メラニー・デ・ビアシオ Melanie De Biasio 「Il Viaggio」
移民者であるルーツに自分を見つめる探索の旅から生まれた世界
<Electronic, Jazz, Pop> (Style : Easy Listening, Ambient)
Melanie De Biasio 「Il Viaggio」
Pias Le Label / Germany / PIASLL202CD / 2023
Malenie De Biasio : Vocals,Flute,Lansdcapes,Guitar
Pascal N.Paulus : Keyboards, Clavinet, Rjhodes,Guitars,Drums etc.
David Baron : Wurlitzer,Mellotron,Synthetisers,Felt Piano
Rubin Kodheli : cello
私が2014年の2ndアルバム『No Real』以来注目している女性ジャズ・SSW/Singer のメラニー・デ・ビアシオの5作目のアルバム。これは昨年末にリリースされたが、取り上げるのをためらって今になってしまった。過去のアルバムはやはりここで考察・悪戦苦闘したのだが、それにも増してこのアルバムとはある種の覚悟を持って入って行かないと対応が難しい。と、言うのも過去のアルバムを聴きこんでのイメージから発展しないと、まともな理解が出来ないところにあるからだ。
メラニー・デ・ビアシオ(Melanie De Biasio、1978年7月12日 - )は、ベルギーのジャズ歌手、フルート奏者、作曲家。ベルギー人の母とイタリア人の父の間にシャルルロワで生まれた。3歳からバレエを習い、8歳からウエスタン・コンサートフルートを習い始める。ニルヴァーナ、ポーティスヘッド、ピンク・フロイド、ジェスロ・タルなどのロック・グループのファンだった彼女は、15歳のときにしばらくの間ロックバンドに参加していた。ブリュッセル王立音楽院で3年間の歌唱学を学んだ後、彼女は最高の栄誉を持つ一等賞を受賞。2004年、ロシアでのツアー中に、深刻な肺感染症にかかり、丸1年間歌唱能力を失った。この間、彼女は特徴的なささやき声の詠唱を発達させた。
彼女のルーツはジャズだが、長年ジャズを、または少なくとも純粋なジャズを作っていない。彼女の過去のアルバムは、2007年『A Stomach Is Burning(胃が焼けている)』、 2013年『No Deal(合意なし)』、2016年『Blackened Cities(黒く染まった都市)』 (EP、これが又かなりの問題作) 、2017年『Liles』とあって、今作は6年ぶりの第5作だった。
このアルバム『Il Viaggio』(旅)のアイデアは、2021年に学際的な芸術祭「Europalia」がデ・ビアシオに"Trains & Tracks(列車と線路)"をテーマにするよう依頼したことから生まれたという。それをきっかけに彼女は、父方の祖父母がイタリアからベルギーへの移民のルートを再構築してみることを決意した。古いカメラと軽量の録音機器だけを武器にフィールドレコーディングを行ったメラニー・デ・ビアシオは、イタリアのアブルッツォ州(下写真のような高原や山岳地帯が多い=snsより借用)にある小さな山間の村レットマノッペッロに一人で定住した。そしてそこから家族の出身地であり、子供の頃に夏を過ごしたドロミテを旅した。この旅こそが彼女の内省的な姿に、又それだけでなく、この作品作りに中心的な影響をもたらしたというのである。
(Tracklist)
Disc1
Lay Your Ear To The Rail
1 Lay Your Ear to the Rail
2 Nonnarina
3 Il Vento
4 We Never Kneel to Pray
5 I'm Looking for
6 Mi Ricordo Di Te
7 Chiesa
8 Now Is Narrow
9 San Liberatore
Disc2
The Chaos Azure
10 The Chaos Azure
11 Alba
このアルバムは、彼女の「芸術的進化と音楽技術への献身の証」だと言わしめている。音楽的、肉体的、精神的な再生のための探求であり、目覚めた感情的な記憶から生まれた作品だと言う。コンクリート(楽器ではなく、生活音や騒音、川の流れや鳥の音などの自然の音を使って創作される音楽)とアンビエントが融合し、映画一シーンのような自然に恵まれた中での人間の営む静かな風景を見つめるが如くの世界に引き込まれる。これにはフィールドレコーディングとか、おそらくサウンド・コラージュも行われての曲作りだったと推測する。そして収録された11曲が、一つの世界として聴き込む必要があるアルバム造りである。さらに幸い私はイタリアの長靴のような形の国を車で南から北へ縦断した経験があるが、あの途中で見た山や高原に点在する古い村落などを見たことが、なんとなくこのアルバムに描かれる世界が見えてくるのである。
まずは、オープニングトラックのM1."Lay Your Ear to the Rail"から音の流れに魅了される。メラニーのバラードは、ジャズに根ざしながらも、そんなジャンルを超越した普遍的な魅力を持っており、ささやく歌詞が、移民の安堵のない不安定な荒涼たる世界にすぐに引き混まれてしまう。
そしてM2."Nonnarina"に入ると、いかにも親密な人間の姿が浮かび上がるが如く彼女の歌が響く。そしてM3."Il Vento"では深遠な世界に沈み込む。
そしてM4." We Never Kneel to Pray"においては祈りの世界に導いている。
M5."I'm Looking for"のギターの響きは、決して明るい安堵の世界でなく暗雲が広がるような展開に。しかし続くM6."Mi Ricordo Di Te"のギターと彼女の歌声に救われる。
しかしM7."Chiesa"では再びアルバムの冒頭に引き戻される。不安に満ちたこの世界こそが、彼女の発見した現実なのかもしれない。彼女の声がアンビエントな空間に響く。
M10."The Chaos Azure" のチェロの響きは深層心理への響きが感じられる。M11."Alba"はミニマル奏法で永遠なる大地と自然と人間の営みの世界からの別れを描くのか、是非聴いてほしい18分の世界。
こうして彼女のルーツを探索する旅が進行し、果たして得られたモノは何かは私のような聴く者には解らない。ただシンセの響きに、彼女の不思議な歌声、そしてギターが異様な世界を描き、彼女のフルートが深遠な人間集団を表現する。単なる回顧に終わらない彼女の世界の複雑性が深く印象に残るのである。
このアルバムは、ジャズ、オルタナティブ、チルアウト(電子音楽のスローテンポなさまざまな形式の音楽を表す包括的な言葉として)のジャンルが調和して融合しており深みのある世界は抜きんでている、不思議にして複雑であるが普遍的な聴覚体験をさせてもらうことが出来る。これには、Pascal N.Paulus (Key, Guitar 下左)とDavid Baron(Mellotron,Synthetisers 下右)の力も大きいと推測している。
不思議に何度聴いても飽きない、それは歌詞の意味がまったく解らないところにあって、それがむしろ聴く者の個人の世界に一つの空想空間を築く様に誘導してくれるのだ。私のこのアルバムとの格闘はまだまだ続いている。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 95/100
□ 録音 88/100
(試聴)
*
"Lay Your Ear To The Rail"
(解説) イタリア・アブルッツォ州 (snsを参考にした)
ローマの東に位置するイタリアの州で、アドリア海沿岸とアペニン山脈に面しています。内陸部には険しい山岳地帯が広がり、多くが国立公園や自然保護区に指定されている。丘の上に築かれている町は歴史が古く、中世やルネサンス時代にまでさかのぼる。州都は城壁都市のラクイラですが、2009 年に地震が発生し被害を受けた。州の65%が山岳地帯で、アドリア海とアペニン山脈の間には丘陵地帯があり、平地はわずか1%しかない。中央イタリアに位置していますが、1860年にイタリア王国に統一されるまではナポリ王国の領土であったため、歴史的にも文化的にもイタリア南部に近いと言える。山岳が多いこともあり人口密度が低く、他の南イタリアの州同様経済は遅れており、戦前まではイタリアで最も貧しい州の一つでした。1960年代以降は、首都ローマとアブルッツォを結ぶ高速道路の完成を契機に工業化が進みました。ドウ畑は海と山に挟まれた丘陵地帯に広がっている。基本的に夏は暑く乾燥し、冬は温暖で雨が多い地中海性気候だが、内陸部の標高の高いエリアは冷涼です。ただ、アドリア海から内陸に入るとすぐに丘陵地帯で、30〜50kmで山岳地帯となるため、ほとんどのブドウ畑は海と山の両方の影響を受ける。
レットマノッペッロ(Lettomanoppello)は、イタリアのアブルッツォ州に位置する小さな村。自然豊かな環境に囲まれた村で、特にマイエッラ国立公園の一部に位置しているため、ハイキングや自然愛好家に人気の場所。村自体は人口が非常に少なく、歴史的な建造物や教会が点在しています。主な見どころの一つとして、石材の加工で知られるこの地域特有の建築物や彫刻があり、古くから採石業が盛ん。特に、白色の石灰岩「マイエッラ石」がこの地域で採れ、伝統的な建物や彫刻に使用されている。住民は、地域の伝統や文化を大切にしており、村では小さな祭りやイベントが開催されることもある。アブルッツォ州全体としても、豊かな食文化があり、特にパスタやワイン、チーズなどが有名です。歴史的には、レットマノッペッロは中世からの村であり、その歴史を今も感じることができる静かで魅力的な場所。
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