アメリカン・ジャズ

2024年9月 3日 (火)

サンディ・パットン Sandy Patton 「Round Midnight」

ベテランのアメリカン・スタンダート・ジャズ・ヴォーカル・アルバム

<Jazz>

Sandy Patton 「Round Midnight」
Venus / JPN / VHGD10012 / 2024

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サンディ・パットン Sandy Patton - vocal
マッシモ・ファラオ Massimo Farao' - piano
ダヴィデ・パラディン Davide Palladin - guitar
ニコラ・バルボン Nicola Barbon - double bass

Produced by Tetsuo Hara
Recorded at Art Music Studio - Bassano Del Grappa - Italy
On February 26 & 27, 2024.

Festival_teachers_as_120717_204945_patto   ここに来て、アメリカ生まれの本格派ジャズ・シンガー、 ベテランのサンディ・パットンのニュー・アルバムにお目にかかるとは思っていなかった。それは意外に彼女はキャリアの割には日本ではそれ程一般的には浸透していなかったためだ。そこで興味もあり何はともあれ早速聴くこととしたもの。

 サンディ・パットンSandy Patton(→)は、アメリカ・ミシガン州インクスターに1948年に生まれ、幼少期から音楽に情熱を注ぎ、ワシントンD.C.のハワード大学とマイアミ大学で声楽を学び、マイアミ大学コンサート・ジャズ・ビッグバンドのツアーにも参加した。キャリアの初期にはライオネル・ハンプトンのバンドと共に3年間ツアーを行い、多くのジャズ界の巨匠と共演した経験を持っている超ベテラン。そして音楽活動はアメリカ国内だけでなく、ヨーロッパや中東、極東など世界中に広がっており、特にスイスのベルンにある「Hochschule der Künste」(ベルン芸術大学)では18年間ジャズボーカル教授として教鞭を執り、多くの若手ミュージシャンを育て注目されてきた。

 なんと現在78歳であるが、国際的に活躍しており、過去にフランス、ドイツ、スイス、アブダビ、セネガル、モザンビーク、ロシア/シベリア、ボリビア、韓国で世界各地で公演を行っている。現在イタリアのピアニスト、マッシモ・ファラオとの共演など、ヨーロッパの著名なミュージシャンとも精力的にコラボレーションを続けている。彼女のステージは、感情の深みと技術的な完成度で観客を魅了し、国際的なジャズシーンで高く評価されている。

 今回のアルバム、その経過は解らないが、日本のVenusからのリリースのアメリカン・ジャズ・スタンダード曲集。タイトルが「真夜中」ですから、やっぱり久々のナイト・クラブのムードのジャズ・ボーカル・アルバムとして期待して聴いた次第。

(Tracklist)
1. オールド・カントリー The Old Country (N. Adderley) 7:26
2. ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラブ There Is No Greater Love (I. Jones) 5:23
3. ゲット・ハッピー Get Happy (H. Arlen) 2:59
4 .スクラップル・フロム・ジ・アップル Scrapple From The Apple (C. Parker) 3:31
5. ウェーヴ Wave (A.C. Jobim) 3:56
6. サック・フル・オブ・ドリームス Sack Full Of Dreams (L. Savary - G. McFarland) 4:49
7. インビテーション Invitation (B. Kaper) 5:37
8. ラウンド・ミッドナイトRound Midnight (T. Monk) 5:42
9. ラッシュ・ライフ Lush Life (B. Strayhorn) 5:42
10. ウィスパー・ノット Whisper Not (B. Golson) 6:24
11. マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ My One And Only Love (Wood - Mellin) 5:34
12. レディ・ビ・グッド Lady Be Good (G. Gershwin) 4:58

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  M1."The Old Country" オープニングから、ピアノの流れにに乗って、ぐっと深いヴォーカルでもうすっかりジャズ・クラブのムードが、ベテランの味ですね。スキャットや少しフェイクも入れてうまく歌っている。この曲かってキース・ジャレットの昔のアルバム『STANDARS LIVE』で、スタンダーズ・トリオの演奏で聴いたことがあったが、やっぱり名曲だ。
 M4."Scrapple From The Apple "は、スキャットを多用してピアノとのユニゾンでの歌は見事。
 そして、なんといってもアルバムタイトル曲M8."Round Midnight"曲は、マイルス・ディビスの演奏の代表曲("Round about Midnight")でもあり、彼女の気合の入り方も尋常ではない。マッシモ・ファラオ(上左)のピアノの美しさと共に情感と優しさが満ち満ちていて、夜のジャズの良さがしみじみと伝わってくる。ジャズ・ヴォーカルは、現在は、やっぱりなんなくこのスタイルが忘れられているが、今ここで聴くと納得なのである。
 曲によっては、バックがギター(ダヴィデ・パラディン(上右))でムードを盛り上げる曲もあって、M7."Invitation "は、映画音楽だが、なかなかピアノの情感と違って、むしろ感傷的とはいっても洒落た世界を描いている。M9." Lush Life "は、歌詞の表現に見事なテクニックを披露。

3_20240903152201  とにかく、アメリカの良き時代のジャズ・スタンダード曲の流れのおさらいのようなもので、それが又サンディ・パットンのベテランの説得力のあるヴォーカルが、一層歴史的ジャズの良さを実感させるので、広く聴いてほしいアルバム。そうそう演奏の中心であるマッシモ・ファラオ(piano)、そしてダヴィデ・パラディン( guitar)も慣れたもので、この世界を見事に描いていると思う。これはとにかくジャズ・ファンなら、いろいろと言わずに聴いて歴史的スタンダード・ジャズの良さを確認しておくことの出来る名盤の登場と言っても良いものだ。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌 :   90/100
□   録音      :    88/100

(試聴) "Round Midnight"

*
(参考) 映画「Round Midnight」

 

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2024年8月27日 (火)

ブリア・スコンバーグ Bria Skonberg 「What Is Means」

彼女のトランペツトよりヴォーカルに注目して一票を入れる

<Jazz>

Bria Skonberg 「What Is Means」
CELLAR LIVE / Import / CM072624 / 2024

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Bria Skonberg (trumpet) (vocal on 02, 03, 04, 07, 08, 11)
Don Vappie (electric guitar except 11) (banjo on 06)
Chris Pattishall (piano)
Grayson Brockamp (acoustic bass)
Herlin Riley (drums, percussion except 11)
Aurora Nealand (soprano saxophone on 01)
Rex Gregory (tenor saxophone on 04, 08, 10) (bass clarinet on 09)
Ethan Santos (trombone on 04, 08, 09, 10)
Ben Jaffe (sousaphone on 01, 10)
Gabrielle Cavassa (vocal on 08) (female)

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 米ニューヨーク・シーンで活躍しているカナダ出身の女性トランぺッター兼ヴォーカリスト(兼ソングライター)のブリア・スコンバーグ(1983年カナダ-ブリティッシュ・コロンビア州チリワック生まれ。左)のアルバム。彼女は現在まで着々とアルバムをリリースしているが、今回は、小コンボ体制(と、言っても上記のように豪華体制)で、自己の音楽的ルーツであるニューオーリンズ・ジャズ〜トラディッショナル・ジャズに焦点を当てた作品。
 ニューオルリンズ・ジャズとなると、トランペットの活躍場所は大いにあって、彼女は溌溂と吹き上げている。しかし古典ジャズのニュアンスはどうしても拭うことはできず、ちょっと古臭い感覚にもなるが、彼女のヴォーカルも11曲中6曲に挿入されていて、その方が聴き応えある。

 2021年1月、世界的なロックダウンの暗い重みの中、彼女は他のミュージシャンと交流した回数は10回未満に落ち込み、さらに、親になるという未経験の世界とで、"世界的孤立"と"新しい種類の愛"の両方を経験した。そしてようやくギグが再開され始めたとき、彼女は「自分は、戻る方法と前進する道を同時に見つけようとしているように感じた」と言っている。そこで10代の頃に学んだ曲、ルイ・アームストロングの"Cornet Chop Suey"などの名曲を再検討し、ヴァン・モリソンやビートルズなどの家族ぐるみでの愛好音楽を再考した。それが今回のアルバムの基礎にあるとみてよい。

811gigbpd1l_ac_slwf  その上に、ブリア・スコンバーグは、既にダイアナ・クラール等が開拓したジャズ因子の絡めた洗練されたポップ・シーンを目指し、新たな領域をもって確固たる地位を築くことを試み、そもそも2015年のPortrait Recordsからのデビューアルバム『Bria』(このアルバムで私は初めて彼女を知ったのだが。→)には、スタンダード曲と5曲のオリジナル曲が収録されていて、「クラシックジャズを愛し、そこにリズム、パーカッションを重んじた現代的なポップ色あるところを融合させる」という手法をとってきた。その流れは今回のアルバムでも感ずるところにある。

 忘れてはならないのは、このアルバムには、ニューオーリンズのジャズシーンからいろいろなミュージシャンが参加している。特に、ドラマー/パーカッショニストのHerlin Riley(下中央)は、ニューオーリンズの伝説である。ベーシストであるGrayson Brockamp とは初仕事。ピアニストのクリス・パティシャルChris Pattishall(下右)は、ブリアの最も長いコラボレーターで、豊富な映画音楽の経験を生かしている。ギターとバンジョーで活躍するDon Vappie(下左)は、ニューオーリンズの音楽遺産の巨人。M1.で聴くソプラノサックス奏者のAurora Nealandは、ストックホルムのスウィングフェスティバルで彼女の元ルームメイトとか。

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(Tracklist)

01. Comes Love
02. Sweet Pea*
03. Do You Know What It Means To Miss New Orleans?*
04. The Beat Goes On*
05. In The House
06. Cornet Chop Suey
07. Beautiful Boy (Darling Boy)*
08. Days Like This*
09. Petit Fleur
10. Elbow Bump
11. Lullabye (Goodnight My Angel) /A Child Is Born (vo/tp-p-b trio)*
*印 Vocal入り曲

 もともとラッパ物入りニューオルリンズ・ジャズには興味のない私であるので、これはスコンバーグのヴォーカル・アルバムとして聴いてみようと思ったところだ。思った通りどちらかというとクラシックなスタイルの明るくハキハキとしたトランペットの響きが主体の演奏で、それ自体は悪くないが、私はあまり興味もわかなかったのである。しかし彼女のヴォーカルの入る曲にはちょっと一目を置いた次第。

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 M1. "Comes Love" 戦前のブロードウェイ・ミュージカル曲のスタンダード化したポピュラーな曲が軽快に登場。トランペットが活躍して、管楽器の合奏でこれから楽しくゆきましょうと言った感じのクラシカル・ジャズ。しかし中盤から変調するなどして洒落ている。
 M2. "Sweet Pea" さっそく彼女の高音寄りのヴォーカルの登場。白人系ではきはきしていて端正、スッキリ感で良い。
 M3. "Do You Know What It Means To Miss New Orleans?" おおここでは、彼女の可愛げなスローバラード調のヴォーカルが登場、後半になってトランペットがメロディーを演ずるがなかなかいいムードだ。この曲からアルバム・タイトルが造られたのだろう。
   M4. "The Beat Goes On"ロックン・ロールして楽しそう。
   M5. "In The House" も軽快、ベースの響きのリズムが印象的、トランペットもコントロールしての歯切れの良い独演、ピアノの相槌がいい。管楽器のユニゾンよりは私は好き。
   M6. "Cornet Chop Suey" 昔のルイ・アームストロング が作曲したジャズ・ナンバー。演奏の奇抜さが評判の曲を彼女は負けず劣らず見事に技巧を凝らして演奏する。
 M7. "Beautiful Boy (Darling Boy)"ジョン・レノンの息子への曲、彼女の優しさの溢れたヴォーカルで、このアルバムでは異色作。
 M8. "Days Like This" ヴァン・モリソンの曲、家族で愛している曲と。
 M9. "Petit Fleur" 日本で昔ピーナッツが歌った"可愛い花"。彼女のトランペットが聴きどころだが、"小さな花"の懐かしき曲。
 M10. "Elbow Bump" 興味は湧かなかった。
 M11. "Lullabye (Goodnight My Angel) /A Child Is Born" (vo/tp-p-b trio) ビリー・ジョエルの美曲。ここでのスコンバーグのなかなか優しい歌は聴きどころ。最後にM7.とともに我が子へ送る歌だろうか。

 このアルバムでは、ブリア・スコンバーグの溌剌明快なところとプルースの渋さ満点のところのあるトランペツトが一番の聴き処だろうが、私は彼女のヴォーカル曲を、美声であり、曲によっての歌いまわし技巧がすぐれていて、ソウフルな味もあっての点に注目して快く聴くことが出来た。もともと古めかしい華々しさのそんなニュー・オルリンズ・ジャズには興味がないのだが、それでも演奏陣は、現代にマッチすべくトラディッショナル趣向をうまく新感覚に併わせて演奏し、リフレッシュ効果を忘れずに奮戦していた。当初からのヴォーカル中心の世界に絞って聴こうとしていたわけだが、そこも加味して高評価しておきたい。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 88/100
□ 録音     87/100

(試聴)



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2024年7月23日 (火)

リ-・リトナ-、デイヴ・グルーシン Lee Rittenour & Dave Grusin 「BRASIL」

久々に心地よい南国ブラジルのボッサに浸れる

<Jazz, Samba, Latin>

Lee Rittenour & Dave Grusin 「BRASIL」
Pony Canyon / Jpn / PCCY-01996 / 2024

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Lee Ritenour リー・リトナー (acoustic guitar, electric guitar)
Dave Grusin デイヴ・グルーシン (piano, keyboard, electric piano)
Bruno Migotto ブルーノ・ミゴット (electric bass, bass)
Edu Ribeiro エドゥ・ヒベイロ (drums)
Marcelo Costa マルセロ・コスタ (percussion on 3, 5, 6, 7?)
Unknown (flute on 3)
Ivan Lins イヴァン・リンス (vocal on 4)
Tatiana Parra タチアナ・パーハ (vocal on 1, 4) (possibly? also on 5, 8)
Celso Fonseca セルソ・フォンセカ (vocal, guitar on 5)
Chico Pinheiro シコ・ピニェイロ (guitar on 6) (vocal on 7)
Grégoire Maret グレゴア・マレ (harmonica on 1, 2, 8)

61p1sby2sl_acw   夏の海岸砂浜でのリラックス向きのアルバムの登場である。いやはや40年前の1985年に発売され、グラミー編曲賞を受賞したブラジリアン・フュージョン・アルバム『HARLEQUIN ハーレクイン』(→)の続編ということだが、今年の作品だ。ギターのリー・リトナーと ピアノ・キーボードのデイヴ・グルーシンの超ベテランによるものだ。おそらく二人のブラジル音楽によせる想いがここに結実しているものだと言うが。

 そして上記のように多くのミュージシャンが集まっているが、4曲にヴォーカルも登場する。それは世界的に名が通っているイヴァン・リンス、ブラジルで人気のセルソ・フォンセカ、シコ・ピニェイロ、新進女性ヴォーカリスト:タチアナ・パーハ(下右)だ。
 又ハーモニカ界の重鎮のグレコリア・マレ(下右から2番目)が参加しているのが注目される。

(紹介)
▶リー・リトナー(G)(下左):1952年米カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。1970年代、10代でスタジオミュージシャンの活動を始め、70年代80年代のクロスオーバー、フュージョン、AOR シーンのトップ・ギタリストとして脚光を浴びる。『キャプテン・フィンガーズ』(1977)、『RIT』(1981)が大ヒット。デイブ・グルーシンとの合作『ハーレクイン』(1985)にてグラミー受賞。その後スーパー・グループ、フォープレイを結成。また自身のソロ・プロジェクトで意欲的な作品を数多く残している。

▶デイブ・グルーシン(Piano, Key)(下左から2番目):1934年米コロラド州リトルトン生まれ。幼少から音楽を学び、ジャズ・ピアノと編曲を身に着けNYで活動。その後LAに移りTV、映画の世界でも活躍。「卒業」「トッツィー」「グーニーズ」「恋のゆくえ」他の音楽を担当し、グラミー賞、アカデミー賞などを獲得する。一方1970年代に始まったクロスオーバー、フュージョンのムーブメントと共に、プレイヤー、アレンジャーとしても活躍。リー・リトナーとの合作『ハーレクイン』(1985)にてグラミー受賞している。1978年GRP Recordsを設立し、ヒット作品を世に送りだす。現在もリー・リトナーとの共演で世界広く活躍中。

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(Tracklist)

1. Cravo e Canela (Cloves & Cinnamon) クラヴォ・イ・カネーラ(クローヴ・アンド・シナモン) – featuring Tatiana Parra, Grégoire Maret
2. For The Palms フォー・ザ・パームズ – featuring Grégoire Maret
3. Catavento カタヴェント
4. Vitoriosa (Victorious) ヴィトリオーザ – featuring Ivan Lins & Tatiana Parra
5. Meu Samba Torto (My Crooked Samba) メウ・サンバ・トルト – featuring Celso Fonseca
6. Stone Flower ストーン・フラワー – featuring Chico Pinheiro
7. Boca de Siri (Keep It Quiet) ボーカ・ヂ・シリ – featuring Chico Pinheiro
8. Lil' Rock Way リル・ロック・ウェイ – featuring Grégoire Maret
9. Canto Invierno (Winter Song) カント・インヴィエルノ

 とにかく楽しく聴けるので、楽しむのが一番。ブラジルにしては意外に清涼感に満ちたアコースティック・ギターと魅惑のエレクトリック・ギター、ピアノもこれ又意外にさらっと繊維な音で、エレピもしつこさが無く快感、これが枯れた味なのかもしれない。それに女性ヴォーカルも情熱的と言うより爽やかな印象、そして特にハーモニカの音も哀感があっていい。それらがサンバのリズムに乗って実に軽妙でお洒落な世界を演じている。ブラジルの爽快感のあるリオ デ ジャネイロのコパカバーナ ビーチやイパネマビーチ、コルコバードの丘などを想像してしまう。
 そもそも古い昔の話だが、私はジャズを少々かじった頃、ジャック・ルーシェのピアノ・トリオと一方"セルジオ・メンデスとブラジル66"のファンであつたので、このブラジリアン・ボッサは懐かしさも加わって気分最高である。

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 M1. "Cravo e Canela" 軽快なリズムと 新進のTatiana Parraの優しい充実感あるヴォーカルが楽しい。
 M2. "For The Palms"  ギターとこのセッションの特徴のGrégoire Maretのハーモニカが哀感をもってぐっと落ち着いた世界を描く。
 M3. "Catavento" パーカッションの軽快サンバ・リズムでスタート、それに乗ってピアノとギターの競演。
 M4. "Vitoriosa"   男性Ivan Lins と女性 Tatiana Parraのデュオ・ヴォーカルでしっとりと歌い上げる。
 M5. "Meu Samba Torto"  Celso Fonsecaのヴォーカルとエレクトリック・ジャズ・ギターでサンバで南国を描く。
 M6. "Stone Flower" 聴きなれた曲だが、Chico Pinheiroのギターも加わってリズムカルな充実演奏。
 M7. "Boca de Siri" ここでは人気のChico Pinheiroのヴォーカル、軽快なパーカッションとギター。
 M8. "Lil' Rock Way" ここでも Grégoire Maretのハーモニカが頑張り、特異な女性ヴォーカル・リズムで盛り上がる。
 M9. "Canto Invierno "ピアノ、ギターが美しく演じて締める。

 かってのアルバム『ハーレクイン』とは作風は異なっていて、一層ブラジル色が前面に出ている。やはり女性ヴォーカルのムードがいいですね、昔のラニ・ホールを思い出して懐かしい。リトナーの渋いギターが描き上げる南国ムードが聴きどころで、グルーシンのピアノの展開の妙も聴きどころ。
 いずれにしても、快適なリズムと若干染み入る哀愁とが洗練されていて楽しいアルバムであった。

(評価)
□ 曲、演奏、歌  87/100
□ 録音      87/100

(試聴)
"Meu Samba Torto"

*
"Cravo e Canela"

 

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2024年6月18日 (火)

ノア・ハイドゥ Noah Haidu 「Standards Ⅱ」

文句なしの強力スタンダード・ピアノ・トリオ作品

<Jazz>

Noah Haidu 「Standards Ⅱ」
Sunnyside Records / Import / SSC1739 / 2024

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Noah Haidu (piano)
Buster Williams(bass)
Billy Hart(drums)

RECORDED AT VAN GELDER STUDIOS OCTOBER 7 2023
RECORDING ENGINEER : MAUREEN SICKLER
MIXED AND MASTERED BY KATSUHIKO NAITO

 ニューヨーク市を拠点に置くジャズピアニスト、ノア・ハイドゥNoah Haidu(1972年生)が、なんと驚きの職人技術とインテリジェンスの備わったバスター・ウイリアムズ( bass )と、巨匠ビリー・ハート( drums )の自分の親の歳である80歳を越える両超ベテランのサポートを得てスタンダードに取り組んだピアノトリオ作品。彼の言葉は「最近のツアーで観客から素晴らしい反応をもらったことに感謝しています。今でも自分の音楽を作曲したり、アメリカン・ソングブックのレパートリー以外の様々なプロジェクトを続けたりしていますが、スタンダード・トリオは私にとって重要なステートメントであり、ミュージシャンとしてのアイデンティティの不可欠な部分です」とし、ジャズピアニズムとジャズトリオの本質的な要素に磨きをかけているのだ。


Imagesw_20240614224601  これは2023年にリリースしたアルバム『Standards』(SSC1705)の続編で、キース・ジャレットへの深い敬愛の結果としてのスタンダード重視の演奏に、ジャズの一つの姿を追求している。

 ノア・ハイドゥNoah Haidu(→) : 1972年バージニア州シャーロッツビルで生まれで、幼い頃からクラシックピアノのレッスンを受けていたが、10 代になるとブルース、ジャズ、ポピュラー音楽に惹かれ、高校時代ニュージャージーとロサンゼルスに移るとジャズピアノ、ギター、作曲を学んだ。ラトガース大学に通い、ピアニストのケニー・バロンに師事し、2年後にニューヨークに拠点を移す。ニュースクール大学で美術学士号、ニューヨーク州立大学(ニューヨーク州パーチェス)で音楽修士号を取得。メロディックでエネルギッシュな即興演奏を組み込むスタイルで人気を勝ち取っている。演奏家と作曲家として注目を集めてきた。

Images2w  バスター・ウィリアムズ Buster Williams (→): 1942年アメリカ合衆国ニュージャージー州生まれのモダンジャズ・ベース奏者。父親も音楽家、幼いときからジャズに親しんだ。1959年から演奏家としての活動を始めた。フィラデルフィアでプロとしてデビューした後、ジーン・アモンズ、ソニー・スティットのクインテットやベティ・カーター、ナンシー・ウィルソン、サラ・ヴォーンといった女性歌手のレコーディングに参加、1960年代後半にニューヨークに移りハービー・ハンコックのグループに参加、一時期マイルス・デイヴィスの下でも活躍した。以降はケニー・バロン、デクスター・ゴードン、ジョー・ファレル他にも多くのミュージシャンと活動を共にしている。メロディックでエネルギッシュな即興演奏を組み込むスタイルで人気を勝ち取っている。

1900x1900000000w  ビリー・ハートBilly Hart (→): 1940年ワシントンD.C.で生まれ、アメリカのジャズ・ドラマーにして教育者である。キャリアの早い段階でオーティス・レディング、サム&デイヴ、そしてバック・ヒルやシャーリー・ホーンと共演した。彼はモンゴメリー・ブラザーズ(1961年)、ジミー・スミス(1964年–1966年)、ウェス・モンゴメリー(1966年–1968年)のサイドマンを務めた。1968年にモンゴメリーが亡くなった後ニューヨークに移り、多くの共演がある。ハービー・ハンコックのセクステットのメンバー(1969年–1973年)となり、マッコイ・タイナー(1973年–1974年)、スタン・ゲッツ(1974年–1977年)、クエスト(1980年代)とも共演した。加えて、フリーランスの演奏(1972年のアルバム『オン・ザ・コーナー』におけるマイルス・デイヴィスとのレコーディングを含む)も行っている。

 このアルバムのトリオに関して、ノア・ハイドゥはこう語る「 自分のスタンダード・トリオと一緒に演奏することをツアーの定期的な一部として約束したんだ。私のスタンダード・トリオはミュージシャンとしての私のアイデンティティの重要な一部なんだ。」と。ここには、彼としては巨匠と組んでジャズ・トリオのあるべき姿の本質に迫り、タイトル通りスタンダードに真摯に挑んだ1枚だということだ。

(Tracklist)

1.Over The Rainbow 10:26
2.Someone To Watch Over Me  7:57
3.Up Jumped Spring  11:53
4.Obsesion  8:42
5.Days Of Wine And Roses  7:49
6.After You’ve Gone   6:04
7.I Got It Bad (And That Ain’t Good)  7:45

 スタンダード演奏に如何に対峙してゆくかと言う大前提に立っての主張が聴きとれるアルバムであり、少し曲ごとに深堀してみたい。

  まずスタート曲M1."Over The Rainbow" これが、なんとドラムス・ソロでスタートし、おもむろにピアノの優しく魅力的な音が乗って、ゾっとする感動。しかしなかなかあの知りえたメロディーが出てこない。とにかくスタンダードに取り組んだ王道ピアノ・トリオというが、自由奔放な探求的な解釈で幕を開ける。ベース、ドラムスも対等にその守備範囲を確保し、パフォーマンスの押し引きを繰り広げている。そしてゆったりとした中に編曲と即興を織り交ぜて見事な世界を構築する。
 M2."Someone To Watch Over Me"においても、彼らはスタンダードをテーマにはしているが、それを聴かすというよりは、彼ら自身の世界を演ずるのである。曲のハーモニーとメロディーの可能性を慎重に探り、ハートの繊細なリズムにウィリアムズの機敏な対位法で造られた中にハイドゥの叙情性があって、しかも空間を生かした音で感動的な世界を演じている。
 それはM3."Up Jumped Spring " でも変わることなく、演奏時間は11分を超え、フレディ・ハーバードがアート・ブレイキー& ジャズ・メッセンジャーズにいた時に作曲したインスト曲で、後に歌詞がついて歌われているが、このバンドはイントロのトリオとしての可能性を追求するところから始まって、オープニングのピアノのコードがベースとドラムワークを誘い込み、3者によるルバート演奏が展開。ここには彼ら自身の曲意外に何物でもない。しかし、その後安定したテンポとなり、ウィリアムズとハイドゥの心のこもった伴奏でハートがソロを奏で、2人ともスウィングするソロと最後のメロディーで続き納める。それは録音においても3者同列でそれぞれの音が手に取るように解り、彼らの宇宙空間を形成しているのがよくわかる。

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 M4."Obsesion"では結構メロディーをピアノが演じてくれるが、ベース・ソロが入ったりドラムスのシンバル音が響きトリオが楽しんでいる様が聴きとれる。この曲はアフロ・ラテン界のスタンダードであるが、ハイドゥのセンスとアイデアによって、ジャズ・トリオの世界に誘導している。
 M5."Days Of Wine And Roses"はスウィングし、冒頭から懐かしのメロデイーをピアノが絶妙に演じてくれる。しかし前半にベースの世界に入って即興が流れ、彼らの世界に突入。ピアノも即興に入ってそれをドラムスが軽快にサポート。中盤から後半へはやはり彼らの曲と化す。このあたりのメロディックでエネルギッシュなところがハイドゥなんですね。そして最後には再び主メロディの登場で納める。
 M6."After You’ve Gone" 冒頭の3曲と違ってここでも軽快なジャズを展開。ピアノの流麗な早弾きところが聴かせどころ。三者の一糸乱れぬ展開が見事。最後にドラム・ソロが展開、これぞジャズの楽しさだと響いてくる。ハイドゥのスウィング・タッチとハーモニーの感性が光る。
 M7."I Got It Bad (And That Ain’t Good)"エリントンで締めくくられる。ここではハイドゥがメロディーを語り聴かせるように演奏し、ウィリアムズの即興演奏とハートのブラッシワークが見事に世界を構築し、アルバムを収める。

 とにかく、一曲一曲じっくりと構えて彼ら自身の一つの世界を構築しつつも、原曲の味を逃がさないというところであり、聴き応え十分。ピアノ・トリオとしてのそれぞれの立場は何かという回答のような演奏だ。アンサンブル等の構築などキース・ジャレットの目指し築いたものを是非とも深め発展させたいというハイドゥの心意気を感ずるところでもあった。
 ピアノ・トリオを愛する私としても、一つの大切な部分を聴かされた感があった。
 最後に私の見た一つの評価を記す・・「ジャズピアニズムとジャズトリオの本質的な要素に磨きをかけながら、その初期の約束を実現しています。このアルバムは、ハイドゥのタッチ、即興演奏、ウィリアムズとハートとの交流を披露している。これらの演奏は、新鮮さ、妙技、そして抗いがたい即時性でクラシックを照らし出し、聴き手の注意を惹きつけます」

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :   95/100
□   録音       :   90/100

(試聴)

"Days Of Wine And Roses"

*
”Over The Rainbow”

 

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2024年6月 3日 (月)

マシュー・シップ Matthew Shipp Trio 「 New Concepts in Piano Trio Jazz」

圧巻の静から動への展開、 アヴァンギャルドにフリー・ジャズ、現代音楽を凌駕する

<Jazz>

Matthew Shipp Trio  「New Concepts in Piano Trio Jazz」 
ESP-DISK / Import / ESP5085CD / 2024

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Matthew Shipp (piano)
Michael Bisio (bass)
Newman Taylor Baker (drums)
Recorded August 2, 2023 at Park West Studios

 80年代後半から独自の世界を演じて来たピアニスト・マシュー・シップ、ピアノ・トリオ愛好者であれば一度は挑戦してほしい彼のアルバム。それは私に言っているようなものだが、何度かかじってそのまま、つまりアルバムであればそれをしっかり何度か聴いてみるということをせずに今日まで来た。それにはそれなりの理由があるのだが、それはさておきその彼の現行トリオによる2023年録音最新作が登場だ。そして今回はなんとアルバムを通して何回と聴き、それなりの感動があったためここに登場となった。

  マシュー・シップMatthewShipp(下左)は、1960年、アメリカ / デラウェア州生まれの、ポスト・ジャズ・ピアニスト/作曲家。彼の母親がトランペット奏者のクリフォード・ブラウンの友人でもあったことから、シップはジャズに強く惹かれ、5 歳でピアノを弾き始め、高校時代にはロックグループでも演奏した。1984年にニューヨークに移り、1990 年代初頭から、バンドリーダー、サイドマン、またはプロデューサーとして数十枚のアルバムに出演。当初はフリージャズをメイン・スタイルにしていたが、その後、現代音楽、ヒップホップ、エレクトロなど、多岐にわたるジャンルで高い評価を得ている。

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 さて本作だか、いっやー恐ろしいアルバム・タイトルですね。現在のジャズ・ピアノ・トリオ界への挑戦か、はたまた自身における革命的挑戦か、いずれにしてもここまで上段に構えるのだから尋常でなく気合が入っている。ニューマン・テイラー・ベイカー(上中央)、マイケル・ビシオ(上右)という息の合ったトリオで、聴くものに迫ってくる。

(Tracklist)

1 Primal Poem 3:28
2 Sea Song 6:24
3 The Function 7:03
4 Non Circle 6:58
5 Tone IQ 3:54
6 Brain System 4:53
7 Brain Work 3:02
8 Coherent System 11:39

 5年間一緒に活動し、定期的にレコーディングをしているということだが、その結果、トリオ構成のぶれることなく推し進められる世界は見事である。そしてその流れはリーダーが支配して終わるトリオではなく、作曲されたものと3人のメンバーが打ち出すインプロヴィゼーションの兼ね合いが、それによる相互作用に基づいてスリリングに構築されるアグレッシブなアンサンブルを聴かせている事に"New Concepts"という発想に繋がったと推測する。

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 「ジャズの道はこれだ」とばかりに、束縛なしの自由な三者の即興演奏をアクティブに展開してみせるわけであるのだが・・・。ただし、オープニングのM1." Primal Poem"は、異次元の世界を構築しながら、ぐっと抑えて瞑想的なテーマで心をつかみ、続く・・M2." Sea Song "で自然の姿に神秘性を宿わせる。この2曲があってしっかりこのアルバムの世界に私の場合見事に引き込まれてしまう。そして彼らの示す本題の曲に繋がってゆく。
   M3." The Function"から気合が入ってくる。ベースの低音のリズムが不気味にリード。ピアノはメロディーでなくスリリングな展開に、特に後半ドラムスと共に即興対立的世界に。
 M4." Non Circle "ドラムスからスタートするも、三者でのバトルが印象的に進行。
 M5." Tone IQ" 三者とも一つ一つの音を大切に響かせ、余韻を生かして迫ってくる。特にピアノの低音と高音の単音の響きとベースのアルコで異世界の静粛さ描き、ドラムスはちょっとスリル感を聴かせる。
 M6." Brain System" ここでもベースがアルコでの異世界が続く。ピアノとシンバル音がさらにそれを高め次第にピアノがその神秘性を語り始める。
 M7." Brain Work" いよいよピアノ・ソロで現代音楽的側面をにおわせて、次に続く彼らの三者の自由なインプロヴィゼーションのバトルの予感を感じさせる。 
 M8." Coherent System " 私から言わせるとバトルそのものだ。ピアノとドラムスが対等にたたき合い、その姿を支え整えるベース。まさに3者による干渉と緊密な構成の美が描かれる。

 とにかく"New Concepts"と銘打った彼らの目指すものが、トリオ・メンバーのお互い知り尽くした三者対等なアンサンブルを信頼関係が基礎にあっての構築される世界が、十二分に描かれ演じられている。それぞれの高度な演奏技術に互いに信頼関係があってのインプロヴィゼーションを発展させての曲仕上げは恐ろしいほどだ。M1, M2で深く引き寄せ、最後は彼らの世界に引っ張り込むアルバム構成も見事。
 ここまで発展してくると、聴くものが何を求めるかによって世界は明確に分化されるだろうと思う。私が日ごろ愛しているユーロ系の哀愁の美旋律ピアノ・トリオとは全くの別世界であるが、描くところにシャズ・ピアノ・トリオとしての世界の一つの美学としての姿として感じられるのは事実で、今後の発展にさらに期待するのである。

(評価)
□ 曲・演奏 :   92/100
□ 録音    88/100

(試聴)

*

 

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2024年5月14日 (火)

ティム・レイ TIM RAY TRIO「FIRE & RAIN」

グルーヴ感あるバップ・ジャズに叙情性のあるバラードも

<Jazz>

TIM RAY TRIO「FIRE & RAIN」
Whaling City Sound / Import / WCS137 2024

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Tim Ray (piano) (keyboard on 03, 07, 11, 13) (melodica? or accordion? on 04)
John Lockwood (bass except 03) (electric bass on 03)
Mark Walker (drums) (percussion on 03, 04, 07, 12, 13)

   アメリカのベテラン・ピアニスト、ティム・レイTim Ray(下左)が、2014年からのジョン・ロックウッド(b,下中央)、マーク・ウォーカー(d,下右)を迎えてのジャズとしては私が好むピアノ・トリオ・スタイルで吹き込んだ最新作。彼はボストンを中心に活躍しているが、2021年まで伝説のボーカリスト、トニー・ベネットの音楽監督兼ピアニストであり、現在は教育者(全米芸術基金からの助成金の受給者であり、バークリー音楽大学の教授)としても活躍中。サイドマンとして100以上のレコーディングに参加しているが、リーダー作は『Excursions & Adventures』、『Windows』(Trio作品, 2016)、『Ideas & Opinions』(1st 1997,Trio作品 Lewis Nash(d), Rufus Reid(b))、『Tre Corda』(2nd, 2003)、『Squeaky Toy』(2013)、『On My Own Vol. 1』(ピアノ・ソロ)の6枚のアルバムをリリース。しかし過去に私自身は彼の作品にあまり深く関係してこなかった。

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 今回は、彼自身が敬愛する音楽界のヒーローの作品を取り上げ、現代的にアプローチしたもので、ジャズそのものにも迫るほど良いグル-ヴ感溢るる作品ということでここに聴いてみた次第である。
 もともと彼のジャズ・スタイルは、ハード・バップ系とみてよいのだろうが、ジャズ特有のアンサンブルやハーモニーも重要視していてのどちらかと言うと私好みのブルース系とは違ったファンキー・バップ色が濃いが、メロウ&スウィート・テンダーな色合いもみせて結構楽しめるアルバムが出来ているので取り上げてみた。 

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01. Bye-Ya
02. Stolen Moments
03. NO Worries
04. The Meeting: The Jbug and the Kman
05. Mojave
06. Theodore the Thumper
07. Fire and Rain
08. Lawns
09. Moon in the Sea
10. Improv #1 (for Chick)
11. Nighttime
12. The Windup
13. Fire and Rain (radio edit)

  ダイナミックなトリオ・アンサンブルに満ち満ちている展開から、バラードとロマンティックな色合いまで聴かせる内容たっぷりのアルバムだ。

 モンクのM1. "Bye-Ya"で、ちょっと難解だが、ジャズの醍醐味のアンサンブルの楽しさでスタートし、オリバー・ネルソンのブルース調のM2. "Stolen Moments"でジャズの奥深さを聴かせる。
 M3. "NO Worries" ジャレットの曲をグルーヴィーに展開、ここではエレキ・キーボードを使用しお見事。メンバーの年期を感ずる仕上げ。
 M4. "The Meeting: The Jbug and the Kman" 家族の世界か、ぐっと美しいピアノで・・後半は盛り上げ最後は再び静の美。
 M5. "Mojave" アントニオ・カルロス・ジョビンの曲を繊細にリズムカルに。
 M6. "Theodore the Thumper" 明るめのブルースフィーリングの登場に驚き、ドラムスの響きも楽しい
 アルバム・タイトル曲のM7. "Fire and Rain" ジェームス・テイラーの曲で決して明るい曲ではないがハーモニーなど聴きどころ満載
 M8. "Lawns" 極めて静かな安堵感にも通ずる曲で、ほっとして聴ける
 M9. "Moon in the Sea" 多彩な情景が浮かぶロマンティックなムードも聴かせ、中盤のベースとピアノの静かな世界が魅力
 M10. "Improv #1 (for Chick)" ちょっとフリージャズっぽい展開
 M11. "Nighttime" 当初のイメージと異なって心に響く優しさと美しさ、後半の流麗なピアノ・プレイは圧巻、最後は再び静の世界に
 M12. "The Windup" アクティブなアンサンブルでの終結、ドラムソロが印象的

 なかなか粋なファンキー節が込められ、三者の掛け合いの味が見事なバップ系のタイプが主力で、ダイナミック・スウィンギンなジャズの程よいグルーヴ感があって良好。そしてそれに留まらずバラードや抒情性の濃いロマンティックな曲が流れてきてぐっと心をつかむのがうまい。そのあたりは結構期待以上にスウィート・テンダーなフレーズが顔を出しメロウな美メロ・センスをちゃんと聴かせるところが魅力。最終的にはなかなかの名盤という感じであった。

(評価)
□ 編曲・演奏  90/100 
□ 録音     88/100
(試聴)

*

 

 

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2024年4月24日 (水)

リズ・ライト Lizz Wright 「Shadow」

人生模様が物語風に展開して充実感たっぷりの世界

<Jazz>

Lizz Wright 「Shadow」
Concord / Import / 6945087 / 2024

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Lizz Wright : Vocal
Adam Levy(g), Chris Bruce(g, key, b, perc)
Lynne Earls(el-p, g, hand perc), Glenn Patscha(p,el-p, org)
Kenny Banks, Sr.(p, org), Rashaan Carter(b)
Deantoni Parks(ds), Abe Rounds(perc)
Trina Basu(vln), Arun Ramamurthy(vln) 
Katherine Hughes(vln), Elizabeth Brathwaite(vln)
Jeff Yang(vla), Melissa Bach(cello)
Brandee Younger (Harp)

Angelique Kidjo : Vocal
Meshell Ndegeocello: Bass

1699042699546_mobilelargew   デビュー・アルバムのリリースから約20年が経ち、高い評価を得ているヴォーカリストのリズ・ライトが8thアルバムをリリースした。彼女に関しては、2017年のアルバム『GRACE』(Ucco-1192)がお気に入りだが、南部出身の彼女は、ゴスペルとソウルのスペシャリストである。1980年1月22日、米、ジョージア州生まれでいよいよ脂が乗ってきた。
 教会の牧師で、音楽監督を務めていた実父の影響でブルース、ジャズに開眼する。ハイ・スクール時代は聖歌隊に参加、ナショナル・コーラル・アウォードという賞を受賞。その後ジョージア州立大学では本格的なバンド活動をスタートし、シンガーとしての頭角を現した彼女は卒業後、2003年、ヴァーヴ・レーベルと契約、アルバム『ソルト』でデビュー。2005年にはクレイグ・ストリートをプロデューサーに迎え、2ndアルバム『ドリーミング・ワイド・アウェイク』をリリース。ゴスペルで培った深みと憂いのあるスピリチュアル・ヴォイスで、オリジナリティ溢れるR&B/ブルースの世界を創り上げている。

 今作はリズ・ライト自身の親族関係(祖母との別れ)の個人的な悲しみの経験から、悲しみを経て人間愛という力で自身の生きる希望への展開を織り交ぜたアルバムと見て取れる。
 そして彼女のオリジナル曲は5曲登場し、それは"Root of Mercy"、"Circling"、"This Way"に加えて、Angelique Kidjoをフィーチャーした"Sparrow"、Meshell Ndegeocelloとの"Your Love"だ。そしてコール・ポーター、ジリアン・ウェルチ&デヴィッド・ローリングス、サンディ・デニー、キャンディ・ステイトン、トシ・リーゴン、ケイトリン・キャンティの曲を彼女の世界に導入し、ジャズやブルースからフォークやソウルまで官能的なボーカルで歌い込んでいる。

(Tracklist)

1. Sparrow (feat. Angelique Kidjo) *
2. Your Love (feat. Meshell Ndegeocello & Brandee Younger) *
3. Root of Mercy *
4. Sweet Feeling
5. This Way *
6. Lost in the Vallet (feat. Trina Basu & Arun Ramamurthy)
7. I Concentrate on You
8. Circling *
9. No More Will I Run
10. Who Knows Where the Time Goes
11. I Made a Lover’s Praye
(*印 彼女のオリジナル曲)

 さすが、NYタイムズ紙がその歌声を「熟成したバーボンや上質なレザーを思わせるようななめらかでダークなアルト・ヴォイス」と称した彼女のヴォーカル世界にたっぷり浸かって、ゴスペルで培った深みと憂いのあるスピリチュアル・ヴォイスが響き渡り、オリジナリティ溢れるR&B/ブルースの世界を創り上げている。
 彼女はこのアルバムについて、「ついに、私の人生を決定づける愛、祖母マーサを失う番がやってきた。彼女が私を愛してくれたおかげで、見知らぬ人たちの前で何年も歌い、決して孤独を感じないというバックボーンが生まれました。彼女は世界を小さく、暖かく見せた。彼女の長い変遷を見ていると、彼女の愛が私に残した印象と、それをどうするかについて考えさせられました。『Shadow』は、悲しみを辛抱強く感じ、探求すると同時に、喪失や不確実性を前にして、より明白で力強い愛を讃えた結果です」と語っている

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M1. "Sparrow" 中音の落ち着いたヴォーカルで不幸から新しい物語の始まりの意欲的情景を描いてスタート。Angelique Kidjoの協力を得ている。
M2. "Your Love"  Meshell Ndegeocelloのベースの活力ある音で進行し、そしてBrandee Youngerの希望に満ちたハープ音とで描く世界。そこには愛の未来への希望が歌われる。
M3. "Root of Mercy" 低音でしっとりとしたヴォーカル。
M4. "Sweet Feeling" Candi Stantonの曲でソウル感あふれたブルースが圧巻。
M5. "This Way" 物憂げではあるが、自分の歩む道に堂々とした展望の雰囲気を見せている見事なスローバラード。 
M6. "Lost in the Vallet" フォークぽい世界
M7. "I Concentrate on You" 迷いのない心を訴える
M8. "Circling" 彼女の曲だが、優しさと明るさがあるところが救われる。
M9. "No More Will I Run" 訴える響きが見事な歌声。
M10. "Who Knows Where the Time Goes" 情景が描かれ見事に心に訴えるが如く歌い上げる
M11. "I Made a Lover’s Praye" アコースティック・ギターの落ち着いた調べて、人生の意欲を見事に力みなく響かせるヴォーカル。

 いっや・・・、感動のアルバムですね。とにかく無駄な曲が無く充実していて、彼女の歌声と共に聴けば聴くほど味わいが出てくる。このアルバムには彼女のステートメントが存在し、それはアメリカ文化の評価と社会の複雑な分断を極めつつの愛と人間性への焦点を当てての世界は深い。アンジェリーク・キジョーとメシェル・ンデゲオチェロが参加した意義も大きい。バック演奏ではアコースティックギターを軸に、弦楽四重奏、ハープ、オルガン、ゴスペル・ヴォーカルなどが厚みを構築している。今年の名盤として推薦できるアルバムである。

(評価)
□ 曲・歌・演奏 :  90/100
□   録音     :  90/100

(試聴)

*

 

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2024年4月 1日 (月)

ブランドン・ゴールドバーク Brandon Goldberg Trio 「 Live At Dizzy's」

10代の神童の技=よき時代のジャズを受け継いで現代風に展開

<Jazz>

Brandon Goldberg Trio 「Live At Dizzy's」
Cellar Live Records / Import / CMR050123 / 2024

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Brandon Goldberg (piano)
Ben Wolfe (bass)
Aaron Kimmel (drums)
Recorded at Dizzy's Club at Jazz t Lincoln Center,January 17 & 18 2023

Bgoldbergphototrw  まさに神童ピアニストとして話題の、フロリダ州マイアミ出身のブランドン・ゴールドバーグBrandon Goldberg(18歳)のサード・アルバムが登場した。2023年1月NYのディジーズ・クラブでライブ録音されたものというので、従って録音当時は17歳?)。
 彼は、3歳の頃からピアノを弾き、音楽に親しんできたと。批評家たちは彼の「揺るぎないテクニック、高度な和声理解、深いスイング感覚、そして最も印象的なのは、ほぼ完璧なまでに実行される明晰さとアイデアの多さ」と高く評価しているようだ。
 とにかく、デビュー作『Let's Play!』(2019 下左)とセカンドアルバム『In Good Time』(2021 下右)はともに、ダウンビート誌で 4つ星を獲得し、その年のトップアルバムに選出されている。2024年度ヤングアーツ優秀賞受賞、2023年度ハービー・ハンコック・インスティチュート・オブ・ジャズ国際ピアノ・コンクールのセミファイナリスト、2022年度ASCAPハーブ・アルパート・ヤング・ジャズ・コンポーザー賞を最年少で受賞という経歴も凄い。
 そして彼は今や10代でなんと、ニューポート・ジャズ・フェスティバル、サンフランシスコ(SFJazz)、PDXジャズ、リッチフィールド、ツインシティーズ、カラムーアなど、全米の主要なジャズフェスティバルで演奏し、又ディジーズ・クラブ、メズロウ、バードランド・シアター、オールド・ライムのザ・サイド・ドア、ボルチモアのキーストーン・コーナーなど、ニューヨークで指折りの有名なジャズ・クラブで演奏している。

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 ゴールドバーグ(下左)の3rdアルバムとなる本作は、彼のピアノにリズム隊はベテランのベン・ウルフ(下中央) のベース、アーロン・キンメル(下右)のドラムスという確かなメンバーによるピアノトリオ作品である。収録はスタンダードナンバーと2曲のオリジナル曲のプレイされたものだが、特に1950年代と1960年代の偉大なピアノ・トリオの音楽を彼なりきに現代風にアレンジをほどこしての新鮮な感覚でのプレイに注目、アフマド・ジャマール、レッド・ガーランド、オスカー・ピーターソン、ソニー・クラークなど、彼自身が影響を受けたピアニストや伝統に敬意を表しているというところだ。

(Tracklist)

1. Unholy Water
2. Wives and Lovers
3. It Ain't Necessarily So
4. An Affair to Remember
5. Let's Fall in Love
6. I Concentrate on You
7. Circles
8. Lujon (Slow Hot Wind)
9. Compulsion

 この若きピアニストが、古いニューヨークが舞台でのヒットを演じている。まあ昔のジャズ・ピアニストを聴き込むとこんなスタンダードが出てくるんでしょう。そしてそれにゴールトバーグが惹かれ技量発揮し、ウルフが旨くリードしキンメルの協力の結果であろう。なかなか良いトリオだ。

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M1. "Unholy Water" ピアノの快調な展開、中盤の活気あるドラムス・ソロ、トリオ・ジャズの楽しさの序奏。これが最後のM9.に繋がる。
M2. "Wives and Lovers"  軽妙なタッチのピアノの流れが聴きどころ。
M3. "It Ain't Necessarily So"   古くはLouis ArmStrongでElla Fitzgeraldが歌ったGeorge Gershwinの曲ですかね、ゴールドバーグのひいおじいさんの喜んだ曲でしょう。ここで演ずる結構軽さと展開の妙と速攻とパンチ力とが見事。
M4. "An Affair to Remember"  映画「めぐり逢い」の"過ぎし日の恋"ですね、これも古いなぁ・・・でもあの良き時代のほのぼの感としっとり感を出してますね。彼が演ずると聴く方もビックリですね、変なアドリブで攻めなくてむしろ良い感じだ。
M5. "Let's Fall in Love" 映画「恋をしてしまう」から、最近はDiana Krallが歌うので良く聴きますね。ここでは軽快な演奏。
M6. "I Concentrate on You" 映画「踊るニュウ・ヨーク」、コール・ポーターの曲ですね。やさしく演じ切るところがにくいところ。
M7. "Circles" ジュージ・ハリスンの曲なんだろうか、彼のオリジナルか良く解らないが、素晴らしい演奏。彼の新世代を演ずるスウィングへの変調の妙とインプロの技とが感じますね。
M8. "Lujon (Slow Hot Wind)" ヘンリー・マンシーニのムードを化けさせるベースとドラムス、そしてピアノの的を得たインプロに脱帽。
M9. "Compulsion" 三者の掛け合いの楽しさが満ちている。

 若い人のジャズというよりは、私の印象としては一世代前のジャズを現代風に味付けして蘇らせてくれている感がある。これが十代の演ずる世界かと、いやはや脱帽の世界。とにかくこの軽妙さぱ確かにアフマド・ジャマールの私の好きな部分を継いでくれている。なかなか味がある。

(評価)
□ 編曲・演奏  88/100
□ 録音     87/100

(試聴)

"Circles"

*
"An Affair to Remember"

 

 

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2024年3月22日 (金)

イエス!トリオ YES! TRIO (Aaron Goldberg & Omer Avital & Ali Jackson) 「 Spring Sings」

三者のインタープレイで築くグルーブ感、これぞジャズ・トリオだ

<Jazz>

YES! TRIO ( Aaron Goldberg & Omer Avital & Ali Jackson ) 「 Spring Sings」
(CD) Jazz & People / Import / JPCD824001/ 2024

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Aaron Goldberg (piano except 03)
Omer Avital (bass)
Ali Jackson (drums except 03)

  ドラムスのアリ・ジャクソン(1976年米ミシガン州デトロイト生まれ)をリーダー格とする、ピアノのアーロン・ゴールドバーグ(1974年米マサチューセッツ州ボストン生まれ)とベースのオメル・アヴィタル(1971年イスラエルのギヴァタイム生まれ)のピアノ・トリオである。
  このYes! Trioの好評前作『Groove Du Jour』(2019)に続いての最新アルバム(第3作)が5年ぶりに登場である。
  彼ら3人は1990年代にニューヨークで出会い、それぞれが独自のジャズを極めつつ異なった経験から積み上げた違いを尊重しつつ、ここに三者で彼らならではのジャズを作り上げているところに妙味がある。

 このトリオの特徴を見る意味で、三者の略歴を下に紹介。

6303856118_dbdew  アリ・ジャクソンは、デトロイト出身のアフリカ系アメリカ人ジャズプレイヤーの家族に生まれたドラマー、10代の頃にウィントン・マルサリスに見出された。ニューヨーク市のニュースクール現代音楽大学の学生として、マックス・ローチとエルヴィン・ジョーンズに師事する機会に恵まれ、彼は全額奨学金で大学に通い、作曲の学士号を取得。1994年、伝説のジャズ・ドラマー、マックス・ローチを称えるビーコンズ・オブ・ジャズ・プログラムのゲスト・ソリストに選ばれた。セロニアス・モンク・インスティテュートとジャズ・アスペンは、才能のあるミュージシャンのための第1回ジャズ・アスペンに参加するために彼を選抜した。また、1998年にミシガン州の権威あるArtserv Emerging Artist Awardの最初の受賞者である。又トランペッターのウィントン・マルサリスのジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラで10年以上もドラマーを務める。

Omeravitalalw   オメル・アヴィダルは、イスラエルに生まれ、独自の旋律とグルーヴを生み出して彼ならではのスタイルを切り拓いたベーシスト。幼い頃からクラシック・ギターを学び、イエメン系ユダヤ人独特の聖歌を耳にして育ったという。テルマ・イエリン芸術学校に入学するとジャズにも開眼。92年、アヴィシャイ・コーエンらとともに米・ニューヨークへ移住、ニュースクール大学に在籍しながら本場ジャズ・ムーヴメントの中でキャリアを積む。2001年に初のリーダー作『Think With Your Heart』を発表。NYジャズ・シーンで頭角を表わしつつある中で、一時イスラエルへ帰国するが、再びNYへ戻り、自身のスタイルを確立。2014年2月、スタジオ・アルバム『New Song』をリリース。

Aarongoldbergw   アーロン・ゴールドバークは、ボストン生まれの秀才、両親は著名な科学者。7歳からピアノ、14歳でジャズを始める。ハーバード大学で歴史と科学の学位を取得し、意識の科学的理論に関する論文にて新プログラムの学位を取得し優等で卒業。しかし音楽にも集中し続け、国際ジャズ教育者協会のクリフォード・ブラウン/スタン・ゲッツ・フェローシップを授与された。バークリー音楽大学でもジャズ・ピアノでの演奏を習得、ボストンそしてニューヨークのジャズシーンで演奏。ブラッド・メルドーなどのバンドで頭角を現して以来、多忙を極めるピアニスト。卒業後の1996年、ニューヨークに戻り、再び音楽活動に専念。1998年、アーロン・ゴールドバーグ・トリオを結成し、1999年にデビュー・アルバム『Turning Point』をリリース。そんな多彩な音楽活動を続ける中でもタフツ大学の修士課程にて2010年に分析哲学の修士号を取得。2010年にはアルバム『Home』、ブラジル音楽も研究し2012年にギジェルモ・クライン(アルゼンチン作曲家)とのコラボによる『Bienestan』をリリース。2012年にはアルバム『Yes!』、2014年11月、自身の曲、スタンダード、ブラジルの曲のアルバム『The Now』をリリースし高評価。多くのジャズ・ミュージシャンと共演している。

(Tracklist)
01. Spring Sings
02. 2K Blues
03. Bass Intro To Sheikh Ali (solo bass)
04. Sheikh Ali
05. The Best Is Yet To Come
06. Sancion
07. Omeration
08. How Deep Is The Ocean
09. Shufflonzo
10. Fivin'

 まさに現代ピアノ・トリオと言わしめるところの三者の役割が見事に結集している。それは上の三者の紹介に見るようにそれぞれの経歴が非常に異なっている中での実力者で、その為の効果が著しく味を高めている。


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 スタートのM01."Spring Sings"からアルバム・タイトル曲が登場し、スウィングを愛しながらもジャズを探求している試みの集合がコンテンポラリーに展開。ベースは弾きに独特なうねり感があり時にアルコも響かせる、軽やかに繰り出してくるが意外なところでパンチを効かせるドラム、歯切れのよさや透明感たっぷりのクリアー・タッチのピアノが心地よい。三者の乱れぬ交錯が対等に進行してまさにトリオ演奏。     
 M02."2K Blues"は、ベースの速攻とピアノの旋律、ドラムスのブラッシ音の躍動的攻め合いはものの見事に展開される。中盤のベース、それに続くドラムスの響きが曲のメリハリに貢献、最後は早弾きピアノが印象的。
 M03."Bass Intro To Sheikh Ali "は、ベースソロ。充実した低音が心に響く。そして M04."Sheikh Ali"のピアノ・トリオ演奏に繋がって、ピアノの役割を盛り上げ最後は硬質な繊細なピアノでまとめる。
 M05."The Best Is Yet To Come" ジャズの溌溂とした流れが生きている。トリオの流れが楽しい。
 M06."Sancion" 珍しいゆったりとしたピアノ旋律主導の曲。リズム隊のドラムスとベースの協調が品格ある。
 M07. "Omeration"息の合ったトリオの繰り返すハーモニーとユニゾンが見事、それを誘導するドラムスが頼もしい。
 M09. "Shufflonzo" スウィングしてのピアノに、ベース、ドラムスが快調に展開する。軽やかなベース・ソロ、続くドラムス・ソロのパンチ力も聴きどころ。演者の楽しさが伝わってくる。
 M10 "Fivin'" ドラムスのリズムに乗ってのベースとピアノとの掛け合いがこれまた楽しさ十分。

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 ピアノ・トリオであるので、自ずから旋律がピアノによる曲の運びは当然みられるが、ベースの多彩な音、ドラムスの展開を誘うダイナミズムが、これぞトリオ演奏と色付けされ聴き応え十分。とにかく剛柔バランスが絶妙にとれていて、今日感覚溢れるコンテンポラリーな展開が続く。トリオとしての主役であるゴールドバーグ(p)の自然体な正攻法に展開する流れに、アヴィタル(b)のそれに難題を振り向けるような熱い演奏が色付けにいい役割をしている。このトリオのリーダーのジャクソン(ds)は、やはり一歩引いているが、インタープレイの誘導がなかなか旨く、三者三様の立ち振る舞いが、それぞれの個性を発揮していてグルーヴ感を築く楽しい演奏だ。これぞ現代ジャズの一つの重要な流れであろう。ユーロ・ジャズのクラシックからの発展形としての流れなどに私などは満足している今日ではあるが、ジャズの王道をしっかり築いている風格すら感ずるこのタイプは当然歓迎だ。

(評価)
□ 演奏  90/100
□ 録音  88/100

(試聴)

 

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2024年2月 6日 (火)

ヴィジェイ・アイヤー Vijay Iyer, Linda May Han Oh, Tyshawn Sorey 「Compassion」

アメリカ社会の暗部を背景に人間的に迫ろうとする意欲作

<Contemporary Jazz>

Vijay Iyer, Linda May Han Oh, Tyshawn Sorey 「 Compassion」
ECM Records / JPN /  UCCE-1204 / 2024

Vi2

Vijay Iyer(p)
Linda My Han Oh(double-b)
Tyshawn Sorey(ds)

Recorded May 2022, Oktaven Audio, Mount Vernon, NY

399423767_18403083w 「21世紀のECM」を代表するピアニストといわれるヴィジェイ・アイヤー(米、右、紹介は末尾に)の3年ぶりのECM通算8作目となるピアノ・トリオ・アルバムの登場。   前作『Uneasy』(ECM352696)に続いての彼は多くのインスピレーションを二人から受けているというベーシストのリンダ・メイ・ハン・オー(1884年マレーシア生まれ、中国系移民、オーストラリア育ち、下左)とドラマーのタイショーン・ソーリー(1980年米国生まれ、クラシック・ジャズ両面で評価を受けている、下右)をフィーチャーしたトリオの2作目。 "独特な創造性のある作品"と前評判のコンテンポラリー・ジャズ・アルバム『Compassion』だ。

 ニューヨークタイムズ紙は、「新たな領域を探求する意欲を持ち続けると同時に、レーベルに長く関わってきた先人たちにも言及している。このアルバムには、スティーヴィー・ワンダーの「Overjoyed」の力強い解釈が収録されており、故チック・コリアへの間接的なオマージュ。もうひとつの「Nonaah」は、ピアニストにとって重要なメンターである前衛の賢人ロスコー・ミッチェルの作品。オリジナル曲群は、メロディアスに魅惑的でリズミカルな爽快な曲、物思いにふけるようなタイトル曲、フックが絡み合ったハイライト曲「Tempest」や「Ghostrumental」まで、多岐にわたる」と評価し説明している。

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  収録曲は13曲で、新たな世界の展開を試みるヴィジェイ・アイヤーのオリジナル曲は9曲、それは社会に存在するレイシズム(人種主義)そしてアパルトヘイトなどの不安、一方コロナ禍のような社会不安などがテーマで、ここ数年で作られてきたものだ。そしてその上に、彼の尊敬する人たちの曲やそれにまつわるもの等の4曲である。

(Tracklist)

1. コンパッション Compassion (Vijay Iyer)
2. アーチ Arch (Vijay Iyer)
3. オーヴァージョイド Overjoyed (Stevie Wonder)
4. マエルストロム Maelstrom (Vijay Iyer)
5. プレリュード:オリソン Prelude: Orison (Vijay Iyer)
6. テンペスト Tempest (Vijay Iyer)
7. パネジリック Panegyric (Vijay Iyer)
8. ノナー Nonaah (Roscoe Mitchell)
9. ホエア・アイ・アム Where I Am (Vijay Iyer)
10. ゴーストゥルメンタル Ghostrumental (Vijay Iyer)
11. イット・ゴーズ It Goes (Vijay Iyer)
12. フリー・スピリッツ / ドラマーズ・ソング Free Spirits / Drummer’s Song (John Stubblefield / Geri Allen)

 アイヤーのECMからのデビューは、2007年のロスコー・ミッチェルのメンバーとして参加したアルバム『ファー・サイド』で、マンフレート・アイヒャーの支持を受けECMと契約し、2014年に室内楽との共演作品『ミューテイションズ』をリリース。その後、その都度異なるミュージシャンとの共演が展開され、2021年には新トリオ作品『Uneasy』をリリースし、絶賛を受け評価を勝ち取った。その為か今作はその同トリオによる待望の2ndとなる新作である。

 何といっても、その心結ばれるメンバー同士において、センスと技量においての認め合う関係があり、その上での自由な空間でのインタープレイがインパクトのある音世界を演じ見事である。 アメリカン・ジャズのエッセンスはしっかり持って、その上に築かれる創造性はこのアルバムで一層充実した。しかも、その根底にあるところの"アメリカ社会の暗部"に対しての訴えがにじみ出ているところにも注目すべきである。

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 スタートのM1."Compassion"から、アルバム・タイトル曲の登場。「思いやり」ということか、彼の話からもインストゥルメンタル曲に深い意味を持たせるがための試みである今作のスタートである。 静というか深層心理に迫りそうな静かなピアノの演奏から終盤への盛り上がりが素晴らしいのだが、ピアノとベースの絡み合いも聴きどころ。アメリカ社会におけるそれは苦しみや不安の表現から、襲ってくる得体のしれない波を表現しつつ、思いやりの心を描きたっかったのだろうか。このトリオは「有色人種の3人組」というところにも意味が見えてくる。
 M2." Arch" アパルトヘイト廃止へ尽力したDesmond Turu大主教に心を寄せた曲。
 M3." Overjoyed"は、ピアノ・ジャズの世界そのものの演奏。アメリカン・ジャズの匂いがプンプンとしている。亡きチック・コリアを脳裏に描きつつ彼の感謝・祝福の言葉なのだろうか。
 M5."Prelude: Orison" 静かな世界に響く祈りの心。哀感と美しさのピアノの世界にベースの響きも美しく。これは彼が尊敬し愛した南インド出身の薬学博士で平等主義者のY.Raghunathanに捧げた曲だ。
 M6." Tempest " 激動と動揺の社会現象を荒々しく表現し、M7."Panegyric"では、努力と尽力の礼賛の心の表現か、メイ・ハン・オーの低音ベースが光る。。
 M8."Nonaah" アイヤーの拠り所であるRoscoe Mitchellの曲で、前衛的攻めのトリオのインタープレイは圧巻。 ソーリーの巧みなアタックが印象的。
 M11." It Goes" 失った人(人種問題研究者でもあった作家・詩人Eve L. Ewing)への思慕と感謝、そして寂しさの複雑な世界を描く。優しさ溢れる曲。
 M12." Free Spirits / Drummer’s Song " 喜びの表現が感じられ、前途への意欲を感ずるところが救いか。

 この究極のアイヤー音楽は、人種問題を背景にした葛藤と不安とある意味での戦いが描かれている。そして一方歩んできた人生の経験の中で得られた感謝の心の世界の表現の曲も含めている。それは社会的に政治的に共感的な立場を取れる重要人物を賞賛する。又痛ましい出来事に対しては追悼の心を表すことを忘れていない。

 インストゥメンタル・ミュージックでの表現において、創造的な試みが彼の一つのテーマでもあったようで、このアルバムは、曲単位というよりはトータルに聴いて理解すべきものと思った。全体的に派手な華々しさの明るさはない、テーマからしてもちょっと重く暗い世界だ。しかし音楽的展開においては多彩で聴き応え十分。単なる暗さというのでなく、感謝の世界や、人間の生き様への敬愛の心の美しさのある音楽も演じてくれ心休まるところもある。これには特に息の合った三者のインタープレイが見事で、描くところ現代アメリカン・ジャズではやはり異色の世界を構築している。
 アイヤーの音楽スタイルは、アメリカの歴史的な偉大な作曲家・ピアニストの世界が基礎にあるのは間違いないが、60年代から70年代のアフリカ系アメリカ人の創造してきたジャス音楽の影響を受けての彼自身の独創的な世界を構築するに至ったものだろう。そしてそこには「社会的問題意識を表現してゆく作品としての意義」を、このようなコンテンポラリーなジャズ世界に求めているのかもしれない。

(参考)
<ヴィジェイ・アイヤー VIJAY IYER>  (SNSより引用)
 ニューヨーク、オルバニーで生まれた(1971年)。アメリカ合衆国へのインド系タミル人移民の息子である。3歳から15年間、西洋クラシックのヴァイオリンを習う。更にほとんど独学でピアノを習得。イェール大学で数学と物理学を学び、カリフォルニア大学バークレー校で音楽認知科学を学びながらジャズ・クラブに出演し音楽の道へと進んだという異才。
 マンハッタン音楽学校、ニューヨーク大学、ニュー・スクールで教鞭をとり、カナダ、アルバータ、バンフ・センターのジャズ・クリエイティブ・ミュージック国際ワークショップのディレクターをつとめている。2014年1月には、ハーバード大学の芸術科学学部初のフランクリン・D、フローレンス・ローゼンブラット教授に就任した。
 多くのレーベルで作品をリリース。2009年のACTデビュー作「Historicity」がグラミー賞にノミネートされ、一躍ニューヨーク・ジャズ・シーンをリードするピアニストとして注目を集めた。 又、イラク・アフガニスタン戦争に行った兵士たちの詩がフィーチャーされた『ホールディング・イット・ダウン』は注目された。
 ECMにおける初リリースは、2007年のノート・ファクトリーのメンバーとして参加したライヴ・アルバム『ファー・サイド』。そして2014年に室内楽との共演作品『ミューテイションズ』でECMリーダー・デビューを果たす。続く『Radhe radhe:ライツ・オブ・ホーリー』、そして2015年トリオ作品『ブレイク・スタッフ』など次々と異なるプロジェクトで活動し精力的に作品を発表。2021年リリースの新トリオ(今アルバム・メンバー)作品『Uneasy』は、各メディアで絶賛された。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    87/100

(視聴)

 

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