキレは見事で、今作も楽しませていただいた。大推薦である。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    90/100

(試聴)


*

 

 

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2023年8月23日 (水)

 ティングヴァル・トリオ Tingvall Trio 「BIRDS」

「鳥」のテーマの目的コンセプトがあまり伝わってこない

<Jazz>

 Tingvall Trio 「BIRDS」
Skip / Import / SKP91972 / 2023

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Martin Tingvall (p)
Omar Rodriguez Calvo (b)
Jurgen Spiegel (dr)

 ドイツ・ハンブルグを拠点に活動するヨーロッパを代表する美メロ・ピアノトリオ「ティングヴァル・トリオ」の9thアルバム。トリオ・リーダーのスウェーデンのピアニスト、マーティン・ティングヴァルが自然界をテーマとしての作品の一環として「鳥」にインスピレーションを得た作品だ。

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 彼の言葉は「彼らは自然の音楽家です。彼らは毎日素晴らしい音楽と信じられないほどインスピレーションを与えてくれます。ただ注意深く耳を傾けなければなりません。残念ながら、私たちはもうそれをやっていないようです、雑音が多すぎるのです。他の騒音が私たちを取り囲んで、気が散ってしまいます。このアルバムが人々に、私たちの周囲の環境を違った見方で認識するきっかけになれば幸いです。私自身、地球温暖化によって引き起こされる鳥の行動の変化をすでに観察しています。S.O.S、もうやめるべき時です。 自然に耳を傾けて行動してください。」 と・・・地球上の自然破壊につながる問題点に言及している。

 Tingvall Trioはもう結成して15年以上となる。リーダーのピアノのMartin Tingvallはスウェーデンで、ベースのOmar Rodriguez Calvoはキューバ、ドラムスのJürgen Spiegelはドイツ生まれという国際トリオだ。。
 過去のTingvallのソロも含めてアルバムは全て聴いてきて、ここでも何度か彼らを取り上げたが、全てオリジナル曲を中心にどちらかというと美旋律の自然を対象とした曲に魅力がある。今回も期待度は高かった。

(tracklist)

1 Woodpecker
2 Africa
3 SOS
4 The Day After
5 Air Guitar
6 Birds
7 Birds of Paradise
8 The Return
9 Nuthatch
10 Humming Bird
11 Nighttime
12 A Call for Peace

 鳥の状況を描いているのかM1." Woodpecker(キツツキ)"M2."Africa"は軽快な曲。 M3."SOS"は、いかにも問題に直面しての姿か、不安が感じられる。ティングヴァルの声が入るが・・・これは好感度は無し。
 M4."The Day After"になって、ようやく私の期待する美しく優しいピアノの旋律の聴ける曲が登場。後半にアルコ奏法のベースが不安感を感じさせて気になる曲だ。

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 M5."Air Guitar"は演奏技法が多彩で面白い。ピアノはミュート奏法のようだが。
 M6."Birds" タイトル曲、スタートからやや暗めのベースのアルコの音で始まる、ピアノが入って小躍りする印象。次第にトリオで盛り上がるも意味不明、M7."Birds of Paradise"も軽妙な世界だが、印象にあまり残らない。
 M8."The Return"優しく美しくのピアノのメロディーが登場し再びベースのアルコ。夏に戻ってくる鳥の姿か?、物語を感ずる世界は見事。
 M9." Nuthatch" ゴジュウガラか、良く解らない曲。
 M10."Humming Bird" ハチ鳥の姿(?)、何を描いているか不明だが、メロディーは優美で軽快。M11." Nighttime" ピアノの透明感ある美しい音を聴かせる。これら2曲はM4.M12.の2曲に続いて納得曲。
 M12."A Call for Peace"彼の鳥に思いを馳せての究極の曲として聴いている。ピアノ・ソロで美しい。

 どうも私自身が「鳥」の世界に興味がないせいか、全体にあまり目的が良く解らない曲群でこの「鳥」にまつわるコンセプトも理解が難しい。又このアルバムは、時に聴ける演者の声がどうも私には気分良くなかった(キースのようなうなり声ではないけれど)。そして私のお気に入りのアルバム『Dance』(2020)の"In Memory"のような曲を期待してはいけないのかもしれないが、過去のアルバム『CIRKLAR』(2017)の"Bland Molnen"、"Cirklar"とか、やはりいろいろと期待度が高いので、評価は決して低いアルバムではないのだが、今回は若干空しかったような感覚であった。

(評価)
□ 曲・演奏  87/100
□   録音    87/100

(試聴)

 

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2023年8月17日 (木)

ニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Doky 「Yesterday's Future」

デンマークの騎士のピアノ・ジャズ・プレイ

<Jazz>

Niels Lan Doky 「Yesterday's Future」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1114 / 2023

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Niels Lan Doky (piano)
Tobias Dall (bass except 04,10,12)
Nikolaj Dall (drums except 04,10,12)

Live at the Louisiana Museum of Modern Art

  寺島レコードから寺島靖国氏の推薦と言っていいのだろうデンマークの人気ピアニストのニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Dokyのアルバムがリリースされた。(本国ではLPのみで、日本でCDリリース)

 実はちょっと意外でもあったのは、彼の演ずるところ寺島氏は果たして好みなのだろうかと言うところであった。私も実は彼のアルバムは以前にも聴いているがあまり気合が入らない。2021年にここでアルバム『Improvisation On Life』(2017)を取り上げたが、彼のデンマーク生まれの体質を感ずる美メロディーが生きていたのを評価したが、私の好みとしては今一歩、ジャズの味に満足感が得られず、評価としては良好標準80点として一段上げて85点としたのだった。

202109080900w  今回、取り敢えず寺島氏のライナー・ノーツでどんなことを書くのか、それも興味で取り敢えず手に入れて聴いてみたというところである。
 ニルス・ラン・ドーキー(→)は1963年デンマークのコペンハーゲン生まれで、ニューヨークからパリでの活動を経て母国デンマークへ戻り(2010年)、地道に更なる研鑽を重ねてきた国際派の人気ヴェテラン・ピアニストである。今回はトリオ編成によるデンマークのルイジアナ近代美術館でのコロナ明け2022年の公演の模様を捉えたライヴ・アルバム。寺島氏によるとこのアルバム作成は彼の方から申し入れてきたという事のようだ。ちょっとこんなところからも内容は若干懐疑的な気持ちで聴いたところであった。

(Tracklist)

01. Children's Song
02. Farewell Song
03. Forever Frank
04. Where The Ocean Meets The Shore (solo piano)
05. Sent From Heaven
06. Just Do It
07. Yesterday's Future
08. Free At Last
09. Rough Edges
10. December (solo piano)
11. High Up North
12. Afterthought (solo piano)
13. Are You Coming With Me?
14. Misty Dawn
15. Yesterday's Future - studio version - (*bonus track)

  やはり相変わらず端正なピアノの響きである。評価は"落ち着きや安定性を感じさせると同時に鋭いキレのよさや適度な尖り感をも湛えた、澄みきったクリスタルの如き潤いある鮮明タッチのピアノが響く"と表現されている通りだが、曲展開はアクティヴィティ溢れるメロディック・プレイと叙情性あるメロディーある曲の取り交ぜたアルバム構成で変化に富んでいる。
 しかし、自然の情緒ある世界や心情の表現の哀愁ある世界の表現である曲が私にとっては納得の世界であって、ダイナミック・スウィギング・アクションを求めた曲では、トリオとしての何かジャズの不思議な味わいにもう一歩満足感が無かった。例えば、M8."Free At Last"などでも、あらゆる種類の解放感を祝う曲と言うのだが、トリオならでの楽しさがあまり感じられないのだ。


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 そんなことから、私的に於ける推薦曲はM1." Children's Song"のどこか子供たちに愛着あるメロディーの快感、M4."Where The Ocean Meets The Shore"のソロ・ピアノで描く自然への心情などが・・
 又タイトル曲のM7."Yesterday's Future"が、やはり聴きどころで、人の心情の陰影が感じられて納得。しかしベース、ドラムスは単なる添え物で味気ない。
 その他は、M14."Misty Dawn"の神秘的な美しさに迫ろうとした印象は悪くはなかった。

 全体的な印象は端麗さとクラシック的真面目さがとこかに目立って、泥臭い人間性と言う世界には迫り切れていないし、又一方哲学的深淵さも至っていない。そんな点が究極中途半端的で、はっきり言って寺島靖国氏のお気に入りのジャズの楽しさも、スタンダードの世界が無いだけに、薄いのではないかと思ったところだ。更にトリオといってもピアノのためのトリオであって、3者で築くトリオというニュアンスが少ないところが空しいのかもしれない。
 寺島氏にとってもこのニルスのアルバムは一つのテスト的アプローチであったと思う。この後にアレサンドロ・ガラティのように何枚かのアルバムに繋がってゆくという事はないだろうと思った次第。

(評価)
□ 曲・演奏 87/100
□ 録音   87/100

(試聴)

 

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2023年7月28日 (金)

ベン・パターソン Ben Paterson 「Jazz Lullaby」

ニューヨークジャズトリオが演奏する子供向けの子守唄のコレクション

<Jazz>

Ben Paterson 「Jazz Lullaby」
AGATE / JPN / AGIP-3784 / 2023

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ベン・パターソン Ben Paterson (piano)
ニール・マイナー Neil Miner (bass)
田井中 福司 Fukushi Tainaka (drums)

Benpaterson20180218230928    驚きですね、子守歌がジャズのピアノ・トリオの演奏で登場だ。
 若きピアニストのベン・パターソン(1982年生まれ →)のリーダー・アルバムである。彼はフィラデルフィア出身で、クラシック音楽とジャズ音楽の両方を学び(セトルメント音楽学校)、シカゴの大都市に移り(シカゴ大学)、ウィンディシティでしか見られないジャズとブルースのユニークなブレンドを吸収した。2005年から、シカゴのNEAジャズマスターであるフォンフリーマンのピアニストとして働き始め、2012年1月にフリーマンが亡くなるまで定期的に演奏していた。その後ジャズの世界でより多くを吸収するためにニューヨーク市に引っ越した。
 現在ニューヨークを拠点とするパターソンは、彼のユニークな才能とスタイルは大きく支持を受け、街中の一流の会場や世界中のクラブやフェスティバルで定期的に演奏しているという。彼はスタインウェイ・ピアニストである。

 ここではクラシックから映画音楽、民謡や童謡まで親しまれてきた曲をピアノの音色で綴られるジャズの子守唄として仕上げている。
 トリオ・メンバーは、ニュー・ヨークで活躍中のベースのニール・マイナー(下左)とドラムの田井中福士(1954年生まれ、下右)をフィーチャーしたニューヨーク・ジャズ・トリオで演奏する。

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(Tracklist)

Dbntybenpattersonkapak1w1. Frere Jacques
2. Twinkle Twinkle Little Star
3. London Bridge is Falling Down
4. The Itsy Betsy Spider
5. Brahms Lullaby
6. Oh Danny Boy
7. The Wheels on the Blues
8. Someone To Watch Over Me
9. Eliseʼ s Lullaby
10. Louisianaʼ s Lullaby
11. See You In My Dreams

 いやはや懐かしの子守歌が登場してきますね。しかも演奏は角がなく優しくしかも上品にと、なかなかの子守歌世界を全うしている。ベン・パターソンは「子供たちを実際の質の高い音楽に触れさせながら睡眠やリラックスを助けたいと考えている親たちや、子供たちを安心させる音楽を探している大人自身にも役立つことを願っています」と、語っているようだ。

 M1."フレール・ジャック" 誰もが知っているフランスの童謡からスタート。ピアノの優しい旋律、ブラッシのリズムでやや軽快な中に優しさが溢れている。
 M2."きらきら星" この曲になってしっとりとしてきたが、ピアノの旋律が美しい。これも元はフランス民謡のようだ。いやはや懐かしい。
 M3."ロンドン橋落ちた"これも世界的なイギリスの童謡、マザーグースといわれるものですね。子供に聴かせるもいいが大人もこれを聴くとうっとりとしてしまいそう。
 M4."ちっちゃな蜘蛛" どこかで聴いたような優しい曲。英米圏で歌われる小さな子供向けの手遊び歌(指遊び)とか。
   M5."ブラームスの子守歌" 落ち着いたベース、ブラッシのリズム、美しいピアノ、言うこと無しです。
 M6."ダニーボーイ"ですね。アイルランド民謡"ロンドンデリーの歌"から発展した曲。上品な編曲と美しい音に惹かれる演奏。
   M8."誰かが私をみつめている" これは童謡でなくガーシュウィン作のバラードのジャズ・スタンダードだが、優しさあふれた演奏だ。
   M9."Eliseʼ s Lullaby"これはベートーベンですかね。なかなか落ち着いた名曲。
   M10." Louisianaʼ s Lullaby"これは私は知らない曲だがなかなか精神安定剤ですね。良い曲です。
   M11."夢で逢いましょう"最後はこれで締めくくり

 とにかく全編優しさのオンパレード、しかもジャズらしくスウィングしてみせたり、旋律も適度に編曲され、アドリブも上品で破綻無く、なかなか洒落た企画に驚かされる。時にはふと若きというか幼き時を頭に描きつつジャズを聴くのも良いものです。
 又パターソンのピアノの音も澄んでいてやさしくメロディー豊かで気持ちが良い。 
 いずれにしても、こうした優しさを前面に出した子供にも聴かせられるトリオ・ジャズ演奏も珍しく、これは記念的アルバムにしておこう。

(評価)
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

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2023年7月18日 (火)

ベーラ・サクチ・ジュニア Szakcsi Jr. Trio 「Easy to Love」


精密にして時にダイナミック、洗練されたエレガントさでジャズ・スタンダードを聴かせる

<Jazz>

Szakcsi Jr. Trio 「 Easy To Love」
Hunnia Records / Import / HRcd2216 / 2023

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*Szakcsi Jr. Trio サクチ・ジュニア・トリオ :
Béla Szakcsi Jr. ベーラ・サクチ・ジュニア(Piano)
Krisztián Pecek Lakatos クリスティアーン・ペツェク・ラカトシュ(Double Bass)
Elemér Balázs エレメール・バラージュ(Drums)

録音 2022年6月7-8日

 私にとっては澤野工房の関係で弟のローベルト・ラカトシュ(ロバート・ラカトシュ)のピアノ・ジャズの方が以前から知っているその兄のベーラ・サクチ・ジュニア(ピアニスト=下)のピアノ・トリオ作品。父はハンガリー・ジャズ界の大御所ピアニスト、ベーラ・サクチ・ラカトシュで、自らもピアニストの道を選び、日本での知名度とは違って、今やハンガリー・ジャズ界のもっとも著名なピアニストの一人と評価されている。

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 そのベーラ・サクチ・Jr.がクリスティアーン・ペツェク・ラカトシュ(Double Bass=下中央)、エレメール・バラージュ(Drums=下右)をフィーチャーした「サクチ・ジュニア・トリオ」による新録音のこのアルバムは、スタンダードの演奏をメインに彼自身の曲をまじえてハンガリーにおける最高レベルのピアノ・トリオをエレガントに演じ、今回はネイティヴDSDによる高音質録音でリリースしている。このアルバムは、ハンガリー国立文化基金の支援を受けて作成されたもので、ステレオnative DSD 256にライブ録音された。

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 とにかく彼らは欧州・米国の多数のミュージシャンとの共演を続けてきており、その実力やセンスは即興へのモチーフの反映などが素晴らしく、洗練された演奏に評価は高い。

(Tracklist)

1. The Wrong Blues (Alec Wilder)
2. Hope (Szakcsi Jr.)
3. Nancy (With The Laughing Face) For Laura (Jimmy Van Heusen)
4. Easy to Love (Cole Porter)
5. A Nightingale Sang in The Berkeley Square (Manning Sherwin)
6. Private Number (Szakcsi Jr.)
7. The Wrong Blues (Alternate Take) (Alec Wilder)
8. For Heavens Sake (Elise Bretton)

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( Szakcsi Jr. Trio )

 なかなか高音質に作られたアルバムで、いわゆる一般的CD音質にても十分その音の繊細さが聴きとれる。
 演奏の方も、極めてジャズのオーソドツクスな線を繊細にしてエレガントに演じて、メロデイの流麗なる展開が快感である。

 M1."The Wrong Blues"は、ピアノが仰々しくなく軽いタッチで流れるが、リズム隊のベースの高ぶらない落ち着きとシンバルの軽いタッチが、いわゆるプロっぽい落ち着いた世界に流れる。
 M2." Hope"、M6."Private Number "は、彼のオリジナル曲、静かな展開を描きながらもドラムスを生かしたメリハリの演奏が聴ける。
   M3." Nancy"フランク・シナトラの娘がテーマの人気曲。やはり刺激を抑えた展開で明るい愛情を控えめに表現。
 M4."Easy to Love " Cole Porterの曲、ベースとドラムスの快調な精密プレイにのってのエレガントなピアノの展開が心地よい。
 M5."A Nightingale Sang in The Berkeley Square"の品格あるジャズに心休まる。ロンドンの小さな公園バークリー・スクエアにおける幸せなある夜を回顧し描く曲で美しい。
   M8."For Heavens Sake" 少々物思いの静かなバラード調の展開。ビリー・ホリディで知られる恋の歌だ。 ビル・エヴァンスも演じている。神に誓う恋の歌らしい真摯な世界。

  ピアノは非常に繊細にメロディーの美しさを流麗に見事に演奏し、三者のサウンドに洗練されたエレガントな味がある。これぞ歴史的ピアノ・トリオの真髄だとばかり演じ、その流れに聴きほれる。高音質録音で快感だ。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏 :   90/100
□   録音      :   88/100

(試聴)

*

 

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2023年7月 8日 (土)

ガブリエル・ラッチン Gabriel Latchin Trio 「 VIEW POINT」

まさに折り目正しく、正統派スウィンギン・ジャズのオリジナル曲集

<Jazz>

Gabriel Latchin Trio 「VIEW POINT」
Alys Jazz-Disc Union / Japan / DUAJ150070 / 2023

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Gabriel Latchin (piano)
Jeremy Brown (bass)
Joe Farnsworth (drums)

Recorded in London at Livingston Studios on the 5th of May 2022

 ガブリエル・ラッチン(英国、ロンドン生まれ。ピアニスト、作曲家 = 下左)は、これまでにリリースしたリーダー作3作品「Introducing Gabriel Latchin Trio」「Moon And I」「I'll Be Home for Christmas」で取り敢えず成功してきた。そしてこれらの3作品は同世代のミュージシャンと組んできたが、本第4作はメンバー一新、米ドラマーの大物ジョー・ファーンズワース(最近リーダー作品を楽しませてくれている = 下右)を迎え、ベーシストには英国のジェレミー・ブラウン(Stacey Kentとの共演で知る=下中央)というベテラン勢によるニュー・スペシャル・トリオによる作品で、全オリジナル曲集である。
 とにかく「ここ数年で登場した最高の正統派ジャズ・ピアニスト」と紹介されているガブリエル・ラッチン。シダー・ウォルトンやハービー・ハンコックに捧げた曲を含めオリジナル11曲を収録している。

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(Tracklist)

01. Says Who?
02. Prim And Proper
03. A Mother's Love
04. Train Of Thought
05. A Stitch In Time
06. Bird In The Hand
07. O Mito
08. Mr. Walton
09. Rest And Be Thankful
10. Just The Ticket
11. A Song For Herbie

Pianocloseupw   ガブリエル・ラッチンは、"オスカー・ピーターソン、アフマド・ジャマル、ビル・エヴァンス等のピアノ・トリオからインスピレーションを得て、ハービー・ハンコック、バリー・ハリス、シダー・ウォルトンの演奏を見極めたピアニストで、その演ずるところは力強く、これらの影響を完全に吸収して、彼自身のサウンドを作り上げ、作曲を通して、最高級のストレート・アヘッド・ジャズを演ずる"と高評価を得ている。
 
 確かにM01."Says Who?"からの快調なスウィングしての流れるピアノの音は心地よい。
 そしてガブリエルがこの第4作は一つの余裕をもって作り上げたという内容で、それは子供たちのために書くという個人的な感情を作曲のインスピレーションとした人間的面を見せるところの娘に捧げる美しいバラードM3."A Mother's Love母の愛"と、子供二人をテーマにした明るい展開のM2."Prim And Proper"を早々に登場させている。
 更に彼が個人的感情のオリジナル曲を堂々と展開したところには、彼が自らの心開いてゆくという一つの余裕を示しており、一方シダー・ウォルトンへのM8."Mr. Walton"、ハービー・ハンコックにM11."A Song For Herbie"などが、それぞれ自分が尊敬する先駆者に捧げているところにむしろみられる。
 又 彼は、リズムの基礎を築くブラウンのベースに、ファーンズワースの推進力のブラシワークを展開させ、リーダーとしての活発なピアノ・ソロを乗せていったM09."Rest And Be Thankful"に見るように、トリオが如何に互いに反応しながら展開するかというトリオの味をも知り尽くして見事に構築している。
 更にこの事は、M05."A Stitch In Time"では、三者の演ずるところを知らしめるべく、見事にそれぞれの演技を描く展開を忘れずに曲を構成しているところは、これまた聴きどころである。

 こんな流れの中でも全体的に決してストレート・アヘッド・ジャズの基礎を忘れず堅守しているところに恐れ入るところだ。とにかくノリよく親しみやすく、しかもメロディーは豊かであってスインギーな流れが気持ちよい。
久々に正統派ジャズというものの快感を味わえる作品にお目にかかった。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    88/100

(視聴)

 

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2023年7月 3日 (月)

ビセンテ・アーチャーVICENTE ARCHER 「SHORT STORIES」

見事なまでの哀感、スリル、ダイナミズムで現代アメリカン・ジャズの底力を聴かせる

<Jazz>

VICENTE ARCHER  / SHORT STORIES
CELLAR LIVE / Import / CM060922 / 2023

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Vicente Archer (bass)
Gerald Clayton (piano except 04,09,10) (electric piano on 01)
Bill Stewart (drums except 04,07)

Executive Producer: Cory Weeds & Raymon Torchinsky
Produced by Jeremy Pelt
Recorded at The Bunker Studios in New York City on June 9th, 2022
Engineered, mixed and mastered by John Davis

 敏腕ベーシスト、ビセンテ・アーチャー(1975年ニューヨーク州ウッドストックで生まれ、下左)が遂に発表した記念すべきファースト・アルバム。このアルバムは、ピアノ・トリオ・スタイルを主としたもので、ピアニストとして、ベース奏者の至高ジョン・クレイトンを父に、グラミー賞6回ノミネートの実績を持つジャズ界のサラブレッド・ジェラルド・クレイトン(1984年生まれ、下中央)と、ドラマーは、現代ジャズドラムのトップランナーと言われるビル・スチュワート(1667年アイオワ生まれ、下右)という脂ののった素晴らしいメンバーによる作品。

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 ビセンテ・アーチャーは、ベーシスト、ギタリスト、作曲家、プロデューサーであり、生まれたウッドストックの歴史的な町の芸術文化の多くを吸収し、フォークからジャズ、ヒップホップに至るまで、彼の作品は多様。ボストンのニューイングランド音楽院とノースイースタン大学に通い、学位を取得した。大学在学中、彼はコントラバスを選び、偉大なアルトサックス奏者のドナルド・ハリソンから彼のグループに参加するように依頼があり、最初のレコーディング出演は、ハリスンの1999年の「FREE TO BEE」だ。 その後、彼は多くの著名人と共演。彼の年代では最も人気のあるベーシストの一人として歓迎されいる。グラミー賞を受賞したアーティスト、ロバート・グラスパー、ノラ・ジョーンズ、ニコラス・ペイトン、エイ・モスリー、ジョン・スコフィールドと共演しています。

 さてこのアルバム「SHORT STORIES」は、黒人であるアーチャー自身の家族の問題に焦点を当てつつも、肌の色からの『人種差別』をテーマに世の中への一言を呈した社会的な一面も備わっているらしい。彼の歩んできた人生の物語や歌によって何かを感じさせようとしているのかもしれない。

(Tracklist)

01. Mirai
02. Round Comes Round
03. Space Acres
04. Lighthouse (solo bass)
05. Drop Of Dusk
06. 13/14
07. Message To A Friend (p & b duo)
08. Bye Nashville
09. It Takes Two To Know One (b & ds duo)
10. It Takes Two To Know One (alternate take) (b & ds duo)

Vicente_archer_k8c2279    M1."Mirai"は、日本語"未来"そのもの。しかも望のテーマを思い起こさせる明るい音でアルバムを開始。ここにアーチャーと娘との関係についての美しい瞑想。彼は当時2歳の娘と一緒に見るのが好きだったアニメ映画の題名をもってここに描いて、娘の未来に貴重な子供時代の感覚を美しいプレゼントとして残す事を試みた。
 M2."Round Comes Round"はガラッと変わって現代的三者の現代的前衛的アンサンブルの展開。ピアニストのクレイトンの曲。
 M4."Lighthouse"はベースのソロ。多重録音かと思わせる複雑な演奏が圧巻。
 M3., M5.は、ドラマーのスチュワートの曲。M3." Space Acres"の最期1/4のドラム・ソロが効果抜群。そしてM5."Drop Of Dusk"は、ベースの響きが瞑想的で、ピアノが美しく展開、優しく響くシンバル音と"夕暮れの雫"というロマンチックな展開。
 アルバム・プロデュサーのペルトは、M6."13/14"を三者の即興演奏をまとめ上げてのお互いにメロディックな因子を組み上げるに貢献すべくこの曲を提供。
 M7."Message To A Friend"は、ピアノ語り掛けとベースの響きによる優しい世界。
 M8."Bye Nashville"竜巻によって故郷だった町とのほろ苦い別れを描く。
 M9.M10."It Takes Two to Know One"は、トランペットの巨人ニコラス・ペイトンによる作曲で、アーチャーとスチュワートは双方過去にペイトンとツアーをしており、ペイトンの音楽の世界に浸っている。あまり聴く機会のないベースとドラムスのデュオのスタイルで演じられたこの曲の素晴らしい出来に酔ってしまう。ベースの抑制とドラムスのダイナミズムはジャズのグルーヴの極致で迫ってくる。


 繊細さとドライヴ感に溢れた力強いベースの躍動と、なんともキレ味シャープにスリルとダイナミズム満点のドラムス、端麗美味タッチのピアノが、メロディックでありスリリングでもあり、ややストイックな色合いを見せる。全体的に現代アメリカン・ジャズの底力を見せつけられたアルバムであった。お見事。

 

(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音   : 90/100

(試聴)

*

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2023年6月 7日 (水)

ブラッド・メルドー Brad Mehldau Trio 「STOCKHOLM 2023」

この5月の久々の往年のトリオ演奏 ほっとして聴ける

<Jazz>

Brad Mehldau Trio 「STOCKHOLM 2023」
MEGADISC / 2023

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Brad Mehldau (p)
Larry Grenadier (b)
Jeff Ballard (dr)

Live at Konserthus, Stockholm, Sweden May 12th, 2023

   ついこの間の2023年のヨーロッパ・ツアーから、スウェーデンはストックホルムでの久しぶりにトリオで観客を熱狂させたというブラッド・メルドーのこの5月の最新ライブ盤。

 このところソロによるライブが続いた中、最近どうなったのだろうかと心配したが、メルドーと気心知れた15年以上の歴史があるラリー・グレナディア(b)とジェフ・バラード(dr)が加わったトリオ・ライブで実はほっとした。やっぱり彼のピアノにゆとりと安心してのアドリブの華が入って、そしてベース、ドラムスの響きで音像に厚みが出て久々にゆったりとして安心して聴けた。
  とにかく才能溢るるジャズ・ピアニスト兼作曲家のメルドーは、近年はジャンルの境界を越えての、ジャズ、ロック、クラシック、ポップを探求してユニークで印象的なフュージョンを生み出しそこに予想外の世界を構築してきた。
 しかし、私にとっては、それが進めば進む程、かってのピアノ・トリオが懐かしくもなり、そのパターンに戻ってほししいとていう感覚になっていたところである。

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(Tracklist)

1.Gentle John
2.Spiral
3.Seymour Reads The Constitution
4.Ode
5.All The Things You Are
6.The Nearness Of You
7.Green M&Ms

   しかし、これは取り敢えずはブートですから音質はどうかと心配したが、なんとオフィシャル盤以上と言ってもよい好録音。ライブだと緻密なテクニックに加えて感情が一層豊かになった演奏が手に取るように聴けて痺れますね。
 特に私はM6."The Nearness Of You" のしっとりとした演奏にうっとりして、そろそろオフィシャル・リリース盤にもこのトリオに帰ってほしいと思うのである。
 又M2."Spiral"、M3."Seymour Reads The Constitution"、M4."Ode"のように、もう懐かしささえ感ずるところも再現してくれている。
 そして古きミュージカルからのエラ・フィッツジェラルドで有名なスタンダード曲M5."All The Things You Are"は、12分を超えてのじっくり演奏、やっぱりライブの良さですね。
 このところのメルドーの活動から、旧来のトリオによる演奏が聴けてほっとしているところである。

(評価)
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(試聴)  この5月のものはまだ視聴出来ませんので・・・参考までに

*

 

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