ユーロピアン・ジャズ

2024年4月11日 (木)

インガー・マリエ Inger Marie 「Five Minutes」

ぐっと落ち着いたヴォーカル・アルバム

<Jazz>
Inger Marie 「Five Minutes」
Stunt Records / Import / STUCD23082 / 2024

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Inger Marie Gundersen(vocal),
Espen Lind(guitar, keyboards, and backing vocals),
Torjus Vierli(piano, organ, and keyboards),
Tom Frode Tveita(bass),
Martin Windstad(drums and percussion),
Kristian Frostad(pedal steel, lap steel, and guitar),
Erlend Viken(fiddle),
Tore Johansen(trumpet)

 北欧を代表するディーヴァの一人として幅広い人気を誇るシンガー、インゲル・マリエ・グンデシェン(Inger Marie Gundersen インガー・マリエ 下左)の、5年ぶり、そしてパンデミック以来のニュー・アルバム。彼女は1957年ノルウェー南岸のアレンダール生まれで、約40年ロック、ジャズのシンガーとして活動してきて、2004年に遅咲きアルバム・デビュー(『Make This Moment』)で人気者に、既に60歳代後半だ。それにつけても頑張ってますね。

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 このアルバムは、母国ノルウェーのマルチ鍵盤楽器奏者、作曲家のエスペン・リンド(Espen Lind (born 13 May 1971) 上右)が共演・プロデュースしている。彼はテレビ・パーソナリティとしてのキャリアに加えてテイラー・スウィフトやビヨンセなどと仕事してきた国際的に評価を得ているノルウェーのレジェンド。そしてその他、スウェーデンのトム・フルーデ・トヴェイタ(Bass)以外すべてノルウェーのミュージシャン達が共演している。

(Tracklist)
01. Five Minutes(Gretchen Peters)
02. Sailing(Iain & Gavin Sutherland)
03. My Valentine(Paul McCartney)
04. We Kiss in a Shadow(Oscar Hammerstein II/Richard Rodgers)
05. Wild Horses(Mick Jagger/Keith Richards)
06. Thank You Lord(Bill Fay)
07. Why Worry(Mark Knopfler)
08. Litter Person(Jon Brion)
09. Narrow Daylight(Diana Krall/Elvis Costello)

7653648162_5d69ec80ea_z   年輪を重ねたこの低音のぐっと落ち着いたヴォーカルはいいですね。歌と共に詩情が込められていく、そして心に直接響く控えめの歌声が静かで温かい世界を築き聴くものを包んでくれる。
 彼女の息を呑むような歌声を聴かせつつ、ロックの流れやフォークぽい展開があったりの彼女なりのジャズの独特のサウンド世界が作られる。それは温かく、軽くなく、誠実で、過去に聴いてきた曲も共感を誘う新しい意味をもたらして迫ってくる。

 Torjus Vierli(ピアノ、オルガン、キーボード)の彼女のヴォーカルを支える技量も素晴らしく、彼女の描く曲の展開に大きく寄与している。何につけてもEspen Lind(ギター)が、彼のサウンドを上品に全体に乗せていて品格あるアルバムに作り上げているのは見事である。

M01."Five Minutes" 心を落ち着かせ思い描くことの為にタバコを吸うには5分間あればいいと、静かなしっとりとした説得力ある控えめのヴォーカルでスタート。
M02."Sailing" 愛しい人を求め大西洋を渡る歌と解釈されつつ、実はこれは自由と神の成就へと至る人類の精神的なクリスチャン・ソングとロッド・スチュアートがカヴァーした歌。そんな心深くに染みてくるマリエの歌。
M03." My Valentine" 多くの有名どころがカヴァーしている名曲。ささやかな愛が情感豊かに歌われる。
M04."We Kiss in a Shadow" 秘密裏の恋の喜び、歌声とピアノの相乗的効果の美しさが見事。
M05." Wild Horses" ストーンズの解釈がいろいろと言われる曲だが、マリエは何かを心に描いて訴えてくる。
M06." Thank You Lord" 低音でのリズムにのつて、ギターの響きと共にスロー・ロックの味わいを感じさせちょっと異色の曲で私のお気に入り。内容は"主に感謝の心を訴える・・・"といったところか。
M07."Why Worry" 暗い中に光明を見出して慰めてくれるような世界。
M08."Litter Person" 小さな人間の大切なものをしっとりと訴える。
M09."Narrow Daylight" 冬が終わって夏に向かう・・そこには展望か、Diana Krallの歌だが、なかなか味わい深く歌い上げている。

 人生の経験を歌い込んだような選曲と歌い込み、年齢的声量低下はエコーで若干補足はしているが、彼女の真骨頂の控えめな詩情ゆたかな世界をしっとりと聴くことが出来る。

(評価)
□ 選曲・歌 90/100
□ 録音   88/100

(試聴)


*



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2024年4月 6日 (土)

アンナ・グレタ Anna Greta「Star of Spring」

待望のACTからの2ndの登場・・・神秘的で感動的な世界

<Jazz>

Anna Greta「Star of Spring」
(CD) ACT MUSIC / Import / ACT 9748 / 2024

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Anna Gréta (piano, vocals, backing vocals, keys, organ),
Einar Scheving (drums & percussion),
Skúli Sverrisson (electric bass),
Þorleifur Gaukur Davíðsson(guitar and pedal steel),
Birgir Steinn Theodórsson(double bass),
Magnús Trygvason Eliassen(drums),
Sigurður Flosason(bass clarinet),
Albert Finnbogason(synthesizer)
Recorded at Sundlaugin Studio, Iceland during May 2023 and at Studio 1001 in Stockholm
during July - September 2023.

 前作2021 年のACTデビュー作『Nightjar in the Northern Sky』のアイスランド出身ジャズSSW、ピアニストのアンナ・グレタAnna Greta(下左)のアルバムは、久々の注目株としてここで一昨年前に取り上げたのだが、2年半の経過で待望の続編ともいえる2ndの登場で喜んでいるのである。
 最新北欧ジャズサウンドと神秘的でメランコリックな歌声に魅了されるアルバムだ。アイスランド出身のベテラン・ベーシスト・作曲家のスクーリ・スヴェリソン(下右 1966年生まれ、ルー・リード、デヴィッド・シルビアン、坂本龍一などとの共演)が今回もサポート。

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 アンナ・グレタは 2014 年からストックホルムに拠点を移しているが、生まれ故郷であるアイスランドの自然の風景の美しさと力強さからインスピレーションを得ている。2021 年の ACTデビューの前作は"鳥"にちなんでのアルバム・タイトルだったが、続編となる本作は、冬の終わりと春の到来を象徴する「春の星」とも呼ばれる"雪の輝き"という花をモチーフに選んだのだという。彼女は語るところ「春になると草原を覆い尽くし、緑から青へと変えていく姿にインスパイアされただけでなく、そうせざるを得ないから咲くという事実にもインスパイアされた」こんな意味深な言葉からも、彼女はアイスランドの美しさに留まっていない一つのコンセプトを持って曲を造り歌っていることが推測される。それは下に紹介する彼女の芸術作品からもうかがい知れるところである。

(Tracklist)

01 Her House 4:25
02 She Moves 2:23
03 Star Of Spring 3:05
04 Catching Shadows 3:47
05 Metamorphoses of the Moon 3:44
06 Spacetime 4:07
07 The Body Remembers 5:13
08 Mother Of Dreams 3:39
09 Imaginary Unit 3:27
10 Nowhere 3:53
11 Denouement 3:21

 全編美しさに魅了されるヴォーカルに満ちている

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  M1."彼女の家" 厳寒の地に春が訪れ、そこに単なる明るさでない厳しさの解放の複雑な気持ちが感じられる落ち着いた美しいヴォーカル。
  M2."彼女は移動" 開放された展開を描いているのか。
  タイトル曲のM3."春の星"は、何とも言えない独特のエレガントと言える世界、単なる明るさでなくそこには厳しいアイスランドのやや陰鬱な冬のイメージがあってのその雪の輝きの美しさの花の美を訴える。この後のM4.と共に、彼女自身のバックの高音のヴォーカルとハモって一層訴えを増す歌。
 M5."月の変身" 彼女の美しいピアノが中盤で神秘的情景を描く
 M6."時空" 珍しくちょっと陽気さが逆に気になる展開の曲。
 M7."肉体は覚えている" 60 年代から70 年代にかけてグリーンランドで起こった女性の強制出産管理をトピックにした暗部に切り込む。曲は美しいが哀しさが前に出ている。
 M8."夢の母" 郷愁の歌。
   M9."想像上の一人" 珍しいリズムカルな展開。
   M10."どこにもない" 感動的な美を神秘的に歌い上げる。後半の盛り上がりの意味を理解したい。
   N11."終局"でも、美しくしっとりと歌われるが決して明るいというものではない。自然の厳しさの中から生まれるものに深く思い入れているとしか思えない。メランコリックな中に未来を見据えた希望も感じられるところが救いである。

 とにかく彼女の素晴らしピアノ・テクニックの下、独特のヴォーカル・ラインは非常に神秘性をもって印象的に響いてくる。テーマが明るい世界ではないのであるが、なんとか美しさを求めているけなげな姿を想像させる。大自然と厳しさと美に人間性を求めて描く世界は非常に感動的で稀有な世界である。ジャズ因子はしっかり感じられる中での彼女の独特な音楽が感じられる。スカンジナビア・ジャズとしても重要なお勧めアルバムだ。

(参考)アンナ・グレタの芸術 =  「絵画」

 アンナ・グレタの話「私はいつも視覚芸術に興味を持っていましたが、私たちの多くが以前よりも少し時間を持っていることに気づいたCOVID中に自分自身を描き始めました。絵を描くことは私にとってです。自由な表現、手放しの方法、そして境界のない創造の方法。」
左から 「ブラックレイン」「すべての人の心の内側」「暗闇に唄う」(クリック拡大)

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(評価)
□ 曲・歌  88/100
□ 録音   88/100

(試聴)

 

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2024年3月28日 (木)

ペッテル・ベリアンデル Petter Bergander Trio 「Watershed」

葛藤・分裂とに想いを馳せ、音楽による喜びを描く

<Jazz>

Petter Bergander Trio 「 Watershed」
(CD)Prophone Records / Import / PCD324 2024

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Petter Bergander ペッテル・ベリアンデル (piano)
Eva Kruse エーファ・クルーゼ (double bass)
Robert Mehmet Sinan Ikiz ロベルト・メフメット・シナン・イキズ (drums)

 スウェーデンのキャリアある中堅ピアニストのペッテル・ベリアンデル(1973年生まれ、王立ストックホルム音楽大学で学ぶ 下中央)の、2014年結成の自己のトリオによる第3作アルバムの登場だ。前作と同じ鉄壁レギュラー・トリオであるハンブルク生まれのエーファ・クルーゼ Eva Kruse(1978‒ 下左)の女流ベース、イスタンブール生まれのロベルト・メフメット・シナン・イキズ Robert Mehmet Sina Ikiz(1979‒ 下右)のドラムだ。彼らはスウェーデンはじめヨーロッパにてのツアーを行ってきている。

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 ペッテル・ベリアンデルは音楽について次のように語っている。「私たちは人々にクレイジーでエキサイティングな体験と熱意を伝えたいと思っています。本作 『ウォーターシェッド』 は混乱した世界と時代から生まれたアルバムです。曲を書いたとき、人生における分裂の種を蒔きかねないような出来事について考えました。友人間、家族間、あるいは自分自身の中での葛藤。音楽は喜びと芸術を取り戻す手段のようになりました。」と。
 テーマは「分岐・分裂」というところか、しかしなかなか三者の連携プレイがみごとであって、その点は注目はされてきたトリオだが、この新作では、これまでよりインタープレイは更に洗練されてきて、モダンなビートと、そして即興が描くところ、葛藤を乗り越えた姿にこれまた磨きがかかってきた点が注目されるアルバムである。全曲ベリアンデルのオリジナル。

(Tracklist)

1. On The Train To Lviv
2. Watershed
3. Day Eleven
4. Get Out Of Here
5. Lilla Blåvinge
6. If I Would Have Known
7. Lucky
8. Days To Come

 「葛藤」、「分裂」などテーマは暗さをイメージさせるが、トータルに暗いアルバムではなく、極めて安定感の中にむしろ展望がイメージされる世界に聴きとれた。

 M1. "On The Train To Lviv"  ウクライナの戦争下, 列車が向かうはウクライナ小さな美しい都市Lviv、列車の進行する様と戦い中にある都市への思いが複雑に交錯して描かれる。
 M2. "Watershed" "あらゆる人間関係の対立によぎる分裂の不安とは"と問いかける。ネガティブな印象はない、真摯な気持ちの印象。
 M3. "Day Eleven"  "厳しい現実を知る事による暗い不安"が滲むピアノの低音の響きで始まる曲。中盤からのピアノ美しい音、ベースのソロに近い演奏部分に描いている世界が微妙に不安が襲う。ドラムスのブラッシ音もどこか不安な世界に導く。私の注目曲。
 M4. "Get Out Of Here" ベースの響きとクラシックを思わせるピアノ流れ(これはバツハだ)とに、ドラムスの軽快なブラッシ。最後の三者のユニゾンの響きが印象的。
 M5. "Lilla Blåvinge" 絶滅した蝶の名前のようだが、地球に対する人間の行いに問題意識を訴えているのか、繰り返すピアノの旋律が不安げ。
 M6. "If I Would Have Known" 来し方の状況分析にも光明がある姿を描いたか、どこか展望を感ずる。
 M7. "Lucky" いかにも三者対等な音楽は気持ちの浮き上がりの感ずる演奏。
 M8. "Days To Come" 冷静な心と期待感も含めての展望も感じられる曲。

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 私の印象深い曲はM3."Day Eleven"だ。人間の醜い分裂の姿を見てしまった自分に今できることは今何が求められているのだろうかと、懐疑的にしかし何かに向かおうする意志が感じられる曲として評価したい。
 このトリオは、あくまでも詩的情緒とノリの快感を重要視する今時風の抒情派の味を持ったコンテンポラリーな快演だ。従ってテーマの割には暗部にのめり込まないところが救いである。そして美しいメロディーも顔を出すが、あくまでも耽美的に溺れないところがテーマを生かす特徴なのかもしれない。クルーゼ(b)やイキズ(ds)の芸の細かい技によるバックアップも大いに印象を深めるが、しかしやはりそれより遥かに増してベリアンデル(p)のごく自然体の力みのない独創性満点のアドリブ演奏が、やや難題の曲想であるが手慣れた展開で演じ切る。なかなか卓越した技量のピアニストだ。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     87/100
(試聴)
"Day Eleven"

 

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2024年3月 7日 (木)

ヴィクトリア・トルストイ Viktoria Tolstoy「STEALING MOMENTS」

清々しいテンダーにしてロマンティックな好印象のアルバム

<Jazz>

VIKTORIA TOLSTOY 「 STEALING MOMENTS」
ACT MUSIC / Import / ACT97472 /  2024

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Viktoria Tolstoy (vocal) (possibly tambourine? on 03)
Joel Lyssarides (piano except 01) (keyboard on 01, 08, 09, 10) (celeste on 03)
Krister Jonsson (electric guitar except 01) (acoustic guitar on 01)
Mattias Svensson (bass except 01)
Rasmus Kihlberg (drums except 01) (percussion on 06, 08, 09)

Produced by Nils Landgren

Viktoria_tolstoyaw    文豪トルストイが高祖父に当たるということで話題のロシア系スウェーデン人のジャズ歌手ヴィクトリア・トルストイ(1974年スウェーデン-シグトゥーナ地区マーシュタ生まれ)の、今回は、ACTでの第1作『Shining On You』(2004年)から20年になるのを記念しての、ピアノ、ギター、ベース、ドラムのカルテットをバックにした彼女をとりまくファミリーを意識したある意味感謝のアルバムのようだ。もともと彼女は1990年よりの活動で、既に30年以上のベテランということの仲間入りしている。もともとジャズに軸足を置いてはいるが、ポップス、ファンク畑などオールラウンドな適応力もあっての人気ヴォーカリストらしい作品となっている。
   過去にここでは彼女の映画音楽を歌ったアルバム『Meet Me At The Movie』(2017)を取り上げたことがあったが評価はよかった。
 今回のアルバム中身はデビュー作から関係しているアーティスト達の作曲した曲が中心になっている。下の曲リストを見ると解かるが、スウェーデン・ジュズ界の巨匠ニルス・ランドグレンをはじめ、イーダ・サンド、ヴォルフガング・ハフナー、セシリエ・ノルビー、ラース・ダニエルソン、イイロ・ランタラ、ヤン・ルンドグレンといったベテランミュージシャン、長年の友人や仲間たちが、彼女の歌声や造られてきたイメージを新しい曲に盛り込んで書き下ろし、また注目は、故エスビョルン・スヴェンソンのインスト曲であった「Hands Off」も収録されている。

(Tracklist)

1 A Love Song (Nils Landgren)
2 Good and Proper End (Iiro Rantala, Anna Alerstedt)
3 Wherever You're Going (Ida Sand)
4 Hands Off (Esbjörn Svensson, Eva Svensson)
5 Summer Kind Of Love (Jan Lundgren, Hanna Svensson)
6 I Don't Wanna Lose You (Ida Sand)
7 License To Love (Lars Danielsson, Caecile Norby)
8 What Should I Do (Ida Sand)
9 Synchronicity (Wolfgang Haffner, Anna Alerstedt)
10 Stealing Moments (anna alerstedt)

 プロデュサーのニルス・ラングレンの曲M1. "A Love Song" (vo-acg-key)から、オープニングということで、 アコースティック・ギターのバックがムードを盛り上げて、心から感謝をしっとりと歌い込む。
 M3. "Wherever You're Going" (vo/tambourine?-elg-p/celeste-b-ds) ポピュラーっぽい歌が展開。
 M4. "Hands Off" (vo-elg-p-b-ds) 注目のEsbjörn Svenssonのインスト曲。やはりガラっとムードが変わる。中盤のピアノの調べと対比して彼女の歌が説得力のある清々しい歌声で、情緒たっぷりに歌う。
 M5. "Summer Kind Of Love" (vo-elg-p-b-ds) ジャズっぽいエレキのサウンドとピアノの響きとで、難しい旋律をうまくこなして歌い込む。この辺りは見事なジャズに展開。
 M6. "Don't Wanna Lose You" (vo-elg-p-b-ds/per) ぐっとバラード調で、心に染み入るしっとりとしたムードで歌い上げる。時として襲う優しく歌う高音が美しく響く。やさしいギターとピアノの演奏の味付けが良い。
 M7. "License To Love" (vo-elg-p-b-ds) 清々しい歌、彼女の世界に歌う。
   M9. "Synchronicity" (vo-elg-p/key-b-ds/per) 丁寧な歌い込み。
   M10. "Stealing Moments" (vo-elg-p/key-b-ds) エレキ・ギターとの対話的ゆったりとしたヴォーカルが聴きどころ、後半のベースの旋律が効果的。

Gettyimages47017w  やはり彼女の透明感のあるクリーンに澄みきった声は貴重だ。そして歌詞の情感を見事に歌い込みちらっと見せるハスキーな味も魅力がある。又バックの繊細なピアノと優しく描くギターがヴォーカルを生かすべく見事に演じ切る。こうしたヴォーカルものは、大編成バックでないほうがしっとり感が出てよい。そしてなんとなく全編を通して品のある処が見事である。
 そもそもACTデビュー20周年の仲間というかファミリーとして関係諸氏に感謝しているということもあるのか、非常に親近感ある好印象の世界を演じ切っている。若干ポップぽいところも見せながら、非常に丁寧に歌い込むところは貴重。又一方我々にとってもエスビョルン・スヴェンソンの名前が出てくるだけで感動してしまうところがある。
 取り敢えず、お勧めのアルバムだ。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      87/100

(試聴)

 

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2024年3月 2日 (土)

ロブ・ヴァン・バヴェル Rob Van Bavel 「Time for Ballards - The Solo Sessions」

バラードを演じたピアノ・トリオ2作品から最後に登場のピアノ・ソロ作品

<Jazz>

Rob Van Bavel 「 Time for Ballards - The Solo Sessions」

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Rob Van Bavel : Piano

19088518880_ee84w   オランダを代表するピアノの詩人と言われるロブ・ヴァン・バヴェル(→)による人気のピアノ・トリオ作品『Time for Ballads バラードの時間』2作品に続いて、3部作の最後のソロ・ピアノ・アルバムである。
 彼は、1987年にロッテルダム音楽院を最高点で卒業した後、セロニアス・モンク・ジャズピアノ・コンペティションやオランダのグラミー賞Edisonなど数々の賞を受賞する実力派。アムステルダム音楽院(CvA)および王立音楽院(デン・ハーグ)で教師として勤務。 これは2022年から発表してきたバラード集

 ピアノは話題のベルギーのChris Maene Straight Strung Concert Piano(下) により最高峰の音を聴かせる。このピアノは、300年以上にわたるピアノ製作の深い知識と最新の技術を組み合わせたクリス・メーンのストレートストリンググランドピアノで、徹底的な研究と、現代のグランドピアノに代わる革新的で芸術的な代替品を構築したいという究極の願望からの大胆な新世代の楽器として制作されたもの。

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 ロブ・ヴァン・バヴェルについては、過去に日本では2000年に澤野工房がピアノ・トリオ・アルバム『JUST FOR YOU』(Rob van Bavel : piano, Marc van Rooij : bass, Hans van Oosterhout : drums / AS007/ 2000)をリリースしてくれて知れたところであるが、躍動感あるリズムにのりつつ、リリカルで爽快な一枚として受け入れられた。
 そしてこの2022年にリリースされた『Time for Ballads』は、彼のピアノと別メンバーのベース、ドラムスのトリオで「The The Maene Sessions」と「The Studio Sessions」の2アルバムが、リリカルにして優雅、優しさとリズムが快感で好評であった。そして2023年になってストリ-ミング及びダウンロードという方法で、このピアノ・ソロ版がお目見えしたという経過だ。

(Tracklist)

1.Everything Happens to Me 05:07
2.Love Dance 03:47
3.Ballad of the Sad Young Men 05:23
4.Two for the Road 03:26
5.Always and Forever 04:08
6.Bob's Piano Bar 04:18
7.Cinema Paradiso 02:45
8.Guess I'll hang my Tears out to Dry 03:19
9.For Lieke 02:54
10.Ballad for René 03:19
11.Ballad for Danny 02:52
12.Your Nocturne 01:24

 もともと私はジャズに於いてのピアノものは何よりも好むのだが、それはソロよりはベース、ドラムスとのトリオ好きである。しかしこのアルバムはピアノ・ソロである。しかし、実は前作の『Time for Ballads』の2つのアルバムは、トリオものであったが、実はその内容は、バヴェルのピアノ主導型のアルバムで、それぞれ3者のインタープレイも楽しめるが、インプロヴィゼーションもピアノ主体であってトリオとしての面白みは若干少なかった。ただ比較的優しい演奏であったため、今回はソロということだが、それほど大きな違和感はなく続編的な受け入れが出来た。

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 M1."Everything Happens to Me"スタートから情緒たっぷりのバヴェルの流麗なピアノが聴ける。フランク・シナトラ、チェット・ベイカーなどの歌が有名だが、しっとり感も十分。
 こんな流れで全編スタンダードなど美しい詩的なメロディで綴ってくれる。M11"Ballad for Danny",M12"Your Nocturne"の締めくくりも刺激の少ない万人向けのピアノトリオ・ファンの心を掴むであろう演奏である。夜に、部屋にそう大きな音でなく適音量で流していると快感の作品。ときにこうしたアルバムも精神衛生上良いのではとお勧めである。

                - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -  

『Time for Ballards 』の前作2アルバムは以下のようなものである

🔳Rob Van Bavell『Time for Ballards - The Maene Sessions』
    Dox Records / Import / Dox5881 / 2022

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Rob van Bavel - grand piano
Frans van Geest - bass
Marcel Serierse - drums

(Tracklist)

1.Ballad for Rene 03:44
2.In A Sentimental Mood 05:15
3.Your Nocturne 03:42
4.Search for Peace/Peace 05:53
5.Bob's Piano Bar 04:57
6.Elegie 05:08
7.I Guess I'll Hang My Tears Out To Dry 03:24
8.Ballad For Danny 04:26
9.De Tor Ahead 04:50
10.For Lieke 02:40
11.Roaring Heights 04:18
12.The Shadow Of Your Smile 06:31
13.Body And Soul 04:46

 とにかくピアノ・トリオ・ファンから圧倒的支持があった人気アルバム。何んといっても難しい演奏でないところが万人受けしたと言って良い。若干トリオとしての三者のインタープレイのスリリングな味が少し薄いところが残念なところか。

 

🔳Rob Van Bavell『Time for Ballards - The Studio Sessions』
    Dox Records / Import / DU8192R001CD / 2022

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Rob van Bavel (piano)
Marcel Serierse (drums)
Frans van Geest (bass)

(Tracklist)

1.A NIGHTINGALE SANG IN BERKELEY SQUARE 4:15
2.MANHATTAN 4:23
3.TWO FOR THE ROAD 3:25
4.ALWAYS AND FOREVER 4:33
5.MISTY 4:52
6.BALLAD OF THE SAD YOUNG MEN / LARGO 5:24
7.SLOW BOAT TO CHINA 4:09
8.HARD TO SAY GOODBYE / THREE VIEWS OF A SECRET 4:58
9.EVERYTHING HAPPENS TO ME 5:07
10.THE PEACOCKS 4:49
11.DAYDREAM 4:49
12.LOVE DANCE 3:45
13.CINEMA PARADISO / I'VE NEVER BEEN IN LOVE BEFORE 5:38

 『Time for Ballads』プロジェクトの第2弾、チック・コリアの影響を受けているといわれるバヴェルのピアノが、相変わらず心地よいメロディーを展開。期待のM5."MISTY"は、意外に軽妙なアップテンポでちょっと驚いた。

<当シリーズ3作の総合評価>

(評価)
□ 編曲・演奏  :  88/100
□ 録音     :  88/100

(試聴) 

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2024年2月26日 (月)

アンドレア・モティス Andrea Motis 「Febrero」

中南米曲を中心にアンサンブル演奏をバックに歌うアルバム

<Jazz>

Andrea Motis 「Febrero」
AUTO EDITED / Import / JJAMCD00302 / 2024

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Andrea Motis(vocals & trumpet)
Camerata Papageno(young Chilean classical chamber orchestra)
Christoph Mallinger(violin & mandolin)
Federico Dannemann(guitar & direction)

20190423fbw   スペインはバルセロナ出身の人気歌手でトランペッターのアンドレア・モティス(1995年生まれ、→)の2022年の『Loop Holes』(JJAMLP00101)及び『Colors & Shadows』(kkJ187)に続くニューアルバムということで、さっそく聴いてみた。  チリのクラシック・アンサンブルであるカメラータ・パパゲーノと共演だ。レパートリーは、アンドレア・モティスが、ギタリストでアレンジャーのフェデリコ・ダンネマンとともに選曲。チリ、ペルー、アルゼンチンに由来する中南米の音楽、及び、ブロードウェイのナンバーを、親交のあるクリストフ・マリンガー(vln,mandrin)、フェデリコ・ダンネマン(g)のサポートを得て完成させたと。彼女のパートナーであるオーストリアのヴァイオリニスト、クリストフ・マリンガーとパパゲーノ文化財団とのつながりから生まれたという経過の様だ。

 モティスの言うには「繊細なアレンジと録音の響きを通して録音された曲は、チリでの夏の日々に私たちみんなが一緒に過ごした穏やかさと深い喜びの感覚を思い出させてくれる」と、いうことのようだ。そして彼女は具体的には、「ガーシュウィン兄弟の2つの作品、ピクシングイーニャとジョビンの作曲、2つのメキシコのボレロ、そしてオラシオ・サリナスによるインティ・イリマニのヴァージョンを収録したこのアルバムは、作者、演奏者、未来のリスナーなど、さまざまな世代の時代を超越した瞬間の記録である」と説明している。

(Tracklist)

1.La Pajita (Horacio Salinas / Gabriel Mistral)
2.The Man I Love (George & Ira Gershwin)
3.Carinhoso (Alfredo da Rocha Viana Filho Pixinguinha / João de Barro Braguinha)
4.Noche de ronda (George and Ira Gershwin)
5.Garota de Ipanema (Antonio Carlos Jobim / Vinícius de Morales)
6.Someone to Watch Over Me (Agustín Lara)
7.Sensemayá (Horacio Salinas / Nicolàs Guillén)
8.Perfidia (Alberto Domìnguez Borrás)
9.El Carnaval (Horacio Salinas)

 ちょっと心配したのは、フェデリコ・ダンネマン指揮のカメラータ・パパゲーノの音世界だ。このあたりは私の好みの問題で、おそらくソロ楽器などでしっとり落ち着いた世界というのとは全く別物であろうと踏んでいたが、まさにその通り、ストリングスの美しさもあるが、どちらかというと中南米の独特なホットな世界だ。彼女の前作『Colors & Shadows』もビック・バンドがバックであって、ヴォーカルを聴くには若干期待に反していたのだが・・・・。
 今回のこのアルバムも、アンサンブル主体のカメラータの音とジャズやラテンアメリカのリズムをミックスした作品として聴くのがいいといったところ。彼女のトランペットも勿論入ってくるが、その演奏を聴くのか、ヴォーカルを聴くのか、その役割も気にしているのだが、どうも私の期待とは別の世界に仕上がっている。

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M1."La Pajita " チリでは子供から大人まで広く知られた曲とか、マンドリンと共に相変わらずのちょっと可愛らしさのある歌声で優しく歌って聴かせる、このあたりは期待の世界。
M2."The Man I Love" ストリングスから始まって、更に美しくしっとりと歌いあげる
ここまでは、トランペットの登場もなくファンタジーな物語の始まりのムード。
M3."Carinhoso" ブラジルの愛の有名曲。モティスの優しい歌声。どうもバックのストリングスが私のラテン印象に合わない。
M4."Noche de ronda" これも古いメキシコの歌、彼女の巻き舌の歌は初めて聴いた感じ。
M5."Garota de Ipanema" ここでは、リズムカルな誰もが知っている曲の登場、やっぱりぐっと落ち着いた歌だ。彼女のトランペットもようやく歌い上げる。最後に変わった編曲。
M6."Someone to Watch Over Me" ガーシュウィンの昔の曲、フランク・シナトラとかエラ・フィッツジェラルドの歌、ちょっと時代ものを感ずる歌だが聴き惚れるところもある。
M7."Sensemayá" これは快調のテンポの難しい曲、メキシコの曲でこのカラメータのような多楽器編成向きの曲の様だ。モティスのトランペツトも生き生きと。
M8."Perfidia" メキシコのアルベルト・ドミンゲスの曲。ちょっと変わった編曲でスタート。テンポは快調だが・・・・とにかく超有名曲を楽しくといつたところか。
M9."El Carnaval"民族ダンス・ミュージツクの仕上げ。モティスのトランペットも加わってのお祭り的世界。

 このアルバムは、勿論モティスのヴォーカルものであるが、どうもカラメータ・パパゲーノというアンサンブル演奏集団(チリの非営利団体で、クリスチャン・ボエシュが設立・会長を務めており、この財団は、地方の78の学校に通う6歳から10歳までの約2,000人の子どもたちの才能を音楽を通じて育成することを目指しているもの) の明るい演奏に大きなウエイトがあって、それ自身が私の好むジャズとしての感覚とのズレでどうも手放しに楽しめない。このようなところは聴く者の好みであるから、喝采を浴びせる人もいるのかもしれないが。
 私としてはギター、ピアノなどとのデュオぐらいのほうがかえって彼女の歌を楽しめるような気がするのだ。そんなところで今回も期待とは別世界であった。しかし、トランペッターとしての期待度もあろうから、なかなか難しい、ペットといえどもチェット・ベイカーのような世界も有るし、まだまだ彼女にはヴォーカルの質が好きなので期待はしている。従って演奏と歌をどのように聴かせてゆくかは今後の課題だろう。いずれにしても私としては次回は小編成ものに期待したいところだ。

(評価)

□ 編曲・演奏・歌  85/100
□ 録音       85/100

(視聴)

"Someone to watch over me "

*
"El Carnaval"

 

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2024年2月11日 (日)

セバスチャン・ザワツキ Sebastian Zawadzki trio 「Vibrations」

クラシックから発展させた北欧ジャズのポーランド俊英のピアノ・トリオ

<Jazz>

Sebastian Zawadzki 「Vibrations」
Self Produced / Import / ZAWA2023 / 2023

Vibrations

Sebastian Zawadzki - piano
Maciej Kitajewski - doublebass
Kacper Skolik - drums

 ポーランド出身で現在はコペンハーゲン(デンマーク)に拠点を置くセバスチャン・ザワツキ(1991-)のピアノトリオ新作。彼は19歳でオーデンセ(デンマーク第3の都市)のシダンスク音楽院に入学し、ピアノを学ぶ。また、クラクフ音楽院(ポーランド)やコペンハーゲンのリトミスク音楽院でも学ぶ。また、ロサンゼルスで行われたリチャード・ベリスとのASCAPフィルム・スコアリング・ワークショップに参加した後、オーデンセのシダンスク音楽院にソリストとして戻ったという経歴。

Avatarsiap9xe2e3s8fl0ysw  彼は、活気あるコペンハーゲンのジャズシーンで現在引っ張りだこのサイドマンで、多くの国でツアーやレコーディングを行って来ている。ピアノ・トリオ作品は2014年以来という。とにかく20歳代前半からのジャズピアニストとして音楽のキャリアをスタートさせていて、彼のファースト・アルバムは『Luminescence』(2014)では、ミニマルな即興曲が収録されているという。セカンドアルバム(2015年)は弦楽四重奏とピアノのために書かれてたもの。幼い頃から即興音楽やクラシック音楽に強く影響を受けていて音楽を学んだ結果、クラシック作品を作曲し、そのうちの1つである「ファゴットと室内管弦楽のための協奏曲」(2016年)は、第9回ワルシャワ新市街音楽祭で初演されたという話だ。

  とにかく彼に関しては話題に尽きないので、少々ここで紹介しておくが、新しい演奏の模索にも力を注いでいて、2017年にはクラシックの楽器奏者と電子楽器(主にモジュラーシンセサイザー)を組み合わせたプロジェクトに取り組み、その実験的なスタイルの1stアルバムは、新古典主義の作品『Between the Dusk of a Summer Night』(2017年)で、ブダペスト交響楽団、ソリスト、アンビエント・エレクトロニクスとのコラボレーションでブダペストとコペンハーゲンで録音されたようだ。

 その後も彼の実験的試みは多岐にわたり、2018年には「ピアノ作品集」と呼ばれる一連のアルバムを制作し、第一弾「Piano Works vol.1」を、続いて、弦楽四重奏、シンセサイザー、ピアノのためのサウンドスケープ『Norn』(2018年)を発表した。第2弾「Piano Works vol.2」は2019年発表し彼の代表作となる。更に声、ピアノ、弦楽四重奏を美しく盛り込んだ次のアルバム『Songs about Time』で、新しい音楽の道を模索し続けました。2021年には、ジャズトリオのために制作されたシングル「Far Away」をリリースし、ストリーミングサービスで約300万回のストリーミングを獲得。最新作『Viridian』(2022年)と『Altair』(2022年)は、更なる新たな出発で、『Viridian』は、メロディックな即興ソロ・ピアノ曲のシリーズで、『Altair』は交響楽団、マレット、ピアノのためのロング・プレイ・アルバムである。

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 さてそんな話題の尽きないザワツキの経歴を知りつつ今アルバムを聴くと、いろいろと納得出来てくる。全曲彼のオリジナル曲が収録されているピアノ・トリオ作品だ。

 (Tracklist)

1. Two (5:06)
2. Underestimated (7:48)
3. Coquelicot (5:37)
4. Vibrations (6:49)
5. November (7:24)
6. Painite (7:13)
7. Melancholia (5:36)
8. Zdrowie (6:37)
9. Purple (5:49)

  いわゆるクラシック音楽の要素と北欧ジャズを実験的に組み合わせて、アンビエント、ミニマリズムなど様々な要素を取り込んだサウンドで、真摯な気持ちで聴き入ることが出来る。作曲されたパートと即興演奏の組み合わせがオリジナルだあるだけ全く不自然さが無く、メロディーは美しく、そしてふと自分だけの時間に物思いにふけったり見知らぬ北欧の自然世界を頭に描いて静かに過ごすにはまことに見事なサウンドが響いてくる。
 ザワツキのピアノのメロディックで美しく繊細なタッチ、マチェイ・キタジェフスキのベースラインとカチペル・スコリクの繊細なドラミングが交錯し、主体はピアノが優位な位置でのトリオ演奏が展開されるが、これぞユーロ・ピアノトリオの一つの逸品と言っていいだろう。

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 オープニング曲M1." Two "から、 静かな北欧の自然豊かな世界を連想するピアノの響きと支えるベースが美しい。
 M2."Underestimated" 及びM8."Zdrowie" は、ピアノのクラシックを思わせる音楽展開が支配するも、後半に顔をだす即興部が面白しい
 タイトル曲M4."Vibrations"は、ミニマリズム手法が演じられ、静とダイナミズムが描くところ単なる美というのでなく躍動感が支配している。
 M5." November"は、まさにクラシック・ピアノの美しさに支配されている。
 M7."Melancholia" このようなメランコリックな世界はお手の物といった演奏。ピアノの打鍵音も美しい。
 M9." Purple" ピアノのベースとのユニゾンが生きた曲

 このトリオの美的インスピレーションの支配する演奏と音楽的感性は優れていて、オリジナリティー溢れた独特のサウンドで生み出される曲群は聴く者を支配する。
 何年ぶりのオーソドックスな作曲家およびリーダーとしてのセバスチャン・ザワツキのピアノ・トリオ作品であり、クラシック音楽の要素と北欧ジャズの世界を見事に組み合わせた作品だ。久々のトリオもので、彼のこれからのジャズ経歴で重要な一つの作品になると思われ、今後への期待は大きい。

(評価)
□ 曲・演奏  92/100
□ 録音    90/100
(試聴) "Underestimated"

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2024年2月 1日 (木)

アダム・バウディヒ& レシェク・モジュジェル Adam Bałdych & Leszeck Możdżer 「Passacaglia」

究極のポーランド・ジャズのクラシックとの融合からの発展系の美

<Jazz>

Adam Bałdych & Leszeck Możdżer「Passacaglia」
ACT / Import / ACT9057 / 2024

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Adam Bałdych (vln)
Leszeck Możdżer (p)

Recorded at Polish Radio S4 Jerzy Wasowski Studio in Warsaw on January 23rd – 25th 2023

 ポーランドを代表するジャズミュージシャンの「ヴァイオリンの天才」アダム・バウディヒと、ピアニスト、レシェク・モジュジェルによるデュオ作品の登場(ポーランドの名前は発音が難しい。日本語で書くといろいろとあります)。すでに両者はここで過去に紹介ずみだが、特にバウディヒはヘルゲ・リエンとの共演などや、2019年の来日の際には話をすることが出来たりと、たっぷり楽しませていただいており、ここにニュー・アルバムを喜んでいる。又ピアニストのレシェク・モジュジェルも私の好きなピアニストで、『Komeda』(ACT9516,2011)などのアルバムで過去にここで取り上げてきた。とにかく澄んだ硬質のピアノ打鍵音は素晴らしい世界を構築する。
 二人の共演は、2009年にヴロツワフ歌劇場が初めてで、マウリッツ・シュティラー監督の無声映画「アルネ家の宝物」の即興音楽を演奏した。好評でありながら彼らは10年以上も経って、ようやくここに、2023年1月にポーランドのスタジオに入りが出来て、この「パッサカリア」セッションを実施できたという経過だ。


Maxresdefaultw_20240130184501  アダム・バウディヒは、最新の紹介では、"1986 年ポーランド生まれのヴァイオリニスト/ 作曲家。カトヴィツェ音楽アカデミーを卒業し、ヘンリク・ゲンバルスキに師事。「ヴァイオリンの天才」と称され、14 歳でキャリアをスタートさせ、クラシック音楽の成果とヴァイオリンの現代言語を即興演奏家の才能と組み合わせた革新者としてすぐに認められた。ポーランド、ドイツ、日本、アメリカ、オーストリアなど、様々な国のジャズフェスティバルや一流のコンサートホールでツアーを敢行している。ラース・ダニエルソン、ニルス・ランドグレン、ビリー・コブハムなど、並外れたアーティストと共演し、ドイツの音楽業界賞である ECHO Jazz、ポーランドの金功労十字章、ポーランド文化功労勲章など、数々の賞を受賞している。"と書かれている。

417727778_8152939w   レシェク・モジュジェルも最新紹介は、"1971 年生まれのポーランド出身の音楽家 / ジャズ・ピアニスト/ 作曲家。5 歳の時に両親の勧めでピアノを始め、1996年にグダニスク音楽アカデミーを卒業。これまでクシシュトフ・コメダ賞、ポーランド外務大臣賞など、国内の主要音楽賞を多数受賞している。これまでに100以上の音楽作品に参加しており、パット・メセニー、デヴィッド・ギルモア、トーマス・スタンコなど多数のアーティストとコラボしている。映画音楽の作曲家ともコラボレーションしており、日本を舞台にした『HACHI 約束の犬』などの映画音楽で演奏している。世界各国で公演を行っており、ショパン生誕 200 年にあたる2010 年には、東京紀尾井ホールなどで来日公演を行った。"と、ある。


 さて今作『Passacaglia』は、バウディヒとモジュジェルが共同で書いた自由な即興演奏を多用したオリジナル曲4曲をメインに、バウディヒが6曲、モジュジェルが2曲のオリジナル曲を提供。そしてクラシック畑よりエリック・サティや、ジョスカン・デ・プレスなどの3曲の演奏が含まれている。
 また、このアルバムでは、私にはその内容や意義は知るべしも無しの「ルネッサンス様式のヴァイオリン、2台のピアノ(A+442 HzとA+432 Hzの調律)、プリペアドピアノという特別な楽器の組み合わせにより、その音色に驚くべき、高貴な音の組み合わせによる融合を巧みに作り上げた」と紹介されている。この組み合わせにより、確かに彼らの持つ複雑にして分類困難な独特のスタイル、そして多岐にわたるジャンル、さらには聴いてすぐ解る音色の変化に伴っての音楽表現の多様性を実現し、もともとの美しくエレガントなクラシック調の室内楽の世界を表現したり、両者の交錯による激しさのあるジャズ即興演奏が繰り広げられている。
 聴きようによっては、昔よく聴いたクラシック古典派のベートーベンなどのヴァイオリン・ソナタを愛していた私にとっては、むしろこのようなデュオは、音楽学者には笑われるかもしれないが、その発展形にも聴けて一層楽しいのである。

(Tracklist)

1: Passacaglia (Adam Bałdych & Leszek Możdżer)
2: Jadzia (Adam Bałdych)
3: Moon (Adam Bałdych)
4: December (Adam Bałdych)
5: Gymnopedie (Erik Satie)
6: Polydilemma (Leszek Możdżer)
7: Le Pearl (Leszek Możdżer)
8: January (Adam Bałdych)
9: Beyond Horizon (Adam Bałdych & Leszek Możdżer)
10: Saltare (Adam Bałdych)
11: Circumscriptions (Adam Bałdych & Leszek Możdżer)
12: Resonance (Adam Bałdych & Leszek Możdżer)
13: Aurora (Adam Bałdych)
14: O ignee Spiritus (Hildegard von Bingen)
15: La deploration sur la mort d’Ockeghem (Josquin des Prez)

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 とにかく、両者の卓越した作曲と演奏能力により、その上に楽器にも曲により組み合わせの配慮がされ、この組み合わせにより、確かに彼らの持つ複雑にして分類困難な独特のスタイル、そして多岐にわたるジャンル、さらには音色の変化に伴っての音楽表現の多様性を実現し、もともとの美しくエレガントな室内楽の世界を表現したり、両者の交錯による激しさのある即興演奏が繰り広げられている。このあたりは過去にも聴く度に驚かされていながら、引き込まれて行く世界であったが、このアルバムでも同様で、魅力が溢れていた。
 私自身はなれてきたのか、かっての作品より今作の方が、かなり身近に受け入れやすく感じたところである。

 M1." Passacaglia " 美しいヴァイオリンのピッチカートの音とクリアなピアノの音からスタートし、この両者の即興の交わりが見事。うっとりと聴いていると4分があっという間に終わってしまう。
 M3." Moon "M11." Circumscriptions"の両曲は、どこか民族的響きの曲。両者の跳ねるような音の展開が圧巻。
 M4."December" ヴァイオリンの美しい響き、非常に魅力的な曲。ピアノは支えるがごとく控えめな音。
 M5."Gymnopedie" サティの曲、ピアノとヴァイオリンの静の世界を描く美。
 M7."Le Pearl" モジュジェルの曲で美しいピアノ。M8."January"はバウディヒの曲で美しいヴァイオリン。両曲とも後半のコラボレーションも見事。
   M9."Beyond Horizon" 共作だけあって、美しさの溢れたインタープレイ。
   M12."Resonance" タイトルどうりの響きが美しい。 
   M13."Aurora " ヴァイオリン奏法の技量の高さ、ピアノの美的世界がみごとに展開され、即興と思われるところにおいても聴き応え十分。
 M14."O ignee Spiritus " 深遠な世界に導かれる。
 M15."La deploration sur la mort d’Ockeghem" 最後を飾る悲嘆から安堵の世界。

 
Img_1826trw2w いずれにしても、アダム・バウディヒとレシェク・モジュジェルは、持ち合わせている教養とミュージックにおけるジャズの意義の上に、その卓越したセンスと技法で高貴な室内楽における美的バランスの取れた情緒と美に満ちた世界を創り出し、ときに激しい感情を沸かせ、即興の対話と交錯をも演じている。彼らの音楽的な世界の高さはまさにハイレベル。聴く者の心を知りつつ訴えるところは、繊細さとダイナミックさとの組み合わせにより並みでない世界を構築し、そこには神秘的な魅力で迫ってくる。おそらく今年の最高傑作の一つであろう。 (写真→バウディヒと私 2019年)                                                                                                   

(評価)
□ 曲・演奏 95/100
□   録音   92/100

(試聴)

 

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2024年1月27日 (土)

マルチン・サッセ Schoenecker / Sasse / Schieferdecker 「Trio Tales」

ベテランのギター・ピアノ・ベースによるドラムレス・トリオで描く物語・・・

<Jazz>

Schoenecker / Sasse / Schieferdecker 「 Trio Tales」
JazzJazz / Import / JJ1037  / 2024

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Joachim Schoenecker (guitar)
Martin Sasse (piano except 7)
Markus Schieferdecker (bass except 7)

Recorded and mixed by Klaus Genuit at Hansahaus Studios Bonn on October 8th & 9th, 2021

  ドイツが誇る3アーティストが集結した。それはギターのヨアヒム・シェーネッカー(1966年旧西ドイツのザールブリュッケン生まれ 下左)を中心に、人気ピアノのマルチン・サッセ(1968年旧西ドイツのハム/ヴェストファーレン生まれ 下中央)、ベースのマルクス・シーファーデッカー(1972年旧西ドイツのニュルンベルク生まれ 下右)であり、いずれもキャリア豊富なドイツの精鋭陣が顔を揃えた連名ドラムレス・トリオのアルバムだ。

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 この作品はタイトルにもある通り"Tales 物語"をテーマにしており、敢えてリーダーを決めず、 メンバー3人による音楽的な会話を交わす、つまりインタープレイの楽しさを目指して作成されたようだ。この"Tale"には"むだ話"のような意味もあるので、とにかく3人がリラックスして楽しんでいるとみていいだろう。

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1.Blues For PB
2.Body & Soul
3.Groovy Waltz
4.Longing
5.Green And Blue
6.One For Jeanni-e
7.Autumn In NY
8.Pannonica
9.Song 42

 オープニングのM1."Blues For PB"のブルースから、なんとなく仲間意識で盛り上がって、一緒に演奏する純粋な喜びが感じられるようなゆとりのある演奏に聴こえる。それはメロディックでリズミカルでもあり快感。
 また意外な繊細さが彼らのオリジナル曲M4からM6には感じられ、自然にメロディー演奏が3者に転換されて行って対等感がにじみ出ている。お互いに敬意を払ってクールに流すところもみられ、それはまさにベテランの味である。

 近作マルチン・サッセのピアノトリオ新作アルバム『Longing』(JJ51035/2024 紹介下記)にも収録されているM4とM5が出色の出来を感ずる。特にM5."Green And Blue"では、ギターの味がピアノの音に先行して美しい旋律を流し、それを作曲者のサッセがほほ笑むようにピアノでホローする形で美しい音を聴かせ、その流れの微妙な繋がりが素晴らしい。それに更にベース・ソロに近い流れが加わって、この色付けが静かにしてちょっと物憂いところがジャズのムードを盛り上げていて楽しい。マイルス・ディヴィスの"Blue in Green"を大いに意識してのものであろうことは想像に難くないが、私はこのアルバムでは一押しだ。

 M7."Autumn In NY"はギター・ソロで、2分20秒と短いが、なかなか編曲とアドリブとインプロが生きて変化していて、ジャジーな充実感の中にちょっと寂しい秋が実感できる。そしてM8."pannonica"へ流れ3者の間を巡る演奏によってインプロによる静かな花が咲く。

 究極、彼らの演ずるストーリーは、メロディックでリズミカルな繊細さに満ちており、一方クールさでも自信の結果で安定感ばっちり。彼らの描くところ、エレガントに仕上げる年期の味が満ちていてこれも好感である。テーマやスタイル、和音やリズムを変化させる技術は経験の深さであろうと聴いた。なかなか味のあるアルバムであった。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏  90/100
□ 録音       88/100
(試聴)  "Green And Blue"

            - - - - - - - - - - - - - - - 

 

(参照)  マルチン・サッセのピアノ・トリオ・アルバム

  エレガントで軽快にメロディックなピアノ・トリオ作品

<Jazz>
MARTIN SASSE TRIO 「LONGING」
JazzJazz / Import / JJ51035 / 2024

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Martin Sasse (piano)
Martin Gjakonovski (bass)
Joost van Schaik (drums)

Recorded and mixed by Reinhard Kobialka at Topaz Studio Köln.

 上記アルバムのピアニストのマルチン・サッセの、これはついこの間リリースされた自己名義トリオによるアルバムである。彼のオリジナル曲のM03."Longing"とM06."Green And Blue"が、こちらのアルバムにも登場する。同じトリオ・スタイルでも楽器編成が異なるので、その違いが楽しいところだ。

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01. How Little We Know
02. Groovy Waltz
03. Longing
04. Never To Return
05. The Soul Of Jazz
06. Green And Blue
07. Swing, Swing, Swing
08. Bennetts Blues
09. Lover Man
10. With You

 サッセのピアノはエレガントであり聴くに気持ちが良い。サウンドはメロディーに乗っての軽妙さが印象的だ。収録は8曲の彼のオリジナルに、スタンダード曲M01."How Little We Know"M09." Lover Man"が収録されているが、M03."Longing"、M06."Green And Blue"が、上記アルバム『Trio Tales』と共通であるところから聴き比べが注目点。こちらでは曲の展開はほゞ同じスタイルでありベースの演ずる役割も似ているが、純粋なアコースティック・ピアノ・トリオの良さとしてのメロディーの美しさがピアノによって描かれている為、上記のギター・ジャズ・ムードが加味されての世界とは印象が結構大きく異なる。どちらが良いかは好みというところ。
 なかなか情景豊かな演奏で、ピアノ派にとっては好まれる因子のあるアルバムである。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    87/100
(試聴)     "Breen And Blue"

 

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2024年1月22日 (月)

アンニ・キヴィニエミ Anni Kiviniemi Trio 「Eir」

リアルなサウンドで独創的な世界を描くフリー・ジャズ

<Jazz>

Anni Kiviniemi Trio 「 Eir」
WeJazz/ Import / WJCD58 / 2024

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Anni Kiviniemi, piano
Eero Tikkanen, double bass
Hans Hulbaekmo, drums

Composed by Anni Kiviniemi
Recorded & mixed by Aksel Jensen at Newtone AS, Oslo
Mastered by Juho Luukkainen
Executive producer & design by Matti Nives

  米国ロサンジェルスを拠点とするフィンランド人女流ピアニスト、アンニ・キヴィニエミAnni Kiviniemi(下左)は、ベーシストのイーロ・ティカネンEero Tikkanen(1987-下中央)とドラマーのハンス・フルベクモHans Hulbaekmo(1989-下右)をフィーチャーしてのトリオ・デビュー作品。彼女は米国へ移住する前はノルウェーに住んで学んでいたようだ。
  このニュー アルバム「Eir」は、キヴィニエミのオリジナル8曲で構成され、このタイトルは、リリース前に生まれたキヴィニエミの娘にちなんで名付けられたということだ。

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 そしてこのトリオの演ずるところ、"現代クラシック音楽、ノルウェーの民俗音楽、北アフリカと中東の音楽の伝統、フリージャズに関するキヴィニエミの研究の影響を受けています"と表現されていて、"内省的でムーディーでありながらスウィングするピアノ・トリオ"と紹介されている。

 キヴィニエミの言葉(作曲プロセスについて次のように語ってる)
「音楽においても、おそらく人生においても、私は常に未知のものに引き寄せられます。すぐには認識できない珍しいメロディーや奇妙なコードを聴いたら、ピアノに飛び乗って、それが何であるかを理解する姿勢で来た。・・・・私は作曲家として常に自分自身に厳しい制限を設けていますが、仲間のミュージシャンには完全な自由を与えています。 私の音楽を自分なりの方法で解釈してください。彼らが何かを変えたいなら、自由に変えてください。私はバンドリーダーとして驚くのが大好きです。それは私に多くのことを教えてくれて、いつも楽しいです。アルバムは95%は即興ですが、ライブでプレイすると99%に近づいていきます。」

(Tracklist)

1.Tiu Dropar
2.Gwendolyn
3.Judy
4.Arguably
5.Atoms
6.Mére
7.Mengi
8.Choral
   
  スタートのM1."Tiu Dropar"を聴いた瞬間、曲よりもまずトリオのドラムスとベースの音がリアルで驚く。ステック音、シンバル音が響き、ピアノとシンクロするベースの低音も曲を見事に支える。まさに現代的録音だ。そしてそれに引けをとらずのピアノが美旋律という世界でなく即興の為か不思議な展開のメロディーがクリアな音でリアルに迫ってくる。これぞ、寺島靖国の「For Jazz Audio Fans Only」に取り上げられそうな世界である。

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 そして、私は何といっても注目したのはM4."Arguably"だ。このアルバムでは最も長く7分を超えた演奏だが、かなり即興の因子が強い。ぐっと静粛性の中に響くピアノの響き。なんとなく内省的な世界に導かれる。余韻が妙に印象的でドラマーの演ずる太鼓と金属音が深遠だ。ベースもアルコで異様な世界を演ずる。
 そして一転してM.5"Atoms"は、驚きの攻撃的演奏。ドラムス、ベースの演ずるところにピアノも同調。
 続くM6."Mére"はぐっと落ち着いて再び内省的である。
 M7."Mengi"ベースが訴えてくるリズムカルな面白い曲。
   最後M8."Choral"は、ソロに近いピアノ演奏で結論的なまとめを聴かせる。

 女流ピアニスト・コンポーザーと言うことで、ムーディーなのかとちょっと気楽に接したら、なかなかスリリングな演奏が中盤に現れて驚いた。フリー・ジャズを研究しているというだけのものがある。そして一方現代クラシックの世界が響いてきてなかなか聴き応えある。一曲づつというのでなく、アルバムを一つとして聴くと楽しい。
  トリオのコンサート・パフォーマンスは、「叙情的で爆発的」であると同時に、「堂々と独創的で、美しく時代を超越している」、そして「現代のピアノ・トリオ・ジャズの表面的な決まり文句に完全にさらされている」と評されているらしい。確かに美しさと驚きの瞬間が混在していてリアルな音を響かせるところは現代的。

(評価)

□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    90/100

(試聴)

 

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