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2025年4月27日 (日)

セリア・ネルゴール Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」

両親への感謝の気持ちを込めた感動的豪華さのあるアルバム

<Jazz>

Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」
(CD)Masterworks / Import / 19802890702 / 2025

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Produced by SILJE NERGAARD and MIKE HARTUNG

SILJE NERGAARD (vocals) 
HELGE LIEN (piano)
JARLE VESPESTAD (drums)
FINN GUTTORMSEN (bass)
GEORGE (JOJJE) WADENIUS (guitars)
HÅKON KORNSTAD (saxophone)
MARTIN WINSTAD (percussion)
BEATE S. LECH (guest vocals)
KARLA NERGAARD (backing vocals)
MIKE HARTUNG (backing vocals)

STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA VINCE MENDOZA conductor & arranger

Recorded and mixed by MIKE HARTUNG at PROPELLER MUSIC DIVISION Oslo 2022-2024
Mastered by MORGAN NICOLAYSEN at PROPELLER MASTERING Oslo nov 2024
STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA recorded at STAVANGER KONSERTHUS May 2024
Conducted by VINCE MENDOZA

800pxsilje_nergaardw  ノルウェーを代表するジャズ&ポップス・シンガーの通称セリア=Silje Nergaar(セリア・ネルゴール, →)のニュー・アルバム。彼女に関してはここでも何度か取り上げた。特に私の注目はトルド・グスタフセンTord Gustavsenのピアノとの共演の『Nightwatch』であったが、今回は私の一つの注目点は、やはりピアノが私の好きなヘルゲ・リエンHelge Lien(↓右)ということだ。いやはや彼女は名ジャズ・ピアニストをしっかり確保し、しかも、2010年にリリースされ、グラミー賞にノミネートされたアルバム『A Thousand True Stories』でもコラボレーションした、ヴィンス・メンドーザVINCE MENDOZA (↓中央)が、今作ではスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、曲に感動的なオーケストラアレンジ効果を発揮している。

  そして、このアルバム・ジャケが古めかしいですね。なんと戦後のジャズ・アルバムの再発盤かと思わせるジャケ。それは実は彼女の両親の若い時の二人の写真を見つけてジャケにしたということのようだ(その写真↓左)。彼女も1966年生まれであるから今年は59歳、来年は還暦を迎えるという歳になって、どうも両親への深い思いが込められたアルバムという事のようで、タイトルも『Tomorrow We'll Figure Out the Rest』と、訳すと「明日多分私たちは残りを理解するでしょう」「明日、続きを解明する」ということだろうが、両親への深い思いが込められており、かっての自分の幼少期からの遠い日の記憶、家族やさまざまな人生の物語等にインスパイアされた曲を収録したということだ。とにかく音楽というものを通じて人々の心を動かす彼女の資質と才能が溢れたアルバムと仕上げられたものである。

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 彼女は、1985年にノルウェー代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場してのスタートで、アルバム・デビューは1990年で、パット・メセニーのプロデュースで1990年にリリースされたアルバム『Tell me where you're going やさしい光につつまれて』が、日本はじめ世界各国で大ヒットし、以来、北欧ジャズ・ポップス・シーンを代表するシンガーとして活躍している。当時はポップよりのものであったが、2000年発表の『Port of Call』、2003年『Nightwatch』よりジャズ・ピアニストのトルド・グスタフセンを起用したことより、ジャズよりの作品になって近年はもっぱらジャズに傾倒している経過で、キャリア40年となる。又ヘルゲ・リエン(↑右)もそうであるようにノルウエーには結構親日家が多く、彼女もその一人で、1991年発表の『Quiet Place〜心のコラージュ』には「Kyoto Wind」という曲を、さらに2001年発表の『At First Light 初めてのときめき』には「Japanese Blue」という曲をそれぞれ収録している。

(Tracklist)

1. You Are the Very Moon (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
2. Lover Man (Håkon Kornstad)
3 Mamma og pappa synger00:36
4. A Perfect Night to Fall in Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
5. Vekket i tide (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
6. Before You Happened to Me
7 Silje synger00:58
8. Dance me Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
9. My Man My Man
10. Brooklyn Rain (Håkon Kornstad)
11. Here There and Everywhere
12 Silje og pappa snakker00:48
13. Tomorrow We'll Figure Out the Rest (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)

 両親への深い思いが込められているというだけあって、とにかく心温まるような素直にして愛情にあふれた優しいヴォーカルと曲いうアルバムに仕上がっている。遠い日の記憶、家族との交わり、そして経てきたさまざまな人生の物語に思いで込めて演じられている楽曲を収録されていて、Helge Lien(ピアノ)、Jarle Vespestad(ドラムス)、Finn Guttormsen(ベース)、George Wadenius(ギター)、Håkon Kornstad(サックス)といったヨーロッパを代表するジャズ・ミュージシャンが彼女をサポートし、ヴィンス・メンドーザが、今作では5曲においてスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、作品にジャズというよりはジャンルを超えた広い世界を描くムードを真摯に演じて盛り上げている。ジャズ・アンサンブルとオーケストラの競演で支えているわけだ(↓は両親とビニール盤アルバムの完成を喜ぶセリア)

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 彼女のヴォーカルは、まず若い印象で驚くが、一層癖のない表現の世界にあって、ジャズといつた世界とはむしろ別物に感ずる。M4." A Perfect Night to Fall in Love "(恋に落ちるには最適な夜)は、オーケストラとバッキング・ヴォーカルが入ってむしろ荘厳に近い雰囲気を盛り上げるところが印象深い。
   又M3.7.12は、彼女や両親との交わりの思い出の録音された会話や歌を挿入して一層のムード盛り上げを図っているのも、如何にも個人的な世界ではあるがアルバムの充実度を図っている。
 M8." Dance me Love"はゆつたりとした曲で、ストリングスの美しさ、ピアノの美しさと静かに語るドラムスの響きと、曲の演奏も聴きどころで、彼女の歌い上げるヴォーカルも見事である。

 いずれにしても聴いていて印象は極めて良い。そんな両親への感謝の世界を知らしめたと言う彼女のアルバム造りも一つの区切りとしては、意義があったと思うし、聴く方もわが身に置き換えて感謝の気持ちを持てたということであれば有意義である。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      87/100

(試聴)

 

 

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2025年3月23日 (日)

ダイアナ・パントン DIANA PANTON 「SOFT WIND AND ROSES」

相変わらず清楚可憐な抒情派歌唱で・・・

<Jazz, Pop>

DIANA PANTON 「 SOFT WIND AND ROSES  カヴァーズ〜私の好きな歌
SPOON / JPN / ESPC-1001 / 2025

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Diana Panton (vocal)
Reg Schwager (acoustic guitar, electric guitar)
Don Thompson (piano, vibraphone, bass, electric bass, keyboard, arrangement)

Recorded /mixeded / Mastered by Chad Irschick at Inception Sound Studios, Toronto, Canada, 2024

Images663955736w   入れ込んでいるわけでもないのだが、なんとなくニュー・リリースとなると買ってしまうお馴染みカナダの人気歌姫ダイアナ・パントン(カナダ-オンタリオ州ハミルトン生まれ、→)の、2年ぶりとなる待望のニュー・アルバムだ。今回のアルバムは、例によってドン・トンプソン(p,vib,b他、↓左)&レグ・シュワガー(g、↓右)のバックアップを得ての、ポップス・ソングス・カヴァー集。この日本盤は、元Muzakの福井亮司氏が立ち上げた新レーベルspoonからのリリースで記念すべき第一号。

 ダイアナ・パントンも既にカナダ・ジャズ界の重鎮ドン・トンプソンのサポートを得て2005年に『Yesterday Perhaps』でアルバム・デビューだから20年のキャリアとなる。カナダのグラミー賞に相当するJUNO Awardの常連でもあり、『RED』は2015年度JUNO Awardの最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞に輝いた。本国カナダはもちろん、米国、ヨーロッパ、アジアでも結構多くの注目を集める。
 前作は『BLUE』(2022)では、ようやくかなり大人の味になってきたのだが、もうおそらく40歳となる。しかしその割にはあどけなさの残った優しさ溢れる歌声はジャズ・ヴォーカルの中では異彩を放っており、醸し出すインティメイトにして清楚可憐な雰囲気は日本人好みの世界なのかもしれない。今作は日頃彼女が口ぶさむ歌といった感じのものを集めた作品集で、Jazz歌唱の世界に導いた父親や彼女の周りの人達への感謝の作品集と言った性格のものの様だ。

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(Tracklist)

01. Your Song
02. (They Long To Be) Close To You
03. Secret Heart
04. Sweet Happy Life
05. A Wish (Valentine)
06. How Deep Is Your Love
07. Pussywillows Cat Tails
08. Here There And Everywhere
09. You And I (Voce E Eu)
10. And I Love You So
11. Until It's Time For You To Go
12. Hey That's No Way To Say Goodbye
13. Snow
14. Both Sides Now

 

 選曲はカナダのシンガー・ソングライターの曲を中心に60-70年代のロック、ポップスやボサノヴァなどのポピュラーな彼女のお気に入りの曲となっている。
 オープニングはエルトン・ジョンの代表曲M01. "Your Song"で、これがなかなか彼女らしい詩の意味をかみしめて美しく歌い上げる良い出来だ。続いてカーペンターズのヒット曲M02. "(They Long To Be) Close To You「遥かなる影」"と快調な出だし。
   M07. "Pussywillows Cat Tails"は、いかにも物語を聴かせるような味のある仕上げ。M08."Here There And Everywhere"はビートルズの曲も登場するが、意外にしっとりと演じられている。M04." Sweet Happy Life"M09."You And I (Voce E Eu)"のように意外にもボサノヴァ曲も登場する。ギターの演奏もジャズ色豊かに演じて、彼女の歌とともに爽やかでこのアルバムの色付けにうまく貢献している。M11." Until It's Time For You To Go"のようにエルヴィス・プレスリーの世界まで熟してしまうのには驚きだ。
更にM12."Hey That's No Way To Say Goodbye"はレナード・コーエン、M14."Both Sides Now「青春の光と影」"はジョニ・ミッチェルと、この一種独特な世界を持つ二人の曲と歌を美しい詩情の世界に歌い上げているところはなかなかのものである。

 とにかく、誠心誠意優しさの中に、ごく自然体でのなんとなく可愛らしさと美しさを描くパントンの歌には恐れ入る。これもトンプソンの編曲効果が大きいのかもしれない。シュワガーのギターも優しく響く。いわゆるジャズといった世界からは一歩別世界のように感ずるところもないではないが、こんな世界も時には良いものだ。特に有名なミュージシャンの歌う曲は、おそらくそれなりに気になるものと思われるが、ここでは彼女の世界がちゃんとあるところが立派だ。
 又録音・ミキシングにおいて、彼女の声を最も前面に持して息遣いまで表現しているところは、彼女のヴォーカル・アルバムはそれもありだと思わせるには十分な見事な仕上げであった。

(評価)
□ 選曲・編曲・歌 :   88/100
□   録音      :   87/100

(試聴)

 

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2025年1月28日 (火)

デヴィット・キルモア David Gilmour 「MADISON SQUARE GARDEN 2024」

相変わらずのアメリカン・ミュージック・ショー化

<Progressive Rock, Popular>

David Gilmour 「MADISON SQUARE GARDEN 2024」
Madison Aquare Garden, New York, NY, USA 10th November 2024
DVD / Amity 795 / COLOUR NTSC Approx.164min / 2024

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 これは、デヴィット・ギルモアの昨年末のMadison Square Gardenのライブ映像版。

 歴代60年代ロックのミュージシャンも、なんと80歳前後という歳を迎えている。そんな中でもかって3大プログレッシブ・ロック・グループと言われたキング・クリムゾン、ピンク・フロイド、イエスは、それぞれ様々なスタイルではあるが、現在も第一線にあるというのは驚きである。それには、彼らがロックというジャンルにおいても、当時プログレッシブ(進歩する、前進する)と言われた因子をはらみつつ、リスナーの心を捉えてきたということに尽きると思うが、今日の活動を見ても第一線にそれなりの力を発揮している事には驚きと言っていいのだろう。

 さてそのピンク・フロイドだが、結成当時からのロジャー・ウォーターズ(↓上)は、今年82歳になるが、現在はソロ・アーティストとして'23年までも大々的世界ツアー(『「THIS IS NOT A DRILL 」ツアー』)を敢行し、ピンク・フロイド時代の彼の曲やソロ時代になつての曲を展開して反戦・反核のアジテーションをも行って社会的・音楽的話題を残してる。そしてその上にアルバム『The Dark Side of The Moon Redux』をリリース、若き50年前から今の姿を見直している。又ニック・メイスン(↓下)も81歳で、2023年から今年にかけて新グループを結成し『 saucerful of secrets tour 』を展開、懐かしのピンク・フロイドの原点に近いアルバムからの曲群で好評を得ている。

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Roger Waters「This is not a Drill Tour」
  

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Nick Mason「saucerful of secrets tour」


 一方メンバーの少々若いデヴィット・ギルモアは今年79歳になるところだが、昨年ソロアルバム『LUCK AND STRANGE(邂逅)』リリースし、その後のローマ・ロンドン・北米ツアー『LUCK AND STRANGE Tour』を行った。それがここで取り上げたこのブートで映像盤である。 私から見ると三者ともかってのピンク・フロイド時代の曲も多くを演じているが、全く印象の違う世界を醸し出しているのが面白い。まあ、それだけ個性があるということにもなって、それはそれ悪いことではない。

 ギルモアの昨年9月上旬ローマから始まったツアーのファイナルとなる北米ツアーの11月10日のニューヨークは Madison Square Gardenに於けるライブの全記録だ。残念ながらプロショットではない。しかしマルチ・カメラ仕様となるハイクオリティー・オーディエンス映像にて2時間44分にわたりフル収録している。これはWEB上にアップされた映像を元に、海外ファンの複数のアングル映像を最新機器を用いてマルチ化しプロショットに近いモノに仕上げたもので、アリーナ至近距離からのカメラやステージ全体を体感できるスタンド席カメラ、さらに他にも多彩なアングルを納めている。そしておまけにイメージ映像も挿入されており、黒猫や時計、太陽など、曲のイメージに沿った映像が差し込まれ、時には参加メンバーの写真やギルモアのオフショットまで登場する結構凝った編集だ。音声パートもバラバラの映像からの音源をバランス調整も施し違和感なくライブ全編を再現している。まあオーディエンスによる映像モノとしてはなかなか上出来の部類に属するものだ。

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David Gilmour 「LUCK AND STRANGE Tour」

(LUCK AND STRANGE Tour-Tracklist)
(Disc 1) : 1. Guy Pratt Intro 2. 5 A.M. 3. Black Cat 4. Luck And Strange 5. Speak To Me 6. Breathe 7. Time 8. Breathe (reprise) 9. Fat Old Sun 10. Marooned 11. A Single Spark 12. Wish You Were Here 13. Band Introductions 14. Vita Brevis 15. Between Two Points 16. High Hopes
(Disc 2) : 1. Sorrow 2. The Piper's Call 3. A Great Day For Freedom(『The Division Bell』) 4. In Any Tongue 5. Band Crew Introductions 6. The Great Gig In The Sky 7. A Boat Lies Waiting 8. MC 9. Coming Back To Life 10. MC (dedicated to Polly Samson) 11. Dark and Velvet Nights 12. Sings 13. Scattered 14.Comfortably Numb
-Bonus Footage- 15. Luck and Strange

 内容は上記の通りで、古き良き時代のピンク・フロイドの『狂気』を中心とした曲群に、ロジャー・ウォーターズの脱退後のギルモア主導型の時代の曲を交えて、今回の彼のソロ・アルバム『邂逅』から全曲披露している。所謂、1950年代ロック・ミュージックはエレクトリック・ギターのサウンドが一つのポピュラー界にインパクトを与えた重要な因子であって、プレスリーから始まってビートルズもエレキを抱えて若者にアッピールした。1960年代になっての3大プログレ・バンドもそのギター・サウンドはロック・ミュージックの中心サウンドは変わりなく、キーボードが加わって特殊な世界をも構築した。そんなところで、ピンク・フロイドに於いてもシド・バレットのバンド離脱後のウォーターズの構想に乗ってのギルモア加入、そしてギルモア・ギター・サウンドは大きな役割を果たした。

 従って、ピンク・フロイドの1970年代の大成功で、ギルモアのギター・サウンドを愛する者も多く今日まで来ていて、今回のアルバムそしてツアーによるライブはそれなりに大成功している。そしてアルバム『飛翔』と『邂逅』からのソロと、フロイド・ナンバーがちょうど半々づつというバランスの良い構成で、ちなみに『邂逅』からはやはりタイトル・ナンバーを含み計9曲を披露(ここには、娘と息子の二人も参加)。フロイド・ナンバーとしては、今回は定番ばかりでなく、70年代の「Breathe (In The Air)」や、90年代の彼の時代になってのアルバム『対』よりの「A Great Day For Freedom」「Marooned」などの4曲もセットインしているのが一応の注目点。加えてツアー・メンバーとして参加しているギルモアの娘ロマニー・ギルモアも、「Vita Brevis」「Between Two Points」でボーカルやハープを披露したりと、所謂、ロック・コンセプトの流れる社会派ウォーターズのライブのような緊迫感と世界の暗部に迫るソロ・ツアーとは違い、若干お祭り的ビック・ショーに終わらせている。そしてやはり観衆は昔のピンク・フロイドが聴きたいので、79年のウォーターズの自伝とアーティストの狂気を描いた『ザ・ウォール』からの「 Comfortably Numb」などが一番盛り上がっていて、今回のアルバムからの曲は静かに聴いている。

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 こうして、ギルモアのライブ・ステージを観ていても、やはり全盛期からもう数十年経ったピンク・フロイドの人気は衰えず、ギルモア・ギター・ファンは現在も健在だ。しかし華々しい中にアメリカ的ミュージック・ショー因子が強いのは、ギルモアのアルバムにおける曲作りに大きな役割を果たしている女房のポリー・サムソンの影響が大きい事は理解しているが(テーマは「老化と死」にあると言うが)、しかしやはりロック愛好家として若干空しくなったのは、歳はとったとはいえ、かってのロックの根底に流れる時代を見つめ、社会というものに対してのコンセプトを持って、そして問題意識を持ち、訴えて、そして大衆に主張してゆく事の価値感が薄れていることは残念である。かってウォーターズが描いたアルバム『狂気』の曲「Money」、『炎』の「Welcome To The Machine」で描いた恐ろしい現実、レコードの売り上げやソーシャルメディアでの成功を求める業界やのアーティストの欲望によって音楽の姿がしばしば変わる時代に警告を発していたが、ギルモアはむしろウォーターズに言わせると"お人好し的人間"であるだけに、なんとなくそんな世界に流されていないだろうかと・・・もう80歳になろうとしている人間に言うことでもないが、ちょっと頭によぎるものがあるのだ。

 

Fozzn84xsae7176  ウォーターズにおいては、むしろ偏屈とも言われる一貫している思想として、父親の戦死のトラウマと人生経験から流れる「いかなるものであれ、戦争で人が死ぬことは絶対悪」とすることに基ずくものから派生した「社会への批判と要求」は確固としているものがあり、そしてもともとピンク・フロイドというバンド自身が、シド・バレットの脱落後において、創造的才能creative GeniusとかBrain頭脳と言われるロジャー・ウォーターズが果たした役割により最盛期を創り上げてきた。その結果アルバムにはそのような核が存在していた。つまり60-70年代のロック・グループ・メンバーのロック・アルバムやロック・ショーと言うモノは、問題意識や形はいろいろであっても、そうしたものが存在していたのだ。そしてその結果、それが無いとどこか虚しさが感じてしまうところがあるのである。ジョン・レノンの居ないビートルズの寂しさを見てもわかる。やはりそうした根底にあるものの重要性は、特にロックにおいては、時代によって質の変化は当然しつつも、演ずる音楽を倍増するエネルギーとして大きく左右してきたし、これからもするであろう事は間違いない処と思う。

 今、かってのピンク・フロイドの三人が、それぞれの道で三人三様に活躍しているのを見ると、まあ、人間は多くの経験と歩んできた社会や人間関係によってそれぞれが個性ある人生を築いている訳で、今この三人でピンク・フロイドを再結成ということを期待しても、それにはあまりにも非現実的であると思うが、強力なプロデューサーによって、ただそのバチバチした対立と共存で各々の優れたところを凝集出来、アルバムが作られるなんて事があったとしたら、それはそれ恐ろしいロック・アルバムが作られるのではないかと、こうしたライブ・アルバムを見るにつけ、とんでもない幻想(?)を抱いてしまうというのは、シド・バレット時代からピンク・フロイドを愛してきた人間の哀しき性(さが)であるのだ。

(評価)
□ 曲・演奏      :   88/100
□   画像・録音 : 80/100

(参考視聴)

 *

 

 

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2024年10月16日 (水)

メラニー・デ・ビアシオ Melanie De Biasio 「Il Viaggio」

移民者であるルーツに自分を見つめる探索の旅から生まれた世界

<Electronic,  Jazz,  Pop>  (Style : Easy Listening, Ambient)

Melanie De Biasio 「Il Viaggio」
Pias Le Label / Germany / PIASLL202CD / 2023

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Malenie De Biasio : Vocals,Flute,Lansdcapes,Guitar 
Pascal N.Paulus : Keyboards, Clavinet, Rjhodes,Guitars,Drums etc.
David Baron : Wurlitzer,Mellotron,Synthetisers,Felt Piano
Rubin Kodheli : cello

   私が2014年の2ndアルバム『No Real』以来注目している女性ジャズ・SSW/Singer のメラニー・デ・ビアシオの5作目のアルバム。これは昨年末にリリースされたが、取り上げるのをためらって今になってしまった。過去のアルバムはやはりここで考察・悪戦苦闘したのだが、それにも増してこのアルバムとはある種の覚悟を持って入って行かないと対応が難しい。と、言うのも過去のアルバムを聴きこんでのイメージから発展しないと、まともな理解が出来ないところにあるからだ。

Melanie_de_biasio_credit_jer_me_witzw  メラニー・デ・ビアシオ(Melanie De Biasio、1978年7月12日 - )は、ベルギーのジャズ歌手、フルート奏者、作曲家。ベルギー人の母とイタリア人の父の間にシャルルロワで生まれた。3歳からバレエを習い、8歳からウエスタン・コンサートフルートを習い始める。ニルヴァーナ、ポーティスヘッド、ピンク・フロイド、ジェスロ・タルなどのロック・グループのファンだった彼女は、15歳のときにしばらくの間ロックバンドに参加していた。ブリュッセル王立音楽院で3年間の歌唱学を学んだ後、彼女は最高の栄誉を持つ一等賞を受賞。2004年、ロシアでのツアー中に、深刻な肺感染症にかかり、丸1年間歌唱能力を失った。この間、彼女は特徴的なささやき声の詠唱を発達させた。

 彼女のルーツはジャズだが、長年ジャズを、または少なくとも純粋なジャズを作っていない。彼女の過去のアルバムは、2007年『A Stomach Is Burning(胃が焼けている)』、 2013年『No Deal(合意なし)』、2016年『Blackened Cities(黒く染まった都市)』 (EP、これが又かなりの問題作) 、2017年『Liles』とあって、今作は6年ぶりの第5作だった。
 このアルバム『Il Viaggio』(旅)のアイデアは、2021年に学際的な芸術祭「Europalia」がデ・ビアシオに"Trains & Tracks(列車と線路)"をテーマにするよう依頼したことから生まれたという。それをきっかけに彼女は、父方の祖父母がイタリアからベルギーへの移民のルートを再構築してみることを決意した。古いカメラと軽量の録音機器だけを武器にフィールドレコーディングを行ったメラニー・デ・ビアシオは、イタリアのアブルッツォ州(下写真のような高原や山岳地帯が多い=snsより借用)にある小さな山間の村レットマノッペッロに一人で定住した。そしてそこから家族の出身地であり、子供の頃に夏を過ごしたドロミテを旅した。この旅こそが彼女の内省的な姿に、又それだけでなく、この作品作りに中心的な影響をもたらしたというのである。

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Disc1
Lay Your Ear To The Rail
1 Lay Your Ear to the Rail
2 Nonnarina
3 Il Vento
4 We Never Kneel to Pray
5 I'm Looking for
6 Mi Ricordo Di Te
7 Chiesa
8 Now Is Narrow
9 San Liberatore
Disc2
The Chaos Azure
10 The Chaos Azure
11 Alba

 このアルバムは、彼女の「芸術的進化と音楽技術への献身の証」だと言わしめている。音楽的、肉体的、精神的な再生のための探求であり、目覚めた感情的な記憶から生まれた作品だと言う。コンクリート(楽器ではなく、生活音や騒音、川の流れや鳥の音などの自然の音を使って創作される音楽)とアンビエントが融合し、映画一シーンのような自然に恵まれた中での人間の営む静かな風景を見つめるが如くの世界に引き込まれる。これにはフィールドレコーディングとか、おそらくサウンド・コラージュも行われての曲作りだったと推測する。そして収録された11曲が、一つの世界として聴き込む必要があるアルバム造りである。さらに幸い私はイタリアの長靴のような形の国を車で南から北へ縦断した経験があるが、あの途中で見た山や高原に点在する古い村落などを見たことが、なんとなくこのアルバムに描かれる世界が見えてくるのである。

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 まずは、オープニングトラックのM1."Lay Your Ear to the Rail"から音の流れに魅了される。メラニーのバラードは、ジャズに根ざしながらも、そんなジャンルを超越した普遍的な魅力を持っており、ささやく歌詞が、移民の安堵のない不安定な荒涼たる世界にすぐに引き混まれてしまう。
 そしてM2."Nonnarina"に入ると、いかにも親密な人間の姿が浮かび上がるが如く彼女の歌が響く。そしてM3."Il Vento"では深遠な世界に沈み込む。
 そしてM4." We Never Kneel to Pray"においては祈りの世界に導いている。
 M5."I'm Looking for"のギターの響きは、決して明るい安堵の世界でなく暗雲が広がるような展開に。しかし続くM6."Mi Ricordo Di Te"のギターと彼女の歌声に救われる。
 しかしM7."Chiesa"では再びアルバムの冒頭に引き戻される。不安に満ちたこの世界こそが、彼女の発見した現実なのかもしれない。彼女の声がアンビエントな空間に響く。
 M10."The Chaos Azure" のチェロの響きは深層心理への響きが感じられる。M11."Alba"はミニマル奏法で永遠なる大地と自然と人間の営みの世界からの別れを描くのか、是非聴いてほしい18分の世界。

 こうして彼女のルーツを探索する旅が進行し、果たして得られたモノは何かは私のような聴く者には解らない。ただシンセの響きに、彼女の不思議な歌声、そしてギターが異様な世界を描き、彼女のフルートが深遠な人間集団を表現する。単なる回顧に終わらない彼女の世界の複雑性が深く印象に残るのである。
 このアルバムは、ジャズ、オルタナティブ、チルアウト(電子音楽のスローテンポなさまざまな形式の音楽を表す包括的な言葉として)のジャンルが調和して融合しており深みのある世界は抜きんでている、不思議にして複雑であるが普遍的な聴覚体験をさせてもらうことが出来る。これには、Pascal N.Paulus (Key, Guitar 下左)とDavid Baron(Mellotron,Synthetisers 下右)の力も大きいと推測している。


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  不思議に何度聴いても飽きない、それは歌詞の意味がまったく解らないところにあって、それがむしろ聴く者の個人の世界に一つの空想空間を築く様に誘導してくれるのだ。私のこのアルバムとの格闘はまだまだ続いている。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  95/100
□ 録音      88/100

(試聴)

*
"Lay Your Ear To The Rail"

(解説) イタリア・アブルッツォ州   (snsを参考にした)
 ローマの東に位置するイタリアの州で、アドリア海沿岸とアペニン山脈に面しています。内陸部には険しい山岳地帯が広がり、多くが国立公園や自然保護区に指定されている。丘の上に築かれている町は歴史が古く、中世やルネサンス時代にまでさかのぼる。州都は城壁都市のラクイラですが、2009 年に地震が発生し被害を受けた。州の65%が山岳地帯で、アドリア海とアペニン山脈の間には丘陵地帯があり、平地はわずか1%しかない。中央イタリアに位置していますが、1860年にイタリア王国に統一されるまではナポリ王国の領土であったため、歴史的にも文化的にもイタリア南部に近いと言える。山岳が多いこともあり人口密度が低く、他の南イタリアの州同様経済は遅れており、戦前まではイタリアで最も貧しい州の一つでした。1960年代以降は、首都ローマとアブルッツォを結ぶ高速道路の完成を契機に工業化が進みました。ドウ畑は海と山に挟まれた丘陵地帯に広がっている。基本的に夏は暑く乾燥し、冬は温暖で雨が多い地中海性気候だが、内陸部の標高の高いエリアは冷涼です。ただ、アドリア海から内陸に入るとすぐに丘陵地帯で、30〜50kmで山岳地帯となるため、ほとんどのブドウ畑は海と山の両方の影響を受ける。

 レットマノッペッロ(Lettomanoppello)は、イタリアのアブルッツォ州に位置する小さな村。自然豊かな環境に囲まれた村で、特にマイエッラ国立公園の一部に位置しているため、ハイキングや自然愛好家に人気の場所。村自体は人口が非常に少なく、歴史的な建造物や教会が点在しています。主な見どころの一つとして、石材の加工で知られるこの地域特有の建築物や彫刻があり、古くから採石業が盛ん。特に、白色の石灰岩「マイエッラ石」がこの地域で採れ、伝統的な建物や彫刻に使用されている。住民は、地域の伝統や文化を大切にしており、村では小さな祭りやイベントが開催されることもある。アブルッツォ州全体としても、豊かな食文化があり、特にパスタやワイン、チーズなどが有名です。歴史的には、レットマノッペッロは中世からの村であり、その歴史を今も感じることができる静かで魅力的な場所。

 

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2024年5月29日 (水)

フランス・バク、シーネ・エイ Frans Bak feat.Sinne Eeg 「Softer Than You Know」

人生の感謝の世界を歌い上げる

<Jazz, Popular>

Frans Bak feat.Sinne Eeg 「Softer Than You Know」
Storyville Records / Import / 101 4359 / 2024

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Frans Bak - piano
Sinne Eeg - vocals
Peter Sprague - guitar
Thomas Vang - bass
Emil de Waal - drums
August Wanngren - choir (track 1,3, 5, 6, 7)
Fredrik Lundin - saxophone (track 4)
Hans Ulrik - saxophone (track 6)

All tracks = Music: Frans Bak, Lyrics: Helle Hansen
Recording: The Village Recording, Copenhagen, Denmark, September 2022

 デンマークの重鎮作曲家兼ピアニスト、フランス・バク(下中央)が、自らのオリジナル曲で最新プロジェクトとしてバラード・アルバムをリリース。曲の作詞は、やはりデンマークでミュージシャン・作詞家・教師で活躍しているヘレ・ハンセン(下右)によるものとか。 収録曲は10曲のバラードで構成され、日本でも人気のヴォーカリスト、 シーネ・エイ(下左)がボーカルを担当ということで聴くに至ったものである。

 フランス・バクFrans Bak(1958年デンマーク・コペンハーゲン生まれ)は、デンマーク王立音楽院を卒業後、数々のバンドを結成し、クラシック音楽をさまざまなジャンル、サウンド、現代のテクノロジーと融合させ、アンビエント、メロディック、アトモスフィアなど、独自のサウンドを生み出してきた。80年代から90年代にかけて、ピアニスト、バンドリーダー、作曲家としての役割を両立させ開花。デンマークの多くのアーティストとコラボレーションし、映画音楽やTVシリーズの音楽の作曲でも高い評価を得ている。特に、映画のサウンドトラックの世界に25年の国際的なキャリアを築いてきている。
 シーネ・エイSinne Eeg(1977年デンマーク生まれ)はスカンジナビア屈指の女性ジャズ・ヴォーカリストと言われ、このブログでも何度か登場している。彼女の感情豊かな声で聴衆を魅了し、魅惑的なパフォーマンスとともに国際的な称賛と人気を得ている。デンマーク音楽賞の最優秀ボーカル・ジャズ・アルバム賞を4回受賞するなど、数々の賞と称賛を受けている。

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 レコーディングには、トーマス・ヴァング(ベース)、エミール・デ・ワール(ドラムス)、ピーター・デ・ワール(ベース)、ハンス・ウルリック(サックス奏者)など、豪華なメンバーが参加。

(Tracklist)

1. Softer Than You Know
2. Lonely Waltz
3. Out of the Blue
4. Stay With Me
5. 1-2-3
6. Ready Again
7. Is This It
8. When I’m Near You
9. I Will Never Let You Down
10. Close Your Eyes

  フランス・バクが、彼の音楽の原点へのノスタルジックな回帰を示す最新プロジェクトで、ジャズとポップスの融合と表現しているところのゆったりとしたソウルフルなメロディーにての曲で、しかもヘレ・ハンセンの歌詞がまた心に響くもので、このバラードアルバムを造り上げている。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの間、バクは自分のバンドのサウンドに夢を抱き、サックス奏者のフレドリック・ランディンとの偶然の出会いがきっかけで音楽への情熱が再燃したとか。そして作詞家のヘレ・ハンセンとのコラボレーションによって曲を仕上げて、シーネ・エイの魅惑的な歌声を得て、フルアルバムの制作に至ったようだ。

 とにかく非常に優しく聴くものすべてに心地よさを提供できるような心温まる曲であり、シーネ・エイもジャズ・ヴォーカルというイメージでなく、ちょっと世界が変わったような自分を見つめる素直な真摯な気持ちで歌い上げている。(下に歌詞を紹介する)

(タイトル曲の歌詞)「Softer Than You Know」
5946964413926w In the silence
Within a moment
All becomes apparent
And it′s clearer than you know
And it's nearer than you know

Whirls of snowflakes
A dance on ice skates
Frosty childhood keepsakes
And it′s brighter than you know
And it's lighter than you know

Every memory unlocking a world
That you used to understand
And its magic is fully unfurled
In the end descending
Till it lands on your hand

Like a sunray
A flying bobsleigh
Candles on a birthday
And it's softer than you know
Like an ember, like a glow
Like the whisper of the snow
So much softer than you know

静寂の中で
一瞬のうちに
すべてが明らかになります
そして、それはあなたが知っているよりも明確です
そして、それはあなたが知っているよりも近いです

雪の渦
アイススケートの上でのダンス
冷ややかな子供時代の記念品
そして、それはあなたが知っているよりも明るいです
そして、それはあなたが知っているよりも軽いです

すべての記憶が世界を解き放つ
あなたが理解していたこと
そして、その魔法は完全に展開されます
最後は下降
それがあなたの手に着地するまで

太陽の光のように
空飛ぶボブスレー
誕生日のキャンドル
そして、それはあなたが知っているよりも柔らかいです
燃えさしのように、輝きのように
雪のささやきのように
あなたが知っているよりもずっと柔らかい

 こんな雰囲気でアルバム全体が経過する。感謝の心の歌と言って良いのかも・・・クリスマスソングを聴いているような雰囲気もあり、どうもジャズと言うには別世界と私は思うのであるが(M4"Stay With Me"はLundinのSaxが入って少々ジャズっぽいが)、時にはこの世界も良いものである。

(評価)
□ 曲・歌詞・歌  88/100
□ 録音      85/100
(試聴)

 

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2023年9月28日 (木)

レイヴェイ Laufey 「Bewitched」

ファンタジー・ポップで、・・ジャズ色を期待して聴かない方がいい

<pop, Jazz>

Laufey 「Bewitched」
Laufey-AWAL / Import / LAULP003CD / 2023

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Laufey : Vocals, Viola, Phonographic
Ted Case : piano

Thorleifur Gaukur Davidsson : Slide Guitar
Simon Moullier : Vibraphone
Junia Lin : Violin
Carson Grant : Drums
Jordan Rose : Drums

Philharmonia Orchestra (Orchestration : HalRosenfeld)

 ここでも既に取上げたLaufey(lāy-vāy=レイヴェイ 、本名Laufey Lin Jōnsdēttir, 1999年生まれ、アイスランド出身)の早々の第2弾だ。彼女は2022年に発表した1stフルアルバム『Everything I Know About Love』は、ポップな中にジェントリーでクラシカルなジャズっぽさが見え隠れしての独自のサウンドが、彼女の魅力ある声と共に各方面から高い評価を受けた。今作2ndアルバムは、宣伝では、ジャズ色が更に増したとも言っており、取り敢えず孫の音楽を聴くような感覚で聴いてみた次第である。

Laufeypressphotosalbumreleasew  曲は一曲"Misty"以外全て彼女の手によるもので、SSWとしての技量も発揮している。
 タイトル「Bewitched」 とは"魅せられた"、"魔法をかけられた"の意味だが、1960代後期から1970年初めにテレビ・ドラマで人気を博した「奥様は魔女」とのタイトルにならっての意味で使われているようなフシもあり・・・、果たしてこのアルバムの目指すところは?と、ちょっと気になるところである。
 又、彼女は「アルバムタイトル曲"Bewitched"では、『ファンタジア』や『シンデレラ』などの古いディズニー映画からインスピレーションを得たんです。そのジャンルの映画のスコアは本当に私に刺激を与えました。彼らは音楽や楽器で魔法を見せてくれたんです。その映画の曲の多くは、今日の偉大なジャズミュージシャンたちが演奏するジャズスタンダードになりました。」と言っている。果たしてこの感覚がジャズというところに結び付く何かが有るのだろうか、それがいかなる形で表れてくるかという事もポイントとして聴いてみたいのである。さらにテーマとして引き続き”愛”に焦点を当てているとのこと、どんな進歩が今作であるのか、これも一つの注目点であろう。

(Tracklist)
1.Dreamer
2.Second Best
3.Haunted
4.Must Be Love
5.While You Were Sleeping
6.Lovesick
7.California and Me
8.Nocturne (Interlude) 
9.Promise
10.From the Start
11.Misty
12.Serendipity
13.Letter to My 13 Year Old Self
14.Bewitched

 まず、スタートのM1."Dreamer"からソフトな混成合唱と共にスタート、きつさのない比較的ソフトな声は人気の一つだろう。ただムードは若き女性の夢を描く古きデズニー映画のムード。 
 M2."Second Best"ギターのバックにしての彼女の低音のしっとりヴォーカルは聴き応えある。
 曲の流れで、ストリングスオーケストラがバツクに顔だすがちょっと古臭く、ジャズ・ムードではない。
 M4."Must Be Love"出だしから少しギターとの彼女の歌のデュオ・スタイル、この流れはなかなかいいのだが、そのうち合唱がバックに入ってきて美しく仕上げようとするところがダサい。
 M6."Lovesick" やはり合唱とオーケストラ・サウンドでの盛り上がりを図る手法は同じ。ジャズとしては聴かない方がいい。
 M8."Nocturne" 何故かここに突然間奏ということでピアノソロが入る。アルバム構成の手法としては面白い。
 M9."Promise" スロー・バラード調の感情輸入の歌いこみはそれなりに旨く、聴き応えあり。
 M10."From the Start" 突如、ガラッとムード変わり彼女が愛するというボサ・ノバの登場。ボサ・ノバの描く世界に応える出来として感じなかった。
 M.11"Misty" どうしてか解らないが、この曲のみジャズ・スタンダードが登場する。しかしなかなか出来は面白い。彼女のこの曲だけ別に聴いたことあり、それなりのジャズとしての新感覚の世界として興味を持って、聴いてみたいと思ったが、このアルバムの他の曲にその期待は応えていないので注意。

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 アルバム・タイトル曲M14."奥様は魔女"に期待してみたが、彼女が言う「私のファンは実際にはクラシックやジャズの方が好きだということがわかったので、今回はそれに全力で寄り添って、私が好きな音楽を作ることができました。」と言っているには、ちょっと期待を裏切って、やはりデスニー・ファンタジー世界で終わってしまう。

 このアルバムは、全体に彼女自身が言っていたように、デズニーのファンタージー世界の因子の方を圧倒的に感じて、所謂ジャズ世界ではない。ジャズというのは形だけでなく歴史がある世界だ。デズニーの曲がジャズ・スタンダート化したのは、その演奏によってジャズに昇華したところにあり、そのものがジャズとして捕らえられたわけではない。ちょっとそんなところが勘違いしているような出来であった。ジャズと言われても、まだまだジャズ・ファンは納得しないと思う。
 しかし、彼女の演ずるところがこのスタイルだというのであれば、それはそれそれなりにファンは納得してゆくと思うので、あまりジャズ・ジャズと言わない方が良いのではとも思った次第。

 究極、悪いアルバムではないので、是非とも更なる発展を期待するのである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌 87/100 
□ 録音     87/100

(試聴)

 

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2023年9月23日 (土)

ミシェル・ンデゲオチエロ Meshell Ndegeocelle「The Omnichord Real Book」

孤高の世界からの一大絵巻を展開する

<Funk, Soul, Reggae, R&B, Jazz>

Meshell Ndegeocelle「The Omnichord Real Book」
Blue Note / Import / 4896894 / 2023
Digital File 88.2kHz/24bit Flac

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Meshell Ndegeocelle (Voc, Key, Bass, e-harp)

Jason Moran
Ambrose Akinmusire
Joel Ross
Jeff Parker
Brandee Younger
Julius Rodriguez
Mark Guiliana
Cory Henry
Joan As Police Woman
Thandiswa  (and others)

Gmn1w_20230920124801   ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello、本名: ミシェル・リン・ジョンソンMichelle Lynn Johnson、1968年8月29日 - )は、アメリカ合衆国の女性シンガーソングライター、ベーシスト、ボーカリストである。ベースのみならず、ギター・ドラム・キーボードといった楽器をこなすマルチ・ミュージシャンで、グラミー賞10度ノミネートの実績を誇る。今作は2018年以来となる待望のニュー・アルバムである。もともとネオ・ソウルのさきがけとして知られており、音楽的にはファンク、ソウル、ヒップホップ、レゲエ、ダブ、R&B、ロック、ジャズの要素を含むという彼女自身のオリジナルの世界であった。今回は名門ブルーノートへ移籍してのリリースで、いよいよジャズとしての本格的スタートとして期待されるところだ。
 今作は全曲ミシェル本人のもので、マルチ奏者/作曲家のジョシュ・ジョンソンがプロデュースを担当。さらに上記のようにジェフ・パーカー、マーク・ジュリアナなどジャズ界を中心に多くがゲストとして参加している。ジャズの因子は濃くなりつつも、彼女のルーツであるソウル、R&Bなど演じそれらを独自のサウンドへと構築しているところが聴きどころ。

  ミシェルは旧西独・ベルリン出身。米・ヴァージニア州へ移った後、ワシントンD.C.で育つ。ゴーゴー・ミュージック・シーンに加わってベースの腕を磨きながら、ハワード大学で音楽を学ぶ。その後、ニューヨークへ進出し、93年に『Plantation Lullabies』でアルバム・デビュー、既に30年のキャリアだ。翌年にジョン・メレンキャンプとのデュエット「ワイルド・ナイト」が全米トップ10のヒット。その後、多くの作品を発表し、グラミー賞ノミネートの常連にと評価は高い。スタジオ作品の前作は2018年の『Ventriloquism』。
  彼女の曲・歌詞にはアフロセントリズム(アフリカ系アメリカ人が,自らの起源をアフリカにもとめる思想。アフリカ中心主義)の世界観から、セクシュアリティ、ジェンダー、黒人のプライド、白人の人種差別のテーマが聴き取れる。

(Tracklist)

1.Georgia Ave (feat. Josh Johnson(sax,vo)) 2:40
2.An Invitation  2:21
3.Call The Tune (feat.Hanna Benn(vo))1:54
4.Good Good (feat. Jade Hicks(vo), Josh Johnson(sax, vo)) 3:28
5.Omnipuss 2:51
6.Clear Water (feat. Deantoni Parks(ds), Jeff Parker(eg), Sanford Biggers(vo))4:35
7.ASR (feat. Jeff Parker(eg)) 7:38
8.Gatsby (feat. Cory Henry(p), Joan As Police Woman(vo))  4:21
9.Towers (feat. Joel Ross(vib)) 3:35
10.Perceptions (feat. Jason Moran(p)) 2:14
11.THA KING (feat. Thandiswa(spoken words)) 0:27
12.Virgo (feat. Brandee Younger(harp), Julius Rodriguez(clavichord, organ)) 8:38
13.Burn Progression (feat. Hanna Benn(vo), Ambrose Akinmusire(tp)) 4:01
14.onelevensixteen 2:49
15.Vuma (feat. Thandiswa(spoken words), Joel Ross(vib)) 3:00
16.The 5th Dimension (feat. The Hawtplates(vo)) 5:24
17.Hole In The Bucket (feat. The Hawtplates(vo)) 5:30
18.Virgo 3 (feat. Oliver Lake (Arr.), Mark Guiliana(ds), Brandee Younger(harp), Josh Johnson(sax)) 6:53

 パンデミック期間中に音楽とじっくり向き合う時間を取ることが出来たというミシェルは、ブルーノート・デビューとなる本作について「昔からレコードのブルーノート・ロゴを見るのが好きだったわ。ジャズという言葉は私にはとても重いけど、自己表現を追い求めているこのレーベルに参加出来てとても感動している。このアルバムは、古いものを新しい方法で見るやり方について表現した作品で、両親が亡くなった時に全てが動き出したの。両親の死後、すべてが急速に変化し、私自身のものの見方も瞬く間に変わった」と語っている。そして「この作品は私の全てであり、私の旅、そして人生の一部よ」と言う。そんな気合いが入っているだけ一つの絵巻と言える充実感がある。
 タイトルは、Omnichordを使ってコロナ禍で自宅で今までの総決算を考えながら音楽製作をしていたことの表現らしい。

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 このように18曲73分という重量級で、曲はそのタイプも多彩である。リリース前に公開されM12.”Virgo”は近未来感覚というか宇宙感覚というか、なかなか味のある洒落たヴォーカルのアフロビートのジャズ、8分強の曲だがなかなか洗練されている。一方M15."Vuma"はヴォーカル・ムードは古典的アフリカンのイメージだ。
 M16."The 5th Dimension"はギターの響きが印象的でなかなか凝った曲で面白い。アルバムは、オープニングのM1."Georgia Ave"から多彩な楽器がバックで使われ、リズム感が快適である。このように全体にみてもしっとり感というものではない。
 ヴォーカルも多彩でバックはコーラスが効果を上げている。M2."An Invitation"はソフトでいいし、M8."Gatsby"のスロー・バラード調も良い。
 とにかく多彩で、M9"Towers "は他の曲とイメージが異なり、明るいポップの雰囲気であったり、M12."Virgo"はファンキーでかっこいい曲だ。

 私は、この世界は殆ど聴かないし、彼女の過去のアルバムも知らない方が多いので、曲の評価や味付けの内容の分析は全く出来ないのだが、過去の流れからみてちょっと違う世界なのかもしれないが、ハウス・ミュージックぽい曲の展開もあり、ディープ・ハウスを思わせるところもあった。
 しかし、まあフォークソウルの流れを重視したファンク、アフロビートの世界として聴きたいところだ。

 いずれにしても音楽技術の曲作りや演奏、歌にかなりの高度なところを感ずるし、なかなか味わい深い。ただ所謂ジャズ色はそう濃くなくて、このジャンルは簡単には語れない。今後がどんな方向に行くのかと注目したいところだ。

(評価)
□ 曲・演奏・歌   88/100
□ 録音       87/100

(試聴)
 

*

 

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2023年5月12日 (金)

ドミニク・ミラー Dominic Miller 「Vagabond」

南仏の自然の中から生まれた詩情豊かな作品

<Jazz>

Dominic Miller 「Vagabond」
ECM / Import / 4589048 / 2023

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Dominic Miller (g)
Jacob Karlzon (p)
Nicolas Fiszman (b)
Ziv Ravitz (d)

   これはドミニク・ミラーDominic MillerのギターによるECM作品である。2017年のアコースティックギターがメインの作品『Silent Light』(ECM5728484)に出会ってからもう5年以上になるのかと、ちょっと時間の経つのの速さに驚いているが、あの作品は繊細で美しい音色を奏でて、ECM的というか静かで穏やか、落ち着いた雰囲気が漂っていて素晴らしかった(マイルズ・ボウルドが時折パーカッションで参加しているがほぼ全編ソロ・ギタリストとしての作品)。そして2作目『Absinthe』(ECM6788468/2019=これはクインテット作品)を経て3作目となる作品だ。
 この今作『Vogabond』は、前作にも参加したベースのニコラ・フィズマン(ベルギー)に加え、イスラエル・ジャズ・シーンを牽引するドラマー、ジヴ・ラヴィッツとスウェーデンのピアニスト、ヤコブ・カールソンを迎えたカルテットのスタイルだ。そして全曲オリジナルで構成されている。

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   今作のタイトル"Vogabond"とは、"放浪者"という意味だが、ドミニクの亡き父が大切にしていたイギリスの詩人ジョン・メイスフィールドの同名の詩からとったものらしい。ドミニクは「私は自分を放浪者(ヴァガボンド)だとは思わないが、旅をする人々に共感しているし、一箇所に留まって毎日同じ人々に会うよりも、このライフスタイルを好む」と話しているが、実はその意味より"父親を回顧している"作品であるという事の意味が強そうだ。
 実際には、この2年はパンデミックもあって、ほとんど旅行する機会がなかったため、現在数年住んでいる南フランスの身近な環境に焦点を当て、新曲を書いたという。彼の説明では「このパンデミックの間、とても自然に私は南仏の周囲の環境に影響を受けました。私は何度も長い孤独な散歩に出かけ、田舎はいつの間にかこのアルバムにおける私のコラボレーターとなっていました。“Vaugines”(M4)は、私が歩いていた美しい小さな村のことですし、“Clandestine”(M5)は時々地元の人たちに会う隠れ家的なバーのことです。“Mi Viejo”(M7))は簡単に言うと、私のお父さんという意味です。」と。

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01. All Change
02. Cruel But Fair
03. Open Heart
04. Vaugines
05. Clandestin
06. Altea
07. Mi Viejo
08. Lone Waltz

  このアルバムは、2021年4月に南フランスで録音され、ECMマンフレッド・アイヒャーによるプロデュース作品となっている。スティングのドミニクを知る人からは、ロックからECMというとかなり不自然と思うだろうが、彼は1960年3月21日、アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ。バークレー音楽学校、ロンドン・ギルドホールスクールでクラシックを学んでいるのだ。ただ1991年にスティングのアルバム『ソウル・ケージ』に参加し、その後のスティングのツアー、レコーディングには欠かせないギタリストとなった。しかし彼の関心のある処、キース・ジャレットをはじめ、パット・メセニーやラルフ・タウナー、エグベルト・ジスモンチをはじめECM作がいろいろあったようだ。そうすると"成程、そうゆうことか"と、疑問も晴れてくる。

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  このアルバムでは、オープニングのM1." All Change"では、四者のそれぞれが一つの流れに向かって繊細にして多彩な演じ合いが、自己紹介的に聴きとれるが、M2." Cruel But Fair"でぐっと深遠な世界に入る。ギターのリードは決して技巧に凝った難しさというよりはその場をいかに描くかという状況の反映というところに音は流れる。したがって旋律を流すということよりもピアノ、ベースを誘って物語を始めるようなスタイルだ。ドラムスはあらゆる状況を丁寧にサポートする。
 M3." Open Heart "ギターに続いてピアノと静かな状況描写、シンバル音がささえる。
 M4."Vaugines" ギターの響きがローカルな美しいのどかな村を連想させる。
 M5." Clandestin" ギターとピアノが静から動へ。ドラムスとベースで築くリズムが力強く印象的。
 M6."Altea" は、静かな展開の中にギターとドラムスの掛け合いが面白い。そして中盤からはピアノが主流に変わって動的に変化し、かなりドラムスのパワーが生きてアクティブな展開も。最後再びギターの静かな世界に戻る。
 M7."Mi Viejo"は英語で言うと"my old man"という意味で父親のことらしい。ふと回顧的な静。
   最後のM8."Lone Waltz"は、再びカルテットのアンサンブルを楽しむ世界。

 繊細な表現に個々のプレイヤーが長けていて、そのセンスから生まれる優雅であり牧歌的であり詩的である世界の表現が見事である。フランスはそれなりにあちこち旅したことがあるが、考えてみると南フランスは未経験だった。このアルバムに接してみると、メンバーは実際に南仏に3日間滞在して演奏の核を感じてのアルバム作りであったようだ。それを聞いてなんとなく時間の余裕のある旅をしたくなる世界を想像することが出来た。

(評価)
□ 曲・演奏   88/100
□ 録音     88/100

(試聴)

 

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2023年5月 4日 (木)

イメルダ・メイ Imelda May 「11 Past the Hour」


愛を通して人間の真相にも迫らんとするイメルダ・メイの冒険性の結晶
(変身第2弾)

<Rock, Jazz, Blues>

Imelda May 「11 Past the Hour」
DeccaRecords / Import / B0033471-02 / 2021

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Back Musicians : Tim Bran(p,g,b), Charlotte Hatherley(g), Cameron Blackwood(k,Prog),Davide Rossi(Str), Charlie Jones(p,b),Matt Racher(d)

 どうもこのところ女性ジャズ・ヴォーカルもののリリースが量と中身が若干低調、そんな中で充実感と迫力でお気に入りだつたアルバムはやはり遅まきながら購入に至ったのでここに取り上げる。

Imelda_may_2018w  これは英国(と、言ってもアイルランド)のSSWのイメルダ・メイImelda Mayの6枚目のスタジオアルバムである。2021年4月のリリースで既に2年の経過があるが最近はストリーミングにより聴いていた。しかしやっぱり手元にCDとして置いておきたい思う濃いアルバムであり、意外に取り上げられていないのでここに紹介する。
 彼女に関しては、ここで何度か話をしてきたが、ジャンルはジャズというよりはロックだ。しかしジャズとして聴ける曲も多く、とにかく歌がうまい。私としては"アイルランドの美空ひばり"と名付けて以前から注目してきた。近年ではジェフ・ベックとの共演の"Cry me a River","Lilac wine"等が出色。そして、出産、離婚後の変身が凄くて前作『LIFE.LOVE.FRESH.BLOOD』(2017)でビックリ、その後のライブ活動も凄く、このアルバムも変身後の2作目で注目度も高かった。

  全曲彼女が共同プロデューサーであるティム・ブランとストリングス・アレンジャーのダヴィデ・ロッシらと共作しており、作詞も彼女自身による。そしてロニー・ウッド、ノエル・ギャラガー、マイルズ・ケインといったミュージシャンに加え、女性フェミニスト思想家、政治活動家ジーナ・マーティンなど驚きの顔ぶれが参加する。彼らをフィチャーした曲では、敢えてロックンロールを展開し問題提議しているのだ。
 バック・ミュージシャンは今盛んな多くが参加、曲により変化を付けているのも彼女のしたたかな冒険性である(末尾クレジット参照)。

 アイルランドにルーツを持つことの意義、かってあの反骨の歌手シネイド・オコナーをも仲良く良い意味で圧倒した彼女のパワーは健在だ。ここにはかってのバンドの拘束から切り放たれた彼女自身そのものの真の姿が浮き彫りされているところに魅力がある。この充実感高いアルバムは、自分の真の姿やアイルランドのルーツ、物語を伝え、魂を込めた愛の歌を展開いる。

(Tracklist)

01. 11 Past the Hour
02. Breathe
03. Made to Love(feat.Ronnie Wood etc)
04. Different Kinds of Love
05. Diamonds
06. Don't Let Me Stand On My Own(feat.Niall McNamee)
07. What We Did in the Dark(feat.Miles Kane)
08. Can't Say
09. Just One Kiss(with Noel Gallagher, feat.Ronnie Wood)
10. Solace
11. Never Look Back

 私はM1."11 Past the Hour"のタイトル曲(UKのSSWであるPedro Vitoとの共作)が大歓迎だ。ロカビリー色の欠如で彼女のファンからは異論があっただろうが、アダルトコンテンポラリーの世界は確実に魅力を倍増した。パワフルなゴスペル調(描くは失った人への思い)の曲で、Imelda Mayの圧倒的なヴォーカルが際立つ。ダークでちょっと暑いバラードだが、彼女の声がかっては考えられない重さでのしかかってくる。中盤からのきしむようなギターがこの曲の一つの焦点で悲しみと不安を描く。
 この曲は、失った世界から新しく旅する自分を赤裸々に訴えて、愛する人を失った人々に向けた慰めと希望を与える世界だ。背景には、社会から疎外されているコミュニティや制度的不平等に取り組む組織を支援することを目的にアイルランド政府の立ち上げた「Rethink Ireland」キャンペーンのために、彼女が書いた「You Don’t Get To Be Racist and Irish」という詩が、世界的に注目を集めた状況を思い出すと単純でない諸々が見えてくる。 重大なものを失った人々にその悲しみと孤独を共有し、同時に、時間が癒しの力を持つこと。しかし時間が過ぎ去っても、人間的思い出を忘れないでいることの重要性を訴えている。とにかく強い歌声と、力強く美しいメロディが圧巻。彼女の音楽性は、ロックやブルースをベースにしながらも、ジャズやソウルなどの要素を取り入れた独自のサウンドが結実している。

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ここに彼女の言葉を記す・・・・
「“11 Past the Hour”は私の真実です。私は常に意味を持って、心を込めて詩を書いています。それぞれの特別な瞬間に、自分の物語を介して人々と繋がることこそが私が書く理由であり、だからこそ、たとえほんのひと時でも、人々と繋がれることを願っているのです。私たちが折にふれて感じるものを、言葉や音楽にすることができるのだと思いたい。私たちは皆、笑い、歌い、愛し、泣き、踊り、キスをし、他人を大切に思っています。私たちは皆、欲望、怒り、喜び、心配、悲しみ、希望を経験します。時には静かに全てを抱え込み、時には踊りながら吹かれる風の中に全てを投げ出すこともありますが、一つだけ確かなことは、私たちは共にこの人生を歩んでいるということ。それぞれの歌は私の人生の瞬間です。それぞれの人生は時代の一瞬。一分一分が大切なんです」

その他一連の曲は・・・
M2."Breathe"
M3."Made To Love"(LGBTQ) とエネルギッシュでポップな曲が続く(Ronnie Woodをフィーチャー)
M4."Different Kinds of Love" 情緒豊かなヴォーカル
M5."Diamonds" ピアノのバックに叙情的スローバラード、深く美しき感謝の訴え(真純なる愛に感謝)
M6."Don't Let Me Stand On My Own" Niall McNameeとのデュオ、民族的、牧歌的世界
m7."What We Did in the Dark " Miles Kane とのデュオ。アップ・テンポで典型的ロックだがどこか切なさが・・・
M8." Can't Say" 説得力の優しさあふれるバラード。彼女の訴えの歌い上げが聴き応え十分。歌詞は重く印象的な曲。
M9." Just One Kiss" 典型的な懐かしロック(Ronnie Woodをフューチャー)
M10."Solace" かなり品格のあるバラード、彼女の美声に包まれる。人生の光明をみつけて・・・
M11."Never Look Back" 祈りに近い訴え

  このアルバムは、イメルダ・メイが、U2、ルー・リード、シネイド・オコナー、ロバート・プラント、ヴァン・モリソン、ジャック・セイボレッティ、エルヴィス・コステロら、各種そうそうたるアーティストたちとデュエットを果たし成功してきたこと、近年ではジェフ・ベック、ジェフ・ゴールドブラム、ロニー・ウッドらのアルバムやライヴ・ツアーにも参加した。こんな経験から。幅広い音楽的影響を反映した、ひとつの折衷主義作品となった。それは想像するに、彼女は、過去のロックンロール一途では国際的発展性に割り込むのはむずしいと判断したこともあり、又彼女自身のブルース、ジャズ、ラテン音楽など、多様なジャンルの要素を持ち合わせたことの創造結果かと思う。
 そしてアイルランドにルーツを持つ複雑な社会的経験が重なっての彼女のSSWとしての能力がこの重厚な内容のあるアルバムが作り上げられたと思う。ヴォーカル・アルバムとしはその中身の重さに、そして曲の多彩さに感動するアルバムであった。
 最近、女性ヴォーカルものが低調であるので、日本ではどうも一般的でないアルバムでありながら中身の濃いところを紹介した。

(参照 Credit)  クリック拡大

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(評価)
□  曲・演奏・歌  90/100
□  録音      87/100

(試聴)

*

 

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2023年3月15日 (水)

シモーネ・コップマイヤー Simone Kopmajer 「With Love」

ジャズといういっても、聴きやすいポップよりの歌で・・・

<Jazz>

Simone Kopmajer 「With Love」
Lucky Mojo Records / Import / LMR232 / 2023

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Simone Kopmajer (Vocals)
Harry Allen (Tenor Saxophone)
John Di Martino (Piano)
Boris Kozlov (Bass)
Reinhardt Winkler (Drums)

Wesley Amorim (Guitar #1)
Gottfried Gfrerer (Guitar #7)
John di Martino (Vocals #13)
Sheila Jordan (Vocals #11)
Sara Caswell (First Violin)
Tomoko Akaboshi (Second Violin)
Benni von Gutzeit (Viola)
Mairi Dorman-Phaneuf (Cello)

*All Arrangements by John Di Martino

 既にここでも過去のアルバム2作の紹介で登場しているオーストリア出身の歌姫シモーネ・コップマイヤー(1981年生まれ)の2年半ぶりの新作登場。本作は彼女のオリジナル曲2曲を織り交ぜてのラブソングなどを主としてカバーしたアルバムで、グラミー賞を受賞したNYの弦楽四重奏を迎えたおり、ジョン・ディ・マルティーノのピアノにサックスの実力派ハリー・アレンもバックに参加して、いままでの中では、良いか悪いかは別として最もロマンティックな作品として仕上がっている。しかもレジェンド、シーラ・ジョーダンがゲストとして一曲参加している。

Ab6761610000e5eb45a82346e6c497bw  彼女は8歳で歌い始め、12歳で音楽学校のディレクターでありジャズの大ファンであった父親のバンドで歌い、16歳でグラーツの音楽演劇芸術大学に受け入れられ入学。在学中、彼女はマーク・マーフィー、シーラ・ジョーダン、ミシェル・ヘンドリックス、ジェイ・クレイトン、ニューヨーク・ボイスなどの多くの有名なアーティストと仕事をする機会を与えられたと紹介されている。
 2000年に彼女は米国でデビューし、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラ、ジョン・ヘンドリックスなどのジャズに影響されながらも、次第に歴史あるオーストリア・シュタイアーマルク生まれの彼女は、ユーロ的感覚の独自の世界を持つようになり、ジャズとポップの因子のある多様な世界にあって、2004年の『Moonlight Serenade』から始まって、2011年のアルバム『Nothing's going to Change』で現在の人気を作りあげた。

(Tracklist)
1.The Look of Love(Burt Bacharach / Hal David)
2.How Wonderful You Are(Gordon Haskell)
3.Until It ́s Time for You to Go (Buffy Sainte-Marie)
4.I Can ́t Make You Love Me (Mike Reid / Allen Shamblin)
5.Opposites Attract (Simone Kopmajer / Karolin Tuerk)
6.How Can You Mend a Broken Heart (Barry Gibb / Robin Gibb)
7.Cold, Cold Heart(Hank Williams)
8.I ́m Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter (Fred E. Ahlert / Joe Young)
9.For Once in My Life (Ron Miller / Orlando Murden)
10.Take It All In(Simone Kopmajer / Karolin Tuerk)
11.Everything Happens to Me (feat. Sheila Jordan)(Matt Dennis / Tom Adair)
12.Tell It Like It Is (George Davis / Lee Diamond)
13.You Don ́t Know Me(feat. John Di Martino)(Eddy Arnold / Cindy Walker)
14.Over the Rainbow ( Harold Arlen / Yip Harburg)

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 さてこのアルバムは、「Love」がテーマのようだが、オープニングはバカラックの人気曲M1."The Look of Love"からスタート、昔はセルジオ・メンデスで良く聴いて、近年はダイアナ・クラールの歌が印象深いが、ここではちょっと軽快さから離れて、シモーネらしいストリングスをバックにしたちょっとねっとりムードで仕上げている。
 M2."How Wonderful You Are"はサックスのバックでいわゆるジャズっぽい。そしてM3."Until It ́s Time for You to Go "は、ピアノの調べと共に、落ち着いたエレガントさと優しさのある彼女の味の良さの出たヴォーカルが聴ける。私はこっちの仕上げが良いと思うのだが。
 M4."I Can ́t Make You Love Me"もサックスが入り、しっとりと優しく、M5."Opposites Attract"は彼女のオリジナルだが、可もなく不可もなく、M6."How Can You Mend a Broken Heart "のバラード調に仕上げた歌いこみは聴きどころあり可
 M7."Cold, Cold Heart"ちょっぴりウェスタン・スタイル。M9."For Once in My Life "は、比較的低い音程の歌を美しいストリングスをバックに古めかしくゆったりと。
 M10."Take It All In"も彼女の曲、どちらかというとエレガントの方だ。
 M11."Everything Happens to Me"驚きの90歳代のジョーダンの貫禄の声とのデュオ、対照的で面白い。アメリカン・ムード。
 M12."Tell It Like It Is"ピアノとサックスのゆったりとしたバックでの味のある歌。
 M14."Over the Rainbow " なぜかこの曲で締めくくり。ストリングス・バックに美しく・・・と言ったところか。
  

 なかなか売れ筋のアルバムである。曲の仕上げが非常に聴きやすいし、彼女の歌声、テクニックは相変わらず良好で嫌みとかの因子は少なく、広く一般的に・・というスタイルだ。ただ表現が難しいのだが、私が彼女に描いていたところと若干違った方向に流れているようにも感ずる。それはもう少しユーロ的ニュアンスが増すのかと思ったのだが、そうでもなくさりとてアメリカン・ジャズに迫るという感じでもなく、極めてポピュラーな感覚に聴けるところだ。まあ、悪いことではないので良しとしておこう。

(評価)
□ 曲・編曲・歌  87/100
□ 録音      87/100

(試聴)

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