エンリコ・ピエラヌンツィ Enrico Pieranunzi Bebo Ferra「EVANSCAPE」
"エヴァンス探求の道"は、「エヴァンス風」から一歩進んだ「エヴァンス風感性」へ
<Contemporary Jazz>
Enrico Pieranunzi Bebo Ferra 「EVANSCAPE」
BONSAI MUSIC / Import / BON260401 / 2026
Enrico Pieranunzi (piano)
Bebo Ferra (guitar)
Diego Imbert (double bass, guest on 2 tracks)
イタリア・ピアノ界の至宝エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunzi(1948年ローマ生まれ)については、多くを語る必要も無いが、最新アルバム『EVANSCAPE』が登場した。これは"ピアニスト、ビル・エヴァンスに捧げられたアルバム"と言う事だが、彼が長年敬愛し、研究し続けてきたジャズ・ピアノのまさに巨匠のビル・エヴァンスに焦点を当てている。このことは過去にも試みて来た事で、今回は特徴としてイタリアを代表するギタリストであるベボ・フェッラBebo Ferra(1962年カリアリ生まれ)とのデュオを中心に作り上げられている点にある。もともとピアノとギターの対話という事の難しさがある中で、敢えてなんとデュオという更にごまかしのきかない世界での挑戦、そこには何かの挑戦的試みがあるのだろうか。興味が尽きないところであるが、 ビル・エヴァンスがかってジム・ホールと残した名盤『Undercurrent』や『Intermodulation』があるが、そんな事もイメージしての事だろうか。
中身は、これも注目点だが、"彼らのオリジナル曲とエヴァンス関係のカバー曲の融合"という事なのか、 エヴァンスのオリジナル曲(2曲)、エヴァンスが好んで演奏したスタンダード(1曲)、そしてピエラヌンツィとフェッラがエヴァンスに捧げたオリジナル曲(8曲)が収録されている。造語のアルバム・タイトルの「エヴァンス的な風景(Landscape)」とは何を目指してのことか、近年 ピエラヌンツィが多方面への試みにエネルギーを注いでいるが、考えられる一つにはクラシック音楽(特にドビュッシーやラヴェル)の世界だが、果たしてそれにエヴァンス・ジャズの流れとの溶け合いを試みたのだろうか、聴いてみてのお楽しみだが、つまり"これは何をさしているのか"が、聴くことの大きな目的になったのである。
(Tracklist)
1.Dreams and the Morning夢と朝*
2.Song for Helenヘレンのための歌(Bill Evans)
3.Passing Shadows通り過ぎる影*
4.Incanto(Bebo Ferra)
5.Il giardino di Anneアンの庭*
6.Very Early(Bill Evans)
7.Twolinessi二元性*
8.Siren's Lounge*
9.Once Upon a Summertime(M.Legrand)
10.Calling Enricoエンリコを呼ぶ(Bebo Ferra)
11.Evanscape*
*印 E.Pieranunzi 作曲
全体的に、ゆったりとしたテンポのバラードを基調としたこの演奏曲群は、聴いていて疲れなくて良い。又、比較的技巧に偏らずそのまま演じて聴かせてくれるので、聴く方にとっては聴きやすい世界だ。エヴァンスの代表的なテーマ、「ヘレンへの歌」「ベリー・アーリー」「ワンス・アポン・ア・サマータイム」の再解釈を試みつつ、インスピレーション豊富な彼らの多彩なオリジナル作品群を交互に展開する。
ディエゴ・インベルトのコントラバス(「ヘレンへの歌」「エンリコを呼ぶ」)も、加わることにより、より内省的な叙情的な世界を深く変化させる効果が効いている。
ピエラヌンツィとフェラは、デュオの難しさの代表的なピアノとギターを競合の形で無く対話的に演じ、技巧を装飾するので無く、親密で対話的なデュオを通してのアプローチを通して、エヴァンスに向かって精神的な世界に一つの目的を持ったことが見えてくる。
M1. "Dreams and the Morning" 静かな朝の光を感ずる美しい繊細なタッチ。 叙情的な導入曲。
M2. "Song for Helen" 「Evans精神」の象徴的曲。後期の優しさの名バラード、ギターの響きにピアノがバックを支えベースの入ったトリオ演奏。
M3. "Passing Shadows" Pieranunziの抒情曲の内省的再演。ピアノとギターで影の重なりの様。
M4. "Incanto" Ferraの曲で、「魅了」の意味、ギター主導の幻想的楽曲、デュオの妙が響く。
M5. "Il giardino di Anne" Pieranunziのリリカル系曲をエブァンス風抒情に再演。
M6. "Very Early" Evansのワルツ、ピアノとギターの独得な多彩な変化が。
M7. "Twoliness" 二元性のデュオ表現。そのスリル感と緊張感。対話の楽しみ。
M8. "Siren's Lounge"二者の空間が聴き処。ここでは希有なデュオの現代性が迫る。
M9. "Once Upon a Summertime" エヴァンスも愛したスタンダード、ノスタルジックな静かな詩情、注目演奏ぐっと惹かれる。
M10. "Calling Enrico" Ferraからのオマージュ。温かみあり。
M11. "Evanscape" アルバム・タイトル曲。エヴァンスを探る究極の答えの風景は決して暗くないところに。
こうして聴いてみると、ピエラヌンティの"エヴァンスへの探求の道"は、「エヴァンス風」という単なる演奏技巧の世界で無いことが見えてくる。それは、代表的なカヴァー曲の演奏からも、彼ら自身の演奏を妥協無く極めるところに向かっていることが聴き取れ、それが十分に知ることが出来た。つまりこのアルバムは、単なる「エヴァンスの模倣」の世界ではなく、ピエラヌンツィが長く探求してきた「イタリア的叙情性を持った彼自身のミュージック」を"エヴァンスの精神が流れているかどうか"と言うことだと知るのである。ジャズ・ピアノを好む者として、静謐で美しい室内楽的なサウンドを求める者として、このアルバムのようにエヴァンスの曲を演奏し、一方自作曲の演奏であっても 両者にエヴァンスの精神が自然に流れていることが重要としているのだ。
「エヴァンス風=スタイルの模倣」ではなく「エヴァンス的な感性で」というところに"彼の探求の道"が見えてきたアルバムであった。
(評価)
□ 選曲・作曲・演奏 90/100
□ 録音 88/100
(試聴)
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