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2025年4月27日 (日)

セリア・ネルゴール Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」

両親への感謝の気持ちを込めた感動的豪華さのあるアルバム

<Jazz>

Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」
(CD)Masterworks / Import / 19802890702 / 2025

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Produced by SILJE NERGAARD and MIKE HARTUNG

SILJE NERGAARD (vocals) 
HELGE LIEN (piano)
JARLE VESPESTAD (drums)
FINN GUTTORMSEN (bass)
GEORGE (JOJJE) WADENIUS (guitars)
HÅKON KORNSTAD (saxophone)
MARTIN WINSTAD (percussion)
BEATE S. LECH (guest vocals)
KARLA NERGAARD (backing vocals)
MIKE HARTUNG (backing vocals)

STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA VINCE MENDOZA conductor & arranger

Recorded and mixed by MIKE HARTUNG at PROPELLER MUSIC DIVISION Oslo 2022-2024
Mastered by MORGAN NICOLAYSEN at PROPELLER MASTERING Oslo nov 2024
STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA recorded at STAVANGER KONSERTHUS May 2024
Conducted by VINCE MENDOZA

800pxsilje_nergaardw  ノルウェーを代表するジャズ&ポップス・シンガーの通称セリア=Silje Nergaar(セリア・ネルゴール, →)のニュー・アルバム。彼女に関してはここでも何度か取り上げた。特に私の注目はトルド・グスタフセンTord Gustavsenのピアノとの共演の『Nightwatch』であったが、今回は私の一つの注目点は、やはりピアノが私の好きなヘルゲ・リエンHelge Lien(↓右)ということだ。いやはや彼女は名ジャズ・ピアニストをしっかり確保し、しかも、2010年にリリースされ、グラミー賞にノミネートされたアルバム『A Thousand True Stories』でもコラボレーションした、ヴィンス・メンドーザVINCE MENDOZA (↓中央)が、今作ではスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、曲に感動的なオーケストラアレンジ効果を発揮している。

  そして、このアルバム・ジャケが古めかしいですね。なんと戦後のジャズ・アルバムの再発盤かと思わせるジャケ。それは実は彼女の両親の若い時の二人の写真を見つけてジャケにしたということのようだ(その写真↓左)。彼女も1966年生まれであるから今年は59歳、来年は還暦を迎えるという歳になって、どうも両親への深い思いが込められたアルバムという事のようで、タイトルも『Tomorrow We'll Figure Out the Rest』と、訳すと「明日多分私たちは残りを理解するでしょう」「明日、続きを解明する」ということだろうが、両親への深い思いが込められており、かっての自分の幼少期からの遠い日の記憶、家族やさまざまな人生の物語等にインスパイアされた曲を収録したということだ。とにかく音楽というものを通じて人々の心を動かす彼女の資質と才能が溢れたアルバムと仕上げられたものである。

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 彼女は、1985年にノルウェー代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場してのスタートで、アルバム・デビューは1990年で、パット・メセニーのプロデュースで1990年にリリースされたアルバム『Tell me where you're going やさしい光につつまれて』が、日本はじめ世界各国で大ヒットし、以来、北欧ジャズ・ポップス・シーンを代表するシンガーとして活躍している。当時はポップよりのものであったが、2000年発表の『Port of Call』、2003年『Nightwatch』よりジャズ・ピアニストのトルド・グスタフセンを起用したことより、ジャズよりの作品になって近年はもっぱらジャズに傾倒している経過で、キャリア40年となる。又ヘルゲ・リエン(↑右)もそうであるようにノルウエーには結構親日家が多く、彼女もその一人で、1991年発表の『Quiet Place〜心のコラージュ』には「Kyoto Wind」という曲を、さらに2001年発表の『At First Light 初めてのときめき』には「Japanese Blue」という曲をそれぞれ収録している。

(Tracklist)

1. You Are the Very Moon (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
2. Lover Man (Håkon Kornstad)
3 Mamma og pappa synger00:36
4. A Perfect Night to Fall in Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
5. Vekket i tide (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
6. Before You Happened to Me
7 Silje synger00:58
8. Dance me Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
9. My Man My Man
10. Brooklyn Rain (Håkon Kornstad)
11. Here There and Everywhere
12 Silje og pappa snakker00:48
13. Tomorrow We'll Figure Out the Rest (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)

 両親への深い思いが込められているというだけあって、とにかく心温まるような素直にして愛情にあふれた優しいヴォーカルと曲いうアルバムに仕上がっている。遠い日の記憶、家族との交わり、そして経てきたさまざまな人生の物語に思いで込めて演じられている楽曲を収録されていて、Helge Lien(ピアノ)、Jarle Vespestad(ドラムス)、Finn Guttormsen(ベース)、George Wadenius(ギター)、Håkon Kornstad(サックス)といったヨーロッパを代表するジャズ・ミュージシャンが彼女をサポートし、ヴィンス・メンドーザが、今作では5曲においてスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、作品にジャズというよりはジャンルを超えた広い世界を描くムードを真摯に演じて盛り上げている。ジャズ・アンサンブルとオーケストラの競演で支えているわけだ(↓は両親とビニール盤アルバムの完成を喜ぶセリア)

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 彼女のヴォーカルは、まず若い印象で驚くが、一層癖のない表現の世界にあって、ジャズといつた世界とはむしろ別物に感ずる。M4." A Perfect Night to Fall in Love "(恋に落ちるには最適な夜)は、オーケストラとバッキング・ヴォーカルが入ってむしろ荘厳に近い雰囲気を盛り上げるところが印象深い。
   又M3.7.12は、彼女や両親との交わりの思い出の録音された会話や歌を挿入して一層のムード盛り上げを図っているのも、如何にも個人的な世界ではあるがアルバムの充実度を図っている。
 M8." Dance me Love"はゆつたりとした曲で、ストリングスの美しさ、ピアノの美しさと静かに語るドラムスの響きと、曲の演奏も聴きどころで、彼女の歌い上げるヴォーカルも見事である。

 いずれにしても聴いていて印象は極めて良い。そんな両親への感謝の世界を知らしめたと言う彼女のアルバム造りも一つの区切りとしては、意義があったと思うし、聴く方もわが身に置き換えて感謝の気持ちを持てたということであれば有意義である。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      87/100

(試聴)

 

 

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2025年4月22日 (火)

マテウス・パウカ MATEUSZ PALKA TRIO 「MELODIES.THE MAGIC MOUNTAIN」

クラシック的世界が築く美的抒情性の世界

<Jazz>

MATEUSZ PALKA TRIO 「 MELODIES.THE MAGIC MOUNTAIN」
Polskie Radio / Import / PRCD2431 / 2024.4

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MATEUSZ PALKA (piano)
PIOTR POLUDNIAK (bass)
PATRYK DOBOSZ (drums)

Recording, Mixing and Mastering Engineer : Leszek Kaminski
Recorded at Polish Radio's S-3/S4-6 Studio, Warsaw, 2022.11.28,29

447961014_78195621547744w  ちょっと場つなぎになるが、昨年のアルバムを取り上げる。ポーランドのピアノ・トリオのジャス・アルバムだが、現地では一昨年登場しているようだ。このアルバムは雑誌「ジャズ批評」の"ジャズ・オーディオ・ディスク大賞2024"に銅賞に輝いている。昨年春にタイミングを逸して購入できなかった代物だったが、私が今回聴いているのは今流行のストリーミング「Qobuz」によってである。おそらくCDは又輸入品があるかどうかと言うところだと思う。最近はそんな傾向の続く状況が多い。まあストリーミングもそれなりの音質で聴けるので悪くはないのだが、なんとなくLPやCDを手にとって聴く習慣は未だに抜けない私でちょっと空しいのである。

 さて、このアルバムは1993年ポーランドのクラクフ出身の若きピアニスト、即興演奏家、作曲家、マテウシュ・パウカMATEUSZ PALKA(右上)が率いるピアノ・トリオ(ピョートル・ポウドニェク (bass,↓左)、パトリック・ドボシュ (drums,↓右))。パウカの音楽には印象派、後期ロマン派の精神が息づいていると言われており、ポーランド・ジャズのもっとも才能豊かなミュージシャンの一人として注目を集めているようだ。そしてポーランドの公共放送局『ポーランド放送(Polskie Radio/Polish Radio)』から音質にこだわったピアノトリオ作品として登場したもの。

 そしてこれはこのトリオのセカンド・アルバムとなる。注目点は、トリオ・メンバーが、詩、小説、絵画、自然、クラシック音楽、ジャズ音楽など、あらゆるものからインスピレーションを得ていることと、又音質的には最高を追求し、ポーランドの名手 Leszek Kaminskiが担当しているという点にもある。

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(Tracklist)

1.Czarodziejska Góra 3:39
2.Kora 4:46
3.a Paris 4:52
4.Introitus 4:24
5.Letter to Norah 3:33
6.Aria 3:52
7.Chiaroscuro 4:14
8.Solo 1:35
9.She Doesn’t Like Doing Homework 7:10
10.Leaving 5:44

 一口に言うと、如何にも音楽の国ポーランドというところで、非常にクラシックからの流れを感ずる演奏である

481230827_131263361647350tw  オープニングのM1."Czarodziejska Góra"の冒頭から、ピアノのみの演奏で硬質のクリーンなピアノの高音が響き、録音の良さを訴えてくる。そしておもむろにベース、ドラムスのサポートでメロディーが流れ、非常に美的で詩的な世界に導かれる。
 M2."Kora" 刺激のない語りにも近いピアノ、後半次第に盛り上がるも暴れることは無く非常に常識的範囲で流れる。
 M3."A Paris" ゆったりとしたピアノの美しいメロディー、ベース、ドラムスも刺激は示さずそのサポートに納まる。
 M4."Introitus" ちょっと異質な展開を見せる。初めてベースが主張しドラムスが助長しピアノが更に展開を高める。ちょっとコンテンポラリーさが出てきた。
 M5."Letter to Norah" 再び静かに状況を語り、続く M6."Aria" 初めてベース・ソロでスタート、これも静であり、ピアノに誘導して一層静かな心の安定を響かせる
 M7."Chiaroscuro" ここでもピアノが主体に絵画的美の世界が描かれる 。
 M8."Solo" 再びベースのソロで深い語り、M9."She Doesn’t Like Doing Homework" は、最も長い7分をを超える曲。ここも日常の情景の描きで流れる印象。後半に入ってドラムスの展開が初めて意味深く訴えてくる。
 M10."Leaving " ゆったりとそこに残ったものの美しさをピアノが訴えてくる。何かクラシックを聴き終わった気分にもなる。

 しかし聴いてみて大きな感動したと言う世界ではない。日常の美しい流れが描かれているのか、聴くに全く抵抗なく美しさと抒情性も溢れていて快感ではある。こうした世界は刺激がなくむしろ寂しいとも思われるが、聴いていてこれはこれで納得させられるところにある。深遠な苦しさの世界でもなく、哲学的に瞑想に入る訳でもなく、どこか詩的な世界と言っても美しさに誘導されているところが、若きミュージシャンとしては意外な感じもするが、今後の展開に期待は十分持てるメロディーの美しさの世界の好盤だと思う、推奨盤だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   90/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

 

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2025年4月17日 (木)

ヤニエル・マトス Mani Padme Trio 「The Flight-Voo」

創造的リズムで描く精神的な要素を表現して・・・・

<Jazz>

Mani Padme Trio 「The Flight-Voo」
(CD) Red Records / Import / RR1233492A / 2025

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Yaniel Matos (piano)
Sidiel Vieira (acoustic bass)
Ricardo Mosca (drums)

Recorded In THe Parede-Meia Studio In Sao Paulo, Brazil on 2 & 3 August 2015

 南米のバンドの「マニ・パドメ・トリオ」の作品。これはブラジルのドラマー、リカルド・モスカ(↓右)とキューバのピアニスト、ヤニエル・マトス(↓左)のラインナップに加え、今回はコントラバスのシディエル・ヴィエイラ(↓中央)が加わった。このトリオの音楽がこれまでの作品で追い求めてきたグルーヴをしっかりと保ちながら、さらに進化し、内容が豊かになったことを強調する3作目の作品である。私は初聴きのピアノ・トリオ。

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 録音は、2015年と10年前であるが、今回イタリアからのリリースで日本でも聴くことになったもの。
 ピアニストのヤニエル・マトスはブラジル人とキューバ人のハーフで、N.Y./サンパウロで活躍。モダン・キューバン・ジャズの表現力、奔放センス、 Herbie Hancock, Keith Jarretの洗練さ・・・これらを呑み込んだセンシティヴ・ラテン・ジャズを演ずると。ラテン・ピアニストならでは滑らかな指運びにトリッキーでいてロマンティックなコード・ワーク、そしてコンテンポラリーかつアーティスティックなアレンジで奏でられるCUBA & BRAZILIAN JAZZ コンテンポラリーの進化系の評価がある。彼のアルバムは過去に日本でもリリースされている。

 この南米のバンドは、12年間でわずか3枚のアルバムしか制作しておらず、それぞれの作品はリスナーに好評で批評家の評価も得ていると。2003年のデビュー作『Um DiaDe Chuva』は、創造的インスピレーションで溢れ固定観念を超越した音楽を生み出し、ジャズシーンの歓迎すべき変化として受け入れられ、その3年後、『Depois』は、ジャズへの独自のアプローチにおけるトリオのバイタリティを証明したと。今作はシディエル・ヴィエイラの加入で一段と安定感のある演奏になったと言われている。

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(Tracklist)

1. Partida (R. Mosca, S. Vieira, Y. Matos) 1:50
2. Gotas De Rocio (Y. Matos) 5:18
3. Cais (M. Nascimento, R. Bastos) 7:04
4. Compreensiva (S. Vieira) 8:41
5. Cimarron (Y. Matos) 4:54
6. Estrada Rural (S. Vieira) 5:54
7. El Vuelo (Y. Matos) 5:22
8. Farofa (Y. Matos) 5:00
9. Rosa Morena (D. Caymimi) 5:14

 ブラジルのみで発売されていたこのアルバムが、今回ヨーロッパで初めて発売され日本に入ってきた経過だが、なるほど印象として意外にもヨーロッパ的なコンテンポラリーの世界が感じられる。
 そしてこのトリオの名前も重要で「Om Mani Padme Hum、「宝石と蓮を身に着ける人」は、慈悲深い仏陀(Chenresig)の世界です。Omは身体の浄化を、Maは言語を、Niは心を、Padは感情を、Meは潜在意識を、Humは知恵を」を表しているということだ。この特定のマントラ(Mantraとは、サンスクリット語で「言葉」「音」「詠唱」を意味する言葉で、心を整える働きがある。宗教的には讃歌や祈りを象徴的に表現した短い言葉)に関連して名前を選択することは、精神的な要素にあることを示している。そんな世界から彼らの作り上げるアルバムに心を馳せなければいけないし、それに足る十分な響きを聴かせている。

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 M1."Partida "はオープニング宣言のようなもので、新加入のコントラバスを効かしたトリオメンバーの即興曲
 マトスの曲M2." Gotas De Rocio"(露のしずく)は、美しい繊細なピアノのメロディーが流れ心を奪われる
 M3."Cais " ピアノが神聖な世界を描き、中盤からクラシックの世界、後半はドラムスが響きジャズがが襲ってくる
 M4."Compreensiva "ピアノの流れと、ベースの響き、そしてドラムスとピアノの共鳴で広い世界への旅立ちの様だ
 M5." Cimarron "は荒々しいスタートであるが、一転して美しいリズムカルな流れに
 M8."Farofa"で初めてキューバ色が描かれて郷愁が支配、トリオは開放的な世界を描く。最後のM9." Rosa Morena"は、オリジナルではないが、ゆったりと重いベース、静かに心を一つにまとめる。

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 ブラジル、キューバなど我々が持つ華やかで開放的でリズムが展開するイメージとは全く異なった世界で、究極ヨーロッパ的な精神的な世界を求める美旋律の流れとともに、クラシック的な面を持ちながら創造的リズムでコンテンポラリーな面をしっかり描くところの近未来的ジャズ・アルバムに仕上がっている。マトスのピアノは繊細で美しい音色で自由にメロディーを作り出している。ヴィエラのベースはオーソドックスな響きで効果的なメロディーとリズムのサポートとともに曲のリードにも対応する。モスカは洗練されたダイナミックなリズミカルな推進力を位置付けている。
成程、10年前のものを敢えてヨーロッパから再リリースした意義が十分理解できたところであった。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 

 

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2025年4月12日 (土)

レシェック・モジュジェル leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」

冷徹ともいえるソリッドで透明のピアノ革新音が、神秘的な新音楽空間を造る
(歴史的新音楽)

<Contemporary Jazz>

leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」
ACT / Import / ACT90652 / 2025

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Leszek Możdżer – piano
Lars Danielsson – double bass, cello, viola da gamba
Zohar Fresco – drums, percussion

Img_7694w  ジャズ界において、その芸術性を語るのは私のような単なる音楽リスナーにとってはなかなか難しいことだ。長くクラシック、ポピュラー、ロック、ジャズなどなど多くを聴いてきての愛好者ということであって、その芸術性なり音楽学問的な世界にはいないということだ。ただ従来の世界から一歩コンテンポラリーな世界に足を踏み込んでいるという感覚で聴けるミュージックもある。そんな感覚で捉えられるのがこのポーランドの私の注目のピアニストのレシエック・モジュジェルLeszek Możdżer(⇢)である。そして又してもここにダニエルソンLars Danielsson(スウェーデン ↓左)のコントラバスとヴィオラ・ダ・ガンバの共鳴と、フレスコZohar Fresco (イスラエル ↓右)の複雑なリズムのドラムスとパーカッションの深みとのトリオ作品が登場した。

 このアルバム『Beamo』は、このトリオでの前作『Passacaglia』(2024年)に続いての発展させたもののようだが、もう十数年前に感動してここで取り上げた作品『THE TIME』(2004)以来20年の経過での記念的作品で、私にとってはそれ以来離れられないトリオであり感動的であるのだ。又モジュジェルの挑戦はこのトリオばかりでなくAdam Baldychとの『Passacaglia』(ACT9057,2024)などの芸術性の評価が高いモノが多い。

 そして今回の注目点は私にはその挑戦が音楽的に評価ができないのだが、モジュジェルが3つの異なる調律のピアノ(A = 440 Hz、A = 432 Hz、デカフォニックスケール)を同時に使用したことで、「伝統的な調性を興味深く不安定でありながらも深く美しいものへと作り変えている」との専門的評価を得ている事である。

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(Tracklist)

1.AMBIO BLUETTE – LESZEK MOŻDŻER
2.CATTUSELLA – LARS DANIELSSON
3.BEAMO – LESZEK MOŻDŻER
4.KURTU – LESZEK MOŻDŻER
5.LINKABILITY – LESZEK MOŻDŻER & LARS DANIELSSON
6.BRIM ON – LESZEK MOŻDŻER
7.GILADO – LESZEK MOŻDŻER
8.APPROPINQUATE – LESZEK MOŻDŻER
9.DECAPHONESCA – LARS DANIELSSON & LESZEK MOŻDŻER
10.FURD’OR – LESZEK MOŻDŻER
11.JACOB’S LADDER – ZOHAR FRESCO
12.ELIAT – LARS DANIELSSON
13.ENJOY THE SILENCE – MARTIN GORE

 むしろ冷徹なソリッドと言える上に透明で素晴らしいピアノの音を響かせるモジュジェルのピアノ・ジャズ世界が挑戦した「彼らの特徴的なヨーロッパ的なリリシズムに根ざした『Beamo』」は、"クラシカルなエレガンスと実験的な革新を融合させ、ミステリアスでありながら親しみやすいサウンドスケープを作り出している。これぞ、コンテンポラリージャズの変革的な旅だ"と表現しているのを見るが、まさにそんなアルバムで、コンテンポラリーな世界でありながら不思議に聴きやすいところが特徴だ。
 ある説明では、「ピアニストを囲むように配置された3台のグランドピアノはそれぞれA=440Hz、A=432Hz、そしてもう一つはオクターヴを10の等間隔に分割する特殊な調律(デカフォニック)のもの、自在にそれらの鍵盤を行き来することで驚くほど色彩豊かな音の世界を表現している。調律(基準周波数)の微妙に異なるピアノでユニゾンすることで意図的にデチューンの効果を得たり、1音を異なるピアノで交互に弾くことでその周波数の微妙な差異によって不思議な浮遊感を生み出したりと、ひとつの曲の中でいくつもの調性が同時並行で共存しているような、これまでに聴いたこともない音で聴覚を大いに刺激される。ということなのである。そのあたりの音楽的なポイント(平均律の音楽性の特徴など)や芸術的な複雑性は解らずに、私には単に音楽としての音とその兼ね合いとメロディーを聴くだけでの世界だが、相変わらず彼のピアノの調べには引き付けられてしまうのである。

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 M1."AMBIO BLUETTE" まさに深淵なリズム、夢想的で実験的世界がベースの柔らかさとピアノのソリッドの副雑音の調整が聴きどろ 。
 M2. "CATTUSELLA"ダニエルソンの美しい曲を二重の調律の異なるピアノでむしろ爽快に。
 M3."BEAMO" アルバム・タイトル曲でどこかミステリアス。M4."KURTU"はドラムが流れをつくり、透明感と複数のピアノのユニゾンによる浮遊感。中盤のピアノのインプロビゼーションの緊張感。M9."DECAPHONESCA"では、ダニエルソンはヴィオラ・ダ・ガンバ1を弾いていて、モジュジェルの世界的話題のデカフォニック・ピアノ(彼の開発した10音音階のもの)と同様に十平均律にチューニング、奇妙に響く奏法(アルペジオ)でピアノと競演するという芸を披露。
 こんな調子で、異空間のミステリアスな響きでクラシカルな世界と未知の近未来的世界が融合した感覚になるところも面白く、驚きの世界に没入してしまう。
 ラストはM13."ENJOY THE SILENCE"は英国ロックバンドの曲を取り上げて、むしろぐっと落ち着いた世界に導き、未知なるスリリングな挑戦から静かな展望への美しいピアノの音で締めくくり納めるという憎いアルバム構成。

 いまやジャズ世界も複雑な世界に広がっているが、欧州系で発展しつつあるコンテンポラリーな世界も、基本的にはクラシックの世界から発展している基礎の上で造られていて、音楽的な評価が高まっているのも聴きどころであり、古来のアメリカン・ジャズとは全く異なった様相になりつつあるところも見逃せないところだ。
 又このアルバムの従来の音楽に対しての革命性も今後話題として語りつかれるところは必至であろう、貴重である。

 

(評価)
□ 曲・演奏 : 95/ 100
□ 録音   : 90/ 100

(試聴)

 

(参考)Leszek Możdżer 略歴 (ネットより)
 ピアニストのレシェック・モジジェルは1971年ポーランドのグダニスク生まれ。幼少期から音楽に親しみ、5歳でピアノを始め、クラシック音楽の基礎を築いた。グダニスク音楽アカデミーでクラシックピアノを専攻し、1996年に卒業するが、在学中からジャズに強い関心を抱き、独自のスタイルを模索し始める。  1991年にポーランドを代表するサックス奏者ズビグニエフ・ナミスオフスキ(Zbigniew Namysłowski)のバンドに参加し、プロのジャズピアニストとしてのキャリアをスタートさせる。この時期に彼は伝統的なジャズとポーランドの民族音楽、クラシックの要素を融合させた独自の音楽性を確立し、1994年には初のソロアルバム『Impressions On Chopin』をリリース。ショパンの作品をジャズ風に解釈したこの作品は、彼の革新的なアプローチを示すものであり、批評家から高く評価された。
 2004年からラーシュ・ダニエルソンとゾハール・フレスコとのトリオ活動を開始し、『The Time』(2005年)や『Pasodoble』(2007年)、『Polska』(2013年)といった名盤をリリース。このトリオは20年以上にわたり彼の主要な表現の場となり、2025年の『Beamo』でさらなる進化を見せた。
 映画音楽の作曲などの巨匠クシシュトフ・コメダ賞(1992年)やポーランド外務大臣賞(2007年)などを多数受賞。名実ともにポーランドを代表するジャズ・ピアニストとなっている。

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2025年4月 7日 (月)

カーステン・ダール Carsten Dahl Golden Ratio Trio 「Interpretations The Norway Sessions」

音楽の深さへの誘いといえる世界を描く

<Jazz>

Carsten Dahl Golden Ratio Trio 「 Interpretations The Norway Sessions」
(CD) Storyville Records / Import / 1014363 / 2024

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Carsten Dahl (piano)
Daniel Franck (bass)
Jakob Høyer (drums)

[1-6]: Musikloftet AS, Oslo, Norway, Vidar Lunden, January 7, 2023
[7-12]: Thor Neby Studio, Oslo, Norway, Thor Bjørn Neby, March 12, 2024

Imagesw1  デンマークのピアニスト、カーステン・ダール(1967 -)(→)率いるピアノ・トリオの新作アルバム。彼についてはここで数年前に取り上げたが、その演ずるところのクラシック音楽から受けたであろうところ(バッハからラフマニノフと言う名が出てくる)とアグレッシブなジャズへの挑戦的なアプローチの両面の緻密にして美しさのある演奏には驚きを隠せない。つまり叙情的な処と、攻めの因子の調和が凄い。今回もそれを十分に堪能できるものとして受け入れた。

 彼のその特徴は、ドラムスとピアノの両方を幼少期から演奏し、そして学んできたという経過が生んだモノかも。そして2015年までデンマークの新文化院でピアノを教えていたが、「芸術が本当に何であるかを理解するための精神的で高度に宗教的なアプローチが、学校のプログラムの一般的な考え方と一定の対立を引き起こした」そのため、辞任したと述べているようだ。1982年にジャズ・ミュージックのプロになつてから現在まで多くのアルバムに演奏の姿を残しているが、一方なんと画家としての活動もあるようだ。
 その為か、彼の音楽に述べるところは「絵が解釈を指示し、ミュージシャンが単に絵の具と絵筆の役割を果たす小さな絵画」に例えていて、そして「この『Interpretations』は、リスナーが新しく深い方法で音楽と関わるように促します。行動と一時停止、期待と驚きの微妙なバランスこそが、この音楽を真に繁栄させるのです」と、なかなか難しい話をしている。

 なおトリオはスウェーデンのベーシスト、ダニエル・フランク(↓左)とデンマークのドラマー、ヤコブ・ホイヤー(↓右)と組んでいる。

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(Tracklist)

1. Interpretations
2. Morgonsang
3. Kristallkorall
4. The Golden Ratio
5. Vacker
6. Open Window
7. Wind
8. Sound of the Waves
9. Birds
10. The Art of Thinking
11. All Will Be Fine, Mother
12. Monk'ish Dancesteps
13. Breathing

[1-6]: Musikloftet AS, Oslo, Norway, Vidar Lunden, January 7, 2023
[7-12]: Thor Neby Studio, Oslo, Norway, Thor Bjørn Neby, March 12, 2024

  さて、こうして聴いてみると、このアルバムは2つの異なるレコーディング・セッションによって構成されていて、M1.からM6.の最初のセッションは美しく深淵な世界から真摯にして美的世界が描かれるが、M7.からM12.の2番目のセッションは、より生々しく、よりアグレッシブにして動と静が入り乱れ二面性によって音楽が築かれる。この様には説得力があり、描くところ繊細にしてスリリングな曲展開に圧倒される。

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   M1. "Interpretations" ダールの言う"解釈"と言う意味だろうか、三者によるアルバム・タイトル曲で、それぞれが如何に進もうとするかと言う主張とガイドが示されているのか、メロディーよりそれぞれの響きと音が絡み合う。
 M2. "Morgonsang" 優しさの溢れる示唆に満ちたピアノの響き、M3. "Kristallkorall" さらに深遠な世界に真摯に流れ、M4. "The Golden Ratio"でべースが深く沈むが、ピアノは決して暗くならずに静かに語る
 そしてM5. "Vacker" どこか心にゆとりを持って明るく新鮮な世界広がる。そしてM6. "Open Window"にて、希望に満ちた豊かさを描かれ、ここまでで最初のセッションは締めくられる。

 続く後半次のセッションにM7. "Wind"が展開する。ここからはガラッと変わってアグレッシブな攻めの前衛的響きが展開。そしてM8. "Sound of the Waves"ここでは異様なほどの静粛空間が襲う。ベースが刻むところからピアノが呼応し、ドラムスのブラッシングの音が、更に不安に導く。
 M9. "Birds"で再び前衛的響きが不安に進行展開し、三者のアグレッシブなインプロの交錯が見事。
 M10. "The Art of Thinking" 描くところ美旋律は無く、響きによる一つのアートに描き上げる、M11. "All Will Be Fine, Mother"テンポはゆったりとなって疑問から一つの光明に歩み始める。
 M12. "Monk'ish Dancesteps"再び荒々しさが・・・そしてM13. "Breathing"の落ち着いた世界が築かれる。

 いずれにしても、この一枚のアルバムの中で作り上げる"動と静"と"美とスリリングな不安"の対比が、クラシック音楽の世界からアヴァンギャルドな因子の感じられるジャズの攻めとの展開に圧倒されて、あっという間に終わってしまう感覚になる。ホイヤーのドラミングは繊細にして刺激的、フランクのベースは深く心に響く、ダールの叙情的美とスリリングな前衛性の二面のピアノとのトリプル作用が、描くところ新鮮だ。相変わらずカーステン・ダールの音楽的芸術性の奥深さに堪能するアルバムであり、音楽の深さへの誘いでもある。

(評価)
□ 曲・演奏  :    90/100
□   録音    :    88/100

(試聴)

 *

 

 

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2025年4月 2日 (水)

ブランフォード・マルサリス Branford Marsalis Quartet 「 Belonging」

二番煎じも面白い ・・・調和がテーマか

<Jazz>

Branford Marsalis Quartet 「 Belonging」
Universal Jazz ,  Blue Note / Import / UCCQ-1217 / 2025

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Branford Marsalis (sax)
Joey Calderazzo (piano)
Eric Revis (bass)
Justin Faulkner (drums)

Produced by Branford Marsalis
Recorded by Rob "Wacko" Hunter at the Ellis Marsalis Center for Music,New Orleans,LA on March 25-29,2024

Branfordmarsalisheadshot   サックスなどのものはあまり聴かない私でも知っているテナーやソプラノ・サックスで有名なブランフォード・マルサリスBranford Marsalis (1960 -, 米国ルイジアナ州出身, ⇢)のピアノ・トリオとのカルテットでのアルバム『 Belonging』がリリースされ話題になっているので、焦点をあてる。彼は歴史的にもアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズとかマイルス・デイヴィス・グループのメンバーなどでも知るところである。

 私が注目したのは、このアルバムはなんとマルサリスの6年ぶりのニューアルバムであり、それが1974年に我が愛するキース・ジャレット(↓)がヨーロピアン・カルテットでECMから発表した名盤『BLONGING』(ECM, 1974)(↓)にそっくりそのまま丸々取り組んだ作品ということである。キースは、2018年の2度の脳卒中による左半身まひで、公演活動への復帰が難しいことが明らかになってもう数年になり寂しい思いでいるわけだが、そんな時に話題になることをしてくれたと、ある意味では歓迎しているのだ。

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 このカルテットはピアニストのジョーイ・カルデラッツォ(↓左)、ベーシストのエリック・レヴィス(↓中央)、ドラマーのジャスティン・フォークナーをフィーチャー(↓右)した、評価の高い長年の「ブランフォード・マルサリス・カルテット」である。そもそも前作『The Secret Between the Shadow and the Soul』にキースの『Belonging』に収録されている曲"The Windup"を入れようと決めたときにアルバムを聴いていて感動し、レヴィスが『ビロンギング』を丸々レコーディングすればいいと言ったとか、その結果が、ここに結実したということだ。

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(Tracklist)

1.Spiral Dance
2.Blossom
3.‘Long As You Know You’re Living Yours
4.Belonging
5.The Windup
6.Solstice

  マルサリスに言わせるとレコーディング時に初めて招集され、後に1970年代を代表するグループとなったジャレットのバンドとは異なり、このマルサリス・カルテットはレヴィスは1996年、カルデラッツォは1999年、フォークナーは2009年に加入しており、互いの音を聴き、反応する能力はレベルが高い。重要なポイントは、カルテットとしての形での時間が与えてくれた教訓だという。「私たちの最大の利点は、キースのバンドが持っていなかった50年分の情報と、その共有された経験を処理する能力だと思う」と。つまりカルテットとしての調和の完成度を挙げているのだろう。

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 私はこのキースのこのアルバムで好きなのはやはりバラードもので、サックスも落ち着いた情感を静かに聴かせてくれるところだった。従ってどうしてもマルサリスのこのアルバムでも M2."Blossom"、M4.".Belonging"、M5."Solstice"が注目点であったが、その充実度はさすがにレベルが高い。M4.のピアノも美しいし、これら3曲でのマルサリスのサックス・ソロもカルテットという調和の中で生きていて見事。録音も充実感がありそれも加味して訴えるところは大きい。
 しかし彼のいう「調和」と言う命題の追及は、むしろM3."‘Long As You Know You’re Living Yours"のように、アレンジを加えたり、M5."The Windup"のように、サックスがソプラノでなくてテナーで頑張って見せたりという処をみると、思い入れはそちらにあったようにも聴ける。

 アルバムごとのカヴァーは珍しいが、それだけ彼らは感動したものであるだけに、真似事に終わらず自分たちの世界に描きたくなったことはミュージシャンとして一つの挑戦なんだろうなぁと聴き入った次第。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 : 90/100
□   録音       : 88/100
(試聴)

 

 

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