寺島靖国

2022年12月27日 (火)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio「Portrait in Black and White」

カルロス・ジョビンをガラティ世界にて蘇えらせる

<Jazz>

Alessandro Galati Trio「Portrait in Black and White」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1109 / 2022

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Alessandro Galati (piano)
Guido Zorn (bass)
Andrea Beninati (drums)

Artesuono Recording Studios (Italy)
Recorded by Stefano Amerio

Ag5xw  アレッサンドロ・ガラティの新作は、なんとボサノヴァのアントニオ・カルロス・ジョビン集。ちょっとピンとこないのだが、果たしてガラティの手によるとどうなるのか、まさに興味津々のアルバムの登場。
 ガラティは、私の最も愛するイタリアのジャズ・ピアニスト、彼に関してはここで何回と取り上げているが、それはアルバム『TRACTION AVANT』(Via Veneto Jazz/1994)から始まっての歴史ではあるが、近年寺島レコードとの契約によって矢継ぎ早にアルバム・リリースがある。

 当初、寺島靖国はこの作品をリリースすることに前向きではなく、寺島レコードとしてジャズ作品のリリースを望んでいた。しかし、送られてきた音源を聴いてその思いは一転し、"アントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲が、ジャズ・ピアノ・トリオ作品として成立していることに驚き、その出来栄えに感嘆したのだ"・・・と言うのがこのアルバムのリリースまでの経過らしい。
 確かに、イタリアのピアノ・ジャズ名手といえども、ユーロ・ジャズのまさに中軸にあって、ジャズとも言えないボサノヴァとは聴き手を裏切ってしまうだろうと心配するのは当然である。
 しかし、冒頭の曲から驚きはスタートするのだ。

(Tracklist)

1. O Que Tinha de Ser
2. Modinha
3. Samba de Uma Nota S
4. Inūtil Paisagem
5. STinha de Ser Com Voc
6. Fotografia
7. Dindi
8. Vivo Sonhando
9. Eu Sei Que Vou Te Amar
10. Retrato Em Branco e Preto
11. Por Toda a Minha Vida
12. Luiza

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   M1."O Que Tinha de Ser"から、完全に裏切りというか大歓迎というか・・優しくリリカルな奥ゆかしく繊細ながらしっかり描くピアノのガラティ・ムード満開で、どこにボサノヴァがあるのやら、メロディも初物感覚でジョビンもおどろきの世界ではないでしょうか。いっやーーいいムードだ。
 そして次に聴いていっても、ボサノヴァ感覚のラテン・ムードは完全に消え去られ、そこにあるのはガラティの優しく軽やかさから一方耽美なやや陰影のあるピアノの調べに、ベースがしっかり支え、ドラムスのシンバル音が響く。ああ見事なユーロ・ピアノ・トリオ作品だ。
   M4."Inutil Paisagem"ではガラティの前衛性もチラッとみせ、M9."Eu Sei Que Vou Te Amar"は、低音のベースの語りがピアノの軽さと対照的で面白い。
 M10." Retrato Em Branco e Preto"は、ドラムスのスティック・ワークが繊細の美、ベースの低音の響き、ピアノの流れる演奏が盛り上がる。
 M12."Luiza"は、ピアノの静かな旋律美で幕を閉じる。

 今回のトリオはベースはグイド・ツォルン(上左)でしっかりと低音でリズム、時にメロディーとガラティの世界を支えているし、ドラムスはアンドレア・ベニナティ(上右)が、これも私の好きなシンバル音の多様で堂々と渡り合って演じている。トリオ作品としての価値も高めている。
 とにかく、私がジョビンとして聴いたことがあるなと解ったのは、M3."Samba de Uma Nota S"だけだが、かってのセルジオ・メンディスにたたき込まれたメロディーが頭に浮かんだだけで、他は完全にガラティ・メロディとして聴き入ったことになった。

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 録音に関しては、やはり名手ステファノ・アメリオが担当し、なんとミックス、マスターはガラティというのには驚いた。とにかくベースがしっかり中央に陣取って、やはりピアノも中央だがやや左右に広がり、そしてドラムスは更に広く左右にシンバル音を響きかせ、トリオ・メンバーの音がしっかりと聴き取れる。彼の技はここまで広がっているようだ。見事な粒立ちの良さと繊細な美しさを描く好禄音盤。この年末に来て今年のベスト盤最有力候補の強力なアルバムの登場だ。

 

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  95/100
□ 録音        95/100

(試聴)

"O Que Tinha de Ser"

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2022年8月31日 (水)

寺島靖国シリーズ「For Jazz Ballad Fans Only vol.3」

はずし物を掴んだ感の私の思う事・・・

<Jazz>
Yasukuni Terashima Presents「For Jazz Ballad Fans Only vol.3」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1105 / 2022

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  さて、寺島靖国選曲のオムニバス・コンピレーション・シリーズものでは新しい方の「ジャス・バラッド」ものの第3巻(第1巻は2019年リリース)が登場した。この寺島シリーズものは、ここでリリースの度に全て取り上げるという事はないのだが、今回はどうも私的には(あくまでも私にとって・・と、言う事で誤解のないように)、久々に外れ物を掴んだという事になった。

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 そもそも寺島靖国のコンピレーションものは「JAZZ BAR」が最も原点というか、最初のシリーズものと思うが、これは2001年から毎年リリースという21巻となるロングもので、今や確固たる地位を築ている。そしておおよそ年一巻のペースで、その他は「for Jazz Audio Fans Only」(14巻)、「For Jazz Vocal Fans Only」(5巻)、そしてこの「For Jazz Ballad Fans Only」(3巻)、更に「For Jazz Drums Fans Only」(2巻)とリリースされていて、おそらくこれらをこなすだけでも大変になってきているのではと、ふと思うのである。

  私としては、まあ「Jazz Bar」と「for Jazz Audio Fans Only」の2シリーズでOKと思うのだが、その他も興味がないわけでなく結局のところ購入しているという事になって、こうして数えてみると目下全45巻全て持っているという形になってしまっている(やや、これで約十数万円になりますね)。

バラッド(バラード)とは・・・・
 その中で今回最も直近のものがこの「For Jazz Ballad Fans Only vol.3」なのだが、名前の通りジャズ・バラッド曲の目ぼしいものを集めている。そもそも「バラッド曲」とは何ぞやという事だが、ものの本によると「ミディアム・スローからスローなテンポによるゆったりとして叙情的な演奏」という事になるようだが、そもそもかってはイギリスでは舞踏曲を指す言葉であったが、やがて一般的にはロマンティックな歌詞の民謡を指すようになり、19世紀には上流社会で歌われた感傷的な歌曲を指すようになったという。そして現在は、「ミディアムからスロー・テンポのロマンティックで感傷的なラブ・ソングを一般的にはバラッド(バラード)と呼んでいる」ということにまとめられるようだ。

 さてそこで、このアルバムの紹介だが・・・

(Tracklist)

01. Goodbye / Don Lanphere And New Stories
02. Joshua Fit the Battle of Jericho / Vincent Nilsson Quartet
03. End of a Love Afaier / Toni Sola & Ignasi Terraza Trio
04. What Are You Doing the Rest of Your Life / Eric Alexander Quartet
05. Emigrantvisa / Joonas Haavisto Trio
06. I'll Close My Eyes / Ian Hendrickson-Smith
07. The Nearness of You / Clark Terry
08. La Mer / Simon Chivallon
09. I Got It Bad (and That Ain't Good) / Steve Davis
10. I Will Wait for You / Karin Hammar
11. I Surrender Dear / Dan Barrett Trio And Quartet
12. We'll Be Together Again / Gary Smulyan
13. A Ghost of a Chance / Oliver Jackson

 このシリーズは、寺島靖国選曲の究極原点"聴きやすく親しみやすいジャズ"ということでの「For Jazz Ballad Fans Only」のシリーズ3作目だ。バラッドを取り上げたというコンピレーション・アルバムだが一通り聴いてみると、これは今回は私にとってはどうも外れものだった。その理由の一つは、ほぼ選曲されたものは"ラッパもの"がほとんどあったということ。この"ラッパもの"というのは実は表現がよくないが、私流にはサックス(ts,as, bs)、トランペット(tp)、トロンボーン(tb)などを指しているんですが、所謂管楽器ですね。私の言うところは、昔のビック・バンドの煩(うるさ)いイメージものが好まないという事なんですね。しかし、バラッド調の温かみのあるサックスとか、ミュートの効いたトランペットの深淵なる音などは好きなんです。このあたりは私個人的な感覚の世界ですからお許しを。つまり普遍的な話ではないというところです。

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 そんな中で、M1."Goodbye"(上左)、M4." What Are You Doing the Rest of Your Life "とtsの登場で、バラッドは解るしムードもある。あとは好みですね・・・私はピアノの方が好きなんです。従ってピアノ・トリオものにどうしても期待するんです。M4.でも途中で響くピアノの調べの方に魅力を感ずる。
 M2."Joshua Fit the Battle of Jericho "のtbそしてM3." End of a Love Afaier "のtsは、私にはバラッドには聴けない。
 M5." Emigrantvisa ", M8." La Mer"にようやくピアノ・トリオが登場するが、M5.のJonas Haavisto Trio(上中央)は私のお気に入りトリオだが、彼らのコンテンポラリー・ジャズでのスロー演奏といっても所謂バラッドという世界のものでないし、M8.もバラッドとは私は言わない。
 M6." I'll Close My Eyes "のas、M7." The Nearness of You"のtpもバラッドものとして納得しない。
   M9." I Got It Bad"、M10." I Will Wait for You "(上右)、M11." I Surrender Dear "はtbものだが、M9.はロマンティックな感傷など感じないし、M10.は女性ヴォーカルものを主体にしておけばいいのに、後半のtbとtpの共演などバラッドものとは別物。M11.も私にはバラッドに聴けない。
 M12." We'll Be Together Again "(下左)は、bsの登場、これは好みの問題だ。
 M13." A Ghost of a Chance "(下右)はts(Danny Moss)のバラッドものでこのアルバムの終わりをしめている。

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 と、いったところであくまでも私的には選曲もバラッドとしては疑問が多かったし(バラッドというもの自体の解釈が異なるのかも)、こうして管楽器主体の曲群は私のピアノ・トリオ好みには少々合わなかったというところ。聴きようによっては、寺島靖国のこうしたシリーズの乱発によって、ちょっと充実感が薄れたのかもと思わせるところであった。

(評価)
□ 選曲      :   80/100
□   録音    :   85/100

(試聴)

Don Lanphere "goodbye"


*
Karin Hammar "I will wait for you"

 

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2022年3月24日 (木)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati Trio 「EUROPEAN WALKABOUT」

トラッドをピアノ・トリオで・・・そこには美旋律世界

<Jazz>
Alessandro Galati Trio 「EUROPEAN WALKABOUT」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1100 / 2022

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Alessandro Galati (p)
Guido Zorn (b)
Andrea Beninati (ds)
Recorded on Jan.18, 2022 at Artesuono Recording Studio
Recorded,mixed & mastered by Stefano Amerio

 驚きましたねぇーー、昨年から出る出るといっていて延期になって待たしていたアルバム、ようやく発売されたアレッサンドロ・ガラティの新作。見てみると録音がミックス・マスターリングは期待のStefano Amerioはそのまま期待通りで良いのですが、なんと録音日が今年2022年の1月18日となっていて、これなら去年の年末12月や今年1月に出るわけないですね。これでも早いくらいです。

 それはそれとして、ガラティは私の期待のミュージシャンですが、寺島レコードとの関係が出来てから、新作のリリースが早いですね。前作は昨年の『SKYNESS』(TYR-1098)ですからほぼ半年です(録音は2017年で、4年前ですが)。そしてトラッドのピアノ・トリオによる演奏集だ。このリリース目的が、おそらく彼がアルバム作りをしたいとミュージシャンとしての情熱と目さすところの集積というのでなく、希望に答えての演奏集といったところでしょう。その為、今回のアルバムで彼のこんな意思が見えてきた・・というのでなく、我々に楽しませてくれるという範疇のものなんでしょう。そんなところで実は彼の『Traction Avant』(vvj-007/1995)以来惚れ込んで新作に期待してきた私は、若干期待度というのがちょっと違った姿勢でこのアルバムに接しているのである。

 さて、このアルバム、やっぱり寺島氏からの要求に答えたものだろうとのことは、彼のライナー・ノーツを見ても想像できる。勿論、ガラティも決して今回のトラッド集は否定するものでなかったと思うが、果たして彼が今ミュージシャンとして、そしてアルバム造りとしての意思であったかどうかは疑問のところだ。そんなことも想像しながらこのアルバムを聴くのである。
 そして"際立つ美しいメロディ、細部まで行き届く繊細な表現力。哀愁の美旋律は歌心溢れる音楽世界へと誘ってくれる"という宣伝文句そのもものの美しいピアノ・トリオ作品である。

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01. Love in Portofino
02. Verde Luna
03. Dear Old Stockholm
04. Almeno tu nell'universo
05. Last Night a Braw Wooer
06. Cancao do Mar
07. Danny Boy
08. The Water is Wide
09. Liten Visa Till Karin
10. Parlami d'amore Mariu

 「トラッドは外れナシの美曲」と寺島氏は語るように、このアルバムは文句なしの哀愁の美旋律を十分堪能できるトラッド集に仕上がってますね。冒頭のM1." Love in Portofino"から聴き惚れますね。
  しかしガラティ・ファンの私にとっては期待が大きいだけ・・・・ピアニストとして旋律を愛し奏でる"メロディ至上主義"と言われてはいるガラティですが、過去の作品を聴くと必ずしもそれだけではない。彼の目指すところ、いわゆる美しい旋律の重要性と同時にミュージシャンとしての演奏をどこまで極められるかという実験的な世界も作ってきた。そんな意味からは若干虚しさも感ずるのである。

 例えば、彼の作品群の中でもどちらかというと異色に入る『JASON SALAD!』(VVJ-014/2010)の単なる美旋律というよりジャズの奥深さを探る世界とか、又『UNSTANDARD』(VVJ-068/2010)のあの美しい"CUBIQ"のオーボエ、ギターはじめメンバーとのそれぞれの描くところを一つの曲の中でまとめ上げてゆくピアノプレイ。更に『WHEELER VARIATIONS』(SCOL-4024/2017)のインタープレイの真迫のスリルなど、いわゆるジャズ・ピアニストとしての描く世界の極みが尽きない。そんな意味では、今回のアルバムは、美しく演奏するところを聴かせると決まっての曲作り、それぞれの美は素晴らしくても、どこか彼の挑戦的演奏が見えないところがちょっと寂しい。

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   しいて言えばM6."Cancao do Mar"は、ファドで有名なポルトガルの伝統的な歌謡曲のようだが、私にとってはようやくこの曲でトリオとしてそれなりに作り上げたという感じがするのだ。つまり、アルバム全体的に、ちょっと感じられる"ガラティの美旋律演奏にベース、ドラムスが合わせている"というような曲作りでは若干むなしい。私的希望として、もっとトリオとなると、三者それぞれの解釈による演奏と協調が魅力的なのであり、ある意味ではバトル的な感覚での演奏から協調へと向かい曲仕上げを高めてゆくところが聴きたいのであり、そのような流れの中でふと現れる美旋律の美学がガラティの得意とするところであり、聴く者にとっても感動が大きい。ミュージシャンというものは、期待されることは当然嬉しいが、作品に一つの枠が決められてのアルバム造りは、実はそんなに納得しているものでもないのだ。

 トリオ三者にてのスリリングなインタープレイのジャズ美学は、ガラティにもともとある一つの世界であって、その特徴への私の期待があるのである。今回、前作と異なるメンバーのグイド・ツォルン(Bass 上左)とアンドレア・ベニナチ(drums 上右)との演奏準備は十分あったのかどうか、もっと二人は我を出して頑張ってもよかったのではないかと、特にツォルンは遠慮っぽかったように感じた次第。
 しかし、そんなことより"郷愁が感じられ美しい情緒あるピアノがとにかく聴ければよい"ということであれば、やっぱりこれは素晴らしいアルバムである。まあ、テーマがそうゆうことであるので、ガラティ自身も職人ですから難しいことなしで演じたのであろう。したがってこれで実際のところ正解なのかもしれない。

 今回も、録音そしてミックス、マスターリングとStefano Amerioが担当していて、素晴らしいリアルにして繊細で美しくミュージシャンの演ずるところをしっかり描き聴かせてくれるところは見事であった。

(評価)
□ 曲、演奏 :  88/100
□   録音   :  90/100

(視聴)

私のこのアルバムでは一押しの" Cancao do Mar"

 

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2022年2月22日 (火)

ハリー・アレン Harry Allen 「My Reverie」

テナー・サックスの
ウォーム・リラクシングな憂い有る詩情演奏の結果は如何

<Jazz>
Harry Allen 「My Reverie by special request
TERASIMA RECORDS / JPN / TYR-1102 / 2022

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Harry Allen (tenor saxophone)
Dave Blenkhorn (guitar)
Mike Karn (bass)
Quentin Baxter (drums)

  寺島レコードからハリー・アレンHarry Allen(1966年ワシントン生れ)の登場。私はサックスものはそう聴かないのだが、寺島レコードの音に拘った録音ものとして聴いてみた次第。
 ハリー・アレンは、歌心あるサックス・プレイということで定評のある訳だが、これはそのまま実現したバラード集。選曲も寺島靖国によるものと言うことで、ゆったりとしたメロディックな哀感を訴えた“歌う”サックスがたっぷり盛り込まれている。日本人好みの曲が多い構成。
 バンドはサックスにギター、ベース、ドラムスとのカルテットのパターンで演奏されている。

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01. The Rose Tattoo
02. Love, Your Magic Spell Is Everywhere
03. La Rosita
04. Boulevard Of Broken Dreams
05. Carioca
06. My Reverie
07. I Surrender Dear
08. Close As Pages In A Book
09. Lilacs In The Rain
10. St. James Infirmary (ts & g duo)

 

 

 

   まあとにかくテナー・サックスの音がリアルでファンにはたまらないでしょうね。そしてギター、ベース、ドラムスも完全にメロディーはサックスにお任せのサポート・スタイル。それでも少しはと、ギターが静かな夜のややクールな憂鬱感のある世界を描いている程度が聴きどころか。
 まあバラード集だから、しっとりとしかも抒情的にしてムーディーなサックスの響きはアレンの得意とするところにあって、全曲一貫してそれを通している。ここまで徹底されると、1曲ぐらいは暴れて、キターやベースと絡んでの曲のアクセントが欲しいと思いつつも、それも無く10曲が終わってしまった。

 実は、こんな昨年のコロナ禍の中であって、録音はリモートで行われていてレコーディングはそれぞれのアーティストが行うというスタイルだったようだ。従ってお互いのアドリブ入りのバトルなんてとても考えられるところでなく、特にリズム陣はアレンのサックス尊重擁護にまわっての演奏となったのだろう。そこが実はジャズとしての面白みに若干欠けたところなんだと思う、致し方ないですね。
 又一方、選曲は完全に日本向けとして聴き慣れたものになっている。ムードもサックス・バラードものということで、ミッド・ナイトの世界にぴったりが続くが、最後のM10."St.James Infirmary"あたりは、寺島氏の要求の曲だと思うが、夜の酒場ムードとぱ、ちょっと異なっている。しかしサックスとギターのデュオによるものだが、基本的にあまり大きな変化はなく、ただただなるほどこうなるのかとそのバラード演奏を聴いているのである。

(評価)
□ 演奏 85/100
□ 録音 88/100

(参考視聴) Allen と Blenkhorn のデュオ

 

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2021年12月23日 (木)

寺島靖国「Yasukuni Terashima Presents シリーズ」取り敢えず順調に

今年も楽しんだコンピレーション・アルバム

 今年も残すとこ10日を切ってしまいました。益々歳のせいか一年が早い、コロナ禍で活動が抑制されているためか、行事が少なかったのも影響しているかも知れない。
 例の寺島靖国のコンピレーション・アルバムも取り敢えず順調にリリースされた。特に「Jazz Bar」シリーズは2001年にスタートして21年続いているわけで、私の棚にもずらっと21枚並んでいて、なんとも偉大なシリーズになっている。とにかく日本にはジャズ・ファンがそれだけいると言うことでも有り、又寺島靖国氏の選曲が日本人の心をくすぐるモノを持っていると言うことだと思う。まあ私も好きな方で、結局のところ毎年仕入れてきたことになる。
 取り敢えず今年の3シリーズをここに取上げておきたい。


<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2021」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1101 / 2021

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(Tracklist)

1.Turnpike / Eple Trio
2.Io Te Vurria Vassa / Roy Powell Trio
3.Chez Laurette / Serge Delaite Trio
4.Madrugada / Michel Sardaby Trio
5.Hatzi Kaddish / Emmet Cohen
6.Minnesota Bridge / Bojan Assenov Trio
7.Havar Hedde / Dag Arnesen
8.Susan-Lee / Peter Auret Trio
9.Random Journey / Lisa Hilton
10.Moving Freely / mg3(Martin Gasselsberger Trio)
11.Ex Ego / Leszek Mozdzer/Las Danielsson/Zohar Fresco
12.Love Letter to Christiane / Ralf Ruh Trio
13.When Spring Comes / Frankfurt Jazz Trio

  私の場合は、毎年このコンピレーション・アルバムを聴いて、うーんこれは良いと思ったものに目を付けるのだが、寺島氏の選曲は結構知らないモノを紹介してくれるので有難い。私自身もピアノ・トリオ好きでそんなところも一致している。
 しかし、なかなか毎年の作業も大変そうで、今年の「2021」は結構古いものも多く、ちょっと残念でもあったが、私の所持しているアルバムは二枚であった。やはりもう少し当初のように最新作にアプローチして欲しい。
 特に気に入ったのは、M1 、M6、 M8 で、さらに又それなりに良かったものとして、M2、 M5、 M7 などなど、楽しめた。
  M8."Susan-Lee " のPeter Auret Trioが、2011年ものだがちょっと気になっている。

 


Yasukuni Terashima Presents 「for Jazz Audio Fans Only Vol.14」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1099 / 2021

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(Tracklist)

1.Orbiting [Mats Eilertsen Trio]
2.Due Passi Nel Mare [Alboran Trio]
3.Pool Boy - Swim IV [Florian Ross Trio]
4.Ragtime [Audun Trio]
5.Les Sebots [Adrian Frey Trio]
6.How Deep Is The Ocean [Giovanni Mazzarino Quartet]
7.Evanescence I [Casimir Liberski]
8.Fiery [Peedu Kass]
9.End of September [Tim Allhoff Trio]
10.Nardissism [Olga Konkova Trio]
11.Norr [Tingvall Trio]
12.I Fall in Love Too Easily [Peter Rozsnyoi Trio]

  この今年の「Vol.14」は、既に紹介しているが・・・・・
  このシリーズも14年と長く続いて14作だ。実は私はこのシリーズに一番気合いが入っていて、毎年新発見があって楽しみにしている。ただし今作に選ばれた曲が納まっているアルバム四枚は、既に持っているものであって少々残念。

  やはりジャズといっても私もオーディオ・ファンと言えるのか、興味あるトリオなどの小編成モノは、その音がかなり気になり、なかなかの名演奏も音が悪いと興味半減である。このシリーズで紹介されるものは、オーディオ・ファンとしても名の通っている寺島氏の推薦するものであって、結構納得しているのだ。
 冒頭のM1."Orbiting "のMats Eilertsen Trioとか、M2."Due Passi Nel Mare "のAlboran Trioなどは、、過去に既に私がこのブログで取上げたモノだが、ほんとに素晴らしい。
 未聴だったもので、M7, M8, M12等が今年は気になった。
 M10(Olga Konkova Trio)、M11(Tingvall Trio)は、やはり過去にここで取上げているが、好録音、好演奏である。

 


Yasukuni Terashima Presents 「for Jazz Ballad Fans Only Vol.2」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1097 / 2021

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(Tracklist)

1.Ralph Moore Quintet / It Might as Well Be Spring
2.Cliff Monear / Alone Together
3.George Masso All Stars / Summertime
4.Roy King / Reverie
5.Mark Nightingale / Close as Pages in a Book
6.The Kevin Hays Trio / Beautiful Love
7.Harry Allen / A Nightingale Sang in Berkeley Square
8.Albert "Tootie" Heath / Charade
9.Kai Winding Septet / The Party's Over
10.Guilhem Flouzat Trio / There's No You
11.Spike Robinson / Ghost of a Chance
12.Lisa Hilton / Willow Weep for Me

 バラッドものは、やっぱり私の好みの世界、従ってこのコンピレーションものも楽しみにしているのだが、2年ぶりの登場だった。
 今回は珍しく冒頭からRaiph Mooreとテナー・サックスものが登場する。寺島氏も本質的にはピアノ・トリオ派だが、テナーものもというファンからの要望もあったらしく、今回はその他にも登場する。私はサックスは、ソフトな演奏なら良いのだが、少々うるさい感覚になるとネガテイブになってしまう癖がある。
 結局、サックスの他、クラリネット、トロンボーンなどの登場もみるものが5曲ぐらいあって、このシリーズはまだ二作目だがピアノ・トリオものの多い寺島選曲としては珍しい。それでもやはりソフトなムーディーな演奏が主力でよかった。
 まあ、それなりにバラード調の曲と言うことで、私としては楽しめる曲が選ばれているコンピレーション・アルバムである。

 

(参考視聴)

"Eple Trio Live"  (私のお気に入りのTord Gustavsen もお祝い参加している映像)
  3分14秒にTord Gustavsenのソロ・ピアノからスタートするが、3分55秒から10秒ほど異音がでますので注意

*

"Due Passi Nel Mare / ALBORAN TRIO"

 

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2021年4月11日 (日)

Yuko Ohashi Trio 「KISS from a ROSE」

ピアノ・ソロに近い演奏、トリオの味に欠ける
・・・録音が頼りのアルバム作成
今回のボーナスディスクは前代未聞の「ラフミックス」

<Jazz>

Yuko Ohashi Trio 「KISS from a ROSE」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1096 / 2021

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大橋 祐子 (piano)
鉄井 孝司 (bass)
高橋 延吉 (drums)

2020年12月1日 ランドマークスタジオ録音

  寺島レコードよりの作品群にて、何かと注目を集めてきたピアノの大橋祐子(東京都八王子市出身)の5作目のリーダー・アルバム。とにかく寺島靖国の期待を担っての、メンバーを一新したニュー・トリオによる第1弾となっている。
 前作『WALTZ NO.4』(TGCS-9672/73)は、なんとスタジオ録音とホール録音をペアにしての対比を楽しませて頂いたが、今回は又々驚きの完成ミックス版と、録音時そのままのラフミックス版をペアにしての発売で、これまたおそらくオーディオ好きにはたまらない規格ものになっている。
 更にピアノ・トリオ好きにとっても、これもなかなかの企画で嬉しいのだが、恐らく・・・・と想像しながら聴いたのであったが、少々ここに登場は遅れました。つまりそれにはそれなりの理由があって、その他の傑作の後回しになってしまった。それも以下の感想でお解りになるだろう。

(Tracklist)

01. I Fall In Love Too Easily
02. Pithecanthropus Erectus
03. Englishman In New York
04. Cielito Lindo
05. I'll Be Seeing You
06. Brave Bull
07. After You Left
08. Strode Rode
09. Linna
10. Kiss From A Rose
11. No Rain, No Rainbow
12. Tennessee Waltz Part-I
13. Tennessee Waltz Part-II

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 私の個人的期待はバラード調のM01., M03.,M05., M07.に尽きるのだが、M01." I Fall In Love Too Easily"はオープニング曲で、冒頭からバラード演奏で期待度は高めるに十分。思いのほか情感があってピアノの音にも十分と言える良質の澄んだところにあり、録音はミックス効果というところか、良い線をいっている。
 M03." Englishman In New York"にきて、いよいよと期待したのだが、この曲にはニューヨークの異国人としての哀感があるのだが、どうもそれが残念ながら十分伝わってこない。演奏する音の中にふと優しさが感ずるところが欲しいような。
 M05." I'll Be Seeing You"この曲には期待した。流れに思いやりが感ずるも、もう一歩深入りして欲しい。ドラムスのブラシの音が聞こえてくるが、彼女のピアノばかりが前に出てソロ演奏のように聴こえ、やっぱりトリオとして描き切れていないのでは。
   M06." Brave Bull"彼女のオリジナル曲。一生懸命演奏しているのは解るが、トリオの楽しさと味がやっぱり見えてこない。
 M07."After You Left" これが問題曲。なんとアレッサンドロ・ガラティのアルバム『Shades Of Sounds』の冒頭の曲。なんと比較するには相手がまずかった。冒頭ベースから入って面白いかなぁと思ったが、ガラティの哀愁が滲み出て心情に触れる世界までには一歩至らずだ。メロディーのジャズ編曲された流れ、打鍵音の強弱に音の間という繊細な世界、更にガラティの中盤のベースと築くジャズ世界に対しては、やはり比較は無理があった。
 決定的なのはM12.M13"Tennessee Waltz"で解るのだが、彼女はまだまだ人間の哀愁バラードの世界というのは少々厳しく、M13のようなピアノを思いっきり弾きまくってのトリオとしての構築が好きなんですね。こちらの方が生き生きしていて、そこに魅力を感じたアルバム作りのほうが良いのかも知れない。

 とにかく寺島靖国の期待に応えるべく一生懸命演じていることが解る・・・その解るところが寧ろ残念なアルバムだったのである。どうも諸手を挙げて素晴らしかったと言うには、少々難ありといった平凡作であった。 

(評価)
□ 編曲・演奏  78/100
□ 録音     85/100

(視聴)

 

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2021年3月 8日 (月)

エル Elle 「Close Your Eyes」 

演奏展開がジャズらしさを増して

<Jazz>

Elle 「Close Your Eyes」 
TERASHIMA Records / JPN / TYR-1095 / 2021

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Elle  : Vocal
Alessandro Galati : piano
Guido Zorn : bass
Lucrezio Seta : drums

 我が愛するアレッサンドロ・ガラティに見出されてレコーディング・デビューに至ったというイタリアの若手歌姫:Elle=エルの新作。前第1作『So Tenderly』(TYR-1081)は、「ジャズ批評」誌で2019年ジャズ・オーディオ・ディスク大賞のヴォーカル部門でトップ(金賞)に輝いた注目株。実はあのトップに関しては私はちょっと納得しなかったんですが、まあアレサンドロ・ガラティの曲作りと演奏に魅力があるところで納めていた。
 寺島靖国に言わせると、女性ヴォーカルは巧さより声の質に魅力が無ければ・・・と、成る程その意味においては私も取り敢えず納得しておく。
 今回も前作と同じくガラティ率いるトリオをバックにしたニュー・アルバムだが、全曲ガラティが編曲したという構成であるが、ただ同じモノは造らないと言うことか、オープニングの曲から若干イメージは変わって来ている。

 

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01. Comes Love
02. If I Should Lose You
03. Autumn In New York
04. Close Your Eyes
05. My Old Flame
06. I Concentrate On You
07. Once In A While
08. I Fall In Love Too Easily
09. Besame Mucho
10. I'll Be Seeing You

 エルのヴォーカルは、あるところで「"大人の夜の小唄セッション"ぽい」と表現されていたが、確かにそうかなと言うところか。とにかく力を抜いたテンダーにしてアンニュイ、そしてセクシー度も適当というところが魅力か。歌の巧みさというところでは、クラシック歌手を経てきていると言うのだが高度というところにはイマイチだ。ただ声の質が女性としての魅力があるところが支持されるポイントであろう、ウィスパー・スタイルが売り処。

 今回もガラティの編曲演奏がやはり注目するところだ。ロマンティックな耽美性は相変わらずだが、彼の持ち味の嫌みの無い展開が時にスウィングし、時に刺激的なところを織り交ぜての過去の曲の演奏スタイルにとらわれない独自の世界がいい。選曲そのものは寺島靖国が行なったようだが、編曲にはガラティの独自的解釈が強化されて、バラードっぽくを期待した面を特にM1."Comes Love"のようにスウィングした軽快な出だしで、期待とは別展開させているところが面白い。アルバム・タイトル曲M4."Close Your Eyes"も同様でありピアノ、ベースの演奏も楽しめる。しかしどんな場面でも決して力んだ展開はみせず、あくまでもソフト・テンダリーに押さえている。曲の中で、ガラティのピアノ演奏の占めるところも多く、そんな意味では今回の方が、ある意味では変化が多くジャズっぽい。

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  いずれにしても、このエルのヴォーカル・スタイルは、やっぱりウィスパー系がぴったりで、M5."My Old Flame"の流れはいいし、中盤のガラティのピアノも美しい。そしてそのパターンは、M8."I Fall In Love Too Easily"の世界で頂点を迎える。ここではヴォーカルのイメージを大事に間をとりながらのピアノ演奏の世界が美しく、しかも進行して行くうちにスウィングしてみせたり、その流れは如何にもガラティの世界。

 このタイプの女性ジャズ・ヴォーカル世界は、"特にジャズならでは"というムードであって、それを寺島靖国は求めて企画した事がひしひしと伝わってくる。そんなアルバムとして評価したい。

(評価)
□ 編曲・演奏・歌  85/100
□ 録音       85/100

(試聴) ""My Old Flame

 

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2020年12月21日 (月)

年末恒例の寺島靖国プレゼンツ「Jazz Bar 2020」

ピアノ・トリオ一点張りから、今年はサックスものも登場

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents 「Jazz Bar 2020」
Terashima Records / JPN / TYR-1094 / 2020

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 しかし驚きですね、なんとこのコンピレーション・アルバムは20年の経過で20巻目のリリースとなったことだ。今こうしてみると過去のアルバム全てが棚に並んでいて、私にとっては好きなシリーズであったことを物語っている。

 プロデューサー寺島靖国(右下)は常々「歳と共に変化を楽しみ、常に新鮮な気持ちと興味を維持すべし」と口にしているとか。ピアノトリオへのこだわりは相変わらずだが、オーディオ的好みはその録音やミキシングのタイプにも確かに変化は出てきている彼だ。近年は前へ前へと出てくるリアル・サウンドから、音楽としての臨場感、奥行きの感覚に磨きがかかってきた感がある。
 そして「哀愁の名曲」探しは相変わらずで、我々日本人の心に沁みるメロディーを追求くれている。その為私も好きな欧州系をかなり探ってくれたという印象がある。新世代のミュージシャンの発見にも寄与してきてくれているし、私にも大いに影響を与えてくれたこのコンピレーション・アルバム・シリーズはやはり楽しみなのである。

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01. Night Waltz / Enrico Pieranunzi Trio
02. Elizete / The Chad Lawson Trio
03. Morgenstemning / Dag Arnesen
04. C'est Clair / Yes Trio
05. Tangorrus Field / Jan Harbeck Quartet
06. Danzon del Invierno / Nicki Denner
07. Bossa Nova Do Marilla / Larry Fuller
08. Contigo en la distancia / Harold Lopez-Nussa
09. La explicacion / Trio Oriental
10. Soft as Silk / David Friesen Circle 3 Trio
11. Vertigo / Opus 3 Jazz Trio
12. The Miracle of You / Niels Lan Doky
13. New York State of Mind / Harry Allen

 冒頭のM1."Night Waltz"は、昨年ここでレビューしたエンリコ・ピエラヌンツィのアルバム『NEW VOSION』(2019)(下左)からの曲。そしてM3."Morgenstemning "が北欧ノルウェーのダグ・アネルセンのかなり前の三部作のアルバム『NORWEGIAN SONG 2』(LOS 108-2/2011)(下中央)からであり、この2枚のアルバムが私の所持しているものであった。その他11曲は、幸運にも私にとっては未聴のアルバムからの選曲であり、初聴きで期待度が高い。
 そもそもこのアルバムを愛してきたのは、結構日本にいる者にとって一般的に知られていないモノを紹介してくれていること、又私のジャズ界では最も愛するピアノ・トリオものが圧倒的に多い、更にどことなく哀愁のある美メロディーを取上げてくれていることなどによる。そして初めて知ったものを私なりに深入りしてみようという気持ちになるモノが結構あることだ。更になんとなく欧州系のアルバムも多いと言うことが私の好みに一致しているのである。

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   M1."Night Waltz"と続くM2." Elizete "は、哀愁というよりはどちらかというと優美という世界。
 M3."Morgenstemning" 聴きなれたグリークのクラシックからの曲。ノルウェーのミュージクですね。美しい朝の光を浴びて・・・と言う世界。とにかく嫌みの全くないダグ・アネルセンの細工無しの美。
 M5."Tangorrus Field" (上右) 寺島にしては珍しくテナー・サックスの登場。デンマーク出身のヤン・ハルベック。私はうるさいサックスはちょっと苦手だが、彼の演ずるは豪放と言うが、この曲では何故か包容感のある優しさと幅の広さが感じられ、ピアノとの演じ合いに美しさすらある。今回のアルバムには、最後のM13."New York State og Mind"にはHarry Allenのサックスがやはり登場する。
 M7."Bossa Nova Do Marilla" は、ボサノバと言いながらも、驚きのLarry Fullerのピアノの旋律を演ずる流れはクラシックを思わせる。
 M8." Contigo en la distancia"(下左)、キューバのHarold Lopez-Nussaにしては、信じれないほど哀愁の演奏。いっやーー驚きました。
 M10."Soft as Silk" (下中央)、ベーシストのDavid Friesenの曲。どこか共演のGreg Goebelのピアノの調べが心の奧に響くところがあって、この人の造る曲にちょっと興味を持ちました。ベーシストって意外に美旋律の曲を書く人が多い気がしますが・・。
 M12."The Miracle og You" (下右)、このピアニストの Niels Lan Dokyって、実は名は知れているにもかかわらず過去に聴いて来なかった一人で、今回ちょっと興味をそそる技巧派ピアノに聴き惚れて、興味を持たせて頂きました。

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 今回は大きな獲物に飛びつけたという衝撃は無かったが、やはり寺島靖国の選曲にはやはり優美さ、美しさ、哀愁などはそれぞれにどこかに感ずる処があって、やはり年末恒例でこうして聴くことはベターなコンピレーション・アルバムと言うことことが出来る。
 とにかく20周年の成人となったこのシリーズにお祝いしたいところであった。

(評価)
□ 選曲、演奏           88/100
□ 録音(全体的に)      85/100

(参考試聴)

jan Harbeck Quartet "TANGORRUS FIELD"

*
Dag Amesen  " MORGENSTEMNING"

 

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2020年11月10日 (火)

寺島靖国 Yasukuni Terashima Presents 「For Jazz Vocal Fans Only vol.4」

華やかに14歌姫の登場

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents 「For Jazz Vocal Fans Only vol.4」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1093 / 2020

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  今年も無事リリースされた寺島靖国のコンピレーション・アルバム「ジャズ・ヴォーカル・ファン 第4巻」、今年も14人の女性のオンパレードだ。このところのジャズ・ヴォーカルは完全に女性に席捲されている現在、当然と言えば当然のことである。
 さて今年は、選ばれた14枚のアルバムだが、私が所持しているのは5枚止まりだった。寺島靖国は、このアルバム作成においてはできるだけマイナーなミュージシャンを選ぶようにしているようで、その為ここでは実は私は知らなかったアルバムが多いことを期待しているところがある。つまり新しい発見が大歓迎なんですね。そんな訳でこれはなかなか良さそうだと初めて知ったアルバムがあると手に入れて聴くのが例年の楽しみでもあるのである。

(Tracklist)
1. Close Your Eyes [Saskia Bruin] 3:26
2. Manha De Carnival [Karen Lane] 4:05
3. I'll Be Seeing You [Beth Goldwater] 3:34
4. From The Inside Out [Lauren Henderson] 6:30
5. Johnny Guitar [Carol Welsman] 2:28
6. That Old Feeling [Alma Mi?i?] 3:47
7. I Didn't Know About You [Sidsel Storm] 3:36
8. Get Out of Town [Hetty Kate] 3:11
9. Stardust [Emma Pask] 6:35
10. I Concentrate On You [Callum Au & Claire Martin] 6:57
11. Deep In A Dream [Gretje Angell] 5:25
12. Let's Face The Music And Dance [Cajsa Zerhouni] 4:24
13. Windmills Of Your Mind [Stefanie Schlesinger] 6:55
14. The Carioca [Kimba Griffith] 5:05

  収録曲は、取り敢えず上のリストにみるような14曲だが、オープニングは低音の魅力のサスキア・ブルーイン、彼女は何時も聴いている一人。そしてまあ何と言ってもこの中でもガッチリ自己の立場を固め、トップクラスの圧力が感じられるのはキャロル・ウェルスマン(M5)、クレア・マーチン(M10)でしたね。何時もアルバムを持っていて聴いているこの二人の他に、私が既に聴いてきたのはシゼル・ストーム(M7)、ヘティー・ケイト(M8)、キンバ・グリフィス(M14)あたりである。従って彼女らは初ものでなくちょっと空しかったが、初もので結構興味を持ったヴォーカリストも何人かいて喜んでいる。

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 私にとっての初もの、まずその一人がM3."I'll Be Seeing You "のベス・ゴールドウォーター(上左)ですね、ちょっと一瞬カレン・ソウザを思い起こす歌いっぷりで面白いし、高音がひっくり返るところは、ヘイリー・ロレンだ。早速アルバム注文した。
 そして
 M4."From The Inside Out"のローレン・ヘンダーソン、ここではデュエットものだが魅力的。
 M6."That Old Feeling "のアルマ・ミチッチ、セルビアの出身とか、力みの無いところがむしろ刺激的。
 M.9." Stardust"のエマ・パスク、オーストラリア出身とか、なんとなくあどけなさの残った発声が引きつける(上中央)。
 M11."Deep In A Dream"のグレッジェ・エンジェルもなかなか柔らかさがあっていいですね(上右)。
 M13." Windmills Of Your Mind"のステファニー・シュレジンガー、彼女はドイツ出身で、歌のこなしがお見事。
 以上、この6人のアルバムは聴いてなかった中でも注目株として捉えた。是非ともそれぞれのアルバムにアプローチしたい。(下にアルバム取上げる)

(試聴 ↓ Beth Goldwater)

      ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ところで注目したアルバムの中で、何と言っても「ジャケ」が気に入ったのが、M13のステファニー・シュレジンガーだ。これは取り敢えず"ジャケ買い"をしてみようと仕入れてみた。(↓)

<Jazz>

Stefanie Schlesinger 「REALITY」
HIPJAZZ RECORDS / GERM / HIPJAZZ 012  / 2017

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STEFANIE SCHLESINGER(vo)
WOLFGANG LACKERSCHMID(vib)
MARK SOSKIN(p)
JOHN GOLDSBY(b)
GUIDO MAY(ds,per)
RYAN CARNIAUX(tp-3,8,9,12)

  どうですか、なかなかジャケ買いしそうなのが解りますか、彼女はドイツ・ハンベルグ出身1977年生まれのシンガーだ。声も低音から高音まで標準的に見事に美しく歌う。曲もなんとビートルズの"Fool on the Hill"があったりして是非聴いてみたいと思ったところ。
 私的には彼女は高音は張り上げずに静かに歌い上げた声の方がいい。寺島靖国がライナーで書いているように歌が旨い、そしてその特徴の出ているこのアルバムのM9."Windmills of Your Mind"のスタンダード曲が彼によって選ばれている。
 アルバム冒頭M1."Parole, Parole"は、ラテンタッチだが、彼女が好きなのか、しかしあまり向いていないように思うが。
 M2."The Summer Knows"、M7."With You"、M11."Munich Butterfly"のバラードものはなかなかいけると言う感想で、私は彼女はその方が魅力的で良いと思う。
 注目したM10."Fool on the Hill"は見事にジャズに変身してバック陣もそれなりの演奏で聴き応え十分だった。

Stefanieschlesinger20170616074135 (Tracklist)
1.Parole, Parole
2.The Summer Knows
3.Reality
4.Hotel Shanghai
5.Com Amor, Com O Mar
6.Ganz leise
7.With You
8.Hurra, wir leben noch
9.Windmills of Your Mind
10.Fool on the Hill
11.Munich Butterfly
12.The Winner Takes It All

(評価)
□ 編曲・歌  85/100
□ 録音    85/100

(参考視聴)

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2020年9月26日 (土)

寺島靖国プレゼント「For Jazz Audio Fans Only Vol.13」

「ジャズは音で聴け」の世界は今年はどう変わってきたか・・・・

<Jazz>

 Yasukuni Terashima Presents
「For Jazz Audio Fans Only Vol.13」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1092 / 2020

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  今年も、無事寺島靖国氏の企画によるこのアルバムがリリースされた、13卷目だ。注目される好演奏、好録音盤を取上げ年に一回のリリースであるので、なんと今年でもう13年と言うことですね。オーディオ・ファンでもある私は、おかげで過去の全アルバムを聴いて楽しんでいる。
 恐らく今年のこのアルバムには、私の聴いているのは何か必ず取上げられるだろうと高を踏んでいましたが、なんと全13曲今年までに聴いてきたアルバムが無く完全に肩すかしでした。このあたりが、一般的な世界で無く、オーソドックスでない、にもかかわらず納得の好演奏を紹介してくれるのでありがたいと言う処なんです。

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 「ジャズは音で聴け」と豪語している彼の世界、中心は私の好きなピアノ・トリオだ。ところがこのところステファノ・アメリオの影響もあってか、低音とシンバルの強力エネルギー溢れるサウンドから、曲の質とその描く内容によっての音場型サウンドへと好みがシフトしつつあることを訴えている寺島靖国。 どんな選曲をしてくるか、ちょっと楽しみというか、期待というか、そんなところでこのアルバムを聴くのである。

(Tracklist)

1. The Song Is You 〔Christoph Spendel Trio〕
2. I Love You So Much It Hurts 〔Han Bennink / Michiel Borstlap / Ernst Glerum〕
3. Cancer 〔Allan Browne Trio〕
4. New Life And Other Beginnings 〔Aki Rissanen〕
5. Sailing With No Wind 〔Carsten Dahl Trinity〕
6. Counter 〔Floris Kappeyne Trio〕
7. Ammedea 〔Pablo Held Trio〕
8. Flight of the Humble 3 〔Robert Rook Trio〕
9. 928 〔Michael Beck Trio〕
10.Mistral 〔Peter James Trio〕
11.Get Out Of Town 〔Stevens, Siegel And Ferguson Trio〕
12.The Day You Said Goodbye 〔Larry Willis Trio〕
13.Don't Let The Sun Catch You Crying 〔Lafayette Harris Jr.〕
()内は演奏者

 こうしてみると、いやはやここに登場するは日本におけるポピュラーな演奏者は少ないというか、私はあまり知らないのであって、探求心、研究心のなさを思い知らされた。
 従って今回のアルバムは私にとっては非常に貴重だ。取上げた曲の全てのアルバムを聴きたい衝動に駆られる。

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 中でもやっぱり曲の良さからは、M1."The Song Is You "、M5."Sailing With No Wind "は興味ありますね。M1は、ポーランド生れのピアニストで、この曲を聴く限りでは、ジャズの中では刺激の無いむしろメロディー重視にも聴こえるが、エレクトロベースが面白い味付けで是非この曲を収録したアルバム『Harlem Nocturne』(BLUE FLAME)(上左)を聴きたいと思った。又M5.はジャズ名演といったタイプで、なかなか叙情もあって素晴らしい。このピアニストのカーステン・ダールはデンマーク生れのベテランで、私は唯一このピアニストは知ってはいるが、未熟にも彼のこのアルバムにはアプローチしてなかったので、美しいピアノの調べのこの曲を収録しているアルバム『Painting Music』(ACT Music)(上中央)は早速聴くことにする。
   そしてM9."928"(Michael Beck Trio)のベースとドラムスの迫力録音が聴きどころ。このマイケル・ベックも名前は聞いたことがある程度で今まで白紙状態であったため興味がある。更にM12."The Day You said Goodbye"がジャズの真髄を演ずるが如きのベースとブラッシが前面に出てきて、そこにピアノを中心とした流れがゆったりとしていて素晴らしい。このアルバム『The Big Push』(HighNote Records)(上右)を是非入手したいと思ったところだ。

 この寺島靖国のシリーズは、演奏は勿論無視しているわけでは無いが、所謂オーディオ・サウンドを重視し、その録音スタイルに深くアプローチしていてライナー・ノーツもその点の話が主体だ。それを見ても如何にサウンド重視がこのアルバムの目的であることが解るが、昔からシンバルの音の重要性の語りが彼の独壇場だ。そしてベース、ピアノの音質と配置などに、かなり興味と重要性を主張している。そんな点も私もこのアルバムに関しては、やはり興味深く聴いたのだった。

  今回は、先ずこのリリースされたアルバムの紹介程度にしておいて、ここに登場したアルバムを入手し聴いて、次回からそのアルバムの感想をここに紹介したいと思っている。

(評価)
選曲  90/100
録音  90/100

(参考視聴)  Carsten Dahl Trinityの演奏

 

 

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