リン・エリエイル Lynne Arriale Trio 「THE LIGHTS ARE ALWAYS ON 」
今起こるアメリカならではの社会問題に対峙する人々や民主主義を守る人たちに捧げたアルバム
<Jazz>
Lynne Arriale Trio 「THE LIGHTS ARE ALWAYS ON 」
CHALLENGE Records / Austria / CR73532 / 2022
Lynne Arriale リン・エリエイル (piano)
Jasper Somsen イェスパー・サムセン (double bass)
E.J. Strickland E.J.ストリックランド (drums)
Recording location : The Bunker Studio NYC,Jacksonville,Florida,USA & Wagenningen,the Netherlands
Recording dates : August & September 2021
ここでも過去に取り上げてきたアメリカの名女流ピアニスト、リン・エリエイル(1957年生まれ)のオランダのChallenge Recordsからの第3弾。「コンテンポラリー・ジャズのもっともエキサイティングなピアニストの1人」と言われていて、私自身も実は結構難解な印象がありながら、それなりに魅力があって聴いてきたミュージシャンだ。
今回のアルバムは、この2年間に起こった激動の"パンデミック"や"民主主義の危機"に触発され、一つには、医療従事者、介護者など、そして二つには、真実を語る者、民主主義を守る者として活動した人々を称えるために、このオリジナル音楽集を作曲したことのようだ。重い社会問題をテーマにしながらも、ありがちな悲壮感に満ちた世界に陥ることなく、美しく力強いメロディーを持ってして、むしろ勇気を与えるような世界に聴こえてくるところが魅力となっている。アルバム・タイトルは"光は常に点灯している"というプラス志向の世界だ。
又一方昨年この世を去った夫へささげられたアルバムだともいわれているものでもある。
前作は、ここでも取り上げた2020年の『Chimes Of Freedom』であるが、今回も共演トリオ・メンバーは同一である。
(Tracklist)
01. March On (4:59)
02. The Lights Are Always On (3:23)
03. Sisters (5:15)
04. Honor (dedicated to Lt. Colonel Alexander Vindman) (4:26)
05. Loved Ones (3:27)
06. Sounds Like America (4:43)
07. The Notorious RBG (dedicated to Ruth Bader Ginsburg) (4:47)
08. Into The Breach (4:37)
09. Walk In My Shoes (dedicated to John Lewis) (4:24)
10. Heroes (4:17)
ノース・フロリダ大学のジャズ科プロフェッサーでもあるリン・エリエイルの教育者としての誇りある美しく堅実なタッチのピアノが展開する。今回のアルバムはそんな中での、熱情的に訴えてくるところが印象的で、私好みの美メロ的なところからの甘さはというものはむしろ無く、スマートなメロデイックにしてスウンギ-・プレイで展開に変化を見せた感じだ。もともとハード・バップを基礎にしてのコンテンポラリーな展開にあっても、オーソドックスなジャズ主張してきた彼女のそれでもやや遊び的なところに私は興味があったのだが、今回は彼女の目的としたテーマには「世界中での活動家への敬意」であり、そんな甘さも許されず、堅実さがこのアルバムでは特に感ずるところで、若干硬さが感じらるアルバムであった。ベース(Jasper Somsen 下左)&ドラム(E.J. Strickland 下右)の迫力ある機動性も抜群のリズム・サポートも、曲の真摯な流れを崩さず安定感ある曲展開に貢献している。
M1."March On"は、人種差別などにテーマが向いていて甘くなるはずもなく、やや重苦しい。
アルバム・タイトル曲のM2."The Lights are Always On"は、それでも抒情的なメロディーが顔を出してほっとする。Covidと戦うPrakash Gada博士に代表される医師とすべての最前線の医療従事者に感謝。
M3."Sisters"のジェンダー問題に立ち上がる女性への共感。ちょっとよりどころがない曲。
M4."Honor"アレキサンダー・ヴィンドマンの勇気ある弾劾証言に捧げる曲。裏にウクライナ情勢からのトランプの再起画策の危機感。
M5."Loved Ones" 我々にとっての大切な人たちへの感謝。
M6."Sounds Like America" ようやく楽観的なメロディーとソロが出現、活動家による成果を祝す和音。
M7."The Notorious RBG"ジェンダー平等と女性の権利の擁護者ルース・ベイダー・ギンズバーグへの熱烈な捧げ物
M8."Into The Breach" 民主主義を救った英雄たちを思うに、あの2021年1月6日アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件の不吉な記憶がよぎる。
M9."Walk In My Shoes"公民権運動の象徴の粘り強い指導者ジョン・ルイスに捧げられた曲。
M10."Heroes" 暗い時代を啓発し、人類の最大のヒューマニズムの美徳を体現した人々を称えての彼女からの心のこもったバラード。
とにかく今回のテーマはアメリカの予期せぬこと、そして逆行的不安に対面しての彼女の偽らざる危機感をテーマにしていて、それは暗く重い。しかし彼女はそれを献身的な努力の人たちによって救われた感謝の気持ちと展望をテーマにしていて、憂鬱な暗さだけには描かない。むしろ展望への道筋を示すべく演じていて前進的だ。ジャズの道も、こうした社会問題に積極的に対峙してのコンセプト・アルバムは、今やその重要性が問われる時代となったのか。
ちょっととっつきにくい印象だったが、数回聴いていると意外に親しみがわいてくるところがあるアルバムだ。
(評価)
□ 曲・演奏 88/100
□ 録音 88/100
(試聴)
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