ステイシー・ケント Stacey Kent 「Summer me, Winter me」
多彩な世界を、誠実感のある歌いこみに好感
<Jazz>
Stacey Kent 「Summer me, Winter me」
Naive / Import / BLV8224 / 2023
Stacey Kent (vocal)
Jim Tomlinson (tenor saxophone, flute, alto flute, clarinet, guitar, percussion, keyboard)
Art Hirahara (piano)
Graham Harvey (piano)
Tom Hubbard (double bass)
Jeremy Brown (double bass)
Anthony Pinciotti (drums on 01, 02, 03, 04, 05, 07, 09, 10)
Joshua Morrison (drums on 06, 08, 11)
Aurélie Chenille (first violin on 05)
Claire Chabert (second violin on 05)
Fabrice Planchat (viola on 05)
Gabriel Planchat (cello on 05)
#06, #08, #11:2019年5月6日英国ウェスト・サセックス(州)アーディングリー=ArdinglyのCurtis Schwartz Studio録音
#01, #04, #09, #10:2019年8月2日米ニューヨークシティのEastside Studios録音
#02, #03, #05, #07:2019年12月12日米ニューヨークシティのSpin Studios録音
(追加録音)米コロラド州カーボンデイルのStirling Studio、米ヴァージニア州アーリーズヴィルのLake Studios
ステイシー・ケントもここで取り上げるのも久しぶりだと思いましたが、2年前にピアノとのデュオ・アルバム『Songs from Other Places』(2021)が出ていたんですね。今回もなかなかバックは小コンポで、彼女の充実したヴォーカルがじっくり聴けるアルバムの登場である。
なんとそれは、彼女のコンサートでアルバムとしてリリースされていないが高評価の人気曲を集めたというまさにファン・サービス・アルバムで、古いレパートリーであったり新しいものもあり統一感というよりは、聴きたいという希望に答えている。しかもフランスのレーベルNAIVEからのリリースである。
彼女は、ニュージャージー州サウスオレンジ出身(1965年生まれ)のアメリカのジャズ歌手だが、父方の祖父はロシア人で、フランスで育った。サラローレンス大学を卒業した後、彼女はロンドンのギルドホール音楽演劇学校で音楽を学ぶためにイギリスに渡航し、そこで1991年に結婚したサックス奏者のジム・トムリンソンに会ったという事だ。
過去にグラミー賞にノミネートされ、2009年にフランス文化大臣から芸術文学勲章シュヴァリエを授与されている。夫のジム・トムリンソンは彼女のアルバムをプロデュースし、彼女のために曲を書いたりしている。もともとフランスでの人気が先行して今やインターナショナルにファンがいる。
01. Summer Me, Winter Me (vo-fl-p-b-ds)
02. La Valse Des Lilas (vo-ts-p-b-ds)
03. Thinking About The Rain (vo-afl/cl/fl?/key?-p-b-ds)
04. Under Paris Skies (vo-fl/ts-p-b-ds)
05. If You Go Away (vo-cl-p-b-ds-strings)
06. Happy Talk (vo-fl/ts/acg-p-b-ds)
07. Show Me (vo-p-b-ds)
08. Postcard Lovers (vo-afl-p-b-ds)
09. Corcovado (vo-fl/ts/acg-p-b-ds)
10. A Song That Isn't Finished Yet (vo-ts-p-b-ds)
11. Ne Me Quitte Pas (vo-p-b-ds)
彼女はもうベテランの範疇だが、声は全く衰えることもなく以前からのままであるが、歌いっぷりはやはり充実していて、いろいろという事が憚れるといったところ。バックの演奏もヴォーカルものにぴったりの小コンポで、ピアノ・トリオにフルート、テナーサックス、ギターなど曲により加わりいいムードである。
アルバム・タイトル曲であるM1."Summer Me, Winter Me"は元々、ミッシェル・ルグランが作曲した映画「おもいでの夏」のテーマ曲"Summer Song"に後付けで歌詞が付けられたもので、シナトラや、エラ・フィッツジェラルドなどの大物がカバーしている名曲らしい。ケントは軽快なバックに優雅に歌い上げていて歴史を感じられる曲だ。
M2."La Valse Des Lilas" ゆったりしたフランス・ムードの情景豊かな曲で聴いていて気持ちがいい。
M4."Under Paris Skies"は、誰でも知っているという名曲だが、快適なテンポでパリの華やかさと明るさを歌い上げていてこれも気持ちが良い。
M5."If You Go Away"は、彼女の歌うコンサートでは人気曲のようで、このピアノのバックでしっとりと歌での味付けとムードはさすがである。これが収録されてファンは大喜びというところだ。
M8."Postcard Lovers"は、カズオ・イシグロ氏の作詩、なかなか落ち着いた大人の歌が聴ける。
M9." Corcovado"は、彼女が尊敬しているというジョビンの曲で、リオデジャネイロのコルコバードの象徴的美しい場所を見てのブラジルの自然の美しさや愛情を歌った曲で、しっとりと歌いこまれていて聴きごたえ十分。
M11."Ne Me Quitte Pas"は、これはフランス語の歌詞で、英語では"If You go away"(いかないで)と歌われる。このアルバムではM5.と同一曲のフランス語版。なんと、かってシンディ・ローパーが見事に歌って私は驚いた曲である。アルバム締めくくりとして、ケントはスタートはアカペラで歌い上げ、控えめなピアノと共にしっとりと歌いこんで切ないムードを盛り上げる。
彼女のヴォーカルは、不思議なのは、年齢とは別のなんとなくあどけなさも感ずるところがあったり、しっとりと大人のムードで包容力があったり、パリ・ムードの華やかさを若々しく歌ったり、このアルバムの選曲によって多彩で至れり尽くせりといったところにある。とにかくなんとなく彼女が一つの節目として誠実真摯に変な色付けなく自然なムードで歌い上げたアルバムのような感覚になる。取り敢えず推薦アルバムだ。
(評価)
□ 選曲・演奏・歌 88/100
□ 録音 88/100
(試聴)
(フランス語版)
*
(英語版)
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