バンクシア・トリオ

2023年8月28日 (月)

バンクシア・トリオ Banksia trio「MASKS」

ピアノ・トリオの多彩な表現を聴かせる

<Jazz>

Banksia trio「MASKS」
TSGWRecords / JPN / TSGW001 / 2023

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林 正樹 Masaki Hayashi (piano)
須川 崇志 Takashi Sugawa (bass) (cello on 05, 10)
石若 駿 Shun Ishiwaka (drums)

   Banksia Trioは、2017年に須川崇志(b)が林正樹(p)、石若駿(d)に声をかけて結成された日本ジャズ・トリオ。2020年1月には、日本ジャズレーベルのDays of Delightより1stアルバム『Time Remembered』を発表。美しさと共にジャズ・トリオのスリル感たっぷりの演奏で高評価。翌年2月18日に、同レーベルより2ndアルバム『Ancient Blue』を発表。 同様にトリオの三者の個性がみなぎりつつも、その共存の美の追求で絶賛を受けた。この辺りの経過は、過去にここに取り上げてきたので詳細は省略するが、この数年間のパンデミックの中でなんとか行われたライブツアーの集大成をスタジオにて収録。メンバーのオリジナル楽曲5曲に加えて菊地雅章、ニック・ドレイク、ポール・モチアンなどの楽曲5曲を取り上げている。そして注目は、アナログマスターテープに収録し、アナログ録音の豊かさに加えて、高解像のデジタル録音技術も用いての現実的な自然な音に仕上げての好録音もうたっていて、須川の自主レーベルTSGW Recordsからの興味深いアルバムのリリースとなった。

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 参考までに須川崇志の語るところをここに記す・・・“ピアノ、ベース、ドラム。どの楽器も1音1音が立ち上がった瞬間から、静寂の中へゆるやかに減衰してゆきます。このたった1音が持つ音響現象そのものにフォーカスして、音が消えてゆくまでのディケイの海にダイブするんです。没頭するように聴いて次の音を紡いでゆくことは、とても内省的な、祈るような作業でもあります。須川崇志、林正樹、石若駿それぞれが持つスピリチュアルで個人的な音世界を、絶妙に共存させながらも音楽そのものは確実に前進してゆく、そんなバンドアンサンブルを楽しんでもらえたら嬉しいです (須川)"

(Tracklist)

01. Drizzling Rain (Masabumi Kikuchi)
02. MASKS (Takashi Sugawa)
03. Abacus (Paul Motian)
04. Bird Flew By (Nick Drake)
05. Doppio Movimento (Masaki Hayashi)
06. Stefano (Takashi Sugawa)
07. Siciliano (Shun Ishiwaka)
08. Messe 1 (Shun Ishiwaka)
09. I Should Care (Axel Stordahl and Paul Weston)
10. Wonderful One (Paul Motian)

 スタート曲は、菊地 雅章の曲M1."Drizzling Rain"で、シンバル、ベース、ピアノの順に響き、一音一音を互いにその余韻まで感じ合いつつの繊細にして印象深く迫る展開がお見事な演奏。ここに霧雨の深遠さの共振がこのトリオのトリオたるところをお披露目している。
 そして須川によるタイトル曲のM2."MASKS"にして、ムードは一転、予期せずの展開を荒々しさとスリル感たっぷりの演奏で迫ってくる。ドラムスのアタックとベースのヘヴィーにうねるところにピアノの強力なタッチ、そしてインプロヴィゼーションの交錯と聴きごたえ十分。
 M3." Abacus "の跳ねるような展開がややトリッキーで面白い。

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 M4."Bird Flew By" ニック・ドレイクの曲。自然界の優しさに浸れるも、途中で転調しているところが聴きどころか。
 M5." Doppio Movimento"林正樹の曲、フリー・ジャズっぽいところにチェロが襲いピアノが高揚する新鮮。
   M6."Stefano"どちらかというと、冷徹な世界。ピアノの硬さが印象的。
   M7."Siciliano"リズムカルなステイック・ワークにピアノとベースが跳ねる。
   M8."Messe 1"多彩なメロディー展開。しかしちょっと深まりがないか。
   M9."I Should Care"3者がぐっと落ち着いて、こんな優美の世界に浸ってよいのかと、先を心配して聴く世界。
   M10."Wonderful One"美しいピアノとチェロの響きで、繊細なブラシ音が加わって万々歳だ。

 このトリオが描くところは、ピアノ・トリオの優美さと、一方冷徹な深遠さと、更に暴力的インプロの叩きつけ合いと、それぞれに卓越した技量とセンスで迫る多彩な世界で飽きさせない。今作も全くその線は変わっておらず、しかもそのスリリングさと演奏のキレは見事で、今作も楽しませていただいた。大推薦である。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    90/100

(試聴)


*

 

 

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