ノア・ハイドゥ Noah Haidu 「Standards Ⅱ」
文句なしの強力スタンダード・ピアノ・トリオ作品
<Jazz>
Noah Haidu 「Standards Ⅱ」
Sunnyside Records / Import / SSC1739 / 2024
Noah Haidu (piano)
Buster Williams(bass)
Billy Hart(drums)
RECORDED AT VAN GELDER STUDIOS OCTOBER 7 2023
RECORDING ENGINEER : MAUREEN SICKLER
MIXED AND MASTERED BY KATSUHIKO NAITO
ニューヨーク市を拠点に置くジャズピアニスト、ノア・ハイドゥNoah Haidu(1972年生)が、なんと驚きの職人技術とインテリジェンスの備わったバスター・ウイリアムズ( bass )と、巨匠ビリー・ハート( drums )の自分の親の歳である80歳を越える両超ベテランのサポートを得てスタンダードに取り組んだピアノトリオ作品。彼の言葉は「最近のツアーで観客から素晴らしい反応をもらったことに感謝しています。今でも自分の音楽を作曲したり、アメリカン・ソングブックのレパートリー以外の様々なプロジェクトを続けたりしていますが、スタンダード・トリオは私にとって重要なステートメントであり、ミュージシャンとしてのアイデンティティの不可欠な部分です」とし、ジャズピアニズムとジャズトリオの本質的な要素に磨きをかけているのだ。
これは2023年にリリースしたアルバム『Standards』(SSC1705)の続編で、キース・ジャレットへの深い敬愛の結果としてのスタンダード重視の演奏に、ジャズの一つの姿を追求している。
ノア・ハイドゥNoah Haidu(→) : 1972年バージニア州シャーロッツビルで生まれで、幼い頃からクラシックピアノのレッスンを受けていたが、10 代になるとブルース、ジャズ、ポピュラー音楽に惹かれ、高校時代ニュージャージーとロサンゼルスに移るとジャズピアノ、ギター、作曲を学んだ。ラトガース大学に通い、ピアニストのケニー・バロンに師事し、2年後にニューヨークに拠点を移す。ニュースクール大学で美術学士号、ニューヨーク州立大学(ニューヨーク州パーチェス)で音楽修士号を取得。メロディックでエネルギッシュな即興演奏を組み込むスタイルで人気を勝ち取っている。演奏家と作曲家として注目を集めてきた。
バスター・ウィリアムズ Buster Williams (→): 1942年アメリカ合衆国ニュージャージー州生まれのモダンジャズ・ベース奏者。父親も音楽家、幼いときからジャズに親しんだ。1959年から演奏家としての活動を始めた。フィラデルフィアでプロとしてデビューした後、ジーン・アモンズ、ソニー・スティットのクインテットやベティ・カーター、ナンシー・ウィルソン、サラ・ヴォーンといった女性歌手のレコーディングに参加、1960年代後半にニューヨークに移りハービー・ハンコックのグループに参加、一時期マイルス・デイヴィスの下でも活躍した。以降はケニー・バロン、デクスター・ゴードン、ジョー・ファレル他にも多くのミュージシャンと活動を共にしている。メロディックでエネルギッシュな即興演奏を組み込むスタイルで人気を勝ち取っている。
ビリー・ハートBilly Hart (→): 1940年ワシントンD.C.で生まれ、アメリカのジャズ・ドラマーにして教育者である。キャリアの早い段階でオーティス・レディング、サム&デイヴ、そしてバック・ヒルやシャーリー・ホーンと共演した。彼はモンゴメリー・ブラザーズ(1961年)、ジミー・スミス(1964年–1966年)、ウェス・モンゴメリー(1966年–1968年)のサイドマンを務めた。1968年にモンゴメリーが亡くなった後ニューヨークに移り、多くの共演がある。ハービー・ハンコックのセクステットのメンバー(1969年–1973年)となり、マッコイ・タイナー(1973年–1974年)、スタン・ゲッツ(1974年–1977年)、クエスト(1980年代)とも共演した。加えて、フリーランスの演奏(1972年のアルバム『オン・ザ・コーナー』におけるマイルス・デイヴィスとのレコーディングを含む)も行っている。
このアルバムのトリオに関して、ノア・ハイドゥはこう語る「 自分のスタンダード・トリオと一緒に演奏することをツアーの定期的な一部として約束したんだ。私のスタンダード・トリオはミュージシャンとしての私のアイデンティティの重要な一部なんだ。」と。ここには、彼としては巨匠と組んでジャズ・トリオのあるべき姿の本質に迫り、タイトル通りスタンダードに真摯に挑んだ1枚だということだ。
(Tracklist)
1.Over The Rainbow 10:26
2.Someone To Watch Over Me 7:57
3.Up Jumped Spring 11:53
4.Obsesion 8:42
5.Days Of Wine And Roses 7:49
6.After You’ve Gone 6:04
7.I Got It Bad (And That Ain’t Good) 7:45
スタンダード演奏に如何に対峙してゆくかと言う大前提に立っての主張が聴きとれるアルバムであり、少し曲ごとに深堀してみたい。
まずスタート曲M1."Over The Rainbow" これが、なんとドラムス・ソロでスタートし、おもむろにピアノの優しく魅力的な音が乗って、ゾっとする感動。しかしなかなかあの知りえたメロディーが出てこない。とにかくスタンダードに取り組んだ王道ピアノ・トリオというが、自由奔放な探求的な解釈で幕を開ける。ベース、ドラムスも対等にその守備範囲を確保し、パフォーマンスの押し引きを繰り広げている。そしてゆったりとした中に編曲と即興を織り交ぜて見事な世界を構築する。
M2."Someone To Watch Over Me"においても、彼らはスタンダードをテーマにはしているが、それを聴かすというよりは、彼ら自身の世界を演ずるのである。曲のハーモニーとメロディーの可能性を慎重に探り、ハートの繊細なリズムにウィリアムズの機敏な対位法で造られた中にハイドゥの叙情性があって、しかも空間を生かした音で感動的な世界を演じている。
それはM3."Up Jumped Spring " でも変わることなく、演奏時間は11分を超え、フレディ・ハーバードがアート・ブレイキー& ジャズ・メッセンジャーズにいた時に作曲したインスト曲で、後に歌詞がついて歌われているが、このバンドはイントロのトリオとしての可能性を追求するところから始まって、オープニングのピアノのコードがベースとドラムワークを誘い込み、3者によるルバート演奏が展開。ここには彼ら自身の曲意外に何物でもない。しかし、その後安定したテンポとなり、ウィリアムズとハイドゥの心のこもった伴奏でハートがソロを奏で、2人ともスウィングするソロと最後のメロディーで続き納める。それは録音においても3者同列でそれぞれの音が手に取るように解り、彼らの宇宙空間を形成しているのがよくわかる。
M4."Obsesion"では結構メロディーをピアノが演じてくれるが、ベース・ソロが入ったりドラムスのシンバル音が響きトリオが楽しんでいる様が聴きとれる。この曲はアフロ・ラテン界のスタンダードであるが、ハイドゥのセンスとアイデアによって、ジャズ・トリオの世界に誘導している。
M5."Days Of Wine And Roses"はスウィングし、冒頭から懐かしのメロデイーをピアノが絶妙に演じてくれる。しかし前半にベースの世界に入って即興が流れ、彼らの世界に突入。ピアノも即興に入ってそれをドラムスが軽快にサポート。中盤から後半へはやはり彼らの曲と化す。このあたりのメロディックでエネルギッシュなところがハイドゥなんですね。そして最後には再び主メロディの登場で納める。
M6."After You’ve Gone" 冒頭の3曲と違ってここでも軽快なジャズを展開。ピアノの流麗な早弾きところが聴かせどころ。三者の一糸乱れぬ展開が見事。最後にドラム・ソロが展開、これぞジャズの楽しさだと響いてくる。ハイドゥのスウィング・タッチとハーモニーの感性が光る。
M7."I Got It Bad (And That Ain’t Good)"エリントンで締めくくられる。ここではハイドゥがメロディーを語り聴かせるように演奏し、ウィリアムズの即興演奏とハートのブラッシワークが見事に世界を構築し、アルバムを収める。
とにかく、一曲一曲じっくりと構えて彼ら自身の一つの世界を構築しつつも、原曲の味を逃がさないというところであり、聴き応え十分。ピアノ・トリオとしてのそれぞれの立場は何かという回答のような演奏だ。アンサンブル等の構築などキース・ジャレットの目指し築いたものを是非とも深め発展させたいというハイドゥの心意気を感ずるところでもあった。
ピアノ・トリオを愛する私としても、一つの大切な部分を聴かされた感があった。
最後に私の見た一つの評価を記す・・「ジャズピアニズムとジャズトリオの本質的な要素に磨きをかけながら、その初期の約束を実現しています。このアルバムは、ハイドゥのタッチ、即興演奏、ウィリアムズとハートとの交流を披露している。これらの演奏は、新鮮さ、妙技、そして抗いがたい即時性でクラシックを照らし出し、聴き手の注意を惹きつけます」
(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 : 95/100
□ 録音 : 90/100
(試聴)
"Days Of Wine And Roses"
*
”Over The Rainbow”
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