« 2025年8月 | トップページ | 2025年10月 »

2025年9月26日 (金)

ローレン・ヘンダーソン Lauren Henderson 「Sonidos」

スタンダードもヘンダーソン節で・・・ラテンとジャズの絡みが聴きどころ

<Jazz>

Lauren Henderson 「Sonidos」
(CD) BRONTOSAURUS RECORDS / IMPORT  / BR2501 / 2025

51srlixh1pl_ac_

Lauren Henderson - vocals
Joel Ross - vibraphone
Sullivan Fortner - piano
Dezron Douglas - double bass
Joe Dyson - drums
Guests:
Luisito Quintero - percussion on #10
Eric Wheeler - bass on #3, 4, 12-14

 私の期待するなんとも魅力的な歌声で歌い上げる人気女性ヴォーカリストのローレン・ヘンダーソンの待望の2025年作品。私が彼女の歌に初めて接したのは2012年アルバム『LAUREN HENDERSON』の"Veinte Aňos"という曲であった。そしてお気に入りになってアルバムを仕入れたのは、2019年アルバム『Alma Oscura』(BSR201901)だった。これに関しては寺島靖国氏が気に入ってアルバム『For Jazz Vocal Fans Only Vol.4』に取り上げているが、それ以来彼女のアルバムはTerashima レコードで取り上げてきたのだが、どんな事情か今回はどうもBRONTOSAURUSレコードで輸入CDだ。

 いずれにしてもアメリカ人(マサチューセッツ出身)だが、ルーツはカリブ海にある彼女らしく、R&Bにラテンやフラメンコ、アフロカリビアンらの音楽要素がしっかりと歌われ楽しませてくれる。そして時には以前からスペイン語も交えてエキゾチックさと、なんとなくセクシーなところもあってヴォーカル・ファンを刺激するのだ。今回もそんな彼女の魅力が盛り込まれてのなんと16曲、サービス満点のアルバムに仕上がっている。

Laurenhendersonw (Tracklist)
1.Vida 4:18
2.Bold 3:28
3.Si Nos Dejan 3:37
4.Love Is Here To Stay 4:14
5.Flight 2:50
6.Luna 4:48
7.On The Street Where You Live 4:44
8.Let's Face The Music And Dance 3:37
9.This Time The Dream's On Me 4:02
10.Soledad 3:32
11.Sounds 3:24
12.Ola 2:28
13.Truth 2:12
14.Trouble 2:43
15.La Llegada 2:19
16.Sonidos 3:22

 このアルバムは、過去のアルバムと比較すると諸々の意味に於いて若干刺激度は低いかもしれない。しかしLauren Henderson にとって非常に完成度の高い作品と見なされている。それは彼女の持ち味であるラテン・ジャズ的要素とジャズ・スタンダードを融合させるというアプローチが、なかなかうまくいっていると言って良いのかもしれない。
 しかしラテンの持つ明るさよりは、今回はちょっと全体に若干「哀愁」を帯びた印象という感想も持つことが出来そうだ。もともと彼女のルーツの社会的問題の影があることは、過去のアルバムでも知るところであって、私自身がそんな見方をするためかもしれないが。
 表現力とか訴える力は相変わらず高い。 ぐっと静かな語り口から語るような演出、抑制と情感のコントロールは相変わらずの評価点。  演奏陣との関係においては、Sullivan Fortner(p,↓左)や Joel Ross(Vib↓左から2番目)、Dezron Douglas(b,↓左から3番目)、Joe Dyson(d, ↓右) をはじめとするミュージシャンの彼女の目指すところの理解度は相変わらず高く、曲の表現に彼らの果たす役割も大きい結果をもたらしている。

Imagesw_202509261020019fde34cc7f5ec91d53a8wImages1w_20250926102101Joedysonpw

 M1."Vida" このアルバムを紹介するようなラテン・ナンバーが心地よく響く
 M2."Bold" 彼女の生涯のテーマでもある逆境に対しての困難な状況やストレスに直面し、そこから立ち直り、回復しようとする心を歌っているらしい。
 M4."Love Is Here To Stay" いつもは彼女の一人ハーモニーが美しいが、ここではアカペラに近いヴォーカルと、バックの静かにして品のある演奏が光る。
 M5."Flight" ビブラフォン始めクインテット編成が生きていてスウィング感も。
 M6."Luna" 静かな美しいバラードが素晴らしい。このアルバムの一つの頂点。 ラテンとジャズの因子が繊細絡んで響き感動的。
 M8."Let’s Face the Music and Dance" ここに聴き慣れたジャズ・スタンダードを自然に溶け込こまして優しく歌う。それにビブラフォン、ピアノ 即興ソロが美しい。
 M9."This Time The Dream's On Me" 得意の彼女自身のバック・ヴォーカルも絡むハーモニーが優しく美しく。
 M10."Soledad" ぐっとラテンタッチが生きた曲。ゲストの Luisito Quintero による打楽器が彩りを加える。
 M11."Sounds" これはアルバム・タイトル曲のM16."Sonidos"の別バージョン、スペイン語歌唱を交えて、浮遊するが如くの歌声。雰囲気・情感たっぷりの世界。やはり彼女のハーモニーの歌声をラテンタッチの落ち着いた世界で締める

 彼女のアルバムはやはり彼女にしか無いヴォーカルが魅力だ。今作はかなり感情を抑えているが、そこがむしろある意味哀感があり響いてくる。ちょっとマニヤックな感がある作品であるが、聴きこむにつれて味が出てくるところはさすがである。

 強いて問題点を挙げるとしたら、短いトラックの曲がちょっと多すぎたかなぁと、一曲をじっくり聴きたかった。又、今回はインパクトという面ではちょっと弱かったのではないかとも言える。しかし逆にそのスタイルに敢えて今回は挑戦したのかもと想像したりもする。つまり万人受けよりは、繊細な深みのある表現性を重視しての音楽作品としての価値を狙ったアルバムと考えられ、やっぱり彼女のヴォーカル・アルバムは一筋縄では語れないと言っても良いところにある。 それぞれの曲の本質と歌う内容をもう少し研究すると、意外に彼女らしい世界が見えてくるのかもと・・・ふと思ったりしている。
 

(評価)
□ 曲・編曲・歌   90/100
□ 録音       88/100
(試聴)



| | コメント (2)

2025年9月20日 (土)

アベル・ロガンティーニ Rogantini - Dutil - Boco 「 Bill Evans Memories」

エヴァンス流にこだわらずに、自己のModal Jazzを演じきって成功している

<Jazz>

Rogantini - Dutil - Boco 「Bill Evans Memories」(En Vivo)
RGS Music / Import / RGS20972 / 2025

61s3k2amgrl_ac_sl900w

Abel Rogantini (piano)
Ezequiel Dutil (double bass except 04, 12)
German Boco (drums except 04, 07, 10, 12)

Recorded Live at Thelonious Club on September 27 2024

Rogantiniaw   もうヴェテランとも言えるアルゼンチンの実力派ピアニスト:アベル・ロガンティーニAbel Rogantini(1969年アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ, →)を中心とする連名ピアノ・トリオ(Ezequiel Dutil (b, ↓左)とGerman Boco (d,↓右)による )の、ビル・エヴァンスへのトリビュート演奏作品。ブエノスアイレスのジャズクラブThelonious Clubでのライヴもので9曲が選ばれ収録されている(+bonus Track 3曲)。  

 実は私はこのピアニストに関しては、過去に特にマークしてこなかったのだが、今回のアルバムを聴いてライブの為もあるか、なかなか素晴らしいModal Jazzを演じていてここに取り上げる次第だ。もともとアレンジャーとしての活動や、編成とかオーケストラとの経験も豊富であり、アルゼンチンというお国柄も加味されてのことか、インプロにも優れて実に味のあるジャズを展開していて聴き応え十分である。
 そしてトリオとしてのピアニストのロガンテイーニとDutil(B)とBoco(D)の二人は、ジャズ・フィーリングが一致しているのか、なかなか見事なバランスのとれた演奏を展開しているのが素晴らしい。

A548636514838967579327Germanbocow

(Tracklist)

01. Waltz For Debby (Evans - Lees)
02. Israel (J. Carisi)
03. The Peacocks (J. Rowles)
04. Noelle's Theme (M. Legrand) (solo piano)
05. A House Is Not A Home (Bacharach - David)
06 I Love You (C. Porter)
07. Minha All Mine (F. Hime) (p & b duo)
08. On Green Dolphin Street (Kaper -Washington)
09. Beautiful Love (V. Young)
【bonus tracks】
10. Minha All Mine (alternative take) (F. Hime) (p & b duo)
11. Beautiful Love (alternative take) (V. Young)
12. Noelle's Theme (alternative take) (M. Legrand) (solo piano)

 なかなかモード系のジャズ(modal Jazz)のセンスに溢れたキレのある耽美的ロマンティック・スタイルに叙情性もある。捨てがたい味は軽妙にして粋な味が支配しているところで、躍動感もたっぷりで、百選連覇のアルゼンチン・ピアノ・トリオの気持ちのよい胸のすくエヴァンス・トリビュート・ライヴがたっぷり聴ける。
 私がとりついたきっかけはビル・エヴァンスの名前とピアノ・トリオと言う事であったが、期待以上の特に軽妙さに惚れ込んでここに大推薦するアルバムと言いたい。

  とくに評価のポイントとして、エヴァンス自身とそのトリオのスタイルを思ったほど意識することなく、ごく自然に自己流の解釈と曲の分析を行っての演奏法で、エヴァンスの描くところを生かしつつ、爽やかにして乗りの良い曲に仕上げている。何というか、大げさだが、ジャズの真髄をゆく爽快感が見事である。そして詩情世界が美しく描くところの曲は、ぐっとピアノの響きが心に流れ込んでくる。

539449415_1832152603w

 全体にライブならではの即興や空気感、聴衆とのインタラクションが感じられる演奏が多くこの辺りはもうベテランの世界だ。M01.“Waltz For Debby (En Vivo)” このエヴァンスの代表作をも見事に彼のものにしてリズムとハーモニーのバランスがいい。
 M03.“The Peacocks (En Vivo)”  抒情的で静かな美しさ。ピアノの余韻や音の強弱・遅速が見事に。 
   M04.“Noelle’s Theme (En Vivo)”  感情の起伏があり、ライブ感が強い
   M07. "Minha All Mine" 流麗なピアノの美しさは見事で、bonus track(スタジオ録音か、音もリアル)では又異なるメロディーの表現で美の描きが二通り楽しめる。それは同様にV.YoungのM09. "Beautiful Love" でも。ベースの運びが快感。
 M06."I Love You"そして M08. "On Green Dolphin Street"では、ドラムスの力強さが聴きとれ、ジャジーな展開の楽しさが聴ける。

 究極、エヴァンス風と云う世界よりも、トリオの目指すモード系抒情派ハード・バップ・ピアノの正統らしいダイナミックにしてメロディックなプレイを演じている。そしてなんと言ってもシャープでキレのある軽妙さが良く、そこに美的感情が交錯した魅力がたっぷりだ。自己流を通したことが、むしろ成功している要因かも。
 その上、重厚さと優しさを使い分けるベースや、鋭くきびきびとし、時にパワー・アップするドラムの活躍も、ライブを重ねた結果でもあるのか、各々ピッタリとツボにハマッた世界を演じて居る。
 彼の強みは、ブルース、バップ、モードの伝統的ジャズ・フィーリングを身につけつつ、 アルゼンチンという伝統音楽的リズム(タンゴTango, フォルクローレFolklore, カンドンベCandombeなど)と南米の伝統音楽的要素をも持つということなのかもしれない。
 私は、派手さは無いが、ジャズというものを心得ている名演と言いたい。今年の傑作アルバムにする。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏   90/100 
□ 録音         85/100

(試聴)

 

| | コメント (0)

2025年9月15日 (月)

パティ・ロムーショ Patty Lomuscio 「 My Foolish Heart」

しっとりとした中に躍動感のある演唱が印象的なジャズ・スタンダード曲集

<Contemporary Jazz / Vocal Jazz>
Patty Lomuscio 「My Foolish Heart」
Alfa Music / Import / AFMCD329 / 2025

20250823_b34w

Patty Lomuscio (vocal)
Vincent Herring (alto saxophone except 7, 8)
Peter Washington (double bass except 7, 8)
Gianluca Renzi (double bass on 7, 8)

1498289267723w   イタリアのベテラン女性ジャズ・ヴォーカルのパティ・ロムーショ(Patrizia “Patty” Lomuscio ←)の第4作アルバムの登場。彼女に関しては、2022年にここでKenny Barronのピアノでのアルバム『STAR CROSSED LOVERS』(CR43548/2022)取り上げた経過があるが、なかなか味のあるヴォーカルで印象深かった。その彼女が「私の大好きな楽器の1つであるコントラバスとヴォーカルのためのレコードを作りたい」という思いを実現させたアルバムで、あの前作で共演した名ジャズ・ベーシスト、ピーター・ワシントン(↓左)に提案し企画し、同じくあのアルバムに3曲参加していたヴィンセント・ハーリング(↓右)を、素晴らしいサックスの音色が印象深かったため誘った。そして彼らがこの音楽的企画を受け入れ、珍しいヴォーカルと2楽器のトリオ編成のアルバムが誕生したという経過のようだ。

 彼女の略歴は、イタリア出身のジャズ・ヴォーカリストで、1975年生まれ。 幼少期にヴォーカルのほか、チェロなどクラシック音楽の教育も受けており、ジャズ以外のバックグラウンドを持っていることが彼女の表現に深みを与えているという評価もある。 学問的にも音楽教育を受けており、ジャズを学んだ経験・マスタークラスやワークショップに参加した経験が豊富。現在はジャズの教育者としても活躍。

93bcd16d32914f94d47wArtworksnip2cwlbuw

(Tracklist)

1. First Song
2. Can't We Be Friends
3. You've Changed
4. Choro Pro Zé
5. Love Theme From Spartacus
6. I'll Close My Eyes
7. Tight
8. Stars (aka “Endless Stars”)
9. My Foolish Heart

 選曲されたものは、ジャズ・スタンダードやバラードが中心。歌唱、アレンジともにクラシック・ジャズの伝統を踏まえつつ、なかなか現代的な響きも持たせている。例えば M9.“My Foolish Heart” のような典型的なスタンダードをアルバムのタイトル曲に据え、その他にも M3.“You’ve Changed”M6.“I’ll Close My Eyes” といった古典的・ミドルテンポのジャズ曲が並んでいて非常にとっつきやすい。

 しかし、M1."First Song"でやや驚くのは、 ぐっと落ち着いたアルト・サックスとベースの音が聴かれるが、アカペラに近い彼女のヴォーカルから始まって、じっくりしっとり歌い上げていて、なかなかヴォーカル・アルバムとしての真髄を示しているような展開で、少々驚く。
 そして一曲5分、6分という比較的長い仕上げの曲が多いのであって、如何に彼女が歌い込みに気合いが入っていたかが解るところだ。

 曲は多様性があって、M4."Choro pro Zé"のようなブラジル風味やラテンジャズ的な要素をうまく取り入れて聴かせるところはにくいところ。こうしてアルバム全体の流れやムードに変化が取り入れられていて飽きさせずにいる。
 M5."Love Theme From Spartacus"なども、従来の一般的に聴かれるモノとは一線を画し、彼女の独特の透明感や清涼さのあるしなやかで中々しっかりと伸びるトーン高めでなんとも厚みを呈したイタリア独特のややねちこさもある歌で、ダイナミックでもある躍動感ある演唱を演じている。
 ぐっと落ち着いて構えているヘヴィーな肉太ベースや、ちょっと色気のあるアルト・サックスなど、このジャズ・グルーヴ感を盛り上げつつ、独特の世界観を生み出すための貢献も大きいと聴いた処だ。

 女性ジャズ・ヴォーカル、特にスタンダードやバラードが好きで、なにはともあれ落ち着いた演奏、じっくりと歌声を味わいたいというにはうってつけである。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏・歌  88/100
□ 録音          88/100

(試聴)



| | コメント (0)

2025年9月10日 (水)

シャイ・マエストロ Shai Maestro「Solo: Miniatures & Tales」

内なる音楽の姿と思考を表現、極めてパーソナルな初のピアノ・ソロ作品

<Contemporary Jazz>

Shai Maestro「Solo: Miniatures & Tales」
BELIEVE RECORDINGS / IMPORT / BLV8889 / 2025

91igazbwvsl_acw

Shai Maestro : piano

By_liri_agamiw  イスラエル出身で、若干19歳でアヴィシャイ・コーエン・トリオに抜擢され、私は2008年のアルバム『Gently Disturbed』で初めて知ったピアニスト/作曲家のシャイ・マエストロ(Shai Maestro,  1987-)の初のピアノ・ソロ作品が登場している。世界で好評でECMでのリリース(『Human』(ECM2688/2021)は重要なアルバム)などを経て現在はスペインを拠点に活動しており、巨匠キース・ジャレットからも賞賛されるという若きジャズ・ピアニストだが、今、彼は人生における一つの転機を迎えていると言っても良いだろう。それは、ちょうど表に出てのミュージシャンとしての活動が20年経っての40歳を迎える自分自身を見つめる時を迎えたと言うことでもあり、初のソロ・ピアノ・レコーディングという形が適当であったろうと推測するのだ。そしてジャズという音楽ジャンルの中で、"曲の構成と即興性のバランスを探求すること"と、"自分自身の生き方を見つめてみる"と言うことが重要であったのだろうと推測する。

 そんな意味で、「Miniatures(小型、縮図)」と「Tales(物語、譚)」に大別される二つを対比しつつ、影響を受けない自己のみのソロ演奏世界で見つめ直そうとしたのではないかと、推測しながら聴いているのだが、マエストロに言わせると「このレコードで、相反するものを提示した。たとえば、即興と作曲、あるいは暗色と明るい色、不協和音と協和音などの対比を試みた。このアルバムは2つのパートに分かれている:「Miniatures」では、小さく短い、しかし完全に即興で行った演奏を収録した。そして「Tales」では、書かれた(作曲された)素材に長く深く身を任せ、シンプルなメロディーやハーモニーを膨らませてどれだけのものを引き出せるかを探求している。」と言う事のようだ。

(Tracklist)
1.3 Colors
2.All The Things You Are*
3.Gloria
4.Aba (For Gil Maestro)
5.Monkey Mind (Chaos Is An Intimate Thing)
6.An Old Family Photo
7.From One Soul To Another
8.Dakini(The Sky Dancer)
9.For All We Know*
10.Mystery And Illusions

  (*印 カバー)

 このアルバムの収録曲は、2つのパートに分かれている。小品群「Miniatures」(束の間の瞬間を捉えた、短く即興的な即興演奏)と「Tales」(メロディーとハーモニーの可能性を広げる、広大で深く探求された作品)だ。これまで彼のピアノはトリオやカルテットのようなフォーマットの中でしか聴いてこなかつた訳だが、今作では他者の意思とか連携とから離れての、自分の自由な発想の赴くままに演ずることが出来る状況で、そこには彼の意志が見事に表現されている。

49456387bearbeitetw

 オープニングは、複雑なる多くの音が聴き取れる緻密な演奏、ミニマルな展開のM1."3 Colors"。そしてジャズ・スタンダードを彼のセンスでアレンジしたM2."All The Things You Are"。ソロの自由さに音の美しさを訴えている。これらの小品は「Miniatures」だということか。
 彼の優しさ溢れる美メロディがたまらないM3."Gloria"は、彼のパートナーに捧げた楽曲、クラシックのピアノ曲を聴くようだ。明るさもあって素晴らしい。これを聴くとマエストロだと感じ取れる。
 そしてM4."Aba"は、彼の父親に捧げたもの。美しいテーマがしっとりと。彼のルーツ中東を訪ねて・・・。
   M5. "Monkey Mind "混沌とした世界。M6."An Old Family Photo" 回顧の優しさ。
 M7."From One Soul To Another"は、アルバム『The Stone Skipper』(2016)の収録曲。印象に残る瞑想的な演奏「Tales」の世界。
 M8."The Sky Dancer"心の安定と飛躍。
 M9."For All We Know"しっとりと描き、展開の美しさはクラシック音楽にも通じ、ダイナミックさも加味して訴える。
 M10."Mystery And Illusions" 安定した美。

 ソロ・ピアノ・アルバムは、彼の新たな挑戦のスタートと言う事だろう。ECMという名門レーベルを離れてBELIEVEのでのリリースは「新しい表現の場」を探求し訴える処か。極めてパーソナルな作品とみるが、短い「Miniatures」と深い「Tales」が交錯する構成は、飽きさせずに演ずるところの深さも楽しませてくれる。トリオ編成を好む私にとっても、時にソロの味わいも悪くは無かった。

(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音   : 88/100
(試聴)

 

 

| | コメント (0)

2025年9月 5日 (金)

キム・イェーガー The Jaeger Experiment 「Stability」

モダン・ジャズ、フュージョン、ラテンなどの叙情性のあるクロスオーバー展開

<Contemporary Jazz>

The Jaeger Experiment 「Stability」 
O.A.P RECORDS / Import / OAPR2502 /2025

Coveritunesstabilityw

Kim Jaeger - piano
Marre de Graaff - electric bass
Christian Palmieri - drums

Recorded at February 28 2025 at O.A.P. Studio, Den Haag, Nederland

517170871_10230970503631323_415139208653  全くの初物、オランダ産新鋭ピアノトリオThe Jaeger Experiment の2025年作品だ。説明によると収録曲はピアニストのKim Jaeger(→)により、10年以上前に書かれたモノとか、メンバー3人(ピアノ、エレキベース、ドラム)は、その当時、それぞれ人生の中人生の紆余曲折の経験である困難の中にあったが、その後、ようやく落ち着いた精神状態を得た「穏やかな境地」へたどり着き、「Stability(安定、着実、不変、永続)」といったコンセプトが生まれ、特に「安定」のテーマでアルバム製作に至ったとのこと。このアルバム・タイトルは、経験を通じて成長した人格と音楽の両面における安定した状態の演奏という意味があるらしい。
 リーダーのピアニスト・Kim Jaeger は音楽一家に生まれ、幼い頃からジャズそしてキューバ、ブラジル、スリナムなどのさまざまな音楽スタイルに触れてきた。合唱団で歌い、6歳にドラムを演奏し、後に10歳頃にピアノに接するようになった。そしてその後10年間このピアニストを追い続け、現在はユトレヒト音楽院(HKU)で修士号を取得。その後もさまざまなピアニストから教えを受けて来ている。

485943812_966052982375033w (Tracklist)

1. Ritual
2. Last Dance
3. An Unknown Tale
4. Hiraku
5. Hombre del Piano
6. Serene Maiden
7. Sky Blues
8. Old Journey

  コンテンポラリーなジヤズに分類されるが、構成としてはピアノ・トリオ編成で、オリジナル・コンポジションによる演奏である。かなりモダン・ジャズとフュージョン的要素をクロスオーバーさせつつ、結構叙情的であり、リリカルな即興ジャズをも試みていて聴くものを引き込む要素もしっかり持ったピアノ・トリオ作品という印象が強い。いわゆるスウィング・ジャズとは全く別物で、欧州としては珍しくラテン、アフリカ、フラメンコ、ブラジルの因子がのぞき、ドラムスのパーカッシブな演奏はラテンよりなところもある。

 ピアニスト Kim Jaeger は、Keith Jarrett、Chick Corea、Michel Petrucciani、さらにはゲーム音楽作曲で知られる Nobuo Uematsu(植松伸夫) や Yellowjackets をインスピレーション源として挙げているという話だ。
 私の注目曲のM4."Hiraku"では、ピアノの美旋律が支配しながらも、ドラムス、ベースはどちらかというと深遠な雰囲気をうまく作っていて、ぐっと深く聴き入ってゆくことになる。
 又M6."Serene Maiden"は、更に美しいピアノが聴かれ、クラシック・ソロ・ピアノ的なところまでの印象がある。
 こんな多様な因子がある中、ベースがエレクトリックのものだけあって、かなりフュージョンぽい展開も感ずる。そして「物語性」や「ドラマ性」もちゃんと持っていて印象的なメロディラインの構築とともに、そんな世界に導くところはなかなか憎い演奏だ。
 M8."Old Journey"ここでは、なんとなく歌心も見える明るい方向の曲で締める。 

 これから、この多様な世界から、グループ名に「Experiment=実験」とあるように、これを経て彼らの方向がもう少し集約された方向に向かうのではないかと、楽しみなトリオとして注目してゆきたいところだ。

(評価)
□ 曲・演奏 :    88/100
□   録音   :    85/100

(試聴)

 

| | コメント (2)

« 2025年8月 | トップページ | 2025年10月 »