ウォルター・ラング Philipp Schiepek & Walter Lang 「Cathedral」
とにかく優しく包み込むような静かな安らぎを与える演奏
<Jazz>
Philipp Schiepek & Walter Lang 「Cathedral」
ACT MUSIC / Import / ACT9632-2 / 2021
Philipp Schiepek : Nylon String Guitar
Walter Lang : Grand Piano
Recorded and mixed by Uli Fiedler at Flip Top Studio, Wertingen, 13.11.2020
ウォルター・ラングのニュー・アルバムが早々に登場。彼のピアノ・トリオ・アルバム「TENS」(ENJA Yellowbird / ENJA9785 / 2020)は約半年前にここに登場させたのだったが、コロナ禍における活動停止中にての、過去の彼なりきの名曲集であった。しかし今回のこのアルバムは彼と同じミュンヘン在住であるという注目の若手で天才ギタリストといわれているフィリップ・シーぺックとのデュオ作品である。
地元ヨーロッパより日本で“ピアノ詩人”として人気のあるウォルター・ラングが、自国にてのベーシックとの出逢いにより産れたといわれるこのアルバム、ピアノとギターとで、どちらかというとジャズ界では相性が疑問視されているデュオということで、これも又注目点である。
ウォルター・ラングは現在、還暦を迎えようとしている円熟ピアニスト、一方フィリップ・シーベックは若干26歳にして「未来を約束されたギタリスト」と評される程で、ジャズとクラシック・ギターに通じ、どちらかというと美しく繊細な空間を作り出す今やドイツの人気者。
まだ続くコロナ禍ということで、このアルバムは書きためられていた二人のオリジナル曲で構成され作り上げられたもの。
(Tracklist)
01 Sumniran 7:20
02 Cathedral 6:18
03 Estrela Cadente 6:11
04 Kamo 4:20
05 Pilgrimage 5:13
06 Meditation in Ten 6:32
07 Gliding over Meadows 6:11
08 Prelude to The World is Upside Down 1:50
09 The World is Upside Down 3:52
10 Light at the End of the Tunnel 5:06
11 The Encourager 5:49
Music composed by Walter Lang except 05 & 08 by Philipp Schiepek
上記のように9曲はラングのオリジナル曲で、シーベックは2曲のみの構成。コロナ禍で書きためられた曲ということで、とにかく静かにして、二人の演奏で派手さは全くない、又盛り上がりという高揚感もそれほどあるわけでなく、静かに二人で向き合い語らい合う安らぎの世界に終始している。まあ、聴きようによってだろうが、残念ながらジャズとしての面白みというところからは、そう大きい訳でもない。
M1."Sumniran" ゆったりとした世界、ギターとピアノが交互に旋律を奏でる。どこか優しい思いやりの心が溢れている。
M2."Cathedral " "大聖堂"と言う意味で良いのか、確かに荘厳さが感じられるが、手法からしてもジャズとしての面白みとは別物。
M3."Estrela Cadente" 両者の演ずるそれぞれのコード楽器としての音の美しさは、十二分に伝わってくるが、ピアノとギターで演ずる必要があったのだろうか、このあたりは疑問も湧いてくる。この世界もピアノ・トリオでピアノの美音にシンバルの繊細な後押しがあると、もっと楽しいのではなんて考えてしまう。
M4." Kamo" 静かに語り合いそして歌い上げるピアノそしてギターも。
つづくM5."Pilgrimage "は、初めてシーペックの曲の登場で、どこか静かなおだやかな田園イメージだが、両者の奏でる世界は確かに極上。
M6."Meditation in Ten " M9."The World is Upside Down " には、単なる旋律担当の交代でなく、ユニゾンの味付けなども若干加味されデュオの面白さが垣間見える。
M7."The Encourager " これも牧歌的で和みの世界。
M8."Prelude to The World is Upside Down " シーベックの二曲目、ほぼギター・ソロで短め、曲の合間の次への導入曲か。
M10."Light at the End of the Tunnel " 暗さの世界からの一つの光明が・・、コロナ禍における前向きの気持ちの表現か。
もともとピアノ・トリオにギターが加わった時に、ピアノとギターの両者がコード楽器のとしての役割が同じであるためか、その意義が不明瞭で、場合によっては、調和と言うより片方を抑えて終わってしまったりと、若干欲求不満を感じさせることがある。このアルバムでは、両者が対等に流れているが。
又ラング自身も、美旋律派としては最右翼であるが、芸達者というピアニストでないだけに、ギターとのユニゾンも難しさを感ずるのだ。このデュオもそれぞれのソロから変化を求めての事と思うが果たして成功であったのか、私としては疑問の残るところでもあるが、面白さもないわけでなく、この優しく包み込むような真摯にして和みの世界は貴重で、これはこれとして評価しておきたい。
まあ、ドイツ・ミュンヘンの若き注目のギタリストと美旋律派のピアニストとのデュオという話題の方が先行したアルバムの印象。
(評価)
□ 曲・演奏 85/100
□ 録音 85/100
(視聴)
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