音楽

2025年12月 4日 (木)

アレッサンドロ・ガラティ Alessandro Galati「Standard Deviation」

高速展開のお洒落なピアノ・トリオ・ジャズ・アルバム

<Jazz>

Alessandro Galati「Standard Deviation」
JAzZMUD / Digital Release /24bit 96kHz Flac , 3210 Kbps, RAR/ZIP :1.16 GB / 2025.5.25

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Alessandro Galati(p, mixing, editing)
Ares Tavolazzi(b)
Bernardo Guerra(ds)

Rcorded by Andrea Pellegrini at Larione 10 Studio (FI), 2024.
Mixed and mastered by Alessandro Galati at Church St. Studio (FI), 2025.

371324610_7740460213w   このアレッサンドロ・ガラティ(→)のピアノ・トリオ・アルバム「Standard Deviation」は、2025年5月JAzZMUDレーベルからリリースされたアルバムである。実はこのアルバムはデジタル・リリースで、知らないまま来てしまって、ちょっと遅れて最近聴いた為、今の紹介となった。昨年寺島レコードから、ここでも取り上げた三枚のアルバム『plays Standards』(TYR-1121,1122,1123、2024)に続くモノで、あれは、おそらく寺島靖国からの注文もあったろうと推測するのだが、バラード調の哀愁感ある作品が多く、イタリアン・リリシズムと言う世界でもあったが、又そうでなくとも比較的聴く者にとって優しい演奏の曲が盛られていたように思う。
 そして、今回のこのアルバムは、トリオとしてのメンバーは同一のAres Tavolazzi(b, 下左)、Bernardo Guerra(ds, 下右)といったところで、完全な続編であるが、聴いてみて解るとおり明らかに異なった"Deviation"という世界が聴けるので楽しい作品だ。

 これも推測だが、ガラティはあの一連の"「Plays Standards」作品群"は、私は聴いた当時から、彼はおそらく寺島靖国の要望を理解して、自己の世界をかなり押さえているように感じていたが、やっぱりそうかと、こちらの続編の演奏には、ガラティばかりでなく、トリオ・メンバーが面白いように活躍している。おやおやここで欲求不満を解消しているのかとも思うのである。もともとガラティの発展系のスタイルが、単にスタンダードをおとなしく演奏していること自体不自然であったのだ。したがってクラシック・ジャズのスタンダード曲とジャズメンが見せたオリジナル曲をも取り入れて、その流れと演奏に融合を図ったりして、ガラティの築き上げてきたジャズ感覚を、共演のリズム隊と共に溌剌とお互い自己の味も披露しての展開が素晴らしい。是非CDやLPでもリリースして欲しいところである。

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(Tracklist)

1. Bernie Miller: Bernie’s Tune
2. Bill Evans: Funkallero
3. Juan Tizol: Caravan
4. Miles Davis: Freddie Freeloader
5. Kenny Dorham: Blue Bossa
6. Richard Rodgers: Falling in Love with Love
7. Frank Churchill: Someday My Prince Will Come
8. Jerome Kern: In Love in Vain
9. Clifford Brown: Joy Spring
10. Sonny Rollins: Oleo

 いっやーーとにかく楽しい。所謂ジャズメンのオリジナル曲が多くを占めていてなんか新鮮だ。スタンダードは当然のメロディが顔を出すが、ガラティ独自の解釈が結構展開するし、そしてドラムスは"開放感"そのものを感ずる演奏で、ベースもなかなか"粋"で楽しませる。従ってスタンダード演奏というところから発展しての個性豊かな魅力的なジャズアルバムとして仕上がっている。

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 とにかく、あの3作のスタンダード演奏もあれだけ続くと、ちょっと退屈になつたバラード調の演奏から解放され、ミッド・テンポからハイテンポでのインプロを交えての展開が快適で・・・ガラティのトリオのリズム隊を尊重してのエンジニアとしてのミックス作業も効果を発揮。
 M1. "Bernie’s Tune"から、ドラムス、ベースが溌溂としていて、快調なピアノを支えるというよりむしろ迫ってくるのが楽しい。
 続くBill EvansのM2."Funkallero"は、ぐっと味わい深いブルース調で、これは珍味。
 そしてM3."Caravan"が、冒頭からガラティのフェイク編曲メロディーがルバート奏法で快調に展開、後半のベース・ソロは全く別曲に聴こえて、そこにガラティがピアノで原曲に呼び戻すところが面白い。それでも一筋縄に行かない編曲だ。
 Miles DavisのM4."Freddie Freeloader"は、ベースのリズムが効いて、ジャズのスマートさが目立つ。
 M5."Blue Bossa"は、なかなか洒落てます。
 M6."Falling in Love with Love"これはなんと驚きの三者の高速バトル。ジャズの楽しさだ。
 M7. "Someday My Prince Will Come" は、ちょっと優しく軽いタッチのムーディーなピアノにベースが交互にメロディを演ずる。その一致感覚が心地よい。
 M8. "In Love in Vain" この曲もガラティは軽く跳ねるようなタッチでメロディを、そしてアドリブに流れ、引き継いでベースもアドリブを。
 最後のSonny RollinsのM10."Oleo"も、高速展開であっという間に納めてしまうというお洒落な締め。

 しかし、このトリオはこのアルバムでは十二分に自己のセンスをオープンにしている。これでガラティ自身もこのところの"スタンダード演奏"も、ここで"ミュージシャン・オリジナル"を噛ませたことで、一段落といったところに落ち着いたのでは。昨年の三作では、ちょっとよそ行きのガラティで、、本人も欲求不満だったのではと思うところだったが、これで私自身も納得だ。

(評価)
□ 選曲・演奏 : 90/100
□   録音      : 90/100

(試聴)

 

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2025年11月28日 (金)

アーロン・パークス AARON PARKS 「By All Means」

アコースティック・ジャズ指向に回帰してのジャズの美しさと楽しさと感謝と

<Jazz>

AARON PARKS  「By All Means」
BLUE NOTE Records / Import / 7837202 / 2025

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アーロン・パークスAaron Parks (piano)
ベン・ソロモン Ben Solomon (tenor saxophone)
ベン・ストリートBen Street (bass)
ビリー・ハートBilly Hart (drums)

Aaronparks_220003_sq_byisaacnamias   アーロン・パークスAaron Parks(1983-, 米 →)のブルーノート3枚目となるアルバムがリリースされた。彼は、ここでも何回か取り上げてきた私の注目するピアニスト。編成は、2017年にリリースした『Find the Way』(ECM、2017年)で共演していたが、今回そのトリオと再びプレイしたいというアーロンの願いのプロジェクトのベン・ストリートBen Street (b, 1965-, 米 下左)、ビリー・ハートBilly Hart(ds, 1940-, 米 下中央)とのトリオ編成に加え、新進気鋭ベン・ソロモンBen Solomon (ts, 米 下右)を迎えた新たなカルテットによるものだ。

 そしてベン・ストリートとの共同プロデュースの形をとっていて、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴをきっかけに急速に実現したとのこと。もともとこのピアノ・トリオの美しさと収録曲はパークスの作曲されたモノだけに、美しさが期待される。ソロモンのtsは、パークスの言葉によると「"ここに管楽器を入れてみたいな”と思ったのは、私はコンピング(伴奏)が大好きだし、単に自分がバンドをリードしていくだけではなく、ピアノのサウンドがバンドの一部になっているように響くのも好きなんだ。」と言う事らしい。さてどんな役割を果たすかが注目される。

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  本作について、アーロン・パークスは「この作品が過去のアルバムと全く異なるものだとは思っていない。これはジャズの伝統、ブラック・アメリカン・ミュージックの伝統を愛するレコードで、それはノスタルジアや保護ではなく、その系譜や連続性の中で生きるということを意図しているんだ。アルバム・タイトルもそれを意味していて、それは大きな肯定であり、『パーティに参加しよう』という意思表示なんだよ。そして何よりも一緒に演奏すること、曲の中で互いに即興で演奏することの喜びがテーマとなっていて、ただ音楽を愛することについて表現しているんだ」と語っていると。

 これは、音楽の方向性として 直近作の『Little Big Ⅲ』などで見せたエレクトリック/融合志向からは一転して、今作は伝統的なアコースティック・ジャズ/ポスト・バップ志向ということで、パークス自身によれば、「ジャズ/ブラック・アメリカン・ミュージックの伝統の中で生きる」という事で、私自身も実はほっとしてこのアルバムに興味を持ったところである。

(Tracklist)

1.A Way
2.Parks Lope
3.For María José
4. Dense Phantasy
5.Anywhere Together
6. Little River
7. Raincoat


000000220002w  このアルバムは、結論的にはアーロン・パークス自身のルーツに回帰して、所謂ジャズの伝統のアメリカン・ミュージックの歴史と遺産に敬意を払いながら、「今」を生きるミュージシャンとして作り上げた静かで美しい作品ということになる。ピアノ・トリオに止まっていないで、今回はtsを加えてのカルテットであったが、これも体勢を評価しての彼の実験でもあったろう。私としては無理にtsを加える必要があったのかと言いたいが、そこにはミュージシャンの技巧や斬新さよりも、今様のスタイルを評価しての“演奏や即興の喜び”を聴く者の期待も優先して、その結果としてのスタイルだったと推測する。そして生まれたものは、音には柔らかさと暖かさと、未来希望思考が描かれている。

 M1."A Way" 自分を見つめるこのアルパムは、ちょっと内省的な傾向を持つが、このルバートを加味したバラードで幕を開ける。ハートの巧みなブラッシさばき、ストリートのベースは情景を描き、パークスの美的なピアノの質感がなんとなく親密な世界を築いている。そこに問題のソロモンのサックスだが、思いの外音色がトリオの思索的な流れに優しく乗って感情の表現に貢献している。
 
 M3."For María José"(妻へ)、M4."Dence Phantasy"M6."Little River"(息子へ、子守歌として作られたとか)といったバラード曲のトラックは、ピアノの優しさ溢るる音とメロディーでParks の家族への感情を感謝の気持ちも込めて演じられ、温かさと優しさ、抒情性が強く感じられこのアルバムの良さを感じられるところ。

 一方、パークスが若き十代に作曲したM5."Anywhere Together"は、リズムセクションのエネルギッシュな活気性とそのスウィング感あふれる活力は、このアルバムでも両極の一方を担って楽しくしている。巧みなシンバルアクセントとダイナミミックなハートのドラムは、このアルバムの中でも印象的。
 ラスト曲M7."Raincoat"は、ちょっとリラックスして、ラテンっぽいリズムをストリートとハートが抑えた演奏で進行し、どことなく平和感のあるピアノとサックスで落ち着いた曲。

 音楽的には、ややスローなテンポで流れるバラード調。サックスが吹きまくるというので無く、落ち着いたサックスとピアノの対話的演奏などが主力で、“優しさ”と“感情の深み”をたたえるジャズだ。夜や深い思索の時間に“静けさと余韻”、"抒情"を楽しみたい時などにしっくりくるアルバムだと思う。 

(評価)
□ 曲、演奏 : 88/100
□ 録音   : 88/100

(試聴) "Dence Phantasy"

 

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2025年11月22日 (土)

フランチェスコ・マッチアンティ FRANCESCO MACCIANTI TRIO 「PLAYS STANDARDS」

優美さと優しさでの手慣れたトリオ演奏で抒情性も・・・

<Jazz>

Francesco Maccianti Trio 「Plays Standards」
terasima records / Jpn / TYR-1140 / 2025

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Francesco Maccianti (piano)
Ares Tavolazzi (bass)
Roberto Gatto (drums)

1200x680_img_9840w   先頃リリースの寺島靖国による「For Jazz Ballad Fans Only Vol.6 」(TYR-1134,2025)で、先行紹介のあった私の好むところの'60年代のAhmad Jamalの演奏で有名な曲"Poinciana"を演ずるFrancesco Maccianti Trioのアルバムがリリースされた。
  フランチェスコ・マッチアンティ(→)は、1990年代より、アルバムを着実に発表してきて高い評価を得てきたイタリアのキャリア豊富なピアニストである。幼少期から本場イタリアでのクラシック音楽を学んだ上でのジャズへの関心が高まって、イタリアのジャズ教育機関のシエナ・ジャズなどの著明な音楽学校で研鑽を積んだという経過である。
 本盤は過去盤でも組んでいたベテランのアレス・タヴォラッツィ(b, 1948-, イタリア 下左)&ロベルト・ガット(ds, 1958-,イタリア 下中央)との経験豊富な実力者ピアノ・トリオによる、スタンダード群を奏した最新アルバム。なんとプロデュースはアレッサンドロ・ガラーティ、このあたりは寺島靖国の入れ知恵か(笑)。いずれにしてもピアノ・トリオ・ファンとしては、CDで持っていて聴きたくなるアルバムで、即手に入れた代物。

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(Tracklist)

01. No Moon At All
02. Blackbird
03. Time On My Hands
04. Passion Dance
05. Lawns
06. Cantabile
07. It's Easy To Remember
08. Poinciana
09. It Never Entered My Mind
10. The Old Country
11. Windows

 スタートのM01."No Moon At All"から、優しさのピアノ・トリオ演奏で嫌みが無く聴きやすい演奏を展開。今回プロデュース担当の私のお気に入りのアレッサンドロ・ガラティとはちょっと異なって、冒険性は少なく、端正できめ細やかな世界でいて、ノリのよさを持つつジャズのスウィング感もちゃんと演じていて、所謂老獪でむしろ我々に優しく聴かせてくれるというパターン。

  そして基本は、このようにスタンダード曲演奏に於いて、彼の場合あまり原曲を崩さず素直に演奏して、むしろ色をわずかに付けて我々に聴きやすく理解しやすく演じていることだ。もともとジャズ・プレイはむしろ演者の個性を表現する為の工夫をして、スタンダードなどは原曲をむしろ別物に仕上げると言うことが一般に行われるが、それと異なって原曲のイメージを壊さないように伝えてくれるところは、彼の"ある境地に達してのなせる技"なのでは、と思わせるところでもある。

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 又ベース、ドラムスはあまり自己主張せずに、美メロディーを支えるという姿が逆に美を感ずる。このトリオは互いの老獪な味を知り尽くして、三人による一つの姿を求めているトリオなのかと感じた。
 M03."Time On My Hands"は、まさに優美な演奏で、ここではベース・ソロがメロディーを演ずるがピアノとのバランスは絶妙だ。
 優しさ美しさではM05."Lawns"もなかなかの出来。
 私の注目のM08."Poinciana"は、ジャマルのいろいろなライブものを聴いているのであるが、そのラテン系の味というよりは、エレガントが増してのお上品さが入っての無難な仕上がりに徹した感がある。そして好感度は高い。 
 M10."The Old Country"は、なんと言っても、1985年のキース・ジャレットのライブ盤での好きな演奏を思い出すが、このマッチアンティの方はやっぱり優しく解りやすく聴かせてくれている。

 全体的には、この秋の静かな夜にほっと一日が終わってくつろいだ時の音楽として最高だと思うところ。又CDの音質は美しさも表現されていて良好だ。

(評価)

□ 選曲・編曲・演奏  88/100
□ 録音        88/100

(試聴)
まだ、このアルバムの紹介がアップされていないので・・・
参考までにこのトリオの演奏 ↓

 

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2025年11月16日 (日)

トーマス・エンコ Thomas Enhco 「Mozart Paradox 」

秋の夜長に、モーツァルトの鬼才ぶりを知る感動の一枚

<Classic, Jazz>

Thomas Enhco 「Mozart Paradox 」
Sony Music Labels / Import / SICJ-30178 / 2025

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Thomas Enhco (p)

82756821_2831588376862347w  12年前から注目しているト-マス・エンコがこの11月に来日公演がある。彼は1988年パリ生まれのクラシツク・ピアニストであり、私が知ったのはジャズ・アルバム『Jack & John』(EECD8802, 2013)であるが、トリオ演奏版だった。ここで取り上げたのは2013年ですから当時はまだ25歳ぐらいのまさに新進気鋭そのものであったが、その後も注目して来たのだが、今年はあの天才作曲家のモーツァルトに焦点を合わせたアルバムをリリースしたのだ。それも発売日ごろの今年の猛烈な酷暑には向いていなかったが、この秋の夜長になって無性に聴きたくなって聴いている次第である。
 どうも「もしモーツァルトが21世紀に甦ったら」という問いに回答した彼のソロ・ピアノによる回答でもあると言われているのだが、もともとクラシックとジャズの間を何の抵抗もなく往来して愉しませてくれる彼であるが、私はジャズの世界に興味を持ったのは、もうなんと60年も前の話になってしまうが、やはりフランスのジャック・ルーシェが、『Play Bach』シリーズでピアノ・トリオによってクラシック音楽のバッハを演じ、それを聴いて感動したのがジャズへの入り口だった。そしてそれ以降キース・ジャレット始め欧州系のピアノ・トリオを中心にジャズ愛好家として存在しているのだが、今でもクラシックをジャズ演奏してくれるものには興味がある。

 このトーマス・エンコは、これまでバッハ、シューマンやブラームスの世界を探求してきているが、最近はモーツァルトのソナタ、交響曲、弦楽四重奏、協奏曲、宗教音楽、オペラなど、クラシックでのさまざまなジャンルにおいてのモーツァルトが残した名曲をピアノ・ソロで自由自在に演奏して来ているようだ。つい三年前の2022年にダヴィッド・レスコの演出による「モーツァルト、ある特別な一日」でモーツァルト役を演じ、エンコが劇中で演奏した『レクイエム』の"ラクリモーサ"の即興演奏は大きな反響を呼んで、そんなことが今回のアルバムに通じてきたのかもしれない。いずれにしても、彼の有能なピアノの演奏で、こうしてモーツァルトの本質を聴かせてくれると思うと大歓迎なのである。。

(Tracklist)

1. 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』より「序曲」
2. ナハトムジーク
3. ヴァイオリン・ソナタ ホ短調
4. アヴェ・ヴェルム・コルプス
5-6. ピアノ・ソナタ イ短調
7. 『レクイエム』より「キリエ」
8. 司祭たちのワルツ
9. ディソナンス・シンフォニー
10. 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』より「お手をどうぞ」
11. 『レクイエム』より「ラクリモーサ」
12. クラリネット協奏曲

  しかし、ピアノ・トリオの響きが好きな私であるので、トリオで演奏して欲しかったと思いながら聴いてゆくと、なんとこのソロ演奏であることの素晴らしさを感ぜざるを得ないところに置かれてしまった。まさにソロであってこそのモーツァルトの世界が浮き彫りになってくるのである。

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   オープニングのM1."ドン・ジョヴァンニ"では、さっそくリズムのジャズ化とハーモニーにも工夫を加えて驚かせる
 そしてM3."ヴァイオリン・ソナタ ホ短調"M5." ピアノ・ソナタ イ短調"では、もう言葉に出ないほどの哀感の美しいピアノ旋律を聴かせる
   M10."お手をどうぞ"M11."ラクリモーサ"等を聴くに付け、彼自身の話に「3年前に舞台でモーツァルト役を演じ、彼になりきって演奏したことがきっかけになりました。"レクイエム"、"魔笛"、"ドン・ジョヴァンニ"など晩年の作品には成熟と悲しみ、そして無邪気さが共存している。それを即興で現代的に再解釈し、本質を守りつつ新しく自発的な表現に昇華したいと考えました」 とあるように、どこか無邪気な明るさがある反面、なんか深遠な人間的な世界がもの哀しく表現されているところが、見事と言いたい。

   そんなところが、モーツァルトの鬼才ぶりを彼の若さで感じつつ演じているところに一つの特徴があって、ピアノの響きにも転調などの楽しさと、一方哀しさの美しい響きが交錯してくるところが、このアルバムの素晴らしさなのかもしれない。特にやはりM11."ラクリモーサ"は素晴らしい。モーツァルトのジャズ演奏もいろいろと聴いては来たが、彼がピアノのソロ演奏での響きにもそれを表わし聴かせているところに非凡さを感ずるところである。

 秋の夜長に、一度は聴いて欲しいと思うピアノ・ソロ・ジャズ・アルバムであった。

(評価)
□ 編曲・即興・演奏   90/100 
□ 録音                      90/100

(試聴)

 

 

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2025年11月10日 (月)

松井秀太郎 SHUTARO MATSUI「FRAGMENTS」

トランペットの魅力にカルテット演奏の充実度も高い

<Contemporary Jazz>

SHUTARO MATSUI 「FRAGMENTS concert hall live 2025」
(CD)avexclassics / JPN / AVCL-84182 / 2025

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松井秀太郎 Shutaro Matsui (1,2,3,6,7: Trumpet, 4,5: Flugelhorn, 8: Piccolo Trumpet and Trumpet)
壷阪健登 Kento Tsubosaka(Piano)
小川晋平 Shimpei Ogawa(Bass)
きたいくにと Kunito Kitai(Drums)

LIVE Recording
1,4: 30 March 2025 at Sumitomolife Izumi Hall
2,3,5,6,8: 5 April 2025 at Suntory Hall Blue Rose
7: 28 March at Denki Bunka Kaikan (Nagoya) and
5 April 2025 at Suntory Hall Blue Rose

Shutaromatsuiw   このところにわかに話題をさらっている新進気鋭トランペット奏者の松井秀太郎(1999年生まれ、26歳 →)が、ライヴ・アルバム『FRAGMENTS - CONCERT HALL LIVE 2025』を10月22日に発表した。もともと管楽器奏者はあまり興味の無い私だが、あまりにも評判が良いので、とにかく聴いてみた次第である。
  そして演ずるはTrumpet, Flugelhorn,Piccolo Trumpetだ。その演奏能力も高く評価されている。そして更に曲は自らのオリジナルが主体とくるから評価も高い。

 このアルバムは今年の2月から4月にかけて開催されたツアー〈松井秀太郎 Concert Hall Live Tour 2025〉の模様を収めたもの。演奏メンバーも新カルテット(壷阪健登 (Piano 下左)、小川晋平 (Bass 下中央)、きたいくにと 下右)で、披露された曲は、松井の自作曲7曲と、サン=サーンス作曲"DANSE MACABRE"(2024年発表の前作『DANSE MACABRE』のアルバム・タイトル曲)の全8曲を収録している。

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 [注目の松井秀太郎]の紹介をネットで見ると・・・
 国立音楽大学ジャズ専修を首席で卒業。矢田部賞受賞。高校ではクラシックを専攻、日本モーツァルト青少年管弦楽団トランペット奏者として活動。大学入学を機にジャズ専修へ転向し小曽根真、エリック・ミヤシロ、奥村晶らに師事。在学中より自身のジャズコンサートや BLUE NOTE TOKYO ALL STAR JAZZ ORCHESTRA への参加等、本格的にプロ活動。
 自身のソロ公演の他、オーケストラやウインドオーケストラとのクラシックの協奏曲の共演やブラス・アンサンブルとのツアー、小曽根真No Name Horsesへの参加、米津玄師の楽曲やKing Gnuのツアー参加等、ジャンルを超えたマルチな才能で注目を集めている。
 また、テレビ朝日「題名のない音楽会」や MBS/TBS「情熱大陸」などメディアでも取り上げられ話題となっている。
 これまでに、一昨年からアルバム「STEPS OF THE BLUE」(2023年)、「DANSE MACABRE」(2024年)、「FRAGMENTS – CONCERT HALL LIVE 2025」(2025年10月)をリリース。

Discography2w 【収録曲】

01 FRAGMENTS[LIVE 2025]
02 TIGER MARCH[LIVE 2025]
03 SIGN[LIVE 2025]
04 LITTLE CRADLE SONG[LIVE 2025]
05 BEIJINHO[LIVE 2025]
06 COLOR PALETTE[LIVE 2025]
07 DANSE MACABRE[LIVE 2025]*
08 CATS' BATTLE[LIVE 2025]

Composed by Shutaro Matsui except 7
Track 7(*印) composed by Camille Saint-Saëns
arranged by Shutaro Matsu

 スタートのアルバム・タイトル曲M01." FRAGMENTS"の冒頭からトランペット・ソロで朗々と演奏して評判通りの良い響きでグッと引き寄せられるが、続いてカルテットの残る三者が突如バーンと出てきて圧巻。10分に及ぶ演奏で、ピアノとベースのユニゾンも頼もしいし、後半のトラム・ソロもパンチが効いていて、こんな調子に若さの感じられる演奏が展開する。
 このカルテットは、小曽根真が後進の育成として展開しているメンバーで、「from OZONE till Dawn」というものらしいが、なるほど小曽根のセンスを引き継いで、ジャズにアプローチしてきた若いメンバーのパワーなんだと実感する。

 オリジナル曲であるので、過去の演奏者との比較は出来ないが、どこかコンテンポラリーな因子が作用していて新鮮であり、と言って難しさを感じさせずに聴いて乗っていけるところが、味なところだ。
 M03."SIGN"では早速ピアノ・プレイの前進的ハイテンポでのトランペットと対話的展開に現代性が感じられ、一方余韻の使い方も味があり、このカルテットの技量の高さを感じさせる。又M04." LITTLE CRADLE SONG"はぐっと落ち着いた世界を描き、トランペットの音が牧歌的な世界もあって聴かせるポイントを持っている。そしてピアノは、打音も美しくメロディー・ソロが又一層美麗な世界を与えてくれる。
 味付けに、M07."DANSE MACABRE"としてサンサーンスの曲が登場するところが、いかにもクラシック畑で鍛えたパワーを見せつける。

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 松井のトランペットは、その評価の術を持ってない私だが、その軽やかさと、圧倒するパワーと、クラシック調の調べと、非常に受け入れやすいところが、やはり技術的なその高さを推測させる。
 そして見事なのは壷阪健登のピアノだ。流麗さと共にパワーがあり、そして余韻の使い方も旨い。やっぱりクラシックでたたき上げてきた基礎がこうした世界に響くのだろう。
 そしてリズム・セッションの小川晋平 のベース、きたいくにとのドラムスも彼らなりきの世界を構築しようという意志が伝わってくるところが、かなりの実力者で、この松井のトランペットをものの見事に支えている。
 日本の音楽技能を持つ若者が、ジャズと言う世界を、自由に泳ぎ回ることが出来る技術とセンスを持って迫ろうとしていることに喝采を浴びせたくなった。
 トランペットと言うとマイルス・デイヴィスとなるが、彼のスタート時の静謐で構築的なアンサンブルを志向。柔らかな音色、抑えた表現のク-ル・ジャズとは別物で、彼の末期のコンテンポラリーな世界から初期に近い頃のモード・ジャズと言われる即興の展開などをミックスした両タイプに通ずるような印象がこのカルテットにはあり、しかもそれにクラシックをも感じさせる世界が現れるのが頼もしい。これからどう発展してゆくのか、まだまだ先は十分あるので日本のジャズ界にとっても楽しみな存在だ。

(評価)
□ 演奏・曲  :       88/100
□   録音    :       88/100

(試聴)

 

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2025年11月 6日 (木)

ケイコ・リー(李 敬子) Keiko Lee 「Sings Super Standards 3」

キャリアを生かした落ち着いた重厚さで深く訴えるところが見事

<Jazz>

Keiko Lee 「Sings Super Standards 3」
Sony Music Labels / JPN / SICJ-30179 / 2025

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  ケイコ・リー(V,  p)
  野力奏一(p)、岡沢章(b)、渡嘉敷祐一(d)
  高橋佑成(p)、吉田智(g)、岡部洋一(perc)

565199383_18548836921058w  日本のジャズ界をある意味牽引するヴォーカリスト ケイコ・リー(→)が今年10月末に、ソニーミュージックよりデビューして30周年と言う事のようだ。つまり年齢も還暦あたりと思うが、まさにベテランとなった。そしてその30周年記念アルバムと言う事のようだが、過去に好評だった「sings Super Standards」シリーズ第三弾ということで、第1作(↓左)の2002年から2作(↓右)が2012年、その後の13年ぶりの今年が第3作ということとなっての登場だ。
 今回は自己のオリジナル曲も交えて、名作にアプローチしている。これには長い間の仲間が共演しての作品となっているので、取り敢えず耳を傾けてみた次第である。
 リ-は在日韓国人三世での日本育ち(1965年生まれ)であって100%日本の文化で育った人だ。そしてデビューが1995年で自己のアルバムは20枚にも及ぼうとしているようだ。又スイングジャーナル 人気投票女性ヴォーカル部門で堂々9年連続の第1位に輝くジャズ・ヴォーカリストで、これから全国ライブが始まるという話になっている。

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(Tracklist)

① Blue Skies
      Words and Music by Irving Berlin Arranged by Soichi Noriki
② Light of Love
      Words by Donny Schwekendiek Music by Keiko Lee Arranged by Keiko Lee / Soichi Noriki / Akira Okazawa / Yuichi Togashiki
③ Love Me Tender
      Words and Music by Elvis Presley / Vesa Matson Arranged by Soichi Noriki
④ Gone Too Soon
  Words by Buz Kohan Music by Larry Grossman Arranged by Soichi Noriki
⑤ Body & Soul

  Words by Edward Heyman, Robert Sour and Frank Eyton Music by John Green Arranged by Yusei Takahashi
⑥ Bridges
      Words by Fernando Brant Music by Milton Nascimento Arranged by Keiko Lee / Satoshi Yoshida / Yoichi Okabe
⑦ New York City Serenade
      Words and Music by Burt Bacharach, Carole Bayer Sager, Christopher Cross & Peter Allen Arranged by Keiko Lee / Soichi Noriki / Akira Okazawa / Yuichi Togashiki
⑧ Lush Life
     Words and Music by Billy Strayhorn Arranged by Soichi Noriki
⑨ Calling You
     Words and Music by Bob Telson Arranged by Keiko Lee / Yusei Takahashi
⑩ Hey Jude
    Words and Music by John Lennon / Paul McCartney Arranged by Keiko Lee
⑪ The Rose
    Words & Music by Amanda McBroom Arranged by Keiko Lee

 ケイコ・リーは、ヴォーカルとピアノをこなすが、バンドメンバーは、長きに交流してきた野力奏一(p)、岡沢章(b)、渡嘉敷祐一(d)のトリオとの共演で、なかなか充実の演奏が展開されている。またその他、高橋佑成(p)、吉田智(gt)、岡部洋一(perc)と共演もあり色とりどりに作られたアルバムだ。

   いっやーーなかなか貫禄のパワーのある低音のハスキー・ヴォイス、アルバム・スタートをアカペラで始め、締めをアカペラで終わるという歌唱力を前面に出している。そして全11曲中、唯一のオリジナル曲M2."Light of Love"は、"愛に生き、愛を与えよう"というメッセージをしなやかに歌ったナンバーで、今回のアルバムの一つの流れの重要な曲として収録してあるようだ。そしてそれに続いてE.プレスリーのM3."Love Me Tender"が登場、大きな編曲なしでぐっと落ち着いて歌い上げる。
 M4."Gone Too Soon"は更にゆったりと静かな歌。 
 M5."Body & Soul"M6." Bridges"は、高橋ピアノ・トリオに変わり、これも又ゆったりとこころ静かな歌をしんみりと。M6.はギターとパーカッションのみで歌う。この流れは長年歌ってきた世界。
 M7."New York City Serenade"は、再び野力のピアノで、かっての若き頃の憧れのNYを希望に満ちた感覚を歌う。
 M8." Lush Life"は、野力ピアノとのデュオでしんみりと、実力のヴォーカル。
 M9."Calling You"は、カナダの実力派ホリー・コールの十八番の歌。 高橋佑成のシンセと共に見事に編曲してリ-の歌として歌い上げる力はさすが。
 M10." Hey Jude" メンバーでの合唱入りで歌う。このアルバム製作を祝っているようだ。
 M11."The Rose" 曲もさることながら歌詞の美しさでも有名なこの曲。展望のある力のある歌でしっかりと締めくくる。最後のアカペラが印象深い。

 なかなかキャリアの感じられる濃い演奏と歌、まだまだ彼女は声量もあり訴える力も大きい。ちゃらちゃらしたところがなく、重厚に静かに深く歌い込んで見事なアルバムとして仕上がっている。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌  88/100
□ 録音       88/100

(試聴)

 

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2025年11月 1日 (土)

アルマ・ミチッチ、エリック・アレキサンダー ALMA MICIC with E.Alexander「LILAC WINE」

既に完成したヴォーカルで編曲にも力が入って自己の世界に導く

<Jazz>

ALMA MICIC with E.Alexander「LILAC WINE」
【HYBRID CD】 Venus Records / JPN / VHGD-10023 / 2025

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アルマ・ミチッチ Alma Micic (vocals)
エリック・アレキサンダー Eric Alexander (tenor & alto saxophones)
ラレ・ミチッチ Rale Micic (guitar)
ブランダン・マッキューン Brandon McCune (piano)
アレキサンダー・クラフィ Alexander Claffy (bass)
ジェイソン・ティーマン Jason Tiemann (drums)

Recorded at Van Gelder Studio in New Jersey on April 19, 2025.
Engineered by Maureen Sickler
Mixed and Mastered by Tetsuo Hara
Venus Hyper Magnum Sound Direct Mix

572001193_1023615w  アルマ・ミチッチの"ヘレン・メリル&クリフォード・ブラウンに捧ぐ!"と言うことでのヴォーカル・アルバムがVenus Recordから登場。彼女はセルビア出身でここ数年NYで活躍中で、昨年ここで取り上げたアルバム『You're My Thrill』(VHGD-10013,2024)で話題になった。知らなかったが、なんとヘレン・メリルってクロアチア出身なんですね、ということは元々は同じ国同士(旧ユーゴ)という関係だったという事だ。そんなことからおそらくミチッチにとっては、メリルは憧れのジャズ・ヴォーカリストという事なんだと思う。

 彼女に関しては、前記事(2024年11月10日)を見て欲しいが、今回はエリック・アレキサンダーとの共演が更に色濃くなってのTSとのクインテットとの共演( ジャズ界で有名なVan Gelder Studioにて録音)ということが話題という処か。その点は私はちょっと腰が引けるところだが、収録曲はヘレンも得意であったバラード系の曲が中心になっていて、その点は救いである。

(Tracklist)

1.ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ You’d Be So Nice to Come Home To (Cole Porter) 5:11
2.ライラック・ワイン Lilac Wine (James Shelton) 4:35
3.オール・オブ・ミー All of Me (Marks/Simons) 4:34
4.カムズ・ラブ Comes Love (Stept/Brown/Tobias) 4:21
5.アイ・ハブント・ガット・エニシング・ベター・トゥー・ドゥ I Haven’t Got Anything Better To Do (Vance/Pockriss) 6:47
6.野生の息吹 Wild is the wind (Tiomkin/Washington) 5:25
7.ラバー・マン Lover man (Jimmy Davis) 4:18
8.夜も昼も Night and Day (Cole Porter) 4:06
9.ス・ワンダフル ’S Wonderful (George Gershwin / Ira Gershwin) 2:46
10.マスカレード・イズ・オーバー Masquerade is Over ( Wrubel / Magdison ) 4:27

  メリルの十八番であるCole Porterの有名曲M1."You’d Be So Nice to Come Home To"からスタート。この曲彼女の伴侶であるラレ・ミチッチのギターから始まって、時代の違いがそのまま現れ、そして歌はスキャットを使ったメリルとは異なった世界の曲を構築している。そしてエリック・アレキサンダーのサックスはおもむろに後半に登場して更にジャズ色を深め最後にアルマ・ミチッチの歌い上げるところで終わる。

 M2."Lilac Wine"は、アルバム・タイトル曲で、私の注目曲。多くが歌う曲だが、私はエリザベス女王のお気に入りのジョージア出身のKatie Meluaやアイルランド出身のImelda Mayなどのどちらかというとポピュラー系、ロック系の歌手の歌が印象深い。失恋曲であるだけに、しっとりと歌い上げるところが注目。彼女もギター・ムードとサックスの支えでなかなか旨く哀感たっぷりに仕上げている。

571197814_102361524790w  M3."All of Me "のジャジーなリズムカル展開は解るが、やはりM1.M2.では、おとなしかったTSがかなり前面に出てきて、ヴォーカル・アルバムといえども、演奏陣も対等に曲を演ずるのは悪いことでは無いが、ちょっとうるさい感じだ。
 M4."Comes Love "は、ギター、ベース、ドラムスがリズムをユニゾンで刻む楽しさでジャジーにヴォーカルと競う。
 M6."Wild is the wind" 静かなギターの導入で、しっとりと歌い上げて聴き入ってしまう。ピアノの響きも情感たっぷり。そして次第に情熱的な歌に変化、私はこのアルバムでは一押しだ。TSがあまり力まないのが良かったのかも。
 M9."’S Wonderful "フェイクを効かせて、かなり変化した曲仕上げ、そしてアップテンポでジャズの楽しみと言えばそうとも言えるが。
 M10."Masquerade is Over "前曲とガラッと変わってピアノのみの伴奏で静かに説得力ある歌。このあたりが私は楽しめる。

 まあ、ジャズに何を求めるかであるが、彼女ぐらいになるとしっとり歌い込む実力があって、澄んだ声と声量とでなんでもこなしそうだ。アップテンポの曲もあるが、それを生かしたバラード曲の対比が効果があり、その点が私にとっては良かった思うところだ。もともとTSはうるさいと感ずることが多い私であるので、今回もエリック・アレキサンダーとの共演自体、私は疑問であったのだが、まあ彼女にとっては恩人だからそれはそれとして聴いておこうと思うところ。そのあたりは好みとしてそれぞれが楽しめば良いことである。

(評価)
□ 編曲・歌・演奏 : 88/100
□ 録音        : 87/100
(試聴)

 

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2025年10月27日 (月)

寺島靖国「For Jazz Ballad Fans Only Vol.6」

今回もかなり質の良い演奏と録音ものを選曲して聴きやすくジャスを楽しめる

<Jazz>

Yasukuni Terashima Presents
「For Jazz Ballad Fans Only Vol.6」
TERASIMA RECORDS / JPN / TYR-1134 / 2025

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Dpp_0065trw    TERASIMAレコードの話題が続くのだが、結構私は期待している寺島靖国(→)選曲によるオムニバス・アルバムの「Ballad Jazz」もののシリーズが昨年に引き続いて今年も「Vol.6」として登場だ。私の場合はピアノ・トリオのバラッド曲を比較的愛しているので、このシリーズは期待モノなのだ。しかし何時も残念なのは既に私の持っているアルバムからの選曲収載が多いことだが、今回はアルバムが持ち合わせていたのは12曲中3曲であったので、まあまあと思ってリリースと同時に購入している。このシリーズで、知らなかった好みのアルバムを発見できるのも事実で、寺島靖国には取り敢えず感謝していることも過去に何度かある。又、彼は曲全てに対しての知識をオープンにしてのライナー・ノーツも、近年のアルバムとしては充実していて何時も愉しんでいる。そんなわけで今回も内容をここで紹介するが、このアルバムは、ライナー・ノーツを見ながら聴くことをお勧めしたい。

 

(Tracklist)

1. The Old Country / Alessandro Galati Trio
2. Ida Lupino / Luca Colussi Trio
3. Prisoner of Love / Ken Peplowski
4. Mona Lisa / Frankfurt Jazz Trio
5. Evening Song / Lisa Hilton
6. Poinciana / Guido Santoni Trio
7. Poinciana / Francesco Maccianti Trio
8. Thanks for the Memories / Triology featuring Scott Hamilton
9. I Remember Clifford / Ignasi Terraza Trio
10. Stella by Starlight / TRIOISM
11. Ev'ry Time We Say Goodbye / George Mraz | David Hazeltine Trio
12. I’ll Never Smile Again / Tyler Henderson

  オープニングM1."The Old Country"は、最初から私がファンでもあるイタリアの今年三部作でTERASIMAレコードからリリースされたアレッサンドロ・ガラティ・トリオの『Plays Standards』の「3」(TYR-1123 ↓左)(このアルバムはここでも取り上げてるので参照して欲しい)の冒頭を飾る曲からスタート。ある分野ではかなりアヴァンギャスドな奏法も展開することのあるガラティだが、スタンダード曲に対しては、文句なく冒険的手法はあまりとらずに原曲を生かしながら、味わいを深めてくれ、新しい面も聴かせてくれるところが魅力だ。

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 今回の私的な注目点は、これも歴史的に私の好きなAhmad Jamalのトリオ演奏で愛されてきた曲M06."Poinciana"の登場だ。それもなんとここでつい前回私が取り上げたGudo Santoni Trioのアルバム『Plays New Standards』(TYR-1134 ↑中央)からのものと、続けてM07."Poinciana"のFrancesco Maccianti Trioの演奏のものと2曲続くのだ。珍しいですね、同じ曲を並べたのですから・・・でもそれは私の好きな曲なので、内心満足しているのである。
 もう一つ納得したのは、M03."Prisoner of Love "だ、これはKen Peplowskiのテナー・サックスがピアノ・トリオとカルトテット・スタイルで演じているのだが(↑右)、もともとサックスものは私はあまり好まない。それはサックスが登場するとガラっと演奏の質が変わって、トリオとかカルテットの良さが消えて、いつの間にかサックスのだけの曲と化してしまい、早い話が共演者との世界が失われてしまう事になるのが多いことで好まないし、その為うるさくも聴こえることだ。これはサックス・ファンには否定されるかもしれないが、どちらかというとピアノ・トリオ・ファンとしては、それが納得できない。しかしここでのPeplowskiは、そんなところと違って、トリオの構築している世界にソフトでマイルドに演奏して、共に曲を作り上げていてなかなか素晴らしい。こんなテナー・サックスなら歓迎なのだ。そんな意味で良いモノを聴かせてもらった。

 こんなことから、寺島靖国のこのシリーズでの選曲の一つの思想を感じてくれると思うが、その点からもこのアルバムの良さが見えてくるのである。又この世界、欧州系のミージシャンの登場も多く私的には馴染みやすい。
 更に選曲に於いては、録音の質にもこだわりを持つ寺島靖国がオーディオ・マニアであることの結果であろうと思われる良録音が多く、その点も評価したい。そしてこのシリーズは、年に一回ぐらいのリリースがこの数年順調であって、私もそれを喜んでいるのである。

(評価)
□ 選曲・演奏  88/100
□ 録音     88/100

(試聴) 
Ken Peplowski "Prisoner of Love"

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2025年10月22日 (水)

ギド・サントーニ Guido Santoni 「Plays New Standards」

ヨーロピアンのクラシカルなセンスを生かして、心静かに誠実に情感を持って描く世界

<Contemporary Jazz>
Guido Santoni 「Plays New Standards」
(SACD) TERASIMA Records / JPN / TYR-1132 / 2025

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Guido Santoni (piano)
Danilo Gallo (bass)
U.T. Gandhi (drums)

Recorded, mixed & mastered by Stefano Amerio 

Mainw  寺島靖国の企画によるピアノ・トリオによるスタンダード集も、最近はAlessandro Galatiによるものが印象深いが、ここに来て同じイタリアのピアニストのギド・サントーニGuido Santoni(→)によるアルバムを登場させた。サントーニのアルバムは、今までに2021年のピアノ・トリオ作品『Hill Tribes』(ART212)は聴いたのだが、オリジナル曲集であった為か、私の理解不足でそれほど印象に残らなかった。しかしこのトリオはスタート時の好評であったアルバム『Inside a Dream』(ART094,2011) は、メロディアスでとっつきやすく、トリオとしてのインタープレイも優れた好盤だ。そしてこの今回のこのアルバムは、それより続いている三者の関係が熟している老獪なトリオ(Danilo gallo(b, 下左)、 U.T.Gandhi(d, 下右))によるもので、彼らはヨーロッパのジャズの一つの特徴でもある何となくクラシック音楽からの芸術性とジャズの自由に自己の表現の操れるインプロヴィゼイションとが結びあった展開が見事なピアノトリオと評されているのである。

 しかしこれだけ実力のあるサント-ニであるが、彼に関する情報は意外に少ない。幼少期からピアノには接していたようで、イタリアのロッシーニ音楽院で音楽を学び、初期にはエレクトリック・ジャズ、ソウル、ファンクなども手掛けていたが、2000年ごろから音楽的ビジョンに彼自身の個性が表れ、トリオかソロ演奏が中心となる。トリオ編成では、イタリアらしくメロディアスで、かつ深みのある、ヨーロッパのジャズ的感性を持ちながらも伝統的ジャズのグルーヴ・即興性も併せ持つ演奏スタイルとして評価を獲得している。

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 このアルバムのもう一つの注目点は、やはりオーディオ的感覚として、名エンジニアのステファノ・アメリオの手により録音、ミックス、マスターと作り上げられた点だ。今やユーロ・ジャズの聴き方には、その音質の加味された上での評価が成される演奏スタイルが多く、そんな点からも聴きごたえがあるかどうかに関心が持たれ、SACDとして発売されていて、其れを鑑賞するのである。

 

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01. Mi Sono Innamorato Di Te (Luigi Tenco)
02. Poinciana (Buddy Bernier – Nat Simon)
03. Edith And The Kingpin (Joni Mitchell)
04. Blu (坂本 龍一)
05. Estate (Bruno Martino)
06. Tu Si' ‘Na Cosa Grande (Domenico Modugno)
07. Midnight Mood (Joe Zawinul)
08. Seven Days (Pat Metheny)
09. Bill Evans (Lyle Mays)
10. Infant Eyes (Wayne Shorter)

 

 スタンダード集というが、M02, M05 あたりは私の好みの曲ですぐ解るが、他は初めて聴くと言った感じのモノが多い。そして演奏は静かにしかも深く描く世界が見事である。これによってライナー・ノーツでは、「陰」と決めつけているが、決して「陰」ではなく、演ずるピアノの音には華もあり、「静」を通して「思索的」でもあり「美」があり「深い」のである。これを「陰」と言ったら、音楽が泣く。繊細な詩情性が「陰」といったら芸術家が泣く。
 そしてライナー・ノーツでは、これもアレッサンロ・ガラティと比較していて、それは良いが、ガラティは「陽」といっている。私ガラティのファンであるが、彼の作品を過去から聴き込んで来ているのだが、決して単に「陽」と決めつけられない。「陽」に感じられるところはメロディーの展開に彼の演奏は華があるからだと思う。ガラティを単に「陽」と言う事に非常に納得がゆかない。これは余談だが、こんな先入観を持たせてアルバムを聴かせるのは、書いた後藤誠一の見識を疑う。そのあたりはどうも聴く前から不信感に襲われた。日本盤はそれだから困る。

 それはさておき、M01."Mi Sono Innamorato Di Te"から素晴らしい演奏だ。心静かな流れから真実の心を訴える。これは「陰」でなく「誠実さ」である。これはお見事な編曲。
 M02."Poinciana"は、この曲は私がファンであるAhmad Jamalしかないと思うところが、それに追従するのでなく、サントーニも自分の世界に昇華してのリズムが聴き処、とても「陰」には思えない。
 坂本龍一のM04."Blu"も、タイトルはブルーだが、この叙情性は決して「陰」では無い。
 M05."Estate"これぞ私の好きなイタリアの曲、夏に高揚感から起きた事への恨み節で・・・むしろ熱情から覚めた平常心。

 こうしてサントーニは、安定感の中に誠実さを描いてくれる・・・先にも書いた「陰」とは別世界。私から見ると、比較対象となった「陽」と表現されたアレッサンドロ・ガラティは、透明感のある音色と繊細なタッチでメロディ重視の抒情性を描く、むしろ派手な即興よりも、深く内省的な情感をも描くこともあり、冷たさでなくイタリア的詩情での温かさを逆に感じさせてくれる。それを単に「陽」と片付けられると、ファンとして情けない。そしてこのサントーニを比較するならば、「陽」に対比しての「陰」でなく、「心静かさ」「誠実さ」そして「秘めた情感」等が感じられると言うのが私の印象だ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏   90/100
□ 録音         90/100

(試聴)

当アルバムは日本盤でまだYoutubeにアップされていないので
過去の同じトリオのアルバム「Inside a Dream」より、参考までに ↓

 

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2025年10月17日 (金)

トマス・リュッケルト Thomas Rückert Trio 「For All We Know」

ジャズのスタンダードを自己の即興レベルに引き上げ、奥深い世界へと導く

<Jazz>

Thomas Rückert Trio 「For All We Know」
 (CD)DOUBLE MOON / IMPORT /  DMCHR71467 / 2025年05月13日 

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Thomas Rückert- Piano
Reza Askari - Double bass
Fabian Arends - Drums

録音:2024年6月7日、ロフト・ケルン(ドイツ) 

 ドイツのケルン出身でニューヨークでも活躍するピアニスト、トーマス・リュッケルト(1970-)が、同じケルン出身の若手のベーシストのレザ・アスカリ(1986- 下左)、ドラマーのファビアン・アーレンズ(1990- 下右)2人と演ずるピアノ・トリオの最新作。
   このアルバムは、今年5月にリリースされたモノだが、ここに来て聴いたところ、注目点の多いものであり、又全てがちょっと一段落的に落ち着いたこの秋に、ゆったりじっくり聴きこむには最良のアルバムで、決して無視できない貴重な世界を構築している為、ここに取り上げることにしたもの。

Csm_rckert_profilw  このトーマス・リュッケルト(→)は、私は殆ど接点が無かったが、現在55歳言うことで、最も油ののった時にある。幼少期から音楽的環境に育ち、7歳でピアノを始めた。16歳からサックスやドラムにも関わって来たようだ。1990年からはケルン音楽大学(Musikhochschule Köln)で学んだ。インド、アフリカ、アメリカ・北米など、各地で音楽を学ぶ旅をした経験があるという。2002〜2006年頃、自身のトリオ(弟ヨッヘン・リュッケルトがドラム)で、アルバムを制作。代表的な作品として 『Debut』(2002年)、『Dust of Doubt』(2004年)、『Blue in Green』(2006年、抒情的で空間を生かしたサウンドが特徴)など。 ジャズ・フェスティバルなど国内外での演奏多数。他のミュージシャンとの協働も多く、リー・コニッツ(Lee Konitz) をはじめ多数。教育・その他の活動ジャズピアノの教育者としても活動。 演奏スタイルには即興を重んじるアプローチが評価されている。

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(Tracklist)

1.For All We Know (Fred Coots) - 13:51
2.Blue Monk (Thelonious Monk) - 7:41
3.Stella By Starlight (Victor Young) - 7:58
4.Black Orpheus (Luiz Bonfa) - 9:43
5.How Deep Is the Ocean (Irving Berlin) - 8:00
6.Bewitched, Bothered and Bewildered (Rogers and Hart) - 8:47
7.Embraceable You (George Gershwin) - 7:49
8.Body And Soul (John W. Green) - 12:09

   評判通り、即興が素晴らしい。このアルバムはライブものであるだけ、ジャズ・スタンダードを演じては居るが、ありきたりにただ再現するのではなく、ジャズの醍醐味でもあるいつの間にか彼らの即興曲の場となり、オリジナル曲かと錯覚するほどに、思索的であったり、感覚、情緒をしっかり表現し居るところが凄い。

 そしてライブでもある為か長曲が多く、冒頭のM01."For All We Know "は、13分を超え、冒頭から丁寧に深く深く内省的な彼らの世界に誘導されてゆく、その他の曲も 7から9分という長さだ。
 M6."Bewitched, Bothered and Bewildered "などを聴いても、聴き慣れたピアノによるメロディーが時に顔を出しその間、ピアノ、ベースがぐっと深く沈み込んで語り聴かすスタイルで、思索の世界に入り込む。
 M7."Embraceable You"などは、いかにもジャズ・リズムを演じてくれるが、原曲が解らないぐらいに彼らの世界に引っ張り込まれ、ベースとドラムスの共演が印象的。
 納めの曲M8."Body and Soul" まさにSoulの世界。

 とにかくスタンダード集でありながら、その匂いを感じさせつつ、究極彼らのオリジナル曲へ誘導され、そこにはなんと哲学的奥深さを感ずる世界が待っていて、ドイツらしい真面目さをも響き伝わったくるというジャズ界の中でも、注目すべき一枚であると感じている。私の評価は高い。

(評価)
□ 編曲・演奏 92/100
□ 録音    88/100

(試聴)



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