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2025年3月28日 (金)

寺島靖国 「For Jazz Vocal Fans Only Vol.8」

ジャズ・ヴォーカルは、もはや女性の独壇場

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents「For Jazz Vocal Fans Only Vol.8」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1133 / 2025

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Producer : 寺島靖国
Remastering Engineer : 吉田 綾
Distributed by disk union

Unnamedw_20250327163301    このジャズ・ヴォーカル曲集のコンピレーション・シリーズも、もう8巻目ですね。そもそもの出発は2016年でしたかね、毎年必ずというペースでもないのだが、それに近いペースでリリースしてくれているのは嬉しいし、応援したくて何時も購入しているアルバムだ。
 しかし考えてみるとジャズ・ヴォーカルという分野は圧倒的に女性が占めていて驚きです。音楽の愛好家は現在も圧倒的に多く、それはそれでよいことだと思うが、主としてクラシック、ポップ、ロックなどは相変わらず男女別無く愛好家は多く、そしてミュージシャンも同様であるが、ジャズとなるとちょっと様相が異なる。ミュージシャンは男性が多く、ただしヴォーカリストは圧倒的に女性。そしてリスナーとしての愛好家は男性が圧倒的に多い。そんなためか、この寺島靖国の選曲によるオムニバス・アルバムにおいても全14曲全て女性ヴォーカルものだ。こんな偏った世界はそうも無いと思いつつ、私自身もその仲間の一人として何時も変な世界だと思いつつ聴いているのである。

 さて今年も13人の女性ヴォーカリストの登場だ。
 ライナー・ノーツを見ると、寺島靖国に言わせると、このCDの特徴は「未知の歌手が未知の曲を歌うことによって"曲を読みがえらせる"といったところにあるのです」と言っている。確かにこのシリーズのアルバムで知った歌手も多かった。そしてその愛好家になったという経過もあった。しかしちょっと残念なのは、このところ若干その威力も低下したのではと・・・・思うのだが、それは私の気のせいか、いずれにしても今回の紹介をざっとみると私が聴いてきたアルバムからの選曲が13人中8人と、どうも個人的に新鮮味がなかったという処であった。もう少し世界各国を深堀していてくれると個人的には有難いのだが。

<Tracklist  (曲名/歌手)>

1 The Thrill Is Gone / Carme Canela & Joan Monne *
2 The Windmills of Your Mind / Vivian Buczek
3 A Cottage for Sale / MOON haewon with Tsuyoshi Yamamoto *
4 (Sittin' On) The Dock of the Bay / Inger Marie *
5 Embraceable You / Caity Gyorgy *
6 I Get Along Without You Very Well / Clare Teal
7 Fragile / Sacha
8 The Look of Love / Denise Donatelli *
9 April in Paris / April Varner
10 Blame It on My Youth / Cajsa Zerhouni *
11 Reverie / Nicole Zuraitis *
12 They Long to be Close to You / Diana Panton *
13 From This Moment On / Naama Gheber
14 I'm a Fool to Want You / Naama Gheber

(*印 : このブログ「灰とダイアモンドと月の裏側の世界」で過去に取り上げたアルバムからの曲=詳しくはそちらを参考に(左下の検索利用))

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 収録曲は13人の14のアルバムから14曲だ。しかしこうして聴いてみるとM1."The Thrill Is Gone "のCarme Canela(上左)とか、M4."The Dock of the Bay" のInger Marieと(近作は『Five Minutes』(STUD23082, 2024))か、M8."The Look of Love "のDenise Don atelli (上左から2番目)のベテラン組がやっぱりしっとり感もあって、中でも出色ですね。新人はもっと頑張れというところか。
   そしてこのブログでかって取り上げたアルバムは8枚に及んでいた。そしてそれは若干発売も古くなっている。ただ珍しく最も新しいアルバムからは、M12." They Long to be Close to You"で、つい先日取り上げた『Soft Winds and Roses 』(FSPC-1001)(上右)からだ、彼女Diana Pantonも、もう20年のキャリアになるのだが誠実感があってよい、そしてまだ若い。
 M10."Blame It on My Youth"のスウェーデンのCajsa Zerhouni(上右から2番目)を取り上げてくれたのは私としては喜んでいる。彼女はデビュー6~7年という処だが、充実感の味は十分だ。
 M3."A Cottage for Sale"の山本剛のピアノとのデュオのMoonは韓国のポピュラーからジャズ転向組だが、もともと歌はうまかったので、今後益々ジャズで頑張ってほしいところ。
 寺島氏はM.13"From Moment On" 、M.14" I'm a Fool to Want You"のNaama Gheberに入れ込んでいるようだが、高音域が特徴あって今後の期待株か。

 まあ、ジャズ界のヴォーカルは昔は男性もフランク・シナトラなど代表に頑張っていたのだが、このところ元気がない。ジャズそのものの方向が女性にもう少し理解され愛されて頂かないと、という処なのかもしれない。
 ジャズって、なんとなく一日の仕事や行事が一段落して、ほっとした時間帯の癒しと明日のエネルギーの為と言った性格がどうしても感じられての事だろうか、いまやジャズというジャンルはこれほど不明確な分野も無いくらいに広がっている。この寺島靖国のシリーズにはオーディオに特化したシリーズもあるように、ジヤズとオーディオというのも切って話すことの難しいところにあるが、その世界にも女性の進出がもうすこしあると又いろいろな様相が変わるのかもしれない。
 いずれにしてもこのシリーズは、人気はそれなりにあると思うので、今後の健闘を期待したい。

(評価)
□ 選曲        87/100
□ 録音(全体的に)   87/100
(試聴

*

 

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2025年3月23日 (日)

ダイアナ・パントン DIANA PANTON 「SOFT WIND AND ROSES」

相変わらず清楚可憐な抒情派歌唱で・・・

<Jazz, Pop>

DIANA PANTON 「 SOFT WIND AND ROSES  カヴァーズ〜私の好きな歌
SPOON / JPN / ESPC-1001 / 2025

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Diana Panton (vocal)
Reg Schwager (acoustic guitar, electric guitar)
Don Thompson (piano, vibraphone, bass, electric bass, keyboard, arrangement)

Recorded /mixeded / Mastered by Chad Irschick at Inception Sound Studios, Toronto, Canada, 2024

Images663955736w   入れ込んでいるわけでもないのだが、なんとなくニュー・リリースとなると買ってしまうお馴染みカナダの人気歌姫ダイアナ・パントン(カナダ-オンタリオ州ハミルトン生まれ、→)の、2年ぶりとなる待望のニュー・アルバムだ。今回のアルバムは、例によってドン・トンプソン(p,vib,b他、↓左)&レグ・シュワガー(g、↓右)のバックアップを得ての、ポップス・ソングス・カヴァー集。この日本盤は、元Muzakの福井亮司氏が立ち上げた新レーベルspoonからのリリースで記念すべき第一号。

 ダイアナ・パントンも既にカナダ・ジャズ界の重鎮ドン・トンプソンのサポートを得て2005年に『Yesterday Perhaps』でアルバム・デビューだから20年のキャリアとなる。カナダのグラミー賞に相当するJUNO Awardの常連でもあり、『RED』は2015年度JUNO Awardの最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞に輝いた。本国カナダはもちろん、米国、ヨーロッパ、アジアでも結構多くの注目を集める。
 前作は『BLUE』(2022)では、ようやくかなり大人の味になってきたのだが、もうおそらく40歳となる。しかしその割にはあどけなさの残った優しさ溢れる歌声はジャズ・ヴォーカルの中では異彩を放っており、醸し出すインティメイトにして清楚可憐な雰囲気は日本人好みの世界なのかもしれない。今作は日頃彼女が口ぶさむ歌といった感じのものを集めた作品集で、Jazz歌唱の世界に導いた父親や彼女の周りの人達への感謝の作品集と言った性格のものの様だ。

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(Tracklist)

01. Your Song
02. (They Long To Be) Close To You
03. Secret Heart
04. Sweet Happy Life
05. A Wish (Valentine)
06. How Deep Is Your Love
07. Pussywillows Cat Tails
08. Here There And Everywhere
09. You And I (Voce E Eu)
10. And I Love You So
11. Until It's Time For You To Go
12. Hey That's No Way To Say Goodbye
13. Snow
14. Both Sides Now

 

 選曲はカナダのシンガー・ソングライターの曲を中心に60-70年代のロック、ポップスやボサノヴァなどのポピュラーな彼女のお気に入りの曲となっている。
 オープニングはエルトン・ジョンの代表曲M01. "Your Song"で、これがなかなか彼女らしい詩の意味をかみしめて美しく歌い上げる良い出来だ。続いてカーペンターズのヒット曲M02. "(They Long To Be) Close To You「遥かなる影」"と快調な出だし。
   M07. "Pussywillows Cat Tails"は、いかにも物語を聴かせるような味のある仕上げ。M08."Here There And Everywhere"はビートルズの曲も登場するが、意外にしっとりと演じられている。M04." Sweet Happy Life"M09."You And I (Voce E Eu)"のように意外にもボサノヴァ曲も登場する。ギターの演奏もジャズ色豊かに演じて、彼女の歌とともに爽やかでこのアルバムの色付けにうまく貢献している。M11." Until It's Time For You To Go"のようにエルヴィス・プレスリーの世界まで熟してしまうのには驚きだ。
更にM12."Hey That's No Way To Say Goodbye"はレナード・コーエン、M14."Both Sides Now「青春の光と影」"はジョニ・ミッチェルと、この一種独特な世界を持つ二人の曲と歌を美しい詩情の世界に歌い上げているところはなかなかのものである。

 とにかく、誠心誠意優しさの中に、ごく自然体でのなんとなく可愛らしさと美しさを描くパントンの歌には恐れ入る。これもトンプソンの編曲効果が大きいのかもしれない。シュワガーのギターも優しく響く。いわゆるジャズといった世界からは一歩別世界のように感ずるところもないではないが、こんな世界も時には良いものだ。特に有名なミュージシャンの歌う曲は、おそらくそれなりに気になるものと思われるが、ここでは彼女の世界がちゃんとあるところが立派だ。
 又録音・ミキシングにおいて、彼女の声を最も前面に持して息遣いまで表現しているところは、彼女のヴォーカル・アルバムはそれもありだと思わせるには十分な見事な仕上げであった。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌 :   88/100
□   録音      :   87/100

(試聴)

 

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2025年3月18日 (火)

アドニス・ローズ、ガブリエル・カヴァッサ  Adonis Rose Trio「FOR ALL WE KNOW」

本格的ジャズ・ピアノ・トリオの演奏と、どこか迫力を感ずるヴォーカルに惹かれる

<Jazz>

Adonis Rose Trio & Gabrielle Cavassa「FOR ALL WE KNOW」
STORYVILLE RECORDS/ Import /EAN 0717101853526/1018535/2024

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Adonis Rose (drums)
Ryan Hanseler (piano)
Lex Warshawsky (bass)
Gabrielle Cavassa (vocal on 1~6)
Recording: Word of Mouth Studios, New Orleans, April 2022

Imagesw_20250318191501  ニューオリンズ・ジャズ・オーケストラの芸術監督であり、ドラマーとしても有名なアドニス・ローズ(⇢)の最新ピアノ・トリオ・アルバムだ。このアルバムは昨年あまり注目しなかったものだが、ヴォーカル・アルバムとして先日発売の雑誌「ジャズ批評」(244号)で評価が高かった(銅賞)ものであって、敢えてここに聴いてみた次第である。

 このアルバムでは、9曲中6曲にガブリエル・カヴァッサのヴォーカルが入る。ピアノ・トリオはローズが期待しての2人の若きミュージシャンを呼んでいる。それは今最も注目株の新人ベーシストの一人、レックス・ウォーショウスキー(↓中央)と、ピアニストのライアン・ハンセラー(↓左)が参加。ハンセラーは 2 曲のオリジナル曲を提供している(下記TracklistのM7,M9)。

 女性ヴォーカリストのカヴァッサGabrielle Cavassa(↓右)は、米国カルフォルニア州出身で、2021年のサラ・ヴォーン国際ジャズ・ヴォーカル・コンペティションの優勝者で、伝統を知る素晴らしく才能のある新世代のボーカリストとして評価が高い。

 さて当アルバムのテーマは” スタンダード曲" にあるようであり、又ジャズの歴史を形作ってきた不朽の名曲への魂のこもったオマージュであるようだ。自身のキャリアの中で、トリビュート・アルバムやスタンダードをメインにしたレコーディングをしたことが無かったローズは、このアルバムを通してミュージシャンとして、アーティストとしての自分の仕事について考えるようになり、この気持ちをアルバムに凝縮して見たようだ。 そして、もともと今作に参加予定で あったという2020 年にパンデミックによりこの世を去った伝説的なジャズ・ピアニストのエリス・マルサリス(1934年11月14日生まれ、米・ルイジアナ州ニューオーリンズ出身)へ捧げている。

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(Tracklist)
1.I’ve Grown Accustomed to His Face *
2.So Many Stars *
3.You Taught My Heart to Sing *
4.You Go to My Head *
5.For All We Know *
6.What Are You Doing the Rest of Your Life *
7.I Still Think She’s Pretty
8.Second Thoughts
9.Blues for Lex

(*印 Gabrielle Cavassaのヴォーカル入り)

   ドラマーとしてのアドニス・ローズに関しては、過去に意識して聴いてこなかったので、ここではちょっと興味津々に聴いたところである。このトリオの演奏は、ここではスタンダード・ナンバーをジャズ心を大切にしたちょっと新鮮なアレンジでスタンダード曲の心を裏切らないように敬意を表しつつ演じた世界のようである。彼のミュージシャンとしての経過で、"スタンダードレコードを作りたい"という憧れという満たされない欲望が残っていたのだと言う。彼は自分の音楽的遺産について考えていることに気づき、不朽の名曲に捧げられたレコードを仕上げてみたいという処で出来たアルバムということだ。

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 オープニングのM1."I’ve Grown Accustomed to His Face "は、これは戦後の有名なミュージカル「マイ・フェア・レディ」の曲で、米国に関係あるヴォーカリストは殆どが歌っているというスタンダード曲。私が印象深いのはダイアナ・クラールがアルバム「QUIET NIGHTS」の中にしっとりと歌っているのだが、ここではカヴァッサの心情豊かにややハスキーが入った可憐と言うのでなくむしろ迫力が感ぜられ訴える感じの歌が印象深い。トリオもピアノがバツクにメロディーを静かに流し、ベースがそれを受け継ぐパターンでしっとりしているバラード。
 M2."So Many Stars "は、意外にもセルジオ・メンデスの曲を取り上げています。ここではブラジル風でなく、しっとりとジャズ曲として歌い上げている。
  又M5."For All We Know"はカーペンターズで有名になった曲。こんな調子に幅広い選曲。しかし、カヴァッサ節というか、一貫して丁寧なゆったりとした中で感情たっぷりの歌だ。
  こんな感じで、トリオもM1.-M6.の6曲はカヴァッサ の歌をフューチャーしていて、主としてどちらかと言うとしっとり系のバラード演奏である。しかし、M7.-M9.の3曲はウォーカル抜きのトリオでの仕上げでは、ちょっと印象が変わってM7."I Still Think She’s Pretty"は、トリオのエネルギーが伝わってくる演奏。特にピアノのメロディー主導の中でドラムスはステック音とシンバル音が印象的でサポート、ベースもアンサンブルにエネルギーを注ぐ。
 M9."Blues for Lex"のトリオ演奏ではかなりアグレッシブな演奏でヴォーカルものの演奏と異なった面を見せている。このあたりがもしかしたらトリオの彼らの最もメインな流れなのかもしれない。

 「ハンセラーのピアノの芸術性、ウォーショウスキーのダイナミックなベースライン、カヴァッサの感情的なボーカルそしてリーダーのローズの味わい深いドラミング」と評価されているアルバムとして聴いてみた次第である。これはなかなかのもので、「ジャズ批評」のヴォーカル部門では録音の質も良くトップより上に持って行ってもよさそうなアルバムだった。

(評価)
□ 演奏・歌 :   90/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

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2025年3月13日 (木)

山本剛 TSUYOSHI YAMAMOTO TRIO 「 REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE」

リスナーのリクエスト選曲と往年のタッグでのスタジオライブ録音で

<Jazz>

TSUYOSHI YAMAMOTO 「REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE」
Meet Yoshihiko Kannari
SOMETHIN'COOL / JPN / SCOL-1076

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21081508w Tsuyosi Yamamoto山本 剛 (Piano)
Hiroshi Kagawa香川 裕史 (Bass)
Toshio Osumi大隅 寿男 (Drums)

Recording Studio : ONKIO HAUS 1st
Recording & Mixing Engineer : Yoshihiko Kannari 神成芳彦

 


 ピアニスト山本剛(右上)に関して、ある意味での復帰と言っていい2021年のアルバムMisty For Direct Cutting』(SCOL1056)以来、ピアノ・トリオの演奏だけでなく、CDやLPの音質とにもオーディオ的に注目度が再燃している。最近のハイレゾ・ブームや、現在暗礁に乗り上げた形になってしまっているCDにおけるMQA方式の出現などの刺激によって、良い音で音楽を楽しもうという一つのブームでもある。

 そんな中で、想い起すと1970代のあの強烈なジャズ界の刺激でもあったTBM(スリー・ブラインド・マイス)レーベルを、誰もが思い出すことになった。特に山本剛トリオのアルバム『Midnight Sugar』、『Misty』にはジャズ・ファンの誰もが自己のオーディオ装置やオーディオ喫茶で、鮮烈な演奏とリアルな音に虜になったのであった。それが50年近くが経過して、曲"Misty"の作曲者のエロール・ガーナー生誕100周年を記念して山本剛トリオによる音質を追求した『Misty for Direct Cuttimg』がリリースされ、日本のジャズ・ファンも大いに刺激を受け、好評であったのであった。

 そしてなんと、話はエスカレートして当時のTBMレーベルの名レコーディング・エンジニアの神成芳彦(↓上左)の登場の話が進み、ここに2022年ピアニスト山本剛(↓上右)とエンジニア神成芳彦の再会が実現したのであった。それが『BLUES FOR K』(SCOL1052)であり、ベース香川裕史(↓下右)、ドラム大隅寿男(↓下左)とのトリオでの録音が実現した。昔を知るファンにとっては何につけてもジャズとオーディオの感動の再現ということで大いに注目し、セールスと評価は好調で、続いて『SWEET FOR K』(SCOL1071, 2024)を発表し海外でも快調な展開があった。
 そんな経過の中で、この企画は更に進行して今年2025年には、「伝説のTBMタッグ企画 第3弾」としてこの 山本剛トリオによる『 TSUYOSHI YAMAMOTO / REQUESTS - Tsuyoshi Yamamoto Trio LIVE 』の登場となったのである。これはリスナーのリクエストによる選曲 と スタジオライブ録音という企画が実現して"ベスト・オブ・ベストアルバム"が完成したわけだ。
  なお参考までに、このトリオは、2023年にevosoundからホールの臨場感を狙っての高音質録音による充実演奏盤として"Misty","Speak Low", "Midnight Suger"等の他、人気スタンダードを演奏したアルバム『A SHADE OF BLUE』(EVSA2536M)をリリースしている。

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 これはかつてTBMレーベル作品や前作『SWEET FOR K』もレコーディングされた東京・音響ハウスにて、なんと観客を入れてのスタジオライブレコーディングを行ったもの。神成マジックと言われるスタジオ録音を企画して、山本剛の得意とするライブ演奏を実現させた。曲は事前に公募されたリクエスト曲から選曲されるという音楽ファンの夢を実現しようと試みられた作品だ。

(Tracklist)

1 Alice in Wonderland
2 Fools Rush In
3 Milestones
4 Charade
5 Doxy
6 The Way We Were 追憶
7 For Once in My Life
8 Gentle Blues
9 Jealous Guy
10 Misty
11 The Third Man Theme 第三の男
12 All the Things You Are
13 MC 〜 Blues
14 Danny Boy

 このところ、新録音で3枚のアルバムが登場しているので、このアルバムは演奏は目新しいという処は無いが、Marvin HamlishのM6."The Way We Were 追憶"の美しさを感ずる再演が聴かれたり、人気レパートリーのErroll GarnerのM10"Misty"等はもちろん、M1."Alice in Wonderland" , M3."Milestones", M4."Charade", M11."The Third Man Theme 第三の男", M12."All the Things You Are"、等、やはりリクエストならではの選曲で我々の聴きなれた曲の登場で究極のベスト盤となっている。最後がM14."Danny Boy"で締めているが、それらしいこの会のお別れムードを盛り上げている。

   この録音はスタジオにオーディエンス(約20名)も入れてのライブのスタイルをとったのであるが、曲間に拍手が録音されている。如何にもライブですよと言っているようで、これがちょっととって付けたような拍手で、むしろ気分を害す。それがいやにクリアに拍手が録音されていて、ちょっと作為的な感じもしないではない。これは敢えて入れなかった方が良かったのではないかと思う。
 又このCDはSACD盤である。高音質をうたったCD-MQA盤が座礁している為、このところSACDによるハイレゾ盤が主力になっている。ちょっと価格が上がっているのが難点。カナダのLenbrook Media GroupでMQA方式がグレード・アップさせようとしているようでどうなるだろうか。ここで取り上げたアルバム『Misty For Direct Cutting』は、MQA盤で私はかって購入したがSACDよりは安価であったのが良いところ。

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 神成芳彦の作品としての特徴のピアノの輪郭のスッキリとしたやや硬めの音は、ちょっとあの昔の名録音盤を思い出させるところがある。ドラムスはシンバルやハイハットからの音はクリアに響き、ベースもしっかり聴けて心地よい。録音にはピアノは単一志向性の4011を含む3本のマイクを使っていて、又ベースはピアノの鍵盤へのタッチの見える位置で見ながら演奏するということでピアノの後ろに位置して2本のマイク、そしてドラムスはなんと9本のマイクを使い、全体像も捉えるのか合計16本使っていたという(↓右の図)。こうして高音質を目指してゆく事も私にとっては快感である。
 今回のこのようなアルバムのリリースは、私のように70年代を懐かしむ人間にとっては嬉しい企画であったと言っておく。

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(参考) <TSUYOSHI YAMAMOTO / 山本剛> (ネットより)
 1948年3月23日、新潟県佐渡郡相川町に生まれる(今年77歳喜寿だ)。すぐに佐渡島より新潟に移り、小学生の頃からピアノを弾き始める。高校生時代、アート・ブレーキーとジャズ・メッセンジャーズの生演奏の虜となりジャズ・ピアノを独学で習得する。1967年、日本大学在学中、19才でプロ入り。ミッキー・カーティスのグループを振り出しに英国~欧州各国を楽遊。1974年、レコード・デビュー(「ミッドナイト・シュガー」TBM)。スケールの大きなブルース・フィーリングとスイングするピアノがファンの注目を集め、続く「ミスティ」(TBM)が大ヒット、以後レコード各社より数多くのリーダー・アルバム、共演アルバムを発表、人気ピアニストの地位を確立する。1977年、アメリカ、サンフランシスコ、モンテレー・ジャズ・フェスティヴァル出演。1979年、スイス、モントルー・ジャズ・フェスティヴァル出演。大好評を得、その後渡米、1年間ニューヨークで音楽活動を行う。帰国後は、六本木のライヴ・ハウス"ミスティー"でハウス・ピアニストとして活動を再開。 笠井紀美子、安田南等ヴォーカリスト達と共演する一方、ディジー・ガレスピー、カーメン・マックレイ、サム・ジョーンズ、ビリー・ヒギンズ、エルビン・ジョーンズ、ソニー・スティット、スティーヴ・ガッド、エディー・ゴメスetc. 多数の本場ミュージシャンと共演。その間、英国のバタシー・パーク・ジャズ・フェスティヴァル、ニューヨーク独立記念日ジャズ・フェスティヴァル、コンコード・ジャズ・フェスティヴァル等に出演。TV番組「リュウズ・バー(村上龍構成、出演)」の音楽を担当するなど各方面で活躍。

(評価)
□ 演奏  88/100
□ 録音  88/100
(試聴)

 

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2025年3月 8日 (土)

エル ELLE 「ESTATE」

ガラーティ・トリオと女性ヴォーカル(エル)の第3弾

<Jazz>

ELLE 「ESTATE」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1131 / 2025

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Elle (vocal)
Alessandro Galati (piano)
Ares Tavolazzi (bass)
Bernardo Guerra (drums)

Recorded at Larione 10 studio, Florence, on March,2024

 

Eytoggwoaiaszw   寺島靖国氏のお勧めイタリアの女性ヴォーカリストのELLE(→)のアルバム日本第3弾。私としてはバックがAlessandro Galati Trioで、タイトル曲が"Estate"とくれば買わざるを得なかったアルバム。そしてしばらく別のアルバムに現を抜かしていたので、ちょっと遅れて取り上げた。
 何故か、イタリアの夏の恨み節であるBruno Martinoの"Estate"は、私がジャズ・ヴォーカルものとしては片手の指に入る好きな曲で、既に女性ヴォーカルものとしては20曲ぐらいは押さえているものだ。最近はヴァレリー・グラシェールの歌に圧倒されたが、このアルバムの歌うはエルはイタリアではキャリアはそれなりにあるのだが、どうなんだろうか、そんなに日本では話に登らない歌手だが、Galatiが目を付けたというのでそれなりにと思って聴いている歌手である。既に3作目なので感じは解っているが、まあそれなりにと思いつつ、ちょっと興味を持って聴いたという処だ。

 エルElleは(本名ルクレツィア・フォン・ベルガーLucrezia von Berger)は、1997年からローマでマエストロ・イザベラ・ブロジーニ(合唱指揮者)にオペラ歌唱を学び、その後ローマのポリフォニック合唱団「カントーレス」でリード・シンガー(ソプラノ)として活動。 その後ジャズへの転機は2000年からで、フィレンツェのジャズ・トリオ「レディ・シングス・ザ・ブルース」のリード・シンガーとして約15年間。 他のジャズ・ミュージシャンとの共演も多い。 歌手のほかギターの演奏にも力を注いで、2003年にはボサノヴァの歌と歌詞を作曲。2003年、フィレンツェのプロデューサー、マルコ・ラミオーニと出会い、ラウンジ・ミュージックやボサノヴァのプロジェクトに参加。 その後ヘクトール・ザズーに出会い、2004年に彼のCD『L'absence』に収録された「Eye Spy」に起用された。 2005年には、ラミオーニとのラウンジ・トリオ「アクアラマ」プロジェクトでコラボレートし、様々なコンピレーションから楽曲をリリースしている。既にジャズ経歴も二十数年のキャリア。

(Tracklist)
1. Estate
2. Misty
3. The Moon Was Yellow
4. I'm Through with Love
5. My One and Only Love
6. Fly Me to the Moon
7. Round Midnight
8. Stars Fell on Alabama
9. The Thrill Is Gone
10. We Will Meet Again

 私の注目のアレッサンドロ・ガラーティに見出されて日本レコーディング・デビューを果たしてからもう5年余り経ち、イタリアの実力派歌姫のエルの、A・ガラーティ・トリオの全面バックアップを得ての三作目。録音関係ではミックス、マスターもガラーティの手によるものでなかなか音質も良好。寺島靖国の世界に属するアルバムでオーディオ的にも良い線を行っている。
 さて、女性ヴォーカルものなので、気になるのは彼女の声と歌い方だが、ダイアナ・クラール、メロディ・ガルドー、クレア・マーチンなどがOKの私にとって、なんかちょっともろ手を挙げて大歓迎という処には行かないところがある。「低音の落ち着いた安定感と高音のしなやかな張りや爽涼さの兼ね合いも絶妙のクリーン・ヴォイス」とか、「リキみの抜けた自然体調子を保ちつつ誠心こめて丁寧に情感を活写する柔和でムーディーな歌い回しが、堂々たる練達を感じさせる冴えを、キレを見せて爽快だ」更に「絹が触れ合うような繊細かつ豊かな歌声で人々を魅了する」などなど・・・好評なのだが、なにか私的にジャズ・ヴォーカルとしてどっぷりつかるには抵抗があるのだが、どう表現してよいか難しくそんな表現にしておくが、そんなところを参考にしてほしい。

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 注目のM1." Estate"だが、これぞジャズ・ヴォーカル曲といってもイタリア産であるので、彼女も過去に歌い込んできているのではと思うところで、バックと言うか導入は優しいピアノの響きにベースが乗り、ステックの音がクリアに聴きとれ、次第にガラーティの繊細なピアノが見事なアドリブの世界で支え、おもむろに彼女の美声の世界が始まる。なんとなくねちこいイタリア語の歌はこの曲の本質なのかもしれないが、中低音が響きのいい声だ。若干高音部の質がジャズとしての味がちょっと抵抗がある。
 まあしかし無難に歌い上げているのは事実で、経験豊かな世界を感ずる。M4."Misty"も注目したが編曲はなかなかガラーティらしいスロー・ペ-スの中に微妙な味付けがされたもので、静かなピアノとベースの即興的なアドリブの世界がいいが、どうも彼女の高音歌唱が異質に聴こえてくる。この辺りはいい悪いでなく、やはり好みであろうと思う処。
  M9."The Thrill Is Gone"あたりが良かったような気がする。

 しかし全体には良く出来たアルバムと評価したい。バックのピアノ・トリオもアメリカン・リリカル路線のニュアンスも忘れずにしっかり描いていて洒落ている。そんなところで聴き応えある。

(評価)
□ 歌・演奏   87/100  (演奏88, 歌86)
□ 録音・音質  88/100

(試聴)

 

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2025年3月 3日 (月)

ルドヴィコ・フルチ Ludovico Fulci 「TI RACCONTO DI ME」

繊細で端正、折り目正しくスマートな清潔感がたっぷの叙情性

<Jazz>

Ludovico Fulci 「TI RACCONTO DI ME」
ALFA MUSIC / IMPORT / AFMCD315 / 2025

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Ludovico Fulci (piano)
Dario Rosciglione (bass except 12, 14)
Amedeo Ariano (drums except 12, 14)

 イタリアのペテラン・ピアニストのルドヴィコ・フルチ(下左)、今回はやはりイタリア仲間のダリオ・ロシリオーネ(Bass、下中央)、アメデーオ・アリアーノ(Drums、下右)をフィーチャーしたピアノ・トリオ作品である。
 フルチLudovico Fulciは、1959年イタリアのメッシーナMessina生まれで、ローマを拠点としてジャズ・ピアノと作曲の修練を積み、1980年代頃から映画やTV番組の音楽の作曲を数多く手がけるようになって、巨匠エンニオ・モリコーネとのコラボレーションでも幾多の映画製作に携わってきた、主にサントラ音楽の分野で国際的に名を馳せるイタリアのヴェテラン作曲家兼ピアニスト。しかし、私の記憶では過去のアルバムは思いつかないのだが、本盤はピアノ・トリオによる純ジャズ・アルバムということで聴くことになった。全曲彼よるところの作・編曲である。

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(Tracklist)

01. Der Erste Tag Des Jahres
02. Un Amore Nascosto
03. One For Tobias
04. I Baci Sulla Pelle
05. Ti Racconto Di Me
06. Una Giornata Particolare
07. Il Pensiero Di Te
08. Deep Into Your Soul
09. Einfach So
10. Grit
11. Le Nostre Parole
12. Un'altra Possibilità (solo piano)
13. Il Terzo Incomodo
14. Die Hoffnung (solo piano)

 長年映画音楽の分野で働いてきたフルチならではの聴きやすく美しいメロディーが溢れてくる抒情的な作品集だ。ベテランらしく、若者の挑戦的なアプローチでなく、繊細で端正、クール・スウィートで折り目正しくき清潔感がたっぷのでスマートさが感じられる。一音一音が鮮明な輪郭でクリアーに浮かび上がってくる歯切れのいいクリスタル風タッチのピアノ、アメリカ・ジャズとは全く異なったヨーロピアンならではのエレガンス溢れる抒情派プレイ。まさに耽美指向の演奏で満ちている。 

M1. "Der Erste Tag Des Jahres" 端正な音が響いて襟を正して聴く
M2. "Un Amore Nascosto" 優しさと美しさのピアノのメロディー、まさに秘められた愛の姿。
M4. "I Baci Sulla Pelle" (肌にキス) ピアノが語る静かな物語
M5. "Ti Racconto Di Me" (私のこと教えてあげる)明活な展開、イキイキ溌溂
M6. "Una Giornata Particolare"(特別な日)真摯な気持ちで
M7. "Il Pensiero Di Te"(あなたへの想い)、M8. "Deep Into Your Soul"(魂の奥深くまで)ピアノの語りとベースの響き、そしてピアノとベースのハーモニーががいかにも深い心を表して・・・
M10. "Grit"ピアノが美しく描き、ベースが力づける勇気
M12. "Un'altra Possibilità"M14."Die Hoffnung"は、クラック調のピアノソロ演奏でぐっと真摯に纏める

 久しく聴かなかった端正にしてロマンティックでしかも詩的な世界である。この世界に時に浸るのは良いことだ。そして一方ちゃんとスウィングして見せるし、ベースやドラムスがジャズへのグルーヴ感を盛り上げてくれる。オリジナル曲でここまで爽やかで優しさ溢れた曲調は、さすが年季が入っての至る世界かとやたら感動していますのである。
 こんな美しい世界に一時でも浸って、日常を過ごすことも大切なのかもしれない。なかなか爽快感につつまれる優良作品だ。いやはやイタリアのもつ音楽の幅の広さは恐ろしい。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 

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