キース・ジャレット Keith Jarrett 「New Vienna」
80歳記念盤はまさに円熟の境地・・・穏やかで美しい世界
<Jazz>
Keith Jarrett 「 New Vienna」
ECM2850 (CD/2LP)
Universal Music / JPN / UCCE-1217 / 2025 (CD)
Keith Jarrett : piano
July 2016, Goldener Saal, Musikverein, Vienna
(Tracklist)
Part I – Ⅸ (Keith Jarrett)
Somewhere Over The Rainbow (Harold Arlen, E.Y. Harburg)
2025年5月8日にキース・ジャレットは80歳を迎えたことを記念して、2016年のヨーロッパ5都市ピアノソロツアーから、7月9日ウィーン楽友協会(Wiener Musikverein)・黄金の間で録音されアルバム『New Vienna』が、この5月30日にリリースされた。キースは、2016年の欧米8都市ピアノソロツアーの後、2017年2月15日ニューヨーク・カーネギーホールでのソロコンサートを最後に活動を休止し、その後の病気などで今はニュージャージー州の自宅で穏やかに暮らしていると言われている。
キース・ジャレットは、私にとってはジャズの歴史でもある。かって1960年代、クラシック、ポピュラー、ロックが聴くミュージックの主流であった私が、フランスのジャック・ルーシェが「プレイ・バッハ」と称してピアノ・トリオでバツハの曲を演じたものに接して、ジャズの面白さと魅力を知らしめられ、その後はジャック・ルーシェのアルバムを聴き込む中で、一方キース・ジャレットに惚れ込み、私のジャズの歴史が始まったのであった。その後もジャズではデキシー・ランド・ジャズのビック・バンドものは全く受け入れなかったが、一方管ものもどちらかというと避けてきた。つまり好みはピアノ・トリオものを中心に現在に至っている。キースのピアノ・ソロの価値観は当時はそれほど感じなく、特に印象深いのは1970年代、Impulseからのリリースの『Death and The Flower(生と死の幻想)』(1974)には感動してのめり込んだ。あそこではマルチプレイヤーぶりも凄く、ピアノ、ソプラノサックス、OSIドラム、木管フルート、パーカッションなどのキースの多芸に圧倒もされるのだ。ロック界ではピンク・フロイドの頂点の『The Dark Side of The Moon』(1973)の後であり、キング・クリムゾン『Red』(1974)などプログレッシブ・ロツクの絶頂期、ジャズ界においても一つの挑戦が行われた時として、これらと全く別の流れではないと思っている。
又ピアノ・ソロという世界ではあの有名な名作『The Kőln Concert』(1975)が登場した。しかし私はそれはそれとして当時はむしろ1976年のECMからの『Stairecase』に惚れ込み、音の良さにも感動して何枚かのLPを買ったのが懐かしい。今もそのLPで聴いている。当時日本ライブも行われ、参加出来てソロを会場で聴くことが出来たりと印象深い。
1980年代にはECMからの『Chages』(1983),『Changeless』(1987)などがお気に入りだった。スタンダード・トリオが2000年に入ってまで続くんですね。その後はソロのリリースが多くなったんだが、キースとのリアルタイムの経過が実に懐かしいのである。
このようにキースは「私のジャズ愛好の歴史」そのものであって、いろいろと感慨深いのであるが、今回の2016年ソロツアーは、2月9日カーネギーホールに始まり、4月29日ロサンゼルス、5月2日サンフランシスコ、7月3日ブダペスト、6日ボルドー、9日ウィーン、12日ローマ、16日ミュンヘン。このツアーから『Budapest Concert』(ECM2700/01)、『Bordeaux Concert』(ECM2740)、『Munich 2016』(ECM2667/68)がすでにリリースされているので、ツアーから4作目のライヴ録音作品となる(なお、ウィーンでの「ライヴ録音もの」となると、1991年にウィーン国立歌劇場で録音された『Vienna Concert』(ECM1481)がリリースされているので、二作目という事になる)。そして 2016年までに、慢性疲労症候群後のキースのアプローチは、長編の自発的な構成から、より短く、個別の作品へと変化し、その為か確かにドラマチックさは少ないが、曲一つ一つにテーマが含蓄され味わい深くなっている。その姿が今彼の演奏から離れての日々を迎えることになった最後のソロ・ツアーを彼の80歳を祝いつつここに聴くと言うことであるのだ。
このアルバムでは9つの即興曲群が流れる。オープニングの"Part Ⅰ"は、冒頭の11分間の激しい嵐で、爽快であるが、かなり衝動的で、渦巻くような複雑な音の洪水だ。"Part Ⅱ"は、ぐっとスローに沈み込み暗い空の下の陰鬱な世界が流れる。"Part Ⅲ"は、低音が響き不穏・不吉な雰囲気を醸し出し、"Part Ⅳ"に入ると静かな穏やかな憧れの中で、春ののどけさをイメージさせ、美しい"Part Ⅴ"のセクションでは、有頂天の明るさは無く、やや暗めであるも、むしろ美しく、むしろ純粋な親しみのある、心を豊かにする世界のバラード。
"Part VI"は抽象的世界というか、聴くものに静かに考えさせる因子の鍵盤の音、"Part VII"は更に静かな優しさの世界。まさに美しさは最高潮に達する。"Part VIII"は、ここでブルースの基本に戻り気持ちの良い躍動の展開となる。"Part IX"は、昔からみせるちょっとカントリーぽい味で気持ちを楽しくする、キースの独特な音の美しさを聴かせつつ、生活の快適なリズム感を描く。彼自身も晴れやかであったのか、例の唸り声は入らない。
そして締めは、ある意味お決まりでもある"Somewhere Over The Rainbow"であるが、適度な哀愁感があって、なんと安定感のある平穏な世界であろうか、これぞ80歳の安らかさにふさわしい。
幸いに録音の方は、24-ビツト、48kHzで聴いているが、超優秀というものではないが、標準的レベルのもので、会場のホール感や響きも手ごろで雰囲気も良く聴きやすい。煩い拍手などはカツトされていて気持ちがいい。又よくこうゆうものを今まで温存していたと不思議には思うほどの万人受けしやすい演奏の内容であって、ちょっと不思議でもあった。
(評価)
□ 曲・演奏 90/100
□ 録音 88/100
(試聴)







































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