セリア・ネルゴール Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」
両親への感謝の気持ちを込めた感動的豪華さのあるアルバム
<Jazz>
Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」
(CD)Masterworks / Import / 19802890702 / 2025
Produced by SILJE NERGAARD and MIKE HARTUNG
SILJE NERGAARD (vocals)
HELGE LIEN (piano)
JARLE VESPESTAD (drums)
FINN GUTTORMSEN (bass)
GEORGE (JOJJE) WADENIUS (guitars)
HÅKON KORNSTAD (saxophone)
MARTIN WINSTAD (percussion)
BEATE S. LECH (guest vocals)
KARLA NERGAARD (backing vocals)
MIKE HARTUNG (backing vocals)
STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA VINCE MENDOZA conductor & arranger
Recorded and mixed by MIKE HARTUNG at PROPELLER MUSIC DIVISION Oslo 2022-2024
Mastered by MORGAN NICOLAYSEN at PROPELLER MASTERING Oslo nov 2024
STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA recorded at STAVANGER KONSERTHUS May 2024
Conducted by VINCE MENDOZA
ノルウェーを代表するジャズ&ポップス・シンガーの通称セリア=Silje Nergaar(セリア・ネルゴール, →)のニュー・アルバム。彼女に関してはここでも何度か取り上げた。特に私の注目はトルド・グスタフセンTord Gustavsenのピアノとの共演の『Nightwatch』であったが、今回は私の一つの注目点は、やはりピアノが私の好きなヘルゲ・リエンHelge Lien(↓右)ということだ。いやはや彼女は名ジャズ・ピアニストをしっかり確保し、しかも、2010年にリリースされ、グラミー賞にノミネートされたアルバム『A Thousand True Stories』でもコラボレーションした、ヴィンス・メンドーザVINCE MENDOZA (↓中央)が、今作ではスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、曲に感動的なオーケストラアレンジ効果を発揮している。
そして、このアルバム・ジャケが古めかしいですね。なんと戦後のジャズ・アルバムの再発盤かと思わせるジャケ。それは実は彼女の両親の若い時の二人の写真を見つけてジャケにしたということのようだ(その写真↓左)。彼女も1966年生まれであるから今年は59歳、来年は還暦を迎えるという歳になって、どうも両親への深い思いが込められたアルバムという事のようで、タイトルも『Tomorrow We'll Figure Out the Rest』と、訳すと「明日多分私たちは残りを理解するでしょう」「明日、続きを解明する」ということだろうが、両親への深い思いが込められており、かっての自分の幼少期からの遠い日の記憶、家族やさまざまな人生の物語等にインスパイアされた曲を収録したということだ。とにかく音楽というものを通じて人々の心を動かす彼女の資質と才能が溢れたアルバムと仕上げられたものである。
彼女は、1985年にノルウェー代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場してのスタートで、アルバム・デビューは1990年で、パット・メセニーのプロデュースで1990年にリリースされたアルバム『Tell me where you're going やさしい光につつまれて』が、日本はじめ世界各国で大ヒットし、以来、北欧ジャズ・ポップス・シーンを代表するシンガーとして活躍している。当時はポップよりのものであったが、2000年発表の『Port of Call』、2003年『Nightwatch』よりジャズ・ピアニストのトルド・グスタフセンを起用したことより、ジャズよりの作品になって近年はもっぱらジャズに傾倒している経過で、キャリア40年となる。又ヘルゲ・リエン(↑右)もそうであるようにノルウエーには結構親日家が多く、彼女もその一人で、1991年発表の『Quiet Place〜心のコラージュ』には「Kyoto Wind」という曲を、さらに2001年発表の『At First Light 初めてのときめき』には「Japanese Blue」という曲をそれぞれ収録している。
(Tracklist)
1. You Are the Very Moon (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
2. Lover Man (Håkon Kornstad)
3 Mamma og pappa synger00:36
4. A Perfect Night to Fall in Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
5. Vekket i tide (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
6. Before You Happened to Me
7 Silje synger00:58
8. Dance me Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
9. My Man My Man
10. Brooklyn Rain (Håkon Kornstad)
11. Here There and Everywhere
12 Silje og pappa snakker00:48
13. Tomorrow We'll Figure Out the Rest (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
両親への深い思いが込められているというだけあって、とにかく心温まるような素直にして愛情にあふれた優しいヴォーカルと曲いうアルバムに仕上がっている。遠い日の記憶、家族との交わり、そして経てきたさまざまな人生の物語に思いで込めて演じられている楽曲を収録されていて、Helge Lien(ピアノ)、Jarle Vespestad(ドラムス)、Finn Guttormsen(ベース)、George Wadenius(ギター)、Håkon Kornstad(サックス)といったヨーロッパを代表するジャズ・ミュージシャンが彼女をサポートし、ヴィンス・メンドーザが、今作では5曲においてスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、作品にジャズというよりはジャンルを超えた広い世界を描くムードを真摯に演じて盛り上げている。ジャズ・アンサンブルとオーケストラの競演で支えているわけだ(↓は両親とビニール盤アルバムの完成を喜ぶセリア)
彼女のヴォーカルは、まず若い印象で驚くが、一層癖のない表現の世界にあって、ジャズといつた世界とはむしろ別物に感ずる。M4." A Perfect Night to Fall in Love "(恋に落ちるには最適な夜)は、オーケストラとバッキング・ヴォーカルが入ってむしろ荘厳に近い雰囲気を盛り上げるところが印象深い。
又M3.7.12は、彼女や両親との交わりの思い出の録音された会話や歌を挿入して一層のムード盛り上げを図っているのも、如何にも個人的な世界ではあるがアルバムの充実度を図っている。
M8." Dance me Love"はゆつたりとした曲で、ストリングスの美しさ、ピアノの美しさと静かに語るドラムスの響きと、曲の演奏も聴きどころで、彼女の歌い上げるヴォーカルも見事である。
いずれにしても聴いていて印象は極めて良い。そんな両親への感謝の世界を知らしめたと言う彼女のアルバム造りも一つの区切りとしては、意義があったと思うし、聴く方もわが身に置き換えて感謝の気持ちを持てたということであれば有意義である。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 88/100
□ 録音 87/100
(試聴)
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