女性ヴォーカル

2026年5月 6日 (水)

ガブリエル・カヴァッサ Gabrielle Cavassa 「 DIAVOLA」

 極めて親密な囁きで、人の内面に迫ってくる歌声は見事な表現力だ

<Jazz>

Gabrielle Cavassa 「 DIAVOLA」
Universal Music / JPN / CD / UCCQ-1229 / 2026.5

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ガブリエル・カヴァッサGabrielle Cavassa(vo, ag on #4)
ジェフ・パーカーJeff Parker(eg)
ラリー・グレナディアLarry Grenadier(b)
ブライアン・ブレイドBrian Blade(ds)

ジョシュア・レッドマンJoshua Redman(ts on #2, 9)
ポール・コーニッシュPaul Cornish(p on #8, 9, 10)

Images1w_20260506101601    異色のヴォーカリストの登場ですね。この米国のガブリエル・カヴァッサGabrielle Cavassa という女性の名門ブルーノートからの初リリース作と言うことと、昨年(?)か、来日しての好評だったという経歴の目下の注目株との前知識だけでの、取り敢えず聴いてみたという経過だ。それが1曲目が短い歌無しでの異様な曲でおやっと思いつつ、2曲目の誰もが知ってるバカラックの曲「雨にぬれても」が、ギターの調べの導入での彼女の歌が始まるが、なんと意外にあの軽快な曲が、物憂いヴォーカルがしっとりと内省的なムードで歌い上げられて、ややこれはちょっと其の気で聴かないと・・と、思わされる。そんなアルバムのスタートで、ただ事で無いヴォーカル・アルバムとインプットされる事となった。

 このガブリエル・カヴァッサ という女性は、1994年カリフォルニア州生まれ、ルーツはイタリアとか、サンフランシスコ州立大学で音楽学士号を取得。ニューオルリンズが活動拠点で、2020年に初のアルバム『Gabrielle Cavassa』(私は未聴)を自主制作。2021年に「サラ・ヴォーン国際ジャズ・ヴォーカル・コンクール」で優勝を果たし、2024年に名門ブルーノートと契約。昨年の初来日公演があり好評。ジャズ界で話題を集めている新星でこれが待望のメジャー・デビュー作だ。

 本作は、彼女の歌に惚れ込んだと言われるドン・ウォズとジョシュア・レッドマンによるプロデュースでの制作。ジェフ・パーカー(g, 1967年-, ↓左)、ラリー・グレナディア(b,1966年-, ↓中央) 、ブライアン・ブレイド(ds, 1970年-, ↓右)というハイレベルのトリオ・メンバーを主体にしたバックにて製作されている。そして肝腎の歌は、とにかく、「ナチュラルな歌声の中にも圧倒的な表現力を持つ」と言われ評判は良い。さてさてそのあたりに注目して聴いてみようというところ。

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(Tracklist)

01. ヘヴン・サイズHeaven Sighs (Jeff Parker)
02. 雨にぬれてもRaindrops Keep Falling On My Head (Burt Bacharach, Hal David)
03. プリズナー・オブ・ラヴPrisoner of Love (Clarence Gaskill, Russ Columbo, Leo Robin)
04. ボシー・ノヴァ Bossy Nova (Gabrielle Cavassa)
05. トゥ・セイ・グッバイTo Say Goodbye (Lani Hall, Edu Lobo, Torquato Pereirade, Araujo Neto)
06. アンジェロ Angelo (Luigi Tenco)
07. ビー・マイ・ラヴBe My Love (Nikolaus Brodszky, Sammy Cahn)
08. ディアヴォラ Diavola (Gabrielle Cavassa, Alexander Warshawsky)
09. クッド・イット・ビー・マジック Could It Be Magic (Barry Manilow, Adrienne Anderson)
10. 別れの夜La notte dell’addio (Alberto Testa, Arrigo Amadesi, Memo Remigi, Giuseppe Diverio)

 彼女の歌は、叫び上げるのでなく囁くような歌と極めて親密な表現力豊かな物語を聞かせるような流れで、深みがあってそこにはなんとなく誠実さも感じられ聴き入ってしまうムードを持っている。声の質も悪くは無い。これは単なるスタンダード集ではなく、彼女のソングライティングに込められた世界を訴えている。

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 M1." Heaven Sighs" ジェフ・パーカー作曲の不思議な雰囲気のインスト曲でヴォーカルなし、意味深な雰囲気での幕開け
 M2. "Raindrops Keep Falling On My Head" バカラックの有名曲のカヴァー、あの軽快な曲が、極めて内省的で物憂げな深い世界へ、しかしただ暗いというのとは異なる。後半にTsがジャズ・ムードを盛り上げる。
 M3." Prisoner of Love" 静かなegとdsをバックに、彼女の中・低音を生かした感情を抑えたヴォーカルが響き、ゆったりとそして「間」を生かしての歌。
   M4." Bossy Nova" ギターによるブラジル風のリズム。彼女のオリジナル曲。
   M5. "To Say Goodbye" おそらく愛する人だと思うが別れの瞬間を繊細に陰影を描いた曲。感情の表現が深い。
 M6." Angelo" イタリア曲のカバー。コントラバスのアルコ奏法と彼女のイタリア語の歌が、ぐっ深く人間関係の暗部を描く。そして後半の美しいギターと歌声の対比が見事。 
 M7." Be My Love" 静かに、スローに、瞑想的。
 M8. "Diavola (悪魔)" アルバム・タイトル曲、劇的展開、このアルバムの頂点に。「天使から悪魔への変貌」を描くとのこと。不安をbが表現し緊張感を高め、歌は抑圧から解放への圧巻な展開。
 M9." Could It Be Magic" ピアノで描く純粋性の美しさ。彼女の歌はまさに祈り。
  M10." La notte dell'addio"  イタリア語で「別れの夜」。穏やかにピアノとのデュオで静かな世界 「失うこと」を「受け入れる」事でアルバムを閉じる。

 まさに、トータル・アルバムとしての彼女の訴えと生き様の10曲であった。元の曲をこうも自分の世界に誘導する歌唱力に脱帽である。なるほど、彼女の評価が高いことを知らされた。囁きの美学から物語性と曲を歌うことの音の質を高める技法が秀悦だ。なおバック・トリオもかなり曲のテーマと質感を高めるに貢献度が高く、彼女の歌を反映するするが如く演じていて、見事であった。

 テーマは解説でも見るように、人間の二面性を「天使と悪魔」と表現し、「愛・執着・別離」といった事の感情の世界を展開する。
 ジャズとしてのスウィング感とかスリル感とか即興の流れを重視するので無く、曲の内面の物語性とか情感を求めた世界で、これも一つのジャズの流れとして知らしめられた感がある。「内省的でありながらどこか暖かさが」を、スタンダード、ポップ、イタリア歌曲、そして自己のオリジナル曲と広く求めて、それを自己の世界へと変貌させる。久々に見事なヴォーカル・アルバムとして聴くことが出来た。

(評価)
□ 編曲・作曲・歌・演奏 :  90/100
□  録音          :  88/100

(試聴)

 *

 

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2026年4月15日 (水)

サラ・アルデーン SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」

「人に内在する愛という自然」に期待しての社会へのメッセージ

<Contemporary Jazz>

SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」
PROPHONE / IMPORT / CD / PCD395 / 2026

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Sara Aldén サラ・アルデーン (vocal)
Daniel Andersson Runevad ダニエル・アンデション・ルネヴァド (upright bass)
August Björn アウグスト・ビョーン (piano, pedal organ) (electric piano on 04) (maybe celeste? on 05)

*guests:
Hannes Bennich ハネス・ベニック (alto saxophone on 02)
Nils Landgren ニルス・ラングレン (trombone on 03) (maybe backing vocal on 03)
Michelle Willis ミシェル・ウィリス (vocal on 05) (female)
Alma Möller アルマ・ムラー (viola on 01, 02, 03, 08)

2025年 Studio Epidemin録音(スウェーデン-ヨーテポリにて)

Sara_alden_3trw  2024年の1stアルバム『There Is No Future』が好評だった、ヨーテボリを拠点に活動しているスウェーデンの女性歌手のサラ・アルデーンの2ndアルバムが登場。とにかく前作は、2025年スウェーデン・グラミー賞〈ジャズ・オブ・ジ・イヤー〉を受賞。2026年1月にスウェーデン大使館主催の公式パーティの歌手に選ばれ、賞賛を集めた。
 今作は編成的には、上記のようにダニエル・アンデション・ルネヴァド (B、↓左写真・左)とアウグスト・ビョーン (P、↓左写真・右)とのレギュラー・トリオを基軸に、H.ベニック(sax、↓右写真・中央)、M.ウィリス(Vo、↓右写真・左)、N・ラングレン(tb、↓右写真・右)他のゲスト陣も加わっての作品だ。

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  彼女に関しては昨年前作で知ったところが、如何にも個性豊かで社会的な世界にジャズによるアプローチを試みている特殊な存在として見てきたが、今作はそれらの三部作の第三作で一つの結論的アルバムで彼女の社会に於ける基本的な姿勢と個人の存在の意義に向けた作品として聴いてみるのが良さそうだ(従って収録10曲の内、1曲を除いて彼女のオリジナルで締められている)。そんな感覚で迫ってみることにより、何かがそこに感じられるモノがあるだろうと期待してのアプローチである。

(Tracklist)

01. World
02. The Rain
03. Lean On Me (feat. Nils Landgren)
04. You Taught Me
05. Unlearn (feat. Michelle Willis)
06. Come!
07. The Seed (solo piano?)
08. This Tree Once Used To Bloom (for Palestine)
09. Hands Full Of Love
10. In The End

 これは新作というより、やはり前作から続いての「一つのの到達点」と言えるモノなのかも知れない。
 前作のアルバム・デビュー作である『There Is No Future』は、そのタイトル通り「未来なんてものは無い」という聴き方によっては悲観的な"生と死についてのジャズ"とも言えるコンセプト・アルバムだった。自己の作詞作曲で「失望感」を歌い上げ問いかけていた。そしてスタンダード・ナンバーの"ミスティ","いつか王子様が","虹の彼方に","誰にも奪えぬこの想い"と、そして"この素晴らしき世界"で「期待」でプログラムを閉じていた。「失望と期待」の流れ、果たして彼女の狙いは「?」と、聴く者にある意味「謎」を残していたのだったが、・・・

Oar2w  さて、今作は極めて北欧のトラッドっぽいところから、フリーでインスト的世界に繋げ、スタンダードからは一切決別して彼女の世界を貫いている。コンテンポラリー・ジャズの極みだ。そして彼女の歌は、曲の「音」としての役割に重点が置かれているように聴くことが出来、そんな訳で日本的メロディーとは別世界、又聴き慣れたアメリカン・ジャズの匂いすら感じない独特な欧州即興詩的世界に没入させ訴えが迫ってくる。そこには敢えて声を潰した叫びがあったり、そうかというと透明感のある高音美声を聴かしたり、とにかく不思議な世界である。これぞ現代ユーロ・ジャズの最前線か(?)と、興味半分で聴くことになった。

 M1. "World" 難解だが、何か「世界」の流れのイメージが当アルバム表現の「再生」を歌う。
   M2. "The Rain" フリー・ジャズの展開、荒々しさと美のピアノ、即興と抑制からの反動爆発、サックスも荒々しく参加。
 M3. "Lean On Me" 不安を抒情的な曲で トロンボーン参加し不安と救いが交錯する抒情、現在に一つの方向性を詠うか。
 M4. "You Taught Me"内省的に・・・
 M5. "Unlearn" Michelle Willisとの美しいデュエット、「過去の学びからの脱却/自己更新」を歌う。
 M6. "Come!" 生きる高揚、軽快に。
 M7. "The Seed" 淀みの無いピアノ曲。安定感で次のフェーズに誘導。
 M8. "This Tree Once Used to Bloom (for Palestine)" 社会的・政治的メッセージ。パレチナへの展望的再生の思い。本作の主題が見える。
 M9. "Hands Full of Love" 愛をテーマにした温かみのある曲。現状に対峙しての一つの方向性を示唆。
 M10. "In the End" 短い曲、余韻と問いを残す。

 全編を聴くと、世界の分断、戦争、破壊からの激動、不安、怒り・・・から、再生の道への展望を求めることが主題であることが解る。社会問題に個人の問題と合わせ、ミュージックで迫った作品であることだ。そして前作と繋げてその芸術性ばかりでなく社会性に注目して聴くことに意味がありそうだ。タイトルの「Natureの力」の意味は、 人間の内側にある“自然な力”に目を向けているようだ、それは思いやる心、共感、連携などの「力(ちから)」であって「"世界を変革する大きな力"でなく、"人間に内在している人が人に向ける<自然な優しさ>"という(小さな力であっても)それこそが希望である」と。

(評価)
□ 曲・歌 :    88/100
□   録音  :    88/100

(試聴)

 

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2026年3月28日 (土)

ティアニー・サットン Tierney Sutton 「Talking To The Sun」

ブラジル音楽とシャンソンを加味した異色のヴォーカル・アルバム

<Contemporary Jazz>

Tierney Sutton & Charlier/Sourisse 「 Talking To The Sun」
Gemini Records / Import / CD / GR2529 / 2025

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Tierney Sutton – vocals
Andre Charlier – drums, percussion
Benoît Sourisse – piano, organ, whistle
Serge Merlaud – guitars

Mv5bnzk4ndc2ntutzwiyw    時に、なんとなく変ったモノが聴きたくなると言う悪い癖のある私だが、ふと10年ちょっと前から私にとっては異色のジャズ・ヴォーカル・アルバムとして、米国のティアニー・サットン(→)というコンテンポラリー・ジャズとして位置づけられている実力派シンガーがいる。昨年末にニュー・アルバムがリリースされていたが、ちょっと気分が乗らず今になって聴いてみたという処だ。

 このアルバムはフランスの著名なドラマーとキーボードの名手のユニットである「Charlier/Sourisse(アンドレ・シャルリエ&ブノワ・スリス ↓左)」と共演し、夫でフランス人ギタリスト、セルジュ・メルロー(↓右)が加わってのカルテット編成で、彼女のキャリアの中でも特に「ブラジル音楽へ傾倒」しつつ、フランス色の加味したジャズとして、「作詞家としての進化」が加わった意欲ボーカル作品と位置づけられるものだ。

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(Tracklist)

1. Talking to the Sun (Charlier/Sourisse/Sutton)
2. Que reste-t-il de nos amours? (Leo Chauliac/Charles Trenet)
3. Modinha (Jobim/Sutton/Vinicius de Moraes)
4. Flor de Lis (Djavan/Regina Werneck)
5. Play for Me (Pra Quem Quiser Visitar) (Guinga/Sutton)
6. Laptop choro (Charlier/Sourisse/Sutton)
7. Eu nao existo sem voce (Jobim/Sutton/Vinicius de MoraesSonnenberg/Sutton)
8. Springtime, I'll be there (Charlier/Sourisse/Sutton)
9. The Prince of Calais (Charlier/Sourisse/Sutton)
10. Bluesette (Thielmans/Gimbel)
11. Les etoiles de Lea (Charlier/Sourisse/Sutton)

 ブラジル音楽やボッサを、爽快であり又一方深みのある表現力で捉えたヴォーカル作品だ。曲はジョビンやジャヴァンといったブラジルの巨匠のカバーと、Charlier/Sourisseの作曲にサットンが自身の世界から詞を造り歌い上げたオリジナル曲が中心を成している。まさに米・仏・ブラジルといった三国ミックスといった感じだ。

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M1." Talking to the Sun" アルバム・タイトル曲、Charlier/Sourisseによる複雑なメロディで私には異様。サットンが歌詞を付けたオリジナル曲。歌声も楽器の様相をなして難解。
M2." Que reste-t-il de nos amours?" シャンソンの名曲。フランス語での歌、うまくボサノヴァ・テイストが加味されている。静かに語り聞かすサットンのヴォーカル、おお、なかなか味がある良好な世界だ。
M3." Modinha" ジョビンの名曲。ティアニーが新たに英語の歌詞を書き下ろし、ピアノがリードしドラマチックで内省的な歌でのバラードに仕上げている。中盤のギター・ソロもいい。聴き応え十分。
M4." Flor de Lis" ジャヴァンの代表曲。ブノワ・スリスの口笛が入って、心地よい軽快なブラジル・ムード。
M5." Play for Me (Pra Quem Quiser Visitar)" 現代ブラジルの作曲家ギンガ(Guinga)の曲。これもサットが自己の英語詞で歌い、ギターとの親密な落ち着いたデュオ・タイプの空気感。
M6." Laptop choro" ブラジルの「ショーロ」という伝統的リズムらしい軽快なオリジナル曲。不規則リズムで難しい。デジタル現代の疲れを歌っているらしいが・・・。
M7. "Eu não existo sem você" ジョビンの名曲。元々の詞にサットンが新しい歌詞を追加、愛の歌のようだが、極めてリズムと発声をも抑制した歌い回しで、ちょっと「静」で内省的、彼女らしい歌、悪くない。
M8." Springtime, I'll be there" Charlier/Sourisseの作曲によるオリジナル。静かに明るく希望の表現。ギターのサポートが行き届いている。
M9." The Prince of Calais" オリジナル曲。静かにぐっと深く迫るヴォーカル。演奏陣の緊密なインストゥルメンタルに近い高度なインタープレイが聴き処でもある。
M10." Bluesette" トゥーツ・シールマンスの名曲。ブラジル風の世界、ギター・ジャズの軽快さ。
M11." Les étoiles de Léa" 締めくくりの叙情的なオリジナル・フランス語曲。フランスとアメリカのジャズの美しい融合、楽器のような美声を漂わせる。


 サットンは、本作で11曲中8曲に歌詞を提供(または加筆)しており、これまでの「歌い手」だけでなく、「物語を作り語る=作詞家・語り手」としての評価も現実化している。特にブラジルの名曲に英語詞でのアプローチは、一歩前進なのか、完成度というところでは良い評価を得ているアルバムだ。
 注目の3人のフランス人ミュージシャン(Charlier/Sourisse/Merlaud)との共演により、アメリカのジャズ・シンガーが歌う「ブラジル音楽」の世界に、洗練されたヨーロッパ的な世界が面白い。そんな「グラミー賞常連」の技が感じられる作品。基本的にはブラジル音楽への深い親密感に、ちょっと洒落たフランス語歌唱という離れ業を展開。ドラムスはかなり抑制的。

 彼女を異色性として表現するのも問題あろうかと思うが、声のコントロールと表現はやはりトップクラス。空間処理が極めて洗練していて、更に米×仏×ブラジルを文化的にこなしきる技には敬服する。新しい創作フェーズへの到達意外にも「温かみと親密さ」を感じる一枚に作り上げたという意欲たっぷりのアルバムだ。

(評価)
□ 編曲・作曲・演奏・歌 : 88/100   
□ 録音         :   88/100

(試聴)

*
 " Que reste-t-il de nos amours? (Leo Chauliac/Charles Trenet)"

 

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2026年3月12日 (木)

エミリー=クレア・バーロウ Emilie-Claire Barlow 「La Plus Belle Saison」

「北米のパリ=ケベック」ゆかりの曲をフランス語で歌った異色の作品

<Jazz>

Emilie-Claire Barlow 「 La Plus Belle Saison」
Empress Music / Import / CD / EMG465 / 2026

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Emilie-claire Barlow (vocals, arrangements)
Francois Richard (piano, harmonium, wurlitzer, mellotron)
Adrian Vedady (double bass)
Ben Riley (drums, percussion)
Kiko Osorio (percussion)
Joe Grass (guitar, mandolin)
Reg Schwager (guitar)
Francois Bourassa (piano)
John Sadowy (piano)
Lex French (trumpet)
Mario Allard (flute, baritone saxophone, tenor saxophone, alto saxophone)
Andre Leroux (clarinet, flute, tenor saxophone)
Guillaume «Guibou» Bourque (clarinet, bass clarinet, tenor saxophone, baritone saxophone)
Melissa Pipe (bassoon, baritone saxophone, flute)
Francois Pilon (violin)
Melanie Belair (violin)
Veronique Vanier (viola)
Sheila Hannigan (cello)
Belle Grand Fille (vocals)
Judith Little-daudelin (vocals)
Karine Pion (vocals)

1900x1900w   カナダのケベックと言えば、歴史ある都市でフランス人が築いた入植地。従ってカナダではフランス文化が根強く残っていて「北米のパリ」ともいわれる。公用語もフランス語だ。音楽活動も歴史的に盛んで、世界のミュージシャンのこの地のライブものも結構よく聴く。
 そんなケベックを題材にしたカナダの歌姫エミリー=クレア・バーロウ Emilie-Claire Barlow (1976年トロント生まれ)のアルバムがリリースされた。「ケベックの豊かな音楽遺産に敬意を表した珠玉のフランス語アルバム」という肩書きだが、彼女のスタンダードものは結構味わい深いことは解っているので早速聴いてみた次第。

 勿論彼女のヴォーカル・アルバムだが、バックはシンプルなものでなくて、上記のように、クレジットなどからみてもかなり豪華。曲により演奏も違う。そして歌の言語も全てフランス語(もともと彼女はフランス語には通じている)というので、これは今までの彼女のアルバムとは様相が違うと思って聴いた方が良い。特にジャズを基盤にフォーク、サンバ、オーケストラル・ポップなど多岐にわたり、それなりにアレンジも施されているという特徴もの。モントリオールで録音され、ピアニスト/アレンジャーの François Richard (↓右)と共同プロデュースされたものである。

(Tracklist)

1.Dans les rues de Québec 02:33
2.Quelles sont les chances? 04:22
3.Je suis en amour 05:25
4.J'ai rencontré l'homme de ma vie 04:10
5.Si doucement 04:07
6.Comment t'aimer encore 04:08
7.Les deux printemps 03:39
8.D'la bière au ciel 03:58
9.Jerrycan 03:34
10.Le vent m'appelle par mon prénom 04:50
11.Pendant que 05:05

 このアルバムは彼女の 従来の「英語スタンダード中心のジャズ歌手」というイメージを完全に変えたという意味では一つの価値あるアルバムだ。ここまでの幾つかの賞に輝いた約30年のキャリアから一歩広げた文化的意味合いのこもったアルバムとみるべきものであった。 彼女の親しみやすい歌声と技の豊富なヴォーカルの円熟した力量で、ケベック音楽への深い親密感・愛情が展開する。
 ただ、そうした性格から曲はケベックのフランス語ポップス/シャンソンの名曲をアレンジを施して再解釈してのオマージュというところで、その意味では一貫しているが、アルバムとして聴いてみると、あまりにも性格の違った曲と演奏が不自然に並んでいる印象が特に前半にあって、どうも聴く方は気持ちが落ち着かない。"音楽的探究心と芸術性が結実した極上のヴォーカル・アルバム"との評もあるが、その意味も解らないではないが、充実した歌声とストリングスやアコースティック主体の多彩なサウンド、そして更に大半のリズムは軽やかなラテンやブラジル風味の面白さなどがあるのだが、どうもアルバムとしての感動が生きてこないのが残念だ。

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 M1."Dans les rues de Québec"(ケベックの街角で)ケベックの街の情景と郷愁を描く。スウィングし小粋なフレンチ・ジャズの印象、オープニングとしてはこんなところか。
 M2. "Quelles sont les chances"(どれほどの確率で)男性ヴォーカルとデュエット、ポップな曲だが魅力感じない。
 M3. "Je suis en amour"(私は恋している)複数の管楽器で豪勢なミディアムテンポ・ジャズ。 ブラジル音楽のロマンティックな世界か。
 M4. "J'ai rencontré l'homme de ma vie"(人生の人に出会った)シャンソン的バラード。
 ・・・・ここまででは、アルバムとしての目的がケベックにまつわるものというだけなのか、彼女が何を歌いこみたいのかよく解らない。フランス語のせいか、訴えてくるモノが解らない(英語でも解らないが)。
   M5. "Si doucement"(とても優しく)ピアノ中心のバックでのジャズバラード。彼女の声と歌いこみがようやくここに来て聴ける。ここから始まるようなモノ。
 M6. "Comment t'aimer encore"(どうやってまだあなたを愛せるの)別れの余韻を描く歌。ここには、彼女の得意とする感情表現が聴ける。メランコリックで感情表現が深く、アルバムの抒情的ハイライト。Tpのバックが効果を上げる。ようやく彼女を聴いた感じになる。まずこの曲は私の推薦曲。
  M7. "Les deux printemps"(ふたつの春) 恋人の瞳を「二つの春」にたとえる詩的な歌。軽やかなテンポ 全曲から一転して明るいメロディ 幸福にあふれた世界が聴ける。ただ前曲との対比でちょっと流れが不自然、曲も好まない。
 M8. "D'la bière au ciel"(天国のビール)さらに軽快に、ユーモラス?、ただ聴くのみ。
 M9. "Jerrycan" 珍しくロックぽいフォーク・ポップ色の曲。ちょっと展開に面白み。
 M10. "Le vent m'appelle par mon prénom" (風が私の名前を呼ぶ)ストリングスとピアノで広がり、彼女のヴォーカルには、訴えが感じられる。叙情性・哀感・美を感ずる。このアルバムでは出色。
 M11. "Pendant que" ぐっと深く人生や時間を静かに見つめる歌。ゆったりしたバラード。ここに来てこのアルバムも救われた。

 私が注目できたのは11曲の中でM6, M9, M10, M11の4曲のみ。とにかく取り上げた曲そのものが、ケベックの歴史的産物なのか、私の評価では現代にどうもマッチしない。編曲の妙も感じられるが、なんとなく古くさい。そうかと言って古典的味わいも感じられない。まさに中途半端。ようやく上記4曲でバーロウの良さと曲の味が感じられたところ(その点は救いであった)。おそらくケベック現地では喜ばれたかもしれないが、他国ではどうだろうと・・・残念ながらそう思った次第。ストリーミングなどで、上記4曲を聴くと言う事ぐらいで納めて良いアルバムだ。

(評価)
□ 選曲・編曲 :   75/100
□ 演奏・歌  :   87/100
□   録音    :   87/100

(試聴)
推薦の曲"Le vent m'appelle par mon prénom"

*

アルバム導入曲"Dans les rues de Québec"

 

 

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2026年3月 6日 (金)

アンドレア・モティス Andrea Motis 「 INTIMATE」

表現力あふれるヴォーカルが前面に出た親近感あるアルバム造り

<Jazz>

Andrea Motis 「 INTIMATE」
Elemental / Import / CD / EM5990436 / 2026

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ANDREA MOTIS(vo, tp.)
JURANDIR DÃ SILVA(g. on tracks 1,2,6,9,11,12,14,15,16)
JOSEP TRAVER(g. on tracks 1,3,4,5,7,8,9,10,13,14,17)

Special Guest:
JAQUES MORELENBAUM(cello on tracks 5,8)

Andreamotissanw  前回から女流管奏者が続くが、トランペッター&ジャズ・シンガーとして世界から注目されるバロセロナ出身のアンドレア・モティス(⇢)の2026年新作アルバム登場。
 前作は2024年『Febrero』(JJAMCD00302)で、ここでも取り上げたが、チリのクラシック・アンサンブルであるカメラータ・パパゲーノと共演もので、ちょっと私が以前の流れから彼女に期待するモノから別方向のもので、今作も恐る恐るという事であったが、今回は彼女のヴォーカルをしっとりと美しく優しくソフトに披露して、まさにファン向きの親密なる世界で訴えてくるもので、ほっとしている。あのトランペットは時折入るも、いかにも今回は添え物の趣である。

 バルセロナ、リオデジャネイロ、モントリュー・デ・セガラで録音され、ロンドンのアビー・ロード・スタジオでアレックス・ウォートンによってマスタリングされたものと紹介され、主としてボーカルとギターのデュオ・スタイル。そして一部で自己のトランペットを加え、更にブラジルの重鎮ジャック・モレレンバウムJAQUES MORELENBAUM(↓右)の叙情的なチェロがぐっと優雅さを加えてくれる。

 そして何と17曲を盛り込んで、彼女の世界に引っ張り込む。中身はジャズのスタンダード、フォークソング、ボサノバ、シャンソンを演じ、それぞれの言語も使い分けムードを盛り上げている。曲はイミー・ワインハウス、シコ・ブアルケ、ビル・ウィザース、ジョルジュ・ブラッサンスらの作品を彼女なりきの世界に描いて、更に自身のオリジナル曲も収録されている。ようやく彼女の良さが大いに盛り込んだ作の登場となった感がある。
 共演は、ギターは、実力のJURANDIR DÃ SILVA(↓左)とJOSEP TRAVER(↓中央)で、モティスを盛り上げてくれる。

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(Tracklist)

1 You Sent Me Flying
2 Beatriz
3 Freight Train
4 Mi Lecho Está Tendido*
5 O Meu Amor
6 Preconceito
7 Je Me Suis Fait Tout Petit
8 De Mica En Mica* 
9 Flor De Lis
10 Little Blue
11 Tan Tranquil·la
12 Retrato Em Branco E Preto
13 Senhorinha
14 Ain’t No Sunshine
15 Tudo É Ilusão
16 Complicidad
17 To Know Him Is To Love Him

*印 Bonus Track

 まさにアルバム・タイトル通りの 親密でゆったり落ち着いた美的な世界で、ジャズらしさというよりは、彼女自身の魅力の紹介を目指した作品といっていいのではないか。温かく繊細な感情的な誠実さによって形作られたちょっとイノセントな彼女の歌声 と、とにもかくにも控えめで叙情的な トランペット が印象的で、アコースティックな演奏を基調にした弦楽器(ギター、チェロ)がなんとも良い世界を描く。

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 M1."You Sent Me Flying" ギターとデュオでスタート、Motis の歌は手に取るように物語の始まりを歌い、後半に顔を出すTp.が優しくくどさがなく対話的な表現が良い。
 M2."Beatriz" ラテンのムードの穏やかな曲。丁寧に歌い上げ、深い余韻。
 M3."Freight Train" アコギでぐっと明るく軽快、ちょっとフォークっぽく。
   M4."Mi Lecho Está Tendido" スペイン語の短い曲をしっとりした世界(このボーナストラックがナカナカ良い)。
 M5."O Meu Amor" ポルトガル語の愛の歌らしい。チェロも入って美しく。
 M6."Preconceito" ボサノバっぽい。リズムと歌が小気味よい。
 M7."Je Me Suis Fait Tout Petit" シャンソンのカバー。モティスの微細な優しさのある軽快表現が魅力。
 M8."De Mica En Mica" (Bonus Track)  ギターの対話が美しい上に、チェロがバックに絡んでお見事な優しさの美曲。 
   M9."Flor De Lis" ブラジル音楽らしいボサノヴァ・メロディライン。中盤にTp.が顔を出す。
 M10."Little Blue" ソフトなバラード、ちょっと哀感が感じられる表現。
 M11."Tan Tranquil·la" 穏やかに描く。落ち着いた 静けさの美。
   M12."Retrato Em Branco E Preto" ギターと美しく優しく歌うポルトガル語曲。
   M13."Senhorinha" ポルトガル・ブラジル音楽が伝わってくる。
   M14."Ain’t No Sunshine" 名バラード曲カバー。ぐっと抑制して唄とTp.が競演、2ギターが盛り上げて新解釈。
   M15."Tudo É Ilusão" ポルトカル語のリズムカルな哀愁の訴え。
   M16."Complicidad" 優しくギターと声の絡みの密接な世界。
   M17."To Know Him Is To Love Him" ポップ/ソウル曲のカバー、Motisの実力歌唱とギターでの印象を深める締め。

  今回のアルバムは、刺激的というか派手に訴えてくると言うものでなく、静かに耳を傾け、人生に有意義に価値を持たせようとする親密感と暖かさが際だったアルバム と言えるのではないだろうか、前作と相対して対比されるようなアルバムだ。Tp.の出番が少なかったのは彼女としてもどのように評価しているかが気になるところだが、むしろ本人の希望があってのバラードへのアプローチであったということからも、このパターンは彼女自身の一つの世界であり、ヴォーカルに重点を置いたと見たい。そしてそれを支える二人のギターが充実していて名サポート。そんな意味では、私にとって今まで聴いてきた価値がここに出たという感じでもある。
 結論として、 自身の歌声とトランペットをバランスよく美しく表現する手段とし、 アコースティックなギターと共に親近感あるジャズ作品として結実させたという彼女自身にとっても一つの記念的な一つの進歩のアルバムだと評価できそうだ。おそらく今後の活動にも何らかの意味を持って大切にされそうな予感がする。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏・歌  90/100
□ 録音          88/100

(試聴)

 

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2026年2月24日 (火)

アンナ・コルチナ Anna Kolchina 「 Reach For Tomorrow」

哀感と懐かしさをさそうソフトで優しいヴォーカル、ギターとのデュオで・・

<Jazz>
Anna Kolchina 「Reach For Tomorrow」
OA2 Records / Import / CD / OA222247 / 2026

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Anna Kolchina : Vocal

(参加ギタリスト)
PAUL BOLLENBACK (エレクトリック M9,M11)
PETER BERNSTEIN (エレクトリック M3,M4,M5)
ILYA LUSHTAK (エレクトリック M1)
ROMERO LUBAMBO (アコースティック M7,M10)
RUSSELL MALONE  (エレクトリック M8)
YOTAM SILBERSTEIN (アコースティック、エレクトリック M2,M6,M12)

Kolchina_b4c21s0w    過去に、ここでとり挙げてきたロシア出身でニューヨークで活躍という異色のシンガーのアンナ・コルチナ(1984年生まれ →)の4thアルバムの登場だ。そしてこの内容は、彼女の歴史をたどるようなアルバムで、彼女が尊敬するギタリストたちとの交流を通して紡がれたジャズ・ヴォーカリストとしての歩みをまとめ上げたアルバムという面白い企画になっていて、音楽的な回想録であり、長く深く個人的な旅路をたどる流れで出来上がっている。特に彼女が親しいコラボレーターとして選んだギタリストたちとの親密な音楽的対話を通じて展開していて、それはなんと6人のギタリストとそれぞれとのデュオ・アルバムといった形を取っている。

 更に、彼女はこのアルバム・ジャケに見るように、幼い頃のソビエト連邦時代から、なんと馬に魅了されていたと言われ、力強さ、動き、そして深く詩的な何かを象徴する馬の持つ性質と、馬に染み付いた感情は、サンクトペテルブルクの音楽院時代からイタリアへ渡り(Venus Recordsからイタリアのメンバーとデビューアルバムをリリース)、そこでシーラ・ジョーダンと出会い、ニューヨークへ移ることを勧められるまで(2017年)、彼女を支えて来たと言われている。その点はこのアルバムでダイレクトに現れている訳でしないが、そこでそんな意味合いがこめられたアルバムという事で聴くと、又一味違ったものを感じ取れるのかもしれない。

(Tracklist)
1. Dancing in the Dark
2. You and the Night and the Music
3. Who Can I Turn To?
4. Invitation
5. All or Nothing at All
6. Right from the Start
7. What Now My Love?
8. Vacation from the Blues
9. Wrap Your Troubles in Dreams
10. So Many Stars
11. Whistling Away the Dark
12. Reach for Tomorrow

  曲は、ジャズ・スタンダード中心で、ヴォーカル+ギターのデュオ・タイプの為、彼女の歌はかなりリアルに聴き取れる。そして歌は、過度な装飾はなく、比較的シンプルにジャズ情緒豊かな解釈で、声と演奏の「空間」を感じさせる世界を作っている。抑制された表現の中に豊かな感情が宿るという歌と演奏で好感が持てる。 ヴォーカルと演奏のそれぞれの味を聴き取れる録音も良い。

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 M1. "Dancing in the Dark" アカペラ・ヴォーカルでしっとりと入り、ILYA LUSHTAK(ロシア生まれ、NY拠点の熟練ジャズ・ギタリスト)は静かにサポート。
 M2. "You and the Night and the Music" 夜のロマンティックな雰囲気。ギターは、YOTAM SILBERSTEIN (アコギ、イスラエル出身のギタリスト)で、バック演奏での絡みがうまい。
   M3. "Who Can I Turn To?" 哀愁あるスタンダード。表情豊かで、感情の機微があるPETER BERNSTEINのギターで。
 M4. "Invitation" 何となく親密感が湧いてくる。
   M5. "All or Nothing at All" 期待の定番曲、メロディより優しい説得力の歌い回し。
   M6. "Right from the Start" YOTAM SILBERSTEINのギター、 比較的軽快で温かみのあるメロディ。ヴォーカルの柔らかさが活きている。
   M7. "What Now My Love?"  深い味わいのバラード調。丁寧な歌い上げが好感。
   M8. "Vacation from the Blues" ゆったりとブルース感覚。RUSSELL MALONEのギターが対話的で魅力。
   M9. "Wrap Your Troubles in Dreams" ジャズっぽい歌と演奏の展開。
   M10. "So Many Stars" メロディアスな美しさと柔らかい歌唱で、ブラジリアン・ギターのROMERO LUBAMBO のアコギも生き生き。
   M11. "Whistling Away the Dark"哀愁のある歌、PAUL BOLLENBACK のギターの音色とともに聴きどころ。アルバムのクライマックス。
   M12. "Reach for Tomorrow" タイトル曲。なんと言っても爽やかで希望を感じるフィナーレで安堵。

  とにかくいずれのギターも過度なアレンジや即興を避けた演奏で(エレキであってもアコースティックな演奏法)、ヴォーカルとの間を大切にしているため、細やかなニュアンスが深い味わいを持って楽しめる。どの曲もコルチナ自身の感性で丁寧にソフトに優しく歌い上げている点が好感が持てる。彼女のこのアルバムは、忘れた頃にやってきた懐かしさもあるものであったが、とにかく久々に聴いたせいもあってそれが好感に一層拍車をかけたところである。ジャズ・アルバムもこうしたセンスも失って欲しくないアルバムであった。

(評価)
□ 選曲・歌・演奏 :    90/100
□   録音      :    88/100

(試聴)

 

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2026年2月 7日 (土)

ヴィクトリア・トルストイ VIKTORIA TOLSTOY & JACOB KARLZON 「WHO WE ARE」

抒情派ジャズ・ヴォーカルが描くジャズを超えたロマンティック・ドリミーな世界

<Jazz>

VIKTORIA TOLSTOY & JACOB KARLZON 「 WHO WE ARE」
Act Music / Import / CD / ACT80382 / 2026

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Viktoria Tolstoy ヴィクトリア・トルストイ (vocal)
Jacob Karlzon ヤコブ・カールソン (piano, keyboard, programming)

2025年8月25日-26日スウェーデン-ストックホルムのMusikaliska Kvarteret録音

Ab6761610000e5eba1379e52cf2d011de5af7b76  スウェーデンで活躍するロシア系人気歌姫:ヴィクトリア・トルストイ(1974年スウェーデン・マーシュタ生まれ)の登場である(前回はここでアルバム『Stealing Moments』(ACT97472)を2024年に取り上げている)。
 ここに彼女と30年という長年共演してきた敏腕ピアニスト:ヤコブ・カールソン(1970年スウェーデン・ヨンショーピング市生まれ)との名コンビによるデュオ作品が完成した。
 カールソンはピアノの他キーボードやプログラミングも並行してこなし、作曲も主として彼の手による世界で、今回はトルストイは、彼女独得のソウルフルな歌を彼の描く世界に協調するスタイルでのアルバムとみた。オリジナル以外は、ビリー・ジョエル、トリ・アモス、トム・ヨークの曲を独特な解釈をして、カールソンの曲群に調和を取っている。
 結果は、彼女の抒情派ジャズ・ヴォーカルがロマンティックでドリミーな世界を構築していて、ジャズ・ヴォーカル・アルバムとしては若干異色の作品の感はある。

(Tracklist)

01. Satellites (Jacob Karlzon) 5:02
02. Who We Are (Karlzon) 6:05
03. And So It Goes (Billy Joel) 3:54
04. Cloud On My Tongue (Tori Amos) 4:33
05. The Great Escape (Karlzon) 5:09
06. Off-White (Karlzon) 7:30
07. Trigger Warning (Karlzon) 5:50
08. Stay (Karlzon) 5:28
09. Fallen Empire (Karlzon) 5:41
10. Let There Be Love (Karlzon) 5:40
11. True Love Waits (Radiohead) 4:26

 やはり彼女の世界らしく、所謂ジャズ・アルバムと一口に言えない世界を作り上げていて、歌の世界は情緒的な語りかけのような優しさに包まれたような表現が特徴的である。そしてメロウ・テンダーといった表現が当たっているかと思うが、ジヤズの世界としては明らかに異色と言って良い。それは曲が漂うように進むため、印象的なインパクトのあるテーマが叩き付けてこない。そうゆうところが良いという面と印象的は迫力不足という面との両極があってなかなか評価も難しい。そしてその難しさが訴えてくるところに聴いたものだけが知る世界が存在している。

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 M1. "Satellites" オープニングだが、トルストイの優しげなしっとりとしたヴォーカルとちょっと異空間的に誘うサウンドでエレクトロとピアノが交差する導入曲。浮遊感が漂う。
 M2. "Who We Are" アルバム・タイトル曲。深いムードに入る。歌とピアノが対話しているようだ。終盤に躍動感と広大な世界を描く。
 M3. "And So It Goes" Billy Joel の名曲のカバー、アカペラで入ってしっとりと歌う、ピアノが支える。優しさが流れる。後半ピアノの美旋律。 なかなか味な仕上げ。 
 M4. "Cloud on My Tongue"  Tori Amos カバー、ピアノの美フレーズと上品さのある歌が見事に交錯と協調し物語が展開。
 M5. "The Great Escape"自由や解放の感覚をテーマにしていると、珍しく躍動感が。
 M6. "Off-White" ピアノと優しい歌が美しく、再び瞑想的でジャジーとは別世界。
 M7. "Trigger Warning" リズミカルに進行、ここではちょっと面白い展開。
 M8. "Stay" 留まることへの想い、しっとり深い叙情性。この世界がこのアルバムの訴えどころ。歌と低音のピアノのハーモニーが美。
   M9. "Fallen Empire" タイトルの示すところが難しいが、時代の流れのドラマチックな様相が伝わってくる。
 M10. "Let There Be Love" 愛を肯定的に語っている。歌とピアノの対話がバラードの美の極致で見事。
 M11. "True Love Waits" Radioheadのカバー、なかなか静謐にアレンジ。トルストイの声がタイトルの「待つことの真実」を心に響かせる。

  ピアノ、キーボード、プログラミングで描くカールソンの世界の多彩性が見事に結実しているが、ただ私としては、エレクトロなサウンドには若干の抵抗もないではない。しかしトルストイのヴォーカルが見事に語り、歌い、説得し、納得を描く。そしてジャズ的に崩すと言うところはあまりなく、エレガントな真摯な歌唱は好感が持てる。
 全体的には、ちょっとジャズ世界としてはコンテンポラリーで稀有な存在だが、こうした世界で心を宿わせるアルバムもあってよいのだろう。これは二人で長年築いてきたものがないと作れないアルバムだと思う。いっやージャズというものの守備範囲は広い。

(評価)
□ 作曲・演奏・編曲・歌  90/100
□ 録音          88/100

(試聴)

 

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2026年1月 6日 (火)

ファビエンヌ・エルニ Fabienne Erni とバンド「ILLUMISHADE」

<Rock>

スイスのロック界の歌姫 Fabienne Erni 

ソロ曲「Stone by Stone」 = ソロ・アルバムへの道か 

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Fabienneerni05w  ファビエンヌ・エルニ Fabienne Erni (→)、彼女は、私の注目株のスイスの実力歌姫だ。2006年に1stアルバムをリリースしたロック・バンド「Eluvetie」(2017年からメンバー入り)と最近2020年にデビューしたバンド「ILLUMISHADE」 の創始者でヴォーカル及びピアノ担当のミュージシャンだ。そして私が彼女に興味を持ったのは、二年前の2024年の「ILLUMISHADE」の2ndアルバム『Another Side of You』からというところなのである。

 そして現在、ソロでのニュー・ソングとして昨年(2025)8月発表"Sky's Breath"、12月第2弾発表の "Stone by Stone"がデジタル・リリースされ、どうも後から後からソロのニュー・ソングが出そうで、いよいよ纏めてのニュー・ファースト・ソロ・アルバムのリリースかと、ちよっと期待しているのだが・・・ 。 彼女はこのように2つのバンドに所属していて、「Eluvetie」は、民族楽器が多用される異色のフォーク・メタルで、一方特に近年、彼女がウォルフJonas Wolf(ギター)と共に主体的に結成した「ILLUMISHADE」はメタル系の因子の強いシンフォニック・ロックである、しかし若干プログレッシブな色合いも見せ、なんとなく私は興味を持ったという経過だ。

 そして今回、彼女のソロ・アーティストとしての曲は、バンドでの活動とちょっと異なっていてメタルからバラード、サウンドトラック的な物語風な感情表現に傾いている。そして歌詞には、自分の体験やストーリーを織り込んでいて、下に紹介する"Stone by Stone"では、元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズの「壁」と同じように、人の痛みと心の壁を歌い、壁の中にいても「光るもの」を求める気持ちなどを歌っている。
 このような曲群は声を張り上げるメタルから、"Sky's Breath"などでは、どっちかというと息づかいが強調されたウィスパーよりのところも多くなり、内省的な世界をも描こうとしている。
 こうして約10曲前後なりの構成のアルバムに興味は湧くという状況で、リリースが待たれるところである。

(追記2026.1.17)
 Fabienne Erni : 初ソロ・アルバム「Starveil」3月13日リリース決定
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"Stone by Stone"

"Sky's Breath"

 

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 さて、私がファビエンヌ・エルニを知ることになったバンド「ILLUMISHADE」について、2024年のアルバム『Another Side of You』をここに、少々記しておく

<Rock, Symphonic/modan metal>

ILLUMISHADE 「Another Side of You」
NAPALM / Import / NPR1270DGS / 2024 

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Fabienne Erni(ヴォーカル/ピアノ)
Jonas Wolf(ギター)
Mirjam Skal(オーケストレーション/シンセ)
Yannick Urbanczik(ベース)
Marc Friedrich(ドラム)

 スイスからのシンフォニック・メタル・バンドの「イルミシェード」の2作目で、日本ではデビュー・アルバムだった。このメンバーは、既に日本でも人気のあるバンド「エルヴェイティEluveitie」のファビエンヌ・エルニ(v)とヨナス・ヴォルフ(g)を中心に、新進気鋭の映画音楽作曲家ミルヤム・スカル(syn)が加入して結成されたバンド。

 音楽性としては、叙情性豊かなメロディとドラマチックな展開を得意とするモダン・シンフォニック/メタル。壮大な音響にヘヴィであり、又メロディアスな表現が魅力。 ボーカルの表現力(Fabienne Erni)、ギターの技巧(Jonas Wolf)が高評価。

Illumishade_picw (Tracklist)

1.Enter the Void
2.ELEGY
3.ENEMY
4.In the Darkness
5.Cloudreader
6.Here We Are
7.CYCLONE
8.Fairytale
9.The Horizon Awaits
10.HYMN
11.TWILY
12.Riptide
13.Hummingbird
14.Verliebt

  オープニングM1. "Enter the Void" シンセ/弦楽器が幻想的。見事な入り口を飾る雰囲気最高。
 M2. "ELEGY"叙情的なメロディと重厚なギター。Fabienne の美声と重厚感のある演奏。
   M3. "ENEMY"、M4. "In The Darlness"このあたりがアルバムの注目曲。歌い上げるヴォーカル、ヘヴィなギターのエモーショナルな展開。
 M5. "Cloudreader" 叙情的でありつつ歌メロが暖かくギターが泣きポップな魅力。
 M6. "Here We Are" 人気曲。コーラスが印象的。「今・ここ」を肯定するバンドの存在の主張。
 M7. "CYCLONE" ヘヴィにしてパワフル。展開と変調が見事。
 M8. "Fairytale" 美しく叙情豊かなバラード曲。中盤の美曲。美ヴォーカル。
 M9. "The Horizon Awaits" 後半への誘導。美しく展望的。
 M10. "HYMN" M11."TWILY"は、歌・メロディ・演奏が明瞭で訴えてくる。
 M12. "Riptide" 音響の広がりが重く、リフが印象的なヘヴィ・トラック。ヘヴィ系好き向き。
   M13. "Hummingbird" 終演への近づきを感じさせるファビエンヌのヴォーカルがジックリと。
 M14. "Verliebt "(feat. Coen Janssen) ピアノとヴォーカルによる優しき美的クライマックス。

 ファビエンヌの美的伸びやかな声を生かして、ヨナスの重厚なリフが描く世界は、プログレッシブな要素に加え壮大感がミルヤムのキーボードによりシンフォニックに広大に作られた作品。メロディが美しくメタルやシンフォニック系要素を加味した叙情的でドラマティックなロック、注目のバンドである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 :   88/100
□   録音     :   88/100

(試聴) "Here We Are"

 

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2025年12月15日 (月)

レベッカ・バッケン Rebekka Bakken 「NORD」

ノルウェーの母国の伝統音楽に迫り世界的精神性を求めた意欲作品

<Jazz, Folk>

Rebekka Bakken 「NORD」
Supreme Classics / Import / CD /SMGG014 / 2025

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Rebekka Bakken - Lead vocal & vocal harmonies
Rune Arnesen - Drums & Percussion
Stein Austrud - Synthesizers、Piano、Organ、Soundscapes & others
Eivind Aarset - Guitars & Soundscapes
Svein Schultz - Bass
Saleh Mahfoud - Overtone singing & additional vocals ...3
Hildegunn Oiseth - Goat horn...4、7、10
Simon Issat Marainen - Joik...4、10

All songs written by Rebekka Bakken
Arranged by Stein Austrud、Rebekka Bakken & the band,
except from track 4、arranged by Stein Austrud and Rebekka Bakken

Unnamedrbw   ノルウェー出身の異色の歌姫レベッカ・バッケン約2年ぶりのアルバム。既にここでも彼女の実力アルバムを取り上げてきたが(前作『Always On My Mind』(2023))、今回のアルバムは、彼女のルーツへの回帰とか、母国ノルウェーの魂へのトリビュートなどと言われていて、更に異色度が高い。ヨーロッパで最もカリスマ性のある歌声の持ち主の一人との評価にあって、ジャズ、フォーク、ポップスに通じ、しかも北欧独特の風土からのメランコリーと普遍的な美しさを彼女自身の解釈で融合させ、今や国際的な音楽シーンでその評価を高めている。


 このアルバムでは、1曲を除いて全て母国語のノルウェー語で歌われているというのも、彼女にとっては初めてのことのようだが、それもそれなりの意味があってのことと推測するし、シンセサイザーを使ったサウンドを雄大にそして深淵にバックを固め、彼女の音域の広さの歌声と見事に溶け合せた世界を構築している。これは彼女の創造性のあるオリジナルとノルウェーの伝統音楽を融合させた作品で、時にノルウェーの角笛(ゴートホーン/ブッケホルン)などが入ったりの音風景を作り上げ、伝統のヨイク唱法(北欧独得の)も取り入れたり、ノルウェーの伝統的な世界へアプローチしている。アルバム・タイトル「Nord」は「北」の意味で"北欧の世界から"がテーマでしょうね。

  Rebekka Bakkenは1970年4月4日オスロ近郊・リール生まれ。SSW、音楽プロデューサーであり、ジャズと関係づけられるが、ジャズミュージシャンとの位置づけは拒否しているようだ。諸々の学校のバンドで歌い、1988年からはプロのソウル、ファンク、ロックバンドで活動を開始。特に表現力豊かで多様な声で知られ3オクターブを超えていると、現在もフォーク、ジャズ、ポップを融合させた自己の世界の音楽を歌い演奏。2007年にアルバム『I Keep My Cool』でアマデウス・オーストリア音楽賞ジャズ/ブルース/フォーク部門を受賞。

Rbw (Tracklist)

1. Mot Meg
2. Tusen Bla
3. Mitt Hjerte Alltid Vanker
4. Gjendines Badnlat
5. Heiemo og Nykkjen
6. My Choisest Hours
7. Korset Vil Jeg Aldri Svike
8. Eg Veit I Himmelrk Ei Borg
9. So Ro Til Meg Selv
10. Ingen Vinner Frem Til Den Evige Ro

 確かにジャズというよりは、美しいフォークメロディーが迫ってくる。Rebekka Bakken のボーカルは色々な表情を見せており、本人が言うようにジャズシンガーと規定できない多彩な音楽性を描いて、主に ノルウェー語で歌われた伝統曲や精神的な歌を、現在の彼女の視点で再構築したものだ。ほとんどの曲はトラッドなどの伝統歌や賛美歌に由来しているようで、彼女の人生の中で幼い頃から慣れ親しんだ音楽の上に作られているようだ。ちょっと鼻にかかった独特の味わいある声はなかなか訴えてくるところがある。

 彼女の話では、「曲は祈りや嘆き、子守歌など、人間の普遍的な感情とつながっている」と。そしてテーマは「恋すること、探すこと、疑うこと」など人間の根源的な物語であり、彼女にとっても “全ての音符と息が自分自身そのもの” だ」と言う 
 とにかく歌詞は全く理解不能のノルウェー語で意味は不明だが、全体的に流れるムードから北欧の世界を想像するに十分なノルウェーの大地や精神性を想起させる広がりのあるサウンドスケープ(歌と音で感ずる風景)として受け止めて十分な感動がある。 
 従って彼女の歌は、メロディを言葉で美しく歌う というより、発声からの質に重点があり、流れとか間とか響き空気感に重点が置かれている。

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 一つM6."My choicest hours"は、この中で唯一英語で歌われる異質の曲で、重要な1曲らしい。「スーフィー詩」を元にしていると・・・これはイスラム神秘主義(スーフィズム)の修行者であるスーフィーたちが、神との一体感や精神的な境地を表現するために詠んだ詩とのことで、「神への愛、現世への離脱、内面の浄化 」(富や権力、肉体的な欲望といった「被造物」への執着を捨て、精神的な探求に専念)。 禁欲的な修行を通じて、自己の内面を深く見つめ、神の光に触れる体験を歌い、そして「ファナー(神との合一・消滅)」といったテーマが中心とのこと。特にジャラールッディーン・ルーミーという人の作品が有名で、宗教を超えて世界中で愛されているらしい。ノルウェー民謡の流れからここに彼女の世界の合体=イスラム的精神性と北欧的静謐さの融合という世界に広がる。ここではシリア出身の歌手 Saleh Mahfoud との共演がある。
 そしてM8."Eg veit i himmerike ei borg"(希望と静かな確信)ピアノの響きと深遠なる美しさの歌が現れる。これが彼女の「私は知っている」という 静かな確信が前に出てきたところだ。
 M3. "Mitt Hjerte Alltid Vanker" 有名なノルウェーの賛美歌のようだ。彼女の彼女そのものの歌が聴ける。あたかも自己の存在を訴えているように聴こえるのが印象的。

 こんなところから、彼女の生き様としての北欧の静謐なる神秘性と世界的なスーフィズムとの一体性を描いていると感ずることが出来る。母国の伝統音楽に単なる民謡のカバーではなく、現代精神性をフォークの流れに呼び込み、イスラム神秘主義に及ぶ文化的な要素をも加味した北欧音楽の枠を超えた普遍性は、彼女のミュージック表現者としての深みと自己の精神性に頭の下がる思いだ。これを聴いて何かを感じて欲しいアルバム。

(評価)
□ 曲・歌・コンセプト 90/100
□ 録音        90/100
(試聴)



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2025年11月 6日 (木)

ケイコ・リー(李 敬子) Keiko Lee 「Sings Super Standards 3」

キャリアを生かした落ち着いた重厚さで深く訴えるところが見事

<Jazz>

Keiko Lee 「Sings Super Standards 3」
Sony Music Labels / JPN / SICJ-30179 / 2025

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  ケイコ・リー(V,  p)
  野力奏一(p)、岡沢章(b)、渡嘉敷祐一(d)
  高橋佑成(p)、吉田智(g)、岡部洋一(perc)

565199383_18548836921058w  日本のジャズ界をある意味牽引するヴォーカリスト ケイコ・リー(→)が今年10月末に、ソニーミュージックよりデビューして30周年と言う事のようだ。つまり年齢も還暦あたりと思うが、まさにベテランとなった。そしてその30周年記念アルバムと言う事のようだが、過去に好評だった「sings Super Standards」シリーズ第三弾ということで、第1作(↓左)の2002年から2作(↓右)が2012年、その後の13年ぶりの今年が第3作ということとなっての登場だ。
 今回は自己のオリジナル曲も交えて、名作にアプローチしている。これには長い間の仲間が共演しての作品となっているので、取り敢えず耳を傾けてみた次第である。
 リ-は在日韓国人三世での日本育ち(1965年生まれ)であって100%日本の文化で育った人だ。そしてデビューが1995年で自己のアルバムは20枚にも及ぼうとしているようだ。又スイングジャーナル 人気投票女性ヴォーカル部門で堂々9年連続の第1位に輝くジャズ・ヴォーカリストで、これから全国ライブが始まるという話になっている。

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(Tracklist)

① Blue Skies
      Words and Music by Irving Berlin Arranged by Soichi Noriki
② Light of Love
      Words by Donny Schwekendiek Music by Keiko Lee Arranged by Keiko Lee / Soichi Noriki / Akira Okazawa / Yuichi Togashiki
③ Love Me Tender
      Words and Music by Elvis Presley / Vesa Matson Arranged by Soichi Noriki
④ Gone Too Soon
  Words by Buz Kohan Music by Larry Grossman Arranged by Soichi Noriki
⑤ Body & Soul

  Words by Edward Heyman, Robert Sour and Frank Eyton Music by John Green Arranged by Yusei Takahashi
⑥ Bridges
      Words by Fernando Brant Music by Milton Nascimento Arranged by Keiko Lee / Satoshi Yoshida / Yoichi Okabe
⑦ New York City Serenade
      Words and Music by Burt Bacharach, Carole Bayer Sager, Christopher Cross & Peter Allen Arranged by Keiko Lee / Soichi Noriki / Akira Okazawa / Yuichi Togashiki
⑧ Lush Life
     Words and Music by Billy Strayhorn Arranged by Soichi Noriki
⑨ Calling You
     Words and Music by Bob Telson Arranged by Keiko Lee / Yusei Takahashi
⑩ Hey Jude
    Words and Music by John Lennon / Paul McCartney Arranged by Keiko Lee
⑪ The Rose
    Words & Music by Amanda McBroom Arranged by Keiko Lee

 ケイコ・リーは、ヴォーカルとピアノをこなすが、バンドメンバーは、長きに交流してきた野力奏一(p)、岡沢章(b)、渡嘉敷祐一(d)のトリオとの共演で、なかなか充実の演奏が展開されている。またその他、高橋佑成(p)、吉田智(gt)、岡部洋一(perc)と共演もあり色とりどりに作られたアルバムだ。

   いっやーーなかなか貫禄のパワーのある低音のハスキー・ヴォイス、アルバム・スタートをアカペラで始め、締めをアカペラで終わるという歌唱力を前面に出している。そして全11曲中、唯一のオリジナル曲M2."Light of Love"は、"愛に生き、愛を与えよう"というメッセージをしなやかに歌ったナンバーで、今回のアルバムの一つの流れの重要な曲として収録してあるようだ。そしてそれに続いてE.プレスリーのM3."Love Me Tender"が登場、大きな編曲なしでぐっと落ち着いて歌い上げる。
 M4."Gone Too Soon"は更にゆったりと静かな歌。 
 M5."Body & Soul"M6." Bridges"は、高橋ピアノ・トリオに変わり、これも又ゆったりとこころ静かな歌をしんみりと。M6.はギターとパーカッションのみで歌う。この流れは長年歌ってきた世界。
 M7."New York City Serenade"は、再び野力のピアノで、かっての若き頃の憧れのNYを希望に満ちた感覚を歌う。
 M8." Lush Life"は、野力ピアノとのデュオでしんみりと、実力のヴォーカル。
 M9."Calling You"は、カナダの実力派ホリー・コールの十八番の歌。 高橋佑成のシンセと共に見事に編曲してリ-の歌として歌い上げる力はさすが。
 M10." Hey Jude" メンバーでの合唱入りで歌う。このアルバム製作を祝っているようだ。
 M11."The Rose" 曲もさることながら歌詞の美しさでも有名なこの曲。展望のある力のある歌でしっかりと締めくくる。最後のアカペラが印象深い。

 なかなかキャリアの感じられる濃い演奏と歌、まだまだ彼女は声量もあり訴える力も大きい。ちゃらちゃらしたところがなく、重厚に静かに深く歌い込んで見事なアルバムとして仕上がっている。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌  88/100
□ 録音       88/100

(試聴)

 

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