JAZZ

2026年4月10日 (金)

ウラジミール・シャフラノフ・トリオ VLADIMIR SHAFRANOV TRIO 「 SOUL EYES」

「成熟したジャズの美」と評される世界 

<Jazz>

VLADIMIR SHAFRANOV TRIO 「 SOUL EYES 〜relaxin' moods」
Venus Records / JPN / SACD / VHGD-10026 / 2026

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ウラジーミル・シャフラノフ Vladimir Shafranov (piano)
ハンス・バッケンルート Hans Backenroth (bass except 7)
ムッサ・ファデラ Moussa Fadera (drums except 7)

Vladimir20shafranovw     かって澤野工房の関係で何となく聴いてきたウラジミール・シャフラノフVLADIMIR SHAFRANOV(1948年レニングラード生まれ →)であるが、アルバム・リリースの45年以上になるそのキャリアから、近年は日本のVenus Recordsからのリリースとなり、おそらく2年ぶりとなる アルバム『SOUL EYES』がリリースされた。
   彼はロシア出身でフィンランドを拠点に活動するピアニスト、なんとなくベースに北欧らしい世界感を持ちつつ、ニューヨーク仕込みのスウィング感を併せ持っていての聴きやすさの演奏で日本でも愛されてきた。4歳の時にリムスキー・コルサコフ音楽院でピアノとバイオリンを始め、1973年にイスラエルに移住。数年後、彼はヘルシンキに移り、1980年からフィンランド国籍を取得している。又1983年から15年間はニュー・ヨークでのジャズ音楽活動という経歴もある。

   本作は、スウェーデンでの録音によるトリオ作品で、スウェーデンのベースにハンス・バッケンロス(↓左)、ドラムにムッサ・ファデラ(↓右)を迎えた中堅安定の布陣。リラックスしたムードを重視した演奏で、内容はほぼスタンダード中心で、全体に派手さは押さえていて、意外に私の期待の北欧色はあまりなく、むしろニュー・ヨーク正統派バップ路線で気楽に聴きやすいので取り上げた。 

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(Tracklist)

1. ビューティフル・ラヴ Beautiful Love (V. Young, W. King, E. Van Alstne) 6:41
2. ジャンゴ Django (J. Lewis) 6:17
3. ソウル・アイズ Soul Eyes (M. Waldron) 6:43
4. テルヌーラ・アンティグア Ternura Antigua (R. Carlos) 4:18
5. この素晴らしき世界 What A Wonderful World (G. Douglas) 4:19
6. ユーヴ・チェンジド You've Changed (C. Fischer) 7:22
7. ラッシュ・ライフ Lush Life (B. Strayhorn) 5:17 (solo piano)
8. トゥ・レイト・ナウ Too Late Now (B. Lane) 7:56
9. アウト・オブ・ザ・パスト Out Of The Past (B. Golson) 5:01

 これは派手さよりも歌心を持っての演奏で、新しい試みで迫るというのでなく、優しくジャズでくるんでくれるという夜のリスニング向きとも言える。まあピアニストの円熟した演奏のプレゼントと言ったところか。

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 M1."Beautiful Love" スタンダードの名曲、刺激の無いタッチの歌うような世界。このアルバムの目的を示す導入演奏。ジャズの見本的な世界。
 M2." Django" John Lewis の名曲、ちょっと陰影の感じられる演奏で欧州的。
 M3."Soul Eyes" 深く内省的な世界に浸る。アルバム前半では焦点になる演奏で、何回か聴き込みたい味を感ずる。
   M4."Ternura Antigua" ちょっとラテン色のある雰囲気で軽やかで暖かく明るめに戻す曲。
 M5."What A Wonderful World" 誰でも知っている有名スタンダード。むしろ叙情性をあまり強調しないところの美しさだ。
 M6." You've Changed" バラードの名曲。アルバム後半に入ってぐっと落ち着かせる流れ、ベースも詠ってくれるジャズ・バラードの美をじっくりと。
 M7."Lush Life" ここにきて、トリオのジャズ・テクニックの高さをお披露目。
 M8."Too Late Now" どこかお話を語っているようなピアノ・トリオそのものの演奏
 M9."Out Of The Past" 締めに相応しく軽妙でブルージーで落ち着いたまとまり感。

 究極、ピアノの歌い上げる聴く者を楽しませるメロディー重視の演奏で、北欧の静謐感のコンテンポラリー・ジャズとは全く別で、むしろバップよりのニューヨーク・ジャズを優しく聴かせてくれたという処だ。ただ欧州的な深層心理を探るところもあるが、むしろちょっとした気休めには良いアルバム。ある意味ジャズに達感すらした世界という風にも聴きとれる。
 もうちょっとベース、ドラムスが出てきても良いかなぁーと思うほど両者は優しく支えてくれている。これも一つのパターンとして完成している演奏だ。確かにある評に見る「成熟したジャズの美」といった世界というところで、誰にもお勧めの及第点アルバム。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    88/100
□   録音       :    88/100

(試聴)

 

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2026年4月 3日 (金)

フリー Flea 「HONORA」

パンク・ロック以上に心が奪われたトランペット・ジャズへのアプローチ

<Rock, Free Jazz>
FLEA (RED HOT CHILI PEPPERS) 「HONORA 」
Nonesuch/ Warneer Music Japan / JPN / CD / WPCR18816 / 2026

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Flea(b, tp, vo)
Anna Butterss(b)
Jeff Parker(g)
Deantoni Parks(ds)
Mauro Refosco(per)
Rickey Washington(afl)
Vikram Devasthali(tb)
Chris Warren(vo)
Josh Johnson(sax,produce)
Nate Walcott(Key)
etc
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Thom Yorke(vo,p)
Nick Cave(vo)
etc

70705_v9_bcw  相変わらずJazz界も日本では低迷しているようだが、最近のJazz雑誌としてはシンコーミュージック・エンターテイメントからの「JAZ.in」という雑誌がここに来て月刊誌としてようやく今月号で30巻目を迎えた。と言う事はもうあと半年で3年経過と言うことで何とか維持されている。その30巻目でのトップ記事がこのパンク・ロックのレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(RHCP)のベーシストのフリー(本名マイケル・ピーター・バルザリー(Michael Peter Balzary、1962年10月16日 生、63歳 →)は、オーストラリアのメルボルン郊外バーウッド出身)のソロ・アルバム『オノラHONORA』を取り上げていて、ロックでもパンクにはあまり興味の無かった私だが、フリーのこの作品がかなり注目点が多いと言う評判で、ここに聴いてみたという次第である。

 そのフリーであるが、主たるベースの外に近年は元々のマスターした楽器のトランペットに興味を持って、ジャズ・アルバムの製作が夢であったという事のようで、このアルバムではベース以上にかなりのウェイトでジャズ・トランペットを演奏している野心作。又ヴォーカルも披露しているのだ。
 そして豪華なコラボレーターとして、アンナ・バターズ(Bass ↓左)やジェフ・パーカー(Guitar ↓左から2番目)といった現代LAジャズの最前線にいるミュージシャンに加え、トム・ヨーク(レディオヘッド ↓右から2番目)やニック・ケイヴ(SSW,オーストラリア出身 ↓右)といったビッグネームが参加しており、単なる「ロック・スターの趣味」を超えた音楽的探求のニュアンスの高い挑戦したアルバムとして見て取れる。

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(tracklist)
01. ゴールデン・ウィングシップ / Golden Wingship
02. ア・プリー / A Plea
03. トラフィック・ライツ / Traffic Lights
04. フレイルド / Frailed
05. モーニング・クライ / Morning Cry
06. マゴット・ブレイン / Maggot Brain
07. ウィチタ・ラインマン / Wichita Lineman
08. シンキン・バウト・ユー / Thinkin Bout You
09. ウイロウ・ウィープ・フォー・ミー / Willow Weep for Me
10. フリー・アズ・アイ・ウォント・トゥ・ビー / Free As I Want to Be
11. アイズ・ライク・ツー・フライド・エッグス / Eyes Like 2 Fried Eggs (ボーナス・トラック)

 とにかく、ロック界というよりジャズ界の兵どもを集めての演奏には、野心作と言われるだけのちょっと驚きの世界が展開している。
 アルバム・タイトルの『HONORA』だが、フリーの愛する家族の一員に因んでいるらしい。このアルバムでフリーは作曲・編曲は勿論手掛けていて、やはり近年猛練習したと言うトランペットを主力にベースと共に全編で演奏している。特に彼のトランペットは、70年代スピリチュアル・ジャズへの敬意として、マイルス・デイヴィスやオーネット・コールマンといった巨匠たちの影響があるとの評価を受けていて、即興性は勿論だが哀愁感を描くに使われ、更にアンビエントな質感が構築されている。トランペッターとしての内省的な面も見せたフリーが聴きどころだ。
 そして彼と共にアルバムを作り上げたのは、現代ジャズの先駆者からなる精鋭メンバーたちがいてのこと。その力は有効に展開しているところは、それこそフリーの力だろう。
 ヴォーカルは、フリー自身に加え、彼の友人である「レディオヘッド」のフロントマンであるトム・ヨークと「二ック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ」のフリーと対立していたニック・ケイヴが登場と言う男性ヴォーカルが聴ける。近年のジャズをほゞ押しなべて席巻している女性ヴォーカルとは異なった世界がなんとも頼もしい。

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 M1. "Golden Wingship" 幕開けのインスト曲。ロック的フリー・ジャズがオープン
 M2. "A Plea" フリーのTpがスピリチュアルに訴える。こりゃ大変なアルバムだと恐れおののく。ファンク展開にジャズ・スウィングが。「平和と愛のために生きよう」との訴え。
 M3. "Traffic Lights (feat. Thom Yorke)" トム・ヨークがピアノとヴォーカル参加、パーカッションがラテン的。ヨークの儚いボーカルがどこか不安感が漂っている。ギターのリズムも入って美しさを表現、ファンク的Tpでジャズの歌となった。
 M4. "Frailed" 10分を超える曲。本アルバムの人気曲ではないが、これぞ私の最も虜になった曲。ベースの刻むリズムで始まり、KeyやBassのアルコによる美しさと不安感と哀感とのアンビエントな世界が展開。1/3過ぎからリズムに力が入り、後半のTpとギターの絡む展開などの聴きどころ満載。
 M5. "Morning Cry" フリー自身の作曲。奇妙なTpフレーズが難解なジャズ・ナンバー。ジェフ・パーカーのギターの巧みな演奏がうける。
 M6. "Maggot Brain"カバー曲。フリーがトランペットで哀愁たっぷりにメロディー演奏。
 M7. "Wichita Lineman (feat. Nick Cave)" かっての対立者ニック・ケイヴをバリトン声の歌で迎え、フリーがTp演奏、こんなに優雅に。
 M8. "Thinkin Bout You" これも優雅なカバー曲。ストリングスをバックに、フリーがBassとTpで美しくお上品に。
 M9. "Willow Weep for Me" シンセサイザーを流して、Tpが歌うスタイル。ちょっと奇抜。
 M10. "Free As I Want to Be" ドラムスのパンチ力、ギターの響きがロック的だが取り敢えず纏まった形の終焉へ。

 久々に、ジャズとしてのロックの味の発展形であるかっての'70年代のプログレッシブ・ロック的な様相のあるフリー・ジャズ曲(M4)にも巡り合えて、面白かった。そして男性ヴォーカルもやはり時には良いものである。
 若き頃のトランペットを、60歳を前に、再び手に取り、その腕を磨き始めたというフリー。彼の「新たな挑戦」、そして昔からの「ジャズへの愛」を形としてなんとしても創り上げたかったという"ジャズ・アルバム"がここに誕生したということで、とりあえずお祝いしたい気持ちであるが、参加ジャズ・ミュージシャンの個々の特徴あるインプロヴィゼーションを旨く生かしてのサイケデリックな展開とか、フリージャズ的流れ、そしてロックのダイナミズムも交錯して面白い。このアルバムでは、彼のメッセージが前面に出ていることの賛否もあるようだが、「フリー個人の極めて真面目な世界」として評価を受けている。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌 :   88/100
□   録音      :   87/100

(試聴)



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2026年3月28日 (土)

ティアニー・サットン Tierney Sutton 「Talking To The Sun」

ブラジル音楽とシャンソンを加味した異色のヴォーカル・アルバム

<Contemporary Jazz>

Tierney Sutton & Charlier/Sourisse 「 Talking To The Sun」
Gemini Records / Import / CD / GR2529 / 2025

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Tierney Sutton – vocals
Andre Charlier – drums, percussion
Benoît Sourisse – piano, organ, whistle
Serge Merlaud – guitars

Mv5bnzk4ndc2ntutzwiyw    時に、なんとなく変ったモノが聴きたくなると言う悪い癖のある私だが、ふと10年ちょっと前から私にとっては異色のジャズ・ヴォーカル・アルバムとして、米国のティアニー・サットン(→)というコンテンポラリー・ジャズとして位置づけられている実力派シンガーがいる。昨年末にニュー・アルバムがリリースされていたが、ちょっと気分が乗らず今になって聴いてみたという処だ。

 このアルバムはフランスの著名なドラマーとキーボードの名手のユニットである「Charlier/Sourisse(アンドレ・シャルリエ&ブノワ・スリス ↓左)」と共演し、夫でフランス人ギタリスト、セルジュ・メルロー(↓右)が加わってのカルテット編成で、彼女のキャリアの中でも特に「ブラジル音楽へ傾倒」しつつ、フランス色の加味したジャズとして、「作詞家としての進化」が加わった意欲ボーカル作品と位置づけられるものだ。

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(Tracklist)

1. Talking to the Sun (Charlier/Sourisse/Sutton)
2. Que reste-t-il de nos amours? (Leo Chauliac/Charles Trenet)
3. Modinha (Jobim/Sutton/Vinicius de Moraes)
4. Flor de Lis (Djavan/Regina Werneck)
5. Play for Me (Pra Quem Quiser Visitar) (Guinga/Sutton)
6. Laptop choro (Charlier/Sourisse/Sutton)
7. Eu nao existo sem voce (Jobim/Sutton/Vinicius de MoraesSonnenberg/Sutton)
8. Springtime, I'll be there (Charlier/Sourisse/Sutton)
9. The Prince of Calais (Charlier/Sourisse/Sutton)
10. Bluesette (Thielmans/Gimbel)
11. Les etoiles de Lea (Charlier/Sourisse/Sutton)

 ブラジル音楽やボッサを、爽快であり又一方深みのある表現力で捉えたヴォーカル作品だ。曲はジョビンやジャヴァンといったブラジルの巨匠のカバーと、Charlier/Sourisseの作曲にサットンが自身の世界から詞を造り歌い上げたオリジナル曲が中心を成している。まさに米・仏・ブラジルといった三国ミックスといった感じだ。

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M1." Talking to the Sun" アルバム・タイトル曲、Charlier/Sourisseによる複雑なメロディで私には異様。サットンが歌詞を付けたオリジナル曲。歌声も楽器の様相をなして難解。
M2." Que reste-t-il de nos amours?" シャンソンの名曲。フランス語での歌、うまくボサノヴァ・テイストが加味されている。静かに語り聞かすサットンのヴォーカル、おお、なかなか味がある良好な世界だ。
M3." Modinha" ジョビンの名曲。ティアニーが新たに英語の歌詞を書き下ろし、ピアノがリードしドラマチックで内省的な歌でのバラードに仕上げている。中盤のギター・ソロもいい。聴き応え十分。
M4." Flor de Lis" ジャヴァンの代表曲。ブノワ・スリスの口笛が入って、心地よい軽快なブラジル・ムード。
M5." Play for Me (Pra Quem Quiser Visitar)" 現代ブラジルの作曲家ギンガ(Guinga)の曲。これもサットが自己の英語詞で歌い、ギターとの親密な落ち着いたデュオ・タイプの空気感。
M6." Laptop choro" ブラジルの「ショーロ」という伝統的リズムらしい軽快なオリジナル曲。不規則リズムで難しい。デジタル現代の疲れを歌っているらしいが・・・。
M7. "Eu não existo sem você" ジョビンの名曲。元々の詞にサットンが新しい歌詞を追加、愛の歌のようだが、極めてリズムと発声をも抑制した歌い回しで、ちょっと「静」で内省的、彼女らしい歌、悪くない。
M8." Springtime, I'll be there" Charlier/Sourisseの作曲によるオリジナル。静かに明るく希望の表現。ギターのサポートが行き届いている。
M9." The Prince of Calais" オリジナル曲。静かにぐっと深く迫るヴォーカル。演奏陣の緊密なインストゥルメンタルに近い高度なインタープレイが聴き処でもある。
M10." Bluesette" トゥーツ・シールマンスの名曲。ブラジル風の世界、ギター・ジャズの軽快さ。
M11." Les étoiles de Léa" 締めくくりの叙情的なオリジナル・フランス語曲。フランスとアメリカのジャズの美しい融合、楽器のような美声を漂わせる。


 サットンは、本作で11曲中8曲に歌詞を提供(または加筆)しており、これまでの「歌い手」だけでなく、「物語を作り語る=作詞家・語り手」としての評価も現実化している。特にブラジルの名曲に英語詞でのアプローチは、一歩前進なのか、完成度というところでは良い評価を得ているアルバムだ。
 注目の3人のフランス人ミュージシャン(Charlier/Sourisse/Merlaud)との共演により、アメリカのジャズ・シンガーが歌う「ブラジル音楽」の世界に、洗練されたヨーロッパ的な世界が面白い。そんな「グラミー賞常連」の技が感じられる作品。基本的にはブラジル音楽への深い親密感に、ちょっと洒落たフランス語歌唱という離れ業を展開。ドラムスはかなり抑制的。

 彼女を異色性として表現するのも問題あろうかと思うが、声のコントロールと表現はやはりトップクラス。空間処理が極めて洗練していて、更に米×仏×ブラジルを文化的にこなしきる技には敬服する。新しい創作フェーズへの到達意外にも「温かみと親密さ」を感じる一枚に作り上げたという意欲たっぷりのアルバムだ。

(評価)
□ 編曲・作曲・演奏・歌 : 88/100   
□ 録音         :   88/100

(試聴)

*
 " Que reste-t-il de nos amours? (Leo Chauliac/Charles Trenet)"

 

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2026年3月23日 (月)

マリリン・クリスペル、アンデルス・ヨルミン Marilyn Crispell , Anders Jormin 「 Memento」

デュオ作品として互いの尊重に溢れ、空間を意識した間の生かされた音の美の即興とインタープレイ

<Jazz>

Marilyn Crispell , Anders Jormin 「 Memento」
ECM / Import / CD / 88088089 / 2026

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Marilyn Crispell(p)
Anders Jormin(double-b)

Producer : Manfred Eicher
Engineer(Mastering,Mixing,Recording) : Stefano Amerio

  マリリン・クリスペルMarilyn Crispell(↓左、 1947年、フィラデルフィア生まれ)と言えば、名門ニューイングランド音楽院でクラシック・ピアノと作曲を学んだ女流ピアニストだが、若きときにジャズに転向して、人生をピアノと共に歩んできたと言って良いようなベテラン・ミュージシャン。現代ジャズ界において「最も独創的で、深遠な精神性を持つピアニスト」と言われている。
 そんな彼女の長年の信頼を築いたアンデルス・ヨルミン(↓右 1994年からコラボレーションを行ってきたスウェーデンのコントラバス奏者)との二人のデュオ作品がリリースされた。ヨルミンは彼の音楽的精神性をクリスペルに与えた一人と言われるベーシストであるが、初めてデュオ作品が作り上げられ、それがこの『Memento』である。

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  私自身は殆ど彼女の評価に値する知識を持っていないようなものだが、彼女は28歳の時に、ジョン・コルトレーンの伝説的名盤『A Love Supreme(至上の愛)』を聴き、その即興演奏の自由さと精神性に衝撃を受け、ジャズの道へと転向したと言われている。そして彼女の音楽を聴くには大きく分けて二つの時代があったことを知っていた方が良さそうだ。それはまずは「即興の攻撃的爆発的展開」の時代(1970年代末〜90年代前半)で、前衛ジャズの巨匠アンソニー・ブラクストンAnthony Braxtonのアヴァンギャルドなカルテットに10年間在籍。即興演奏のセンスを磨き上げた。当時は打鍵は強烈で超絶的なスピード演奏、特に複雑な構造を持つフリージャズを展開した。しかしその後一転してのECM時代を迎え「静寂と叙情」の時代(1990年代後半〜現在)に入った。それは内面的な精神性の領域への道であって、空間や「音の質と音の間の沈黙」を重視するスタイルへ進化したのだ。そしてその流れの探求は現在も続いていて、このアルバムもその一連の中にあると言うことを知りつつ聴くことが、内容にも迫れる一つの道として重要なようだ。
   尚、Mastering,Mixing,Recording Engineerは名手Stefano Amerioである。

(Tracklist)

1.For the Children%
2.Dialogue%
3.Embracing the Otherness%
4.Contemplation in D%
5.Three Shades of a House - Morning#
6.Three Shades of a House - Evening#
7.Song*
8.Memento*
9.Beach at Newquay*
10.The Dark Light#
11.Dragonfly*

   (Composer)
     % :Anders Jormin, Marilyn Crispell
     #  :Anders Jormin
     *  :Marilyn Crispell

 これはまさにECMにふさわしい空間を活かしたぐっと深遠な二人の即興(4曲)から、両者の多彩な自作曲(7曲)までを収録。繊細にして透明に響くピアノの旋律がベースの多彩な音と溶け合い、静謐ながらも懐かしさと暖かさとの叙情性を描き出している。
 アルバムの主題は「記憶・喪失・つながり」というところにあって、スタートから即興4曲が並び、まさしく空間を意識したデュオ即興演奏の深い世界で幕を開け、その後、まずヨルミンの作曲2作品、そしてクリスペルの曲3曲へと移行する。そしてその後両者1曲づつで、最後はクリスペルの曲でゲイリー・ピーコックに献呈する曲で締める。

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 M1." For the Children"  世界各地での紛争の結果犠牲になった子供たちに捧げられた曲。ピアノの優しい響き、高音域での即興のベースのアルコが哀愁を帯びて響く。このアルバムのテーマに迫る心の宿るところの基礎を描く。冒頭からぐっと引き寄せられてしまう。
 M2."Dialogue" (対話)  デュオの相対する呼吸の本質を、音数の少ないピアノとベースの音で知らしめる。
 M3."Embracing the Otherness" (他者を受け入れる) 極端に間を活かした演奏、「他者の音」を探りつつ自己の存在を確認するような見事な現代即興。
 M4."Contemplation in D" 美しい響き、なんとなく浮遊的で瞑想を誘う。
 M5.、M6."Three Shades of a House – Morning、Evening"  透明なピアノ主体で、北欧的な光の情景か。ヨルミンの代表曲を「Morning」と「Evening」の2つの変奏で収録。静けさの中での明暗の対比が。
 M7."Song" 90年代作曲の再演「距離」をテーマにした抒情曲
   M8" Memento"(タイトル曲)ピアノ独奏、喪失とつながりを象徴的に。
 M9." Beach at Newquay" クリスペルが海岸線を描いた曲。ヨルミンのベースが「海鳥」の鳴き声の様に響き、情景描写の極みで映像的。
 M10."The Dark Light" 短い抽象曲 光と影の対比。
 M11."Dragonfly" ゲイリー・ピーコックへの献呈曲、シンプルに美しく、敬愛の念を持って静かな希望を感じさせる余韻を持たせた締めくくり。

 長年の信頼関係のもたらすものか、相手の演奏の音を聴くことから、それにそってのインタープレイが演じられる。デュオの醍醐味の一つである対抗的に主張し合うというパターンでなく、演じられた音、それを拾って騒がず急がず広め深めてゆく流れは状況の充実に大きく寄与している。透明なピアノの旋律に対してベースの美音と溶け合って、曲の流れを深い味わいに高め、しかも叙情性をも感じさせるのである。
 このように演じた音を大切にして消え去るまでの間を尊重して、沈黙をも曲に生かし続く音選びの思慮深い技が聴き者に情景を描かせる。そして深い内省にまで繋げてゆくテクニックはお見事であった。
 これはECM的な世界の極みと言っても良いだろうと思われ、それはアイヒャーにとっても満足感が高かったに相違ない。
 さすがに、「老獪な世界構築の技」に痺れたアルバムであったと評価する。

(評価)
□ 曲、演奏 :   92/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

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2026年3月17日 (火)

カーステン・ダール、リューベン・ロジャーズ、グレゴリー・ハッチンソン Carsten Dahl, Reuben Rogers, Gregory Hutchinson 「 Into the Storm - Live」

ピアノトリオとは何か、そして醍醐味は?・・・北欧とアメリカのジャズの融合は?
スタンダードを使ったフリージャズの実験

<Contemporary Jazz>

Carsten Dahl, Reuben Rogers, Gregory Hutchinson 「 Into the Storm - Live」
Storyville Records / Import / CD / B0GJFK7N29 / 2026

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Carsten Dahl - piano
Reuben Rogers - bass
Gregory Hutchinson - drums
2013年1月31日、ジャズハウス・モンマルトル(コペンハーゲン/ライヴ)

 現代ジャズの一つの重要な位置を占めているピアノ・トリオ。そして歴史的には私はBill Evans ,  Ahmad Jamal , Keath Jarrett にどうしても注目してしまうのだが、そんな流れを十二分に理解しつつ北欧の美学を追究しつつアメリカン・ジャズの流れを尊重しピアノ・トリオを探求しつつあるデンマークのピアニストのカーステン・ダールCarsten Dahl(1967- ↓左)の2013年に行われた奇跡的トリオのライブ音源が、何とここに来てリリースされたのである。
 つまり嬉しい事に、アメリカのリズム・セクションとしてリューベン・ロジャーズ(Bass ↓中央)、グレゴリー・ハッチンソン(Drums ↓右)を迎えてのダールの2013年コペンハーゲン、冬の夜の奇跡が、名門ジャズハウス・モンマルトルで録音され、そのスリリングなピアノ・トリオによる白熱のライヴ音源が登場した。

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(Tracklist)

1. Minoring Together (Carsten Dahl)
2. Body and Soul (Johnny Green)
3. Open Interlude / Giant Steps (Carsten Dahl / John Coltrane)
4. Sweets to the Sweet (Hugo Rasmussen)
5. Blame It On My Youth (Oscar Levant)
6. Caravan (Juan Tizol, Duke Ellington)
7. You Stepped Out of a Dream (Nacio Herb Brown)
8. Speak (Carsten Dahl)
9. The End of a Beautiful Friendship (Donald Kahn)

 

(収録曲考察)
 M1. "Minoring Together" Dahlのオリジナル。最初からフリー展開。冒頭を飾るこの曲は、どうもトリオの準備運動とかトリオの質の公開。Dahlのリズミカルなピアノが、Hutchinsonの繊細とも言えるシンバルワークとがシンクロして響く。
 M2. "Body and Soul"  バラード。ルバートで描く詩的で陰影の強いピアノとベースの旋律演奏が繋ぐ。
   M.3. "Open Interlude / Giant Steps" このアルバムの最大の聴きどころ。即興の「Open Interlude」の後に、コルトレーンのなかなか難しい曲"Giant Steps"を敢えて演奏。フリー演奏から急速なコードに突入するスリリングな展開に痺れ、難解が難解でなく誘導。このトリオの本質展開。Hutchinsonのドラミングが炸裂。
 M4. "Sweets to the Sweet" 一休み的遊び心が楽しい。北欧ジャズらしいピアノと、アメリカ的リズム隊による交錯のスイング感が見事にブレンドして気持ちよく進行、ベースの乗りも良く会場も乗っている。
 M5. "Blame It On My Youth" ぐっとロマンティックなバラード。Dahlのぐっと落ち着いた静かさのピアノの繊細そのものの「間」が見事。そしてRogersが歌うようなベースラインを重ねる様は、ライブならではの世界。
   M6. "Caravan" 私の好きな曲の登場。快調・快速テンポ演奏。ドラムの爆発力が特徴。エリントンの曲をこのトリオはアグレッシブに分解・再構築。中盤からのHutchinsonの真骨頂である変調リズミックな技が光り、続くピアノの快進撃は見事。
 M7. " You Stepped Out of a Dream" 約9分の長曲。トリオのインタープレイの聴き処満載。スタンダードを次第に組上げてゆく過程がジャズ心を満足させる。ピアノがリードし3人共に反応、それぞれのソロの受け渡しが快調で聴く方の満足感が大きい。
 M8. "Speak" 47秒の短い小品。次の最終曲への導入か。
   M9. "The End of a Beautiful Friendship" エンディングを飾るなんとなく切なくなるが、どこか温かいスタンダード。ライブの終焉を惜しむ穏やかなピアノとベースの響き。

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 まさに「ピアノ・トリオの醍醐味」を凝縮した一枚。さすが現代ジャズの最高峰が顔をそろえるとこうなるんですね。個人の演奏が上手いというところよりは、外れて外れない調和のそれぞれの立ち位置のスリルが楽しい。特に「ハッチンソンのドラムがピアノを煽り、それにロジャーズが重厚な安定感を与えることで、ダールのリリシズムがより一層際立っています」という評価を見るが、まさにそこがピアノ・トリオの真髄であって、これもかってビル・エヴァンスが、彼の美旋律にあきたらず、トリオという世界に三者の対話型を求めた大きなポイントが結実しているように思う。そして、更にAmad Jamalのリズムを停止と間と無音空間などの劇的展開。そして更にKeith Jarrettのライブの花形即興型の味と、揃えにそろえたジャズ美学。
 いまや、そのピアノ・トリオ・ジャズの真髄を探求するカーステン・ダールの北欧抒情美学と、Jarrettを超える荒々しさの加味した即興の緊張感、トリオの味わいある相互作用など、一つの世界に止まらないとみころがこのライブに展開しているところが聴き処だ。今このライブをアルバムとしてリリースしたということの意味は果たして何処にあったかは別にして、私にとってはピアノ・トリオのに対するカーステン・ダールの一つの回答として受け止めた次第である。まだ早いが、お見事な一枚で今年No.1になりそうだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 : 95/100
□ 録音        : 88/100

(試聴)

 

 

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2026年3月12日 (木)

エミリー=クレア・バーロウ Emilie-Claire Barlow 「La Plus Belle Saison」

「北米のパリ=ケベック」ゆかりの曲をフランス語で歌った異色の作品

<Jazz>

Emilie-Claire Barlow 「 La Plus Belle Saison」
Empress Music / Import / CD / EMG465 / 2026

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Emilie-claire Barlow (vocals, arrangements)
Francois Richard (piano, harmonium, wurlitzer, mellotron)
Adrian Vedady (double bass)
Ben Riley (drums, percussion)
Kiko Osorio (percussion)
Joe Grass (guitar, mandolin)
Reg Schwager (guitar)
Francois Bourassa (piano)
John Sadowy (piano)
Lex French (trumpet)
Mario Allard (flute, baritone saxophone, tenor saxophone, alto saxophone)
Andre Leroux (clarinet, flute, tenor saxophone)
Guillaume «Guibou» Bourque (clarinet, bass clarinet, tenor saxophone, baritone saxophone)
Melissa Pipe (bassoon, baritone saxophone, flute)
Francois Pilon (violin)
Melanie Belair (violin)
Veronique Vanier (viola)
Sheila Hannigan (cello)
Belle Grand Fille (vocals)
Judith Little-daudelin (vocals)
Karine Pion (vocals)

1900x1900w   カナダのケベックと言えば、歴史ある都市でフランス人が築いた入植地。従ってカナダではフランス文化が根強く残っていて「北米のパリ」ともいわれる。公用語もフランス語だ。音楽活動も歴史的に盛んで、世界のミュージシャンのこの地のライブものも結構よく聴く。
 そんなケベックを題材にしたカナダの歌姫エミリー=クレア・バーロウ Emilie-Claire Barlow (1976年トロント生まれ)のアルバムがリリースされた。「ケベックの豊かな音楽遺産に敬意を表した珠玉のフランス語アルバム」という肩書きだが、彼女のスタンダードものは結構味わい深いことは解っているので早速聴いてみた次第。

 勿論彼女のヴォーカル・アルバムだが、バックはシンプルなものでなくて、上記のように、クレジットなどからみてもかなり豪華。曲により演奏も違う。そして歌の言語も全てフランス語(もともと彼女はフランス語には通じている)というので、これは今までの彼女のアルバムとは様相が違うと思って聴いた方が良い。特にジャズを基盤にフォーク、サンバ、オーケストラル・ポップなど多岐にわたり、それなりにアレンジも施されているという特徴もの。モントリオールで録音され、ピアニスト/アレンジャーの François Richard (↓右)と共同プロデュースされたものである。

(Tracklist)

1.Dans les rues de Québec 02:33
2.Quelles sont les chances? 04:22
3.Je suis en amour 05:25
4.J'ai rencontré l'homme de ma vie 04:10
5.Si doucement 04:07
6.Comment t'aimer encore 04:08
7.Les deux printemps 03:39
8.D'la bière au ciel 03:58
9.Jerrycan 03:34
10.Le vent m'appelle par mon prénom 04:50
11.Pendant que 05:05

 このアルバムは彼女の 従来の「英語スタンダード中心のジャズ歌手」というイメージを完全に変えたという意味では一つの価値あるアルバムだ。ここまでの幾つかの賞に輝いた約30年のキャリアから一歩広げた文化的意味合いのこもったアルバムとみるべきものであった。 彼女の親しみやすい歌声と技の豊富なヴォーカルの円熟した力量で、ケベック音楽への深い親密感・愛情が展開する。
 ただ、そうした性格から曲はケベックのフランス語ポップス/シャンソンの名曲をアレンジを施して再解釈してのオマージュというところで、その意味では一貫しているが、アルバムとして聴いてみると、あまりにも性格の違った曲と演奏が不自然に並んでいる印象が特に前半にあって、どうも聴く方は気持ちが落ち着かない。"音楽的探究心と芸術性が結実した極上のヴォーカル・アルバム"との評もあるが、その意味も解らないではないが、充実した歌声とストリングスやアコースティック主体の多彩なサウンド、そして更に大半のリズムは軽やかなラテンやブラジル風味の面白さなどがあるのだが、どうもアルバムとしての感動が生きてこないのが残念だ。

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 M1."Dans les rues de Québec"(ケベックの街角で)ケベックの街の情景と郷愁を描く。スウィングし小粋なフレンチ・ジャズの印象、オープニングとしてはこんなところか。
 M2. "Quelles sont les chances"(どれほどの確率で)男性ヴォーカルとデュエット、ポップな曲だが魅力感じない。
 M3. "Je suis en amour"(私は恋している)複数の管楽器で豪勢なミディアムテンポ・ジャズ。 ブラジル音楽のロマンティックな世界か。
 M4. "J'ai rencontré l'homme de ma vie"(人生の人に出会った)シャンソン的バラード。
 ・・・・ここまででは、アルバムとしての目的がケベックにまつわるものというだけなのか、彼女が何を歌いこみたいのかよく解らない。フランス語のせいか、訴えてくるモノが解らない(英語でも解らないが)。
   M5. "Si doucement"(とても優しく)ピアノ中心のバックでのジャズバラード。彼女の声と歌いこみがようやくここに来て聴ける。ここから始まるようなモノ。
 M6. "Comment t'aimer encore"(どうやってまだあなたを愛せるの)別れの余韻を描く歌。ここには、彼女の得意とする感情表現が聴ける。メランコリックで感情表現が深く、アルバムの抒情的ハイライト。Tpのバックが効果を上げる。ようやく彼女を聴いた感じになる。まずこの曲は私の推薦曲。
  M7. "Les deux printemps"(ふたつの春) 恋人の瞳を「二つの春」にたとえる詩的な歌。軽やかなテンポ 全曲から一転して明るいメロディ 幸福にあふれた世界が聴ける。ただ前曲との対比でちょっと流れが不自然、曲も好まない。
 M8. "D'la bière au ciel"(天国のビール)さらに軽快に、ユーモラス?、ただ聴くのみ。
 M9. "Jerrycan" 珍しくロックぽいフォーク・ポップ色の曲。ちょっと展開に面白み。
 M10. "Le vent m'appelle par mon prénom" (風が私の名前を呼ぶ)ストリングスとピアノで広がり、彼女のヴォーカルには、訴えが感じられる。叙情性・哀感・美を感ずる。このアルバムでは出色。
 M11. "Pendant que" ぐっと深く人生や時間を静かに見つめる歌。ゆったりしたバラード。ここに来てこのアルバムも救われた。

 私が注目できたのは11曲の中でM6, M9, M10, M11の4曲のみ。とにかく取り上げた曲そのものが、ケベックの歴史的産物なのか、私の評価では現代にどうもマッチしない。編曲の妙も感じられるが、なんとなく古くさい。そうかと言って古典的味わいも感じられない。まさに中途半端。ようやく上記4曲でバーロウの良さと曲の味が感じられたところ(その点は救いであった)。おそらくケベック現地では喜ばれたかもしれないが、他国ではどうだろうと・・・残念ながらそう思った次第。ストリーミングなどで、上記4曲を聴くと言う事ぐらいで納めて良いアルバムだ。

(評価)
□ 選曲・編曲 :   75/100
□ 演奏・歌  :   87/100
□   録音    :   87/100

(試聴)
推薦の曲"Le vent m'appelle par mon prénom"

*

アルバム導入曲"Dans les rues de Québec"

 

 

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2026年3月 6日 (金)

アンドレア・モティス Andrea Motis 「 INTIMATE」

表現力あふれるヴォーカルが前面に出た親近感あるアルバム造り

<Jazz>

Andrea Motis 「 INTIMATE」
Elemental / Import / CD / EM5990436 / 2026

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ANDREA MOTIS(vo, tp.)
JURANDIR DÃ SILVA(g. on tracks 1,2,6,9,11,12,14,15,16)
JOSEP TRAVER(g. on tracks 1,3,4,5,7,8,9,10,13,14,17)

Special Guest:
JAQUES MORELENBAUM(cello on tracks 5,8)

Andreamotissanw  前回から女流管奏者が続くが、トランペッター&ジャズ・シンガーとして世界から注目されるバロセロナ出身のアンドレア・モティス(⇢)の2026年新作アルバム登場。
 前作は2024年『Febrero』(JJAMCD00302)で、ここでも取り上げたが、チリのクラシック・アンサンブルであるカメラータ・パパゲーノと共演もので、ちょっと私が以前の流れから彼女に期待するモノから別方向のもので、今作も恐る恐るという事であったが、今回は彼女のヴォーカルをしっとりと美しく優しくソフトに披露して、まさにファン向きの親密なる世界で訴えてくるもので、ほっとしている。あのトランペットは時折入るも、いかにも今回は添え物の趣である。

 バルセロナ、リオデジャネイロ、モントリュー・デ・セガラで録音され、ロンドンのアビー・ロード・スタジオでアレックス・ウォートンによってマスタリングされたものと紹介され、主としてボーカルとギターのデュオ・スタイル。そして一部で自己のトランペットを加え、更にブラジルの重鎮ジャック・モレレンバウムJAQUES MORELENBAUM(↓右)の叙情的なチェロがぐっと優雅さを加えてくれる。

 そして何と17曲を盛り込んで、彼女の世界に引っ張り込む。中身はジャズのスタンダード、フォークソング、ボサノバ、シャンソンを演じ、それぞれの言語も使い分けムードを盛り上げている。曲はイミー・ワインハウス、シコ・ブアルケ、ビル・ウィザース、ジョルジュ・ブラッサンスらの作品を彼女なりきの世界に描いて、更に自身のオリジナル曲も収録されている。ようやく彼女の良さが大いに盛り込んだ作の登場となった感がある。
 共演は、ギターは、実力のJURANDIR DÃ SILVA(↓左)とJOSEP TRAVER(↓中央)で、モティスを盛り上げてくれる。

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(Tracklist)

1 You Sent Me Flying
2 Beatriz
3 Freight Train
4 Mi Lecho Está Tendido*
5 O Meu Amor
6 Preconceito
7 Je Me Suis Fait Tout Petit
8 De Mica En Mica* 
9 Flor De Lis
10 Little Blue
11 Tan Tranquil·la
12 Retrato Em Branco E Preto
13 Senhorinha
14 Ain’t No Sunshine
15 Tudo É Ilusão
16 Complicidad
17 To Know Him Is To Love Him

*印 Bonus Track

 まさにアルバム・タイトル通りの 親密でゆったり落ち着いた美的な世界で、ジャズらしさというよりは、彼女自身の魅力の紹介を目指した作品といっていいのではないか。温かく繊細な感情的な誠実さによって形作られたちょっとイノセントな彼女の歌声 と、とにもかくにも控えめで叙情的な トランペット が印象的で、アコースティックな演奏を基調にした弦楽器(ギター、チェロ)がなんとも良い世界を描く。

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 M1."You Sent Me Flying" ギターとデュオでスタート、Motis の歌は手に取るように物語の始まりを歌い、後半に顔を出すTp.が優しくくどさがなく対話的な表現が良い。
 M2."Beatriz" ラテンのムードの穏やかな曲。丁寧に歌い上げ、深い余韻。
 M3."Freight Train" アコギでぐっと明るく軽快、ちょっとフォークっぽく。
   M4."Mi Lecho Está Tendido" スペイン語の短い曲をしっとりした世界(このボーナストラックがナカナカ良い)。
 M5."O Meu Amor" ポルトガル語の愛の歌らしい。チェロも入って美しく。
 M6."Preconceito" ボサノバっぽい。リズムと歌が小気味よい。
 M7."Je Me Suis Fait Tout Petit" シャンソンのカバー。モティスの微細な優しさのある軽快表現が魅力。
 M8."De Mica En Mica" (Bonus Track)  ギターの対話が美しい上に、チェロがバックに絡んでお見事な優しさの美曲。 
   M9."Flor De Lis" ブラジル音楽らしいボサノヴァ・メロディライン。中盤にTp.が顔を出す。
 M10."Little Blue" ソフトなバラード、ちょっと哀感が感じられる表現。
 M11."Tan Tranquil·la" 穏やかに描く。落ち着いた 静けさの美。
   M12."Retrato Em Branco E Preto" ギターと美しく優しく歌うポルトガル語曲。
   M13."Senhorinha" ポルトガル・ブラジル音楽が伝わってくる。
   M14."Ain’t No Sunshine" 名バラード曲カバー。ぐっと抑制して唄とTp.が競演、2ギターが盛り上げて新解釈。
   M15."Tudo É Ilusão" ポルトカル語のリズムカルな哀愁の訴え。
   M16."Complicidad" 優しくギターと声の絡みの密接な世界。
   M17."To Know Him Is To Love Him" ポップ/ソウル曲のカバー、Motisの実力歌唱とギターでの印象を深める締め。

  今回のアルバムは、刺激的というか派手に訴えてくると言うものでなく、静かに耳を傾け、人生に有意義に価値を持たせようとする親密感と暖かさが際だったアルバム と言えるのではないだろうか、前作と相対して対比されるようなアルバムだ。Tp.の出番が少なかったのは彼女としてもどのように評価しているかが気になるところだが、むしろ本人の希望があってのバラードへのアプローチであったということからも、このパターンは彼女自身の一つの世界であり、ヴォーカルに重点を置いたと見たい。そしてそれを支える二人のギターが充実していて名サポート。そんな意味では、私にとって今まで聴いてきた価値がここに出たという感じでもある。
 結論として、 自身の歌声とトランペットをバランスよく美しく表現する手段とし、 アコースティックなギターと共に親近感あるジャズ作品として結実させたという彼女自身にとっても一つの記念的な一つの進歩のアルバムだと評価できそうだ。おそらく今後の活動にも何らかの意味を持って大切にされそうな予感がする。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏・歌  90/100
□ 録音          88/100

(試聴)

 

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2026年3月 1日 (日)

メリッサ・アルダナ MELISSA ALDANA 「 FILIN」

しっとりムードのテナーの哀愁演奏とピアノの囁きと語りのメロディック・バラード集

<Jazz>

Melissa Aldana 「 Filin」
Blue Note / Import / BOGC487MLG / 20226

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Melissa Aldana (tenor saxophone)
Gonzalo Rubalcaba (piano)
Peter Washington (bass)
Kush Abadey (drums)

special guest vocalist:Cécile McLorin Salvant (on 3, 5)

Melissaaldanaw  チリ出身の女流テナーサックス奏者メリッサ・アルダナ(1988年、チリのサンティアゴ生まれ)が ブルーノート・レコード からリリースした新作アルバム。私は殆どテナー・サックス作品はあまり取り上げることが少ないのだが、なんとジャズ・ピアノの名手ゴンザロ・ルバルカバがカルテットとして共演していることが、まずは注目点であったことと、このアルバムはアルダナにとって通算3作目のブルーノートリリースで、従来のモダンジャズ作品とは一線を画しての進歩派的・個性派的と言った面を強調した作品でなく、ジャズ・バラード/ラテン歌謡世界を探求した作品 ということで注目した。そして1940〜60年代にキューバで流行した「フィリン(Filin=“Feeling”の意)」という歌謡スタイルを、テナーサックスを中心にジャズで再解釈したというところも興味を誘ったのである。

 演奏チームは、彼女のテナー・サックスにゴンサロ・ルバルカバ(p ↓左)、ピーター・ワシントン(b)、カッシュ・アバデイ(ds)という名手たちのカルテット構成だ。更に2曲で セシル・マクローリン・サルヴァント(↓右)がvocalでゲスト参加し、そもそも歌心のある曲演奏にさらに色づけしているところも興味が湧く。

 そして意外ではあるが、彼女はここでは、技巧を深め更に極めようとするのでなく、自身が長年抱いた「バラード/ムード作品を制作したいという夢」の結晶でもあるとか、そんなところもバラード好きの私の興味を誘った処である。

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(Tracklist)

1. La Sentencia
2. Dime Si Eres Tú
3. No Te Empeñes Más
4. Imágenes
5. Las Rosas No Hablan
6. Little Church
7. Ocaso
8. No Pidas Imposibles

 確かにメリッサ・アルダナは、サックスの「音の質感」・「間」・「感情表現」を大切にした得意な攻撃性は抑えて穏やかで静かな深いバラードを演じている。思った以上にぐっとしっとりムードでテンポは抑えめで、間を生かした演奏を展開。サックスが、深い情緒感を持って旋律を分厚い音で描く点は、うるさめに高らかに歌い上げる演奏よりは、ぐっと私好み。録音もサックスのプスプスというかすれた低音部の音も旨く録音してムードを高めている。
 そしてルバルカバのピアノがやはりいい、端正でキレのある精緻な艶のあるピアノ弾奏で、更になんとなく物語を紡ぐような演奏を繰り広げるところはなかなか。もともとのラテン感覚の優れた彼を抜擢したのは成功している。
 フィリンという文化的ルーツの探求は、私には評価が難しいが、南米・キューバの味をジャズと融合するアプローチとして私には心地よかった。ゲストのサルヴァントの存在が2曲において、やはり実力のある歌の説得力が、一聴にして作品全体の価値を高めているのが解る。

W_20260227175401    M1."La Sentencia" ピアノの導入から朗々と歌うTS。しっとりとした情緒的な演奏が印象的なオープニング。
   M2."Dime Si Eres Tú" フィリンのパイオニア、セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスの名曲というが、古典的メロディーをぐっと低音から深みある歌心の表現が特徴。
 M3."No Te Empeñes Más" サルヴァントの感情豊かなボーカルがラテン色豊かに。ピアノの間がムードたっぷり。
 M4."Imágenes" TSの描く深い心の風景は、ピアノの押さえた音と共に印象的。
 M5."Las Rosas No Hablan" ブラジルの美しい旋律の名曲。ブォーカルと演奏に哀愁と情感が溢れている。
 M6."Little Church" リアルなTSの音、語るようなピアノ、見事なジャズバラード。
 M7."Ocaso" ぐっと深く沈み込んで陰影を描き、余韻を残す演奏、痺れます。
   M8."No Pidas Imposibles" 締めくくりを長めのバラードで。

 久々にしっとりとしたTSサウンドと演奏の流れを聴いた。そしてルバルカバのピアノの語りがぐっとジャズバラードの良さを再確認させてくれた。リズム隊は明らかにサポートに回って流れを整えている。「感情の深さや味わいのバラード集」「内省と大人の価値を高めてくれるジャズ作品」と言いたいところだ。彼女のこれまでのちらっと見せるコンテンポラリーでアヴァンギャルドな面を見せる作品とは全く異なっていた。こうした感情表現に徹してのバラード世界もいいですねぇ。これからもこの世界を、何時もの現代ジャズの流れの中で、時折聴かせて欲しいと願うところだ。

(評価)
□ 編曲・演奏   90/100
□ 録音      90/100

(試聴)

 

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2026年2月24日 (火)

アンナ・コルチナ Anna Kolchina 「 Reach For Tomorrow」

哀感と懐かしさをさそうソフトで優しいヴォーカル、ギターとのデュオで・・

<Jazz>
Anna Kolchina 「Reach For Tomorrow」
OA2 Records / Import / CD / OA222247 / 2026

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Anna Kolchina : Vocal

(参加ギタリスト)
PAUL BOLLENBACK (エレクトリック M9,M11)
PETER BERNSTEIN (エレクトリック M3,M4,M5)
ILYA LUSHTAK (エレクトリック M1)
ROMERO LUBAMBO (アコースティック M7,M10)
RUSSELL MALONE  (エレクトリック M8)
YOTAM SILBERSTEIN (アコースティック、エレクトリック M2,M6,M12)

Kolchina_b4c21s0w    過去に、ここでとり挙げてきたロシア出身でニューヨークで活躍という異色のシンガーのアンナ・コルチナ(1984年生まれ →)の4thアルバムの登場だ。そしてこの内容は、彼女の歴史をたどるようなアルバムで、彼女が尊敬するギタリストたちとの交流を通して紡がれたジャズ・ヴォーカリストとしての歩みをまとめ上げたアルバムという面白い企画になっていて、音楽的な回想録であり、長く深く個人的な旅路をたどる流れで出来上がっている。特に彼女が親しいコラボレーターとして選んだギタリストたちとの親密な音楽的対話を通じて展開していて、それはなんと6人のギタリストとそれぞれとのデュオ・アルバムといった形を取っている。

 更に、彼女はこのアルバム・ジャケに見るように、幼い頃のソビエト連邦時代から、なんと馬に魅了されていたと言われ、力強さ、動き、そして深く詩的な何かを象徴する馬の持つ性質と、馬に染み付いた感情は、サンクトペテルブルクの音楽院時代からイタリアへ渡り(Venus Recordsからイタリアのメンバーとデビューアルバムをリリース)、そこでシーラ・ジョーダンと出会い、ニューヨークへ移ることを勧められるまで(2017年)、彼女を支えて来たと言われている。その点はこのアルバムでダイレクトに現れている訳でしないが、そこでそんな意味合いがこめられたアルバムという事で聴くと、又一味違ったものを感じ取れるのかもしれない。

(Tracklist)
1. Dancing in the Dark
2. You and the Night and the Music
3. Who Can I Turn To?
4. Invitation
5. All or Nothing at All
6. Right from the Start
7. What Now My Love?
8. Vacation from the Blues
9. Wrap Your Troubles in Dreams
10. So Many Stars
11. Whistling Away the Dark
12. Reach for Tomorrow

  曲は、ジャズ・スタンダード中心で、ヴォーカル+ギターのデュオ・タイプの為、彼女の歌はかなりリアルに聴き取れる。そして歌は、過度な装飾はなく、比較的シンプルにジャズ情緒豊かな解釈で、声と演奏の「空間」を感じさせる世界を作っている。抑制された表現の中に豊かな感情が宿るという歌と演奏で好感が持てる。 ヴォーカルと演奏のそれぞれの味を聴き取れる録音も良い。

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 M1. "Dancing in the Dark" アカペラ・ヴォーカルでしっとりと入り、ILYA LUSHTAK(ロシア生まれ、NY拠点の熟練ジャズ・ギタリスト)は静かにサポート。
 M2. "You and the Night and the Music" 夜のロマンティックな雰囲気。ギターは、YOTAM SILBERSTEIN (アコギ、イスラエル出身のギタリスト)で、バック演奏での絡みがうまい。
   M3. "Who Can I Turn To?" 哀愁あるスタンダード。表情豊かで、感情の機微があるPETER BERNSTEINのギターで。
 M4. "Invitation" 何となく親密感が湧いてくる。
   M5. "All or Nothing at All" 期待の定番曲、メロディより優しい説得力の歌い回し。
   M6. "Right from the Start" YOTAM SILBERSTEINのギター、 比較的軽快で温かみのあるメロディ。ヴォーカルの柔らかさが活きている。
   M7. "What Now My Love?"  深い味わいのバラード調。丁寧な歌い上げが好感。
   M8. "Vacation from the Blues" ゆったりとブルース感覚。RUSSELL MALONEのギターが対話的で魅力。
   M9. "Wrap Your Troubles in Dreams" ジャズっぽい歌と演奏の展開。
   M10. "So Many Stars" メロディアスな美しさと柔らかい歌唱で、ブラジリアン・ギターのROMERO LUBAMBO のアコギも生き生き。
   M11. "Whistling Away the Dark"哀愁のある歌、PAUL BOLLENBACK のギターの音色とともに聴きどころ。アルバムのクライマックス。
   M12. "Reach for Tomorrow" タイトル曲。なんと言っても爽やかで希望を感じるフィナーレで安堵。

  とにかくいずれのギターも過度なアレンジや即興を避けた演奏で(エレキであってもアコースティックな演奏法)、ヴォーカルとの間を大切にしているため、細やかなニュアンスが深い味わいを持って楽しめる。どの曲もコルチナ自身の感性で丁寧にソフトに優しく歌い上げている点が好感が持てる。彼女のこのアルバムは、忘れた頃にやってきた懐かしさもあるものであったが、とにかく久々に聴いたせいもあってそれが好感に一層拍車をかけたところである。ジャズ・アルバムもこうしたセンスも失って欲しくないアルバムであった。

(評価)
□ 選曲・歌・演奏 :    90/100
□   録音      :    88/100

(試聴)

 

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2026年2月18日 (水)

カーステン・ダール GinmanBlachmanDahl「Play Ballads」

バラードというトリックでのスタンダード曲の老獪な新解釈

<Jazz>

GinmanBlachmanDahl「Play Ballads」
Storyville Records / Import / LP / 6014365 / 2025

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Carsten Dahl (piano)
Lennart Ginman (bass)
Thomas Blachman (drums)

録音:2024年4月24日-25日、MillFactory Studio(コペンハーゲン、デンマーク)

  デンマークの熟年期に入った3人のピアニストのカーステン・ダールCarsten Dahl(1967- ↓左)、ベーシストのレナート・ギンマンLennart Ginman(1960- ↓中央)、そしてドラマーのトーマス・ブラッハマンThomas Blachman(1963- ↓右)か​​らなる2005年からの名門ジャズ・トリオ : "ギンマン・ブラッハマン・ダール"の新作である。これは「バラード演奏」と銘打ってはいるが、なかなか単純ではない彼ら特有のスロー・テンポにこだわったスタイルで演奏された15曲のジャズ・スタンダード曲集。

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 2005年の「来日ツアー」では、結構好意的に受け止められ、本国デンマークに於いても、各種メディアからも、こうしたタイプは結構歓迎されているようだ。取り敢えず経験豊富な中での表現の繊細さや演奏の落ち着きが高く評価されたという事だと思う。
 冒険的・実験的な演奏に評価が集まる今日だが、このトリオの熟練した演奏とジャズ界でのクラシックな楽曲に対して意外に新鮮な展開で、とにかく丁寧な対応と表現が歓迎されたようだ。

 (Tracklist)

01. Angel Eyes
02. Gone With the Wind
03. Autumn in New York
04. But Beautiful
05. Take the ‘A’ Train
06. Chelsea Bridge
07. Blue Monk
08. Here’s That Rainy Day
09. Work Song
10. There Is No Greater Love
11. C Jam Blues
12. Don’t Go To Strangers
13. Satin Doll
14. Come Sunday
15. Things Ain’t What They Used to Be

   各曲は、おそらく意図的だと思うが、とにかくスローテンポで対応して、それによってメロディーの繊細な美しさと曲の描く世界の深みと彼ら自身をも探求するかの演奏だ。特にダールのピアノは繊細で一音一音の響きを大切にしている感のあるタッチで、当初思ったよりは即興因子も少なくはないのだが、基本的にはおとなしい流れでリードしている。そしてギンマンのベースとブラクマンのドラムはやはり意識的な控えめな対応だが、それでもやはり曲の展開にはなくてはならないリズム隊の役割を十二分に果たしている。
 
 私の以前からの印象としてダールというピアニストの印象は、このアルバムとはちょっと違うんですね。勿論北欧としての深遠なる詩情を描く点は素晴らしいのだが、それに加えて即興的因子を大切にしつつ、自由で抽象的・フリー寄りになり、単に安全運転だけでなく前衛的にもなることもあってその展開にはある意味でのジャズとしての面白みを感じてきた。しかし、このアルバムではその点が抑制されていて、ちらっとその面が見えたかと思っても、ぐっと押さえられてしまう。それは彼の意志なのか、このトリオの他の二人とのバランス的感覚でのことなのか、若干残念にも思いつつ、いやこのアルバムはそうした狙いではないところに目的があると、判断すべきなのか・・・実はこれはこれ悪くはないのだが、そんなことを少し疑問に思いつつ聴いたのである。

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 M1. "Angel Eyes" ちょっと暗めなイントロから始まる。音の間(ま)を活かした静謐な演奏。原曲の哀愁がより内省的な方向に誘導されて、ピアノのフレーズの繰り返しが心に響いてくる。
 M2. "Gone With the Wind" (風と共に去りぬ)しっとりとした哀愁を誘うアレンジで、緩やかなテンポが余韻をうみ深く深淵に。
 M3. "Autumn in New York"(ニューヨークの秋) ベースのメロディとピアノのアレンジが、都市の夕暮れを情緒豊かに描き格調高い。
 M4. "But Beautiful" 「美しさ」がテーマ。豊かなハーモニーの展開が印象的。
 M5. "Take the ’A’ Train" (A列車で行こう) ドラムスがかなりのインパクトを示し、ぐっとテンポを落としての表現に驚き。
 M6." Chelsea Bridge" じっくりと暗さが襲ってくる。どこか緊張感を誘導。
 M7. "Blue Monk" モンクの曲、ブルースの要素を優しくしっとりとした展開で。
 M8. "Here’s That Rainy Day" どこか憂いを帯びたバラード。ピアノとリズムのながれで雨の日の情景が浮かんでくる。
 M9. "Work Song" ゆったりしてはいるが、ピアノとドラムスのパワーのある訴えが響く。このあたりは単なるバラードとは捉えられない。
   M10. "There’s No Greater Love" ベースがリズムを刻み、内面から湧き上がるピアノ、ドラムスの感情的訴え。後半に来てようやくダールの単純でない音楽世界が明快になってくる。
 M11."C Jam Blues" エリントンに敬意を表しつつ、ゆっくりとしたブルースで、従来とは別感覚に。彼らトリオの楽しさも伝わってくる。
 M12. "Don’t Go to Strangers" / M13. "Satin Doll" 緩やかなテンポで、トリオのジャズ・アンサンブルを聴かせる。
 M14. "Come Sunday" アルバム終わりに近く、祈りの日、静けさの心を、老獪だ。
 M15. "Things Ain’t What They Used to Be" しっかり展望がきかれる納めの曲。

 なかなか、老獪な展開を聴かせるアルバムだ。スローに徹してここまで変化を聴かせる技には恐れ入る(M9.M10あたりに頂点を築く)。ゆったりとしたテンポと丁寧な表現によって、スタンダード曲の別の面を見せつけられたようなアルバムだ。演奏技術の高さだけでなく、ただ演奏だけしてきたのではない曲に描くモノをじっくりと三人の人生経験を盛り込んだ協調関係で描くところは、なかなか得がたいモノがあるアルバムだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏 :    90/100
□   録音       :    90/100

(試聴)

 

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