シャイ・マエストロ

2025年9月10日 (水)

シャイ・マエストロ Shai Maestro「Solo: Miniatures & Tales」

内なる音楽の姿と思考を表現、極めてパーソナルな初のピアノ・ソロ作品

<Contemporary Jazz>

Shai Maestro「Solo: Miniatures & Tales」
BELIEVE RECORDINGS / IMPORT / BLV8889 / 2025

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Shai Maestro : piano

By_liri_agamiw  イスラエル出身で、若干19歳でアヴィシャイ・コーエン・トリオに抜擢され、私は2008年のアルバム『Gently Disturbed』で初めて知ったピアニスト/作曲家のシャイ・マエストロ(Shai Maestro,  1987-)の初のピアノ・ソロ作品が登場している。世界で好評でECMでのリリース(『Human』(ECM2688/2021)は重要なアルバム)などを経て現在はスペインを拠点に活動しており、巨匠キース・ジャレットからも賞賛されるという若きジャズ・ピアニストだが、今、彼は人生における一つの転機を迎えていると言っても良いだろう。それは、ちょうど表に出てのミュージシャンとしての活動が20年経っての40歳を迎える自分自身を見つめる時を迎えたと言うことでもあり、初のソロ・ピアノ・レコーディングという形が適当であったろうと推測するのだ。そしてジャズという音楽ジャンルの中で、"曲の構成と即興性のバランスを探求すること"と、"自分自身の生き方を見つめてみる"と言うことが重要であったのだろうと推測する。

 そんな意味で、「Miniatures(小型、縮図)」と「Tales(物語、譚)」に大別される二つを対比しつつ、影響を受けない自己のみのソロ演奏世界で見つめ直そうとしたのではないかと、推測しながら聴いているのだが、マエストロに言わせると「このレコードで、相反するものを提示した。たとえば、即興と作曲、あるいは暗色と明るい色、不協和音と協和音などの対比を試みた。このアルバムは2つのパートに分かれている:「Miniatures」では、小さく短い、しかし完全に即興で行った演奏を収録した。そして「Tales」では、書かれた(作曲された)素材に長く深く身を任せ、シンプルなメロディーやハーモニーを膨らませてどれだけのものを引き出せるかを探求している。」と言う事のようだ。

(Tracklist)
1.3 Colors
2.All The Things You Are*
3.Gloria
4.Aba (For Gil Maestro)
5.Monkey Mind (Chaos Is An Intimate Thing)
6.An Old Family Photo
7.From One Soul To Another
8.Dakini(The Sky Dancer)
9.For All We Know*
10.Mystery And Illusions

  (*印 カバー)

 このアルバムの収録曲は、2つのパートに分かれている。小品群「Miniatures」(束の間の瞬間を捉えた、短く即興的な即興演奏)と「Tales」(メロディーとハーモニーの可能性を広げる、広大で深く探求された作品)だ。これまで彼のピアノはトリオやカルテットのようなフォーマットの中でしか聴いてこなかつた訳だが、今作では他者の意思とか連携とから離れての、自分の自由な発想の赴くままに演ずることが出来る状況で、そこには彼の意志が見事に表現されている。

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 オープニングは、複雑なる多くの音が聴き取れる緻密な演奏、ミニマルな展開のM1."3 Colors"。そしてジャズ・スタンダードを彼のセンスでアレンジしたM2."All The Things You Are"。ソロの自由さに音の美しさを訴えている。これらの小品は「Miniatures」だということか。
 彼の優しさ溢れる美メロディがたまらないM3."Gloria"は、彼のパートナーに捧げた楽曲、クラシックのピアノ曲を聴くようだ。明るさもあって素晴らしい。これを聴くとマエストロだと感じ取れる。
 そしてM4."Aba"は、彼の父親に捧げたもの。美しいテーマがしっとりと。彼のルーツ中東を訪ねて・・・。
   M5. "Monkey Mind "混沌とした世界。M6."An Old Family Photo" 回顧の優しさ。
 M7."From One Soul To Another"は、アルバム『The Stone Skipper』(2016)の収録曲。印象に残る瞑想的な演奏「Tales」の世界。
 M8."The Sky Dancer"心の安定と飛躍。
 M9."For All We Know"しっとりと描き、展開の美しさはクラシック音楽にも通じ、ダイナミックさも加味して訴える。
 M10."Mystery And Illusions" 安定した美。

 ソロ・ピアノ・アルバムは、彼の新たな挑戦のスタートと言う事だろう。ECMという名門レーベルを離れてBELIEVEのでのリリースは「新しい表現の場」を探求し訴える処か。極めてパーソナルな作品とみるが、短い「Miniatures」と深い「Tales」が交錯する構成は、飽きさせずに演ずるところの深さも楽しませてくれる。トリオ編成を好む私にとっても、時にソロの味わいも悪くは無かった。

(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音   : 88/100
(試聴)

 

 

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2021年2月17日 (水)

シャイ・マエストロ Shai Maestro 「Human」

イスラエル風民族音楽的なムードを生かしつつ・・・
実は「彼の思い」が込められたアルバムだ
・・コンテンポラリー度、リリカル度、スリリング度が適度で素晴らしい

<Jazz>

Shai Maestro 「Human」
ECM / Germ. / ECM 2688 089 0670 / 2021

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Shai Maestro シャイ・マエストロ (piano)
Jorge Roeder ホルヘ・ローダー (double bass except 04, 07)
Ofri Nehemya オフリ・ネヘミヤ (drums except 04, 07)

Philip Dizack フィリップ・ディザック (trumpet except 06, 07, 08, 11)

Recorded Feb. 2020, Sudio Studios La Buissonne, Pernes-Les-Fontaines

  ECMの前作『The Dream Thief』(ECM 2616 6771112/2018)にてその素晴らしさを味わったNYシーンで活躍するイスラエル出身の人気急上昇ピアニスト:シャイ・マエストロShai Maestro(1987年イスラエル生まれ)の、ECMでの2作目、前作と同じ彼のトリオに、新たにトランペットが加わってのカルテット作品となっている。

Shaimaestrow  彼のピアノの素晴らしさは、実はAvishai Cohen Trio で気に入ってから注目はしているところだが、ここに来てECMからのリリース2枚目で、私にとっては尚更興味津々と言うところなのである。
  
  彼は、なんと8歳の時にオスカー・ピーターソンのアルバムを聴いてジャズに開眼したとか。そして19歳の若さででベース奏者アヴィシャイ・コーエンのバンドに抜擢されたのだった。2010年に自身のユニットを結成。以来活動を共にし、これまでリリースした4枚のリーダー・アルバム全てに参加するホルヘ・ローダー(b)と、同郷イスラエルのドラマー、オフリ・ネヘミヤ(ds)に、本作では、米国人トランぺッター、フィリップ・ディザックを加えている。

(Tracklist)

01. Time
02. Mystery And Illusions
03. Human
04. GG (tp & p duo)
05. The Thief's Dream
06. Hank And Charlie (p-b-ds trio)
07. Compassion (solo piano)
08. Prayer (p-b-ds trio)
09. They Went To War
10. In A Sentimental Mood *
11. Ima (For Talma Maestro) (p-b-ds trio)

*印以外Shai Maestroのオリジナル曲

 手頃にエスニック風の味付けがある独自のフォーク・ジャズ的と言うかイスラエル民族音楽的トラッド風と言うか、そんなムードが滲み出ているが、なんとなく引きつけられる世界を持っている。
 しっとりとした潤いと透明感溢れるピアノの音が、流れるように演じられ、又一方余韻をもって耽美的・哀愁的情景を描いてくれる。そして独特の異国情緒は今回はトランペツトの響きによって描いているのが特徴。カルテット演奏はドラマティックな展開も織り込んでいてジャズとしての味付けはちゃんとみせる。アルバムを通して聴いてじっくり感動が沸いてくる。

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 もともと私の好みからは、ビアノ・トリオ+トランペットというのは恐らく否定的な方向に感ずる処だ。確かにM4." GG", M5."The Thief's Dream"あたりは、ピアノの美しさがトランペットによって消されてしまう感覚になる。しかし救いは、ECM盤ということで想像していたことだが、全体に寧ろ優しく歌うトランペットであったことだ。
 M2."Mystery And Illusions", M3." Human"で意外だったのは、イスラエル的エスニック風の味付けがやはりあるが、それはなんとトランペットの響きから一番感じられるところなのだ。そこがこのカルテットとした味噌なのかも知れない。
 しかし中盤に入って、M6."Hank And Charlie " M7."Compassion ", M8."Prayer "はピアノ・トリオのみの演奏で、ようやく美しいピアノ、ベースの休まる音、余韻を大切にしたピアノの音から沈着な世界に美しさが漲る(M7はピアノ・ソロで情緒豊か)。又M6.は故ハンク・ジョーンズとチャーリー・ヘイデンの音楽にトリオが敬意を表している。このピアノ・トリオ・スタイルが私好みの世界のだ。
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 ところが、M9."They Went To War" が注目曲、ここでトランペットの素晴らしさに浸れる。"彼らは戦争に行った"・・その苦しさ、哀しさが、静かに演じられるトランペットの音に哀しく訴える心が感じられ感動。これがマエストロの描きたい一つの世界とみた。
 そしてM11." Ima"でこのアルバムは納められるが、そこには、心のよりどころとなる世界を見事にペットなしのマエストロ・トリオが描くのである。ここには民族的ムードは無く、世界に普遍的に未来志向のムードで響く。

 なかなか、したたかなアルバムである。中盤から後半で完全に虜にされた。やはり前作と同様、このシャイ・マエストロとは、ただ者で無い。とにかくスリリングなところも魅せながらコンテンポラリーな味付けがあったり、リリカルな世界があったり、哀愁度と、それが手頃に納める技はお見事と言いたい。そして彼の思いが込められていることに感動した。推薦盤だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :  88/100
□ 録音   :  85/100


(視聴)

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