リンダ・メイ・ハン・オー Linda May Han Oh 「Strange Heavens」
コードレス・トリオでスリリングな演奏を展開
<Contemporary Jazz>
Linda May Han Oh 「Strange Heavens」
BiophiliaRecords / Digital Album (Flac)
Linda May Han Oh – electric & acoustic bass, voice
Ambrose Akinmusire – trumpet
Tyshawn Sorey – drums
またしても問題作の出現。CDリリースが無いのか、ストリーミングで聴いているアルバム。これはマレーシア出身でオーストラリア育ちのベーシスト/作曲家リンダ・メイ・ハン・オー(Linda May Han Oh,1984-)の前作2023年『The Glass Hours』以来のいよいよ円熟期に入っていこうとしている40歳に入っての2025年新譜だ。昨年にはVijay Lyerの『Compassion』(UCCE-1204/2024)での活動に着目したが、相変わらずのスリリングな演奏で、このアルバムでも迫ってくる。
この作品は、彼女のデビー作『Entry』(2009)と同様での原点回帰か、所謂コードレス・トリオ(ピアノやギターといった和音楽器を欠いた編成)での演奏で、ジャズ演奏のちょっと異端にして神髄に迫るとも言えるグルーヴ感もたっぷりの世界だ。彼女のベースに加えての共演者は、以前からも共演しているトランペッターのアンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire, 1982-)(↓右)とドラマーのタイショーン・ソーリー(Tyshawn Sorey)(↓左)という現代ジャズ界を突っ走っている彼らを迎えていて、共に非常に親密な演奏を繰り広げていて期待が大きい。
Track Listing:
1. Portal
2. Strange Heavens
3. Living Proof
4. Acapella
5. The Sweetest Water
6. Noise Machinery
7. Home
8. Paperbirds
9. Folk Song
10. Work Song
11. Skin
12. Just Waiting
コードレス・トリオとしての威力が発揮されて、ベース奏者のリンダ・オーにとっては、トリオとしてのドラムスと共に対等な立場に出て、自己の企画された意志を表現しているように思う。それはトランペットのソロ楽器奏者アキンムシーレにとっても自己のメロディーの流れでリードできるところが、主張しやすいと同時に、ベース、ドラムスと対等にリズムを刻むことも出来て互いのインプロの意義が大きくなってスリリングな展開にも至りやすい事を助長する役目を楽しんでいる。特にこのアルバムでは三者が会話型ジャズを楽しんでいるようにも聴ける。
そして生まれる流れは、かなり奥深く現代社会に問題意識を持って切り込んでゆくスタイルを作り上げ、しかもそれにはジャズというものをコンテンポラリーに構築するグルーヴ感も見事で楽しめる。
まず導入のM1."Portal"では、今日のソーシャルメディアのストレス誘発的な性質に触発されたといわれる曲で、リンダ・オーのベースの自由自在な展開が聴ける。ドラムスは緊張感を生むに十分の演奏で、トランペットが訴えを描きかなりスリリングな展開。
テーマのM2." Strange Heavens" 悲観的社会と無気力現代人批判らしいが、新たな可能性への希望を確信のベース音。
M3." Living Proof"は、"生きる証"ということらしいが、移民の苦労の中で生きてきた母親の強さというパワーを描く演奏、反抗と自己主張の表現。
M5."The Sweetest Water"は三者それぞれの表現の尊重される曲。鋭いベースワークとドラムスの支えに澄んだトランペットがメロディを奏でて迫る。M6."Noise Machinery"の重厚なベース音に堪能。
M7."Home"-M10."Work Song"は、移民が新しい国で直面する挑戦と適応の物語を語る彼女のオリジナル曲。彼女のこれまでの人生での経験を重低音でリアルに演ずる。
M12."Just Waiting"(ただ待っているだけ)melba Listonのソウフルなバラード曲でアルバムを閉じる。
こうしたジャズの世界で、社会問題をテーマに描くという技能は、ヴォーカルの無い曲においては、それなりに卓越したモノが要求されると思う。それをベース奏者である彼女にとっては、"コードレス・トリオの再展開という手法で"と言うところに至ったのかもしれない。ジャズの味を決して失わないというよりは、むしろ逆にそのグルーヴ感を高めたこの世界の構築はお見事であった。今年の問題作の一つだ。
(評価)
□ 作曲・編曲・演奏 90/100
□ 録音 88/100
(試聴)
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