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2025年8月31日 (日)

リンダ・メイ・ハン・オー Linda May Han Oh 「Strange Heavens」

コードレス・トリオでスリリングな演奏を展開

<Contemporary Jazz>

Linda May Han Oh 「Strange Heavens」
BiophiliaRecords / Digital Album (Flac)

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Linda May Han Oh – electric & acoustic bass, voice
Ambrose Akinmusire – trumpet
Tyshawn Sorey – drums

  またしても問題作の出現。CDリリースが無いのか、ストリーミングで聴いているアルバム。これはマレーシア出身でオーストラリア育ちのベーシスト/作曲家リンダ・メイ・ハン・オー(Linda May Han Oh,1984-)の前作2023年『The Glass Hours』以来のいよいよ円熟期に入っていこうとしている40歳に入っての2025年新譜だ。昨年にはVijay Lyerの『Compassion』(UCCE-1204/2024)での活動に着目したが、相変わらずのスリリングな演奏で、このアルバムでも迫ってくる。
 この作品は、彼女のデビー作『Entry』(2009)と同様での原点回帰か、所謂コードレス・トリオ(ピアノやギターといった和音楽器を欠いた編成)での演奏で、ジャズ演奏のちょっと異端にして神髄に迫るとも言えるグルーヴ感もたっぷりの世界だ。彼女のベースに加えての共演者は、以前からも共演しているトランペッターのアンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire, 1982-)(↓右)とドラマーのタイショーン・ソーリー(Tyshawn Sorey)(↓左)という現代ジャズ界を突っ走っている彼らを迎えていて、共に非常に親密な演奏を繰り広げていて期待が大きい。

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1. Portal
2. Strange Heavens
3. Living Proof
4. Acapella
5. The Sweetest Water
6. Noise Machinery
7. Home
8. Paperbirds
9. Folk Song
10. Work Song
11. Skin
12. Just Waiting

  コードレス・トリオとしての威力が発揮されて、ベース奏者のリンダ・オーにとっては、トリオとしてのドラムスと共に対等な立場に出て、自己の企画された意志を表現しているように思う。それはトランペットのソロ楽器奏者アキンムシーレにとっても自己のメロディーの流れでリードできるところが、主張しやすいと同時に、ベース、ドラムスと対等にリズムを刻むことも出来て互いのインプロの意義が大きくなってスリリングな展開にも至りやすい事を助長する役目を楽しんでいる。特にこのアルバムでは三者が会話型ジャズを楽しんでいるようにも聴ける。
 そして生まれる流れは、かなり奥深く現代社会に問題意識を持って切り込んでゆくスタイルを作り上げ、しかもそれにはジャズというものをコンテンポラリーに構築するグルーヴ感も見事で楽しめる。

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 まず導入のM1."Portal"では、今日のソーシャルメディアのストレス誘発的な性質に触発されたといわれる曲で、リンダ・オーのベースの自由自在な展開が聴ける。ドラムスは緊張感を生むに十分の演奏で、トランペットが訴えを描きかなりスリリングな展開。
 テーマのM2." Strange Heavens" 悲観的社会と無気力現代人批判らしいが、新たな可能性への希望を確信のベース音。
 M3." Living Proof"は、"生きる証"ということらしいが、移民の苦労の中で生きてきた母親の強さというパワーを描く演奏、反抗と自己主張の表現。
 M5."The Sweetest Water"は三者それぞれの表現の尊重される曲。鋭いベースワークとドラムスの支えに澄んだトランペットがメロディを奏でて迫る。M6."Noise Machinery"の重厚なベース音に堪能。
 M7."Home"-M10."Work Song"は、移民が新しい国で直面する挑戦と適応の物語を語る彼女のオリジナル曲。彼女のこれまでの人生での経験を重低音でリアルに演ずる。
 M12."Just Waiting"(ただ待っているだけ)melba Listonのソウフルなバラード曲でアルバムを閉じる。

 こうしたジャズの世界で、社会問題をテーマに描くという技能は、ヴォーカルの無い曲においては、それなりに卓越したモノが要求されると思う。それをベース奏者である彼女にとっては、"コードレス・トリオの再展開という手法で"と言うところに至ったのかもしれない。ジャズの味を決して失わないというよりは、むしろ逆にそのグルーヴ感を高めたこの世界の構築はお見事であった。今年の問題作の一つだ。

(評価)
□ 作曲・編曲・演奏  90/100
□ 録音        88/100

(試聴)

 *

 

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2025年8月26日 (火)

ブラッド・メルドー SOLO CONCERT(Montpellier) & BRAD MEHLDAU TRIO (Gilmore Fes.2025)

<Brad Mehldau のニュー・アルバム>
「RIDE INTO THE SUN」
Warner Music Japan / JPN / WPCR-18764 /2025

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 コンテンポラリー・ジャズ・ピアノ界で今や泣く子も黙るパワーのあるブラッド・メルドー、ジャズからクラシック、そしてポップスやロックの魅力をクラシックにも通じた感覚の彼の音楽に対して深い解釈で探求しながら、ジャズ・シーンに大きな影響をもたらしつつ活躍中だ。

 そんな現代ジャズ探求の道の中で待望のニュー・アルバムの登場、其れがなんと過去に共演したことのあるインディー・ロックのシンガー・ソングライター、エリオット・スミスの楽曲(10曲)を、メルドーのセンスを生かした独自の解釈で編曲したソングブック的作品『RIDE INTO THE SUN』(↗)(スミスの曲からインスピレーションを受けたというオリジナル4曲も)である。メルドーは「エリオット・スミスは、独特のハーモニーを通してだけではなく、明暗の融合を巧みに表現する稀有な才能の持ち主だった」と語っている。

 今月末に一般にお目見えだが、何個かの曲が既に聴ける。スミスの代表曲"Between The Bars"は、トリオもので美しい演奏で良いのだが、"Tomorrow Tomorrow"、"Southern Belle"は、男性ヴォーカルもの(feat.Daniel Rossen)であり、又"Better Be Quiet Now"は、前半は優しく美しいフォーク調ピアノソロ、このままの方が私は良いのではと思うが、中盤からストリングス・オーケストラなどが入り、ポピュラー・ミュージックなタイプ。"Colorbars"は、マンドリンと男性ヴォーカルもの。・・・・こんな調子で、どうも私の最も期待するところのアコースティックなジャズ・ピアノ・トリオ・アルバムとは言い難い。
 このようにオフィシャル・リリースものでは、彼の探求と実験が続いていているのだ。そんなこともあって、むしろ近年は、世界各地での彼のライブものがプロ収録でどんどん準オフィシャルに出て来るので、ついそちらの方に私は寄っていってしまう。彼の純粋な(ちょっと変な言い方だが)ジャズは、なかなか難解もあるが、やはり魅力はトップ・クラス、そこでこのところはブートものでむしろ満足しているのである。

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(以下はブートによる最近のBrad Mehldauのライブもの)

<Contemporary Jazz>
(この7月収録もの)
BRAD MEHLDAU 「SOLO CONCERT IN MONTPELLIER 250709」
STARGAZER'S / CD /FILE NUMBER 00508 / 2025

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Brad Mehldau : Piano
Recorded Live at Domain d'O.Montpellier,France.July 09.2025

 今年2025年来日後のユーロ・ツアーでのついこの間の7月9日、フランスでのソロ・コンサートが行われ、その模様がフルに収録されている。リリースがなんと1ケ月後には、と言う早さで良いですねぇ・・・。サウンドボード収録での良質音源でFMオンエアーされたもののマスターからで、音質はブートとしては良質。中身は彼のかなりリラックスしたピアノ・ソロもので、主たるは所謂ジャズ・スタンダードでなくロック、ポップスものを編曲してジャズ仕上げしたモノで、なかなか楽しい。ジャズの一つの道を開拓している彼のソロモノと言うことだが、多彩な鍵盤の音で飽きさせないどころか、不思議に聴き入ってしまう。"Sweet Adejine"のテクニックは見事であり、ビートルズの曲"Baby's In Black","And I Love Her"などなかなか良いし、ニルバーナ"Smells like teen Spirit"、ビリ-・ジョエル"VIENNA"なども聴き処が多い。
 (曲目は下記)
Soundboard Recording (DISC 1) : 1. OPTIMISTIC 2. ST. ANNE'S REEL 3. ALREADY DEAD - SWEET ADELINE 4. TRAILER PARK GHOST - GOLDEN LADY 5. BABY'S IN BLACK - SMELLS LIKE TEEN SPIRIT     (DISC 2) : 1. AND I LOVE HER 2. INCHWORM 3. VIENNA 4. LITHIUM 5. WHEN I FALL IN LOVE

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<Contemporary Jazz>
(来日メンバーのトリオもの)
BRAD MEHLDAU TRIO 「GILMORE INTERNATIONAL PIANO FESTIVAL 2025」
   STARGAZER'S FILE Number 00509 / 2025

CD(2) : EXCELLENT Soundboard Recording // 80 min
Blu-Ray(1) : PRO-Shot / Full HD (1920x1080) 16:9 / Dolby Digital Stereo / 88 min

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Brad Mehldau - piano
Christian McBride - double bass
Marcus Gilmore - drums

Recorded Live at Gilmore International Piano Festival, The Gilmore, Kalamazoo, MI, April 13, 2025

  こちらは、今年の来日前のブラッド・メルドウの期待のトリオでのライヴ音源。2025年(2024年か?)の「ギルモア・インターナショナル・ピアノ・フェスティヴァル」での音源(CD)とプロショット映像(Blu-ray)のカップリング収録されている。一緒にツアーをすることはめったにないグラミー賞受賞ジャズアーティスト3人による特別なコラボレーションであり、日本公演でも大歓迎された。
 このライブは、Cole Porterの"Anything Goes"からスタート、静かな自信のにじむステージ模様と、とにかく演奏に隙が無い、そしてそれぞれのパートからソロ演奏まで緻密な演技に圧倒される。三者のインタープレイにおいても緻密にして流れが見事でありながら、それぞれの個性もちゃんと出しているところはさすがであり素晴らしい。

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 私にとっての目玉はスタンダードのイタリアの"EATATE"だ。お気に入りの曲だけに何度も聴いてしまう。この演奏に於いてもメルドウのパッサージ・ワークがずば抜けていることが解る。そしてビル・エヴァンスの"Young and Foolish"のバラード演奏が良いですね。
   このトリオは、「マクブライドが特徴的な音色とメロディーラインでリードし、メルドーがハーモニーのアイデアを拡張し、ギルモアが複雑で反応の良いリズムを加える」と評価されている。まあメルドーの曲構造の構築がすばらしくマクブライドのメロデックさとギルモアの緻密な反応の良いリズムとで魅了している。最後の"Thank of One"は、三者のバランスが良いですね。
 (参考)
 ☆マクブライドChristian McBride(米、1972-)=インサイド・ストレートやクリスチャン・マクブライド・ビッグ・バンドなどのアンサンブルを率いる。実験的で自由奔放なジャズをも演ずる。ファンク、ソウル、ラテン、ヒップホップ、リズム&ブルースなど。
   ☆ギルモアMarcus Gilmore(米、1986-)=象徴的なドラマー、ロイ・ヘインズの孫。祖父譲りのエッジの効いたサウンドとヴァラエティに富んだトリッキーなプレイで、新世代ドラマーとして共演者から注目を浴びる。チック・コリアと共演。ヴィジェイ・トリオのメンバー。

  又、このライブ映像はYouTubeで公開されていて、すこぶる好評だが、良好音質でのCDで別に聴くのもオツなもの。

(Tracklist) 
(CD / DISC 1) 1. ANYTHING GOES 2. SOLID JACKSON 3. AT A LOSS 4. GRAVY TRAIN
(CD / DISC 2) 1. ESTATE 2. CODEX 3. YOUNG AND FOOLISH 4. THINK OF ONE
(Bru-Ray) 1. Warm-Up 1. ANYTHING GOES 2. SOLID JACKSON 3. AT A LOSS 4. GRAVY TRAIN 5. ESTATE 6. CODEX 7. YOUNG AND FOOLISH 8. THINK OF ONE 

(試聴)

 

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2025年8月22日 (金)

ゴーゴー・ペンギン Gogo Penguin 「Necessary Fictions」

現代ジャズの道に新展開を試みたアコースティック、エレクトロニック・サウンド

<Contemporary Jazz, Electronic>

GoGo Penguin 「Necessary Fictions」
XXIM RECORDS / IMPORT / CD / 規格番号 19802899702 通販番号 1009036741/2025

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Chris Illingworth(p)
Nick Blacka(b)
Jon Scott (d)
Daudi Matsiko(Vo)
Rakhi Singh(Vn) & Manchester Collective

  私も注目してきたクラシックがベースにありながら、ジャズ、ロックの多様性を構築し、更にエレクトロニックカルチャーやクラブカルチャーの味付けにミニマム・ミュージック感覚を導入し演じ、世界的に広く歓迎されてきたGoGo Penguin。それはダンスフロアから一方、叙情性のある思索的であり瞑想的な世界にまで通ずる色彩豊かな音楽を作成し、ピアノ・トリオ構成の中で、アコースティックと現代エレクトリックの双方という新領域を構築してきた。

 このGoGo Penguinは2009年に英国マンチェスターで結成され、2012年デビューアルバム『ファンファーレFanFares』をリリースし、オリジナル・メンバーであるピアノのクリス・アイリングワースChris Illingworth(↓右)とドラマー・ロブ・ターナーRob Turnerに2013年初旬にニュー・ベーシスト、ニック・ブラッカNick Blacka(↓中央)が加わり一時代を築き彼らの人気も安定し経過した。しかしその後2021年12月ロブ・ターナーの脱退、新ドラマーにジョン・スコットJon Scott(↓左) が加わり、アルバム『Everything Is Gonna Be OK』(2023)のリリースを経て今回のアルバムのリリースだ。

 非業の経過となつたE.S.Tを率いるエスビョルン・スヴェンソン(Esbjörn Svensson)やブッゲ・ヴェッセルトフト(Bugge Wesseltoft, バンドNew Conception of Jazz)といった現代ジャズの評価を勝ち取ってきた彼らに続いて、やはり旧来のトリオ・ジャズの上に現代の味付けが見事なトリオとして、新しい展開に入ったGoGo Penguinはやはり注目せざるを得ないところにある。

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 さてこの2年ぶりとなる最新スタジオ・アルバム『Necessary Fictions』は、2012年のデビュー盤発売以来13年目に発表する通算7枚目のフル・オリジナル・アルバムだ。彼らの特徴的なサウンドをさらに押し広げるべく、モジュラー・シンセを取り入れ、初のヴォーカリストとのコラボも実現している。
 3人は音楽の方向性を改めて検討したようだ。それにはマンチェスターのスタジオの設備もリニューアルして、フルに時間をかけて2024年を通して3人は新しい世界に挑戦した。そしてこのアルバムに結実しているGoGo Penguinとしての"自分たち3人バージョン"を認識するに至り、ここにこのアルバム発表となったというのである。
 

(Tracklist)

1. Umbra
2. Fallowfield Loops
3. Forgive the Damages (feat. Daudi Matsiko)
4. What We Are and What We Are Meant to Be
5. Background Hiss Reminds Me of Rain
6. The Turn Within
7. Living Bricks in Dead Mortar
8. Naga Ghost
9. Luminous Giants (feat. Rakhi Singh and Manchester Collective)
10. Float (Loi Krathong, 2003)
11. State of Flux
12. Silence Speaks

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 興味の湧く彼らの新展開はと、注目のところであるが、まず冒頭のM1."Umbra"から明らかな変化が見られM2."Fallowfield Loops"に流れる。ここには、もともとの明晰にして力強いピアノラインは、シンセサイザーの世界と変化している。ただパワフルなベース、ドラムパートの多様性などのサウンドは変わっていない。アイリングワースはシンセサイザーを見事に使いこなし曲の深みと幅を広げており、ブラッカとスコットは快適進行で面白い。
 そしてM3."Forgive the Damages"では驚きのヴォーカル(イギリス=ウガンダ系のシンガー・ソングライター、フォーク・アーティストのDaudi Matsiko, ↑左から二人目)の登場、ソウルフルな味が美しく広がる世界だ。
 M4."What We Are and What We Are Meant to Be" 圧倒的低音が強調されるベースの響きが魅力、それに乗って美しいキーボード音。パンチのあるドラムス。
 M5."Background Hiss Reminds Me of Rain"雨音とシンセの響きが広大な世界に導き、M6."The Turn Within"シンセによるピアノ音が美世界を描く。
 M7."Living Bricks In Dead Mortar"は、このシンセで描く暗さは彼らの音楽の新展開か、深遠な美しい響きも印象的。そしてドラムスの主導からベースが加わり、そして次第に三者で積み上げていく厚いサウンド、続くM8."Naga Ghost"のドラムスがベースにあって三者それぞれの響きが聴き処。
 M9."Luminous Giants "8人組弦楽アンサンブル"マンチェスター・コレクティブ"(インド出身のヴァイオリニスト、ラキ・シン(Rakhi Singh)率いる) が加わったことはこれ又印象的な世界。とにかくストリングスの響きがこの曲の美で驚きの新展開GoGo Penguinだ。
 ベースの響く異国風の曲M.10"Float"の後、M11."State of Flux"は、圧倒するアイリングワースの多彩なベースライン、ダイナミックなドラム、そして登場するストリングス。クラシックを思わす世界。
 M12."Silence Speaks"締めにふさわしい落ち着きが支配。

 とにかく多様な要素が入り乱れ、トリオそれぞれが対等に交錯するアルバムだが、ここではシンセが美的にそして広大に、ドラムスはベース補強とリズムをリードし、ウッドベースが重き深さを描く役を果たして。普通ジャズのピアノ・トリオのようなリズム隊の上にメロディーのピアノが乗るスタイルとは全く異なっている。

  この作品には、プロデュサーのJoe Reiserの力も大きいようだが、現代フュージョン的インタープレイ、叙情性あるメロディーの魅力とポップな味、クラシック音楽の基礎を忘れない流れ、ミニマル・ミュージックの因子、アンビエントな因子と挑戦的エレクトロニック・ミュージック・サウンド、このトリオの目指すところアコースティックな味を忘れず、現代的なエレクトロニクスの世界に足を入れ、彼ら独自の世界を追求するアルバム造りの展開だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   90/100
□ 録音   :   88/100 

(試聴)
"Luminous Giants"


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2025年8月17日 (日)

ティングヴァル・トリオ Tinvall Trio 「PAX」

平和と共生のメッセージを込めて・・・そこを聴き込みたいアルバム

<Jazz>

TINGVALL TRIO 「PAX」
SKIP RECORDS / IMPORT / CD / SKP92172 /2025

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Martin Tingvall (piano) 
Omar Rodriguez Calvo (bass) 
Jurgen Spiegel (drums)

Recording Engineer : Stefano Amerio

 注目のティングヴァル・トリオ(Tingvall Trio)のニューアルバム。このトリオはスウェーデン、キューバ、ドイツの3者により2003年の結成で、それ以来20年以上、この3人はユーロ・ジャズ界からの発信で特例以外一貫したアコースティック楽器のみの編成で演奏し非常に多くの支持を得てきた。ジャズという音楽の楽しさは勿論、そこに美しさをも描ことにこだわってきたが、このブログにて何回かに渡って彼らのアルバムを紹介してきたという私のお気に入りのトリオである。

Tingvalltriomartintingvall20200131130940  今アルバムは、記念すべき10枚目のアルバムであり、アコースティック・ピアノトリオの味を十二分に聴かせるファンの期待に答えたモノと既に好評価が上がっている。そしてスウェーデン出身のピアニスト/作曲家マーティン・ティングヴァル(Martin Tingvall, ←,↓中央)が全曲を作曲し、結成以来ずっと変わらないリズムセクションの二人、キューバ出身のベース奏者オマール・ロドリゲス・カルボ(Omar Rodriguez Calvo, ↓右)とドイツ出身のドラマー、ユルゲン・シュピーゲル(Jürgen Spiegel, ↓左)とにより、前作『Birds』(SKP91972/2023)から2年、相変わらずジャズの未来への欧州的なひとつの方向を示している。

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 そしてアルバムタイトルの『Pax』はラテン語で「平和」を意味し、社会的メッセージを発信している。バンドリーダーのマーティン・ティングヴァルの明確な意志の表現だ。今や世界中の人々にとって不安な戦争を筆頭に現代社会の暗部に心を痛め、平和と共生のメッセージを音楽を通じて伝えることを目的としている。参考までに彼の言葉を如何に記す「不安に満ちた世界と社会の分断が進む中で、音楽を通して平和を訴えることが私にとって特に重要でした。アルバム『Birds』では、この時代の不穏な情勢を音楽で反映させようと試みました。けれどもそれ以来、世界の多くの状況は悪化の一途を辿っています。ミュージシャンとして、私はただ傍観しているつもりはありません。『PAX』は、人々に内省と平静を促し、そして平和への確かなサインとなることを目指しています」

  既にこの曲群で彼らは公演を20回に及ぶ数多くこなしていて、イタリアにてステファノ・アメリオの手により録音され、このアルバム作りに及んだようだ。

(Tracklist)

1.Open Gate 05:29
2.A New Hope 04:39
3.Shadows 04:15
4.A Promise 04:43
5.Life Will Go On 06:19
6.Ystad Folksong 03:07
7.Witches 04:21
8.Sami People 04:04
9.Cruisin' 04:41
10.Pax 03:59
11.The End 07:09
12.Goodbye 4:40

 このアルバムはティグヴァル自身の心からの訴えのアルバムとして造られている。しかしヴォーカルものでないので、歌詞で訴えることは出来ない。従つて曲から生まれるイメージをつなげてゆくことによつて、我々が何を感ずるかという世界である。私のようにアルバムがどのように造られたかという前知識が入っているとそれに従って聴き込むことが出来るが・・・・是非その点の知識(上に書いた彼の言葉だけでも知って)を持って聴いて欲しいと思うのである。

  オープニングM1.かM3.へと次第に陰影が感じられる方向に流れてゆく。ただM2." A New Hope"ではやや明るく印象に残るメロディーが演じられ普遍的な希望の存在を確認する。M3."Shadows"のピアノとパーカッションの弾む音に対比してのベースの描く影が印象的。
 そしてM4."A Promise"はピアノの旋律が感情を呼び起こすバラード曲で、このトリオの味をかみしめる事ができるが、続くM5."Life Will Go On"にも希望感が聴きとれる。
 M6."Ystad Folksong"M8."Sami Peop"では、トラッドの味が入っていると思われる世界が。
 M9."Cruisin"は、ベース主導で入って、3者のエネルギッシュな演奏展開。
 最後のM10."Pax",M11."The End",M12."Goodbye"の3曲は、ピアノの旋律が心に響く演奏を展開、M11.の最後の盛り上が深い感情を呼び寄せ、M12.で深い心の安堵感を求めて終わる。
 この最後の3曲は私の心に十二分に響き、想うところに誘導してくれた。ティングヴァルが憂い悲しんでいる世界に対しての訴えがにじみ出ている。そこにこのアルバムの完成度の高さと、私の感動を呼んでくれた。
   録音はStefano Amerioで、三者の音がしっかりと聴き取れピアノも美しくお見事であった。

(評価)
□曲・演奏 90/100
□録音   90/100

 (試聴)

 

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2025年8月12日 (火)

ガブリエル・ラッチン Gabriel Latchin Trio 「The Man I Love」

 ストレート・アヘッド・ジャズを踏まえた英国流バップ・ピアノの粋な王道

<Jazz>

Gabriel Latchin Trio 「The Man I Love」
DISCUNION(Alys Jazz) / JPN / AJ1505JP / 2025

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Gabriel Latchin (piano)
Jeremy Brown (bass)
Joe Farnsworth (drums)

307873668_599845828366wjpg  前作から2年、英国ロンドン生まれで、そのままロンドンのシーンで活動し、Alys Jazzよりの過去の作品がそれなりに好評であった正統派ピアニストであるガブリエル・ラッチンGabriel Latchin(→)の、トリオ編成では5作目がリリースされた。ここでは2年前に前作『View Point』(2023)を取り上げたが、あれはオリジナル曲集であったが、今作はガーシュウィン曲集ということでスタンダード集で、トリオ・メンバーは前作と変わらずの米国からのジョー・ファンズワース(ds ↓右)と英国出身で米国でも活躍中のジェレミー・ブラウン(bass ↓左)だ。

 そもそもガーシュウィンが生み出した曲というのは、総じてはメロディー自身に魅力があるので、ミュージシャン自身の個性や表現を演じても、曲そのものが聴く者に受け入れやすいという利点がある。それを意識してのことか、かなりオーソドックスでありながらフリー感覚を演ずることにも余裕感があっての演奏スタイルの感じられる演奏集でアルバム造りがされている。

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(Tracklist)

01. Summertime (4:25)
02. How Long Has This Been Going On? (5:30)
03. It Ain't Necessarily So (4:32)
04. 'S Wonderful (5:03)
05. Embraceable You (3:42)
06. They All Laughed (4:51)
07. The Man I Love (5:08)
08. Someone To Watch Over Me (6:02)
09. Love Walked In (4:00)
10. I Got Rhythm (3:58)

  ガーシュウィンの曲は、もともと管弦楽曲というスタイルで聴くことになるモノが多いが、ピアニストにとっても大いに愛されてきている。そしてこのラッチンにとっても彼はユーロ系ミュージシャンとは言ってもどちらかというと、米国に生まれ発展したジャズの流れに基づいてのバップ&ブルースの伝統的流れに根幹を持っていて、洗練された垢抜けした小粋な雰囲気でのスウィンギン・グルーヴィーの世界とちょっとエレガントなプレイを演じている。かなり打鍵もクラシックで鍛えられた力のある確かさといってよいところにある。まあどちらかというとスッキリとした爽やかな世界で、やはりストレート・アヘッド・ジャズの世界を基礎に彼なりの英国流バップ・ピアノ発展が十分加味された感がある。

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 M01."Summertime"は、ピアノの冒頭からの流れが美しいですね、そして中盤の変調と続く編曲、インプロは洒落ているそのもの。究極のジャズの持つ一つの世界だ。
 そしてM02."How Long Has This Been Going On?"になって、ぐっと深く沈み込む、それも暗さよりは安堵の世界。M01.からの流れも見事。
 M04." 'S Wonderful "のなじみの深い曲でも、かなり粋な編曲であるが、そこにはユーロ系の情感と言うよりは、やっぱりエレガントに仕上げている上に、明快なかなり力強さもあって彼の意欲が感じられた曲作りになっている。
 アルバム・タイトル曲M07." The Man I Love"トリオ3者のゆったりとしたスウィングしての展開で、ピアノの抑揚が溢れた流れに、ベース重厚な音のリズムに加えドラムスはスリリングさが溢れていて、ラッチンのピアノへの色づけも良くグルーヴ感を盛り上げているのもさすがだ。
 私はM08."Someone To Watch Over Me "のようなピアノ・ソロ・バラード展開が好きですね。

 ユーロ系ジャズは、北欧のクラシックからの流れを加味した深遠な世界、イタリアの歌心ジャズなどと私の好みを満足させてくれるが、こんなアメリカン・ルーツ・ジャズも、ふとジャズの原点の良さを感じ取れて時には良いものである。そしてラッチンはその上にガーシュウィンの曲の味を一層盛り上げていると言っても過言では無い。

(評価)
□ 選曲・編曲  88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

*

 

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2025年8月 7日 (木)

ニッキ・パロット Nicki Parrott 「After Midnight」

ブルース好きのパロットの編曲とヴォーカルが聴きどころ

<Jazz>

Nicki Parrott 「After Midnight」
vinus records / JPN / CD / VHGD-1002 / 2025

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ニッキ・パロット Nicki Parrott - ボーカル&ベース
スティーブ・ラッセル Steve Russell - ピアノ
デイブ・サンダース Dave Sanders - ドラムス
マーサ・バーツ Martha Baartz - テナー&アルトサックス
ジム・ケリー Jim Kelly - ギター

E89e16991679155d5a860d2w   今やビーナス・レコードの完全に顔となったオーストラリアのベーシスト・ヴォーカリストのニッキ・パロットNicki Parrott(1970年生まれ)のニュー・アルバム。彼女のアルバムはここで何回か取り上げてきたが、私の場合、惚れ込んでしまうとか、どうも好きになれないとか、そうした感情の湧かない不思議な存在でここまで来ている。もともとはベーシストとしてのジャズ演奏者であったが、そのヴォーカルも認められて現在はむしろヴォーカリストとしてのアルバム造りが多い。今回は母国オーストラリアでの収録のようだが、「ボーカルがセクシーに切なくブルースの夜を彩る」というキヤッチフレーズ(あまりセクシーという感じで無いが)でのアメリカ音楽のルーツに迫って、そのジャンルもジャズということにこだわらず、ブルース、カントリーの要素も取り込んでの彼女流のジャズ・アルバムに仕上げている。そしてバックはピアノ・トリオであるが、曲によってギター、サックスを取り入れて、味付けしている。レイ・チャールズ、B.B.キング等のブルース・フィーリングをニッキ流のジャズ・ヴォーカルでの世界に生かしている様を聴きこむのも楽しい。

(Tracklist)

1.アイ・ラブ・ビーイング・ヒア・ウィズ・ユー I Love Being Here With You (ペギー・リーとビル・シュルーガー) 4:12
2.アンチェイン・マイ・ハート Unchain My heart (Bobby Sharp)4:21
3. オール・アイ・ドゥ・イズ・シンク・アバウト・ユー All I Do Is Think About You (スティーヴィー・ワンダー、クラレンス・ポール、モリス・ブロードナックス) 4:01
4. クレイジー・ヒー・コールズ・ミー Crazy He Calls Me (カール・シグマン (音楽) & ボブ・ラッセル (歌詞)5:15
5. アフター・ミッドナイト After Midnight (J.J. Cale) 4:13
6. スリル・イズ・ゴーン The Thrill Is Gone (ロイ・ホーキンス、リック・ダーネル) 4:01
7. 恋に破れて What Becomes Of The Brokenhearted?(ウィリアム・ウェザースプーン、ポール・ライザー、ジェームズ・ディーン) 4:07
8.アイ・ドント・ニード・ノー・ドクター I Don't Need No Doctor (ニック・アシュフォード、ヴァレリー・シンプソン、ジョー・アームステッド) 3:55
9.偽りの恋 Your Cheatin' Heart (Hank Williams) 4:02
10.ワイルド・ウーマン・ドント・ハブ・ザ・ブルース Wild Women Don't Have The Blues (アイダ・コックス) 3:35
11.ヒー・コールド・ミー・ベイビー He Called Me Baby (HARLAN HOWARD) 4:37
12.ユー・ドント・ノー You Don't Know (ウォルター・スプリッグス) 4:20
13.レット・ザ・グッド・タイムス・ロール Let The Good Times Roll (サム・シアード&フリーシー・ムーア) 3:30
14.虹の彼方に Somewhere Over The Rainbow (Written by Harold Arlen (music) and Yip Harburg (lyrics) 2:58

 Parrott本人の話によると、これは「このアルバムは深夜にぴったり、長い一日のおわり、あるいは深夜のライブの後、リラックスしてお酒を飲みながら足を伸ばして聴きたくなるようなアルバム」と言ってるようだ。いわゆるアメリカン・ジャズの全盛期に戻って、しかも深夜に一日を回顧してホッと出来るときの気持ちを支える歌として彼女は仕上げたようだ。

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 もともとペギー・リーのファンであったようでここでもM1."I Love Being Here With You "を取り上げている。なかなかスタートにふさわしいメロディアスな曲、サックスも入って賑やか。
 続くは、レイ・チャールズのなじみの曲M2."Unchain My heart"では、ぐっとしっとりとしたムードから、軽快な展開まで盛り込んで快調。M8." I Don't Need No Doctor "も彼のヒット曲、ギターと女性バッキング・ヴォーカルも入って聴き応えあり。
 M3." All I Do Is Think About You "はStevie Wonderの曲だが、Parrottのベース・ソロとギターで優美な展開。
 M4."Crazy He Calls Me "は、しっとりとして歌い込んで私の好み、これぞ深夜向き。
 タイトル曲M5."After Midnight"は、Claptonを思い出す、なんとギターが有効なカントリー・ロック調で。
 M6."The Thrill Is Gone"、M12."You Don't Know "は、ブルース調の登場でB・Bキングのヒット曲で、バックはギターが活躍。 
 M9."Your Cheatin' Heart "ハンク・ウィリアムズのカントリーの名曲「偽りの恋」の登場、ちょっと意外。
 M10."Wild Women Don't Have The Blues"、M13."Let The Good Times Roll"と彼女の好きなブルースをParrott節で・・・。
 M14." Somewhere Over The Rainbow "は、Parrottでなければ出来ないベースとヴォーカルを演ずるソロ展開。この手法、もう一曲ぐらいあっても良かったのでは。

 いつも思うのだが、彼女のアルバムは嫌みが無く大きな癖もなく、適度な編曲と歌詞で旨くこなしてくれるので、非常に聴きやすい。そんなところが逆にのめり込むこともなく、逆に嫌うこともなく、ニュー・リリースごとに聴いてしまうのである。今回の特徴は、彼女の好むブルース調曲が明瞭にでているが、ジャズ展開に編曲を加えられいて、なかなか面白く新鮮に聴くことが出来た。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌 :    88/100  
□   録音      :    88/100
(試聴) "Crazy He calls Me"

 

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2025年8月 2日 (土)

ロジャー・ウォーターズ フェアウェル・ツアー「THIS IS NOT A DRILL」

ウォーターズのメッセージと訴えのフェアウェル・ツアー・ライブ公式版リリース
一貫した「RESISTの精神」

<Progressive Rock>

Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE」
Sony Music Japan International(SMJI) / Blu-spec CD2, Blu-Ray1 / SICP-31780 / 2025
収録:2023.5.25(PRAGUE)

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(バンド・メンバー)
ロジャー・ウォーターズ(vo, bass, guitar)、ジョナサン・ウィルソン(guitar)、デイヴ・キルミンスター(guitar)、ジョン・キャリン(piano, keyboard)、ガス・サイファート(guitar, bass)、ジョーイ・ワロンカー(drums)、ロバート・ウォルター(organ, keyboard)、シャネイ・ジョンソン(backing vo)、アマンダ・ベルエアー(backing vo)、シーマス・ブレイク(sax) 

Roger_waters_newport_folkw_20250801223401   "ピンク・フロイドの頭脳"=ロジャー・ウォーターズ(1943年生まれ→)のフェアウェル・ツアーと言われた『This Is Not A Drill これは訓練ではない(これは現実だ)』ツアーは、『US+THEM』ツアー(2017-8)以来4年振りの大規模ツアーで、2022年7月6日米ピッツバーグよりスタート、2023年12月9日エクアドル・キトまで、ヨーロッパ、北米、南米で全99回のショーが行われたもの。

   そして2023年5月25日のプラハのO2アリーナのその映像による模様は、世界50ケ国1500館以上で生配信された。それを録画したものを、既に2年前(2023年)ここでオフィシャル映像版のブートレグ「THIS IS NOT A DRILL : LIVE FROM PRAGUE」を紹介したが、今回は再び全世界での映画館配信(ソニー・ミュージック・ヴィジョン&トラファルガー・リリーシング配給によるライヴ・フィルム)して、その上での映像、音源の公式版がリリース(2CD+BDの3枚組セット=このセツト版は日本のみ)されたものだ。内容は映像に関しては、プロショット収録されたモノと言う事は共通だが、マルチ・カメラで撮影されているので、2023年のブート版は、リアルタイムに収録していたモノを世界の劇場用に流したモノで、今回のオフィシャルものはそれなりに時間をかけて編集して造られたもので、比べるとかなり別の面からのショットも多く見れて更に充実した感がある。

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00516754apmfra101a20_08_1968prager_frueh  今回もチェコのプラハでの収録が選ばれているが、彼にとってもプラハはそれなりに重要な都市であることが伺える。「プラハの春(1968)」(→)に代表される市民の民主運動の地であることが、ウォーターズにとって大きな意義を持っていると思われるのだ。私はまだ共産圏であったこのチェコのプラハを訪れたことがあったが、それは1980年で、1979年末のピンク・フロイドの『THE WALL』リリース直後であった為、若きモノ達が多くが集まってアルバムの曲"Another Brick In The Wall"を大音響で流して歌い踊っていたのを思い出した。当時は自由主義圏のロックは禁じられていた共産圏のプラハだが、おそらくチェコ政府側も目をつぶって放置していたのではと当時推測したのであった。ここで踊り歌っていた若者も、今は65歳ぐらい以上になるのだと思うが、そんな長い歴史の経過でウオーターズは自分の主張を続けているのである。
 今回のこの「This Is Not A Drill」のライブは、かってのナチをイメージするシーンがあるので、ドイツでは禁止の通達が出たが、なんとエリック・クラプトンを筆頭にミュージシャン達の「禁止取り下げの運動」が起こり法廷で"禁止は違法の判決"が出たというウォーターズ側の勝訴の経過もあった。しかしポーランドでは、ウォーターズがロシア・ウクライナ戦争に対して、戦争否定の主張で"双方に問題がある"と国連で主張したので、開催を認めないという事もあった。

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 ウォーターズはこのライブで、シド・バレットと大学入学を志した時からの自己のピンク・フロイドのバンド結成に至るところを回顧し、そして彼の書いたピンク・フロイドの最後のアルバム『Final Cut』(1983)の最後の核兵器の恐ろしさを歌った曲"TWO SUNS IN THE SUNSET"までを演じ、自己のソロ時代の曲を交えて一貫しての"RESIST WAR"を訴え、曲"sheep"で、"RESIST CAPITALISM","RESIST FASCISM","RESIST GENOCIDE"をも訴えている、まさに政治色のライブになっているのだ。そして最初から最後までの23曲に於いて計算して組み合わされており、一貫してその「RESIST精神」を描いているところが、類を見ない彼の凄さである。
 
 又面白かったというか興味あるのは、彼がロック・ミュージシャンとしてボブ・デランを尊敬しているという話で、これもうなずくところであった。
 この映像版においては、ステージ・バックに流れるメッセージ、又歌詞、そしてウォーターズの話などの日本語訳がついていて、サービス満点。このウォーターズの最後の大規模ライブの意義を十分に伝えている。そして今回の新曲"The Bar"では、現状の彼の考えをまとめ上げ、更に今の女房との関係などの心境をも語りそして歌っている。

  いずれにしても見事なライブのオフィシャル版がリリースされたことは大歓迎だ。特異なのは、ステージはアリーナの中央に設置されていることである。そしてスクリーンも四方八方から見れるように作られている。そしてそこにはリアルな映像と、この難題の山積みの世界に疑問を投げる重要なメッセージが映し出される。そして曲"Sheep"では羊が会場の中を舞い、曲"In The Flesh"では、例の豚が飛ぶ。圧巻の会場操作だ。
 このライブのその他詳細はこのブログに書いた"過去の私の記事"に譲ることして、とにかくこの時80歳(今年82歳)になるウォーターズの健闘ぶりにお祝いを述べたいところである。

(評価)
□ ライブ内容・演奏 :   90/100
□   音質・映像    :   90/100

(試聴)


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