ユーロピアン・ジャズ

2024年10月31日 (木)

エレン・アンデション Ellen Andersson 「Impressions of Evans 」

スカンジナビアのジャズ界の歴史を顧みて、ビル・エヴァンスを歌い上げる

<Jazz>

Ellen Andersson 「Impressions of Evans 」
Prophone Records / International Version / PCD344 / 2024

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Ellen Andersson エレン・アンデション(vocal )
Heine Hansen ハイネ・ハンセン(piano )
Thomas Fonnesbæk トマス・フォネスベク(bass )
Andreas Svendsen アンドレーアス・スヴェンセン(drums )
Bjarke Falgren ビャーケ・ファルグレーン(strings )

録音 2022年12月 V-Recording(コペンハーゲン)

61xl4gjx8l_ac_slw    このアルバムは、4年前(2020年)にここで取り上げた前作『You Should Have Told Me』(PCD204, 2020)が好評であったスウェーデンのヴォーカリスト、エレン・アンデション(1991年生まれ、下左)の新作(3枚目)である。
  それはなんと60年前の1964年に、ビル・エヴァンスとスウェーデンの女性ヴォーカリストのモニカ・ゼッタールンドMonica Zetterlund(下右)が共演し、スカンジナビアのジャズヴォーカル界に新しい時代を生み出したと評価される私の愛聴盤にして歴史的名盤のM.Zetterlund&B.Evans『Waltz For Debby』(UCCU-5904、末尾参照、右上)を記念し、エヴァンスとゼッタールンドをトリビュートした一枚なのである。

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 アンデションは、2016年の『I'll Be Seeing You』(PCD165)でデビューして以来、私の注目株であったが、「好奇心旺盛な若さと成熟した経験豊富な2つの声を1つにまとめた独特の歌声」として注目されたが、私的には「あどけなさと大人の味の2面」といったところにあって、その表現力には芸術的深みにも通じて、まさに稀有な存在だ。そして2020年の2ndアルバム『You Should Have Told Me』は、スウェーデンのグラミー賞にノミネートされたほか、スカンジナビアの歴史的ジャズ女性歌手を記念した「モニカ・ゼッタールンド賞」を受賞した。その為なのか、本作ではゼッタールンドをトリビュートすることになったのかと推測するのだ。

 このアルバムは、「北欧の自然の牧歌性」と「ニューヨークという都会」の相対する世界をどのように描くのか、ビル・エヴァンスの曲をどのように歌い上げるのか等と、面白い面の注目点がある。

(Tracklist)

1. Jag vet en dejlig rosa(Traditional)
2. Monicas vals(Bill Evans/Beppe Wolgers)
3. Very Early(Bill Evans/Carol Hall)
4. Summertime(GeorgeGershwin/DuBose Heyward/Dorothy Heyward/Ira Gershwin)
5. My Bells/Childrenʼs Play Song(Bill Evans/Gene Lees)
6. Vindarna suska uti skogarna(Traditional)
7. Some Other Time(Leonard Bernstein/Betty Comden/Adolph Green)
8. Just You, Just Me(Jesse Greer/Raymond Klages)
9. Om natten är alla änkor grå(Olle Adolfphsson/Carl Fredik Reuterswärd)
10. Blue in Green(Bill Evans/Miles Davis/Hansen)

 いっやーー、驚きました。このアルバムもアンデションは全くゆるぎなく自己のヴォーカル世界を貫いている。
 M1."Jag vet en dejlig rosa"(美しいばらを知っている)は、スウェーデンのトラディッショナルらしく、アルバム・ジャケのイメージでの非常に牧歌的な歌で心に響く。
 そしてエヴァンスの曲M2."Monicas vals(=Walz for Debby)"(モニカのワルツ)をゼッタールンドが歌ったのだが、それをアンデションがスウェーデン語歌詞で歌うのだ。異質の両曲であるが、彼女のささやきに近い歌声で、情感と歌心溢れる繊細さでどこか親密感を感じさせるヴォーカルを聴かせてくれる。
 そしてM6."Vindarna suska uti skogarna"(風が森でため息をつき)もトラディショナルであるが、バックの演奏も美しく、北欧の世界が脳裏をかすめる優しいヴォーカルが印象的。
 とにかくビル・エヴァンスの4曲、そしてガーシュウィン(M4.)やバーンスタイン(M7.)の曲が、ゼッタールンドが歌い上げたのと異なって、まさにアンデション節になっているのが驚きであると同時に恐れ入りましたというところだ。

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 印象に残る曲として、ウッレ・アドルフソンのM9."Om natten är alla änkor grå"(夜、未亡人はみんな灰色なの?)は、ゼッタールンドの大切なレパートリーだったようだが、共感をこめ、美しいピアノをバックに説得力ある情感ある曲に仕上げてあり、エヴァンスとマイルス・デヴィスの曲M10."Blue in Green"より印象的だったのが驚きだ。

 いずれにしても、「エヴァンスの印象」と題して、ここに歌い込んだ挑戦に喝采すると同時に、その仕上げにて、尊敬するモニカ・ゼッタールンドの真似に終わらず、一歩も妥協せずに自分の世界を貫いたアンデションにお見事と言いたいのである。

(参照)
album『Waltz for Debby』(monica Zetterlund with Bill Evans 1964)
-Tracklist--
1.Come Rain or Come Shine
2.Jag vet en dejlig rosa
3.Once Upon a Summertime
4.So Long Big Time
5.Monicas vals (Waltz for Debby)
6.Lucky to Be Me
7.Vindarna sucka uti skogarna
8.It Could Happen to You
9.Some Other Time
10.Om natten

 

(評価)
□ 編曲・歌  90/100
□ 録音    87/100

(試聴)

 

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2024年10月16日 (水)

メラニー・デ・ビアシオ Melanie De Biasio 「Il Viaggio」

移民者であるルーツに自分を見つめる探索の旅から生まれた世界

<Electronic,  Jazz,  Pop>  (Style : Easy Listening, Ambient)

Melanie De Biasio 「Il Viaggio」
Pias Le Label / Germany / PIASLL202CD / 2023

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Malenie De Biasio : Vocals,Flute,Lansdcapes,Guitar 
Pascal N.Paulus : Keyboards, Clavinet, Rjhodes,Guitars,Drums etc.
David Baron : Wurlitzer,Mellotron,Synthetisers,Felt Piano
Rubin Kodheli : cello

   私が2014年の2ndアルバム『No Real』以来注目している女性ジャズ・SSW/Singer のメラニー・デ・ビアシオの5作目のアルバム。これは昨年末にリリースされたが、取り上げるのをためらって今になってしまった。過去のアルバムはやはりここで考察・悪戦苦闘したのだが、それにも増してこのアルバムとはある種の覚悟を持って入って行かないと対応が難しい。と、言うのも過去のアルバムを聴きこんでのイメージから発展しないと、まともな理解が出来ないところにあるからだ。

Melanie_de_biasio_credit_jer_me_witzw  メラニー・デ・ビアシオ(Melanie De Biasio、1978年7月12日 - )は、ベルギーのジャズ歌手、フルート奏者、作曲家。ベルギー人の母とイタリア人の父の間にシャルルロワで生まれた。3歳からバレエを習い、8歳からウエスタン・コンサートフルートを習い始める。ニルヴァーナ、ポーティスヘッド、ピンク・フロイド、ジェスロ・タルなどのロック・グループのファンだった彼女は、15歳のときにしばらくの間ロックバンドに参加していた。ブリュッセル王立音楽院で3年間の歌唱学を学んだ後、彼女は最高の栄誉を持つ一等賞を受賞。2004年、ロシアでのツアー中に、深刻な肺感染症にかかり、丸1年間歌唱能力を失った。この間、彼女は特徴的なささやき声の詠唱を発達させた。

 彼女のルーツはジャズだが、長年ジャズを、または少なくとも純粋なジャズを作っていない。彼女の過去のアルバムは、2007年『A Stomach Is Burning(胃が焼けている)』、 2013年『No Deal(合意なし)』、2016年『Blackened Cities(黒く染まった都市)』 (EP、これが又かなりの問題作) 、2017年『Liles』とあって、今作は6年ぶりの第5作だった。
 このアルバム『Il Viaggio』(旅)のアイデアは、2021年に学際的な芸術祭「Europalia」がデ・ビアシオに"Trains & Tracks(列車と線路)"をテーマにするよう依頼したことから生まれたという。それをきっかけに彼女は、父方の祖父母がイタリアからベルギーへの移民のルートを再構築してみることを決意した。古いカメラと軽量の録音機器だけを武器にフィールドレコーディングを行ったメラニー・デ・ビアシオは、イタリアのアブルッツォ州(下写真のような高原や山岳地帯が多い=snsより借用)にある小さな山間の村レットマノッペッロに一人で定住した。そしてそこから家族の出身地であり、子供の頃に夏を過ごしたドロミテを旅した。この旅こそが彼女の内省的な姿に、又それだけでなく、この作品作りに中心的な影響をもたらしたというのである。

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Disc1
Lay Your Ear To The Rail
1 Lay Your Ear to the Rail
2 Nonnarina
3 Il Vento
4 We Never Kneel to Pray
5 I'm Looking for
6 Mi Ricordo Di Te
7 Chiesa
8 Now Is Narrow
9 San Liberatore
Disc2
The Chaos Azure
10 The Chaos Azure
11 Alba

 このアルバムは、彼女の「芸術的進化と音楽技術への献身の証」だと言わしめている。音楽的、肉体的、精神的な再生のための探求であり、目覚めた感情的な記憶から生まれた作品だと言う。コンクリート(楽器ではなく、生活音や騒音、川の流れや鳥の音などの自然の音を使って創作される音楽)とアンビエントが融合し、映画一シーンのような自然に恵まれた中での人間の営む静かな風景を見つめるが如くの世界に引き込まれる。これにはフィールドレコーディングとか、おそらくサウンド・コラージュも行われての曲作りだったと推測する。そして収録された11曲が、一つの世界として聴き込む必要があるアルバム造りである。さらに幸い私はイタリアの長靴のような形の国を車で南から北へ縦断した経験があるが、あの途中で見た山や高原に点在する古い村落などを見たことが、なんとなくこのアルバムに描かれる世界が見えてくるのである。

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 まずは、オープニングトラックのM1."Lay Your Ear to the Rail"から音の流れに魅了される。メラニーのバラードは、ジャズに根ざしながらも、そんなジャンルを超越した普遍的な魅力を持っており、ささやく歌詞が、移民の安堵のない不安定な荒涼たる世界にすぐに引き混まれてしまう。
 そしてM2."Nonnarina"に入ると、いかにも親密な人間の姿が浮かび上がるが如く彼女の歌が響く。そしてM3."Il Vento"では深遠な世界に沈み込む。
 そしてM4." We Never Kneel to Pray"においては祈りの世界に導いている。
 M5."I'm Looking for"のギターの響きは、決して明るい安堵の世界でなく暗雲が広がるような展開に。しかし続くM6."Mi Ricordo Di Te"のギターと彼女の歌声に救われる。
 しかしM7."Chiesa"では再びアルバムの冒頭に引き戻される。不安に満ちたこの世界こそが、彼女の発見した現実なのかもしれない。彼女の声がアンビエントな空間に響く。
 M10."The Chaos Azure" のチェロの響きは深層心理への響きが感じられる。M11."Alba"はミニマル奏法で永遠なる大地と自然と人間の営みの世界からの別れを描くのか、是非聴いてほしい18分の世界。

 こうして彼女のルーツを探索する旅が進行し、果たして得られたモノは何かは私のような聴く者には解らない。ただシンセの響きに、彼女の不思議な歌声、そしてギターが異様な世界を描き、彼女のフルートが深遠な人間集団を表現する。単なる回顧に終わらない彼女の世界の複雑性が深く印象に残るのである。
 このアルバムは、ジャズ、オルタナティブ、チルアウト(電子音楽のスローテンポなさまざまな形式の音楽を表す包括的な言葉として)のジャンルが調和して融合しており深みのある世界は抜きんでている、不思議にして複雑であるが普遍的な聴覚体験をさせてもらうことが出来る。これには、Pascal N.Paulus (Key, Guitar 下左)とDavid Baron(Mellotron,Synthetisers 下右)の力も大きいと推測している。


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  不思議に何度聴いても飽きない、それは歌詞の意味がまったく解らないところにあって、それがむしろ聴く者の個人の世界に一つの空想空間を築く様に誘導してくれるのだ。私のこのアルバムとの格闘はまだまだ続いている。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  95/100
□ 録音      88/100

(試聴)

*
"Lay Your Ear To The Rail"

(解説) イタリア・アブルッツォ州   (snsを参考にした)
 ローマの東に位置するイタリアの州で、アドリア海沿岸とアペニン山脈に面しています。内陸部には険しい山岳地帯が広がり、多くが国立公園や自然保護区に指定されている。丘の上に築かれている町は歴史が古く、中世やルネサンス時代にまでさかのぼる。州都は城壁都市のラクイラですが、2009 年に地震が発生し被害を受けた。州の65%が山岳地帯で、アドリア海とアペニン山脈の間には丘陵地帯があり、平地はわずか1%しかない。中央イタリアに位置していますが、1860年にイタリア王国に統一されるまではナポリ王国の領土であったため、歴史的にも文化的にもイタリア南部に近いと言える。山岳が多いこともあり人口密度が低く、他の南イタリアの州同様経済は遅れており、戦前まではイタリアで最も貧しい州の一つでした。1960年代以降は、首都ローマとアブルッツォを結ぶ高速道路の完成を契機に工業化が進みました。ドウ畑は海と山に挟まれた丘陵地帯に広がっている。基本的に夏は暑く乾燥し、冬は温暖で雨が多い地中海性気候だが、内陸部の標高の高いエリアは冷涼です。ただ、アドリア海から内陸に入るとすぐに丘陵地帯で、30〜50kmで山岳地帯となるため、ほとんどのブドウ畑は海と山の両方の影響を受ける。

 レットマノッペッロ(Lettomanoppello)は、イタリアのアブルッツォ州に位置する小さな村。自然豊かな環境に囲まれた村で、特にマイエッラ国立公園の一部に位置しているため、ハイキングや自然愛好家に人気の場所。村自体は人口が非常に少なく、歴史的な建造物や教会が点在しています。主な見どころの一つとして、石材の加工で知られるこの地域特有の建築物や彫刻があり、古くから採石業が盛ん。特に、白色の石灰岩「マイエッラ石」がこの地域で採れ、伝統的な建物や彫刻に使用されている。住民は、地域の伝統や文化を大切にしており、村では小さな祭りやイベントが開催されることもある。アブルッツォ州全体としても、豊かな食文化があり、特にパスタやワイン、チーズなどが有名です。歴史的には、レットマノッペッロは中世からの村であり、その歴史を今も感じることができる静かで魅力的な場所。

 

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2024年10月 2日 (水)

クレア・マーティン Claire Martin 「Almost in Your Arms」

充実感たっぷりのヴォーカルで説得力十分

<Jazz>
Claire Martin 「Almost in Your Arms」
Stant Records / Import / XSTUCD24062 / 2024

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Claire Martin クレア・マーティン (vocal)
Martin Sjöstedt マッティン・ショーステット (piano) (maybe organ on 05, 09, 10?)
Niklas Fernqvist ニクラス・フェーンクヴィスト (double bass)
Daniel Fredriksson ダニエル・フレードリクソン (drums) (percussion on 04, 05)

guest musicians 
Karl-Martin Almqvist カール=マッティン・アルムクヴィスト (tenor saxophone on 02, 06)
Joe Locke ジョー・ロック (vibraphone on 01, 07, 10)
Mark Jaimes マーク・ハイメス (guitar on 04, 10?, 11)
Nikki Iles ニッキ・アイルズ (accordion on 04)
Charlie Wood チャーリー・ウッド (vocal on 02) (voice≒narration on 07)
James McMillan ジェイムズ・マクミラン (trumpet, flugelhorn on 02, 05, 09, 10) (keyboard, programming on 02, 04, 05, 06, 07, 08, 09, 10, 11)

2024年1月24-26日 Quiet Money Studios (英国)録音

Imagesw_20240928191801  円熟味を増してきた英国のベテラン女性ジャズ・シンガー=クレア・マーティン(1967年英国サウス・ロンドンのウィンブルドン生まれ→)の、デンマークStunt Recordsからの4作目となるアルバムがリリースされた。本盤は、過去にも共演しているスウェーデンのマッティン・ショーステット(p下左)のピアノ・トリオ(ニクラス・フェーンクヴィスト (double bass下中央)、ダニエル・フレードリクソン (drums下右) )によりバックを固めている。

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 そして注目は、更に多くのゲスト・ミュージシャンが参加している。スウェーデンのサクソフォン奏者カール=マッティン・アルムクヴィスト、アメリカのヴァイブ奏者ジョー・ロック、イギリスのギタリスト、マーク・ハイメス、イギリスのここではアコーディオン演奏しているニッキ・アイルズなど、更にアメリカのオルガニスト&ピアニスト、チャーリー・ウッドはヴォーカルで参加。イギリスのジェイムズ・マクミランがトランペット、フリューゲルホルン、キーボード、プログラミングを担当しています。

 そして今回の選曲は、ミュージシャンとプロデューサーを務めるジェイムズ・マクミランと共にクレア・マーティンが選曲し、ポピュラーとジャズの幅広いナンバーを取り上げている。  彼女は、2018年「ベスト・ヴォーカリスト」賞を含め、過去に英国ジャズ賞(British Jazz Awards)を計8回分受賞してきた英国最高のジャズ・シンガーの位置を獲得している。

(Tracklist)

01. I Feel A Song Coming On
02. This One's From The Heart
03. Almost In Your Arms
04. Apparently, I'm Fine*
05. Bitter With The Sweet
06. The Art Teacher
07. Train In The Desert
08. This House Is Empty Now
09. Water And Salt
10. September Song*
11. Do You Ever Wonder?

*印: マクミランと彼女共作とマクミランのオリジナル

  曲は、私の知らない曲が主だが、彼女の幅広い知識を反映しているレパートリーだという。それは映画音楽(M1, M2, M3)や、キャロル・キング(M5)、ルーファス・ウェインライト(M6)やマーク・ウィンクラー(M7, M11)、タイ・ジェフリーズ(M9)らの曲で、クレアが高く評価するソングライターたちの作品だそうだ。その他、バート・バカラックとエルヴィス・コステロの名コンビの書いた(M8)、そしてマクミランとクレアの共作によるオリジナル(M4)や、マクミランの曲(M10)で、オープニングからクレア・マーティンの意欲の感ずる曲群が登場する。

Dgqxjmh69344f23560d4cb0bcbbbc9568438015  私は、彼女の場合、バラード系の曲をしっとりと歌い上げるのが好きなので、まずM2."This One's From The Heart"のチャリー・ウッドとのデュオがいいですね。彼女のややハスキーであり魅力的な声が一層響いてくる。
M4."Apparently, I'm Fine"の語り聴かせる説得力が凄いし、M6."The Art Teacher"ピアノとサックスのバックに沿っての優しく歌い上げるムードも最高だ。
更に、M8."This House Is Empty Now"の歌い描く世界の物語性は、ジャズの良さを感じ取れて一流の証。
M10."September Song"のSeptemberのやや寂しさも見事。トランペットとの相性もいい。
M11."Do You Ever Wonder?" アルバム締めの曲。ベースの響きと共に、ギターの優しい調べ、そしてそれにも勝る優しい別れの歌声で、満足感がある。
バラード調以外でも、M2."This One's From The Heart"M5."Bitter With The Sweet" のような軽快な曲も貫禄の歌いまわしが見事。とにかく変な話だが、どんな曲も安心して聴けるというのが素晴らしいのである。M9."Water And Salt"は、名曲"Fever"を想わせるところがある曲だが、これもジャジーな味付けが旨い。

 このアルバムはバラード調の曲も多く、その間をリズムカルな曲でうまく繋ぐという構成が旨い。彼女の歌声は、自然体の中に潤いや温もりのある安定感に満ちていて、ハスキーと中音域の美声の味付けがうまく、しかも包容力を感じさせる。歌詞とメロディーを大切にした歌いっぷりは素晴らしく、優しい情緒豊かな節回しを聴かせてくれるが、スウィンギンな曲でのグルーヴ感もしっかりと聴かせるというジャズ・ヴォーカルの神髄をいっていると思う。これは彼女にとっても上位のアルバムと評価する。

(評価)
□ 選曲、編曲、歌  90/100 
□ 録音       88/100

(試聴)
"The Art Teacher"

 

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2024年9月27日 (金)

トルド・グスタフセン Tord Gustavsen Trio 「Seeing」

教会讃美歌を自己の思索的・瞑想的感覚に結び付けて描く深淵なる世界

<Jazz>

Tord Gustavsen Trio 「Seeing」 
ECM Records / JPN / UCCE-1210 / 2024 

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Tord Gustavsen (p)
Steinar Raknes (b)
Jarle Vespestad (ds)
 

434756619_956845876000445w    今年創立55周年を迎えたECMレコードから、我が最も愛するノルウェーの深遠なる美メロ・ピアニストのトルド・グスタフセンの記念すべき10枚目のアルバムの登場である。2023年秋に南フランスのステュディオ・ラ・ビュイソンヌでマンフレッド・アイヒャーのプロデュースの下、録音された。グスタフセンのオリジナル5曲、ヨハン・セバスティアン・バッハの合唱曲2曲、ノルウェーの伝統的な教会賛美歌、そして19世紀のイギリスの合唱曲という"Near My God, to Thee"を通して、グスタフセンは長年の盟友であるヤーレ・ヴェスペスタッド(ds)、そしてステイナー・ラクネス(double-b)と共に、ジャズ、ゴスペル、スカンジナビアの民族音楽、教会音楽をブレンドした独自の音楽を展開する。彼の言うところによると「年を重ねるにつれ、人生と音楽の本質を追求するようになった私の個人的な成長を反映している」と。

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(Tracklist)

1. 神様、私を静めてください / Jesus, gjør meg stille
2. 古い教会 / The Old Church
3. シーイング / Seeing 
4. キリストは死の縄目につながれたり / Christ lag in Todesbanden
5. いとしき主に われは頼らん / Auf meinen lieben Gott.
6. エクステンデッド・サークル / Extended Circle
7. ピアノ・インタールード:メディテーション / Piano Interlude - Meditation(瞑想)
8. ビニース・ユア・ウィズダム / Beneath Your Wisdom (あなたの知恵の下に) 
9. 主よ 御許に近づかん / Nearer My God, To Thee
10. シアトル・ソング / Seattle Song

  冒頭M1."Jesus, gjør meg stille"は、ノルウェーの穏やかで牧歌的なゴスペル(教会讃美歌)だという。かなり感情がにじみでていて、深く、静かで、精神的世界が感じられる。グスタフセンの心沈めるピアノの流れ、ラクネスのアルコのベースからピチカートへと移行して、そこにヴェスペスタッドのシンバルを叩くステック音が軽く繊細に重なって感動的な背景に美しく三者の交錯が構築される。
 続くグスタフセンの作曲M2."The Old Church"M3."Seeing"は、どちらも彼の特徴的の内省的な世界だ。前者は印象的なシンバルワークと内省的な温かみのあるベースソロが印象付ける中で、そんな雰囲気の中をピアノの旋律が静かに語る。後者のアルバム・タイトル曲のパターンは、彼の特徴である波が間をもって連続的に襲ってくるようなパターンで、哀愁に満ちた内省的にして深遠なピアノの響きの世界に連れて行ってくれる。

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 続く2曲は、グスタフセンはJ.S.バッハの古典的な美旋律世界をトリオ演奏スタイルに取り入れて美しく聴かせる。M4."Christ Lag in Todesbanden"では感傷的に彼の演奏の特徴であるルバート奏法を用いての瞑想の世界に、M5."Auf Meinen Lieben Gott"では、一転して三者のアクティブな攻めによるグルーヴ感の演出をして見せる。
 M6."Extended Circle"ベース、ドラムスの刻むリズムに乗って、ピアノがここでも波のごとく襲いつつ美メロを演じ、後半にベースの響きが物語を語るように展開する。
   M7."Piano Interlude - Meditation" ピアノの響きによる瞑想。
 M8."Beneath Your Wisdom"  過去のグスタフセンを思い起こす深く沈み込む音とメロディー、そして中盤に入ると展望が開け、最後は再び哲学的瞑想に。
 M9."Nearer My God, To Thee" イギリスのコラールが登場、ヴェスペスタッドのシンバル音が印象的で、静の中から一筋の光明が差してくるようなピアノの世界だ。
   M10."Seattle Song"グスタフセンのピアノ・ソロ曲に、ベース・ドラムスが旨くトリオの相互作用を築いて作り上げたとか。締めの曲として納得させる親密な世界を構築。

 教会讃美歌を演じつつ、それをグスタフセンの微妙な深淵な世界に繋いで見事な哀愁と真摯な美を感ずる哲学的世界を作り上げていて、やはり彼のトリオ世界は、類を見ない存在感がある。相変わらずしっかりとメロディーを尊重して描きつつ、このグループのインタープレイは、攻めというのと反対に抑制の中に於いて、三者で築き上げてゆく様はシンプルでありながら深淵にして広大な世界観を聴かせる。やはりグスタフセンものは、一時試みられたアンサンブルを楽しむカルテットものより、トリオものに私は感銘が深まる。繊細なタッチをもってゴスペルの存在に大きな意義を求め認識する壮大な一つの組曲として仕上げているところに納得感の強いアルバムであった。

(評価)
□ 曲、編曲、演奏 : 90/100
□   録音      : 88/100

(試聴)

 *

 

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2024年9月12日 (木)

ダニエル・ガルシア Daniel Garcia Trio 「Wanderland」

一筋にはゆかない曲展開、ちらっと美旋律も・・・

<Jazz>

Daniel Garcia Trio 「Wanderland」
ACT MUISC / Import / ACT9996 / 2024

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Daniel García (piano) (toy piano on 04) (vocal on 10)
Reinier “El Negrón” (double bass except 01)
Michael Olivera (drums except 01, 10) (vocal on 06)

special guests:
Gilad Hekselman (guitar on 03)
Lau Noah (vocal on 07)
Verónica Ferreiro (vocal on 11)

2024年1月12-14日スペイン-マドリードのCamaleon Music Studio録音

Imagesw_20240911230301   私にとっては初物のスペイン出身のピアニスト、ダニエル・ガルシア・ディエゴ(1983年スペインのサラマンカ生まれ)のトリオ作が、ACT より3作目としてリリース。彼は米バークリー音大でダニーロ・ペレスに師事し、現在はマドリードに本拠を置いて活動、2016年以降リーダー・アルバムも着々と発表し評判を上げてきたとか、40歳代に入ったスペイン新世代ピアニストの期待の俊英といった存在らしい。

 聴いてみると、全てガルシアによるオリジナル曲構成で、どうも一口に表現できないユーロ系の叙情派とは異なる世界だ。彼の音楽は、このヘクセルマン(B)とオリベラ(D)とは普遍の鉄壁トリオ(下写真)であり、特にこのアルバムは、本人の話としても、「人間の本質のさまざまな側面を覗くための入り口として機能し、私たちの内面の領域を垣間見ることです。それは同時に個人的であると同時に普遍的であると考えている。ここには、私たちの最も深い恐怖に立ち向かい、夢を大切にし、幻想に疑問を投げかけ、そして最終的には希望を持ち続けるための挑戦がある」と。

 音楽タイプは、故郷カスティーリャ・イ・レオンの民族音楽、フラメンコなど自身のルーツに根差したものに、自国の音楽院でクラシック、その後バークリー音楽院でダニーロ・ペレスにジャズを学び、更にロック、エレクトロニック・ミュージック、中東音楽、キューバ音楽、中世音楽、グレゴリオ聖歌を学び、それらの様々な要素が反映されたものという紹介があった。そんな背景を描きながら聴いたところである。

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(Tracklist)

01. Paz (solo p)
02. Gates To The Land Of Wonders
03. Wonderland
04. The Gathering
05. Mi Bolita
06. Resistance Song  
07. You And Me
08. Tears Of Joy
09. Witness The Smile
10. A Little Immensity (p/vo & b duo)
11. La Tarara 
12. The Path Of Life

  スタートのM1." Paz "は、ガルシアの静かに流れるピアノ・ソロでアルバム導入、おおっと思わせる美しさがある。
 M2. "Gates To The Land Of Wonders" 一変して展開の激しいトリオ演奏。
   M3. "Wonderland"アルバム・タイトル曲、ピアノとベースのユニゾンで進行し、主題のダイナミックな演奏が、イスラエルの名ギタリスト・ギラッド・ヘルクセルマンのギターが入って展開。
   M4. "The Gathering" toy pianoという不思議な音でリズムカルに展開する曲。
   M5. "Mi Bolita" ピアノの旋律がようやく美しく楽しめる。
   M6. "Resistance Song" 奇妙なリズムが流れ、3者のハーモニー演奏が見事、そしてドラマーのオリベエラのなかなか味のあるヴォーカルが入る。
   M7. "You And Me" 突然スペイン女性SSW・ラウ・ノアのヴォーカルの登場。スローで情緒たっぷりの歌声、ピアノのバックが美しい。いい曲だ。
 M8. "Tears Of Joy" ここでも美しいピアノが流れ、ベースの響きも美しく、曲は次第にドラムスと共に盛り上がる見事な展開。
   M9. "Witness The Smile" トリオの連携が見事に速攻で・・・
   M10. "A Little Immensity" ピアノとベースのゆったりとしたデュオ
   M11. "La Tarara" ゆったりと美しいピアノのメロディーでスタート、突如女性ヴォーカルが民族的音楽の様相で登場。
   M12. "The Path Of Life" 締めはトリオがそれぞれのまとめ役を演じてきちっと見事に納める。

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 いっやーーなかなか単純に一筋縄にはゆかない曲展開が信条のトリオ演奏だ。そこに時にトリオ・メンバーのヴォーカルが入ったり、ゲストとしての二人の女性の個性豊かなヴォーカルも入ったりと色彩豊かな演奏が響く。トリオ演奏はそれぞれの役割が単純でなく、特にドラムスの鋭い刺激が魅力的な役を成し、ピアノの美旋律、ベースの語る物語調も魅力ある。
リズム、ハーモニー、メロディの多様性もあり、楽曲ごとに異なる色彩を示すが、一曲一曲がきちっと仕上げてあるのだが、アルバムとしての配列の結果、何か一つのコンセプトを持った物語を聴いた印象になる。なるほど新世代トリオというスタイルがここにありというアルバムづくりに敬服だ。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 :   88/100
□   録音     :   87/100

(試聴)

 *

 

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2024年9月 7日 (土)

ヘンリック・グンデ Henrik Gunde 「Moods」,「Moods Vol.2」

デンマークのジャズ・ピアニストの北欧流美的哀愁世界とトリオ・ジャズの楽しさを描くアルバムが2枚リリース

   北欧・デンマークの2022年、2023年の近年の一手段である配信リリースによるアルバムが寺島レコードから装い新たにLPとCDでリリース。ピアノ・トリオとはかくあるべきと寺島靖国氏に言わしめるピアニストのヘンリック・グンデとイェスパー・ボディルセン(Bass)、モーテン・ルンド(drums)のトリオだ。そして何としてもCD化をと言うことであったようで、ここにその成果が結実。
 私自身は北欧のピアニストが描く世界には共感するところが多いのだが、このグンデの作品は過去に実は入手の記憶がない。寺島靖国の推薦を知ってストリーミング・サービスにより、最近この過去の配信アルバム聴いたところであった。彼らが織り成す演奏は「北欧浪漫派ならではの繊細にしてエレガントな奥深い哀愁風情をしっとりと描いてくれる」というところで、高音質のアルバムを期待していたところである。LPが今や再人気だが、私は音質的にも価格的にもCD軍配派で、CDで購入。
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 ヘンリック・グンデ・ペデルセンHenrik Gunde(→)は、1969年にデンマークのエスビヤーで生まれたジャズピアニストだ。彼はデンマークのジャズシーンで誰もが知る存在のようだ。デンマークのラジオビッグバンドや彼自身のプロジェクトGunde on Garnerなど、さまざまなフォーメーションで演奏活動をしている。このトリオ・プロジェクトは、ジャズの伝説的存在であるエロール・ガーナーのスタイルに敬意を表したもので、特にグンデは、ガーナーのスイングとエネルギーをパフォーマンスに呼び起こす能力で称賛されている。
 イェスパー・ボディルセン(Bass ↓左)は、1970年デンマーク-シェラン島のハスレヴ生まれ、モーテン・ルンド(drums ↓右)は、1972年デンマーク-ユラン半島のヴィボー生まれと、デンマークの実力派トリオである。

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 さて、そのアルバムは下のような二枚で、ジャケも配信時のモノからリニューアルされている。

<Jazz>

Henrik Gunde 「Moods」
Terashima Records / JPN / TYR1127 / 2024

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Henrik Gunde (piano)
Jesper Bodilsen (bass)
Morten Lund (drums)

(Tracklist)
1. Blame It on My Youth
2. My Funny Valentine
3. Solveigs Sang
4. Kärlekens ögon
5. I Will Wait for You
6. Bye Bye Blackbird
7. Moon River
8. Softly as in a Morning Sunrise
9. Fanølyng

 M1."Blame It on My Youth" 冒頭から光り輝くが如くの欧州でもイタリア風とちょっと違った瑞々しい端正なるタッチのピアノの音が響き、北欧独特のどこか哀感のある世界が展開。いっやー美しいですね。
 M2."My Funny Valentine"、M5."I Will Wait for You、M6."Bye Bye Blackbird"、M7."Moon River"、M8."Softly as in a Morning Sunrise"といった日本でもお馴染みのスタンダード曲が続く。これだけポピュラーだと、特徴をどのように原曲を大切にしつつ表現するかは難しいところだと思うが、メロディーを大切にしたピアノと暴れずぐっと曲を深く支えるベースが印象的。そしてM5.は"シェルブールの雨傘"ですね、ドラムスが繊細なステックによるシンバルなどの音を軽快に流し、洗練されたピアノによるメロディーは、適度な編曲を加えて、ベースの音と共に静かな躍動感を加えて、聴くものに又新鮮な感動を与えてくれる。M7.はぐっとしっとり仕上げ、M8.は、"朝日のごとくさわやかに"ですね、詩情の世界から一転しリズミカルに、軽妙な味を3者のテクニックで楽しませ、ピアノとベースも珍しく低音部でのインプロも披露し、ドラムスも最後に出る幕を飾ってジャズを楽しませる。
 録音もただただ音で圧倒するのでなく、繊細に描くところが見事で、寺島靖国が欲しがるアルバムだということが、しっかり伝わってくる。

       * * * * * * * * * * *

<Jazz>

Henrik Gunde「Moods Vol.2」
Terashima Records / JPN / TYR1128 / 2024

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Henrik Gunde (piano)
Jesper Bodilsen (bass)
Morten Lund (drums except 1)

2023年Mingus Records作品

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1. Introduction (p & b only)
2. Ol' Man River
3. Fever
4. The Windmills Of Your Mind
5. Tennessee Waltz
6. From E's Point Of View
7. Golden Earrings
8. Olivia

  さて続編であるが、1stがあまりにも見事であったので、こちらでは少々細工が出てくるのかと思いながら聴いたのだが、ここでもスタンダードと彼のオリジナルの曲との混成によって成り立たせる手法は変わっていない。アルバムはグンデのピアノによる導入曲の後、M2."Ol' Man River"のカントリーつぽい牧歌的哀歌でスタートする。
 とにかく誰もが知っているポピュラーなM5."Tennessee Waltz"を如何に聴かせるかが、寺島靖国に言わせても大きなポイントだったようだ。それだけ有名なのだから、聴く方も何かを求めるわけで、名演でもアレンジが原曲から大きく離れてちょっと残念だということも確かにあり、そんな状況下で適度にジャズ化し適度にメロディーを聴かせ、なかなかうまく処理している。まあその点は心得た処なんでしょうね。
 戻ってM3."Fever"だが、北欧の詩情性アルバムにこの曲というのは驚いた。しかし前後の曲を聴くとこの流れは必要だったことが納得できる。アルバムというのは曲の配列によるメリハリが重要なのだ。
 その他 M4."The Windmills of Your Mind"の"微妙な心境での希望"と M7."Golden Earrings"の"展望"といった未来志向の暗さから脱皮したスタンダードに加え、グンデ作曲のM1."Introduction,M6."From E's Point of View",M8."Olivia" の3曲、これらはやはり透明感あふれるピアノの旋律美にメロディ尊重派を感ずるし、ベース、ドラムスは、単なるサポート役でない対等なインタープレイを演ずるジャズ・グルーヴ感も印象的。1stから、一歩展望ある世界に踏み出した印象の2ndアルバムだった。

 究極、ジャズの難しい面の押し売りは感じさせず、ピアノの美しい世界に、トリオとしての味をうまく加えたアルバムと言って良いだろう。ヨーロッパ耽美派ピアノ・トリオの典型と現代欧州流解釈のトリオ・ジャズの楽しさを描いている。グンデの演奏にはユーロ系の北欧独特の詩情性と抒情性が独特の繊細さで描かれるが、けっしてそれだけでないジャズのハード・バッブ系のグルーヴ感を忘れないところが、やっぱりキャリアなんだろうと感じさせられた。
 

(評価)
□ 曲・演奏 :  90/100   
□ 録音        :  88/100

(試聴) 
"Blame It on My Youth" from「Moods」

*
" Tennessee Waltz"from 「Moods Vol.2」

 

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2024年8月22日 (木)

クララ・ハーバーカンプ Clara Haberkamp trio 「Plateaux」

音楽の構造に技巧の複雑性を織り込みつつ描く世界

<Jazz>

Clara Haberkramp trio 「Plateaux」
TYZART / Import / TXA24184 / 2024

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Clara Haberkamp(Piano, Vocals (Danny Boy))
Oliver Potratz(Bass)
Jarle Vespestad(Drums)

Nik9679_clara_haberkampw    ドイツ出身の女性ピアニスト・作曲家のクララ・ハーバーカンプCLARA HABERKAMP(1989-)(→)率いるピアノ・トリオの2024年新作。ピアノ・トリオは2010年に結成、ベルリンの有名なジャズ・クラブ「A-trane」などで活躍、注目を受けていて、クララ・ハーバーカンプのプロ・キャリアとしての流れようだ。彼女は若いころから「Jugend jazzt」や「Jugend musiziert」などのコンペティションで数々の賞を受賞し、その後、ドイツの国立ユースジャズオーケストラにも所属。
   日本ではあまり知られず、前作『Reframing the Moon』(2021)が高評価で聴かれたところだ。2022年には以前からのベーシストであるオリバー・ポトラッツ(下右)に、ノルウェーのヤール・ヴェスペスタッド(下左)がレギュラードラマーとして加わり、そしてこのアルバム『Plateaux』は、このメンバーの最初のレコーディングと言うことだ。
 内容は、オリジナル曲を中心に、カナダを代表するSSWのゴードン・ライトフットの"If You could read My Mind"とトラディショナル・ソング"Danny Boy"(ここでは彼女のヴォーカルを聴かせる)のカバー収録している。
 曲想はかなり独創的で、メランコリックな味付けに感情の高い情熱的な要素が入り、かなり緻密性の高い楽曲が特徴的と言われている。ユーロ・ジャズの特徴の耽美的でリリシズム溢れる作品が魅力。

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(Tracklist)

1.Cycle
2.Fantasmes
3.Plateaux
4.On a Park Bench
5.Ich bin von Kopf bis Fuss auf Liebe eingestellt*
6.Enfold Me like a Poem
7.Counter-Curse
8.If You could read My Mind*
9.Collage
10.Danny Boy*

  このアルバムは、印象としてピアノ演奏芸術を感じさせるところを感ずる世界であるが、ベースのリードが織り込まれ、そこにドラムスの響きがシンバル音なども有効に響くという世界で、ちょっと別世界のピアノ・トリオを聴く想いになる。

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 爽快なスタートをM1."Cycle"で飾る。これは曲を形作る演奏法を表したタイトルか?、冒頭から圧倒的なピアノのアルペジオ奏法が円を描くように流れる展開に、ベースとドラムスが歩調を合わせ、後半にはダスナミックなピアノに続き、ベースが特徴的に主役を演ずるところを織り込んでの流れで、演奏技法に圧倒されただならない世界を感ずる。
 そしてM2."Fantasmes"となり、ピアノの明らかにメロディックな世界に変調して、どこか不安げな印象が伴った夢の展開。
 M3."Plateaux" アルバム・タイトル曲が、次の世界に導く。
 M2., M3.を経て、M4."On A Park Bench"の瞑想的世界にたどり着いた。ぐっと"静"の世界に入り内省的、三者によるテーマの探求であり、ピアノの間をおいた美しい音の響き、トリオのそれぞれがきらめくような美を演ずる。
 M5."Ich bin von Kopf bis Fuss auf Liebe eingestellt"このセッションの奇抜性が描き挙げる曲。
 M6."Enfold Me like a Poem"ぐっと深く沈みつつピアノが美しい。抒情性の極み。
 M7."Counter-Curse"珍しく快活なドラム演奏から始まる。ベースとドラムは、ピアノが進む道をたどりつつ、支えに変化するも、緊張感を維持している。
 M8."If You could read My Mind" やはり瞑想性はここにも演じ込む。
 M9."Collage"ピアノの孤独性に、重なるベース、ドラムスにより進行する緊張感。
 M10."Danny Boy"ピアノのみの響きに彼女のヴォーカルが乗って最期を飾る驚きの緊張感の解放。

 ピアニストのクララ・ハーバーカンプがドイツのジャズシーンにある種のインパクトを与えていることが実感できるアルバムであった。曲を演ずるところに音楽の構造に技巧の複雑性を織り込みつつ、描く世界はそれと共に表現てしてゆき、更にアルバムを一つの世界として作り上げる。そこには瞑想的であったり、抒情性の世界であったり・・・スリリングな展開による危機感であったり、トリオとしてのそれぞれ役割も十分構築してその表現は見事であった。私の注目アルバム。

(評価)
□   曲・演奏  90/100 
□ 録音    88/100

(試聴)
"If You could read my mind"

*
(参考) Trio Live  2022

 

 

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2024年8月17日 (土)

ジョヴァンニ・グイディ Giovanni Guidi 「A New Day」

グイデイ・トリオとフリー・ジャズのルイスのサックスで描く世界は ?

<Jazz>

Giovanni Guidi 「A New Day」
Universal Music / JPN / Ucce-1209 / 2024

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ジョヴァンニ・グイディ Giovanni Guidi(piano)
ジェイムズ・ブランドン・ルイス James Brandon Lewis(tenor saxophone)
トーマス・モーガン Thomas Morgan(double-bass)
ジョアン・ロボ João Lobo(drums)

engineer : Gerard de Haro
Mastering : Nicolas Baillard
Cover Painting : Emmanuel Barciton
Produced by Manfred eicher

Recorded: August 2023, Studios La Buissonne, Pernes les Fontaines,France

1900x1900ggw   2013年にECMデビューを果たした、私の注目のイタリアのピアニストであるジョヴァンニ・グイディ(1985年イタリア・フォリーニョ生まれ)(→)のECM創立55周年におけるリーダー作5枚目。前作『Avec Le Temps』から5年ぶりとなるが、ECMデビュー以来10年以上のトリオに加え、アメリカの気鋭サックス奏者ジェイムズ・ブランドン・ルイスを加えたカルテット構成の注目作品。
 グイデイの作風はメロディックで感情豊かであり、静謐な瞬間と強烈な表現が交錯する独特の深遠なスタイルだ。そこが私の好むところなのだが、今回は、グイデイのオリジナル曲5曲と、Traditional1曲、Richard Rodgersの1曲という内容である。

 ここに加わったジェイムズ・ブランドン・ルイス(↓右)は、即興を重んじるアヴァンギャルドな流れやフリー・ジャズの伝統性とヒップホップ世代らしい作風で知られる気鋭のサックス奏者/作曲家だ。私はサックスなどの愛好者でないので詳しいことは解らないが、彼はハワード大学やカリフォルニア芸術大学で学び、現代音楽や民族音楽の領域にも学術的に踏み込んできたという人で、考えてみるとグイデイとの結合はちょっと興味も湧いてくるところである。

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(Tracklist)

1. Cantos Del Ocells鳥の歌 *(Traditional) 6:23
2. To A Young Student (Giovanni Guidi) 3:57
3. Means For A Rescue (Giovanni Guidi) 7:42
4. Only Sometimes*(Giovanni Guidi, James Brandon Lewis, João Lobo, Thomas Morgan) 5:48
5. Luigi *(The Boy Who Lost His Name) (Giovanni Guidi) 7:30
6. My Funny Valentine (Lorenz Hart, Richard Rodgers) 5:52
7. Wonderland *(Giovanni Guidi) 6:43
*印 Quartet

 ECMデビュー以来のトリオはさすが、乱れることのない曲想に沿ったインタープレイを展開。そしてこの作品で初のECMデビューを飾るアメリカの気鋭サックス奏者、ジェームス・ブランドン・ルイスを迎えたアンサンブルも聴き所であるが、見事なバランス感覚でのコミュニケーションにより、このトリオの深淵さ、哀愁感、静と躍動のバランスの良さ等は残された上でのアンサンブルが良い感じで展開されていた。 印象としては前作よりはゆったり感があるように感ずる。
 やはりグイディの言葉では、「我々は違った道を歩んできたから、ある意味、これはまったくのギャンブルだった。しかし『A New Day』のセッションは我々が正しかったことを証明した。トリオは新たな領域に踏み入れて、私見だが、ジェイムスは私たちと繋がるためのとてもユニークで興味深い方法を見つけた。セッションは偽りのない発見の旅だった」と、語っている。特にTSが独奏してしまうとトリオの良さがかき消されるところが良くあることだが、確かにその点ルイスは配慮しながらのTSの良さを主張していて、よいカルテットであったと言える。

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 M1."Cantos Del Ocells" スペイン北部のカタルーニャの伝統的子守歌と言われる曲「鳥の歌 」で幕を開ける。バラード調のトリオによるイントロの後、ルイスが表現力豊かなサックスで登場して、それは穏やかなやや控えめなトリオに配慮しつつバランスが見事で、聴く方もほっとして聴いた。
   このアルバムは全体的にやや沈鬱な内省的な面が描かれているが、M2、3、6はトリオの演奏。
 M2."To a Young Student”は、アルコ奏法のベースとピアノが生み出すダークなトーンにドラムスが響き、物思いの世界
   M3."Means For A Rescue" 静寂の中に描くピアノとドラムス、そしてベースが加わってなんとなく緊張感が漂ってくるトリオ演奏。
 M4."Only Sometimes" ベース・ドラムスでスタートしてのカルテット(後半にサックス)による余韻と交錯の見事な即興演奏。ここでも深遠さは相変わらず。 
 M5." Luigi"ここでもベースとドラムスのリードから、そしてピアノとサックスの印象的会話が描くどこか民族的音楽的世界。
 M6." My Funny Valentine " 唯一のスタンダード曲トリオ演奏あり、ピアノのキーストロークで広がり。グイデイなりきの独特にして繊細な解釈で訴える。
 M7."Wonderland" 締めとしてカルテットのサックスの印象が強い曲。

 ピアノ・トリオ愛好家の私にとっては、サックスの加わり方によっては、ピアノの味が消されてしまうことを恐れるのであるが、ここでは4曲に加わり、残るはピアノ・トリオ演奏で極めて納得。しかもルイスは自己のTSの加えたカルテットに於いても、ピアノの味を消さないところに助長効果としての役割と、M.4の後半にはやや暴れての自己主張も見せながら、自らの音の味付けの意味をうまく加えていて、私としてはこのアルバムは実に心地よいのであった。
 又、カルテットとしても究極ジョバンニ・グイディの世界の中での曲の仕上げは失っておらず、ベース、ドラムスの役割をも十分損なわずに描ききっていて、ルイスのTSのフリー・ジャズ感覚が、グイデイの即興的世界へのマッチングが意外に良かったと感じたところだ。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    88/100

(試聴)

*

 

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2024年8月12日 (月)

クラウディア・ザンノーニ Claudia Zannoni 「STURDUST ~ Love Nancy」

'50年代活躍のナンシー・ウィルソンのトリビュート・アルバム

<Jazz>

Claudia Zannoni 「STURDUST ~ Love Nancy」
Venus Records / JPN / VHGD-10011 / 2024

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クラウディア・ザンノーニ CLAUDIA ZANNONI - VOCAL
マッシモ・ファラオ MASSIMO FARAO' - PIANO
ダヴィデ・パラディン DAVIDE PALLADIN- GUITAR
ニコラ・バルボン NICOLA BARBON - BASS
ボボ・ファキネッティ BOBO FACCHINETTI - DRUMS

Produced by Tetsuo Hara
Recorded at Art Music Studio - Bassano Del Grappa - Italy
On March 3 & 4, 2024.
Sound Engineers : Diego Piotto
Mixed and Mastered by Tetsuo Hara
Photos by Designed by Artplan

366318949_1023126539w   イタリアのキャリア十分の歌姫クラウディア・ザンノーニ(→)がVinus Recordsからアルバム『 NEW GIRL IN TOWN』で2020年に日本デビューして以来の3作目のニュー・アルバムが、同じVenus Recordsからここにリリースされた。彼女は1990年からキャリアを積んできており、アルバム・リリースもあるが、日本では殆ど知られていなかった存在。少女時代から歌うことが好きで、特に1950年代と60年代のジャズに強い影響を受け、ナンシー・ウィルソン、アニタ・オディ、エラ・フィッツジェラルドを吸収して本格的ジャズ・ヴォーカルを学び、ベースも習得している。90年代末からプロ・シンガー&ベース奏者としてその活動を拡げてきた。
 このアルバムもナンシー・ウィルソンに捧ぐと言うモノで、溢れる愛のスタンダード・ソング集と言ったところだ。

 かっては何というかちょっとえげつないアルバム・ジャケが多かった日本のVinus Recordsからのリリースものだが、これは、それがなんとこの7月リリースであって、それが見ての通りのザンノーニの冬の恰好の写真、この暑い夏にどうもしっくりしない。収録曲が冬物でもないので、どうも対応がいいかげんというか、配慮が足りないというか、言い訳としてリリースが遅れたのであっても、その様な事への対応が準備してあっても良さそうなのに、・・・どうもいただけない。

Nww  さて、ここにザンノーニによりトリビュートされているナンシー・ウィルソンNancy Wilson(1937-2018)(→)は、アメリカのジャズおよびR&Bの歌手であり、その暖かく豊かな声で知られ、1950年代後半から活躍。スタイルはジャズだけでなく、ポップスやソウルミュージックにも影響を受けており、クロスオーバーアーティストとしても高い評価を得ている。彼女の代表的なアルバムには、「Something Wonderful」(1960年)や「How Glad I Am」(1964年)があり、「How Glad I Am」はグラミー賞を受賞。長いキャリアの中で合計3回のグラミー賞を受賞している。テレビや映画にも出演し親しまれた。
 ここでは彼女をそもそも人気者にした曲"GUESS WHO I SAW TODAY "も取り上げられている。

(Tracklist)

1 過ぎし夏の想い出 THE THINGS WE DID LAST SUMMER - (SAMMY CAHN - JULE STYNE)
2 君を想いて THE VERY THOUGHT OF YOU (RAY NOBLE)
3 君住む街角 ON THE STREET WHERE YOU LIVE (ALAN LERNER - FREDERIK LOVE )
4 ネバー・レス・ザン・イエスタデイ NEVER LESS THAN YESTERDAY (LARRY KUSIK - RICHARD ALHERT )
5 オン・グリーン・ドルフィン・ストリート ON GREEN DOLHIN STREET ( BRONISLAV KAPER - NED WASHINGTON)
6 ジス・タイム・ザ・ドリームス・オン・ミー THIS TIME THE DREAM'S ON ME (HAROLD ARLEN -JOHNNY MERCER)
7 スターダスト STARDUST (HOAGYCARMICHAEL- MITCHELL PARISH)
8 恋をしたみたい ALMOST LIKE BEING IN LOVE (FREDERICK LOEWE -ALAN JAY LERNER)
9 アイ・ウィッシュ・ユー・ラブ  I WISH YOU LOVE ( CHARLES TRENET )
10 ゲス・フー・アイ・ソー・トゥデイ GUESS WHO I SAW TODAY (MURRAY GRAND - ELISSE BOYD)
11 君の瞳に恋してる CAN'T TAKE MY EYES OFF OF YOU (FRANKIE VALLI )

  ザンノーニの歌は、極めて標準的なヴォーカルを展開している。声の質も高音も低音もそれなりの美で無難にこなす。そしてそれを見事に支えているのは、前作同様ベテラン、マッシモ・ファラオ(↓左)のピアノである。彼は以前から彼女と共演していて、呼吸はピッタリでの美しい演奏を繰り広げている。 

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 このアルバムの目的を訴えるように、オープニングのM1."THE THINGS WE DID LAST SUMMER " は、ギターと彼女のスキャットがユニゾンスタイルで明るくスタート。
 M2."THE VERY THOUGHT OF YOU" 好きな人を想って歌うしっとりとした曲、ナンシーのムードをうまく取り入れ、バックもベース、ピアノて語り聴かせ、ギターが更にムードを高めている。こうしたバラード曲はナンシーを知らしめたM10."GUESS WHO I SAW TODAY "も、なかなかいい感じだ。
 M3."ON THE STREET WHERE YOU LIVE" 「マイ・フェア・レディ」からの有名な曲を軽快に明るく、ファラオのピアノも軽快に踊る。
   M5."ON GREEN DOLHIN STREET"では、ギターとドラムスが健闘し、リズムに乗っての彼女の歌と楽しさを助けている。
   アルバム・タイトル曲のM7."STARDUST"は、誰もが歌う超有名曲。やはりこのアルバムでは出色の出来。ここでは彼女の歌唱力を見事に発揮して、ピアノの繊細にしてゆったりとしたメロディーの美しさに乗り歌い上げる。

 こんな調子で、戦後の懐かしのアメリカ・ヴォーカル曲を思い出させてくれるが、肩ぐるしいところがなく、気楽に聴くアルバムとして取り敢えず完成されている。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌  87/100
□ 録音       87/100

(試聴)

 

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2024年7月17日 (水)

シモーネ・コッブマイヤー Simone Kopmajer 「Hope」

相変わらずのスウィートにしてマイルドな歌声

<Jazz>

Simone Kopmajer 「Hope」
自主制作 /Import / SKLMR24  /2024

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Simone Kommajer - vocals
Terry Myers - saxophone
Paul Urbanek - piano
Karl Sayer - bass
Reinhardt Winkler - drums

Foto1w  過去に取り上げてきたオーストリア出身の歌姫、シモーネ・コップマイヤー(1981年生まれ)の新作、今回は自主製作版ようだ。もともと彼女の持ち味である爽やかな可愛らしさにスウィートにしてマイルドな歌声は相変わらずで聴きやすさが売り物だ。
  ここでも取り上げた評判の良かったアルバム『MY WONDERLAND』(2020)でバックを務めたTerry Myers(ts), Paul Urbanek(p)が今回もゆったりムードの演奏でシモーネの歌唱を支え。選曲は彼女自身の曲のほか、AORといわれる分野の曲からJazzまでの比較的やさしい曲で、シモーネの魅力を満たそうとした作品だ。

(Tracklist)

1. Pick Yourself Up (Dorothy Fields/Jerome Kern) (3:27)
2. Black Tattoo (Karolin Tuerk/Simone Kopmajer) (3:46)
3. Careless Whisper (George Michael/Andrew Ridgeley) (3:29)
4. Little Green Apples (Robert Russell) (4:19)
5. What A Difference A Day Makes (Stanley Adams/Maria Grever) (4:29)
6. Sittin´ On The Dock Of The Bay (Steve Cropper/Otis Redding) (4:01)
7. Amsterdam (Karolin Tuerk Paul Urbanek) (3:01)
8. Old Devil Moon (Burton Lane, E.Y. Harburg) (4:14)
9. Hope (Simone Kopmajer & Paul Urbanek) (4:02)
10. As The Night Goes By (Paul Urbanek) (4:40)
Bonus Track
11. So Faengt Das Leben An (Simone Kopmajer/Paul Urbanek) (3:13)

 彼女も年期も入ってきたので、このアルバムでは、もう少しジャズらしくなってきたかと思ったが、むしろポップス色が強くなっている感がある。その点は少々残念であったが、自主製作盤であって彼女自身の好みに準じての作風かも知れない。まあ時に気楽に聴くヴォーカルものとして良いとしておこう。

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 彼女のオリジナル曲に注目してみたが、ピアノのPaul Urbanekの協力を得ていて、アルバム・タイトル曲M9."Hope"は、AORタイプでちょっとカントリーっぽい曲だ。又M11." So Faengt Das Leben An"はあまり特徴のない曲となっている。
 M6."Sitting on the Dock of the Bay"は、オーティス・レディングの曲で有名だが、ペギー・リーなども歌っていて私にとっても最も親しみやすい曲だが、しっとりと仕上げていてこれはこれで納得。M3."Careless Whisper"ジョージ・マイケルの曲、これはまさにポップですね。本人が好きなのか、ファン・サービスか。
  ダイアナ・クラールなども歌っているM1."Pick Yourself Up"は、ちょっとジャズ・ムードでオープニング曲。ダイアナ・ワシントンの歌っていたM5."What a Difference a Day Makes"(縁は異なもの)はむしろ若々しく軽快にこなしている。

 そんな感じで、元来の彼女のソフトなスウィート、マイルドといったところを維持しながら、そろそろ円熟味もちょっと出したといった感じのヴォーカルでポップな味付けのジャズ・ヴォーカルが全編に渡って展開。ジャズ・ヴォーカル・ファンとしてはそのスタイルにちょっと物足りなさを感じたところだが、無難で広く勧められるアルバムとして結論づける。

(評価)
□ 曲・編曲・歌 :  87 /100
□   録音     :  85 /100

(試聴)
"What a Difference a Day Makes"

 

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