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2025年11月16日 (日)

トーマス・エンコ Thomas Enhco 「Mozart Paradox 」

秋の夜長に、モーツァルトの鬼才ぶりを知る感動の一枚

<Classic, Jazz>

Thomas Enhco 「Mozart Paradox 」
Sony Music Labels / Import / SICJ-30178 / 2025

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Thomas Enhco (p)

82756821_2831588376862347w  12年前から注目しているト-マス・エンコがこの11月に来日公演がある。彼は1988年パリ生まれのクラシツク・ピアニストであり、私が知ったのはジャズ・アルバム『Jack & John』(EECD8802, 2013)であるが、トリオ演奏版だった。ここで取り上げたのは2013年ですから当時はまだ25歳ぐらいのまさに新進気鋭そのものであったが、その後も注目して来たのだが、今年はあの天才作曲家のモーツァルトに焦点を合わせたアルバムをリリースしたのだ。それも発売日ごろの今年の猛烈な酷暑には向いていなかったが、この秋の夜長になって無性に聴きたくなって聴いている次第である。
 どうも「もしモーツァルトが21世紀に甦ったら」という問いに回答した彼のソロ・ピアノによる回答でもあると言われているのだが、もともとクラシックとジャズの間を何の抵抗もなく往来して愉しませてくれる彼であるが、私はジャズの世界に興味を持ったのは、もうなんと60年も前の話になってしまうが、やはりフランスのジャック・ルーシェが、『Play Bach』シリーズでピアノ・トリオによってクラシック音楽のバッハを演じ、それを聴いて感動したのがジャズへの入り口だった。そしてそれ以降キース・ジャレット始め欧州系のピアノ・トリオを中心にジャズ愛好家として存在しているのだが、今でもクラシックをジャズ演奏してくれるものには興味がある。

 このトーマス・エンコは、これまでバッハ、シューマンやブラームスの世界を探求してきているが、最近はモーツァルトのソナタ、交響曲、弦楽四重奏、協奏曲、宗教音楽、オペラなど、クラシックでのさまざまなジャンルにおいてのモーツァルトが残した名曲をピアノ・ソロで自由自在に演奏して来ているようだ。つい三年前の2022年にダヴィッド・レスコの演出による「モーツァルト、ある特別な一日」でモーツァルト役を演じ、エンコが劇中で演奏した『レクイエム』の"ラクリモーサ"の即興演奏は大きな反響を呼んで、そんなことが今回のアルバムに通じてきたのかもしれない。いずれにしても、彼の有能なピアノの演奏で、こうしてモーツァルトの本質を聴かせてくれると思うと大歓迎なのである。。

(Tracklist)

1. 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』より「序曲」
2. ナハトムジーク
3. ヴァイオリン・ソナタ ホ短調
4. アヴェ・ヴェルム・コルプス
5-6. ピアノ・ソナタ イ短調
7. 『レクイエム』より「キリエ」
8. 司祭たちのワルツ
9. ディソナンス・シンフォニー
10. 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』より「お手をどうぞ」
11. 『レクイエム』より「ラクリモーサ」
12. クラリネット協奏曲

  しかし、ピアノ・トリオの響きが好きな私であるので、トリオで演奏して欲しかったと思いながら聴いてゆくと、なんとこのソロ演奏であることの素晴らしさを感ぜざるを得ないところに置かれてしまった。まさにソロであってこそのモーツァルトの世界が浮き彫りになってくるのである。

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   オープニングのM1."ドン・ジョヴァンニ"では、さっそくリズムのジャズ化とハーモニーにも工夫を加えて驚かせる
 そしてM3."ヴァイオリン・ソナタ ホ短調"M5." ピアノ・ソナタ イ短調"では、もう言葉に出ないほどの哀感の美しいピアノ旋律を聴かせる
   M10."お手をどうぞ"M11."ラクリモーサ"等を聴くに付け、彼自身の話に「3年前に舞台でモーツァルト役を演じ、彼になりきって演奏したことがきっかけになりました。"レクイエム"、"魔笛"、"ドン・ジョヴァンニ"など晩年の作品には成熟と悲しみ、そして無邪気さが共存している。それを即興で現代的に再解釈し、本質を守りつつ新しく自発的な表現に昇華したいと考えました」 とあるように、どこか無邪気な明るさがある反面、なんか深遠な人間的な世界がもの哀しく表現されているところが、見事と言いたい。

   そんなところが、モーツァルトの鬼才ぶりを彼の若さで感じつつ演じているところに一つの特徴があって、ピアノの響きにも転調などの楽しさと、一方哀しさの美しい響きが交錯してくるところが、このアルバムの素晴らしさなのかもしれない。特にやはりM11."ラクリモーサ"は素晴らしい。モーツァルトのジャズ演奏もいろいろと聴いては来たが、彼がピアノのソロ演奏での響きにもそれを表わし聴かせているところに非凡さを感ずるところである。

 秋の夜長に、一度は聴いて欲しいと思うピアノ・ソロ・ジャズ・アルバムであった。

(評価)
□ 編曲・即興・演奏   90/100 
□ 録音                      90/100

(試聴)

 

 

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コメント

おお、いいですね~!秋の夜長に聴く美しきピアノ・・!1980年でキースジャレットのピアノジャズに嵌った時期を思い出しました。キジャレはやや個性的・独創的でしたが、コチラはまさに落ち着いたクラシック音楽風のピアノですね!心の癒しを頂きありがとうございました。

投稿: ローリングウエスト | 2025年11月17日 (月) 09時53分

ローリングウエスト様
こんばんは、コメント有り難うございます
クラシックをジャズで・・・・ジャズ畑から、クラシックを演ずる場合と、クラシック畑からジャズを演ずる場合との近いが結構面白いですね
欧州系ジャズは、近年クラシックからジャズを演ずる場合が多く、その人がふと、クラシックをジャズ手法で演じてくれると、それはクラシックを如何に生かすかを心得ているようにも思えて味わい深いです。
そんな一枚として楽しんでいます。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2025年11月18日 (火) 23時57分

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