ユーロピアン・ジャズ

2025年5月 2日 (金)

イェスパー・サムセン 「Jasper Somesen Invites Anton Goudsmit Live!」

ギターとベースのデュオの描くジャズの新しい道が感じられる

<Jazz>

Jasper Somesen Invites Anton Goudsmit Live!
(CD)CHALLENGE RECORDS / Import / CR73592 / 2025

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Jasper Somsen - Double bass
Anton Goudsmit - Guitar

録音:2024年2月22日、Loburg(ヴァーヘニンゲン、オランダ)

 ここでも取上げたエンリコ・ピエラヌンツィとの共演で(Enrico Pieranunzi& Jasper Somsen 『Voyage in Time』Challenge Records /CR73533 / 2022)、私も意識しているようになったオランダの名ベーシスト、イェスパー・サムセン(下左)が、今回はアムステルダムを拠点に活動するギタリスト兼作曲家のアントン・グーズミット(下右)を招待して行ったライヴ・レコーディング・アルバムである。
   このサムセンの主導で作られたアルバム『Voyage in Time』は、クラシックのニュアンスを旨く生かし、ピエラヌンツィのピアノと共に素晴らしいアルバムを造り上げていたので気になっていたのだが、ここにギターとのデュオということで、これまたいかなる世界を構築するのかと興味津々というところである。

 これは2024年2月にヴァーヘニンゲンのライヴ・カフェ&バー「Loburg」で行われたライヴ録音で、美しい音色、スリリングな展開、軽妙な気まぐれと抑制された静けさなどと表現される評価があり、期待を倍増させられた。

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 イェスパー・サムセン(1973-)は、オランダのコントラバス奏者、作曲家、プロデューサー。ジャズとクラシックの両方のコントラバス奏者としての資格がある。ジャズミュージシャンとして彼の関心と専門分野には、クラシック、ポップ、ワールド、映画音楽、演劇作品へのクロスオーバーも含まれていて、国際的なジャズシーンで活躍するミュージシャンたちと共演してきている。そしてChallenge Recordsのアーティストであり、有名なスタジオプロデューサーでもある。又ポルトガルのジャズとファドのボーカリスト、マリア・メンデスと共にオランダのEDISON AWARD 2020(ジャズ/ワールドミュージック)を受賞し、又過去に4回、アメリカングラミー賞とラテングラミー賞の両方にノミネートされた。アルバム、ビデオ、映画音楽のスコアは50以上。 アーネム(オランダ)のArtEZ芸術大学で教育者を務め、故郷のワーヘニンゲン文化都市財団のゼネラル・ディレクターを務めている。

 一方、ギタリストのアントン・グーズミット(1967-)は、自らのオリジナル曲ばかりでなく提示された音楽演奏でも評価が高く、非常に人気のあるプレーヤーである。2001年、NPSラジオから委嘱された彼の作曲シリーズを演奏するために、プロクトーンズPloctonesを結成し、非常に創造的で革新的なグループとして浮上し、グルーヴと即興を組み合わせ演奏する。また、ニュー・クール・コレクティブやエリック・ヴロイマンスのフギムンディ・トリオ(2008年と2010年のアメリカ・ツアー)でも国際的に演奏している。オランダのジャズシーンでの貢献と地位が認められ、2010年に憧れのボーイ・エドガー賞を受賞した。

   

(Tracklist)

1.Blue Anton 17 (A. Goudsmit/T. Monk)
2.Strange Meeting (B. Frisell)
3.Ernesto (A. Goudsmit)
4.Let’s Stay Together (A. Green/ W. Mitchell/A. Jackson)
5.Nuages (D. Reinhardt)
6.Bye-Ya (T. Monk)
7.Desberato (A. Goudsmit)

 アルバム・タイトルからして、これはサムセンの企画でのグーズミット招請によるデュオと思われるが、グーズミットの曲が3曲演じられており、又印象はやはり全体にギターによるリードが目立っていて、それが又インパクトのある攻めの演奏を極めて安定感のある世界にありながらスリリングな印象を与えるという不思議なところにあって極めて印象深い。
 又ベースの音が極めてソフトに心地よいのだが、ギターが鋭さを示す抑揚が見事でクリーンな音で迫ってくる。それもじっくりとした間とメロディーの関係が見事で、深くむ引き込むのが旨い。

 スタートがM1."Blue Anton 17"がブルース・ギターで、その音・ムードでまずは好き者を引っ張り込む。中盤のベースの主導メロディーが優しく演ずるも、ギターが刺激を加えるところが面白い。
 M2."Strange Meeting"でのギターのうねりには驚き。
 M3."Ernesto"は感情の渦巻きを両者の回転性のかかわりによっての表現が面白い。
 M5."Nuages" ここにまで手を伸ばし、宇宙感覚に誘導しこのアルバムの頂点に。
 M6."Bye-Ya"では、かれらの余裕の場と化して遊び心も感じさせる。
 M7.".Desberato "繊細にして、間を生かしての味に痺れる。

 やっぱりベーシストと言うのは、ピアニストとかギタリストを泳がせるのが旨いですね。メロディーを流してリードしているつもりが、なんとなくベーシストの術中にはまっているような展開にも誘導されつつも、次第に本性を発揮させられてしまう。そんな印象でギターが、冒頭のブルース味で聴く者を引っ張り込んで、一般的ジャズ・ギターからロック寄りの音も出して楽しませてくれつつ、モダン・ギター・ジャスの一つの方向も感じさせ、又いつの間にか彼らの術中に聴く我々もはまってしまって、ジャズとベースのデュオの世界の面白さも感じ取れるのだ。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏  90/100
□ 録音       88/100

(試聴)

 

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2025年4月22日 (火)

マテウス・パウカ MATEUSZ PALKA TRIO 「MELODIES.THE MAGIC MOUNTAIN」

クラシック的世界が築く美的抒情性の世界

<Jazz>

MATEUSZ PALKA TRIO 「 MELODIES.THE MAGIC MOUNTAIN」
Polskie Radio / Import / PRCD2431 / 2024.4

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MATEUSZ PALKA (piano)
PIOTR POLUDNIAK (bass)
PATRYK DOBOSZ (drums)

Recording, Mixing and Mastering Engineer : Leszek Kaminski
Recorded at Polish Radio's S-3/S4-6 Studio, Warsaw, 2022.11.28,29

447961014_78195621547744w  ちょっと場つなぎになるが、昨年のアルバムを取り上げる。ポーランドのピアノ・トリオのジャス・アルバムだが、現地では一昨年登場しているようだ。このアルバムは雑誌「ジャズ批評」の"ジャズ・オーディオ・ディスク大賞2024"に銅賞に輝いている。昨年春にタイミングを逸して購入できなかった代物だったが、私が今回聴いているのは今流行のストリーミング「Qobuz」によってである。おそらくCDは又輸入品があるかどうかと言うところだと思う。最近はそんな傾向の続く状況が多い。まあストリーミングもそれなりの音質で聴けるので悪くはないのだが、なんとなくLPやCDを手にとって聴く習慣は未だに抜けない私でちょっと空しいのである。

 さて、このアルバムは1993年ポーランドのクラクフ出身の若きピアニスト、即興演奏家、作曲家、マテウシュ・パウカMATEUSZ PALKA(右上)が率いるピアノ・トリオ(ピョートル・ポウドニェク (bass,↓左)、パトリック・ドボシュ (drums,↓右))。パウカの音楽には印象派、後期ロマン派の精神が息づいていると言われており、ポーランド・ジャズのもっとも才能豊かなミュージシャンの一人として注目を集めているようだ。そしてポーランドの公共放送局『ポーランド放送(Polskie Radio/Polish Radio)』から音質にこだわったピアノトリオ作品として登場したもの。

 そしてこれはこのトリオのセカンド・アルバムとなる。注目点は、トリオ・メンバーが、詩、小説、絵画、自然、クラシック音楽、ジャズ音楽など、あらゆるものからインスピレーションを得ていることと、又音質的には最高を追求し、ポーランドの名手 Leszek Kaminskiが担当しているという点にもある。

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(Tracklist)

1.Czarodziejska Góra 3:39
2.Kora 4:46
3.a Paris 4:52
4.Introitus 4:24
5.Letter to Norah 3:33
6.Aria 3:52
7.Chiaroscuro 4:14
8.Solo 1:35
9.She Doesn’t Like Doing Homework 7:10
10.Leaving 5:44

 一口に言うと、如何にも音楽の国ポーランドというところで、非常にクラシックからの流れを感ずる演奏である

481230827_131263361647350tw  オープニングのM1."Czarodziejska Góra"の冒頭から、ピアノのみの演奏で硬質のクリーンなピアノの高音が響き、録音の良さを訴えてくる。そしておもむろにベース、ドラムスのサポートでメロディーが流れ、非常に美的で詩的な世界に導かれる。
 M2."Kora" 刺激のない語りにも近いピアノ、後半次第に盛り上がるも暴れることは無く非常に常識的範囲で流れる。
 M3."A Paris" ゆったりとしたピアノの美しいメロディー、ベース、ドラムスも刺激は示さずそのサポートに納まる。
 M4."Introitus" ちょっと異質な展開を見せる。初めてベースが主張しドラムスが助長しピアノが更に展開を高める。ちょっとコンテンポラリーさが出てきた。
 M5."Letter to Norah" 再び静かに状況を語り、続く M6."Aria" 初めてベース・ソロでスタート、これも静であり、ピアノに誘導して一層静かな心の安定を響かせる
 M7."Chiaroscuro" ここでもピアノが主体に絵画的美の世界が描かれる 。
 M8."Solo" 再びベースのソロで深い語り、M9."She Doesn’t Like Doing Homework" は、最も長い7分をを超える曲。ここも日常の情景の描きで流れる印象。後半に入ってドラムスの展開が初めて意味深く訴えてくる。
 M10."Leaving " ゆったりとそこに残ったものの美しさをピアノが訴えてくる。何かクラシックを聴き終わった気分にもなる。

 しかし聴いてみて大きな感動したと言う世界ではない。日常の美しい流れが描かれているのか、聴くに全く抵抗なく美しさと抒情性も溢れていて快感ではある。こうした世界は刺激がなくむしろ寂しいとも思われるが、聴いていてこれはこれで納得させられるところにある。深遠な苦しさの世界でもなく、哲学的に瞑想に入る訳でもなく、どこか詩的な世界と言っても美しさに誘導されているところが、若きミュージシャンとしては意外な感じもするが、今後の展開に期待は十分持てるメロディーの美しさの世界の好盤だと思う、推奨盤だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   90/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

 

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2025年4月12日 (土)

レシェック・モジュジェル leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」

冷徹ともいえるソリッドで透明のピアノ革新音が、神秘的な新音楽空間を造る
(歴史的新音楽)

<Contemporary Jazz>

leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」
ACT / Import / ACT90652 / 2025

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Leszek Możdżer – piano
Lars Danielsson – double bass, cello, viola da gamba
Zohar Fresco – drums, percussion

Img_7694w  ジャズ界において、その芸術性を語るのは私のような単なる音楽リスナーにとってはなかなか難しいことだ。長くクラシック、ポピュラー、ロック、ジャズなどなど多くを聴いてきての愛好者ということであって、その芸術性なり音楽学問的な世界にはいないということだ。ただ従来の世界から一歩コンテンポラリーな世界に足を踏み込んでいるという感覚で聴けるミュージックもある。そんな感覚で捉えられるのがこのポーランドの私の注目のピアニストのレシエック・モジュジェルLeszek Możdżer(⇢)である。そして又してもここにダニエルソンLars Danielsson(スウェーデン ↓左)のコントラバスとヴィオラ・ダ・ガンバの共鳴と、フレスコZohar Fresco (イスラエル ↓右)の複雑なリズムのドラムスとパーカッションの深みとのトリオ作品が登場した。

 このアルバム『Beamo』は、このトリオでの前作『Passacaglia』(2024年)に続いての発展させたもののようだが、もう十数年前に感動してここで取り上げた作品『THE TIME』(2004)以来20年の経過での記念的作品で、私にとってはそれ以来離れられないトリオであり感動的であるのだ。又モジュジェルの挑戦はこのトリオばかりでなくAdam Baldychとの『Passacaglia』(ACT9057,2024)などの芸術性の評価が高いモノが多い。

 そして今回の注目点は私にはその挑戦が音楽的に評価ができないのだが、モジュジェルが3つの異なる調律のピアノ(A = 440 Hz、A = 432 Hz、デカフォニックスケール)を同時に使用したことで、「伝統的な調性を興味深く不安定でありながらも深く美しいものへと作り変えている」との専門的評価を得ている事である。

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(Tracklist)

1.AMBIO BLUETTE – LESZEK MOŻDŻER
2.CATTUSELLA – LARS DANIELSSON
3.BEAMO – LESZEK MOŻDŻER
4.KURTU – LESZEK MOŻDŻER
5.LINKABILITY – LESZEK MOŻDŻER & LARS DANIELSSON
6.BRIM ON – LESZEK MOŻDŻER
7.GILADO – LESZEK MOŻDŻER
8.APPROPINQUATE – LESZEK MOŻDŻER
9.DECAPHONESCA – LARS DANIELSSON & LESZEK MOŻDŻER
10.FURD’OR – LESZEK MOŻDŻER
11.JACOB’S LADDER – ZOHAR FRESCO
12.ELIAT – LARS DANIELSSON
13.ENJOY THE SILENCE – MARTIN GORE

 むしろ冷徹なソリッドと言える上に透明で素晴らしいピアノの音を響かせるモジュジェルのピアノ・ジャズ世界が挑戦した「彼らの特徴的なヨーロッパ的なリリシズムに根ざした『Beamo』」は、"クラシカルなエレガンスと実験的な革新を融合させ、ミステリアスでありながら親しみやすいサウンドスケープを作り出している。これぞ、コンテンポラリージャズの変革的な旅だ"と表現しているのを見るが、まさにそんなアルバムで、コンテンポラリーな世界でありながら不思議に聴きやすいところが特徴だ。
 ある説明では、「ピアニストを囲むように配置された3台のグランドピアノはそれぞれA=440Hz、A=432Hz、そしてもう一つはオクターヴを10の等間隔に分割する特殊な調律(デカフォニック)のもの、自在にそれらの鍵盤を行き来することで驚くほど色彩豊かな音の世界を表現している。調律(基準周波数)の微妙に異なるピアノでユニゾンすることで意図的にデチューンの効果を得たり、1音を異なるピアノで交互に弾くことでその周波数の微妙な差異によって不思議な浮遊感を生み出したりと、ひとつの曲の中でいくつもの調性が同時並行で共存しているような、これまでに聴いたこともない音で聴覚を大いに刺激される。ということなのである。そのあたりの音楽的なポイント(平均律の音楽性の特徴など)や芸術的な複雑性は解らずに、私には単に音楽としての音とその兼ね合いとメロディーを聴くだけでの世界だが、相変わらず彼のピアノの調べには引き付けられてしまうのである。

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 M1."AMBIO BLUETTE" まさに深淵なリズム、夢想的で実験的世界がベースの柔らかさとピアノのソリッドの副雑音の調整が聴きどろ 。
 M2. "CATTUSELLA"ダニエルソンの美しい曲を二重の調律の異なるピアノでむしろ爽快に。
 M3."BEAMO" アルバム・タイトル曲でどこかミステリアス。M4."KURTU"はドラムが流れをつくり、透明感と複数のピアノのユニゾンによる浮遊感。中盤のピアノのインプロビゼーションの緊張感。M9."DECAPHONESCA"では、ダニエルソンはヴィオラ・ダ・ガンバ1を弾いていて、モジュジェルの世界的話題のデカフォニック・ピアノ(彼の開発した10音音階のもの)と同様に十平均律にチューニング、奇妙に響く奏法(アルペジオ)でピアノと競演するという芸を披露。
 こんな調子で、異空間のミステリアスな響きでクラシカルな世界と未知の近未来的世界が融合した感覚になるところも面白く、驚きの世界に没入してしまう。
 ラストはM13."ENJOY THE SILENCE"は英国ロックバンドの曲を取り上げて、むしろぐっと落ち着いた世界に導き、未知なるスリリングな挑戦から静かな展望への美しいピアノの音で締めくくり納めるという憎いアルバム構成。

 いまやジャズ世界も複雑な世界に広がっているが、欧州系で発展しつつあるコンテンポラリーな世界も、基本的にはクラシックの世界から発展している基礎の上で造られていて、音楽的な評価が高まっているのも聴きどころであり、古来のアメリカン・ジャズとは全く異なった様相になりつつあるところも見逃せないところだ。
 又このアルバムの従来の音楽に対しての革命性も今後話題として語りつかれるところは必至であろう、貴重である。

 

(評価)
□ 曲・演奏 : 95/ 100
□ 録音   : 90/ 100

(試聴)

 

(参考)Leszek Możdżer 略歴 (ネットより)
 ピアニストのレシェック・モジジェルは1971年ポーランドのグダニスク生まれ。幼少期から音楽に親しみ、5歳でピアノを始め、クラシック音楽の基礎を築いた。グダニスク音楽アカデミーでクラシックピアノを専攻し、1996年に卒業するが、在学中からジャズに強い関心を抱き、独自のスタイルを模索し始める。  1991年にポーランドを代表するサックス奏者ズビグニエフ・ナミスオフスキ(Zbigniew Namysłowski)のバンドに参加し、プロのジャズピアニストとしてのキャリアをスタートさせる。この時期に彼は伝統的なジャズとポーランドの民族音楽、クラシックの要素を融合させた独自の音楽性を確立し、1994年には初のソロアルバム『Impressions On Chopin』をリリース。ショパンの作品をジャズ風に解釈したこの作品は、彼の革新的なアプローチを示すものであり、批評家から高く評価された。
 2004年からラーシュ・ダニエルソンとゾハール・フレスコとのトリオ活動を開始し、『The Time』(2005年)や『Pasodoble』(2007年)、『Polska』(2013年)といった名盤をリリース。このトリオは20年以上にわたり彼の主要な表現の場となり、2025年の『Beamo』でさらなる進化を見せた。
 映画音楽の作曲などの巨匠クシシュトフ・コメダ賞(1992年)やポーランド外務大臣賞(2007年)などを多数受賞。名実ともにポーランドを代表するジャズ・ピアニストとなっている。

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2025年3月 8日 (土)

エル ELLE 「ESTATE」

ガラーティ・トリオと女性ヴォーカル(エル)の第3弾

<Jazz>

ELLE 「ESTATE」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1131 / 2025

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Elle (vocal)
Alessandro Galati (piano)
Ares Tavolazzi (bass)
Bernardo Guerra (drums)

Recorded at Larione 10 studio, Florence, on March,2024

 

Eytoggwoaiaszw   寺島靖国氏のお勧めイタリアの女性ヴォーカリストのELLE(→)のアルバム日本第3弾。私としてはバックがAlessandro Galati Trioで、タイトル曲が"Estate"とくれば買わざるを得なかったアルバム。そしてしばらく別のアルバムに現を抜かしていたので、ちょっと遅れて取り上げた。
 何故か、イタリアの夏の恨み節であるBruno Martinoの"Estate"は、私がジャズ・ヴォーカルものとしては片手の指に入る好きな曲で、既に女性ヴォーカルものとしては20曲ぐらいは押さえているものだ。最近はヴァレリー・グラシェールの歌に圧倒されたが、このアルバムの歌うはエルはイタリアではキャリアはそれなりにあるのだが、どうなんだろうか、そんなに日本では話に登らない歌手だが、Galatiが目を付けたというのでそれなりにと思って聴いている歌手である。既に3作目なので感じは解っているが、まあそれなりにと思いつつ、ちょっと興味を持って聴いたという処だ。

 エルElleは(本名ルクレツィア・フォン・ベルガーLucrezia von Berger)は、1997年からローマでマエストロ・イザベラ・ブロジーニ(合唱指揮者)にオペラ歌唱を学び、その後ローマのポリフォニック合唱団「カントーレス」でリード・シンガー(ソプラノ)として活動。 その後ジャズへの転機は2000年からで、フィレンツェのジャズ・トリオ「レディ・シングス・ザ・ブルース」のリード・シンガーとして約15年間。 他のジャズ・ミュージシャンとの共演も多い。 歌手のほかギターの演奏にも力を注いで、2003年にはボサノヴァの歌と歌詞を作曲。2003年、フィレンツェのプロデューサー、マルコ・ラミオーニと出会い、ラウンジ・ミュージックやボサノヴァのプロジェクトに参加。 その後ヘクトール・ザズーに出会い、2004年に彼のCD『L'absence』に収録された「Eye Spy」に起用された。 2005年には、ラミオーニとのラウンジ・トリオ「アクアラマ」プロジェクトでコラボレートし、様々なコンピレーションから楽曲をリリースしている。既にジャズ経歴も二十数年のキャリア。

(Tracklist)
1. Estate
2. Misty
3. The Moon Was Yellow
4. I'm Through with Love
5. My One and Only Love
6. Fly Me to the Moon
7. Round Midnight
8. Stars Fell on Alabama
9. The Thrill Is Gone
10. We Will Meet Again

 私の注目のアレッサンドロ・ガラーティに見出されて日本レコーディング・デビューを果たしてからもう5年余り経ち、イタリアの実力派歌姫のエルの、A・ガラーティ・トリオの全面バックアップを得ての三作目。録音関係ではミックス、マスターもガラーティの手によるものでなかなか音質も良好。寺島靖国の世界に属するアルバムでオーディオ的にも良い線を行っている。
 さて、女性ヴォーカルものなので、気になるのは彼女の声と歌い方だが、ダイアナ・クラール、メロディ・ガルドー、クレア・マーチンなどがOKの私にとって、なんかちょっともろ手を挙げて大歓迎という処には行かないところがある。「低音の落ち着いた安定感と高音のしなやかな張りや爽涼さの兼ね合いも絶妙のクリーン・ヴォイス」とか、「リキみの抜けた自然体調子を保ちつつ誠心こめて丁寧に情感を活写する柔和でムーディーな歌い回しが、堂々たる練達を感じさせる冴えを、キレを見せて爽快だ」更に「絹が触れ合うような繊細かつ豊かな歌声で人々を魅了する」などなど・・・好評なのだが、なにか私的にジャズ・ヴォーカルとしてどっぷりつかるには抵抗があるのだが、どう表現してよいか難しくそんな表現にしておくが、そんなところを参考にしてほしい。

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 注目のM1." Estate"だが、これぞジャズ・ヴォーカル曲といってもイタリア産であるので、彼女も過去に歌い込んできているのではと思うところで、バックと言うか導入は優しいピアノの響きにベースが乗り、ステックの音がクリアに聴きとれ、次第にガラーティの繊細なピアノが見事なアドリブの世界で支え、おもむろに彼女の美声の世界が始まる。なんとなくねちこいイタリア語の歌はこの曲の本質なのかもしれないが、中低音が響きのいい声だ。若干高音部の質がジャズとしての味がちょっと抵抗がある。
 まあしかし無難に歌い上げているのは事実で、経験豊かな世界を感ずる。M4."Misty"も注目したが編曲はなかなかガラーティらしいスロー・ペ-スの中に微妙な味付けがされたもので、静かなピアノとベースの即興的なアドリブの世界がいいが、どうも彼女の高音歌唱が異質に聴こえてくる。この辺りはいい悪いでなく、やはり好みであろうと思う処。
  M9."The Thrill Is Gone"あたりが良かったような気がする。

 しかし全体には良く出来たアルバムと評価したい。バックのピアノ・トリオもアメリカン・リリカル路線のニュアンスも忘れずにしっかり描いていて洒落ている。そんなところで聴き応えある。

(評価)
□ 歌・演奏   87/100  (演奏88, 歌86)
□ 録音・音質  88/100

(試聴)

 

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2025年3月 3日 (月)

ルドヴィコ・フルチ Ludovico Fulci 「TI RACCONTO DI ME」

繊細で端正、折り目正しくスマートな清潔感がたっぷの叙情性

<Jazz>

Ludovico Fulci 「TI RACCONTO DI ME」
ALFA MUSIC / IMPORT / AFMCD315 / 2025

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Ludovico Fulci (piano)
Dario Rosciglione (bass except 12, 14)
Amedeo Ariano (drums except 12, 14)

 イタリアのペテラン・ピアニストのルドヴィコ・フルチ(下左)、今回はやはりイタリア仲間のダリオ・ロシリオーネ(Bass、下中央)、アメデーオ・アリアーノ(Drums、下右)をフィーチャーしたピアノ・トリオ作品である。
 フルチLudovico Fulciは、1959年イタリアのメッシーナMessina生まれで、ローマを拠点としてジャズ・ピアノと作曲の修練を積み、1980年代頃から映画やTV番組の音楽の作曲を数多く手がけるようになって、巨匠エンニオ・モリコーネとのコラボレーションでも幾多の映画製作に携わってきた、主にサントラ音楽の分野で国際的に名を馳せるイタリアのヴェテラン作曲家兼ピアニスト。しかし、私の記憶では過去のアルバムは思いつかないのだが、本盤はピアノ・トリオによる純ジャズ・アルバムということで聴くことになった。全曲彼よるところの作・編曲である。

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(Tracklist)

01. Der Erste Tag Des Jahres
02. Un Amore Nascosto
03. One For Tobias
04. I Baci Sulla Pelle
05. Ti Racconto Di Me
06. Una Giornata Particolare
07. Il Pensiero Di Te
08. Deep Into Your Soul
09. Einfach So
10. Grit
11. Le Nostre Parole
12. Un'altra Possibilità (solo piano)
13. Il Terzo Incomodo
14. Die Hoffnung (solo piano)

 長年映画音楽の分野で働いてきたフルチならではの聴きやすく美しいメロディーが溢れてくる抒情的な作品集だ。ベテランらしく、若者の挑戦的なアプローチでなく、繊細で端正、クール・スウィートで折り目正しくき清潔感がたっぷのでスマートさが感じられる。一音一音が鮮明な輪郭でクリアーに浮かび上がってくる歯切れのいいクリスタル風タッチのピアノ、アメリカ・ジャズとは全く異なったヨーロピアンならではのエレガンス溢れる抒情派プレイ。まさに耽美指向の演奏で満ちている。 

M1. "Der Erste Tag Des Jahres" 端正な音が響いて襟を正して聴く
M2. "Un Amore Nascosto" 優しさと美しさのピアノのメロディー、まさに秘められた愛の姿。
M4. "I Baci Sulla Pelle" (肌にキス) ピアノが語る静かな物語
M5. "Ti Racconto Di Me" (私のこと教えてあげる)明活な展開、イキイキ溌溂
M6. "Una Giornata Particolare"(特別な日)真摯な気持ちで
M7. "Il Pensiero Di Te"(あなたへの想い)、M8. "Deep Into Your Soul"(魂の奥深くまで)ピアノの語りとベースの響き、そしてピアノとベースのハーモニーががいかにも深い心を表して・・・
M10. "Grit"ピアノが美しく描き、ベースが力づける勇気
M12. "Un'altra Possibilità"M14."Die Hoffnung"は、クラック調のピアノソロ演奏でぐっと真摯に纏める

 久しく聴かなかった端正にしてロマンティックでしかも詩的な世界である。この世界に時に浸るのは良いことだ。そして一方ちゃんとスウィングして見せるし、ベースやドラムスがジャズへのグルーヴ感を盛り上げてくれる。オリジナル曲でここまで爽やかで優しさ溢れた曲調は、さすが年季が入っての至る世界かとやたら感動していますのである。
 こんな美しい世界に一時でも浸って、日常を過ごすことも大切なのかもしれない。なかなか爽快感につつまれる優良作品だ。いやはやイタリアのもつ音楽の幅の広さは恐ろしい。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 

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2025年2月12日 (水)

ヴァレリー・グラシェール Valerie GRASCHAIRE - Pierre BROUANT「Third Stream」

ピアノとのデュオで圧巻の本格的ヴォーカル
曲"Estate"と" I'm a fool to want you "でアルバムの頂点に

<Jazz>

Valerie Graschaire & Pirre Brouant「Third Stream」
TREBIMMUSIC / Import / TREBMUS067 / 2025

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Valérie Graschaire (voice)
Pierre Brouant (piano)
*Guests :
Stéphane Belmondo (trumpet #4,9)
Manu Codja (guitar #6)

Recorded by Mathieu Pelletier
at the DOWNTOWN STUDIOS studio
IN STRASBOURG ON SEPTEMBER 4 AND 5, 2023

Mastering Engineer: Stefano Amerio
Mixing Engineer: Stefano Amerio

Valeriegraschaireunew   プロ歴25年以上になるフランスの実力派歌手ヴァレリー・グラシェールValerie Graschaire のヴォーカルがじっくりと聴けるピアノ(ピエール・ブローアンPierre Brouant)とのデュオ作品。なんと私にとっては彼女は初物だが、フランス国内で高く評価されていると。このアルバムでは、スタンダードナンバーを中心に、なかなか本格的な音楽的アプローチと歌唱を披露していて注目されている。

 このデュオのヴァレリー ・クラシェールとピエール・ブローアンは約10年前に出会い、 それ以来、一緒にプレーしている。この長いコラボレーションは、二人の間にまれな激しさの音楽的相互関係を生み出したと。彼らのレパートリーでデュエットとして働くことを決めたとき セロニアス・モンクの曲を、彼らは最初にシングルに演奏するつもりだった。それにもかかわらず、これに対する観客からの反応 パフォーマンスとそれを行うことで得た喜びの両方が、音楽配信会社やプロデューサーの注目となった。彼女はすぐにこのプロジェクトからアルバムを作ることの関連性を彼らに納得させたようだ。

 ヴァレリー・クラシェールは、デュオからビッグバンドまで多彩なプロジェクトで活躍し、フランスのトップジャズミュージシャンと共に5枚のアルバムをリリースしているようだ。また、近年2020年にはアルバム『Wrap It Up』を発表し、2024年4月にはアメリカ・シンシナティで開催された「April in Paris」というイベントで、フィル・デグレグ・トリオPhil DeGreg Trioと共演している。更に教育者としても、2000年からナンシーのミュージック・アカデミー・インターナショナル(Music Academy International) でジャズボーカルの指導を行い、後進の育成にも力を注いでいる。

Pierrebrouant2w  一方、共演者のピアニストのピエール・ブローアンは、1984年生まれ(フランスのナンシー)の新鋭で脂がのってきたところ、幼い頃からピアノへの情熱を育み、1990年代ナンシー国立音楽院でクラシックピアノで名を馳せ、2003年にパリ音楽院に入学し、デュプロム・ド・フォーメーション・シュペリウールのコンクール・オブ・ザ・イヤーで金メダルを獲得。当初はクラシックのソリストとして活躍、ヨーロッパとアメリカでお気に入りのレパートリー(特にドビュッシー、ラヴェル、ショパン、ラフマニノフ)でコンサートを行った。その後、彼の直感と即興演奏の能力に従って、彼は自然にジャズに傾倒し、一方ギターで視野を広げた。2020年代に入ると、作曲家となりながら、アレンジなど活動する。現在はピアノとギターでソロ活動とデュオからビッグバンドまで幅広く活動中。

 両者の長いコラボ関係の結果生まれたアルバムとして聴くと、これ又うなずくところがある、なかなか芸術性豊かな希有なアルバムとして捉えている。

 

(Tracklist)

1 In the small hours of the morning 00:05:52
2 Moon river 00:04:33
3 But beautiful 00:06:22
4 I just don't know what to do with myself (feat. Stéphane Belmondo) 00:06:46
5 When it rains 00:05:22
6 Strange meeting (feat. Manu Codja) 00:06:52
7 Over the rainbow 00:03:57
8 My foolish heart 00:04:47
9 Something in the rain (feat. Stéphane Belmondo) 00:04:49
10 Estate 00:05:52
11 I'm a fool to want you 00:03:44
12 Resignation 00:04:54

  女性ヴォーカルとピアノのデュオのスタイルで、彼女の高音から低音まで広く歌い込む歌唱がジックリと聴ける。そして曲によってトランペットとギターが入る(3曲のみ)というパターン。

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 M1. "In the small hours of the morning" は、しっとりとした説得力あるヴォーカルでスタート、ピアノもバックをカヴァーというより、共演という自己の世界を描きこんでなかなか味な展開をみせて、後半には美しい情景を彼女のスキャツトを交えて描かれる。
 M2."Moon river " 聴き慣れた曲で、彼女の曲の味を大切に歌い込む特徴が明確になる。後半には編曲メロディーも披露して単純に聴き慣れたスタイルでは終わらない。
 M4." I just don't know what to do with myself "バート・バカラックの曲のようだが、クラシック調のピアノに低音での歌唱でしっとり歌い、それをカヴァーするようにトランペットが優しくサポート。中盤から次第に盛り上がり彼女の高音によるスローでの歌い込みが展開し圧巻。
 M6.”Strange meeting”にはジャズ・ギターが登場、落ち着いた彼女の歌が聴かせるがギターとピアノとの共演もなかなか聴きどころ
 M7."7 Over the rainbow "も前奏が短いが凝っている。歌はメロディーを生かして歌い上げるも、ピアノの間奏は全くの新アレンジでつなげる展開で新鮮。簡単には終わらないクラシック様世界。
 M8."My foolish heart" 途中から、おおこの曲だと解る展開、それほどピアノの編曲が別のオリジナル曲に聴こえる。やはり歌い込みは恐しいほどだ。
 M9."Something in the rain" ソフトなトランペットとピアノの共演が美しく、ヴォーカルは情景を歌い上げる。
   M10."Estate" この曲が私の注目曲、イタリアの夏の恨み節だ。まず語りから入る、そしておもむろに旋律メロディーを歌い込む。華やかで盛り上がる夏の出来事への"反省と後悔と悔しさ"と入り乱れた感情がお見事、ここまで歌い込むのは類を見ない。
 M11." I'm a fool to want you "は、シナトラやチェット・ベイカーの歌って愛されている曲だが、なんとここでは、M10を更に深入りするが如く歌われるのだ。ここに来てこのアルバムの頂点を迎える。
  そしてM12." Resignation "ブラッド・メルドーの曲でしたっけ。あきらめなのか、"私はあなたの考える全てではない"と。そしてスキャットが見事に響く。

 結論的には、即興と編曲が優れていて、「語り、スキャットを交えたヴォーカル」と「即興のメロディーをぶつけるピアノ」との戦いとサポートと共鳴が、新天地を開拓している。ジャズ・ヴォーカルという範疇に納まらない歌い込みとピアノのクラシック調の展開が印象的。彼女の声の質や熱唱は必ずしも私の好みと一致するわけではないが、2人の共演による描かれる詩的世界の充実度は高く、じっくりと味わえる高度な音楽を造り上げているまさに芸術作品と評価した。

(評価)
□ 演奏・編曲・歌 :    93/100
□   録音      :    90/100
(試聴)

*

 

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2025年1月12日 (日)

ヤコブ・カールソン Jacob Karlzon 「Winter Stories」

北欧の厳しく長い冬に生きる人間をクリスタル音で描くピアノ・ソロ作品

<Jazz, Classic>

Jacob Karlzon 「Winter Stories」
Warner / Import / 1008937701 / 2024

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Jacob Karlzon : piano

Jacob_karlzon_2014w  かってここで2011年のコンテンポラリー抒情派モード・ジャズとしてアルバム『THE BIG PICTURE』(STUM23011)を取り上げたスウェーデン出身のジャズ・ピアニスト/作曲家、ヤコブ・カールソン(1970年 - )(→)の2024年新作である。あのアルバムでは、カールソンはアコースティック・ピアノを中心に、エレクトリック・ピアノ、オルガン、プログラミングなどを使用したトリオ作品であった。それは彼はもともとジャズだけでなく、クラシックやスカンジナビアの伝統ミュージックやファンク、ドゥーム・メタルなど、さまざまな音楽スタイルを融合させ、彼自身の独創的なスタイルを生み出しているContemporary Jazzと言ってよいのだが、しかし今回は、ちょっと違って、彼が北欧の長く暗い冬から生まれた静かで内省的、叙情的な世界をクラシック調に描いたウインター・アルバム『WINTER STORIES』を完成。ソロ・ピアノ作品である。

 彼は1992年のデビュー以来、地元スウェーデンのジャンゴドール賞をはじめ、数々の国際的な賞賛を受けてきている。話題の文豪トルストイの玄孫である歌手ヴィクトリア・トルストイとのコラボ・アルバム『Moment of Now』(ACT/2013)や2022年のピアノ・トリオ・アルバム『Wanderlust』などジャンルの広い作品をリリースしてきた。そして今回は又新たなる世界観を感ずるJazzとClassicの統合されたアルバムの登場だ。

(Tracklist)

01.Evermore (Taylor Swift)
02.Winterballad (Jacob Karlzon)
03.The First Noel (Traditional)
04.God Rest Ye Merry Gentlemen (Traditional)
05.Gläns över sjö och strand (Shine Over Lakes and Shores) (Alice Tegnér)
06.A Child Is Born (Thad Jones)
07.Så mörk är natten i midvintertid (The Night Is Dark)( Carl Bertil Agnestig)
08.O Come, O Come, Emmanuel (Traditional)
09.Suantrai (Traditional)
10.När det lider mot jul (When Christmas Is Coming) ( Ruben Liljefors)
11.Bel Veter Due (Traditional)
12.Taladh Chriosta (Christ's Lullaby) (Traditional)
13.Silent Night (Franz Xaver Gruber)

 上のリストのように、このアルバムはM13."Silent Night "やブルガリアの M11."Bel Veter Due "、そして聴き慣れたM03."The First Noel"など、冬やクリスマス・シーズンを頭に描く曲やトラディショナルの曲が登場するが、「このアルバムでは、よくあるクリスマス・アルバムではなく、より冬という季節を全面に出した感じでバランスを取りたかったんだ」と彼は本作について語っているようだ。つまり 所謂クリスマス・アルバムという感覚でなく、カールソンの冬の厳しさの世界を、単に暗いものとして描くのでなく、そこに人間的なプラス思考の生き様を描いているオリジナルM02."Winterballad"を登場させ、さらにちょっと意外や意外のテイラー・スウィフトのちょっと哀しいバラード のカヴァーなど、冬を描いたり冬を想わせる曲によって「北欧の厳しさの中の人間的な冬」を描きたかったということなんだろうと想像する。

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 そしてなんと言っても彼の特徴である独創的なスタイルでのContemporaryな曲仕上げでなく、極めて素直な自然主義的世界をむしろクラシックの演奏で構築していることだ。本作でカールソンは自身の世界観を持つ中でスタンウェイDグランド・ピアノを駆使してスカンジナビアの冬の厳しい寒さを見事に表現し、そのクラシック調の演奏で真摯な姿でアプローチをして、厳しき中でたくましく暮らす人間の寂しさや夢、瞑想、喜びなどに満ちたこの人間の感情の流れの冬を自然界の季節感を持って描いている。
 M7.は、スウェーデンの作曲家カール・ベルティル・アグネスティグの"The Night Is Dark (Så mörk är natten i midvintertid)"。カールソン曰く、この曲はクリスマスと長い冬の季節の始まりを記念する聖ルチア祭に演奏される伝統的なスタンダード曲であるという。これによって冬という季節を全面に出した感じでバランスを取ったと言う彼の目論見は成功している。つまり私の推しとして冒頭のテイラー・スウィフトのM01."Evermore"が良いですね、これからスタートして、最後はM13."Silent Night"(きよしこの夜)でまとめ上げるところがにくいというところ。

(評価)
□ 選曲・演奏    90/100
□ 録音       88/100

(試聴)

 

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2025年1月 8日 (水)

ミンモ・カンパナーレ Mimmo Campanale Trio 「#Collaborations One」

優雅、叙情性をもって回顧と感謝の心を演ずる

<Jazz>

Mimmo Campanale Trio 「#Collaborations One」
ABEAT FOR JAZZ / Import / ABJZ277 / 2024

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Mimmo Campanale - drums
Domenico Cartago - pano
Camillo Pace - double bass

Recorded, mixed and mastered at Mast Studio, Bari Italy, on January 4, 2024 by Massimo Stano

306007130_6225787w   イタリア、プーリャ州出身の偉大なドラマーと言われるミンモ・カンパナーレ(1963-)が、やはりイタリアの新鋭ドメニコ ・カルタゴのピアノと実力派カミロ・ペースのベースとで組んでのユーロ・ピアノ・トリオ作品。
 そして演ずる曲群は、ニコ・ストゥファーノからヴィト・ディ・モドゥーニョ、マウリツィオ・クインタヴァッレそしてグイド・ディ・レオーネ、故ダヴィデ・サントルソラまで、カンパナーレ自身が過去にトリオなどを組んで共演したイタリアのミュージシャン達の作品から集められたものだという。従ってそこには、それぞれの曲に何らかの思入れがあっての事で、このアルバム全体が彼の回顧と同時に感謝の気持ちも込められての演奏になっているようだ。そしてその結果、優雅さ、叙情性の溢れた作品が生まれることになった。

 ミンモ・カンパナーレMimmo Campanale(1963- ↗)は、プーリャに生まれ、独学でジャズとポップミュージックの分野で数多くの経験を積み、1984年以降、好みの分野はジャズに落ち着いた。そして1985年シャゼリー・グループ結成(アルバム2枚)、1986年マリオ・ロッシーニ・トリオ、1987年マウリツィオ・クインタヴァッレと共にトリオ(アルバム5枚)。更に2000年コン・アルマ・トリオ(アルバム2枚)。その後ソウル/ファンクグループ「ディロッタ・ス・キューバ」、LmGカルテットなどを経て、更に2枚のアルバム作成。又多くのミュージシャンと共演し、一方ポップミュージック交響楽団とも共演。彼は「DrumStory」を作成、100年にわたるドラムを1つの長いソロに収めるという業績もある。
Cartagohomew  ドメニコ・カルタゴDomenico Cartago (1981- →)は、トラーニ出身の新鋭ピアニスト、作曲家、編曲家 。
独学の一歩から、12歳で巨匠ダヴィデ・サントルソラの下でジャズピアノを学ぶ。2010年にバーリ音楽院を「ジャズ音楽」で優等で卒業し、2013年には巨匠アントニオ・ザンブリーニにピアノを学び、「ジャズピアノのスペシャリストディグリー」を取得。一方、音楽院での研究と同時に、彼は Ba.Si を含む数多くのセミナーに参加、国際的ピアニストと共に学んだ。その後多くの国際的アーティストと共演し、2015年初リーダー・トリオ・アルバム『Skylark』をリリース。その後『Chromos』(2017)、『No Gravity』(2019)をリリースしている。

Images2w_20250107170401  カミッロ・パーチェCamillo Pace(1978年- →)は、ターラント生まれのコントラバス奏者、作曲家、ソングライター。モノポリの「ニーノ・ロータ」音楽院で学び、バーリの「ニッコロ・ピッチーニ」音楽院では歴史音楽学を専攻し、ジャズ音楽の分野の大学院卒業レベルを終了。バロックからクラシック、そして民族音楽の研究に努め、アフリカ諸国、ケニア、南アフリカなどの研究を行い、「アフリカの伝統音楽」論文の貴重な成果を残している。そして様々な古典的なオーケストラとも共演。
 2007年には最初のアルバム『Introspezione d'un viaggio』を発売。そして彼の音楽キャリアは、ジャズからポップス、フォークの音楽まで、さまざまな形で活躍いる。なんとカンタウトーレとしても『Autoritratto』(2013)、『Credo nei racconti』(2017)とアルバムを発表している。

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1. Gilda (Vito Di Modugno)
2. Aria (Domenico Cartago)
3. Seven steps to your soul (Maurizio Quintavalle)
4. Saudade a Salice (Guido Di Leone)
5. 1980 (Domenico Campanale)
6. Parenthesis #2 (Davide Santorsola)
7. Forever (Nico Stufano)
8. Acustronica (Domenico Campanale)
9. Notte stellata (Camillo Pace)
10. … to be continued! (Domenico Campanale)

 とにかく、優しく、美しく、抒情性豊かな聴きやすい曲群が登場する。ドラマーのリーダー・アルバムでしあるが、彼のドラムスが中心と言う曲造りでなく、あくまでもピアノ・トリオのパターンで演奏している。それぞれの曲は長い傾向があって(6曲が5分以上)じっくり演奏型。

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  M1."Gilda"美しいピアノのメロディーでスタート、中。後半のトリオのジャジーなアンサンブルの盛り上がりが聴きどころ
  M2."Aria "これもゆったりと美しいピアノ、ベースが落ち着いた世界を描く
  M3." Seven steps to your soul "ベースのリードで弾むように軽快
  M4."Saudade a Salice "パリ出身ジャズの王道ギタリストのGuido Di Leone(1964-)の曲、優しく、しっとりと美しいピアノのメロディー、リズムカルなステシック音とベースの描く物語、このアルバムを表すような優美でフレンドリーな演奏
  M5."1980 "どこか不思議な世界に誘導されるピアノのメロデーとシンバルの響き、それを支えるベース。ぐっと深遠。
  M6."Parenthesis"ドラムスの繊細な音と初めてドラムス・ソロが登場して印象深く、不思議なユーロ・ジャズ。
  M7."Forever"トリオで描く静かな世界。M8." Acustronica "まさに音響光学。
  M9."Notte stellata"感謝の心が響く。これがこのアルバムの締めの曲なんだろうが、驚きは一転してのM10."… to be continued!" これは次のアルバム「#Collaborations Two」に続くアナウンスか?。

 なかなかイタリアらしい歌心と言うかメロディーを聴かせる曲が多く、全体に優美で気持ちよく聴ける世界だ。まさに真摯な姿が描かれていて彼の「感謝の気持ちを表したかった」という言葉どおりの気持ちの良いアルバム。そして聴き応え十分な評価が出来る作品集。

(評価)
□ 選曲・演奏 :   90/100
□   録音    :   88/100
(試聴)

 

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2025年1月 3日 (金)

<謹賀新年2025> ラース・ダニエルソン Lars Danielsson, V.Pohjola , J.Parricelli 「TRIO」

Dsc06506tr1fw    明けましておめでとうございます
    今年もよろしくお願いします

       
       新年早々ですので、昨年末リリースの新年向きのベスト
  と思われるアルバムを取り上げます

       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

フランス有数のワイナリーで録音された牧歌的世界

<Jazz>

Lars Danielsson, Verneri Pohjola , John Parricelli 「TRIO」
ACT MUSIC / Import / ACT8000  /2024

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Lars Danielsson (b)
Verneri Pohjola (tp)
John Parricelli (g)

Recorded at Château Palmer in Margaux-Cantenac, France, 30.05.2024 - 02.06.2024
Recorded by Arnoud Houpert Mixed by Bo Savik Mastered by Klaus Scheuermann and Bo Savik

 国際的に評価を勝ち取っているスウェーデンのベーシスト、チェロ奏者そして作曲家のラーシュ・ダニエルソン(1958-, 下左)と、フィンランドのトランペット奏者ヴェルネリ・ポホヨラ(1977-, 下中央)の北欧巨匠二人に加えてイギリスのギタリスト、ジョン・パリチェッリ(1957-,下右)によるピアノ、ドラムス無しの変則トリオ作。しかもACT とワイン醸造所のシャトー パルメ (ボルドー左岸にある) とのコラボレーションの第2弾で、今回は、シャトー パルメ自体が、レコーディング会場となっている。

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 音楽はシャトー(ワイン生産の館)の独特の雰囲気をとらえ、レコーディング環境の静けさ、美しさ、親密さを反映していると言われているなんとも粋な企画なのだ。このコラボレーションは、当初「並外れたアーティストが並外れた場所に集まるときに起こる魔法を捉える」という驚きのビジョンを実現したというものらしい。
 そして「TRIO」と言うアルバム・タイトルがにくいですね、彼らはこれぞ3人の傑作だと言わんばかしの自信作ということでしょう。おそらく長く続いているダニエルソンとパリチェッリとの関係の上に成り立ったトリオと推測されるのだ。
 そして収録12曲、セッションの数日前に特別に書かれた6つのダニエルソンの作曲と、パリチェッリとポホヨラのそれぞれのトラック、3つのカバー、3人共作曲という構成である。
 

(Tracklist)

1 Le Calme au Château (Lars Danielsson)
2 Cattusella (Lars Danielsson)
3 Morgonpsalm (Lars Danielsson)
4 Playing with the Groove (Lars Danielsson)
5 Chanson D'Helene (Philippe Sarde)
6 L'Epoque (Lars Danielsson)
7 Gold in Them Hills (Ron Sexsmith)
8 Improvisado (Lars Danielsson, John Parricelli, Verneri Pohjola)
9 Mood Indigo (Duke Ellington, Barney Bigard, Irving Mills)
10 Étude Bleue (Lars Danielsson)
11 Lacour (John Parricelli)
12 Peu D'amour (Verneri Pohjola)

 いっやーー、これはなかなか得難い世界ですね、とにかく牧歌的と言える空間を見事に描いている。ワイン醸造所での演奏録音と言うのがにくいところで、それを知る為か一層自然環境や生態系が人間の健康そのものを育成してゆく世界が眼前に文句なく描かれているのである。
 M1."Le Calme au Château"は、ギターの響きに、ダニエルソンが描いた美しい旋律を独特な音色の物悲しいトランペットが美しく歌う。
   M2."Cattusella" ギターはラテンをイメージさせ、トランペットの抑制の効いた歌い上げが迫ってくる。そしてベースの音がひと際美しく響く。
 M3."Morgonpsalm" ここでも抑制のきいたトランペットがもの哀しく、ギターとベースの響きは美しい。
 M4."Playing with the Groove" 珍しい軽快な世界にトリオのインタープレイが見事。
 M5."Chanson D'Helene"チェロの響きに優しいギターそして控えめなトランペットが入り、悲しい雰囲気は美しく深く。
   M6." L'Epoque"抽象的で雰囲気のある曲。
   M7."Gold in Them Hills"カナダのシンガーソングライター、ロン・セクスミスの曲で、ポホヨラの自然豊かな優美な世界を描く演奏が楽しめる素晴らしいトラック。
   M9."Mood Indigo"デューク・エリントンとバーニー・ビガードの曲、アレンジがなかなか興味深くこのアルバムでは異質感、ちょっとここで気分一新の感。
   M10."Étude Bleue" ギターのオスティナート演奏に抑制のトランペットの語りが乗る。
   M11."Lacour"は、ジョン・パリチェッリのオリジナルだが、3者の絡み合うお互いの影響が美しさを増す。   

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   素晴らしいトリオ・アンサンブルが楽しめる作品だ。ワイン造りは芸術とも言われ、こうしてジャズ演奏と対面してゆく心は、フランスならではと言っていいのかも。そしてレコーディング場所であるフランスに因んで、このトリオは、ちゃんとその要素も盛り込んでいるところがニクイところ。M5."La Chanson d’Hélène"の作曲フィリップ・サルド(Philippe Sarde, 1948 – )はフランス、映画『すぎ去りし日の…』(1970年, 原題:Les choses de la vie)からの選曲ということだし、ジョン・パリチェッリ作曲のM11."Lacour"はフランスの作曲家・ピアニストのオリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen, 1908 – 1992)に強くインスパイアされているとか。

 もともと私自身は、表現は良くないがジャズのラッパものは敬遠しがちなのだが、ただミュートの効かしたトランペットは愛してきた。このトリオでのヴェルネリ・ポホヨラの抑制のきいた独特のトランペットはいかにも素晴らしい。そこには哀しみ・心の沈みと高揚といった感情を表現する個性的な音と抑揚には感動すらした。このトリオは、もともとダニエルソンの持つ牧歌的な美しさを、この特殊なトリオ編成によるところの素材の美しさをもって訴えてくるところが魅力だ。しかし、おそらく音楽的には多くの技巧を駆使しているのではと聴きとるのである。彼らは、とにかくミュートされ、力みのないリラックスした中に、それぞれの持つ演奏力を注ぎ込んで、究極のところ温かみのある世界を構築した素晴らしい作品だと思う。昨年の多くのジャズ・アルバムの中では、出色の心に響く世界を構築したものとして、新年冒頭に取り上げた。

(評価)
□ 曲・演奏 :    95/100
□   録音   :    90/100

(試聴)



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2024年12月29日 (日)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.2 & vol.3」

展望感ある美の展開(Vol.2)と、哀愁の美旋律世界(Vol.3)

<Jazz>

Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.2」
(SACD) Terashima Records / JPN / TYR-1122 / 2024

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Alessandro Galati (piano)
Ares Tavolazzi (bass)
Bernardo Guerra (drums)

Recording at Larione 10 studio, Florence
Mix & Mastering :Stefano Amerio (Artesuono Recording Studios)

357719389_739887534809624_30966376199430   前回紹介の寺島レコードからの抒情性豊かなアレッサンドロ・ガラティ・トリオのスタンダード演奏集3作の第2巻である。

(Tracklist)

1 Stella by Starlight
2 All the Things You Are
3 I Remember Clifford
4 My Romance
5 Someone to Watch Over Me
6 Lament
7 Old Folks
8 Body and Soul

  こちらも、アレッサンドロ・ガラティが「相互作用とプロフェッショナリズムの面で最高の結果を出すために最高のミュージシャンを選びました」と語る同一メンバーにての8曲。やっぱりCD盤としては収録曲が少々少ない。寺島氏に言わせると、曲数を多く収録すると一曲一曲の聴く方の集中力が落ちて、その良さが少し落ちてしまうので、2枚のアルバムで良かったものを3枚にしたと言うが、どうもそのあたりは「?」で、おそらく当初は2枚組のアルバム一つと考えていたのではと、疑ってしまう。いよいよここに来て商業主義もちらっと頭を上げたのか(笑)、はたまたLPリリースの為か、なんと3枚盤で計23曲とした感じだ。おそらく2枚組としたら購入する方はもう少し安上がりだったのではと、ちょっと苦言を呈したい。

  アレッサンドロ・ガラティについては(過去の作品等)、こちらへ→http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/cat54938545/index.html

 まあ、それはさておき、この2巻目は、日没後の夜になんとなく哀愁を湛えながらも、夜の帳を下ろした後の期待感を感じさせるM1."Stella by Starlight"から始まり、M2."All the Things You Are"、M4."My Romance"などは、人生の楽しさすら感じさせるガラティがちょっと弾んだ世界だ。なるほど、2巻目はそんな意味付けを大切にしている。そしてガーシュウィンのM5."Someone to Watch Over Me"になって、ぐっと真摯な誠実な世界の美を感ずる。    
  M6."Lament"でも、ピアノ奏でる流れはインプロの自由が主体で、そしてベース・ソロが続き、高揚感の演奏が演じられる。

  この3作でも、この2巻目は、かなりプラス思考の展開の美が演じられている。

- - - - - - - - - - - - - - - - - -

<Jazz>

Alessandro Galati Trio 「Plays Standards vol.3」
(SACD) Terashima Records / JPN / TYR-1123 / 2024

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Alessandro Galati (piano), Ares Tavolazzi (bass), Bernardo Guerra (drums)

(Tracklist)

1 The Old Country
2 Last Tango in Paris
3 I'll Be Seeing You
4 My Old Flame
5 I'm Glad There Is You
6 Never Let me Go
7 Russian Lullaby

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  最後の第3巻は、寺島靖国がライナーノーツを書いているが、このところ彼の力でガラティに、ヨーロピアン・トラッドを集めた『European Walkabout』(TYR-1100,2022)、ジョビンの名曲を集めたボサノヴァ作品『Portrait in Black and White』(TYR-1109,2022)などのアルバム作成をさせてきたというのは、私にとっては嬉しいことで、ここにスタンダード集をピアノ・トリオでのバラッド中心演奏として聴かせてくれて、これも大きな功績だと評価する。近年、コロナ禍によってミュージシャンの活動低下は顕著で、アルバム・リリースも減少していた中での快挙である。

 さてこの最後の第3巻は寺島靖国節を高揚させたM1."The Old Country"だが、確かに出来がいいですね、やや暗めのイントロによる入りが文句なく私はこの世界に導かれ、微妙な主旋律を聴いて暗さでない美を感じさせるところが憎い。ベースの語りを織り込む流れもうまい。
 M3."I'll Be Seeing You"においてもベースの聴かせどころをちゃんとおいて、美旋律へ繋げるところの哀感への誘いが心憎い。
 M4."My Old Flame"のピアノのゆったりとした旋律の間と、ドラムスのブラッシングとシンバルの音の入りの微妙な関係が、これぞトリオ・バラードと言えるものだ。そしてM5."I'm Glad There Is You"の聴きなれたメロディーで、ほっとさせるのである。

 この最後の第3巻は確かに寺島世界を知らしめられた感じで、それはガラティがその急所をとらえるセンスの素晴らしさの結晶でもある。いずれにしても今年最後の長い夜のこの時に、これを提供してくれたことをこのうえ無く喜んでいるのである。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    92/100
□   録音       :    90/100

(試聴)

(今年最後のご挨拶)
 今日は今年最後の日曜日ですね、例年になく冬型の天気が続き、我が信州は毎日のように雪が舞い落ちてきます。今年は皆さまは如何な年であったでしょうか?。何かと実りの多かった方々は良かったですね、私自身は何とか無難に過ごせたことで喜んでおります。災害の多い年でしたので、それに遭遇された方々は、是非無事に立ち上がって、来る令和7年は佳い年でありますよう祈念いたします。

 当ブログは、今年は今日が最後となります、いろいろと有難うございました。2006年から私自身の備忘録としてスタートして20年続いてきました。取り上げた音楽アルバムも膨大になってしまってます。更に音楽を愛してゆきたいと思いますが、その他にもまだまだアプローチしたいと思ってますので、来る年も頑張りの年として迎えたいと思って居るところです。ご指導ください。皆様には佳い新年をお迎えになられますように。

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