フレッド・ハーシュ=ソロ・ピアノFred Hersch 「SONGS FROM HOME」
知性の豊かさと共にどこか真面目さが漂ってくる心安まる演奏
<Jazz>
Fred Hersch 「SONGS FROM HOME」
Palmetto / IMPORT / PM2197 / 2020
Fred Hersch : Piano
ピアノの詩人と言われるフレッド・ハーシュが、本年(2020年)8 月に録音したピアノ・ソロ・アルバムの登場。今年の新型コロナ・ウィルスのパンデミックの波にのまれて、ライブ活動が不可能になった状況下で、録音のためのスタジオでなく、自らの家で、と言ってもペンシルベニアにある第2の家に於いて、雑多な日常から離れての約1週間の間での録音であったようだ。そこにはスタンウェイがあり、高い天井の音場空間が確保されていて納得の環境下での録音であったらしい。
どうも、ハーシュ自身のライナーからみると、コロナ感染で亡くなった音楽の友への追想の意味もあるようだ。
何故か、Søren Bebe Trio のアルバム『HOME』(FOHMCD008/2016)をふと思い出したが(ジャケまで似ている)、アルバム通しての全体の印象としては、あの欧州的美の感動にはちょっと及ばなかった、と言うのが偽らざる感想。
(Tracklist)
01 Wouldn’t It Be Loverly (Loewe)
02 Wichita Lineman (Webb)
03 After You’ve Gone (Layton)
04 All I Want (Mitchell)
05 Get Out Of Town (Porter)
06 West Virginia Rose (Hersch) / The Water Is Wide (traditional)
07 Sarabande (Hersch)
08 Consolation (A Folk Song) (Wheeler)
09 Solitude (Ellington)
10 When I’m Sixty-Four (Lennon/McCartney)
ハーシュ自身の2曲の他は、彼の人生の中から何らかの意味のある曲を選んだようであるが、その為かドディッショナルからジョニ・ミッチェル、コール・ポーター、デューク・エリントン、ビートルズと多彩。
全体にこんな状況下であるため、激しさとか、情熱といったタイプでなく、どちらかというと、やや明るさをも感ずる心に響く落ち着いた世界のどちらかというと端正な演奏というタイプである。
まあ私自身は、実はもう少し静謐にして叙情的、そして哀愁漂う美しい世界を期待したのだが、その点はヨーロッパ的な叙情というので無く少々違っていた。つまりそれ程拘った特徴というものも無く、所謂スウィング・ジャズとは一線を画したややクラシカルな派手さの無い落ち着いたもので、ややしんみり感と同時に自己への対話的な真面目な世界を演じていると言って良いだろう。
オープニングの映画『マイ・フェア・レディ』の曲M1."Wouldn't it be Lovely"には、静かなクラシック調で、ややロマンティックらしさもあるが、感動と言うより心を静めてくれる展開。
このアルバムの一つの聴きどころであるM4."All I Want "のジョニ・ミッチェルの曲は、彼の高校時代に思い馳せる心入れもあるというところで、気合いが入っている。と、いっても激しいという世界で無く、小躍りするところ、静かに物思いになるところ、そして美しい人生と、多彩な描きを演じてみせる。
しかし私にとっては、M6."West Virginia Rose / The Water Is Wide "のように彼自身の曲とトラディッショナルを結合した曲の中には、どこか人生を回顧するしんみり感が漂っていて良い。
又デューク・エリントンってこんなだったのかと不思議に思ったほどM9."Solitude"には、彼の手でなんとも心にしみいる情感が生まれ響いて驚いた。
とにかく、このコロナ渦において、静かに自分の人生に思いを馳せつつ、不安を駆り立てるので無く、動揺するので無く、安定した心によってこの時代に生きてゆこうという知性の豊かさを感じさせてくれるアルバムである。しかしあの心に染み入るな叙情的・哀愁にみちた美旋律が留めも無く襲ってくると言った感動的なものというところのものではなかった。
(評価)
□ 編曲・演奏 85/100
□ 録音 80/100
(試聴)
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