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2026年3月23日 (月)

マリリン・クリスペル、アンデルス・ヨルミン Marilyn Crispell , Anders Jormin 「 Memento」

デュオ作品として互いの尊重に溢れ、空間を意識した間の生かされた音の美の即興とインタープレイ

<Jazz>

Marilyn Crispell , Anders Jormin 「 Memento」
ECM / Import / CD / 88088089 / 2026

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Marilyn Crispell(p)
Anders Jormin(double-b)

Producer : Manfred Eicher
Engineer(Mastering,Mixing,Recording) : Stefano Amerio

  マリリン・クリスペルMarilyn Crispell(↓左、 1947年、フィラデルフィア生まれ)と言えば、名門ニューイングランド音楽院でクラシック・ピアノと作曲を学んだ女流ピアニストだが、若きときにジャズに転向して、人生をピアノと共に歩んできたと言って良いようなベテラン・ミュージシャン。現代ジャズ界において「最も独創的で、深遠な精神性を持つピアニスト」と言われている。
 そんな彼女の長年の信頼を築いたアンデルス・ヨルミン(↓右 1994年からコラボレーションを行ってきたスウェーデンのコントラバス奏者)との二人のデュオ作品がリリースされた。ヨルミンは彼の音楽的精神性をクリスペルに与えた一人と言われるベーシストであるが、初めてデュオ作品が作り上げられ、それがこの『Memento』である。

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  私自身は殆ど彼女の評価に値する知識を持っていないようなものだが、彼女は28歳の時に、ジョン・コルトレーンの伝説的名盤『A Love Supreme(至上の愛)』を聴き、その即興演奏の自由さと精神性に衝撃を受け、ジャズの道へと転向したと言われている。そして彼女の音楽を聴くには大きく分けて二つの時代があったことを知っていた方が良さそうだ。それはまずは「即興の攻撃的爆発的展開」の時代(1970年代末〜90年代前半)で、前衛ジャズの巨匠アンソニー・ブラクストンAnthony Braxtonのアヴァンギャルドなカルテットに10年間在籍。即興演奏のセンスを磨き上げた。当時は打鍵は強烈で超絶的なスピード演奏、特に複雑な構造を持つフリージャズを展開した。しかしその後一転してのECM時代を迎え「静寂と叙情」の時代(1990年代後半〜現在)に入った。それは内面的な精神性の領域への道であって、空間や「音の質と音の間の沈黙」を重視するスタイルへ進化したのだ。そしてその流れの探求は現在も続いていて、このアルバムもその一連の中にあると言うことを知りつつ聴くことが、内容にも迫れる一つの道として重要なようだ。
   尚、Mastering,Mixing,Recording Engineerは名手Stefano Amerioである。

(Tracklist)

1.For the Children%
2.Dialogue%
3.Embracing the Otherness%
4.Contemplation in D%
5.Three Shades of a House - Morning#
6.Three Shades of a House - Evening#
7.Song*
8.Memento*
9.Beach at Newquay*
10.The Dark Light#
11.Dragonfly*

   (Composer)
     % :Anders Jormin, Marilyn Crispell
     #  :Anders Jormin
     *  :Marilyn Crispell

 これはまさにECMにふさわしい空間を活かしたぐっと深遠な二人の即興(4曲)から、両者の多彩な自作曲(7曲)までを収録。繊細にして透明に響くピアノの旋律がベースの多彩な音と溶け合い、静謐ながらも懐かしさと暖かさとの叙情性を描き出している。
 アルバムの主題は「記憶・喪失・つながり」というところにあって、スタートから即興4曲が並び、まさしく空間を意識したデュオ即興演奏の深い世界で幕を開け、その後、まずヨルミンの作曲2作品、そしてクリスペルの曲3曲へと移行する。そしてその後両者1曲づつで、最後はクリスペルの曲でゲイリー・ピーコックに献呈する曲で締める。

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 M1." For the Children"  世界各地での紛争の結果犠牲になった子供たちに捧げられた曲。ピアノの優しい響き、高音域での即興のベースのアルコが哀愁を帯びて響く。このアルバムのテーマに迫る心の宿るところの基礎を描く。冒頭からぐっと引き寄せられてしまう。
 M2."Dialogue" (対話)  デュオの相対する呼吸の本質を、音数の少ないピアノとベースの音で知らしめる。
 M3."Embracing the Otherness" (他者を受け入れる) 極端に間を活かした演奏、「他者の音」を探りつつ自己の存在を確認するような見事な現代即興。
 M4."Contemplation in D" 美しい響き、なんとなく浮遊的で瞑想を誘う。
 M5.、M6."Three Shades of a House – Morning、Evening"  透明なピアノ主体で、北欧的な光の情景か。ヨルミンの代表曲を「Morning」と「Evening」の2つの変奏で収録。静けさの中での明暗の対比が。
 M7."Song" 90年代作曲の再演「距離」をテーマにした抒情曲
   M8" Memento"(タイトル曲)ピアノ独奏、喪失とつながりを象徴的に。
 M9." Beach at Newquay" クリスペルが海岸線を描いた曲。ヨルミンのベースが「海鳥」の鳴き声の様に響き、情景描写の極みで映像的。
 M10."The Dark Light" 短い抽象曲 光と影の対比。
 M11."Dragonfly" ゲイリー・ピーコックへの献呈曲、シンプルに美しく、敬愛の念を持って静かな希望を感じさせる余韻を持たせた締めくくり。

 長年の信頼関係のもたらすものか、相手の演奏の音を聴くことから、それにそってのインタープレイが演じられる。デュオの醍醐味の一つである対抗的に主張し合うというパターンでなく、演じられた音、それを拾って騒がず急がず広め深めてゆく流れは状況の充実に大きく寄与している。透明なピアノの旋律に対してベースの美音と溶け合って、曲の流れを深い味わいに高め、しかも叙情性をも感じさせるのである。
 このように演じた音を大切にして消え去るまでの間を尊重して、沈黙をも曲に生かし続く音選びの思慮深い技が聴き者に情景を描かせる。そして深い内省にまで繋げてゆくテクニックはお見事であった。
 これはECM的な世界の極みと言っても良いだろうと思われ、それはアイヒャーにとっても満足感が高かったに相違ない。
 さすがに、「老獪な世界構築の技」に痺れたアルバムであったと評価する。

(評価)
□ 曲、演奏 :   92/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

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コメント

風呂井戸さん,おはようございます。

まさしくECM的美学を感じさせるアルバムでした。冒頭から引き込まれるアルバムですが,私は最後の"Dragonfly"に心底痺れてしまいました。見事な締めくくりだと思わせる美しい曲でした。

ということで,当方記事のリンクを貼らせて頂きます。
https://music-music.cocolog-wbs.com/blog/2026/04/post-fbbd5d.html

投稿: 中年音楽狂 | 2026年4月14日 (火) 07時10分

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