2026年4月15日 (水)

サラ・アルデーン SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」

「人に内在する愛という自然」に期待しての社会へのメッセージ

<Contemporary Jazz>

SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」
PROPHONE / IMPORT / CD / PCD395 / 2026

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Sara Aldén サラ・アルデーン (vocal)
Daniel Andersson Runevad ダニエル・アンデション・ルネヴァド (upright bass)
August Björn アウグスト・ビョーン (piano, pedal organ) (electric piano on 04) (maybe celeste? on 05)

*guests:
Hannes Bennich ハネス・ベニック (alto saxophone on 02)
Nils Landgren ニルス・ラングレン (trombone on 03) (maybe backing vocal on 03)
Michelle Willis ミシェル・ウィリス (vocal on 05) (female)
Alma Möller アルマ・ムラー (viola on 01, 02, 03, 08)

2025年 Studio Epidemin録音(スウェーデン-ヨーテポリにて)

Sara_alden_3trw  2024年の1stアルバム『There Is No Future』が好評だった、ヨーテボリを拠点に活動しているスウェーデンの女性歌手のサラ・アルデーンの2ndアルバムが登場。とにかく前作は、2025年スウェーデン・グラミー賞〈ジャズ・オブ・ジ・イヤー〉を受賞。2026年1月にスウェーデン大使館主催の公式パーティの歌手に選ばれ、賞賛を集めた。
 今作は編成的には、上記のようにダニエル・アンデション・ルネヴァド (B、↓左写真・左)とアウグスト・ビョーン (P、↓左写真・右)とのレギュラー・トリオを基軸に、H.ベニック(sax、↓右写真・中央)、M.ウィリス(Vo、↓右写真・左)、N・ラングレン(tb、↓右写真・右)他のゲスト陣も加わっての作品だ。

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  彼女に関しては昨年前作で知ったところが、如何にも個性豊かで社会的な世界にジャズによるアプローチを試みている特殊な存在として見てきたが、今作はそれらの三部作の第三作で一つの結論的アルバムで彼女の社会に於ける基本的な姿勢と個人の存在の意義に向けた作品として聴いてみるのが良さそうだ(従って収録10曲の内、1曲を除いて彼女のオリジナルで締められている)。そんな感覚で迫ってみることにより、何かがそこに感じられるモノがあるだろうと期待してのアプローチである。

(Tracklist)

01. World
02. The Rain
03. Lean On Me (feat. Nils Landgren)
04. You Taught Me
05. Unlearn (feat. Michelle Willis)
06. Come!
07. The Seed (solo piano?)
08. This Tree Once Used To Bloom (for Palestine)
09. Hands Full Of Love
10. In The End

 これは新作というより、やはり前作から続いての「一つのの到達点」と言えるモノなのかも知れない。
 前作のアルバム・デビュー作である『There Is No Future』は、そのタイトル通り「未来なんてものは無い」という聴き方によっては悲観的な"生と死についてのジャズ"とも言えるコンセプト・アルバムだった。自己の作詞作曲で「失望感」を歌い上げ問いかけていた。そしてスタンダード・ナンバーの"ミスティ","いつか王子様が","虹の彼方に","誰にも奪えぬこの想い"と、そして"この素晴らしき世界"で「期待」でプログラムを閉じていた。「失望と期待」の流れ、果たして彼女の狙いは「?」と、聴く者にある意味「謎」を残していたのだったが、・・・

Oar2w  さて、今作は極めて北欧のトラッドっぽいところから、フリーでインスト的世界に繋げ、スタンダードからは一切決別して彼女の世界を貫いている。コンテンポラリー・ジャズの極みだ。そして彼女の歌は、曲の「音」としての役割に重点が置かれているように聴くことが出来、そんな訳で日本的メロディーとは別世界、又聴き慣れたアメリカン・ジャズの匂いすら感じない独特な欧州即興詩的世界に没入させ訴えが迫ってくる。そこには敢えて声を潰した叫びがあったり、そうかというと透明感のある高音美声を聴かしたり、とにかく不思議な世界である。これぞ現代ユーロ・ジャズの最前線か(?)と、興味半分で聴くことになった。

 M1. "World" 難解だが、何か「世界」の流れのイメージが当アルバム表現の「再生」を歌う。
   M2. "The Rain" フリー・ジャズの展開、荒々しさと美のピアノ、即興と抑制からの反動爆発、サックスも荒々しく参加。
 M3. "Lean On Me" 不安を抒情的な曲で トロンボーン参加し不安と救いが交錯する抒情、現在に一つの方向性を詠うか。
 M4. "You Taught Me"内省的に・・・
 M5. "Unlearn" Michelle Willisとの美しいデュエット、「過去の学びからの脱却/自己更新」を歌う。
 M6. "Come!" 生きる高揚、軽快に。
 M7. "The Seed" 淀みの無いピアノ曲。安定感で次のフェーズに誘導。
 M8. "This Tree Once Used to Bloom (for Palestine)" 社会的・政治的メッセージ。パレチナへの展望的再生の思い。本作の主題が見える。
 M9. "Hands Full of Love" 愛をテーマにした温かみのある曲。現状に対峙しての一つの方向性を示唆。
 M10. "In the End" 短い曲、余韻と問いを残す。

 全編を聴くと、世界の分断、戦争、破壊からの激動、不安、怒り・・・から、再生の道への展望を求めることが主題であることが解る。社会問題に個人の問題と合わせ、ミュージックで迫った作品であることだ。そして前作と繋げてその芸術性ばかりでなく社会性に注目して聴くことに意味がありそうだ。タイトルの「Natureの力」の意味は、 人間の内側にある“自然な力”に目を向けているようだ、それは思いやる心、共感、連携などの「力(ちから)」であって「"世界を変革する大きな力"でなく、"人間に内在している人が人に向ける<自然な優しさ>"という(小さな力であっても)それこそが希望である」と。

(評価)
□ 曲・歌 :    88/100
□   録音  :    88/100

(試聴)

 

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2026年4月10日 (金)

ウラジミール・シャフラノフ・トリオ VLADIMIR SHAFRANOV TRIO 「 SOUL EYES」

「成熟したジャズの美」と評される世界 

<Jazz>

VLADIMIR SHAFRANOV TRIO 「 SOUL EYES 〜relaxin' moods」
Venus Records / JPN / SACD / VHGD-10026 / 2026

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ウラジーミル・シャフラノフ Vladimir Shafranov (piano)
ハンス・バッケンルート Hans Backenroth (bass except 7)
ムッサ・ファデラ Moussa Fadera (drums except 7)

Vladimir20shafranovw     かって澤野工房の関係で何となく聴いてきたウラジミール・シャフラノフVLADIMIR SHAFRANOV(1948年レニングラード生まれ →)であるが、アルバム・リリースの45年以上になるそのキャリアから、近年は日本のVenus Recordsからのリリースとなり、おそらく2年ぶりとなる アルバム『SOUL EYES』がリリースされた。
   彼はロシア出身でフィンランドを拠点に活動するピアニスト、なんとなくベースに北欧らしい世界感を持ちつつ、ニューヨーク仕込みのスウィング感を併せ持っていての聴きやすさの演奏で日本でも愛されてきた。4歳の時にリムスキー・コルサコフ音楽院でピアノとバイオリンを始め、1973年にイスラエルに移住。数年後、彼はヘルシンキに移り、1980年からフィンランド国籍を取得している。又1983年から15年間はニュー・ヨークでのジャズ音楽活動という経歴もある。

   本作は、スウェーデンでの録音によるトリオ作品で、スウェーデンのベースにハンス・バッケンロス(↓左)、ドラムにムッサ・ファデラ(↓右)を迎えた中堅安定の布陣。リラックスしたムードを重視した演奏で、内容はほぼスタンダード中心で、全体に派手さは押さえていて、意外に私の期待の北欧色はあまりなく、むしろニュー・ヨーク正統派バップ路線で気楽に聴きやすいので取り上げた。 

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(Tracklist)

1. ビューティフル・ラヴ Beautiful Love (V. Young, W. King, E. Van Alstne) 6:41
2. ジャンゴ Django (J. Lewis) 6:17
3. ソウル・アイズ Soul Eyes (M. Waldron) 6:43
4. テルヌーラ・アンティグア Ternura Antigua (R. Carlos) 4:18
5. この素晴らしき世界 What A Wonderful World (G. Douglas) 4:19
6. ユーヴ・チェンジド You've Changed (C. Fischer) 7:22
7. ラッシュ・ライフ Lush Life (B. Strayhorn) 5:17 (solo piano)
8. トゥ・レイト・ナウ Too Late Now (B. Lane) 7:56
9. アウト・オブ・ザ・パスト Out Of The Past (B. Golson) 5:01

 これは派手さよりも歌心を持っての演奏で、新しい試みで迫るというのでなく、優しくジャズでくるんでくれるという夜のリスニング向きとも言える。まあピアニストの円熟した演奏のプレゼントと言ったところか。

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 M1."Beautiful Love" スタンダードの名曲、刺激の無いタッチの歌うような世界。このアルバムの目的を示す導入演奏。ジャズの見本的な世界。
 M2." Django" John Lewis の名曲、ちょっと陰影の感じられる演奏で欧州的。
 M3."Soul Eyes" 深く内省的な世界に浸る。アルバム前半では焦点になる演奏で、何回か聴き込みたい味を感ずる。
   M4."Ternura Antigua" ちょっとラテン色のある雰囲気で軽やかで暖かく明るめに戻す曲。
 M5."What A Wonderful World" 誰でも知っている有名スタンダード。むしろ叙情性をあまり強調しないところの美しさだ。
 M6." You've Changed" バラードの名曲。アルバム後半に入ってぐっと落ち着かせる流れ、ベースも詠ってくれるジャズ・バラードの美をじっくりと。
 M7."Lush Life" ここにきて、トリオのジャズ・テクニックの高さをお披露目。
 M8."Too Late Now" どこかお話を語っているようなピアノ・トリオそのものの演奏
 M9."Out Of The Past" 締めに相応しく軽妙でブルージーで落ち着いたまとまり感。

 究極、ピアノの歌い上げる聴く者を楽しませるメロディー重視の演奏で、北欧の静謐感のコンテンポラリー・ジャズとは全く別で、むしろバップよりのニューヨーク・ジャズを優しく聴かせてくれたという処だ。ただ欧州的な深層心理を探るところもあるが、むしろちょっとした気休めには良いアルバム。ある意味ジャズに達感すらした世界という風にも聴きとれる。
 もうちょっとベース、ドラムスが出てきても良いかなぁーと思うほど両者は優しく支えてくれている。これも一つのパターンとして完成している演奏だ。確かにある評に見る「成熟したジャズの美」といった世界というところで、誰にもお勧めの及第点アルバム。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    88/100
□   録音       :    88/100

(試聴)

 

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2026年4月 3日 (金)

フリー Flea 「HONORA」

パンク・ロック以上に心が奪われたトランペット・ジャズへのアプローチ

<Rock, Free Jazz>
FLEA (RED HOT CHILI PEPPERS) 「HONORA 」
Nonesuch/ Warneer Music Japan / JPN / CD / WPCR18816 / 2026

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Flea(b, tp, vo)
Anna Butterss(b)
Jeff Parker(g)
Deantoni Parks(ds)
Mauro Refosco(per)
Rickey Washington(afl)
Vikram Devasthali(tb)
Chris Warren(vo)
Josh Johnson(sax,produce)
Nate Walcott(Key)
etc
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Thom Yorke(vo,p)
Nick Cave(vo)
etc

70705_v9_bcw  相変わらずJazz界も日本では低迷しているようだが、最近のJazz雑誌としてはシンコーミュージック・エンターテイメントからの「JAZ.in」という雑誌がここに来て月刊誌としてようやく今月号で30巻目を迎えた。と言う事はもうあと半年で3年経過と言うことで何とか維持されている。その30巻目でのトップ記事がこのパンク・ロックのレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(RHCP)のベーシストのフリー(本名マイケル・ピーター・バルザリー(Michael Peter Balzary、1962年10月16日 生、63歳 →)は、オーストラリアのメルボルン郊外バーウッド出身)のソロ・アルバム『オノラHONORA』を取り上げていて、ロックでもパンクにはあまり興味の無かった私だが、フリーのこの作品がかなり注目点が多いと言う評判で、ここに聴いてみたという次第である。

 そのフリーであるが、主たるベースの外に近年は元々のマスターした楽器のトランペットに興味を持って、ジャズ・アルバムの製作が夢であったという事のようで、このアルバムではベース以上にかなりのウェイトでジャズ・トランペットを演奏している野心作。又ヴォーカルも披露しているのだ。
 そして豪華なコラボレーターとして、アンナ・バターズ(Bass ↓左)やジェフ・パーカー(Guitar ↓左から2番目)といった現代LAジャズの最前線にいるミュージシャンに加え、トム・ヨーク(レディオヘッド ↓右から2番目)やニック・ケイヴ(SSW,オーストラリア出身 ↓右)といったビッグネームが参加しており、単なる「ロック・スターの趣味」を超えた音楽的探求のニュアンスの高い挑戦したアルバムとして見て取れる。

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(tracklist)
01. ゴールデン・ウィングシップ / Golden Wingship
02. ア・プリー / A Plea
03. トラフィック・ライツ / Traffic Lights
04. フレイルド / Frailed
05. モーニング・クライ / Morning Cry
06. マゴット・ブレイン / Maggot Brain
07. ウィチタ・ラインマン / Wichita Lineman
08. シンキン・バウト・ユー / Thinkin Bout You
09. ウイロウ・ウィープ・フォー・ミー / Willow Weep for Me
10. フリー・アズ・アイ・ウォント・トゥ・ビー / Free As I Want to Be
11. アイズ・ライク・ツー・フライド・エッグス / Eyes Like 2 Fried Eggs (ボーナス・トラック)

 とにかく、ロック界というよりジャズ界の兵どもを集めての演奏には、野心作と言われるだけのちょっと驚きの世界が展開している。
 アルバム・タイトルの『HONORA』だが、フリーの愛する家族の一員に因んでいるらしい。このアルバムでフリーは作曲・編曲は勿論手掛けていて、やはり近年猛練習したと言うトランペットを主力にベースと共に全編で演奏している。特に彼のトランペットは、70年代スピリチュアル・ジャズへの敬意として、マイルス・デイヴィスやオーネット・コールマンといった巨匠たちの影響があるとの評価を受けていて、即興性は勿論だが哀愁感を描くに使われ、更にアンビエントな質感が構築されている。トランペッターとしての内省的な面も見せたフリーが聴きどころだ。
 そして彼と共にアルバムを作り上げたのは、現代ジャズの先駆者からなる精鋭メンバーたちがいてのこと。その力は有効に展開しているところは、それこそフリーの力だろう。
 ヴォーカルは、フリー自身に加え、彼の友人である「レディオヘッド」のフロントマンであるトム・ヨークと「二ック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ」のフリーと対立していたニック・ケイヴが登場と言う男性ヴォーカルが聴ける。近年のジャズをほゞ押しなべて席巻している女性ヴォーカルとは異なった世界がなんとも頼もしい。

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 M1. "Golden Wingship" 幕開けのインスト曲。ロック的フリー・ジャズがオープン
 M2. "A Plea" フリーのTpがスピリチュアルに訴える。こりゃ大変なアルバムだと恐れおののく。ファンク展開にジャズ・スウィングが。「平和と愛のために生きよう」との訴え。
 M3. "Traffic Lights (feat. Thom Yorke)" トム・ヨークがピアノとヴォーカル参加、パーカッションがラテン的。ヨークの儚いボーカルがどこか不安感が漂っている。ギターのリズムも入って美しさを表現、ファンク的Tpでジャズの歌となった。
 M4. "Frailed" 10分を超える曲。本アルバムの人気曲ではないが、これぞ私の最も虜になった曲。ベースの刻むリズムで始まり、KeyやBassのアルコによる美しさと不安感と哀感とのアンビエントな世界が展開。1/3過ぎからリズムに力が入り、後半のTpとギターの絡む展開などの聴きどころ満載。
 M5. "Morning Cry" フリー自身の作曲。奇妙なTpフレーズが難解なジャズ・ナンバー。ジェフ・パーカーのギターの巧みな演奏がうける。
 M6. "Maggot Brain"カバー曲。フリーがトランペットで哀愁たっぷりにメロディー演奏。
 M7. "Wichita Lineman (feat. Nick Cave)" かっての対立者ニック・ケイヴをバリトン声の歌で迎え、フリーがTp演奏、こんなに優雅に。
 M8. "Thinkin Bout You" これも優雅なカバー曲。ストリングスをバックに、フリーがBassとTpで美しくお上品に。
 M9. "Willow Weep for Me" シンセサイザーを流して、Tpが歌うスタイル。ちょっと奇抜。
 M10. "Free As I Want to Be" ドラムスのパンチ力、ギターの響きがロック的だが取り敢えず纏まった形の終焉へ。

 久々に、ジャズとしてのロックの味の発展形であるかっての'70年代のプログレッシブ・ロック的な様相のあるフリー・ジャズ曲(M4)にも巡り合えて、面白かった。そして男性ヴォーカルもやはり時には良いものである。
 若き頃のトランペットを、60歳を前に、再び手に取り、その腕を磨き始めたというフリー。彼の「新たな挑戦」、そして昔からの「ジャズへの愛」を形としてなんとしても創り上げたかったという"ジャズ・アルバム"がここに誕生したということで、とりあえずお祝いしたい気持ちであるが、参加ジャズ・ミュージシャンの個々の特徴あるインプロヴィゼーションを旨く生かしてのサイケデリックな展開とか、フリージャズ的流れ、そしてロックのダイナミズムも交錯して面白い。このアルバムでは、彼のメッセージが前面に出ていることの賛否もあるようだが、「フリー個人の極めて真面目な世界」として評価を受けている。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌 :   88/100
□   録音      :   87/100

(試聴)



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2026年3月28日 (土)

ティアニー・サットン Tierney Sutton 「Talking To The Sun」

ブラジル音楽とシャンソンを加味した異色のヴォーカル・アルバム

<Contemporary Jazz>

Tierney Sutton & Charlier/Sourisse 「 Talking To The Sun」
Gemini Records / Import / CD / GR2529 / 2025

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Tierney Sutton – vocals
Andre Charlier – drums, percussion
Benoît Sourisse – piano, organ, whistle
Serge Merlaud – guitars

Mv5bnzk4ndc2ntutzwiyw    時に、なんとなく変ったモノが聴きたくなると言う悪い癖のある私だが、ふと10年ちょっと前から私にとっては異色のジャズ・ヴォーカル・アルバムとして、米国のティアニー・サットン(→)というコンテンポラリー・ジャズとして位置づけられている実力派シンガーがいる。昨年末にニュー・アルバムがリリースされていたが、ちょっと気分が乗らず今になって聴いてみたという処だ。

 このアルバムはフランスの著名なドラマーとキーボードの名手のユニットである「Charlier/Sourisse(アンドレ・シャルリエ&ブノワ・スリス ↓左)」と共演し、夫でフランス人ギタリスト、セルジュ・メルロー(↓右)が加わってのカルテット編成で、彼女のキャリアの中でも特に「ブラジル音楽へ傾倒」しつつ、フランス色の加味したジャズとして、「作詞家としての進化」が加わった意欲ボーカル作品と位置づけられるものだ。

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(Tracklist)

1. Talking to the Sun (Charlier/Sourisse/Sutton)
2. Que reste-t-il de nos amours? (Leo Chauliac/Charles Trenet)
3. Modinha (Jobim/Sutton/Vinicius de Moraes)
4. Flor de Lis (Djavan/Regina Werneck)
5. Play for Me (Pra Quem Quiser Visitar) (Guinga/Sutton)
6. Laptop choro (Charlier/Sourisse/Sutton)
7. Eu nao existo sem voce (Jobim/Sutton/Vinicius de MoraesSonnenberg/Sutton)
8. Springtime, I'll be there (Charlier/Sourisse/Sutton)
9. The Prince of Calais (Charlier/Sourisse/Sutton)
10. Bluesette (Thielmans/Gimbel)
11. Les etoiles de Lea (Charlier/Sourisse/Sutton)

 ブラジル音楽やボッサを、爽快であり又一方深みのある表現力で捉えたヴォーカル作品だ。曲はジョビンやジャヴァンといったブラジルの巨匠のカバーと、Charlier/Sourisseの作曲にサットンが自身の世界から詞を造り歌い上げたオリジナル曲が中心を成している。まさに米・仏・ブラジルといった三国ミックスといった感じだ。

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M1." Talking to the Sun" アルバム・タイトル曲、Charlier/Sourisseによる複雑なメロディで私には異様。サットンが歌詞を付けたオリジナル曲。歌声も楽器の様相をなして難解。
M2." Que reste-t-il de nos amours?" シャンソンの名曲。フランス語での歌、うまくボサノヴァ・テイストが加味されている。静かに語り聞かすサットンのヴォーカル、おお、なかなか味がある良好な世界だ。
M3." Modinha" ジョビンの名曲。ティアニーが新たに英語の歌詞を書き下ろし、ピアノがリードしドラマチックで内省的な歌でのバラードに仕上げている。中盤のギター・ソロもいい。聴き応え十分。
M4." Flor de Lis" ジャヴァンの代表曲。ブノワ・スリスの口笛が入って、心地よい軽快なブラジル・ムード。
M5." Play for Me (Pra Quem Quiser Visitar)" 現代ブラジルの作曲家ギンガ(Guinga)の曲。これもサットが自己の英語詞で歌い、ギターとの親密な落ち着いたデュオ・タイプの空気感。
M6." Laptop choro" ブラジルの「ショーロ」という伝統的リズムらしい軽快なオリジナル曲。不規則リズムで難しい。デジタル現代の疲れを歌っているらしいが・・・。
M7. "Eu não existo sem você" ジョビンの名曲。元々の詞にサットンが新しい歌詞を追加、愛の歌のようだが、極めてリズムと発声をも抑制した歌い回しで、ちょっと「静」で内省的、彼女らしい歌、悪くない。
M8." Springtime, I'll be there" Charlier/Sourisseの作曲によるオリジナル。静かに明るく希望の表現。ギターのサポートが行き届いている。
M9." The Prince of Calais" オリジナル曲。静かにぐっと深く迫るヴォーカル。演奏陣の緊密なインストゥルメンタルに近い高度なインタープレイが聴き処でもある。
M10." Bluesette" トゥーツ・シールマンスの名曲。ブラジル風の世界、ギター・ジャズの軽快さ。
M11." Les étoiles de Léa" 締めくくりの叙情的なオリジナル・フランス語曲。フランスとアメリカのジャズの美しい融合、楽器のような美声を漂わせる。


 サットンは、本作で11曲中8曲に歌詞を提供(または加筆)しており、これまでの「歌い手」だけでなく、「物語を作り語る=作詞家・語り手」としての評価も現実化している。特にブラジルの名曲に英語詞でのアプローチは、一歩前進なのか、完成度というところでは良い評価を得ているアルバムだ。
 注目の3人のフランス人ミュージシャン(Charlier/Sourisse/Merlaud)との共演により、アメリカのジャズ・シンガーが歌う「ブラジル音楽」の世界に、洗練されたヨーロッパ的な世界が面白い。そんな「グラミー賞常連」の技が感じられる作品。基本的にはブラジル音楽への深い親密感に、ちょっと洒落たフランス語歌唱という離れ業を展開。ドラムスはかなり抑制的。

 彼女を異色性として表現するのも問題あろうかと思うが、声のコントロールと表現はやはりトップクラス。空間処理が極めて洗練していて、更に米×仏×ブラジルを文化的にこなしきる技には敬服する。新しい創作フェーズへの到達意外にも「温かみと親密さ」を感じる一枚に作り上げたという意欲たっぷりのアルバムだ。

(評価)
□ 編曲・作曲・演奏・歌 : 88/100   
□ 録音         :   88/100

(試聴)

*
 " Que reste-t-il de nos amours? (Leo Chauliac/Charles Trenet)"

 

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2026年3月23日 (月)

マリリン・クリスペル、アンデルス・ヨルミン Marilyn Crispell , Anders Jormin 「 Memento」

デュオ作品として互いの尊重に溢れ、空間を意識した間の生かされた音の美の即興とインタープレイ

<Jazz>

Marilyn Crispell , Anders Jormin 「 Memento」
ECM / Import / CD / 88088089 / 2026

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Marilyn Crispell(p)
Anders Jormin(double-b)

Producer : Manfred Eicher
Engineer(Mastering,Mixing,Recording) : Stefano Amerio

  マリリン・クリスペルMarilyn Crispell(↓左、 1947年、フィラデルフィア生まれ)と言えば、名門ニューイングランド音楽院でクラシック・ピアノと作曲を学んだ女流ピアニストだが、若きときにジャズに転向して、人生をピアノと共に歩んできたと言って良いようなベテラン・ミュージシャン。現代ジャズ界において「最も独創的で、深遠な精神性を持つピアニスト」と言われている。
 そんな彼女の長年の信頼を築いたアンデルス・ヨルミン(↓右 1994年からコラボレーションを行ってきたスウェーデンのコントラバス奏者)との二人のデュオ作品がリリースされた。ヨルミンは彼の音楽的精神性をクリスペルに与えた一人と言われるベーシストであるが、初めてデュオ作品が作り上げられ、それがこの『Memento』である。

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  私自身は殆ど彼女の評価に値する知識を持っていないようなものだが、彼女は28歳の時に、ジョン・コルトレーンの伝説的名盤『A Love Supreme(至上の愛)』を聴き、その即興演奏の自由さと精神性に衝撃を受け、ジャズの道へと転向したと言われている。そして彼女の音楽を聴くには大きく分けて二つの時代があったことを知っていた方が良さそうだ。それはまずは「即興の攻撃的爆発的展開」の時代(1970年代末〜90年代前半)で、前衛ジャズの巨匠アンソニー・ブラクストンAnthony Braxtonのアヴァンギャルドなカルテットに10年間在籍。即興演奏のセンスを磨き上げた。当時は打鍵は強烈で超絶的なスピード演奏、特に複雑な構造を持つフリージャズを展開した。しかしその後一転してのECM時代を迎え「静寂と叙情」の時代(1990年代後半〜現在)に入った。それは内面的な精神性の領域への道であって、空間や「音の質と音の間の沈黙」を重視するスタイルへ進化したのだ。そしてその流れの探求は現在も続いていて、このアルバムもその一連の中にあると言うことを知りつつ聴くことが、内容にも迫れる一つの道として重要なようだ。
   尚、Mastering,Mixing,Recording Engineerは名手Stefano Amerioである。

(Tracklist)

1.For the Children%
2.Dialogue%
3.Embracing the Otherness%
4.Contemplation in D%
5.Three Shades of a House - Morning#
6.Three Shades of a House - Evening#
7.Song*
8.Memento*
9.Beach at Newquay*
10.The Dark Light#
11.Dragonfly*

   (Composer)
     % :Anders Jormin, Marilyn Crispell
     #  :Anders Jormin
     *  :Marilyn Crispell

 これはまさにECMにふさわしい空間を活かしたぐっと深遠な二人の即興(4曲)から、両者の多彩な自作曲(7曲)までを収録。繊細にして透明に響くピアノの旋律がベースの多彩な音と溶け合い、静謐ながらも懐かしさと暖かさとの叙情性を描き出している。
 アルバムの主題は「記憶・喪失・つながり」というところにあって、スタートから即興4曲が並び、まさしく空間を意識したデュオ即興演奏の深い世界で幕を開け、その後、まずヨルミンの作曲2作品、そしてクリスペルの曲3曲へと移行する。そしてその後両者1曲づつで、最後はクリスペルの曲でゲイリー・ピーコックに献呈する曲で締める。

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 M1." For the Children"  世界各地での紛争の結果犠牲になった子供たちに捧げられた曲。ピアノの優しい響き、高音域での即興のベースのアルコが哀愁を帯びて響く。このアルバムのテーマに迫る心の宿るところの基礎を描く。冒頭からぐっと引き寄せられてしまう。
 M2."Dialogue" (対話)  デュオの相対する呼吸の本質を、音数の少ないピアノとベースの音で知らしめる。
 M3."Embracing the Otherness" (他者を受け入れる) 極端に間を活かした演奏、「他者の音」を探りつつ自己の存在を確認するような見事な現代即興。
 M4."Contemplation in D" 美しい響き、なんとなく浮遊的で瞑想を誘う。
 M5.、M6."Three Shades of a House – Morning、Evening"  透明なピアノ主体で、北欧的な光の情景か。ヨルミンの代表曲を「Morning」と「Evening」の2つの変奏で収録。静けさの中での明暗の対比が。
 M7."Song" 90年代作曲の再演「距離」をテーマにした抒情曲
   M8" Memento"(タイトル曲)ピアノ独奏、喪失とつながりを象徴的に。
 M9." Beach at Newquay" クリスペルが海岸線を描いた曲。ヨルミンのベースが「海鳥」の鳴き声の様に響き、情景描写の極みで映像的。
 M10."The Dark Light" 短い抽象曲 光と影の対比。
 M11."Dragonfly" ゲイリー・ピーコックへの献呈曲、シンプルに美しく、敬愛の念を持って静かな希望を感じさせる余韻を持たせた締めくくり。

 長年の信頼関係のもたらすものか、相手の演奏の音を聴くことから、それにそってのインタープレイが演じられる。デュオの醍醐味の一つである対抗的に主張し合うというパターンでなく、演じられた音、それを拾って騒がず急がず広め深めてゆく流れは状況の充実に大きく寄与している。透明なピアノの旋律に対してベースの美音と溶け合って、曲の流れを深い味わいに高め、しかも叙情性をも感じさせるのである。
 このように演じた音を大切にして消え去るまでの間を尊重して、沈黙をも曲に生かし続く音選びの思慮深い技が聴き者に情景を描かせる。そして深い内省にまで繋げてゆくテクニックはお見事であった。
 これはECM的な世界の極みと言っても良いだろうと思われ、それはアイヒャーにとっても満足感が高かったに相違ない。
 さすがに、「老獪な世界構築の技」に痺れたアルバムであったと評価する。

(評価)
□ 曲、演奏 :   92/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

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2026年3月17日 (火)

カーステン・ダール、リューベン・ロジャーズ、グレゴリー・ハッチンソン Carsten Dahl, Reuben Rogers, Gregory Hutchinson 「 Into the Storm - Live」

ピアノトリオとは何か、そして醍醐味は?・・・北欧とアメリカのジャズの融合は?
スタンダードを使ったフリージャズの実験

<Contemporary Jazz>

Carsten Dahl, Reuben Rogers, Gregory Hutchinson 「 Into the Storm - Live」
Storyville Records / Import / CD / B0GJFK7N29 / 2026

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Carsten Dahl - piano
Reuben Rogers - bass
Gregory Hutchinson - drums
2013年1月31日、ジャズハウス・モンマルトル(コペンハーゲン/ライヴ)

 現代ジャズの一つの重要な位置を占めているピアノ・トリオ。そして歴史的には私はBill Evans ,  Ahmad Jamal , Keath Jarrett にどうしても注目してしまうのだが、そんな流れを十二分に理解しつつ北欧の美学を追究しつつアメリカン・ジャズの流れを尊重しピアノ・トリオを探求しつつあるデンマークのピアニストのカーステン・ダールCarsten Dahl(1967- ↓左)の2013年に行われた奇跡的トリオのライブ音源が、何とここに来てリリースされたのである。
 つまり嬉しい事に、アメリカのリズム・セクションとしてリューベン・ロジャーズ(Bass ↓中央)、グレゴリー・ハッチンソン(Drums ↓右)を迎えてのダールの2013年コペンハーゲン、冬の夜の奇跡が、名門ジャズハウス・モンマルトルで録音され、そのスリリングなピアノ・トリオによる白熱のライヴ音源が登場した。

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(Tracklist)

1. Minoring Together (Carsten Dahl)
2. Body and Soul (Johnny Green)
3. Open Interlude / Giant Steps (Carsten Dahl / John Coltrane)
4. Sweets to the Sweet (Hugo Rasmussen)
5. Blame It On My Youth (Oscar Levant)
6. Caravan (Juan Tizol, Duke Ellington)
7. You Stepped Out of a Dream (Nacio Herb Brown)
8. Speak (Carsten Dahl)
9. The End of a Beautiful Friendship (Donald Kahn)

 

(収録曲考察)
 M1. "Minoring Together" Dahlのオリジナル。最初からフリー展開。冒頭を飾るこの曲は、どうもトリオの準備運動とかトリオの質の公開。Dahlのリズミカルなピアノが、Hutchinsonの繊細とも言えるシンバルワークとがシンクロして響く。
 M2. "Body and Soul"  バラード。ルバートで描く詩的で陰影の強いピアノとベースの旋律演奏が繋ぐ。
   M.3. "Open Interlude / Giant Steps" このアルバムの最大の聴きどころ。即興の「Open Interlude」の後に、コルトレーンのなかなか難しい曲"Giant Steps"を敢えて演奏。フリー演奏から急速なコードに突入するスリリングな展開に痺れ、難解が難解でなく誘導。このトリオの本質展開。Hutchinsonのドラミングが炸裂。
 M4. "Sweets to the Sweet" 一休み的遊び心が楽しい。北欧ジャズらしいピアノと、アメリカ的リズム隊による交錯のスイング感が見事にブレンドして気持ちよく進行、ベースの乗りも良く会場も乗っている。
 M5. "Blame It On My Youth" ぐっとロマンティックなバラード。Dahlのぐっと落ち着いた静かさのピアノの繊細そのものの「間」が見事。そしてRogersが歌うようなベースラインを重ねる様は、ライブならではの世界。
   M6. "Caravan" 私の好きな曲の登場。快調・快速テンポ演奏。ドラムの爆発力が特徴。エリントンの曲をこのトリオはアグレッシブに分解・再構築。中盤からのHutchinsonの真骨頂である変調リズミックな技が光り、続くピアノの快進撃は見事。
 M7. " You Stepped Out of a Dream" 約9分の長曲。トリオのインタープレイの聴き処満載。スタンダードを次第に組上げてゆく過程がジャズ心を満足させる。ピアノがリードし3人共に反応、それぞれのソロの受け渡しが快調で聴く方の満足感が大きい。
 M8. "Speak" 47秒の短い小品。次の最終曲への導入か。
   M9. "The End of a Beautiful Friendship" エンディングを飾るなんとなく切なくなるが、どこか温かいスタンダード。ライブの終焉を惜しむ穏やかなピアノとベースの響き。

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 まさに「ピアノ・トリオの醍醐味」を凝縮した一枚。さすが現代ジャズの最高峰が顔をそろえるとこうなるんですね。個人の演奏が上手いというところよりは、外れて外れない調和のそれぞれの立ち位置のスリルが楽しい。特に「ハッチンソンのドラムがピアノを煽り、それにロジャーズが重厚な安定感を与えることで、ダールのリリシズムがより一層際立っています」という評価を見るが、まさにそこがピアノ・トリオの真髄であって、これもかってビル・エヴァンスが、彼の美旋律にあきたらず、トリオという世界に三者の対話型を求めた大きなポイントが結実しているように思う。そして、更にAmad Jamalのリズムを停止と間と無音空間などの劇的展開。そして更にKeith Jarrettのライブの花形即興型の味と、揃えにそろえたジャズ美学。
 いまや、そのピアノ・トリオ・ジャズの真髄を探求するカーステン・ダールの北欧抒情美学と、Jarrettを超える荒々しさの加味した即興の緊張感、トリオの味わいある相互作用など、一つの世界に止まらないとみころがこのライブに展開しているところが聴き処だ。今このライブをアルバムとしてリリースしたということの意味は果たして何処にあったかは別にして、私にとってはピアノ・トリオのに対するカーステン・ダールの一つの回答として受け止めた次第である。まだ早いが、お見事な一枚で今年No.1になりそうだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 : 95/100
□ 録音        : 88/100

(試聴)

 

 

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2026年3月12日 (木)

エミリー=クレア・バーロウ Emilie-Claire Barlow 「La Plus Belle Saison」

「北米のパリ=ケベック」ゆかりの曲をフランス語で歌った異色の作品

<Jazz>

Emilie-Claire Barlow 「 La Plus Belle Saison」
Empress Music / Import / CD / EMG465 / 2026

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Emilie-claire Barlow (vocals, arrangements)
Francois Richard (piano, harmonium, wurlitzer, mellotron)
Adrian Vedady (double bass)
Ben Riley (drums, percussion)
Kiko Osorio (percussion)
Joe Grass (guitar, mandolin)
Reg Schwager (guitar)
Francois Bourassa (piano)
John Sadowy (piano)
Lex French (trumpet)
Mario Allard (flute, baritone saxophone, tenor saxophone, alto saxophone)
Andre Leroux (clarinet, flute, tenor saxophone)
Guillaume «Guibou» Bourque (clarinet, bass clarinet, tenor saxophone, baritone saxophone)
Melissa Pipe (bassoon, baritone saxophone, flute)
Francois Pilon (violin)
Melanie Belair (violin)
Veronique Vanier (viola)
Sheila Hannigan (cello)
Belle Grand Fille (vocals)
Judith Little-daudelin (vocals)
Karine Pion (vocals)

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 そんなケベックを題材にしたカナダの歌姫エミリー=クレア・バーロウ Emilie-Claire Barlow (1976年トロント生まれ)のアルバムがリリースされた。「ケベックの豊かな音楽遺産に敬意を表した珠玉のフランス語アルバム」という肩書きだが、彼女のスタンダードものは結構味わい深いことは解っているので早速聴いてみた次第。

 勿論彼女のヴォーカル・アルバムだが、バックはシンプルなものでなくて、上記のように、クレジットなどからみてもかなり豪華。曲により演奏も違う。そして歌の言語も全てフランス語(もともと彼女はフランス語には通じている)というので、これは今までの彼女のアルバムとは様相が違うと思って聴いた方が良い。特にジャズを基盤にフォーク、サンバ、オーケストラル・ポップなど多岐にわたり、それなりにアレンジも施されているという特徴もの。モントリオールで録音され、ピアニスト/アレンジャーの François Richard (↓右)と共同プロデュースされたものである。

(Tracklist)

1.Dans les rues de Québec 02:33
2.Quelles sont les chances? 04:22
3.Je suis en amour 05:25
4.J'ai rencontré l'homme de ma vie 04:10
5.Si doucement 04:07
6.Comment t'aimer encore 04:08
7.Les deux printemps 03:39
8.D'la bière au ciel 03:58
9.Jerrycan 03:34
10.Le vent m'appelle par mon prénom 04:50
11.Pendant que 05:05

 このアルバムは彼女の 従来の「英語スタンダード中心のジャズ歌手」というイメージを完全に変えたという意味では一つの価値あるアルバムだ。ここまでの幾つかの賞に輝いた約30年のキャリアから一歩広げた文化的意味合いのこもったアルバムとみるべきものであった。 彼女の親しみやすい歌声と技の豊富なヴォーカルの円熟した力量で、ケベック音楽への深い親密感・愛情が展開する。
 ただ、そうした性格から曲はケベックのフランス語ポップス/シャンソンの名曲をアレンジを施して再解釈してのオマージュというところで、その意味では一貫しているが、アルバムとして聴いてみると、あまりにも性格の違った曲と演奏が不自然に並んでいる印象が特に前半にあって、どうも聴く方は気持ちが落ち着かない。"音楽的探究心と芸術性が結実した極上のヴォーカル・アルバム"との評もあるが、その意味も解らないではないが、充実した歌声とストリングスやアコースティック主体の多彩なサウンド、そして更に大半のリズムは軽やかなラテンやブラジル風味の面白さなどがあるのだが、どうもアルバムとしての感動が生きてこないのが残念だ。

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 M1."Dans les rues de Québec"(ケベックの街角で)ケベックの街の情景と郷愁を描く。スウィングし小粋なフレンチ・ジャズの印象、オープニングとしてはこんなところか。
 M2. "Quelles sont les chances"(どれほどの確率で)男性ヴォーカルとデュエット、ポップな曲だが魅力感じない。
 M3. "Je suis en amour"(私は恋している)複数の管楽器で豪勢なミディアムテンポ・ジャズ。 ブラジル音楽のロマンティックな世界か。
 M4. "J'ai rencontré l'homme de ma vie"(人生の人に出会った)シャンソン的バラード。
 ・・・・ここまででは、アルバムとしての目的がケベックにまつわるものというだけなのか、彼女が何を歌いこみたいのかよく解らない。フランス語のせいか、訴えてくるモノが解らない(英語でも解らないが)。
   M5. "Si doucement"(とても優しく)ピアノ中心のバックでのジャズバラード。彼女の声と歌いこみがようやくここに来て聴ける。ここから始まるようなモノ。
 M6. "Comment t'aimer encore"(どうやってまだあなたを愛せるの)別れの余韻を描く歌。ここには、彼女の得意とする感情表現が聴ける。メランコリックで感情表現が深く、アルバムの抒情的ハイライト。Tpのバックが効果を上げる。ようやく彼女を聴いた感じになる。まずこの曲は私の推薦曲。
  M7. "Les deux printemps"(ふたつの春) 恋人の瞳を「二つの春」にたとえる詩的な歌。軽やかなテンポ 全曲から一転して明るいメロディ 幸福にあふれた世界が聴ける。ただ前曲との対比でちょっと流れが不自然、曲も好まない。
 M8. "D'la bière au ciel"(天国のビール)さらに軽快に、ユーモラス?、ただ聴くのみ。
 M9. "Jerrycan" 珍しくロックぽいフォーク・ポップ色の曲。ちょっと展開に面白み。
 M10. "Le vent m'appelle par mon prénom" (風が私の名前を呼ぶ)ストリングスとピアノで広がり、彼女のヴォーカルには、訴えが感じられる。叙情性・哀感・美を感ずる。このアルバムでは出色。
 M11. "Pendant que" ぐっと深く人生や時間を静かに見つめる歌。ゆったりしたバラード。ここに来てこのアルバムも救われた。

 私が注目できたのは11曲の中でM6, M9, M10, M11の4曲のみ。とにかく取り上げた曲そのものが、ケベックの歴史的産物なのか、私の評価では現代にどうもマッチしない。編曲の妙も感じられるが、なんとなく古くさい。そうかと言って古典的味わいも感じられない。まさに中途半端。ようやく上記4曲でバーロウの良さと曲の味が感じられたところ(その点は救いであった)。おそらくケベック現地では喜ばれたかもしれないが、他国ではどうだろうと・・・残念ながらそう思った次第。ストリーミングなどで、上記4曲を聴くと言う事ぐらいで納めて良いアルバムだ。

(評価)
□ 選曲・編曲 :   75/100
□ 演奏・歌  :   87/100
□   録音    :   87/100

(試聴)
推薦の曲"Le vent m'appelle par mon prénom"

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アルバム導入曲"Dans les rues de Québec"

 

 

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