« 2025年11月 | トップページ | 2026年1月 »

2025年12月27日 (土)

トーマス・ストレーネン Thomas Strønen「Off Stillness」


音の錬金術師による 即興、アレンジの
展開による静謐にしてスリリングな五重奏曲

<Contemporary Jazz>

Thomas Strønen/Time Is A Blind Guide 「Off Stillness」
ECM / Import / ECM2842 / 2025

81iadtlwtqlw

Thomas Strønen(ds), Håkon Aase(vln), Leo Svensson Sander(Violoncello), Ayumi Tanaka (p), Ole Morten Vågan(b)
Design; Sascha Kleis
Engineer: Peer Espen Ursfjord
Mixing: Manfred Eicher, Thomas Strønen, Michael Hinreiner
Producer: Manfred Eicher

Recorded December 2021 at Rainbow Studio, Oslo
Mixed July 2024 at Bavaria Musikstudios, München

Thomas_strnen_2025w   「トーマス・ストレーネンとTime Is A Blind Guide」の第三作目のアルバムである。ストレーネンThomas Strønen(→)は1972年12月7日生まれのノルウェーのジャズ・ドラマーで、既に70枚以上のアルバムを録音しているという超活躍のミュージシャン。
 この結成されているメンバーは、非常に珍しいアコースティックなアルケミー(このような表現がされているが、この意味は錬金術(れんきんじゅつ)、つまり秘術というか、価値あるものの作り上げる技)が、取り入れられている。それは、所謂ベースはジャズ・トリオの弦楽器として一般的だが、それにヴァイオリン、チェロが加わっての珍しい3つの弦楽器がジャズ演奏に挑戦し、所謂ジャス・トリオの常連のピアノやドラムス(パーカッション)と時に対立的に演奏が響くといいながらも、究極各楽器が全体として機能し展開する世界を構築しているのだ。非常に希有な世界に浸れて、いかにもECM的である。

 そして前作から、チェロには、ルーシー・レイルトンに代わってレオ・スヴェンソン・サンダーが加入し、ちょっと印象的に新鮮なアンサンブルの音を醸し出す。今回も全体像では異質の世界に入り込めて、それはオスロのレインボー・スタジオで2021年に録音され、2024年にミュンヘンでミキシングされた本作は、今回も大御所マンフレッド・アイヒャーがプロデュースを担当して、我々に音楽というモノの普遍性を知らしめるべく響いてくるところが魅力。
   なお、収録曲全曲ストレーネンのオリジナル曲である。

(Tracklist)

1. Memories Of Paul (Thomas Strønen) 5:08
2. Season (Thomas Strønen) 6:31
3. Fall (Thomas Strønen) 7:18
4. Tuesday (Thomas Strønen) 3:23
5. Cubism (Thomas Strønen) 4:06
6. Dismissed (Thomas Strønen) 6:47
7. In Awe Of Stillness (Thomas Strønen) 7:52

 あのストレーネンの打楽器的面が強調されるドラムスに誘導される5者による特異な音楽的世界は、まさに独自の次元に存在している。そこではジャズを基本としている中で、室内楽、即興演奏とアレンジがある意味混在という形にも聴こえるが、実は整然とした世界を構築しているのだ。ピアノは田中鮎美によるもので、澄んだ音色で、流れを整然とさせる役割を担ったような演奏だ。ヴァーガンのコントラバスはやや異様に響くが、ホーコン・アーセのヴァイオリンとサンダーのチェロがメロディーの表現にリード的な役割を果たしながら共鳴する。そして究極それぞれが無くてはならない役割を担った全体の運動体的とも言えるクインテット演奏となる。

589367168_18544085w

  M1. "Memories of Paul" 穏やかに次第に引き込んでゆく。ピアノとバイオリンが静かに流れてまさに序章、しっとりした導入で聴き手を静寂の世界へ導く。(ブレイとモチアンに捧げる曲のようだ)
  M2. "Season "循環する四季の表現か。風景が目に浮かぶ牧歌的世界。 詩的な景色描写。
  M3. "Fall" 弦で描きピアノがサポート、ちょっと内省的。いっやーなかなか静謐な表現に驚く。季節の変化に人間的な対応が。
  M4. "Tuesday" 日常のささやかな詩的な瞬間。ピアノの優しいタッチの最小限の音で構成され、静寂すら感ずるた余韻の豊かさが印象的。     M5. "Cubism" 断片的音による構築の試みが展開。アルバム中盤の余裕。ストレーネンの真骨頂の変化を楽しむ。
  M6. "Dismissed " パーカッシヴな動きから、アルバム全体でも緊張感と動的なダイナミックな側面が強く出る曲。珍しくピアノの低音の響きが。
 M7. "In Awe of Stillness" 終盤に壮麗なまとめの一曲。与える描く世界の質感が尊重される序盤から、静寂を尊び訴えてくる瞬間を動と対比してスリリングに表現、余韻を残して締める。アルバム全体を総括するような、静と動の統合。

 ジャズの五重奏曲として、基本的には控えめで、しかし緻密性の高い演奏で、そして「静と動のバランスや空間表現」が凄い。騒がずの演奏に緊張感たっぷりという密度の高いハイレベル演奏と評価したい。

(評価)
□ 曲・演奏 :    90/100
□   録音   :    90/100

(試聴)

 

| | コメント (0)

2025年12月21日 (日)

ロベルト・オルツァー Lorenzo Cominoli 、Roberto Olzer 「Dreams of Others」

とにかく気品すら感ずる優しさとドリーミーな静謐さが魅力の演奏

<Jazz>

Lorenzo Cominoli 、Roberto Olzer  「Dreams of Others」
Abeat / Import / ABJZ289 2026

Abjz289cominioliolzerw

Lorenzo Cominoli - guitar
Roberto Olzer - piano

 イタリアの注目ジャズ・ミュージシャンのギタリスト・ロレンツォ・コミノリ と、私の期待株のピアニスト・ロベルト・オルツァーによる2020年の成功作『Timeline』(ABJZ218)に続いての新デュオ作品の登場。彼らは前作で既に評価を勝ち取っていて、作曲と編曲において類まれな才能を発揮しているオルツァーはインターナショナルにファンを獲得してきているし、コミノリはクラシックをベースとしての独創的でありながら、その叙情性には定評がある。両者は簡単に言うと個性的で有りながら心に響く演奏を聴かせてくれるので、当然今回も大いに期待されるところにある。

15855w  日本では、特に澤野工房が、オルツァーRoberto Olzerには以前から注目して力を入れてきたので、広く知るところであるが(ここでも彼のピアノ作品を取り上げてきた)、1971年イタリア生まれで、ヨーロッパジャズの巨匠エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)に師事し、ピアノのタッチの優しさ、叙情性たっぷりの美しいアドリブが聴き処で、やはりクラシックの基礎があっての端正な演奏を聴かせるピアニストだ。代表作はピアノトリオ作品『Steppin’ Out』(2012年)

 

Img_lorenzo_cominoliw 一方のギタリスト、ロレンツォ・コミノーリ(Lorenzo Cominoli)も、クラシックとジャズを並行して研究してきた演奏家/作曲家。ジャズギターはバークリー音楽大学でギャリソン・フェウェル(Garrison Fewell)に、さらにイタリアのジャズギターの巨匠サンドロ・ジベリーニ(Sandro Gibellini)にも師事してきた。代表作は『City of Dreams』(2017年)など。

 

 

(Tracklist)

01.Dreams of Others (Bernardo Sassetti) 04:43
02.St. John’s (Lorenzo Cominoli 04:09)
03.Energy Flow (Ryuichi Sakamoto) 03:58
04.Pulse (Roberto Olzer) 06:18
05.Ninna Nanna per Margherita (Lorenzo Cominoli) 03:28
06.Elm (Richie Beirach) 05:53
07.El noi de la mare (Miguel Llobet) 01:32
08.Tomorrow’s Dawn (Lorenzo Cominoli) 05:28
09.No potho reposare (Giuseppe Rachel) 03:23

  コミノリ3曲、オルサー1曲のオリジナル4曲と、世界的な作曲シーン(坂本龍一、リッチー・バイラーク、ミゲル・リョベート、ジュゼッペ・ラチェル、ベルナルド・サセッティ)から集めた楽曲をミックスし洗練された編曲で9曲が聴ける。

 又、2楽器のデュオであるため、それらの音がリアルに聴き取れる為、最も要求の厳しいオーディオマニアにも受け入れられるべく、完璧なサウンドを追求されての録音として聴き取れるところが嬉しい。今回はデジタル・リリースされたモノを聴いているが、24bit48kHzのハイレゾ音源で楽しめる。

17876423461399363873w


  なんと言っても嬉しかったのは、私の好きなRichie BeirachのM06."Elm"の登場だ。ピアノの音が私には印象の曲だが、このデュオではやはり美旋律はギターに寄っていて若干残念だが、曲の美しさは優しく美しいギター音色で完璧、そしてピアノのアドリブが又美しく納得。
 アルバム・スタートのM01."Dreams of Others"は、タイトル曲であるだけに、夢見る心地ので叙情的な幕開け。ギターとピアノによる静謐な旋律演奏が交互に現れとにかく美しさが印象的だ。
 コミノリの曲のM02."St. John’s"なんとなく牧歌的、M05."Ninna Nanna per Margherita"も同様で優しさ溢れていて、M8."Tomorrow’s Dawn"は希望的感覚の世界で美しい。
 オルツァーのM04."Pulse"は、躍動感あるピアノとギターとのデュオらしい展開が芸術的。
 最後のM09."No potho reposare"では、落ち着いたギターの響きでのちょっと哀感のある纏めかただ。

 どこか気品の感ずるコンテンポラリー/モダン・ジャズといった世界で、ギターとピアノによる緊密なインタープレイが中心で掛け合いが無理のない自然で聴くに抵抗がない。そしてメロディックで所謂叙情性が高く、静的な美しさと即興の展開が旨く共存している。心安まるアルバムだ。

(評価)
□  曲・編曲・演奏 : 88/100
□  録音      : 88/100
(試聴) "Elm"

| | コメント (2)

2025年12月15日 (月)

レベッカ・バッケン Rebekka Bakken 「NORD」

ノルウェーの母国の伝統音楽に迫り世界的精神性を求めた意欲作品

<Jazz, Folk>

Rebekka Bakken 「NORD」
Supreme Classics / Import / CD /SMGG014 / 2025

8115jz30g5l_ac_sl800w

Rebekka Bakken - Lead vocal & vocal harmonies
Rune Arnesen - Drums & Percussion
Stein Austrud - Synthesizers、Piano、Organ、Soundscapes & others
Eivind Aarset - Guitars & Soundscapes
Svein Schultz - Bass
Saleh Mahfoud - Overtone singing & additional vocals ...3
Hildegunn Oiseth - Goat horn...4、7、10
Simon Issat Marainen - Joik...4、10

All songs written by Rebekka Bakken
Arranged by Stein Austrud、Rebekka Bakken & the band,
except from track 4、arranged by Stein Austrud and Rebekka Bakken

Unnamedrbw   ノルウェー出身の異色の歌姫レベッカ・バッケン約2年ぶりのアルバム。既にここでも彼女の実力アルバムを取り上げてきたが(前作『Always On My Mind』(2023))、今回のアルバムは、彼女のルーツへの回帰とか、母国ノルウェーの魂へのトリビュートなどと言われていて、更に異色度が高い。ヨーロッパで最もカリスマ性のある歌声の持ち主の一人との評価にあって、ジャズ、フォーク、ポップスに通じ、しかも北欧独特の風土からのメランコリーと普遍的な美しさを彼女自身の解釈で融合させ、今や国際的な音楽シーンでその評価を高めている。


 このアルバムでは、1曲を除いて全て母国語のノルウェー語で歌われているというのも、彼女にとっては初めてのことのようだが、それもそれなりの意味があってのことと推測するし、シンセサイザーを使ったサウンドを雄大にそして深淵にバックを固め、彼女の音域の広さの歌声と見事に溶け合せた世界を構築している。これは彼女の創造性のあるオリジナルとノルウェーの伝統音楽を融合させた作品で、時にノルウェーの角笛(ゴートホーン/ブッケホルン)などが入ったりの音風景を作り上げ、伝統のヨイク唱法(北欧独得の)も取り入れたり、ノルウェーの伝統的な世界へアプローチしている。アルバム・タイトル「Nord」は「北」の意味で"北欧の世界から"がテーマでしょうね。

  Rebekka Bakkenは1970年4月4日オスロ近郊・リール生まれ。SSW、音楽プロデューサーであり、ジャズと関係づけられるが、ジャズミュージシャンとの位置づけは拒否しているようだ。諸々の学校のバンドで歌い、1988年からはプロのソウル、ファンク、ロックバンドで活動を開始。特に表現力豊かで多様な声で知られ3オクターブを超えていると、現在もフォーク、ジャズ、ポップを融合させた自己の世界の音楽を歌い演奏。2007年にアルバム『I Keep My Cool』でアマデウス・オーストリア音楽賞ジャズ/ブルース/フォーク部門を受賞。

Rbw (Tracklist)

1. Mot Meg
2. Tusen Bla
3. Mitt Hjerte Alltid Vanker
4. Gjendines Badnlat
5. Heiemo og Nykkjen
6. My Choisest Hours
7. Korset Vil Jeg Aldri Svike
8. Eg Veit I Himmelrk Ei Borg
9. So Ro Til Meg Selv
10. Ingen Vinner Frem Til Den Evige Ro

 確かにジャズというよりは、美しいフォークメロディーが迫ってくる。Rebekka Bakken のボーカルは色々な表情を見せており、本人が言うようにジャズシンガーと規定できない多彩な音楽性を描いて、主に ノルウェー語で歌われた伝統曲や精神的な歌を、現在の彼女の視点で再構築したものだ。ほとんどの曲はトラッドなどの伝統歌や賛美歌に由来しているようで、彼女の人生の中で幼い頃から慣れ親しんだ音楽の上に作られているようだ。ちょっと鼻にかかった独特の味わいある声はなかなか訴えてくるところがある。

 彼女の話では、「曲は祈りや嘆き、子守歌など、人間の普遍的な感情とつながっている」と。そしてテーマは「恋すること、探すこと、疑うこと」など人間の根源的な物語であり、彼女にとっても “全ての音符と息が自分自身そのもの” だ」と言う 
 とにかく歌詞は全く理解不能のノルウェー語で意味は不明だが、全体的に流れるムードから北欧の世界を想像するに十分なノルウェーの大地や精神性を想起させる広がりのあるサウンドスケープ(歌と音で感ずる風景)として受け止めて十分な感動がある。 
 従って彼女の歌は、メロディを言葉で美しく歌う というより、発声からの質に重点があり、流れとか間とか響き空気感に重点が置かれている。

Gettyimages548817709w

 一つM6."My choicest hours"は、この中で唯一英語で歌われる異質の曲で、重要な1曲らしい。「スーフィー詩」を元にしていると・・・これはイスラム神秘主義(スーフィズム)の修行者であるスーフィーたちが、神との一体感や精神的な境地を表現するために詠んだ詩とのことで、「神への愛、現世への離脱、内面の浄化 」(富や権力、肉体的な欲望といった「被造物」への執着を捨て、精神的な探求に専念)。 禁欲的な修行を通じて、自己の内面を深く見つめ、神の光に触れる体験を歌い、そして「ファナー(神との合一・消滅)」といったテーマが中心とのこと。特にジャラールッディーン・ルーミーという人の作品が有名で、宗教を超えて世界中で愛されているらしい。ノルウェー民謡の流れからここに彼女の世界の合体=イスラム的精神性と北欧的静謐さの融合という世界に広がる。ここではシリア出身の歌手 Saleh Mahfoud との共演がある。
 そしてM8."Eg veit i himmerike ei borg"(希望と静かな確信)ピアノの響きと深遠なる美しさの歌が現れる。これが彼女の「私は知っている」という 静かな確信が前に出てきたところだ。
 M3. "Mitt Hjerte Alltid Vanker" 有名なノルウェーの賛美歌のようだ。彼女の彼女そのものの歌が聴ける。あたかも自己の存在を訴えているように聴こえるのが印象的。

 こんなところから、彼女の生き様としての北欧の静謐なる神秘性と世界的なスーフィズムとの一体性を描いていると感ずることが出来る。母国の伝統音楽に単なる民謡のカバーではなく、現代精神性をフォークの流れに呼び込み、イスラム神秘主義に及ぶ文化的な要素をも加味した北欧音楽の枠を超えた普遍性は、彼女のミュージック表現者としての深みと自己の精神性に頭の下がる思いだ。これを聴いて何かを感じて欲しいアルバム。

(評価)
□ 曲・歌・コンセプト 90/100
□ 録音        90/100
(試聴)



| | コメント (0)

2025年12月11日 (木)

イーロ・ランタラ Iiro Rantala 「Trinity」

オーソドックスな聴きやすい演奏で味わい深い世界を構築

<Jazz>

Iiro Rantana  Kaisa Mäensivu  Morten Lund「Trinity」 
ACT MUSIC / Import / CD / ACT80332 / 2025

20251122_87964bw

Iiro Rantala (piano)
Kaisa Mäensivu (double bass)
Morten Lund (drums)

録音:2025年5月19日-22日、フランス南西部、マルゴー・カントナック(Margaux-Cantenac)のシャトー・パルメ(Château Palmer)での録音

Rantalaw  フィンランドの実力派ピアニストでクラシック畑での活動もあるのイーロ・ランタラ(→)の女流ベーシストのカイサ・メンシヴ(b 下左)と、モーテン・ルンド(d 下右) との新生トリオによるACTからのスタンダード曲アルバム。全般に抒情派ピアノ・トリオの正統らしい行き方がほぼ貫かれていて、評価は良いため聴いてみたところだ。シンプル・ストレートな攻め方でいて、演者のインプロもそれなりに入れても、メロディックな本質は娯楽派ピアノ・トリオとして演じきり、かってのTrio Toykeatで大いに鳴らした実力者らしいところが聴ける。

 イーロ・ランタラ(Iiro Rantala、1970年1月19日 - )は、ヘルシンキ生まれのジャズ・ピアニスト。シベリウス音楽院のジャズ学科でピアノを学び、1991年から2年間、マンハッタン音楽学校でクラシックピアノを学ぶ。2008年に解散したフィンランドのジャズ・トリオのTrio Töykeätのピアニスト。
 2008年にイーロ・ランタラ・ニュー・トリオ(Iiro Rantala New Trio)を結成、デビュー・アルバム『Elmo』を発売。

594072677_122173150994w549520431_10237884347064_nw


(Tracklist)
01. Hymne À L'Amour (Edith Piaf / Marguerite Monnot)
02. I Love You (Cole Porter)
03. In A Sentimental Mood (Duke Ellington) (solo piano)
04. Beautiful Love (Wayne King / Victor Young / Egbert Van Alstyne)
05. Fais Dodo, Colas Mon P'tit Frère (traditional) (p & b duo)
06. The Days Of Wine And Roses (Henry Mancini)
07. There Is No Greater Love (Isham Jones)
08. Blue In Green (Miles Davis / Bill Evans)
09. Scrapple From The Apple (Charlie Parker)
10. Smile (Charlie Chaplin)
11. There Will Never Be Another You (Harry Warren)

  非常に聴きやすいアルバムだ。現代ユーロ系ジヤズというより、最も一般的な取っ付きやすいスイング演奏を基本として、美しいメロディーをそのまま演じつつ、どちらかというとオーソドックスな世界だ。曲の表現も鮮明にイキイキと展開され、跳ねるような快活な展開もみせる。女流ベーシストとは思えないバネを利かせての脈打つメンシヴ(b)の演奏、結構サポートに徹しているかと思いきや、以外にパンチ力でパワーを見せるルンド(ds)らバックアップも派手さもあって面白く、トリオの性質上、ランタラ(p)の個性を織り込んではいるといえども、基本的には、ランタラの情味に富んだインプロにメンバーそれぞれの自発的なやりとりが加味する。しかしトリオの演奏の一体感があって、トリオ演奏として評価できると思った。

560592855w

 オープニングがM01."Hymne À L'Amour"で、人生の一つの始まりをオーソドックスありながら表現が豊に演じ、M02." I Love You"がトリオの演技が合体してリズムカルに聴きやすい展開。
 そうした中で、メリハリとしてバラード調のピアノ・ソロM03." In A Sentimental Mood "がぐっと心に響く。アドリブも入れてのルバート奏法が旨く、音も澄んだ響きが良く、いい味だ。
 M04." Beautiful Love "がらっと三見一体高速展開。
 M05." Fais Dodo, Colas Mon P'tit Frère"これはまさにまぎれもなく濁りのない正統派のプレイ、ベースも良い語りを入れてくれる。
 M06."The Days Of Wine And Roses "ここで前曲とムードはガラッと変わって、人生の多彩な色を華々しく描く。"
 M07."There Is No Greater Love"ベースからスタートとして快調なリズム、跳ねるような演奏が聴ける。
 M08." Blue In Green"ぐっと世界は変わる。エバンスとは異なるランタラの正統派ピアノが印象的。
そして対照的な快活そのものでドラムスが印象的なM09."Scrapple From The Appl"を経て、今度はなんとなく落ち込んではいないが哀感を秘めたM10."Smile" 適度なインプロも効いて心にしみてくる。
 最後は M11."There Will Never Be Another You"で落ち着き、これからの展望に向かうといった世界に収まる。

 難しいことを考えずに、活発な世界、ちょっと哀感の世界、諸々考える世界、楽しく過ごす世界と、なんとなく一年を過ごしてきたというようなアルバムである。考えてみると年の瀬になったこの12月に一年を顧みて又新しい年に向かってという気持ちにぴったりのアルバムともいえる。なかなか難解でなく、曲そのものを楽しませてくれるところは、ある意味名演なのかもしれない。
 録音も、かなり良い線をいつている。音質は24bit/96kHzの高音質録音で、空間の広がりや音のクリアさと三者の位置関係が明瞭で良かった。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 : 90/100
□ 録音         : 89/100
(試聴)

 

| | コメント (0)

2025年12月 4日 (木)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati「Standard Deviation」

高速展開のお洒落なピアノ・トリオ・ジャズ・アルバム

<Jazz>

Alessandro Galati「Standard Deviation」
JAzZMUD / Digital Release /24bit 96kHz Flac , 3210 Kbps, RAR/ZIP :1.16 GB / 2025.5.25

199350757822coverzoom

Alessandro Galati(p, mixing, editing)
Ares Tavolazzi(b)
Bernardo Guerra(ds)

Rcorded by Andrea Pellegrini at Larione 10 Studio (FI), 2024.
Mixed and mastered by Alessandro Galati at Church St. Studio (FI), 2025.

371324610_7740460213w   このアレッサンドロ・ガラティ(→)のピアノ・トリオ・アルバム「Standard Deviation」は、2025年5月JAzZMUDレーベルからリリースされたアルバムである。実はこのアルバムはデジタル・リリースで、知らないまま来てしまって、ちょっと遅れて最近聴いた為、今の紹介となった。昨年寺島レコードから、ここでも取り上げた三枚のアルバム『plays Standards』(TYR-1121,1122,1123、2024)に続くモノで、あれは、おそらく寺島靖国からの注文もあったろうと推測するのだが、バラード調の哀愁感ある作品が多く、イタリアン・リリシズムと言う世界でもあったが、又そうでなくとも比較的聴く者にとって優しい演奏の曲が盛られていたように思う。
 そして、今回のこのアルバムは、トリオとしてのメンバーは同一のAres Tavolazzi(b, 下左)、Bernardo Guerra(ds, 下右)といったところで、完全な続編であるが、聴いてみて解るとおり明らかに異なった"Deviation"という世界が聴けるので楽しい作品だ。

 これも推測だが、ガラティはあの一連の"「Plays Standards」作品群"は、私は聴いた当時から、彼はおそらく寺島靖国の要望を理解して、自己の世界をかなり押さえているように感じていたが、やっぱりそうかと、こちらの続編の演奏には、ガラティばかりでなく、トリオ・メンバーが面白いように活躍している。おやおやここで欲求不満を解消しているのかとも思うのである。もともとガラティの発展系のスタイルが、単にスタンダードをおとなしく演奏していること自体不自然であったのだ。したがってクラシック・ジャズのスタンダード曲とジャズメンが見せたオリジナル曲をも取り入れて、その流れと演奏に融合を図ったりして、ガラティの築き上げてきたジャズ感覚を、共演のリズム隊と共に溌剌とお互い自己の味も披露しての展開が素晴らしい。是非CDやLPでもリリースして欲しいところである。

TavolazziwBernardoguerra_batteriaw

(Tracklist)

1. Bernie Miller: Bernie’s Tune
2. Bill Evans: Funkallero
3. Juan Tizol: Caravan
4. Miles Davis: Freddie Freeloader
5. Kenny Dorham: Blue Bossa
6. Richard Rodgers: Falling in Love with Love
7. Frank Churchill: Someday My Prince Will Come
8. Jerome Kern: In Love in Vain
9. Clifford Brown: Joy Spring
10. Sonny Rollins: Oleo

 いっやーーとにかく楽しい。所謂ジャズメンのオリジナル曲が多くを占めていてなんか新鮮だ。スタンダードは当然のメロディが顔を出すが、ガラティ独自の解釈が結構展開するし、そしてドラムスは"開放感"そのものを感ずる演奏で、ベースもなかなか"粋"で楽しませる。従ってスタンダード演奏というところから発展しての個性豊かな魅力的なジャズアルバムとして仕上がっている。

Img_25e85d3805e717f52941723ff962w


 とにかく、あの3作のスタンダード演奏もあれだけ続くと、ちょっと退屈になつたバラード調の演奏から解放され、ミッド・テンポからハイテンポでのインプロを交えての展開が快適で・・・ガラティのトリオのリズム隊を尊重してのエンジニアとしてのミックス作業も効果を発揮。
 M1. "Bernie’s Tune"から、ドラムス、ベースが溌溂としていて、快調なピアノを支えるというよりむしろ迫ってくるのが楽しい。
 続くBill EvansのM2."Funkallero"は、ぐっと味わい深いブルース調で、これは珍味。
 そしてM3."Caravan"が、冒頭からガラティのフェイク編曲メロディーがルバート奏法で快調に展開、後半のベース・ソロは全く別曲に聴こえて、そこにガラティがピアノで原曲に呼び戻すところが面白い。それでも一筋縄に行かない編曲だ。
 Miles DavisのM4."Freddie Freeloader"は、ベースのリズムが効いて、ジャズのスマートさが目立つ。
 M5."Blue Bossa"は、なかなか洒落てます。
 M6."Falling in Love with Love"これはなんと驚きの三者の高速バトル。ジャズの楽しさだ。
 M7. "Someday My Prince Will Come" は、ちょっと優しく軽いタッチのムーディーなピアノにベースが交互にメロディを演ずる。その一致感覚が心地よい。
 M8. "In Love in Vain" この曲もガラティは軽く跳ねるようなタッチでメロディを、そしてアドリブに流れ、引き継いでベースもアドリブを。
 最後のSonny RollinsのM10."Oleo"も、高速展開であっという間に納めてしまうというお洒落な締め。

 しかし、このトリオはこのアルバムでは十二分に自己のセンスをオープンにしている。これでガラティ自身もこのところの"スタンダード演奏"も、ここで"ミュージシャン・オリジナル"を噛ませたことで、一段落といったところに落ち着いたのでは。昨年の三作では、ちょっとよそ行きのガラティで、、本人も欲求不満だったのではと思うところだったが、これで私自身も納得だ。

(評価)
□ 選曲・演奏 : 90/100
□   録音      : 90/100

(試聴)

 

| | コメント (0)

« 2025年11月 | トップページ | 2026年1月 »