ヨーナス・ハーヴィストJoonas Haavisto 「INNER INVERSIONS」
叙情性溢れるバッハ楽曲やバッハにインスピレーションを得た自己のオリジナル曲を展開
<Jazz>
Joonas Haavisto 「INNER INVERSIONS」
BLUE GLEAM / JPN / BG015 / 2024
Joonas Haavisto : Piano
Recorded June 1-4,1-4,2024 at Steinway Piano Gallery, Helsinki, Finland
Recorded by Abdissa Assefa and Joonas Haavisto
北欧フィンランドの注目のジャズピアニスト、ヨーナス・ハーヴィストの約15年のキャリアで初となるソロ作品(日本レーベルBLUE GREEMとしては第4弾となる)。既に過去の作品はここで取り上げてきたが、彼の叙情的に描く美しいピアノには定評があって、しかもそれに留まらず硬質にして透明感あるダイナミズムに圧倒される。そして日本と馴染の深い人気ピアニストだ。 今年の彼のアルバムには、これも異色の『MOON BRIDGE』(EIRD8008 →)があるが、これはケスタティス・ヴァイギニス(リトアニア出身のサックス奏者)との作品で、ピアノとサックスのデュオ作品で、日本庭園でみられる円月橋にインスパイアされたという。水面にその姿が反射するように配置されアーチと水面に映った影で形成された円は、満月を象徴していることからデュオの「共生」、国と国との「繋がり」、平和を築き橋を架けるとする彼らの想いが込められているアルバムだ。
彼は、今までは主としてピアノ・トリオ作品であったが、今回のこちらのこのアルバムは、おそらく満を持してのピアノ・ソロものと推測する。そして内容は彼に大いに影響をもたらしているJ.S.バッハがテーマになっている。タイトルも"INNER VERSION = 内部反転"という意味深なところにあって、どうも自己の内面に迫り、相対する側面を見つけるという感覚のようだ。単なるクラシックもののジャズ化ではないところは明白で、彼の描きたいところに興味を持ちつつ聴くことになったアルバム。
ヨーナス・ハーヴィストJoonas Haavistoは、1982年生まれ42歳。7歳の時に故郷コッコラの音楽院で音楽の勉強を始め、クラシックのコントラバスを演奏し、16歳でジャズピアノのレッスンを受けた。高校を卒業し、兵役を終えた後、2002年世界有数の音楽大学であるヘルシンキ芸術大学(旧シベリウス音楽院)に入学した。2004年秋、フィンランドのトップビッグバンド、UMOジャズオーケストラでデビューし、更に2005年、マイアミ大学フロスト音楽院に留学。2006年自身のカルテット「アピラス」が名誉ある「ヤング・ノルディック・コメッツ」で最優秀賞を受賞。2010年アルバム『BLUE WATERS』(ZENCD2130)リリース。2012年2nd作『Micro to Macro』(BLUE GLEAM)で日本デビュー。2017年世界トップのピアノメーカー、スタインウェイ&サンズ社(米国)より、スタインウェイ・アーティストとして承認される。2022年USAツアーで、ジャズクラブの最高峰「BLUE NOTE NEW YORK」に出演。キース・ジャレット、チック・コリア等に影響を受けた。卓越したイマジネーションとハーモニーセンスを持つ北欧屈指のジャズピアニスト。
(Tracklist)
1. Paraphrase on Bach's Fugue in C Minor
2. Kuer Changes
3. With Me
4. Jesu, Joy of Man's Desiring, BWV 147
5. Paraphrase on Bach's Prelude in C Major
6. Paraphrase on Bach's Fugue in C Major
7. Sleepers Awake, BWV 140
8. Prelude for B.G.
9. Inner Inversions
10. Waltz for Debby (Bonus Track)
全編、ハーヴィストにとって最も重要な意味をなす、つまり彼の内面に大きな影響をもたらしているJ.S.バッハをテーマにした曲による構成がまさに美しい。登場する10曲は、バッハの名曲「平均律クラヴィーア曲集第1巻」からインスピレーションを得てイメージして彼が作り上げた曲(Paraphrase=M1,5,6)と、バッハの曲を彼の感覚で編曲したもの(M4,7)、更にバッハの手法を模倣し彼自身が作曲した曲(M2,3,8,9)の3つ分かれる。そして最後には、ビル・エヴァンスがバッハの影響を受けて作曲し演じた人気曲"Waltz for Debby"が登場する。
冒頭のM1."Paraphrase on Bach's Fugue in C Minor"から美旋律が流れてくる。この曲は平均律第1巻第2曲のフーガをイメージしての彼なりの構築が見事。M6."Paraphrase on Bach's Fugue in C Major"のParaphrase(表現しなおす)も優しさがあふれている。
そしてバッハの演奏を試みたのは、M4."Jesu, Joy of Man's Desiring, BWV 147" 、M7."Sleepers Awake, BWV 140"で、両者原曲旋律を演じつつ即興を交えるも、かなり曲そのものの美しさは出来るだけ残してかなり素直に演じていて聴きやすい。
問題のM9." Inner Inversions"は、ジャズとクラシックを境界なく融合して、優美さを描いた技に彼の本気を見た思いだ。
日本向けサービスのエヴァンスのM10."Waltz for Debby "は、ちょっとさわりといった程度でどっぷり浸かれなかったのが残念。
近年のBrad Mehldauのバッハへの迫り方のジャズとしての奥深さ、複雑性と若干異なっていて、ハーヴィストの場合、北欧的美学が根底にあって、アルバムとしての聴き方には、私自身が北欧系に惹かれる因子があるだけに、このハーヴィストのほうにピアノのリリカルな美が感じ取れて聴きやすかった。従って、その違いをどう受け入れるかは聴く者の個性によるところで良いのではないかと思うのである。
なお2024年11月30日から6年振り5度目の来日公演「JOONAS HAAVISTO JAPAN TOUR 2024」がスタート。本作「Inner Inversions」ライヴパフォーマンスを披露する。
(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音 87/100
(試聴)
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