シャイ・マエストロ

2021年2月17日 (水)

シャイ・マエストロ Shai Maestro 「Human」

イスラエル風民族音楽的なムードを生かしつつ・・・
実は「彼の思い」が込められたアルバムだ
・・コンテンポラリー度、リリカル度、スリリング度が適度で素晴らしい

<Jazz>

Shai Maestro 「Human」
ECM / Germ. / ECM 2688 089 0670 / 2021

Humanw

Shai Maestro シャイ・マエストロ (piano)
Jorge Roeder ホルヘ・ローダー (double bass except 04, 07)
Ofri Nehemya オフリ・ネヘミヤ (drums except 04, 07)

Philip Dizack フィリップ・ディザック (trumpet except 06, 07, 08, 11)

Recorded Feb. 2020, Sudio Studios La Buissonne, Pernes-Les-Fontaines

  ECMの前作『The Dream Thief』(ECM 2616 6771112/2018)にてその素晴らしさを味わったNYシーンで活躍するイスラエル出身の人気急上昇ピアニスト:シャイ・マエストロShai Maestro(1987年イスラエル生まれ)の、ECMでの2作目、前作と同じ彼のトリオに、新たにトランペットが加わってのカルテット作品となっている。

Shaimaestrow  彼のピアノの素晴らしさは、実はAvishai Cohen Trio で気に入ってから注目はしているところだが、ここに来てECMからのリリース2枚目で、私にとっては尚更興味津々と言うところなのである。
  
  彼は、なんと8歳の時にオスカー・ピーターソンのアルバムを聴いてジャズに開眼したとか。そして19歳の若さででベース奏者アヴィシャイ・コーエンのバンドに抜擢されたのだった。2010年に自身のユニットを結成。以来活動を共にし、これまでリリースした4枚のリーダー・アルバム全てに参加するホルヘ・ローダー(b)と、同郷イスラエルのドラマー、オフリ・ネヘミヤ(ds)に、本作では、米国人トランぺッター、フィリップ・ディザックを加えている。

(Tracklist)

01. Time
02. Mystery And Illusions
03. Human
04. GG (tp & p duo)
05. The Thief's Dream
06. Hank And Charlie (p-b-ds trio)
07. Compassion (solo piano)
08. Prayer (p-b-ds trio)
09. They Went To War
10. In A Sentimental Mood *
11. Ima (For Talma Maestro) (p-b-ds trio)

*印以外Shai Maestroのオリジナル曲

 手頃にエスニック風の味付けがある独自のフォーク・ジャズ的と言うかイスラエル民族音楽的トラッド風と言うか、そんなムードが滲み出ているが、なんとなく引きつけられる世界を持っている。
 しっとりとした潤いと透明感溢れるピアノの音が、流れるように演じられ、又一方余韻をもって耽美的・哀愁的情景を描いてくれる。そして独特の異国情緒は今回はトランペツトの響きによって描いているのが特徴。カルテット演奏はドラマティックな展開も織り込んでいてジャズとしての味付けはちゃんとみせる。アルバムを通して聴いてじっくり感動が沸いてくる。

91ejmcqt5ll1000

 もともと私の好みからは、ビアノ・トリオ+トランペットというのは恐らく否定的な方向に感ずる処だ。確かにM4." GG", M5."The Thief's Dream"あたりは、ピアノの美しさがトランペットによって消されてしまう感覚になる。しかし救いは、ECM盤ということで想像していたことだが、全体に寧ろ優しく歌うトランペットであったことだ。
 M2."Mystery And Illusions", M3." Human"で意外だったのは、イスラエル的エスニック風の味付けがやはりあるが、それはなんとトランペットの響きから一番感じられるところなのだ。そこがこのカルテットとした味噌なのかも知れない。
 しかし中盤に入って、M6."Hank And Charlie " M7."Compassion ", M8."Prayer "はピアノ・トリオのみの演奏で、ようやく美しいピアノ、ベースの休まる音、余韻を大切にしたピアノの音から沈着な世界に美しさが漲る(M7はピアノ・ソロで情緒豊か)。又M6.は故ハンク・ジョーンズとチャーリー・ヘイデンの音楽にトリオが敬意を表している。このピアノ・トリオ・スタイルが私好みの世界のだ。
Idf_back_from_lebanon
 ところが、M9."They Went To War" が注目曲、ここでトランペットの素晴らしさに浸れる。"彼らは戦争に行った"・・その苦しさ、哀しさが、静かに演じられるトランペットの音に哀しく訴える心が感じられ感動。これがマエストロの描きたい一つの世界とみた。
 そしてM11." Ima"でこのアルバムは納められるが、そこには、心のよりどころとなる世界を見事にペットなしのマエストロ・トリオが描くのである。ここには民族的ムードは無く、世界に普遍的に未来志向のムードで響く。

 なかなか、したたかなアルバムである。中盤から後半で完全に虜にされた。やはり前作と同様、このシャイ・マエストロとは、ただ者で無い。とにかくスリリングなところも魅せながらコンテンポラリーな味付けがあったり、リリカルな世界があったり、哀愁度と、それが手頃に納める技はお見事と言いたい。そして彼の思いが込められていることに感動した。推薦盤だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :  88/100
□ 録音   :  85/100


(視聴)

*

| | コメント (4)

その他のカテゴリー

Audio CLASSIC Progressive ROCK アイオナ アガ・ザリヤン アデル アメリカン・ジャズ アヤ アレクシス・コール アレッサンドロ・ガラティ アンジェイ・ワイダ アンナ・マリア・ヨペク アンヌ・デュクロ アヴィシャイ・コーエン アーロン・パークス イエス イタリアン・プログレッシブ・ロック イメルダ・メイ イモージェン・ヒープ イリアーヌ・イリアス イーデン・アトウッド ウィズイン・テンプテーション ウォルター・ラング エスビョルン・スヴェンソン エスペン・バルグ エミリー・クレア・バーロウ エミール・ブランドックヴィスト エレン・アンデション エンリコ・ピエラヌンツィ エヴァ・キャシディ オルガ・コンコヴァ カティア・ブニアティシヴィリ カレン・ソウサ ガブレリア・アンダース キアラ・パンカルディ キャメル キャロル・ウェルスマン キング・クリムゾン キース・ジャレット クィダム クレア・マーティン グレッチェン・パーラト ケイテイ・メルア ケイト・リード ケティル・ビヨルンスタ コニー・フランシス コリン・バロン ゴンザロ・ルバルカバ サスキア・ブルーイン サラ・ブライトマン サラ・マクラクラン サラ・マッケンジー サンタナ サン・ビービー・トリオ ザーズ シェリル・ベンティーン シゼル・ストーム シネイド・オコナー シモーネ・コップマイヤー シャイ・マエストロ ショスタコーヴィチ シーネ・エイ ジェフ・ベック ジャック・ルーシェ ジョバンニ・グイディ ジョバンニ・ミラバッシ ジョルジュ・パッチンスキー スザンヌ・アビュール スティーヴン・ウィルソン スティーヴ・ドブロゴス ステイシー・ケント ステファン・オリヴァ スノーウィ・ホワイト スーザン・トボックマン セリア セルジオ・メンデス ターヤ・トゥルネン ダイアナ・クラール ダイアナ・パントン ダイアン・ハブカ チャンピアン・フルトン チャーリー・ヘイデン ティエリー・ラング ティングヴァル・トリオ ディナ・ディローズ デニース・ドナテッリ デヴィット・ギルモア デヴィル・ドール トルド・グスタフセン ドリーム・シアター ナイトウィッシュ ニコレッタ・セーケ ニッキ・パロット ノーサウンド ハービー・ハンコック バンクシア・トリオ パスカル・ラボーレ パトリシア・バーバー ヒラリー・コール ビル・エヴァンス ビル・ギャロザース ピアノ・トリオ ピンク・フロイド フェイツ・ウォーニング フランチェスカ・タンドイ フレッド・ハーシュ ブッゲ・ヴェッセルトフト ブラッド・メルドー ヘイリー・ロレン ヘルゲ・リエン ペレス・プラード ホリー・コール ボボ・ステンソン ポーキュパイン・ツリー ポーランド・プログレッシブ・ロック ポール・コゾフ マッツ・アイレットセン マツシモ・ファラオ マティアス・アルゴットソン・トリオ マデリン・ペルー マリリオン マルチン・ボシレフスキ マーラー ミケーレ・ディ・トロ ミシェル・ビスチェリア メコン・デルタ メッテ・ジュール メラニー・デ・ビアシオ メロディ・ガルドー モニカ・ボーフォース ユーロピアン・ジャズ ヨアヒム・キューン ヨーナス・ハーヴィスト・トリオ ヨーナ・トイヴァネン ラドカ・トネフ ラーシュ・ダニエルソン ラーシュ・ヤンソン リサ・ヒルトン リズ・ライト リッチー・バイラーク リリ・ヘイデン リン・エリエイル リン・スタンリー リヴァーサイド リーヴズ・アイズ ルーマー レシェック・モジュジェル ロジャー・ウォーターズ ロバート・ラカトシュ ロベルト・オルサー ローズマリー・クルーニー ローレン・ヘンダーソン ヴォルファート・ブレーデローデ 中西 繁 写真・カメラ 北欧ジャズ 問題書 回顧シリーズ(音楽編) 女性ヴォーカル 女性ヴォーカル(Senior) 女性ヴォーカル(ジャズ2) 女性ヴォーカル(ジャズ3) 寺島靖国 戦争映画の裏側の世界 手塚治虫 文化・芸術 映画・テレビ 時事問題 時代劇映画 波蘭(ポーランド)ジャズ 相原求一朗 私の愛する画家 私の映画史 索引(女性ジャズヴォーカル) 絵画 趣味 雑談 音楽 JAZZ POPULAR ROCK SONYα7