アダム・バウディヒ& レシェク・モジュジェル Adam Bałdych & Leszeck Możdżer 「Passacaglia」
究極のポーランド・ジャズのクラシックとの融合からの発展系の美
<Jazz>
Adam Bałdych & Leszeck Możdżer「Passacaglia」
ACT / Import / ACT9057 / 2024
Adam Bałdych (vln)
Leszeck Możdżer (p)
Recorded at Polish Radio S4 Jerzy Wasowski Studio in Warsaw on January 23rd – 25th 2023
ポーランドを代表するジャズミュージシャンの「ヴァイオリンの天才」アダム・バウディヒと、ピアニスト、レシェク・モジュジェルによるデュオ作品の登場(ポーランドの名前は発音が難しい。日本語で書くといろいろとあります)。すでに両者はここで過去に紹介ずみだが、特にバウディヒはヘルゲ・リエンとの共演などや、2019年の来日の際には話をすることが出来たりと、たっぷり楽しませていただいており、ここにニュー・アルバムを喜んでいる。又ピアニストのレシェク・モジュジェルも私の好きなピアニストで、『Komeda』(ACT9516,2011)などのアルバムで過去にここで取り上げてきた。とにかく澄んだ硬質のピアノ打鍵音は素晴らしい世界を構築する。
二人の共演は、2009年にヴロツワフ歌劇場が初めてで、マウリッツ・シュティラー監督の無声映画「アルネ家の宝物」の即興音楽を演奏した。好評でありながら彼らは10年以上も経って、ようやくここに、2023年1月にポーランドのスタジオに入りが出来て、この「パッサカリア」セッションを実施できたという経過だ。
アダム・バウディヒは、最新の紹介では、"1986 年ポーランド生まれのヴァイオリニスト/ 作曲家。カトヴィツェ音楽アカデミーを卒業し、ヘンリク・ゲンバルスキに師事。「ヴァイオリンの天才」と称され、14 歳でキャリアをスタートさせ、クラシック音楽の成果とヴァイオリンの現代言語を即興演奏家の才能と組み合わせた革新者としてすぐに認められた。ポーランド、ドイツ、日本、アメリカ、オーストリアなど、様々な国のジャズフェスティバルや一流のコンサートホールでツアーを敢行している。ラース・ダニエルソン、ニルス・ランドグレン、ビリー・コブハムなど、並外れたアーティストと共演し、ドイツの音楽業界賞である ECHO Jazz、ポーランドの金功労十字章、ポーランド文化功労勲章など、数々の賞を受賞している。"と書かれている。
レシェク・モジュジェルも最新紹介は、"1971 年生まれのポーランド出身の音楽家 / ジャズ・ピアニスト/ 作曲家。5 歳の時に両親の勧めでピアノを始め、1996年にグダニスク音楽アカデミーを卒業。これまでクシシュトフ・コメダ賞、ポーランド外務大臣賞など、国内の主要音楽賞を多数受賞している。これまでに100以上の音楽作品に参加しており、パット・メセニー、デヴィッド・ギルモア、トーマス・スタンコなど多数のアーティストとコラボしている。映画音楽の作曲家ともコラボレーションしており、日本を舞台にした『HACHI 約束の犬』などの映画音楽で演奏している。世界各国で公演を行っており、ショパン生誕 200 年にあたる2010 年には、東京紀尾井ホールなどで来日公演を行った。"と、ある。
さて今作『Passacaglia』は、バウディヒとモジュジェルが共同で書いた自由な即興演奏を多用したオリジナル曲4曲をメインに、バウディヒが6曲、モジュジェルが2曲のオリジナル曲を提供。そしてクラシック畑よりエリック・サティや、ジョスカン・デ・プレスなどの3曲の演奏が含まれている。
また、このアルバムでは、私にはその内容や意義は知るべしも無しの「ルネッサンス様式のヴァイオリン、2台のピアノ(A+442 HzとA+432 Hzの調律)、プリペアドピアノという特別な楽器の組み合わせにより、その音色に驚くべき、高貴な音の組み合わせによる融合を巧みに作り上げた」と紹介されている。この組み合わせにより、確かに彼らの持つ複雑にして分類困難な独特のスタイル、そして多岐にわたるジャンル、さらには聴いてすぐ解る音色の変化に伴っての音楽表現の多様性を実現し、もともとの美しくエレガントなクラシック調の室内楽の世界を表現したり、両者の交錯による激しさのあるジャズ即興演奏が繰り広げられている。
聴きようによっては、昔よく聴いたクラシック古典派のベートーベンなどのヴァイオリン・ソナタを愛していた私にとっては、むしろこのようなデュオは、音楽学者には笑われるかもしれないが、その発展形にも聴けて一層楽しいのである。
(Tracklist)
1: Passacaglia (Adam Bałdych & Leszek Możdżer)
2: Jadzia (Adam Bałdych)
3: Moon (Adam Bałdych)
4: December (Adam Bałdych)
5: Gymnopedie (Erik Satie)
6: Polydilemma (Leszek Możdżer)
7: Le Pearl (Leszek Możdżer)
8: January (Adam Bałdych)
9: Beyond Horizon (Adam Bałdych & Leszek Możdżer)
10: Saltare (Adam Bałdych)
11: Circumscriptions (Adam Bałdych & Leszek Możdżer)
12: Resonance (Adam Bałdych & Leszek Możdżer)
13: Aurora (Adam Bałdych)
14: O ignee Spiritus (Hildegard von Bingen)
15: La deploration sur la mort d’Ockeghem (Josquin des Prez)
とにかく、両者の卓越した作曲と演奏能力により、その上に楽器にも曲により組み合わせの配慮がされ、この組み合わせにより、確かに彼らの持つ複雑にして分類困難な独特のスタイル、そして多岐にわたるジャンル、さらには音色の変化に伴っての音楽表現の多様性を実現し、もともとの美しくエレガントな室内楽の世界を表現したり、両者の交錯による激しさのある即興演奏が繰り広げられている。このあたりは過去にも聴く度に驚かされていながら、引き込まれて行く世界であったが、このアルバムでも同様で、魅力が溢れていた。
私自身はなれてきたのか、かっての作品より今作の方が、かなり身近に受け入れやすく感じたところである。
M1." Passacaglia " 美しいヴァイオリンのピッチカートの音とクリアなピアノの音からスタートし、この両者の即興の交わりが見事。うっとりと聴いていると4分があっという間に終わってしまう。
M3." Moon " 、M11." Circumscriptions"の両曲は、どこか民族的響きの曲。両者の跳ねるような音の展開が圧巻。
M4."December" ヴァイオリンの美しい響き、非常に魅力的な曲。ピアノは支えるがごとく控えめな音。
M5."Gymnopedie" サティの曲、ピアノとヴァイオリンの静の世界を描く美。
M7."Le Pearl" モジュジェルの曲で美しいピアノ。M8."January"はバウディヒの曲で美しいヴァイオリン。両曲とも後半のコラボレーションも見事。
M9."Beyond Horizon" 共作だけあって、美しさの溢れたインタープレイ。
M12."Resonance" タイトルどうりの響きが美しい。
M13."Aurora " ヴァイオリン奏法の技量の高さ、ピアノの美的世界がみごとに展開され、即興と思われるところにおいても聴き応え十分。
M14."O ignee Spiritus " 深遠な世界に導かれる。
M15."La deploration sur la mort d’Ockeghem" 最後を飾る悲嘆から安堵の世界。
いずれにしても、アダム・バウディヒとレシェク・モジュジェルは、持ち合わせている教養とミュージックにおけるジャズの意義の上に、その卓越したセンスと技法で高貴な室内楽における美的バランスの取れた情緒と美に満ちた世界を創り出し、ときに激しい感情を沸かせ、即興の対話と交錯をも演じている。彼らの音楽的な世界の高さはまさにハイレベル。聴く者の心を知りつつ訴えるところは、繊細さとダイナミックさとの組み合わせにより並みでない世界を構築し、そこには神秘的な魅力で迫ってくる。おそらく今年の最高傑作の一つであろう。 (写真→バウディヒと私 2019年)
(評価)
□ 曲・演奏 95/100
□ 録音 92/100
(試聴)
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