アメリカン優良音楽
万人受けのクセのないカントリー調コンテポラリー・ミュージック
ジェニファー・ウォーンズJennifer Warnes (1947年ワシントン州シアトル生まれ、21歳で1stアルバムをリリース。後にカントリー・ロックで花を咲かせる。映画主題歌などで評価を得る)は、どうゆうわけか深入りしなかった。もともと私が知ったのは、もう30年近く前と思うが米国カントリー・ロック系のヴォーカリストとしてである。さほど興味もなく忘れて来たわけだが、一昨年であったか、友人が突然彼女のアルバム「The Well」を送ってきた。これを聴いたときに完成された女性ヴォーカルものとして聴いたわけだが、声の質や唱法にクセもなく優等生のアルバムとして私の評価に入っていた。
さてその後今年になって別の友人から、”このブログで多くの女性ヴォーカリストを取り扱っているのに、ジェニファー・ウォーンズを書かないのはどうか?”と、ご意見があり、有り難いことにこのつたないブログを読んでいてくれることに感謝しつつ、そのご意見によりここにちょっと触れることになった(実はこのブログでは2010.3.22にレナード・コーエンを取り上げた時に、彼女のアルバム「Famous Blue Raincoat」に触れたのであるが、扱いが軽すぎたかも・・・と、反省している。
<Country, Folk, Contemporary Music>
Jennifer Warnes 「The Well ~24 KARAT GOLD EDITION」
IMPEX / IMP8302 / 2009
もともとこのブログでは、どちらかというとニュー・アルバムがリリースされることを契機に話題にしているため、彼女の作品は焼き直しが現在は主流であり触れなかったと言うこともあるが、まあ、左のGOLD EDITIONは、10年前のアルバムの2009年の三回目のリニューアル・リリース盤であり、手元にあるので取り敢えずご紹介だ。
先にも触れたが、このアルバムは2001年のもの。それの音質改善+3曲追加盤。
何回聴いても特に歌が変わるわけでないが、確かに音質は良くなっている。このマスター・テープは彼女自身が持っている代物らしい。2曲が5,6曲目に挿入され、Bonus track として1曲追加というパターンをとっている。
1. The Well, 2. It's Raining, 3. Prairie Melancholy, 4. Too Late Love Comes, 5. La Luna Brilla, 6. Fool For The Look (In Your Eyes), 7. Invitation to the Blues, 8. And So It Goes, 9. The Panther, 10. You Don't Know Me featuring Doyle Bramhall, 11. The Nightingale, 12. Patriot's Dream, 13. The Well (Reprise), 14. (Bonus Track) Show Me The Light featuring Bill Medley
冒頭の曲はアルバム・タイトル曲の”the well”だが、これが彼女のこのアルバムに於けるメイン曲であることは最後に再登場させることからも窺える。やはりどちらかというとカントリー・ロック調のコンテポラリー・ミュージックというところか。もともとレナード・コーエンのバック・コーラスを担当していた経過もあり、彼の影響もかなり受けていることが解る。私がもともと熱を上げるタイプのロックとは異なるわけだが、そうは言っても悪くはない。
そしてこのパターンでこのアルバムは進行するのであるが、このアルバムでは、3曲目の”prairie melancholy”も悪くない。そして二曲の名曲がある、一つは4曲目のトラッド曲”too late love comes”で、ジェニファーが歌詞を付けている。もともとカントリーというのは米国南部の白人系移民による曲が原点にあるもので、その後のカントリ・ロックやカントリー・ウェスタンへの流れはあまり私の好みでないが、こうした原点のトラッドへのアプローチは歓迎である。
参考までに米国南部と言ってもディープ・サウスからのブルースは所謂黒人霊歌・労働歌を原点としての流れであり、セントルイス、シカゴ、ニューヨークと広がり、それぞれのパターンを創り上げるが、こちらはそこにはカントリーとは異なった私好みの世界が展開する。
そして話は戻るが、7曲目になる才能の塊tom waitsの”invitation to the blues”は、このアルバムでも最高の出来である。ここに納められた曲の中では最もJAZZYな出来で、なんといってもドイル・ブラムホールIIのブルース・ギターが聴きどころだ。そしてトランペット、ピアノの響きが美しい。彼女のこのアルバム造りもこのパターンで行って欲しいところであるが・・・・・、それは私の好みの話で、それはジェニファーを愛するカントリー派には酷な話になってしまうであろう。
ジェニファーがシング・ソングライターとしての力量を発揮していることが解るのは、このアルバムにも彼女が関わった5曲が登場する。先にも触れたメインのタイトル曲”the well”もそうだが、そして忘れてはならないのは、彼女のタイプを鑑みて協力しているドイル・ブラムホールdoyle bramhall(ヴォーカルでも登場する=左)の力が大きい。彼はここにバック・バンドで貢献している美しいリード・ギターのドイル・ブラムホールIIの父親だ。彼のブルース・バンドのドラムスと作曲には定評があるところ。彼は1949年テキサス州ダラス郊外のアーヴィング生まれ、子供の頃からドラムスをたたき歌を唄い特にブルースには、あのブルース・ギターの開拓者のスティーヴィー・レイ・ヴォーンとバンドを組んでいた実力者。後半の”the panther”も彼が作曲に貢献している。
さてさて、更に話は進むが、息子のドイル・ブラムホールIIDoyle BramhallII(1968年生まれ)となると、これが私の好きなブルース・ギタリスト。彼がこのアルバムの殆どの曲のリード・ギターを務めている。むしろ私はその方が関心を持ったと言ってもいいのである。
写真の左がドイルだ。右のギター職人スノーウィー・ホワイト(このブログの2010.8.20のアーティクル参照)と共演している。このカットは、あのピンク・フロイドのCreative Genius(創造的才能)と言われるロジャー・ウォーターズの「In The Flesh ツアー」(1999-2000年)に参加した時のもの。彼は左利きでギターを逆に持って演ずる。それも左利き用でなく右利き用の通常のものをひっくり返した状態で弦が付いている。そしてピッキングは下から上にアップでする。このあたりは特異で妙に印象深くなるのだ。それはさておき、あのギタリストにうるさいロジャー・ウォーターズに目を付けられるほどの当時は若きエース(参照:このブログでは2007.2.27に「ロジャー・ウォーターズにみるギタリスト・ベスト10」に取り上げている)である。
左は、このドイル・ブラムホールIIのアルバム。彼のテクニックを聴きたければ一聴してほしい。
「Doyle Bramhall II & Smokestack / WELCOME」 RCA 07863 69360 2 , 2001
彼は最近は、エリック・クラプトンにも気に入られ引っ張られて、あの”CROSSROADS GUITAR FESTIVAL”でも活躍しいる。
・・・・と、言うところで余談に余談を繰り返したわけであるが、ジュニファーのこのアルバム「The Well」に戻ってみると、どちらかというと作曲やバック・バンドに私の興味のある連中が揃っていると言うところが、私にとっての味噌となるアルバムなのだ。
結論的に言うと、このジェニファーのアルバムは、カントリー色と米国に於ける常識派の優等生アルバムで、社会に優良音楽として受け入れてこられた通りのもの。彼女の歌声も例えばエヴァ・キャシディEva Cassidyの美しさには届かないが、完成度とテクニックは一流と言っていいと思う。
最後に、私の女性ヴォーカルものへの期待の一部を紹介すると、Jazzyな世界と、そこに潜むやや危ない世界が見え隠れするスリリングなところが欲しいのである。その意味ではジェニファーは別の優良世界であってそれはそれ貴重であると言いとどめておきたい。
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