サラ・マッケンジー Sarah Mckenzie 「WITHOUT YOU」
ボサノヴァをテーマに歌ったアルバム登場
<Jazz>
Sarah Mckenzie 「WITHOUT YOU」
TERASHIMA Records / JPN / TYR-1117 / 2023
SARAH McKENZIE (vocals, piano)
JAQUES MORELENBAUM (cello)
ROMERO LUBAMBO (guitar)
PETER ERSKINE (drums)
GEOFF GASCOYNE (bass)
ROGERIO BOCCATO (percussion)
BOB SHEPPARD (flute, sax)
オーストラリア出身のサラ・マッケンジーが、今回はボサノヴァをテーマにしたアルバムをリリースした。彼女に関しては2017年にここでアルバム『PARIS IN THE RAIN』や、Live-DVDなどを取り上げた経過があるが、ピアノの弾き語りに秀でていて、見方によってはダイアナ・クラールを追える逸材かと見ているのだが、まだまだジャズ・ピアノ演奏を前面に出したミュージシャンとしてのアルバム実績は無い。
さて今回のアルバムは、彼女が2018年にリオデジャネイロに訪れた際、多方面に感動を受け今作への企画を持ったという。そして2020年には、前作でも共演したギタリストのロメロとチェロリストのジャキスとボサノヴァ曲"Corcovado"を演じ、Facebookで評判が良かったことからこの作品制作を決意したようだ。つまり彼女の曲も挟み込んでの彼女の意志が前面に出たと考えて良さそうなのだ。
彼女は、オーストラリアのパースにある音楽院にてジャズの学士課程を修了。その後バークリー音楽大学へ進学、2015年5月に同大学を卒業。その後世界各地でのジャズのパフォーマンスを行ってきている。2015年にアルバム『We Could Be Lovers』をリリース、ベスト・オーストラリアン・ヴォーカル・アルバム賞を受賞。その後Impulse!レーベルと契約し、世界的なアルバム・リリースがなされた。現在はパリに移住し活動の幅を拡げている。ヴォーカル、ピアノ・プレイだけでなく、作曲、アレンジも手がける有能な女性アーティスト。
彼女の歌声は清涼感の溢れるところにあり、洗練されてはいるとは言え若干地域性のある人間の機微をも扱うボサノヴァを歌ってどうなるのか、ちょっと興味のあるところだ。バック演奏には、当然彼女のピアノがあるのだが、ロメロ・ルバンボ(G)やピーター・アースキン(ds)をはじめジャック・モレンバウム(Cello)などそれなりのミュージシャンが集結した意欲作言えるものになっていて、これもボサノヴァ向きかどうか気になるところでもある。
(Tracklist)
1. The Gentle Rain
2. Corcovado (Quiet Nights)
3. The Voice of Rio*
4. Mean What You Say*
5. Fotografia
6. Quoi, Quoi, Quoi*
7. Once I Loved
8. Without You*
9. Wave
10. Dindi
11. Thr Girl from Ipanema
12. Chega de Saudade
13. Bonita
14. Modinha
*印 : Sarahのオリジナル曲
やはり相変わらずの清涼感ある美声の彼女の歌声は豊かで響きが良い。
M1."The Gentle Rain"は、オープニングとしては魅力にあふれたバラード曲で、情熱というよりはぐっと落ち着いたしっとりとしたムードの優しい曲仕上げ。チェロの調べが入るのが、その効果を上げているのかもしれない。
M2."Corcovado" この曲はダイアナ・クラールを頭に描くが、サラもピアノの響きのリードで美しく歌い上げるところは、彼女なりきの歌として聴ける。 たまたまステイシー・ケントも時を同じにして歌っているが、やはりしっとりとした大人の味はケントに譲る。
M3." The Voice of Rio" 彼女のリオをイメージしてのオリジナル曲。ギターをバックにしての優しい歌。
M5." Fotografia" チェロとパーカッションの意外な組み合わせのでのバックが生きた曲。そして彼女のピアノも描くところ優美といったところだ。
M7."Once I Loved" ギターとのデュオ。スローな曲で十二分に彼女の美声を聴き込める。
M8."Without You" ギターのロメロとの共作のアルバム・タイトル曲、ギター、フルートなどが効果を上げ、ちょっと歌にも哀感があってなかなか聴きごたえあるバラード曲。
M10." Dindi" 美しいピアノとギターと共にしっとりと歌い上げる。
M11."Thr Girl from Ipanema" 超有名曲だけに、中盤の演奏に突如驚く変調が入ってなかなか工夫がうかがえるが、元の曲のイメージが薄らいでしまっている。
M12."Chega de Saudade" 快調なテンポの曲、彼女の歌がもっと軽くこなす方向でよかったのではと思うところ。
M13." Bonita" 彼女はこうしたややしっとり系の歌の方が合いそうだ。
M14." Modinha" ピアノの弾き語りで、じっくり歌いこみで描くスロー・バラード。このスタイルがもう一曲ぐらいあってもよかったのかも。
こうして聴いてみて思うところ、やっぱり彼女にはボサノヴァの快適なテンポを軽く歌いそこに秘められた味のある洗練された世界を描くとか、豊かな落ち着きやリラックスに導いたり、又一方人生の感傷的な部分を描いて共感を呼ぶといった奥深さにはまだ今一歩の感があった。人生の様々な機微を背景に感傷的ともいえるところをシンプルなバック演奏にて歌い上げるという芸も、もう少し欲しいと思う。
又多くが歌ってきた有名曲の場合、自分を出すその対応法はいろいろだろうが、バック演奏を含めて意識過剰で細工をし過すぎを感じたところがあった。彼女は普通に歌って、自身の特徴がちゃんと出ると思うのだが。
ボサノヴァがあまり好きでないという寺島靖国氏が面白い事を言っている。"ボサノヴァに寄りかからず、あくまでも手段として用い、…彼女の表出を心がけた結果、私に福音をもたらした"と。"つまりボサノヴァを歌い込んだというより、彼女の歌を聴けた"ということなのだ。まあ、そうゆう事になりますかね。
しかし声の美くしさと豊かで力強いところを感じさせる歌を聴かせてくれて、囁きタイプとは一線を画していて、これはこれで貴重なタイプであるので、ピアノのジャズ演奏にも磨きをかけ、更に前進して楽しませてほしいところである。
(評価)
□ 曲・演奏・歌 87/100
□ 録音 87/100
(試聴)
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