デヴィット・キルモア David Gilmour 「MADISON SQUARE GARDEN 2024」
相変わらずのアメリカン・ミュージック・ショー化
<Progressive Rock, Popular>
David Gilmour 「MADISON SQUARE GARDEN 2024」
Madison Aquare Garden, New York, NY, USA 10th November 2024
DVD / Amity 795 / COLOUR NTSC Approx.164min / 2024
これは、デヴィット・ギルモアの昨年末のMadison Square Gardenのライブ映像版。
歴代60年代ロックのミュージシャンも、なんと80歳前後という歳を迎えている。そんな中でもかって3大プログレッシブ・ロック・グループと言われたキング・クリムゾン、ピンク・フロイド、イエスは、それぞれ様々なスタイルではあるが、現在も第一線にあるというのは驚きである。それには、彼らがロックというジャンルにおいても、当時プログレッシブ(進歩する、前進する)と言われた因子をはらみつつ、リスナーの心を捉えてきたということに尽きると思うが、今日の活動を見ても第一線にそれなりの力を発揮している事には驚きと言っていいのだろう。
さてそのピンク・フロイドだが、結成当時からのロジャー・ウォーターズ(↓上)は、今年82歳になるが、現在はソロ・アーティストとして'23年までも大々的世界ツアー(『「THIS IS NOT A DRILL 」ツアー』)を敢行し、ピンク・フロイド時代の彼の曲やソロ時代になつての曲を展開して反戦・反核のアジテーションをも行って社会的・音楽的話題を残してる。そしてその上にアルバム『The Dark Side of The Moon Redux』をリリース、若き50年前から今の姿を見直している。又ニック・メイスン(↓下)も81歳で、2023年から今年にかけて新グループを結成し『 saucerful of secrets tour 』を展開、懐かしのピンク・フロイドの原点に近いアルバムからの曲群で好評を得ている。
Roger Waters「This is not a Drill Tour」

Nick Mason「saucerful of secrets tour」
一方メンバーの少々若いデヴィット・ギルモアは今年79歳になるところだが、昨年ソロアルバム『LUCK AND STRANGE(邂逅)』リリースし、その後のローマ・ロンドン・北米ツアー『LUCK AND STRANGE Tour』を行った。それがここで取り上げたこのブートで映像盤である。 私から見ると三者ともかってのピンク・フロイド時代の曲も多くを演じているが、全く印象の違う世界を醸し出しているのが面白い。まあ、それだけ個性があるということにもなって、それはそれ悪いことではない。
ギルモアの昨年9月上旬ローマから始まったツアーのファイナルとなる北米ツアーの11月10日のニューヨークは Madison Square Gardenに於けるライブの全記録だ。残念ながらプロショットではない。しかしマルチ・カメラ仕様となるハイクオリティー・オーディエンス映像にて2時間44分にわたりフル収録している。これはWEB上にアップされた映像を元に、海外ファンの複数のアングル映像を最新機器を用いてマルチ化しプロショットに近いモノに仕上げたもので、アリーナ至近距離からのカメラやステージ全体を体感できるスタンド席カメラ、さらに他にも多彩なアングルを納めている。そしておまけにイメージ映像も挿入されており、黒猫や時計、太陽など、曲のイメージに沿った映像が差し込まれ、時には参加メンバーの写真やギルモアのオフショットまで登場する結構凝った編集だ。音声パートもバラバラの映像からの音源をバランス調整も施し違和感なくライブ全編を再現している。まあオーディエンスによる映像モノとしてはなかなか上出来の部類に属するものだ。
(LUCK AND STRANGE Tour-Tracklist)
(Disc 1) : 1. Guy Pratt Intro 2. 5 A.M. 3. Black Cat 4. Luck And Strange 5. Speak To Me 6. Breathe 7. Time 8. Breathe (reprise) 9. Fat Old Sun 10. Marooned 11. A Single Spark 12. Wish You Were Here 13. Band Introductions 14. Vita Brevis 15. Between Two Points 16. High Hopes
(Disc 2) : 1. Sorrow 2. The Piper's Call 3. A Great Day For Freedom(『The Division Bell』) 4. In Any Tongue 5. Band Crew Introductions 6. The Great Gig In The Sky 7. A Boat Lies Waiting 8. MC 9. Coming Back To Life 10. MC (dedicated to Polly Samson) 11. Dark and Velvet Nights 12. Sings 13. Scattered 14.Comfortably Numb
-Bonus Footage- 15. Luck and Strange
内容は上記の通りで、古き良き時代のピンク・フロイドの『狂気』を中心とした曲群に、ロジャー・ウォーターズの脱退後のギルモア主導型の時代の曲を交えて、今回の彼のソロ・アルバム『邂逅』から全曲披露している。所謂、1950年代ロック・ミュージックはエレクトリック・ギターのサウンドが一つのポピュラー界にインパクトを与えた重要な因子であって、プレスリーから始まってビートルズもエレキを抱えて若者にアッピールした。1960年代になっての3大プログレ・バンドもそのギター・サウンドはロック・ミュージックの中心サウンドは変わりなく、キーボードが加わって特殊な世界をも構築した。そんなところで、ピンク・フロイドに於いてもシド・バレットのバンド離脱後のウォーターズの構想に乗ってのギルモア加入、そしてギルモア・ギター・サウンドは大きな役割を果たした。
従って、ピンク・フロイドの1970年代の大成功で、ギルモアのギター・サウンドを愛する者も多く今日まで来ていて、今回のアルバムそしてツアーによるライブはそれなりに大成功している。そしてアルバム『飛翔』と『邂逅』からのソロと、フロイド・ナンバーがちょうど半々づつというバランスの良い構成で、ちなみに『邂逅』からはやはりタイトル・ナンバーを含み計9曲を披露(ここには、娘と息子の二人も参加)。フロイド・ナンバーとしては、今回は定番ばかりでなく、70年代の「Breathe (In The Air)」や、90年代の彼の時代になってのアルバム『対』よりの「A Great Day For Freedom」、「Marooned」などの4曲もセットインしているのが一応の注目点。加えてツアー・メンバーとして参加しているギルモアの娘ロマニー・ギルモアも、「Vita Brevis」と「Between Two Points」でボーカルやハープを披露したりと、所謂、ロック・コンセプトの流れる社会派ウォーターズのライブのような緊迫感と世界の暗部に迫るソロ・ツアーとは違い、若干お祭り的ビック・ショーに終わらせている。そしてやはり観衆は昔のピンク・フロイドが聴きたいので、79年のウォーターズの自伝とアーティストの狂気を描いた『ザ・ウォール』からの「 Comfortably Numb」などが一番盛り上がっていて、今回のアルバムからの曲は静かに聴いている。
こうして、ギルモアのライブ・ステージを観ていても、やはり全盛期からもう数十年経ったピンク・フロイドの人気は衰えず、ギルモア・ギター・ファンは現在も健在だ。しかし華々しい中にアメリカ的ミュージック・ショー因子が強いのは、ギルモアのアルバムにおける曲作りに大きな役割を果たしている女房のポリー・サムソンの影響が大きい事は理解しているが(テーマは「老化と死」にあると言うが)、しかしやはりロック愛好家として若干空しくなったのは、歳はとったとはいえ、かってのロックの根底に流れる時代を見つめ、社会というものに対してのコンセプトを持って、そして問題意識を持ち、訴えて、そして大衆に主張してゆく事の価値感が薄れていることは残念である。かってウォーターズが描いたアルバム『狂気』の曲「Money」、『炎』の「Welcome To The Machine」で描いた恐ろしい現実、レコードの売り上げやソーシャルメディアでの成功を求める業界やのアーティストの欲望によって音楽の姿がしばしば変わる時代に警告を発していたが、ギルモアはむしろウォーターズに言わせると"お人好し的人間"であるだけに、なんとなくそんな世界に流されていないだろうかと・・・もう80歳になろうとしている人間に言うことでもないが、ちょっと頭によぎるものがあるのだ。
ウォーターズにおいては、むしろ偏屈とも言われる一貫している思想として、父親の戦死のトラウマと人生経験から流れる「いかなるものであれ、戦争で人が死ぬことは絶対悪」とすることに基ずくものから派生した「社会への批判と要求」は確固としているものがあり、そしてもともとピンク・フロイドというバンド自身が、シド・バレットの脱落後において、創造的才能creative GeniusとかBrain頭脳と言われるロジャー・ウォーターズが果たした役割により最盛期を創り上げてきた。その結果アルバムにはそのような核が存在していた。つまり60-70年代のロック・グループ・メンバーのロック・アルバムやロック・ショーと言うモノは、問題意識や形はいろいろであっても、そうしたものが存在していたのだ。そしてその結果、それが無いとどこか虚しさが感じてしまうところがあるのである。ジョン・レノンの居ないビートルズの寂しさを見てもわかる。やはりそうした根底にあるものの重要性は、特にロックにおいては、時代によって質の変化は当然しつつも、演ずる音楽を倍増するエネルギーとして大きく左右してきたし、これからもするであろう事は間違いない処と思う。
今、かってのピンク・フロイドの三人が、それぞれの道で三人三様に活躍しているのを見ると、まあ、人間は多くの経験と歩んできた社会や人間関係によってそれぞれが個性ある人生を築いている訳で、今この三人でピンク・フロイドを再結成ということを期待しても、それにはあまりにも非現実的であると思うが、強力なプロデューサーによって、ただそのバチバチした対立と共存で各々の優れたところを凝集出来、アルバムが作られるなんて事があったとしたら、それはそれ恐ろしいロック・アルバムが作られるのではないかと、こうしたライブ・アルバムを見るにつけ、とんでもない幻想(?)を抱いてしまうというのは、シド・バレット時代からピンク・フロイドを愛してきた人間の哀しき性(さが)であるのだ。
(評価)
□ 曲・演奏 : 88/100
□ 画像・録音 : 80/100
(参考視聴)
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