ユーロピアン・ジャズ

2023年9月17日 (日)

アロン・タラス Aron Talas Trio 「New Questions, Old Answers」

なかなか親近感あるメロディアスな世界でなく抵抗があり難解

Aron Talas Trio 「New Questions, Old Answers」
Bmc Records / IMPORT / BMCCD334 / 2023

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Áron Tálas - piano
István Tóth - double bass
László Csízi - drums

All compositions by Áron Tálas
Recorded by Viktor Szabó at BMC Studio, Budapest on 1-2 November, 2022
Mixed and mastered by Viktor Szabó

Produced by László Gőz

Ab6761610000e5eb37a8d6beffdb68d959a485f1   ハンガリーのジャズシーンで評価の高い俊英ピアニストのアロン・タラスÁron Tálas(1990年ブタペスト生まれ33歳 右中央)のトリオでの2ndアルバム。前作『リトル・ベガー』は2017年にリリースされ、デビュー・アルバムでありながら国際的に高い認知を得た。
 彼はピアニスト、ドラマー、そして必要に応じて歌手兼ベースギタリストだ。フランツ・リスト音楽アカデミーでジャズ・ピアノとジャズ・ドラムを学ぶ。2013年、ハンガリーの国内コンペでトリオで「最優秀ジャズ・コンボ賞」、同年、「ジュニア・プリマ」受賞。2015年、モントルー・ジャズ・ピアノ・コンペのファイナリストの一人。現在、フランツ・リスト音楽アカデミーの伴奏ピアニスト。コダーイ・ヤーノシュ大学ジャズ・ドラム科講師で、マルチプレイヤー的才能の持ち主だ。

 今回のアルバムは彼自身の曲によるもので、「ヨーロッパならではのクラシカルな土壌の上に透明感溢れる抒情性があって、フォーク要素やロックの要素、クラシック音楽までに広く及び、フレージングは比較的軽やかで、伝統的なスイング感がうまく織り合わされ演奏を展開する」との解説があるが、果たしてそう感ずる世界かどうか。

 

(Tracklist)

1 New Questions, Old Answers
2 Hargrove
3 Old Soul
4 The Choice You Never Had
5 Elastico
6 Tevemenet
7 Rain
8 Cnile Kinlu
9 Afrosatie
10 The Visitor
11 To Be Continued

  叙情性の因子があるも、曲展開は意外にダンサブルなところがある。メロディー展開も明るいというのではないが、そう深刻に哲学的な世界に入ってゆくというスタイルではなく、スウィンギーなところもあってやっぱりジャズの世界に自己の独創性を生かしてゆきたいという方向性が聴きとれる。

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  M1." New Questions, Old Answers"このアルバムのタイトル曲だ。"新しい質問、古い答え"このタイトルが振るっている。主張したい問題意識が感じられる。いわゆるスウィングして流れてゆくアメリカン・ジャズとは異なり、しかもユーロ系のイタリア、又一味違った北欧系の流れとも異なった世界だ。決して陽気な明るさはない。抒情性と言っても日本的な味わいとは全く別物でちょっと取り付くには難しい印象。
 M3."Old Soul"決まったテーマが流れるが、次第に留まるところを知らずにピアノの流れが展開。ベース、ドラムスもそれぞそれが統一感ないように流れるも押さえるところはピシッと締まる。見事な技量を感ずるも私の好きな哀愁感は感じられない。
 M4."The Choice You Never Had" ゆったりと抒情的に流れるも、所謂イタリア的美旋律の世界ではない。回顧的で未来の展望感は感ぜず。
 M7."Rain" のピアノの響きは極めて美しいが・・・
 M9."Afrosatie"  このタイトル自身、なかなか理解が難しい。曲はそう難解ではないが、しっとり心を奪われるという世界ではない。私が期待している世界ではなさそうだ。

 はっきり言って全体的に難解で、寄り付くところが微妙に抵抗的で親密感のレベルが低い。クラシック的因子が結構強く、又それぞれの曲が難解でこのアルバムは大衆的でない。評価は1.ジャズ理論か、2.音楽理論か、3.人の心を捉えるメロディーかと考えてしまうが、少なくとも3.ではない。私としては難物としての評価に至った代物。じっくり聴いていると味が出そうな感じではあるが。

(評価)
□ 曲・演奏 :   85/100
□   録音   :   87/100

(試聴) 

 

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2023年8月23日 (水)

 ティングヴァル・トリオ Tingvall Trio 「BIRDS」

「鳥」のテーマの目的コンセプトがあまり伝わってこない

<Jazz>

 Tingvall Trio 「BIRDS」
Skip / Import / SKP91972 / 2023

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Martin Tingvall (p)
Omar Rodriguez Calvo (b)
Jurgen Spiegel (dr)

 ドイツ・ハンブルグを拠点に活動するヨーロッパを代表する美メロ・ピアノトリオ「ティングヴァル・トリオ」の9thアルバム。トリオ・リーダーのスウェーデンのピアニスト、マーティン・ティングヴァルが自然界をテーマとしての作品の一環として「鳥」にインスピレーションを得た作品だ。

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 彼の言葉は「彼らは自然の音楽家です。彼らは毎日素晴らしい音楽と信じられないほどインスピレーションを与えてくれます。ただ注意深く耳を傾けなければなりません。残念ながら、私たちはもうそれをやっていないようです、雑音が多すぎるのです。他の騒音が私たちを取り囲んで、気が散ってしまいます。このアルバムが人々に、私たちの周囲の環境を違った見方で認識するきっかけになれば幸いです。私自身、地球温暖化によって引き起こされる鳥の行動の変化をすでに観察しています。S.O.S、もうやめるべき時です。 自然に耳を傾けて行動してください。」 と・・・地球上の自然破壊につながる問題点に言及している。

 Tingvall Trioはもう結成して15年以上となる。リーダーのピアノのMartin Tingvallはスウェーデンで、ベースのOmar Rodriguez Calvoはキューバ、ドラムスのJürgen Spiegelはドイツ生まれという国際トリオだ。。
 過去のTingvallのソロも含めてアルバムは全て聴いてきて、ここでも何度か彼らを取り上げたが、全てオリジナル曲を中心にどちらかというと美旋律の自然を対象とした曲に魅力がある。今回も期待度は高かった。

(tracklist)

1 Woodpecker
2 Africa
3 SOS
4 The Day After
5 Air Guitar
6 Birds
7 Birds of Paradise
8 The Return
9 Nuthatch
10 Humming Bird
11 Nighttime
12 A Call for Peace

 鳥の状況を描いているのかM1." Woodpecker(キツツキ)"M2."Africa"は軽快な曲。 M3."SOS"は、いかにも問題に直面しての姿か、不安が感じられる。ティングヴァルの声が入るが・・・これは好感度は無し。
 M4."The Day After"になって、ようやく私の期待する美しく優しいピアノの旋律の聴ける曲が登場。後半にアルコ奏法のベースが不安感を感じさせて気になる曲だ。

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 M5."Air Guitar"は演奏技法が多彩で面白い。ピアノはミュート奏法のようだが。
 M6."Birds" タイトル曲、スタートからやや暗めのベースのアルコの音で始まる、ピアノが入って小躍りする印象。次第にトリオで盛り上がるも意味不明、M7."Birds of Paradise"も軽妙な世界だが、印象にあまり残らない。
 M8."The Return"優しく美しくのピアノのメロディーが登場し再びベースのアルコ。夏に戻ってくる鳥の姿か?、物語を感ずる世界は見事。
 M9." Nuthatch" ゴジュウガラか、良く解らない曲。
 M10."Humming Bird" ハチ鳥の姿(?)、何を描いているか不明だが、メロディーは優美で軽快。M11." Nighttime" ピアノの透明感ある美しい音を聴かせる。これら2曲はM4.M12.の2曲に続いて納得曲。
 M12."A Call for Peace"彼の鳥に思いを馳せての究極の曲として聴いている。ピアノ・ソロで美しい。

 どうも私自身が「鳥」の世界に興味がないせいか、全体にあまり目的が良く解らない曲群でこの「鳥」にまつわるコンセプトも理解が難しい。又このアルバムは、時に聴ける演者の声がどうも私には気分良くなかった(キースのようなうなり声ではないけれど)。そして私のお気に入りのアルバム『Dance』(2020)の"In Memory"のような曲を期待してはいけないのかもしれないが、過去のアルバム『CIRKLAR』(2017)の"Bland Molnen"、"Cirklar"とか、やはりいろいろと期待度が高いので、評価は決して低いアルバムではないのだが、今回は若干空しかったような感覚であった。

(評価)
□ 曲・演奏  87/100
□   録音    87/100

(試聴)

 

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2023年8月17日 (木)

ニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Doky 「Yesterday's Future」

デンマークの騎士のピアノ・ジャズ・プレイ

<Jazz>

Niels Lan Doky 「Yesterday's Future」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1114 / 2023

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Niels Lan Doky (piano)
Tobias Dall (bass except 04,10,12)
Nikolaj Dall (drums except 04,10,12)

Live at the Louisiana Museum of Modern Art

  寺島レコードから寺島靖国氏の推薦と言っていいのだろうデンマークの人気ピアニストのニルス・ラン・ドーキー Niels Lan Dokyのアルバムがリリースされた。(本国ではLPのみで、日本でCDリリース)

 実はちょっと意外でもあったのは、彼の演ずるところ寺島氏は果たして好みなのだろうかと言うところであった。私も実は彼のアルバムは以前にも聴いているがあまり気合が入らない。2021年にここでアルバム『Improvisation On Life』(2017)を取り上げたが、彼のデンマーク生まれの体質を感ずる美メロディーが生きていたのを評価したが、私の好みとしては今一歩、ジャズの味に満足感が得られず、評価としては良好標準80点として一段上げて85点としたのだった。

202109080900w  今回、取り敢えず寺島氏のライナー・ノーツでどんなことを書くのか、それも興味で取り敢えず手に入れて聴いてみたというところである。
 ニルス・ラン・ドーキー(→)は1963年デンマークのコペンハーゲン生まれで、ニューヨークからパリでの活動を経て母国デンマークへ戻り(2010年)、地道に更なる研鑽を重ねてきた国際派の人気ヴェテラン・ピアニストである。今回はトリオ編成によるデンマークのルイジアナ近代美術館でのコロナ明け2022年の公演の模様を捉えたライヴ・アルバム。寺島氏によるとこのアルバム作成は彼の方から申し入れてきたという事のようだ。ちょっとこんなところからも内容は若干懐疑的な気持ちで聴いたところであった。

(Tracklist)

01. Children's Song
02. Farewell Song
03. Forever Frank
04. Where The Ocean Meets The Shore (solo piano)
05. Sent From Heaven
06. Just Do It
07. Yesterday's Future
08. Free At Last
09. Rough Edges
10. December (solo piano)
11. High Up North
12. Afterthought (solo piano)
13. Are You Coming With Me?
14. Misty Dawn
15. Yesterday's Future - studio version - (*bonus track)

  やはり相変わらず端正なピアノの響きである。評価は"落ち着きや安定性を感じさせると同時に鋭いキレのよさや適度な尖り感をも湛えた、澄みきったクリスタルの如き潤いある鮮明タッチのピアノが響く"と表現されている通りだが、曲展開はアクティヴィティ溢れるメロディック・プレイと叙情性あるメロディーある曲の取り交ぜたアルバム構成で変化に富んでいる。
 しかし、自然の情緒ある世界や心情の表現の哀愁ある世界の表現である曲が私にとっては納得の世界であって、ダイナミック・スウィギング・アクションを求めた曲では、トリオとしての何かジャズの不思議な味わいにもう一歩満足感が無かった。例えば、M8."Free At Last"などでも、あらゆる種類の解放感を祝う曲と言うのだが、トリオならでの楽しさがあまり感じられないのだ。


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 そんなことから、私的に於ける推薦曲はM1." Children's Song"のどこか子供たちに愛着あるメロディーの快感、M4."Where The Ocean Meets The Shore"のソロ・ピアノで描く自然への心情などが・・
 又タイトル曲のM7."Yesterday's Future"が、やはり聴きどころで、人の心情の陰影が感じられて納得。しかしベース、ドラムスは単なる添え物で味気ない。
 その他は、M14."Misty Dawn"の神秘的な美しさに迫ろうとした印象は悪くはなかった。

 全体的な印象は端麗さとクラシック的真面目さがとこかに目立って、泥臭い人間性と言う世界には迫り切れていないし、又一方哲学的深淵さも至っていない。そんな点が究極中途半端的で、はっきり言って寺島靖国氏のお気に入りのジャズの楽しさも、スタンダードの世界が無いだけに、薄いのではないかと思ったところだ。更にトリオといってもピアノのためのトリオであって、3者で築くトリオというニュアンスが少ないところが空しいのかもしれない。
 寺島氏にとってもこのニルスのアルバムは一つのテスト的アプローチであったと思う。この後にアレサンドロ・ガラティのように何枚かのアルバムに繋がってゆくという事はないだろうと思った次第。

(評価)
□ 曲・演奏 87/100
□ 録音   87/100

(試聴)

 

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2023年7月18日 (火)

ベーラ・サクチ・ジュニア Szakcsi Jr. Trio 「Easy to Love」


精密にして時にダイナミック、洗練されたエレガントさでジャズ・スタンダードを聴かせる

<Jazz>

Szakcsi Jr. Trio 「 Easy To Love」
Hunnia Records / Import / HRcd2216 / 2023

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*Szakcsi Jr. Trio サクチ・ジュニア・トリオ :
Béla Szakcsi Jr. ベーラ・サクチ・ジュニア(Piano)
Krisztián Pecek Lakatos クリスティアーン・ペツェク・ラカトシュ(Double Bass)
Elemér Balázs エレメール・バラージュ(Drums)

録音 2022年6月7-8日

 私にとっては澤野工房の関係で弟のローベルト・ラカトシュ(ロバート・ラカトシュ)のピアノ・ジャズの方が以前から知っているその兄のベーラ・サクチ・ジュニア(ピアニスト=下)のピアノ・トリオ作品。父はハンガリー・ジャズ界の大御所ピアニスト、ベーラ・サクチ・ラカトシュで、自らもピアニストの道を選び、日本での知名度とは違って、今やハンガリー・ジャズ界のもっとも著名なピアニストの一人と評価されている。

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 そのベーラ・サクチ・Jr.がクリスティアーン・ペツェク・ラカトシュ(Double Bass=下中央)、エレメール・バラージュ(Drums=下右)をフィーチャーした「サクチ・ジュニア・トリオ」による新録音のこのアルバムは、スタンダードの演奏をメインに彼自身の曲をまじえてハンガリーにおける最高レベルのピアノ・トリオをエレガントに演じ、今回はネイティヴDSDによる高音質録音でリリースしている。このアルバムは、ハンガリー国立文化基金の支援を受けて作成されたもので、ステレオnative DSD 256にライブ録音された。

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 とにかく彼らは欧州・米国の多数のミュージシャンとの共演を続けてきており、その実力やセンスは即興へのモチーフの反映などが素晴らしく、洗練された演奏に評価は高い。

(Tracklist)

1. The Wrong Blues (Alec Wilder)
2. Hope (Szakcsi Jr.)
3. Nancy (With The Laughing Face) For Laura (Jimmy Van Heusen)
4. Easy to Love (Cole Porter)
5. A Nightingale Sang in The Berkeley Square (Manning Sherwin)
6. Private Number (Szakcsi Jr.)
7. The Wrong Blues (Alternate Take) (Alec Wilder)
8. For Heavens Sake (Elise Bretton)

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( Szakcsi Jr. Trio )

 なかなか高音質に作られたアルバムで、いわゆる一般的CD音質にても十分その音の繊細さが聴きとれる。
 演奏の方も、極めてジャズのオーソドツクスな線を繊細にしてエレガントに演じて、メロデイの流麗なる展開が快感である。

 M1."The Wrong Blues"は、ピアノが仰々しくなく軽いタッチで流れるが、リズム隊のベースの高ぶらない落ち着きとシンバルの軽いタッチが、いわゆるプロっぽい落ち着いた世界に流れる。
 M2." Hope"、M6."Private Number "は、彼のオリジナル曲、静かな展開を描きながらもドラムスを生かしたメリハリの演奏が聴ける。
   M3." Nancy"フランク・シナトラの娘がテーマの人気曲。やはり刺激を抑えた展開で明るい愛情を控えめに表現。
 M4."Easy to Love " Cole Porterの曲、ベースとドラムスの快調な精密プレイにのってのエレガントなピアノの展開が心地よい。
 M5."A Nightingale Sang in The Berkeley Square"の品格あるジャズに心休まる。ロンドンの小さな公園バークリー・スクエアにおける幸せなある夜を回顧し描く曲で美しい。
   M8."For Heavens Sake" 少々物思いの静かなバラード調の展開。ビリー・ホリディで知られる恋の歌だ。 ビル・エヴァンスも演じている。神に誓う恋の歌らしい真摯な世界。

  ピアノは非常に繊細にメロディーの美しさを流麗に見事に演奏し、三者のサウンドに洗練されたエレガントな味がある。これぞ歴史的ピアノ・トリオの真髄だとばかり演じ、その流れに聴きほれる。高音質録音で快感だ。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏 :   90/100
□   録音      :   88/100

(試聴)

*

 

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2023年7月 8日 (土)

ガブリエル・ラッチン Gabriel Latchin Trio 「 VIEW POINT」

まさに折り目正しく、正統派スウィンギン・ジャズのオリジナル曲集

<Jazz>

Gabriel Latchin Trio 「VIEW POINT」
Alys Jazz-Disc Union / Japan / DUAJ150070 / 2023

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Gabriel Latchin (piano)
Jeremy Brown (bass)
Joe Farnsworth (drums)

Recorded in London at Livingston Studios on the 5th of May 2022

 ガブリエル・ラッチン(英国、ロンドン生まれ。ピアニスト、作曲家 = 下左)は、これまでにリリースしたリーダー作3作品「Introducing Gabriel Latchin Trio」「Moon And I」「I'll Be Home for Christmas」で取り敢えず成功してきた。そしてこれらの3作品は同世代のミュージシャンと組んできたが、本第4作はメンバー一新、米ドラマーの大物ジョー・ファーンズワース(最近リーダー作品を楽しませてくれている = 下右)を迎え、ベーシストには英国のジェレミー・ブラウン(Stacey Kentとの共演で知る=下中央)というベテラン勢によるニュー・スペシャル・トリオによる作品で、全オリジナル曲集である。
 とにかく「ここ数年で登場した最高の正統派ジャズ・ピアニスト」と紹介されているガブリエル・ラッチン。シダー・ウォルトンやハービー・ハンコックに捧げた曲を含めオリジナル11曲を収録している。

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(Tracklist)

01. Says Who?
02. Prim And Proper
03. A Mother's Love
04. Train Of Thought
05. A Stitch In Time
06. Bird In The Hand
07. O Mito
08. Mr. Walton
09. Rest And Be Thankful
10. Just The Ticket
11. A Song For Herbie

Pianocloseupw   ガブリエル・ラッチンは、"オスカー・ピーターソン、アフマド・ジャマル、ビル・エヴァンス等のピアノ・トリオからインスピレーションを得て、ハービー・ハンコック、バリー・ハリス、シダー・ウォルトンの演奏を見極めたピアニストで、その演ずるところは力強く、これらの影響を完全に吸収して、彼自身のサウンドを作り上げ、作曲を通して、最高級のストレート・アヘッド・ジャズを演ずる"と高評価を得ている。
 
 確かにM01."Says Who?"からの快調なスウィングしての流れるピアノの音は心地よい。
 そしてガブリエルがこの第4作は一つの余裕をもって作り上げたという内容で、それは子供たちのために書くという個人的な感情を作曲のインスピレーションとした人間的面を見せるところの娘に捧げる美しいバラードM3."A Mother's Love母の愛"と、子供二人をテーマにした明るい展開のM2."Prim And Proper"を早々に登場させている。
 更に彼が個人的感情のオリジナル曲を堂々と展開したところには、彼が自らの心開いてゆくという一つの余裕を示しており、一方シダー・ウォルトンへのM8."Mr. Walton"、ハービー・ハンコックにM11."A Song For Herbie"などが、それぞれ自分が尊敬する先駆者に捧げているところにむしろみられる。
 又 彼は、リズムの基礎を築くブラウンのベースに、ファーンズワースの推進力のブラシワークを展開させ、リーダーとしての活発なピアノ・ソロを乗せていったM09."Rest And Be Thankful"に見るように、トリオが如何に互いに反応しながら展開するかというトリオの味をも知り尽くして見事に構築している。
 更にこの事は、M05."A Stitch In Time"では、三者の演ずるところを知らしめるべく、見事にそれぞれの演技を描く展開を忘れずに曲を構成しているところは、これまた聴きどころである。

 こんな流れの中でも全体的に決してストレート・アヘッド・ジャズの基礎を忘れず堅守しているところに恐れ入るところだ。とにかくノリよく親しみやすく、しかもメロディーは豊かであってスインギーな流れが気持ちよい。
久々に正統派ジャズというものの快感を味わえる作品にお目にかかった。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    88/100

(視聴)

 

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2023年6月17日 (土)

トーマス・フォネスベック Thomas Fonnesbaek & Justin Kauflin 「Danish Rain」

欧州美学と米国ジャズの融合による世界

Thomas Fonnesbaek & Justin Kauflin 「Danish Rain」
STORYVILLE / Import / 1018532 / 2023

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Justin Kauflin (piano)
Thomas Fonnesbaek (bass)

Recorded in Village Recording Studio March 28,29-2022

 このところエンリコ・ピエラヌンツィやジャン・ピエール・コモとのトリオとかシーネ・エイとのデュオ・アルバムでお目にかかっているデンマーク出身の気鋭ベーシストのトーマス・フォネスベックThomas Fonnesbaek (下左)のニュー・アルバムである。タイプはジャズ界の若きピアニストのジャスティン・カウフリン(下右)とのデュオで、シンプルな構成だけに彼のベースの生み出す多彩な音や流れをしっかり聴きとれるアルバムの登場だ。

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 このフォネスベック(1977年生まれ、46歳)は、ニールス・ペデルセンやラーシュ・ヤンソンに師事し、ラーシュ・ヤンソン・トリオやトーマス・クラウセン・トリオで活躍し、北欧ジャズシーンで今やなくてはならないベーシスト。テクニックは素晴らしくリズム感に富んでいて、そして師匠であるニールス・ペデルセンを思わせるメロディとハーモニーの感性が、彼独自のスタイルの基になっていると評されている。前述のシーネ・エイとのコラボ作品は、デンマーク音楽賞の「Best Vocal Jazz Release that year」を受賞したという事だが、最近のデュオ・スタイルを旨く造り上げた。
 今回の相手カウフリンJustin Kauflin(1986年生まれ、37歳)は若き米国のスーパースターのジャズピアニストで作曲家 / 教育者 /レコード プロデューサーとしての顔も持っている。彼は 病により11 歳のとき視力を失い、以降は盲目のピアニストとして活躍を続け来ていると。全米のジャズフェスティバルで最高の栄誉を獲得し、15歳にしてジェイ・シネット・トリオとしてプロとして演奏を始めたという驚きの経歴。

(Tracklist)
1.Danish Rain (Thomas Fonnesbæk) 6:27
2 Everything I Love (Cole Porter) 6:33
3 Windows (Chick Corea) 6:17
4 Falling Grace (Steve Swallow) 5:48
5 You Must Believe In Spring (Michel Legrand) 5:24
6 Cake Walk (Oscar Peterson) 5:29
7 Imagine (John Lennon) 6:45
8 Country Fried (Justin Kauflin) 4:47
9 Driftin (Herbie Hancock) 5:43

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 演ずるは、彼らのオリジナル2曲とスタンダード7曲の9曲構成。
 やっぱりデュオとなると、ベースもかなり旋律演奏にもウェイトがある。それにピアノがうまく乗って曲を美学の心で作り上げているのは、 M.7." Imagine "が典型で、かなりのインプロのウェイトも大きく力が入っている。インタープレイの面白さも見事で彼らの曲に仕上がっている。
 フォネスベックの曲M1."Danish Rain"も、意外に明るい雨。ピアノの透明感ある旋律美を生かして欧州らしい美を演じている。
 ポーターのM2."Everything I Love"は、さすがアメリカン・ジャズの流れ。
   M5."You Must Believe In Spring " 旋律美のこの曲、まずベースの旋律演奏から始まって中盤からピアノが引き継ぎ、そしてベースのアドリブが効果を発揮して、更にピアノが美しく応酬する。なかなか仕上げが旨い。
 M8."Country Fried"はカウフリンの曲。意外に陽気なところがあった。
 M9."Driftin" カウフリンのピアノはなかなかエモーショナル聴けるリズム感たっぷりだ。後半ベースが安定感に誘導し見事にデュオのハーモニーも聴ける。

 アメリカン・ジャズとユーロ・ジャズの融合として面白く聴ける。やはりデュオだけあってベースの味もしっかり手に取るように聴けますね。
 フォネスベックのヨーロッパのトラッドやクラシックの歴史の上にアクロバティックな味つけが特徴の美学は、カウフリンの力強いアメリカンジャズをベースとしたところによってスリリングな味つけが増しているように感じられジャズの醍醐味が深まっていると思う。相互作用が面白い組み合わせのデュオ・ジャズ演奏だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   90/100
□   録音    :    87/100

(試聴)  "Imagine"

 

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2023年6月12日 (月)

ガブリエラ・ガルーボ Gabriela Garrubo 「 Rodando」

異様な世界を優しい美しい声で迫ってくるのだが・・・・

<contemporary Jazz>

Gabriela Garrubo 「Rodando」
NXN RECORDINGS / Import / NXN 2017 / 2023

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GABRIELA GARRUBO (vocals and piano)
JOHANNES AAGAARD (g)
NILS HENRIK SAGVAG (b)
CATO LYNGHOLM (ds)
AUDUN HUMBERSET (per)
VETLE JUNKER (synth,g)
JONAS HAMRE (sax)(track 2,7 and 8)
OLAV IMERSLUND (b)(track 9 and 10)
CARMEN BOVEDA (cello) (track 8)

Produced by
VETLE JUNKER and GABRIELA GARRUBO

324438670_1282808392652165_1w   ブラジル系ノルウェー人のシンガー、コンポーザーのガブリエラ・ガルーボGabriela Garrubo(年齢不詳、かなりの経験豊富な実力者のようだ)の初アルバム。我々には初お目見えで前知識もなく聴いたのだが、ノルウェー国内のライヴ・シーンではその美しい歌声と、モダン・ノルウェー・ジャズ、ブラジルの80年代ポップス、そしてボサノヴァを絶妙にブレンドしたサウンドということで結構評判を呼んでいたようだ。
   ガブリエラに関する情報はまだ殆ど入っていないが、シンガーであると同時にピアノを演ずるようだ。ベルゲンのグリーグアカデミーで学び、2021年から2022年にかけて、プロデューサーのヴェトルユンカーとこのデビューアルバム「Rodando」の制作で頑張ってきたと。彼らは一緒になって、モダンで新鮮なサウンドとレトロな連想のバランスをとるユニークなリスニング体験を生み出したと評価されている。

 なおこのアルバムのレーベルNXN Recordingsは、ノルウェーのクロスオーバープロジェクトをリリースするために2019年にオスロに設立されたもの。目的は、確立されたジャンルに留まるのでなく、探求し、挑戦する、興味深く革新的で独創的な音楽を出すことのようで、ネオクラシック、アンビエント、ジャズ、現代音楽を目指しているようだ。どうも「クールな北欧サウンド」というところにあるようだが。

(Tracklist)

1. Dirá
2. A chave
3. Stars
4. Um dia
5. Caqui
6. Everything
7. Não
8. Bells
9. Trees
10. O mundo

  ガブリエラ・ガルーボの歌声はなかなかソフトで美声ですね、現代の北欧ジャズとブラジルの80年代音楽とボサノバからの影響の曲というだけあって、M1の短い導入からM2."A chave"が歌い上げられるが曲が異様。全体はポルトガル語と英語で歌われるようだが、言葉が解らなく曲タイトルの意味も解らないのでちょっと大変、途中からサックスが入ってジャズっぽくなった。

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 M3."Stars"はシングルカットされた曲で注目曲。モダンで新鮮なサウンドとレトロな連想のバランスをとるというちょっと意味不明世界で難解だが、彼女の優しく描く声に魅力は伝わってくる。バツクの演奏は軽快で多彩。
 M4.、M5.は、がらっと変わってラテンっぽい雰囲気、ギターのバックで転調して迫ってくる。
 M6."Everything" ソフトな美声で結構説得力あるところが聴きどころ。このあたりは抵抗なく美声の世界に入れる。
 M7.、M8.、M9.それぞれの曲、良く解らない世界だが、不思議に聴いてしまうところが面白い。
 M10."O mundo"もシングルリリースしているようで、ピアノの美しい音としっとりした美声で聴き応え十分、途中でリズムの転調があってラテンの雰囲気も。

 まあ、ユニークと言えばユニーク、ノルウェーのトラッドぽいところも聴ける為だろうか、ノルウェーのジャーナリストは彼女のパフォーマンスが素晴らしいと評価しているのは事実のようだ。まあこのまま迫られても我々には難しいので、ちょっとスタンダード曲を聴かせてくれての展開だとついて行けるといった世界。幸いに親近感の持てる声の質であり一度聴いてみる価値はある。

(評価)

□ 曲・歌 : 87/100
□ 録音  : 85/100

(視聴)

 

 

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2023年6月 2日 (金)

エレオノラ・ストリーノ Eleonora Strino Trio「 I GOT STRINGS」

実力派女流ギタリストの何よりも心地よい演奏で素晴らしい

<Jazz>

Eleonora Strino with Greg Cohen & Joey Baron
「I GOT STRINGS」

CAM JAZZ / Import  / CAAMJ7971 / 2023

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Eleonora Strino (guitar)
Greg Cohen (double bass)
Joey Baron (drums)

Recorded in Berlin, Germany in November 2021 at Emil Berliner Studios

  イタリア人女流ジャズギタリスト:エレオノラ・ストリーノEleonora Srino(下左)のデビュー・アルバムがリリースされた。今回はベース(グレッグ・コーエン(米1953-)下中央)とドラムス(ジョーイ・バロン(米1955-)下右)とのトリオ作品である。

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 彼女は 10 代の頃からギターを弾き始め、初めてジム・ホールとビル・エヴァンスの演奏を聴いたときから、ジャズギタリストになりたいと思い、ナポリの音楽院で学び、その後ヴァン・アムステルダム音楽院で経験を積み腕を磨く。そして彼女は、イタリアの作曲家ロベルト・デ・シモーネのオーケストラのファースト・ギターとしてプロとしてのキャリアをスタートさせたと言う経歴の紹介がある。
 そしてその後彼女は既に数多くのコラボを重ねヨーロッパや多くのフェスティバルで演奏してきていて、ここに初アルバム・リリースと言えども、現在、多くのソロプロジェクトを持っている。又、彼女はイギリスの出版社ファンダメンタル・チェンジズのためにギターの取扱説明書を書いており、アメリカで配布される予定あると。更に一方、彼女自身のギターと声をフィーチャーしたソングライターとしてのファーストアルバムに取り組んでいる模様でもある。
 いずれにしても、これは国際コンクール受賞歴のあるギタリストであり作曲家でもある大物のデビュー・アルバムとして注目だ。

(Tracklist)

1.I Let A Song Go Out Of My Heart 7:49
2.Somewhere Over The Rainbow 6:16
3.I Got Rhythm 4:04
4.Il Postino 5:30
5.I Got It Bad And That Ain’t Good 5:47
6.It Don’t Mean A Thing 3:28
7.Estate 4:58

  なんと言っても、聴く者に気持ちよく聴かせるところがいいですね。スタンダードを彼女らしい編曲の妙で迫ってくる。

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 M1."I Let A Song Go Out Of My Heart"は、ジャズはこうなんだと、スウィングして演じてくれる。中盤のベース・ソロを交えての演じ合いが楽しい。
 M2."Somewhere Over The Rainbow "多彩な編曲を成している割には難しく聴こえないところがいい。映画全盛期の始まる1939年の映画『オズの魔法使い』でジュディ・ガーランドが歌ったハロルド・アーレンの曲「虹の彼方に」で、あの優しさを失わず聴かせるところが憎い。
 M3."I Got Rhythm "ジャズらしい高速展開にドラムス・ソロ、そしてギターのベースとのコードが秀悦。
 M4."Il Postino" 再びしっとりとメロディアスに聴かせます。
 M5."I Got It Bad And That Ain’t Good " ドラムスのシンバルで軽くリズムをとる音との交錯がいい。
   M6."It Don’t Mean A Thing" この曲のイメージを生かしての今度は軽快なシンバルの刻むリズムとのギター音との流れがにくいところ。
   M7."Estate"イタリアらしくこの曲、ボサノバ・ジャズの私の好きな"夏の出来事の恨み節"を聴かせて締める。

  ギターとベースとドラムスの組み合わせによるトリオを十分考えての曲展開も見事で、それぞれの力量が聴き応え十分。とにかく聴きやすく展開してくれるのであっという間に聴き終わってしまう感じだ。いっやーーなかなかの大型新人でした。推薦アルバム。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  88/100
□ 録音        87/100

(視聴)

*

 

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2023年5月28日 (日)

ビル・エヴァンスの発掘盤 Bill Evans 「TREASURES」

ソロ、トリオ、オーケストラとの競演が楽しめる全30曲

<Jazz>

Bill Evans 「TREASURES - Solo Trio & Orchestra Recordings from Demmark 1965-1969」
Elemental/King International / JPN / KKJ-10013 / 2023

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Bill Evans Trio (下記Tracklist参照) 
The Royal Danish Symphony Orchestra & The Danish Radio Big Band

 ビル・エヴァンスに関しては、ここではあまり取り上げてこなかった。いろいろと書くには恐れ多いし、何を隠そう、私のジャズ愛好歴史の中で、それほどのめり込むという事もなかったのも事実である。そもそも私のピアノ・トリオ好きは、極めてオーソドックスな歴史的巨匠からはスタートしていない。面白さを知ったのはフランスのジャック・ルーシェの「プレイ・バッハ」以降で1960年代のことである。とにかく私がステレオというオーディオ装置を我が物に出来たのは1960年で周囲では持っている人もいなかった。当時ステレオ録音盤のLPなど田舎のレコード・ショップにはろくになく、探して聴いた時代である。LP一枚買うという事すら自分の経済環境からは大変なことであった。そんな中でまず続いて興味を持ったのはキース・ジャレットであった。それが私のピアノ・トリオ愛好のスタートなのである。

 余談であったが、ここ20-30年の経過でも、ビル・エヴァンスものを聴くよりは、ビル・エヴァンスを聴いて育った欧州ミュージシャンの演奏ものが多かった。そんな事のひとつにはビル・エヴァンスものの録音の悪さである。今思うに彼のトリオものでは『You Must Believe In Spring』(1977年録音の近年のリマスター・HiRes盤)ぐらいが、私にとっては今でも時に聴くアルバムなのである。このアルバムがエヴァンスものの中では、ちょっと抜きん出て音も良いし演奏もいいと思っている。
 原点的には『Waltz for Debby』(1961年)を聴けば良いような気がしている。

Ucgq9036_sdu_extralarge  又、ちょっと注目は、何回かリリースしているアルバム『TRIO64』(エヴァンスとゲイリ-・ピーコックとの明るい共演が聴ける →)だが、「Verve Acoustic Sounds SACDシリーズ」としてリリースされる。これはヴァ―ヴが所有する50~60年代の名盤を中心に、最高の音質めざしアナログ復刻するプロジェクト「Verve Acoustic Sounds シリーズ」があるが、その復刻時に作成したマスターをDSD化し、「Verve Acoustic Sounds SACDシリーズ」としてのリリースが決定。SACDとして何処まで音質が良くなるか取り敢えず注目。


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 そんな最近の経過での今回のエヴァンスの新アルバムの登場だ。彼が1965-69年にデンマーク各地を訪れた際の貴重な発掘ライヴ音源CDが登場したのである。中身は2枚組でヘビーだ(同時発売LPは3枚組)。ニールス・ペデルセン、エディ・ゴメス等が参加したトリオ演奏、そしてピアノ・ソロ、更にデンマーク・オーケストラとの共演等が楽しめる。
 とにかくなんだかんだと毎年のように発掘盤のリリースのあるエヴァンスで(以前ここで発掘アルバム『Some Other Time』(HCD-2019 / 2016)を話題にしたことがあった)、追いかけていても大変だが、今回のこの盤は60年後半のものであり、やっぱり録音にはそう期待は出来ない。幸いにして時代はサブスク・ストリーミングの時代であって、早い話が特別買うことなく、それなりの音質でこのアルバムを聴くことが出来る良き時代になった。結論的には思ったよりは当時のものとしては音はライブものの録音でありながら、かなり良い方に思う。モノ録音もあるのだが、ステレオ盤としての工夫も施してあるようだ。

「Treasures」(2CD) : (Tracklist)

■(CD-1) Bill Evans Trio & Orchestra
1. Come Rain Or Come Shine (Harold Arlen-Johnny Mercer) 4:35
2. Someday My Prince Will Come (Frank Churchill-Larry Morey) 4:31
3. Beautiful Love (Haven Gillespie-Wayne King-Egbert Van Alstyne-Victor Young) 4:18
4. I Should Care (Sammy Cahn-Axel Stordahl-Paul Weston) 4:08
5. Very Early (Bill Evans) 4:39
6. Time Remembered (Bill Evans) 4:53
7. Who Can I Turn To? (Leslie Bricusse-Anthony Newley) 5:59
8. Waltz For Debby (Bill Evans) 5:58
Orchestral Suite
9. Intro (Palle Mikkelborg) Into Waltz For Debby (Bill Evans) 5:13
10. Time Remembered (Bill Evans) 3:53
11. My Bells (Bill Evans) 4:45
12. Treasures (Palle Mikkelborg) 5:24
13. Waltz For Debby [Reprise] (Bill Evans) 4:19
14. Walkin’ Up (Bill Evans) 4:17

(M1-M3)
Bill Evans (p) , Niels-Henning Ørsted Pedersen (b) , Alan Dawson (ds)
Copenhagen Jazz Festival, Tivolis Koncertsal, Copenhagen, October 31, 1965.
(M4-M8)
Bill Evans (p) , Niels-Henning Ørsted Pedersen (b) , Alex Riel (ds)
Slotsmarksskolen, Holbæk, November 28, 1965.
(M9-M14)
Bill Evans & Palle Mikkelborg
Bill Evans (p) , Eddie Gomez (b) , Marty Morell (ds)
With The Royal Danish Symphony Orchestra & The Danish Radio Big Band Featuring Allan Botschinsky, Idrees Sulieman (Trumpet) , Torolf Mølgaard (Trombone) , Jesper Thilo, Sahib Shihab (Reeds) , Niels- Henning Ørsted Pedersen (Bass) , Palle Mikkelborg - Trumpet (Featured On “Treasures”) , Arranger & Conductor Tv-Byen,
Copenhagen, November 1969.

 

■(CD-2) Bill Evans Solo & Trio
1. Re: Person I Knew (Bill Evans) 3:21
2. ’Round Midnight (Thelonious Monk) 4:38
3. My Funny Valentine (Richard Rodgers-Lorenz Hart) 4:00
4. Time Remembered (Bill Evans) 3:19
5. Come Rain Or Come Shine (Harold Arlen-Johnny Mercer) 3:16
6. Epilogue (Bill Evans) 0:34
7. Elsa (Earl Zindars) 5:52
8. Stella By Starlight (Ned Washington-Victor Young) 4:19
9. Detour Ahead (Lou Carter-Herb Ellis-Johnny Frigo) 5:40
10. In A Sentimental Mood (Duke Ellington) 4:43
11. Time Remembered (Bill Evans) 3:31
12. Nardis (Miles Davis) 3:35
13. Autumn Leaves (Joseph Kosma-Johnny Mercer-Jacques Prévert) 6:44
14. Emily (Johnny Mandel-Johnny Mercer) 5:44
15. Quiet Now (Bill Evans) 3:42
16. Nardis (Miles Davis) 8:06

(M1-M6)
Bill Evans, Unaccompanied Piano.
Danish Radio, Radiohuset, Copenhagen, Late November, 1965.
(M7-M12)
Bill Evans (p) , Eddie Gomez (b) , Alex Riel (ds)
Danish Radio, Radiohuset, Copenhagen, Late October, 1966.
(M13-M16)
Bill Evans (p) , Eddie Gomez (b) , Marty Morell (ds)
Stakladen, Aarhus, Denmark, November 21, 1969.


 ノルウェーのジャズ・ミュージシャン、オーレ・マティーセンのプライベート・コレクションから厳選されたモノと言うが、本作は1965年、66年、69年に演奏旅行のためデンマークを訪れた際の各地でのライヴ演奏が収められている。

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🔳CD-1 (M1-M3) の1965年10月の演奏はコペンハーゲン、チボリのコンサートホールで行われた「コペンハーゲン・ジャズ・フェスティバル」に出演し地元ミュージシャンとのトリオ。 “Waltz For Debby” が当時の注目か。
 M9からは好き嫌いは別にしてオーケストラとの競演。ビル・エヴァンス (p) 、エディ・ゴメス (b) 、マーティ・モレル (ds) のトリオがデンマーク王立管弦楽団と更にトランペッター&アレンジャーのパッレ・ミッケルボルグが指揮するデンマーク・ラジオ・ビッグ・バンドと競演した注目音源。オーケストラのイントロから始まり(管楽器ビック・バンドがちょっと余分か)、途中から エヴァンスのピアノが絡む“Waltz For Debby”は注目。エヴァンスのピアノのメロディーが始まると、オーケストラも静かで聴きやすい。 この “Waltz ForDebby” はRepriseという形で今度はトリオの演奏を前面にバックにオーケストラが絡むという別アレンジもある(M13)。いずれにしてもピアノがオーケストラに埋没しないで良かった。さらにM8のトリオものと3バージョン聴けるところが嬉しい。

🔳CD-2 (M1-M6) には1965年11月にコペンハーゲンに訪れた際のピアノソロが6曲。 “My Funny Valentine” のこの曲のエヴァンスによるピアノソロ演奏は初めてらしい。
 M7からはエディ・ゴメス (b) 、アレックス・リール (ds) のトリオ演奏で1966年のコペンハーゲンもの、M13からは1969年にエディ・ゴメス (b) 、マーティ・モレル (ds) のトリオがオーフスで演奏した音源。おなじみ“星影のステラ”、勢いのある"枯葉" 、別編成のトリオでで二種の“Nardis” など聴き応えある。

 なかなか多彩で面白いアルバム。音質も私が思ったよりはかなりのリマスター苦労もあったと思うが、放送用音源らしく良好だった。そんな意味でブックレットも充実しているようで、取り敢えずお勧めアルバムである。

(評価) 
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     83/100

(参考視聴)

 

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2023年5月24日 (水)

[懐かしのアルバム] ハン・ベニンク  Han Bennink - Michiel Borstlap - Ernst Glerum 「3」

フリー・ジャズの新展開・・・自由なインプロヴィゼイションの競演

<Jazz>

Han Bennink - Michiel Borstlap - Ernst Glerum 「3」
VIA Records / Import / CD 992029.2 / 1997

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Michiel Borstlap (p)
Ernst Glerum (b)
Han Bennink (ds)
1997年5月1日録音

  25年前のアルバムである。ピアノ・トリオ・スタイルであるが、リーダーは鬼才ドラマーのハン・ベニンクだ。私はピアノ・トリオ好きであるので、ピアノ好きという事になるのかもしれないが、ピアノ・ソロものより圧倒的にトリオものが好き、それはやっぱりドラムスの演ずる音の世界があっての事であろう。時にエネルギーが高まってくると聴きたくなるのがドラムスの世界なのである。
 このところ、どうも私の好みからはCDアルバムのリリースは低調。従ってストリーミングなどでいろいろと聴いてはみるが、やっぱり懐かしのCDが聴きたくなる。そんな中で、当時聴いたよりも今の方が納得できるアルバムの一つがこのアルバムなのだ。そんな訳で、このブログは2006年スタートで、それ以前のもので改めてここに記録しておきたいので取り上げることとした。

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 リーダーのドラマー・ハン・ベニンクHanBennink(上左)は、1942年オランダ生まれで、今も健在と思うが今年で81歳だ。このアルバムは1997年録音であるので当時彼は55歳、そんな円熟期の演奏が圧巻で迫ってくるのが聴けるアルバムなのである。
 とにかく彼は実験的な演奏スタイルで知られていた。従来のジャズ・ドラム演奏から非常に型破りなフリー・インプロヴィゼーションまで多岐にわたり、ステージ上の椅子、音楽スタンド、楽器ケース、そして自分の体(口や足)を奇妙に有効に使ったり、パフォーマンス・スペース全体(床、ドア、壁)を使っての音も取り入れていたという鬼才である。
 ボルストラップMichiel Borstlap(1966年生まれ)(上中央)はオランダのピアニストで、ジャズやクラシック音楽の要素を融合させた独自のスタイルで活躍している。過去に(1996年)彼の作曲「魔法の記憶」は、権威あるアメリカのセロニアスモンク/ BMI作曲家賞を受賞した。
 グレラムErnst Glerum(1955年生まれ)(上右)はオランダのベーシストで、ジャズや即興演奏の分野で幅広く活動していてアムステルダム音楽院の教官。
 こんな3人の集まったトリオ、如何に激しいフリー・インプロの世界か想像できるところであろう。

(Tracklist)
1 Round Midnight (Monk)
2 Huub (original)
3 Erroll   (original)
4 Take The A-Train (Strayhorn)
5 Masquelero (Shorter)
6 I Love You So Much It Hurts (Tillman)

  ライブ録音盤である。そして収録されたサウンドはクリアで聴き応えあり、かなりリアルだ。又ドラマーがリーダーということもあるのか、ドラムスの音がピアノ、ベースに劣らず迫力をもってして聴ける。とにかく圧巻。三者の共演というより競演である(笑い)。

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   M1." Round Midnight"は、冒頭のピアノの比較的弱い音の早弾きから、ドラムはブラッシでスネアドラムを叩く音で展開しうねるような強弱で、時にシンバルを入れ、ベースは落ち着いたメロディーを流す。流れとしてはドラムスが印象深い。
 M2." Huub"になって、ベースの軽快なリズムにピアノは前衛性を増し、ドラムスとともインプロが冴え渡る。
 M3."Erroll"ドラムスとピアノの競演の極み。終盤ドラムス・ソロが楽しめる。
 M4."Take The A-Train" 時に入るピアノの早弾きによる懐かしの旋律にほっとする。
 M5."Masquelero"  ここでも、ピアノとドラムスの競演が華々しく展開。ピアノのクラシック・ジャズ演奏と前衛性の競合がお見事。 
 M6." I Love You So Much It Hurt" ゆったりとピアノとドラムスの掛け合い。スティックによるリズムが冴え、シンバル音の響きが強烈。

 所謂オーディオ機器の性能を聴こうとするにも面白い。メロディーというより音が溢れて聴ける。鋭い音と激しい音とが入り乱れるが決してうるさいという感覚にならないところが、お見事。
 ベニンクのドラムス演奏は恐れ入るほど堪能できる。そして聴きどころは、ピアノの前衛的演奏の妙、ドラミングから押されての自由感覚から生まれる世界は見事。このアルバムを成功させた大きな因子であろうと思うところ。
 とにかくフリー感覚いっぱいのトリオ演奏だ。リリース当時、70年代のフリー系ピアノ・トリオが持っていたそれまでの「ザ・ピアノ・トリオ」という形を破壊した自由なインプロヴィゼイションと三者の相互関係における自由さが評判だった。
 今でも楽しめるアルバムである。

(参考) Han Benninkリーダー・アルバム
Instant Composers Pool (1968年、Instant Composers Pool) 
Derek Bailey & Han Bennink (1972年、Ictus) 
A European Proposal (Live In Cremona) (1979年、Horo) 
『円環の幻想』 - Spots, Circles, and Fantasy (1988年、FMP) 
『3』 - 3 (1997年、VIA Jazz) #
Jazz Bunker (2000年、Golden Years Of New Jazz) 
Free Touching (Live In Beijing At Keep In Touch) (2004年、Noise Asia) 
Home Safely (2004年、Favorite) 
3 (2004年、55 Records) #
BBG (2005年、Favorite) #
『Monk Vol.1』 - Monk Volume One (2008年、Gramercy Park Music) #
Laiv (2010年、Bassesferec) 

(#印 with Michiel Borstlap , Ernst Glerum)
 
(評価)
□ 選曲・演奏  90/100
□ 録音     90/100

(試聴)

*

 

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