北欧ジャズ

2026年4月29日 (水)

ラ-シュ・ダニエルソン Lars Danielsson Liberetto 「 Echomyr」

美しいメロディ・アンサンブル音楽に心の内面を描く深層の音楽が・・・

<Jazz>

Lars Danielsson Liberetto 「Echomyr」
ACT MUSIC / Import / CD /ACT80412 / 2026

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Lars Danielsson : double bass, cello, gimbri (#10), piano (#10), electric guitar (#6),
Gregory Privat : piano,
John Parricelli : guitar,
Magnus Öström : drums & percussion,

Guests:
Arve Henriksen : trumpet on #3, 7,
Magnus Lindgren : flute & alto flute on #6,
Carolina Grinne : english horn on #8

音楽作曲:ラース・ダニエルソン
録音:2025年4月6日〜9日および10月28日〜31日

Larsdanielssonkontraw   スウェーデン出身のもはや重鎮ベーシスト、ラーシュ・ダニエルソンLars Danielsson(1958年生まれ、スエェーデン)による音楽ジャンルを広く見渡してのクラシック室内楽、ルーツの北欧と世界各地の民族音楽とを融合し、自らの音楽世界を構築するプロジェクト「Liberetto」の第5作(オーケストラ共演盤を抜いて)となる新作の登場。

 メンバーにはピアノにGregory Privat(↓左、 1,2作はティグラン、その後の3作から)、John Perricelli(g、↓左から二人目)、Magnus Öström(ds、↓左から三人目)を主体に、更にゲストを迎えての 曲によってトランペットやフルート、イングリッシュホルンのメンバーの集結。
 この「Liberetto」というバンド・プロジェクトは、2011年からで互いの信頼と友情に基づき構成されていて、その名は「libretto」(クラシック的構造)と「Liber」(自由=即興)のかけあわせた造語で、メロディー中心主義で室内楽的アンサンブルの尊重、国際色豊か(アルメニア、中東、アフリカと勿論北欧などの要素がある。民族楽器も登場)ということで、繊細で透明なサウンドやリズムの尊重、抒情を大切にといった世界感を持って演奏する。
 そんなことから「美」「知性」のバランス感覚がよいことや、ユーロの抒情性に評価がある。ダニエルソンのベーシストが主導する作曲の美しさはなによりも人気があり、ドラムスもリズム隊としての支えばかりでなく、曲の色・味にも貢献していて頼もしい。

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 さてこのアルバムもそんな中での久しぶりに2023年のオーケストラ版は別にすると5年ぶりとなり、期待して聴くことになるのだが、ある意味「Liberettoの到達点」的な存在ではないかと思いつつアプローチすることとなった。収録曲全曲ダニエルソンのオリジナルである。

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01 Pre 00:37
02 Allan 06:09
03 Supreme 06:51
04 Glòr 05:49
05 Sensitiva 04:38
06 Ascending 05:05
07 Himlen Över Dig 02:38
08 Echomyr 05:48
09 Presto 04:22
10 Something She Said 03:19

 先行シングルとして、M4,M8が抒情性を植え込んでいたが、それぞれの曲が、かなり特徴があるので詳しくみることとする。
 M1. "Pre"  チェロ、ベースによる短い導入曲。今作のイメージを植え付ける(?)。
 M2. "Allan" "孫への心"の明るい展開、ベース主導、中盤からピアノ、後半合奏でこのプロジェクトのお披露目。
 M3. "Supreme" ぐっと落ち着いて響くベース、至高の世界感、中盤からTpが入ってジャズ色が高まる。
 M4. "Glòr" ギターの民族的フォーク、トラッド様響き。光り輝き親しみやすいメロティー。
 M5. "Sensitiva" ダニエルソンのベースが前面 に出てのメロディーを演じての内省的世界。曲は私好みではある。ギターのサポートで進行し、ピアノの音が後半に美しさを放つが、ちょっと不完全燃焼(ギターとピアノ編成の難点か)。
 M6. "Ascending" フルートの参加で、ちょっと田舎のお祭り的、ここでのピアノは魅力無し。
 M7. "Himlen Över Dig" ギターの調べとミュートを効かせたトランペット再登場で、短く詩的な小品だが広く展開する広さが好感。
 M8. "Echomyr"(タイトル曲)メロディを主役に内省的でありながらプラス思考の動きが展開する不思議な曲。決して悲観的で無いところに好感が持てる。
 M9. "Presto" リズムカルにして多彩な技法のベース演奏が聴き処か、ピアノの軽快さも印象的。
 M10. "Something She Said" 最後に深く内省的になる。ダニエルソンがピアノ演奏してのギターとのデュオ。社会的背景(戦争の広がりなど)に反応しての思索的終曲、アルバムの締めくくりとして重要。

  私の好みであるところのTigran時代のようなピアノの美旋律による世界が後退しているのは、ちょっと寂しかった。時にフルート、トランペットなども加わり各種楽器が多くなって、アルバム自体の色が多彩と言うより統一感が無くなってしまっている。ただそのあたりはダニエルソンの音楽的狙いがありそうだが、まだ私には十分伝わってこなかったということなのかも知れない。ヨーロッパ古典音楽の構築性、北欧フォークの素朴な旋律、ジャズの即興性とグルーヴ感へのアプローチなとなど聴くポイントは多い。

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 さて「異質のM10の締めの曲」の意味づけに関心が引き寄せられる。つまり結論から言うと、アルバムとして築いてきた"美しい旋律の北欧的なローカル美"、そして"音楽のアンサンブルの調和"など、そうしたモノからある意味別の感覚の“心からの声”という印象なのである。しかしこれで締めるところにも大きな意味があろうと推測する。そこを見逃してはならない。
 ダニエルソンは、この曲について、明言はしていないようだが、近年の不安定な世界情勢(ウクライナ、中東情勢、ヨーロッパの現実、米国の姿勢)で感じた「無力感・不安・祈り・隔離」が作らせ演奏したものかと解釈するのだ。直接的な抗議や政治的メッセージではないというところが注目点で、曲のタイトルが「“Something She Said”(彼女が言った何か)」が又意味深なのだ。とても具体的な彼女とは思えない、つまり彼に伝わる事柄の脳裏に印象的な一つの象徴的存在なのだろうか?、とにかく聴く者に感じて欲しい世界感覚と自己の深い心を訴えたとしか思えない。

(評価)
□ 曲、演奏、コンセプト : 90/100
□ 録音           :   90/100


(試聴)
"Sensitiva"

*
"Something She said"

 

 

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2026年4月25日 (土)

ヨエル・リュサリデス JOEL LYSSARIDES 「LATE ON EARTH」

北欧の人間の内面に対峙した詩情豊かな耽美的世界をしっとりと演ずる北欧現代ジャズ

<Jazz>

JOEL LYSSARIDES 「LATE ON EARTH」
ACT MUSIC / Import / CD / ACT80212 / 2026

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Joel Lyssarides ヨエル・リュサリデス (piano except 04)
Niklas Fernqvist ニクラス・フェルンクヴィスト (bass)
Rasmus Blixt ラスムス・ブリクスト (drums except 04)

Recorded 07–08 July 2025 at Bauer Studios, Ludwigsburg
Recorded, mixed and mastered by Adrian von Ripka
Composed by Joel Lyssarides
Produced by Andreas Brandis
Photos by Andreas Brandis (Joel Lyssarides)

1900x1900000000w_20260425111901  スウェーデンの油の乗ってきた人気ピアニストのヨエル・リュサリデス(1992年スウェーデンのストックホルム生まれ)の、今回久々に不変のレギュラー・トリオにての最新アルバムの登場。前作はおそらくここで取り上げたのは2022年の『Stay Now』(ACT9942-2)だと思うが、4年ぶりになるだろうか、その間、E.S.T.がみで彼は一役買っている。そして2023年に『A Tribute To Esbjorn Svensson Trio』(ah23-196)をリリースしていて、又2024年にはViktoria Tolstoyのアルバム(『Stealing Moments』(ACT97472))などで、ピアノでサポートしている。私にとっては、注目のピアニストであり、いずれにしても彼の今回のリーダー作であるピアノ・トリオは大歓迎である。

 彼は、ヨーテボリやストックホルムでピアニスト&作編曲家として幅広く活動、近作群がいずれも高い評価を得てきた。そして今アルバムは、12曲収録で全曲彼のオリジナルである。そして長年のトリオ・パートナーであるニクラス・フェルンクヴィスト(ベース ↓左)とラスムス・ブリクスト(ドラム ↓右)と共に演奏が行われ、一層トリオとしての親密さとそれぞれの役割が充実してきているようである。

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(Tracklist)

01. Bortom Bergen 5:26
02. Mahabalipuram 4:39
03. Life In Between 4:49
04. In Itinere 1:55 (solo bass)
05. Sotira 4:56
06. Never Alone 5:54
07. Raqs Sharqi 4:57
08. Folie À Deux 3:47
09. Intermission 0:52
10. Anemoia 3:48
11. Follow The Night 3:17
12. Late On Earth 4:12
*composed by Joel Lyssarides

 これまで以上にパーソナルで感情の深淵に触れる世界に入っている。印象として北欧抒情派らしく北欧因子に満たされているが、フォーク、クラシック因子を感じさせる。しかし緩急巧みにこなして、時に入るダイナミックな攻めもみせてコンテンポラリーなジャズを展開。 そして澄み切ったピアノの音にも引き寄せられる。
 このアルバムの説明には、「自己内省と音楽的実験を繰り返して完成させた」とあって、内面的なところに迫っている雰囲気だ。そして早くも彼のキャリアにおける一つの到達点と言える内容との評価がある。そしてこのアルバムは、製作説明にあるように「完璧さを求めるのではなく、"不完全さが持つ人間味や面白さ"をあえて受け入れる」ことをテーマに制作したと言うことのようだ。
 そんな意味でも、これは夜に一人でじっくり聴くという世界にマッチしていることは事実だ。そうしたことにより、描かれているモノが見えてくると言う事かも知れない。

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M1. "Bortom bergen"「山の向こう側」の意味らしい。北欧らしい静かさの広大な風景を想起させる透明感の高いピアノのメロディーが聴かれる。このアルバムの叙情性を示すオープニング曲。
M2. "Mahabalipuram" インドの地名、複雑なリズム構造があって、リュサリデスの音楽的探究心がインド音楽に向かっているか。
M3. "Life in Between" 中間的というか曖昧と言うか精神状態や時間の流れの表現か、浮遊感のバラードで、彼の世界の表現か。
M4. "In itinere" (旅の途中で) ベース・ソロ、これもぐっと低音で、内省的。
M5. "Sotira" 「地中海的な色彩」が演じられるとの説明あり、温かさがあって魅力的。
M6. "Never Alone" ぐつと繊細に優しさが響くメロディ。たまらなく引き込まれる。感情表現が凄い。
M7. "Raqs Sharqi"「東方の踊り」の意味、リズミカルで躍動感。ちょっとエキゾチック。
M8. "Folie à deux" (共有された狂気)ピアノとリズム隊のインタープレイが聴きどころ。
M9. "Intermission"  繊細なピアノ・ソロ。気分転換。
M10. "Anemoia" ノスタルジックな気分にさせる。
M11. "Follow the Night"   夜の静寂、ちょっとダークだがロマンチックでもある。 
M12. "Late on Earth" アルバムを締めくくるタイトル曲。ゆったりとした中に不思議に安定感と希望が感じられる。

 私の好きだったE.S.T.の良さをちょっと思い起こすところも無いではないが、。以前よりも音の「間」をうまく使うような演奏と、透明感のあるピアノの響きには惹かれるところが十分にある。何故かインドが垣間見えたり民族的音楽メロディーにも立ち入ったり、三者の互いの呼吸がうまく乗ってきたのは、それだけの人生経験の積み重ねの賜とも言えそうだ。

 演奏スタイルが技巧いってんばりにならず、感情を訴えるに重きも寄せてきた「人間的な音楽」への道に入ってきたのも、むしろ芸術性から見ても音楽的評価が高まるかも知れない
 不完全な人間にとって、前向きな気持ちが誘導されるような優良作品にも聴けるし、今までの彼の人生の一つの総括と今後への展望でもあるのかとも聴ける。耽美哀愁プレイで、親しみやすさや芸術性があって感情の深さもありなかなかの素晴らしい作品であった。

(評価)
□ 曲・演奏・コンセプト :    90/100
□   録音         :    90/100

(試聴)

 

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2026年4月15日 (水)

サラ・アルデーン SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」

「人に内在する愛という自然」に期待しての社会へのメッセージ

<Contemporary Jazz>

SARA ALDÉN 「FORCE OF NATURE」
PROPHONE / IMPORT / CD / PCD395 / 2026

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Sara Aldén サラ・アルデーン (vocal)
Daniel Andersson Runevad ダニエル・アンデション・ルネヴァド (upright bass)
August Björn アウグスト・ビョーン (piano, pedal organ) (electric piano on 04) (maybe celeste? on 05)

*guests:
Hannes Bennich ハネス・ベニック (alto saxophone on 02)
Nils Landgren ニルス・ラングレン (trombone on 03) (maybe backing vocal on 03)
Michelle Willis ミシェル・ウィリス (vocal on 05) (female)
Alma Möller アルマ・ムラー (viola on 01, 02, 03, 08)

2025年 Studio Epidemin録音(スウェーデン-ヨーテポリにて)

Sara_alden_3trw  2024年の1stアルバム『There Is No Future』が好評だった、ヨーテボリを拠点に活動しているスウェーデンの女性歌手のサラ・アルデーンの2ndアルバムが登場。とにかく前作は、2025年スウェーデン・グラミー賞〈ジャズ・オブ・ジ・イヤー〉を受賞。2026年1月にスウェーデン大使館主催の公式パーティの歌手に選ばれ、賞賛を集めた。
 今作は編成的には、上記のようにダニエル・アンデション・ルネヴァド (B、↓左写真・左)とアウグスト・ビョーン (P、↓左写真・右)とのレギュラー・トリオを基軸に、H.ベニック(sax、↓右写真・中央)、M.ウィリス(Vo、↓右写真・左)、N・ラングレン(tb、↓右写真・右)他のゲスト陣も加わっての作品だ。

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  彼女に関しては昨年前作で知ったところが、如何にも個性豊かで社会的な世界にジャズによるアプローチを試みている特殊な存在として見てきたが、今作はそれらの三部作の第三作で一つの結論的アルバムで彼女の社会に於ける基本的な姿勢と個人の存在の意義に向けた作品として聴いてみるのが良さそうだ(従って収録10曲の内、1曲を除いて彼女のオリジナルで締められている)。そんな感覚で迫ってみることにより、何かがそこに感じられるモノがあるだろうと期待してのアプローチである。

(Tracklist)

01. World
02. The Rain
03. Lean On Me (feat. Nils Landgren)
04. You Taught Me
05. Unlearn (feat. Michelle Willis)
06. Come!
07. The Seed (solo piano?)
08. This Tree Once Used To Bloom (for Palestine)
09. Hands Full Of Love
10. In The End

 これは新作というより、やはり前作から続いての「一つのの到達点」と言えるモノなのかも知れない。
 前作のアルバム・デビュー作である『There Is No Future』は、そのタイトル通り「未来なんてものは無い」という聴き方によっては悲観的な"生と死についてのジャズ"とも言えるコンセプト・アルバムだった。自己の作詞作曲で「失望感」を歌い上げ問いかけていた。そしてスタンダード・ナンバーの"ミスティ","いつか王子様が","虹の彼方に","誰にも奪えぬこの想い"と、そして"この素晴らしき世界"で「期待」でプログラムを閉じていた。「失望と期待」の流れ、果たして彼女の狙いは「?」と、聴く者にある意味「謎」を残していたのだったが、・・・

Oar2w  さて、今作は極めて北欧のトラッドっぽいところから、フリーでインスト的世界に繋げ、スタンダードからは一切決別して彼女の世界を貫いている。コンテンポラリー・ジャズの極みだ。そして彼女の歌は、曲の「音」としての役割に重点が置かれているように聴くことが出来、そんな訳で日本的メロディーとは別世界、又聴き慣れたアメリカン・ジャズの匂いすら感じない独特な欧州即興詩的世界に没入させ訴えが迫ってくる。そこには敢えて声を潰した叫びがあったり、そうかというと透明感のある高音美声を聴かしたり、とにかく不思議な世界である。これぞ現代ユーロ・ジャズの最前線か(?)と、興味半分で聴くことになった。

 M1. "World" 難解だが、何か「世界」の流れのイメージが当アルバム表現の「再生」を歌う。
   M2. "The Rain" フリー・ジャズの展開、荒々しさと美のピアノ、即興と抑制からの反動爆発、サックスも荒々しく参加。
 M3. "Lean On Me" 不安を抒情的な曲で トロンボーン参加し不安と救いが交錯する抒情、現在に一つの方向性を詠うか。
 M4. "You Taught Me"内省的に・・・
 M5. "Unlearn" Michelle Willisとの美しいデュエット、「過去の学びからの脱却/自己更新」を歌う。
 M6. "Come!" 生きる高揚、軽快に。
 M7. "The Seed" 淀みの無いピアノ曲。安定感で次のフェーズに誘導。
 M8. "This Tree Once Used to Bloom (for Palestine)" 社会的・政治的メッセージ。パレチナへの展望的再生の思い。本作の主題が見える。
 M9. "Hands Full of Love" 愛をテーマにした温かみのある曲。現状に対峙しての一つの方向性を示唆。
 M10. "In the End" 短い曲、余韻と問いを残す。

 全編を聴くと、世界の分断、戦争、破壊からの激動、不安、怒り・・・から、再生の道への展望を求めることが主題であることが解る。社会問題に個人の問題と合わせ、ミュージックで迫った作品であることだ。そして前作と繋げてその芸術性ばかりでなく社会性に注目して聴くことに意味がありそうだ。タイトルの「Natureの力」の意味は、 人間の内側にある“自然な力”に目を向けているようだ、それは思いやる心、共感、連携などの「力(ちから)」であって「"世界を変革する大きな力"でなく、"人間に内在している人が人に向ける<自然な優しさ>"という(小さな力であっても)それこそが希望である」と。

(評価)
□ 曲・歌 :    88/100
□   録音  :    88/100

(試聴)

 

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2026年4月10日 (金)

ウラジミール・シャフラノフ・トリオ VLADIMIR SHAFRANOV TRIO 「 SOUL EYES」

「成熟したジャズの美」と評される世界 

<Jazz>

VLADIMIR SHAFRANOV TRIO 「 SOUL EYES 〜relaxin' moods」
Venus Records / JPN / SACD / VHGD-10026 / 2026

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ウラジーミル・シャフラノフ Vladimir Shafranov (piano)
ハンス・バッケンルート Hans Backenroth (bass except 7)
ムッサ・ファデラ Moussa Fadera (drums except 7)

Vladimir20shafranovw     かって澤野工房の関係で何となく聴いてきたウラジミール・シャフラノフVLADIMIR SHAFRANOV(1948年レニングラード生まれ →)であるが、アルバム・リリースの45年以上になるそのキャリアから、近年は日本のVenus Recordsからのリリースとなり、おそらく2年ぶりとなる アルバム『SOUL EYES』がリリースされた。
   彼はロシア出身でフィンランドを拠点に活動するピアニスト、なんとなくベースに北欧らしい世界感を持ちつつ、ニューヨーク仕込みのスウィング感を併せ持っていての聴きやすさの演奏で日本でも愛されてきた。4歳の時にリムスキー・コルサコフ音楽院でピアノとバイオリンを始め、1973年にイスラエルに移住。数年後、彼はヘルシンキに移り、1980年からフィンランド国籍を取得している。又1983年から15年間はニュー・ヨークでのジャズ音楽活動という経歴もある。

   本作は、スウェーデンでの録音によるトリオ作品で、スウェーデンのベースにハンス・バッケンロス(↓左)、ドラムにムッサ・ファデラ(↓右)を迎えた中堅安定の布陣。リラックスしたムードを重視した演奏で、内容はほぼスタンダード中心で、全体に派手さは押さえていて、意外に私の期待の北欧色はあまりなく、むしろニュー・ヨーク正統派バップ路線で気楽に聴きやすいので取り上げた。 

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(Tracklist)

1. ビューティフル・ラヴ Beautiful Love (V. Young, W. King, E. Van Alstne) 6:41
2. ジャンゴ Django (J. Lewis) 6:17
3. ソウル・アイズ Soul Eyes (M. Waldron) 6:43
4. テルヌーラ・アンティグア Ternura Antigua (R. Carlos) 4:18
5. この素晴らしき世界 What A Wonderful World (G. Douglas) 4:19
6. ユーヴ・チェンジド You've Changed (C. Fischer) 7:22
7. ラッシュ・ライフ Lush Life (B. Strayhorn) 5:17 (solo piano)
8. トゥ・レイト・ナウ Too Late Now (B. Lane) 7:56
9. アウト・オブ・ザ・パスト Out Of The Past (B. Golson) 5:01

 これは派手さよりも歌心を持っての演奏で、新しい試みで迫るというのでなく、優しくジャズでくるんでくれるという夜のリスニング向きとも言える。まあピアニストの円熟した演奏のプレゼントと言ったところか。

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 M1."Beautiful Love" スタンダードの名曲、刺激の無いタッチの歌うような世界。このアルバムの目的を示す導入演奏。ジャズの見本的な世界。
 M2." Django" John Lewis の名曲、ちょっと陰影の感じられる演奏で欧州的。
 M3."Soul Eyes" 深く内省的な世界に浸る。アルバム前半では焦点になる演奏で、何回か聴き込みたい味を感ずる。
   M4."Ternura Antigua" ちょっとラテン色のある雰囲気で軽やかで暖かく明るめに戻す曲。
 M5."What A Wonderful World" 誰でも知っている有名スタンダード。むしろ叙情性をあまり強調しないところの美しさだ。
 M6." You've Changed" バラードの名曲。アルバム後半に入ってぐっと落ち着かせる流れ、ベースも詠ってくれるジャズ・バラードの美をじっくりと。
 M7."Lush Life" ここにきて、トリオのジャズ・テクニックの高さをお披露目。
 M8."Too Late Now" どこかお話を語っているようなピアノ・トリオそのものの演奏
 M9."Out Of The Past" 締めに相応しく軽妙でブルージーで落ち着いたまとまり感。

 究極、ピアノの歌い上げる聴く者を楽しませるメロディー重視の演奏で、北欧の静謐感のコンテンポラリー・ジャズとは全く別で、むしろバップよりのニューヨーク・ジャズを優しく聴かせてくれたという処だ。ただ欧州的な深層心理を探るところもあるが、むしろちょっとした気休めには良いアルバム。ある意味ジャズに達感すらした世界という風にも聴きとれる。
 もうちょっとベース、ドラムスが出てきても良いかなぁーと思うほど両者は優しく支えてくれている。これも一つのパターンとして完成している演奏だ。確かにある評に見る「成熟したジャズの美」といった世界というところで、誰にもお勧めの及第点アルバム。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    88/100
□   録音       :    88/100

(試聴)

 

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2026年3月17日 (火)

カーステン・ダール、リューベン・ロジャーズ、グレゴリー・ハッチンソン Carsten Dahl, Reuben Rogers, Gregory Hutchinson 「 Into the Storm - Live」

ピアノトリオとは何か、そして醍醐味は?・・・北欧とアメリカのジャズの融合は?
スタンダードを使ったフリージャズの実験

<Contemporary Jazz>

Carsten Dahl, Reuben Rogers, Gregory Hutchinson 「 Into the Storm - Live」
Storyville Records / Import / CD / B0GJFK7N29 / 2026

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Carsten Dahl - piano
Reuben Rogers - bass
Gregory Hutchinson - drums
2013年1月31日、ジャズハウス・モンマルトル(コペンハーゲン/ライヴ)

 現代ジャズの一つの重要な位置を占めているピアノ・トリオ。そして歴史的には私はBill Evans ,  Ahmad Jamal , Keath Jarrett にどうしても注目してしまうのだが、そんな流れを十二分に理解しつつ北欧の美学を追究しつつアメリカン・ジャズの流れを尊重しピアノ・トリオを探求しつつあるデンマークのピアニストのカーステン・ダールCarsten Dahl(1967- ↓左)の2013年に行われた奇跡的トリオのライブ音源が、何とここに来てリリースされたのである。
 つまり嬉しい事に、アメリカのリズム・セクションとしてリューベン・ロジャーズ(Bass ↓中央)、グレゴリー・ハッチンソン(Drums ↓右)を迎えてのダールの2013年コペンハーゲン、冬の夜の奇跡が、名門ジャズハウス・モンマルトルで録音され、そのスリリングなピアノ・トリオによる白熱のライヴ音源が登場した。

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(Tracklist)

1. Minoring Together (Carsten Dahl)
2. Body and Soul (Johnny Green)
3. Open Interlude / Giant Steps (Carsten Dahl / John Coltrane)
4. Sweets to the Sweet (Hugo Rasmussen)
5. Blame It On My Youth (Oscar Levant)
6. Caravan (Juan Tizol, Duke Ellington)
7. You Stepped Out of a Dream (Nacio Herb Brown)
8. Speak (Carsten Dahl)
9. The End of a Beautiful Friendship (Donald Kahn)

 

(収録曲考察)
 M1. "Minoring Together" Dahlのオリジナル。最初からフリー展開。冒頭を飾るこの曲は、どうもトリオの準備運動とかトリオの質の公開。Dahlのリズミカルなピアノが、Hutchinsonの繊細とも言えるシンバルワークとがシンクロして響く。
 M2. "Body and Soul"  バラード。ルバートで描く詩的で陰影の強いピアノとベースの旋律演奏が繋ぐ。
   M.3. "Open Interlude / Giant Steps" このアルバムの最大の聴きどころ。即興の「Open Interlude」の後に、コルトレーンのなかなか難しい曲"Giant Steps"を敢えて演奏。フリー演奏から急速なコードに突入するスリリングな展開に痺れ、難解が難解でなく誘導。このトリオの本質展開。Hutchinsonのドラミングが炸裂。
 M4. "Sweets to the Sweet" 一休み的遊び心が楽しい。北欧ジャズらしいピアノと、アメリカ的リズム隊による交錯のスイング感が見事にブレンドして気持ちよく進行、ベースの乗りも良く会場も乗っている。
 M5. "Blame It On My Youth" ぐっとロマンティックなバラード。Dahlのぐっと落ち着いた静かさのピアノの繊細そのものの「間」が見事。そしてRogersが歌うようなベースラインを重ねる様は、ライブならではの世界。
   M6. "Caravan" 私の好きな曲の登場。快調・快速テンポ演奏。ドラムの爆発力が特徴。エリントンの曲をこのトリオはアグレッシブに分解・再構築。中盤からのHutchinsonの真骨頂である変調リズミックな技が光り、続くピアノの快進撃は見事。
 M7. " You Stepped Out of a Dream" 約9分の長曲。トリオのインタープレイの聴き処満載。スタンダードを次第に組上げてゆく過程がジャズ心を満足させる。ピアノがリードし3人共に反応、それぞれのソロの受け渡しが快調で聴く方の満足感が大きい。
 M8. "Speak" 47秒の短い小品。次の最終曲への導入か。
   M9. "The End of a Beautiful Friendship" エンディングを飾るなんとなく切なくなるが、どこか温かいスタンダード。ライブの終焉を惜しむ穏やかなピアノとベースの響き。

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 まさに「ピアノ・トリオの醍醐味」を凝縮した一枚。さすが現代ジャズの最高峰が顔をそろえるとこうなるんですね。個人の演奏が上手いというところよりは、外れて外れない調和のそれぞれの立ち位置のスリルが楽しい。特に「ハッチンソンのドラムがピアノを煽り、それにロジャーズが重厚な安定感を与えることで、ダールのリリシズムがより一層際立っています」という評価を見るが、まさにそこがピアノ・トリオの真髄であって、これもかってビル・エヴァンスが、彼の美旋律にあきたらず、トリオという世界に三者の対話型を求めた大きなポイントが結実しているように思う。そして、更にAmad Jamalのリズムを停止と間と無音空間などの劇的展開。そして更にKeith Jarrettのライブの花形即興型の味と、揃えにそろえたジャズ美学。
 いまや、そのピアノ・トリオ・ジャズの真髄を探求するカーステン・ダールの北欧抒情美学と、Jarrettを超える荒々しさの加味した即興の緊張感、トリオの味わいある相互作用など、一つの世界に止まらないとみころがこのライブに展開しているところが聴き処だ。今このライブをアルバムとしてリリースしたということの意味は果たして何処にあったかは別にして、私にとってはピアノ・トリオのに対するカーステン・ダールの一つの回答として受け止めた次第である。まだ早いが、お見事な一枚で今年No.1になりそうだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 : 95/100
□ 録音        : 88/100

(試聴)

 

 

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2026年2月18日 (水)

カーステン・ダール GinmanBlachmanDahl「Play Ballads」

バラードというトリックでのスタンダード曲の老獪な新解釈

<Jazz>

GinmanBlachmanDahl「Play Ballads」
Storyville Records / Import / LP / 6014365 / 2025

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Carsten Dahl (piano)
Lennart Ginman (bass)
Thomas Blachman (drums)

録音:2024年4月24日-25日、MillFactory Studio(コペンハーゲン、デンマーク)

  デンマークの熟年期に入った3人のピアニストのカーステン・ダールCarsten Dahl(1967- ↓左)、ベーシストのレナート・ギンマンLennart Ginman(1960- ↓中央)、そしてドラマーのトーマス・ブラッハマンThomas Blachman(1963- ↓右)か​​らなる2005年からの名門ジャズ・トリオ : "ギンマン・ブラッハマン・ダール"の新作である。これは「バラード演奏」と銘打ってはいるが、なかなか単純ではない彼ら特有のスロー・テンポにこだわったスタイルで演奏された15曲のジャズ・スタンダード曲集。

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 2005年の「来日ツアー」では、結構好意的に受け止められ、本国デンマークに於いても、各種メディアからも、こうしたタイプは結構歓迎されているようだ。取り敢えず経験豊富な中での表現の繊細さや演奏の落ち着きが高く評価されたという事だと思う。
 冒険的・実験的な演奏に評価が集まる今日だが、このトリオの熟練した演奏とジャズ界でのクラシックな楽曲に対して意外に新鮮な展開で、とにかく丁寧な対応と表現が歓迎されたようだ。

 (Tracklist)

01. Angel Eyes
02. Gone With the Wind
03. Autumn in New York
04. But Beautiful
05. Take the ‘A’ Train
06. Chelsea Bridge
07. Blue Monk
08. Here’s That Rainy Day
09. Work Song
10. There Is No Greater Love
11. C Jam Blues
12. Don’t Go To Strangers
13. Satin Doll
14. Come Sunday
15. Things Ain’t What They Used to Be

   各曲は、おそらく意図的だと思うが、とにかくスローテンポで対応して、それによってメロディーの繊細な美しさと曲の描く世界の深みと彼ら自身をも探求するかの演奏だ。特にダールのピアノは繊細で一音一音の響きを大切にしている感のあるタッチで、当初思ったよりは即興因子も少なくはないのだが、基本的にはおとなしい流れでリードしている。そしてギンマンのベースとブラクマンのドラムはやはり意識的な控えめな対応だが、それでもやはり曲の展開にはなくてはならないリズム隊の役割を十二分に果たしている。
 
 私の以前からの印象としてダールというピアニストの印象は、このアルバムとはちょっと違うんですね。勿論北欧としての深遠なる詩情を描く点は素晴らしいのだが、それに加えて即興的因子を大切にしつつ、自由で抽象的・フリー寄りになり、単に安全運転だけでなく前衛的にもなることもあってその展開にはある意味でのジャズとしての面白みを感じてきた。しかし、このアルバムではその点が抑制されていて、ちらっとその面が見えたかと思っても、ぐっと押さえられてしまう。それは彼の意志なのか、このトリオの他の二人とのバランス的感覚でのことなのか、若干残念にも思いつつ、いやこのアルバムはそうした狙いではないところに目的があると、判断すべきなのか・・・実はこれはこれ悪くはないのだが、そんなことを少し疑問に思いつつ聴いたのである。

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 M1. "Angel Eyes" ちょっと暗めなイントロから始まる。音の間(ま)を活かした静謐な演奏。原曲の哀愁がより内省的な方向に誘導されて、ピアノのフレーズの繰り返しが心に響いてくる。
 M2. "Gone With the Wind" (風と共に去りぬ)しっとりとした哀愁を誘うアレンジで、緩やかなテンポが余韻をうみ深く深淵に。
 M3. "Autumn in New York"(ニューヨークの秋) ベースのメロディとピアノのアレンジが、都市の夕暮れを情緒豊かに描き格調高い。
 M4. "But Beautiful" 「美しさ」がテーマ。豊かなハーモニーの展開が印象的。
 M5. "Take the ’A’ Train" (A列車で行こう) ドラムスがかなりのインパクトを示し、ぐっとテンポを落としての表現に驚き。
 M6." Chelsea Bridge" じっくりと暗さが襲ってくる。どこか緊張感を誘導。
 M7. "Blue Monk" モンクの曲、ブルースの要素を優しくしっとりとした展開で。
 M8. "Here’s That Rainy Day" どこか憂いを帯びたバラード。ピアノとリズムのながれで雨の日の情景が浮かんでくる。
 M9. "Work Song" ゆったりしてはいるが、ピアノとドラムスのパワーのある訴えが響く。このあたりは単なるバラードとは捉えられない。
   M10. "There’s No Greater Love" ベースがリズムを刻み、内面から湧き上がるピアノ、ドラムスの感情的訴え。後半に来てようやくダールの単純でない音楽世界が明快になってくる。
 M11."C Jam Blues" エリントンに敬意を表しつつ、ゆっくりとしたブルースで、従来とは別感覚に。彼らトリオの楽しさも伝わってくる。
 M12. "Don’t Go to Strangers" / M13. "Satin Doll" 緩やかなテンポで、トリオのジャズ・アンサンブルを聴かせる。
 M14. "Come Sunday" アルバム終わりに近く、祈りの日、静けさの心を、老獪だ。
 M15. "Things Ain’t What They Used to Be" しっかり展望がきかれる納めの曲。

 なかなか、老獪な展開を聴かせるアルバムだ。スローに徹してここまで変化を聴かせる技には恐れ入る(M9.M10あたりに頂点を築く)。ゆったりとしたテンポと丁寧な表現によって、スタンダード曲の別の面を見せつけられたようなアルバムだ。演奏技術の高さだけでなく、ただ演奏だけしてきたのではない曲に描くモノをじっくりと三人の人生経験を盛り込んだ協調関係で描くところは、なかなか得がたいモノがあるアルバムだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    90/100
□   録音       :    90/100

(試聴)

 

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2026年2月 7日 (土)

ヴィクトリア・トルストイ VIKTORIA TOLSTOY & JACOB KARLZON 「WHO WE ARE」

抒情派ジャズ・ヴォーカルが描くジャズを超えたロマンティック・ドリミーな世界

<Jazz>

VIKTORIA TOLSTOY & JACOB KARLZON 「 WHO WE ARE」
Act Music / Import / CD / ACT80382 / 2026

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Viktoria Tolstoy ヴィクトリア・トルストイ (vocal)
Jacob Karlzon ヤコブ・カールソン (piano, keyboard, programming)

2025年8月25日-26日スウェーデン-ストックホルムのMusikaliska Kvarteret録音

Ab6761610000e5eba1379e52cf2d011de5af7b76  スウェーデンで活躍するロシア系人気歌姫:ヴィクトリア・トルストイ(1974年スウェーデン・マーシュタ生まれ)の登場である(前回はここでアルバム『Stealing Moments』(ACT97472)を2024年に取り上げている)。
 ここに彼女と30年という長年共演してきた敏腕ピアニスト:ヤコブ・カールソン(1970年スウェーデン・ヨンショーピング市生まれ)との名コンビによるデュオ作品が完成した。
 カールソンはピアノの他キーボードやプログラミングも並行してこなし、作曲も主として彼の手による世界で、今回はトルストイは、彼女独得のソウルフルな歌を彼の描く世界に協調するスタイルでのアルバムとみた。オリジナル以外は、ビリー・ジョエル、トリ・アモス、トム・ヨークの曲を独特な解釈をして、カールソンの曲群に調和を取っている。
 結果は、彼女の抒情派ジャズ・ヴォーカルがロマンティックでドリミーな世界を構築していて、ジャズ・ヴォーカル・アルバムとしては若干異色の作品の感はある。

(Tracklist)

01. Satellites (Jacob Karlzon) 5:02
02. Who We Are (Karlzon) 6:05
03. And So It Goes (Billy Joel) 3:54
04. Cloud On My Tongue (Tori Amos) 4:33
05. The Great Escape (Karlzon) 5:09
06. Off-White (Karlzon) 7:30
07. Trigger Warning (Karlzon) 5:50
08. Stay (Karlzon) 5:28
09. Fallen Empire (Karlzon) 5:41
10. Let There Be Love (Karlzon) 5:40
11. True Love Waits (Radiohead) 4:26

 やはり彼女の世界らしく、所謂ジャズ・アルバムと一口に言えない世界を作り上げていて、歌の世界は情緒的な語りかけのような優しさに包まれたような表現が特徴的である。そしてメロウ・テンダーといった表現が当たっているかと思うが、ジヤズの世界としては明らかに異色と言って良い。それは曲が漂うように進むため、印象的なインパクトのあるテーマが叩き付けてこない。そうゆうところが良いという面と印象的は迫力不足という面との両極があってなかなか評価も難しい。そしてその難しさが訴えてくるところに聴いたものだけが知る世界が存在している。

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 M1. "Satellites" オープニングだが、トルストイの優しげなしっとりとしたヴォーカルとちょっと異空間的に誘うサウンドでエレクトロとピアノが交差する導入曲。浮遊感が漂う。
 M2. "Who We Are" アルバム・タイトル曲。深いムードに入る。歌とピアノが対話しているようだ。終盤に躍動感と広大な世界を描く。
 M3. "And So It Goes" Billy Joel の名曲のカバー、アカペラで入ってしっとりと歌う、ピアノが支える。優しさが流れる。後半ピアノの美旋律。 なかなか味な仕上げ。 
 M4. "Cloud on My Tongue"  Tori Amos カバー、ピアノの美フレーズと上品さのある歌が見事に交錯と協調し物語が展開。
 M5. "The Great Escape"自由や解放の感覚をテーマにしていると、珍しく躍動感が。
 M6. "Off-White" ピアノと優しい歌が美しく、再び瞑想的でジャジーとは別世界。
 M7. "Trigger Warning" リズミカルに進行、ここではちょっと面白い展開。
 M8. "Stay" 留まることへの想い、しっとり深い叙情性。この世界がこのアルバムの訴えどころ。歌と低音のピアノのハーモニーが美。
   M9. "Fallen Empire" タイトルの示すところが難しいが、時代の流れのドラマチックな様相が伝わってくる。
 M10. "Let There Be Love" 愛を肯定的に語っている。歌とピアノの対話がバラードの美の極致で見事。
 M11. "True Love Waits" Radioheadのカバー、なかなか静謐にアレンジ。トルストイの声がタイトルの「待つことの真実」を心に響かせる。

  ピアノ、キーボード、プログラミングで描くカールソンの世界の多彩性が見事に結実しているが、ただ私としては、エレクトロなサウンドには若干の抵抗もないではない。しかしトルストイのヴォーカルが見事に語り、歌い、説得し、納得を描く。そしてジャズ的に崩すと言うところはあまりなく、エレガントな真摯な歌唱は好感が持てる。
 全体的には、ちょっとジャズ世界としてはコンテンポラリーで稀有な存在だが、こうした世界で心を宿わせるアルバムもあってよいのだろう。これは二人で長年築いてきたものがないと作れないアルバムだと思う。いっやージャズというものの守備範囲は広い。

(評価)
□ 作曲・演奏・編曲・歌  90/100
□ 録音          88/100

(試聴)

 

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2026年1月22日 (木)

ソレン・ヘベ Søren Bebe Trio 「 Gratitude」

「感謝」の心を、聴きやすい叙情的な曲展開で・・ユーロ叙情派ピアノ・トリオの面目躍如

<contemporary Jazz> 

Søren Bebe Trio 「 Gratitude」
FROM OUT HERE MUSIC / IMPORT / CD / FOHMCD026 / 2025

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Søren Bebe (piano)
Kasper Tagel (bass)
Knut Finsrud (drums)

Recorded on 4&5 April 2025 by Augast Wanngen at The V-Recording, Denmark 

Unnamedw_20260122111001  前回に続いて、私の注目のデンマークの人気中堅抒情派ピアニスト:ソレン・ベベ (サン・ビービー、1975年デンマークのオーデンセ=Odense生まれ、Aarhs王立音楽アカデミー2004年卒 →)の今回はニュー・アルバムを取り上げる。レギュラー・トリオによる、コンピレーション・アルバムの前作『First Song』(FOHMCD024)に続く通算9作目の最新アルバム。(リリースは2025年)

 この作品も、「北欧ジャズらしい静謐さ・内省的な美が基調にあって余韻を大切にする空間的な演奏が中心」と評価は高い。もともとの聴きやすいメロディラインは、彼特有のエレガントな雰囲気で生まれる叙情的な世界にあるので、なんとも気持ちが良い。このトリオは2007年結成で、既にそれなりの歴史を積み上げてきているので、難しいことなく三者の一体感が捉えられていて、スムーズなトリオ演奏が出来ている。

 説明では、このアルバムはタイトルが「感謝」であり、「感謝、繋がり、そして人生の静かなひとときの美しさを深くパーソナルに反映した作品」と説明されている。つまり「ファンへの感謝としての贈り物的なもの」とソレンは説明している。
 このトリオ、今や世界各地だライブ活動が成功していて、彼のそんな親密感ある感謝の言葉なのかもしれない。

(Tracklist)

1. Frostblad
2. Good Enough
3. Tystrup Sø
4. A Much Simpler Song
5. And So It Goes
6. Silent Listener
7. Chico
8. Throw It Away
9. Gratitude

 「感謝」というその誠実名気持ちがアルバムの9曲に貫かれ、そしてソレン自身のオリジナル曲7曲と、トリビュートとしてのビリー・ジョエルのM5."And So It Goes"は、原曲の静かさを特にアレンジすることなく繊細に演じ、アビー・リンカーンのM8."Throw It Away"も、ソレンが初期から影響を受けたジョン・スコフィールドへのオマージュということで、ちょっと控えめで情緒ある演奏とアレンジで好評。
  そして彼自身の曲M3."Tystrup Sø"(デンマークのソーレと言うところにあるソレンの故郷近くの湖にちなんで名付けられた)にみる内省的な曲と不思議にうまく調和していて、アルバムとしての完成度も高い。シンバル音がゆたりした曲のメリハリとなっている。

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 オープニングのM1."Frostblad"は、静かな自然の姿、北欧の風景を想像させる。
 M2."Good Enough" 落ち着いた世界、想いの深さの余韻が好感。
 M4."A Much Simpler Song" ここでちょっと軽やかに。
 M6."Silent Listener" タイトルの通り、静けさを"聴く"ことをテーマにしたピアノトリオ曲。アンビエント的空間の美。
 M7." Chico" アルバムにメリハリをつける軽快・リズム感の曲。
 M8."Throw It Away" スタンダート曲、メロディーを演ずるピアノを主として、ここではベース、ドラムスは支え役。
 M9."Gratitude"タイトル曲であり、アルバムのテーマを最後に表現して纏め上げる。やはり「感謝の気持ち」が余韻を残して伝わってきた。素晴らしい。

 今回も心休まる世界の中でのメロディの美しさと静謐な空間を大切にした繊細極まりない表現が見事。ちょっと内省的なところもあるが、なんといっても聴きやすさが彼らの演ずるトリオとしての展開の世界で、所謂派手なところは無いが、なんとなく心に響いてくるところが評価ポイント。
 尚、録音もなかなか良いレベルにあることを付け加える。

(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音   : 90/100

(試聴)

 

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2026年1月17日 (土)

ソレン・ベベ (サン・ビービー) Søren Bebe Trio 「First Song」

哀愁・美旋律・叙情的アルバム -- 過去のシングル・デジタル・リリースを集めて一枚に

<Contemporary Jazz>

Søren Bebe Trio「First Song」
FROM OUT HERE MUSIC / IMPORT(EU) /  CD / FOHMCD024 /  2023

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Søren Bebe : piano
Kasper Tagel : bass
Anders Mogensen : drums(Track1,2,3,5,8,9)
Knut Finsrud : drums(Track 4,6,7,10)

8b883c41c7507fc6f03w ソレン・ベベ(サン・ビービーSøren Bebe →)はデンマーク出身(1975年生まれ)の注目ピアニストだ。彼については過去にここで数枚のアルバムを取り上げているが、日本初お目見えは2010年の2ndアルバム『From Out Here』で、それ以来私はファンと言って良い。
 今回のこの8枚目のアルバムは、 2023年リリースのトリオ初のコンピレーション・アルバム で、過去約9年間に作られたデジタル・シングル10曲をまとめたもの。CDやアナログ盤で聴けるのはこれが初だ。ここにきてCDを入手したので取り上げる事とした。

  彼はヨーロッパのジャズおよび現代音楽シーンを代表するピアニストと言われていて、スカンジナビアでは人気のトルド・グスタフセンや故エスビョルン・スヴェンソンとよく比較もされる。8歳で初めてピアノのレッスン受け、2004年、著名なスウェーデンのジャズピアニスト、ラース・ヤンソンらに7年間師事した後、オーフス(デンマーク)の王立音楽アカデミーを卒業し、卓越したソリストのための音楽の上級大学院ディプロマを取得したという経歴だ。そして2007年にトリオを結成し、その後9枚のアルバムをリリースして、世界中で多くのコンサートをしてきている。(この後9作目のアルバム『Gratitude』(FOHMCD026, 2025)が昨年リリースされ(↓)、ここに日本にて一般輸入販売・・・次回紹介予定)

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 いずれにしてもソレン・ベベの音楽的視野は、大御所アメリカや近年盛んなヨーロッパのジャズのジャンルの境界にとどまらず、クラシック、ロック、ポップ、フォークにまでに及んでいて、彼に影響を与えた人物を尋ねると、名前はオスカー・ピーターソン、キース・ジャレット、そして最近ではアーロン・パークスが挙がるようだ。彼のトリオのミュージシャン、クヌート・フィンスルード(d ↓左)とカスパー・タゲル(b ↓右)は、どちらもスカンジナビアでは実力と人気のミュージシャンで、ベベのピアノ演奏にぴったりの世界を構築してくれる。本作前の最新作は7作目『Here Now』(2023)であった。

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 とにかく「ベベは、エロール・ガーナーやビル・エヴァンスからキース・ジャレットに至る叙情的ピアニストの伝統に属している」との評価はその通りだと、それは私好みの世界に入るのである。

(Tracklist)

1 First Song (Charlie Haden)
2 Echoes II (Kasper Tagel)
3 Be Still (Søren Bebe / Kasper Tagel / Anders Mogensen)
4 Breathe (Søren Bebe)
5 Pavane for a Dead Princess (Maurice Ravel)
6 Evening Song (Søren Bebe)
7 Deer Spirit (Søren Bebe)
8 Song for Alberte (Søren Bebe)
9 Ennio (Søren Bebe)
10 Elegy for an Angel (Søren Bebe)               ()内 作曲者

◇トラック1,8 = 2015年11月にデンマーク・コペンハーゲンのMillFactory(担当:Boe Larsen) で録音、ミキシングとマスタリングはヤン・エリック・コングスハウグ(Rainbow Studioにて)。

◇トラック2,3,5,9 =  2019年1月、デンマーク・コペンハーゲンのThe V-Recording(担当:Thomas Vang)で録音、 ミックス&マスタリングはジョン・フォムスゴー(Karmacrewにて)。

◇トラック4,6,7,10 = 2023年4月 コペンハーゲンのThe V-Recording(担当トーマス・ヴァンデンマーク)で録音、ミックス:オーガスト・ワンングレン(Virkelighedenにて)、マスタリング:ジョン・フォムスゴー(Karmacrewにて)

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 北欧ジャズらしい 叙情的・メロディアスな現代ジャズ が特徴で、暖かく繊細なサウンドが中心です。過去のシングル曲を中心に構成されており、ソロやトリオならではの即興とアンサンブルが楽しめます。

 M1. "First Song" (Charlie Haden)  チャーリー・ヘイデンの名曲で、トリオはアルバム冒頭で敬意を込めた演奏を広げる。穏やかに静かに心休まる世界。
   M2. "Echoes II" (Kasper Tagel) トリオのそれぞれの楽器の存在が適当に現れ対話してリズミックな展開。
 M3. "Be Still" (Bebe/Tagel/Mogensen) いっやー、静かさの表現が、トリオとしてお互いに響き合い素晴らしい空気感。
   M4. "Breathe" (Søren Bebe) ピアノの流れがクラシック的、繊細なピアノが美しい。
 M5. "Pavane for a Dead Princess" (Maurice Ravel) ラヴェル(クラシック)の名曲をジャズ・トリオで再構築。ベースとドラムスがかなりお上品にピアノを支える。
 M6. "Evening Song" (Søren Bebe) 一日の終わりのシーンを、ピアノの優しいフレーズが描く。
 M7. "Deer Spirit" (Søren Bebe) べべらしい情感の深まりを演ずる。
 M8. "Song for Alberte" (Søren Bebe) ピアノがバラードで歌う、ベースの支えが有効に。
 M9. "Ennio" (Søren Bebe) 静かな中にドラマチックな物語が。
 M10. "Elegy for an Angel" (Søren Bebe) 哀愁の曲。ラストトラックで、心情を描く。

 期待通りの美しい叙情的世界、全てを聴いて心が落ち着く。北欧ジャズらしくメロディが美しく、「静けさ」「空間感」に包まれ、ジャズとしては聴くに実に抵抗のないアルバム。過去の曲選りすぐんでのことと思うが、よくここまで一枚のアルバムとして纏めたものだと感心した。

(評価)
□ 曲・演奏 :    90/100
□   録音   :    90/100

(試聴)


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2025年12月27日 (土)

トーマス・ストレーネン Thomas Strønen「Off Stillness」


音の錬金術師による 即興、アレンジの
展開による静謐にしてスリリングな五重奏曲

<Contemporary Jazz>

Thomas Strønen/Time Is A Blind Guide 「Off Stillness」
ECM / Import / ECM2842 / 2025

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Thomas Strønen(ds), Håkon Aase(vln), Leo Svensson Sander(Violoncello), Ayumi Tanaka (p), Ole Morten Vågan(b)
Design; Sascha Kleis
Engineer: Peer Espen Ursfjord
Mixing: Manfred Eicher, Thomas Strønen, Michael Hinreiner
Producer: Manfred Eicher

Recorded December 2021 at Rainbow Studio, Oslo
Mixed July 2024 at Bavaria Musikstudios, München

Thomas_strnen_2025w   「トーマス・ストレーネンとTime Is A Blind Guide」の第三作目のアルバムである。ストレーネンThomas Strønen(→)は1972年12月7日生まれのノルウェーのジャズ・ドラマーで、既に70枚以上のアルバムを録音しているという超活躍のミュージシャン。
 この結成されているメンバーは、非常に珍しいアコースティックなアルケミー(このような表現がされているが、この意味は錬金術(れんきんじゅつ)、つまり秘術というか、価値あるものの作り上げる技)が、取り入れられている。それは、所謂ベースはジャズ・トリオの弦楽器として一般的だが、それにヴァイオリン、チェロが加わっての珍しい3つの弦楽器がジャズ演奏に挑戦し、所謂ジャス・トリオの常連のピアノやドラムス(パーカッション)と時に対立的に演奏が響くといいながらも、究極各楽器が全体として機能し展開する世界を構築しているのだ。非常に希有な世界に浸れて、いかにもECM的である。

 そして前作から、チェロには、ルーシー・レイルトンに代わってレオ・スヴェンソン・サンダーが加入し、ちょっと印象的に新鮮なアンサンブルの音を醸し出す。今回も全体像では異質の世界に入り込めて、それはオスロのレインボー・スタジオで2021年に録音され、2024年にミュンヘンでミキシングされた本作は、今回も大御所マンフレッド・アイヒャーがプロデュースを担当して、我々に音楽というモノの普遍性を知らしめるべく響いてくるところが魅力。
   なお、収録曲全曲ストレーネンのオリジナル曲である。

(Tracklist)

1. Memories Of Paul (Thomas Strønen) 5:08
2. Season (Thomas Strønen) 6:31
3. Fall (Thomas Strønen) 7:18
4. Tuesday (Thomas Strønen) 3:23
5. Cubism (Thomas Strønen) 4:06
6. Dismissed (Thomas Strønen) 6:47
7. In Awe Of Stillness (Thomas Strønen) 7:52

 あのストレーネンの打楽器的面が強調されるドラムスに誘導される5者による特異な音楽的世界は、まさに独自の次元に存在している。そこではジャズを基本としている中で、室内楽、即興演奏とアレンジがある意味混在という形にも聴こえるが、実は整然とした世界を構築しているのだ。ピアノは田中鮎美によるもので、澄んだ音色で、流れを整然とさせる役割を担ったような演奏だ。ヴァーガンのコントラバスはやや異様に響くが、ホーコン・アーセのヴァイオリンとサンダーのチェロがメロディーの表現にリード的な役割を果たしながら共鳴する。そして究極それぞれが無くてはならない役割を担った全体の運動体的とも言えるクインテット演奏となる。

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  M1. "Memories of Paul" 穏やかに次第に引き込んでゆく。ピアノとバイオリンが静かに流れてまさに序章、しっとりした導入で聴き手を静寂の世界へ導く。(ブレイとモチアンに捧げる曲のようだ)
  M2. "Season "循環する四季の表現か。風景が目に浮かぶ牧歌的世界。 詩的な景色描写。
  M3. "Fall" 弦で描きピアノがサポート、ちょっと内省的。いっやーなかなか静謐な表現に驚く。季節の変化に人間的な対応が。
  M4. "Tuesday" 日常のささやかな詩的な瞬間。ピアノの優しいタッチの最小限の音で構成され、静寂すら感ずるた余韻の豊かさが印象的。     M5. "Cubism" 断片的音による構築の試みが展開。アルバム中盤の余裕。ストレーネンの真骨頂の変化を楽しむ。
  M6. "Dismissed " パーカッシヴな動きから、アルバム全体でも緊張感と動的なダイナミックな側面が強く出る曲。珍しくピアノの低音の響きが。
 M7. "In Awe of Stillness" 終盤に壮麗なまとめの一曲。与える描く世界の質感が尊重される序盤から、静寂を尊び訴えてくる瞬間を動と対比してスリリングに表現、余韻を残して締める。アルバム全体を総括するような、静と動の統合。

 ジャズの五重奏曲として、基本的には控えめで、しかし緻密性の高い演奏で、そして「静と動のバランスや空間表現」が凄い。騒がずの演奏に緊張感たっぷりという密度の高いハイレベル演奏と評価したい。

(評価)
□ 曲・演奏 :    90/100
□   録音   :    90/100

(試聴)

 

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