2026年6月 6日 (土)

ヤン・ハルベック JAN HARBECK QUARTET 「 CONVERSATION」

バラードを中心にテナーサックスの退廃美学をリアルな録音で・・・

<Jazz>

JAN HARBECK QUARTET 「CONVERSATION」
東京エムプラスstunt / CD / STUCD26022S / 2026

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Jan Harbeck ヤン・ハルベック (tenor saxophone)
Henrik Gunde ヘンリク・グンデ (piano)
Eske Nørrelykke エスケ・ノアリケ (bass)
Anders Holm アナス・ホルム (drums)

2025年The Village(デンマークのコペンハーゲン)録音

Images2w_20260606123201  私はあまり聴かないサックスものだが、バラード曲をしっとりと歌い上げるような退廃美学を地で行くような演奏で、それをあのブツブツ音をしっかりリアルに録音されたサウンドで聴かされると、オーディオ好きの私としては、ここに取り上げざるを得なくなったというところ。
  このTS演者ヤン・ハルベック(デンマーク、1975年オーフス生まれ→, ↓左)は、デンマークでは確固たる支持を得ている円熟期を迎えたミュージシャン。かって同メンバーでのアルバム『The Sound the Rhythm』(STUCD19022/2019年)等で接してはきたが、今回は自己のオリジナル曲で埋め尽くされていてその実力がこうして形作られている。

 それにこのオーソドックスなカルテット編成でのここでも過去に取り挙げてきたピアノを担当するヘンリク・グンデ(デンマーク1969年生まれ、↓左から二人目)の澄み切った輪郭明瞭な鍵盤の音が流れると、ぐっと品格も出てきて、そのハルベックとの両者のバランスもなかなかよく、これが一発録音なのかと思われるほどの構築でなかなか気持ちもいい。両者の共演は過去に評価もしてきたので、改めてその進化にも興味を持って聴いたという処だ。
 リズム隊は、同国デンマークのエスケ・ノアリケ (bass、↓右から二人目)とアナス・ホルム (drums、↓右)で、このカルテツトは20年近く(?)も不動で続けられてきたらしく、そんなことを聞くと既に阿吽の呼吸でそれぞれの役割は出来上がっているのだろうと推測するのである。

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(Tracklist)

1. Passing Clouds
2. Out Of The Blue
3. Odd One Out
4. Sparkle Sight
5. Airwaves
6. Interaction
7. Arena
*all compositions by Jan Harbeck

 どうも、アルバム・タイトル「CONVERSATION」からも、このデンマーク・カルテット4人の「対話」を大切にし、ハルベックが自己のオリジナル曲でそれを突き詰めたアルバムとみて良いようだ。そして大きな魅力はTSファンにはたまらない彼の演ずるサブトーンと言われるハスキーにして温かみのある音色にも大きなポイントがあるのだろう。厚みのあるヘヴィーな鳴りを呈するTSが、プスプス掠れ息漏れする音の出るところもあって、物憂くけだるく哀愁的情緒を歌い上げるところを、見事に技術陣が録音再生した事は、ファンには溜まらないところのようだ。

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   M1. "Passing Clouds" なかなかしっとりとダークで静謐なナンバー。ハルベックのテナーが、サブトーンの境地ゆく低音とあの息漏れがしっかり録音されて響き渡る。まさに深夜のムードが広がる。グンデの繊細なピアノと、ホルムのブラシワークが見事に調和。
   M2. "Out of the Blue" 一転して軽快なテンポでスウィングのある展開。ハルベックの瑞々しいフレージングが光る。
 M3. "Odd One Out" ちょっとクラシック・ジャズの雰囲気、物憂げで哀愁漂うバラード。
 M4. "Sparkle Sight" グンデのピアノが思いの他つっぱつて、ドラムスも同調してパワフルに、サックスをプッシュしての意外な展開。 
 M5. "Airwaves" サックスの低音がうねりをもって響きつつ、優しくピアノがそれをフォローし中盤に演ずるメロディーが美しい。そして再びサックスが受け取ってしっとりと納める。
 M6. "Interaction" サックスの独演でなく、タイトルどおり4人の「干渉」が中心で展開のディープ・ブルース。しかしここでも中盤はサックスが小休止して、ピアノトリオの世界が進行、続いてベースとブラッシ音が響き結びのサックスの世界。
 M7. "Arena" 最後を締めくくる、7分超えの長編。説得力の物語調のハルベックのサックスからグンデのエリントン調の遊び心も匂わせ、演者が楽しんでいる風情が伝わってくる。

 究極、敢えて押さえてアヴァンギャルドな難しさのないところに収める演奏がなかなか味だ。これならジャズ初心者もしっかり入り込める。又サックスのただただの独壇場でなく、美メロディーのピアノがおおむね曲の中盤に入って気分転換できる作りがある。それはカルテットとしての世界をも形作りがうまく、お互いの呼吸が見えていて自然の流れでインタープレイが出現する手慣れたところにある。又お互いの音を聴き合い、空間を埋めるようにソロ演奏も旨く上品に納めることも自然体で気持ちが良い。

  スモーキー・グルーミーな切実な哀歌を演ずる一方、テンポのあるスウィングは軽快さダイナミックさを旨くこなす。妙に技巧に走らないオーソドックスな世界は好印象だ。

(評価)
□   作曲・演奏 :    90/100
□ 録音        :    90/100

(視聴)

 

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2026年5月31日 (日)

ラーシュ・ヤンソン Lars Jansson - Erik Söderlind 「Why Does Rain Fall」

人間的成熟を基礎に、アルバム精神に「禅の心」が流れての双頭カルテット・ジャズ

<Contemporary Jazz>

Lars Jansson - Erik Söderlind 「Why Does Rain Fall」
Prophone / Import / CD / PCD 400 / 2026

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Lars Jansson ラーシュ・ヤンソン (piano)
Erik Söderlind エーリク・セーデルリンド (electric guitar except 07, 09, 12) (acoustic guitar on 07, 09, 12)
Niklas Fernqvist ニクラス・フェーンクヴィスト (acoustic bass)
Paul Svanberg パウル・スヴァンベリ (drums)

2025年12月スウェーデン-ストックホルムのRMV Studio録音

642715070_26599593282980bxw  スウェーデンの大御所である人気ヴェテラン抒情派ピアニストのラーシュ・ヤンソンLars Jansson (1951年エレブルÖrebro生まれ →)と、ヤンソンと過去にも共演しているやはりスウェーデンの円熟中堅ギタリスト:エーリク・セーデルリンドErik Söderlind (1981年クリシャンスタードKristianstadまれ ↓左)がコンビを組んで、ベース&ドラムを伴ってのカルテットによる最新アルバムである。今回は双頭アルバムといってよいタイプと評価されていて、演ずる曲も二人が持ち寄ってのオリジナル曲13曲集である。

 ラーシュ・ヤンソンと言うと、やっぱり北欧の抒情ということで、日本では非常に高い人気が築かれてきているが、母国では「ジャズの教授」とも呼ばれるぐらい若いミュージシャンの教師としての役割も果たしていて慕われているとのこと。又エーリク・セーデルリンドは、ややアーシーなギターの音色が注目されて、この二人の対話に興味が湧くところだが、前作の『What The Moment Brings』(2024年)に続く作品としてファンは喜ぶ処にある。更にリズム隊としては、スウェーデンのエレガントで人気のベースのニクラス・フェーンクヴィスト(↓中央)と、スウィング感に魅力のドラムスのヤンソンの息子のパウル・スヴァンベリ(↓右)という構成で、フロントの二人を支える形となっている。

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  このアルバム・タイトルの「Why Does Rain Fall」は、"なぜ雨は降るか"と言う事だが、この世界は、“The sound of the rain needs no translation”(雨音に翻訳はいらない)と言う事に繋がり、「あるがままを受け入れる」という「禅」の言葉を引用したところにあるらしく、今回のアルバムの精神が推して知るべしという処のようだ。

(Tracklist)

 01. Iris (Erik Söderlind)
02. Why Does Rain Fall (Lars Jansson)
03. Grandpa Funk (Lars Jansson)
04. Jazzmusikal 1B (Erik Söderlind)
05. Stop Those Waterfalls (Lars Jansson)
06. Donna Andrade (Erik Söderlind)
07. One Who Knows (Lars Jansson)
08. Les French Alps (Erik Söderlind)
09. I Am That (Lars Jansson)
10. The Gardener (Erik Söderlind)
11. Grandpa Dancing On The Table (Lars Jansson)
12. Ravel (Lars Jansson)
13. A Garden Of Unknowing (Lars Jansson)

 北欧ジャズ界を代表するピアニスト、ラーシュ・ヤンソンと、近年円熟味を増しているスウェーデンの実力派ギタリスト、エーリク・セーデルリンドの二人がタッグを組んだなんとなく「師弟」のような親密さと、熟成されたインタープレイが非常に抵抗のない難解でなく聴きやすいジャズとして聴くことが出来る。この息の合った二人の対話は、どこか温かく、お互いへの深いリスペクトに満ちていて気持ちが良い。ただ良く聴くと時にスリリングなインタープレイも聴かれ味がある。

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 M01. "Iris" E.Söderlindが自身の娘「イリス」に捧げた曲とか。美しいギター家族への愛情が溢れるような曲。
 M02. "Why Does Rain Fall" L.Janssonによるアルバム・タイトル曲。「あるがままを受け入れる」という「禅」の思想からの精神性を描く。「静」でありながら複雑なカルテット4者の音。
 M03. "Grandpa Funk" かなりグルーヴィ。アッシーなギターが生きる。
 M04. "Jazzmusikal 1B" 一転、ぐっと迫る深さから物語的な流れ。
 M05. "Stop Those Waterfalls" L.Janssonの若手の頃のピアノ奏法(アルベジオ)にベテラン・ドラマーから注文がついたという話からを描いた曲とか、ピアノの美しさが聴ける。
 M06. "Donna  Andrade" E.Söderlind のブラジルの歌姫Leny Andradeに捧げられた曲。ギターとピアノにボサノヴァの匂いが。
 M07. "One Who Knows" バッハの世界。L.Janssonの美ピアノのクラシカルな精神、美しい。気品のベース、アコギの登場。
 M08. "Les French Alps" 今度はE.Söderlindのフランス・アルプスの美世界を描く。
 M09. "I Am That" L. Janssonの2004年に発表した曲。ピアノとアコギの静かな世界。ヤンソン・ジャズの真髄。
 M10. "The Gardener" E.Söderlindの庭師の祖父へのギターが語る思い出の郷愁の曲。
 M11. "Grandpa Dancing on the Table"(作曲:L.Jansson)コミカルな展開(おじいちゃんがテーブルの上で踊っている)により、カルテットの一体的な楽しさが目に浮かぶ。
  M12. "Ravel" ここでもギターはアコーステイック、L.Janssonが影響を受けたというクラシックのモーリス・ラヴェルの世界へ。
  M13. "A Garden of Unknowing"「無知の庭」という難解なタイトル。どうも決めつけの結論は必要なく、全て余韻を残す静謐なピアノとギターの調べで、安堵感の世界へ。

  北欧コンテンポラリー・ジャズの深さを知らしめるテーマを持った力みのない自然体の仕上がりで押し切ったという珍しい作品と評価する。ラーシュ・ヤンソンの境地がアルバムの意志を大きく広げたのであろうと推測する。鋭さのあるテクニカルなプレイのエーリク・セーデルリンドと思って聴くと、意外や意外そのイメージでない、むしろトリビュート曲が多く何かむしろ感謝の意が広く覆っているようにも聴けた。ギターのトーンに「精神的円熟と優しさ」が満ちていた。そこに、ラーシュ・ヤンソンの気品に満ちたピアノのリードが加わって、タイトルの「雨の自然さ」が広がりのある世界観を作り出しているのだ。
 北欧的自然観の世界から、人間的成熟を基礎に築かれた「音楽としての成熟」が余韻のある世界を響かせている見事な作品。

(評価)
□ 曲・演奏・コンセプト : 90/100
□   録音         :   87/100

(視聴)

 

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2026年5月27日 (水)

イリアーヌ・イリアス ELIANE ELIAS 「Ao Vivo」

「静謐と情熱とダイナミックなブラジリアン・ジャズ」の世界

<Jazz>

ELIANE ELIAS 「Ao Vivo」
Candid / Import / CD / CDCND3396 / 2026

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Eliane Elias (piano,vocal)
Leandro Pellegrino (guitar)
Marc Johnson (bass)
Rafael Barata (drums)

699830513_1511422620348580w   久しぶりの感があるが、そうでもなく2022年の『quietyde』(ccd30512)のアルバム以来だろうと思うが、もうここでは常連のイリアーヌ・イリアス(Eliane Elias、1960年ブラジル生まれ→)の2026年5月に名門Candid Recordsからリリースされた最新ライブ・アルバム『Ao Vivo』(CDCN3396)だ。
 この作品は、還暦を超しての彼女の近年のキャリアの総集編とも言えるもので、2023年10月21日にサンフランシスコの「SFJAZZセンター」で行われたステージ(一夜限りのもの)を完全収録したライブ盤である。
 勿論、彼女のヴォーカル、ピアノをふんだんに取り入れて、究極の「レギュラー・カルテット」による演奏、つまり彼女の公私にわたるパートナーであるベースの名手マーク・ジョンソン(↓中央)、現代最高峰ブラジリアン・ドラマーのラファエル・バラタ(↓右)、そしてギタリストのレアンドロ・ペレグリーノ(ブラジル、↓左)という、もう互いに熟知した最強の布陣が揃っている。スタジオ盤でないだけに、自由にそしてその時のムードも反映してのジャズらしい即興も入っての中身の濃い演奏が聴けるというモノ。

 まあ、見方を変えればベスト盤ともいえるもので、グラミー受賞・ノミネート・アルバムからのものや、アントニオ・カルロス・ジョビンやアリ・バロッソ、ドリヴァル・カイミといったブラジル音楽界の巨匠たちの名曲をむしろ会場と楽しんでいるかの如くの演奏が聴ける。
 とにかくベテラン歌手の描く歌は、例のスモーキーなソフトにして優しさが親密な声と節回しで、聴く者にとっては不安のない親密感のある世界に浸れることが出来る。そして忘れてはならないのが彼女のピアノ・タッチだ。元々の輪郭明瞭なリズムカルなところは、ブラシリアン・ミュージックを旨く表現して迫ってくるのでこれも楽しみなのである。

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(Tracklist)

1.Brasil (Aquarela do Brasil) 5:18 (Ary Barroso)
2.VocÃa 4:23 (Roberto Menescal, Ray Gilbert, Ronaldo BÃ ́scoli)
3.Sambou Sambou 5:21 (Joao Donato)
4.VocÃa e Eu (You and I) 4:23 (Carlos Lyra/Vinicius de Moraes)
5.Eu Sambo Mesmo (I Really Samba) 3:07 (Janet de Almeida)
6.Bahia Medley: Saudade da Bahia/VocÃa Já Foi à Bahia 4:12 (Dorival Caymmi)
7.Esta Tarde Vi Llover 4:16 (Armando Manzanero)
8.At First Sight 7:24 (Eliane Elias)
9.A Felicidade 8:05 (A.C. Jobim, Vinícius de Moraes)
10.SÃ3 Danço Samba 5:40 (A.C. Jobim, Vinícius de Moraes)

  ライブものというのは、その録音の音質がピンからキリまであるので不安であったが、今作はむしろ会場の関係もあろうが空間感覚がよく音質も悪くない。そしてそれぞれのミュージシャンもちゃんと意識できて良い方に入ると思う。
 又前作は、かなり彼女としては「静」が描かれ異色の方に入り、ミュージシャンとしてのある山を越えて一つの世界に入ったかと思ったが、今回はまさに本来のブラジル風のダイナミックな「動」に帰っている。

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そしてそれぞれの収録曲は牡下記のようであった。

  M01."Brasil (Aquarela do Brasil)"サンバこそのジャズ・グルーヴ感が展開。ピアノ・タッチが躍動感あってライブらしいムード。
  M02."Você" 軽快なボサノバ。ピアノに乗ってのイリアスの囁くようなヴォーカルの絡み合いが絶妙。
  M03."Sambou Sambou" 彼女のピアノがよりジャジーに。弾き語りが乗っていて楽しい。
  M04."Você e Eu (You and I)" モダン・ジャズらしい洗練されたハーモニーが楽しめる。マーク・ジョンソンのベースが支えていて、カルテットが生きている。
  M05."Eu Sambo Mesmo" 速攻サンバ、イリアスのヴォーカル先行し最後にピアノがダイナミックに。
  M06."Bahia Medley:Saudade da Bahia / Você Já Foi à Bahia"ギターを中心にカルテットの味が聴き処。バヒーアという地方の郷愁を歌ったメドレーらしいが、リズムに乗った優しきヴォーカルが印象的。
  M07."Esta Tarde Vi Llover" ピアノがちょっとエレガントに語るバラード曲。
  M08."At First Sight" 彼女自身のオリジナル。7分を超えるピアニストとしての熱演。
  M09."A Felicidade" 聴き慣れた曲だがアレンジも見事、会場に反応してのライブこその「動」への流れの展開が最高潮。ドラム・ソロに反応してのピアノの響きが訴える一幕も。
  M10."Só Danço Samba"フィナーレを飾る意味か、会場の合唱も入って、彼女のピアノが次第に高速に、そして各メンバーのソロが巡り、親密感が最高。

  ジャズ・ピアニストのイリアスの味がちゃんと網羅されていて、ライブならではの会場との対話によって充実感が増している。そしてやはり歳の効か、もともと低音部に厚みのあるヴォーカルがよりソフトになって、所謂一つの世界が完成した感がある。
 そしてやはりスタジオとの違いでのジャズ・ムードが高まっていて成功したアルバムと評価する。ブラジル音楽を深めてきた彼女の流れが楽しく充実感で包まれたところは、本人も納得しているのではと聴き入った次第である。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌 :   90/100
□   録音      :   88/100

(視聴)

 

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2026年5月22日 (金)

ママル・ハンズ MAMMAL HANDS 「 CIRCADIA」

 ミニマリズムをベースに展開する異色のトリオ編成で描くストーリー性の高い世界

<Jazz>

MAMMAL HANDS 「CIRCADIA」
ACT Music / Import / CD / ACT8042-2 / 2026

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Nick Smart (piano) (keyboard on 5)
Jordan Smart (tenor saxophone except 4, 5, 6) (alto saxophone on 4, 6)
Rob Turner (drums except 5)

2025年3月20-24日英ウェールズ(Wales)のGiant Wafer Studios録音

 ジャズの新展開を思わせるこのベース・レスのトリオ「ママル・ハンズ」が、どうも評判が良いので、今年のニューアルバムを聴くこととしたもの。現代英国ジャズシーンにおいて確か兄弟であるピアノ(Nick Smart)とサックス(Jordan Smart)が展開するバンド。それもミニマルな因子、エレクトロニカの世界が入り交じり、ベース・レスのトリオとくる若干ジャズにおけるジャンルも難しいこともあって、私のようなアコースティックなピアノ・トリオ・ファンであると二の足を踏むのである。ただ幸いなことに、近年の構築された「ストリーミング環境」で、良質な音でリリースされた世界のアルバムが殆ど聴けるとなれば、自然に聴くことになるので便利な世の中だ。

 今回のアルバムは彼らの6作目ということで、完全に脂がのりきっているのだが、なんと「新体制への移行」と「レーベルの移籍」という転換期というもの。トリオの大切な結成以来のドラマーが脱退、GoGo Penguin(ゴーゴー・ペンギン)の立役者のドラマー、ロブ・ターナーRob Turnerの加入だ。どうも友人関係にあったようで、彼が加入したことで、このバンドも又新しい時代に入った。 更にレーベルは近年私の接触が多いACTということで、身近になった感もある。

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 そもそも「ママル・ハンズ」は、英国はノリッジで2012年に結成され、アンビエント、ジャズ、電子音楽、ワールドミュージックなどを融合させたスタイルで、3人のメンバー全員が作曲して、ピアノ、サックス、ドラムスという異色のトリオ・スタイルにて、グループとしのダイナミズムな世界を創造する事で歩んできた。しかし2024年に、オリジナル・ドラマーのジェシー・バレットが脱退を発表したが、このバンドの継続は表明されていて、ここに心機一転「6作目」の登場となったモノだ。ただし、2018年、メンバーのスマート兄弟は新プロジェクト、「スンダ・アーク(Sund Arc)」なるものをもスタートさせている。それはやはりポスト・クラシカル、ポスト・エレクトロのフェーズへ2人でアプローチしていると言われている。
 そんな経過であったが、取り敢えず今回新生トリオの方の新作リリースがあったので、それにアプローチしてみよう。

(Tracklist)

1. Window To Your World
2. Helios
3. Alia's Abandon
4. Paper Boats
5. Fallow Tide (solo keyboard)
6. Forgotten Friend
7. A Thread In The Dark
8. Four Flowers
9. Submerge

 アルバム・タイトルである『CIRCADIA(概日リズム、生命の周期)』が示す通り、説明では"終わりと始まり"、"生命の循環や呼吸"、"光と影のサイクル"をテーマにしたトータル・アルバムと言う事だ。そして演奏内容として、もともと私は管楽器は若干抵抗があるのだが、更にベース無しというにはちょっと寂しさが感じられるが、キーボードの左手の領域とドラムスの力でリズムの低音部分が充実していて、寂しいという事はなく、むしろ強いリズムが流れる。又ピアノによるミニマルな演奏にサックスがメロディー部分を歩調を合わせて流して思いの外充実している。又。ジャズ、クラシック、フォーク、エレクトロニカの要素を取り入れていると評されているが、実際にはアコースティック楽器にこだわっているようで、エレクトロニックな音も敢えて工夫しているようである。

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 M1. "Window To Your World" トータル・アルバム的展開のオープング曲。ピアノのメロディーが語るように流れ、緻密に構築されたメロディの変化してゆく中にドラムスのリズムの推進力が絡み合って面白い。サックスの盛り上りも圧巻。
 M2. "Helios" 「ギリシャ神話の太陽神」か、打って変わって美しくきらめくピアノのリフと、ドラムの躍動感。ダイナミックに明暗を描く。
 M3. "Alia's Abandon" 複雑なリズムが展開。ピアノとドラムが緊張感へ誘導、サックスがメロディを流す。スピード感が刺激的。
 M4. "Paper Boats" 水面に浮かぶ紙のボートか、繰り返され進行するミニマルなピアノのフレーズ。なんとなく安堵感が生まれる。
 M5. "Fallow Tide" アンビエントな世界の間奏曲。疾走感から一転し静かな美の世界。
 M6. "Forgotten Friend" 友を懐かしむのかノスタルジック。ここでも3人のアンサンブルの密度の濃さは聴き処。
 M7. "A Thread in the Dark"「暗闇の一本の糸」ということか、静かに探るような緊張感から、次第にジャジーな物語を感ずる曲。
 M8. "Four Flowers" 気品あるピアノ、サックスは多彩でリズムと協調して展開。力強いドラムス。
 M9. "Submerge" アルバムを締めくくり、エレクトロ世界のイントロから始まり、サックスは静かに歪んだ音で、クリスタルなピアノと呼応して混沌の世界へ、そして次第に沈み込み、残ったピアノの音が消えて締めくくる壮大な曲。

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 社会や環境そして生命の循環を描いたのであろうか、一つの絵巻を見聞した気持ちで聴き終えた。基本的にはミニマリズムが流れていて、それをジャズとして何処まで受けいれて行くかと言うことに尽きるのではと思いつつ聴いた次第である。ただそれは私がのめり込んでゆくところでないことは解ったが、描く世界は悪くない。
 私が最も心配したのはピアノとサックスの関わり合いであるが、基本的に曲によってその役割が交代したりで、それぞれを生かす方法論が行き届いて、さすが基本的にこのペアでスタートしているだけのことはある。つまり片方を潰してしまわない役割の分配と競合がスマートてあった。つまりエレガンス派のピアノとジャズ・グルーヴ感に進んでゆくサックスが、意外に歩調が合っているのであった。そしてあくまでもポップ感覚を大切にして現代音楽には突っ込まないところが受けているのかも知れない。
 

(評価)
□ 曲・演奏  :      88/100
□   録音    :      88/100

(試聴)

 

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2026年5月17日 (日)

ステイシー・ケント Stacey Kent 「A Time For Love」

親密なる温かい世界をしっとりと歌い上げたジャズの一つの極み

<Jazz>

Stacey Kent 「A Time For Love」
Naive / Import / CD / BLV9072F / 2026

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Vocals – Stacey Kent (tracks: 1-10)
Alto Flute – Jim Tomlinson (tracks: 2, 9)
Backing Vocals – Jim Tomlinson (tracks: 5, 7, 9)
Clarinet – Jim Tomlinson (tracks: 2)
Flute – Jim Tomlinson (tracks: 4)
Percussion – Jim Tomlinson (tracks: 5, 10), Stacey Kent (tracks: 5)
Piano, Keyboards – Art Hirahara (tracks: 1-10)
Soprano Saxophone – Jim Tomlinson (tracks: 5)
Tenor Saxophone – Jim Tomlinson (tracks: 3, 6)

Recorded at Tree House Studio, VA, USA (Summer 2025)

Qlitivqzqh2ygbrrbtehw   アメリカのもうベテランになる女性ジャズ歌手のステイシー・ケント(Stacey Kent, 米国1965年生まれ61歳→)のnaive第2弾のニュー・アルバムがリリースされた。naiveからリリースされた第1弾のアルバム『Summer Me, Winter Me』(2023)は、彼女の持ち歌で録音が期待されていたコンサートレパートリーからファンのリクエストを集めたもので、かなりの好評で、フランスのジャズチャートで初登場1位を獲得するという快挙で、日本でもかなりの評価があった。そんなことからか、やや早めにこの第2弾アルバムの登場となったと思われる。
 今回は、世界中で長く親しまれているグレート・アメリカン・ソングブックのスタンダードから、ポップスの名曲、そして彼女の若き日の音楽を学んだフランスのシャンソン、更にブラジリアン・ミュージックまでを網羅してのかなり親しみやすい作品として作り上げられた。

 これは、彼女の夫であり長年の音楽パートナーでもあるサックス奏者/プロデューサーのジム・トムリンソンJim Tomlinson(英国、1966年生まれ, ↓左)の企画と演奏、そしてピアニストのアート・ヒラハラ(↓右)とともにトリオにて昨年夏にレコーディングしたものである。どうもケントの60歳の還暦を祝しているようだ。

   ステイシー・ケントは、ニューヨークのサラ・ローレンス大学で比較文学を専攻し、卒業後ヨーロッパへ渡り、音楽を学問として深めた。 そしてロンドンのギルドホール音楽演劇学校の大学院音楽課程に入学。 そこで後に夫となり音楽のパートナーとなるジム・トムリンソンと出会う。 音楽との最初の関係は幼少期のピアノレッスンで、その後学問の道を歩むも、しかし成果はなかなか上がらず、歌手としての道を歩んだ。結果 これまでに13枚のスタジオアルバムを発表し、約60か国のステージに立ち、アルバム売り上げは200万枚超えという支持を得た。 彼女の人気は、ジャンルを超え、又言語も多くをこなしての曲の感情の繊細なニュアンスを表現する力にあると言われている。そして夫でありサックス奏者・プロデューサー・作曲家・編曲家のジム・トムリンソンの力も大きい。

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(Tracklist)

1 Lucky To Be Me 3:30
2 God Only Knows 3:14
3 The Shadow Of Your Smile 4:37
4 La Javanaise 3:35
5 As 4:59
6 A Time For Love 4:46
7 Trains And Boats And Planes 3:09
8 What Goodbye Is For 5:57
9 Carinhoso 3:53
10 E La Chiamono Estate 3:46

   やはり、ヴォーカル・アルバムを意識したアコースティックで最小限の編成が、彼女の独得の発声での親しみやすい歌声を引き立たせ支えて、非常に聴きやすいアルバムとして作り上げられている。やはり英語の他フランス語、ポルトガル語などで歌っており、世界に愛される形を今回も築いている。

Jim_tomlinson_211720w M1."Lucky To Be Me" レナード・バーンスタインがミュージカル『オン・ザ・タウン』の為に書いた曲。ピアノをバックにデュオ感覚で、喜びを、彼女らしい穏やかで温かみのある歌声で表現。
 M2."God Only Knows" なんとなく切なさが叙情的なジャズ・バラード、優しさが溢れている。
 M3."The Shadow Of Your Smile" 私が若い頃好きだった映画『いそしぎ』のテーマだ。歌は哀感たっぷり、バックはヒラハラのピアノが美しく、トムリンソンのTSの登場。
 M4."La Javanaise" フランス語歌唱。彼女の声の質はなかなかぴったり、アンニュイなところが良い。
   M5."As" 彼女の世界に変身の洗練されたジャズ世界に。
   M6."A Time For Love" タイトル曲、美しい気品あふれるバラード。ピアノと後半のTSの情感豊かなところも聴き処。このロマンチックな世界がこのアルバムの主題か。
 M7."Trains And Boats And Planes" どこかノスタルジックで長閑な世界。
 M8."What Goodbye Is For" ここで切ないバラード。Voc、P、TSの3者の静謐なジャズ的世界が素晴らしい。
 M9."Carinhoso" ブラジル音楽の聴き処。ポルトガル語の響きが親密。
   M10."E La Chiamono Estate" 美しいイタリア・メロディを、哀感あるジャズ・ヴォーカルの洗練された世界で締める。

 とにかく、このトリオの世界が静かに親密に美しくそして温かさが演じられるところが素晴らしい。万人向けのジャズ世界の極みだ。今回は、見事な人情の親しみがジックリと描かれていて、まさにケントの還暦祝いアルバムとして気持ちよく聴くことが出来た。ただし、録音音質に若干難があった。それは繊細な高音の美が欲しいところが、少々音が割れていて残念だったところだ。ビニール盤は聴いてないがどんなであろうか。

(評価)

□ 選曲・編曲・歌 :    90/100
□   録音      :    82/100

(試聴)

 

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2026年5月12日 (火)

コンラッド・パシュクデュスキ Konrad Paszkudzki trio「 Putting'On The Ritz〜Irving Berlin Songbook」

伝統的なアメリカン・ジャズのスウィングの流れに現代性が見える世界

<Jazz>

Konrad Paszkudzki trio「 Putting'On The Ritz 〜Irving Berlin Songbook」
Venus Records / JPN / SACD / VHGD-10027 / 2026

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コンラッド・パシュクデュスキ Konrad Paszkudzki - piano
ディラン・シャマト Dylan Shamat - bass -
ダグ・マーカス Dag Markhus - drums
Produced by Tetsuo Hara
Recorded at Trading 8s Recording Studio, Paramus, NJ
on August 27th and September 16th , 2025.
Engineered by Chris Sulit
Mixed and Mastered by Tetsuo Hara

Konradpaszkudskiw  ここで取り上げるは、正統派のジャズ・ピアニストと言われるNYで活躍中のコンラッド・パシュクデュスキKonrad Paszkudzki (→)が率いるトリオによる “Irving Berlin Songbook” というシリーズ的作品。これは米国の歴史的偉大な作曲家に捧げるシリーズ(2017年より)の第7集と言う事になるようだ。過去には、ガーシュイン、コール・ポーターなどを取り上げ、トリオ・メンバーも不変(ディラン・シャマトDylan Shamat (bass, ↓左)  、ダグ・マーカスDag Markhus (drums, ↓右))で、今回は"アーヴィング・バーリンIrving Berlin (1988-1989)"を取り上げている。私自身はこのシリーズには特に接してこなかったのだが、ここまで続けて築き上げているシリーズということだと、やっぱり尊重しつつ聴いてみたいと言うことになるのだ。

 ピアニストのパシュクデュスキは、名前からしてなんとなく想像は付くのだが、彼はポーランド出身である。そしてオーストラリア育ち、15歳から大学で学び、18歳で学位を取得する天才ピアニスト。そして現在ニューヨークで活動中だが、Venusレコードで活躍中のあのニッキ・パロットの紹介があって、こうしてVenusからアルバム・リリースしていると言う事だ。

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(Tracklist)

01 Count Your Blessings 
02 What'll I Do 
03 I Used To Be Color Blind 
04 Let's Face The Music And Dance 
05 Change Partners 
06 No Strings 
07 The Best Thing For You 
08 I Love A Piano 
09 Puttin' On The Ritz 
10 Isn't This A Lovely Day 
11 The Best Things Happen While You're Dancing
12 Be Careful, It's My Heart 
13 Always 

  やはり原曲を意識しての全体的に懐かしのクラシックなジャズのイメージが湧いてくる。ピアノ・トリオで粋なスウィングが溢れて抵抗なく聴くことが出来る。そしてただノスタルジックに演ずるので無く結構テンポやリズムは現代的。曲のイメージの仕上げは"ロマンティックでエレガント"で、飾りが多くならずメロディの美しさを最大限に演じ、タッチは重くならず、トリオ全体が軽やかにスウィングする心地よさが全編を通して充実している。
 つまり古典的ジャズに対しての「革新性」の追求というよりは、洗練されたリズム感にてのアメリカン・スタンダードの美しい旋律を呼び起こして、スウィング感の尊重と、ピアノ・トリオの三位一体の追求を試みているとみることが出来た。

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 M01." Count Your Blessings" 穏やかな幕開け。「歌心」がストレートに演じられて聴く方の気分を良くしてくれる。
 M02. "What'll I Do" なんとなく切ないメロディが迫るバラード。ピアノ美しさが曲の全編に流れる。
 M03. "I Used To Be Color Blind" 中音域の響きが豊かで展開も快調。
   M04. "Let's Face The Music And Dance" 小気味よい前進するテンポ。トリオの息の合ったところが粋で快感、聴き慣れた曲をジャズとして堪能できる。
 M05. " Change Partners" ピアノが哀愁を帯びたメロディをほぼ演じきるが。ベースラインの支えがジャズとしてのスリリングな味を出す。
 M06. "No Strings" 軽快に弾むようなスウィング感。
   M07. "The Best Thing For You" アップテンポで快調、ピアニストの流れる演奏が冴える。
 M08. " I Love A Piano" ピアニストも曲に酔っての演奏で、その遊び心も楽しめる。
 M09. " Puttin' On The Ritz" アルバム・タイトル曲。 都会的センスが響き、このトリオの現代性を込めての快演。
   M10. " Isn't This A Lovely Day" 懐かしの時代の明るさが目に浮かぶ。
 M11. " The Best Things Happen While You're Dancing" ドラムのブラシワークに乗って。
   M12." Be Careful, It's My Heart" ベースが詠う世界と弾むピアノの繊細さが妙に合っている。
   M13. " Always" 快適なリズムと快感のピアノの音、トリオの乱れぬ演奏が聴き処。

 やはり「粋なスウィングの楽しさ」と言うのが、よき時代からのジャズ世界の味だというのがよく解る演奏で、多岐にわたるジャズ・アルバムを聴いている中で、こうした世界にふと現代的なアプローチで帰ってみるのはなかなか良い事だと思わせる。
 私が何時も偏って聴く「北欧的世界」、「ECM的な流れ」、「イタリア的な歌心・メロディ」、「クラシックがベースにあるポーランド流ジャズ」などなどから、ふとこの「アメリカンな軽妙なスウィング・ジャズ」も、時には良いモノだと聴いた次第である。
 特にこのトリオの演奏は、技巧に酔って難解に流れることなく、聴きやすさに溢れているところが又一つの良かった点でもあると評価したい。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  :     88 /100
□   録音        :     88 /100

(試聴)

 

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2026年5月 6日 (水)

ガブリエル・カヴァッサ Gabrielle Cavassa 「 DIAVOLA」

 極めて親密な囁きで、人の内面に迫ってくる歌声は見事な表現力だ

<Jazz>

Gabrielle Cavassa 「 DIAVOLA」
Universal Music / JPN / CD / UCCQ-1229 / 2026.5

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ガブリエル・カヴァッサGabrielle Cavassa(vo, ag on #4)
ジェフ・パーカーJeff Parker(eg)
ラリー・グレナディアLarry Grenadier(b)
ブライアン・ブレイドBrian Blade(ds)

ジョシュア・レッドマンJoshua Redman(ts on #2, 9)
ポール・コーニッシュPaul Cornish(p on #8, 9, 10)

Images1w_20260506101601    異色のヴォーカリストの登場ですね。この米国のガブリエル・カヴァッサGabrielle Cavassa という女性の名門ブルーノートからの初リリース作と言うことと、昨年(?)か、来日しての好評だったという経歴の目下の注目株との前知識だけでの、取り敢えず聴いてみたという経過だ。それが1曲目が短い歌無しでの異様な曲でおやっと思いつつ、2曲目の誰もが知ってるバカラックの曲「雨にぬれても」が、ギターの調べの導入での彼女の歌が始まるが、なんと意外にあの軽快な曲が、物憂いヴォーカルがしっとりと内省的なムードで歌い上げられて、ややこれはちょっと其の気で聴かないと・・と、思わされる。そんなアルバムのスタートで、ただ事で無いヴォーカル・アルバムとインプットされる事となった。

 このガブリエル・カヴァッサ という女性は、1994年カリフォルニア州生まれ、ルーツはイタリアとか、サンフランシスコ州立大学で音楽学士号を取得。ニューオルリンズが活動拠点で、2020年に初のアルバム『Gabrielle Cavassa』(私は未聴)を自主制作。2021年に「サラ・ヴォーン国際ジャズ・ヴォーカル・コンクール」で優勝を果たし、2024年に名門ブルーノートと契約。昨年の初来日公演があり好評。ジャズ界で話題を集めている新星でこれが待望のメジャー・デビュー作だ。

 本作は、彼女の歌に惚れ込んだと言われるドン・ウォズとジョシュア・レッドマンによるプロデュースでの制作。ジェフ・パーカー(g, 1967年-, ↓左)、ラリー・グレナディア(b,1966年-, ↓中央) 、ブライアン・ブレイド(ds, 1970年-, ↓右)というハイレベルのトリオ・メンバーを主体にしたバックにて製作されている。そして肝腎の歌は、とにかく、「ナチュラルな歌声の中にも圧倒的な表現力を持つ」と言われ評判は良い。さてさてそのあたりに注目して聴いてみようというところ。

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(Tracklist)

01. ヘヴン・サイズHeaven Sighs (Jeff Parker)
02. 雨にぬれてもRaindrops Keep Falling On My Head (Burt Bacharach, Hal David)
03. プリズナー・オブ・ラヴPrisoner of Love (Clarence Gaskill, Russ Columbo, Leo Robin)
04. ボシー・ノヴァ Bossy Nova (Gabrielle Cavassa)
05. トゥ・セイ・グッバイTo Say Goodbye (Lani Hall, Edu Lobo, Torquato Pereirade, Araujo Neto)
06. アンジェロ Angelo (Luigi Tenco)
07. ビー・マイ・ラヴBe My Love (Nikolaus Brodszky, Sammy Cahn)
08. ディアヴォラ Diavola (Gabrielle Cavassa, Alexander Warshawsky)
09. クッド・イット・ビー・マジック Could It Be Magic (Barry Manilow, Adrienne Anderson)
10. 別れの夜La notte dell’addio (Alberto Testa, Arrigo Amadesi, Memo Remigi, Giuseppe Diverio)

 彼女の歌は、叫び上げるのでなく囁くような歌と極めて親密な表現力豊かな物語を聞かせるような流れで、深みがあってそこにはなんとなく誠実さも感じられ聴き入ってしまうムードを持っている。声の質も悪くは無い。これは単なるスタンダード集ではなく、彼女のソングライティングに込められた世界を訴えている。

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 M1." Heaven Sighs" ジェフ・パーカー作曲の不思議な雰囲気のインスト曲でヴォーカルなし、意味深な雰囲気での幕開け
 M2. "Raindrops Keep Falling On My Head" バカラックの有名曲のカヴァー、あの軽快な曲が、極めて内省的で物憂げな深い世界へ、しかしただ暗いというのとは異なる。後半にTsがジャズ・ムードを盛り上げる。
 M3." Prisoner of Love" 静かなegとdsをバックに、彼女の中・低音を生かした感情を抑えたヴォーカルが響き、ゆったりとそして「間」を生かしての歌。
   M4." Bossy Nova" ギターによるブラジル風のリズム。彼女のオリジナル曲。
   M5. "To Say Goodbye" おそらく愛する人だと思うが別れの瞬間を繊細に陰影を描いた曲。感情の表現が深い。
 M6." Angelo" イタリア曲のカバー。コントラバスのアルコ奏法と彼女のイタリア語の歌が、ぐっ深く人間関係の暗部を描く。そして後半の美しいギターと歌声の対比が見事。 
 M7." Be My Love" 静かに、スローに、瞑想的。
 M8. "Diavola (悪魔)" アルバム・タイトル曲、劇的展開、このアルバムの頂点に。「天使から悪魔への変貌」を描くとのこと。不安をbが表現し緊張感を高め、歌は抑圧から解放への圧巻な展開。
 M9." Could It Be Magic" ピアノで描く純粋性の美しさ。彼女の歌はまさに祈り。
  M10." La notte dell'addio"  イタリア語で「別れの夜」。穏やかにピアノとのデュオで静かな世界 「失うこと」を「受け入れる」事でアルバムを閉じる。

 まさに、トータル・アルバムとしての彼女の訴えと生き様の10曲であった。元の曲をこうも自分の世界に誘導する歌唱力に脱帽である。なるほど、彼女の評価が高いことを知らされた。囁きの美学から物語性と曲を歌うことの音の質を高める技法が秀悦だ。なおバック・トリオもかなり曲のテーマと質感を高めるに貢献度が高く、彼女の歌を反映するするが如く演じていて、見事であった。

 テーマは解説でも見るように、人間の二面性を「天使と悪魔」と表現し、「愛・執着・別離」といった事の感情の世界を展開する。
 ジャズとしてのスウィング感とかスリル感とか即興の流れを重視するので無く、曲の内面の物語性とか情感を求めた世界で、これも一つのジャズの流れとして知らしめられた感がある。「内省的でありながらどこか暖かさが」を、スタンダード、ポップ、イタリア歌曲、そして自己のオリジナル曲と広く求めて、それを自己の世界へと変貌させる。久々に見事なヴォーカル・アルバムとして聴くことが出来た。

(評価)
□ 編曲・作曲・歌・演奏 :  90/100
□  録音          :  88/100

(試聴)

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