ジョヴァンニ・グイディ Giovanni Guidi 「A New Day」
グイデイ・トリオとフリー・ジャズのルイスのサックスで描く世界は ?
<Jazz>
Giovanni Guidi 「A New Day」
Universal Music / JPN / Ucce-1209 / 2024
ジョヴァンニ・グイディ Giovanni Guidi(piano)
ジェイムズ・ブランドン・ルイス James Brandon Lewis(tenor saxophone)
トーマス・モーガン Thomas Morgan(double-bass)
ジョアン・ロボ João Lobo(drums)
engineer : Gerard de Haro
Mastering : Nicolas Baillard
Cover Painting : Emmanuel Barciton
Produced by Manfred eicher
Recorded: August 2023, Studios La Buissonne, Pernes les Fontaines,France
2013年にECMデビューを果たした、私の注目のイタリアのピアニストであるジョヴァンニ・グイディ(1985年イタリア・フォリーニョ生まれ)(→)のECM創立55周年におけるリーダー作5枚目。前作『Avec Le Temps』から5年ぶりとなるが、ECMデビュー以来10年以上のトリオに加え、アメリカの気鋭サックス奏者ジェイムズ・ブランドン・ルイスを加えたカルテット構成の注目作品。
グイデイの作風はメロディックで感情豊かであり、静謐な瞬間と強烈な表現が交錯する独特の深遠なスタイルだ。そこが私の好むところなのだが、今回は、グイデイのオリジナル曲5曲と、Traditional1曲、Richard Rodgersの1曲という内容である。
ここに加わったジェイムズ・ブランドン・ルイス(↓右)は、即興を重んじるアヴァンギャルドな流れやフリー・ジャズの伝統性とヒップホップ世代らしい作風で知られる気鋭のサックス奏者/作曲家だ。私はサックスなどの愛好者でないので詳しいことは解らないが、彼はハワード大学やカリフォルニア芸術大学で学び、現代音楽や民族音楽の領域にも学術的に踏み込んできたという人で、考えてみるとグイデイとの結合はちょっと興味も湧いてくるところである。
(Tracklist)
1. Cantos Del Ocells鳥の歌 *(Traditional) 6:23
2. To A Young Student (Giovanni Guidi) 3:57
3. Means For A Rescue (Giovanni Guidi) 7:42
4. Only Sometimes*(Giovanni Guidi, James Brandon Lewis, João Lobo, Thomas Morgan) 5:48
5. Luigi *(The Boy Who Lost His Name) (Giovanni Guidi) 7:30
6. My Funny Valentine (Lorenz Hart, Richard Rodgers) 5:52
7. Wonderland *(Giovanni Guidi) 6:43
*印 Quartet
ECMデビュー以来のトリオはさすが、乱れることのない曲想に沿ったインタープレイを展開。そしてこの作品で初のECMデビューを飾るアメリカの気鋭サックス奏者、ジェームス・ブランドン・ルイスを迎えたアンサンブルも聴き所であるが、見事なバランス感覚でのコミュニケーションにより、このトリオの深淵さ、哀愁感、静と躍動のバランスの良さ等は残された上でのアンサンブルが良い感じで展開されていた。 印象としては前作よりはゆったり感があるように感ずる。
やはりグイディの言葉では、「我々は違った道を歩んできたから、ある意味、これはまったくのギャンブルだった。しかし『A New Day』のセッションは我々が正しかったことを証明した。トリオは新たな領域に踏み入れて、私見だが、ジェイムスは私たちと繋がるためのとてもユニークで興味深い方法を見つけた。セッションは偽りのない発見の旅だった」と、語っている。特にTSが独奏してしまうとトリオの良さがかき消されるところが良くあることだが、確かにその点ルイスは配慮しながらのTSの良さを主張していて、よいカルテットであったと言える。
M1."Cantos Del Ocells" スペイン北部のカタルーニャの伝統的子守歌と言われる曲「鳥の歌 」で幕を開ける。バラード調のトリオによるイントロの後、ルイスが表現力豊かなサックスで登場して、それは穏やかなやや控えめなトリオに配慮しつつバランスが見事で、聴く方もほっとして聴いた。
このアルバムは全体的にやや沈鬱な内省的な面が描かれているが、M2、3、6はトリオの演奏。
M2."To a Young Student”は、アルコ奏法のベースとピアノが生み出すダークなトーンにドラムスが響き、物思いの世界
M3."Means For A Rescue" 静寂の中に描くピアノとドラムス、そしてベースが加わってなんとなく緊張感が漂ってくるトリオ演奏。
M4."Only Sometimes" ベース・ドラムスでスタートしてのカルテット(後半にサックス)による余韻と交錯の見事な即興演奏。ここでも深遠さは相変わらず。
M5." Luigi"ここでもベースとドラムスのリードから、そしてピアノとサックスの印象的会話が描くどこか民族的音楽的世界。
M6." My Funny Valentine " 唯一のスタンダード曲トリオ演奏あり、ピアノのキーストロークで広がり。グイデイなりきの独特にして繊細な解釈で訴える。
M7."Wonderland" 締めとしてカルテットのサックスの印象が強い曲。
ピアノ・トリオ愛好家の私にとっては、サックスの加わり方によっては、ピアノの味が消されてしまうことを恐れるのであるが、ここでは4曲に加わり、残るはピアノ・トリオ演奏で極めて納得。しかもルイスは自己のTSの加えたカルテットに於いても、ピアノの味を消さないところに助長効果としての役割と、M.4の後半にはやや暴れての自己主張も見せながら、自らの音の味付けの意味をうまく加えていて、私としてはこのアルバムは実に心地よいのであった。
又、カルテットとしても究極ジョバンニ・グイディの世界の中での曲の仕上げは失っておらず、ベース、ドラムスの役割をも十分損なわずに描ききっていて、ルイスのTSのフリー・ジャズ感覚が、グイデイの即興的世界へのマッチングが意外に良かったと感じたところだ。
(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音 88/100
(試聴)
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