ヘルゲ・リエン

2025年4月27日 (日)

セリア・ネルゴール Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」

両親への感謝の気持ちを込めた感動的豪華さのあるアルバム

<Jazz>

Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」
(CD)Masterworks / Import / 19802890702 / 2025

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Produced by SILJE NERGAARD and MIKE HARTUNG

SILJE NERGAARD (vocals) 
HELGE LIEN (piano)
JARLE VESPESTAD (drums)
FINN GUTTORMSEN (bass)
GEORGE (JOJJE) WADENIUS (guitars)
HÅKON KORNSTAD (saxophone)
MARTIN WINSTAD (percussion)
BEATE S. LECH (guest vocals)
KARLA NERGAARD (backing vocals)
MIKE HARTUNG (backing vocals)

STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA VINCE MENDOZA conductor & arranger

Recorded and mixed by MIKE HARTUNG at PROPELLER MUSIC DIVISION Oslo 2022-2024
Mastered by MORGAN NICOLAYSEN at PROPELLER MASTERING Oslo nov 2024
STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA recorded at STAVANGER KONSERTHUS May 2024
Conducted by VINCE MENDOZA

800pxsilje_nergaardw  ノルウェーを代表するジャズ&ポップス・シンガーの通称セリア=Silje Nergaar(セリア・ネルゴール, →)のニュー・アルバム。彼女に関してはここでも何度か取り上げた。特に私の注目はトルド・グスタフセンTord Gustavsenのピアノとの共演の『Nightwatch』であったが、今回は私の一つの注目点は、やはりピアノが私の好きなヘルゲ・リエンHelge Lien(↓右)ということだ。いやはや彼女は名ジャズ・ピアニストをしっかり確保し、しかも、2010年にリリースされ、グラミー賞にノミネートされたアルバム『A Thousand True Stories』でもコラボレーションした、ヴィンス・メンドーザVINCE MENDOZA (↓中央)が、今作ではスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、曲に感動的なオーケストラアレンジ効果を発揮している。

  そして、このアルバム・ジャケが古めかしいですね。なんと戦後のジャズ・アルバムの再発盤かと思わせるジャケ。それは実は彼女の両親の若い時の二人の写真を見つけてジャケにしたということのようだ(その写真↓左)。彼女も1966年生まれであるから今年は59歳、来年は還暦を迎えるという歳になって、どうも両親への深い思いが込められたアルバムという事のようで、タイトルも『Tomorrow We'll Figure Out the Rest』と、訳すと「明日多分私たちは残りを理解するでしょう」「明日、続きを解明する」ということだろうが、両親への深い思いが込められており、かっての自分の幼少期からの遠い日の記憶、家族やさまざまな人生の物語等にインスパイアされた曲を収録したということだ。とにかく音楽というものを通じて人々の心を動かす彼女の資質と才能が溢れたアルバムと仕上げられたものである。

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 彼女は、1985年にノルウェー代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場してのスタートで、アルバム・デビューは1990年で、パット・メセニーのプロデュースで1990年にリリースされたアルバム『Tell me where you're going やさしい光につつまれて』が、日本はじめ世界各国で大ヒットし、以来、北欧ジャズ・ポップス・シーンを代表するシンガーとして活躍している。当時はポップよりのものであったが、2000年発表の『Port of Call』、2003年『Nightwatch』よりジャズ・ピアニストのトルド・グスタフセンを起用したことより、ジャズよりの作品になって近年はもっぱらジャズに傾倒している経過で、キャリア40年となる。又ヘルゲ・リエン(↑右)もそうであるようにノルウエーには結構親日家が多く、彼女もその一人で、1991年発表の『Quiet Place〜心のコラージュ』には「Kyoto Wind」という曲を、さらに2001年発表の『At First Light 初めてのときめき』には「Japanese Blue」という曲をそれぞれ収録している。

(Tracklist)

1. You Are the Very Moon (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
2. Lover Man (Håkon Kornstad)
3 Mamma og pappa synger00:36
4. A Perfect Night to Fall in Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
5. Vekket i tide (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
6. Before You Happened to Me
7 Silje synger00:58
8. Dance me Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
9. My Man My Man
10. Brooklyn Rain (Håkon Kornstad)
11. Here There and Everywhere
12 Silje og pappa snakker00:48
13. Tomorrow We'll Figure Out the Rest (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)

 両親への深い思いが込められているというだけあって、とにかく心温まるような素直にして愛情にあふれた優しいヴォーカルと曲いうアルバムに仕上がっている。遠い日の記憶、家族との交わり、そして経てきたさまざまな人生の物語に思いで込めて演じられている楽曲を収録されていて、Helge Lien(ピアノ)、Jarle Vespestad(ドラムス)、Finn Guttormsen(ベース)、George Wadenius(ギター)、Håkon Kornstad(サックス)といったヨーロッパを代表するジャズ・ミュージシャンが彼女をサポートし、ヴィンス・メンドーザが、今作では5曲においてスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、作品にジャズというよりはジャンルを超えた広い世界を描くムードを真摯に演じて盛り上げている。ジャズ・アンサンブルとオーケストラの競演で支えているわけだ(↓は両親とビニール盤アルバムの完成を喜ぶセリア)

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 彼女のヴォーカルは、まず若い印象で驚くが、一層癖のない表現の世界にあって、ジャズといつた世界とはむしろ別物に感ずる。M4." A Perfect Night to Fall in Love "(恋に落ちるには最適な夜)は、オーケストラとバッキング・ヴォーカルが入ってむしろ荘厳に近い雰囲気を盛り上げるところが印象深い。
   又M3.7.12は、彼女や両親との交わりの思い出の録音された会話や歌を挿入して一層のムード盛り上げを図っているのも、如何にも個人的な世界ではあるがアルバムの充実度を図っている。
 M8." Dance me Love"はゆつたりとした曲で、ストリングスの美しさ、ピアノの美しさと静かに語るドラムスの響きと、曲の演奏も聴きどころで、彼女の歌い上げるヴォーカルも見事である。

 いずれにしても聴いていて印象は極めて良い。そんな両親への感謝の世界を知らしめたと言う彼女のアルバム造りも一つの区切りとしては、意義があったと思うし、聴く方もわが身に置き換えて感謝の気持ちを持てたということであれば有意義である。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      87/100

(試聴)

 

 

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2023年11月 3日 (金)

ヘルゲ・リエン Helge Lien Trio & Tore Brunborg 「FUNERAL DANCE」

カルテット演奏でヘルゲ・リエンの美学を凝縮

<Jazz>

Helge Lien Trio & Tore Brunborg 「FUNERAL DANCE」
Ozella Music / Germ. / OZ106CD / 2023

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Helge Lien (p)
Johannes Eick (b)
Knut Aalefjaer (ds)
Tore Brunborg (ts)

  ノルウェーのピアニスト、ヘルゲ・リエン(Helge Lien, 1975- 下右)のトリオの新譜『Funeral Dance』がリリースされた。これは彼が師と仰ぐウクライナ生まれのピアニスト、ミハイル・アルペリン(Mikhail Alperin, 1956 – 2018)への追悼の意を込めて制作したアルバムだ。彼のトリオに加えアルペリンとの共演歴もあるサックス奏者のトーレ・ブルンボルグ(Tore Brunborg 下左)を迎えて完成させた。
 アルバムは2018年5月にノルウェーの首都オスロでミハイル・アルペリンが亡くなった直後にコンセプトは出来上がり、死後ちょうど1年経った頃各地のコンサートでこれらの曲が演奏され始め、この年の中国の北京ジャズ・フェスティヴァルに現在のトリオであるクヌート・オーレフィアール(Knut Aalefjaer, ds)とヨハネス・エイク(Johannes Eick, b)とで演奏した時にアルバムの制作を確信したと。しかしコロナのパンデミックで完成には時間を要したようである。

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Mikhail_alperin_sentralen_oslo_jazzfesti  ヘルゲ・リエンの師ミハイル・アルペリン(Mikhail Alperin →)は、ソ連時代のウクライナの1956年生まれのユダヤ人・ピアニスト/作曲家。1980年にソ連では最初のジャズ・アンサンブルを結成し、その後モスクワに移りロシアの伝統音楽やクラシック、ジャズを融合したモスクワ・アート・トリオ(Moscow Art Trio)を結成、リーダーを務めた。1993年にノルウェーの首都オスロに移住。ノルウェー音楽アカデミーの教授を務め、ヘルゲ・リエンらを指導した。このアルバムに参加しているサックス奏者トーレ・ブルンボルグも加わっているアルバム『North Story』(ECM5310222/1997)など、ミーシャ・アルペリン(Misha Alperin)名義でECMから複数の作品をリリースしている。

 そしてリエンは「アルバム「Funeral Dance 葬送のダンス」はミーシャ(Mikhail Alperin)に捧げられたもので、作曲したときもミーシャのことを念頭に置いていました。ダンスチューンと言われるかもしれませんが、それは大したことではありません。私はそういう矛盾が昔から好きでした。ミーシャもきっとそう望んでいることでしょう。彼の死を悼むのではなく、歌と踊りで彼の人生を祝いましょう。彼の生徒であり、同僚であり、友人であったことに永遠に感謝しています」と記している
   曲は、ヘルゲ・リエンが5曲、トーレ・ブルンボルグが4曲という構成である。

(Tracklist)
1.Adam (Helge Lien) 8:19
2.Apres Un Reve (Gabriel Faure) 4:27
3.Riss (Tore Brunborg) 6:48
4.Funeral Dance (Helge Lien) 3:57
5.Kaldanuten (Tore Brunborg) 5:13
6.Gupu (Tore Brunborg) 6:27
7.The Silver Pine (Helge Lien) 6:15
8.Bomlo (Helge Lien) 3:48
9.A Wonderful Selection Of Gloomy Keys (Helge Lien) 4:44
10.Savelid (Tore Brunborg) 5:18

M1."Adam" 非常に安定感のある穏やかさがある曲からスタート、リエンの曲であるがブランボルグのサックスも敬虔なる心を表しているように聴こえる。演奏はトリオはむしろ控えめで時にリエンの美しいピアノの旋律も入るがむしろサポートだ。
M2."Apres Un Reve" 同様にサックスの調べから展開する。ピアノもハモリながらオマージュの心を表すべく美しくも優しい旋律を流すM3."Riss" ブランボルグの曲。やはり主力はサックスの描く旋律により曲は流れる。そしてピアノ・トリオはサポート役。リエンの性格がよく出ていてサックスを差し置いてピアノの旋律を流さず、サックスの合間を埋めるに終始、そしてバック固めに収まる。
M4."Funeral Dance" アルバム・タイトル曲でリエンの作曲。彼の繰り返しの展開にサックスが深く沈める。
M5."Kaldanuten" 次の曲とともにブランボルグの曲。ピアノとドラムスでキザム低音のリズム、そこにサックスがやや沈鬱な世界を歌う。そして次第に高まり再び沈みゆく。
M6."Gupu" サックスはどこか回想的に静かな情景を歌い、ベースの描くところに導きそしてピアノが讃歌するがごとく響く。
M7."The Silver Pine" 今度はここから3曲リエンの曲。ピアノの情景描写が展開し爽やかな嘆きをサックスが補助。
M8."Bonlo" ぐっと静かなドラムスとピアノの音からスタート、ベースのアルコも加わってどこか異世界に導く響き。
M9."A Wonderful Selection Of Gloomy Keys" 低めの沈むベースとドラムスのリズム展開に、サックスとピアノのユニゾンで描き、次第にサックスが歌いあげてゆく。
M10."Savelid" サックスのソロで始まり、ピアノ・トリオが美学を主張しての曲を展開させ締める。

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  このアルバムもサックスとピアノ・トリオのカルテットの演奏だが、私は究極このスタイルはあまり好きではない。個人的な偏見では、描くところジヤズ演奏の中ではサックスとピアノは全く相いれない世界を構築すると思っているからだ。ピアノの高潔さとサックスの主張の強さとか懐疑的な人間の深みに迫る世界は異なると思っているためだ(異論は多いでしょうね)。
 しかしこのアルバムは不思議に協調し沈んだ世界を見事に美化して見せる。サックスは前面に出て高らかに歌い上げるのが通常のパターンだが、ここでは葬送がテーマであるためか、それを抑えて流れる。従って、リエンの遠慮しがちなピアノの響きがいやにマッチしているから不思議だ。
 つまりリエンの性格もあろうかと思うが、その流れの合間に自己主張なくピアノトリオの美しさを演ずる方法論を取っている。したがってよく聴かれるピアノを打ち消してのサックス世界を感じないで済んでいるのだ。そこが好感のポイントかもしれない。

 究極このアルバムはヘルゲ・リエンのピアノ・トリオを聴こうとすると若干欲求不満になる。それはこのカルテットでサックスとの関係でピアノ・トリオがサポートに回る演奏部が多くなる為かもしれない。前作『REVISITED』(OZ101CD/2021 )のようなトリオを味わうことはできない。ただヘルゲ・リエンの美学というものの世界は十二分に感じ取れるアルバムとして位置付けると納得できるところに到達する。これはこれとして価値感を感じたい。

(評価)
□  曲・演奏   90/100 
□ 録音      87/100

(試聴)

 

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2023年1月27日 (金)

2022年 ジャズ・アルバム(インスト) ベスト10

 2023年もスタートして、もう1月も終わろうとしているので、そろそろ昨年リリースされたジャズ・アルバムを取り敢えず整理しておきたい。そのうちに「ジャズ批評」誌でも、恒例の「ジャズ・オーディオ・ディスク大賞」が発表されるので、その前に私なりの独断と偏見によって、特に「INSTRUMENTAL部門」の「ディスク大賞」をここに挙げてみた。

 なお評価はリアルタイムに当初聴いた時の感想によることにした(このブログに当初記載したもの)。後からいろいろと考えると迷うところが多いため、初めて聴いて評価したものを尊重する(現在はちょっと異った評価のものもあるが)。又「ディスク」を評価と言うことでも所謂「曲・演奏(100点満点)」と「録音(100点満点=これは一般的な音の良さで、録音、ミックス、マスターなどを総合考慮)」のそれぞれの評価の合算(200点満点)で評価し、又同点の場合は演奏の評価の高いものの方を上位に、更に両者とも全く同点のものは、現在の評価によって順位を付けた。

 

🔳1 Alessandro Galati Trio  「Portrait in Black and White」
   (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳2   Worfert Brederode  Matangi Quartet  Joost Libaart  「Ruins and Remains」
    (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳3   Angelo Comisso  Alessandro Turchet   Luca Colussi「NUMEN」
    (曲・演奏:95/100  録音:95/100  総合評価190点)

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🔳4   Kjetil Mulelid Trio 「who do you love most ?」
   (曲・演奏:90/100  録音:92/100  総合評価 182点)

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🔳5   Tord Gustavsen Trio 「Opening」
   (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳6   Helge Lien Trio 「Revisited」
    (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳7   Kit Downes  Petter Eldh  James Maddren 「Vermillion」
    (曲・演奏:90/100  録音:90/100  総合評価180点)

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🔳8   Giovanni Mirabassi  「Pensieri Isolati」
    (曲・演奏:90/100  録音:88/100  総合評価178点)

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🔳9  Joel Lyssarides  Niklas Fernqvist  Rasmus Svensson Blixt  「Stay Now」
    (曲・演奏:90/100  録音:88/100  総合評価178点)

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🔳10 Alessandro Galati Trio 「European Walkabout 」
    (曲・演奏:88/100  録音:90/100  総合評価178点)

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(考察)
 年末に登場したAlessandro Galati Trio 「Portrait in Black and White」が、なんと1位を飾った。2位のWorfert Brederode 「Ruins and Remains」と同点であったが、ジャズ・アルバムとしての楽しさの評価を加味してこの順とさせて頂いた。
 しかし、相変わらずAlessandro Galatiの演ずるところ、ジャズというものの奥深さと聴く人間との関係に迫ってくるところは素晴らしい。そんな意味では「European Walkabout」は、もう少し上位と今は考えているが、聴いた当初の評価がこうであったので10位に甘んじた。

 Worfert Brederode 「Ruins and Remains」は、異色であるが彼の特徴が十分生かされた企画で驚きとともに上位に評価。
 今年はTord Gustavsen の久々のトリオものの出現があって嬉しかった。ほんとは3位ぐらいかもと今となると思うのだが、Angelo Comisso 「NUMEN」Kjetil Mulelid Trio 「who do you love most ?」の実力ある素晴らしさに圧倒されてしまった。
 Helge Lien のトリオものも嬉しかったが、曲が再演奏集というところで、こんなところに落ち着いた。

 Kit Downes 「Vermillion」の品格のあるジャズには高評価を付けた。
 Giovanni Mirabashiは、相変わらずのピアニストの演ずるレベルの高さが実感できた。
 Joel Lyssarides 「Stay Now」この線の北欧世界に期待しての高評価とした。

Stefanoameriowithhorus2w  なお、録音の質もかなり良くなってきているが、その出来から見ても、エンジニアとしては、やはりStefano Amerio(ArteSuono Recording Studio /  Itary→)の活躍が抜きんでていた。私の偏りもあるが、ここに選ばれた10枚うち、なんと6枚が彼の録音によるものであったという結果に驚いている。

  ジャズ演奏の最も基本的なインスト部門では、相変わらず本場米国を凌いでの欧州一派の健闘が昨年も圧倒していた。はてさて今年はどんなところに感動があるか楽しみである。
 なお、この10アルバムは、このブログで取り上げているので詳しくはそちらを見ていただくと嬉しい限りである。

(試聴)
Alessandro Galati Trio  「Portrait in Black and White」

  

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2022年12月31日 (土)

アリルド・アンデルセン Arild Andersen Group 「Affirmation」

むしろ完全即興の世界で・・・カルテットの味が生きる

<Jazz>

Arild Andersen Group 「Affirmation」
ECM / IMPORT / 4828593 / 2022

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Arild_andersenbw Marius Neset (ts)
Helge Lien (p)
Arild Andersen (b)
Håkon Mjåset Johansen (ds)

Recorded November 2021, Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Martin Abrahamsen
Mastering: Christoph Stickel
Cover photo: Thomas Wunsch
Liner photos: Helge Lien
Design: Sascha Kleis
Executive Producer: Manfred Eicher

  今年もあとわずかとなったが、相変わらずコロナ禍での出発であったが、まだその終息を見ない。それでも"with Corona"という社会の在り様も進行して、少しは人間らしい活動もあってミュージック界もなんとなく回復の兆候があったことは喜ばしかった。しかしなんとなく心から開放的な姿はまだまだといったところで、今年締めくくりのアルバムもECMの世界でぐっと落ち着いて来年を見据えることにした。

 ノルウェーのベテラン・ベーシストのアリルド・アンデルセン(1845年生まれ(右上))は、50年以上にわたってECMミュージシャンの経歴があり、ここにニュー・アルバムがリリースされた。今回は久々の彼がリーダーのカルテット構成であるが、もともと独特な北欧イメージを展開し興味をそそるのだが、ピアニストのヘルゲ・リエンの名も連ねていて、更なる興味が湧いたというところである。

 カルテット構成は、サックス奏者のマリウス・ネセット(1985年生まれ(下中央))、ピアニストのヘルゲ・リーエン(1975年生まれ(下左))、ドラマーのホーコン・ミヨセット・ヨハンセン(1975年生まれ(下右))と、アンデルセンからみれば若きから中堅のメンバーでの新しいノルウェー・カルテットであり、オスロのレインボウ・スタジオでの2021年11月の録音作品。ノルウェーの旅行規制により、マンフレート・アイヒャーの参加は見送られとのこと、従ってミュージシャンたちだけの録音となった。録音開始から2日目に、アンデルセンはグループでの即興演奏を提案して「何も計画せず、約23分の第1部と約14分の第2部を録音しました」と。それは「Affirmation Part I」と「Affirmation Part II」で、未編集でその即興はフルで収録され、最後にアンデルセンの作曲した"Short Story"でアルバムは完結するという形になった。

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(Tracklist)

1-4. Affirmation Part I
    One 4:29
    Two 6:13
    Three 4:40
    Four 8:22
5-7. Affirmation Part II
    Five 7:09
    Six 1:38
    Seven 5:23
8. Short Story 7:27

Music by Andersen / Neset / Lien / Mjåset Johansen
except "Short Story" by Arild Andersen

 そもそもこのカルテット・メンバーは、初めての集合でなく、過去に一緒にコンサートなど数多くこなしてきているようだが、このような即興演奏だけでフルセット行うといったことはなかったようだ。そもそもアンデルセンは過去のトリオなどでも即興は得意であったことから、ふとお互いのパターンを知ってのことから思いついたのであろう。

 とにかく、「Affirmation」(肯定・支持・賛同)と名をつけ、上のようなリストにみる2部作であり、最後は彼の曲で締めくくったのである。
 これは、見方によれば、ピアノ・トリオ+サックス(ts)のスタイルだ。こうなると一般的にはその楽器演奏のパターンから、多くはサックスがメロディーを奏で始めると、サックス演者は自己の世界に突入し、サックスの響きだけが中心となるパターンが多い。楽器の音質からサックスの世界で残りのトリオがリズム隊と化してしまうのである。従って私はこのパターンのカルテット構成は好きではないのだ。

Arildandersen01aw  しかし、メインの旋律のないこのようなカルテットの即興集となると、リーダーがベースであるだけに四者がそれぞれの個性を示す方向にリードされ、なんとスタートの"one"から、四者それぞれの他者の描くところに反応しながら形作っていくという流れで、サックスの独壇場は形成されず、それぞれが互いを認めて発展させる方向に流れ、極めてカルテットそのものの面白さが出現することになった。実は私が面白いと思ったところはそこにあったのだ。
 そして描くは、「PartⅠ」は、流れとして北欧の独特な自然と人間との交わりを想像させるかなり静的な世界で、サックスは細かく刻んで踊り、リエンのピアノの旋律が"Three"あたりに至ると一層美しく流れ、"Four"に流れると、ベースが更に深淵な世界に沈みつつも次第にリズムをアップさせてサックスを先頭にピアノが俄然勢いを増し、ドラムスが全体の盛り上がりを頂点に誘導する。この辺りが単純な「静」でなくアクセントをしっかり描く「動」の曲展開に納得する。
 「Part Ⅱ」は、まず"Five"で繊細なシンバル音、ピアノも繊細な響き、ベースが後押しというトリオ形でスタート、スリリングな流れが微妙で面白い。続いてサックスが合わせるように登場。こんな微妙な連携プレイが即興でつづる技には脱帽だ。その後も続くステック・ワークとピアノ、ベースの三者の微妙な裁きが凄い。
 短い曲"Six"では、サックスが動く、その後"Seven"では、ピアノの静とシンバルの静、ピアノの澄んだ美音が心に染みる。次第にベースの誘導でサックスが静かに現れるが、やはり究極はリエンのピアノの美だ。
 そして挑戦は終わり、最後はアンデルセンの曲"Short Story"を優しいサックスの旋律が前面に出て優しく演じて納める。

 オール即興・未編集で作り上げたアリルド・アンデルセンの主導によるこのカルテット作品は、信じられないほどの四者のバランスとまとまりが良好な展開を見せた北欧の静と躍動を描いた作品となった。北欧の一般的ロマンある哀愁と美旋律ものを期待するとちょっと別世界となるが、この世界も魅力的でお見事であった。

 今年一年有難うございました。来る年もよろしくお願いします

(評価)
□  曲・演奏  88/100
□  録音    85/100

(試聴)  
"Short Story" (このアルバムで唯一即興ものでないアンデルセンの曲)

*

(参考)   Arild Andersen Group   

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2022年4月19日 (火)

ヘルゲ・リエン Helge Lien Trio 「REVISITE」

ピアノ・トリオの原点に戻り、回顧と新しい出発への心意気か

<Jazz>

Helge Lien Trio 「REVISITED」
Ozella / Germany / OZ101CD / 2022

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Helge Lien (piano)
Johannes Eick (bass)
Knut Aalefjaer (drums)

  ノルウェーの我が期待のヘルゲ・リエン(1975年ノルウェー リングサーケルのモーエルヴ生まれ)の久々のピアノ・トリオのニュー・アルバム(前作は2019年の20周年記念アルバム『10』)。中身はちょっと珍しいパターンである過去に発表した自己のオリジナル曲群のセルフ・カヴァー集である。今回はベースにベテランのヨハン・エイクが加わり、ドラムにはかってのトリオ・メンバーのクヌート・オーレフィアールが戻ってきたというトリオ体制によるもので、アルバムの録音記録からは、曲はスタジオ録音とライヴの両方である( 半分が Tøyen 教会で録音されたもの、その他はハーマル市の Hamar Theater - AnJazz フェスでのライヴ)。


Helge-l2w  かってのアルバム『NATSUKASII』(oz036cd/2011)以来お気に入りになって、すでに10年以上の経過であるが、彼はトリオ演奏のほかにいろいろなミュージシャンとの共演をしてきてのアルバム・リリースも続いたが、やはり私の期待はピアノ・トリオだ。
 彼は何回か来日しており日本好きであり、又カメラの愛好家で、NIKONの愛用者でもあった。今回のジャケ写真も彼によるもののようだ。又2014年に来日時(丁度皆既月食があって、彼は会場の庭に出てその撮影をしてからライブという楽しいひと時もあった)には、話ができたのだが(上は、その時の彼とのツーショット、後ろには当時のベーシストのフローデ・ベルグがお茶目に顔をだしている)、彼はピンク・フロイドのファンで私と共通したところもあってなお親近感が持てたものだ。又当時のベーシストのこのベルグはなかなか楽しい人であったが、オーケストラのベーシストの方に専念で、現在は彼のトリオから離れている。

 

(Tracklist)

1. Hymne Revisited (from What Are You Doing The Rest Of Your Life)
2. Liten Jazzballong Revisited (from Spiral Circle)
3. Spiral Circle Revisited (from Asymmetrics)
4. Gamut Warning Revisited (from Hello Troll)
5. Meles Meles Revisited (from Natsukashii)
6. Folkmost Revisited (from Badgers And Other Beings)
7. Jasmine Revisited (from Guzuguzu)
8. Krystall Revisited (from 10)
9. Nipa Revisited (from 10)

 冒頭のM1." Hymne"から、透明感のあるシャープなキレのある美しいピアノのメロディーが流れ、ロマンティシズムや詩情を感じさせる。
 M2."Liten Jazzballong "は、ゆったりとした美旋律、静かな世界。

 今回のアルバムは、その録音もかなり冴えていて、エンジニアはJan Erik Kongshaugが担当しているが、かってのアルバムよりはドラマーの演ずるシンバル音などがかなり明瞭に前面に出ていて効果的でちょっと刺激的。

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 M3." Spiral Circle "リエンの特徴のどこか牧歌的なムード。後半ベースのソロが新鮮。
 M4."Gamut Warning"原曲と大きな変化はないが、躍動感ある演奏が魅力。
 M5."Meles Meles"は、再び美しく展開。そして原曲より若干短くなっているが変化がみられ、ベースのアルコ奏法とジンバル音の主張が面白くしている。
 M6."Folkmost"この曲は特に録音の改善が明らか、力の入った鍵盤音。
 M7."Jasmine"原曲と異なって冒頭からベースのソロ演奏が続き、ドラムスがリードして、次第にピアノの主メロディーに流れ珍しく異世界に流れる原曲に。
 M8."Krystall"アルバム『10』の3分弱の原曲が、6分以上に変化。パーカッション風のドラムスから、リエンらしいクリスタル風のピアノが耽美的に迫ってくる(M9.も同様だ)。
 
 録音・ミックス・マスターリングの技が加味していると思うが、トリオとしてのベース、ドラムスの演奏のリアルな線が、リエンのメロディアスにしてちょっと刺激的な味を感じさせる詩情豊かなピアノ演奏に加味して、かなりその味を高めた演奏が聴ける。セルフ・カヴァーではあるが、単なる焼き直しでないところが良かったと思うアルバムであった。

(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音     90/100

(視聴)

 

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2019年4月20日 (土)

ヘルゲ・リエンのニューアルバム Helge Lien Trio 「10」

新トリオはむしろヘルゲ・リエンの原点回帰による展開をみせた

<Jazz>

Helge Lien 「10」
Ozella Music / Germ / OZ091CD / 2019

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  新トリオでヘルゲ・リエン・トリオのニュー・アルバムが登場している。ちょっとこのところのヘルゲ・リエン(ノルウェー)の作品に若干不満があった私であって、ベーシストのフローデ・ベルグが、オスロ・フィルファーモニック・オーケストラの仕事に専念で抜けたということは更にどう変化するか実は不安であった。
 しかしなんと新加入のベーシストは、マッツ・アイレットセンMats Eilertsen 、これは驚き、つい先日ここで取り上げたあの素晴らしいECMからのベーシスト・リーダー・アルバム「And Then Comes The Night」(ECM2619/2019)のリーダーではないか。彼はノルウェーですからヘルゲ・リエンと結びついても全くの不思議はない。これも又凄いことになったと、ニュー・アルバムを手に入れたのである。それもなんと気合が入った2枚組全30曲である。

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Hl3   まず冒頭のCD1のM1."Be Patient"で、ややこれは期待を裏切っていないぞと確信できた。とにかくリエンの自然界の中に溶け込むようなピアノの澄んだ響きは何にも代えられない。
 M4."Krystall"ではどこか不思議な世界に導かれて、三者の交錯が聴きどころ。
 特にリエンの曲M7."Now"にみる世界は、スリリングにしてミステリアスな世界に引っ張り込まれ、精悍なダイナミックな展開もみせたり、その多様性は実に神秘的ともいえる。どちらかと言うと硬質な部分と美しさの部分との両面が魅力的なのである。
 M6."Before Now"のアイレットセンのアルコ奏法、M8"And Then"からM9."Crabs"のヨハンセンのドラムスも聴きどころである。

  CD2では、M13."Get Ready"M14."Run"の異空間への広がりが面白い。ここでもアイレットセンのベースの味付けとヨハンセンのシンバル、ドラムスがが奮闘。
 M17."Krystall"ではリエンの美しいピアノが響く。
   M19."Berlin Blues"では、なんとなくお遊びがあって楽しい展開。
 M2, M20."Popkoral"は、かってのアルバム「NATSUKASII」を思い出すような牧歌的なムードだ。
 
 久しぶりにヘルゲ・リエンに堪能したアルバムを聴いた感覚になった。ニュー・トリオになってむしろ原点回帰したところと見る。内省的なメランコリックさと、アグレッシブなトリオ演奏の交錯のこの世界が彼の世界だと思うのである。
 又録音も極めて繊細な響きで気持ちが良い。

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(評価)
▢ 曲・演奏 : ★★★★★☆
▢ 録音        : ★★★★★☆

(視聴)


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[MY PHOTO]  (我が家の枝垂れ桜 2019.4.18)

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Sony ILCE-7M3,  FE4/24-105 G OSS,  PL , 105mm, 1/125, f/4.0, ISO1000

 

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2018年3月27日 (火)

ヘルゲ・リエン&クヌート・ヘムHelge Lien, Knut Hem 「Hummingbird」

<My Photo Album (瞬光残像)>       2018-No8

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「春到来」        

ドブロ好きにはたまらないのかも・・・・しかし私にとっては欲求不満

<Jazz>
Helge Lien, Knut Hem  「Hummingbird」
Ozella Music / Germ. / OZ079CD / 2018

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Knut Hem - Dobro / Weissenborn
Helge Lien - Piano


  このアルバムは、今年に入って早々にお目見えしたものだが、私の狙いはノルウェーのヘルゲ・リエンのピアノ・プレイなのである。このところの彼は、昨年の前作であるヴァイオリニストのAdam Bałdychとの共作 『Brothers』(ACT9817-2)もそうだったが、今作も主役から降りて支え役のピアノ・プレイを披露している。おそらく・・・そうだろうと想像して、今まで聴かなかったのだが、少々暇になっての結果、ここに聴くに至ったというところなのである。

 中身はリエンと同国ノルウェーのクヌート・ヘムKnut Hem(1963年-) とのアコースティック・デュオ作品と言っているが、全く対等の両者のインタープレイの作品という印象は無い。それは相い対する楽器との性質が大いに関係するところなのであろうが、今回はリエンのピアノの相手は、ギターの発展形のようなドブロそしてワイゼンボーン(ラップスライドギター)という楽器であり、その結果がこの作品だ。このギター系の持つやや強烈なサウンドを前面においての演奏であるので、ピアノはサポート役に甘んじ、主役的メロディーを奏でるのはドプロということになっている。それもおそらくこのアルバムの目的としたるところであったのだろうと推察され、まあ不思議は無いとしておこう。

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(Tracklist)
1. Dis (03:58) *
2. Take Another Five (4:31)  *
3. Winterland (7:20) *
4. Moster (3:27) #
5. Music Box (2:57) *
6. Rafferty (5:41) *
7. We Hide and Seek (4:39)
8. Hummingbird (6:42) #
      (*印:Knut Hem  #印:Helge Lien)


Formhall112017holnsteiner049web 上のTracklistに見るように、曲はオリジナル曲が主体だが、クヌート・ヘムが5曲、ヘルゲ・リエンが2曲と、やはりこのアルバムの主役はヘムのドブロ/ワイゼンボーン(→)演奏とみてよいのだろう。やはり曲の展開はドブロが主役で、リエンのピアノはそれを支えるが如く、曲を優美に流している。
 とにかくドブロは高く強く響く。これが好きな人にはたまらないかも知れないが、私自身は好みからは外れるといったところ。(それって不思議なのだが、ロックとなれば、エレキ・ギターが泣いて、キー・ボードはそれを支えるパターンで納得するんですが)

 M4.". Moster"
と M.6" Rafferty" では、ようやく彼のピアノ・メロディが少々聴けるので、なんとなくホッとする。
 タイトル曲のM8." Hummingbird" はリエンの曲で、冒頭ピアノから入るが、彼のピアノの調べもドブロに打ち消される。いずれにしてもこの曲も穏やかに奏でられる美しい旋律が印象的なところだが、私としてはリエンのピアノの調べで聴きたいと思うのである。だが、なかなかそれも許されない。ここでも結局間奏程度に終わってしまう。

 このアルバムは、ゆったりとした優しくほのぼのとしたメロディーの美しい曲集である。にも関わらず、結局何だったんだろう?と、若干欲求不満に終わったアルバムでもあった。

 もともと私はよっぽどでないと、このようなギター系の楽器とピアノのデュオってあまり納得していない。それはピアノというものは、ギターやヴァイオリンとの関係では、その果たす役割が私の期待するところから薄れてしまう為かも知れない。
 ここに見るが如く、ピアノの音とドブロのアンプを通しての音との関係とは、ピアノの調べが優位と言うことには録音による工夫というか操作がない限りはやはりあり得ないと思う。そしてその結果はドブロの世界に落ち着くのである。それがどうも空しいというのは、つまるところ"私の個人的好み"から来るモノといって良いのだろうが、それを如実に示されたアルバムであった。
 お笑いであるが参考までに、・・・・ピアノにはやっぱりベースとドラムス(勿論、シンバルの音を含めて)が合いますね。だからその構成のピアノ・トリオが盛んなのでしょう。

(評価)
□ 曲、演奏 : ★★★★☆
□ 録音   : ★★★★☆

(参考視聴) Knut Hem のDobro演奏

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2017年7月30日 (日)

アダム・バウデフとヘルゲ・リエン・トリオAdam Bałdych & Helge Lien Trio のニュー・アルバム「Brothers」

牧歌的な静謐とスリリングな緊張感と・・・私好み!!
 ~果たして、神への賛美の叫びか~

 

<Jazz>
Adam Bałdych & Helge Lien Trio 「Brothers」
ACT / Germ / ACT 9817-2 / 2017

 

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Adam Bałdych (vln, renaissance vln)
Helge Lien (p)
Frode Berg (b)
Per Oddvar Johansen (ds)
Tore Brunborg (sax) (M5,6,8)

Music composed and arranged by Adam Bałdych
except 7 composed by Leonard Cohen and arranged by Adam Bałdych & Helge Lien

 

 ヴァイオリニストのアダム・バウディフAdam Bałdych(ポーランド1986年生まれ)の新作だが、前作『Bridges』(ACT9591-2,  2015)同様にノルウェーを代表する我が愛するヘルゲ・リエン・トリオとの共作となっている。しかし曲はバウディフによるもので(レナード・コーエンの”Hallelujah”の1曲以外)、あくまでもヘルゲ・リエン・トリオはサポート役。と、言ってもヘルゲ・リエンのピアノが重要で、この音なしでは考えられない曲作りである。
 又ノルウェーのサックス奏者トーレ・ブルンボルグが3曲に参加して味付け。
 どうもバウディフの原因は解らないが亡くなった弟の為に捧げられたアルバムのようだ。そんなところからも哀感あるアルバム作りとなっている。

 

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(Tracklist)
1. Prelude (1:22)
2. Elegy (7:34)
3. Faith (4:52)
4. Love (6:21)
5. One (6:50)
6. Brothers (6:06)
7. Hallelujah (6:08)
8. Shadows (6:32)
9. Coda (4:21)

 

Adambaldych4_teaser_700x M1. ”Prelude” は、ヴァイオリンとピアノのデュオで冒頭から私が勝手に感じている北欧的な哀愁そのものだ。
 M.2. ”Elegy”の入り方はドラムスとピアノの不安なる打音でピンク・フロイド(ロジャー・ウォーターズ)流。ここでもヴァイオリンとピアノが哀感のある叙情を描き、又一方スリリングな味のヴァイオリンも登場し、懐かしのキング・クリムゾンといった雰囲気をみせる曲。ロジャー・ウォーターズの近作『is this the life we really wants? 』は、ピアノの音を重量感を引き出すに使っているが、それは感覚的には、この曲でも共通点。・・・・と、こんな具合にプログレッシブ・ロックと比較することは叱られそうだが(リエンがウォーターズのファンだと言うのでお許しを)、しかしその共通点が見いだされるところが面白い。しかし醸し出す哀感は完成度の高い曲だ。
  M3.”Faith”はピアノの美しさが前面に。M4. ” Love”の、ヴァイオリンのピッチカート奏法は意外に牧歌的というかトラッド的雰囲気を生み出すんですね。

02helgelientrio2014_lamapre M6.”Brothers”が凄い。静から動、そしてダイナミックな展開。これは単にジャズという世界に止まっていない。聴きようによってはプログレッシブなロックでもある。人一人の激動の人生を表現しているのだろうか?素晴らしい。さすがピンク・フロイド党のリエンが・・・関わっているだけのことはある。
 M7.” Hallelujah” 先頃惜しまれて亡くなったレナード・コーエンと言えばこの曲だ。彼が亡くなる直前までライブで歌い込んでいた。しかし私はこの曲の良さは知っているが、実はその唄う意味を完全に理解しているわけで無い。これ自身は”神の賛美、喜び・感謝の叫び”というのは解るが、ここに取りあげられたことから逆にその中身の深さに迫ってみたいと思ったところである。しかしこの曲も完全に彼らのこのアルバムのモノに昇華している。
 M8.“Shadows”の、ヴァイオリンとサックスが、このように美しく重なり合っての演奏は発聴きだ。
 M9.”Coda”ヴァイオリンそしてピアノの調べは如何にも哀愁感たっぷり。

 

 実はこのアルバム、購入に若干ビビッていたのだが、Suzuckさんが絶賛しているので、これはと言うところで手にしたモノ。なんとそれは正解で、全編ムダな曲が無く完璧なコンセプト・アルバム。傑作だ。

 

(参考視聴) Adam Bałdych とHelge Lien Trio の共演(当アルバムとは別)

 

 

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2017年3月14日 (火)

ヘルゲ・リエン・トリオHelge Lien Trio「GUZUGUZU」

ノルウェーから極東日本との更なる深まりが・・・・・・

<Jazz>

Helge Lien Trio「GUZUGUZU」
ozella music / GERM / OZ070CD / 2017


Guzuguzu

Helge Lien(p)
Frode Berg(b)
Per Oddvar Johansen(ds)

All music composed by Helge Lien
Recorded and Mixed on Raimbow Studio , Oslo, Sept.2-4 2016

 ノルウェーのヘルゲ・リエンのピアノ・トリオによるニャー・アルバム。彼のカメラ好きによる写真ジャケのアルバム『Natsukasii』はインパクトがあったが、あれは2012年だったんですね。あのアルバムの抒情性に惹かれてから彼のファンになってしまった。それも私のカメラ好きと、なんとピンク・フロイド好きが彼と一致していることもあって、なお共感してしまったと言うことなんです。
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 その後このトリオのドラマーは、ペル・オッドヴァ―ル・ヨハンセンに2013年に代わった。そしてアルバム『Badgers & Other Being』発表して2014年に来日。その際には新潟県のライブ会場での一コマで、屋外で彼と一緒に皆既月食を観たり撮影したのを思い出しますが(8, Oct, 2014)、あのアルバム以来3年ぶりの新生ヘルゲ・リエン・トリオ第2弾(通算5作目)だ(今回のカヴァー・デザインは替わって、リエン作ではないですね)。
 そしてこの4月は、またまた来日公演のスケジュールとなっている。

Trio2

 日本好きのヘルゲ・リエンとは言え、アルバム・タイトル”Natsukasii懐かしい”で驚かされたが、今回アルバムは下のTracklistを見てのとおり、なんと日本語の擬音言葉を曲名として創作されたオリジナル曲によって構成されたものとして登場となった。

(Tracklist)
1.Gorogoro (thundering)
2.Guzuguzu (moving slowly)
3.Nikoniko (smilling
4.Garari (completely)
5.Jasmine
6.Chokichoki (cutting)
7.Kurukuru (spinning around)
8.Shitoshito (raining quietly)


Hl1w M1.”Gorogoro”って"thundering"って言うのですから雷鳴ですかね?。転がるようなピアノ演奏、ベースのアルコ奏法による黒い雲の襲うイメージ、そんなところで聴くと面白いのだが・・・・それにしては美しすぎるか。
 M2.”Guzuguzu” ("moving slowly"の意味というのもちょっと"?"だが) これはピアノとドラムスの掛け合いが面白い。

  彼は、ミュージックというものに関わることになったのは、ピンク・フロイドがその大きな因子であると何時も語っている。
  彼のオリジナル曲、そして演奏は、ある時は郷愁的優しさのあるメロディーを聴かせ、またある時はやや前衛的なスリリングな味つけをしてインパクトの効いたドラマティック展開を聴かせる。伝統的ジャズ手法による美に加えインプロヴィゼーションによる革新性(何方かが言っていた言葉ですが私は納得)を追求するタイプだ。今回のアルバムもそんな因子を持って迫ってくる。写真で言えばややスモーキーな柔らかい像とコントラストの効いた堅めの像との絶妙な交錯といった感覚でその点が上手い。

 M3.”Nikoniko” (smilling) は、なかなかピアノ表現が難しいと思うが、優しいピアノの音が響く印象の曲に仕上がっている。
 M5.”Jasmine”は、この中でも趣向が変わって異国情緒。
 M6.”Chokichoki” (cutting)や M7.”Kurukuru” (spinning around)の躍動感と陰影とがドラマチックで、叙情性とは別物。彼らのこれからの一つの方向性を感じさせる演奏だ。
 M8.”Shitoshito” (raining quietly) しっとりとした雰囲気でアルバムを納めるのである。

      *          *

 とにかく、今回のアルバムはテーマがユニークそのもので(ウォーターズのピンク・フロイドの頃の手法も感ずる)、何か一歩脱皮というか、壁を破りたい試みというか、前作もそうだったがヘルゲ・リエン・トリオとしての挑戦も感じられる。それは平坦な叙情にのみ収まりきれない何かエネルギーの発露を求めたような印象を持つのである。

(参考視聴) 映像はニュー・アルバム関係は見つからず・・・・参考までに前作から

  *   *

(試聴) ニュー・アルバムから”Jasmine”

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2015年11月14日 (土)

アダム・バウディフ&ヘルゲ・リエン・トリオAdam Bałdych & Helge Lien Trio 「Bridges」

トラディッショナル・ジャズ・ヴァイオリンとピアノ・トリオの描く不思議なカルテットの世界

 

<Jazz, Traditional>

 

      Adam Bałdych & Helge Lien Trio 「Bridges」
       ACT Music / Germany / 9591-2 / 2015

 

Bridges

 

Adam Bałdych (vn)
Helge Lien (p)
Frode Berg (b)
Per Oddvar Johansen (ds)

Recorded by Klaus Scheuermann at Hansa Studio, Berlin, March 13-15, 2015

 

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 ポーランドのトラッドやフォークの因子を持って創造的ミュージックを展開するジャズ・ヴァイオリニストのアダム・バウディフとノルウェーのヘルゲ・リエン・トリオとの共演作品の登場。
 共演と言っても、あくまでも主としてアダム・バウディフの曲によって主導するアルバムで、ヘルゲ・リエンはサポートと言って良いでしょう。若くしてこうしたヴァイオリニストがいることだけでも驚きだが、それにどんな関係にて成立したのか解らないが、ヘルゲ・リエン・トリオがこれ又絶大な効果を上げていて、現代音楽とトラッドとジャズ・ピアノ・トリオの一体化によるまさに不思議な世界が聴かれる。

 

Bridgeslist スタート曲がアルバム・タイトルの”Bridges”、この曲でこのアルバムの世界が見えてくる。とにかくトラッドといってよいヴァイオリンの技巧的な音と調べ、そしてあのヘルゲ・リエンの叙情的なピアノがそれに協調して美しい世界を展開。しかしそれは我々の馴染んでいる世界とは遙かに離れた異世界。当然私はこのアダム・バウディフという人の演奏と描く世界を知るのは初めてなので、いやはやこれが彼の創造の世界なのかと初聴きの興味で聴き入ってしまった。
  ”Requiem”はさすがに哀愁そのもの。何故か北欧の自然をイメージしてしまう。
 ”Karina”では、ヘルゲ・リエン・トリオならではの北欧トリオが生きている。
 そしてACT Music は相変わらず良い録音盤を提供している。ここでもヴァイオリンとピアノの澄んだ音色が素晴らしい。この音があってこそこの世界が迫ってくるのだ。

Adambaldych
 アダム・バウディフは2011年のベルリン・ジャズ・フェスティバルでセンセーショナルなデビューを飾ったポーランド出身の目下30歳前後の若きヴァイオリニスト。バークリー音楽大学を卒業後、ニューヨークをベースに活動しているらしい。2012年にラーシュ・ダニエルソンらと1stアルバムをリリースしている(Adam Bałdych & Baltic Gang「Imaginary Room」(ACT/ACT9532/2012))。
 彼のこのトラッディッショナルな世界はポーランドの民族音楽が基礎にあるのかそのあたりはよく知らないが、かなり好みも別れるところと思うが、一度は聴いておいて損は無い。
 ただ、さすがにヘルゲ・リエンの尖った角がなく、力みも無く、そして優雅にして繊細な演奏が聴き応えある。そしてここでは彼の持ち合わせている北欧の叙情性と前衛的なセンスが貢献しているのだろう。実はこれはヘルゲ・リエンに引きつられて購入したアルバム。いずれにしても彼のトリオの活動の一つの世界として位置づけて聴いたと言ったところだ。

 

(視聴)

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