ユーロピアン・ジャズ

2021年1月15日 (金)

エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi JAZZ ENSEMBLE 「TIME'S PASSAGE 」

欲張りのヴォーカル入りのクインテット・ジヤズ

<Jazz>

Enrico Pieranunzi JAZZ ENSEMBLE 「TIME'S PASSAGE 」
Abeat For Jazz / IMPORT / ABJZ 219 / 2020

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Enrico Pieranunzi (piano, arrangement) (electric piano on 1, 9)
Luca Bulgarelli (bass except 7)
Dede Ceccarelli (drums except 7)

*special guests:
Simona Severini (vocal except 3, 5)
Andrea Dulbecco (vibraphone except 7)

  日本で圧倒的人気の エンリコ ・ピエラヌンツィ(1949年ローマ生まれ)のピアノトリオを基軸とし、しかも彼のオリジナル曲を中心としたアルバムだが、ヴィブラフォン&女性ヴォーカルのゲスト二人を迎えてのやや異色のアンサンブル編。
 実はエンリコと言うとあのクラシック・ムードのある情緒あるメロディーのピアノの美旋律トリオを私はどうしても期待してしまうので、その世界とは明らかに異なる彼の近年のアグレッシブな姿勢がやはり前面に出てのアルバム。その為少々評価が難しい為に年を越してここに取上げたという次第。

Vvj106_hqf_extralarge  9曲中7曲に登場する女性ヴォーカルのシモーナ・セヴェリーニの歌声が、先ずは重要な役割を果たしている上に、近年ややジヤズ界から後退気味のヴィブラフォンが登場してのピアノの取り合わせが又微妙で、ちょっと意外な世界に流れていくのである。
  そしてもう一つピエラヌンツィとこの女性セヴェリーニのコンビというと、2012年からの関係で、2016年にはアルバム『My Songbook』(VVJ106/2016)(→)だ。これはピエラヌンツィが彼女を全面的にフューチャーしアレンジ、プロデュースを担当した本格ヴォーカル・アルバムだった。その後あのドビュッシーへの想いというちょっと中途半端だったアルバム『Moisieur Claude』(BON180301/2018)にも登場している。そんな流れの中での今回のアルバムなのである。

(Tracklist)
1. Time's passage (Enrico Pieranunzi) 5,40
2. Valse pour Apollinaire (Enrico Pieranunzi) 4,13
3. Biff (Enrico Pieranunzi) 4,33
4. In the wee small hours of the morning (David Mann & Bob Hilliard)*Quartet version 4,58
5. Perspectives (Enrico Pieranunzi) 5,15
6. A nameless gate (Enrico Pieranunzi) 5,04
7. In the wee small hours of the morning (David Mann & Bob Hilliard) **Voice&piano version 3,56
8. The flower (Enrico Pieranunzi) 7,10
9. Vacation from the blues (Arthur Hamilton/Johnny Mandel) 5,53

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 上のように、8曲中6曲はピエラヌンツィのオリジナルと言うことで、さてさてどんな美旋律ピアノの世界かと興味津々といったところ。しかし驚くなかれ、ここは期待に反してと言ったところでもあるが、今回のピエラヌンツィ(p)は、主役の座をヴォーカルのセヴェリーニやパーカッシブにメロディーを演ずるデュルベッコのヴィブラフォンに多くは譲っていて、むしろ引き立て役やリード役に徹した感がある。従って控えめに節度を保ちつつ、ゲスト陣の演ずるところに、端麗な味わい深いピアノを添えて演ずる。ただし時にアクセント聴かせてのリズムカルなプレイも披露もしている。そんなところで所謂ピアノ・トリオものとは全く別のアンサンブルな音作りのアルバムになっているところが特徴だ。

Simonaseverinijbw_20210114205401  そして重要なシモーナ・セヴェリーニのヴォーカルは、なかなかテクニックのある上クラスではあるが、中・低音に質量があるハスキー・ヴォイスでのその発声と声の質にはおそらく好みが分かれそう。

 M1."Time's passage "は、アルバム・タイトル曲で、ピアノ・トリオとゲストのヴォーカルとヴィブラフォンの演奏だが、美しさという世界でも無く、ヴォーカル曲というのでも無く、アンサンブル尊重なのか、意味のあまり理解できない曲。
 まあ、彼女のヴォーカルを主体に聴くならM2., M4.といったところか。M2."Valse pour Apollinaire"は、リズムカルにして、メロディーがよく、彼女は生き生きとしていてパリ・ムード、演奏も躍動感あって良い曲に仕上がっている。一方M4., M7. " In the wee small hours of the morning"はフランク・シナトラが歌った名曲で、しっとり歌い上げて聴き応えあるし、ヴィブラフォンとピアノとの相性が良い美しいヴォーカル曲として上出来。
 ところがM6."A nameless gate"あたりは、ヴォーカルと演奏におけるピアノの美しさが中途半端。何に感動して良いのか考えてしまうという状態。
 とにかく聴くにポイントはそれぞれ多々あるのだが、例えばM7.のヴォーカルと続くM8." The flower"で盛り上げた何か訴えてくるムードはかなり良い線をいっているにもかかわらず、M9."Vacation from the blues "のアンサンブルで全く別世界に連れてゆかれ、描いた世界が台無しになってしまう。描く世界の主体がハッキリしない変わったアルバムであった。

 結論的には、それぞれの曲には聴き所があるにもかかわらず、ヴォーカル・アルバムか演奏のアルバムなのかの聴いた後の感想がまとまらない作品だ。まあヴォーカル込みのクインテット・アルバムとしておこう。


(評価)

□ 曲・演奏・ヴォーカル    80/100
□ 録音            85/100

(視聴)

 

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2021年1月11日 (月)

モニカ・ホフマン Monika Hoffman 「TEN MUSES」

かなり手慣れた華やかなジャズ・ヴォーカルを展開

<Jazz>

Monika Hoffman 「TEN MUSES」
Mochermusic / sweden / MOM-0031 / 2020

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Personnel:
Monika Hoffman - vocals (+ violin on 3)
Arno Haas - saxes on 3,5,8,10
Klaus Graf - alto sax solo on 9
Alexander Buhl - tenor sax solo on 1
Peer Baierlein - trumpet/flh on 2,6,8,10
Marc Godfroid - trombone solo on 6
Christoph Neuhaus - guitar on 4,5,8,10
Patrick Tompert - MD + piano (except 1,9)
Martin Schrack - piano on 1,9
Jens Loh - double bass on 2,4,7,10
Benny Jud - electric bass on 3,5,8
Axel Kuhn - double bass on 1,6,9
Fulgencio Medina Jr. - drums on 2,4,7,10
Alvin Mills - drums on 3,5,8
Guido Joris - drums on 1,6,9
The Jazzfactory Orchestra - on 1,6,9

 昨年聴いてはいたが、ここに登場出来なかったものを少々取上げようと、まずはこのスウェーデンの女性ヴォーカリストのモニカ・ホフマンだ。彼女は1982年生まれの38歳。父はスウェーデン人、母はハンガリ人という歌手。流暢なハンガリー語、スウェーデン語、英語を話す国際派。3歳の時にヴァイオリンを弾き始め、サキソフォンも弾き始めたと。 子供の頃、そして10代の頃、彼女は様々な音楽学校に通い、その後バークリー音楽大学に進学した。彼女は奨学金を受け、マイケル・ブレッカーやチャーリー・ヘイデンとステージを共有するという機会を得ている。 いずれにしても華やかなアメリカン・ジャズに寄っている。しかもし豊かな声量で、ジャズだけでなくクラシック、ポップス、ラテンと幅広くこなす。
 彼女のスタートは、もう15年前の2005年にハンガリー ・メガシュタル(アイドル)のオーディションを受け、総合9位と好評価は得られなかったがその反面、高い人気を獲得して成功した。これにより歌手としてのキャリアをスタートさせ、最高のジャズピアニストの一人、ローベルト・ラカトースとも共演しスタジオ・アルバムが成功。
 本作は彼女のスタジオ・アルバム5作目あたりか。
 
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1. First Time
2. Sway
3. Fading Like a Flower
4. Cheek to Cheek
5. Where Do I Begin
6. Besame Mucho
7. Bang Bang
8. Lover Man
9. What are You Doing the Rest of Your Life
10. Lullabye of Broadway
11. Over the Rainbow

 まあどちらかというと、ジャズの中でもポピュラーな曲が続く。それも自身の敬愛する 10人の女性ヴォーカリスト の Doris Day, Judy Garland, Ella Fitzgerald, Rosemary Clooney, Marie Fredriksson, Shirley Bassey, Cezalia Evora, Cher, Barbra Streisand, Etta James に関係した作品を採り上げて歌い込んだと言うことのようだ。

 M1."First Time", M6." Besame Mucho" など期待したが、なんとビックバンドによるヴォーカルで、騒々しくて私向きで無かった。しかし彼女はジャズ・ステージは相当こなしてきているようで、その曲での歌い込みはかなり手慣れていて堂々と歌い上げている。
   とくに、M4."Cheek to Cheek"などは、ジャズの典型的なスタイルをオーソドックスに、しかも彼女らしさも出して危うさがない。
 私の場合は、M2."Sway"がバラード調に流れ、バックも静かな中で彼女なりきの編曲も多彩に込められて、後半のトランペットもバックにピアノと共に入るが、落ち着いていて好感度が高かくこの線なら期待度高い。

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 M5."Where Do I Begin(Love Story)"は懐かしい曲だ。最近聴いていなかったせいか、熱唱とバックのギターの味と妙に気に入ってしまった。
 M7."Bang Bang"ベースのリズムの刻みが効を呈して、ピアノの演奏も快調で彼女の熱唱に盛り上がって、この曲の編曲も面白く聴ける仕上げ。
 M9."What are You Doing the Rest of Your Life"バック演奏も、彼女のヴォーカルが始まると当時にサポートに変化して彼女の情感を盛り上げる。
 M11."Over the Rainbow" 彼女のオリジナル旋律の歌から始まって、この曲本来のメロディーがすぐに出てこないが、締めくくりに相応しくしっとりと歌い込むところは充実感ある。

 彼女のジャズ・ヴォーカリストとしての経験の豊富さが感じられる曲の展開と歌い込みがアドリブも含めて見事である。後は声の質など好みの問題だが、ユーロ系を感ずるよりアメリカン感覚でありその点が私的には気になるところ。しかし所謂ジャズ・ヴォーカルとしてはそれなりの評価は十分出来る。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌   85/100
□ 録音        80/100

(視聴)  "Sway"

 

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2020年12月29日 (火)

ウォルター・ラング Walter Lang Trio「TENS」

コロナ渦における欧州活動のみの制限から生まれた名曲再演盤

<Jazz>

Walter Lang Trio「TENS」
ENJA Yellowbird / Germ / ENJA9785 / 2020

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Walter Lang : piano
Thomas Markusson : bass
Magnus Öström : drums]

   今年もあとわずかになりました。とにかく今年はCovid-19の世界的流行の年、全てが人類原点に戻っての対応が強いられたような年でした。今だに第三派の波が襲ってきて、本来の活動が取り戻せない環境に甘んじなければならない状態である。これが今年の締めくくりとは情けない現実だ。

 さてそこで今年最後は、そんな事情であるからこそは出来たアルバムを取上げる。それはあの過去の名曲が新しいアレンジで収録で登場した一枚。Covid-19の流行の中、ミュージシャンは活動をいやが上でも制限された。日本でのライブもキャンセル。そこで新生ウォルター・ラング・トリオのセカンド・アルバムとも言えるものの登場なのだ。実はこのウォルター・ラングはなんとドイツ人でありながら、欧州より日本の方に圧倒的に知名度が高い。従って、現在彼は欧州圏内にての活動に制限されたため、まずは今となってドイツにてのプロモーション活動を行わざるを得なかった。そんな事情から、過去の名曲に目を付けここに再出発のような展開をしたわけだ。

 そしてこの2月にドイツにての録音となり、ドイツのジャズ・レーベル enja / Yellowbird Recordsと澤野工房のコラボレーションによるものという結果になったのである。
 又、これもいろいろと私の場合不手際があって、このアルバムの到着が遅れた。従って今になってレビューということになった。
 このメンバーでの前作『PURE』(2019)が良かったため、前作からのドラムスの元E.S.T.のMagnus Ostom もこの刺激の少ない美旋律にどう対応するかも聴きどころだ。

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1. The Beginning And The End
2. Soon
3. Little Brother
4. Meditation in F mi
5. Snow Castle
6. Branduardi
7. Misty Mountains
8. No Moon Night
9. Kansas Skies
10. I Wonder Prelude
11. I Wonder
12. When the day is done

 M1."The Beginning And The End"はアルバム『The Sound of a Rainbow』からだが、タイトルからして何やらこの現状の彼らを物語っている雰囲気ですね。そしてこのアルバムを聴いてみて、アレっこんな曲があったのかと思うのは、彼のトリオ・アルバムというのは刺激の無い優美にして安心感の強い曲だけあって、意外に覚えていないことに気がついた。

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 M2."Soon "のバラッド曲は、アルバム『Translucent Red』からで、私の好きな曲。落ち着いた心の流れを感じ取れる。
 アルバム『PURE』からの2曲、M3."Little Brother "は、7分以上の長曲で、愛情の感じられる曲であり、終盤に高揚してゆくところが聴きどころ。さらにM4."Meditation in F mi"も良いですね。スローな流れの中に、やや不安げな心の描写。
 M5、M6は、いつものラング流の軽い展開。
 アルバム『Starlight Reflections』からは、M7."Misty Mountains "M8."No Moon Night"で、M7.は広大な山岳風景をイメージさせる。M8.は、ちょっと現実離れの不思議な世界に、そして深遠な美しいメロディー。
 M9."Kansas Skies" カントリー・ロックの登場、『FULL CIRCLE』から。
   M10."I Wonder Prelude" ベースの物語からら始まる。なんと不思議な世界へ導かれることか。アルバム『Moonlight Echoes』の締めの曲。

 相変わらず、メロディーとピアノの音からウォルター・ラングと解る優しく何か整った安心感のある世界が展開している。トーマス・マークソンのベースも歌心を展開しているし、マグナス・オストロムもラングの世界にブラシ、スティックなど多彩な音で盛り上げている。特にオストロムはBugge Wesseltoft Trioとの関係もあるので、何かいろいろと微妙なところがありそうだ。かえってラングのもう一つの顔であるTRIO ELFの世界に意外にマッチングが良さそうにも思える、これからラングのトリオもいろいろと変化があるかも知れない。 

 みなさん、良いお年をお迎えください。

(評価)
□ 曲・演奏     85/100
□ 録音       85/100

(視聴)  "Meditation in F MI"

 

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2020年12月25日 (金)

アンドレア・モティス Andrea Motis 「do outro lado do azul もう一つの青」

女流 「歌うトランペッター」の世界を演ずる

<Jazz>

andrea motis 「do outro lado do azul もう一つの青」
VERVE / JPN / UCCM1251 /2019

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Andrea Motis : Vocals, Trumpet, flugelhorn, sax
Josep Traver : Guitar
Ignasi Terraza : piano
Joan Chamorro : double bass
Eateve Pi : drums
etc

 アンドレア・モティスは1995年バルセロナ生まれの若き女流トランペッターにしてシンガーのジャズ・ミュージシャン。彼女はスペインの天才少女的存在で、7歳からトランペットを吹いてきたと言うが、サン・アンドレウ市立音楽学校でジャズを学び、2012 年クインシー・ジョーンズが彼女をステージに上げたことがきっかけとなり一躍脚光を浴び2017 年にデビュー。まだ二十歳代半ばというには日本では名が売れている。再三の来日効果であろうが、それなりのジャズを演ずるからこそ、そして若き女性の魅力とともに話題を誘うのである。

 実は私はちょっと敬遠していたのだが、今年の秋の「ジャズ批評218」の"いま旬の歌姫たち2020"にもトップを飾って紹介されていて、それならばとアルバム入手に踏み切ったというところ。
  どちらかというと、ヴォーカルはキュート系でスペイン語、カタルーニャ語、ポルトガル語などもこなす言語達者、トランペット・プレイは可愛い彼女から発する音に聴く者はうっとりしているようだ。これは彼女のセカンドアルバムでブラジル音楽の世界へ接近していて彼女の歴史になろうと言われる作品。コロナ騒ぎのこのところは、丁度出産もあってお休みしているようだ。

Andreamotisemotionaldance (Tracklist)

1.Antonico
2.Sombra De La
3.Brisa
4.Sense Pressa
5.Mediterraneo
6.Filho De Oxum
7.Pra Que Discutir Com Madame
8.Danca Da Solidao
9.Saudades Da Guanabara
10.Choro De Baile
11.Record De Nit
12.Samba De Um Minuto
13.Baiao De Quatro Toques
14.jo vine

 

 曲は、オリジナル及びカヴァーの曲によって構成されている。
   M1."Antonico" やや物憂いように歌うサンバが意味ありげで気を引きますね。
 M2."Sombra De La"は、彼女のオリジナル曲で、ヴォーカルとFlugelhornが演じられている。特に印象に残るという程ではない。
 M3."Brisa" 快調なテンポで展開する。トランペット、ヴァイオリン、ピアノ、ドラムスのソロを後半並べて展開するが、聴く方より演者が楽しんでいるような曲仕上げ。まあメンバー紹介のようなものとして聴きました。
 M4."Sense Pressa"も彼女自身の曲。スローに展開する中にバックも小コンポで控えめ、何か意味深に訴えているようで、Flugelhornもしっとりしていて若き彼女としては成熟感あり聴き応えあり。
 M5."Mediterraneo"は典型的ラテン・タッチでありながら、スペイン・ムードを描く。彼女のソプラノ・サックスが後半に聴かせるところが味噌。
 M6."Filho De Oxum" 彼女のアカペラで始まり、カヴァキーニョ(ギター)の弦の響きに乗って艶のあるヴォーカルに焦点のある曲。

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 M7."Pra Que Discutir"はサンバの古典をハイテンポで、M8."Danca Da Solidao"は三つのローカル色の高いギターが列び、クラリネットが旋律を流し、彼女の充実ヴォーカルはこうだとブラジルの名曲をフラメンコ調でゆったりとひとりコーラスを含めて聴かせ魅力的。
 M9."Saudades Da Guanabara"はコーラスとトランペット・ソロというだけのもの。
 M10.".Choro De Baile" インスト・ナンバー、彼女のミュート・トランペットが登場しこれが聴きたかったがようやく登場。ヴァイオリンとの共演が珍しくテンポの良く明るめの曲であるが、私的にはちょっと期待外れ。
 M11."Record De Nit" なかなか味わい深い7弦ギターと彼女のヴォーカルのデュオ。この世界はいいですね。
 M12."Samba De Um Minuto" は、ムードはどっちつかず。
 M13.".Baiao De Quatro Toques"は、彼女のポルトガル語世界で締めくくる。このアルバムの意味づけがここにあることを強調している事が解るが、挿入曲からしてもブラジルをも関連して意識させるところがにくい。

 彼女のスペイン、ポルトガル、ブラジルの世界のそれぞれの文化や言語、リズムの意味に入っていこうとしての意欲が強く感ずるアルバムだ。若き天才と言われるのもそうした姿勢にも現れているのか、聴き応えのあるアルバムである。さて年輪を重ね侘(わ)び寂(さ)びがもう少し加わるとこれ又魅力が増すと思われた。

 

(評価)
□ オリジナル曲、カヴァー選曲、歌、演奏  85/100
□   録音・ミックス             80/100

(視聴)

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2020年12月21日 (月)

年末恒例の寺島靖国プレゼンツ「Jazz Bar 2020」

ピアノ・トリオ一点張りから、今年はサックスものも登場

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2020」
Terashima Records / JPN / TYR-1094 / 2020

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 しかし驚きですね、なんとこのコンピレーション・アルバムは20年の経過で20巻目のリリースとなったことだ。今こうしてみると過去のアルバム全てが棚に並んでいて、私にとっては好きなシリーズであったことを物語っている。

 プロデューサー寺島靖国(右下)は常々「歳と共に変化を楽しみ、常に新鮮な気持ちと興味を維持すべし」と口にしているとか。ピアノトリオへのこだわりは相変わらずだが、オーディオ的好みはその録音やミキシングのタイプにも確かに変化は出てきている彼だ。近年は前へ前へと出てくるリアル・サウンドから、音楽としての臨場感、奥行きの感覚に磨きがかかってきた感がある。
 そして「哀愁の名曲」探しは相変わらずで、我々日本人の心に沁みるメロディーを追求くれている。その為私も好きな欧州系をかなり探ってくれたという印象がある。新世代のミュージシャンの発見にも寄与してきてくれているし、私にも大いに影響を与えてくれたこのコンピレーション・アルバム・シリーズはやはり楽しみなのである。

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01. Night Waltz / Enrico Pieranunzi Trio
02. Elizete / The Chad Lawson Trio
03. Morgenstemning / Dag Arnesen
04. C'est Clair / Yes Trio
05. Tangorrus Field / Jan Harbeck Quartet
06. Danzon del Invierno / Nicki Denner
07. Bossa Nova Do Marilla / Larry Fuller
08. Contigo en la distancia / Harold Lopez-Nussa
09. La explicacion / Trio Oriental
10. Soft as Silk / David Friesen Circle 3 Trio
11. Vertigo / Opus 3 Jazz Trio
12. The Miracle of You / Niels Lan Doky
13. New York State of Mind / Harry Allen

 冒頭のM1."Night Waltz"は、昨年ここでレビューしたエンリコ・ピエラヌンツィのアルバム『NEW VOSION』(2019)(下左)からの曲。そしてM3."Morgenstemning "が北欧ノルウェーのダグ・アネルセンのかなり前の三部作のアルバム『NORWEGIAN SONG 2』(LOS 108-2/2011)(下中央)からであり、この2枚のアルバムが私の所持しているものであった。その他11曲は、幸運にも私にとっては未聴のアルバムからの選曲であり、初聴きで期待度が高い。
 そもそもこのアルバムを愛してきたのは、結構日本にいる者にとって一般的に知られていないモノを紹介してくれていること、又私のジャズ界では最も愛するピアノ・トリオものが圧倒的に多い、更にどことなく哀愁のある美メロディーを取上げてくれていることなどによる。そして初めて知ったものを私なりに深入りしてみようという気持ちになるモノが結構あることだ。更になんとなく欧州系のアルバムも多いと言うことが私の好みに一致しているのである。

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   M1."Night Waltz"と続くM2." Elizete "は、哀愁というよりはどちらかというと優美という世界。
 M3."Morgenstemning" 聴きなれたグリークのクラシックからの曲。ノルウェーのミュージクですね。美しい朝の光を浴びて・・・と言う世界。とにかく嫌みの全くないダグ・アネルセンの細工無しの美。
 M5."Tangorrus Field" (上右) 寺島にしては珍しくテナー・サックスの登場。デンマーク出身のヤン・ハルベック。私はうるさいサックスはちょっと苦手だが、彼の演ずるは豪放と言うが、この曲では何故か包容感のある優しさと幅の広さが感じられ、ピアノとの演じ合いに美しさすらある。今回のアルバムには、最後のM13."New York State og Mind"にはHarry Allenのサックスがやはり登場する。
 M7."Bossa Nova Do Marilla" は、ボサノバと言いながらも、驚きのLarry Fullerのピアノの旋律を演ずる流れはクラシックを思わせる。
 M8." Contigo en la distancia"(下左)、キューバのHarold Lopez-Nussaにしては、信じれないほど哀愁の演奏。いっやーー驚きました。
 M10."Soft as Silk" (下中央)、ベーシストのDavid Friesenの曲。どこか共演のGreg Goebelのピアノの調べが心の奧に響くところがあって、この人の造る曲にちょっと興味を持ちました。ベーシストって意外に美旋律の曲を書く人が多い気がしますが・・。
 M12."The Miracle og You" (下右)、このピアニストの Niels Lan Dokyって、実は過去に聴いて来なかった一人で、今回ちょっと興味をそそる技巧派ピアノに聴き惚れて、興味を持たせて頂きました。

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 今回は大きな獲物に飛びつけたという衝撃は無かったが、やはり寺島靖国の選曲にはやはり優美さ、美しさ、哀愁などはそれぞれにどこかに感ずる処があって、やはり年末恒例でこうして聴くことはベターなコンピレーション・アルバムと言うことことが出来る。
 とにかく20周年の成人となったこのシリーズにお祝いしたいところであった。

(評価)
□ 選曲、演奏           88/100
□ 録音(全体的に)      85/100

(参考試聴)

jan Harbeck Quartet "TANGORRUS FIELD"

*
Dag Amesen  " MORGENSTEMNING"

 

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2020年12月17日 (木)

カジサ・ゼルフーニ Cajsa Zerhouni 「ESTUARY」

スウェーデンから有力ジャズ・ヴォーカリストの登場

<Jazz>

Cajsa Zerhouni 「ESTUARY」
Do Music / Sweden / DMRCD075 / 2019

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Cajsa Zerhouni, vocals
Birgitta Flick, tenor saxophone
Mattias Lindberg, piano
Arvid Jullander, bass
Peter Danemo, drums

  スウェーデンで注目の(名前の読み方の難しい)女性ヴォーカリスト、カジサ・ゼルフーニの初の完全アルバムが登場、なかなかオーソドックスなジャズ・ヴォーカルを演ずる。バックはスウェーデンのピアニストのマティアス・リンドバーグ、ベーシストのアルビッド・ジュランダー、ドラマーのピーター・ダネモと、それに加えてベルリンを拠点としているというテナーサックス奏者ビルギッタ・フリックからなるカルテットであり、ジャズを究めんとしている様がしみじみ感じられる演奏、これも一つの注目点。

 そして彼女の全域にわたって温かみのある親近感があって居心地の良い歌声で、アメリカン・スタンダーズと自身のオリジナル2曲を歌っています。彼女は2018年に”My Billie”というビリー・ホリデイ・トリビュートのEPアルバムでデビューしたようだが、それは知らなかった。 

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191218_zerhouniw_20201216204201 (Tracklist)
1. September In The Rain
2. Let's Face The Music And Dance
3. Estuary *
4. How Deep Is The Ocean
5. Humdrum Blues
6. I Only Have Eyes For You
7. You Don't Know What Love Is
8. Contemplating Moon *
9. Dearly Beloved
10. Blame It On My Youth
( *印 : 彼女とメンバーなどとのオリジナル )

 こういった言い方も変だが・・・彼女自身、そしてバック・メンバー含めて、なかなか真面目にジャズを演じているという印象。それもスタンダード曲の編曲のパターンがそう思わせるのか、演奏の形、彼女の歌い方と共にそんな響きである。
 そして彼女の歌声は全域にわたって比較的ソフトでクリアで、むりやり技巧を凝らすいうところでなく素直な印象。それが魅力といった方が良さそうだ。

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   冒頭のM1."September In The Rain"そしてM2." Let's Face The Music And Dance"を聴くと、彼女のヴォーカルが如何にも中心であるという曲仕上げで、その曲のアレンジがスウェーデン流なのか、なんとく未完成っぽくて逆に新鮮度がある。バックの演奏もサックスが演ずるところでも、いやに出張ってくることもなく、ヴォーカル・アルバムを意識して仕上げているところに好感度高い。M2.などのピアノもなかなか中盤に熱演して見せて、ジャズの面白みもある。
 M3."Estuary "はアルバム・タイトル曲。スロー・ナンバーに仕上げていて、ヴォーカル、ピアノ、サックスが交互に展開の主役を演じながらも、何か一つの物語を聴かせてくれているようで引き込まれる。それはM4."How Deep Is The Ocean"でも同様で、聴く方にとってはゆったり感の中で、ジャズを楽しる。
 M5."Humdrum Blues"のブルース・リズムが異色で、楽しさもありこのアルバムでいい色を添える。   
 M6."I Only Have Eyes For You"などを聴くと、スウィングする中に極めてオーソドックスなジヤズ演奏である。
 M7."You Don't Know What Love Is" のバラードにしてもピアノ、サックスが美しく力みが無いところが良いし、歌声は嫌みが全くない。 

 とにかく、ちょっと希なジャズに接した印象で聴いたアルバムだ。おそらくこれは何回か聴いてゆくに味が出てくるというタイプだと思っている。私の評価は良い。

(評価)
□ 編曲・演奏・歌  88/100
□ 録音       85/100


(参考視聴)

*

 

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2020年12月 8日 (火)

ティル・ブレナーand ボブ・ジェームス TILL BRÖNNER and BOB JAMES 「ON VACATION」

静かなトランペットは「都会の夜」
ヴォーカルは軽めにソフトに軽快に

<Jazz>

TILL BRÖNNER and BOB JAMES 「ON VACATION」
MASTERWORKS / IMPORT / 1943970012 / 2020

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Till Brönner  :  Flugelhorn, Trumpet, Vocal
Bob James :  Piano ,  Keyboards
Christian von Kaphengst :  double bass
Yuri Goloubev :  double bass
Harvey Mason : drums
David Haynes :  drums

 私にとっては"うるさいトランペット"は願い下げ、"静かなトランペット、ミュートを効かせた優しいトランペット"は「都会の夜」をイメージさせ大歓迎・・・と、両極端なんですね。
 そんな訳でドイツ出身のこのところ人気のティル・ブレナー(1971年生まれ)は良いですね。久々にトランペットとフリューゲルフォーンのアルバムを楽しんでいる。それもベテランのボブ・ジェームスの美しいピアノがあるのですから。これはどうも初めてのコラボレーションなんですね、そしてアルバム・ジャケも素直に細工無しで良いですね、これも手にする一条件(テイルの撮影作品のようです)。

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1.Save Your Love for Me
2.Lemonade
3.Late Night
4.Lavender Fields
5.September Morn
6.Elysium
7.I Get it From You
8.Miranda
9.Scent of Childhood
10.On Vacation
11.Sunset Vale
12.Basin Street Blues
13.If Someone had Told Me (ボーナストラック)

 オープニング曲M1."Save Your Love for Me"で、さっそく優しいテイルのフリューゲルフォーンとボブも力みの無いピアノとキーボードで応じていて、なかなかナイト・ムードも感じられいいです。
 M3."Late Night" の三曲目で、初めてティルの深遠なるトランペットが登場するが、意外にボブのピアノは軽快でその対比が面白い。
  M10."On Vacation"がアルバム・タイトル曲であるが、どちらかというと軽快に演じられ、ティルのヴォーカルもので、どこか洗練された軽いヴォーカルも味わい深い。M2."Lemonade"のボサノバも彼のヴォーカル入りで軽快にソフトに流す。成る程ここにこのアルバムのテーマを彼流の世界でしっかり生かしている。
 しかし私にとっての究極の曲はM8."Miranda"で、そこに描かれる静かなトランペット、美しいピアノの夜の語り合いムードがいいですね。やはり私はこの世界を聴くことがティル・ブレナーへの期待ですね。彼はチェット・ベイカーをちょっと連想させるところが、期待度の高いところだ。

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 しかし今回はアルバム・タイトルが、多分"秋の「On Vacation」"ですから、私の期待の「夜」を求めてはいけないのかも・・・、そんな意味ではM4."Lavender fields"では、トランペットもピアノも"のどかな風景"を連想させる世界を描いている。
  しかしながら締めくくりの曲のM11."Sunset Vale", M.12"Basin Street Blues"となると、フリューゲルフォーンではあるが、究極の持ち味の都会派ナイト・ムードになっていた。
 いずれにしても、ちょっと洗練された力みの無いジャズが聴けて心地よい。
 

(評価)
□ 編曲・演奏・ヴォーカル   85/100
□ 録音            85/100

(参考視聴)

 

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2020年11月22日 (日)

エレン・アンデション Ellen Andersson 「YOU SHOULD HAVE TOLD ME」

ジャズ・ヴォーカルはこれだ !!・・・・と、
スウェーデンからの4年ぶりの待望本格派ジャズ・ヴォーカル・アルバム

<Jazz>

Ellen Andersson 「YOU SHOULD HAVE TOLD ME」
Prophone Recpords / sweden / PCD204 / 2020

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Ellen Andersson エレン・アンデション (vocal) 
Joel Lyssarides ヨエル・リュサリデス (piano except 3, 4, 5)
Anton Forberg アントン・フォシュベリ (guitar on 4, 5, 8, 9)
Niklas Fernqvist ニクラス・フェーンクヴィスト (bass)
Johan Lötcrantz Ramsay ユーハン・ローヴクランツ・ラムジー (drums)
Peter Asplund ペーテル・アスプルンド (trumpet on 1, 4)
Johanna Tafvelin ユハンナ・ターヴェリーン (violin on 2, 6, 8)
Nina Soderberg ニーナ・ソーデルベリ (violin on 2, 6, 8)
Jenny Augustinsson イェニー・アウスティンソン (viola on 2, 6, 8)
Florian Erpelding フローリアン・エーペルディング (cello on 2, 6, 8)

 四年前にスウェーデンからの新人女性ジャズ・ヴォーカリストの有望株として紹介したエレン・アンデション(『I'LL BE SEEING YOU』(PCD165/2016))の待望のニューアルバムの登場だ(1991年生まれ)。とにかく嬉しいですね、あのセンス抜群のジャズ演奏とヴォーカルの協演がここに再びと言うことだ。ダイアナ・クラール、メロディ・ガルドーとこの秋、期待のニュー・アルバムが登場したが、彼女らの円熟には及ばずとは言え、あのJazzy not Jazz路線と違って、香り高きジャズ本流のヴォーカル・アルバムに挑戦していて感動であり、しばらく聴き入ってしまうこと間違いなし。
 彼女はデンマークのヴォーカル・グループ「トゥシェ」のメンバーとしても活躍しているが、これは彼女のソロ・アルバム。
 今回はジャズ・スタンダードそしてビートルズ、ミッシェル・ルグラン、ランディ・ニューマンなどの曲(下記参照)を、ジャズ色濃く編曲して妖艶さも増して披露している。

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(Tracklist)

1. You Should Have Told Me (Bobby Barnes / Redd Evans / Lewis Bellin)
2. Once Upon A Summertime (Michel Legrand / Eddie Barclay)
3. You've Got A Friend In Me (Randy Newman) (vo-b-ds trio with 口笛)
4. Just Squeeze Me (Duke Ellington / Lee Gaines)
5. Too Young (Sidney Lippman / Sylvia Dee) (vo-g-b-ds quartet)
6. The Thrill Is Gone (Ray Henderson / Lew Brown)
7. ‘Deed I Do (Fred Rose / Walter Hirsch) (vo-p-b-ds quartet)
8. Blackbird (John Lennon / Paul McCartney)
9. I Get Along Without You Very Well (Hoagy Carmichael / Jane Brown Thompson)

 
 エレン・アンデションの声は、なんとなくあどけなさの残った瑞々しい可憐さが感じられる上に、意外にも前アルバムでも顔を出した妖艶さが一層増して、ちょっとハスキーに響く中低音部を中心に、高音部は張り上げず優しく訴える端麗ヴォイスだ。
 M1." You Should Have Told Me "のように、バックがジャズの醍醐味を演ずると("M7." ‘Deed I Do"なども)それと一体になりつつも、彼女の特徴は失わずに協演する。
 M2."Once Upon A Summertime"はミッシェル・ルグランの曲、とにかく一転してピアノとストリングスでの美しさは一級で、彼女の心に染み入る中低音のテンダーなヴォーカルが聴きどころ。
 M4."Just Squeeze Me"は、トランペットの響きから始まって、彼女のあどけなさとけだるさと不思議な魅力あるヴォーカルでベースの語り歌うような響きと共にジャズの世界に没頭させる。

Pressellenanderssontr  女性叙情派ユーロ・ジャズ・ヴォーカル・ファンにお勧めは、なんと言っても素晴らしいM6." The Thrill Is Gone"だ。ストリングスの調べが加味した美しいピアノの音とメロディーに、しっとりと優しく囁きかけるように歌い上げるところだ。中盤にはピアノ・トリオがジャジーに演ずる中に後半ストリングスも加わって、再び彼女のヴォーカルが現れると静かに叙情的な世界を演ずる、見事な一曲。
 M5."Too Young"のナット・キングコールの歌で歴史的ポピュラーな曲は、冒頭からアカペラで彼女の世界に引っ張り込み、静かに現れるバックのギターとジヤズ心たっぷりに描いてくれる。次第にベース、ドラムスが続き「静」から「動」にスウィングしてゆく流れはお見事と言いたい。

 とにかく演奏陣が手を抜かない演奏が魅力的な中に、彼女のテンダーにして語りかけるロマンティックなヴォーカルと、なかなかアッシーな味付けの世界もみせ、それが一転してハードボイルドな色合いの強い演奏とのマッチングも出現し、そんな変幻自在な味付けが見事なアルバムである。一曲づつも良いがアルバム・トータルに是非聴くべき一枚。

(評価)
□ 編曲・演奏・歌   90/100
□ 録音        85/100

(試聴)    "The Thrill is gone"

*
       "Too Young"

 

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2020年11月 2日 (月)

マイケル・ベック・トリオ michael beck trio 「michael beck trio」

淡々としていてスリリングな新世界を探求する若き叙情派トリオ

マイケル・ベック・トリオ MICHAEL BECK TRIO

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  今年リリースされた寺島靖国の「Jazz for Audio Fans Only Vol.13」に収められた中で、少々気になったトリオがあったので、アルバムを探して取り寄せてみた。それがこのスイスのマイケル・ベック・トリオ Michael Beck Trioである。それが目下2枚のアルバムのみに行き着いたのだが、両者2003、2005年リリースもので15年以上前のものであった。
  そもそもは寺島靖国には、おそらくベースとドラムスのリアルな音からスタートしてピアノの淡々とした演奏が気に入られたのであろうと推測するが、特に選ばれた曲"928"は、スタートから澄んだ繊細なシンバル音が響いてくることが重要であったと思われる。私もドラムス、ベースの協演は好きで、寺島靖国の言うところのトランペット、サックスが共に鳴り響くものはちょっとゴメンというところにあり、そこも納得してこのアルバムを手にすることにした。

 しかし、若きこれほどのトリオが何故、その後15年間もアルバムが見当たらないのも不思議である(探せばあるのだろうか)。そんな事を考えながら聴いた2枚のアルバムを紹介する。

 

<Jazz>

█ michael beck trio 「michael beck trio」
  SOUNDHILLS / IMPORT / FSCD2025 / 2003

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michael beck (p)
bänz oester (b)
samuel roher (ds)

Recorded at Radio DRS Zurich, Switzerland, February12-13, 2000

(Trackjlist)
01. Loose Ends *
02. 928 *
03. Poin Turnagain * 
04. Farewell
05. The Theme Of The Defeat
06. Open Doors
07. Three Men In A Boat * 
08. Everything I Love
09. Detour Ahead
10. Loose Ends (alt. take) *

 10曲のうち(*印)5曲はピアニストのマイケル・ベックの曲で、彼がリーダーと思われるが、スイス・ベルンに1968年に生まれていて、もともとはベルン大学で物理学と数学を専攻していたのだが、幼少期からクラシックのピアノを学んでいたこともあって、その後スイス・ジャズ・スクールに転学したという。ここでジョー・ハイダーの弟子となった。1992年にはウンブリア・ジャズ祭で入賞。奨学金を得て1994年から1997年までバークリー音楽院へ留学している。このアルバムは2000年の録音で、彼の32歳の作品である。
 淡々としたタッチで演じられるピアノ、そしてベース、ドラムとの三位一体となってのインプロヴィゼーション。この流れがなんとしても新時代タッチで、私が重要視するテンポ・ルバート奏法が洗練されていて、そのタイム感にどこか美しさがかんじられるところが味噌のように感じられる。
 そして時には、アヴァンギャルドな展開も加味して、究極は叙情派の流れを展開するところがいいですね。このアルバム、全編を通じて美事である。
 渡米中に映画音楽の作編曲を学んでいたこともあったようで、メロディアスで甘美さが見えるところも私好み。

       ~~~~~~~~~~~

█ michael beck trio 「ANOTHER DAY」
  Mons Records / IMPORT / MR874411 / 2005

Anotherdayw

Michael Beck(p)
Thomas Dürst(b)
Samuel Rohrer(ds)

Prodused for DRS2 by Peter Burli
Recorded Martin Pearson

(Tracklist)
1.Another Day
2.Rubato
3.Subsistence
4.Wind Dreams
5.Topic
6.Tune 101
7.Incubo
8.Otherwise
9.Dove
10.Rubato 2
11.Swing Sketch

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  数年後のこちらのアルバムは、ベースが変わってのトリオですね。今作は全曲ピアニスト・マイケル・ベックのオリジナルだ。
 冒頭から美しいピアノの調べ、そして繊細にして響くスティック、ドラムスの音、確かに録音も優れている。やっぱり、旋律はヨーロッパ的で、リリカルでいて、しかもしつこさが無く淡々と進行し、ベースとドラムスとの交錯インプロヴィゼーションが、なかなか近代的である。テンポは主体はミディアムで聴きやすい。なかなか例のルバードが有効に迫ってくる。そこにはかなり計算ずくの世界であろうと思うが、洗練された世界を印象づける。
  M2."Rubato"では、ベースのアルコ奏法をバックに、ピアノとスティック、シンバルを主体としたドラムスとの交錯には、近代性とクラシック奏法の美をも感ずる。
   M7."INCUBO"は、ピアノ、ベース、ドラムスがそれぞれ分離良く繊細に美しく録音されていてオーディオ・ファンにはたまらない曲。「ジャズは音で聴け」という寺島靖国の言葉が頭に浮かんでしまった。    
 とにかく全編に漲る淡々としたピアノの物語にふけってしまう世界である。
   
 このトリオの近況が解らないが、是非ともニュー・アルバムにたどり着きたいところである。寺島靖国の努力に期待するところだ。
   

(評価)
□ 曲・演奏   90/100
□ 録音     90/100

(参考視聴)

 

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2020年10月20日 (火)

スールヴァイグ・シュレッタイェル Solveig Slettahjell 「Come In From The Rain」

シルキー・ヴォイスにハスキーが加わり、ぐっと重きも出てきた情感ある歌声

<Jazz>

Solveig Slettahjell 「Come In From The Rain」
ACT / Germ / ACT 9741-2 / 2020

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Solveig Slettahjell (vocal)
Andreas Ulvo (piano)
Trygve Waldemar Fiske (bass)
Pål Hausken (drums)

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  丁度5年前にトルド・グスタフセンとのアルバム(『Arven』(2013))から、このノルウェイの女性歌手スールヴァイグ・シュレッタイェルSolveig Slettahjellを知ることになり、アルバム『SILER』(2004)等を取上げたのだが、ここに彼女としては5年ぶりのニュー・アルバムが登場した。もともと彼女は1971年生れで、もう20年のキャリアのある歌手で、あのソウルフルでシルキー・ヴォイスがなんといっても売り物であった。私としてはよくぞここにニュー・アルバムをリリースしてくれたと歓迎するのである。

 

(Tracklist)

01 Come In From The Rain (Melissa Manchester & Carole Bayer Sager) 4:07
02 On The Street Where You Live (Frederick Loewe / Alan Jay Lerner) 3:44
03 You’re Driving Me Crazy (Walter Donaldson) 2:48
04 Since I Fell For You (Buddy Johnson) 4:04
05 So I Borrow Your Smile (Solveig Slettahjell) 4:41
06 How Deep Is The Ocean (Irving Berlin) 4:51
07 Now Or Never (Curtis Reginald Lewis / Billie Holiday) 3:13
08 I Lost My Sugar In Salt Lake City (Leon René / Johnny Lange) 4:19
09 Johnsburg, Illinois (Tom Waits) 4:31
10 ‘Round Midnight (Thelonious Monk, Cootie Williams & Bernard Hanighen) 6:46

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   今回はピアノ・トリオをバックとして、相変わらずのソウルフルな歌を披露している。もともとシルキー・ヴォイスと言われる美しい歌声だが、こうしてキャリアを重ねてきて、そこにふと適度に入るハスキーな声が今回は又一層魅力の一つになっている。
 前作は『Trail of Souls』(2015)であったが、本作制作に際しては、新しいバンドを結成し、3 年という経過の中で作り上げてきたのだという。

 アルバム全体の印象はなんとなく明るい世界というにところに無くやや暗さが漂っているが、もともと彼女のパターンであってそれを好むかどうかですね。M7."Now Or Never "のようなテンポの早い曲も数曲あるが、全体にゆったりとした曲の世界である。
 M1."Come In From The Rain"はアルバム・タイトル曲。オープニングにふさわしく静かな中に人の交わりを描くヴォーカルが好感度が高い。
 M2." On The Street Where You Live" 聴き慣れた曲が軽快なリズムで、これもスールヴァイグ・シュレッタイェル節で彩る。
 M3."You’re Driving Me Crazy" スゥインギーに軽快曲が続くが、M4."Since I Fell For You"の落ち着いた説得力のある曲へのツナギ的に配置されていてアルバム構成も考えられている。
 M5."So I Borrow Your Smile " は彼女のオリジナルで静かな中に情熱的な歌い込みの世界が見事。ピアノの描くところも情感が満ちている。これがハイライトだ。
 M6."How Deep Is The Ocean " の情緒みなぎる名曲。M8." I Lost My Sugar In Salt Lake City " こんなブルース調も彼女の色に。
 M9." Johnsburg, Illinois "はトム・ウェイツの曲、どこか哀愁が漂っていてこのあたりは彼女のキャリアの産物だろう。
 M10." ‘Round Midnight "のセロニアス・モンクの曲はしめくくりに登場、旋律を奏でるピアノも美しく静かに夜の世界を歌い上げる彼女の情感も見事。

 やはり彼女のヴォーカル・アルバムには情感が満ち満ちていて素晴らしいし、何ともいえない説得力で迫ってくるところが見事である。

(評価)
□ 曲・歌   90/100
□ 録音    85/100

(視聴)

 

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