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2026年4月29日 (水)

ラ-シュ・ダニエルソン Lars Danielsson Liberetto 「 Echomyr」

美しいメロディ・アンサンブル音楽に心の内面を描く深層の音楽が・・・

<Jazz>

Lars Danielsson Liberetto 「Echomyr」
ACT MUSIC / Import / CD /ACT80412 / 2026

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Lars Danielsson : double bass, cello, gimbri (#10), piano (#10), electric guitar (#6),
Gregory Privat : piano,
John Parricelli : guitar,
Magnus Öström : drums & percussion,

Guests:
Arve Henriksen : trumpet on #3, 7,
Magnus Lindgren : flute & alto flute on #6,
Carolina Grinne : english horn on #8

音楽作曲:ラース・ダニエルソン
録音:2025年4月6日〜9日および10月28日〜31日

Larsdanielssonkontraw   スウェーデン出身のもはや重鎮ベーシスト、ラーシュ・ダニエルソンLars Danielsson(1958年生まれ、スエェーデン)による音楽ジャンルを広く見渡してのクラシック室内楽、ルーツの北欧と世界各地の民族音楽とを融合し、自らの音楽世界を構築するプロジェクト「Liberetto」の第5作(オーケストラ共演盤を抜いて)となる新作の登場。

 メンバーにはピアノにGregory Privat(↓左、 1,2作はティグラン、その後の3作から)、John Perricelli(g、↓左から二人目)、Magnus Öström(ds、↓左から三人目)を主体に、更にゲストを迎えての 曲によってトランペットやフルート、イングリッシュホルンのメンバーの集結。
 この「Liberetto」というバンド・プロジェクトは、2011年からで互いの信頼と友情に基づき構成されていて、その名は「libretto」(クラシック的構造)と「Liber」(自由=即興)のかけあわせた造語で、メロディー中心主義で室内楽的アンサンブルの尊重、国際色豊か(アルメニア、中東、アフリカと勿論北欧などの要素がある。民族楽器も登場)ということで、繊細で透明なサウンドやリズムの尊重、抒情を大切にといった世界感を持って演奏する。
 そんなことから「美」「知性」のバランス感覚がよいことや、ユーロの抒情性に評価がある。ダニエルソンのベーシストが主導する作曲の美しさはなによりも人気があり、ドラムスもリズム隊としての支えばかりでなく、曲の色・味にも貢献していて頼もしい。

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 さてこのアルバムもそんな中での久しぶりに2023年のオーケストラ版は別にすると5年ぶりとなり、期待して聴くことになるのだが、ある意味「Liberettoの到達点」的な存在ではないかと思いつつアプローチすることとなった。収録曲全曲ダニエルソンのオリジナルである。

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01 Pre 00:37
02 Allan 06:09
03 Supreme 06:51
04 Glòr 05:49
05 Sensitiva 04:38
06 Ascending 05:05
07 Himlen Över Dig 02:38
08 Echomyr 05:48
09 Presto 04:22
10 Something She Said 03:19

 先行シングルとして、M4,M8が抒情性を植え込んでいたが、それぞれの曲が、かなり特徴があるので詳しくみることとする。
 M1. "Pre"  チェロ、ベースによる短い導入曲。今作のイメージを植え付ける(?)。
 M2. "Allan" "孫への心"の明るい展開、ベース主導、中盤からピアノ、後半合奏でこのプロジェクトのお披露目。
 M3. "Supreme" ぐっと落ち着いて響くベース、至高の世界感、中盤からTpが入ってジャズ色が高まる。
 M4. "Glòr" ギターの民族的フォーク、トラッド様響き。光り輝き親しみやすいメロティー。
 M5. "Sensitiva" ダニエルソンのベースが前面 に出てのメロディーを演じての内省的世界。曲は私好みではある。ギターのサポートで進行し、ピアノの音が後半に美しさを放つが、ちょっと不完全燃焼(ギターとピアノ編成の難点か)。
 M6. "Ascending" フルートの参加で、ちょっと田舎のお祭り的、ここでのピアノは魅力無し。
 M7. "Himlen Över Dig" ギターの調べとミュートを効かせたトランペット再登場で、短く詩的な小品だが広く展開する広さが好感。
 M8. "Echomyr"(タイトル曲)メロディを主役に内省的でありながらプラス思考の動きが展開する不思議な曲。決して悲観的で無いところに好感が持てる。
 M9. "Presto" リズムカルにして多彩な技法のベース演奏が聴き処か、ピアノの軽快さも印象的。
 M10. "Something She Said" 最後に深く内省的になる。ダニエルソンがピアノ演奏してのギターとのデュオ。社会的背景(戦争の広がりなど)に反応しての思索的終曲、アルバムの締めくくりとして重要。

  私の好みであるところのTigran時代のようなピアノの美旋律による世界が後退しているのは、ちょっと寂しかった。時にフルート、トランペットなども加わり各種楽器が多くなって、アルバム自体の色が多彩と言うより統一感が無くなってしまっている。ただそのあたりはダニエルソンの音楽的狙いがありそうだが、まだ私には十分伝わってこなかったということなのかも知れない。ヨーロッパ古典音楽の構築性、北欧フォークの素朴な旋律、ジャズの即興性とグルーヴ感へのアプローチなとなど聴くポイントは多い。

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 さて「異質のM10の締めの曲」の意味づけに関心が引き寄せられる。つまり結論から言うと、アルバムとして築いてきた"美しい旋律の北欧的なローカル美"、そして"音楽のアンサンブルの調和"など、そうしたモノからある意味別の感覚の“心からの声”という印象なのである。しかしこれで締めるところにも大きな意味があろうと推測する。そこを見逃してはならない。
 ダニエルソンは、この曲について、明言はしていないようだが、近年の不安定な世界情勢(ウクライナ、中東情勢、ヨーロッパの現実、米国の姿勢)で感じた「無力感・不安・祈り・隔離」が作らせ演奏したものかと解釈するのだ。直接的な抗議や政治的メッセージではないというところが注目点で、曲のタイトルが「“Something She Said”(彼女が言った何か)」が又意味深なのだ。とても具体的な彼女とは思えない、つまり彼に伝わる事柄の脳裏に印象的な一つの象徴的存在なのだろうか?、とにかく聴く者に感じて欲しい世界感覚と自己の深い心を訴えたとしか思えない。

(評価)
□ 曲、演奏、コンセプト : 90/100
□ 録音           :   90/100


(試聴)
"Sensitiva"

*
"Something She said"

 

 

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2026年4月25日 (土)

ヨエル・リュサリデス JOEL LYSSARIDES 「LATE ON EARTH」

北欧の人間の内面に対峙した詩情豊かな耽美的世界をしっとりと演ずる北欧現代ジャズ

<Jazz>

JOEL LYSSARIDES 「LATE ON EARTH」
ACT MUSIC / Import / CD / ACT80212 / 2026

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Joel Lyssarides ヨエル・リュサリデス (piano except 04)
Niklas Fernqvist ニクラス・フェルンクヴィスト (bass)
Rasmus Blixt ラスムス・ブリクスト (drums except 04)

Recorded 07–08 July 2025 at Bauer Studios, Ludwigsburg
Recorded, mixed and mastered by Adrian von Ripka
Composed by Joel Lyssarides
Produced by Andreas Brandis
Photos by Andreas Brandis (Joel Lyssarides)

1900x1900000000w_20260425111901  スウェーデンの油の乗ってきた人気ピアニストのヨエル・リュサリデス(1992年スウェーデンのストックホルム生まれ)の、今回久々に不変のレギュラー・トリオにての最新アルバムの登場。前作はおそらくここで取り上げたのは2022年の『Stay Now』(ACT9942-2)だと思うが、4年ぶりになるだろうか、その間、E.S.T.がみで彼は一役買っている。そして2023年に『A Tribute To Esbjorn Svensson Trio』(ah23-196)をリリースしていて、又2024年にはViktoria Tolstoyのアルバム(『Stealing Moments』(ACT97472))などで、ピアノでサポートしている。私にとっては、注目のピアニストであり、いずれにしても彼の今回のリーダー作であるピアノ・トリオは大歓迎である。

 彼は、ヨーテボリやストックホルムでピアニスト&作編曲家として幅広く活動、近作群がいずれも高い評価を得てきた。そして今アルバムは、12曲収録で全曲彼のオリジナルである。そして長年のトリオ・パートナーであるニクラス・フェルンクヴィスト(ベース ↓左)とラスムス・ブリクスト(ドラム ↓右)と共に演奏が行われ、一層トリオとしての親密さとそれぞれの役割が充実してきているようである。

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(Tracklist)

01. Bortom Bergen 5:26
02. Mahabalipuram 4:39
03. Life In Between 4:49
04. In Itinere 1:55 (solo bass)
05. Sotira 4:56
06. Never Alone 5:54
07. Raqs Sharqi 4:57
08. Folie À Deux 3:47
09. Intermission 0:52
10. Anemoia 3:48
11. Follow The Night 3:17
12. Late On Earth 4:12
*composed by Joel Lyssarides

 これまで以上にパーソナルで感情の深淵に触れる世界に入っている。印象として北欧抒情派らしく北欧因子に満たされているが、フォーク、クラシック因子を感じさせる。しかし緩急巧みにこなして、時に入るダイナミックな攻めもみせてコンテンポラリーなジャズを展開。 そして澄み切ったピアノの音にも引き寄せられる。
 このアルバムの説明には、「自己内省と音楽的実験を繰り返して完成させた」とあって、内面的なところに迫っている雰囲気だ。そして早くも彼のキャリアにおける一つの到達点と言える内容との評価がある。そしてこのアルバムは、製作説明にあるように「完璧さを求めるのではなく、"不完全さが持つ人間味や面白さ"をあえて受け入れる」ことをテーマに制作したと言うことのようだ。
 そんな意味でも、これは夜に一人でじっくり聴くという世界にマッチしていることは事実だ。そうしたことにより、描かれているモノが見えてくると言う事かも知れない。

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M1. "Bortom bergen"「山の向こう側」の意味らしい。北欧らしい静かさの広大な風景を想起させる透明感の高いピアノのメロディーが聴かれる。このアルバムの叙情性を示すオープニング曲。
M2. "Mahabalipuram" インドの地名、複雑なリズム構造があって、リュサリデスの音楽的探究心がインド音楽に向かっているか。
M3. "Life in Between" 中間的というか曖昧と言うか精神状態や時間の流れの表現か、浮遊感のバラードで、彼の世界の表現か。
M4. "In itinere" (旅の途中で) ベース・ソロ、これもぐっと低音で、内省的。
M5. "Sotira" 「地中海的な色彩」が演じられるとの説明あり、温かさがあって魅力的。
M6. "Never Alone" ぐつと繊細に優しさが響くメロディ。たまらなく引き込まれる。感情表現が凄い。
M7. "Raqs Sharqi"「東方の踊り」の意味、リズミカルで躍動感。ちょっとエキゾチック。
M8. "Folie à deux" (共有された狂気)ピアノとリズム隊のインタープレイが聴きどころ。
M9. "Intermission"  繊細なピアノ・ソロ。気分転換。
M10. "Anemoia" ノスタルジックな気分にさせる。
M11. "Follow the Night"   夜の静寂、ちょっとダークだがロマンチックでもある。 
M12. "Late on Earth" アルバムを締めくくるタイトル曲。ゆったりとした中に不思議に安定感と希望が感じられる。

 私の好きだったE.S.T.の良さをちょっと思い起こすところも無いではないが、。以前よりも音の「間」をうまく使うような演奏と、透明感のあるピアノの響きには惹かれるところが十分にある。何故かインドが垣間見えたり民族的音楽メロディーにも立ち入ったり、三者の互いの呼吸がうまく乗ってきたのは、それだけの人生経験の積み重ねの賜とも言えそうだ。

 演奏スタイルが技巧いってんばりにならず、感情を訴えるに重きも寄せてきた「人間的な音楽」への道に入ってきたのも、むしろ芸術性から見ても音楽的評価が高まるかも知れない
 不完全な人間にとって、前向きな気持ちが誘導されるような優良作品にも聴けるし、今までの彼の人生の一つの総括と今後への展望でもあるのかとも聴ける。耽美哀愁プレイで、親しみやすさや芸術性があって感情の深さもありなかなかの素晴らしい作品であった。

(評価)
□ 曲・演奏・コンセプト :    90/100
□   録音         :    90/100

(試聴)

 

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2026年4月20日 (月)

イルゴール・ゲエノー Igor Gehenot Trio 「 Shining Face」

欧州抒情とジャズのグルーブ感を忘れない成熟演奏

<Jazz>

Igor Gehenot Trio 「Shining Face」
Igloo Records / Import / CD / IGL390 / 2026

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Igor Gehenot (piano)
Sal La Rocca (bass)
Umberto Odone (drums)

Recorded by Jonas Verrijdt at Rockstar Recording in May 2025

Dsc_0602w  ベルギーのジャズシーンで15年のキャリアを持つ円熟期に入ったピアニストのイゴール・ゲエノー(1989年ベルギーのリエージュ生まれ →)の新作である。過去に1stアルバム『Road Story』(IGL232, 2012)などに接してきたが、今回は自身の息子に捧げた非常に個人的な作品と言う事だが、やはり欧州的抒情的なメロディと一方なんと原点であるアメリカン・ジャズのダイナミックさもちゃんと聴かせ、ハード・バップ色も加味されていて、「洗練された現代的なジャズの感性が融合した内容」として評価されている。

 ピアノ・トリオ・スタイルによる新メンバーとの演奏であるが、以前からの共演者サル・ラ・ロッカSal La Rocca (bass、↓左) と気鋭のウンベルト・オドーネUmberto Odone (drums、↓右)との息の合ったところを披露していて、近年の流行のLPを意識してのことか、自作曲5曲を中心としたCDとしては若干少なめの7曲によるアルバムである。
 卓越したメンバーとの演奏によって、円熟期を迎えたアーティストが親密なる家族への愛を込めていて、成熟した深みのあるところを聴かせてくれる。

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 (Tracklist)

1. Shining Face (6:33)*
2. All Of You (4:09)
3. Giulio (5:56)*
4. Eyes Of Black Dog (3:37)*
5. Random Life (4:22)*
6. Big Foot (4:10)
7. Bulle (6:14)*
 *印:(1, 3, 4, 5, 7)composed by Igor Gehenot
   2 by Cole Porter
   6 by Paul Bley

 コンテンポラリー・ユーロ・ジャズといったところを地で行く抒情性あるメロディックなプレイとジャズのグルーヴ感を持ち合わせての演ずるところはにくいところである。そして今回はテーマによるせいか、一層抒情性が増してきているように思う。

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 M1."Shining Face" タイトル曲、幕開けを飾る、光を意識したピアノの美旋律が流れる。大切な人を想う優しさを表現。次第に後半では三者それぞれダイナミックさを強調してゆく。
 M2."All of You" スタンダード曲のカバー、アレンジが近代的。三者それぞれのジャズ演奏の技を披露。
 M3."Giulio" しっとりと優しき思索的なバラード。間を活かしたピアノの音と、やはり優しきベースソロがぐっと心に。このアルバムの品格も高めている。
 M4."Eyes Of Black Dog" がらっと変って、ピアノの激しさとドラムスの変則リズムでスリリングな展開。
 M5."Random Life" 思索的に語るように・・、予測の出来ない人生の回顧か。
 M6."Big Foot" メロディー優先でないダイナミックなゲエノーのタッチが展開し、ドラムスのソロも入って力強い現代ジャズ。
 M7."Bulle" アルバムを締めくくる、未来志向の静かで穏やかな一曲。ベースとピアノの優しき交錯が曲名の「泡」のように、儚ない美音の弾きを見せる。

 非常に聴きやすいとうところが一つの完成度の高さかも知れない。ヨーロ感覚が演ずるところにアメリカン・ジャズの価値観を持っての精神性を有したジャズ全体像をも見渡しての世界感があって、バランス感覚が非常に良い。十数年前に新人として1stアルバムを聴いた時を思い出すと、かっての初期の荒々しい衝動性はこのアルバムでは後退していると残念がるかも知れないが、それはテーマによるところが大きいからかも知れない。又録音の質もかなり良く、ベースやドラムスの役割も明瞭に聴き取れ現代トリオの全体像の構築が見事。

(評価)
□ 曲・演奏 :    88/100
□ 録音         :    88/100

(試聴)  

 

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2026年4月15日 (水)

サラ・アルデーン SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」

「人に内在する愛という自然」に期待しての社会へのメッセージ

<Contemporary Jazz>

SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」
PROPHONE / IMPORT / CD / PCD395 / 2026

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Sara Aldén サラ・アルデーン (vocal)
Daniel Andersson Runevad ダニエル・アンデション・ルネヴァド (upright bass)
August Björn アウグスト・ビョーン (piano, pedal organ) (electric piano on 04) (maybe celeste? on 05)

*guests:
Hannes Bennich ハネス・ベニック (alto saxophone on 02)
Nils Landgren ニルス・ラングレン (trombone on 03) (maybe backing vocal on 03)
Michelle Willis ミシェル・ウィリス (vocal on 05) (female)
Alma Möller アルマ・ムラー (viola on 01, 02, 03, 08)

2025年 Studio Epidemin録音(スウェーデン-ヨーテポリにて)

Sara_alden_3trw  2024年の1stアルバム『There Is No Future』が好評だった、ヨーテボリを拠点に活動しているスウェーデンの女性歌手のサラ・アルデーンの2ndアルバムが登場。とにかく前作は、2025年スウェーデン・グラミー賞〈ジャズ・オブ・ジ・イヤー〉を受賞。2026年1月にスウェーデン大使館主催の公式パーティの歌手に選ばれ、賞賛を集めた。
 今作は編成的には、上記のようにダニエル・アンデション・ルネヴァド (B、↓左写真・左)とアウグスト・ビョーン (P、↓左写真・右)とのレギュラー・トリオを基軸に、H.ベニック(sax、↓右写真・中央)、M.ウィリス(Vo、↓右写真・左)、N・ラングレン(tb、↓右写真・右)他のゲスト陣も加わっての作品だ。

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  彼女に関しては昨年前作で知ったところが、如何にも個性豊かで社会的な世界にジャズによるアプローチを試みている特殊な存在として見てきたが、今作はそれらの三部作の第三作で一つの結論的アルバムで彼女の社会に於ける基本的な姿勢と個人の存在の意義に向けた作品として聴いてみるのが良さそうだ(従って収録10曲の内、1曲を除いて彼女のオリジナルで締められている)。そんな感覚で迫ってみることにより、何かがそこに感じられるモノがあるだろうと期待してのアプローチである。

(Tracklist)

01. World
02. The Rain
03. Lean On Me (feat. Nils Landgren)
04. You Taught Me
05. Unlearn (feat. Michelle Willis)
06. Come!
07. The Seed (solo piano?)
08. This Tree Once Used To Bloom (for Palestine)
09. Hands Full Of Love
10. In The End

 これは新作というより、やはり前作から続いての「一つのの到達点」と言えるモノなのかも知れない。
 前作のアルバム・デビュー作である『There Is No Future』は、そのタイトル通り「未来なんてものは無い」という聴き方によっては悲観的な"生と死についてのジャズ"とも言えるコンセプト・アルバムだった。自己の作詞作曲で「失望感」を歌い上げ問いかけていた。そしてスタンダード・ナンバーの"ミスティ","いつか王子様が","虹の彼方に","誰にも奪えぬこの想い"と、そして"この素晴らしき世界"で「期待」でプログラムを閉じていた。「失望と期待」の流れ、果たして彼女の狙いは「?」と、聴く者にある意味「謎」を残していたのだったが、・・・

Oar2w  さて、今作は極めて北欧のトラッドっぽいところから、フリーでインスト的世界に繋げ、スタンダードからは一切決別して彼女の世界を貫いている。コンテンポラリー・ジャズの極みだ。そして彼女の歌は、曲の「音」としての役割に重点が置かれているように聴くことが出来、そんな訳で日本的メロディーとは別世界、又聴き慣れたアメリカン・ジャズの匂いすら感じない独特な欧州即興詩的世界に没入させ訴えが迫ってくる。そこには敢えて声を潰した叫びがあったり、そうかというと透明感のある高音美声を聴かしたり、とにかく不思議な世界である。これぞ現代ユーロ・ジャズの最前線か(?)と、興味半分で聴くことになった。

 M1. "World" 難解だが、何か「世界」の流れのイメージが当アルバム表現の「再生」を歌う。
   M2. "The Rain" フリー・ジャズの展開、荒々しさと美のピアノ、即興と抑制からの反動爆発、サックスも荒々しく参加。
 M3. "Lean On Me" 不安を抒情的な曲で トロンボーン参加し不安と救いが交錯する抒情、現在に一つの方向性を詠うか。
 M4. "You Taught Me"内省的に・・・
 M5. "Unlearn" Michelle Willisとの美しいデュエット、「過去の学びからの脱却/自己更新」を歌う。
 M6. "Come!" 生きる高揚、軽快に。
 M7. "The Seed" 淀みの無いピアノ曲。安定感で次のフェーズに誘導。
 M8. "This Tree Once Used to Bloom (for Palestine)" 社会的・政治的メッセージ。パレチナへの展望的再生の思い。本作の主題が見える。
 M9. "Hands Full of Love" 愛をテーマにした温かみのある曲。現状に対峙しての一つの方向性を示唆。
 M10. "In the End" 短い曲、余韻と問いを残す。

 全編を聴くと、世界の分断、戦争、破壊からの激動、不安、怒り・・・から、再生の道への展望を求めることが主題であることが解る。社会問題に個人の問題と合わせ、ミュージックで迫った作品であることだ。そして前作と繋げてその芸術性ばかりでなく社会性に注目して聴くことに意味がありそうだ。タイトルの「Natureの力」の意味は、 人間の内側にある“自然な力”に目を向けているようだ、それは思いやる心、共感、連携などの「力(ちから)」であって「"世界を変革する大きな力"でなく、"人間に内在している人が人に向ける<自然な優しさ>"という(小さな力であっても)それこそが希望である」と。

(評価)
□ 曲・歌 :    88/100
□   録音  :    88/100

(試聴)

 

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2026年4月10日 (金)

ウラジミール・シャフラノフ・トリオ VLADIMIR SHAFRANOV TRIO 「 SOUL EYES」

「成熟したジャズの美」と評される世界 

<Jazz>

VLADIMIR SHAFRANOV TRIO 「 SOUL EYES 〜relaxin' moods」
Venus Records / JPN / SACD / VHGD-10026 / 2026

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ウラジーミル・シャフラノフ Vladimir Shafranov (piano)
ハンス・バッケンルート Hans Backenroth (bass except 7)
ムッサ・ファデラ Moussa Fadera (drums except 7)

Vladimir20shafranovw     かって澤野工房の関係で何となく聴いてきたウラジミール・シャフラノフVLADIMIR SHAFRANOV(1948年レニングラード生まれ →)であるが、アルバム・リリースの45年以上になるそのキャリアから、近年は日本のVenus Recordsからのリリースとなり、おそらく2年ぶりとなる アルバム『SOUL EYES』がリリースされた。
   彼はロシア出身でフィンランドを拠点に活動するピアニスト、なんとなくベースに北欧らしい世界感を持ちつつ、ニューヨーク仕込みのスウィング感を併せ持っていての聴きやすさの演奏で日本でも愛されてきた。4歳の時にリムスキー・コルサコフ音楽院でピアノとバイオリンを始め、1973年にイスラエルに移住。数年後、彼はヘルシンキに移り、1980年からフィンランド国籍を取得している。又1983年から15年間はニュー・ヨークでのジャズ音楽活動という経歴もある。

   本作は、スウェーデンでの録音によるトリオ作品で、スウェーデンのベースにハンス・バッケンロス(↓左)、ドラムにムッサ・ファデラ(↓右)を迎えた中堅安定の布陣。リラックスしたムードを重視した演奏で、内容はほぼスタンダード中心で、全体に派手さは押さえていて、意外に私の期待の北欧色はあまりなく、むしろニュー・ヨーク正統派バップ路線で気楽に聴きやすいので取り上げた。 

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(Tracklist)

1. ビューティフル・ラヴ Beautiful Love (V. Young, W. King, E. Van Alstne) 6:41
2. ジャンゴ Django (J. Lewis) 6:17
3. ソウル・アイズ Soul Eyes (M. Waldron) 6:43
4. テルヌーラ・アンティグア Ternura Antigua (R. Carlos) 4:18
5. この素晴らしき世界 What A Wonderful World (G. Douglas) 4:19
6. ユーヴ・チェンジド You've Changed (C. Fischer) 7:22
7. ラッシュ・ライフ Lush Life (B. Strayhorn) 5:17 (solo piano)
8. トゥ・レイト・ナウ Too Late Now (B. Lane) 7:56
9. アウト・オブ・ザ・パスト Out Of The Past (B. Golson) 5:01

 これは派手さよりも歌心を持っての演奏で、新しい試みで迫るというのでなく、優しくジャズでくるんでくれるという夜のリスニング向きとも言える。まあピアニストの円熟した演奏のプレゼントと言ったところか。

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 M1."Beautiful Love" スタンダードの名曲、刺激の無いタッチの歌うような世界。このアルバムの目的を示す導入演奏。ジャズの見本的な世界。
 M2." Django" John Lewis の名曲、ちょっと陰影の感じられる演奏で欧州的。
 M3."Soul Eyes" 深く内省的な世界に浸る。アルバム前半では焦点になる演奏で、何回か聴き込みたい味を感ずる。
   M4."Ternura Antigua" ちょっとラテン色のある雰囲気で軽やかで暖かく明るめに戻す曲。
 M5."What A Wonderful World" 誰でも知っている有名スタンダード。むしろ叙情性をあまり強調しないところの美しさだ。
 M6." You've Changed" バラードの名曲。アルバム後半に入ってぐっと落ち着かせる流れ、ベースも詠ってくれるジャズ・バラードの美をじっくりと。
 M7."Lush Life" ここにきて、トリオのジャズ・テクニックの高さをお披露目。
 M8."Too Late Now" どこかお話を語っているようなピアノ・トリオそのものの演奏
 M9."Out Of The Past" 締めに相応しく軽妙でブルージーで落ち着いたまとまり感。

 究極、ピアノの歌い上げる聴く者を楽しませるメロディー重視の演奏で、北欧の静謐感のコンテンポラリー・ジャズとは全く別で、むしろバップよりのニューヨーク・ジャズを優しく聴かせてくれたという処だ。ただ欧州的な深層心理を探るところもあるが、むしろちょっとした気休めには良いアルバム。ある意味ジャズに達感すらした世界という風にも聴きとれる。
 もうちょっとベース、ドラムスが出てきても良いかなぁーと思うほど両者は優しく支えてくれている。これも一つのパターンとして完成している演奏だ。確かにある評に見る「成熟したジャズの美」といった世界というところで、誰にもお勧めの及第点アルバム。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    88/100
□   録音       :    88/100

(試聴)

 

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2026年4月 3日 (金)

フリー Flea 「HONORA」

パンク・ロック以上に心が奪われたトランペット・ジャズへのアプローチ

<Rock, Free Jazz>
FLEA (RED HOT CHILI PEPPERS) 「HONORA 」
Nonesuch/ Warneer Music Japan / JPN / CD / WPCR18816 / 2026

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Flea(b, tp, vo)
Anna Butterss(b)
Jeff Parker(g)
Deantoni Parks(ds)
Mauro Refosco(per)
Rickey Washington(afl)
Vikram Devasthali(tb)
Chris Warren(vo)
Josh Johnson(sax,produce)
Nate Walcott(Key)
etc
sp.guestー
Thom Yorke(vo,p)
Nick Cave(vo)
etc

70705_v9_bcw  相変わらずJazz界も日本では低迷しているようだが、最近のJazz雑誌としてはシンコーミュージック・エンターテイメントからの「JAZ.in」という雑誌がここに来て月刊誌としてようやく今月号で30巻目を迎えた。と言う事はもうあと半年で3年経過と言うことで何とか維持されている。その30巻目でのトップ記事がこのパンク・ロックのレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(RHCP)のベーシストのフリー(本名マイケル・ピーター・バルザリー(Michael Peter Balzary、1962年10月16日 生、63歳 →)は、オーストラリアのメルボルン郊外バーウッド出身)のソロ・アルバム『オノラHONORA』を取り上げていて、ロックでもパンクにはあまり興味の無かった私だが、フリーのこの作品がかなり注目点が多いと言う評判で、ここに聴いてみたという次第である。

 そのフリーであるが、主たるベースの外に近年は元々のマスターした楽器のトランペットに興味を持って、ジャズ・アルバムの製作が夢であったという事のようで、このアルバムではベース以上にかなりのウェイトでジャズ・トランペットを演奏している野心作。又ヴォーカルも披露しているのだ。
 そして豪華なコラボレーターとして、アンナ・バターズ(Bass ↓左)やジェフ・パーカー(Guitar ↓左から2番目)といった現代LAジャズの最前線にいるミュージシャンに加え、トム・ヨーク(レディオヘッド ↓右から2番目)やニック・ケイヴ(SSW,オーストラリア出身 ↓右)といったビッグネームが参加しており、単なる「ロック・スターの趣味」を超えた音楽的探求のニュアンスの高い挑戦したアルバムとして見て取れる。

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(tracklist)
01. ゴールデン・ウィングシップ / Golden Wingship
02. ア・プリー / A Plea
03. トラフィック・ライツ / Traffic Lights
04. フレイルド / Frailed
05. モーニング・クライ / Morning Cry
06. マゴット・ブレイン / Maggot Brain
07. ウィチタ・ラインマン / Wichita Lineman
08. シンキン・バウト・ユー / Thinkin Bout You
09. ウイロウ・ウィープ・フォー・ミー / Willow Weep for Me
10. フリー・アズ・アイ・ウォント・トゥ・ビー / Free As I Want to Be
11. アイズ・ライク・ツー・フライド・エッグス / Eyes Like 2 Fried Eggs (ボーナス・トラック)

 とにかく、ロック界というよりジャズ界の兵どもを集めての演奏には、野心作と言われるだけのちょっと驚きの世界が展開している。
 アルバム・タイトルの『HONORA』だが、フリーの愛する家族の一員に因んでいるらしい。このアルバムでフリーは作曲・編曲は勿論手掛けていて、やはり近年猛練習したと言うトランペットを主力にベースと共に全編で演奏している。特に彼のトランペットは、70年代スピリチュアル・ジャズへの敬意として、マイルス・デイヴィスやオーネット・コールマンといった巨匠たちの影響があるとの評価を受けていて、即興性は勿論だが哀愁感を描くに使われ、更にアンビエントな質感が構築されている。トランペッターとしての内省的な面も見せたフリーが聴きどころだ。
 そして彼と共にアルバムを作り上げたのは、現代ジャズの先駆者からなる精鋭メンバーたちがいてのこと。その力は有効に展開しているところは、それこそフリーの力だろう。
 ヴォーカルは、フリー自身に加え、彼の友人である「レディオヘッド」のフロントマンであるトム・ヨークと「二ック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ」のフリーと対立していたニック・ケイヴが登場と言う男性ヴォーカルが聴ける。近年のジャズをほゞ押しなべて席巻している女性ヴォーカルとは異なった世界がなんとも頼もしい。

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 M1. "Golden Wingship" 幕開けのインスト曲。ロック的フリー・ジャズがオープン
 M2. "A Plea" フリーのTpがスピリチュアルに訴える。こりゃ大変なアルバムだと恐れおののく。ファンク展開にジャズ・スウィングが。「平和と愛のために生きよう」との訴え。
 M3. "Traffic Lights (feat. Thom Yorke)" トム・ヨークがピアノとヴォーカル参加、パーカッションがラテン的。ヨークの儚いボーカルがどこか不安感が漂っている。ギターのリズムも入って美しさを表現、ファンク的Tpでジャズの歌となった。
 M4. "Frailed" 10分を超える曲。本アルバムの人気曲ではないが、これぞ私の最も虜になった曲。ベースの刻むリズムで始まり、KeyやBassのアルコによる美しさと不安感と哀感とのアンビエントな世界が展開。1/3過ぎからリズムに力が入り、後半のTpとギターの絡む展開などの聴きどころ満載。
 M5. "Morning Cry" フリー自身の作曲。奇妙なTpフレーズが難解なジャズ・ナンバー。ジェフ・パーカーのギターの巧みな演奏がうける。
 M6. "Maggot Brain"カバー曲。フリーがトランペットで哀愁たっぷりにメロディー演奏。
 M7. "Wichita Lineman (feat. Nick Cave)" かっての対立者ニック・ケイヴをバリトン声の歌で迎え、フリーがTp演奏、こんなに優雅に。
 M8. "Thinkin Bout You" これも優雅なカバー曲。ストリングスをバックに、フリーがBassとTpで美しくお上品に。
 M9. "Willow Weep for Me" シンセサイザーを流して、Tpが歌うスタイル。ちょっと奇抜。
 M10. "Free As I Want to Be" ドラムスのパンチ力、ギターの響きがロック的だが取り敢えず纏まった形の終焉へ。

 久々に、ジャズとしてのロックの味の発展形であるかっての'70年代のプログレッシブ・ロック的な様相のあるフリー・ジャズ曲(M4)にも巡り合えて、面白かった。そして男性ヴォーカルもやはり時には良いものである。
 若き頃のトランペットを、60歳を前に、再び手に取り、その腕を磨き始めたというフリー。彼の「新たな挑戦」、そして昔からの「ジャズへの愛」を形としてなんとしても創り上げたかったという"ジャズ・アルバム"がここに誕生したということで、とりあえずお祝いしたい気持ちであるが、参加ジャズ・ミュージシャンの個々の特徴あるインプロヴィゼーションを旨く生かしてのサイケデリックな展開とか、フリージャズ的流れ、そしてロックのダイナミズムも交錯して面白い。このアルバムでは、彼のメッセージが前面に出ていることの賛否もあるようだが、「フリー個人の極めて真面目な世界」として評価を受けている。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌 :   88/100
□   録音      :   87/100

(試聴)



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