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2026年2月24日 (火)

アンナ・コルチナ Anna Kolchina 「 Reach For Tomorrow」

哀感と懐かしさをさそうソフトで優しいヴォーカル、ギターとのデュオで・・

<Jazz>
Anna Kolchina 「Reach For Tomorrow」
OA2 Records / Import / CD / OA222247 / 2026

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Anna Kolchina : Vocal

(参加ギタリスト)
PAUL BOLLENBACK (エレクトリック M9,M11)
PETER BERNSTEIN (エレクトリック M3,M4,M5)
ILYA LUSHTAK (エレクトリック M1)
ROMERO LUBAMBO (アコースティック M7,M10)
RUSSELL MALONE  (エレクトリック M8)
YOTAM SILBERSTEIN (アコースティック、エレクトリック M2,M6,M12)

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 更に、彼女はこのアルバム・ジャケに見るように、幼い頃のソビエト連邦時代から、なんと馬に魅了されていたと言われ、力強さ、動き、そして深く詩的な何かを象徴する馬の持つ性質と、馬に染み付いた感情は、サンクトペテルブルクの音楽院時代からイタリアへ渡り(Venus Recordsからイタリアのメンバーとデビューアルバムをリリース)、そこでシーラ・ジョーダンと出会い、ニューヨークへ移ることを勧められるまで(2017年)、彼女を支えて来たと言われている。その点はこのアルバムでダイレクトに現れている訳でしないが、そこでそんな意味合いがこめられたアルバムという事で聴くと、又一味違ったものを感じ取れるのかもしれない。

(Tracklist)
1. Dancing in the Dark
2. You and the Night and the Music
3. Who Can I Turn To?
4. Invitation
5. All or Nothing at All
6. Right from the Start
7. What Now My Love?
8. Vacation from the Blues
9. Wrap Your Troubles in Dreams
10. So Many Stars
11. Whistling Away the Dark
12. Reach for Tomorrow

  曲は、ジャズ・スタンダード中心で、ヴォーカル+ギターのデュオ・タイプの為、彼女の歌はかなりリアルに聴き取れる。そして歌は、過度な装飾はなく、比較的シンプルにジャズ情緒豊かな解釈で、声と演奏の「空間」を感じさせる世界を作っている。抑制された表現の中に豊かな感情が宿るという歌と演奏で好感が持てる。 ヴォーカルと演奏のそれぞれの味を聴き取れる録音も良い。

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 M1. "Dancing in the Dark" アカペラ・ヴォーカルでしっとりと入り、ILYA LUSHTAK(ロシア生まれ、NY拠点の熟練ジャズ・ギタリスト)は静かにサポート。
 M2. "You and the Night and the Music" 夜のロマンティックな雰囲気。ギターは、YOTAM SILBERSTEIN (アコギ、イスラエル出身のギタリスト)で、バック演奏での絡みがうまい。
   M3. "Who Can I Turn To?" 哀愁あるスタンダード。表情豊かで、感情の機微があるPETER BERNSTEINのギターで。
 M4. "Invitation" 何となく親密感が湧いてくる。
   M5. "All or Nothing at All" 期待の定番曲、メロディより優しい説得力の歌い回し。
   M6. "Right from the Start" YOTAM SILBERSTEINのギター、 比較的軽快で温かみのあるメロディ。ヴォーカルの柔らかさが活きている。
   M7. "What Now My Love?"  深い味わいのバラード調。丁寧な歌い上げが好感。
   M8. "Vacation from the Blues" ゆったりとブルース感覚。RUSSELL MALONEのギターが対話的で魅力。
   M9. "Wrap Your Troubles in Dreams" ジャズっぽい歌と演奏の展開。
   M10. "So Many Stars" メロディアスな美しさと柔らかい歌唱で、ブラジリアン・ギターのROMERO LUBAMBO のアコギも生き生き。
   M11. "Whistling Away the Dark"哀愁のある歌、PAUL BOLLENBACK のギターの音色とともに聴きどころ。アルバムのクライマックス。
   M12. "Reach for Tomorrow" タイトル曲。なんと言っても爽やかで希望を感じるフィナーレで安堵。

  とにかくいずれのギターも過度なアレンジや即興を避けた演奏で(エレキであってもアコースティックな演奏法)、ヴォーカルとの間を大切にしているため、細やかなニュアンスが深い味わいを持って楽しめる。どの曲もコルチナ自身の感性で丁寧にソフトに優しく歌い上げている点が好感が持てる。彼女のこのアルバムは、忘れた頃にやってきた懐かしさもあるものであったが、とにかく久々に聴いたせいもあってそれが好感に一層拍車をかけたところである。ジャズ・アルバムもこうしたセンスも失って欲しくないアルバムであった。

(評価)
□ 選曲・歌・演奏 :    90/100
□   録音      :    88/100

(試聴)

 

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2026年2月18日 (水)

カーステン・ダール GinmanBlachmanDahl「Play Ballads」

バラードというトリックでのスタンダード曲の老獪な新解釈

<Jazz>

GinmanBlachmanDahl「Play Ballads」
Storyville Records / Import / LP / 6014365 / 2025

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Carsten Dahl (piano)
Lennart Ginman (bass)
Thomas Blachman (drums)

録音:2024年4月24日-25日、MillFactory Studio(コペンハーゲン、デンマーク)

  デンマークの熟年期に入った3人のピアニストのカーステン・ダールCarsten Dahl(1967- ↓左)、ベーシストのレナート・ギンマンLennart Ginman(1960- ↓中央)、そしてドラマーのトーマス・ブラッハマンThomas Blachman(1963- ↓右)か​​らなる2005年からの名門ジャズ・トリオ : "ギンマン・ブラッハマン・ダール"の新作である。これは「バラード演奏」と銘打ってはいるが、なかなか単純ではない彼ら特有のスロー・テンポにこだわったスタイルで演奏された15曲のジャズ・スタンダード曲集。

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 2005年の「来日ツアー」では、結構好意的に受け止められ、本国デンマークに於いても、各種メディアからも、こうしたタイプは結構歓迎されているようだ。取り敢えず経験豊富な中での表現の繊細さや演奏の落ち着きが高く評価されたという事だと思う。
 冒険的・実験的な演奏に評価が集まる今日だが、このトリオの熟練した演奏とジャズ界でのクラシックな楽曲に対して意外に新鮮な展開で、とにかく丁寧な対応と表現が歓迎されたようだ。

 (Tracklist)

01. Angel Eyes
02. Gone With the Wind
03. Autumn in New York
04. But Beautiful
05. Take the ‘A’ Train
06. Chelsea Bridge
07. Blue Monk
08. Here’s That Rainy Day
09. Work Song
10. There Is No Greater Love
11. C Jam Blues
12. Don’t Go To Strangers
13. Satin Doll
14. Come Sunday
15. Things Ain’t What They Used to Be

   各曲は、おそらく意図的だと思うが、とにかくスローテンポで対応して、それによってメロディーの繊細な美しさと曲の描く世界の深みと彼ら自身をも探求するかの演奏だ。特にダールのピアノは繊細で一音一音の響きを大切にしている感のあるタッチで、当初思ったよりは即興因子も少なくはないのだが、基本的にはおとなしい流れでリードしている。そしてギンマンのベースとブラクマンのドラムはやはり意識的な控えめな対応だが、それでもやはり曲の展開にはなくてはならないリズム隊の役割を十二分に果たしている。
 
 私の以前からの印象としてダールというピアニストの印象は、このアルバムとはちょっと違うんですね。勿論北欧としての深遠なる詩情を描く点は素晴らしいのだが、それに加えて即興的因子を大切にしつつ、自由で抽象的・フリー寄りになり、単に安全運転だけでなく前衛的にもなることもあってその展開にはある意味でのジャズとしての面白みを感じてきた。しかし、このアルバムではその点が抑制されていて、ちらっとその面が見えたかと思っても、ぐっと押さえられてしまう。それは彼の意志なのか、このトリオの他の二人とのバランス的感覚でのことなのか、若干残念にも思いつつ、いやこのアルバムはそうした狙いではないところに目的があると、判断すべきなのか・・・実はこれはこれ悪くはないのだが、そんなことを少し疑問に思いつつ聴いたのである。

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 M1. "Angel Eyes" ちょっと暗めなイントロから始まる。音の間(ま)を活かした静謐な演奏。原曲の哀愁がより内省的な方向に誘導されて、ピアノのフレーズの繰り返しが心に響いてくる。
 M2. "Gone With the Wind" (風と共に去りぬ)しっとりとした哀愁を誘うアレンジで、緩やかなテンポが余韻をうみ深く深淵に。
 M3. "Autumn in New York"(ニューヨークの秋) ベースのメロディとピアノのアレンジが、都市の夕暮れを情緒豊かに描き格調高い。
 M4. "But Beautiful" 「美しさ」がテーマ。豊かなハーモニーの展開が印象的。
 M5. "Take the ’A’ Train" (A列車で行こう) ドラムスがかなりのインパクトを示し、ぐっとテンポを落としての表現に驚き。
 M6." Chelsea Bridge" じっくりと暗さが襲ってくる。どこか緊張感を誘導。
 M7. "Blue Monk" モンクの曲、ブルースの要素を優しくしっとりとした展開で。
 M8. "Here’s That Rainy Day" どこか憂いを帯びたバラード。ピアノとリズムのながれで雨の日の情景が浮かんでくる。
 M9. "Work Song" ゆったりしてはいるが、ピアノとドラムスのパワーのある訴えが響く。このあたりは単なるバラードとは捉えられない。
   M10. "There’s No Greater Love" ベースがリズムを刻み、内面から湧き上がるピアノ、ドラムスの感情的訴え。後半に来てようやくダールの単純でない音楽世界が明快になってくる。
 M11."C Jam Blues" エリントンに敬意を表しつつ、ゆっくりとしたブルースで、従来とは別感覚に。彼らトリオの楽しさも伝わってくる。
 M12. "Don’t Go to Strangers" / M13. "Satin Doll" 緩やかなテンポで、トリオのジャズ・アンサンブルを聴かせる。
 M14. "Come Sunday" アルバム終わりに近く、祈りの日、静けさの心を、老獪だ。
 M15. "Things Ain’t What They Used to Be" しっかり展望がきかれる納めの曲。

 なかなか、老獪な展開を聴かせるアルバムだ。スローに徹してここまで変化を聴かせる技には恐れ入る(M9.M10あたりに頂点を築く)。ゆったりとしたテンポと丁寧な表現によって、スタンダード曲の別の面を見せつけられたようなアルバムだ。演奏技術の高さだけでなく、ただ演奏だけしてきたのではない曲に描くモノをじっくりと三人の人生経験を盛り込んだ協調関係で描くところは、なかなか得がたいモノがあるアルバムだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    90/100
□   録音       :    90/100

(試聴)

 

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2026年2月12日 (木)

ロベルト・タレンツィ Roberto Tarenzi 「My Inspiration」

ハード・バップをベースに、現代味付けの本格的ジャズ心が伝わってくる

<Jazz>

ROBERTO TARENZI 「MY INSPIRATION」
Via Veneto Jazz / Import / CD / VVJ157 / 2026

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Roberto Tarenzi (piano)
Dario Deidda (bass on 1, 3, 5, 7, 9, 11)
Roberto Pistolesi (drums on 1, 3, 5, 7, 9, 11)

1_tarenzi1w   イタリアの中堅ピアニスト:ロベルト・タレンツィRoberto Tarenzi (1977年生、イタリア-ロンバルディア州ミラノ出身)の、ピアノ・トリオとソロ・ピアノ演奏が、交互に組まれた構成でのアルバム。なんと私の歴史的には注目度の高い「故アーマッド・ジャマルに敬意を表した一編」ということで、ジャマルに関しては何かと関心のある私であり、これはと聴くことになったアルバム。

 もともと、このロベルト・タレンツィに関しては、私は意外に接する機会はあまりなかった。あのエンリコ・ピエラヌンツィやフランコ・ダンドレーアに師事したというなんか親近感はあるのだが。1990年代後期よりイタリア主流派のジャズ・シーンで活動展開、リーダー作も多く発表しているし、サイドマンとしても広く活躍して評価を獲得していて、精力的な活動の中堅のピアニストと言うところだ。
 そして今作は歴史的には'50年代からの伝統的ハード・バップそして自由なメロディ・ラインとかインプロビゼーションというモード寄りのアプローチを通して、歌心とスイング感を重視した演奏とで結構好評。しかし過去の作品には、実は私は其れほど思い当たる印象がなく来てしまっている。イタリアには珍しいアメリカン・ジャズの匂いもあって、脂がのった演奏を展開する。これから日本でももう少し人気が出そうなところにある。
 今回はトリオは、Dario Deidda (bass ↓左)とRoberto Pistolesi (drums ↓右)と組んでいる。
 収録曲12曲は、スタンダード、ジャマル関連曲、オリジナルが混在していて結構多彩だ。

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(Tracklist)

01. Where Or When (Richard Rogers) (trio)
02. Lament (Ahmad Jamal) (solo piano)
03. Mr. A.J. (Tarenzi) - Here You Come Again (Dolly Parton) (trio)
04. Desideria (Tarenzi) (solo piano)
05. Moonlight Serenade (Miller - Parish) (trio)
06. Tunnel Vision (Tarenzi) (solo piano)
07. Poinciana (Nat Simon) (trio)
08. My Inspiration (Tarenzi) (solo piano)
09. Broadway (William - Henri - Woode) (trio)
10. Chanson D'Helène (Philippe Sarde) (solo piano)
11. Like Someone In Love (Van Heusen) (trio)
12. The Brokolo Song (Tarenzi) (solo piano)

  まずの印象は、タレンツィの演奏は、なか芸達者な演奏で内容の質は高い。はっきりとしたピアノ・タッチと多彩なニュアンスで迫ってきて、ダイナミックとリリカルなところが旨く混在して魅力的だ。"エンターテインメント性も高い正統派ジャズ・ピアノ"と評価されているようで、なるほどと思う。トリオ曲の三者のバランスも適度な対話が繰り広げられ、ソロとなるとなかなか密度の高い聴きどころも多く経験の豊富さが感じられた。

 以下、収録曲それぞれの感想を中心に、評価・感想を記す。

 M01. "Where Or When"  ちょっとブルースぽいところがちらつくハード・バップ的トリオ演奏。力強いスウィング感で、ご挨拶的演奏。 
 M02. "Lament "さっそくジャマルのソロ演奏。メロディー展開が空間を生かし、更にパッサージに何とも言えないジャズ味があって、叙情性も見せる。
 M03. "Mr. A.J. (Tarenzi) - Here You Come Again "(Dolly Parton) 自己のオリジナルとカントリー曲の組み合わせというジャズらしさのある芸当が。又ユニークなアレンジが前面に出た演奏。
 M04. "Desideria" オリジナルをソロで、技巧派のちょっと繊細な表現。
 M05. "Moonlight Serenade"  久しぶりに聴いた名曲のトリオ演奏。スウィングを効かせロマンティックなタッチで懐かしの心をくすぐる。これは結構私はお気に入り。トリオらしくベースのソロが中盤に流れ、ピアノのインプロを誘って彼らの曲として仕上げたところは見事。こうゆうポピュラーな曲に彼らの特徴が明快になる。
 M06. "Tunnel Vision" ソロだが、即興的展開とややアヴァンギャルドなところを見せる

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 さて続くは、この曲こそがこのアルバムの特徴と評価と言うことになる・・・
 M07. "Poinciana" (Nat Simon)  私の好きなジャマルというと、まさにこのラテン色のある曲だが、前半はぐっと落ち着いたこの曲のリズム感。次第にピアノ・タッチは歯切れの良さを増して、タレンツィ風のパワー感が出てくる。リズムを刻むドラムスも力強さがある。やはりただの真似事では終わらせない。とにかく、ピアノのタッチが快活で、メロディが明快、トリオとしての流れも活発、グルーヴを持っている。曲の原型を尊重しつつも、タレンツィ自身の力量を見せつけた演奏。つまりこのタレンツィ版は、ジャズの歴史やジャマルの名演の上に、今時の現代風な技と力感のトリオ演奏を加味している。

 以下続けて全曲の感想だ・・・
 M08. "My Inspiration "  タレンツィのオリジナルで タイトル曲、展開が広がる演奏で発展的。
 M09. "Broadway" 妙な明るさが不思議、ベースの安定感と跳ねるピアノの対比が面白く、ドラムソロが楽し気なピアノを呼ぶ。
 M10. "Chanson D'Helène" ぐっと哀感がわいてくるソロ・ピアノのメロディー、叙情性が心に響く。
 M11. "Like Someone In Love" トリオによる即興交じりの物語り世界。
   M12. "The Brokolo Song" ソロ・ピアノで締めくくり、軽快さと安堵感に通ずる落ち着きが。

 究極、演奏技術の高さがジャズのグルーヴ感を十二分に響かせる演奏だ。トリオでもソロでも何より先ずハード・バップをベースにおいている気質があふれているところが、ある意味ジャズの本質というか懐かしさがちゃんと持っていて、そこにスリリングな現代風パワーと切れ味を載せての演奏を聴かせる斬新なところがある。そんなところからもっとジャズ・ファンには、もてはやされてもよさそうに思うが、近年のユーロ系コンテンポラリー・ジャズ体質とはさすがに異なっているので、隠れてしまっていたのかもしれない。私のようにアーマド・ジャマルというところから入り込めたわけだが、さすがイタリアはやはり音楽の道奥深いです。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏   88/100
□ 録音        87/100

(試聴)

 

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2026年2月 7日 (土)

ヴィクトリア・トルストイ VIKTORIA TOLSTOY & JACOB KARLZON 「WHO WE ARE」

抒情派ジャズ・ヴォーカルが描くジャズを超えたロマンティック・ドリミーな世界

<Jazz>

VIKTORIA TOLSTOY & JACOB KARLZON 「 WHO WE ARE」
Act Music / Import / CD / ACT80382 / 2026

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Viktoria Tolstoy ヴィクトリア・トルストイ (vocal)
Jacob Karlzon ヤコブ・カールソン (piano, keyboard, programming)

2025年8月25日-26日スウェーデン-ストックホルムのMusikaliska Kvarteret録音

Ab6761610000e5eba1379e52cf2d011de5af7b76  スウェーデンで活躍するロシア系人気歌姫:ヴィクトリア・トルストイ(1974年スウェーデン・マーシュタ生まれ)の登場である(前回はここでアルバム『Stealing Moments』(ACT97472)を2024年に取り上げている)。
 ここに彼女と30年という長年共演してきた敏腕ピアニスト:ヤコブ・カールソン(1970年スウェーデン・ヨンショーピング市生まれ)との名コンビによるデュオ作品が完成した。
 カールソンはピアノの他キーボードやプログラミングも並行してこなし、作曲も主として彼の手による世界で、今回はトルストイは、彼女独得のソウルフルな歌を彼の描く世界に協調するスタイルでのアルバムとみた。オリジナル以外は、ビリー・ジョエル、トリ・アモス、トム・ヨークの曲を独特な解釈をして、カールソンの曲群に調和を取っている。
 結果は、彼女の抒情派ジャズ・ヴォーカルがロマンティックでドリミーな世界を構築していて、ジャズ・ヴォーカル・アルバムとしては若干異色の作品の感はある。

(Tracklist)

01. Satellites (Jacob Karlzon) 5:02
02. Who We Are (Karlzon) 6:05
03. And So It Goes (Billy Joel) 3:54
04. Cloud On My Tongue (Tori Amos) 4:33
05. The Great Escape (Karlzon) 5:09
06. Off-White (Karlzon) 7:30
07. Trigger Warning (Karlzon) 5:50
08. Stay (Karlzon) 5:28
09. Fallen Empire (Karlzon) 5:41
10. Let There Be Love (Karlzon) 5:40
11. True Love Waits (Radiohead) 4:26

 やはり彼女の世界らしく、所謂ジャズ・アルバムと一口に言えない世界を作り上げていて、歌の世界は情緒的な語りかけのような優しさに包まれたような表現が特徴的である。そしてメロウ・テンダーといった表現が当たっているかと思うが、ジヤズの世界としては明らかに異色と言って良い。それは曲が漂うように進むため、印象的なインパクトのあるテーマが叩き付けてこない。そうゆうところが良いという面と印象的は迫力不足という面との両極があってなかなか評価も難しい。そしてその難しさが訴えてくるところに聴いたものだけが知る世界が存在している。

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 M1. "Satellites" オープニングだが、トルストイの優しげなしっとりとしたヴォーカルとちょっと異空間的に誘うサウンドでエレクトロとピアノが交差する導入曲。浮遊感が漂う。
 M2. "Who We Are" アルバム・タイトル曲。深いムードに入る。歌とピアノが対話しているようだ。終盤に躍動感と広大な世界を描く。
 M3. "And So It Goes" Billy Joel の名曲のカバー、アカペラで入ってしっとりと歌う、ピアノが支える。優しさが流れる。後半ピアノの美旋律。 なかなか味な仕上げ。 
 M4. "Cloud on My Tongue"  Tori Amos カバー、ピアノの美フレーズと上品さのある歌が見事に交錯と協調し物語が展開。
 M5. "The Great Escape"自由や解放の感覚をテーマにしていると、珍しく躍動感が。
 M6. "Off-White" ピアノと優しい歌が美しく、再び瞑想的でジャジーとは別世界。
 M7. "Trigger Warning" リズミカルに進行、ここではちょっと面白い展開。
 M8. "Stay" 留まることへの想い、しっとり深い叙情性。この世界がこのアルバムの訴えどころ。歌と低音のピアノのハーモニーが美。
   M9. "Fallen Empire" タイトルの示すところが難しいが、時代の流れのドラマチックな様相が伝わってくる。
 M10. "Let There Be Love" 愛を肯定的に語っている。歌とピアノの対話がバラードの美の極致で見事。
 M11. "True Love Waits" Radioheadのカバー、なかなか静謐にアレンジ。トルストイの声がタイトルの「待つことの真実」を心に響かせる。

  ピアノ、キーボード、プログラミングで描くカールソンの世界の多彩性が見事に結実しているが、ただ私としては、エレクトロなサウンドには若干の抵抗もないではない。しかしトルストイのヴォーカルが見事に語り、歌い、説得し、納得を描く。そしてジャズ的に崩すと言うところはあまりなく、エレガントな真摯な歌唱は好感が持てる。
 全体的には、ちょっとジャズ世界としてはコンテンポラリーで稀有な存在だが、こうした世界で心を宿わせるアルバムもあってよいのだろう。これは二人で長年築いてきたものがないと作れないアルバムだと思う。いっやージャズというものの守備範囲は広い。

(評価)
□ 作曲・演奏・編曲・歌  90/100
□ 録音          88/100

(試聴)

 

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2026年2月 1日 (日)

小曽根真TRiNFiNiTY「For Someone」

小曽根の新レーベル第1号は、問題意識の音楽的表現のアルバム
A・M・ヨペックをフューチャーし、二人の絆の深みを再認識

<Contemporary Jazz>

Makoto Ozone  TRiNFiNiTY「For Someone」
universal music / JPN / CD / UCCJ-2252 / 2026

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小曽根真: Piano, Hamond Organ
小川晋平: Bass
きたいくにと: Drums, Percussion
アンナ・マリア・ヨペック: Vocal on 3, 4, 6, 8

★2025年4月30日~5月2日、ドイツ・ルートヴィヒスブルク、バウアー・スタジオにて録音 

  小曽根真(↓左)による新レーベル「Mo-Zone」第一弾。2023年に小曽根のデビュー40周年を迎えて結成したトリオ"TRiNFiNiTY (トリンフィニティ)"の2ndアルバムでもある。
  自己の新レーベル第一弾ということで、明るさと祝いムードに満ちた作品集かと思ったが、どうもそれは大きな間違いのようだ。平和とは裏腹の諸々の世界情勢を見るに付け、ただ静観と言うことだけでは収まらない心に感ずるモノが生まれている小曽根が、ひとりの人間として、音楽を通じて平和を強く願った自作でのナンバーを取り上げ、その他メッセージ性の高い作品集として完成させた。そして私の注目としては、なんと4曲においては、彼と作品を通じて親交の深いポーランドを代表するシンガーで私が長年注目してきたアンナ・マリア・ヨペック(↓右)が嬉しいことに参加している(彼女の小曽根作品への参加は2010年の『Haiku』以来の15年ぶりか)。

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 とにかく小曽根が2025年2月、ニューヨーク滞在中に、ここに収録された曲を書きためたようで、そこには、今世界中で起こっている人間的社会の分断などや紛争・戦争など、特にガザ、ウクライナ等に無意識のうちに関心が持たざるを得なくなり、それに対する世界感が反映され込められてきたようだ。そこに更に、世界的な民族と社会に関心を持って過去にミュージックに反映してきたアナ・マリア・ヨペックが4曲で参加して、作品に込められた小曽根の思いに共鳴して盛り上げる同時に、このピアノ・トリオ+女性ヴォーカルの音楽的価値の可能性をあらためて追求し、更に祝いと言うよりは、既に問題意識の擁する圧巻の歌声を披露しているところも見逃せない。

 トリオ・メンバーは、小曽根と俳優の神野三鈴が主宰する次世代を担う若手音楽家のプロジェクト「From OZONE till Dawn」に所属するベースの小川晋平とドラムのきたいくにとによるトリオである。

 

(Tracklist)

01. Untold Stories 語られざる物語
02. Rolling Tales ローリング・テイルズ
03. Wa (Peace / Ring) ワ(平和/指輪)
04. Bandoska バンドスカ
05.Until That Wall Falls あの壁が倒れるまで
06.For Someone 誰かのために
07.Pasja パシャ
08.Pamiętajmy o Aniołach (Mind the Angels) パミエタジミー・オ・アニオラッハ(天使たちを心に込めて)
09.Friends 友人
10.Chasing The Horizon 地平線を追いかけて

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 オープニングM01."Untold Stories 語られざる物語"は、美しさとどこか哀しさがミックスされて描かれる。小曽根のピアノと小川のベースが複雑な感情をユニゾンとそれぞれのソロで表現。やるせない気持ちが描かれている。
 M02."Rolling Tales " おそらく即興を生かしてのコンテンポラリーな世界。しかし三者のアンサンブルは緻密に融合。
 M03." Wa (Peace / Ring) ワ(平和/指輪)" 暗さから進行、現実の深みを綴る。ヨペックのスキャットで色を深め、かってのポーランドのトラッド合唱の世界が垣間見る。
 M04."Bandoska " ヨペック提供のポーランドのトラディショナル・ソング。元は女性農奴の労働歌とか、暗さの極限に・・前半はつぶやくようにベースの音の響きと共に静かに歌われるが、それが中盤以降にピアノのメロディに誘われ次第に激情へ、最後は爆発させるヨペックの絶唱、圧巻の感動歌。
 M05."Until That Wall Falls あの壁が倒れるまで" 社会や世界を分断する壁を突き崩したいという決意。力強さを感ずる。
  M06."For Someone 誰かのために" 小曽根とヨペックの共作のアルバム・タイトル曲。現世界でエスカレートしてきた紛争や分断、差別、その犠牲者に寄り添う心の歌。優しさがあふれている。
  M07."Pasja "小川の曲。ミュージシャンとしての表現を三人がこの曲に凝縮。
  M08."Pamiętajmy o Aniołach (Mind the Angels) (天使たちを心に込めて)" ヨペックの曲、小曽根とヨペックのディオ。美しさと優しさと哀しさとを見事に表現。この曲だけで私は満足。
  M09."Friends 友人" 闇に光が、暗さから希望の光を見つけた姿を穏やかに描かれる。
  M10."Chasing The Horizon 地平線を追いかけて" 希望や期待が決して失われたわけでないことを、しみじみと語り、暗さの脱却への未来へ歩む。

 小曽根は、ヨペックとの共演をづーと考えていたようで、このレーベルの第一号アルバムに企画し、これをドイツで収録した。彼女の世界との合体がある意味社会的深層に迫るところにかなり成功している。このアルバムが単なる音楽という世界から社会への問題意識に広げたところが小曽根らしいところだ。
 個人的には『Haiku』の頃を思い出させてもらったし、あの世界は今も小曽根にはしっかり宿っていることも再確認した。そして何につけてもヨペックの世界の歴史と民族探求と音楽の旅はまだ続いていたことも朗報であった。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  90/100
□ 録音      88/100

(試聴)

 

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