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2023年9月28日 (木)

レイヴェイ Laufey 「Bewitched」

ファンタジー・ポップで、・・ジャズ色を期待して聴かない方がいい

<pop, Jazz>

Laufey 「Bewitched」
Laufey-AWAL / Import / LAULP003CD / 2023

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Laufey : Vocals, Viola, Phonographic
Ted Case : piano

Thorleifur Gaukur Davidsson : Slide Guitar
Simon Moullier : Vibraphone
Junia Lin : Violin
Carson Grant : Drums
Jordan Rose : Drums

Philharmonia Orchestra (Orchestration : HalRosenfeld)

 ここでも既に取上げたLaufey(lāy-vāy=レイヴェイ 、本名Laufey Lin Jōnsdēttir, 1999年生まれ、アイスランド出身)の早々の第2弾だ。彼女は2022年に発表した1stフルアルバム『Everything I Know About Love』は、ポップな中にジェントリーでクラシカルなジャズっぽさが見え隠れしての独自のサウンドが、彼女の魅力ある声と共に各方面から高い評価を受けた。今作2ndアルバムは、宣伝では、ジャズ色が更に増したとも言っており、取り敢えず孫の音楽を聴くような感覚で聴いてみた次第である。

Laufeypressphotosalbumreleasew  曲は一曲"Misty"以外全て彼女の手によるもので、SSWとしての技量も発揮している。
 タイトル「Bewitched」 とは"魅せられた"、"魔法をかけられた"の意味だが、1960代後期から1970年初めにテレビ・ドラマで人気を博した「奥様は魔女」とのタイトルにならっての意味で使われているようなフシもあり・・・、果たしてこのアルバムの目指すところは?と、ちょっと気になるところである。
 又、彼女は「アルバムタイトル曲"Bewitched"では、『ファンタジア』や『シンデレラ』などの古いディズニー映画からインスピレーションを得たんです。そのジャンルの映画のスコアは本当に私に刺激を与えました。彼らは音楽や楽器で魔法を見せてくれたんです。その映画の曲の多くは、今日の偉大なジャズミュージシャンたちが演奏するジャズスタンダードになりました。」と言っている。果たしてこの感覚がジャズというところに結び付く何かが有るのだろうか、それがいかなる形で表れてくるかという事もポイントとして聴いてみたいのである。さらにテーマとして引き続き”愛”に焦点を当てているとのこと、どんな進歩が今作であるのか、これも一つの注目点であろう。

(Tracklist)
1.Dreamer
2.Second Best
3.Haunted
4.Must Be Love
5.While You Were Sleeping
6.Lovesick
7.California and Me
8.Nocturne (Interlude) 
9.Promise
10.From the Start
11.Misty
12.Serendipity
13.Letter to My 13 Year Old Self
14.Bewitched

 まず、スタートのM1."Dreamer"からソフトな混成合唱と共にスタート、きつさのない比較的ソフトな声は人気の一つだろう。ただムードは若き女性の夢を描く古きデズニー映画のムード。 
 M2."Second Best"ギターのバックにしての彼女の低音のしっとりヴォーカルは聴き応えある。
 曲の流れで、ストリングスオーケストラがバツクに顔だすがちょっと古臭く、ジャズ・ムードではない。
 M4."Must Be Love"出だしから少しギターとの彼女の歌のデュオ・スタイル、この流れはなかなかいいのだが、そのうち合唱がバックに入ってきて美しく仕上げようとするところがダサい。
 M6."Lovesick" やはり合唱とオーケストラ・サウンドでの盛り上がりを図る手法は同じ。ジャズとしては聴かない方がいい。
 M8."Nocturne" 何故かここに突然間奏ということでピアノソロが入る。アルバム構成の手法としては面白い。
 M9."Promise" スロー・バラード調の感情輸入の歌いこみはそれなりに旨く、聴き応えあり。
 M10."From the Start" 突如、ガラッとムード変わり彼女が愛するというボサ・ノバの登場。ボサ・ノバの描く世界に応える出来として感じなかった。
 M.11"Misty" どうしてか解らないが、この曲のみジャズ・スタンダードが登場する。しかしなかなか出来は面白い。彼女のこの曲だけ別に聴いたことあり、それなりのジャズとしての新感覚の世界として興味を持って、聴いてみたいと思ったが、このアルバムの他の曲にその期待は応えていないので注意。

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 アルバム・タイトル曲M14."奥様は魔女"に期待してみたが、彼女が言う「私のファンは実際にはクラシックやジャズの方が好きだということがわかったので、今回はそれに全力で寄り添って、私が好きな音楽を作ることができました。」と言っているには、ちょっと期待を裏切って、やはりデスニー・ファンタジー世界で終わってしまう。

 このアルバムは、全体に彼女自身が言っていたように、デズニーのファンタージー世界の因子の方を圧倒的に感じて、所謂ジャズ世界ではない。ジャズというのは形だけでなく歴史がある世界だ。デズニーの曲がジャズ・スタンダート化したのは、その演奏によってジャズに昇華したところにあり、そのものがジャズとして捕らえられたわけではない。ちょっとそんなところが勘違いしているような出来であった。ジャズと言われても、まだまだジャズ・ファンは納得しないと思う。
 しかし、彼女の演ずるところがこのスタイルだというのであれば、それはそれそれなりにファンは納得してゆくと思うので、あまりジャズ・ジャズと言わない方が良いのではとも思った次第。

 究極、悪いアルバムではないので、是非とも更なる発展を期待するのである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 87/100 
□ 録音     87/100

(試聴)

 

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2023年9月23日 (土)

ミシェル・ンデゲオチエロ Meshell Ndegeocelle「The Omnichord Real Book」

孤高の世界からの一大絵巻を展開する

<Funk, Soul, Reggae, R&B, Jazz>

Meshell Ndegeocelle「The Omnichord Real Book」
Blue Note / Import / 4896894 / 2023
Digital File 88.2kHz/24bit Flac

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Meshell Ndegeocelle (Voc, Key, Bass, e-harp)

Jason Moran
Ambrose Akinmusire
Joel Ross
Jeff Parker
Brandee Younger
Julius Rodriguez
Mark Guiliana
Cory Henry
Joan As Police Woman
Thandiswa  (and others)

Gmn1w_20230920124801   ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello、本名: ミシェル・リン・ジョンソンMichelle Lynn Johnson、1968年8月29日 - )は、アメリカ合衆国の女性シンガーソングライター、ベーシスト、ボーカリストである。ベースのみならず、ギター・ドラム・キーボードといった楽器をこなすマルチ・ミュージシャンで、グラミー賞10度ノミネートの実績を誇る。今作は2018年以来となる待望のニュー・アルバムである。もともとネオ・ソウルのさきがけとして知られており、音楽的にはファンク、ソウル、ヒップホップ、レゲエ、ダブ、R&B、ロック、ジャズの要素を含むという彼女自身のオリジナルの世界であった。今回は名門ブルーノートへ移籍してのリリースで、いよいよジャズとしての本格的スタートとして期待されるところだ。
 今作は全曲ミシェル本人のもので、マルチ奏者/作曲家のジョシュ・ジョンソンがプロデュースを担当。さらに上記のようにジェフ・パーカー、マーク・ジュリアナなどジャズ界を中心に多くがゲストとして参加している。ジャズの因子は濃くなりつつも、彼女のルーツであるソウル、R&Bなど演じそれらを独自のサウンドへと構築しているところが聴きどころ。

  ミシェルは旧西独・ベルリン出身。米・ヴァージニア州へ移った後、ワシントンD.C.で育つ。ゴーゴー・ミュージック・シーンに加わってベースの腕を磨きながら、ハワード大学で音楽を学ぶ。その後、ニューヨークへ進出し、93年に『Plantation Lullabies』でアルバム・デビュー、既に30年のキャリアだ。翌年にジョン・メレンキャンプとのデュエット「ワイルド・ナイト」が全米トップ10のヒット。その後、多くの作品を発表し、グラミー賞ノミネートの常連にと評価は高い。スタジオ作品の前作は2018年の『Ventriloquism』。
  彼女の曲・歌詞にはアフロセントリズム(アフリカ系アメリカ人が,自らの起源をアフリカにもとめる思想。アフリカ中心主義)の世界観から、セクシュアリティ、ジェンダー、黒人のプライド、白人の人種差別のテーマが聴き取れる。

(Tracklist)

1.Georgia Ave (feat. Josh Johnson(sax,vo)) 2:40
2.An Invitation  2:21
3.Call The Tune (feat.Hanna Benn(vo))1:54
4.Good Good (feat. Jade Hicks(vo), Josh Johnson(sax, vo)) 3:28
5.Omnipuss 2:51
6.Clear Water (feat. Deantoni Parks(ds), Jeff Parker(eg), Sanford Biggers(vo))4:35
7.ASR (feat. Jeff Parker(eg)) 7:38
8.Gatsby (feat. Cory Henry(p), Joan As Police Woman(vo))  4:21
9.Towers (feat. Joel Ross(vib)) 3:35
10.Perceptions (feat. Jason Moran(p)) 2:14
11.THA KING (feat. Thandiswa(spoken words)) 0:27
12.Virgo (feat. Brandee Younger(harp), Julius Rodriguez(clavichord, organ)) 8:38
13.Burn Progression (feat. Hanna Benn(vo), Ambrose Akinmusire(tp)) 4:01
14.onelevensixteen 2:49
15.Vuma (feat. Thandiswa(spoken words), Joel Ross(vib)) 3:00
16.The 5th Dimension (feat. The Hawtplates(vo)) 5:24
17.Hole In The Bucket (feat. The Hawtplates(vo)) 5:30
18.Virgo 3 (feat. Oliver Lake (Arr.), Mark Guiliana(ds), Brandee Younger(harp), Josh Johnson(sax)) 6:53

 パンデミック期間中に音楽とじっくり向き合う時間を取ることが出来たというミシェルは、ブルーノート・デビューとなる本作について「昔からレコードのブルーノート・ロゴを見るのが好きだったわ。ジャズという言葉は私にはとても重いけど、自己表現を追い求めているこのレーベルに参加出来てとても感動している。このアルバムは、古いものを新しい方法で見るやり方について表現した作品で、両親が亡くなった時に全てが動き出したの。両親の死後、すべてが急速に変化し、私自身のものの見方も瞬く間に変わった」と語っている。そして「この作品は私の全てであり、私の旅、そして人生の一部よ」と言う。そんな気合いが入っているだけ一つの絵巻と言える充実感がある。
 タイトルは、Omnichordを使ってコロナ禍で自宅で今までの総決算を考えながら音楽製作をしていたことの表現らしい。

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 このように18曲73分という重量級で、曲はそのタイプも多彩である。リリース前に公開されM12.”Virgo”は近未来感覚というか宇宙感覚というか、なかなか味のある洒落たヴォーカルのアフロビートのジャズ、8分強の曲だがなかなか洗練されている。一方M15."Vuma"はヴォーカル・ムードは古典的アフリカンのイメージだ。
 M16."The 5th Dimension"はギターの響きが印象的でなかなか凝った曲で面白い。アルバムは、オープニングのM1."Georgia Ave"から多彩な楽器がバックで使われ、リズム感が快適である。このように全体にみてもしっとり感というものではない。
 ヴォーカルも多彩でバックはコーラスが効果を上げている。M2."An Invitation"はソフトでいいし、M8."Gatsby"のスロー・バラード調も良い。
 とにかく多彩で、M9"Towers "は他の曲とイメージが異なり、明るいポップの雰囲気であったり、M12."Virgo"はファンキーでかっこいい曲だ。

 私は、この世界は殆ど聴かないし、彼女の過去のアルバムも知らない方が多いので、曲の評価や味付けの内容の分析は全く出来ないのだが、過去の流れからみてちょっと違う世界なのかもしれないが、ハウス・ミュージックぽい曲の展開もあり、ディープ・ハウスを思わせるところもあった。
 しかし、まあフォークソウルの流れを重視したファンク、アフロビートの世界として聴きたいところだ。

 いずれにしても音楽技術の曲作りや演奏、歌にかなりの高度なところを感ずるし、なかなか味わい深い。ただ所謂ジャズ色はそう濃くなくて、このジャンルは簡単には語れない。今後がどんな方向に行くのかと注目したいところだ。

(評価)
□ 曲・演奏・歌   88/100
□ 録音       87/100

(試聴)
 

*

 

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2023年5月12日 (金)

ドミニク・ミラー Dominic Miller 「Vagabond」

南仏の自然の中から生まれた詩情豊かな作品

<Jazz>

Dominic Miller 「Vagabond」
ECM / Import / 4589048 / 2023

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Dominic Miller (g)
Jacob Karlzon (p)
Nicolas Fiszman (b)
Ziv Ravitz (d)

   これはドミニク・ミラーDominic MillerのギターによるECM作品である。2017年のアコースティックギターがメインの作品『Silent Light』(ECM5728484)に出会ってからもう5年以上になるのかと、ちょっと時間の経つのの速さに驚いているが、あの作品は繊細で美しい音色を奏でて、ECM的というか静かで穏やか、落ち着いた雰囲気が漂っていて素晴らしかった(マイルズ・ボウルドが時折パーカッションで参加しているがほぼ全編ソロ・ギタリストとしての作品)。そして2作目『Absinthe』(ECM6788468/2019=これはクインテット作品)を経て3作目となる作品だ。
 この今作『Vogabond』は、前作にも参加したベースのニコラ・フィズマン(ベルギー)に加え、イスラエル・ジャズ・シーンを牽引するドラマー、ジヴ・ラヴィッツとスウェーデンのピアニスト、ヤコブ・カールソンを迎えたカルテットのスタイルだ。そして全曲オリジナルで構成されている。

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   今作のタイトル"Vogabond"とは、"放浪者"という意味だが、ドミニクの亡き父が大切にしていたイギリスの詩人ジョン・メイスフィールドの同名の詩からとったものらしい。ドミニクは「私は自分を放浪者(ヴァガボンド)だとは思わないが、旅をする人々に共感しているし、一箇所に留まって毎日同じ人々に会うよりも、このライフスタイルを好む」と話しているが、実はその意味より"父親を回顧している"作品であるという事の意味が強そうだ。
 実際には、この2年はパンデミックもあって、ほとんど旅行する機会がなかったため、現在数年住んでいる南フランスの身近な環境に焦点を当て、新曲を書いたという。彼の説明では「このパンデミックの間、とても自然に私は南仏の周囲の環境に影響を受けました。私は何度も長い孤独な散歩に出かけ、田舎はいつの間にかこのアルバムにおける私のコラボレーターとなっていました。“Vaugines”(M4)は、私が歩いていた美しい小さな村のことですし、“Clandestine”(M5)は時々地元の人たちに会う隠れ家的なバーのことです。“Mi Viejo”(M7))は簡単に言うと、私のお父さんという意味です。」と。

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01. All Change
02. Cruel But Fair
03. Open Heart
04. Vaugines
05. Clandestin
06. Altea
07. Mi Viejo
08. Lone Waltz

  このアルバムは、2021年4月に南フランスで録音され、ECMマンフレッド・アイヒャーによるプロデュース作品となっている。スティングのドミニクを知る人からは、ロックからECMというとかなり不自然と思うだろうが、彼は1960年3月21日、アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ。バークレー音楽学校、ロンドン・ギルドホールスクールでクラシックを学んでいるのだ。ただ1991年にスティングのアルバム『ソウル・ケージ』に参加し、その後のスティングのツアー、レコーディングには欠かせないギタリストとなった。しかし彼の関心のある処、キース・ジャレットをはじめ、パット・メセニーやラルフ・タウナー、エグベルト・ジスモンチをはじめECM作がいろいろあったようだ。そうすると"成程、そうゆうことか"と、疑問も晴れてくる。

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  このアルバムでは、オープニングのM1." All Change"では、四者のそれぞれが一つの流れに向かって繊細にして多彩な演じ合いが、自己紹介的に聴きとれるが、M2." Cruel But Fair"でぐっと深遠な世界に入る。ギターのリードは決して技巧に凝った難しさというよりはその場をいかに描くかという状況の反映というところに音は流れる。したがって旋律を流すということよりもピアノ、ベースを誘って物語を始めるようなスタイルだ。ドラムスはあらゆる状況を丁寧にサポートする。
 M3." Open Heart "ギターに続いてピアノと静かな状況描写、シンバル音がささえる。
 M4."Vaugines" ギターの響きがローカルな美しいのどかな村を連想させる。
 M5." Clandestin" ギターとピアノが静から動へ。ドラムスとベースで築くリズムが力強く印象的。
 M6."Altea" は、静かな展開の中にギターとドラムスの掛け合いが面白い。そして中盤からはピアノが主流に変わって動的に変化し、かなりドラムスのパワーが生きてアクティブな展開も。最後再びギターの静かな世界に戻る。
 M7."Mi Viejo"は英語で言うと"my old man"という意味で父親のことらしい。ふと回顧的な静。
   最後のM8."Lone Waltz"は、再びカルテットのアンサンブルを楽しむ世界。

 繊細な表現に個々のプレイヤーが長けていて、そのセンスから生まれる優雅であり牧歌的であり詩的である世界の表現が見事である。フランスはそれなりにあちこち旅したことがあるが、考えてみると南フランスは未経験だった。このアルバムに接してみると、メンバーは実際に南仏に3日間滞在して演奏の核を感じてのアルバム作りであったようだ。それを聞いてなんとなく時間の余裕のある旅をしたくなる世界を想像することが出来た。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

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2023年5月 4日 (木)

イメルダ・メイ Imelda May 「11 Past the Hour」


愛を通して人間の真相にも迫らんとするイメルダ・メイの冒険性の結晶
(変身第2弾)

<Rock, Jazz, Blues>

Imelda May 「11 Past the Hour」
DeccaRecords / Import / B0033471-02 / 2021

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Back Musicians : Tim Bran(p,g,b), Charlotte Hatherley(g), Cameron Blackwood(k,Prog),Davide Rossi(Str), Charlie Jones(p,b),Matt Racher(d)

 どうもこのところ女性ジャズ・ヴォーカルもののリリースが量と中身が若干低調、そんな中で充実感と迫力でお気に入りだつたアルバムはやはり遅まきながら購入に至ったのでここに取り上げる。

Imelda_may_2018w  これは英国(と、言ってもアイルランド)のSSWのイメルダ・メイImelda Mayの6枚目のスタジオアルバムである。2021年4月のリリースで既に2年の経過があるが最近はストリーミングにより聴いていた。しかしやっぱり手元にCDとして置いておきたい思う濃いアルバムであり、意外に取り上げられていないのでここに紹介する。
 彼女に関しては、ここで何度か話をしてきたが、ジャンルはジャズというよりはロックだ。しかしジャズとして聴ける曲も多く、とにかく歌がうまい。私としては"アイルランドの美空ひばり"と名付けて以前から注目してきた。近年ではジェフ・ベックとの共演の"Cry me a River","Lilac wine"等が出色。そして、出産、離婚後の変身が凄くて前作『LIFE.LOVE.FRESH.BLOOD』(2017)でビックリ、その後のライブ活動も凄く、このアルバムも変身後の2作目で注目度も高かった。

  全曲彼女が共同プロデューサーであるティム・ブランとストリングス・アレンジャーのダヴィデ・ロッシらと共作しており、作詞も彼女自身による。そしてロニー・ウッド、ノエル・ギャラガー、マイルズ・ケインといったミュージシャンに加え、女性フェミニスト思想家、政治活動家ジーナ・マーティンなど驚きの顔ぶれが参加する。彼らをフィチャーした曲では、敢えてロックンロールを展開し問題提議しているのだ。
 バック・ミュージシャンは今盛んな多くが参加、曲により変化を付けているのも彼女のしたたかな冒険性である(末尾クレジット参照)。

 アイルランドにルーツを持つことの意義、かってあの反骨の歌手シネイド・オコナーをも仲良く良い意味で圧倒した彼女のパワーは健在だ。ここにはかってのバンドの拘束から切り放たれた彼女自身そのものの真の姿が浮き彫りされているところに魅力がある。この充実感高いアルバムは、自分の真の姿やアイルランドのルーツ、物語を伝え、魂を込めた愛の歌を展開いる。

(Tracklist)

01. 11 Past the Hour
02. Breathe
03. Made to Love(feat.Ronnie Wood etc)
04. Different Kinds of Love
05. Diamonds
06. Don't Let Me Stand On My Own(feat.Niall McNamee)
07. What We Did in the Dark(feat.Miles Kane)
08. Can't Say
09. Just One Kiss(with Noel Gallagher, feat.Ronnie Wood)
10. Solace
11. Never Look Back

 私はM1."11 Past the Hour"のタイトル曲(UKのSSWであるPedro Vitoとの共作)が大歓迎だ。ロカビリー色の欠如で彼女のファンからは異論があっただろうが、アダルトコンテンポラリーの世界は確実に魅力を倍増した。パワフルなゴスペル調(描くは失った人への思い)の曲で、Imelda Mayの圧倒的なヴォーカルが際立つ。ダークでちょっと暑いバラードだが、彼女の声がかっては考えられない重さでのしかかってくる。中盤からのきしむようなギターがこの曲の一つの焦点で悲しみと不安を描く。
 この曲は、失った世界から新しく旅する自分を赤裸々に訴えて、愛する人を失った人々に向けた慰めと希望を与える世界だ。背景には、社会から疎外されているコミュニティや制度的不平等に取り組む組織を支援することを目的にアイルランド政府の立ち上げた「Rethink Ireland」キャンペーンのために、彼女が書いた「You Don’t Get To Be Racist and Irish」という詩が、世界的に注目を集めた状況を思い出すと単純でない諸々が見えてくる。 重大なものを失った人々にその悲しみと孤独を共有し、同時に、時間が癒しの力を持つこと。しかし時間が過ぎ去っても、人間的思い出を忘れないでいることの重要性を訴えている。とにかく強い歌声と、力強く美しいメロディが圧巻。彼女の音楽性は、ロックやブルースをベースにしながらも、ジャズやソウルなどの要素を取り入れた独自のサウンドが結実している。

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ここに彼女の言葉を記す・・・・
「“11 Past the Hour”は私の真実です。私は常に意味を持って、心を込めて詩を書いています。それぞれの特別な瞬間に、自分の物語を介して人々と繋がることこそが私が書く理由であり、だからこそ、たとえほんのひと時でも、人々と繋がれることを願っているのです。私たちが折にふれて感じるものを、言葉や音楽にすることができるのだと思いたい。私たちは皆、笑い、歌い、愛し、泣き、踊り、キスをし、他人を大切に思っています。私たちは皆、欲望、怒り、喜び、心配、悲しみ、希望を経験します。時には静かに全てを抱え込み、時には踊りながら吹かれる風の中に全てを投げ出すこともありますが、一つだけ確かなことは、私たちは共にこの人生を歩んでいるということ。それぞれの歌は私の人生の瞬間です。それぞれの人生は時代の一瞬。一分一分が大切なんです」

その他一連の曲は・・・
M2."Breathe"
M3."Made To Love"(LGBTQ) とエネルギッシュでポップな曲が続く(Ronnie Woodをフィーチャー)
M4."Different Kinds of Love" 情緒豊かなヴォーカル
M5."Diamonds" ピアノのバックに叙情的スローバラード、深く美しき感謝の訴え(真純なる愛に感謝)
M6."Don't Let Me Stand On My Own" Niall McNameeとのデュオ、民族的、牧歌的世界
m7."What We Did in the Dark " Miles Kane とのデュオ。アップ・テンポで典型的ロックだがどこか切なさが・・・
M8." Can't Say" 説得力の優しさあふれるバラード。彼女の訴えの歌い上げが聴き応え十分。歌詞は重く印象的な曲。
M9." Just One Kiss" 典型的な懐かしロック(Ronnie Woodをフューチャー)
M10."Solace" かなり品格のあるバラード、彼女の美声に包まれる。人生の光明をみつけて・・・
M11."Never Look Back" 祈りに近い訴え

  このアルバムは、イメルダ・メイが、U2、ルー・リード、シネイド・オコナー、ロバート・プラント、ヴァン・モリソン、ジャック・セイボレッティ、エルヴィス・コステロら、各種そうそうたるアーティストたちとデュエットを果たし成功してきたこと、近年ではジェフ・ベック、ジェフ・ゴールドブラム、ロニー・ウッドらのアルバムやライヴ・ツアーにも参加した。こんな経験から。幅広い音楽的影響を反映した、ひとつの折衷主義作品となった。それは想像するに、彼女は、過去のロックンロール一途では国際的発展性に割り込むのはむずしいと判断したこともあり、又彼女自身のブルース、ジャズ、ラテン音楽など、多様なジャンルの要素を持ち合わせたことの創造結果かと思う。
 そしてアイルランドにルーツを持つ複雑な社会的経験が重なっての彼女のSSWとしての能力がこの重厚な内容のあるアルバムが作り上げられたと思う。ヴォーカル・アルバムとしはその中身の重さに、そして曲の多彩さに感動するアルバムであった。
 最近、女性ヴォーカルものが低調であるので、日本ではどうも一般的でないアルバムでありながら中身の濃いところを紹介した。

(参照 Credit)  クリック拡大

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(評価)
□  曲・演奏・歌  90/100
□  録音      87/100

(試聴)

*

 

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2023年3月15日 (水)

シモーネ・コップマイヤー Simone Kopmajer 「With Love」

ジャズといういっても、聴きやすいポップよりの歌で・・・

<Jazz>

Simone Kopmajer 「With Love」
Lucky Mojo Records / Import / LMR232 / 2023

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Simone Kopmajer (Vocals)
Harry Allen (Tenor Saxophone)
John Di Martino (Piano)
Boris Kozlov (Bass)
Reinhardt Winkler (Drums)

Wesley Amorim (Guitar #1)
Gottfried Gfrerer (Guitar #7)
John di Martino (Vocals #13)
Sheila Jordan (Vocals #11)
Sara Caswell (First Violin)
Tomoko Akaboshi (Second Violin)
Benni von Gutzeit (Viola)
Mairi Dorman-Phaneuf (Cello)

*All Arrangements by John Di Martino

 既にここでも過去のアルバム2作の紹介で登場しているオーストリア出身の歌姫シモーネ・コップマイヤー(1981年生まれ)の2年半ぶりの新作登場。本作は彼女のオリジナル曲2曲を織り交ぜてのラブソングなどを主としてカバーしたアルバムで、グラミー賞を受賞したNYの弦楽四重奏を迎えたおり、ジョン・ディ・マルティーノのピアノにサックスの実力派ハリー・アレンもバックに参加して、いままでの中では、良いか悪いかは別として最もロマンティックな作品として仕上がっている。しかもレジェンド、シーラ・ジョーダンがゲストとして一曲参加している。

Ab6761610000e5eb45a82346e6c497bw  彼女は8歳で歌い始め、12歳で音楽学校のディレクターでありジャズの大ファンであった父親のバンドで歌い、16歳でグラーツの音楽演劇芸術大学に受け入れられ入学。在学中、彼女はマーク・マーフィー、シーラ・ジョーダン、ミシェル・ヘンドリックス、ジェイ・クレイトン、ニューヨーク・ボイスなどの多くの有名なアーティストと仕事をする機会を与えられたと紹介されている。
 2000年に彼女は米国でデビューし、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラ、ジョン・ヘンドリックスなどのジャズに影響されながらも、次第に歴史あるオーストリア・シュタイアーマルク生まれの彼女は、ユーロ的感覚の独自の世界を持つようになり、ジャズとポップの因子のある多様な世界にあって、2004年の『Moonlight Serenade』から始まって、2011年のアルバム『Nothing's going to Change』で現在の人気を作りあげた。

(Tracklist)
1.The Look of Love(Burt Bacharach / Hal David)
2.How Wonderful You Are(Gordon Haskell)
3.Until It ́s Time for You to Go (Buffy Sainte-Marie)
4.I Can ́t Make You Love Me (Mike Reid / Allen Shamblin)
5.Opposites Attract (Simone Kopmajer / Karolin Tuerk)
6.How Can You Mend a Broken Heart (Barry Gibb / Robin Gibb)
7.Cold, Cold Heart(Hank Williams)
8.I ́m Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter (Fred E. Ahlert / Joe Young)
9.For Once in My Life (Ron Miller / Orlando Murden)
10.Take It All In(Simone Kopmajer / Karolin Tuerk)
11.Everything Happens to Me (feat. Sheila Jordan)(Matt Dennis / Tom Adair)
12.Tell It Like It Is (George Davis / Lee Diamond)
13.You Don ́t Know Me(feat. John Di Martino)(Eddy Arnold / Cindy Walker)
14.Over the Rainbow ( Harold Arlen / Yip Harburg)

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 さてこのアルバムは、「Love」がテーマのようだが、オープニングはバカラックの人気曲M1."The Look of Love"からスタート、昔はセルジオ・メンデスで良く聴いて、近年はダイアナ・クラールの歌が印象深いが、ここではちょっと軽快さから離れて、シモーネらしいストリングスをバックにしたちょっとねっとりムードで仕上げている。
 M2."How Wonderful You Are"はサックスのバックでいわゆるジャズっぽい。そしてM3."Until It ́s Time for You to Go "は、ピアノの調べと共に、落ち着いたエレガントさと優しさのある彼女の味の良さの出たヴォーカルが聴ける。私はこっちの仕上げが良いと思うのだが。
 M4."I Can ́t Make You Love Me"もサックスが入り、しっとりと優しく、M5."Opposites Attract"は彼女のオリジナルだが、可もなく不可もなく、M6."How Can You Mend a Broken Heart "のバラード調に仕上げた歌いこみは聴きどころあり可
 M7."Cold, Cold Heart"ちょっぴりウェスタン・スタイル。M9."For Once in My Life "は、比較的低い音程の歌を美しいストリングスをバックに古めかしくゆったりと。
 M10."Take It All In"も彼女の曲、どちらかというとエレガントの方だ。
 M11."Everything Happens to Me"驚きの90歳代のジョーダンの貫禄の声とのデュオ、対照的で面白い。アメリカン・ムード。
 M12."Tell It Like It Is"ピアノとサックスのゆったりとしたバックでの味のある歌。
 M14."Over the Rainbow " なぜかこの曲で締めくくり。ストリングス・バックに美しく・・・と言ったところか。
  

 なかなか売れ筋のアルバムである。曲の仕上げが非常に聴きやすいし、彼女の歌声、テクニックは相変わらず良好で嫌みとかの因子は少なく、広く一般的に・・というスタイルだ。ただ表現が難しいのだが、私が彼女に描いていたところと若干違った方向に流れているようにも感ずる。それはもう少しユーロ的ニュアンスが増すのかと思ったのだが、そうでもなくさりとてアメリカン・ジャズに迫るという感じでもなく、極めてポピュラーな感覚に聴けるところだ。まあ、悪いことではないので良しとしておこう。

(評価)
□ 曲・編曲・歌  87/100
□ 録音      87/100

(試聴)

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2022年11月11日 (金)

レナード・コーエン・トリビュート・アルバム「HERE IT IS : A TRIBUTE TO LEONARD COHEN」 

なかなか味な試みのトリビュート盤、10人の歌手が集合

<Jazz>

 HERE IT IS : A TRIBUTE TO LEONARD COHEN
BLUE NOTE Hi-Res MQA-flac 96kHz/24bit / 2022

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 詩人、作家、シンガー・ソングライター、ミュージシャンとして世代、国境、ジャンルを超えて人気を獲得していたカナダ出身のレナード・コーエン(下左)。2016年に82歳で急逝したが亡くなる直前までミュージシャンとして頑張っていた。そこで名プロデューサーとして名高いラリー・クライン(下右)がコーエンとは"1982年頃から友人であり、人生の最後の15年間は特に親しくなった"と言い、さまざまなジャンルの豪華ゲスト・ヴォーカリスト(下記Tracklist参照)と、ジャズ界でちょっとした持ち味を誇るミュージシャンをマッチングさせて制作したコーエンのトリビュート作品。
(なお、私は Hi-Res MQA-flac 96kHz/24bit で聴いています)

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   レナード・コーエンは、カナダ出身(1934年生まれ)だが、父はユダヤ系、母はロシア系のようで、1960年いわゆるフォーク・ロックと一般には表現されている音楽を奏でるシンガー・ソングライターとしてスタートした。「エロティックな悲惨な詩人」なんて表現を見たが、そんな要素もあったくらいで一種独特の世界があった。私は当時は特に興味もなかったので当時の事はよく解らないが、詩人としての大学卒の経歴があり、人生のいろいろな流れの中で、革命後のキューバに渡ったりとその生きざまは多彩だ。(かって私は彼をここで取り上げたので参照してほしい→「今にして知る レナード・コーエン Leonard Cohen の世界」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/leonard-cohen-c.html)。

 私が彼に関心を持ったのはたったのこの十数年のことである。しかしその後彼に関しての音楽を聴いてみるにつけ、彼は老年期に入ってからのミュージシャンとしての味は、若き時のものと比較しても格段も中身が濃く味があり人生の風格が滲み手出ての傑作ものであった。特に余談だが、彼のバック・コーラスを務めていたJennifer Warnesなども世にでることにもなって、私の興味を誘ってくれたのである。

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         a                           b                           c                             d

(Tracklist)

1. Steer Your Way / Norah Jones (2016年『ユー・ウォント・イット・ダーカー』収録)
2. Here It Is / Peter Gabriel (2001年『テン・ニュー・ソングス』収録)
3. Suzanne / Gregory Porter (1967年『レナード・コーエンの唄』収録)
4. Hallelujah / Sarah McLachlan (1984年『哀しみのダンス』収録)
5. Avalanche / Immanuel Wilkins (1971年『愛と憎しみの歌』収録)
6. Hey, That's No Way to Say Goodbye / Luciana Souza (1967年『レナード・コーエンの唄』収録)
7. Coming Back to You / James Taylor (1984年『哀しみのダンス』収録)
8. You Want It Darker / Iggy Pop (2016年『ユー・ウォント・イット・ダーカー』収録)
9. If It Be Your Will / Mavis Staples (1984年『哀しみのダンス』収録)
10. Seems So Long Ago, Nancy / David Gray (1968年『ひとり、部屋に歌う』収録)
11. Famous Blue Raincoat / Nathaniel Rateliff (1971年『愛と憎しみの歌』収録)
12. Bird on The Wire / Bill Frisell (1968年『ひとり、部屋に歌う』収録)

(奏者):ビル・フリゼール (g)、イマニュエル・ウィルキンス (as)、ケヴィン・ヘイズ (p, Estey)、スコット・コリー (b)、ネイト・スミス (ds)、グレゴリー・リース (pedal steel g)、ラリー・ゴールディングス (Hammond, org)

 上のように、多くのヴォーカリストによる詩を重んじた曲が中心であるが、バックは上記のようなそれぞれの味のある演奏者がクラインによって集められたプロジェクトであった。これはアルバムとしての一貫性を失わないように多くの歌手をサポートするにあたり、世界観を統一している試みである。一アルバムのように感じる一貫性のある統一されたサウンドを考えたのだ。それにしても1967年のデビュー作から2016年までの50年の経過の作品の流れをまとめ上げるところにクラインの腕の見せどころであっただろう。

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         e                      f                         g                              h


 さて、それぞれの曲を聴いてみると・・・・
 M1."Steer Your Way"のNorah Jones(↑a)はそれなりに無難に歌い、驚きはアルバム・タイトル曲M2."Here It Is "のPeter Gabriel(↑b)だ。彼の演ずるところコーエンの質をしっかり捉えて歌い上げていて、おやコーエンではと思うほどだ。そんなところではM8."You Want It Darker "のIggy Pop(↑e)もそっくりだったが、彼なりの切り口は独特。
 M3."Suzanne"のGregory Poter(↑c)はちょっとクールで面白い。
 M5."Avalanche "M12."Bird on The Wire"はインストもの、Immanuel Wilkinsはサックスで、Bill Frisellはギターで、それぞれ曲に色を添えるべく演じている。
 M7."Coming Back to You" James Taylerの低いキーでの唄もコーエン節が印象的。
 女性群がいいですね、M4." Hallelujah"の私のお気に入りのSarah Mclachlan(↑d)は、しっとりと自分の世界に引き込んで歌い上げる。M6."Hey, That's No Way to Say Goodbye "のLuciana Souzaは甘いところを見せつつ意外におとなしく素直に哀悼の意。M9."If It Be Your Will"のMavis Staples(↑f)は、なかなか個性が生きていてその訴えが響いてくるところはお見事と言いたい。
   M10."Seems So Long Ago, Nancy " David Gray(↑g)も自分の世界で哀感ある歌い上げて納得。
 M11."If It Be Your Will "のNathaniel Rateliff(↑h)が印象深いですね、ここでは他の男性軍は自己主張して挑戦的なところはあまりなく、おとなしくコーエンを描こうとしているが、彼は彼なりの世界で、なかなか哀感もたっぷりで聴き応え十分な歌を披露。私はこのアルバムでは出色と見た。 

 晩年のコーエンが益々人気が上がったのは、男が歳をとったらこんな洒落っ気がある魅力が欲しいと思わせるところがプンプンしていたことで、歌や詩で語り掛けるところには、ゴスペルの要素がなんとなく見え隠れしていた。逆にそれに皮肉なユーモアも感じさせている。1984年以降の『哀しみのダンス』以来、明るい訳でもなくどこか暗めで人を引き付ける。そして加えてユーモアのセンスは抜群だった。人間的な弱さと強さがみえる歌が人に訴えた。
 このアルバムを聴くと、コ-エンの唄はコーエンが一番良いという事を逆に実証したような感がある。しかしこうして一つの世界に統一しての彼を想う10人という歌手の集まりもなかなか味があったことも事実であった。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌        : 88/100  
□ 録音(MQA・Hi-Res) :   88/100

(試聴)
Gregory Porter"Suzanne"

*
Mavis Staples"If It Be Your Will"

 

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2022年10月27日 (木)

ケイティ・メルア Simon Goff Katie Melua「AERIAL OBJECTS」

ケイティ・メルアの変身は続く・・そして生まれたものは ?

<Rock, Pops, Indie>

Simon Goff Katie Melua「AERIAL OBJECTS」
BMB/ADA / Germ / 538807842 / 2022

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Simon Goff (producer) :  Violin, Electronics, Keyboads etc.
Katie Melua :  Vocals

 ジョージア(旧グルジア)で生まれでイギリスに移住し活動するシンガー・ソングライター、ケイティ・メルア(下左)は、日本でも、その透明感溢れる癒しのヴォーカルでファンの心を惹きつけてきた彼女だが、私も結構お気に入りで何年も多くのアルバムにお付き合いしている。今回はイギリス出身(今はベルリンを拠点に活躍する)作曲家・ヴァイオリニスト&マルチ・インストゥルメンタリスト・プロデューサーのサイモン・ゴフ(下右)と全く異色の新たなコラボレーション・アルバムをリリースした。

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 ケイティKatie Meluaは、Popsと言ってもややジャズっぽさがあり、"Closest Thing To Crazy"や"Nine Million Bicycles"などヒット曲を放ってもう20年のキャリア、「トップ10」入りのアルバム・リリースも8枚を数える。先日亡くなられた英国女王エリザベスにも気に入られていた。しかし英国で2008年のアデルAdele旋風によるJazzyなPops界の大変動によって、彼女も撃沈され、その後は四苦八苦でEva Cassidyの世界に迫ったり、グルジアのドラッドにまで至って芸術性は高めたが(アルバム『IN WINTER』(2017))、大きなヒットには恵まれなかった。
 そしてここに来て2021年にリリースされた最新アルバム『Album No. 8』は原点回帰でようやく多くの賞賛を受けたところだった。

 サイモン・ゴフSimon Goffは、上記のようにヴァイオリン奏者、作曲家、グラミー賞を受賞した(映画『ジョーカー』やドラマ『チェルノブイリ』の音楽)サウンド・エンジニア(タイプはエレトニック、クラシック、ポスト・ロック)である。彼とケイティ・メルアは、まったく異なる音楽の世界で生きてきているのだが、しかし二人は約1年前、ケイティのアルバム『Album No.8』の制作時に出会い、その後実験的なソングライティング・セッションを一緒に行っていたようだが、伝統的な音楽の流れと構成に一つの世界が見えてきて、このアルバムの制作へと向かったという事らしい。

(Tracklist)

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Written By – Zurab Melua
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards, Bass – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua

2 It Happened 4:57
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua

3 Hotel Stamba 5:16
Cello – Dobrawa Czocher
Drums – Tobias Humble
Guitar – Lynn Wright
Written-By – Zurab Melua
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards, Viola, Synthesizer – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua

4 Textures Of Memories  4:39
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua

5 Aerial Objects 5:06
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards, Viola – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua

6 Millions Of Things 6:49
Written By – Nicholas Crane
Written-By, Violin, Electronics, Keyboards, Viola – Simon Goff
Written-By, Vocals – Katie Melua

 透明感溢れる癒しのヴォーカルでファンの心を惹きつけてきた彼女だが、このアルバムでもその線は全く崩れていない。またサイモン自身によると、今作のサウンドはストリングスにキーボードやシンセ、そしてパーカッションを幾層も重ねて作りあげたとのことだが迫るものがある。
 それはなんと、ベルリンのケーニッヒ・ギャラリーで行われた展覧会に参加したことが、このアルバムのテーマの原点で、人工と自然の異なる両方の風景を探り、ケイティの歌の空間とサイモンの一つの世界に導くメロディーの間を、移動を繰り返す実験的な曲構成へと発展させたらしい。そして手法で言うと、ビジュアル・アートでいうミニマリズムの様式も加味しつつ繊細にして浮遊感のある美しい作品の完成を見た。

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 しかし、そこで感ずるものは、サイモンのヴァイオリンとシンセによって描く世界とケイティの意味深なる美ヴォーカルとその歌詞との兼ね合いにおいて、例えばM3."Hotel Stamba"は、彼女の幼き8年間過ごした場所をオマージュをもって描くのだが、しかしここでは若干無理の生じた場面を感ずるのだ。彼女のヴォーカルがサイモンの描くストリングスとシンセの盛り上がりの中に消えてしまっている。従って歌詞がよく聴きとれない。これはアルバム作成上のミックスにおいてサイモンの演奏の世界を強調しすぎているのだ。勿論、ヴォーカルがバックの演奏の中に溶け込んで消えていった方が良い状況はよくある事だが・・・このような、そうでない場面はちょっと空しい。
 M1."Tbilisi Airport"のトリビシ空港はグルジアの首都でケイティの生誕地、瞑想的に流れる曲。
 M2."It Happened"は、むしろサイモンの演奏が静かな曲で、ケイティの歌の味が出ている。災害と運命への服従を歌い、それを超えての後半のラ・ラララ・・・ラ・ラララと歌うケイティの美しさが魅力的。
 M4."Textures Of Memories  "の、ここでも楽器の演奏内容がおとなしい曲で、失望と後悔そして愛のための闘争の残酷さ歌う。しかしその美しさは極上である。
 M5."Aerial Objects"の盛り上がりから、締めのM6."Millions Of Things"の安定感と深遠さへの流れも見事。

Katiemeluaalovew1  非常に優れた面白さを感ずる演奏と歌であるが、演奏なのか、歌を聴くのか、歌は演奏の一部とみるか、又はその両者の融合なのかというバランスにおいて私は難を感ずるところが若干あったのが、やや悔やまれるアルバムと感じたのである。
 これはアルバム作成上において楽器演奏に重点を置きすぎた結果の作成上のミスとみている。演奏者がプロデューサーということで良く起こる事でもあるが。その点、ジャズに於いてはピアニストそしてアルバム作成エンジニアは非常にバランス感覚が良い。それは日頃の慣れでしょうね。
 ケイティの過去の歩みを歌いそして新展開のあった作品としてその音楽的価値を十分感ずるところにあるだけに、そこがちょっと悔やまれるところだった。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 : 88/100
□ 録音・ミックス : 80/100

(試聴)

ここでは、良かった曲 "Textures Of Memories " を・・・・

*
ちょっと問題の"Hotel Stamba"

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2021年12月31日 (金)

セリア・ネルゴール Silje Nergaard 「Houses」

パンデミック下における寧ろ救いと言える真摯なアルバム

  今年も、世界的なハンデミックから卒業できなかった。そしてもう次の新年を迎えようとしている。そんな暗さの中から何とか光を得ようとするミュージック界の動きも盛んであった。そんな希望と夢のある作品を取上げて、迎える年が明るい年となることを期待するのである・・・

<Jazz, Folk, World, Country>

Silje Nergaard 「Houses」
Masterworks / EU / 19439883132 / 2021

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Silje Nergaard : Vocals

Helge Lien ヘルゲ・リエン: piano
Bugge Wesseltoft ブッゲ・フッセルトフト: Keyboard
Håkon Kornstad ホーコン・コーンスタ : Sax
Kurt Ellimg カート・エリング: Vocals
Adam Baldych アダム・バルディッチ: Violin

Vince Mendoza ヴィンス・メンドーザ: Strings Arrange
All Musics composed by Silje Nergaard

 昨年、デビュー30周年記念アルバム『First Rose Of Spring』(EAN 0194397246223)をリリースしたノルウェーのジャズ・ポップス・シンガーのセリア・ネルゴール(1966年生れ)、今や油の乗った彼女のニュー・アルバム。 このアルバムタイトル『Houses』と言うのは、"パンデミックによる非日常の中、彼女の友人、親戚、隣人等が家(House)に閉じ込められる事により直面した葛藤とそこから生まれた希望、夢、孤独、憧れについてのセリア自身の共感が描かれている"と言うことのようだ。

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 彼女に関しては、10年ぐらい前に私の好きなTord Gustavsenのピアノをバックにしてのアルバム『nightwatch』(2003)で初めて接し、その後のアルバム『UNCLOUDED』(2012)くらいしか聴いてこなかったような気がする。本質的にジャズと言った世界から、少々別物と思っているせいかも知れない。
   そもそも彼女は16歳でモルデ国際ジャズフェスでステージに上がって以来、国際的なジャズシーンの先駆的なアーティスト(歌手・作曲家)として彼女なりきのサウンドとスタイルを開発してきた。パット・メセニーのプロデュースでデビュー・アルバム『Tell me where you'regoing』(1990)が世界各国で大ヒット(140.000枚以上を売り上げ)し日本でも知られるようになり、以来『A Thousand True Stories』(2010)はグラミー賞にノミネートされるなど、北欧ジャズ・ポップス・シーンを代表するシンガーとして活躍。16枚のアルバムがある。

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 さてこのアルバム、ミュージシャンが凄いですね、ヨーロッパから私の好きなヘルゲ・リエンHelge Lien (ピアノ・上左)、 ブッゲ・フッセルトフトBugge Wesseltoft (キーボード・上中央)、そして ホーコン・コーンスタHåkon Kornstad (サックス・上右)といった今や人気絶好調のミュージシャンが集まつていますね。スペシャルゲストとして、アメリカの世界的なジャズ・ボーカリストであるカート・エリングKurt Ellimg(下左)と、ポーランドのバイオリニスト、アダム・バルディッチAdam Baldych(下中央)が参加。また、グラミー受賞歴のあるアメリカの作曲家/編曲家、ヴィンス・メンドーザVince Mendoza(下右)もストリングス・アレンジで参加している。

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(Tracklist)‎

1.His House / feat. Adam Baldych
2.Window Bird
3.A Crying Shame / feat. Kurt Elling
4.Rain Roofs / feat. Johannes Eick
5.The Ballet Boy
6.I Knew That I Loved You / feat. Toninho Horta
7.Night Street / feat. Trygve Seim
8.Candle in the Window / feat. Mike Hartung
9.Velvet Curtains / feat. Håkon Kornstad
   Bass – Finn Guttormsen
   Drums – Jarle Vespestad
   Featuring – Håkon Kornstad
   Lyrics By – Mike McGurk
   Music By – Silje Nergaard
   Orchestra – Budapest Art Orchestra*
   Orchestrated By – Gaute Storaas
   Piano – Helge Lien
   Saxophone – Håkon Kornstad
10.Balcony Ladies
11.My Neighbour's Cat
12.My Crowded House
13.A Long Winter
14.One Year / feat. Arve Henriksen & Sinikka Langeland

  新型コロナウィルスによるパンデミックによる非日常の苦しみや葛藤は世界的な事であった。しかしそこから生まれた希望、夢、孤独、憧れについてのセリア自身の共感というものが確かに感じられるアルバムだ。
 そして果たしてこれはジャズかどうか・・・どこかノルウェーのトラッドから影響を受けているような(全く根拠は無いのだが)雰囲気の美しさ優しさの溢るる曲群。クリスマス・ソング的な世界もと思わせる真摯な美しい世界、そして彼女の歳を感じさせない衰えない美声が全編に響き渡る。
 もう2年に及ぶパンデミック下の抑制された状況に、どこか人間らしい何かを求めている時に、今年多くリリースされたアルバムの中でも最も人間的で相応しいものとも言えると思った。

 私が特にこの中で注目した曲でお勧めは、M9."Velvet Curtains"だ。しっとりとしたバラードで、優美なストリングス・オーケストラから始まり、彼女の歌声はリエンのピアノをバックに美しく優しく、後半にはコーンスタのサックスが登場し優しく歌い上げ、ヴォーカルとの取り合わせも見事。 

 今年の異常な一年の最後に是非とも聴いて欲しいアルバムと評価した。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 88/100
□ 録音     88/100

(試聴)
1  Silje Nergaard Facebook

2   (参考) "be still my heart"

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2021年11月22日 (月)

アデル Adele 「30」

またまたポピュラー界に嵐は起こるか・・・涙と過去の精算

<Pop, Country, Rock>

Adele 「30」
Sony Music / Japan / SICP 6425 / 2021

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Adele – vocals (all tracks), background vocals (3), tambourine (5)
Ludwig Göransson – bass, keyboards, melodica, piano, synthesizer (1)
David Campbell – strings (1, 3, 7, 10, 12)
Greg Kurstin – bass, piano (2–5, 7); drum machine (2), melodica (3, 4, 7), steel guitar (3), clapping (4, 5), guitar (4), organ (4, 5, 7), drums, keyboards, percussion (5, 7); synthesizer (7)
Chris Dave – drums (3–5, 9), percussion (3, 9, 12), bongos, vibraslap (4)
etc

 6年ぶりというお久しぶりのアデルAdele Laurie Blue Adkins(1988-)のアルバム登場、と言うことで「メガジャケ(24cm×24cm)」付きCDを買って聴いてます。
 このところどこに行ったのか解らず状態であってなんとなく忘れかけた時に、突然リリースされた先行シングル「Easy One Me(イージー・オン・ミー)」は米Billboardの全米シングルチャートでNo.1の座を4週以上キープしているだけではなく、ストリーミングの世界でも、1日あたりに再生された楽曲としては最大の数字を叩き出し新記録を樹立しているとか、いやはやブランクは何処に行ったのかと思わせる。

 アルバム題材の彼女の三年前の30歳当時は、私生活はやっぱり悲しい状況にあった。2012年に当時の恋人慈善活動家サイモン・コネッキとの間に男児を出産。サイモンとは2016年に結婚するも、2019年9月に離婚。得意のと言うと叱られそうだが、またまた失恋をテーマにした世界で迫ってくるのかと思うのである。しかし内容は、シングルマザーで育った自分を思うに付け、むしろ愛する9歳の息子に自分を何時か理解してもらいたいとの意味が強いとか、いろいろと説はあるが、まあそんなところだ。

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 思い起こせば、2008年のデビュー・アルバム『19』で世界は圧倒された。ポップ界は、一気に色が塗り替えられた思いで、私にとっては、凄い"じゃじゃ馬"の登場という感じでのスタートだったが、なんとグラミー賞「最優秀新人賞」と「最優秀ポップ女性歌手」の2部門を受賞。とにかく当時英国でエリザベス女王のお気に入りになって人気のあったケイティ・メルアも吹っ飛んでしまった。
 続く2ndアルバム『21』(2011)は、これも19カ国で1位を獲得し全世界で2,500万枚を販売、今世紀最大のセールスを記録。全米アルバムチャートでもヒット記録を樹立、ギネス記録にもなる。また2012年第54回グラミー賞に主要3部門を含む6部門でノミネートされ、すべての賞を受賞。当時の話題の歌唱力のルーマーも圧倒されてしまう。
 2015年3rdアルバム『25』でもグラミー賞計5部門を受賞し、史上初めて主要4部門のうち3部門を2度も制覇したという世界No1のアーティストとなった。
 
 なんだかんだと言っても、今世紀を代表する英国出身のSSWアデルは現在33歳。張り上げる歌声にはハスキーな魅力があって、歌声と自身のオリジナル曲による恋愛経験などを基にしたあからさまの歌詞が訴えてきて、曲のとっつきやすさもあって人気を集めているわけだ。

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01. STRANGERS BY NATURE | ストレンジャーズ・バイ・ネイチャー
02. EASY ON ME | イージー・オン・ミー
03. MY LITTLE LOVE | マイ・リトル・ラヴ
04. CRY YOUR HEART OUT | クライ・ユア・ハート・アウト
05. OH MY GOD | オー・マイ・ゴッド
06. CAN I GET IT | キャン・アイ・ゲット・イット
07. I DRINK WINE | アイ・ドリンク・ワイン
08. ALL NIGHT PARKING(WITH ERROLL GARNER)INTERLUDE | オール・ナイト・パーキング(with エロル・ガーナー)インタールード
09. WOMAN LIKE ME | ウーマン・ライク・ミー
10. HOLD ON | ホールド・オン
11. TO BE LOVED | トゥ・ビー・ラヴド
12. LOVE IS A GAME | ラヴ・イズ・ア・ゲーム
(Bonus Tracks)
13. Wild Wild West | ワイルド・ワイルド・ウェスト
14. Can't Be Together | キャント・ビー・トゥゲザー
15. Easy On Me (with Chris Stapleton) | イージー・オン・ミー(with クリス・ステイプルトン)

 M1."STRANGERS BY NATURE " おお!これは、大人っぽくなったなぁーーと思わせるスローバラードでスタート。雰囲気はこりゃ聖歌ですね。そしてM2."EASY ON ME"の先行リリースのヒット曲に続く。これも昔の声の張り上げるところで無く、ちょっと抑制しているところは大人のムード。このあたりで自己の離婚の状況に迫り、その結果M3."MY LITTLE LOVE"が彼女にとっては重大なテーマ、このアルバムの焦点にある息子に対しての自分の親の姿として許しを請うのだ。その泣きの語りに涙を誘う。
 そしてM5."OH MY GOD" ,M6." CAN I GET IT"では、特にM6.には、軽快な曲で心に展望が開けている様を歌っているように聴ける。
 ただ、この流れは、恨み節に終わっていないところが、彼女の大人になった姿と言って良いのだろうか。
 M8."ALL NIGHT PARKING",M9."WOMAN LIKE ME"のスローな歌が如何にも大人の心の歌だ。ここにみるアデルの30年の歴史が一つの結論に向かっている。
 M11." TO BE LOVED"なかなか説得力のある歌、過去の清算を行っているのだろうか、解らない。
   M12." LOVE IS A GAME "の最後の結論にいたるところ、ここには暗さが無い。一つの納得と達観の世界をゆったり歌い上げる。

 やはり究極の処、彼女らしい自己の心の歌だ。過去と違うところは息子を持った母親としての強さも感じられる。「アデルも恨み節から卒業して・・・」と、この4thアルバムの評価も私にはその術も持ち合わせず、人間的発展の世界として受け止めておこう。

(評価)
□ 曲・歌 :  88/100
□ 録音  :  85/100

(視聴)

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2021年11月 5日 (金)

ビリー・アイリッシュ Billie Eilish 「 Happier Than Ever 」

これは驚き!!
一筋で無いクオリティーの高さを持った若き世代の社会派ポップ

<alternative pop>

Billie Eilish 「 Happier Than Ever 」
Universal Music / JPN / UICS-1374 / 2021

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Billie Eilish : Vocals
All Songs Written by Billie Eillish O'connell and Finneas O'connell

 しかし、ミュージック界には時として驚きの事件が起きる。あの2008年のアデルAdeleが19歳に作成したアルバム『19』の爆発的ヒットが記憶に新しいが、そしてそれにも勝るとも劣らない、この米国のシンガー・ソングライターのビリー・アイリッシュ(本名 Billie Eilish Pirate Baird O'connell)もその一人。彼女は2001年12月生れの現在19歳、2015年13歳で兄の作曲したオルタナティブな曲"Ocean Eyes"を歌い名前が知られ、その後ダンスポップぽい人気曲"Bad guy"収録の17歳でリリースしたデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』が英米をはじめ全世界18ヵ国で1位を獲得。2020年「第62回グラミー賞」にて主要4部門の新人賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀アルバム賞を独占。今年「第63回グラミー賞」でも史上最年少19歳で「年間最優秀レコード賞」を2年連続受賞。世界中の注目を集めている。

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  又、私が興味を持ったのは、2020年の全米シングル1位の映画007の主題曲"no time to die"だ。あの大人っぽい歌が19歳と聞いて驚き、そして、タイミングよく今年2ndアルバムがここにリリースされているので、取り敢えずは聴いてみたという処なのだ。曲は兄のフィネアス・オコネルFinneas O'connell(上右)と共作であるが、歌詞はかなり彼女自身のモノであり、自己のオリジナル曲集言ってもいい。従って彼女の思いが歌われているところが聴きどころでも有り、又評価の重要なところでもある。
(Tracklist)

Beilishw 01. Getting Older
02. I Didn't Change My Number
03. Billie Bossa Nova
04. my future
05. Oxytocin
06. GOLDWING
07. Lost Cause
08. Halley's Comet
09. Not My Responsibility
10. OverHeated
11. Everybody Dies
12. Your Power
13. NDA
14. Therefore I Am
15. Happier Than Ever
16. Male Fantasy

  とにかく驚きの曲集だ。全体にテンポは穏やかというか、陰影をもった精神的な部分と抵抗と訴えのあるアイリッシュの作詞作曲群。彼女の以前の画期的なダンス・ポップ的作品よりも一歩大人になった感のある非常にクオリティーの高いアルバムの質とサウンドを作り上げていて、兄のフィネアスに示唆を与えつつも音楽的援助を受けて構築したと思われる。十代の女性のそれも華々しいデビュー後の恋人との決別、体のことに関するマイナス・イメージの中傷などに傷つきながらも・・頂点に到達して知るこの業界への不信感、社会的抑圧等を訴え、それを乗り越え打ち勝つが如くのアルバム製作は実は彼女の決意の声であろう。ここに見事にそれが結実していると見れる。それはジャケ写真の一筋の涙が全てを表しているのであろう。

 歌は、ウィスパーのような、聴きようでは優しさの表現、ある意味でセクシーでもあり、一方攻撃的静かな反発でも有り、訴えでも有り、達観でも有り・・とにかく多彩。なんと言っても、説得力ある情感の表現、高音部の刺激の無い歌い回しと、歌は旨い。この年齢にして高度の歌唱力は驚きの世界だ。そして曲のパターンも多彩、オルタナティブ・ロックと言えども、インディー・ポップ、テクノ、ラップ、R&B、 ボサ・ノヴァ、エレクトロ・ポップさらにフォークの因子とジャンルを超えて聴かせるところも驚きでもある。

 又、更に曲と曲との繋ぎが続いた形で構成され変化してゆくところも多く、アルバムにいくつかの曲をただ納めたというので無く、曲群で一つの世界を造っている点も、一曲主義の若い世代の好みに叩き付けたミュージシャンとしての一つの精神を示している。その姿は、歌詞からみても、単なる恋愛騒動だけの世界で無く、この業界の若き女性が直面する名声を得たものの知るところの女性嫌悪とか女性蔑視、感情的虐待、社会的な抑制・不信感などなど克服せざるを得ない彼女の自意識の世界への荒波を扱って、社会派としての因子も垣間見れるアルバムとなった。

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    冒頭のM1."Getting Older"は、自己の存在とその業界の虐待に近い環境に対しての声、M2." I Didn't Change My Number"、M12."Your Power"の性的強制に対する意志らしいなど、テーマは暗いところから見事に歌い込む。
 M3."Billie Bossa Nova"   M4."My future"は、ゆったりと美しく、自己発見の世界へ。
 M5."Oxytocin"これは子宮収縮ホルモン、やや攻撃的テクノ・ポップで高音の処理が見事であり、又その高音の色気も見事。 
 M8."Halley's Comet" ハレー彗星、柔らかいバラード、良い曲だ。
   M9."Not My Responsibility"のメディア反抗・抵抗・懐疑。語りが暗く、ムードは深刻。
 M11."Everybody Dies "の哀しさと絶望感。
 M13."NDA"スターであることの"NDA"の機密保持契約の生きる社会への自己の戸惑い
 M16."Male Fantasy"権力にゆだるる男たちへの怒り
 テーマのM15." Happier Than Ever "には、元恋人への意地がみえる。人間関係における成長に突き進む厳しさを知る歌か。中盤以降の力強いロックが電子的ビートでこのアルバムの頂点に至る。

 10代の女性の成長の過程に於ける社会的懐疑と戦い、人間関係の疑問と発展、ソーシャル・メディアへの疑問、ミュージック業界への不信などとの自己の戦い等に対して戸惑いが描かれ、歌い上げられたところには音楽的にも非常にクオリティーの高い作品として、驚きを持って高評価を付けるのである。
 さて、ここまで自己の暴露を含めて内容の高い作品をリリースすると、次に来るものには相当のプレッシャーが生ずるのが通例だが・・・果たして如何。

(評価)
□ 曲・演奏・歌   93/100
□ 録音       90/100

(視聴)
"NDA"

*
"Your Power"

*
"Happier Than Ever"

 

 

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