2026年5月12日 (火)

コンラッド・パシュクデュスキ Konrad Paszkudzki trio「 Putting'On The Ritz〜Irving Berlin Songbook」

伝統的なアメリカン・ジャズのスウィングの流れに現代性が見える世界

<Jazz>

Konrad Paszkudzki trio「 Putting'On The Ritz 〜Irving Berlin Songbook」
Venus Records / JPN / SACD / VHGD-10027 / 2026

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コンラッド・パシュクデュスキ Konrad Paszkudzki - piano
ディラン・シャマト Dylan Shamat - bass -
ダグ・マーカス Dag Markhus - drums
Produced by Tetsuo Hara
Recorded at Trading 8s Recording Studio, Paramus, NJ
on August 27th and September 16th , 2025.
Engineered by Chris Sulit
Mixed and Mastered by Tetsuo Hara

Konradpaszkudskiw  ここで取り上げるは、正統派のジャズ・ピアニストと言われるNYで活躍中のコンラッド・パシュクデュスキKonrad Paszkudzki (→)が率いるトリオによる “Irving Berlin Songbook” というシリーズ的作品。これは米国の歴史的偉大な作曲家に捧げるシリーズ(2017年より)の第7集と言う事になるようだ。過去には、ガーシュイン、コール・ポーターなどを取り上げ、トリオ・メンバーも不変(ディラン・シャマトDylan Shamat (bass, ↓左)  、ダグ・マーカスDag Markhus (drums, ↓右))で、今回は"アーヴィング・バーリンIrving Berlin (1988-1989)"を取り上げている。私自身はこのシリーズには特に接してこなかったのだが、ここまで続けて築き上げているシリーズということだと、やっぱり尊重しつつ聴いてみたいと言うことになるのだ。

 ピアニストのパシュクデュスキは、名前からしてなんとなく想像は付くのだが、彼はポーランド出身である。そしてオーストラリア育ち、15歳から大学で学び、18歳で学位を取得する天才ピアニスト。そして現在ニューヨークで活動中だが、Venusレコードで活躍中のあのニッキ・パロットの紹介があって、こうしてVenusからアルバム・リリースしていると言う事だ。

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(Tracklist)

01 Count Your Blessings 
02 What'll I Do 
03 I Used To Be Color Blind 
04 Let's Face The Music And Dance 
05 Change Partners 
06 No Strings 
07 The Best Thing For You 
08 I Love A Piano 
09 Puttin' On The Ritz 
10 Isn't This A Lovely Day 
11 The Best Things Happen While You're Dancing
12 Be Careful, It's My Heart 
13 Always 

  やはり原曲を意識しての全体的に懐かしのクラシックなジャズのイメージが湧いてくる。ピアノ・トリオで粋なスウィングが溢れて抵抗なく聴くことが出来る。そしてただノスタルジックに演ずるので無く結構テンポやリズムは現代的。曲のイメージの仕上げは"ロマンティックでエレガント"で、飾りが多くならずメロディの美しさを最大限に演じ、タッチは重くならず、トリオ全体が軽やかにスウィングする心地よさが全編を通して充実している。
 つまり古典的ジャズに対しての「革新性」の追求というよりは、洗練されたリズム感にてのアメリカン・スタンダードの美しい旋律を呼び起こして、スウィング感の尊重と、ピアノ・トリオの三位一体の追求を試みているとみることが出来た。

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 M01." Count Your Blessings" 穏やかな幕開け。「歌心」がストレートに演じられて聴く方の気分を良くしてくれる。
 M02. "What'll I Do" なんとなく切ないメロディが迫るバラード。ピアノ美しさが曲の全編に流れる。
 M03. "I Used To Be Color Blind" 中音域の響きが豊かで展開も快調。
   M04. "Let's Face The Music And Dance" 小気味よい前進するテンポ。トリオの息の合ったところが粋で快感、聴き慣れた曲をジャズとして堪能できる。
 M05. " Change Partners" ピアノが哀愁を帯びたメロディをほぼ演じきるが。ベースラインの支えがジャズとしてのスリリングな味を出す。
 M06. "No Strings" 軽快に弾むようなスウィング感。
   M07. "The Best Thing For You" アップテンポで快調、ピアニストの流れる演奏が冴える。
 M08. " I Love A Piano" ピアニストも曲に酔っての演奏で、その遊び心も楽しめる。
 M09. " Puttin' On The Ritz" アルバム・タイトル曲。 都会的センスが響き、このトリオの現代性を込めての快演。
   M10. " Isn't This A Lovely Day" 懐かしの時代の明るさが目に浮かぶ。
 M11. " The Best Things Happen While You're Dancing" ドラムのブラシワークに乗って。
   M12." Be Careful, It's My Heart" ベースが詠う世界と弾むピアノの繊細さが妙に合っている。
   M13. " Always" 快適なリズムと快感のピアノの音、トリオの乱れぬ演奏が聴き処。

 やはり「粋なスウィングの楽しさ」と言うのが、よき時代からのジャズ世界の味だというのがよく解る演奏で、多岐にわたるジャズ・アルバムを聴いている中で、こうした世界にふと現代的なアプローチで帰ってみるのはなかなか良い事だと思わせる。
 私が何時も偏って聴く「北欧的世界」、「ECM的な流れ」、「イタリア的な歌心・メロディ」、「クラシックがベースにあるポーランド流ジャズ」などなどから、ふとこの「アメリカンな軽妙なスウィング・ジャズ」も、時には良いモノだと聴いた次第である。
 特にこのトリオの演奏は、技巧に酔って難解に流れることなく、聴きやすさに溢れているところが又一つの良かった点でもあると評価したい。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏  :     88 /100
□   録音        :     88 /100

(試聴)

 

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2026年5月 6日 (水)

ガブリエル・カヴァッサ Gabrielle Cavassa 「 DIAVOLA」

 極めて親密な囁きで、人の内面に迫ってくる歌声は見事な表現力だ

<Jazz>

Gabrielle Cavassa 「 DIAVOLA」
Universal Music / JPN / CD / UCCQ-1229 / 2026.5

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ガブリエル・カヴァッサGabrielle Cavassa(vo, ag on #4)
ジェフ・パーカーJeff Parker(eg)
ラリー・グレナディアLarry Grenadier(b)
ブライアン・ブレイドBrian Blade(ds)

ジョシュア・レッドマンJoshua Redman(ts on #2, 9)
ポール・コーニッシュPaul Cornish(p on #8, 9, 10)

Images1w_20260506101601    異色のヴォーカリストの登場ですね。この米国のガブリエル・カヴァッサGabrielle Cavassa という女性の名門ブルーノートからの初リリース作と言うことと、昨年(?)か、来日しての好評だったという経歴の目下の注目株との前知識だけでの、取り敢えず聴いてみたという経過だ。それが1曲目が短い歌無しでの異様な曲でおやっと思いつつ、2曲目の誰もが知ってるバカラックの曲「雨にぬれても」が、ギターの調べの導入での彼女の歌が始まるが、なんと意外にあの軽快な曲が、物憂いヴォーカルがしっとりと内省的なムードで歌い上げられて、ややこれはちょっと其の気で聴かないと・・と、思わされる。そんなアルバムのスタートで、ただ事で無いヴォーカル・アルバムとインプットされる事となった。

 このガブリエル・カヴァッサ という女性は、1994年カリフォルニア州生まれ、ルーツはイタリアとか、サンフランシスコ州立大学で音楽学士号を取得。ニューオルリンズが活動拠点で、2020年に初のアルバム『Gabrielle Cavassa』(私は未聴)を自主制作。2021年に「サラ・ヴォーン国際ジャズ・ヴォーカル・コンクール」で優勝を果たし、2024年に名門ブルーノートと契約。昨年の初来日公演があり好評。ジャズ界で話題を集めている新星でこれが待望のメジャー・デビュー作だ。

 本作は、彼女の歌に惚れ込んだと言われるドン・ウォズとジョシュア・レッドマンによるプロデュースでの制作。ジェフ・パーカー(g, 1967年-, ↓左)、ラリー・グレナディア(b,1966年-, ↓中央) 、ブライアン・ブレイド(ds, 1970年-, ↓右)というハイレベルのトリオ・メンバーを主体にしたバックにて製作されている。そして肝腎の歌は、とにかく、「ナチュラルな歌声の中にも圧倒的な表現力を持つ」と言われ評判は良い。さてさてそのあたりに注目して聴いてみようというところ。

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(Tracklist)

01. ヘヴン・サイズHeaven Sighs (Jeff Parker)
02. 雨にぬれてもRaindrops Keep Falling On My Head (Burt Bacharach, Hal David)
03. プリズナー・オブ・ラヴPrisoner of Love (Clarence Gaskill, Russ Columbo, Leo Robin)
04. ボシー・ノヴァ Bossy Nova (Gabrielle Cavassa)
05. トゥ・セイ・グッバイTo Say Goodbye (Lani Hall, Edu Lobo, Torquato Pereirade, Araujo Neto)
06. アンジェロ Angelo (Luigi Tenco)
07. ビー・マイ・ラヴBe My Love (Nikolaus Brodszky, Sammy Cahn)
08. ディアヴォラ Diavola (Gabrielle Cavassa, Alexander Warshawsky)
09. クッド・イット・ビー・マジック Could It Be Magic (Barry Manilow, Adrienne Anderson)
10. 別れの夜La notte dell’addio (Alberto Testa, Arrigo Amadesi, Memo Remigi, Giuseppe Diverio)

 彼女の歌は、叫び上げるのでなく囁くような歌と極めて親密な表現力豊かな物語を聞かせるような流れで、深みがあってそこにはなんとなく誠実さも感じられ聴き入ってしまうムードを持っている。声の質も悪くは無い。これは単なるスタンダード集ではなく、彼女のソングライティングに込められた世界を訴えている。

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 M1." Heaven Sighs" ジェフ・パーカー作曲の不思議な雰囲気のインスト曲でヴォーカルなし、意味深な雰囲気での幕開け
 M2. "Raindrops Keep Falling On My Head" バカラックの有名曲のカヴァー、あの軽快な曲が、極めて内省的で物憂げな深い世界へ、しかしただ暗いというのとは異なる。後半にTsがジャズ・ムードを盛り上げる。
 M3." Prisoner of Love" 静かなegとdsをバックに、彼女の中・低音を生かした感情を抑えたヴォーカルが響き、ゆったりとそして「間」を生かしての歌。
   M4." Bossy Nova" ギターによるブラジル風のリズム。彼女のオリジナル曲。
   M5. "To Say Goodbye" おそらく愛する人だと思うが別れの瞬間を繊細に陰影を描いた曲。感情の表現が深い。
 M6." Angelo" イタリア曲のカバー。コントラバスのアルコ奏法と彼女のイタリア語の歌が、ぐっ深く人間関係の暗部を描く。そして後半の美しいギターと歌声の対比が見事。 
 M7." Be My Love" 静かに、スローに、瞑想的。
 M8. "Diavola (悪魔)" アルバム・タイトル曲、劇的展開、このアルバムの頂点に。「天使から悪魔への変貌」を描くとのこと。不安をbが表現し緊張感を高め、歌は抑圧から解放への圧巻な展開。
 M9." Could It Be Magic" ピアノで描く純粋性の美しさ。彼女の歌はまさに祈り。
  M10." La notte dell'addio"  イタリア語で「別れの夜」。穏やかにピアノとのデュオで静かな世界 「失うこと」を「受け入れる」事でアルバムを閉じる。

 まさに、トータル・アルバムとしての彼女の訴えと生き様の10曲であった。元の曲をこうも自分の世界に誘導する歌唱力に脱帽である。なるほど、彼女の評価が高いことを知らされた。囁きの美学から物語性と曲を歌うことの音の質を高める技法が秀悦だ。なおバック・トリオもかなり曲のテーマと質感を高めるに貢献度が高く、彼女の歌を反映するするが如く演じていて、見事であった。

 テーマは解説でも見るように、人間の二面性を「天使と悪魔」と表現し、「愛・執着・別離」といった事の感情の世界を展開する。
 ジャズとしてのスウィング感とかスリル感とか即興の流れを重視するので無く、曲の内面の物語性とか情感を求めた世界で、これも一つのジャズの流れとして知らしめられた感がある。「内省的でありながらどこか暖かさが」を、スタンダード、ポップ、イタリア歌曲、そして自己のオリジナル曲と広く求めて、それを自己の世界へと変貌させる。久々に見事なヴォーカル・アルバムとして聴くことが出来た。

(評価)
□ 編曲・作曲・歌・演奏 :  90/100
□  録音          :  88/100

(試聴)

 *

 

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2026年5月 4日 (月)

エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi Bebo Ferra「EVANSCAPE」

"エヴァンス探求の道"は、「エヴァンス風」から一歩進んだ「エヴァンス風感性」へ

<Contemporary Jazz>

Enrico Pieranunzi Bebo Ferra 「EVANSCAPE」 
BONSAI MUSIC / Import / BON260401 / 2026

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Enrico Pieranunzi (piano)
Bebo Ferra (guitar)
Diego Imbert (double bass, guest on 2 tracks)

  イタリア・ピアノ界の至宝エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi(1948年ローマ生まれ)については、多くを語る必要も無いが、最新アルバム『EVANSCAPE』が登場した。これは"ピアニスト、ビル・エヴァンスに捧げられたアルバム"と言う事だが、彼が長年敬愛し、研究し続けてきたジャズ・ピアノのまさに巨匠のビル・エヴァンスに焦点を当てている。このことは過去にも試みて来た事で、今回は特徴としてイタリアを代表するギタリストであるベボ・フェッラBebo Ferra(1962年カリアリ生まれ)とのデュオを中心に作り上げられている点にある。もともとピアノとギターの対話という事の難しさがある中で、敢えてなんとデュオという更にごまかしのきかない世界での挑戦、そこには何かの挑戦的試みがあるのだろうか。興味が尽きないところであるが、 ビル・エヴァンスがかってジム・ホールと残した名盤『Undercurrent』や『Intermodulation』があるが、そんな事もイメージしての事だろうか。

 中身は、これも注目点だが、"彼らのオリジナル曲とエヴァンス関係のカバー曲の融合"という事なのか、 エヴァンスのオリジナル曲(2曲)、エヴァンスが好んで演奏したスタンダード(1曲)、そしてピエラヌンツィとフェッラがエヴァンスに捧げたオリジナル曲(8曲)が収録されている。造語のアルバム・タイトルの「エヴァンス的な風景(Landscape)」とは何を目指してのことか、近年 ピエラヌンツィが多方面への試みにエネルギーを注いでいるが、考えられる一つにはクラシック音楽(特にドビュッシーやラヴェル)の世界だが、果たしてそれにエヴァンス・ジャズの流れとの溶け合いを試みたのだろうか、聴いてみてのお楽しみだが、つまり"これは何をさしているのか"が、聴くことの大きな目的になったのである。

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(Tracklist)

1.Dreams and the Morning夢と朝*
2.Song for Helenヘレンのための歌(Bill Evans)
3.Passing Shadows通り過ぎる影*
4.Incanto(Bebo Ferra)
5.Il giardino di Anneアンの庭*
6.Very Early(Bill Evans)
7.Twolinessi二元性*
8.Siren's Lounge*
9.Once Upon a Summertime(M.Legrand)
10.Calling Enricoエンリコを呼ぶ(Bebo Ferra)
11.Evanscape*

 *印 E.Pieranunzi 作曲

  全体的に、ゆったりとしたテンポのバラードを基調としたこの演奏曲群は、聴いていて疲れなくて良い。又、比較的技巧に偏らずそのまま演じて聴かせてくれるので、聴く方にとっては聴きやすい世界だ。エヴァンスの代表的なテーマ、「ヘレンへの歌」「ベリー・アーリー」「ワンス・アポン・ア・サマータイム」の再解釈を試みつつ、インスピレーション豊富な彼らの多彩なオリジナル作品群を交互に展開する。
 ディエゴ・インベルトのコントラバス(「ヘレンへの歌」「エンリコを呼ぶ」)も、加わることにより、より内省的な叙情的な世界を深く変化させる効果が効いている。

 ピエラヌンツィとフェラは、デュオの難しさの代表的なピアノとギターを競合の形で無く対話的に演じ、技巧を装飾するので無く、親密で対話的なデュオを通してのアプローチを通して、エヴァンスに向かって精神的な世界に一つの目的を持ったことが見えてくる。

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 M1. "Dreams and the Morning" 静かな朝の光を感ずる美しい繊細なタッチ。 叙情的な導入曲。
 M2. "Song for Helen" 「Evans精神」の象徴的曲。後期の優しさの名バラード、ギターの響きにピアノがバックを支えベースの入ったトリオ演奏。
 M3. "Passing Shadows" Pieranunziの抒情曲の内省的再演。ピアノとギターで影の重なりの様。
 M4. "Incanto" Ferraの曲で、「魅了」の意味、ギター主導の幻想的楽曲、デュオの妙が響く。  
 M5. "Il giardino di Anne" Pieranunziのリリカル系曲をエブァンス風抒情に再演。
 M6. "Very Early" Evansのワルツ、ピアノとギターの独得な多彩な変化が。
 M7. "Twoliness" 二元性のデュオ表現。そのスリル感と緊張感。対話の楽しみ。
 M8. "Siren's Lounge"二者の空間が聴き処。ここでは希有なデュオの現代性が迫る。
 M9. "Once Upon a Summertime" エヴァンスも愛したスタンダード、ノスタルジックな静かな詩情、注目演奏ぐっと惹かれる。
 M10. "Calling Enrico" Ferraからのオマージュ。温かみあり。
 M11. "Evanscape" アルバム・タイトル曲。エヴァンスを探る究極の答えの風景は決して暗くないところに。

  こうして聴いてみると、ピエラヌンティの"エヴァンスへの探求の道"は、「エヴァンス風」という単なる演奏技巧の世界で無いことが見えてくる。それは、代表的なカヴァー曲の演奏からも、彼ら自身の演奏を妥協無く極めるところに向かっていることが聴き取れ、それが十分に知ることが出来た。つまりこのアルバムは、単なる「エヴァンスの模倣」の世界ではなく、ピエラヌンツィが長く探求してきた「イタリア的叙情性を持った彼自身のミュージック」を"エヴァンスの精神が流れているかどうか"と言うことだと知るのである。ジャズ・ピアノを好む者として、静謐で美しい室内楽的なサウンドを求める者として、このアルバムのようにエヴァンスの曲を演奏し、一方自作曲の演奏であっても 両者にエヴァンスの精神が自然に流れていることが重要としているのだ。

「エヴァンス風=スタイルの模倣」ではなく「エヴァンス的な感性で」というところに"彼の探求の道"が見えてきたアルバムであった。

(評価)
□ 選曲・作曲・演奏  90/100
□ 録音        88/100

(試聴)

 

 

 

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2026年4月29日 (水)

ラ-シュ・ダニエルソン Lars Danielsson Liberetto 「 Echomyr」

美しいメロディ・アンサンブル音楽に心の内面を描く深層の音楽が・・・

<Jazz>

Lars Danielsson Liberetto 「Echomyr」
ACT MUSIC / Import / CD /ACT80412 / 2026

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Lars Danielsson : double bass, cello, gimbri (#10), piano (#10), electric guitar (#6),
Gregory Privat : piano,
John Parricelli : guitar,
Magnus Öström : drums & percussion,

Guests:
Arve Henriksen : trumpet on #3, 7,
Magnus Lindgren : flute & alto flute on #6,
Carolina Grinne : english horn on #8

音楽作曲:ラース・ダニエルソン
録音:2025年4月6日〜9日および10月28日〜31日

Larsdanielssonkontraw   スウェーデン出身のもはや重鎮ベーシスト、ラーシュ・ダニエルソンLars Danielsson(1958年生まれ、スエェーデン)による音楽ジャンルを広く見渡してのクラシック室内楽、ルーツの北欧と世界各地の民族音楽とを融合し、自らの音楽世界を構築するプロジェクト「Liberetto」の第5作(オーケストラ共演盤を抜いて)となる新作の登場。

 メンバーにはピアノにGregory Privat(↓左、 1,2作はティグラン、その後の3作から)、John Perricelli(g、↓左から二人目)、Magnus Öström(ds、↓左から三人目)を主体に、更にゲストを迎えての 曲によってトランペットやフルート、イングリッシュホルンのメンバーの集結。
 この「Liberetto」というバンド・プロジェクトは、2011年からで互いの信頼と友情に基づき構成されていて、その名は「libretto」(クラシック的構造)と「Liber」(自由=即興)のかけあわせた造語で、メロディー中心主義で室内楽的アンサンブルの尊重、国際色豊か(アルメニア、中東、アフリカと勿論北欧などの要素がある。民族楽器も登場)ということで、繊細で透明なサウンドやリズムの尊重、抒情を大切にといった世界感を持って演奏する。
 そんなことから「美」「知性」のバランス感覚がよいことや、ユーロの抒情性に評価がある。ダニエルソンのベーシストが主導する作曲の美しさはなによりも人気があり、ドラムスもリズム隊としての支えばかりでなく、曲の色・味にも貢献していて頼もしい。

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 さてこのアルバムもそんな中での久しぶりに2023年のオーケストラ版は別にすると5年ぶりとなり、期待して聴くことになるのだが、ある意味「Liberettoの到達点」的な存在ではないかと思いつつアプローチすることとなった。収録曲全曲ダニエルソンのオリジナルである。

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01 Pre 00:37
02 Allan 06:09
03 Supreme 06:51
04 Glòr 05:49
05 Sensitiva 04:38
06 Ascending 05:05
07 Himlen Över Dig 02:38
08 Echomyr 05:48
09 Presto 04:22
10 Something She Said 03:19

 先行シングルとして、M4,M8が抒情性を植え込んでいたが、それぞれの曲が、かなり特徴があるので詳しくみることとする。
 M1. "Pre"  チェロ、ベースによる短い導入曲。今作のイメージを植え付ける(?)。
 M2. "Allan" "孫への心"の明るい展開、ベース主導、中盤からピアノ、後半合奏でこのプロジェクトのお披露目。
 M3. "Supreme" ぐっと落ち着いて響くベース、至高の世界感、中盤からTpが入ってジャズ色が高まる。
 M4. "Glòr" ギターの民族的フォーク、トラッド様響き。光り輝き親しみやすいメロティー。
 M5. "Sensitiva" ダニエルソンのベースが前面 に出てのメロディーを演じての内省的世界。曲は私好みではある。ギターのサポートで進行し、ピアノの音が後半に美しさを放つが、ちょっと不完全燃焼(ギターとピアノ編成の難点か)。
 M6. "Ascending" フルートの参加で、ちょっと田舎のお祭り的、ここでのピアノは魅力無し。
 M7. "Himlen Över Dig" ギターの調べとミュートを効かせたトランペット再登場で、短く詩的な小品だが広く展開する広さが好感。
 M8. "Echomyr"(タイトル曲)メロディを主役に内省的でありながらプラス思考の動きが展開する不思議な曲。決して悲観的で無いところに好感が持てる。
 M9. "Presto" リズムカルにして多彩な技法のベース演奏が聴き処か、ピアノの軽快さも印象的。
 M10. "Something She Said" 最後に深く内省的になる。ダニエルソンがピアノ演奏してのギターとのデュオ。社会的背景(戦争の広がりなど)に反応しての思索的終曲、アルバムの締めくくりとして重要。

  私の好みであるところのTigran時代のようなピアノの美旋律による世界が後退しているのは、ちょっと寂しかった。時にフルート、トランペットなども加わり各種楽器が多くなって、アルバム自体の色が多彩と言うより統一感が無くなってしまっている。ただそのあたりはダニエルソンの音楽的狙いがありそうだが、まだ私には十分伝わってこなかったということなのかも知れない。ヨーロッパ古典音楽の構築性、北欧フォークの素朴な旋律、ジャズの即興性とグルーヴ感へのアプローチなとなど聴くポイントは多い。

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 さて「異質のM10の締めの曲」の意味づけに関心が引き寄せられる。つまり結論から言うと、アルバムとして築いてきた"美しい旋律の北欧的なローカル美"、そして"音楽のアンサンブルの調和"など、そうしたモノからある意味別の感覚の“心からの声”という印象なのである。しかしこれで締めるところにも大きな意味があろうと推測する。そこを見逃してはならない。
 ダニエルソンは、この曲について、明言はしていないようだが、近年の不安定な世界情勢(ウクライナ、中東情勢、ヨーロッパの現実、米国の姿勢)で感じた「無力感・不安・祈り・隔離」が作らせ演奏したものかと解釈するのだ。直接的な抗議や政治的メッセージではないというところが注目点で、曲のタイトルが「“Something She Said”(彼女が言った何か)」が又意味深なのだ。とても具体的な彼女とは思えない、つまり彼に伝わる事柄の脳裏に印象的な一つの象徴的存在なのだろうか?、とにかく聴く者に感じて欲しい世界感覚と自己の深い心を訴えたとしか思えない。

(評価)
□ 曲、演奏、コンセプト : 90/100
□ 録音           :   90/100


(試聴)
"Sensitiva"

*
"Something She said"

 

 

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2026年4月25日 (土)

ヨエル・リュサリデス JOEL LYSSARIDES 「LATE ON EARTH」

北欧の人間の内面に対峙した詩情豊かな耽美的世界をしっとりと演ずる北欧現代ジャズ

<Jazz>

JOEL LYSSARIDES 「LATE ON EARTH」
ACT MUSIC / Import / CD / ACT80212 / 2026

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Joel Lyssarides ヨエル・リュサリデス (piano except 04)
Niklas Fernqvist ニクラス・フェルンクヴィスト (bass)
Rasmus Blixt ラスムス・ブリクスト (drums except 04)

Recorded 07–08 July 2025 at Bauer Studios, Ludwigsburg
Recorded, mixed and mastered by Adrian von Ripka
Composed by Joel Lyssarides
Produced by Andreas Brandis
Photos by Andreas Brandis (Joel Lyssarides)

1900x1900000000w_20260425111901  スウェーデンの油の乗ってきた人気ピアニストのヨエル・リュサリデス(1992年スウェーデンのストックホルム生まれ)の、今回久々に不変のレギュラー・トリオにての最新アルバムの登場。前作はおそらくここで取り上げたのは2022年の『Stay Now』(ACT9942-2)だと思うが、4年ぶりになるだろうか、その間、E.S.T.がみで彼は一役買っている。そして2023年に『A Tribute To Esbjorn Svensson Trio』(ah23-196)をリリースしていて、又2024年にはViktoria Tolstoyのアルバム(『Stealing Moments』(ACT97472))などで、ピアノでサポートしている。私にとっては、注目のピアニストであり、いずれにしても彼の今回のリーダー作であるピアノ・トリオは大歓迎である。

 彼は、ヨーテボリやストックホルムでピアニスト&作編曲家として幅広く活動、近作群がいずれも高い評価を得てきた。そして今アルバムは、12曲収録で全曲彼のオリジナルである。そして長年のトリオ・パートナーであるニクラス・フェルンクヴィスト(ベース ↓左)とラスムス・ブリクスト(ドラム ↓右)と共に演奏が行われ、一層トリオとしての親密さとそれぞれの役割が充実してきているようである。

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(Tracklist)

01. Bortom Bergen 5:26
02. Mahabalipuram 4:39
03. Life In Between 4:49
04. In Itinere 1:55 (solo bass)
05. Sotira 4:56
06. Never Alone 5:54
07. Raqs Sharqi 4:57
08. Folie À Deux 3:47
09. Intermission 0:52
10. Anemoia 3:48
11. Follow The Night 3:17
12. Late On Earth 4:12
*composed by Joel Lyssarides

 これまで以上にパーソナルで感情の深淵に触れる世界に入っている。印象として北欧抒情派らしく北欧因子に満たされているが、フォーク、クラシック因子を感じさせる。しかし緩急巧みにこなして、時に入るダイナミックな攻めもみせてコンテンポラリーなジャズを展開。 そして澄み切ったピアノの音にも引き寄せられる。
 このアルバムの説明には、「自己内省と音楽的実験を繰り返して完成させた」とあって、内面的なところに迫っている雰囲気だ。そして早くも彼のキャリアにおける一つの到達点と言える内容との評価がある。そしてこのアルバムは、製作説明にあるように「完璧さを求めるのではなく、"不完全さが持つ人間味や面白さ"をあえて受け入れる」ことをテーマに制作したと言うことのようだ。
 そんな意味でも、これは夜に一人でじっくり聴くという世界にマッチしていることは事実だ。そうしたことにより、描かれているモノが見えてくると言う事かも知れない。

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M1. "Bortom bergen"「山の向こう側」の意味らしい。北欧らしい静かさの広大な風景を想起させる透明感の高いピアノのメロディーが聴かれる。このアルバムの叙情性を示すオープニング曲。
M2. "Mahabalipuram" インドの地名、複雑なリズム構造があって、リュサリデスの音楽的探究心がインド音楽に向かっているか。
M3. "Life in Between" 中間的というか曖昧と言うか精神状態や時間の流れの表現か、浮遊感のバラードで、彼の世界の表現か。
M4. "In itinere" (旅の途中で) ベース・ソロ、これもぐっと低音で、内省的。
M5. "Sotira" 「地中海的な色彩」が演じられるとの説明あり、温かさがあって魅力的。
M6. "Never Alone" ぐつと繊細に優しさが響くメロディ。たまらなく引き込まれる。感情表現が凄い。
M7. "Raqs Sharqi"「東方の踊り」の意味、リズミカルで躍動感。ちょっとエキゾチック。
M8. "Folie à deux" (共有された狂気)ピアノとリズム隊のインタープレイが聴きどころ。
M9. "Intermission"  繊細なピアノ・ソロ。気分転換。
M10. "Anemoia" ノスタルジックな気分にさせる。
M11. "Follow the Night"   夜の静寂、ちょっとダークだがロマンチックでもある。 
M12. "Late on Earth" アルバムを締めくくるタイトル曲。ゆったりとした中に不思議に安定感と希望が感じられる。

 私の好きだったE.S.T.の良さをちょっと思い起こすところも無いではないが、。以前よりも音の「間」をうまく使うような演奏と、透明感のあるピアノの響きには惹かれるところが十分にある。何故かインドが垣間見えたり民族的音楽メロディーにも立ち入ったり、三者の互いの呼吸がうまく乗ってきたのは、それだけの人生経験の積み重ねの賜とも言えそうだ。

 演奏スタイルが技巧いってんばりにならず、感情を訴えるに重きも寄せてきた「人間的な音楽」への道に入ってきたのも、むしろ芸術性から見ても音楽的評価が高まるかも知れない
 不完全な人間にとって、前向きな気持ちが誘導されるような優良作品にも聴けるし、今までの彼の人生の一つの総括と今後への展望でもあるのかとも聴ける。耽美哀愁プレイで、親しみやすさや芸術性があって感情の深さもありなかなかの素晴らしい作品であった。

(評価)
□ 曲・演奏・コンセプト :    90/100
□   録音         :    90/100

(試聴)

 

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2026年4月20日 (月)

イルゴール・ゲエノー Igor Gehenot Trio 「 Shining Face」

欧州抒情とジャズのグルーブ感を忘れない成熟演奏

<Jazz>

Igor Gehenot Trio 「Shining Face」
Igloo Records / Import / CD / IGL390 / 2026

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Igor Gehenot (piano)
Sal La Rocca (bass)
Umberto Odone (drums)

Recorded by Jonas Verrijdt at Rockstar Recording in May 2025

Dsc_0602w  ベルギーのジャズシーンで15年のキャリアを持つ円熟期に入ったピアニストのイゴール・ゲエノー(1989年ベルギーのリエージュ生まれ →)の新作である。過去に1stアルバム『Road Story』(IGL232, 2012)などに接してきたが、今回は自身の息子に捧げた非常に個人的な作品と言う事だが、やはり欧州的抒情的なメロディと一方なんと原点であるアメリカン・ジャズのダイナミックさもちゃんと聴かせ、ハード・バップ色も加味されていて、「洗練された現代的なジャズの感性が融合した内容」として評価されている。

 ピアノ・トリオ・スタイルによる新メンバーとの演奏であるが、以前からの共演者サル・ラ・ロッカSal La Rocca (bass、↓左) と気鋭のウンベルト・オドーネUmberto Odone (drums、↓右)との息の合ったところを披露していて、近年の流行のLPを意識してのことか、自作曲5曲を中心としたCDとしては若干少なめの7曲によるアルバムである。
 卓越したメンバーとの演奏によって、円熟期を迎えたアーティストが親密なる家族への愛を込めていて、成熟した深みのあるところを聴かせてくれる。

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 (Tracklist)

1. Shining Face (6:33)*
2. All Of You (4:09)
3. Giulio (5:56)*
4. Eyes Of Black Dog (3:37)*
5. Random Life (4:22)*
6. Big Foot (4:10)
7. Bulle (6:14)*
 *印:(1, 3, 4, 5, 7)composed by Igor Gehenot
   2 by Cole Porter
   6 by Paul Bley

 コンテンポラリー・ユーロ・ジャズといったところを地で行く抒情性あるメロディックなプレイとジャズのグルーヴ感を持ち合わせての演ずるところはにくいところである。そして今回はテーマによるせいか、一層抒情性が増してきているように思う。

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 M1."Shining Face" タイトル曲、幕開けを飾る、光を意識したピアノの美旋律が流れる。大切な人を想う優しさを表現。次第に後半では三者それぞれダイナミックさを強調してゆく。
 M2."All of You" スタンダード曲のカバー、アレンジが近代的。三者それぞれのジャズ演奏の技を披露。
 M3."Giulio" しっとりと優しき思索的なバラード。間を活かしたピアノの音と、やはり優しきベースソロがぐっと心に。このアルバムの品格も高めている。
 M4."Eyes Of Black Dog" がらっと変って、ピアノの激しさとドラムスの変則リズムでスリリングな展開。
 M5."Random Life" 思索的に語るように・・、予測の出来ない人生の回顧か。
 M6."Big Foot" メロディー優先でないダイナミックなゲエノーのタッチが展開し、ドラムスのソロも入って力強い現代ジャズ。
 M7."Bulle" アルバムを締めくくる、未来志向の静かで穏やかな一曲。ベースとピアノの優しき交錯が曲名の「泡」のように、儚ない美音の弾きを見せる。

 非常に聴きやすいとうところが一つの完成度の高さかも知れない。ヨーロ感覚が演ずるところにアメリカン・ジャズの価値観を持っての精神性を有したジャズ全体像をも見渡しての世界感があって、バランス感覚が非常に良い。十数年前に新人として1stアルバムを聴いた時を思い出すと、かっての初期の荒々しい衝動性はこのアルバムでは後退していると残念がるかも知れないが、それはテーマによるところが大きいからかも知れない。又録音の質もかなり良く、ベースやドラムスの役割も明瞭に聴き取れ現代トリオの全体像の構築が見事。

(評価)
□ 曲・演奏 :    88/100
□ 録音         :    88/100

(試聴)  

 

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2026年4月15日 (水)

サラ・アルデーン SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」

「人に内在する愛という自然」に期待しての社会へのメッセージ

<Contemporary Jazz>

SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」
PROPHONE / IMPORT / CD / PCD395 / 2026

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Sara Aldén サラ・アルデーン (vocal)
Daniel Andersson Runevad ダニエル・アンデション・ルネヴァド (upright bass)
August Björn アウグスト・ビョーン (piano, pedal organ) (electric piano on 04) (maybe celeste? on 05)

*guests:
Hannes Bennich ハネス・ベニック (alto saxophone on 02)
Nils Landgren ニルス・ラングレン (trombone on 03) (maybe backing vocal on 03)
Michelle Willis ミシェル・ウィリス (vocal on 05) (female)
Alma Möller アルマ・ムラー (viola on 01, 02, 03, 08)

2025年 Studio Epidemin録音(スウェーデン-ヨーテポリにて)

Sara_alden_3trw  2024年の1stアルバム『There Is No Future』が好評だった、ヨーテボリを拠点に活動しているスウェーデンの女性歌手のサラ・アルデーンの2ndアルバムが登場。とにかく前作は、2025年スウェーデン・グラミー賞〈ジャズ・オブ・ジ・イヤー〉を受賞。2026年1月にスウェーデン大使館主催の公式パーティの歌手に選ばれ、賞賛を集めた。
 今作は編成的には、上記のようにダニエル・アンデション・ルネヴァド (B、↓左写真・左)とアウグスト・ビョーン (P、↓左写真・右)とのレギュラー・トリオを基軸に、H.ベニック(sax、↓右写真・中央)、M.ウィリス(Vo、↓右写真・左)、N・ラングレン(tb、↓右写真・右)他のゲスト陣も加わっての作品だ。

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  彼女に関しては昨年前作で知ったところが、如何にも個性豊かで社会的な世界にジャズによるアプローチを試みている特殊な存在として見てきたが、今作はそれらの三部作の第三作で一つの結論的アルバムで彼女の社会に於ける基本的な姿勢と個人の存在の意義に向けた作品として聴いてみるのが良さそうだ(従って収録10曲の内、1曲を除いて彼女のオリジナルで締められている)。そんな感覚で迫ってみることにより、何かがそこに感じられるモノがあるだろうと期待してのアプローチである。

(Tracklist)

01. World
02. The Rain
03. Lean On Me (feat. Nils Landgren)
04. You Taught Me
05. Unlearn (feat. Michelle Willis)
06. Come!
07. The Seed (solo piano?)
08. This Tree Once Used To Bloom (for Palestine)
09. Hands Full Of Love
10. In The End

 これは新作というより、やはり前作から続いての「一つのの到達点」と言えるモノなのかも知れない。
 前作のアルバム・デビュー作である『There Is No Future』は、そのタイトル通り「未来なんてものは無い」という聴き方によっては悲観的な"生と死についてのジャズ"とも言えるコンセプト・アルバムだった。自己の作詞作曲で「失望感」を歌い上げ問いかけていた。そしてスタンダード・ナンバーの"ミスティ","いつか王子様が","虹の彼方に","誰にも奪えぬこの想い"と、そして"この素晴らしき世界"で「期待」でプログラムを閉じていた。「失望と期待」の流れ、果たして彼女の狙いは「?」と、聴く者にある意味「謎」を残していたのだったが、・・・

Oar2w  さて、今作は極めて北欧のトラッドっぽいところから、フリーでインスト的世界に繋げ、スタンダードからは一切決別して彼女の世界を貫いている。コンテンポラリー・ジャズの極みだ。そして彼女の歌は、曲の「音」としての役割に重点が置かれているように聴くことが出来、そんな訳で日本的メロディーとは別世界、又聴き慣れたアメリカン・ジャズの匂いすら感じない独特な欧州即興詩的世界に没入させ訴えが迫ってくる。そこには敢えて声を潰した叫びがあったり、そうかというと透明感のある高音美声を聴かしたり、とにかく不思議な世界である。これぞ現代ユーロ・ジャズの最前線か(?)と、興味半分で聴くことになった。

 M1. "World" 難解だが、何か「世界」の流れのイメージが当アルバム表現の「再生」を歌う。
   M2. "The Rain" フリー・ジャズの展開、荒々しさと美のピアノ、即興と抑制からの反動爆発、サックスも荒々しく参加。
 M3. "Lean On Me" 不安を抒情的な曲で トロンボーン参加し不安と救いが交錯する抒情、現在に一つの方向性を詠うか。
 M4. "You Taught Me"内省的に・・・
 M5. "Unlearn" Michelle Willisとの美しいデュエット、「過去の学びからの脱却/自己更新」を歌う。
 M6. "Come!" 生きる高揚、軽快に。
 M7. "The Seed" 淀みの無いピアノ曲。安定感で次のフェーズに誘導。
 M8. "This Tree Once Used to Bloom (for Palestine)" 社会的・政治的メッセージ。パレチナへの展望的再生の思い。本作の主題が見える。
 M9. "Hands Full of Love" 愛をテーマにした温かみのある曲。現状に対峙しての一つの方向性を示唆。
 M10. "In the End" 短い曲、余韻と問いを残す。

 全編を聴くと、世界の分断、戦争、破壊からの激動、不安、怒り・・・から、再生の道への展望を求めることが主題であることが解る。社会問題に個人の問題と合わせ、ミュージックで迫った作品であることだ。そして前作と繋げてその芸術性ばかりでなく社会性に注目して聴くことに意味がありそうだ。タイトルの「Natureの力」の意味は、 人間の内側にある“自然な力”に目を向けているようだ、それは思いやる心、共感、連携などの「力(ちから)」であって「"世界を変革する大きな力"でなく、"人間に内在している人が人に向ける<自然な優しさ>"という(小さな力であっても)それこそが希望である」と。

(評価)
□ 曲・歌 :    88/100
□   録音  :    88/100

(試聴)

 

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