フレッド・ハーシュ

2020年11月26日 (木)

フレッド・ハーシュ=ソロ・ピアノFred Hersch 「SONGS FROM HOME」

知性の豊かさと共にどこか真面目さが漂ってくる心安まる演奏

 

<Jazz>

Fred Hersch 「SONGS FROM HOME」
Palmetto / IMPORT / PM2197 / 2020

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Fred Hersch  : Piano

  ピアノの詩人と言われるフレッド・ハーシュが、本年(2020年)8 月に録音したピアノ・ソロ・アルバムの登場。今年の新型コロナ・ウィルスのパンデミックの波にのまれて、ライブ活動が不可能になった状況下で、録音のためのスタジオでなく、自らの家で、と言ってもペンシルベニアにある第2の家に於いて、雑多な日常から離れての約1週間の間での録音であったようだ。そこにはスタンウェイがあり、高い天井の音場空間が確保されていて納得の環境下での録音であったらしい。
 どうも、ハーシュ自身のライナーからみると、コロナ感染で亡くなった音楽の友への追想の意味もあるようだ。
 何故か、Søren Bebe Trio のアルバム『HOME』(FOHMCD008/2016)をふと思い出したが(ジャケまで似ている)、アルバム通しての全体の印象としては、あの欧州的美の感動にはちょっと及ばなかった、と言うのが偽らざる感想。


Fredherschauthorphotocolor_photo_by_joan (Tracklist)

01 Wouldn’t It Be Loverly (Loewe)
02 Wichita Lineman (Webb)
03 After You’ve Gone (Layton)
04 All I Want (Mitchell)
05 Get Out Of Town (Porter)
06 West Virginia Rose (Hersch) / The Water Is Wide (traditional)
07 Sarabande (Hersch)
08 Consolation (A Folk Song) (Wheeler)
09 Solitude (Ellington)
10 When I’m Sixty-Four (Lennon/McCartney)

 ハーシュ自身の2曲の他は、彼の人生の中から何らかの意味のある曲を選んだようであるが、その為かドディッショナルからジョニ・ミッチェル、コール・ポーター、デューク・エリントン、ビートルズと多彩。
 全体にこんな状況下であるため、激しさとか、情熱といったタイプでなく、どちらかというと、やや明るさをも感ずる心に響く落ち着いた世界のどちらかというと端正な演奏というタイプである。
 まあ私自身は、実はもう少し静謐にして叙情的、そして哀愁漂う美しい世界を期待したのだが、その点はヨーロッパ的な叙情というので無く少々違っていた。つまりそれ程拘った特徴というものも無く、所謂スウィング・ジャズとは一線を画したややクラシカルな派手さの無い落ち着いたもので、ややしんみり感と同時に自己への対話的な真面目な世界を演じていると言って良いだろう。

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 オープニングの映画『マイ・フェア・レディ』の曲M1."Wouldn't it be Lovely"には、静かなクラシック調で、ややロマンティックらしさもあるが、感動と言うより心を静めてくれる展開。
 このアルバムの一つの聴きどころであるM4."All I Want "のジョニ・ミッチェルの曲は、彼の高校時代に思い馳せる心入れもあるというところで、気合いが入っている。と、いっても激しいという世界で無く、小躍りするところ、静かに物思いになるところ、そして美しい人生と、多彩な描きを演じてみせる。
 しかし私にとっては、M6."West Virginia Rose / The Water Is Wide "のように彼自身の曲とトラディッショナルを結合した曲の中には、どこか人生を回顧するしんみり感が漂っていて良い。
 又デューク・エリントンってこんなだったのかと不思議に思ったほどM9."Solitude"には、彼の手でなんとも心にしみいる情感が生まれ響いて驚いた。

 とにかく、このコロナ渦において、静かに自分の人生に思いを馳せつつ、不安を駆り立てるので無く、動揺するので無く、安定した心によってこの時代に生きてゆこうという知性の豊かさを感じさせてくれるアルバムである。しかしあの心に染み入るな叙情的・哀愁にみちた美旋律が留めも無く襲ってくると言った感動的なものというところのものではなかった。

 
(評価)
□ 編曲・演奏  85/100    
□ 録音     80/100

 

(試聴)

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2019年11月 4日 (月)

Fred Hersch Trio 「Nice Jazz Festival 2019」

今年の夏のフレッド・ハーシュのエネルギッシュなプレイ

<Jazz>

Fred Hersch Trio 「Nice Jazz Festival 2019」
JKAZTIME 165 / 2019

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Stereo Soundbaord Recording
Live at Nice Jazz Festival, Nice, France, July 16th 2019

Fred Hersch - piano
John Hébert - bass
Erin McPherson - drums 

 今年2019年7月16日のフレッド・ハーシュ・トリオのヨーロッパ最大のジャズ・フェスティバルの一つ「フランス・ニース・ジャズ・フェスティバル」出演時のライブ・パフォーマンスをステレオ・サウンドボード音源で収録したもの。
 評価あるレギュラー・メンバーのジョン・エイバート、エリック・マクファーソンとのピアノ・トリオによる素晴らしい演奏を披露。フレッド・ハーシュの最新ライブの模様をブートとはいえ、それなりに十分聴くに堪える音質で聴くことが出来る。

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(Trachlist)

1. Plain Song / Havanna (10:59)
2. Dream Of Monk (05:38)
3. Floating / Lonely Woman / Nardis (18:50)
4. Newk's Calypso (04:55)
5. This Is Always / A Cockeyed Optimist (16:18)
6. Round midnight / Unknown Title (08:31)
7. Sarabande (04:01)

Fredherschsolow  このところのフレッド・ハーシュはかなりエネルギッシュに活躍していますね。これはこの7月のフランスでのジャズ・フェスの一翼を担ってのパフォーマンスの記録であるが、M1."Plain Sobg" 気持ちの整えられる落ち着いた物思いにふけられるピアノ・ムードでスタート。
 そしてM2."Dream Of Monk"でのエイバートのベースの活躍をみても単なるハーシュのワンマン・トリオでなくメンバーそれぞれの味を生かしてのトリオでこの三者の信頼感による結束がよく解る演奏だ。
 しかしハーシュらしいM3."Floating/Lonely Woman/Nardis"にみる美しいと同時に思索的世界へのピアノ演奏もしっかり演じていて、その後マクファーソンのドラムス・ソロそしてベース・ソロもいい塩案配に展開し、この日の演奏も極めてバランスの良いライブ演奏を展開している。三曲の途切れない演奏で、"Nardis"ではインプロも交えての展開も見事で、ライブ演奏の中盤に18分以上集中させるところはにくい展開だ。
 M4."Newk's Calypso"はリズムカルに楽しさ満ちあふれた演奏。
 M5."This Is Always / A Cockeyed Optimist " 再びハーシュの描く流麗なピアノによって流れる世界を楽しめる。
 M6."Round midnight / Unknown Title" このような溌剌としたエネルギッシュな演奏はやはり彼の完全復活の姿なのだろう、ドラムスとベースも弾んで、会場を巻き込んでの三者の気持ちの良いトリオ演奏を展開。最後のM7."Sarabande"は、ハーシュらしい優しいメロディーの流れる落ち着いた世界で幕を閉じる。

 こうしてブートにても、ある程度の音質はしっかり確保してライブ演奏を完全に聴けるというのは、まあ結構なことと思いつつこのアルバムを聴いているのである。

(評価)
□ 曲・演奏 ★★★★☆
□ 録音   ★★★★☆☆ 

(参考視聴) この日の映像はありませんので・・・・参考までに

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2019年3月 2日 (土)

フレッド・ハーシュ・トリオFred Hersch 「FRED HERSCH TRIO '97」

ハーシュ“人生を変えた一週間”の記録

 <Jazz>

Fred Hersch   Drew Gress  Tom Rainey
「FRED HERSCH TRIO '97 `@ THE VILLAGE VANGUARD 」
King International / JPN / KKE9003 / 2018
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Fred Hersch (piano)
Drew Gress (bass)
Tom Rainey (drums)

Recorded July 18, 1997 at The Village Vanguard

   抒情派ピアノの名手と言われるピアニスト、フレッド・ハーシュFred Herschが、自己の当時のレギュラー・グループで初めて米ニューヨークの名門ジャズ・クラブ“ヴィレッジ・ヴァンガードThe Village Vanguard”(1935年オープン)に出演した1997年の記念すべき演奏がリリースされた。このジャズ・クラブは歴代のジャズ・メンが名演・名盤を残してきた場所だけにハーシュもかなり意識しての出演であったようだ。

  このアルバムは、もちろん未発表音源で注目されたものだが、このジャズ・クラブでの演奏は、ハーシュはそれ以前にも出演依頼があったらしいが、納得出来る状態での出演を期していて、これは遂に彼自身が自信を持っての7年熟成したトリオとして臨んだものらしい。それはピアノもお気に入りのスタンウェイを運び込んだという気合いの入れ様だったという。“人生を変えた一週間”と彼が称する貴重な公演の収録したものと評価されている。

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1. Easy To Love (Porter) 9:50
2. My Funny Valentine (Rodgers) 10:06
3. Three Little Words (Kalmar / Ruby) 6:00
4. Evanessence (Hersch) 5:47
5. Andrew John (Gress) 7:36
6. I Wish I Knew (Warren) 5:48
7. Swamp Thang (Hersch) 5:44
8. You Don't Know What Love Is (Raye / DePaul) 7:28

<日本盤ボーナストラック>
9. The Nearness Of You (Carmichael / Washington) 9:43

 歌心があり詩情豊か、そして耽美という彼の演奏かと思いきや、もちろんそのパターンは十分認められるが、それだけでなく力強いアップテンポの曲も織り交ぜての充実感あるライブであったことが解る。

 アルバム冒頭のM1."Easy To Love "は、彼の得意の抒情性というものでなく、実際のクラブでの演奏順とは異なると思われるが、ジャズ・トリオの楽しさを前面に出したトリオ挨拶といったメンバーのめくりめくる充実の演奏の展開である。
 しかし、M2. "My Funny Valentine"は、ぐっと静かに物思いに耽るが如くのハーシュのピアノ・タッチからの展開で、おや、こんな曲だったかと思うくらいに美しいピアノの調べを堪能できる。 又ライブらしく中盤にはベースが流れを演出し、そしてピアノが締めくくるという楽しさも味わえる。
 このアルバム、おおよそ急そして緩の演奏を聴かせる多彩な曲を収録している。M3. "Three Little Words"、M4. "Evanessence"はどちらかというとハイテンポ。
 M5. "Andrew John"はぐっと落ち着いた深い叙情を感ずるパターンからスタート。これぞハーシュと言わせる美演奏。
 M6. "I Wish I Knew "の完成度も凄い。繊細さ、リズム感、ピアノタッチの美しさなどトリオとしての完璧な姿だ。
 M8. "You Don't Know What Love Is"は、このアルバムの最後を飾る曲だが、アップテンポにして三者の楽しそうな力強さが漲っている。
 嬉しいことに、この日本盤はボーナス・トラツクのM9. "The Nearness Of You" がM8と対比をみせてのバラード曲。日本人好みの美しいピアノの旋律が深く抒情的な世界に誘って余韻を残して終わる。  
(評価)
□ 演奏 :★★★★★
□ 録音 :★★★★☆

*
(試聴)
 

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2018年5月22日 (火)

フレッド・ハーシュ・トリオFred Hersch Trio「LIVE IN EUROPE」

[My Photo Album (瞬光残像)]  Spring/2018

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(我が家の庭から・・・エゴノキの花(その2) 満開 )



究極のトリオ演奏に迫る・・・・・・

<Jazz>
Fred Hersch Trio「LIVE IN EUROPE」
PALMETTO-RECORDS / PM2192 / 2018

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Fred Hersch (piano)
John Hébert (bass)
Eric McPherson (drums)

Recorded at Flagey Studio 4, Belgium, Nov.24th,2017


E01948d138494cw_2  最近のフレッド・ハーシュ(1955年Cincinnati/Ohio生まれ)の活躍は、年齢的には還暦過ぎの充実期とは言え、かっての大病からすれば驚くところである。
 昨年9月には彼の・ピアノ・ソロ・アルバム『open book』(PM2186/2017)が同じPALMETTOレーベルからリリースされており、あれは韓国ライブからのものだったが、これは昨年末の2017年11月、ベルギーでレギュラー・トリオによるライブ演奏の録音もの。この時は、3週間に及ぶヨーロッパ・ツアーを行ったようで、その最後から2番目のコンサートを収録したものだという。
 更に彼は今年(2018)になって、ソロ来日もしていて、なかなかその活動性も高いところだ。

 さてこのアルバムは、宣伝紹介では彼の言葉として「ピアノも最高にすばらしいもので、音響もパーフェクトだった」、「いい演奏が出来た“感覚”をもてた日だった」、「自分の演奏だけでなく、トリオのメンバーのジョン・エベール、エリック・マクファーソンの演奏も、最高!このトリオで活動して9 年。今では、3人がいつも完全にイコール(対等)。演奏中はいつも同じ言語をシェアしているけれど、創造性、内容、エネルギーのレベルにおいて、改めて“打たれるものがあった”」と、この9年のキャリアのあるレギュラー・トリオによるこの日の演奏に喜びを持ったようだ。

(Tracklist)
1. We See (Thelonious Monk) 5:51
2. Snape Maltings (Fred Hersch) 7:24
3. Scuttlers (Fred Hersch) 2:39
4. Skipping (Fred Hersch) 4:49
5. Bristol Fog (for John Taylor) (Fred Hersch) 8:26
6. Newklypso (for Sonny Rollins) (Fred Hersch) 8:40
7. The Big Easy (for Tom Piazza) (Fred Hersch) 6:56
8. Miyako (Wayne Shorter) 7:10
9. Black Nile (Wayne Shorter) 6:44
10. Solo Encore: Blue Monk (Thelonious Monk) 5:17

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 リストを見ると10曲中6曲がハーシュのオリジナル曲。オープニングのモンクの曲M1.“We See”は軽妙にして跳ねるようなリズムと音の展開、こうゆう曲を聴く方はどう感ずるかだが、トリオ3者の絡み合いは如何にも完璧が要求される。演奏者が楽しんでいる世界だ。
 又M2. "Snape Maltings"もメロディーというよりは、この異様な展開を3者が構築する技量に圧倒される。 ピアノの流れをベース、ドラムスがサポートするというトリオ世界とは完全に別物。
 とにかくこのアルバムは全体的にもかなりの高揚感がある。ハーシュがこうして健康を回復してのトリオの楽しさの心の高まりをエベールとマクファーソンが共有しての世界に昇華している。そして例の如くハーシュのピアノの響きがクリアにして美しい。
 まあ唯一、このトリオとしての深い人生を感ずる演奏に流れたのは、John Taylorに捧げたM5. "Bristol Fog"だ。メロディーの主役がピアノからベース、そしてピアノと展開して8分を越える世界には私の期待を裏切らなかった。ハーシュの美的世界を堪能できる。
 M9." Black Nile "では、ドラム・ソロからスタート。激しさと言うよりは緻密さの感ずるところから始まって、次第に人生の夢をかき立てるところまでトリオの演奏は展開するのだ。

 これは一つの究極のトリオ演奏を示したと言って良い演奏に溢れていた。ハーシュの夢を感ずる回復の姿は、トリオ・メンバーの対等な展開の世界であることを示したものであった。
 まあ、私好みの曲は少々少ないことが残念だが、演奏技量の高さを感じさせて頂いたところに脱帽である。

(評価)
□演奏 : ★★★★★☆ 
□録音 : ★★★★★☆
 

(参考視聴)

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2017年11月13日 (月)

フレッド・ハーシュFred Herschのピアノ・ソロ 「open book」

(今年聴いて印象に残ったアルバムを-2)

ハーシュの美学を・・・ピアノの響きと余韻がベストな録音で

<Jazz>
Fred Hersch 「{open book}」
Palmetto Records / USA / PM2186 / 2017


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Fred Hersch (piano solo)

Recorded at JCC Art Center Concert Hall, Seoul, South Korea
Track 4 recorded live in concert, November 1, 2016 / All other tracks recorded April 1-3, 2017

  注目の20分近くの話題の長曲M4." Through The Forest "(Fred Hersch)が、私の期待した彼のメロディーの美しさがあまり感じられなかった為、それ程感動モノでなかったと言うことで登場が遅くなったが・・・。しかし何度と聴いていると、そこはフレッド・ハーシュだけのことはあって、勿論彼の繊細なタッチの美学はちゃんと散りばめられているアルバムである。
  又、録音も彼の弾くピアノ(Steinway)のソロ演奏音を適当な響きと余韻を描く好録音であって、その辺りも快感のアルバムである。

(Tracklist)
1 The Orb (Fred Hersch)- (6:26)
2 Whisper Not (Benny Golson)- (6:27)
3 Zingaro (Antonio Carlos Jobim)- (7:58)
4 Through The Forest (Fred Hersch)- (19:34)
5 Plainsong (Fred Hersch)- (4:51)
6 Eronel (Thelonious Monk/Sadik Hakim)- (5:40)
7 And So It Goes (Billy Joel)-(5:57)

Fredherschw M4. "Through The Forest"は、韓国のステージでの演奏録音版、19 分にわたるインプロもので、彼はこの演奏に関して、「予め考えたアイディアもセーフティ・ネットもなく、音楽的に、感情的に、到達したいところどこにでも趣くままに演奏した」と語っているとか。近年録音された演奏の中でも確かに注目に値するモノであると思うが、"Forest森林"と言うことの何か神秘的な世界感は十分に感じられる演奏だ。そしてその繊細なるタッチのピアノ音は彼ならではの世界であると納得するところ。ただ私の求めるリリカルなメロディーによる美学というところで無かったため、ちょっと空しさも感じられたのである。
 一方スタジオ演奏版のオープニングのM1. "The Orb"の静かなるしっとりとした美しさ、 M5. "Plainsong"の優しさには堪能してしまう。A.C.JobimのM3. "Zingaro"も、心に優しく響く、なんとなくクラシックを聴いているようなハーシュの世界となって、聴き入ってしまった。 
 最後に何故かBilly Joelとなって、M7. "And So It Goes"を非常に聴きやすいメロディー・タッチでありながら哀愁も感じられるところがお見事であった。
 やっぱり”ハーシュの美学”は生きているアルバムだ。

(視聴)

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2016年8月29日 (月)

フレッド・ハーシュ・トリオThe Fred Hersch Trio のライブ・アルバム 「sunday night at the vanguard」

繊細にして瑞々しく緩急メリハリのある粋なピアノ・トリオ

<Jazz>
The Fred Hersch Trio  「sunday night at the vanguard」
Palmetto Records / USA / PM2183 / 2016

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Recorded Live at the Village Vanguard,NYC on March 27, 2016
<Personnel>
Fred Hersch(piano)
John Hébert(bass)
Eric McPherson(drums)

 そろそろピアノ・トリオの話題も・・・・、と言うことでフレッド・ハーシュFred Hersch (1955年オハイオ州、シンシナティ生まれ)の今年録音のライブ・アルバム。

 彼の活動はもう35年以上の歴史を刻んできて、私もここで何回か取りあげたのだが、難病からの復活を見てから、このところ精力的な活動に復帰していることは何よりというところ。
 このアルバムは、ライブものの有名なニューヨーク・ヴィレッジ・ヴァンガードでの今年3月の録音で、彼の相変わらずの繊細なピアノを中心としたトリオ・プレイに、その味を堪能できる。

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1. A Cockeyed Optimist (Rodgers & Hammerstein)
2. Serpentine (Hersch)
3. The Optimum Thing (Hersch)
4. Calligram (for Benoit Delbecq) (Hersch)
5. Blackwing Palomino (Hersch)
6. For No One (Lennon/McCartney)
7. Everybody's Song But My Own (Wheeler)
8. The Peacocks (Rowles)
9. We See (Monk)
10. Solo Encore: Valentine (Hersch)

 M2, M3, M4, M5とハーシュのオリジナル曲が続くアルバムで・・・・
 M2.”Serpentine”は浮遊感覚の美しい曲で、ピアノのみでなく、トリオとしてのそれぞれの味が出ている。冒頭のピアノとベースのシンクロが美しく、中盤からのベースのソロ・パートも繊細なプレイでじっくり聴かせこの曲の展開に大きな効果を発揮している。
 M3.”The Optimum Thing ”は、一転してテンポ・アップして4ビートでハーシュのピアノが前面に出て聴かせてくれるが、ここでは叙情性のメロディー世界と異なって、やや前衛的な難解な曲展開を聴かせる。
 M4.”Calligram”は、やはりスタンダード曲演奏の拘束から放たれての独創性重視の自己の世界だ。ジャズ・ピアノの奥深さを見せつける。
 M5”Blackwing Palomino ”も、ここには彼のリズムカルな心情を思いのまま弾いてみせる。
 この4曲は、ハーシュが健康回復の充実感を謳歌している様として私は歓迎する部分だ。

Fredherschtrio そして後半はがらっとイメージを変えて、Paul McCartneyの曲M6.”For no one”の心にゆったりと響く優雅な曲として演奏され、心を休ませ豊かさに導いてくれる。
 続くM7.”Everybody's Song But My Own ”はハイ・テンポの展開だが、私にはあまり意味をなさない曲だった。
 M8.”The Peacocks ”は叙情的メロディーの曲というのではないのだが、次第に引き込まれていくこのトリオの繊細な交錯プレイに、彼らのトリオの存在感を十分感じ取れる曲。何回と聴き込んでみたい。
 M10.”Solo Encore: Valentine ”のアンコールの締めの曲。ハーシュのピアノ・ソロで抒情的にしてしんみりと味わえる曲。こうゆうところを実はもう少し私は聴きたかったのだが、それは又次作に期待。

(視聴)

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2016年2月19日 (金)

フレッド・ハーシュFred Herschのチャーリーに捧ぐアルバム「ARABANDE」

チャーリー・ヘイデンに捧ぐ1987年のリマスター盤

         <Jazz>
          
 FRED HERSCH 「ARABANDE」
      Sunnyside Communications / US / SSC1432 / 2016

Sarabande
Fred Hersch (piano)
Charlie Haden (bass)
Joey Baron(drums)

1986年12月4日,5日 Classic Sound Studio, NYC 録音

 フレッド・ハーシュFred Hersch(1955~)も多くのアルバムを残しているが、近年健康を回復して健闘していることが喜ばしい。
  2014年には、トリオもの「FLOATING」 、昨年2015年はソロ「SOLO」とリリースして、このところ我々を楽しませてくれている。
 (参照)http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/fred-hersch-tri.html

 そしてこれはあのチャーリー・ヘイデンと競演した若き頃の作品であるが、今ここにリマスターで復活させ、ヘイデンに捧げる作品とした。ハーシュのファンなら多分LPで聴いてきたであろうこの作品、音質の改良も加えて手軽なCDでの復活に喜んでいるだろうと思う。ただし私は初聴きであるが、なかなか非常に堪能しているんです。

(Tracklist)
1 I Have Dreamed (Rodgers & Hammerstein) 5:27
2 Enfant (Ornette Coleman) 6:27
3 The Peacocks (Jimmy Rowles) 7:10
4 What Is This Thing Called Love? (Cole Porter) 5:10
5 Sarabande (Fred Hersch) 5:37
6 This Heart of Mine (Arthur Freed & Harry Warren) 5:28
7 Child’s Song (Fred Hersch) 4:30
8 Blue In Green (Bill Evans & Miles Davis) 4:46
9 Cadences (Fred Hersch) 5:01

Fh1 60歳を過ぎているハーシュが、32歳の時の作品と言うことと、しかもアルバム・デビューの2作目ということで、実は私は興味津々であった。

 しかし聴いてみての驚きは、全く若さの荒さが無く詩的な世界は全く現在と変わらない。まず冒頭のM1”I Have Dreamed ”から、これから何か静かに物語を聴かせましょうというムードである。
 このアルバムでは彼の曲は3曲のみ。特にM7”Child's Song”はチャーリー・ヘイデンに捧げた曲というが、その明るさには意外であった。最後の曲M9”Cadences ”もこのアルバムでは明るい方に入るのだが、アルバム・タイトル曲のM5” Sarabande”は、彼らしい詩的な味わいを聴かせる。
  尊敬してやまないオーネット・コールマンの曲も2番目に登場させ、このアルバムではコール・ポーターの曲M4”What Is This Thing Called Love?”と並んでひときわ気合いが入った演奏を展開し、ベース、ドラムスも後半両者のデュオが洗練された響きでそれを一層引き立てる。そして続いては一転して、メロディアスにして美しいピアノの詩人と言われるリリカルな趣をM3”The Peacocks ”で披露する。この流れは若きハーシュと言うよりは、円熟した風格がある。

 どうもピアノ・トリオの興味はユーロ寄りになる私だが、アメリカ・オハイオ州シンシナティ出身のフレッド・ハーシュに関しては、こうして私好みの世界に流れてくるのである。

(試聴) ”The Peacocks”

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2014年8月 5日 (火)

フレッド・ハーシュ・トリオFred Hersch Trio ニューアルバム 「FLOATING」

詩情豊かなアメリカン・ジャズ

<Jazz>

           FRED HERSCH TRIO 「FLOATING」
            PALMETTO , US ,  PM2171 ,  2014


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Fred Hersch(piano)
John Hébert(bass)
Eric McPherson(drums,per)

 

1 You and The Night and The Music (Dietz/Schwartz – Warner Brothers Inc ASCAP)
2 Floating
3 West Virginia Rose (for Florette & Roslyn)
4 Home Fries (for John Hébert)
5 Far Away (for Shimrit)
6 Arcata (for Esperanza)
7 A Speech to the Sea (for Maaria)
8 Autumn Haze (for Kevin Hays)
9 If Ever I Would Leave You (Lerner/Lowe – Chappell-Co Inc ASCAP)
10 Let’s Cool One (Monk – Thelonious Music Corp BMI)

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 1955年オハイオ州シンシナティ生まれのフレッド・ハーシュが、病で2007年に倒れてから復帰してのライブ盤を入れての3枚目のアルバム。
 彼の生まれたシンシナティというところは、米国の中でも私の少しの旅した中では最もヨーロッパ的な落ち着いた雰囲気の感じられる都市だったように思う。オハイオ川が流れるその風情によるものかも知れないが、私にとっては好印象であった。それは又私の親族が今でもこの都市に住んでいるところからも更に親密感を持つのである。特にこの川岸近くに立つ高層のビルの上にある回転式のレストランでの食事をしての風景は、非常に美しく、もう何年も前の経験だが今でも忘れないところだ。

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 さて、このニュー・アルバムは4年ぶりのスタジオものだが、メンバーはこのところ固定しているジョン・エイベア(b)エリック・マクファーソン(d)とのトリオ。そしてお馴染みの曲からスタートするが、やっぱりアメリカン・ジャズの華々しいところはちゃんと持っていて、彼のピアニストとしてのテクニックの健在性を聴かしてくれる。そして2曲目にアルバム・タイトル曲”Floating”が登場して、がらっとイメージは変わってしっとりと人生を味わうが如くのメロディーの奥深い美が襲ってくる。このアルバムの主たる表現だと思われる。
 そして3曲目からの6曲は、彼の人生にて大切な人と言わせる人達に捧げた曲が並ぶ。特に3曲目” West Virginia Rose ”は、母親と祖母に捧げた曲のようでスローな中に情感が込められた曲。スウィング、バラードが繊細なピアノ・タッチで詩情豊かに流れてくる。
 なるほどこのアルバムは、「ピアノの詩人」と言われるハーシュの面目躍如のアルバムに仕上がっていて、これも貴重な一枚である。

(試聴)

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